本発明は、複数の加入者接続装置が光伝送回線を共有する受動光網PON(Passive Optical Network)システムに関する。
光アクセスシステムとして、局側に配置されるOLT(Optical Line Terminal)と加入者の側に配置されるONU(Optical Network Unit)の間を光スプリッタ等の光信号の合分波を受動的に行う機器により1対n(nは2以上の整数)で接続するPONが知られている。複数のONUはそれぞれ加入者の端末(例えばPC等)に接続されており、端末からの電気信号を光信号に変換してOLTへ向けて送信する。複数のONUからの光信号を受信した光スプリッタは、それら光信号を光学(時分割)多重してOLTに送信する。逆に、OLTからの光信号は光スプリッタにより複数の光信号に分岐されて複数のONUへ向けて送信され、各ONUは送信された信号の中から自分宛の信号を選択的に受信して処理する。
上述のように複数のONUからOLTへ向けて送信される上り光信号は光スプリッタにより時分割多重される。OLTは複数のONUからの光信号が衝突しないようにそれぞれのONUに対して光信号の送信タイミングを決定・通知し、各ONUは通知されたタイミングにて光信号を順次送信する。各ONUは非特許文献1の8章および9章に規定されるように例えば光ファイバ長0〜20km、20km〜40kmないし40km〜60kmの範囲の中に任意に設置されるため、OLTと各ONUとの間の距離つまり光ファイバ長は必ずしも等しくなく、各ONUからOLTへ向けて送信される光信号の伝送遅延時間も異なる。よってOLTは各ONUの距離の違いから生じる光信号の送信遅延時間を考慮して光信号の送信タイミングを決定する必要がある。
これを実現するためOLTは非特許文献2の第10章に記載されたレンジングという技術を用いており、これによりOLTは各ONUがあたかも等距離に設置されたかのようにそれぞれのONUの送信タイミングを調整して、複数のONUからの光信号が光ファイバ上で互いに干渉しないようにしている。つまりOLTは全てのONUが等しく同じ距離だけ離れていると仮定して、各ONUが光信号を送信するタイミングを決定・通知し、さらにOLTは当該仮定した距離と各ONUが実際に設置されている距離との差分から生じる光信号の遅延時間を各ONUに通知し、各ONUはOLTから通知された送信タイミングから、通知された遅延時間だけ遅れたタイミングで光信号を送信する。
レンジングでは、OLTがONUに対して距離測定用の信号を送信するよう要求する。ONUが距離測定フレームを返すとOLTはその信号を受信し、距離測定用の信号の送信要求から距離測定用の信号受信までの時間、すなわち往復遅延時間を測定して、ONUがOLTからどれだけ離れているかを知る。続いてOLTは全てのONUを等距離に見せるため、各ONUに対して等化遅延量(EqD:Equalization Delay)と呼ばれる時間だけ送信を遅延させるように指示を送る。例えば全てのONUが20kmの往復遅延時間を持つようにするには、“(20kmの往復遅延時間)−(測定された往復遅延時間)”に等しい等化遅延量をONUに指示する。ONUは、指示された等化遅延量だけ固定的に遅延させてデータを送信する回路を備えており、上記指示により、全てのONUが20kmの往復遅延時間を持つように上りデータ送信が行われる。
また、非特許文献3の64章で規定されるイーサネット(登録商標)PONシステムでは、上記距離測定は行われるものの等化遅延量という指示は存在しない。代わりに、距離測定後にOLTがONUにグラントを送る場合には、測定された往復遅延時間に基づいてグラントのStart値を補正している。
ITU−T勧告G.984.1
ITU−T勧告G.984.3
IEEE802.3規格
レンジングにおいて、OLTが送信する距離測定用の信号は複数のONUに受信され、この信号を受信した各ONUはその信号に対する応答信号をOLTへ送信する。この時点での各ONUからの応答信号がOLTに到達するタイミングは調整されていないため、OLTは短い時間に多数の応答信号を受信する可能性がある。これを防ぐためOLTでは、距離測定用の信号をONUへ送信した後ある一定の時間、最初に受信した応答信号以外の応答信号を受信しないようにする、無信号領域(レンジング窓)を設けている。
このようにOLTは距離測定用の信号を送信し、ONU1台毎にそのONUの等化遅延時間を算出するため、1台のONUのレンジング中は他のONUはOLTに対して光信号を送信することができない。このため、例えば光ファイバ長0〜60kmの範囲に位置するONUのレンジングを行うには、60kmの往復遅延時間に相当する600マイクロ秒の長さの無信号領域(レンジング窓)が必要である。上述のように距離測定は1つのレンジング窓にて1台のONUに対して行われるため、例えば128台のONUの距離測定には、128倍である延べ76.8ミリ秒の無信号領域が必要である。さらに、システムの安定性を考慮すると、距離測定は複数回の平均をとることが望ましく、例えば4回の距離測定結果の平均を使用してレンジングを行うと、ユーザが利用できない帯域はさらに4倍になり、延べ307.2ミリ秒の無信号領域が必要である。
このレンジング窓による信号帯域の欠損を抑えるためには、レンジングを実施する間隔を広げ、失われる上り帯域を十分小さくすれば良い。例えば上記の例で、レンジング間隔を30秒とすれば、延べ307.2ミリ秒の無信号領域の占める割合は1%程度となり、十分無視できる。しかしながら、この場合、全ONUの一斉起動に30秒を要するという新たな問題が発生する。通信サービスの重要性を鑑みると、一時的な障害に起因するサービス断時間を極力小さく抑えるため、全ONUの一斉起動時間は十分小さい値、例えば1秒が望ましい。
本発明の目的は、帯域を有効利用しつつ、かつ短時間で100台ないしそれ以上のONUの起動を可能とするOLT、ONU、PONシステムを提供することにある。
低い帯域欠損と短い起動時間を両立させるためには、1つのレンジング窓内で複数のONUの距離測定を可能とすれば良い。
上記課題は、OLTが複数の距離測定回路を備え、該レンジング窓領域の1区間内において該複数のONUから送信される複数の距離測定信号を受信して、距離測定信号を受信した直後にデリミタ検出回路を有効化し、自動しきい値回路のリセットを行う方法により実現される。
また、別の手段として、OLTはレンジング窓内で上りレンジングレスポンスの有無にかかわらずATCリセットパルスを周期的に複数回発生させ、ONUはレンジングリクエストを受信すると上記周期の整数倍とは異なる間隔で複数のレンジングレスポンスを送信する。複数のレンジングレスポンスを送信することにより、少なくとも1つの信号はATCリセットパルスと衝突せず、距離測定を成功させることができる。
本発明により、帯域を有効利用しつつ、かつ短時間で100台ないしそれ以上のONUの起動を1秒以内に可能とする光アクセスシステムが提供できる。
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
図1に本発明が適用される光アクセス網の構成を示す。PON10は光スプリッタ100、通信事業者等の局舎に設置される局側装置であるOLT200、OLT200と光スプリッタを接続する幹線ファイバ110、それぞれの加入者宅内やその近くに設置される加入者側装置である複数のONU300、光スプリッタ100と複数のONU300をそれぞれ接続する複数の支線ファイバ120から構成される。OLT200は、幹線ファイバ110、光スプリッタ100および支線ファイバ120を介して、たとえば32台のONU300と接続可能である。また、複数のONU300にはそれぞれ、電話400やパーソナルコンピュータ410等のユーザ端末が接続される。PON10はOLT200を介してPSTN(Public Switched Telephone Networks)やインターネット20に接続されて、外部のネットワークとの間でデータを送受信する。
図1には5台のONUが図示されており、それぞれOLT200からのファイバ長が異なる。図1では、ONU300−1はOLT200からのファイバ長が1km、ONU300−2はOLT200からのファイバ長が10km、ONU300−3はOLT200からのファイバ長が20km、ONU300−4はOLT200からのファイバ長が10km、ONU300−nはOLT200からのファイバ長が15kmである。OLT200からONU300の下り方向に伝送される信号130にはそれぞれのONU300宛の信号が時分割多重されている。各ONU300は信号130を受信して、自分宛の信号であるか否かを判定し、さらに自分宛の信号であった場合には信号のあて先に基づいて、電話400やパーソナルコンピュータ410に信号を配信する。
また、ONU300からOLT200の上り方向では、ONU300−1から伝送される信号150−1、ONU300−2から伝送される信号150−2、ONU300−3から伝送される信号150−3、ONU300−4から伝送される信号150−4.ONU300−nから伝送される信号150−nは、光スプリッタ100を通った後に時分割多重されて信号140となりOLT200に到達する。OLT200は、どのタイミングにどのONUからの信号を受信するかがあらかじめ分かっているため、受信したタイミングに応じて各ONUからの信号を識別し、処理を行う。
図2にOLT200から各ONU300へ送信される下りPON信号フレームの例を示す。下りフレームはフレーム同期パタン201、PLOAM領域202、グラント指示領域203、フレームペイロード204から構成される。グラント指示領域203は、は同勧告8.1.3.6章に示すUS Bandwidth MAPと呼ばれる領域に対応し、OLTはこの領域を用いて各ONUの上り送信許可タイミングを指定する。US Bandwidth MAP領域は送信許可の開始を指定するStart値と終了を指定するEnd値を備えており、それぞれバイト単位の指定が行われる。この値を、送信を許可するという意味でグラント値とも呼ぶ。
なお、個々のONUにはT−CONT(Trail CONTainer)と呼ばれる複数の帯域割り当て単位が割り付け可能であり、上記上り送信許可タイミングの指定はT−CONT毎に行われる。グラント指示領域203には、T−CONTごとに、光信号の送信を開始するタイミングを表わすstart値と、光信号の送信を終了するタイミングを表わすEnd値が格納される。T−CONTとはDBAにおける帯域の割当単位であり、例えばONUが複数の送信バッファを有する場合にはそれぞれのバッファにT−CONTの識別情報であるT−CONT IDを付与して、OLTからバッファ毎に制御することも可能である。
後述する図13におけるranging timeメッセージはPLOAM領域202に格納され、ranging request信号310―1や、各ONUにどのタイミングで光信号の送信を開始するかの情報を含むgrant、request report信号320はグラント指示領域203に格納される。フレームペイロード204には、OLT200からONU300へ向かうユーザ信号等が格納される。詳細はITU−T勧告G.984.3に記載されている。
図3にONUからOLTへ送信される上りPON信号フレームの実施例を示す。ONU300−1からの上り信号150−1は、プリアンブル領域301、デリミタ領域302、PLOAM領域303、キュー長領域304、フレームペイロード305より構成される。上記Start値は、PLOAM領域303の開始位置を指示しており、End値313はフレームペイロード305の終了位置を示している。各上り信号の直前には前のバースト信号との衝突防止のためにガードタイムが設定される。上述のEnd値と次のStart値の差は、上り無信号領域でありガードタイムに対応する。つまり、上り信号のフレームペイロード305の終了位置から次の上り信号のプリアンブル領域301の開始位置までがガードタイムに相当する。なお、本実施例ではデリミタ領域の信号を検知することで、デリミタ領域以降のデータが新たなデータであると識別する。つまり、デリミタ領域は信号と信号の区切りを識別するための情報として用いられる。
図4に本発明によるOLT200の構成例を示す。ONU送受信部401はONU300との間で光信号を送受信するものであり、光信号受信処理部403によりONUから受信した光信号を電気信号に変換し、光信号送信処理部404により装置内の電気信号を光信号に送信してONUへ送信する等の処理を行う。網送受信部402はPSTNやインターネット20等の、より上位のネットワークとの間で信号の送受信を行う。制御部409は、入出力する信号に対してPONのプロトコルに従った処理等を行う。受信信号処理部405は、光信号受信処理部403から受信した電気信号をPONのフレームに切り分ける等の処理を行う。レンジング処理部405は後述するレンジング処理を行う。送信許可部407は、DBA処理により各ONUに割り当てた通信帯域の値から、各ONUのStart値やEnd値を設定し、これら値を各ONUに通知する。送信信号処理部408は、各ONUに送信するPONフレームを生成する。
図14にOLT200のハードウェア構成の一例を示す。OLT200は装置全体の動作を管理する制御ボード1400と、それぞれネットワークに接続されて信号の送受信を行う複数のネットワークインタフェースボー1440、1450、1460を有する。制御ボード1400はメモリ1410やCPU1420を有し、HUB1430を介して各ネットワークインタフェースボードを制御する。各ネットワークインタフェースボードはONU送受信部401や網送受信部402、ONUとインターネットやPSTNとの間における信号の送受信に必要な処理を行うCPU1470やメモリ1480を有する。本実施例における各種処理は、例えばメモリ1480に格納されたプログラムをCPU1470が実行するなどして機能する。もしくは、必要に応じて各処理に特化した専用のハードウェア(LSI等)を用意し、これにより処理を実行しても良い。なお、OLTのハードウェア構成はこれに限られることなく、適宜必要に応じて様々な実装が行われて良い。
図13に本実施例の光アクセス網におけるレンジング信号を示す。OLT200はONU300−1に向けてranging request信号310―1を送信する。ONU300−1は、ranging request信号310―1を受信後、決められた一定時間後にranging response信号311―1を送信する。OLT200は、ranging request信号310―1の送信タイミングとranging response信号311―1の受信タイミングの差からONU300−1までの距離を判定する。続いてOLT200は、ranging timeメッセージ312−1を送信し、ONU300−1に対して等化遅延量330−1を設定する。この等化遅延量330−1の働きにより、ONU300−1は物理的な設置位置にかかわらず、OLT200からの距離があたかも20kmであるように調整されている。以下、同様にONU300−2、ONU300−3の距離測定が行われる。
この後、OLT200は、grantおよびrequest report信号320を送信することで、ONU300−1、ONU300−2、ONU300−3に対して、上り送信許可を与えると共に送信要求量を通知するよう要求する。この信号に対応して、ONU300−1はユーザデータおよびレポート321−1を送信する。レポートには、ONU300−1内で送信を待っている上り信号の量がバイト数で表示されOLT200に通知される。ユーザデータおよびレポート321−1の送信は、ユーザデータおよびレポート321−1を受信後に、グラントによる指示タイミング331−1から等化遅延量330−1だけ遅延したタイミングで実施される。ONU300−2、ONU300−3の送信制御も同様であり、この動作によって、OLT200が上り信号を受信する時には、ONU300−1からのユーザデータおよびレポート321−1、ONU300−2からのユーザデータおよびレポート321−2、ONU300−3からのユーザデータおよびレポート321−3は、互いに衝突せずかつ大きく離れることもなく、効率的に整列させられてOLT200により受信される。このようにONU300−1、ONU300−2、ONU300−3のそれぞれの送信要求に基づき、上り送信許可の量を変えることにより、動的帯域割当(DBA)を実施する。
1つのレンジング窓内で複数のONUの距離測定を実施する場合、ITU−T勧告G.984.3にて規定される上りバースト信号に許容される同期用プリアンブル信号の長さは数バイトに過ぎないため、このような短いプリアンブルで上り信号の識別しきい値およびクロックの引き込みを行うには、事前に知られたタイミングにより受信器にリセットをかける操作が不可欠である。実際、ONU起動後の定常状態では、上りバースト信号の到着時間はOLTの指定で制御されるため、上記受信器にリセットをかけることは容易である。しかしながらレンジング過程では、OLTとONUの間の距離に応じて距離測定信号の到着時間が異なるため、事前に知られたタイミングにより受信器にリセットをかけることができない。数100バイトの長いプリアンブルが許容されるIEEE802.3ah規定のイーサネット(登録商標)PONであれば、高速に追従するAGCを用いてリセットを用いない信号受信が可能であるが、G.984.3にて規定される短いプリアンブルにて複数のバースト信号の距離測定を1つのレンジング窓内で行う方法は提案されていない。本実施例ではこれを実現するため、OLTのレンジング処理に改良を加える。
図5を用いて、本実施例におけるOLT200のレンジング処理に関係する機能ブロックの詳細について説明する。幹線ファイバ110から受信された光信号はO/E変換部501にて電気信号に変換され、ATC(Automatic Threshold Control)503にて適切なしきい値による0値または1値の識別が行われる。その後、クロック抽出およびリタイミングが行われ、デリミタ検出部504が図3に示すデリミタ領域302を検出して上り信号の切れ目を識別する。PONフレーム分解部505は、図3にて説明した上りPONフレームを分解し、キュー長領域304に格納されたキュー長レポートをグラント生成部509に送る。また、距離測定部507は、図13にて説明したレンジング動作における距離測定を実施し、各ONU毎の等化遅延量を算出する。グラント生成部509は、PONフレーム分解部からのキュー長レポートを用いてDBA処理を行ない、各ONUに割り当てる通信帯域を決定し、Start値およびEnd値を生成する。また、このStart値およびEnd値はリセットタイミング生成部506に渡されてATC208のリセットにも用いられる。PONフレーム生成部510は、図2にて説明したPON下りフレーム信号フォーマットに基づき、グラント生成部509からの信号をグラント指示領域203に格納して送信する。また、距離測定部507が算出した等化遅延量も、PONフレーム生成部510によりRaiging time メッセージのフォーマットの中に格納され、各ONUへ向けて送信される。ドライバ511はPONフレーム生成部510からの電気信号を電圧から電流に変換し、E/O部変換部502は電流信号を光信号に変換して幹線ファイバ110に送信する。
図6に本発明におけるOLTの光信号受信部分の構成例を示す。O/E変換部501内では高電圧バイアス源601に接続されたAPD(Avalanche Photo Diode)は高電圧で逆バイアスされて、受信光信号をアバランシェ効果により増幅して電流に変換する。変換された電流は抵抗604と増幅器605から構成されるTIA(Trans Impedance Amplifier)244にて電圧変換される。受信信号の電圧はA/D変換器にてディジタル出力されるとともに、ATC503にて、振幅の1/2にしきい値が設定されて、0値または1値に識別された信号が出力される。増幅器606の出力はトランジスタ607のベースからエミッタへのダイオード機能を用いてピーク値検出が行われてコンデンサ608に保持されて、増幅器609のしきい値として与えられる。各ONUからの信号受信直前にリセット信号がトランジスタ609に与えられ、コンデンサ608に保持されたしきい値が放電されて0レベルまでリセットされる。
1つのレンジング窓内で複数のONUの距離測定を実施する時のATCの動作を図12により説明する。ITU−T勧告G.984.3にて規定される上りバースト信号に許容される同期用プリアンブル信号の長さは数バイトに過ぎない。このような短いプリアンブルで上り信号の識別しきい値およびクロックの引き込みを行うには、図6に示すATC(自動しきい値制御)と呼ばれる回路が必要とされる。ATC503は、受信信号の振幅を入力バースト毎に高速に検出し、そのしきい値をコンデンサに入力しかつ保持することにより、0値が連続するデータでも安定して受信することができる。その反面、図12に示すようにバースト信号が終了した後、事前に知られたタイミングによりATC503にリセットをかける操作が不可欠である。もしリセットがなければ、しきい値は以前の信号の値がそのまま保持され、続いてより小さい信号が受信されるとしきい値が大きすぎて正しい信号識別が行われない。
特にレンジング時は、近いONUほど早い時間に大きな振幅で信号が返されるため、続いて受信される信号がだんだん振幅が小さくなっていくのが普通である。ONU起動後の定常状態では、上りバースト信号の到着時間はOLTの指定で制御されるため、上記受信器にリセットをかけることは容易である。しかしながらレンジング過程では、OLTとONUの間の距離に応じて距離測定信号の到着時間が異なるため、事前に知られたタイミングにより受信器にリセットをかけることができないため、OLT200はATC503にリセットをかけるタイミングを決定する必要がある。
図7に本実施例における、ATC503にリセット信号を供給するリセットタイミング生成部506の構成図を示す。開始エッジ検出部701は、グラント生成部509からのStart値/End値を受信して、ONUから光信号の受信を開始する時間になると開始エッジ信号を生成する。本信号は、ONUが起動後の通常運用状態でのデリミタ検出有効化およびATCリセットに使用される。
一方、周期タイミング生成部702には、グラント生成部509が出力する、レンジング窓の開始および終了のタイミングを通知し、またはレンジング窓の期間中は信号がON状態になる等することで、レンジング窓の期間を示すレンジング窓信号が入力される。さらに周期タイミング生成部702には、デリミタ検出部504が出力する、ONUからの信号に含まれるデリミタを検出したことを示すデリミタ検出通知信号も入力される。周期タイミング生成部702は、レンジング窓信号によりレンジング窓の期間中であることが指示される間、デリミタ検出通知信号が入力されると、デリミタ検出部504の処理を有効化し新たなデリミタ検出処理を行うことを促すデリミタ検出有効化信号と、ATC503をリセットするためのATCリセット信号を生成する。
ATC503のリセットとともにデリミタ検出部504の有効化も行うのは、デリミタ検出を常時行っていると、距離測定信号中のランダムデータであるペイロード内の信号をデリミタと誤認識する可能性があり。このような誤認識を防ぐためにデリミタ検出部504は一旦デリミタを検出すると続くデリミタ検出動作を一旦停止するためである。デリミタ検出部504は、デリミタ検出有効化信号を受信すると再びデリミタ検出を開始する。これにより、レンジング窓の期間中であっても、異なるONUからのデリミタ信号を検知するたびにATC503をリセットすることで、一つのレンジング窓の中でも複数のONUからのranging request信号を受信して処理することが可能となる。なお、ATCリセット後は、次の距離測定信号の受信が直ちに可能となる。距離測定信号はせいぜい数10ナノ秒程度の長さのため、異なる距離からの距離測定信号が衝突する可能性は小さく、1つのレンジング窓内で複数のONUの距離測定が行われる。
論理和演算部703は、開始エッジ検出部701からの上記通常運用状態でのデリミタ検出有効化およびATCリセット信号と、周期タイミング生成部702からの上記レンジング窓中でのデリミタ検出有効化信号およびATCリセット信号を合流させて出力し、ATC503をリセットするとともにデリミタ検出部504を有効化する。
図8に本実施例のレンジング処理のタイムチャートを示す。図7で説明した周期タイミング生成部702によって生成される信号は、ATCリセット802として示されている。OLT200は、ONU300−1、300−2、300−3に向けて距離測定要求(レンジングリクエスト)804を送信し、ONU300−1、300−2、300−3はそれぞれランダムディレイ805、806、807を独立に生成して距離測定信号(レンジングレスポンス)を送信する。1つのPON区間内にほぼ等距離のONUが存在する場合は、G.984.3の10章にて規定されるランダムディレイを付与して距離測定信号を送信させることによりOLTへの到着時間をランダム化して確率的に距離測定信号の衝突を回避し、1つのレンジング窓内で複数のONUの距離測定を成功させることができる。
OLT200は、周期タイミング生成部702によりレンジング窓808の開始位置でATCリセット802−1を行って、その前のバースト信号803のしきい値をリセットする。続いてOLT200は、第1の距離測定信号809を受信して、その直後にATCリセット802−2を行って第1の距離測定信号809のしきい値をリセットする。さらに、OLT200は、第2の距離測定信号810を受信して、その直後にATCリセット802−3を行って第2の距離測定信号810のしきい値をリセットする。続いてOLT200は、第3の距離測定信号811を受信して、その直後にATCリセット802−4を行って第3の距離測定信号811のしきい値をリセットする。
このように、距離測定信号を受信してその直後にATCリセットおよびデリミタ検出回路の有効化を行うことにより、1つのレンジング窓内で複数の距離測定を成功させることができる。
他の実施例として、周期タイミング生成部702が、レンジング窓期間中に周期的にATCリセット信号およびデリミタ検出有効化信号を生成し出力するものが考えられる。この場合も周期タイミング生成部702は、グラント生成部509から受信するレンジング窓信号によって、レンジング窓期間中だけ周期的に上記リセット信号等を出力することができる。
図9に本実施例のタイムチャートを示す。周期タイミング生成部702によって生成される信号は、ATCリセット902として示されている。OLT200は、ONU300−1、300−2、300−3に向けて距離測定要求(レンジングリクエスト)905を送信し、ONU300−1、300−2、300−3はそれぞれ距離測定信号(レンジングレスポンス)を送信する。具体的には、ONU300−1は距離測定信号910を、ONU300−2は距離測定信号911を、ONU300−3は距離測定信号912を送信する。
OLT200は、レンジング窓の開始位置でATCリセット902−1を行って、その前のバースト信号904のしきい値をリセットする。続いてOLT200は、ATCリセット902−2、902−3、902−4、902−5、902−6、902−7を等間隔903で周期的に行う。図9で示した例のように、ATCリセットの間隔に各ONUからの距離測定信号を受信することができれば、一つのレンジング窓の中で複数のONUに対するレンジング処理が可能となる。
上述の実施例2の方法では、ATCリセットとONUからの距離測定信号とが衝突する可能性があり、このときにはONUに対するレンジング処理は失敗する。さらに別の実施例として、OLT200からレンジングリクエストを受信した各ONUが、間隔を置いて複数のレンジングレスポンスを返信するようにする方法が考えられる。
図10に本実施例のタイムチャートを示す。図9のタイムチャートと同じ部分については、同じ参照番号を付している。周期タイミング生成部702によって生成される信号は、ATCリセット902として示されている。OLT200は、ONU300−1、300−2、300−3に向けて距離測定要求(レンジングリクエスト)905を送信する。ONU300−1、300−2、300−3はそれぞれ複数の距離測定信号(レンジングレスポンス)を送信する。具体的には、ONU300−1は距離測定信号910−1を送信した後、間隔906−1を置いて距離測定信号910−2を送信し、さらに間隔906−2の後で距離測定信号910−3を送信する。同様にONU300−2は距離測定信号911−1の送信後、間隔907−1を置いてから距離測定信号911−2を送信し、さらに間隔907−2の後で距離測定信号911−3を送信する。ONU300−3も間隔908−1や908−2を挟みながら距離測定信号912−1、912−2、912−3を送信する。
ONU300−1から送信された距離測定信号910−1、910−2、910−3のうち、距離測定信号910−1はATCリセット902−1の後に正常に受信される。距離測定信号910−2はATCリセット902−2と衝突し、受信は失敗する。距離測定信号910−3は、距離測定信号902−2とATCリセット910−2が衝突しているためリセットが不十分であるが、直前の信号が同じONU300−1から送信された同じ振幅の信号であるため、しきい値のリセットは不十分であっても正常に受信される可能性がある。こうして3回の距離測定信号のうち、すくなくとも1回は正常に受信される。
同様に、ONU300−2から送信された距離測定信号911−1、911−2、911−3のうち、距離測定信号911−1はATCリセット902−3の後に正常に受信され、距離測定信号911−3は、別のONU300−3からの距離測定信号912−2と衝突して、受信は失敗する。ここでも3回の距離測定信号のうち、すくなくとも1回は正常に受信される。さらに、ONU300−3から送信された距離測定信号912−1、912−2、912−3のうち、距離測定信号912−1はATCリセット902−5と衝突して受信は失敗し、距離測定信号912−2は、別のONU300−2からの距離測定信号911−3と衝突して受信は失敗し、距離測定信号912−3はATCリセット902−7の後に正常に受信される。やはり3回の距離測定信号のうち、すくなくとも1回は正常に受信される。
それぞれのONUが複数の距離測定信号を送信することにより、距離測定信号の総数が増えてどこかで衝突が発生する可能性は高まるものの、それぞれのONUが送信する複数の距離測定信号の間隔を変えることにより、同じONUの組み合わせて衝突が繰り返し発生することは回避され、少なくとも1回の距離測定が成功する可能性は高い。つまり、ONU300−1が距離測定信号を送信する間隔である906と、ONU300−2の間隔907と、ONU300−3の間隔908とを異なるものとしたり、さらに同じONU300−1でも間隔906−1と906−2を異なるものとすることで、衝突の可能性を低くすることができる。
ONU300−1が距離測定信号を送信する間隔は、ONUがシリアルナンバーやOLTから指示されるONU−IDを用いて自律的に設定しても良いし、OLTがONUに対して距離測定信号の間隔を指示しても良い。または、複数の距離測定信号の間隔としてダイナミックに変化するランダム値を使用することも可能であり、この場合もONUがランダムカウンタを備えて自律的に間隔を設定しても良いし、OLTがランダムカウンタを備えてONUに対して距離測定信号の間隔を指示しても良い。
上述の実施例2や3の方法では、1つのPON区間内にほぼ等距離のONUが存在する場合は、例えばG.984.3の10章にて規定されるランダムディレイを付与して距離測定信号を送信させることによりOLTへの到着時間をランダム化して確率的に距離測定信号の衝突を回避し、1つのレンジング窓内で複数のONUの距離測定を成功させることができる。ただし、ランダムディレイによる衝突防止は確率的な回避策であるため、ONUのが少数である場合は良いが、数100台の多数のONTが同時に距離測定を行う場合には距離測定を試みる度にどこかで衝突が発生する可能性がある。この状況を回避するため、図5に示すデリミタ検出部507の後段のSNマスク生成部508により、距離測定信号を返信するONUの数を制限する実施例について説明する。
ITU−T勧告G.983.1では、OLTがONUの個体識別番号である8バイト長のシリアルナンバーを1つ指定してから距離測定を行う方法や、シリアルナンバーを指定せずに距離測定用の信号を要求した後、複数のONUからの信号の衝突を検出したらシリアルナンバーの1部を指定しながら再度距離測定用の信号を要求し、距離測定用の信号が1つだけ送信されるように調整していく方法が規定されている。またGPONでは、これらに加えてONUがランダム時間の遅延を加えて距離測定用の信号を送信するランダムディレイと呼ばれるメカニズムを規定しており、まずランダムディレイで最初に受信された距離測定用の信号からONUのシリアルナンバーを取得し、その後取得したシリアルナンバーを用いて1つのONUを指定してから距離測定を行う方法が規定されている。本実施例でも各ONUに付与されているシリアルナンバーを用いて、OLTからのレンジング・リクエストメッセージに返信するONUの数を制限する方法を提案する。
本実施例では、距離測定信号の衝突が多発するなどして必要が生じると、図5に示すSNマスク生成部508が距離測定信号を返信するONUのシリアルナンバーを制限する。なお、SNマスク生成部508が起動する条件は、OLT200の全体の動作を制御する制御部が衝突の多発を検知してSNマスク生成部508に起動を通知するようにしても良いし、距離測定部507が距離測定の失敗数をカウントして、カウントした失敗数があらかじめ定めた値を超えたときに起動を依頼するようにしても良い。または、SNマスク生成部508自身が距離測定の失敗数をカウントし、あらかじめ定めたしきい値と比較するなどして起動の要否を判断するようにしても良い。
図11に本実施例におけるタイムチャートを示す。OLT200は、ONU300−1、300−2、300−3に向けて距離測定要求(レンジングリクエスト)1101を送信する。ONU300−1、300−2がそれぞれ距離測定信号(レンジングレスポンス)1102−1および1102−2を送信すると衝突が発生し、OLT200において受信信号のCRCエラーにより距離測定の失敗が検出される。従来技術では,OLTは距離測定に失敗した場合の受信した距離測定信号の全情報を捨てていたが、本実施例では受信した距離測定信号のうち、少なくともONUのシリアルナンバーを含む情報を一時蓄積する。シリアルナンバーを格納する場所は、OLT200のメモリ空間でも良いし、生成部508がシリアルナンバーを保持するようにしても良い。
続いてOLT200のSNマスク生成部508は、上記蓄積された距離測定信号からシリアルナンバーの前2分の1の値を抜き出し、PONフレーム生成部510に出力する。PONフレーム生成部510は、当該抜き出した値にマッチするようにITU−T勧告G.984.3の9章に記載されるシリアルナンバーマスクメッセージ1104を作成し、ONUへ向けて送信する。シリアルナンバーマスクメッセージ1104は8バイトのシリアルナンバーの一部をマスクして合致したONUのみ距離測定指示に反応させるために用いられる。複数のONUからの距離測定信号が衝突して距離測定が失敗したとしても、一部のシリアルナンバーは正しく受信できている可能性が高い。したがって、シリアルナンバーの一部にマッチングするONUを絞り込んで、レンジングリクエスト1105を送信すると、例えばONU300−2、ONU300−3の反応はマスクされ、ONU300−1のみの距離測定信号1106を受信できる確率が高まる。
ここでも距離測定が失敗した場合、SNマスク生成部508は、さらにシリアルナンバーマスクメッセージ1107にてシリアルナンバーの前4分の1の値を抜き出しマッチングするONUを絞り込んだ後、OLT200がレンジングリクエスト1108を送信すると、ONU300−2、ONU300−3の反応はマスクされ、ONU300−1のみの距離測定信号1109を受信できる確率がさらに高まる。この例ではシリアルナンバーの前2分の1や前4分の1を抜き出してONUの絞込みを実施しているが、SNマスク生成部508はシリアルナンバーの任意の位置を用いて絞込みを実施して良い。
以上の実施例は、ITU−T勧告G.984.3準拠のGPONに沿って説明したが、他のPON方式、例えばIEEE802.3規格の64章で規定されるイーサネット(登録商標)PONシステムにも適用可能である。
このように本実施例では、衝突により8ビット長全てのシリアルナンバーが取得できない場合も、8バイトのシリアルナンバーの前半(4バイト)の値を入力したG.984.3規定のシリアルナンバーマスクメッセージを用いてレンジング候補のONUを限定し、再度距離測定を行う。複数の距離測定信号の衝突が発生する場合でも、ランダムディレイ機能を併用すれば距離測定信号の前半の一部は正常受信できる可能性が高く、シリアルナンバーマスクメッセージでONUを限定することで、限られたONTからの距離測定を高い確率で成功させることができる。この処理でも依然として距離測定信号の衝突が発生する場合、さらにシリアルナンバーの前4分の1部分(2バイト)のみを用いてシリアルナンバーマスクメッセージを使用し、再度距離測定を試みることができる。シリアルナンバーの限定方法は、1ビットずつ減らす方法、減らすビット数を1,2,4と増やしていく方法、距離測定の度にランダムな長さを使用する方法など多数が考えられるが、使用するシリアルナンバー長は1、1/2、1/4、1/8、…と減らしていく方法が、網羅性と効率性のバランスが最も良い。
なお、本実施例は実施例2や3に限らず、実施例1と組み合わせて用いても良い。
PONのネットワーク構成の一実施例を示す図。
下りPON信号フレームの一実施例を示す図。
上りPON信号フレームの一実施例を示す図。
OLTの機能ブロックの一実施例を示す図。
レンジング処理に関連する機能ブロックの一実施例を示す図。
光信号受信部分の一実施例を示す図。
ATCにリセットを供給する機能ブロックの一実施例を示す図。
第1の実施例のタイムチャートを示す図。
第2の実施例のタイムチャートを示す図。
第3の実施例のタイムチャートを示す図。
第4の実施例のタイムチャートを示す図。
OLTの光信号受信部分の動作を示す図。
PONにおけるレンジング動作の一例を示す図。
OLTのハードウェア構成の一実施例を示す図。
符号の説明
10 PON
200 OLT
300 ONU
501 O/E変換部
504 デリミタ検出部
506 リセットタイミング生成部
507 距離測定部
508 SNマスク生成部
702 周期タイミング生成部