JP4647714B1 - 制震プレストレスを付与した壁付き柱を用いる建造物 - Google Patents

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Abstract

【課題】コンクリート造の壁付き柱を一体化断面として断面性能を合理的かつ有効に利用して断面曲げ耐力を大幅に増大させる。大地震や強風によって衝撃的な引張力や曲げモーメントを受けても、PC鋼材や鉄筋が弾性範囲内に維持されるようにして、建造物のひび割れや損壊を防止する。
【解決手段】コンクリート造の壁付き柱1は、柱部2とその両側に設けられた壁部3とから構成して一体となった異形断面を有する部材であり、PC鋼材8、10を挿通させて配置し、PC鋼材に緊張導入力を与えて緊張定着させ制震プレストレスを付与した壁付き柱が形成されることにより、大地震や強風によりPC鋼材に掛かる引張力が最大となる時でも降伏しない弾性範囲内に納まるように設計でき、柱部および壁部に配置されたPC鋼材に掛かる最大引張力がほぼ同じになり、壁部と柱部とを一体化したことで断面曲げ耐力を大幅に増大させ、建造物のひび割れや損壊を防止できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、壁付き柱を使用して構築される建造物であって、大地震や強風圧力に耐えられるように制震プレストレスを壁付き柱に付与して構築される耐震および制震構造の建造物に関するものである。
コンクリート造りの建築物においては、一般にRC構造で柱と壁とが連結した構成を有するものであるが、その既存の柱および壁を耐震構造に補強する技術が複数公知になっている。例えば、第1の従来例としては、建築物における既設の壁付き柱につき、その恒久的、応急的な耐震補強を施すに当たり、対向配置になる少なくとも2枚のプレートにより前記壁部分ごと挟み込み、該プレートを壁部分とともに貫通する複数本以上の緊結部材にて仮止めしたのち、該プレートと柱部分、壁部分の間に形成される間隙にコンクリートまたはモルタルを増し打ちして硬化させ、次いで、該緊結部材を締め上げてプレストレスを導入する壁付き柱の恒久的、応急的な耐震補強方法である(特許文献1)。
このような方法によれば、既存の壁付き柱の耐震性能を恒久的に高い状態に維持できるだけでなく、地震等によって損傷を受けた場合でも比較的簡単な手順でもって応急的な補強を施すことが可能になるというものである。
また、第2の従来例としては、既存のRC柱に袖壁を増設して補強する柱の耐震補強方であって、予め周囲が鋼板によって囲繞されてなる排砂型鋼板ユニットを製作し、上記柱の中間部および上下階の梁にアンカーを施工して、当該アンカーを介して上記袖壁の壁筋を配筋するとともに、上記柱の上下端部に、型枠兼用となる上記閉鎖型鋼板ユニットを配置し、これら閉鎖型鋼板ユニット間に型枠を配設した後に、上記閉鎖型鋼板ユニットおよび型枠内に硬化性材料を充填して硬化させることにより上記袖壁を構築する柱の耐震補強法である(特許文献2)。
そして、増設する袖壁の上下両端部に型枠兼用の閉鎖型鋼板ユニットを一体に組み込んでいるので、当該閉鎖型鋼板ユニットによって、大地震時に作用する圧縮力に起因して硬化性材料が圧壊することを防止することができて耐力および変形性能を大幅に向上させることができるというものである。
さらに、第3の従来例としては、片面にスタッドを打った鋼板を既存柱の正背いずれかの面に沿って建て込み、前記既存柱に固定する工程と、前記鋼板と離間して対になる他側の型枠を含む残りの型枠を組上げる工程と、コンクリートまたは樹脂を充填または打設する工程と、養生・成形期間経過後に、前記鋼板を除く前記型枠を脱型する工程とからなる既存柱の両側に袖壁を増設して補強する方法である(特許文献3)。
上記補強方法によれば、施工方法を簡素化し、アンカー工事を皆無乃至極力少なくすることができて、工期期間中における騒音の発生を極力抑制することができるから、従来の同種の工法に比べ工期を短縮し、しかも、建物を使用しつつ既存柱の補強工事を実施することができるというものである。
特開2003−227236号公報 特開平10−61256号公報 特開2008−163646号公報
前記従来例においては、いずれも鉄筋コンクリート造りであり、例えば、柱の両側に袖壁が均等に配置された壁付き柱を一つの部材例とした場合に、部材断面において壁部が柱部より部材の中立軸(柱の図心位置)から離れている。現行の解析設計法では曲げモーメントと曲率の関係は平面保持を仮定して求められているから、断面の中立軸から離れるほど曲げモーメントによる引張(圧縮)応力が大きくなるため壁部の鉄筋が柱部の鉄筋より大きい引張(圧縮)応力を受ける。そうすると、部材内に配筋されている鉄筋に生じる応力の大きさが中立軸からの距離によって決まり、地震や強風等の水平力による曲げモーメントを受けると、結果として、壁部が曲げに先行抵抗して鉄筋が降伏して圧壊し、その後に柱部が抵抗するようになる。また、壁の厚さは柱幅の1/4程度しかなく、柱の剛性に比べて壁の剛性が小さいため、柱との一体化は確保できない。従って、従来の壁付き柱は、一体化した断面として曲げ耐力を求めることができないため、柱部が鉛直要素とし壁部が耐震水平要素として別々に取り扱われるのが現状であり、折角大きな断面性能を持つにも拘わらず合理的に利用できていないのである。
また、過去の直下型短周期大地震の被害例は、特に、鉄筋コンクリート造の柱や壁構造において主筋の付着破壊が先行し、それによってせん断破壊が多く発生した。その理由は柱や壁等の鉛直部材の断面内に配設された鉄筋が降伏点強度を超えて、コンクリートとの付着力が鋼材引張伸びに追従できず、コンクリートとの付着界面で付着破壊、剥離を起こすことが主たる原因であると推定される。そして、特に問題となっているのは、短周期の瞬間的な引張伸びはコンクリート柱の断面全体塊状に破砕する損壊であり、現実に原子炉構造物の厚い壁にも水平クラックの被害を発生させている。また、鉄筋コンクリート造構造は、部材の変形を戻す力がなく地震後には残留変形が残っているため、発生したひび割れを閉じることができずにひび割れた大きく進行し、構造躯体に悪影響を与えて使用寿命が大幅に減少する。
一方、従来のPC構造において、構造部材の断面耐力は大地震時において、PC鋼材の降伏荷重(Py)をもとに得られるものとしている。しかしながら、PC鋼材には明瞭な降伏点がないため、降伏荷重は0.2%永久伸びに対する荷重としている。降伏点強度はその降伏荷重を用いてPC鋼材の断面積を除した値とする。図7に示すように、降伏荷重の85%程度まで直線で示し、以後は非線形復元力状態に入る。この段階に入るとコンクリート断面にはひび割れが発生する虞があり、主筋やPC鋼材の弾性付着損傷防止が期待できなくなる。
従って、従来技術においては、大地震によるRC造柱や壁の損壊は、建物全体に繋がる致命的なダメージを与えてしまうこと、およびPC構造の柱や壁等の鉛直部材はPC鋼材や鉄筋の降伏点強度をもとに求められている断面耐力を持って使用されているため、大地震によりPC鋼材や鉄筋は降伏点強度に達する可能性があって、RC構造物の損壊例と同様な被害が予想されるという問題点を有している。
従来技術に係るコンクリート造の壁付き柱について、いかに一体化断面として断面性能を合理的かつ有効に利用して断面曲げ耐力を大幅に増大させること、大地震や強風によって衝撃的な引張力や曲げモーメントを受けても、PC鋼材や鉄筋が線形復元力の範囲内に維持されるようにしてひび割れや損壊を防止することに解決すべき課題がある。
本発明は、前述の従来例の課題を解決する具体的手段として、コンクリート造の壁付き柱を使用して構築される建造物であって、前記壁付き柱は、柱とその両側に設けられた壁とから構成して一体となった異形断面を有する部材とし、該部材断面において、柱と壁とにそれぞれ下層階から上層階まで連結したPC鋼材を挿通させて配置し、該PC鋼材に緊張導入力を与えて緊張定着することによりプレストレスを付与した壁付き柱が形成され、前記壁付き柱の断面において、柱幅をbとし壁の厚さをtとした時に、柱幅に対する壁の厚さ比を、t/b=0.3以上とし、前記緊張導入力は、柱に配置されたPC鋼材に与える緊張導入力を該PC鋼材降伏荷重の80%までとし、壁に配置されたPC鋼材に与える緊張導入力を該PC鋼材降伏荷重の40〜70%とすることを特徴とする建造物を提供するものである。
この発明において、前記壁付き柱は、プレキャストコンクリート造であること;および前記壁付き柱は、建造物の複数箇所に使用され、壁の方向を一致する方向と異なる方向とに配置すること、を付加的な要件として含むものである。
なお、本発明において上記の緊張導入力とは、定着部における定着完了時にPC鋼材に与えた引張力を意味するものである。
本発明に係る建造物は、前記壁付き柱の断面において、柱幅をbとし壁の厚さをtとした時に、柱幅に対する壁の厚さ比を、t/b=0.3以上としたことにより一体化が確保され、断面曲げ耐力を著しく増大させることができ、また、壁付き柱の柱部と壁部とにそれぞれ下層階から上層階まで連結したPC鋼材を挿通し、柱に配置されたPC鋼材に与える緊張導入力を該PC鋼材降伏荷重の80%までとし、壁に配置されたPC鋼材に与える緊張導入力を該PC鋼材降伏荷重の40〜70%とするプレストレスを付与して緊張定着することによって、強風や大地震によりPC鋼材に掛かる引張力が増えてくるが、最大引張力でも降伏しない弾性範囲内に納まるように設計することが出来るのであり、それによって柱部および壁部に配置されたPC鋼材に掛かる最大引張力がほぼ同じになり、建造物の破損を防止することができるという優れた効果を奏する。
本発明の実施の形態に係る高層建造物を構築するために使用される壁付き柱を略示的に示した断面図である。 同実施の形態に係る壁付き柱を使用した建造物の現場打ちコンクリート造りの例を示した要部の側面図である。 同実施の形態に係る壁付き柱を使用した建造物のプレキャストコンクリート造りの例を示した要部の側面図である。 同実施の形態に係る壁付き柱を使用した建造物のプレキャストコンクリート造りで且つ免震装置を付加した例を示した要部の側面図である。 同実施の形態に係る壁付き柱を使用した建造物において、壁付き柱の配置に係る一例を略示的に示した建造物の説明図である。 (A)〜(D)図は、同実施の形態に係る高層の建造物で、強風や大地震で受ける水平力による変形状況とプレストレスによる復元力とを示した説明図である。 同実施の形態において使用されるPC鋼材の復元力特性曲線を示すグラフである。
本発明を図示の実施の形態に基づいて詳しく説明する。図1において、建造物に使用される壁付き柱1は、柱部2の両側面に壁部3を一体に形成したもの、即ち、1つの構造部材であり、該壁付き柱1はプレキャストコンクリート造であっても現場打ちコンクリート造であっても良いのである。
この壁付き柱1の内部には、当然のこととして鉄筋が配設されている。即ち、柱部2の内部に柱主筋4と帯筋5とが配設され、壁部3の内部にも壁縦筋6と帯筋7とが配設されるのであり、この場合の帯筋7は、柱と壁とが一体化されて1つの部材の断面として曲げ耐力を向上させるため、柱部2内を貫通させて両側の壁部3に繋がるように連続させた帯筋として配設してある。さらに、柱部2の内部に制震プレストレスを付与するための緊張用のPC鋼材8を挿通するためのシース管9が複数配設されると共に、壁部3の内部にも同様の緊張用のPC鋼材10を挿通するための複数のシース管11が配設されている。
このように柱部2と壁部3とを一体に形成した壁付き柱1は、1つの構造部材として成立するのであり、現場打ちコンクリートの場合、その部材の柱成Dと壁の張り出し長さLwは建造物の用途や構造計画によって自由に設定することができるし、また、場合によっては、柱部2の各側面(4辺)にも壁部3を連接して一体に形成することもできる。さらに、プレキャストコンクリート造の場合には、運搬上の制約もあるので、全断面の成Dwは2.5m以下とすることが好ましい。いずれにしても、前記壁付き柱1の断面において、柱部2の幅をdとし壁部3の厚さをtとした時に、柱幅に対する壁の厚さ比を、t/d=0.3以上とすることによって、柱部2と壁部3との一体化が確保され、断面耐力が大幅に向上するのである。
前記したような構成の壁付き柱1を使用して高層の建造物を構築する際に、例えば、第1の実施の形態として現場打ちコンクリート造りの場合には、図2に示したように、建造物の基礎構造における基礎コンクリート12に予め埋設して取り付けた柱部2用のアンカー材13と壁部3用のアンカー材14に対して、それぞれ緊張用のPC鋼材8とシース管9およびPC鋼材10とシース管11とが連結状態で配設され、通常の現場打ち工程と同様に柱部2と壁部3と梁部15および上層フロアの型枠(図示せず)を組むと共に所要の鉄筋等(4〜7)を配設した後にコンクリートを打設し締め固めをして硬化させるものであり、一つのフロア形成のコンクリートが硬化した後に上記と同様に順次上層階の柱部2と壁部3と梁部15およびフロアを構築するのであり、緊張用のPC鋼材8、10は下層に配設し定着させたものと順次連結させるのである。
そして、各階毎に緊張用のPC鋼材8、10に対して緊張導入力を与えて緊張定着させることによって制震プレストレスを付与した壁付き柱1が形成されるのである。この場合の緊張導入力は、柱部2に挿通したPC鋼材8に対しては、そのPC鋼材8の降伏荷重の80%までとし、壁部3に挿通したPC鋼材10に対しては、そのPC鋼材10の降伏荷重の40〜70%までとする。なお、この現場打ちコンクリート造りの場合には、PC鋼材としてPC鋼棒を使用した方が好ましい。
また、第2の実施の形態として、プレキャストコンクリート造の材料を用いて高層の建造物を構築する場合については、図3に示してある。なお、この実施例においても、前記実施例と同一部分には同一符合を付して説明する。使用されるPC構造の壁付き柱1には、予め柱部2と壁部3とにそれぞれシース管9、11が配設されている。そして、建造物の基礎構造における基礎コンクリート12には予め埋設して取り付けた柱部2用のアンカー材13と壁部3用のアンカー材14とが設けられている。
これらアンカー材13、14に対して、壁付き柱1に挿通されるPC鋼材8、10が連結出来るように位置合わせしてPC構造の壁付き柱1をセットすると共に、該壁付き柱1の上面にPC構造の梁材15a、15aを両側から載置し、これら梁材15aの端部にも壁部3に設けたシース管11と対応する位置にシース管11a、11aがそれぞれ設けられており、これら梁材15a、15aを載置後に柱部2のシース管9にはPC鋼材8を、壁部2のシース管11と、それに対応する11a、11aにはPC鋼材10を挿通して前記アンカー材13、14にそれぞれ連結する。
この場合に、載置された梁材15a、15aの端部は当接状態ではなく、柱部2に対応する間隔分が開いているので、その開いている間隔位置に柱部2のシース管9に対応するシース管9aを配設してから現場打ちコンクリート16により梁材15a、15aの端部間の間隔を埋めるとともに、梁材15a、15aの上面も含めてフロア用のトップコンクリート17を打設し、これらの現場打ちコンクリートが硬化した後に、前記実施例と同様に各PC鋼材8、10に緊張導入力を与えて緊張定着させることによって制震プレストレスを付与する。なお、この実施例におけるPC構造の材料を使用した場合に、例えば、PC鋼材8、10としてPC鋼棒を使用し、各階毎ではなく複数階、例えば、2〜3階分の長さのPC鋼棒を使用し、2〜3階分ずつ緊張導入力、即ち、PC圧着工法またはPC圧着関節工法をもって緊張定着させることによって、全体的に制震プレストレスを付与した壁付き柱1を形成しても良い。
このようにPC鋼材8、10としてPC鋼棒を使用して、各定着部でPC鋼棒を連結し、基礎コンクリート12から高層建造物の最上階の天井まで一連に連結することができ、結果的に全長に渡って制震プレストレスを付与することにより、建造物として全体が安定すると共に、PC構造の建築部材を使用するので効率よく短期間で建造物を構築することができるのである。
さらに、前記した壁付き柱1を使用して、図4に示したように、第3の実施の形態である高層建造物を免震構造とすることもできる。一例としてPC構造の材料を使用した場合について、前記第2の実施の形態と同一部部には同一符合を付して説明する。建造物としての基礎構造における鋼管杭18の杭頭部に打設したコンクリート19にアンカー材20を介して下部基板21が一体的に取り付けられ、鋼管杭18の周囲は基礎スラブ22により基礎構造として固められている。
この実施の形態において、基礎構造の上に免震構造の建造物、即ち、上部構造物が建造されるのであるが、その上部構造物である下部コンクリート大梁23に前記PC構造の壁付き柱1がアンカー材13、14を介して取り付けられる。この場合に、前記第2の実施の形態でいう基礎コンクリート12が上部構造物の下部コンクリート大梁23に相当するものであり、該下部コンクリート大梁23と鋼管杭18の杭頭部に設けた下部基板21との間に免震装置24が配設されるのである。この場合に、下部コンクリート大梁23の下面には、所要大きさの突部23aが一体的に設けられており、該突部23aの下面に設けた上部基板25と下部基板21との間に免震装置24が設けられるのである。なお、下部コンクリート大梁23が、例えば、フーチング部材等を介してPC圧着またはPC圧着関節工法で配設される場合には、壁付き柱1もフーチング部材の上部に所要のアンカー部材を介して取り付けられ、免震装置24もフーチング部材の下面に上部基板25を介して取り付けられることになる。
免震装置を適用した従来の免震構造物では、海洋型地震による水平動に対して水平方向の相対変位により地震エネルギーを吸収し、地震エネルギーが上部構造に作用することを回避できていたが、直下型地震による上下動に対しては抑制することができなかった。しかしながら、上記したように壁付き柱1と免震装置24とを組み合わせて使用し、壁付き柱1に制震プレストレスを付与した建造物とすることによって、水平方向の地震力による地震エネルギーを吸収すると共に、上下動による柱や壁等の損傷も防止または抑制することができ、特に、鉛直方向の衝撃波による応力度を緩和させる作用がある。要するに、地震後に、制震プレストレスによる復元力が建造物を元の位置状態に戻すのであり、従来の制震ダンパーが不要となり、建造物全体の耐震性能を著しく向上させることができると共に、コスト削減にも寄与するのである。
前記各実施の形態に係る壁付き柱1を使用した建造物において、壁付き柱1の配置に係る一例を図5に示してある。本発明の主旨としては、建造物平面においてX・Y軸の2方向に構造剛性と強度を向上させて耐震性または制震性のバランスを良くするために、図示したように壁付き柱1における壁部3の方向を交互に配置して用いることを基本構成とするものであるが、建造物の間取りやX軸とY軸との長さの比によっても壁付き柱1の壁部3の方向を適宜に選択することができるし、また、部屋の間取りを大きくする場合には、壁部のない柱1aを使用することも当然のこととしてあり得るのである。しかしながら、壁部のない柱1aであっても、その内部にシース管9を配置しPC鋼材8を挿通して制震プレストレスを付与する構成を採用するのである。
前記したいずれの実施の形態においても、建造物の基礎部または下部構造部から最上部の天井まで壁付き柱1を使用して建造物を構築し、柱部2に挿通したPC鋼材8に対して降伏荷重の80%以下、壁部3に挿通したPC鋼材10に対しては降伏荷重の40〜70%程度の緊張導入力で緊張定着して制震プレストレスを付与した高層の建造物について、制震プレストレスによる復元力の制震作用を、図6に示した概念図に基づいて説明する。(A)図は、高層建造物27において、その建造物の重量Wに加えて制震プレストレスPを付与した例を示すもので、該建造物27が地震や強風で受ける水平力Qの強さを示すものである。
(B)図は、水平力aに対するプレストレスによる復元力bを示すもので、(C)図に示したように、大地震によって建造物が有する変形力を超えた水平力aを受けて一時的に仮想線で示した範囲で変形cしても、PC鋼材8、10に付与したプレストレスPによる復元力bが水平力aに抵抗して建造物27が損壊せず、(D)図に示したように、水平力が作用しなくなると、プレストレスによる復元力bによって建造物27は元の状態に戻るのである。このようにPC鋼材8、10に付与した制震プレストレスによる復元力が、地震などにより建造物が変形した時に抵抗する力、即ち、元に戻そうとする力となって、建造物を損壊させることなく、強い制震作用を発揮するのである。
このように壁付き柱1を使用して高層の建造物27を構築しても、柱部2と壁部3とに挿通して設けたPC鋼材8、10に所要の緊張導入力で緊張定着して制震プレストレスを付与することによって、建造物27が下層構造物かた上部構造物まで制震プレストレスPを付与して弾性一体化された一連の状態になっており、直下型の大地震による振動を受けても、また、水平力を受けても上部(最上層階)に生ずる強い揺れは、プレストレスによる復元力で抵抗し全体が鞭打ち現象に制震させるのであり、それによって衝撃的引張力や曲げモーメントで発生する引張力に対して制震ダンパー性能を発揮し、内部に配設してある全ての主筋やPC鋼材を降伏させずに線形復元力範囲に留めるのである。
本発明に係る壁付き柱1を使用した高層の建造物について、大地震及び強風に対して耐えられるPC構造の建造物について説明したが、これに限定されることなく、例えば、低層のPC構造や鉄筋コンクリート造(RC造)、またはプレストレスト鉄筋コンクリート造(PRC構造)にも適用できるので、高層マンションやオフイスビル等の高層または低層ビル建設に広く利用できる。
1 壁付き柱
1a 柱(壁付でない柱)
2 柱部
3 壁部
4 柱用の主筋
5 帯筋(フープ筋)
6 壁用の縦筋
7 壁用の帯筋
8、10 PC鋼材(PC鋼棒)
9、9a、11、11a シース管
12 基礎コンクリート
13、14 アンカー部材
15 梁
15a 梁材(プレキャスト)
16 現場打ちコンクリート
17 トップコンクリート
18 鋼管杭
19 コンクリート
20 アンカー材
21 下部基板
22 基礎スラブ
23 下部コンクリート大梁
23a 突部
24 免震装置
25 上部基板
27 高層の建造物

Claims (4)

  1. コンクリート造の壁付き柱を使用して構築される建造物であって、
    前記壁付き柱は、柱とその両側に設けられた壁とから構成して一体となった異形断面を有する部材とし、
    該部材断面において、柱と壁とにそれぞれ下層階から上層階まで連結したPC鋼材を挿通させて配置し、
    該PC鋼材に緊張導入力を与えて緊張定着することによりプレストレスを付与した壁付き柱が形成され、
    前記壁付き柱の断面において、柱幅をbとし壁の厚さをtとした時に、柱幅に対する壁の厚さ比を、t/b=0.3以上とし、
    前記緊張導入力は、柱に配置されたPC鋼材に与える緊張導入力を該PC鋼材降伏荷重の80%までとし、壁に配置されたPC鋼材に与える緊張導入力を該PC鋼材降伏荷重の40〜70%とすること
    を特徴とする建造物。
  2. 前記壁付き柱は、プレキャストコンクリート造であること
    を特徴とする請求項1に記載の建造物。
  3. 前記壁付き柱は、建造物の複数箇所に使用され、壁の方向を一致する方向と異なる方向とに配置すること
    を特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の建造物。
  4. 建造物は、上部構造と、基礎構造と、これら上部構造と基礎構造との間に設けられた免震装置とからなること
    そ特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の建造物。
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