JP4654542B2 - 粒状金属鉄およびその製法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鉱石等の酸化鉄とコークス等の炭素質還元剤を含む原料を還元溶融することによって得られる、表面がSiおよび/またはSi化合物の偏析相によって被覆されて優れた耐酸化性を有すると共にFe純度の高い粒状金属鉄とその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鉱石等の酸化鉄源を炭材や還元性ガスにより直接還元して還元鉄を得る直接製鉄法は古くから公知であり、具体的な還元法や連続還元設備についても多くの研究が進められている。
【0003】
その一例として特開平11−337264号公報には、製鋼ダストや粉鉱等の酸化鉄源を炭素質還元剤と混合し、これをバインダーで固めて成形した生ペレットを加熱・還元する際に、未乾燥状態の生ペレットを急速に加熱した時に生じる爆裂を、予熱帯を設けことによって防止し、還元鉄を連続的に効率よく製造することのできる回転型炉床が開示されている。
【0004】
しかしながら、酸化鉄源と還元剤を含む成形体を加熱・還元して金属鉄を製造する技術では、例えば鉄源として鉄鉱石などを使用した時に混入してくるスラグ成分が金属鉄中に相当量混入してくる。特に、金属鉄をスポンジ状で得る方法では、金属鉄中に混入してくるスラグ成分の分離除去が困難であるので、これらの混入によってFe純度はかなり低いものとなる。従ってこの金属鉄を鉄源として使用する際には、相当量混入しているスラグ成分を除去するため余分のエネルギーが必要となる。また、従来の直接製鉄法で得られる金属鉄の殆どはスポンジ状であるため破損し易く、しかも表面が活性であるので再酸化を受け易い。そのため鉄源としての取扱いが面倒であり、製鉄・製鋼用あるいは合金鋼製造用原料等として実用化するには二次加工してブリケット化するなどの工程を必要とし、付帯設備にも少なからぬ経済的負担が強いられる。
【0005】
また特開平9−256017号公報には、酸化鉄と炭素質還元剤を含む成形物を加熱還元し、金属鉄外皮を生成且つ成長させて内部に酸化鉄が実質的に存在しなくなるまで還元を進めると共に、内部に生成スラグの凝集物を形成させ、その後さらに加熱を続け、内部のスラグを金属鉄外皮の外側へ流出させてスラグを分離し、更に加熱して金属鉄外皮を溶融させることにより、金属化率の高い粒状の金属鉄を得る方法を開示している。
【0006】
ところが、これらの先行技術を含めてこれまでに知られている粒状金属鉄の製法では、製鉄・製鋼原料などとして用いられる粒状金属鉄の再酸化を防止したり耐候性を高めるといった方向での研究はなされていない。
【0007】
従って、還元溶融法によって製造される粒状金属鉄の付加価値を高めるには、単に高純度化を進めるといった希望的要求を超えて、原料としての生産可能性や取扱い性などを総合的に考慮し、保管時の酸化劣化を抑制し得る様な技術を確立することが望まれる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な状況に着目してなされたものであって、その目的は、鉄源としての生産可能性や取扱い性などを総合的に考慮して保管時の酸化劣化を可及的に抑制し、安定した品質の粒状金属鉄を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明の粒状金属鉄とは、炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融して得られる粒状金属鉄であって、Fe含有量が95%(以下、成分含有量の場合は全て質量%を意味する)以上であり、表面がSiおよび/またはSi化合物の偏析相(以下、単にSi偏析相という)によって被覆されることにより酸化劣化を防止してなるところに要旨を有している。
【0010】
本発明の上記粒状金属鉄においては、Si偏析相による酸化防止作用をより効果的に発揮させるため、該Si偏析相中のSi含有率を30質量%以上とし、またその厚さを3μm以上、10μm以下の範囲とすることが望ましい。
【0011】
また本発明の粒状金属鉄は、鉄源としての生産性や取扱い性などを総合的に考慮して粒径を1mm以上、30mm以下の範囲とすることが望ましい。
【0012】
なお本発明の粒状金属鉄とは、必ずしも真球状であることを意味するものではなく、楕円状、卵形状、あるいはそれらが若干偏平化したものを包含する粒状物を総称するもので、上記直径1〜30mmの粒径とは、長径と短径および最大厚さと最小厚さの総和を4で除した値を意味する。
【0013】
こうした本発明の粒状金属鉄は、前記原料中の酸化鉄を固体状態で加熱還元してから溶融させ、副生する非晶質のスラグを排斥しつつ粒状に凝集させることによって得ることができる。
【0014】
この際、前記原料中に含まれるスラグ形成成分の組成がSiO2:28.2〜100質量%、Al23:0〜71.8質量%、CaO:0〜20.2質量%の範囲内となる様に調整し、より好ましくは、該スラグ形成成分の組成が、SiO2−Al23−CaOの3元系状態図で、SiO2:Al23:CaOが(100,0,0)、(43.2,36.7,20.1)、(28.2,71.8,0)の3点を結ぶ領域の範囲内となる様に制御すると共に、1200〜1350℃の温度域で該原料中の酸化鉄の80質量%以上、より好ましくは90質量%以上を還元し、次いで1350〜1500℃の温度域で、金属鉄を溶融させると共に、副生する溶融スラグと分離して凝集させる方法を採用すれば、Fe含有量が95%以上で、表面がSi偏析相によって被覆された上記粒状金属鉄を効率よく製造できる。
【0015】
【発明の実施の形態】
上記の様に本発明の粒状金属鉄は、炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融して得られる粒状の金属鉄であり、Fe含有量が95%以上(より好ましくは95%以上)で、その表面が、好ましくはSi含有量が20質量%以上で且つ厚さが5μm程度以上のSi偏析相によって被覆されているところに特徴を有しており、またその粒径は1〜30mm(より好ましくは3〜20mm)の範囲に収まるものが好ましく、これらの数値範囲を定めた理由は下記の通りである。
【0016】
まず該粒状金属鉄のFe含有量は、その品質を支配する重要な要素であり、Fe純度の高いものであること、裏を返せば不純物の含有量が極力少ないものであることが望ましいことは当然であるが、本発明ではその基準を95%以上、より好ましくは98%以上と定めている。その理由は、製鉄・製鋼原料などとして使用する際に、該金属鉄中の不純物量が5%を超えて過度に多くなると、電気炉などで溶融する際にそれら不純物がスラグなどとして湯面上に生成し、その除去作業が煩雑になるからである。また、例えばS,Mn,Si,Pの如き溶鋼中に溶解する元素は、該金属鉄を用いて得られる最終製品の物性に悪影響を及ぼすので、溶製段階で脱硫、脱りん、脱珪などの処理が不可欠となり、それらの予備処理に少なからぬ手数と時間を要することになる。これらのことから、本発明の粒状金属鉄はFe含有量が少なくとも95%以上、より好ましくは98%以上であることを必須とする。
【0017】
また本発明の粒状金属鉄は、その表面がSi偏析相で被覆されているところに大きな特徴を有しており、それにより保管時の表面酸化による純度低下を抑え、鉄源としての品質劣化を抑えるうえで極めて重要な要件となる。そして本発明においては、該Si偏析相による表面被覆で酸化防止を図ったもので、該Si偏析相の構成自体は特に制限されないが、酸化防止の目的をより確実に発揮させる上では、該Si偏析相としてSi含有率を20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、厚さを3μm以上、より好ましくは5μm以上を確保することが望ましい。
【0018】
ちなみに、該偏析相のSi含有率が30質量%未満、あるいは厚さが3μm未満では、酸化防止作用が不足気味となり、保管条件や保管期間によっては酸化防止作用が不十分になる傾向があるからである。Si偏析相のSi含有率や厚さの上限は特に存在しないが、それらが過度に多くなると、該粒状金属鉄を原料として用いた鋼や合金鋼などの物性を劣化させる原因になり、また過度に厚肉になると粒状金属鉄としてFe純度を下げる原因になるので、好ましくはSi偏析相中のSi含量を70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、偏析相の厚さは10μm以下、より好ましくは8μm以下に抑えることが望ましい。なお、Si偏析相が形成された本発明に係る粒状金属鉄の、該Siによる上記物性劣化を回避するには、粒状金属鉄全体としてのSi含量を0.05%以上、0.50%以下に抑えることが望ましい。
【0019】
なお、本発明においてSi偏析相を構成するSi以外のSi化合物としては、アイアンシリサイド(Fe−Si)やシリコンカーバイド(Si−C)あるいはファイアライト(2FeO・SiO2)などが挙げられる。
【0020】
更に本発明の粒状金属鉄は、粒径が1〜30mmの範囲のものが好ましい。その理由は、1mm未満の微粒物では、篩等を用いた通常の方法で分離することが困難であるばかりでなく、鉄源として製鋼炉などへ装入する際に飛散ロスを起こし易くなるからである。
【0021】
一方、粒径が30mmを超える大粒径の金属鉄を得るには、原料として大きな成形体を使用しなければならず、後述する様な加熱還元と溶融を行なって粒状金属鉄を製造する際に、特に加熱還元期において原料成形体の内部にまで熱が伝達するのに時間がかかり、還元の効率が低下するばかりでなく、溶融後における溶融鉄の凝集による合体が均一に進行し難くなり、得られる粒状金属鉄の形状が複雑且つ不特定となって粒径の揃った均質な粒状金属鉄が得られ難くなる。
【0022】
また粒状金属鉄の形状や大きさは、上記原料成形体の大きさ以外にも、例えば配合原料(酸化鉄源の種類やスラグ形成成分の組成など)、還元後の炉内雰囲気温度(特に溶融・凝集が進行する区画の雰囲気温度)、更には還元溶融炉への原料成形体の供給密度などによっても変わってくる。このうち供給密度は、前記原料成形体のサイズと共通する影響を及ぼし、供給密度を高めるほど、加熱還元後の溶融によって生成する溶融金属鉄同士が炉床上で互いに凝集、合体して大きなサイズのものになり易くなる。そして、原料成形体の供給密度を徐々に高め、更には多層積層状態で炉床上に供給すれば、溶融金属鉄が合体して大径化するチャンスは増大する。しかし供給密度を過度に高めると、炉内での伝熱速度が低下して還元の進行が阻害される他、生成する還元鉄の凝集・合体が均一に進行し難くなって粒状金属鉄の形状が複雑且つ不定型となり、粒径の揃った均質な形状の粒状金属鉄が得られ難くなる。
【0023】
こうした原料成形体のサイズ等に由来する問題は、製品として得られる粒状金属鉄として粒径が30mm以上のものを得ようとする場合に顕著に現われるが、30mm以下の粒径のものであればその様な問題を生じることなく粒径や外観形状の比較的揃った粒状物として得ることができる。この様な理由から、本発明では粒径の好ましい上限を30mm以下と定めている。しかし、より均質で粒径や外観形状の揃ったものとして得られ易いのは、3〜15mmの粒径のものである。
【0024】
そしてこうした要件を全て満たす本発明の粒状金属鉄は、表面に形成されたSi偏析相の作用で優れた耐酸化性を示し、長期保管あるいは船舶輸送などで受ける高温雰囲気によっても純度低下が少なく、電気炉などを始めとする各種の製鉄・製鋼設備や合金鋼製造設備を用いた鉄・鋼や各種合金鋼を製造するための鉄源として極めて有効に活用できる。
【0025】
次に上記要件を満たす粒状金属鉄の具体的な製法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明にかかる粒状金属鉄の製造に用いられる還元溶融炉の一例を示す概略断面説明図であり、この炉は予備加熱ゾーンZ1、固体還元ゾーンZ2、溶融ゾーンZ3および冷却ゾーンZ4を長手方向に配設した構造を有しており、炉体1の下面側および上面側に任意の加熱手段(伝熱加熱、バーナ加熱など)が設けられている。
【0027】
そして、原料成形体3(炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含むペレット状、塊状、略球状など)をパレット2に装填し、これをプッシャー4など任意の手段で炉1の予備加熱ゾーンZ1へ送り込んで予熱し、引き続いて任意の搬送手段(搬送ロールや搬送ベルトなど)で固体還元ゾーンZ2へ送って固体還元を進める。そして、生成する還元鉄と副生するスラグを溶融ゾーンZ3へ送って溶融させると共に、夫々の親和力で凝集させることによって粒状の溶融金属鉄を得る。その後、冷却ゾーンZ4で冷却することにより溶融金属鉄と副生スラグを凝固させて粒状金属鉄を得る。
【0028】
得られる粒状金属鉄は炉1から排出し、衝撃を加えて脆弱な凝固スラグを粒状金属鉄から離脱させると共に、磁選や篩分けなど任意の手段で凝固スラグを分離し、最終的に鉄分純度が95%程度以上、より好ましくは98%程度以上でスラグ成分含量の極めて少ない粒状金属鉄を得る。
【0029】
尚この図では、予備加熱ゾーンZ1、固体還元ゾーンZ2、溶融ゾーンZ3および冷却ゾーンZ4を長手方向に連続して設けた構造のものを示したが、この他、無端ベルト回動式の移動炉床や、例えば特開平11−337264号公報に開示されている様な回転炉床タイプの還元溶融炉などを用いて、原料成形体を連続的に加熱還元・溶融・冷却する連続式還元溶融装置を使用することも勿論可能である。
【0030】
図2は、後記実施例に示した原料仕様で、固体還元ゾーンZ2の温度を1340℃、溶融ゾーンZ3の温度を1450℃に設定して還元溶融を行なった時の反応状況を示すもので、この図には、予め原料成形体3内へ装入した熱電対により連続的に測定される成形体3の内部温度と、炉内雰囲気温度を示すと共に、還元過程で生成する二酸化炭素と一酸化炭素の濃度変化を併せて示している。
【0031】
この図からも明らかな様に、加熱還元ゾーンZ2の温度は、原料成形体3およびパレット2への吸熱によって一旦降温した後、設定温度まで昇温して行く。この間、排ガスダクトDから排出されるガスを分析することによって調べた生成ガス組成は図2に併記する通りであり、炉内温度の上昇に伴ってCOおよびCO2濃度は上昇し、還元反応が活発に進行していることを表している。その後、COおよびCO2濃度は最高濃度を経てから減少し、18分経過後には共に2%以下にまで低下し、20分経過後には1%以下にまで低下し、還元反応がほぼ完了したことを表している。これらCOおよびCO2の濃度から、原料成形体3中の酸化鉄の除去酸素量を計算すると、還元率で98%まで進行していることが確認された。
【0032】
その時点で試料を1450℃に保った溶融ゾーンZ3へ送ると、僅かな温度降下の後すみやかに設定温度まで昇温する。この例では、固体還元ゾーンZ2で還元をほぼ完了してから溶融ゾーンZ3へ送ったので、排ガス中のCOおよびCO2ガス濃度の変化は殆ど見られない。そして、溶融ゾーンZ3で加熱を行なうと、5分以内に還元鉄と副生するスラグが溶融分離する。これを冷却ゾーンZ4へ送って冷却すると共に、脈石成分由来の副生スラグを分離すると、粒状の金属鉄が得られる。
【0033】
上記方法を実施するに当たり、加熱還元を進める固体還元ゾーンZ2の好ましい温度は1200〜1400℃であり、より好ましくは、後述する様な理由から1200〜1350℃の温度域で原料中に含まれる酸化鉄の80質量%以上、好ましくは90質量%以上を還元せしめ、引き続いて、生成した還元鉄の溶融と副生スラグとの分離が進行する溶融ゾーンZ3の好ましい温度は1350〜1500℃、より好ましくは1400〜1500℃の範囲である。
【0034】
また図2の横軸に示す時間は、原料成形体3を構成する鉄鉱石や炭材の組成等によって若干の違いはあるが、通常10分から13分程度で酸化鉄の固体還元と生成した金属鉄の溶融および凝集・合体は完了する。これを冷却ゾーンZ4に移して冷却凝固させると、粒状の金属鉄が得られる。
【0035】
ところで、上記方法を実施する際に最も重要なことは、原料成形体中の酸化鉄が固体還元→溶融→凝集・合体→冷却凝固の各工程を経て粒状金属鉄となる過程で、粒状金属鉄の表面に前述した様なSi偏析相が形成される適正な条件設定を行なうことである。
【0036】
そのための条件について種々検討を重ねた結果、例えば、SiO2の如き原料成形体中の脈石成分等に由来するスラグ形成成分によって決まるスラグの融点や共晶反応による融液発生後の液相率の制御などによって実現できることが分かった。以下、本発明を実現する上で極めて重要となる該スラグ形成成分について詳述する。
【0037】
即ち本発明者らは、得られる粒状鉄表面における上記Si偏析相の形成には、前記原料中の脈石成分などに由来する副生スラグの成分組成が少なからぬ影響を及ぼすという予備実験結果の下で、その具体的な影響を明確にすべく実験を重ねた。
【0038】
すなわち、前記原料中に含まれるスラグ形成成分、即ち酸化物含有物質中の脈石成分や炭素質還元剤中の灰分などに由来するスラグ形成成分のうち、主成分となるSiO2、Al23およびCaOの3成分について、それらの組成が粒状金属鉄表面に形成されるSi偏析相の形成に及ぼす影響を確認するため研究を行なった。その結果、図11のSiO2−Al23−CaO3元状態図に示す如く、生成スラグの成分組成がSiO2,Al23,CaOの含有率でSiO2:28.2〜100質量%、Al23:0〜71.8質量%、CaO:0〜20.2質量%の範囲内、より好ましくは、SiO2:Al23:CaOが(100,0,0)、(43.2,36.7,20.1)、(28.2,71.8,0)の3点を結ぶ領域の範囲内となる様に制御すれば、粒状金属鉄の表面にSi偏析相がうまく形成されることを知った。
【0039】
上記好適スラグ組成範囲では、生成スラグは低融点組成で、且つムライト(Mullite)やアノーサイト(Anorthite)あるいはトゥリディマイト(Trydimite)等の共晶点近傍の組成となり、スラグの溶融温度が低下するので操業温度を下げることができ、投入エネルギー面でも有利となる。そして、酸化鉄の還元途中で生成するFeOと上記スラグ形成成分の反応によって低融点のファイヤライト(2FeO・SiO2)が生成するが、該ファイヤライトはメタル(即ち、還元鉄)−スラグ界面、すなわち粒状金属鉄の表面で還元を受けることで「2FeO・SiO2+4C=2Fe+Si+4CO」の反応が進行し、生成するSiが粒状金属鉄の表面に取り込まれ、表面にSi偏析相が形成される。
【0040】
なおFeOとSiO2とでは前者の方が還元され易いため、還元用炭素の供給が不足したり遅れると粒状金属鉄の表面にガラス質のSiO2が残留することもあるが、これはガラス質の表面保護膜としてSi偏析相を更に保護する機能を果たし、粒状金属鉄の耐候性(耐酸化性)を一層高める上で有効に作用する。
【0041】
上記副生スラグに起因するSi偏析相の形成を効率よく進めるには、原料中の酸化鉄の還元率を1200〜1350℃の温度領域で80質量%以上、より好ましくは90%以上にまで高め、その後、1350〜1500℃の温度域で生成する金属鉄と副生スラグの溶融分離を進めることが有効となる。即ち、1200〜1350℃の比較的低温域で還元を進める際に低融点のファイヤライト(2FeO・SiO2:融点1205℃)を生成させ、これを1350〜1500℃に加熱してから金属鉄と副生スラグの溶融分離を行なうと、このとき同時に前記式「2FeO・SiO2+4C=2Fe+Si+4CO」で示した反応による粒状鉄表面でのSi偏析が進行し、表面にSi偏析相が効率よく形成されるのである。
【0042】
即ち本発明の製法によれば、原料中のスラグ形成成分の組成を低融点スラグ組成に近づけると共に、還元途中の酸化鉄との反応でファイヤライトを生成せしめ、その後温度を高めて金属鉄とスラグを溶融分離することで、粒状金属鉄の表面にSi偏析層を形成することができ、それにより粒状鉄の耐酸化性を飛躍的に高めることができるのである。
【0043】
なお、図示した様な連続法を採用して粒状金属鉄の製造を行なうに当たっては、上記1200〜1350℃の固体還元域を経た後、1350〜1500℃に昇温して溶融スラグと溶融金属鉄の分離が進行するまでの所要時間は、前述の如く10〜15分程度であり、適切なスラグ形成成分調整の下でかかる温度・時間条件を経ることによって最終的に得られる粒状金属鉄の表面には、前述した機構によってSi含量が30質量%程度以上で且つ厚さで3〜6μm程度のSi偏析相が形成される。
【0044】
このとき、固体還元時間を過度に短縮すると、満足の行くSi純度と厚さのSi偏析相が形成され難くなることがあるので、好ましくは固体還元が90%程度まで進行するのに要する時間で5分以上、より確実には7分以上をかけることが望ましい。但し、この間の所要時間が長くなり過ぎると、Si偏析相が過度に厚くなってFe純度低下が軽視し難くなるので、好ましくは20分以下、より好ましくは15分程度以下で固体還元が完了するように制御することが望ましい。
【0045】
上記条件設定を採用することによって得られる粒状金属鉄は、表層部に薄いSi偏析相が形成されているが、内部にはスラグ成分が殆ど含まれておらず、Fe純度で95%以上、より好ましくは98%以上の高純度の粒状物となる。
【0046】
ちなみに、本発明者らが後記実施例の表1に示した鉱石「O1」と表2に示した石炭「C1」を用いて得た粒状金属鉄について、上記オージェ・X線スペクトル分析を行なって表面性状を調べたところ、図3〜9に示す結果が得られた。これらの図において、横軸は荷電圧、縦軸はX線スペクトル強度であり、分析対象元素に対応するスペクトルが出現したときは当該元素の存在を確認できる。
【0047】
図3〜7は、測定温度を常温(25℃)、850℃、920℃、1050℃、1120℃に変えたときのX線スペクトルを示している。これらの図からも明らかな様に、常温でのSiのスペクトルは非常に強く、Feのそれはごく僅かに過ぎない。そして測定温度が高くなるにつれてFeのスペクトルは強く且つ明確になる一方、Siのスペクトルは低下し、測定温度が1120℃(図7)になると、Siのスペクトルは見られなくなる。
【0048】
また図8,9は、温度を920℃に保ってスペクトルの変化を調べた結果を示したもので、図8は920℃で15分、図9は920℃で30分維持した後のスペクトルを示している。これらの図からも明らかな様に、920℃での保持時間が長くなるにつれてSiのスペクトルは弱くなり、Feのスペクトルが強くなっていく傾向を確認できる。
【0049】
これらの実験結果から、粒状金属鉄の表面にはSi偏析相が形成され、該Si偏析相のSiは、高温条件下で徐々に内部の金属鉄内へ拡散していくものと考えられる。また、常温で粒状金属鉄の表面に形成されたSi偏析相について、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)およびエネルギー分散型X線解析装置(EDX:Energy Diffraction X-ray Analyzer)を用いて詳細に調査したところ、該Si偏析層の厚さは5μm程度以下と非常に薄いこと、また元素の状態分析からすると、該S偏析相は珪素−鉄の金属間化合物(シリサイド)の形態となっていることが予測され、該Si偏析相で表面被覆されていることにより、粒状金属鉄の酸化劣化が防止されるものと判断される。
【0050】
ところで上記粒状金属鉄は、前述の如く炭材を分散状態で含む鉄鉱石粉の成形体を1400℃という高炉法に比べて低い温度で還元・溶融し、脈石成分(スラグ成分)と金属鉄を分離させることによって得たものであり、副生するスラグの融点は1520℃程度で、融液を生成し始める温度は1200℃未満である。従って副生スラグは、操作温度である1400℃の温度条件下では固体と液体が共存する不均質な状態になると考えられる。そしてこれを冷却した後の前記観察とX線回折によれば、副生スラグとメタル(Fe)の界面のスラグはSiO2に富むガラス質(アモルファス)であり、界面から離れるにつれて、析出した結晶が分散していることが確認された。そして、該界面のSiO2に富むガラス質スラグがメタル(Fe)との間でSi分配反応を生じ、これも粒状金属鉄表面へのSi偏析相の形成を助長しているものと思われる。
【0051】
特に珪素−鉄の金属間化合物(シリサイド)は、メタル−スラグ界面のアモルファス領域で低融点化合物であるファイヤライト(2FeO・SiO2:融点1205℃)が還元されることによって生成した可能性が高い。図10は、この状態を模式図として示したものである。上記アモルファス状のガラス質スラグが粒状金属鉄(メタル)表面に残留して表面を被覆した状態でも、粒状金属鉄の酸化は当然に抑制される。こうした酸化防止被覆の生成反応機構は、下記式によって説明できる。
2Fe・SiO2+4C=2F+Si+4CO
SiO+2C=Si+2CO
【0052】
冶金反応の平衡計算によれば、[SiOガスの平衡分圧=2×10-4atm]であり、炭素含有量が0.3質量%の溶鉄中においてもSi=1.5質量%まで移行できることを示しており、これらの平衡反応からも、粒状金属鉄表面へのSi偏析相の形成が裏付けられる。
【0053】
そして、上記Si偏析相の形成による粒状金属鉄の酸化劣化抑制作用を有効に発揮させるには、該Si偏析相中のSi含量を30%質量以上、より好ましくは40%以上にすると共に、該Si偏析相の厚さを3〜10μmの範囲に制御すること有効となるのである。
【0054】
上記の様に本発明によれば、鉄鉱石と炭材を含む原料成形体を固体還元してから溶融・凝集させて金属鉄を製造する際に、原料成形体中の炭素質還元剤量や固体還元時の温度条件、スラグ形成成分の成分組成、更には溶融時の温度条件や雰囲気ガスの組成などを適正に制御することによって、加熱還元、溶融および生成する金属鉄の粒状化を効率良く進めると共に、その表面にSi偏析相を形成することができ、Fe純度の非常に高い粒状金属鉄を得ることができる。
【0055】
殊に、製造時の適切な条件設定、具体的にはスラグ形成成分、ひいては副生スラグの成分調整と適切な温度制御を行なうことにより、得られる粒状金属鉄の表面をSi偏析相で被覆することができ、粒状鉄の耐酸化性を飛躍的に高めることが可能となる。
【0056】
なお、上記副生スラグの成分調整は、原料として用いる酸化鉄含有原料や炭素質還元剤中に含まれる脈石成分の組成や量に応じて、適量のSiO2やAl23、CaOどを追加したり、脈石成分組成の異なる鉄鉱石を適宜併用することで全体としてのスラグ形成成分組成をコントロールする等の方法によって行なえばよい。
【0057】
かくして得られる本発明の粒状金属鉄は、Fe純度が高くて且つその表面がSi偏析相により被覆されて優れた耐酸化防止性を有すると共に、粒度は製品としての取扱いに優れた1〜30mmの粒度を有する粒径および形状の揃ったものとなり、製鉄・製鋼あるいは各種合金鋼などを製造するための鉄源として有効に利用できる。
【0058】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明の構成および作用効果を具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
実施例1
鉄源として下記表1に示す4種の鉄鉱石と表2に示す4種の炭材(石炭)を使用し、これらを少量のバインダー(ベントナイト)と均一に混合して直径約19mmの原料成形体を製造し、これを用いて金属鉄の製造実験を行なった。このとき炭材の配合量は、使用した鉄鉱石中の酸素量、Si,Mnの如き合金成分元素の還元に必要な炭素量還元時に発生するCOとCO2の割合を踏まえて、鉄鉱石中の酸化鉄の還元に要する化学量論的に必要な炭素量と、製品粒状鉄中の目標炭素濃度から必要な全炭素量を求め、原料の還元に有効に作用する炭材中の固定炭素量とバランスする様に設定した。尚この実験では、製品還元鉄の炭素濃度が1.0〜2.0%の範囲となる様に調整した。
【0060】
【表1】
Figure 0004654542
【0061】
【表2】
Figure 0004654542
【0062】
上記で得た各原料成形体を使用し、前記図1に示した様な還元溶融装置(電気加熱式)を用いて、前述した手順で原料成形体の予熱、加熱還元・溶融による粒状金属鉄の生成と副生スラグとの分離生成、更には冷却凝固による粒状金属鉄の製造と副生スラグの分離を行なった。このとき、固体還元部(ゾーンZ2)の温度は1340℃、加熱溶融部(ゾーンZ3)の温度は1450℃に設定した。
【0063】
この時の固体還元および溶融部の温度と、COおよびCO2ガス濃度の経時変化を測定し、図2に示す結果を得た。この図からも明らかな様に、固体還元ゾーンZ2の温度は、原料成形体3およびパレット2への吸熱によって一旦降温した後、設定温度まで昇温して行く。この間、排ガスダクトから排出されるガスを分析することによって調べた生成ガス組成は図2に併記する通りであり、炉内温度の上昇に伴ってCOおよびCO2濃度は上昇し、還元反応が活発に進行していることを確認できる。その後、COおよびCO2濃度は最高濃度を経てから減少し、18分経過後には共に2%以下にまで低下し、20分経過後には1%にまで低下し、還元反応がほぼ完了したことを確認できる。このCOおよびCO2濃度から、原料成形体中の酸化鉄の除去酸素量を計算すると、還元率で98%まで進行していることが確認された。
【0064】
その時点で試料を1450℃に保った溶融ゾーンZ3へ送ると、僅かな温度降下の後すみやかに設定温度まで昇温した。この実施例では、固体還元ゾーンZ2で還元をほぼ完了してから溶融ゾーンZ3へ送ったので、排ガス中のCOおよびCO2ガス濃度の変化は殆ど見られない。そして、溶融ゾーンZ3で加熱を行なうと、5分以内に還元鉄と副生するスラグが溶融分離する。これを冷却ゾーンZ4へ送って冷却すると共に、脈石成分由来の副生スラブを分離すると、粒状の金属鉄が得られた。
【0065】
得られた粒状金属鉄の粒度構成は表3に、また化学成分は表4に示す通りであり、何れの場合もFe純度で96%以上が確保されると共に、工業的に取扱いの簡便な1mm以上の粒径のものが94%以上の歩留りで得られている。
【0066】
【表3】
Figure 0004654542
【0067】
【表4】
Figure 0004654542
【0068】
また、上記4種の鉱石と炭材の組合わせで得た各最終スラグ組成を、図11のSiO2-Al23-CaOの三元状態図にプロットした。なお同図に斜線で示した領域は、従来の高炉操業法で得られる通常のスラグ組成を示したものであるが、本実施例によって副生するスラグの組成は全く異なった領域にあることが分かる。すなわち従来の高炉操業法では、塩基度で表されるCaO/SiO2比が約1.2で、Al23が15%付近であるが、本発明で好ましく採用される条件下で副生するスラグ組成はムライト領域にあり、SiO2濃度の高い酸性側で且つアルミナ濃度も高い。
【0069】
そして、この様なスラグ副生条件下で製造される粒状金属鉄の表面に形成されるSi偏析層のSi含有率と厚さを前述したSEMおよびEDXによって調べたところ、前記表4に併記する如く各粒状金属鉄の表面には約3〜12μmの範囲でSi含有率が29.0〜70.1質量%のSi偏析相が形成されていることが確認された。
【0070】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、Fe純度が高く且つ表面がSi偏析相により被覆されて優れた耐酸化性を備え、長期保存によっても品質劣化を起こすことがなく、あるいは更に、取扱いの簡便な粒度構成を有し、鉄源としての取扱いが容易で品質の安定した粒状金属鉄を提供し得ることになった。しかもこの粒状金属鉄は、前述の如く製造条件を適切に制御することにより、安定して再現性よくしかも効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる粒状金属鉄の製造に用いられる還元溶融設備を例示する説明図である。
【図2】本発明に係る前記粒状金属鉄の製造を実施する際の温度変化と、外処理工程で副生するCOおよびCO2ガスの濃度変化を示すグラフである。
【図3】実験で得た粒状金属鉄のオージェ・X線スペクトル分析結果(測定温度:25℃)を示す図である。
【図4】実験で得た粒状金属鉄のオージェ・X線スペクトル分析結果(測定温度:920℃)を示す図である。
【図5】実験で得た粒状金属鉄のオージェ・X線スペクトル分析結果(測定温度:1050℃)を示す図である。
【図6】実験で得た粒状金属鉄のオージェ・X線スペクトル分析結果(測定温度:1120℃)を示す図である。
【図7】実験で得た粒状金属鉄を920℃で15分間維持した後のオージェ・X線スペクトル分析結果を示す図である。
【図8】実験で得た粒状金属鉄を920℃で30分間維持した後のオージェ・X線スペクトル分析結果を示す図である。
【図9】粒状金属鉄の表面にSi偏析相が形成される際の状況を模式的に示す一部断面説明図である。
【図10】粒状金属鉄の表面に形成されるSi偏析相の生成機構を説明するための概念図である。
【図11】実施例で得た各最終スラグ組成を、従来の高炉操業法で得られる通常のスラグ組成と共に、SiO2-Al23-CaOの三元状態図にプロットして示した図である。
【符号の説明】
1 炉床
2 パレット
3 原料成形体
5 オフガス路
1 予備加熱ゾーン
2 固体還元ゾーン
3 加熱溶融ゾーン
4 冷却ゾーン

Claims (7)

  1. 炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融して得られる粒状金属鉄であって、Fe含有量が95%(以下、成分含有量の場合は全て質量%を意味する)以上であり、表面がSiおよび/またはSi化合物の偏析相によって被覆されていることを特徴とする粒状金属鉄。
  2. Siおよび/またはSi化合物の偏析相中のSi含有率が30質量%以上である請求項1に記載の粒状金属鉄。
  3. Siおよび/またはSi化合物の偏析相の厚さが3〜10μmである請求項1または2に記載の粒状金属鉄。
  4. 粒径が1〜30mmである請求項1〜4のいずれかに記載の粒状鉄。
  5. 前記粒状金属鉄は、前記原料中の酸化鉄を固体状態で加熱還元してから溶融させ、副生するスラグを排斥しつつ粒状に凝集させたものである請求項1〜4のいずれかに記載の粒状金属鉄。
  6. 炭素質還元剤と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融して前記請求項1〜5のいずれかに記載された粒状金属鉄を製造する方法であって、前記原料中に含まれるスラグ形成成分の組成がSiO2:28.2〜100質量%、Al23:0〜71.8質量%、CaO:0〜20.2質量%の範囲内となる様に調整すると共に、1200〜1350℃の温度域で該原料中の酸化鉄の90質量%以上を還元し、次いで1350〜1500℃の温度域で、金属鉄を溶融させると共に、副生する溶融スラグと分離して凝集させることを特徴とする粒状金属鉄の製法。
  7. 前記スラグ形成成分の組成が、SiO2−Al23−CaOの三元状態図、SiO2:Al23:CaOが(100,0,0)、(43.2,36.7,20.1)、(28.2,71.8,0)の3点を結ぶ領域の範囲内となる様に制御する請求項6に記載の製法。
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