JP4644262B2 - 導波管型線路および漏れ波アンテナ - Google Patents

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Description

本発明は、導波管型右手系線路、導波管型左手系線路あるいは導波管型右手/左手系複合線路等の導波管型線路、および、その導波管型線路を用いた漏れ波アンテナに関するものである。
一般に、金属、誘電体などの小片、あるいは、それらで構成された微小な構造体(単位セル)を、波長に対して十分短い間隔(波長の10分の1程度以下)で配列することで自然には存在しない性質を持った媒質を人工的に構成することが知られている。このような自然に存在しない性質を持った媒質をメタマテリアルという。メタマテリアルの性質の中で、等価的な誘電率εと透磁率μとが同時に負となる場合は,その媒質を伝搬する電磁波の電界、磁界、波面の進行方向(波数ベクトル)の関係が左手の3つの指で示せることから、左手系媒質と呼ばれている。これに対して、等価的な誘電率εと透磁率μとが同時に正となる通常の媒質の場合は,右手系媒質と呼ばれている。また、右手系、左手系媒質を用いた伝送線路が、それぞれ右手系線路、左手系線路と呼ばれている。
左手系媒質は、波の群速度(エネルギーの伝搬速度)と位相速度(位相の遅れる速度)の符号が異符号であり、バックワード波と呼ばれる波の存在する特異な性質をもっている。一方、右手系媒質は、波の群速度(エネルギーの伝搬速度)と位相速度(位相の遅れる速度)の符号が同符号となる性質を持っている。
また、伝送線路が周波数軸上で左手系伝送帯域と右手系伝送帯域の両方を持つ場合、この線路は、右手/左手系複合線路と呼ばれている。この右手/左手系複合線路において、左手系伝送帯域と右手系伝送帯域の間には、通常は電磁波が伝播することができないバンドギャップが生じる。このバンドギャップの帯域幅は、単位セル中のリアクタンスをコントロールすることにより変化させることができ、さらに、この幅をゼロ(0)とし、つまりバンドギャップを無くすことで、左手系伝送帯域と右手系伝送帯域を周波数軸上で連続させることも可能であることが知られている(例えば、非特許文献1)。
さらに、メタマテリアルから導波管を形成した導波管型の線路がすでに提案されている(例えば、非特許文献2および非特許文献3参照)。この非特許文献2および非特許文献3に示されている導波管型の線路を図10(a)に示す、図10(a)に示すように、導波管型の線路100は、矩形導波管101の底面102に溝103が周期的に形成されたものである。矩形導波管101の横幅aは、使用する波長の半分よりも小さい値としているため、使用周波数は矩形導波管101の遮断周波数以下となる。また,矩形導波管101の底面102に形成されている溝103は、伝送方向がz軸方向の先端短絡の導波管とみなすことができるが、使用周波数が遮断周波数以下であるため、溝103は導波管モードを伝送することができない。
この導波管型の線路100は、溝103に誘電体104を充填すると、溝103の遮断周波数が矩形導波管101の遮断周波数よりも低くなるため、溝103の構造であっても、導波管モードを伝送できる状態となる。したがって、導波管型の線路100では、矩形導波管101のx軸方向に沿って分布するインピーダンスに溝103のインピーダンスが周期的に加わった線路となる。そのため、この溝103の深さdを調節することで、矩形導波管101には、直列にキャパシタンス、矩形導波管101の使用周波数が遮断周波数以下であるので、並列にインダクタンスが、x軸方向に分布した線路となる。
これらのキャパシタンスおよびインダクタンスの作用により、線路を構成する媒質の等価的な誘電率εと透磁率μはともに負となり、遮断周波数以下のある一定の周波数帯域において伝送される電磁波の群速度と位相速度の符号を異符号とすることができる。つまり、メタマテリアルによる導波管型左手系線路を実現できる。一方、矩形導波管101の使用周波数が遮断周波数以上のときは、導波管型右手系線路となり、遮断周波数以上のある一定の周波数帯域において伝送する電磁波の群速度と位相速度の符号を同符号とすることができる。
また、非特許文献3には、導波管型の線路を用いた漏れ波アンテナが提案されている。図10(b)に示すように、漏れ波アンテナ110は、導波管型の線路100の溝103の先端を開放したもので、この部分を漏れ波アンテナ110の開口部105として利用している。この漏れ波アンテナ110は、線路の左手系伝送帯域を利用しているので、線路を伝送する電磁波の群速度と位相速度の符号は異符号である。したがって,電磁波の位相はこの線路の伝送方向に沿って進むため、図10(b)中のθの向き(後方)にビームを走査することができるものである。
Atsushi Sanada, Christophe Caloz and Tatsuo Itoh, "Characteristics of the Composite Right/Left-Handed Transmission Lines," IEEE Microwave and Wireless Component Letters, Vol1.14, No.2 pp.68-70, February 2004. 久保 洋,笹井 雅彦, 真田 篤志,"導波管型左手系線路とアンテナへの応用," 信学総大,BS-1-5, March 2007 Islam A. Eshrah, Ahmed A. Kishk, Alexander B. Yakovlev, and Allen W. Glisson,"Rectangular Waveguide With Dielectric-Filled Corrugations Supporting Backward Waves,"IEEE Trans. Microw.,vol. MTT-53,no.11,pp.3298-3304,Nov. 2005.
しかし、前記した従来の導波管型の線路、あるいは、この線路を用いた漏れ波アンテナにおいては、以下に示すような問題点が存在していた。
非特許文献2、非特許文献3に開示された導波管型の右手/左手系線路においては、左手系線路を実現するために、矩形導波管の底面に周期的に多数配置された溝ごとに誘電体を充填することが必要となる。したがって、導波管型の右手/左手系線路の構造が複雑となるという問題点があった。さらに、この線路を利用して漏れ波アンテナを構成した場合、アンテナの構造が複雑になるという問題点があった。
本発明は、前記した問題点に鑑み創案されたものであり、導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路のいずれかである導波管型線路であり、より簡易な構成で実現できる導波管型線路およびそれを利用した漏れ波アンテナを提供することを課題とする。
本発明に係る導波管型線路は、前記した課題を解決するため、以下のような構成とした。すなわち、導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路のいずれかである導波管型線路であって、広壁面および狭壁面により矩形管状に形成された第1導波管と、この第1導波管の広壁面に設けられ、前記広壁面に直交する方向に溝深さを形成した溝部を前記管軸方向に沿って所定間隔で形成した周期構造体と、を備える導波管型線路において、前記溝部は、前記広壁面と平行な溝部断面開口の長手中心線が、前記広壁面と平行な面内において前記第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して所定角度で傾斜するように形成されている導波管型線路とした。
このように構成したので、導波管型線路は、第1導波管の管軸方向に直交する方向の横幅に対して、周期構造体のそれぞれの溝部が構成する導波管の断面開口(溝部断面開口)の長手中心線(開口の長辺側)における開口長さ寸法が大きく(長く)なる。そのため、周期構造体のそれぞれの溝部が構成する導波管の遮断周波数は第1導波管の遮断周波数よりも低くなって、溝部は導波管モードを伝送できるので、溝部の中に誘電体を充填しなくても、溝部は導波管内でインピーダンス回路として動作する。したがって、導波管型線路は、第1導波管の横幅に対して、第1導波管から周期構造体のそれぞれの溝部を見ると、先端が短絡された導波管とみなせるので、溝部の深さを調整することで、導波管型右手系線路として構成することや、また、導波管型左手系線路として構成することや、あるいは、導波管型右手/左手系複合線路とすることができる。
また、本発明に係る漏れ波アンテナは、導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路のいずれかである導波管型線路であって、広壁面および狭壁面により矩形管状に形成された第1導波管と、この第1導波管の広壁面に設けられ、前記広壁面に直交する方向に溝深さを形成した溝部を前記管軸方向に沿って所定間隔で形成した周期構造体と、前記第1導波管の一方および他方の端面に接続され、当該第1導波管の横幅よりも大きく形成された導波管型の入力ポートおよび出力ポートと、を備える導波管型線路を用いて形成される漏れ波アンテナにおいて、前記溝部は、前記広壁面と平行な溝部断面開口の長手中心線が、前記広壁面と平行な面内において前記第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して所定角度で傾斜させて形成し、前記第1導波管の管軸方向に沿って前記広壁面に1つまたは複数のスロットが形成された構成とした。
なお、本発明に係る漏れ波アンテナは、一つまたは複数のスロットが形成される位置を広壁面に代えて狭壁面に形成する構成としても構わない。
このように構成したので、漏れ波アンテナは、入力ポートの横幅と第1導波管の横幅を異なるようにしているため、入力ポートから入力された電磁波が、導波管型右手/左手系複合線路内を管軸方向(x軸方向)に沿って伝送する。そして、導波管型右手/左手系複合線路を構成する第1導波管の広壁面あるいは狭壁面に、スロットが形成されているため、電磁波のエネルギーは、導波管型右手/左手系複合線路内を伝送しながらスロットから徐々に漏れていくことになり、漏れ波アンテナとし機能することになる。そして、漏れ波アンテナでは、周波数を例えば、図6で示すように、(a)60.025GHz、(b)60.7GHz、(c)61.6GHz、(d)61.825GHzと変化させると、ビームの放射角度θは−9°から+3°となり、ビームを後方から前方へ連続的に走査するようにできることがわかる。また、さらに周波数範囲を広げて,59GHzから64GHzとした場合、ビームの放射角度θは−20°から+11°となり前方から後方向へ連続してビームを走査できる。
本発明に係る導波管型線路は、周期構造体の溝部を、第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して、傾斜させて設けていることにより、導波管型右手系線路、導波管型左手系線路あるいは導波管型右手/左手系複合線路のいずれであっても、簡易な構成で実現することができる。
また、本発明に係る漏れ波アンテナは、周期構造体の溝部を、第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して、傾斜させて設けた導波管型線路を使用しているため、簡易な構成で、かつ、正面方向を含み後方から前方へと広範囲にビームを走査することを可能とする。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
図1(a)は、導波管型右手/左手系複合線路を示す斜視図、(b)は導波管型右手/左手系複合線路の分解斜視図、図2(a)は導波管型右手/左手系複合線路の周期構造体を一部断面にして示す平面図、(b)は(a)のII−II線における断面図、図3(a)は、第1導波管(溝部3のない通常の矩形導波管)の等価回路を説明するためのブロック図、(b)は、導波管型右手/左手系複合線路の等価回路を示すブロック図、図4は、導波管型右手/左手系複合線路における位相定数の周波数分散特性を示すグラフ図である。
なお、以下の説明においては、電磁波はミリ波帯の電波であるものとして説明する。また、導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路を導波管型線路(以下、本線路ともいう)とし、ここでは、特に、導波管型右手/左手系複合線路を中心に説明する。
図1(a)、(b)に示すように、導波管型右手/左手系複合線路(導波管型線路)10は、矩形管状に形成された第1導波管1と、この第1導波管1の広壁面1aに対面する位置に設けられた周期構造体2とを備えている。なお、第1導波管1と周期構造体2とは、それぞれ別体に形成して接続あるいは溶接して導波管型右手/左手系複合線路(導波管型線路)10として構成すること等、製造手順は特に限定されるものではない。
第1導波管1は、金属により形成されており、長方形に形成された広壁面1aと、この広壁面1aの横幅より小さな横幅に形成された一対の狭壁面1b,1bと、によりコ字形状に形成され、後記する周期構造体2の上面とに囲まれて、矩形導波管として機能するように形成されている。
図2(a)、(b)に示すように、周期構造体2は、第1導波管1の管軸方向xに沿って所定間隔で溝部3が複数設置されている。この周期構造体2は、第1導波管1の管軸方向xに直交する方向z(図2の矢印の方向を+z方向としたときに−z方向)、つまり、一方の広壁面1aに直交する方向に沿って、溝部3が形成されている。この周期構造体2は、ここでは、溝部3の位置が一つの導波管(第2導波管)を構成し、その導波管が管軸方向xに周期的に配置されている状態のものをいう。そして、周期構造体2の溝部3は、ここでは、溝部断面開口形状が平行四辺形に形成され、その平行四辺形の長手中心線C(長辺3a)が、第1導波管1の管軸方向xに(広壁面1aに平行な面内において)直交する方向yに対して所定の傾斜角度φとなるように形成されている。また、溝部3は、その溝部断面開口形状である平行四辺形の短辺3b,3bが、第1導波管1の横幅aの両端となる位置に揃えて形成されている。そして、溝部3は、例えば、傾斜角度φが、0<φ<90度となる範囲に形成されている。
以下、導波管型右手/左手系複合線路10の動作原理を、等価回路を用いて説明する。
図3に示すように、電波P1は第1導波管1の一方の入力ポートとなる開口側から入力され、第1導波管1の他方の出力ポートとなる端面から電波P2が出力される。
このとき、図3(a)に示すように、第1導波管1(溝部3のない通常の矩形導波管)の等価回路は、直列インピーダンスZrse22と並列アドミッタンスYrsh23からなり、これらが第1導波管1のx軸方向に沿って分布している状態となる。なお、直列インピーダンスZrse22と並列アドミッタンスYrsh23は、x軸方向に沿う周期p当たりのインピーダンスとする。ここで、第1導波管1においては、伝送モードは、電界の方向がz軸(図1参照)に平行で、x軸方向に電界の成分を持たないTE10モード(導波管の基本モード)とする。このように基本モードを設定した場合、使用周波数が第1導波管1の遮断周波数以上、つまり第1導波管1が電波を伝送できる周波数領域では、直列インピーダンスZrse22は誘導性となり、並列アドミッタンスYrsh23は容量性となる。また、使用周波数が遮断周波数以下では、直列インピーダンスZrse22、並列アドミッタンスYrsh23は、ともに誘導性となる。
図2に示すように、第1導波管1の横幅をaとして、溝部3を、第1導波管1から見た場合、先端が短絡された横幅A(=a/cosφ)の平行四辺形型の導波管(伝送方向はz方向)とみなせるので、図3(b)に示すように、導波管型右手/左手系複合線路10の等価回路は、第1導波管1のx軸方向に沿って分布する周期p当たりの直列インピーダンスZrse22と並列アドミッタンスYrsh23に、溝部3のインピーダンスZ24を周期的に直列に加えた回路となる。そして、インピーダンスZ24は、溝部3の溝深さdにより変化させることができるため、ここでは溝深さdを調整することで、導波管型右手/左手系複合線路10として設定している。なお、周期構造体2は、金属で形成されることが好ましい。
ここで示す等価回路においては、使用周波数が第1導波管1の遮断周波数よりも大きい場合、並列アドミッタンスYrsh23は容量性となる。また、周期構造体2を構成する溝部3により、図3(b)で示す等価回路は、直列インピーダンスZrse22と並列アドミッタンスYrsh23に溝部3のインピーダンスZ24を直列に加えた回路となる。したがって、溝部3の溝深さdを調節して直列インピーダンスZrse22+Z24を誘導性にすることで、直列にインダクタンスが、並列にキャパシタンスが本線路に沿って分布するので、本線路を構成する媒質の等価的な誘電率εと透磁率μはともに正となり、本線路は右手系導波管型線路として設定することができる。
一方、第1導波管1の使用周波数が遮断周波数以下でも、溝部3の溝部断面開口の長手中心線Cにおける開口長さ(長辺3a)となる横幅Aは、第1導波管1の横幅aよりも大きいので、周期構造体2のそれぞれの溝部3が構成する導波管の遮断周波数は第1導波管の遮断周波数よりも低くなり、溝部3は、使用周波数が第1導波管1の遮断周波数よりも大きい場合と同様に、導波管の電磁界モード(z軸方向に電界の成分を持たない伝送モード)を伝送できる。したがって、溝深さdを調節して本線路の直列インピーダンスZrse22+Z24を容量性にすれば、遮断周波数以下ではアドミッタンスYrsh23は誘導性であるから、本線路は直列にキャパシタンスが分布し、かつ、並列にインダクタンスが分布するので、本線路を構成する媒質の等価的な誘電率εと透磁率μはともに負となり、本線路は導波管型左手系線路となって電磁波を伝送できるようにすることができる。
ここでは、第1導波管1の横幅aと、溝部3の溝深さdと、を左手系伝送帯域と右手系伝送帯域が周波数軸上で連続し、バンドギャップがない状態となるように設定して導波管型右手/左手系複合線路10とした場合、以下のようなことが分かる。
すなわち、図3の等価回路から本線路の位相定数β(伝送方向の単位長さあたりの位相変化)を計算することができる。本線路の規格化位相定数β/k(k:自由空間の波数) の周波数分散特性の計算例を図4に示す。図4において、横軸は規格化位相定数β/k、縦軸は周波数を表わす。ここでは,右手系伝送モードと左手系伝送モードの遮断周波数(それぞれのモードの位相定数が0となる周波数)が同一(f=61.6GHz)となるように第1導波管1の横幅aと、周期構造体2の溝部3の溝深さdとを調節している。
そして、図4に示す状態として、具体的な各構成を設定した場合の一例として、導波管型右手/左手系複合線路10は、その溝部3の長手中心線Cの方向yに対する傾斜角度φは30°とし、第1導波管1の横幅aは2.43mmとし、溝部3の深さdは3.36mmとし、溝部3の周期pは2.0mmとし、第1導波管1の高さbは1.2mmとした。この導波管型右手/左手系複合線路10は、溝部3の周期pを、周波数61.825GHzとしたとき、導波管の管内波長の約1/10となる。
図4に示すように,遮断周波数fよりも高い周波数では、位相定数βの値は正となり、また、遮断周波数fよりも低い周波数では、位相定数βの値は負となっている。つまり,遮断周波数fよりも高い周波数範囲では,位相速度(ω/β)の値は正となり、分散曲線の傾きで表わされる群速度(∂ω/∂β)の値は正となり、これらの符号が同符号であることから、導波管型右手系線路として動作することがわかる。ただし、ωは角周波数(2π*周波数f)を表わす。
一方、遮断周波数fよりも低い周波数範囲では、位相速度(ω/β)の値は負,分散曲線の傾きで表わされる群速度(∂ω/∂β)の値は正となり,これらの符号が異符号であることから、導波管型左手系線路として動作することがわかる。
また、すでに説明したように、本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路10は、第1導波管1の横幅aと溝部3の溝深さdとを調節することにより、右手系伝送帯域と左手系伝送帯域が遮断周波数f(=61.6GHz)を挟んで連続的に実現できる。
このように、導波管型右手/左手系複合線路10は、溝部3の長手中心線C(長辺3a)が第1導波管1の管軸方向xに直行する方向yに対して、所定の傾斜角度φとなるように設定されているため、第1導波管1の使用周波数が遮断領域であっても、溝部3は導波管モードを伝送することができる。これによって、溝部3は、使用周波数が遮断領域にある第1導波管1において直列インピーダンス回路として動作する。したがって,誘電体材料を使わなくても,簡易な構成で導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、導波管型右手/左手系の複合線路のいずれにおいても実現することが可能となる。
つぎに、すでに説明した導波管型右手/左手系複合線路10を使用する漏れ波アンテナ30について説明する。なお、以下に説明する図5ないし図9では、漏れ波アンテナにおいて、導波管型右手/左手系複合線路10ですでに説明した構成については、同じ符合を付して説明を省略する。
図5(a)、(b)に示すように、漏れ波アンテナ30は、導波管型右手/左手系複合線路10と、この導波管型右手/左手系複合線路10における第1導波管1の一方の端面に設けた入力ポート32と、第1導波管1の他方の端面に設けた出力ポート34と、第1導波管1の広壁面1aに形成したスロット31と、を備えている。
図6(a)〜(d)に示すように、入力ポート32および出力ポート34は、それぞれテーパ型矩形導波管により形成され、ここでは左右対称となるように設置されている。この入力ポート32の開口幅は、第1導波管1の横幅aよりも大きくなるように形成され、つまり、入力ポート32の接続面33における横幅a1は、第1導波管1の横幅aよりも大きくなるように設定されている。同様に、出力ポート34の開口幅は、第1導波管1の横幅aよりも大きくなるように形成され、つまり、出力ポート34の接続面35における横幅a1が、第1導波管1の横幅aより大きくなるように設定されている。
入力ポート32および出力ポート34の横幅と、第1導波管1の横幅aとが同じ寸法であると、第1導波管1の遮断周波数f以下のとき、テーパ型矩形導波管である入力ポート32あるいは出力ポート34内を電波が伝送できなくなる。そのため、入力ポート32および出力ポート34を第1導波管1の横幅aと異なる(大きい)寸法で形成して、第1導波管1の遮断周波数f以下のとき、テーパ型矩形導波管とした入力ポート32および出力ポート34内において、電波を伝送できるようにしている。
第1導波管1の広壁面1aに形成したスロット31は、第1導波管1内を伝送する電波を外部に放射するためのものである。このスロット31は、ここでは、広壁面1aに管軸方向に平行に連続する線状として形成されている。
なお、第1導波管1、周期構造体2、溝部3の構成は、すでに説明したので、ここでは、その説明を省略する。
つぎに、導波管型右手/左手系複合線路10を用いた漏れ波アンテナ30の一例となる具体的な寸法と併せて動作を説明する。
漏れ波アンテナ30は、入力ポート32から入力された電磁波が、導波管型右手/左手系複合線路10内をx軸方向に沿って伝送する。導波管型右手/左手系複合線路10を構成する第1導波管1の上壁面となる広壁面1aに、スロット31が形成されているため、電磁波のエネルギーは、導波管型右手/左手系複合線路10内を伝送しながらスロット31から徐々に漏れていく。したがって、このスロット31は、漏れ波アンテナ30の開口として動作している。
なお、ここでは、テーパ型矩形導波管からなる入力ポート32の入力端面36およびテーパ型矩形導波管からなる出力ポート34の出力端面37は、導波管の規格サイズ(例えば、WR−15:横幅=3.76mm、高さ=1.88mm)と同一となるように導波管のサイズ(横幅と高さ)を任意に調節できる。入力ポート32および出力ポート34において、テーパ形状になっているのは、導波管の規格サイズから第1導波管1のサイズに近づけるためである。
漏れ波アンテナ30は、入力ポート32側の接続面33、および、出力ポート34側の接続面35が、第1導波管1と接合する部分である接合面において、第1導波管1の横幅aよりも大きくなるように、つまり遮断周波数を低くしているので、入力ポート32から第1導波管1、周期構造体2を介して出力ポート34まで電波が伝送できる。また、漏れ波アンテナ30は、スロット31から放射する漏れ波ビームの放射角度をθ(xz面におけるz軸とのなす角度)とすると、次の(1)式により与えられる。なお、(1)式中、βは導波管型右手/左手系複合線路10の位相定数、kは自由空間の波数を表す。
Figure 0004644262
(1)式
この漏れ波アンテナ30では、導波管型右手/左手系複合線路10の位相定数βの周波数分散特性を用いることによって、ビームを周波数により走査することができるものである。
漏れ波アンテナ30では、図4に示すグラフ図における周波数と規格化位相定数の関係を示す計算結果を用いた場合、使用周波数が第1導波管1の遮断周波数f(=61.6GHz)以下のとき、アンテナ設計段階において、導波管型右手/左手系複合線路10として構成される部分は左手系線路となることで、位相定数βの符号が負になる。そのため、漏れ波アンテナ30では、ビームの放射角度θは、θ<0°となる。したがって、そのような構成の漏れ波アンテナ30であれば、図5において、後方(x−z平面においてz軸と−x軸で囲まれる範囲)に、電波を放射する構成となる。
また、漏れ波アンテナ30では、使用周波数が第1導波管1の遮断周波数f(=61.6GHz)以上のとき、導波管型右手/左手系複合線路10として構成される部分が右手系線路となって位相定数βの符号が正になる。そのため、漏れ波アンテナ30では、ビームの放射角度θは、θ>0°となる。したがって、そのような構成の漏れ波アンテナ30であれば、図5において、前方(x−z平面においてz軸とx軸で囲まれる範囲)に、電波を放射する構成となる。
一方、漏れ波アンテナ30では、使用周波数が第1導波管1の遮断周波数fのときは、位相定数βが0となるため、ビームの放射角度θは、θ=0°(z軸方向)となる。そのため、そのような構成の漏れ波アンテナ30であれば、図5において、z方向となる正面方向に電波を放射する構成となる。
図4のグラフにおける計算で使用した曲線から示されるパラメータを使用して、この漏れ波アンテナ30の放射電界のy軸方向成分(Ey)のx−z面放射パターンを計算した結果を図7に示す。図7において、横軸はビームの放射角度θ(deg)、縦軸は利得(dBi)を表す。なお、このときの漏れ波アンテナ30における溝部3の数は18個、スロット31のx軸方向の長さは35mm、スロット幅(スロットのy方向の寸法、あるいは、スロットの短手方向の寸法)は0.1mmとした。また、第1導波管1にスロット31を設けること等により、遮断周波数が若干ずれるため、遮断周波数をf=61.6GHzになるように、第1導波管1の横幅aと溝部3の溝深さdを再調整して、それぞれ横幅aを2.4mmとし、溝深さdを3.2mmとしている。周波数が第1導波管1の遮断周波数である61.6GHzのときは、ビームの放射角度θが、θ=0°(正面方向)となっている。
また、周波数を(a)60.025GHz、(b)60.7GHz、(c)61.6GHz、(d)61.825GHzと変化させると、ビームの放射角度θは−9°から+3°となり、ビームを後方から前方へ連続的に走査するようにできることがわかる。また、さらに周波数範囲を広げて,59GHzから64GHzとした場合、ビームの放射角度θは−20°から+11°となる。以上のように、漏れ波アンテナ30では、正面方向を含む後方から前方へと広範囲にビームを走査するように構成できることが分かる。
スロット31は、y方向の位置については、広壁面1aのほぼ中央に形成されているが、このy方向の位置により漏れ波アンテナ30の漏れ定数(漏れ波アンテナの放射電力量)を調整することができる。ここでは、スロット31は、中央よりy軸のプラス方向に0.1mmずらした位置に形成している。
なお、漏れ波アンテナ30において、スロット31は、第1導波管1の広壁面1aに管軸方向xに沿って所定長さで連続して形成されていることとして示したが、図8および図9に示すような構成であっても構わない。なお、図8および図9に示す漏れ波アンテナ30a〜30fにおいて、すでに説明した構成は同じ符合を付して説明を省略する。
図8(a)に示すように、漏れ波アンテナ30aは、第1導波管1の広壁面1aに管軸方向xに所定間隔で複数のスロット31aを形成している。このスロット31aは、管軸方向xに直行する方向y(広壁面1aに平行な面内において、方向xに直行する方向)に対して所定角度傾斜するようにして形成されている。このスロット31aのスロット幅、スロット長さ、スロット間隔、スロットの傾斜角度は、取り扱う電波の周波数により設定される。また、スロット31aのy方向におけるスロット形成位置は、所望の漏れ波アンテナの漏れ定数(放射電力量)により設定される。
図8(b)に示すように、漏れ波アンテナ30bは、第1導波管1の広壁面1aに管軸方向xに所定間隔で複数のスロット31bを形成している。このスロット31bは、管軸方向xに直行する方向yに対して平行になるようにして形成されている。このスロット31bのスロット幅、スロット長さ、スロット間隔は、取り扱う電波の周波数により設定される。また、スロット31bのy方向におけるスロット形成位置は、所望の漏れ波アンテナの漏れ定数(放射電力量)により設定される。
図8(c)に示すように、漏れ波アンテナ30cは、第1導波管1の広壁面1aに管軸方向xに所定間隔で複数のスロット31cを形成している。このスロット31cは、管軸方向xに対して平行に、複数が形成されている。このスロット31cのスロット幅、スロット長さ、スロット間隔は、取り扱う電波の周波数により設定される。また、スロット31cのy方向におけるスロット形成位置は、所望の漏れ波アンテナの漏れ定数(放射電力量)により設定される。
また、図9(a)に示すように、漏れ波アンテナ30dは、第1導波管1の狭壁面1bに管軸方向xに沿ってスロット31dを形成している。このスロット31dは、管軸方向xに対して平行に線状の溝が所定長さで連続して形成されている。このスロット31dのスロット幅、スロット長さが、取り扱う電波の周波数により設定される。また、スロット31dのz方向におけるスロット形成位置は、所望の漏れ波アンテナの漏れ定数(放射電力量)により設定される。
図9(b)に示すように、漏れ波アンテナ30eは、第1導波管1の広壁面1aに管軸方向xに所定間隔で複数のスロット31eを形成している。このスロット31eは、管軸方向xに対して平行に、複数が形成されている。このスロット31eのスロット幅、スロット長さ、スロット間隔は、取り扱う電波の周波数により設定される。また、スロット31eのz方向におけるスロット形成位置は、所望の漏れ波アンテナの漏れ定数(放射電力量)により設定される。
図9(c)に示すように、漏れ波アンテナ30fは、第1導波管1の広壁面1aに管軸方向xに所定間隔で複数のスロット31fを形成している。このスロット31fは、管軸方向xに直行する方向z(狭壁面1bに平行な面内において、方向xに直行する方向)に対して所定角度傾斜するようにして形成されている。このスロット31fのスロット幅、スロット長さ、スロット間隔、傾斜角度は、取り扱う電波の周波数により設定される。また、スロット31fのz方向におけるスロット形成位置は、所望の漏れ波アンテナの漏れ定数(放射電力量)により設定される。
図8および図9で説明した漏れ波アンテナ30a〜30fは、図5に示す漏れ波アンテナ30とほぼ同等のアンテナ特性を発揮できるものである。
以上説明したように、本発明の導波管型線路を利用することにより、簡易な構成で漏れ波アンテナ30を実現することができる。さらに、漏れ波アンテナ30(30a〜30f)は導波管型右手/左手系複合線路の特徴を利用することにより、周波数の変化で正面方向を含む後方から前方へと広範囲に連続的にビームを走査することが可能となる。また、左手系伝送帯域と右手系伝送帯域を周波数軸上で連続させているが、右手系伝送帯域と左手系伝送帯域の間にバンドギャップを生じさせて、導波管型右手系線路あるいは導波管型左手系線路あるいはそれらを使用した漏れ波アンテナとして使用してもよい。
そして、周期構造体2の溝部3は、その溝部断面開口の長手中心線C(長辺3a)における傾斜角度φとして、一例である30°として説明したが、0<φ<90の範囲であれば、その傾斜角度はよく、例えば、15〜60°の範囲であれば、より加工しやすく都合がよい。もちろん、傾斜角度φの傾き方向は、図2(a)に示す方向を右傾斜としたときに、左傾斜で0<φ<90の範囲として設定しても構わない。
また、導波管型右手/左手系複合線路10を使用して漏れ波アンテナ30(30a〜30f)等の使用する機器により、電磁波はミリ波帯以外の電磁波を用いてもよいことはもちろんである。
さらに、漏れ波アンテナ30,30dを構成するために第1導波管1の伝送方向に沿ってスロット31,31dを配置しているが、このスロット31,31dは伝送方向の軸に対して傾斜して配置してもよい。また、スロット31〜31fの形状、設置数、設置間隔、傾斜角度、形成位置、溝形状等は、使用される機器に合わせて設定され、図5、図8、図9以外のものであっても構わない。そして、入力ポート32および出力ポート34は、テーパ導波管として説明したが、第1導波管1の横幅aより大きな横幅となる矩形導波管であっても構わない。
以上、説明したように、本発明の導波管型右手/左手系複合線路10から構成される漏れ波アンテナ30(30a〜30f)は、後方から前方へと広範囲にビームを走査できるという効果を有し、イメージングやレーダー用のアンテナとして有効である。本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路10は、アンテナ以外にも結合器,共振器,分配器等にも応用できる。
(a)は、本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路を示す斜視図、(b)は、本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路の一部を断面にした分解斜視図である。 (a)は、本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路の周期構造体を一部断面にして示す平面図、(b)は(a)のII−II線における断面図である。 (a)は本発明に係る第1導波管(溝部3のない通常の矩形導波管)の等価回路を説明するためのブロック図、(b)は本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路の等価回路を示すブロック図ある。 本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路における位相定数の周波数分散特性を示すグラフ図である。 (a)は、本発明に係る漏れ波アンテナを示す斜視図、(b)は、本発明に係る導波管型右手/左手系複合線路の一部を断面にして示す分解斜視図である。 (a)、(b)は本発明に係る漏れ波アンテナの構成を示す平面図および側面図、(c)、(d)は(a)のX−X線における断面図および(b)のY−Y線における断面図である。 本発明に係る漏れ波アンテナの放射パターンを示すグラフ図である。 (a)〜(c)は、本発明に係る漏れ波アンテナの他の構成を示す斜視図である。 (a)〜(c)は、本発明に係る漏れ波アンテナの他の構成を示す斜視図である。 (a)、(b)は、従来の導波管型左手系線路の構成を示す模式的に示す斜視図である。
符号の説明
1 第1導波管
1a 広壁面
1b 狭壁面
2 周期構造体
3 溝部
3a 長辺(溝部断面開口の長辺)
3b 短辺(溝部断面開口の短辺)
10 導波管型右手/左手系複合線路
30 漏れ波アンテナ
31 スロット

Claims (3)

  1. 導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路のいずれかである導波管型線路であって、広壁面および狭壁面により矩形管状に形成された第1導波管と、この第1導波管の広壁面に設けられ、前記広壁面に直交する方向に溝深さを形成した溝部を前記管軸方向に沿って所定間隔で形成した周期構造体と、を備える導波管型線路において、
    前記溝部は、前記広壁面と平行な溝部断面開口の長手中心線が、前記広壁面と平行な面内において前記第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して所定角度に傾斜させて形成したことを特徴とする導波管型線路。
  2. 導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路のいずれかである導波管型線路であって、広壁面および狭壁面により矩形管状に形成された第1導波管と、この第1導波管の広壁面に設けられ、前記広壁面に直交する方向に溝深さを形成した溝部を前記管軸方向に沿って所定間隔で形成した周期構造体と、前記第1導波管の一方および他方の端面に接続され、当該第1導波管の横幅よりも大きく形成された導波管型の入力ポートおよび出力ポートと、を備える導波管型線路を用いて形成される漏れ波アンテナにおいて、
    前記溝部は、前記広壁面と平行な溝部断面開口の長手中心線が、前記広壁面と平行な面内において前記第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して所定角度に傾斜させて形成し、
    前記第1導波管の管軸方向に沿って前記広壁面に1つまたは複数のスロットが形成されたことを特徴とする漏れ波アンテナ。
  3. 導波管型右手系線路、導波管型左手系線路、または、導波管型右手/左手系複合線路のいずれかである導波管型線路であって、広壁面および狭壁面により矩形管状に形成された第1導波管と、この第1導波管の広壁面に設けられ、前記広壁面に直交する方向に溝深さを形成した溝部を前記管軸方向に沿って所定間隔で形成した周期構造体と、前記第1導波管の一方および他方の端面に接続され、当該第1導波管の横幅よりも大きく形成された導波管型の入力ポートおよび出力ポートと、を備える導波管型線路を用いて形成される漏れ波アンテナにおいて、
    前記溝部は、前記広壁面と平行な溝部断面開口の長手中心線が、前記広壁面と平行な面内において前記第1導波管の管軸方向に直交する方向に対して所定角度に傾斜させて形成し、
    前記第1導波管の管軸方向に沿って前記狭壁面に1つまたは複数のスロットが形成されたことを特徴とする漏れ波アンテナ。
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