次に本発明について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の無線通信システムの第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。
第1の実施の形態の無線通信システムは、各無線基地局に2つの送信アンテナを備え、受信機を有する端末装置に対して2つの無線基地局から同じ搬送波周波数を用いて同じ情報を送信する例である。
図1に示すように、第1の実施の形態の無線通信システムは、業務用の通信ネットワーク等につながる第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bと、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bから無線信号を受信する端末装置4とを有する。
第1の無線基地局2Aは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3A及び第2の送信アンテナ3Cを備え、第2の無線基地局2Bは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3B及び第2の送信アンテナ3Dを備えている。端末装置4は、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bから送信された情報を受信する受信アンテナ5を備えている。なお、以下、各無線基地局には共通な符号として「2」を付与し、各送信アンテナには共通な符号として「3」を付与するものとする。
図2は図1に示した第1の無線基地局が有する送信機の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、第1の無線基地局2Aが有する送信機1は、通信ネットワークから供給される情報ビットに対して誤り訂正符号化及び誤り検出符号付加等の処理を実施し、送信ビット系列を出力するビットデータ生成回路6と、ビットデータ生成回路6から出力された送信ビット系列を基に変調方式に応じて複素平面上にシンボルマッピングを行い、複素シンボルデータを出力するシンボルマッピング回路7と、シンボルマッピング回路7から出力された複素シンボルデータに対して時空間符号化を行い符号化複素シンボル系列を出力する時空間符号化回路8と、時空間符号化回路8から出力された2つの符号化複素シンボル系列により搬送波を変調して変調RF信号を生成し、第1の送信アンテナ3A及び第2の送信アンテナ3Cから電波として出力するRF回路9A、9Cとを有する。
第2の無線基地局2Bが有する送信機は、時空間符号化回路8の処理が異なる点を除いて図2に示した送信機1と同様の構成であるため、ここではその説明を省略する。
本実施形態の無線通信システムでは、第1の無線基地局2Aの送信機1Aが有する時空間符号化回路8で1つの時空間符号化行列(第1行列)を用いて時空間符号化を行う。また、第2の無線基地局2Bの送信機1Bが有する時空間符号化回路8は2つの時空間符号化行列(第1行列及び第2行列)を用いて時空間符号化を行う。第1の無線基地局2Aの送信機1Aが有する時空間符号化回路8は、第1行列(STBC行列)の列毎の各要素を用いてシンボルマッピング回路7から出力された複素シンボルデータの時空間符号化を行い、2つの送信信号(符号化複素シンボル系列)を生成する。一方、第2の無線基地局2Bの送信機1Bが有する時空間符号化回路8は、第1行列及び第2行列(STBC行列)の列毎の各要素を用いてシンボルマッピング回路7から出力された複素シンボルデータの時空間符号化を行い、4つの送信信号(符号化複素シンボル系列)を生成する。
図3は図2に示した第1の無線基地局の送信機が有する時空間符号化回路の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、本実施形態の第1の無線基地局2Aの送信機1Aが有する時空間符号化回路8は、符号化行列である第1行列を用いて時空間符号化を行う符号化器81を備えている。
符号化器81は、図2に示したシンボルマッピング回路7から出力される複素シンボルデータを入力とし、第1行列を用いて時空間符号化を行い、符号化後のデータである2つの符号化複素シンボル系列をそれぞれRF回路9A、9Cに出力する。
図4は図2に示した第2の無線基地局の送信機が有する時空間符号化回路の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、本実施形態の第2の無線基地局2Bの送信機1Bが有する時空間符号化回路8は、第1行列を用いて時空間符号化を行う第1の符号化器82と、第2行列を用いて時空間符号化を行う第2の符号化器83と、シンボルマッピング回路7から出力される複素シンボルデータを第1の符号化器82または第2の符号化器83へ供給するスイッチ80とを備えている。
シンボルマッピング回路7から出力された複素シンボルデータは、スイッチ80により所定の時間毎(例えば時空間符号化の単位時間毎)に第1の符号化器82または第2の符号化器83に交互に供給される。第1の符号化器82で生成された2つの符号化複素シンボル系列は、第1の送信アンテナ3Bまたは第2の送信アンテナ3Dに対応するRF回路9A、RF回路9Cへ出力され、第2の符号化器83で生成された2つの符号化複素シンボル系列は、第1の送信アンテナ3Bまたは第2の送信アンテナ3Dに対応するRF回路9A、RF回路9Cへ出力される。
なお、スイッチ80を切り替えるための不図示の切り替え制御回路は、第1行列を用いて時空間符号化を行う第1の符号化器82と、第2行列を用いて時空間符号化を行う第2の符号化器83とを固定周期で切り替える場合は、時空間符号化回路8内に設ければよい。また、通信ネットワークあるいは無線基地局からの指示にしたがってスイッチ80を切り替える場合は、切り替え制御回路を時空間符号化回路8の外部に設ければよい。その場合、切り替え制御回路は、無線基地局が備える不図示の制御装置で実現してもよい。
スイッチ80の切り替えが必要な例としては、例えば無線通信システムが備える無線基地局の数を変更した場合、あるいは無線基地局を増設することで第1行列と第2行列の切り替えパターンを変更する場合等がある。なお、切り替えパターンの変更とは、例えば第1行列を用いる時間に対する第2行列を用いる時間の長さを変更することを表す。切り替えパターンの変更例については、後述する第2の実施の形態〜第5の実施の形態で示す。
図5は図1に示した端末装置が有する受信機の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、端末装置4が有する受信機4Aは、受信アンテナ5で受信した信号に対してRF処理を行い、アナログベースバンド信号を生成するRF回路10と、RF回路10から出力されるアナログベースバンド信号をシンボル時間タイミングでサンプリングし、受信信号を出力するサンプリング回路11と、サンプリング回路11から出力された受信信号を入力とし、受信信号毎に各送信シンボルに対応する伝搬路応答値をそれぞれ推定して出力する伝搬路推定回路13と、サンプリング回路11から出力された受信信号の値と、伝搬路推定回路13から出力された伝搬路応答推定値とを入力とし、送信された複素シンボル値の推定値を出力する時空間復号化回路12と、時空間復号化回路12から出力された複素シンボル値の推定値を入力とし、送信ビット系列の推定値を出力する復調回路14と、復調回路14から供給される送信ビット系列の推定値を用いて、誤り訂正復号化処理、誤り検出処理等を実施し、情報ビット系列の推定値を出力するビットデータ処理回路15とを有する。
図6は図5に示した伝搬路推定回路の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、本実施形態の伝搬路推定回路13は、第2の無線基地局2Bで用いた符号化行列である第1行列または第2の行列に対応して生じる2組の伝搬路応答をそれぞれ推定する第1の伝搬路応答推定器131及び第2の伝搬路応答推定器132と、第2の無線基地局2Bで符号化行列を切り替える度に生じる受信信号の変動に応じて第1の伝搬路応答推定器131と第2の伝搬路応答推定器132とを切り替える2つのスイッチ130とを備えている。
なお、スイッチ130を切り替えるための不図示の切り替え制御回路は、2つの伝搬路応答推定器を固定周期で切り替える場合は、伝搬路推定回路13内に設ければよい。また、通信ネットワークあるいは無線基地局からの指示にしたがってスイッチ130を切り替える場合は、切り替え制御回路を伝搬路推定回路13の外部に設ければよい。その場合、切り替え制御回路は、移動端末が備える不図示の制御装置で実現してもよい。
スイッチ130を切り替える例としては、例えば無線通信システムが備える無線基地局の数を変更した場合、無線基地局を増設することで時空間符号化に用いる第1行列と第2行列の切り替えパターンを変更する場合等がある。なお、切り替えパターンの変更とは、例えば第1行列を用いる時間に対する第2行列を用いる時間の長さを変更することを表す。切り替えパターンの変更例については、後述する第2の実施の形態〜第5の実施の形態で示す。
このような構成において、まず、ビート干渉問題について確認するために各無線基地局が1本の送信アンテナを備える無線通信システムの例を図7に示す。
図7に示す無線通信システムでは、第1の無線基地局2Aが備える送信アンテナ3Aと、第2の無線基地局2Bが備える送信アンテナ3Bから同じ情報が同一搬送波周波数を用いて同時に送信されているものとする。
図8は図7に示した無線通信システムでビート干渉が発生する様子を示す模式図である。
図8に示すRA、RBは、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bから受信した受信信号であり、矢印の向きが受信信号の位相に相当し、矢印の長さが受信信号の振幅に相当する。図8では、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bから受信した2つの受信信号RA、RBの振幅が等しく、かつ位相が逆相となっている。この場合、端末装置4では2つの受信信号RA、RBを合成した信号の振幅は零となり、受信信号が消滅するビート干渉問題が生じる。
そこで、本実施形態の無線通信システムでは、図1に示したように各無線基地局(送信機)に複数の送信アンテナを備えた構成とする。このように各無線基地局に複数の送信アンテナを備える送信ダイバーシチ方式によりビート干渉問題が緩和される様子を示す図9に示す。
図9に示すRAは第1の無線基地局2Aが備える第1の送信アンテナ3Aからの受信信号であり、図9に示すRCは、第1の無線基地局2Aが備える第2の送信アンテナ3Cからの受信信号である。また、図9に示すRBは第2の無線基地局2Bが備える第1の送信アンテナ3Bからの受信信号であり、図9に示すRDは、第2の無線基地局2Bが備える第2の送信アンテナ3Dからの受信信号である。但し、図9では第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bでそれぞれ第1行列のみを用いて時空間符号化を行い、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bが備える第1の送信アンテナ及び第2の送信アンテナからは、それぞれ同じ信号が送信されるものとする。
この場合、図9に示すように、受信信号RAと受信信号RBとは、振幅が等しく、かつ位相が逆相となっているため、それらを合成した信号の振幅は零となる。しかしながら、受信信号RCと受信信号RDとは、振幅が等しくなくても、位相が同相であるため、それらを合成した信号CAの振幅は零にならない。このような無線通信システムでは、複数の送信アンテナから同じシンボル系列が複数回送信されるため、一方の送信アンテナから送信された信号を受信できれば検波が可能である。したがって、各無線基地局に複数の送信アンテナを備えるだけでも、各無線基地局に1本の送信アンテナを備える無線通信システムに比べてビート干渉問題が緩和される。
しかしながら、図9に示した受信信号RAと受信信号RBの合成信号、受信信号RCと受信信号RDの合成信号が共に零となる地点(ビート干渉の発生地点)では、伝搬路応答に変化がなければ通信不能となってしまう。
そのため、本実施形態の無線通信システムでは、各無線基地局にそれぞれ送信アンテナを2本ずつ備えると共に、図3及び図4に示したように、一方の無線基地局では1つの時空間符号化行列を常に用い、他方の無線基地局では2つの時空間符号化行列を切り替えて用いる。
具体的には、第1の無線基地局2Aが有する時空間符号化回路8では、符号化行列として式(1)を用いる。
式(1)において、要素S0、S1は、時空間符号化対象となる、複素数で示される2つのシンボルを示している。式(1)の列は、各送信アンテナ(1列目が第1のアンテナ、2列目が第2のアンテナ)から送信されるシンボルに相当し、行はシンボル時間(時刻0に1行目、時刻1に2行目)に相当する。各送信アンテナからは、シンボル時間間隔毎に列の要素で示される値がそれぞれ送信される。なお、式(1)のS0*、S1*は、それぞれS0、S1の複素共役値を示している。
式(1)を適用するSTBC方式の無線基地局では、一度の時空間符号化において2つのシンボルS0、S1を用い、時刻0の1回目の送信では各送信アンテナからS0、S1が送信される。また、1シンボル時間後の時刻1における2回目の送信では、S0の複素共役値及びS1の複素共役値の正負の符号を反転させた値が、1回目に送信された送信アンテナと異なる送信アンテナからそれぞれ送信される。
一方、第2の無線基地局2Bが有する時空間符号化回路8では、図4に示したように2つの符号化行列を用いる。
本実施形態では、第1行列として、第1の無線基地局2Aと同じ上記式(1)を用いる。また、第2行列として、第1行列の正負の極性を反転した式(2)を用いる。
ところで、上述した第2従来例でも、隣接する無線基地局に対して、STBC方式で生成される、異なるシンボル系を割り当て、各無線基地局から時空間符号化後のシンボル系列を送信している。但し、第2従来例の無線通信システムでは、各無線基地局が備える送信アンテナの数が1であり、各無線基地局で用いる符号化行列が全て同じである。すなわち、上記式(1)のみが用いられる。
この第2従来例における各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信する各シンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を図10に示す。但し、図10は、各無線基地局にそれぞれ2つの送信アンテナを備えた構成(図1参照)に第2従来例を適用した場合の、各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信する各シンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示している。
なお、第1の無線基地局2Aの第1の送信アンテナ3A及び第2の送信アンテナ3Cと端末装置4の受信アンテナ5との間の伝搬路応答をそれぞれh(3A)、h(3C)とし、第2の無線基地局2Bの第1の送信アンテナ3B及び第2の送信アンテナ3Dと端末装置4の受信アンテナ5との間の伝搬路応答をそれぞれh(3B)、h(3D)とする。但し、伝搬路応答は複素数であり、|h(3A)|,|h(3B)|,|h(3C)|,|h(3D)|>0.0とする。
このような構成では、図10に示すように、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bは、それぞれ同じ第1行列を用いて時空間符号化を行う。その場合、端末装置4へ到来する送信信号は、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bが備える各送信アンテナから送信されるシンボルの値と受信アンテナ5との伝搬路応答の値との複素積算結果となる。したがって、時刻0に受信アンテナ5に到来する各送信アンテナ3A、3B、3C、3Dからの送信信号は、h(3A)・S0、h(3B)・S0、h(3C)・S1、h(3D)・S1となる。また、時刻1に受信アンテナ5に到来する各送信アンテナ3A、3B、3C、3Dからの送信信号は、h(3A)・(−S1*)、h(3B)・(−S1*)、h(3C)・(S0*)、h(3D)・(S0*)となる。また、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bが備える各送信アンテナからはシンボル系列が同時に送信されるため、端末装置4ではそれらの送信信号を合成した信号を受信する。
したがって、時刻0における端末装置4の受信信号r0及び時刻1における端末装置4の受信信号r1は次式となる。但し、受信信号に含まれる熱雑音は無視するものとする。
r0=(h(3A)+h(3B))・S0+(h(3C)+h(3D))・S1
r1=(h(3A)+h(3B))・(−S1*)+(h(3C)+h(3D))・(S0*)
時刻0の受信信号r0を示す式に着目すると、S0に対する伝搬路応答はh(3A)+h(3B)であり、S1に対する伝搬路応答はh(3C)+h(3D)である。また、時刻1でも送信シンボルと伝搬路応答の関係が変わるだけで、2つの伝搬路応答の値は変わらない。したがって、ここでは受信信号r0のみに着目する。
第2従来例を適用した第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bでは、それぞれ常に同じ第1行列を用いるため、図10に示したように、S0、S1に対する伝搬路応答は常にh(3A)+h(3B)、h(3C)+h(3D)となる。
ここで、h(3A)、h(3B)、h(3C)、h(3D)に変動がなければ、S0、S1に対応する伝搬路応答もそれぞれ変動しない。そのため、ビート干渉によりh(3A)=−h(3B)、h(3C)=−h(3D)となると、受信信号r0の振幅は零となり、受信信号r1の振幅も同時に0となるため、検波が不能になる。
図11は本発明の第1の実施の形態の無線通信システムにおける各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信する各シンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示すテーブル図である。
本実施形態では、上述したように第1の無線基地局2Aでは常に第1行列を用い、第2の無線基地局2Bでは第1行列及び第2行列を用いる。また、第2の無線基地局2Bが有する時空間符号化回路8では、時空間符号化単位である2シンボル毎に第1行列と第2行列とを切り替える。
このときの受信アンテナ5における受信信号r0は、時刻0から2Tsにおいて次式のようになる。但し、Tsは1シンボルの処理に要する時間を示す。
r0=(h(3A)+h(3B))・S0+(h(3C)+h(3D))・S1
したがって、この時のS0に対する伝搬路応答はh(3A)+h(3B)となり、S1に対する伝搬路応答はh(3C)+h(3D)となる。また、時刻2Tsから4Tsにおける受信信号r0は次式となる。
r0=(h(3A)−h(3B))・S0+(h(3C)−h(3D))・S1
したがって、この時のS0に対する伝搬路応答はh(3A)−h(3B)となり、S1対する伝搬路応答はh(3C)−h(3D)となる。以降、図11に示すように、2Ts毎に、シンボルS0、S1に対する伝搬路応答は、(h(3A)+h(3B),h(3C)+h(3D))と、(h(3A)−h(3B),h(3C)−h(3D))の2組の値が入れ替わることになる。
ここで、ビート干渉が発生している(h(3A)+h(3B)、h(3C)+h(3D))=(0.0,0.0)となる場合を考える。このとき、h(3A)=−h(3B)、h(3C)=−h(3D)となる。これらの関係をもう一方の組の式に代入すると、(h(3A)−h(3B)、h(3C)−h(3D))=(2×h(3A)、2×h(3C))となり、(0.0、0.0)にならないことが分かる。
したがって、本実施形態の無線通信システムによれば、伝搬路応答が固定している状況においても、第2の無線基地局2Bで用いる時空間符号化行列を切り替える度に、端末装置4の地点における送信信号の合成値が変わるため、従来のようにビート干渉が連続して発生することがなく、検波不能となる問題が解決される。
次に、本実施形態の端末装置4の受信機4Aが有する伝搬路推定回路13について図面を用いて説明する。
図12は第1の実施の形態の端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路の構成を示すブロック図である。
上述したように、第1の実施の形態の無線通信システムでは、第2の無線基地局2Bの送信機が2つの時空間符号化行列を用いているため、時空間符号化行列を切り替えた際に伝搬路応答が変化する。そのため、その変化に応じて伝搬路応答推定回路を切り替える必要がある。
以下、図11に示した行列の要素S0、S1に対応する各伝搬路応答を、h0A=h(3A)+h(3B)、h1A=h(3C)+h(3D)、h0B=h(3A)−h(3B)、h1B=h(3C)−h(3D)とした場合を例に説明する。図12に示す(h0A,h1A)の推定回路は、図6に示した第1の伝搬路応答推定器131に相当し、図12に示す(h0B,h1B)の推定回路は、図6に示した第2の伝搬路応答推定器132に相当している。
ところで、第1の実施の形態の端末装置4は、伝搬路推定回路13の処理が第2従来例の無線通信システムと異なっている。ここでは、比較のために第2従来例の伝搬路推定回路を図13に示す。
図13に示すように、第2従来例の伝搬路推定回路は、送信機で用いる時空間符号化行列が第1行列で固定であるため、該第1行列に対応する推定回路((h0A,h1A)の推定回路)のみ備えた構成である。
図12に示した第1の実施の形態の端末装置4の受信機4Aが有する伝搬路推定回路13と、図13に示す第2従来例の端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路とを比較すると、本実施形態の伝搬路推定回路13では、伝搬路応答が2組となるために、それぞれに対応する2つの伝搬路応答推定器を備えている。
なお、本実施形態では、第1行列と第2行列とを時空間符号化単位である2シンボル毎に切り替える例を示したが、時空間符号化単位の整数倍で切り替えることも可能である。
また、本実施形態では、第2行列として式(2)を用いる例を示したが、以下に示す式(3)または式(4)を用いることも可能である。
式(3)及び式(4)は、式(1)に示した行列のうち、一方の列の各要素の符号の正負を反転させた行列である。
さらに、式(1)から式(4)で示した2行2列の行列は、式(5)のようにまとめることができる。
但し、
の範囲の全ての実数である。jは複素数の虚数単位を示している。
式(5)は、各送信アンテナから送信されるシンボル系列に同じ位相回転及び振幅変動を与える式である。例えば、式(1)は、式(5)の
の場合に相当する。また、式(2)は、式(5)の
の場合に相当する。したがって、第2行列としては、第1行列と異なる行列であれば、式(5)を用いて表すことができる。
また、第2行列には、式(1)で示した行列から列の各要素を入れ替えた行列である式(6)で示す行列を用いることもできる。
また、第2行列には、式(6)で示す行列と、式(5)で示した行列とを組み合わせた行列を用いることができる。一例として、式(7)に式(2)と式(6)とを組み合わせた行列を示す。
また、本実施形態では、各無線基地局が2本の送信アンテナを備える場合を例にして説明したが、本実施形態の無線通信システムは、各無線基地局が3本の送信アンテナを備える場合、あるいは各無線基地局が4本の送信アンテナを備える場合にも適用できる。
例えば、各無線基地局が3本の送信アンテナを備える場合に用いる時空間符号化行列の例を式(8)に示す。また、各無線基地局が4の送信アンテナを備える場合に用いる時空間符号化行列の例を式(9)に示す。
式(8)において、S0、S1、S2、S3は、時空間符号化対象となる、複素数で示される4つのシンボルを示している。式(8)の列は各送信アンテナ(1列目が第1のアンテナ、2列目が第2のアンテナ、3列目が第3のアンテナ)で送信するシンボルに相当し、行はシンボル時間間隔(時刻0に1行目、時刻1に2行目、時刻2に3行目、時刻3に4行目、以下省略)に相当する。各送信アンテナからは、シンボル時間間隔毎に列の要素で示される値がそれぞれ送信される。
同様に、式(9)において、S0、S1、S2、S3は、時空間符号化対象となる、複素数で示される4つのシンボルを示している。式(9)の列は各送信アンテナ(1列目が第1のアンテナ、2列目が第2のアンテナ、3列目が第3のアンテナ、4列目が第4のアンテナ)から送信されるシンボルに相当し、行はシンボル時間間隔(時刻0に1行目、時刻1に2行目、時刻2に3行目、時刻3に4行目、以下省略)に相当する。各送信アンテナからは、シンボル時間間隔毎に列の要素で示される値がそれぞれ送信される。
本実施形態の無線通信システムによれば、2つの無線基地局のうち、一方の無線基地局が2つの時空間符号化行列を切り替えて時空間符号化を行うため、端末装置では各無線基地局から受信した受信信号の合成値が変動し、ビート干渉が生じない時間領域が得られる。したがって、端末装置4では2つの無線基地局から送信された電波を確実に検波できる。そのため、ビート干渉によって通信が不能となることが無い。
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、2つの無線基地局のうち、一方の無線基地局で2つの時空間符号化行列を切り替える例を示したが、このような方法を3つ以上の無線基地局を備える無線通信システムに適用するためには、各無線基地局からの受信信号の合成値が変動してビート干渉が生じない時間領域が得られるように、2つの時空間符号化行列を切り替える無線基地局を最適に選択する必要がある。例えば、列車の業務用通信のように、線路に沿って所定の間隔毎に複数の無線基地局が配置される無線通信システムでは、符号化行列が固定な無線基地局と2つの符号化行列を切り替える無線基地局とを交互に配置する必要がある。
第2の実施の形態は、3つの無線基地局から同じ搬送波周波数を用いて同じ情報が送信された場合でも、ビート干渉が発生することなく端末装置4で受信できる他の例を提案する。
図14は本発明の無線通信システムの第2の実施の形態の構成を示すブロック図である。
図14に示すように、第2の実施の形態の無線通信システムは、業務用の通信ネットワーク等につながる第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cと、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cから無線信号を受信する端末装置4とを有する。
第1の無線基地局2Aは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3A及び第2の送信アンテナ3Dを備え、第2の無線基地局2Bは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3B及び第2の送信アンテナ3Eを備え、第3の無線基地局2Cは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3C及び第2の送信アンテナ3Fを備えている。端末装置4は、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cから送信された情報を受信する受信アンテナ5を備えている。
なお、図14では、図1に示した無線通信システムに第3の無線基地局2Cを追加した構成であり、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bがそれぞれ有する第1の送信アンテナ及び第2の送信アンテナにそれぞれ第1の実施の形態と異なる符合を付与している。
また、端末装置4は、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cが備える送信アンテナ3A、3B、3C、3D、3E、3Fから送信信号を受信し、以下では、受信アンテナ5と送信アンテナ3A、3B、3C、3D、3E、3Fとの間の伝搬路応答を、h(3A)、h(3B)、h(3C)、h(3D)、h(3E)、h(3F)とする。但し、伝搬路応答は、複素数で与えられ、|h(3A)|、|h(3B)|、|h(3C)|、|h(3D)|、|h(3E)|、|h(3F)|>0.0である。
図14に示す無線通信システムにおいて、まず第1の無線基地局2A及び第3の無線基地局2Cが時空間符号化行列として第1行列を常に用い、第2の無線基地局2Bが時空間符号化行列として第1行列と第2行列とを切り替えて用いる場合を考える。なお、第1行列は上記式(1)とし、第2行列は上記式(2)とする。
このときの第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cで用いる時空間符号化行列と端末装置4で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示す図15に示す。
図15に示す例では、時刻0から2Tsにおいて、S0に対する伝搬路応答はh(3A)+h(3B)+h(3C)となり、S1に対する伝搬路応答はh(3D)+h(3E)+h(3F)となる。また、時刻2Tsから4Tsにおいて、S0に対する伝搬路応答はh(3A)−h(3B)+h(3C)となり、S1に対する伝搬路応答はh(3D)−h(3E)+h(3F)となる。以降、図15に示すように、2Ts毎に、シンボルS0、S1に対する伝搬路応答は、2Tsごとに、シンボルS0、S1に対する伝搬路応答は、(h(3A)+h(3B)+h(3C),h(3D)+h(3E)+h(3F))と、(h(3A)−h(3B)+h(3C),h(3D)−h(3E)+h(3F))の2組の値が入れ替わることになる。
ここで、S0に対する伝搬路応答に着目すると、S0に対する1組目の伝搬路応答h(3A)+h(3B)+h(3C)が0.0となる場合、h(3A)、h(3B)、h(3C)の関係は、h(3A)=−h(3B)−h(3C)、h(3B)=−h(3A)−h(3C)、h(3C)=−h(3A)−h(3B)の3通りが得られる。このとき、S0に対する2組目の伝搬路応答h(3A)−h(3B)+h(3C)にこれらの関係式を代入すると、−2h(3B)、2(h(3A)+h(3C))、−2h(3B)となる。但し、|h(3B)|>0.0であり、全ての伝搬路応答の絶対値は0.0より必ず大きいため、受信信号は消滅しないことがわかる。
また、h(3A)=−h(3C)とすると、2つ目の伝搬路応答が0.0となるが、この関係を1組目のS0に対する伝搬路応答h(3A)+h(3B)+h(3C)=0.0に代入すると、h(3B)=0.0となるため、|h(3B)|>0.0という仮定に反する。
したがって、3つの無線基地局のうち、1つの無線基地局で時空間符号化行列を切り替えれば、受信信号が消滅しない伝搬路応答が必ず存在する。
しかしながら、上記説明では、端末装置4が2つの時空間符号化行列を切り替えて用いる第2の無線基地局2Bからの電波を必ず受信する場合を想定しているため、端末装置4が同じ時空間符号化行列を固定で用いる第1の無線基地局2A及び第3の無線基地局2Cからのみ電波を受信する場合はビート干渉問題を回避することができない。
そこで、第2の実施の形態の無線通信システムでは、第1の無線基地局2Aが時空間符号化行列として第1行列を常に用い、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cが時空間符号化行列として第1行列と第2行列とを切り替えて用いるものとする。さらに、第2の無線基地局2Bは時空間符号化行列を2Ts毎に切り替え、第3の無線基地局2Cは時空間符号化行列を4Ts毎に切り替える。なお、第1行列は上記式(1)とし、第2行列は上記式(2)とする。
第1の実施の形態、及び上記第1の無線基地局2A及び第3の無線基地局2Cが時空間符号化行列として第1行列を常に用い、第2の無線基地局2Bが時空間符号化行列として第1行列と第2行列とを切り替えて用いる例では、図11及び図15に示したようにS0、S1の伝搬路応答がそれぞれ2つの式で表され、その組み合わせは2通り(2パターン)になる。
一方、第2の実施の形態の無線通信システムでは、端末装置4が、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cそれぞれから信号を受信する場合と、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B及び第3の無線基地局2Cのうち、いずれかの無線装置から信号を受信しない場合とで、それぞれビート干渉が発生するか否かを考慮しなければならない。そのため、それらの条件毎に、S0、S1の伝搬路応答は、それぞれ4つの式で表され、その組み合わせは4通り(4パターン)になる。
図16は、図14に示した全ての無線基地局から信号を受信する場合の、各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示している。
図17は、図14に示した第1の無線基地局から信号を受信しない場合の、各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示している。
図18は、図14に示した第2の無線基地局から信号を受信しない場合の、各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示している。
また、図19は、図14に示した第3の無線基地局から信号を受信しない場合の、各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示している。
図16〜図19に示すように、本実施形態の無線通信システムでは、2つのシンボル時間(=2Ts)毎、または4つのシンボル時間(=4Ts)毎にS0、S1の伝搬路応答が変動しているため、ビート干渉が生じない時間領域が必ず得られる。したがって、端末装置4では無線基地局から送信された電波を確実に検波できる。そのため、ビート干渉によって通信が不能となることが無い。
次に、本実施形態の端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路について図面を用いて説明する。
図20は図14に示した端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路の構成を示すブロック図である。
第2の実施の形態の無線通信システムでは、図16〜図19で示したようにS0、S1の伝搬路応答が最大で4つのパターンで変化するため、端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路に4つの伝搬路応答推定器を備える必要がある。
以下では、2シンボルの転送に要する時間(2Ts)を1つの単位時間(スロット)と定義し、図16に示した0〜2Tsの区間をスロット0とし、2Ts〜4Tsの区間をスロット1とし、4Ts〜6Tsの区間をスロット2とし、6Ts〜8Tsの区間をスロット3とする。また、各スロットに対してスロット番号i(i=0,1,2,3)を付与する。
図20は、各スロットiにおけるS0、S1に対する伝搬路応答を(h0(i),h1(i))で示し、それぞれに対応する伝搬路応答推定器を備えた構成であることを示し
ている。
ここで、(h0(0),h1(0))=(h(3A)+h(3B)+h(3C),h(3E)+h(3F)+h(3G))、(h0(1),h1(1))=(h(3A)−h(3B)+h(3C),h(3E)−h(3F)+h(3G))、(h0(2),h1(2))=(h(3A)+h(3B)−h(3C),h(3E)+h(3F)−h(3G))、(h0(3),h1(3))=(h(3A)−h(3B)−h(3C),h(3E)−h(3F)−h(3G))である。
なお、図20に示す伝搬路応答推定回路13は、図6に示した伝搬路応答推定器の数を4つに増やした構成であり、その他の構成及び動作は図6に示した伝搬路応答推定回路13と同様である。
(第3の実施の形態)
図21は本発明の無線通信システムの第3の実施の形態の構成を示すブロック図である。
第3の実施の形態は、4つの無線基地局から同じ搬送波周波数を用いて同じ情報が送信された場合でも、ビート干渉が発生することなく端末装置4で受信できる他の例を提案する。
図21は本発明の無線通信システムの第3の実施の形態の構成を示すブロック図である。
図21に示すように、第3の実施の形態の無線通信システムは、業務用の通信ネットワーク等につながる第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B、第3の無線基地局2C及び第4の無線基地局2Dと、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B、第3の無線基地局2C及び第4の無線基地局2Dから無線信号を受信する端末装置4とを有する。
第1の無線基地局2Aは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3A及び第2の送信アンテナ3Eを備え、第2の無線基地局2Bは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3B及び第2の送信アンテナ3Fを備えている。また、第3の無線基地局2Cは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3C及び第2の送信アンテナ3Gを備え、第4の無線基地局2Dは、端末装置4に情報を送信するための第1の送信アンテナ3D及び第2の送信アンテナ3Hを備えている。
なお、図21では、図1に示した無線通信システムに第3の無線基地局2C及び第4の無線基地局2Dを追加した構成であり、第1の無線基地局2A及び第2の無線基地局2Bがそれぞれ有する第1の送信アンテナ及び第2の送信アンテナにそれぞれ第1の実施の形態と異なる符合を付与している。
端末装置4は、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B、第3の無線基地局2C及び第4の無線基地局2Dから送信された情報を受信する受信アンテナ5を備えている。
また、端末装置4は、第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B、第3の無線基地局2C及び第4の無線基地局2Dが備える送信アンテナ3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3Hからの送信信号を受信し、以下では、受信アンテナ5と送信アンテナ3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3Hとの間の伝搬路応答を、h(3A)、h(3B)、h(3C)、h(3D)、h(3E)、h(3F)、h(3G)、h(3H)とする。但し、伝搬路応答は、複素数で与えられ、|h(3A)|、|h(3B)|、|h(3C)|、|h(3D)|、|h(3E)|、|h(3F)|、|h(3G)|、|h(3H)|>0.0である。
図21に示す無線通信システムにおいて、まず第1の無線基地局2A及び第3の無線基地局2Cが時空間符号化行列として第1行列を用い、第2の無線基地局2B及び第4の無線基地局2Dが時空間符号化行列として第1行列と第2行列とを切り替えて用いる場合を考える。なお、第1行列は上記式(1)とし、第2行列は上記式(2)とする。
このときの第1の無線基地局2A、第2の無線基地局2B、第3の無線基地局2C及び第4の無線基地局2Dで用いる時空間符号化行列と端末装置4で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を図22に示す。
図22に示す例では、時刻0から2Tsにおいて、S0に対する伝搬路応答はh(3A)+h(3B)+h(3C)+h(3D)となり、S1に対する伝搬路応答はh(3E)+h(3F)+h(3G)+h(3H)となる。また、時刻2Tsから4Tsにおいて、S0に対する伝搬路応答はh(3A)−h(3B)+h(3C)−h(3D)となり、S1に対する伝搬路応答はh(3E)−h(3F)+h(3G)−h(3H)となる。以降、2Ts毎に、シンボルS0、S1に対する伝搬路応答は、(h(3A)+h(3B)+h(3C)+h(3D),h(3C)+h(3D)+h(3G)+h(3H))と、(h(3C)−h(3D)+h(3G)−h(3H))の2組の値が入れ替わることになる。
ここで、シンボルS0の伝搬路応答に着目すると、1組目の伝搬路応答h(3A)+h(3B)+h(3C)+h(3D)が0.0となる場合、h(3A)+h(3C)=−h(3B)−h(3D)となる。このとき、2組目の伝搬路応答はh(3A)−h(3B)+h(3C)−h(3D)=0.0となり、両方の伝搬路応答が共に0.0となってしまうため、ビート干渉問題が解決されない。
そこで、第3の実施の形態の無線通信システムでは、この問題を解決するために、無線基地局毎の符号化行列の切り替えパターンの例として図23に示す例を提案する。
図23は図21に示した無線基地局毎に時空間符号化行列を切り替える場合の、各無線基地局で用いる時空間符号化行列と端末装置で受信するシンボルS0、S1の伝搬路応答の時間関係を示している。
図23に示す例では、第1の無線基地局2Aが0〜16Tsまで第1行列を用い、第2の無線基地局2Bが8Ts毎に第1行列と第2行列とを切り替えている。また、第3の無線基地局2Cは4Ts毎に第1行列と第2行列とを切り替え、第4の無線基地局2Dは2Ts毎に第1行列と第2行列とを切り替えている。この結果、S0、S1の伝搬路応答は、第1の無線基地局2A〜第4の無線基地局2Dのうち、信号を受信する複数の無線装置の組合わせ毎に、それぞれ8パターンずつ生成されることがわかる。また、この8パターンは16Tsを周期として繰り返される。
ここで、S0の伝搬路応答に着目すると、0から2Tsまでの伝搬路応答がh(3A)+h(3B)+h(3C)+h(3D)=0.0となる条件h(3A)+h(3C)=−h(3B)−h(3D)が成立する場合の、2Tsから16Tsまでの伝搬路応答は図24に示すようになる。
図24の第1行目は、図23に示した各時間区間のS0の伝搬路応答の式にh(3A)+h(3C)=−h(3B)−h(3D)を代入した式である。また、第2行目は、h(3A)=−h(3D)、h(3B)=−h(3C)かつh(3A)=−h(3B)である場合の伝搬路応答の絶対値を示し、第3行目は、h(3A)=−h(3D)、h(3B)=−h(3C)かつh(3A)=−h(3C)である場合の伝搬路応答の絶対値を示している。また、第4行目は、h(3A)=−h(3B)、h(3C)=−h(3D)かつh(3A)=−h(3C)である場合の伝搬路応答の絶対値を示し、第5行目は、h(3A)=−h(3B)、h(3C)=−h(3D)かつh(3A)=−h(3D)である場合の伝搬路応答の絶対値を示している。さらに、第6行目は、h(3A)=−h(3C)、h(3B)=−h(3D)かつh(3A)=−h(3D)である場合の伝搬路応答の絶対値を示し、第7行目は、h(3A)=−h(3C)、h(3B)=−h(3D)かつh(3A)=−h(3B)である場合の伝搬路応答の絶対値を示している。なお、図24に示す“0”はビート干渉が生じて受信信号が消滅していることを示し、“>0”はビート干渉が生じていないことを示している。
ここで、h(3A)、h(3B)、h(3C)、h(3D)の関係の条件式は、図24に示した6通りしか存在せず、図24に示すように、0から16Tsの区間において、6通りの条件全てで“>0”となる確率は50%以上である。
したがって、本実施形態の無線通信システムによれば、4つの無線基地局から同じ搬送波周波数を用いて同じ情報を送信する場合でも、端末装置4の地点における送信信号の合成値が変わるため、従来のようにビート干渉が連続して発生することがなく、検波不能となる問題が解決される。
なお、図23で示した各無線基地局に対して時空間符号化行列を割り当てる例では、4つの無線基地局うち、いずれか2つの無線基地局からのみ信号を受信する場合、あるいはいずれか3つの無線基地局からのみ信号を受信する場合でもビート干渉により検波が不能となる問題は発生しない。
本実施形態の無線通信システムでは、各無線基地局が互いに異なるパターンで、かつ異なるタイミングで時空間符号化行列を切り替えるため、無線基地局が線状に配置される無線通信システムだけでなく、複数の無線基地局が面上に配置される無線通信システムにも適用可能であり、どの無線基地局間でビート干渉問題が生じるか不明な場合でもビート干渉の発生を防止できる効果がある。
ところで、上述したように第3の実施の形態の無線通信システムでは、S0、S1の伝搬路応答にそれぞれ8つのパターンがある。そのため、図21に示した端末装置4の受信機が有する伝搬路推定器では、8系統の伝搬路推定器が必要となる。
以下では、2シンボルの転送に要する時間(2Ts)を1つの単位時間(スロット)と定義し、図23に示した0〜2Tsの区間をスロット0とし、2Ts〜4Tsの区間をスロット1とし、以降、順に2シンボル間隔毎にスロット2、スロット3、…、スロット7とする。また、各スロットに対してスロット番号i(i=0,1,2,…,7)を付与する。
上述したように、S0、S1の伝搬路応答は2シンボルごとに変動し、8つのパターンがあるため、スロット番号i=0,1,2,…,7の変化に応じてS0、S1の伝搬路応答が変化し、以降、再びi=0,1,2,…,7の変化に対応するS0、S1の伝搬路応答の値が繰り返される。
本実施形態では、8組の伝搬路応答(h0(i)、h1(i))(但し、i=0から7の整数)それぞれを推定する必要があるため、伝搬路推定回路は、8つの伝搬路応答推定器を2シンボル毎に切り替える構成となる。
しかしながら、例えば端末装置の位置によっては、4つの無線基地局のうち、1つの無線基地局からしか信号を受信できない状況も考えられる。その場合、伝搬路応答推定器は1つでよく、常に8つの伝搬路応答推定器を起動する必要はない。そこで、本実施形態では、伝搬路推定回路に、伝搬路応答の変動状況に応じて起動する伝搬路応答推定器を決める起動推定器決定回路を追加する。
図25は図21に示した端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路の構成を示すブロック図である。
図25に示すように、本実施形態の伝搬路推定回路13は、伝搬路応答(h0(i)、h1(i))を推定するための複数の伝搬路応答推定器と、符号化行列の切り替え時に生じる受信信号の変動に応じて起動する伝搬路応答推定器を切り替える2つのスイッチ130と、受信信号に応じて起動する伝搬路応答推定器を選択する起動推定器決定回路133とを備えている。図25に示す伝搬路推定回路13は、最大スロット数であるI個の伝搬路応答推定器を備え、本実施形態では上述したようにI=8とする。スイッチ130は、起動推定器決定回路133の処理結果にしたがって、起動する伝搬路応答推定器を2シンボル時間毎に切り替える。各伝搬路応答推定器は、起動推定器決定回路133によって処理の起動及び停止が制御される。図25は、各スロットiにおけるS0、S1に対する伝搬路応答を(h0(i),h1(i))で示し、それぞれに対応する伝搬路応答推定器を備えた構成であることを示している。
図26は図25に示した起動推定器決定回路の構成を示すブロック図である。
図26に示すように、起動推定器決定回路133は、サンプリング回路11から受信した受信信号サンプル値を基に伝搬路応答(h0,h1)の推定値
を計算し、計算結果を出力する伝搬路応答計算回路1331と、伝搬路応答計算回路1331の出力値を2シンボル時間保持しておくためのレジスタ1333と、伝搬路応答計算回路1331の出力値及びレジスタ1333に格納された伝搬路応答の値を用いて、スロットi+1における伝搬路応答とスロットiにおける伝搬路応答の2乗誤差を計算する伝搬路応答誤差計算回路1335と、伝搬路応答誤差計算回路1335で算出された値Tと予め設定されたしきい値thとを比較する比較回路1337と、比較回路1337の比較結果を記憶するためのメモリ1338とを有する。
ここでは、スロットiにおける送信シンボルをS0(i)、S1(i)とし、受信信号をr0(i)、r1(i)とし、スロットiにSTBC符号化され、2シンボル時間で送信される2つの送信シンボルS0(i)、S1(i)のうち、1シンボル目の時刻に到着する受信信号r0をr0(i)、2シンボル目の時刻に到着する受信信号r1をr1(i)とする。
このとき、図26に示した伝搬路応答計算回路1331における伝搬路応答
は、式(10)で計算される。
・・・(10)
式(10)の計算に用いるシンボルS0(i+1)、S1(i+1)は、通常、端末装置4にて既知であるパイロットシンボルを用いる。
次に、図27を用いて伝搬路推定器が備える起動推定器決定回路の動作を説明する。
但し、図27は、シンボルS0、S1の伝搬路応答(h0、h1)の変動に最大周期が存在し、端末装置4はその最大周期I=8を知っている場合の処理手順を示している。また、図27は、各無線基地局から送信フレームフォーマットに基づいてパイロットシンボルが8スロット以上連続して送信され、該パイロットシンボルを伝搬路応答の推定値の計算で用いる場合の処理手順を示している。
起動推定器決定回路133は、まずスロット番号を示す変数iを0に設定する(ステップA1)。次に、式(10)を用いてスロットiにおける伝搬路応答計算を行う(ステップA2)。そして、現在のスロット番号iが0であるか否かを判定し(ステップA3)、現在のスロット番号iが0である場合はステップA4に移行し、0でない場合はステップA9に移行する。ステップA4では、i=0のスロットにおける伝搬路応答推定器として図25に示した(h0(0)、h1(0))に対応する伝搬路応答推定器を用いることを示す情報として、メモリに「0」を格納する。
次に、ステップA2の処理で算出した伝搬路応答
をレジスタ1333に格納する(ステップA5)。
続いて、スロット番号iを1増加させる(ステップA6)。そして、iの値がスロット番号の最大値Iであるか否かを判定し(ステップA7)、iの値がスロット番号の最大値Iであった場合はステップA8の処理へ移行する。また、iの値がIでなかった場合は、ステップA2の処理に戻ってステップA2〜A7の処理を繰り返す。
ステップA8の処理では、メモリが備える8つのスロット領域に書き込まれた数字を出力する。この数字は、各スロット番号iにおいて用いられる伝搬路応答推定器の番号となる。
ステップA3の処理の結果、現在のスロット番号iが0でない場合、起動推定器決定回路133は、レジスタ1333に格納されていた1スロット前の伝搬路応答
と現在のスロットの伝搬路応答
を用いて伝搬路応答誤差計算回路1335でTを計算する。
次に、起動推定器決定回路133は、レジスタ1333に現在の伝搬路応答
を書き込む(ステップA10)。
続いて、起動推定器決定回路133は、ステップA9の処理で算出したTが予め設定されたしきい値thよりも大きいか否かを判定し(ステップA11)、T>thである場合はステップA12の処理へ移行する。また、T>thでない場合はステップA13の処理へ移行する。
ステップA12の処理では、現在のスロット番号iに対応するメモリ1338のスロット領域にiを書き込む。一方、ステップA13の処理では、現在のスロット番号iに対応するメモリ1338のスロット領域に、スロット領域i−1に格納されている値を書き込む。
以上の処理を繰り返し実行することで、図26に示すメモリ1338が備える8つのスロット領域に起動推定器番号が書き込まれ、そのスロット番号に対応するスロットiにおいてメモリ1338に格納された伝搬路応答推定器が用いられる。
図27では、隣接する2つのスロットの伝搬路応答の誤差を用いて伝搬路応答の変動の有無を判断し、起動する伝搬路応答推定器を決定する例を示したが、例えば、(h0(0)、h1(0))と2スロット離れた(h0(2)、h1(2))が同じ伝搬路応答であり、かつ(h0(1)、h1(1))の伝搬路応答が異なる場合、スロット0とスロット2では同じ伝搬路応答推定器を使用できる。しかしながら、図27に示した処理では異なる伝搬路応答推定器が無駄に起動されることになる。そこで、2つのスロットの全ての組み合わせに対して伝搬路応答の誤差を計算し、その誤差の大小によって伝搬路応答が同じとみなせるスロットにおいては、同じ伝搬路応答推定器を用いるようにしてもよい。その場合、起動する伝搬路応答推定器の数をより減らすことができる。
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態では、各無線基地局で用いる時空間符号化行列の切り替えパターンに正則行列の各列の要素を用いる。また、図21に示した4つの無線基地局を備えた無線通信システムに適用する例である。
図23に示した符号化行列の切り替えパターンを表形式に書き直すと表1のようになる。
表1のiは、STBC符号化の単位時間である2シンボルを1スロットとした場合のスロット番号を示している。また、表1に示すスロット毎の値は、時空間符号化行列として式(1)を用いる場合は「1」と記載し、正負の符号を反転させた式(2)を用いる場合は、「−1」と記載している。この「1」及び「−1」の値は、式(5)の第2項の行、
において、第1行列は、
とした場合、また、第2行列は、
とした場合の
の値に相当する。
図23では、表1に示したように「1」と「−1」の2値を用いるパターンを用いていたが、式(11)を用いると、時空間符号化行列の列毎に異なる様々な値を用いることができる。そこで、表2に一般化したパターンを示す。但し、パターンの周期は4とする。
但し、表2のGa0からGd3には式(11)で示した行列が入る。
図28は第4の実施の形態の無線基地局の送信機が有する時空間符号化回路の構成を示すブロック図である。
図28に示すように、第4の実施の形態の時空間符号化回路は、符号化行列をつくるための基本となる行列を出力する基本行列発生回路84と、無線基地局毎で用いる符号化行列の切り替えパターン行列を出力する切り替えパターン発生回路85と、基本行列発生回路84から出力される基本行列を切り替えパターン発生回路85から出力される値によってスカラー倍する乗算器86と、乗算器86から出力される行列を用いて、シンボルマッピング回路から出力された複素シンボルを符号化する符号化器81とを有する。
基本行列発生回路84が生成する基本行列は式(1)である。切り替えパターン発生回路85は、予め各無線基地局に割り当てられている符号化切り替えパターン(表2)の値をスロット毎に出力する。乗算器86は、基本行列発生回路84で生成された基本行列と符号化切り替えパターンの値とを乗算する。表2では、符号化行列の切り替えパターンを式(11)に示す行列としているが、式(11)において、
とが同じ値となる場合は、結局、符号化行列は
で与えられる値による基本行列のスカラー倍となる。
したがって、符号化切り替えパターンは、表3に示すようにスカラー数で示すことができる。但し、a0からd3は全て複素数である。以下では、表3で示すパターンを用いる場合を例に説明する。
次に、第4の実施の形態の無線通信システムの端末装置の受信機が有する伝搬路推定回路について説明する。但し、本実施形態では、伝搬路推定回路として、図25に示した構成を適用する。また、その最大推定器数Iは4である。
第3の実施の形態では、起動数決定回路が、無線基地局が用いる符号化行列を切り替えた場合に受信信号が変動することを利用して、前後のスロットにおける伝搬路応答推定値の差に基づき受信信号の中に符号化行列を切り替えている無線基地局からの送信信号が含まれているか否かを判定した。
本実施形態では、端末装置4が全ての無線基地局で用いる時空間符号化行列の切り替えパターンを知っていることを利用して、受信信号がどの無線基地局から送信された信号であるかを検知する。そして、その検知結果を用いて伝搬路応答推定器の切り替えを行う。
図29は第4の実施の形態の端末装置が有する起動数決定回路の構成を示すブロック図である。
図29に示すように、第4の実施の形態の起動数決定回路は、符号化切り替え行列が格納されるメモリ331、メモリ331に格納された行列の逆行列を生成する逆行列変換回路333と、受信信号サンプルを一時的に保持するバッファ335と、逆行列変換回路333から出力された行列とバッファ335から出力された行列とを用いて伝搬路応答を計算し、伝搬路応答推定値の行列を出力する伝搬路応答計算回路337と、伝搬路応答計算回路337から出力された伝搬路応答推定値の行列を用いて、受信信号に含まれる送信信号の符号化行列切り替えパターンを検知し、検知した符号化行列切り替えパターンに相当する列番号及び受信パターンの検出が終了したことを示す受信パターン検出終了信号を出力する受信パターン検出回路339と、受信パターン検出回路339で検知された列番号が格納されるメモリ341と、メモリ341に格納された列番号、受信パターン検出回路339から出力される受信パターン検出終了信号及びメモリ331に格納された符号化切り替えパターンを用いて、起動推定器番号と推定器切り替えタイミングを出力する変動パターンサーチ回路345とを有する。
ここで、符号化切り替えパターンとして、表3に示したパターンを用いた場合の起動推定器決定回路133の動作を説明する。但し、端末装置4の受信アンテナ5と、4つの無線基地局の送信アンテナ3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3Hとの伝搬路応答をそれぞれh(0A)、h(0B)、h(0C)、h(0D)、h(1A)、h(1B)、h(1C)、h(1D)とする。また、伝搬路応答は複素数として与えられる。なお、以下では、各無線基地局と、各無線基地局が備える第1の送信アンテナ及び第2の送信アンテナとを明確に区別するため、伝搬路応答の記述を第3の実施の形態と変えている。例えば、h(0A)は第1の無線基地局2Aの第1のアンテナと受信アンテナ5の伝搬路応答を示し、h(1A)は第1の無線基地局2Aの第2のアンテナと受信アンテナ5の伝搬路応答を示している。
まず、表3のパターンを用いて各無線基地局が4スロット時間(8シンボル時間)でシンボルを送信した場合の受信信号を求める。
なお、表3のパターンを行列Aで表す。この行列Aは、例えば図29に示したメモリ331に格納される。
各無線基地局の第1のアンテナと受信アンテナとの伝搬路応答h(0A)、h(0B)、h(0C)、h(0D)を行列h0とし、各無線基地局の第2のアンテナと受信アンテナとの伝搬路応答h(1A)、h(1B)、h(1C)、h(1D)を行列h1とすると、行列h0及び行列h1は式(13)のように示すことができる。
また、連続する4つのスロット時間における受信信号を行列r0及び行列r1とした場合、行列r0及び行列r1は式(14)で表すことができる。ここで、r0(i)はスロットiにおける1シンボル目の時刻0における受信信号であり、r1(i)はスロットiにおける2シンボル目の時刻1における受信信号である。
行列r0と行列r1は、図29に示したバッファ335を通して伝搬路応答計算回路337へ供給される。
また、4スロット時間における送信シンボルを行列S0、行列S1としたとき、行列S0及び行列S1は式(15)で示すことができる。ここで、S0(i)、S1(i)はそれぞれスロットiにおいてSTBCによる符号化対象となるシンボルを示す。
・・・(15)
但し、
を対角要素とする対角行列を示す。
以上の行列を用いると、式(14)に示した行列r0及びr1は式(16)となる。
・・・(16)
但し、式(16)では、受信信号r0、r1に含まれる熱雑音を無視している。
ここで、式(10)で示した伝搬路応答推定値の計算式及び式(16)から式(17)が得られる。
・・・(17)
但し、行列
は、伝搬路応答行列(h0,h1)の伝搬路応答推定値であり、次式の要素を持つ行列である。
式(17)に示したA-1は行列Aの逆行列であり、図29に示した逆行列変換回路333で生成される。
上記式(17)が成立するためには、行列Aが正則行列である必要がある。また、行列S0、行列S1はパイロットシンボル系列を用いているため、受信側では既知であり、図29に示した伝搬路応答計算回路337で確保されている。この行列
の計算は、図29に示した伝搬路応答計算回路337で実行される。
受信パターン検出回路339は、伝搬路応答の推定値行列
を行毎に観察し、各要素
の絶対値がそれぞれ0に近い値である場合、または予め設定したしきい値よりも小さい場合は、その行の伝搬路応答に相当する無線基地局からの送信信号は、受信信号に含まれていないと判断する。例えば、
とすると、式(12)の第4列の符号化行列切り替えパターン(d0,d1,d2,d3)を使用する無線基地局からの受信信号は受信していないと判断できる。
図30は図29に示した受信パターン検出回路の動作を示すフローチャートである。
図30に示すように、受信パターン検出回路339は、伝搬路応答計算回路337から計算結果を受け取ると、まず変数jを初期化し(ステップB1)、列番号0番目の符号化行列切り替えパターンを持つ無線基地局からの送信信号が受信信号に含まれているか否かを判定する。
変数jは式(12)の行列の列番号を示し、列番号は0〜3の整数となる。式(12)の行列は、列毎に符号化行列の切り替えパターンとなるため、列番号は無線基地局毎に割り当てられた符号化行列の切り替えパターンを示す番号となる。
次に、受信パターン検出回路339は、伝搬路推定値行列
の0番目の行に着目し、
が成立するか否かを判定する(ステップB2)。ステップB2の処理で
が成立する場合はステップB3の処理に移行し、成立しない場合はステップB6の処理に移行する。
ステップB3では、伝搬路推定値行列
の0番目の行において、
が成立するか否かを判定する。
が成立する場合はステップB4の処理に移行し、成立しない場合はステップB6の処理に移行する。
ステップB4では、次の列の調査に移行するために変数jを1増加させる。
次に、ステップB5にて、変数jの値が最大値Jと一致するかを判定する。最大値Jは式(12)で示した行列の列数であり、ここではJ=4となる。
ステップB5の処理の結果、変数jがJと一致しない場合はステップB2の処理に戻ってステップB2からB5の処理を繰り返す。
ステップB2及びステップB3の処理において、
または
が成立しない場合は、ステップB6にて、その時の列番号jをメモリに格納した後、ステップB4の処理へ移行する。
また、ステップB5の処理の結果、変数jがJと一致する場合、受信パターン検出回路339は、処理を終了し、変動パターン検知回路345へ終了を知らせる終了信号を出力する(ステップB7)。
以上の処理を終了すると、ステップB6にて、メモリには、受信信号に含まれる信号を送信している無線基地局で用いている符号化行列切り替えパターンに対応する列番号が格納される。
本実施形態では、端末装置4が式(12)の符号化行列切り替えパターンを知っていることから、列番号の組み合わせによって4スロット時間で受信信号がどのように変動するのか分かる。したがって、図29に示した変動パターンサーチ回路345は、列番号の組み合わせとスロット毎の変動パターンをメモリに持つことで、受信パターン検出回路339で検出された列番号の組み合わせを用いて変動パターンのサーチが可能となる。
第4の実施の形態の無線通信システムによれば、どの符号化行列の切り替えパターンを持つ無線基地局から送信された信号を受信しているのか端末装置4で判断可能であり、かつそれらの無線基地局との伝搬路応答を個々に推定できる。さらに、符号化行列の切り替えパターンとそれを用いる無線基地局との対応関係がわかれば、無線基地局を特定することも可能である。
(第5の実施の形態)
第5の無線通信システムでは、各無線基地局の符号化行列切り替えパターンに4×4のアダマール行列を適用した場合の動作を説明する。このときの各無線基地局の符号化行列切り替えパターンは表4に示すようになる。
ここで、符号化行列切り替えパターン行列とその逆行列は次のようになる。
アダマール行列を用いると、逆行列が存在するために伝搬路応答(h0,h1)が推定可能となる。また、スロット毎の各無線基地局における符号化行列切り替えパターンの組み合わせが最大で4パターンとなるため、ビート干渉の発生により検波が不能となる問題を回避できる。
このとき、4スロット時間におけるスロット毎の変動パターン(起動推定器番号に相当する)は、受信する無線基地局の組み合わせによって表5に示す15パターンとなる。本実施形態では、列番号0、1、2、3を4つの無線基地局2A、2B、2C、2Dにおける符号化行列切り替えパターンとする。
表5に示すスロット毎の起動推定器番号において、0から3が起動する伝搬路応答推定器の番号であり、数字の並びがスロット毎の起動タイミングを示している。例えば、組み合わせ(1)の時、スロット毎の起動推定器番号は0,0,1,1であり、スロット0、1で伝搬路応答推定器0を用い、スロット2,3で伝搬路応答推定器1を用いることを示している。
本実施形態の変動パターンサーチ回路345は、表5に示した情報をメモリに格納し、受信パターン検出回路339から出力される列番号の組み合わせに応じて起動推定器数と推定器起動番号を出力する。
例えば、伝搬路応答の推定値
を計算した結果、4つの無線基地局2A、2B、2C、2Dからの送信信号を端末装置4が受信していると仮定する。この場合、表5の列番号の組み合わせ(0,1)から、4つの伝搬路応答推定器を1スロット毎に起動すればよい。
また、伝搬路応答の推定値
を計算した結果、2つの無線基地局2A、2Bからの送信信号を端末装置が受信していると仮定する。この場合、表5の列番号組み合わせ(0,1)から、2つの伝搬路応答推定器を2スロットおきに起動すればよい。
また、伝搬路応答の推定値
を計算した結果、第1の無線基地局2Aからの送信信号のみを端末装置が受信していると仮定する。この場合、表5の列番号組み合わせ(0)から、1つの伝搬路応答推定器を起動すればよい。
第3の実施の形態で示した伝搬路応答推定回路は、表5の列番号の組み合わせ(0,2)の場合に4つの伝搬路応答推定器を起動するが、本実施形態では2つの伝搬路応答推定器を起動することになるため、より効率的に伝搬路応答推定器を起動できる。
以上説明したように、第5の実施の形態の無線通信システムによれば、伝搬路応答推定回路にて、より効率的に伝搬路応答推定器の起動が可能になる。
(第6の実施の形態)
上述した第1の実施の形態〜第5の実施の形態では、式(1)で示した第1行列と式(2)で示した第2行列とを各無線基地局が時空間符号化に用いている。また、第1の実施の形態では、第2行列として、式(2)に代えて式(3)〜式(4)を用いる例を示している。ここで、式(2)〜式(4)は、式(1)に示した行列のうち、一方の列の各要素の符号の正負を反転させた行列である。このことは、第2の無線基地局の2つの送信アンテナから送信するシンボル系列に、第1の無線基地局の2つの送信アンテナから送信するシンボル系列の極性をシンボル時間毎に反転させるだけでもよいことを示している。
第6の実施の形態の無線通信システムは、各無線基地局からこのような規則でシンボル系列を送信する例である。なお、第6の実施の形態では、無線通信システムの構成を図1に示した第1の実施の形態と同様とした場合で説明する。
第6の実施の形態では、例えば第1の無線基地局2Aから表6で示すようにシンボルを送信し、第1の無線基地局2Bから表7で示すようにシンボルを送信する。
表6は第1の無線基地局2Aが有する第1の送信アンテナ3A及び第2の送信アンテナ3Cから各シンボル時間間隔(時刻0〜時刻4)で送信するシンボルを示し、表7は第2の無線基地局2Bが有する第1の送信アンテナ3B及び第2の送信アンテナ3Dから各シンボル時間間隔(時刻0〜時刻4)で送信するシンボルを示している。
ここで、時刻0における端末装置4の受信信号r0及び時刻1における端末装置4の受信信号r1は次のようになる。
r0=S0(h(3A)+h(3B))+S-1(h(3C)+h(3D))
r1=S1(h(3A)−h(3B))+S0(h(3C)−h(3D))
時刻0における受信信号r0をr0=0とすると、h(3A)=−h(3B)、かつh(3C)=−h(3D)となる。この関係を時刻1における受信信号r1の式に代入すると、時刻1ではr1≠0となる。
この場合、時刻0ではS0が消滅するが、時刻1では消滅せずに検波可能となる。すなわち、本実施形態の無線通信システムも第1の実施の形態〜第5の実施の形態と同様に端末装置4では2つの無線基地局から送信された電波を確実に検波できる。そのため、ビート干渉によって通信が不能となることが無い。
なお、このような方法は、無線基地局の数を増やした第2の実施の形態や第3の実施の形態で示した無線通信システムにも適用可能である。その場合、端末装置が有する受信機には図25に示した伝搬路推定回路あるいは図26や図29に示した起動推定器決定回路を用いることができる。
さらに、本実施形態の無線通信システムは、特定の無線基地局において、シンボル毎に送信シンボルの極性を反転させるだけで済むため、無線基地局毎に2つの送信アンテナを備える構成だけでなく、無線基地局毎に3つ以上の送信アンテナを備えた構成にも適用可能である。
なお、上記第1の実施の形態〜第6の実施の形態で示した各無線基地局が有する送信機及び端末装置が有する受信機は、RF回路と、上記第1の実施の形態〜第6の実施の形態で示した各無線基地局が有する送信機及び端末装置が有する受信機の各種機能を実現する論理回路とを用いて構成してもよく、RF回路以外を情報処理装置(コンピュータ)を用いて構成することも可能である。情報処理装置は、処理を実行するCPUと、CPUの処理で必要なデータが格納されるメモリと、CPUに上記第1の実施の形態〜第6の実施の形態で示した各無線基地局が有する送信機及び端末装置が有する受信機の処理を実行させるためのプログラムが格納された記録媒体とを有する構成である。CPUは、記録媒体に格納されたプログラムにしたがって上記第1の実施の形態〜第6の実施の形態で示した各無線基地局が有する送信機及び端末装置が有する受信機の各種機能を実行する。