JP3797206B2 - 溶銑の予備処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は溶銑の予備処理方法に係り、特に溶銑を予備処理して溶銑中の珪素(Si)、硫黄(S)、りん(P)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)を効率よく除去する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【0003】
鋼鉄材料の高度化に伴い、たとえば高純度鋼、高清浄度鋼や電磁鋼板用の素材や高深絞り用鋼のようにSiやS、P、Mn、Crなどのようにわずかな不純物をも問題にする鋼種も増加している。そのような場合、高炉原料を精選してこれらの不純物の極めて少ない溶銑を溶製する出銑規制が行われるが、コストの高騰を招くなど好ましくない。
【0004】
特公平6-92614号公報には容器内に収容した溶鋼に炭酸塩成分を添加しない酸化性の低塩基度フラックスを接触させる脱クロム方法が開示されている。この提案は転炉で脱C精錬を終了した後に、改めて脱Cr工程を設けるものであって、精錬時間の延長や溶鋼の温度低下などの問題がある。また、溶鉄からの脱Mnや脱Crは、冶金学的には低温で行う方が合理的であるのに、上記提案では溶鋼での処理であるため1600℃を超える高温での処理となっており、効率的でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来技術における種々の問題に対処して溶銑段階において脱P、脱Sとともに脱Si、脱Mn及び脱Crを効率的に行う方法を提案するもので、これにより高級鋼を経済的に製造することを可能とするとともに高炉操業段階での低Cr溶銑や低Mn溶銑の出銑規制を和らげ、原料配合の自由度を増すことを可能にするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、溶銑からの脱Mn及び脱Crが低温かつ塩基度の低い領域でのトランジトリー型反応として起こることに着目し、その条件を究明して本発明を完成した。すなわち、本発明の溶銑予備処理方法は、常法では、脱りん次いで脱硫処理の手順を取るに対し、この手順を逆転させた処理を行うことを特徴とするもので、溶銑に脱硫処理を施して脱硫によるトップスラグを形成させ、脱硫処理後の溶銑温度を 1340 ℃以下とした後、該トップスラグの塩基度Bt(CaO/SiO2)を1.8以上に維持しつつ下記式で定義される吹きこみ塩基度Biを2.5以下として酸化剤及びフラックスを吹きこむことからなる。
記
Bi=(吹き込み時フラックス中のCaO)/(吹き込み時フラックス中のSiO2+吹き込み時溶銑中Siの酸化によって生じたSiO2)
【0007】
上記発明において、トップスラグの塩基度Btを2.5〜4.0に維持すること、あるいは吹きこみ塩基度Biを1.0〜2.0とすること、さらに酸化剤として気体酸素及び/又は固体酸素源を用い、フラックス源として焼結鉱粉及び/又は粉末生石灰を用いることが本発明の目的を達成する上で好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。本発明の適用される溶銑は、Siを0.08%以上含有することが望ましい。これは本発明に従う脱Mn、脱Cr反応は主として図1に模式的に示すトランジトリー反応により進行し、その反応において塩基度Biを2.5以下に維持するためには溶銑中のSiの酸化によってSiO2が十分供給されることが望ましいからである。しかし、溶銑中のSi含有量が低い場合であっても、SiO2源をフラックスとして供給することにより、塩基度Biを調整することができる。
【0009】
高炉から出銑される溶銑中のSiは0.2〜0.5mass%程度であるので、そのまま本発明の実施に供することもできるが、できれば公知の鋳床脱珪によりSi含有量を0.08〜0.12mass%に低下させておくのがよい。それにより過剰Siによる妨害を受けることなく、脱Mn、脱Crとともに脱りんを効率的に進行させることができる。
【0010】
本発明の溶銑予備処理方法において、溶銑はまず脱硫処理される。すなわち、通常の溶銑処理と異なり、脱硫処理を先行させるのである。これには二つの意義がある。一つは脱硫処理により溶銑温度を低下させ、後続の脱Mn、脱Cr反応を行うのに適当な温度とすることである。他の一つは、脱硫処理の際、塩基度の高いスラグを生成させて、後続の脱りん処理を円滑に行わせる機能を持たせることである。
【0011】
したがって、脱硫処理後の溶銑温度は1400℃以下にするのがよい。好ましくは1340℃以下、さらに好ましくは1300℃以下とするのがよい。これは、図2、図3に示すように、脱Mn反応速度定数及び脱Cr反応速度定数が低温になるほど大となるからである。この条件を達成するのに、本発明では脱硫処理を先行させるのである。
【0012】
また、脱硫処理の際、溶銑上にトップスラグを形成させ、そのスラグをそのまま後続工程のトップスラグに利用する。しかし、脱硫反応は還元性雰囲気でよく進行する反応であり、これに対し後続の脱りん、脱Mn及び脱Cr反応は酸化性の雰囲気でよく進行する反応である。しかも、後述するように、脱Mn、脱Cr反応を進行させるためには塩基度の低いスラグ生成が行われる。そのため、トップスラグの塩基度Btが低いときには、後続工程の際に復硫するおそれがある。したがって、トップスラグの塩基度Btを十分に高く、少なくとも1.8以上とし、好ましくは2.5〜4.0とする。
【0013】
なお、トップスラグも形成量は溶銑1t当たり20kg以上とするのがよい。このような条件を満たすトップスラグを形成するには、たとえばCaO:93mass%、Al2O3:35mass%、金属Al:2mass%からなる脱硫剤あるいはCaO:43mass%、CaCO3:35mass%、Al2O3:16 mass%、金属Al:4mass%、CaF22mass%からなる脱硫剤を窒素など不活性ガスにより溶銑1t当たり20kg程度吹き込めばよい。
【0014】
このようにして準備された溶銑に酸化剤及びフラックスの吹きこみが行われる。この吹きこみに当たっては下記式で定義される吹きこみ塩基度Biを2.5以下に維持することが必要である。
Bi=(吹き込み時フラックス中のCaO)/(吹き込み時フラックス中のSiO2+吹き込み時溶銑中Siの酸化によって生じたSiO2)
【0015】
この吹きこみ塩基度Biは、酸化剤及びフラックスの吹きこみによって吹きこみランスの出口近傍において形成され、浮上する過程にあるスラグの塩基度を意味し、図1に模式的に示したように、この吹込・浮上する領域に形成され、あるいはフラックスとして持ち込まれる物質のうち、CaOとSiO2との比によって決定される。また、模式図に併せて示したように、この吹込・浮上する過程では溶銑中のSiの酸化の他、Mn、Crの酸化が生じ、脱Si、脱Mnおよび脱Crが進行する。
【0016】
このBiは吹き込み過程において次のようにして計算することができる。
(単位時間に吹き込んだフラックス中のCaO量)/{(単位時間に生成したSiO2量)+(単位時間に吹き込んだフラックス中のSiO2量)}
ここで、単位時間はたとえば溶銑のサンプリングの間隔として測定でき、その間に投入されるフラックスの量は与条件であるから、これをもとに単位時間に吹き込んだフラックス中のCaO量、SiO2量を計算できる。一方、単位時間に生成したSiO2量は溶銑中Siの減少量を基に計算できる。
【0017】
図4は、上記定義によるBiを0.9から1.6の間に制御して、CaO:6mass%、焼結鉱(その組成はFeO:84mass%、SiO2:6mass%、CaO:10mass%である):94mass%からなるフラックスを空気を用いて酸素ガス送給速度が標準状態に換算して0.18m3/min/t-溶銑となる条件で吹き込んだときの脱Mn、脱Crの状態を示すグラフである。この場合、溶銑中のMn、及びCr量は吹込の進行とともにこに順調に減少し、処理時間30分ではそれぞれ、0.06mass%、0.01mass%となり初期の目的を達している。
【0018】
このような実験操業を繰り返すことにより、Biが2.5以下の場合に溶銑の脱Siとともに脱Mn、脱Crが速やかに進行し、かつこれら元素の残留量も充分低くなることが確認できた。しかしながら、Biがあまりに小さくなると、同時に進行する脱りんが阻害される。これらの点を考慮して、Biは2.5以下、好ましくは1.0〜2.0とする。
【0019】
上述のように、溶銑成分(特にSi含有量)、溶銑温度及びBiを制御するとトランジトリー反応によって脱Mn、脱Crを効果的に行わせることができる。さらに、トップスラグを塩基度(Bt=CaO/SiO2)を1.8以上としておくことにより同時に進行する脱りんを効率的に進行させることができる。
【0020】
上記説明では、上述の条件を満たすための吹きこみフラックスをCaO及び焼結鉱とした。このフラックスは、適当量のCaO及びSiO2を含有し、しかも固体酸素源としてFeO含み、さらに焼結によって低融点化されているから、本発明においてフラックスとして利用するのに好適である。しかし、フラックスはこれに限ることはない。要するに気体酸素及び/又は固体酸素源の酸化剤の吹き込みとともにBiを2.5以下、好ましくは1.0〜2.0にできるものであればよい。
【0021】
また、本発明による処理では、特に処理容器の限定はない。トピードカーの他、転炉あるいは取鍋を用いて実施することができる。また、上記本発明の操業によって生成する得するスラグを、たとえばAl2O3の添加によって改質し、予備処理炉からの排出を容易にすることなど、種々の付加的操業を行うことを妨げない。
【0022】
【実施例】
Si:0.10〜0.30mass%、Mn:0.20〜0.50mass%、P:0.120〜0.180mass%、S:0.015〜0.030mass%、Cr:0.05〜0.2mass%、温度:1400〜1500℃の溶銑を容量300tのトピードカーに受け入れ、まず窒素ガスをキャリアガスとして脱硫剤を投入し、脱硫を行うとともに該脱硫処理によりトップスラグを形成し、しかる後、酸素含有ガスをキャリアガスとしてフラックスを吹きこんで脱P、脱Si、脱Cr及び脱Mn処理を行った。処理条件を表1に処理結果を表2に示す。
【0023】
表1、2から明らかなように、本発明により脱Sに引き続き脱P、脱Siとともに脱Mnと脱Crが行われることが確認できた。なお表1中、脱硫フラックスAは、CaO:93mass%、Al2O3:5mass%、金属Al:2mass%、Bは、CaO:43mass%、CaCO3:35mass%、Al2O3:16mass%、金属Al:4mass%、CaF2:2mass%の組成を有する。
【0024】
【表1】
【表2】
【0025】
【発明の効果】
本発明により、溶銑段階で脱硫、脱りんとともに脱Si、脱Mn、脱Crを行うことが可能となり、これにより従来高級鋼の溶製のため高炉で行われていた出銑規制を緩和することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明により脱Mn、脱Cr反応が進行するトランジトリー反応の模式説明図である。
【図2】 本発明による脱Mn反応の反応速度定数の温度変化を示すグラフである。
【図3】 本発明による脱Cr反応の反応速度定数の温度変化を示すグラフである。
【図4】 Biが脱Si、脱P、脱Mn及び脱Crに及ぼす影響を示すグラフである。
Claims (4)
- 溶銑に脱硫処理を施して脱硫によるトップスラグを形成させ、脱硫処理後の溶銑温度を 1340 ℃以下とした後、該トップスラグの塩基度Bt(CaO/SiO2)を1.8以上に維持しつつ下記式で定義される吹きこみ塩基度Biを2.5以下として酸化剤及びフラックスを吹きこむことを特徴とする溶銑の予備処理方法。
記
Bi=(吹き込み時フラックス中のCaO)/(吹き込み時フラックス中のSiO2+吹き込み時溶銑中Siの酸化によって生じたSiO2) - トップスラグの塩基度Btを2.5〜4.0に維持することを特徴とする請求項1記載の溶銑予備処理方法。
- 吹きこみ塩基度Biを1.0〜2.0とすることを特徴とする請求項1又は2記載の溶銑予備処理方法。
- 酸化剤として気体酸素及び固体酸素源の1方又は双方を用い、フラックス源として焼結鉱粉及び粉末生石灰の一方又は双方を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶銑予備処理方法。
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