本発明は、ブレーキ装置に使用されるディスクロータの鋳造方法に関する。
ディスクロータは、外周面および内周面をもつと共に外周面と内周面との間に摺動面を形成する摺動リング部を有しており、黒鉛を含有する鋳鉄で形成されている。黒鉛は、固体潤滑剤としての機能や、振動を減衰させる機能等を有するため、ディスクロータの性能向上に有効である。ディスクロータでは、ブレーキ時に摺動リング部の摺動面がパッドなどの相手材と摩擦摺動するため、摺動リング部の円周方向における偏摩耗が小さいことが要請されている。
鋳鉄でディスクロータを鋳造する方法が開示されている(特許文献1等)。図16に模式的に示すように、この方法で使用される鋳型5Xは、摺動リング部を鋳造成形するリング状をなす鋳造キャビティ53Xと、摺動リング部の外周面を成形するリング形状をなす外周成形用鋳型面531Xと、摺動リング部の内周面を成形するリング形状をなす内周成形用鋳型面532Xとを備えている。更に鋳型5Xにおいては、外周成形用鋳型面531Xの側において、円周方向に間隔を隔てて形成された複数の堰61X,62X,63Xが形成されている。更に、堰61X,62X,63Xに連通する湯道71X,72X,73Xが形成されている。堰61X,62X,63Xは、鋳造キャビティ53Xの中心線P5を放射方向に通る法線77X,78X,79Xに対して平行となるように形成されている。
特開2007−211828号公報
上記した方法によれば、鋳造キャビティ53Xの円周方向に沿って複数の堰61X,62X,63Xを間隔を隔てて形成し、複数の堰61X,62X,63Xから鋳造キャビティ53Xに溶湯を流入させている。このため、堰が1個の場合に比較して、鋳造キャビティの周方向における溶湯の温度のばらつきが低減され、ディスクロータの品質の均一化に貢献できる。
しかしながら産業界では、車両の更なる高性能化等に鑑み、ディスクロータにおける偏摩耗を更に一層低減させ、ディスクロータの信頼性を更に一層高めることがますます要請されている。回転摺動体であるディスクロータにおいては、特に外周面側は回転半径が大きいだけに摺動条件が内周側に比較して厳しい。このため、ディスクロータの外周面側の円周方向において、偏摩耗を更に一層低減させることが必要となる。
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、鋳造キャビティのうち外周成形用鋳型面付近の円周方向において溶湯の温度のばらつきが低減され、摺動リング部における偏摩耗の抑制、殊に外周面側の偏摩耗の抑制に一層貢献することができるディスクロータ鋳造方法を提供することを課題とする。
(1)本発明者はディスクロータ鋳造方法について鋭意開発を進めている。そして、本発明者は次の事項を知見した。(i)鋳造キャビティの外周側に形成した複数の堰から溶湯を鋳造キャビティに流入させるときには、溶湯が鋳型の内周成形用鋳型面に径方向から直接衝突する度合が高く、これに起因して溶湯の流れの偏りが鋳造キャビティにおいて発生しやすいこと、(ii)このため鋳造キャビティの円周方向でみると、堰に対面する溶湯部分と、隣接する堰間に存在する溶湯部分とで、凝固速度がかなり異なること、(ii)凝固速度の相違に起因して、摺動リング部の円周方向において、黒鉛サイズのばらつきが増加することを知見した。摺動リング部の摩耗は、黒鉛と基地組織との境界を起点として発生すると考えられているため、黒鉛サイズのばらつきは、偏摩耗の抑制の観点からは好ましくない。
そこで、本発明者は、鋳造キャビティの中心を放射方向に通る仮想線を法線とするとき、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面の側において円周方向に間隔を隔てて形成されている複数の堰の中心線をそれぞれ、法線に対して0°越え且つ90°未満の傾斜角度で傾斜させた鋳型を用いれば、本発明の課題を達成できることを知見し、本発明を完成させた。
(2)すなわち、本発明に係るディスクロータ鋳造方法は、外周面および内周面をもつと共に前記外周面と前記内周面との間に摺動面を形成する摺動リング部を有すると共に黒鉛を含有する黒鉛含有鋳鉄製のディスクロータを鋳造するディスクロータ鋳造方法であって、
前記摺動リング部を鋳造成形するリング状をなす鋳造キャビティと、前記摺動リング部の前記外周面を成形する外周成形用鋳型面と、前記摺動リング部の内周面を成形する内周成形用鋳型面と、前記外周成形用鋳型面の側において円周方向に間隔を隔てて形成され前記鋳造キャビティの中心を放射方向に通る法線に対して0°越え且つ90°未満の傾斜角度で傾斜した中心線をもつ複数の堰で形成された堰群と、前記堰群を構成する各前記堰に連通する湯道と、前記湯道に連通する湯口とを備える鋳型を準備する準備工程と、
前記鋳型の前記湯口から注湯した前記溶湯を前記湯道を介して前記堰群の各前記堰から前記法線に対して0°越え90°未満の傾斜角度で前記鋳造キャビティ内に注入して凝固させる注湯凝固工程とを順に実施する方法であり、
前記堰群のうち前記湯口からの溶湯流動距離が最も長い堰を遠堰とし、前記堰群のうち前記湯口からの溶湯流動距離が最も短い堰を近堰とし、前記湯道を介して前記遠堰まで流れる前記溶湯の流れの慣性方向を遠堰用順方向とするとき、
前記遠堰は、前記遠堰から前記鋳造キャビティに流入する溶湯を前記遠堰用順方向に沿って流す向きに傾斜されており、前記近堰は、前記遠堰から前記鋳造キャビティに流入する前記溶湯の流れ方向に沿って前記溶湯を流す向きに傾斜されていることを特徴とする。
(3)注湯凝固工程によれば、鋳型の湯口から注湯した溶湯を湯道を介して堰群の各堰から法線に対して0°越え且つ90°未満の傾斜角度で鋳造キャビティ内に注入する。このため堰から鋳造キャビティに流入した溶湯が鋳型の内周成形用鋳型面に直接衝突することが抑制される。この結果、従来技術で発生していた溶湯の直接衝突に起因する分岐流が抑制される。このため、鋳造キャビティのうち外周成形用鋳型面付近において、溶湯の温度が局部的に低温の溶湯部分と局部的に高温の溶湯部分とが存在することが抑制される。
更に、堰群のうち湯口からの溶湯流動距離が最も長い堰を遠堰とし、堰群のうち前記湯口からの溶湯流動距離が最も短い堰を近堰とする。湯道を介して遠堰まで流れる溶湯の流れの慣性方向を遠堰用順方向とするとき、遠堰は、遠堰から鋳造キャビティに流入する溶湯を遠堰用順方向に沿って流す向きに傾斜されている。更に、近堰は、遠堰から鋳造キャビティに流入する溶湯の流れ方向に沿って溶湯を流す向きに傾斜されている。
従って、鋳造キャビティのうち外周成形用鋳型面付近の円周方向において、溶湯の温度のばらつきが低減される。この結果、鋳造キャビティにおいて、隣接する堰間に対面する部分で凝固する溶湯の温度と、堰に対面する部分で凝固する溶湯の温度とのばらつきが低減される。ひいては、鋳造キャビティの円周方向において、溶湯の凝固速度のばらつきも抑制される。この結果、前記円周方向において黒鉛サイズのばらつきも抑制される。
本発明によれば、鋳造キャビティの円周方向において、溶湯の温度のばらつきを抑制でき、ひいては凝固速度のばらつきを抑制できる。このためディスクロータの円周方向において、摺動特性のばらつき、偏摩耗を抑制できる。
殊に、ディスクロータの外周面側の円周方向において、溶湯の温度のばらつきを抑制でき、ひいては凝固速度のばらつきを抑制できる。このためディスクロータの外周面側の円周方向において、摺動特性のばらつき、偏摩耗を抑制できる。従って、ディスクロータの信頼性を一層向上させることができる。
・堰群を構成する複数の堰は、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面の側において円周方向に間隔を隔てて形成されている。堰の数は2個以上であればよい。しかし堰の数が過剰に増加すると、材料歩留まりが低下するため、ディスクロータのサイズにもよるが、2〜8個、殊に、2〜6個、2〜4個が好ましい。なおディスクロータの外径が増加すると、堰の数は増加する傾向がある。
・堰は、鋳造キャビティの中心を放射方向に通る法線に対して0°越え且つ90°未満の傾斜角度θで傾斜した中心線をもつ。θは10〜85度の範囲、10〜80度の範囲に適宜設定でき、20〜70度の範囲に設定することが好ましく、30〜60度の範囲に設定することが好ましい。θが90°に近いほど、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面の接線方向に沿う構造となる。θが0度に近いほど、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面の接線方向から外れ、溶湯が鋳型の内周成形用鋳型面に直接衝突し易くなる。溶湯は片状黒鉛鋳鉄が好ましいが、いも虫状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄等でもよい。
・堰群のうち湯口からの溶湯流動距離が最も長い(遠い)堰を遠堰とし、湯道を介して遠堰まで流れる溶湯の流れの慣性方向を遠堰用順方向とするとき、遠堰は、遠堰から鋳造キャビティに流入する溶湯を遠堰用順方向に沿って流す向きに傾斜されており、堰群を構成する残りの堰(近堰を含む)は、遠堰から鋳造キャビティに流入する溶湯の流れ方向に沿って溶湯を流す向きに傾斜されている形態が例示される。遠堰は、他の堰に比較して湯口からの溶湯流動距離が最も遠い。このため、遠堰に到達した溶湯は、他の堰に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが低いおそれがある。このような場合、遠堰を通過した溶湯を鋳造キャビティにおいて遠堰用順方向に優先的に流せば、温度および熱エネルギが低い溶湯の湯流れ性を高めることができる。ひいては、低温で熱エネルギの低い溶湯が鋳造キャビティにおいて部分的に滞留化することが抑制される。ひいては鋳造キャビティの外周成形用鋳型面付近の円周方向における溶湯温度のばらつき低減に貢献することができ、更に当該円周方向における凝固速度の局部的なばらつきが抑制され、黒鉛サイズのばらつきが抑制される。
・湯道は、互いに反対方向に溶湯を流す遠堰に繋がる遠堰用湯道と、近堰に繋がる近堰用湯道とを備えている形態が例示される。この場合、堰群のうち湯口からの溶湯流動距離が最も短い(近い)堰を近堰とし、湯道を介して近堰まで流れる溶湯の流れの慣性方向を近堰用順方向とし、近堰用順方向の逆向きの方向を近堰用逆方向とするとき、近堰は、近堰から鋳造キャビティに流入する溶湯を近堰用逆方向に沿って流す向きに傾斜されており、堰群を構成する残りの堰(遠堰を含む)は、近堰から鋳造キャビティに流入する溶湯の流れ方向に沿って溶湯を流す向きに傾斜されている形態が例示される。近堰は、他の堰に比較して湯口からの溶湯流動距離が最も近いため、近堰に到達した溶湯は、他の堰に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが高い可能性がある。このような場合、近堰を通過した溶湯を鋳造キャビティにおいて近堰用順方向ではなく、近堰用逆方向に流せば、温度および熱エネルギが高い溶湯の湯流れ性が過剰に高くなることが抑制される。ひいては、他の堰から鋳造キャビティに流入した低温で熱エネルギの低い溶湯が鋳造キャビティにおいて部分的に滞留化することが抑制される。ひいては鋳造キャビティの外周成形用鋳型面付近の円周方向における溶湯温度のばらつき低減に貢献することができる。更に当該円周方向において、凝固速度の局部的なばらつきが抑制され、黒鉛サイズのばらつきが抑制される。
・堰群のうち遠堰は、法線に対する傾斜角度が最も大きく設定されている形態が例示される。法線に対する傾斜角度が最も大きいことは、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面に対して最も接線に近い形態を意味する。遠堰は、他の堰に比較して湯口からの溶湯流動距離が最も遠いため、遠堰に到達した溶湯は、他の堰に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが低いおそれがある。このような場合、溶湯を鋳造キャビティの外周成形用鋳型面に対して最も接線に近い形態で流入させて、鋳造キャビティにおける湯流れ性を高めることは、低温で熱エネルギの低い溶湯の部分的な滞留化が抑制される。故に、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面付近の円周方向における溶湯温度のばらつき低減に貢献することができる。ひいては当該円周方向において、凝固速度の局部的なばらつきが抑制され、黒鉛サイズのばらつきが一層抑制される。
・また、堰群のうち近堰は、法線に対する傾斜角度が最も大きく設定されている形態が例示される。近堰は、他の堰に比較して湯口からの溶湯流動距離が最も近いため、近堰に到達した溶湯は、他の堰に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが高いことがある。このような場合、温度および熱エネルギが高い溶湯を鋳造キャビティの外周成形用鋳型面に対して最も接線に近い形態で流入させて湯流れ性を高めることは、鋳造キャビティの外周成形用鋳型面における溶湯温度の高温化に貢献でき、円周方向における溶湯温度のばらつき低減に貢献することができる。なお、溶湯の熱エネルギが大きい方が、熱エネルギが小さい場合に比較して、溶湯の凝固速度が緩やかになり、黒鉛のサイズの成長は促進されると推察される。
・鋳型は鋳型本体と鋳型本体に保持されたシェル中子型とを有しており、堰群の堰空間の少なくとも一部はシェル中子型のシェル型面で区画されている形態が例示される。堰の中心線の傾斜角度が大きい場合には、堰を構成する型部分が鋭角化する傾向となる。この場合、鋭角化した型部分が溶湯により損傷され、鋳造不良を発生させるおそれがある。そこで、シェル中子型のシェル型面で堰空間の少なくとも一部を区画すれば、損傷は抑制され、鋳造不良が抑えられる。シェル中子型は熱硬化性樹脂で砂を結合して硬化されているため、溶湯に起因する損傷性または崩壊性は低いからである。
・摺動リング部の肉厚について、摺動リング部の外周面は摺動リング部の内周面よりも大きく設定されている形態が例示される。この場合、鋳造キャビティのうち外周成形用鋳型面付近において、溶湯の熱エネルギが増加する。このため鋳造キャビティのうち外周成形用鋳型面付近における溶湯の局部的な低温化が抑制され、凝固速度の局部的なばらつき低減に貢献でき、黒鉛サイズのばらつき低減に貢献できる。
・鋳型の材質は生砂型、シェルモールド型、セラミックス型、コンクリート型、金型等を例示できる。ディスクロータを構成する鋳鉄の組成は、片状黒鉛、いも虫状黒鉛等の黒鉛を生成するものであれば良い。冷却速度に影響を与える鋳型の材質によるが、例えば、鋳鉄全体を100%とするとき、質量比で、C:2.0〜4.2%、Si:0.8〜6.5%、Mn:0.05〜2.0%、P:0.5%以下、S:0.5%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成が例示される。必要に応じて、他の合金元素を含有することができる。
・各堰は互いに対向する2つの対面壁面で規定されており、2つの対面壁面の延長線の少なくとも一方(好ましくは両方)は、鋳型の内周成形用鋳型面に当たらないように設定されている形態が例示される。各堰から鋳造キャビティに流入する溶湯が鋳型の内周成形用鋳型面に直接衝突することが抑制される。よって、鋳造キャビティの円周方向に沿って溶湯を流動させ易い利点が得られる。このため鋳造キャビティのうち外周成形用鋳型面付近における溶湯の局部的な低温化が抑制され、凝固速度の局部的なばらつき低減に貢献でき、黒鉛サイズのばらつき低減に貢献できる。
以下、本発明の実施例1について図1〜図4を参照して説明する。
本実施例は車両用のディスクロータ1を鋳造する方法を示している。図1に示すように、ディスクロータ1は、中心線P1の回りを1周する摺動リング部2を有する。摺動リング部2は、アウタリング部3と、アウタリング部3に対面するインナリング部4とを備えている。アウタリング部3とインナリング部4との間には、空気が通過する冷却通路10を仕切る羽根部11が形成されている。よってディスクロータ1は、冷却性が高いベンチレーテッドタイプとされている。
アウタリング部3はインナリング部4よりも径方向(矢印D方向)において内側に更に延設されており、取付孔12をもつ取付部13を有する。取付孔12は鋳造成形で形成してもよいし、後加工で形成してもよい。アウタリング部3は、アウタリング部3の外縁を形成する第1外周面31、および、取付部13の内縁を形成する第1内周面32をもつと共に、第1外周面31と第1内周面32との間に平坦状のリング形状をなす第1摺動面33を形成する。インナリング部4は、インナリング部4の外縁を形成する第2外周面41、および、インナリング部4の内縁を形成する第2内周面42をもつ。第2外周面41と第2内周面42との間に平坦状のリング状をなす第2摺動面43を形成する。
制動時には、第1摺動面33は一方の相手材と摩擦摺動すると共に、第2摺動面43は他方の相手材と摩擦摺動する。摺動リング部2は、片状黒鉛を基地組織に分散させた片状黒鉛鋳鉄を基材とする。基地組織はパーライト系、フェライト系、パーライト−フェライト系、オーステナイト系、ベイナイト系等のいずれかが採用される。
図2は、ディスクロータ1を鋳造する鋳型5の半分を鉛直方向に沿って切断した断面を示す。図2に示すように、鋳型5は基本的には生砂型であり、鋳型本体として機能する第1鋳型51と、第1鋳型51に埋設された中子型52(第2鋳型)とを備えている。第1鋳型51は、上型である第1分割型51fと、下型である第2分割型51sとで形成されており、割り面51pは水平方向に沿っている。鋳型5は、アウタリング部3を鋳造成形するリング状をなす第1鋳造キャビティ53と、インナリング部4を鋳造成形するリング状をなす第2鋳造キャビティ54とをもつ。鋳型5においては、アウタリング部3の第1外周面31を成形する第1外周成形用鋳型面531と、インナリング部4の第2外周面41を成形する第2外周成形用鋳型面541とが形成されている。更に、鋳型5には、アウタリング部3の第1内周面32を成形するリング状をなす第1内周成形用鋳型面532と、インナリング部4の第2内周面42を成形するリング状をなす第2内周成形用鋳型面542とが形成されている。
図3は鋳型5の一部を水平方向に沿って切断した断面を示す。図3は鋳型5の一部のみを示す。実際には、量産化のため、図3に示す鋳型部分が4個分一体的に並設されている。図3に示すように、鋳型5は、第1堰61、第2堰62および第3堰63で形成された堰群6と、第1堰61に連通する第1湯道71と、第2堰62に連通する第2湯道72と、第3堰63に連通する第3湯道73と、第1湯道71、第2湯道72および第3湯道73に連通する湯口7とを有する。第1湯道71、第2湯道72、第3湯道73は、第1鋳造キャビティ53の外周に沿って弧状に形成されている。
第1湯道71および第2湯道72は、湯口7から分岐部7mまで合流する共通湯道部を有しており、分岐部7mから分岐されている。図3において、第1湯道71は、第1鋳造キャビティ53,第2鋳造キャビティ54に対して図示反時計方向(矢印R1方向)に向けて延設されており、第1堰61(遠堰)に連通するため、遠堰用湯道である。第2湯道72および第3湯道73は、第1鋳造キャビティ53および第2鋳造キャビティ54に対して図示時計方向(矢印R3方向)に向けて延設されている。図3において、第3湯道73は、第3堰63(近堰)に連通するため遠堰用湯道である。
第1堰61、第2堰62および第3堰63は、第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531の側において、円周方向に一定の間隔を隔てて形成されている。第1堰61は、第1鋳造キャビティ53の中心線P2を放射方向に通る第1法線77に対してθ1(0°越え、90°未満)の傾斜角度で傾斜した第1中心線61aと、第1中心線61aを介して互いに対面する第1対面壁面610とをもつ。第1対面壁面610は、第1湯道71の下流側の下流対面壁面611と、下流対面壁面611よりも上流側の上流対面壁面612とを備えている。下流対面壁面611および上流対面壁面612は、堰空間を介して互いに対向していると共に、第1中心線61aとほぼ平行とされている。
第2堰62は、第1鋳造キャビティ53の中心線P2を放射方向に通る第2法線78に対してθ2(0°越え、90°未満)の傾斜角度で傾斜した第2中心線62aと、第2中心線62aを介して互いに対面する第2対面壁面620とをもつ。第2対面壁面620は、第2湯道72の下流側の下流対面壁面621と、下流対面壁面621よりも上流側の上流対面壁面622とを備えている。下流対面壁面621および上流対面壁面622は、堰空間を介して互いに対面すると共に、第2中心線62aとほぼ平行とされている。
第3堰63は、第1鋳造キャビティ53の中心線P2を放射方向に通る第3法線79に対してθ3(0°越え、90°未満)の傾斜角度で傾斜した第3中心線63aと、第3中心線63aを介して互いに対面する第3対面壁面630とをもつ。第3対面壁面630は、第3湯道73の下流側の下流対面壁面631と、下流対面壁面631よりも上流側の上流対面壁面632とを備えている。下流対面壁面631および上流対面壁面632は、堰空間を介して互いに対面すると共に、第3中心線63aとほぼ平行とされている。
本実施例によれば、基本的には0°<θ1=θ2=θ3<90°の関係、または、0°<θ1≒θ2≒θ3<90°の関係とされている。第1堰61の流路断面積をS1とし、第2堰62の流路断面積をS2とし、第3堰63の流路断面積をS3とすると、基本的にはS1=S2=S3の関係、または、S1≒S2≒S3の関係とされている。なお、第1湯道71、第2湯道72および第3湯道73の流路断面積は、第1堰61、第2堰62および第3堰63から溶湯をできるだけ均等に分配できるように設定されていることが好ましい。但し必要に応じて、S1、S2、S3の大小関係を調整しても良い。
堰群6のうち湯口7からの溶湯流動距離が最も長い(遠い)遠堰は、第1堰61とされる。ここで、第1湯道71を介して遠堰まで流れる溶湯の流れの慣性方向を遠堰用順方向(矢印A1方向)とし、遠堰用順方向に対して逆向きの方向を遠堰用逆方向(矢印A2方向)とする。本実施例によれば、第1堰61(遠堰)から第1鋳造キャビティ53に流入する溶湯を遠堰用順方向(矢印A1方向,矢印A方向)に沿って流す向きに、第1堰61(遠堰)は傾斜されている。堰群6を構成する残りの堰、即ち、第2堰62および第3堰63の傾斜向きは、矢印A方向(遠堰用順方向,矢印A1方向)に沿って溶湯を流す向きとされている。ここで、鋳造キャビティ53における溶湯の流れ方向は、前記遠堰用順方向(矢印A1方向)と同じ向きを示す矢印A方向(図3参照)である。
遠堰である第1堰61は、他の堰である第2堰62および第3堰63に比較して、湯口7からの溶湯流動距離が最も遠い。このため、第1堰61(遠堰)に到達した溶湯は、他の堰(第2堰62および第3堰63)に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが低いおそれがある。このような場合であっても、第1堰61(遠堰)を通過した溶湯を第1鋳造キャビティ53において遠堰用順方向(矢印A1方向)に流せば、温度および熱エネルギが低い溶湯の湯流れ性を優先的に高めることができる。ひいては、低温で熱エネルギの低い溶湯が鋳型5の第1鋳造キャビティ53の円周方向において部分的に滞留化することを抑制できる。ひいては第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531付近の円周方向において、溶湯温度のばらつき低減に貢献することができ、当該円周方向において、凝固速度の局部的なばらつきを抑制でき、黒鉛サイズのばらつきを抑制できる利点が得られる。
換言すると、堰群6のうち湯口7からの溶湯流動距離が最も短い(近い)第3堰63を近堰とし、第3湯道73を介して第3堰63(近堰)まで流れる溶湯の流れの慣性方向を近堰用順方向(矢印B2方向)とし、近堰用順方向の逆向きの方向を近堰用逆方向(矢印B1方向)とすると、第3堰63から第1鋳造キャビティ53に流入する溶湯を近堰用逆方向(矢印B1方向)に沿って流す向きに、第3堰63(近堰)は傾斜されている。
すなわち、堰群6を構成する残りの堰である第1堰61(遠堰)および第2堰62は、第3堰63(近堰)から第1鋳造キャビティ53に流入する溶湯の流れ方向(近堰用逆方向である矢印B1方向,矢印A1方向)に沿って溶湯を流す向きに傾斜されている。
ここで、第3堰63(近堰)は、他の堰である第1堰61および第2堰62に比較して湯口7からの溶湯流動距離が最も近い。このため第3堰63(近堰)に到達した溶湯は、他の堰である第1堰61および第2堰62に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが高い可能性がある。このような場合、第3堰63(近堰)を通過した溶湯を第1鋳造キャビティ53において近堰用順方向(矢印B2方向)ではなく、近堰用逆方向(矢印B1方向)に流せば、他の堰61,62から第1鋳造キャビティ53に流入した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが高い溶湯の湯流れ性が過剰に高くなることを抑制できる。
ひいては、他の堰である第1堰61および第2堰62から第1鋳造キャビティ53に流入した低温で熱エネルギの低い溶湯が第1鋳造キャビティ53の円周方向において部分的に滞留化することを抑制できる。ひいては第1鋳造キャビティ53の円周方向において、溶湯温度のばらつき低減に貢献することができ、凝固速度の局部的なばらつきが抑制され、黒鉛サイズのばらつきを抑制できる。
殊に本実施例によれば、各堰61〜63から鋳造キャビティ53に流入する溶湯は、鋳型5の第1外周成形用鋳型面531に沿って円周方向(矢印A方向)に流れ易くなる。このため、第1外周成形用鋳型面531付近の円周方向において、溶湯温度のばらつき低減に貢献することができ、凝固速度の局部的なばらつきを抑制でき、黒鉛サイズのばらつきを抑制できる。
本実施例によれば、第2鋳造キャビティ54は第1鋳造キャビティ53に連通しつつ同軸的に形成されているため、第2鋳造キャビティ54においても基本的には同様のことが言える。即ち、第2鋳造キャビティ54の第2外周成形用鋳型面541付近の円周方向において、溶湯温度のばらつき低減に貢献することができ、当該円周方向において、凝固速度の局部的なばらつきを抑制でき、黒鉛サイズのばらつきを抑制できる。
以上の説明から理解できるように、鋳型5の湯口7から注湯した溶湯を、第1湯道71,第2湯道72および第3湯道73を介して、第1堰61、第2堰62および第3堰63から各法線61a,62a,63aに対して、0°越え且つ90°未満の傾斜角度θ1,θ2,θ3で第1鋳造キャビティ53内に注入し、ひいては第2鋳造キャビティ54内に注入する。
このため第1堰61(遠堰)、第2堰62および第3堰63(近堰)から第1鋳造キャビティ53に流入した溶湯が第1鋳型51の第1内周成形用鋳型面532に対して径方向から直接衝突することが抑制される。この結果、従来技術において発生していた直接衝突に起因する溶湯の分岐流が抑制される。このため、第1鋳造キャビティ53のうち第1外周成形用鋳型面531付近において、溶湯の温度が局部的に低温の溶湯部分と、局部的に高温の溶湯部分とが存在することを抑制できる。第2鋳造キャビティ54においても同様である。
従って本実施例によれば、第1鋳造キャビティ53のうち第1外周成形用鋳型面531付近の円周方向において、溶湯の温度のばらつきを低減できる。同様に、第2鋳造キャビティ54のうち第2外周成形用鋳型面541付近の円周方向において、溶湯の温度のばらつきを低減できる。この結果、鋳造キャビティ53,54の円周方向において、隣接する堰61,62,63間に対面する部分で凝固する溶湯の温度と、堰61,62,63に直接対面する部分で凝固する溶湯の温度とにおいて、ばらつきを低減できる。ひいては、当該円周方向における凝固速度のばらつきも抑制できる。
この結果、ディスクロータ1について、アウタリング部3の第1外周面31側の円周方向における黒鉛サイズのばらつきを抑制できる。ひいては、当該円周方向における摺動特性のばらつきを抑制できる。故に、第1摺動面33および第2摺動面43について、その円周方向における偏摩耗の抑制に貢献できる。殊に、アウタリング部3の第1外周面31側の円周方向における黒鉛サイズのばらつきを抑制でき、当該円周方向における摺動特性のばらつきを抑制でき、偏摩耗の抑制に貢献できる。同様に、インナリング部4の第2外周面41側の円周方向においても、同様に、黒鉛サイズのばらつき、ひいては当該円周方向における摺動特性のばらつきを抑制できる。従って、ディスクロータ1の信頼性を一層向上させることができる。
図4(A)(B)は、第1鋳造キャビティ53における溶湯の湯流れ凝固について、湯流れ凝固シミュレーションソフト(クオリカ、JSCAST)で解析した結果を示す。図4(A)は従来形態の解析結果を示す。図4(B)は実施例1の解析結果を示す。ここで溶湯の温度の高低の関係として、○>●>△の順である。図4(A)に示す従来形態によれば、θ1=θ2=θ3=0°の関係に設定されている。この従来形態によれば、第1堰61X、第2堰62X、第3堰63Xから第1鋳造キャビティ53に流入する溶湯は、鋳型5Xの第1内周成形用鋳型面532Xに対して径方向から直接衝突する傾向が高くなるため、かかる衝突に基づいて溶湯が衝突箇所から左右に分岐して分岐流M1、M2を形成し、それがほぼ径方向に沿って鋳型5Xの第1外周成形用鋳型面531Xに向かうことになる。このため、この従来形態によれば、ディスクロータ1のアウタリング部3の第1外周面31側において、その円周方向では、溶湯温度が部分的にばらつき、ひいては凝固速度がばらつく傾向がある。これに起因して、アウタリング部3の第1外周面31側の円周方向における黒鉛サイズの差(ばらつき)が大きくなると推察される。
これに対して、図4(B)に示す実施例1によれば、第1堰61(遠堰)、第2堰62、第3堰63(近堰)から第1鋳造キャビティ53に流入する溶湯は、第1外周成形用鋳型面531の円弧の接線に近い方向に沿って流れる傾向があるため、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に対して直接衝突しにくくなる。よって溶湯が左右に分岐して分岐流を形成することを抑制できる。即ち、溶湯は鋳型5の第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531に沿って円周方向に流れ易くなる。このため、実施例1によれば、溶湯が凝固して形成されたディスクロータ1のアウタリング部3の第1外周面31側について、円周方向における溶湯温度のばらつき、凝固温度のばらつきが小さくなり、黒鉛サイズのばらつき(差)が小さくなると推察される。同様に、ディスクロータ1のインナリング部4の第2外周面41側においても、円周方向における黒鉛サイズのばらつき(差)が小さくなると推察される。
本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する図1〜図3を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。本実施例によれば、90°>θ1>θ2>θ3>0°とされている。このように堰群6のうち第1堰61(近堰)の傾斜角度θ1は、θ2およびθ3よりも大きい。これは、第1堰61の第1中心線61aは、第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531,第2鋳造キャビティ54の第2外周成形用鋳型面541に対して、最も接線に近い形態とされていることを意味する。
第1堰61(遠堰)は、他の堰である第2堰62および第3堰63に比較して湯口7からの溶湯流動距離が最も遠い。このため第1堰61(遠堰)に到達した溶湯は、第2堰62および第3堰63に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが低いおそれがある。このような場合、第1堰61の溶湯を第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531の円弧に対して最も接線に近い形態で流入させて湯流れ性を優先的に高める。
このため、低温で熱エネルギの低い溶湯の部分的な滞留化を抑制できる。よって、第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531付近の円周方向における溶湯温度のばらつきを低減できる。更に、第2鋳造キャビティ54の第2外周成形用鋳型面541付近の円周方向における溶湯温度のばらつきを低減できる。ひいては当該円周方向において、凝固速度の局部的なばらつきを抑制でき、黒鉛サイズのばらつきを抑制できる。
本実施例は実施例2と基本的には同様の構成および作用効果を有するため、図1〜図3を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。90°>θ1>θ2≒θ3>0°とされている。
本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有するため、図1〜図3を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。堰群6のうち第3堰63(近堰)の傾斜角度θ3は、θ1およびθ2よりも大きい(θ3>θ1≒θ2)。ここで、第3堰63(近堰)は、他の堰である第1堰61および第2堰62に比較して湯口7からの溶湯流動距離が最も近い。このため、第3堰63(近堰)に到達した溶湯は、第1堰61および第2堰62に到達した溶湯に比較して、温度および熱エネルギが高いことが多い。このような場合、温度および熱エネルギが高い溶湯を第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531に対して最も接線に近い形態で流入させて優先的に湯流れ性を高めれば、第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531、第2鋳造キャビティ54の第2外周成形用鋳型面541付近の円周方向における溶湯温度の高温化に貢献でき、溶湯温度のばらつき低減に貢献することを期待できる。なお、第1鋳造キャビティ53,第2鋳造キャビティ54に注入される溶湯の熱エネルギが大きい方が、熱エネルギが小さい場合に比較して、溶湯の凝固速度が緩やかになり、黒鉛のサイズの成長は促進されると推察される。
本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。但し、図示はしないものの、鋳型には、第1堰、第2堰、第3堰の他に、第4堰(法線に対する傾斜角度θ4)がそれぞれ一定の間隔を隔てて形成されている。基本的には、90°>θ1=θ2=θ3=θ4>0°の関係、または、90°>θ1≒θ2≒θ3≒θ4>0°の関係とされている。
図5は実施例6を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図5に示すように、鋳型5は、アウタリング部3を鋳造成形するリング状をなす第1鋳造キャビティ53と、インナリング部4を鋳造成形するリング状をなす第2鋳造キャビティ54とをもつ。更に鋳型5には、アウタリング部3の第1外周面31を成形する第1外周成形用鋳型面531と、インナリング部4の第2外周面41を成形する第2外周成形用鋳型面541とが形成されている。また鋳型5には、インナリング部4の第2内周面42を成形する第2内周成形用鋳型面542とが形成されている。
2つの第2鋳造キャビティ54は、互いに接近しつつ上下方向において並設されており、互いに対向する。更に、第1鋳造キャビティ53は第2鋳造キャビティ54の上側および下側に形成されている。第1堰61の堰空間は、シェル中子型58のシェル型面で区画されている。第2堰62の堰空間、第3堰63の堰空間も同様に、シェル中子型58のシェル型面で区画されている。
従来形態のように傾斜角度θ1,θ2,θ3が0°に設定されていれば、第1堰61を構成する型部分、第2堰62を構成する型部分、第3堰63を構成する型部分が鋭角化せず、溶湯に対して強度を有し易い。これに対して、傾斜角度θ1,θ2,θ3が0°を越え且つ90°よりも小さい角度(例えばθ1,θ2,θ3が20〜70°)であれば、注湯凝固工程において、鋭角化した型部分が溶湯との接触に起因して損傷するおそれがある。そこで本実施例によれば、シェル中子型58のシェル型面で、第1堰61の堰空間、第2堰62の堰空間、第3堰63の堰空間を区画する。これにより損傷を抑制できる。シェル中子型58は熱硬化性樹脂で砂粒子を結合して硬化されているため、シェル中子型58の型面としては、生砂型である第1鋳型51の鋳型面よりも損傷性および崩壊性が低いからである。シェル中子型58は型部分58a,58b,58cをもつ。
図6は実施例7を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。鋳型5は、第1鋳型51と、第1鋳型51に保持された第1シェル中子型58f、第2シェル中子型58s、第3シェル中子型58tとを有する。
第1シェル中子型58fの型面は、第1堰61の堰空間を形成している。第2シェル中子型58sの型面は、第2堰62の堰空間を形成している。第3シェル中子型58tの型面は、第3堰63の堰空間を形成している。第1シェル中子型58f〜第3シェル中子型58tは、熱硬化性樹脂で砂粒子を結合して硬化されているため、シェル型面は、溶湯と接触しても第1鋳型51の鋳型面よりも損傷性は低い。従って、θ1,θ2,θ3を90°に近づくよう大きくするとき、第1堰61を構成する型部分、第2堰62を構成する型部分、第3堰63を構成する型部分が鋭角化したとしても、その部分の強度が確保され易い。故に、溶湯の堰流入速度を速くすることができる。
図7は実施例8を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有するため、図1〜図3を準用する。以下、相違する部分を中心として説明する。摺動リング部2の肉厚について、摺動リング部2の外周面の肉厚は摺動リング部2の内周面の肉厚よりも大きく設定されている。すなわち、アウタリング部3の第1外周面31の肉厚t1pは、アウタリング部3の第1内周面32側の肉厚t1iよりも大きく設定されている(t1p>t1i)。またインナリング部4の第2外周面41の肉厚t2pは、インナリング部4の第2内周面42の肉厚t2iよりも大きく設定されている(t2p>t2i)。冷却通路10は、径外方向に向かうにつれて通路幅が小さくなる傾斜状の内壁面101、102で形成されている。第1摺動面33および第2摺動面43は互いに平行とされている。
本実施例によれば、t1p>t1iの関係とされているため、第1鋳造キャビティ53において、アウタリング部3の第1外周面31を形成する第1外周成形用鋳型面531付近で溶湯が更に流れ易くなる。同様に、t2p>t2iの関係とされているため、第2鋳造キャビティ54において、インナリング部4の第2外周面41を形成する第2外周成形用鋳型面541付近で溶湯が更に流れ易くなる。ひいては、第1外周成形用鋳型面531付近、第2外周成形用鋳型面541付近の円周方向において、溶湯温度のばらつきを低減でき、凝固速度のばらつきを抑制でき、黒鉛サイズのばらつきを抑制できる。
本実施例によれば、第1鋳造キャビティ53、第2鋳造キャビティ54のうち、第1外周成形用鋳型面531付近、第2外周成形用鋳型面541付近において溶湯が更に流れ易くなるため、当該付近における溶湯の熱エネルギが増加する。よってアウタリング部3の第1外周面31、インナリング部4の第2外周面41側において、黒鉛の長さが成長し易くなる。このため、黒鉛による固体潤滑性、振動減衰性の増加が期待でき、ディスクロータ1の信頼性を更に高めるのに貢献できる。
図8は実施例9を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図8に示すように、摺動リング部2の肉厚について、摺動リング部2の外周面の肉厚は、摺動リング部2の内周面の肉厚よりも大きく設定されている。すなわち、アウタリング部3の第1外周面31の肉厚t1pは、アウタリング部3の第1内周面側の肉厚t1iよりも大きく設定されている(t1p>t1i)。またインナリング部4の第2外周面41の肉厚t2pは、インナリング部4の第2内周面42の肉厚t2iよりも大きく設定されている(t2p>t2i)。冷却通路10は、径外方向に向かうにつれて通路幅が小さくなるように段部103を有する内壁面101、102で形成されている。
図9は実施例10を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図9に示すように、摺動リング部2はソリッド型とされており、冷却通路を有しない。
図10は実施例11を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様の構成および作用効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図10に示すように、第1堰61(遠堰)を構成する第1対面壁面610は、互いに対向する下流対面壁面611および上流対面壁面612を備えている。上流対面壁面612(鋳造キャビティ53の溶湯の流れ方向である矢印A方向において第1法線77よりも上流側)は、下流対面壁面611よりも傾斜角度が大きく設定され、第1外周成形用鋳型面531の接線の向きに近づくようにされている。従って上流対面壁面612の延長線612mは、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に当たらないように設定されている。勿論、下流対面壁面611の延長線611mも、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に当たらないように設定されている。
第2堰62を構成する第2対面壁面620は、互いに対向する下流対面壁面621および上流対面壁面622を備えている。下流対面壁面621(鋳造キャビティ53の溶湯の流れ方向である矢印A方向において第2法線78よりも上流側)は、上流対面壁面622よりも傾斜角度が大きく設定され、第1外周成形用鋳型面531の接線の向きに近づくようにされている。従って下流対面壁面621の延長線621mは、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に当たらないように設定されている。勿論、上流対面壁面622の延長線622mも、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に当たらないように設定されている。
第3堰63(近堰)を構成する第3対面壁面630は、互いに対向する下流対面壁面631および上流対面壁面632を備えている。下流対面壁面631は(鋳造キャビティ53の溶湯の流れ方向である矢印A方向において第3法線79よりも上流側)、上流対面壁面632よりも傾斜角度が大きく設定され、第1外周成形用鋳型面531の接線に近づくようにされている。従って下流対面壁面631の延長線631mは、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に当たらないように設定されている。勿論、上流対面壁面632の延長線632mも、鋳型5の第1内周成形用鋳型面532に当たらないように設定されている。
このような本実施例によれば、溶湯が接線方向に沿って流れ易くなるため、第1内周成形用鋳型面532に径方向から直接衝突する確率が更に低下される。よって、溶湯を鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531に沿って円周方向に流し易くなる。このため低温の溶湯が第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531において部分的に滞留することを更に抑制できる。なお、堰の鋭角化した部分をシェル中子型の型面で形成することも好ましい。
上記した従来形態および実施例1に基づいて、ディスクロータ1を実際に鋳造で成形した。ディスクロータ1のアウタリング部3については、外径サイズは305ミリメートルとし、平均肉厚は9ミリメートルとした。インナリング部4については、外径サイズは305ミリメートルとし、内径サイズは168ミリメートルとし、平均肉厚は9ミリメートルとした。溶湯組成はFC150相当で、質量比で、C:3.55%、Si:2.15%、Mn:0.58%、P:0.035%、S:0.090%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものを用いた。
このディスクロータ1について、円周方向における平均黒鉛長さの差(ばらつき)を求めた。この場合、画像処理装置を用い、顕微鏡組織を画像処理し、その平均黒鉛長さの差をソフトウェア処理した。画像処理装置は、鋳鉄組織解析用画像処理装置(”OTG−502キャンパス” 大阪特殊金合金株式会社)を用いた。黒鉛長さについては、片状黒鉛の長さ方向の一端と他端との直線距離として測定した。従来形態および実施例1において、サイズを同一、厚みを同一、組成を同一、鋳型5の材質、鋳鉄組成を同一、注湯条件を同一とした。但し、従来形態ではθ1=θ2=θ3=0°に設定した。実施例1ではθ1=θ2=θ3=60°に設定した。
図11はディスクロータ1のアウタリング部3についての試験結果(n=10)を示す。図12はディスクロータ1のインナリング部4についての試験結果(n=10)を示す。図11において、横軸は、アウタリング部3の外周である第1外周面31から径方向に沿って第1内周面32に向かう距離を示し、縦軸は円周方向における平均黒鉛長さの差ΔLを示す。差ΔLは、円周方向における平均黒鉛長さのばらつきを意味する。図12において、横軸は、インナリング部4の外周である第2外周面41から径方向に沿って第2内周面42に向かう距離を示し、縦軸は円周方向における平均黒鉛長さの差ΔLを示す。
図11および図12において、◆印は従来方案を採用する従来形態の場合における黒鉛長さの差ΔL(ばらつき)を示し、■印は実施方案を採用する実施例1の場合における黒鉛長さの差ΔL(ばらつき)を示す。図11に示すように、ディスクロータ1のアウタリング部3については、従来形態によれば、第1外周面31側では差ΔLはかなり大きかったが、実施例1によれば、第1外周面31側では差ΔLは小さくなっていた。また、図12に示すように、ディスクロータ1のインナリング部4については、第2外周面41側において、差ΔLは、従来形態よりも実施例1の方が小さくなっていた。
図11に示すように、堰群6が形成される側のアウタリング部3については、従来形態に対して実施例1では、差ΔLを顕著に小さくでき、優れた効果を示す。堰群6が形成されない側のインナリング部4については、従来形態に対して実施例1では、差ΔLを小さくできるものの、あまり顕著ではなかった。なお図1において、ディスクロータ1の第1外周面31および第2外周面41から示されている『2,4,6,8,10,22』の数字は、第1外周面31および第2外周面41から径方向に沿って内周側に変位する距離[ミリメートル]を示す。
更に、基本的には同様な条件でディスクロータ1を鋳造で形成した。試験結果を図13〜図15に示す。図13〜図15はディスクロータ1のアウタリング部3についての試験結果(n=8)を示す。図13はθ1=θ2=θ3=30°の場合の試験結果を示す。図14はθ1=θ2=θ3=60°の場合の試験結果(n=8)を示す。図15はθ1=θ2=θ3=0°の場合の試験結果(n=8)を示す。縦軸および横軸は前述した通りである。
図15に示すように、θ1=θ2=θ3=0°の場合には、差ΔLは大きい。図13,図14に示すように、θ1=θ2=θ3=30°の場合や、θ1=θ2=θ3=60°の場合、従来形態に比較して、差ΔLは小さい。殊に、θ1=θ2=θ3=30°の場合に比較して、θ1=θ2=θ3=60°の場合には、差ΔLは小さくなる。その理由としては次のように推察される。即ち、法線に対する堰61,62,63の傾斜角度が大きい方が、第1鋳造キャビティ53に対して接線に近い方向で溶湯が注入される。このため第1鋳造キャビティ53の第1外周成形用鋳型面531付近の円周方向における溶湯温度のばらつき低減、更には、第2鋳造キャビティ54の第2外周成形用鋳型面541付近の円周方向における溶湯温度のばらつき低減に貢献することができる。ひいては当該円周方向における凝固速度の局部的なばらつきを抑制でき、当該円周方向における黒鉛サイズのばらつきを抑制できるためと推察される。
(その他)
上記した実施例1によれば、第1堰61、第2堰62および第3堰63は、第1鋳造キャビティ53(アウタリング部3を形成するキャビティ)の第1外周成形用鋳型面531の側において形成されているが、これに限らず、インナリング部4を成形する第2鋳造キャビティ54の第2外周成形用鋳型面541の側において円周方向に所定の間隔を隔てて形成されていてもよい。90°>θ2>θ3>θ1>0°とされていても良い。90°>θ1>θ3>θ2>0°とされていても良い。
上記した記載から次の技術的思想も把握される。
[付記項1]外周面および内周面をもつと共に前記外周面と前記内周面との間に摺動面を形成するリング部を有する黒鉛含有鋳鉄製の回転体を鋳造する回転体鋳造方法であって、前記摺動リング部を鋳造成形するリング状をなす鋳造キャビティと、前記摺動リング部の前記外周面を成形する外周成形用鋳型面と、前記リング部の内周面を成形する内周成形用鋳型面と、前記外周成形用鋳型面の側において円周方向に間隔を隔てて形成され前記鋳造キャビティの中心を放射方向に通る法線に対して0°越え且つ90°未満の傾斜角度で傾斜した中心線をもつ複数の堰で形成された堰群と、前記堰群を構成する各前記堰に連通する湯道と、前記湯道に連通する湯口とを備える鋳型を準備する準備工程と、前記鋳型の前記湯口から注湯した前記溶湯を前記堰群の各前記堰から前記法線に対して0°越え90°未満の傾斜角度で前記鋳造キャビティ内に注入して凝固させる注湯凝固工程とを順に実施することを特徴とする鋳鉄回転体鋳造方法。鋳鉄回転体としては、ブレーキドラム、フライホィール等が例示される。
本発明は車両または産業機器などに使用されるディスクロータの鋳造方法に利用できる。
ディスクロータを示す断面図である。
ディスクロータを鋳造する第1鋳造キャビティおよび第2鋳造キャビティを有する鋳型の半分を垂直方向に沿って切断して示す断面図である。
ディスクロータを鋳造する鋳造キャビティのうち第1鋳造キャビティを水平方向に切断して示す断面図である。
(A)はディスクロータを鋳造する鋳造キャビティのうち第1鋳造キャビティに沿って水平方向に切断して示す従来形態に係る断面図であり、(B)はディスクロータを鋳造する鋳造キャビティのうち第1鋳造キャビティに沿って水平方向に切断して示す実施例1に係る断面図である。
実施例6に係り、ディスクロータを鋳造する第1鋳造キャビティおよび第2鋳造キャビティを有する鋳型を垂直方向に沿って切断して示す部分断面図である。
実施例7に係り、ディスクロータを鋳造する鋳造キャビティのうち第1鋳造キャビティを水平方向に切断して示す断面図である。
実施例8に係り、ディスクロータの外周側を切断して示す部分断面図である。
実施例9に係り、ディスクロータの外周側を切断して示す部分断面図である。
実施例10に係り、ディスクロータの外周側を切断して示す部分断面図である。
実施例11に係り、ディスクロータを鋳造する鋳造キャビティのうち第1鋳造キャビティを水平方向に切断して示す断面図である。
ディスクロータのアウタリング部についての試験結果を示すグラフである。
ディスクロータのインナリング部についての試験結果を示すグラフである。
θ1,θ2,θ3が30°で鋳造したときにおけるディスクロータについての試験結果を示すグラフである。
θ1,θ2,θ3が60°で鋳造したときにおけるディスクロータについての試験結果を示すグラフである。
θ1,θ2,θ3が0°で鋳造したときにおける従来形態に係るディスクロータについての試験結果を示すグラフである。
従来形態に係り、ディスクロータを鋳造する鋳造キャビティのうち第1鋳造キャビティに沿って水平方向に切断して示す断面図である。
1はディスクロータ、2は摺動リング部、3はアウタリング部、4はインナリング部、31はアウタリング部の第1外周面、32はアウタリング部の第1内周面、4はインナリング部、41はインナリング部の第2外周面、42はインナリング部の第2内周面、5は鋳型、51は第1鋳型(鋳型本体)、52は中子型、53は第1鋳造キャビティ、54は第2鋳造キャビティ、531は第1外周成形用鋳型面、532は第2外周成形用鋳型面、541は第2外周成形用鋳型面、542は第2外周成形用鋳型面、6は堰群、61は第1堰(遠堰)、62は第2堰、63は第3堰(近堰)を示す。