JP4636623B2 - N−アセチルグルコサミニダーゼ阻害活性を有する化合物 - Google Patents

N−アセチルグルコサミニダーゼ阻害活性を有する化合物 Download PDF

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Description

本発明は、N−アセチルグルコサミニダーゼ(以下、「GlcNAcase」とも略称する)阻害活性を有する化合物、それを含有する殺虫・殺菌組成物、農薬、園芸資材、食品添加剤、及び食品、ならびにN−アセチルグルコサミニダーゼ阻害活性を有する化合物の製造方法に関する。
昆虫及び菌類の生育の過程においてはキチンの分解代謝が不可欠であり、その分解代謝に関与する酵素としてキチナーゼとβ−N−アセチルグルコサミニダーゼとが知られている。GlcNAcase阻害剤の探索研究はこれまでに幅広くなされており、既に多くの化合物が見出されている(例えば非特許文献1参照)。
天然由来の強力なGlcNAcase阻害剤を見出すことができれば、そのような化合物は有害昆虫や有害菌の生育を特異的に妨げることができ、しかも環境への残留による負荷はほとんどないと考えられることから、環境に優しい害虫駆除剤や抗菌剤として期待される。しかしながら、天然由来の化合物には、強力なGlcNAcase阻害活性を有するものが少なく、放線菌Streptomyces amakusaensisが生産するナグスタチンが知られているにすぎない(例えば特許文献1参照)。ナグスタチンに耐性を有する害虫に対する効果的な薬剤はほとんど報告されていない。
Pharmacol. Ther., 76 187-218, (1997) 特開平1−290675号公報
本発明は、強力なGlcNAcase阻害活性を有する新規化合物を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、糸状菌及び/又は放線菌、特にPochonia属、Verticillium属、Cordyceps属、Paecilomyces属、Streptomyces属、Actinomyces属などに属する微生物の培養物から、GlcNAcase阻害活性を有する優れた新規化合物を見出すことに成功し、本発明を完成した。
即ち本発明は、以下よりなる。
1.以下の一般式Iで示される化合物。
式I:
Figure 0004636623
(式中、Rはメチル基であり、Rはヒドロキシメチル基であり、 が水素であり、R 〜Rは、各々同一又は異なって水素若しくは水酸基から選択され、CH −NH−CO−R基がS−エピマーの立体配置であり、R 〜R が各々水酸基である場合には、R およびR がR−エピマーの立体配置であり、R がS−エピマーの立体配置である。
2.式Iで表される化合物において、R、RおよびRが水酸基である、前項1に記載の化合物。
3.前項1または2に記載の化合物を含有することを特徴とする殺虫性又は殺菌性組成物。
4.前項1または2に記載の化合物を産生し得るPochonia属の菌類を培養し、その培養物から前項1または2に記載の化合物を取得することを特徴とする、前項1または2に記載の化合物の製造方法。
5.前項4に記載のPochonia属の菌類が、受託番号FERM P-21204として受託されているPochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株である、前項1または2に記載の化合物の製造方法。
本発明の新規化合物は、既存のGlcNAcase阻害活性を有する化合物であるナグスタチン(特許文献1)と異なる母骨格を有し、しかもナグスタチンと同等以上の強力なGlcNAcase阻害活性を有することが確認された。本発明の新規化合物又は本化合物を含有する組成物は、環境への負荷が少ない農園芸用又は食品添加物として有用であり、ナグスタチンに耐性を有する害虫や有害菌に対する薬剤として、特に有用である。
本発明の化合物は、以下の一般式Iで示される。
式I:
Figure 0004636623
(式中、Rは水素、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アシル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。R〜Rは、各々同一又は異なって水素、水酸基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アルコキシ基、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、飽和若しくは不飽和の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択される。)
一般式Iにおいて、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は、各々シクロアルキル基、シクロアルケニル基及びシクロアルキニル基であっても良い。ここで用いられるシクロアルキルは、飽和環式炭素鎖を意味し、シクロアルケニル及びシクロアルキニルは、それぞれ、少なくとも1つの二重又は三重結合を含む環式炭素鎖を意味する。シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基及びアリール基は単環、多環又は縮合環式であっても良い。
具体的には、Rは、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であるのが特に好適である。Rは、炭素数1〜10のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、ヒドロキシメチル基であるのが特に好適である。R〜Rは、各々同一又は異なって、水素原子又は水酸基であることが好ましく、Rが水素原子、R〜Rが水酸基であることが特に好適である。
上記から選択される化合物として、以下の式IIに示される化合物が特に好適である。
式II:
Figure 0004636623
本発明において、式IIで表される化合物には、ピロリジジン環におけるメチレン以外の炭素及び窒素における水素原子の向きが異なる異性体(エピマー)が存在する。これらいずれかの異性体及びその任意の混合物はすべて本発明に属するものとする。
上記式IIで表される化合物に含まれる異性体の一つの例として、以下の式IIIで示される化合物が挙げられる。
式III:
Figure 0004636623
本発明の化合物は、一般式Iで示される化合物であり、例えば式IIやさらには式IIIで示される化合物や、さらにその薬剤上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかであってもよい。
本発明において、薬剤上許容される塩とは、殺虫性又は殺菌性組成物、あるいは食品添加剤用として使用される薬剤として許容される塩が挙げられる。そのような塩として、具体的には以下が例示される。
塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;たとえばN,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、りんご酸塩、くえん酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
本発明の化合物は、例えば糸状菌又は放線菌、例えばPochonia属、Verticillium属、 Cordyceps属、Paecilomyces属、Streptomyces属、Actinomyces属などに属する微生物、好ましくはVerticillium属に属する微生物、さらに好ましい具体的な例としては、本発明者らが東京都町田市玉川学園の土壌より新たに分離したVerticillium属、Prostrata節に属し、現在はPochonia属に分類されているPochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株などの微生物を培養し、その培養物から取得することができる。特に好適には、TAMA 87株の培養物から取得することができる。
TAMA 87株の菌学的性質を以下に詳述する。
(1)各培地における生育状態
三浦培地(LCA)培地上での生育は比較的遅く、室温、15日間培養の近紫外光照射下で直径24.0〜25.1mm(生育率1.63-1.67mm/日)、暗黒下で27.5〜30.4mm(生育率1.83-2.0mm/日)に達した。暗黒下での生育は、近紫外光照射下よりも良好である。LCA培地上での菌糸は周縁部が薄く、ビロード状、縄状に広がり、中心ほど菌糸が密になり、中心部の菌糸は盛り上がる。裏も白色(マンセルN)で中心から同心円状に菌糸の濃淡が年輪のように認められる。
麦芽エキス寒天(MEA)培地上での生育は遅く、室温、15日間培養の近紫外光照射下で直径22.0〜24.9mm(生育率1.47-1.66mm/日)、暗黒下で24.6〜28.0mm (生育率1.64-1.87mm/日)に達した。暗黒下での生育は、近紫外光照射下よりも良好である。MEA培地上近紫外光照射下では羊毛状を呈し、周縁部の菌糸は比較的薄く濃黄色(マンセル5Y8/12)、中心ほど菌糸は密になり白色(マンセルN)となる。中心部分の菌糸は立ち上がり、5mmに達する。裏は淡黄色から濃黄色(マンセル5Y9/6-5Y8/10)。中心ほど色が濃い。コロニー周辺の培地も黄色い着色が認められた。暗黒下での培養では、コロニー性状は同じであるが、着色が強くなる。周縁部の菌糸は乳白色から濃黄色(マンセル5Y9/4-5Y8/12)で中心部分は白(マンセルN)、裏面は淡黄色から濃黄色(マンセル5Y9/6-5Y8/14)を呈し、培地への着色も強くなる。
オートミール寒天(OA)培地上での生育は遅く、室温、15日間培養の近紫外光照射下で直径22.0〜21.8mm(生育率1.33-1.45mm/日)、暗黒下で25.2〜26.2mm(生育率1.68-1.75mm/日)に達した。暗黒下での生育は、近紫外光照射下よりも良好である。OA培地上近紫外光照射下での菌糸はビロード状、縄状に広がり、周縁部の菌糸は薄く淡黄色から濃黄色(マンセル5Y9/6-5Y8/8)、中心ほど菌糸は密になって盛り上がり、白色(マンセルN)を呈す。裏は乳白色から淡黄色(マンセル5Y9/2-5Y9/6)、中心ほど色は濃い。暗黒下ではMEA培地と同様、着色が強くなる。周縁部の菌糸は乳白色から淡黄色(マンセル5Y9/4-5Y9/6)、裏は淡黄色から濃黄色(マンセル5Y9/6-5Y8/10)を呈す。上記において、マンセルは色調を示す。
(2)生理的性質
30℃では生育せず、生育至適温度は20℃〜25℃である。
(3)形態的性状
MEA培地上では、菌糸は隔壁を有し、無色透明である。分生子柄は垂直に立ち上がるか、もしくは平伏し、しばしば縄状に束になり、ときに輪生分枝し、先端及び分生子柄中部の1〜2箇所で3〜6個のフィアライドが輪生する。フィアライドは基部から先端に向け徐々に細くなり、無色、9.5-32.0×1.0-2.5 μm、平均17.5×1.5μm、長さと幅の比(Length/Width:L/W)は 4.47-22.3、平均10.9である。分生子はフィアライド先端に塊状に形成され決して連鎖せず、亜球形から楕円形、倒卵形で滑面、コットンブルーに対し染色性があり、無色、(1.5)2.0-3.0(4.0)×(1.5)2.0(2.5) μm、平均2.5×2.0μm、L/W 1.01-1.43(1.86)、平均1.25である。また、培地中に異なる形態の埋没分生子を形成される。すなわち培地中の菌糸よりあまり分化しないフィアライドから円筒形ないし楕円形の分生子が形成され、無色、コットンブルーに対し染色性があり、1.5-5.0(7.0)×1.5-2.0 μm、平均3.5×2.0μm、L/W 1.05-2.48(3.14)、平均1.75である。厚壁胞子は無色、1細胞から多細胞石垣状で主として培地中に埋没した菌糸に単生し、まばらに形成する。ゼラチン質の物質に覆われ、乾くと粗面に見える。コットンブルーに対し染色性があり、8.0-21.5×3.5-13.0 μm、平均14.0×7.0 μm、L/W 1.24-3.69、平均2.3である。
(4)DNA配列による系統解析
得られたITS領域(Internal Transcribed Spacer領域)の塩基配列をBlast検索した結果、TAMA 87株はVerticillium suchlasporiumと相同性が高いことがわかった。系統解析は、TAMA 87株とBlast検索で相同性が高かった14株の登録データを用いて行った。ここで、ITS領域について検索を行うのは、コード領域(DNA中のアミノ酸配列をコードしている領域)より、スペーサー領域の塩基配列の方がより速く進化するために、属間・種間のようなより低次の分類階級の類縁関係を調べるのに適しているといわれているからである。
近隣結合法(neighbor-joining method:NJ法)と最大節約法でTiTv比を求めた結果、近隣結合法では0.87、最大節約法では0.89であることが分かった。個々に得られたTiTv比を基に重み付けし、近隣結合系統樹と最大節約系統樹を作成した。
ここで、近隣結合法とは、系統樹を作製するためのボトムアップ式のクラスタ解析法であり、DNAの塩基配列やタンパク質の一次構造に基づいて系統樹を作製するのに用いられる方法である。近隣結合法は、最大節約法、最尤法などに比べて効率が良いことが利点であり、大量のデータセットも扱うことが可能である。また、最大節約法(Maximum parsimony)は生物の系統を解析して系統樹を作製するのに用いられる方法で、単純であるが繁用される方法である。さらに、TiTv比とは、トランジション/トランスバージョン比(transition transversion ratio)を意味する。トランジションは、AとGのプリン間、又はCとTのピリミジン間での塩基置換を意味し、トランスバージョンは、プリンからピリミジン、又はピリミジンからプリンへの塩基置換をいう。遺伝子の突然変異などの評価の指標として使用される。
系統解析を行った結果、TAMA 87株は、近隣結合法及び最大節約法ともにV. suchlasporium var. catenatum CBS 789.85及びCBS 248.83、V. suchlasporium var. suchlasporium CBS 251.83、V. catenulatum IMI 113172の4株とクレードを形成した(ブートストラップ値:近隣結合法:100、最大節約法:97)。ブートストラップ値とは、系統樹において分岐の信頼性を示すために用いられる指標である。
(5)菌株の同定
TAMA 87株は、コロニーが明色で、匍匐状菌糸や縄状の分生子柄を形成し、フィアライドは特徴的に輪生し、その先端からフィアロ型分生子が内生的に形成され、石垣状多細胞の厚壁胞子を形成することから、VerticlliumProstrata節に含まれることは明瞭である(Gams W. 1971. Cephalosporium-artige Schimmelpilze. Gustav Fischer Verlag, Stuttgart 262pp; Gams W, Zare R. 2001. A revision of Verticillium sect. Prostrata III, Generic classification. Nova Hedwigia 72: 39-337)。本節は以前から遺伝的に異質な種の集合体であることがわかっていたが、最近の研究により現在ではいくつかの属に再分類され、そのうちV. suchlasporium var. catenatumPochonia suchlasporia var. catenataV. suchlasporium var. suchlasporiumP. suchlasporia var. suchlasporiaとされている。V. catenulatumP. chlamydosporia var. catenulata(≡V. chlamydosporium var. catenulatum)の異名であるとされているが、V. chlamydosporium var. chlamydosporium(P. chlamydosporia var. chlamydosporia)は、TAMA 87を含む5株の系統群(クレード)の外にブートストラップ値100で系統群を形成する。本来、V. catenulatum IMI 113172はchlamydosporium系統群に含まれると考えられるが、V. catenulatum IMI 113172 (P. suchlasporia var. catenulata)は、P. chlamydosporia (≡V. chlamydosporium)系統群の外にP. suchlasporia var. catenataと系統群を形成する(ブートストラップ値:100)とされている(Pantou MP, Strunnikova OK, Shakhnazarova VY, Vishnevskaya NA, Papalouka VG and Typas MA. 2005. Molecular and immunochemical phylogeny of Verticillium species. Mycol. Res. 109:889-902)。これは本件の結果と一致する。
以上の結果から、TAMA 87株は、コロニーが白色でMEA培地では裏面が黄色、最高生育温度が30℃以下であること、分生子柄は匍匐菌糸からあるいは基質から直立しフィアライドは輪生し、分生子は亜球形から倒卵形、石垣状の無色の厚壁胞子を基質中に形成すること、DNAの塩基配列に基づく系統解析からPochonia suchlasporia (W.Gams & Dackman) Zare & W.Gams var. suchlasporia(≡Verticillium suchlasporium (W.Gams & Dackman))と同定することが妥当である(Gams W, Zare R. 2003. A taxonomic review of the Clavicipitaceous anamorphs parasitizing nemtatodes and other microinvertebrates. In Clavicipitalean Fungi; Zare R, Gams W, Evans HC. 2001. A revision of Verticillium section Prostrata V. The genus Pochonia, with notes on Rotiferophthora. Nova Hedwigia 73: 51-86; Zare R, Gams W. 2004. A monograph of Verticillium section Prostrata. Bot. J. Iran 3: 1-188)、そこで本発明において本菌株の名称をPochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株と称することとする。なお、Pochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1つくばセンター中央第6)に寄託申請され、平成19年2月6日、受託番号FERM P-21204として受託されている。
以上、本発明の新規化合物の生産菌の一例であるPochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株について説明したが、一般的には糸状菌類の菌学的性質は極めて変化しやすく、自然界において、あるいは通常行われている紫外線照射、X線照射、変異誘発剤(例えば、N-メチル-N-ニトロ-N-ニトロソグアニジン及び2-アミノプリン等)又は遺伝子組替えを用いる人為的変異手段により変異することは周知の事実である。このように自然変異株ならびに人工変異株も含めてPochonia属あるいはその完全世代の属、例えばCordyceps属に属し、本発明の化合物を生産する能力を有する菌株はすべて本発明に使用することができる。
上記微生物の培養は、自体公知の方法に従って行うことができる。培地は液体あるいは固体を成分として用いることができ、炭素源としては、グルコース、シュクロース、ガラクトース、デキストリン、グリセロール、有機酸、澱粉、穀類、水飴、糖蜜、動・植物油等を利用できる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦胚芽、コーンスティープリカー、綿実かす、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素などを使用できる。そのほか必要に応じ、寒天、アミノ酸、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等の各種ビタミン等の栄養素を、またナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸及びその他のイオンを生成できる無機塩類を添加することは有効である。また、菌株の発育を助け、本発明の化合物の生産を促進するような無機及び有機物を適当に添加することができる。なお、培地中に金属塩が存在すると、それに対応するアニオンとの塩の形で本発明の化合物が得られることがある。
上記Pochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株を培養する場合には、炭素源として酒石酸、グルコース、ポテト・スターチ、押し麦、そば粒をそれぞれ単独もしくは混合して加えることが好ましい。窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素酵母エキス、大豆粉又は大豆殻等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。また、無機塩として、例えばリン酸二水素カリウム、炭酸カルシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化マンガン、硫酸マグネシウム、硫酸鉄等を使用することができる。
培養は、通常、通気攪拌、静置又は振盪等の好気的条件下又は嫌気的条件下、約20〜40℃、好ましくは約20〜30℃の温度で行うことができる。培養時のpHは4〜10、好ましくは5〜8付近の範囲がよく、培養中のpH調整は酸又はアルカリを添加することにより行うことができる。また、培養期間は好ましくは半日〜30日間である。上記Pochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株の場合は固体静置培養が望ましい。
培養後、液体培養の場合は培養液をろ過又は遠心分離によって、菌体と培養ろ液を分別する。固体培養の場合は培養物に直接以下の処理を施す。
得られた菌体培養物を、例えば溶媒抽出又はクロマトグラフィーなどの精製手段に付する。精製手段は、公知の手段であってよく、例えば、活性炭カラムクロマトグラフィー、陽イオン交換カラムクロマトグラフィー、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー(例えばSephadexTM LH-20(ファルマシア社製))、HPLCクロマトグラフィー(例えばAspipak ES 502C(R)カラムクロマトグラフィー(Shodex社製))などが好ましい例として挙げられる。クロマトグラフィーによって得られる全画分を、生物活性を指標としてスクリーニングする。
生物活性としては、GlcNAcase酵素阻害試験による酵素阻害率を指標とする。例えば、そのような酵素阻害試験として、(A)ハスモンヨトウ蛹GlcNAcase阻害試験、(B)Penicillium oxalicum GlcNAcase阻害試験、及び(C)Aspergillus oryzae GlcNAcase阻害試験が挙げられる。例えば(A)試験に陽性である画分は昆虫の生育を阻害する化合物が含まれていることを意味し、そのような阻害作用を示す化合物は有害昆虫の駆除剤として有用である。(B)試験に陽性である画分は角膜真菌症に抗菌作用を示すことを意味し、(C)試験に陽性である画分は、芝草の病原菌に抗菌作用を示すことを意味する。したがって、(A)、(B)又は(C)試験に陽性である画分は、有害昆虫又は有害菌に対して殺虫又は殺菌作用を示すので、このような化合物を含む画分を集める。さらに、(D)子牛腎臓GlcNAcase阻害試験、(E)ヒト胎盤GlcNAcase阻害試験、(F)タチナタ豆GlcNAcase阻害試験を行ってもよい。
さらにこのようにして集められた画分を、例えば、転溶、濃縮、クロマトグラフィー、結晶化、再結晶、蒸留などの精製手段に付して、目的とする本発明の化合物を得ることができる。
本発明の化合物は、安全性に優れた農薬、例えば、殺虫剤又は殺菌剤として使用することができる。
本発明の化合物又は組成物を農薬、特に、殺虫剤又は殺菌剤として使用するにあたっては、一般の農薬のとりうる形態、すなわち、化合物の1種又は2種以上を使用目的によって適当な液体担体に溶解するか分散させるか、又は適当な固体担体と混合するか吸着させ、例えば乳剤、油剤、噴霧剤、水和剤、粉剤、DL(ドリフトレス)型粉剤、粒剤、微粒剤、微粒剤F、フロアブル剤、ドライフロアブル剤、ジャンボ粒剤、錠剤等の製剤として使用する。これらの製剤は必要に応じて、例えば乳化剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、粘漿剤、安定剤等を添加してもよく、自体公知の方法で調製することができる。
本発明組成物は、本発明の化合物のいずれか1以上の有効成分を製剤の種類に応じて適当な不活性な液体又は固体の担体で希釈し、必要に応じて界面活性剤、分散剤又は補助剤等を配合して、上記の製剤を製造する。ここで好適な担体としては、例えば、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、ひる石、酸性白土、滑石粉、ロウ石粉、珪藻土、雲母粉、アルミナ、硫黄粉末、活性炭、炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、バーミキュライト、消石灰、珪砂、硫安、尿素、タバコ粉、木粉等の固体担体、イソプロピルアルコール、キシレン、シクロヘキサノン、メチルナフタレン、脂肪酸エステル、植物油、鉱物油、動物油、水等の液体担体が挙げられる。これらの担体は1種又は2種以上を適当な割合で混合して製剤製造のために使用される。
界面活性剤及び分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシンエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルベンゼンスルホネート、ナフタレンスルホネートホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホネート等が挙げられる。
補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングルコール、縮合リン酸塩等が挙げられる。
本発明の農園芸用製剤は、上記の成分を混合することにより製造される。これらの製剤は、適宜な濃度に希釈して散布されるか、又は、直接施用される。
本発明の組成物は、具体的には、例えば下記のような害虫の防除に適用できる。すなわち、イネクロカメムシ(Scotinophara lurida)、ナシグンバイ(Stephanitis nashi)、ヒメトビウンカ(Laodelphax striatellus)、トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)、ツマグロヨコバイ(Nephotettix cincticeps)、ヤノネカイガラムシ(Unaspis yanonensis)、ダイズアブラムシ(Aphis glycines)、ダイコンアブラムシ(Brevicoryne brassicae)、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)、セジロウンカ(Sogatella furcifera)、チャノミドリヒメヨコバイ(Empoasca onukii)、クワコナカイガラムシ(Pseudococcus comstocki)、ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)、コナガ(Plutella xylostella)、モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora)、ニカメイガ(Chilo supppressalis)、タマナギンウワバ(Autographa nigrisigna)、タバコガ(Helicoverpa assulta)、アワヨトウ(Pseudaletia separata)、ヨトウガ(Mamestra brassicae)、イネゾウムシ(Echinocnemus squameus)、イネミズゾウムシ(Lissorhoptrus oryzophilus)、ワタミゾウムシ(Anthonomus grandis)、アズキゾウムシ(Callosobruchus chinensis)、シバオサゾウムシ(Sphenophorus venatus)、マメコガネ(Popillia japonica)、ドウガネブイブイ(Anomala cuprea)、コーンルートワームの仲間(Diabrotica spp.)、コロラドハムシ(Leptinotarsa decemlineata)、コメツキムシの仲間(Agriotes spp.)、イエバエ(Musca domestica)、アカイエカ(Culex pipiens pallens)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、ヤマトゴキブリ(Periplaneta japonica)、ワモンゴキブリ(Periplaneta americana)、イネシンガレセンチュウ(Aphelenchoides besseyi)、イチゴメセンチュウ(Nothotylenchus acris)、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)、タイワンシロアリ(Odontotermes formosanus)、ダイコクシロアリ(Cryptotermes domesticus)等の害虫の防除に特に有効である。
また、本発明の化合物は芝草の病原菌に抗菌作用を示すので、該菌が原因となって生じる芝草に見られる病気、例えばヘルミントスポリウム、フェアリーリング、ダラースポット、ピシウム、ブラウンパッチ、サビ病、イエローパッチなどの治療・予防に有効である。
例えば、播種又は植え付け前の土壌に散布する場合は、10a(アール)当たりの本発明の製剤を、0.8kgから30kg程度として、播種又は植え付けの当日から30日程度前に散布すればよい。また、作物が成育中の土壌に対しては、10a当たりの本発明の製剤の量を1kgから50kg程度として、10〜20日間隔で散布すればよい。
本発明の化合物は、優れた殺菌効果を示すから食品添加剤として有用であり、食品に添加され、食品の保存期間を顕著に延長することができる。本発明の化合物を直接食品に添加してもよいし、上記化合物を適当な希釈剤で希釈して食品に添加してもよい。本発明の化合物が添加される食品としては、例えば冷凍すり身、蒲鉾、竹輪、さつま揚げ、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品、緑茶、ウーロン茶、麦茶、混合茶(ブレンドティー)、コーヒー、コーヒー乳飲料、カフェオーレ、紅茶、ミルクティー、ココア、ミルクココア、ミルクセーキ、汁粉等の低酸性飲料、果汁やフレーバー、機能性素材等を含んだ機能性飲料、スポーツ飲料、栄養補給飲料等の酸性飲料、ポテトサラダ、マカロニサラダ、餃子、シュウマイ、厚焼き玉子、和え物、煮物等の惣菜類、浅漬け等の漬物類、米飯・おかゆ類、豆腐・厚揚げ類、生麺、茹で麺、蒸し麺等の麺類、小豆餡、いも餡、栗餡等の餡類、フラワーペースト、カスタードクリーム等のクリーム類、ハンバーグ、肉団子等の挽肉加工品、ネギトロ、タタキ等の魚肉加工品、カレードーナッツ、中華饅頭(肉まん)等の芯部具材類、親子丼、牛丼、カツ丼等の丼物などが挙げられる。
本発明の化合物について、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明の実施例で採用された酵素阻害試験方法は試験例1に記載の通りである。以下に記載する%は、(w/w)%である。
(実施例1)スクリーニング
糸状菌916菌株、放線菌39菌株を任意に集め、適宜の培地、培養条件にて培養し、その培養物(培養ろ液、又は、培養物の有機溶媒抽出物;有機溶媒としてアセトン/メタノール混合溶媒(1:1、v/v)又はn−BuOHを使用)を、酵素阻害試験に供し、昆虫ハスモンヨトウ蛹由来のGlcNAcaseを阻害する試料を選抜した。昆虫ハスモンヨトウ蛹由来のGlcNAcaseの阻害活性の測定方法は、試験例1に後述した。
微生物培養物をハスモンヨトウ蛹GlcNAcase阻害試験、Penicillium oxalicum GlcNAcase阻害試験、及びAspergillus oryzae GlcNAcase阻害試験に供し、いずれの酵素に対しても強力な阻害活性を示す試料を選抜した。このようなスクリーニング系により、強力なGlcNAcase阻害活性を示す活性菌株、Pochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株を見出した。
(実施例2)活性物質の発酵生産
全ての培地は、使用前に120℃、20分間の滅菌操作を行った。
(i)菌株保存培地
(i)菌株保存培地
菌株保存培地として、改変麦芽エキス寒天、すなわちバクト麦芽エキス(Difco)10g、バクト・ソイトン(Difco)1g、バクト酵母エキス(Difco)1g、グルコース10g、寒天20gからなる培地を用いた。なお、滅菌前の培地のpHは未調整である。
(ii)発酵生産
Pochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株保存スラント5本に滅菌蒸留水を各10ml加えて菌体を無菌的にかきおとし、押し麦10g、酵母エキス20mg、酒石酸ナトリウム10mg、脱イオン水10mlを仕込んだ250ml容三角フラスコ100本に植菌し20日間25℃で静置培養した。培養後フラスコ1本あたりメタノール25mlを添加して30分間振盪撹拌して抽出した。
培養フラスコ100本分を一晩静置したのち、これをデカンテーションに供して、不溶物を除去し、菌体メタノール抽出物を得た。
(実施例3)活性物質の単離
(i)活性炭カラム
前記菌体メタノール抽出物のうち970mLを減圧濃縮してメタノールを留去し、350mLの懸濁液とした。これに350mLの酢酸エチルを加えて分液操作を行い、酢酸エチル層と水層を得た。酢酸エチル層については、水120mLを添加して再度分液操作を行い、酢酸エチル層と水層を得た。これら2回の分液操作で得た2つの水層を合一して減圧濃縮により残留酢酸エチルを留去し、260mLの水溶液を得た。このうち215mLをカラムクロマトグラフ用活性炭素(ナカライ社製)のカラム(4.0×22cm)に供し、840mLの脱塩水及び280mLの10%メタノールで洗浄後、1400mLの50%メタノールで有効成分を溶出し、阻害活性を示す画分を630mLの水溶液として得た。この水溶液の一部を凍結乾燥したところ、この水溶液中の粗活性物質の総重量は710mgと算出された。
(ii)陽イオン交換カラム及び活性炭カラム(脱塩)
前記粗活性物質が溶解した水溶液全量(630mL)を、2回に分けて以下のカラムクロマトグラフィーに供した。即ち、イオン交換樹脂(Amberlite(R) CG-50 NH4+型、Rohm and Hass 社販売)のカラム(3.0×21cm)に、前記水溶液約315mlを供し、100mLの脱塩水で洗浄後、0.05MのNaCl水溶液で有効成分を溶出し、阻害活性を示す画分を合一した。この合一画分を、2回に分けて以下のカラムクロマトグラフィーに供した。即ち、カラムクロマトグラフ用活性炭素(ナカライ社製)のカラム(2.0×14cm)に前記合一画分の半量を供し、100mLの脱塩水と50mLの10%メタノールで洗浄後、50%メタノールで有効成分を溶出した。阻害活性を示す画分を減圧濃縮してメタノールを留去し、得られた水溶液を凍結乾燥に供して、淡黄色の粗活性物質58mgを得た。
(iii)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
上記粗活性物質全量(58mg)を200μLの水に溶解し、3回に分けて以下のカラムクロマトグラフィーに供した。即ち、あらかじめ50mM酢酸アンモニウム水溶液で平衡化した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラム(Shodex社製、Aspipak ES 502C(R) 7C、7.6×100mm、流速0.6mL/min)に、前記水溶液約70μLを供し、50mM酢酸アンモニウム水溶液で有効成分を溶出し、阻害活性を示す画分を凍結乾燥に供する事で、純粋な活性物質を白色粉末として20mg得た。この化合物を、以下活性物質Aと称する。
(試験例1)酵素阻害試験方法
(イ)ハスモンヨトウ蛹GlcNAcase阻害試験法
最初に、ハスモンヨトウ蛹GlcNAcase粗酵素液を、"K. Kawazu, S. Ohnishi, H. Kanzaki and A. Kobayashi:Z. Naturforsch. 51c, 738-742(1996)"に記載の方法に従って調製した。具体的には次の通りである。
ハスモンヨトウ蛹50gを、0.01%フェニルチオウレア(PTU)を含む14.3mMクエン酸/リン酸/ホウ酸緩衝液(pH7.0)50mL中で摩砕し、ろ過した。ろ液を20,000g、4℃で30分間遠心分離し、その上清をさらに100,000g、4℃で60分間超遠心分離した。その上清に硫酸アンモニウムを60%飽和となるように徐々に添加し、4℃で1時間撹拌した。その液を20,000g、4℃で15分間遠心分離し、その上清を4℃で透析した。この際の透析外液は0.01%PTUを含む14.3mMクエン酸/リン酸/ホウ酸緩衝液(pH7.0)2Lであった。その透析内液をさらに上記と同じ条件で透析し、得られた透析内液を20,000g、4℃で15分間遠心分離し、その上清をハスモンヨトウ蛹GlcNAcase酵素溶液とした。
また、緩衝液として、643mMクエン酸/リン酸/ホウ酸緩衝液(pH6.0)24μL、基質として、5mMp−ニトロフェニルN−アセチル−β−D−グルコサミニド水溶液16μL、試験試料水溶液として80μL、あるいは対照区として試験試料を含まない水を含む溶液80μLを加えた混合液に、上記の通りハスモンヨトウ蛹より調製したGlcNAcase酵素溶液の14mMクエン酸/リン酸/ホウ酸緩衝液(pH6.0)希釈溶液を40μL添加し、よく撹拌後、37℃、60分間反応させた。反応終了後、1.3M水酸化ナトリウム水溶液100μLを添加し、よく撹拌後、直ちに分光光度計により415nmにおける吸光度(a)を測定した。同時に、試験試料を含まない対照区の吸光度(b)を測定した。ここで、対照区へのGlcNAcase酵素溶液の添加量は415nmにおける吸光度(b)が0.500となるような量とした。GlcNAcase阻害率(%)は、[1−(a)/(b)]×100により計算した。
(ロ)仔牛腎臓GlcNAcase阻害試験法
(イ)の方法に準じて、緩衝液及び酵素溶液を以下のように変更した。即ち、GlcNAcase酵素溶液として仔牛腎臓由来β−N−アセチルグルコサミニダーゼ(SIGMA社)を、緩衝液として、0.025%のBSA(ウシ血清アルブミン)と250mMのNaClを含む250mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いた。他の条件は(イ)に同じである。
(ハ)ヒト胎盤GlcNAcase阻害試験法
(イ)の方法に準じて、緩衝液及び酵素溶液を以下のように変更した。即ち、GlcNAcase酵素溶液としてヒト胎盤由来β-N−アセチルグルコサミニダーゼを、緩衝液として0.025%のBSAと250mMのNaClを含む250mMクエン酸緩衝液(pH4.3)を用いた。他の条件は(イ)に同じである。
(ニ)Penicillium oxalicum GlcNAcase阻害試験法
(イ)の方法に準じて、緩衝液及び酵素溶液を以下のように変更した。即ち、GlcNAcase酵素溶液としてPenicillium oxalicum由来β-N−アセチルヘキソサミニダーゼ(生化学工業社)を、緩衝液として、250mMクエン酸緩衝液(pH4.5)を用いた。他の条件は(イ)に同じである。
(ホ)Aspergillus oryzae GlcNAcase阻害試験法
(イ)の方法に準じて、緩衝液及び酵素溶液を以下のように変更した。即ち、GlcNAcase酵素溶液としてAspergillus oryzae由来β-N−アセチルヘキソサミニダーゼ(SIGMA社)を、緩衝液として、0.025%のBSAと250mMのNaClを含む250mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いた。他の条件は(イ)に同じである。
(ヘ)タチナタ豆(Jack bean) GlcNAcase阻害試験法
(イ)の方法に準じて、緩衝液及び酵素溶液を以下のように変更した。即ち、GlcNAcase酵素溶液としてタチナタ豆由来β-N−アセチルグルコサミニダーゼ(SIGMA社)を、緩衝液として0.025%のBSAと250mMのNaClを含む250mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いた。他の条件は(イ)に同じである。
(試験例2)活性物質Aの構造解析
実施例3により得られた活性物質Aについて、理化学的性質を測定し、その結果を以下に示した。
(1)色及び性状:白色粉末
(2)高分解能質量分析:C1120 (m/z)計算値;261.1450(M+H),実測値;261.1452
(3)比旋光度:[α]D25 +9.2°(c 0.9,メタノール)
(4)1H-NMR (600MHz, CD3OD ) δ: 2.00 (1H, ddd, J = 5.9, 6.2, 12.6 Hz), 2.01 (3H, s), 2.19 (1H, ddd, J = 5.9, 6.5, 12.6 Hz), 3.46 (1H, ddd, J = 4.4, 4.9, 8.8 Hz), 3.48 (1H, dd, J = 4.9, 13.8 Hz), 3.56 (1H, dd, J = 4.4, 13.8 Hz), 3.61 (1H, dd, J = 3.9, 3.9 Hz), 3.70 (1H, m, H-3), 3.76 (1H, dd, J = 6.2, 12.1 Hz), 3.90 (1H, dd, J = 3.3, 12.1 Hz), 3.91 (1H, dd, J = 3.9, 8.8 Hz), 4.08 (1H, dd, J = 3.9, 3.9 Hz), 4.61 (1H, ddd, J = 3.9, 5.9, 5.9 Hz)
(5)13C-NMR (150 MHz, CD3OD ) δ: 22.5, 39.5, 42.2, 61.5, 61.7, 63.9, 69.4, 71.5, 76.4, 77.6, 174.5
(6)溶解性:水、ジメチルスルホキシド、メタノールに可溶であり、クロロホルムに不溶であった。
これらの分析結果を解析した結果、活性物質Aに関し、以下の構造式を得た。
式III:
Figure 0004636623
活性物質Aは、以下の2点の特徴点を有する新規化合物である。
(1)N−アセチルアミノ基を有するポリヒドロキシピロリジジンアルカロイドとして、天然から初めて単離された化合物である。
(2)グリコシダーゼ阻害剤として注目されてきたポリヒドロキシピロリジジンアルカロイド類にN−アセチルアミノ基を導入することで、N−アセチルヘキソサミニダーゼ、N−アセチルグルコサミニダーゼに対する強力な阻害剤となることを実証した。
(試験例3)活性物質Aの酵素阻害活性
実施例3で得た活性物質Aを用いて、各種生物種由来GlcNAcaseに対する酵素阻害活性の有無を判定した。各活性の測定方法は、試験例1に示す方法に従った。対照化合物として放線菌Streptomyces amakusaensisが生産するナグスタチンを用いた。
試験例3において得られた活性物質Aの濃度と各酵素に対する阻害率の関係から、活性物質Aの各酵素に対する50%阻害濃度(IC50)を求めた。結果を表1に示す。
Figure 0004636623
表1から明らかなように、活性物質Aは雑食性の害虫であるハスモンヨトウ、角膜真菌症の原因菌であるPenicillium oxalicum由来のGlcNAcaseに対して、既知のGlcNAcase阻害剤であるナグスタチンよりも強力な阻害活性を示した。ナグスタチンよりも強力なGlcNAcase阻害剤はこれまでに報告がないため、活性物質Aは、その構造、生理活性の両面で新規化合物であるといえる。
以上詳述したように、本発明の新規化合物は、既存のGlcNAcase阻害活性を有する化合物であるナグスタチン(特許文献1)と異なる母骨格を有し、しかもナグスタチンと同等以上の強力なGlcNAcase阻害活性を有することが確認された。本発明の新規化合物又は本化合物を含有する組成物は、環境への負荷が少ない農園芸用又は食品添加物として有用であり、ナグスタチンに耐性を有する害虫や有害菌に対する薬剤として、特に有用である。

Claims (5)

  1. 以下の一般式Iで示される化合物。
    式I:
    Figure 0004636623
    (式中、Rはメチル基であり、Rはヒドロキシメチル基であり、 が水素であり、R 〜Rは、各々同一又は異なって水素若しくは水酸基から選択され、CH −NH−CO−R基がS−エピマーの立体配置であり、R 〜R が各々水酸基である場合には、R およびR がR−エピマーの立体配置であり、R がS−エピマーの立体配置である。
  2. 式Iで表される化合物において、R、RおよびRが水酸基である、請求項1に記載の化合物。
  3. 請求項1または2に記載の化合物を含有することを特徴とする殺虫性又は殺菌性組成物。
  4. 請求項1または2に記載の化合物を産生し得るPochonia属の菌類を培養し、その培養物から請求項1または2に記載の化合物を取得することを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物の製造方法。
  5. 請求項4に記載のPochonia属の菌類が、受託番号FERM P-21204として受託されているPochonia suchlasporia var. suchlasporia TAMA 87株である、請求項1または2に記載の化合物の製造方法。
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