JP4632500B2 - アミノ酸誘導体組成物及びアミノ酸誘導体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、第3級アミンの構造を有し、キレート性能及び生分解性を発揮する組成物や化合物、並びに、該組成物や化合物の製造方法及び該組成物や化合物を用いたキレート剤に関する。詳しくは、本発明は、アミノ酸誘導体組成物、及び、アミノ酸誘導体の製造方法に関する。本発明はまた、L−アスパラギン酸誘導体、L−アスパラギン酸誘導体の製造方法、L−アスパラギン酸誘導体組成物、L−アスパラギン酸誘導体組成物の製造方法、及び、キレート剤に関する。本発明は更に、N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法、及び、N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キレート剤は、2個以上の配位結合を形成することにより金属イオンを封鎖することができることから、金属イオンが存在することによる弊害等を除去するために、洗剤、繊維、紙パルプ、金属表面処理、写真等の様々な分野で用いられており、現在では化学工業や日常生活に欠くことができないものである。
【0003】
キレート剤は、例えば、洗剤等の分野では、用いられる水の調製において硬水中のカルシウム、マグネシウム等の金属イオンを除去するために用いられ、繊維、紙パルプ等の分野では、漂白剤である過酸化水素等の金属イオンによる分解を抑制するために用いられている。代表的なキレート剤としては、例えば、安価でキレート能力が高いエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられる。
【0004】
これらのキレート剤は、生活排水や産業廃棄物中に混じって廃棄されるものであるから、生分解されにくいものであると、環境や生態系に影響を及ぼすことが懸念される。生分解性(BIODEGRADABILITY)とは、一般に、天然系において微生物やその産出物によって自然に分解が進行することにより、分解物が環境や生態系に悪影響を及ぼさなくなる性質となることを意味する。
近年、化学物質による環境汚染に対する規制が厳しくなりつつあり、キレート剤についても生分解されないものについては、使用できない状況になりつつあり、生分解性を高めたキレート剤について、種々の検討がなされている。
【0005】
特開平8−208569号公報には、ジエタノールアミン誘導体をキレート剤として用いる技術が開示されている。このジエタノールアミン誘導体は、ジエタノールアミンと、マレイン酸及び/又はその塩類とを、アルカリ土類金属の存在下で反応させることにより得られるものであり、窒素原子及びエーテル基由来の酸素原子を中心原子として周囲に存在するカルボキシル基が効果的なキレート作用をもたらすと同時に、従来のキレート剤では得られなかった生分解性を有するものであった。しかしながら、更にキレート作用や生分解性を高める工夫の余地がないではなかった。
【0006】
特表平10−502632号公報には、初期L−アスパラギン酸の60モル%未満が反応するように反応期間を通して1,2−ジハロエタンの化学量論的不足量が存在する、塩基性水性溶媒中でL−アスパラギン酸と1,2−ジハロエタンとを反応させる工程を含む〔S,S〕−エチレンジアミン−N,N′−ジコハク酸塩(ss−EDDS)の製造方法が開示されている。また、上記ss−EDDSのナトリウム塩は、生分解性キレート剤として有用であることが判っている。しかしながら、ss−EDDSについては、その化学構造においてより効果的にキレート作用や生分解性を高めるための技術的余地が残されていた。
【0007】
国際公開公報WO97/45396号には、N−ビス−又はN−トリス−〔(1,2−ジカルボキシ−エトキシ)−エチル〕−アミン誘導体が生分解性を有するキレート剤として開示されている。このアミン誘導体は、ジ又はトリエタノールアミンと、マレイン酸とを、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩の存在下で、ランタニド化合物、ランタニド化合物の混合物又はアルカリ土類金属化合物を触媒として用いて反応させることにより得ることができるものである。しかしながら、これらの化合物は、不斉炭素を2個以上有する化合物であるにもかかわらずその立体配置を特定したものではないため、生分解性についても確かな効果を期待することが困難なものであった。
【0008】
特開平6−59422号公報には、キレート化合物としてN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類等を含有するハロゲン化銀写真感光材料用の処理組成物が開示されている。この処理組成物は、N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類等がキレート作用を有することから、脱銀性に優れた迅速な処理をすることができるものである。また、生分解性を有することから、環境を汚染するおそれの少ないものである。このように、N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類は、キレート化合物としてそれ自体が有用なものである。また、分子中にアスパラギン酸の基本骨格を有する化合物を製造するための中間体としても近年有望視されているものである。
【0009】
このN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類の製造方法は、Problemy Khimii Kompleksonov (1985)(露)p.108−115に開示されている。この製造方法は、アスパラギン酸をメタノール/塩酸溶液中でエステル化してアスパラギン酸ジメチルエステルとする工程、アスパラギン酸ジメチルエステルにエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、その後に水酸化ナトリウム等で加水分解させる工程を含むものである。しかしながら、この製造方法は、工程数が多いため副生成物を生じるおそれが高く、また、製造コストが高いものであり、更に、収率を高めることを期待することが困難なものであった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、充分のキレート性能を有し、しかも格段に優れた生分解性を有する組成物や化合物、並びに、該組成物や化合物の製造方法及び該組成物や化合物を用いたキレート剤を提供することを目的とするものである。本発明はまた、製造工程を簡素化し、副生成物が生じるおそれを低くし、しかも収率を高くしてキレート性能及び生分解性を有するN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記一般式(1);
【0012】
【化8】
【0013】
(式中、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。L1 は、−M1 −X又は−CHX−M2 −Xを表す。L2 は、−CH2 −M3 −X又は−CHX−M4 −Xを表す。M1 、M2 、M3 及びM4 は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表す。Xは、COOMを表す。Mは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はアンモニウム基を表す。mは、1又は2の整数を表す。nは、0又は1の整数を表す。ただし、m+nは、2である。)で表されるアミノ酸誘導体の2種以上を含むアミノ酸誘導体組成物である。
【0014】
本発明はまた、上記一般式(1)(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。L1 、L2 、M1 、M2 、M3 、M4 、X、m及びnは、上記と同じ。)で表されるアミノ酸誘導体を製造する方法であって、アミノ酸にアルキレンオキサイドを付加させる工程、及び、アミノ酸のアルキレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下で不飽和カルボン酸を反応させる工程を含むアミノ酸誘導体の製造方法でもある。
【0015】
本発明また、上記アミノ酸誘導体組成物を含むキレート剤でもある。
本発明また、下記一般式(2);
【0016】
【化9】
【0017】
(式中、X、m及びnは、上記と同じ。*は、これが付された不斉炭素が、S配置であることを意味する。)で表されるL−アスパラギン酸誘導体でもある。
【0018】
本発明はまた、上記L−アスパラギン酸誘導体を製造する方法であって、L−アスパラギン酸にエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、L−アスパラギン酸のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程を含むL−アスパラギン酸誘導体の製造方法でもある。
【0019】
本発明はまた、上記L−アスパラギン酸誘導体を含むキレート剤でもある。
本発明また、下記一般式(3);
【0020】
【化10】
【0021】
(式中、Xは、上記と同じ。*は、これが付された不斉炭素が、S配置であることを意味する。)で表されるL−アスパラギン酸誘導体(A)と、
下記一般式(4);
【0022】
【化11】
【0023】
(式中、Xは、上記と同じ。*は、これが付された不斉炭素が、S配置であることを意味する。)で表されるL−アスパラギン酸誘導体(B)とを含むL−アスパラギン酸誘導体組成物であって、該L−アスパラギン酸誘導体組成物中における、該L−アスパラギン酸誘導体(A)と該L−アスパラギン酸誘導体(B)との存在比(モル数)は、1:99〜99:1であるL−アスパラギン酸誘導体組成物でもある。
【0024】
本発明はまた、上記L−アスパラギン酸誘導体組成物を製造する方法であって、L−アスパラギン酸にエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、L−アスパラギン酸のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程を含むL−アスパラギン酸誘導体組成物の製造方法でもある。
【0025】
本発明はまた、上記L−アスパラギン酸誘導体組成物を含むキレート剤でもある。
本発明は更に、下記一般式(5);
【0026】
【化12】
【0027】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。L1 、M1、M2及びXは、上記と同じ。)で表されるN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を製造する方法であって、水溶液中でアミノ酸塩にアルキレンオキサイドを付加させる工程を含むN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法でもある。
【0028】
本発明はそして、下記一般式(6);
【0029】
【化13】
【0030】
(式中、Xは、上記と同じ。)で表されるN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類を製造する方法であって、水溶液中でアスパラギン酸塩にエチレンオキサイドを付加させる工程を含むN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類の製造方法でもある。
以下に、本発明を詳述する。
【0031】
本発明のアミノ酸誘導体組成物は、上記一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体の2種以上を含む。
上記アミノ酸誘導体組成物中において、一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体の合計含有量としては、本発明の作用効果を奏する限りにおいて特に限定されず、主成分として含有することが好ましく、付加的にその他の成分を含有しても含有しなくてもよい。例えば、一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体の合計含有量が50〜100重量%となることが好ましい。より好ましくは、70〜100重量%であり、更に好ましくは、90〜100重量%である。
【0032】
上記一般式(1)において、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。炭素数が18を超えると、アミノ酸誘導体が製造しにくくなるおそれがあり、また、充分なキレート作用を有さないおそれがある。L1 は、−M1 −X又は−CHX−M2 −Xを表す。L2 は、−CH2 −M3 −X又は−CHX−M4 −Xを表す。M1 、M2 、M3 及びM4 は、同一又は異なって、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表す。炭素数が6を超えると、アミノ酸誘導体が充分なキレート作用を有さないものとなる。Xは、カルボキシル基又は置換されたカルボキシル基である。Mは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又はアンモニウム基を表す。mは、1又は2の整数を表す。nは、0又は1の整数を表す。ただし、m+nは、2である。従って、本発明におけるアミノ酸誘導体の化学構造上の特徴の1つは、このように、カルボキシル基、又は、置換されたカルボキシル基を2個以上かつ窒素原子及びエーテル基由来の酸素原子が一分子内に同時に存在することである。
【0033】
上記Rにおけるアルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらの中でも、炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基である。また、M1 、M2 、M3 及びM4 としては特に限定されず、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることが好ましい。
【0034】
上記アルカリ金属原子としては特に限定されず、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム等が挙げられるが、なかでも入手が容易で安価であるところから、ナトリウム、カリウムが好ましい。上記アルカリ土類金属原子としては特に限定されず、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等が挙げられるが、入手が容易で安価であるところから、マグネシウム、カルシウムが好ましい。
【0035】
上記アミノ酸誘導体は、その化学構造上の特徴から、金属イオンに対して4座以上の配位子となり得るため、本発明のアミノ酸誘導体組成物が良好なキレート作用を発現することとなる。また、nが0、mが2の化合物を含む場合には、金属イオンに対して更に配位数を増やすことができることから、本発明のアミノ酸誘導体組成物が更に良好なキレート作用を発現することとなる。
【0036】
本発明のアミノ酸誘導体組成物のキレート作用については、種々の測定方法があるが、例えば、以下のようにして測定することができる。
(1)Ca2+に対するキレート性能評価
Ca2+に対するキレート性能は、以下に示すカルシウムイオン電極法によりCa2+捕捉能により評価することができる。
【0037】
1)10-3MのCaCl2 溶液100mlに4MのKClを2ml添加する。
2)上記溶液に試料10mgを添加し、0.1MのKOH溶液(あるいは0.1MのHCl溶液)でpH10に調整し、25℃に保持する。
3)カルシウムイオン電極を用いてCa2+濃度を測定する。
4)Ca2+濃度の測定結果よりCa2+捕捉能をCa2+捕捉量として算出する。
【0038】
(2)H2 O2 安定化試験
以下のようにして測定することができる。
測定方法:アルカリ性領域でFe3+存在下でのH2 O2 安定性を、H2 O2 残存率(%)の経時変化をみることにより測定する。
測定条件:pH10、50℃、Fe3+濃度 2ppm、初期H2 O2 量 3g/l、試料濃度 200ppm。
【0039】
上記Ca2+に対するキレート性能評価により、カルシウムイオン(Ca2+)捕捉能としてキレート性能(キレート作用)を評価することができる。また、H2 O2 安定化試験により、重金属イオン封鎖能の目安としてキレート性能(キレート作用)を評価することができる。
【0040】
本発明のアミノ酸誘導体組成物の生分解性については、種々の測定方法があるが、例えば、OECDガイドライン301(易分解性)に規定された以下の試験法により測定することができる。
試験法301A:DOC Die−Away試験
試験法301B:CO2 発生試験(修正sturm試験)
試験法301C:修正MITI試験(I)
試験法301D:Closed Bottle試験
試験法301E:修正OECDスクリーニング試験
試験法301F:Manometric Respirometry試験
これらの中でも、試験法301C:修正MITI試験(I)により測定することが好ましい。
これらの試験法により、Dt(分解度)、BOD(生物化学的酸素要求量)、CO2 発生等のようなパラメーターの測定を、通常、28日間続けることによって生分解性を評価することができる。
【0041】
本発明のアミノ酸誘導体組成物は、優れたキレート作用を有するとともに、高い生分解性を示すものである。
このような優れたキレート作用がなぜ発現するのかについては、アミノ酸誘導体組成物中に含有される分子中におけるカルボキシル基若しくは置換されたカルボキシル基の位置並びにその数が関係していることだけは間違いがない。
【0042】
本発明におけるアミノ酸誘導体において、そのキレート作用を高めるためには、例えば、基;
【0043】
【化14】
【0044】
(式中、Xは、上記と同じ。)を有することが好ましく、分子中にこの基を多く有することが更に好ましい。
また、本発明に用いられるアミノ酸誘導体において、キレート作用を高めるためには、例えば、基;
【0045】
【化15】
【0046】
(式中、Xは、上記と同じ。)が分子中に複数存在することが好ましく、しかも互いにより近い位置に存在することが更に好ましい。
【0047】
本発明におけるアミノ酸誘導体において、その生分解性を高めるためには、例えば、L1 で表される基を−CHX−M2 −Xとし、この基における不斉炭素をS配置とすることが好ましい。
本発明のアミノ酸誘導体組成物の生分解性がなぜ発現するのかについては必ずしも定かではないが、例えば、以下のような理由が考えられる。
(1)第3級アミンの構造を有する化合物の場合、第3級アミンを構成する窒素原子に生分解性を受けやすい原子や原子団が結合していると、生分解されやすくなると考えられること、(2)水酸基を有すると生分解されやすくなると考えられること、(3)L1 で表される基を−CHX−M2 −Xとし、この基における不斉炭素をS配置とすると、天然に存在する化合物が有する不斉炭素がS配置を基本としているために、S配置である不斉炭素はR配置である不斉炭素よりも本質的に生分解を受けやすい可能性が高いこと、(4)化合物の生分解において、その化合物を形成する原子や原子団の1つが生分解を受けると連鎖的に生分解されていくと考えられることから、生分解を受けやすい原子や原子団を1つでも有する化合物は生分解されやすいと考えされること。
つまり、上記アミノ酸誘導体は、第3級アミンの構造自体に起因して生分解性が高くなると共に、例えば、一般式(1)におけるmが1であり、nが1の場合には、水酸基を有するものとなり、L1 で表される基を−CHX−M2 −Xとし、この基における不斉炭素をS配置とすると、S配置である不斉炭素を有し、かつ、第3級アミンの構造における窒素原子に当該S配置である不斉炭素が結合したものとなり、生分解を受けやすいこれらの水酸基や不斉炭素を有するものであることから、効果的に生分解されるものであると考えられる。また、これらの水酸基や不斉炭素が生分解を受けると、連鎖的に生分解されていくため、高い生分解性が発現するものと考えられる。
【0048】
一般式(1)で表される本発明のアミノ酸誘導体としては、例えば、mが1であり、nが1の場合には、不飽和カルボン酸が1個付加したアミノ酸誘導体(A)となり、mが2であり、nが0の場合には、不飽和カルボン酸が2個付加したアミノ酸誘導体(B)となる。従って、本発明のアミノ酸誘導体組成物中のアミノ酸誘導体としては、m及びnにより上記の2通りが考えられる。これらそれぞれのアミノ酸誘導体は、更にR、L1 、L2 、M1 、M2 、M3 、M4 及びMの種類により各種のアミノ酸誘導体があり、本発明のアミノ酸誘導体組成物ではこれらの中から2種以上のアミノ酸誘導体を含むものである。
【0049】
本発明のアミノ酸誘導体組成物中のアミノ酸誘導体のうち、一般式(1)において、nが1、mが1、Rが水素原子、L1 が−CHX−M2 −X、L2 が−CHX−M4 −X、M2 及びM4 がメチレン基、XがCOOM、Mが水素原子の化合物であって、かつ、不斉炭素について立体配置が特定されていない化合物については、国際公開公報WO97/45395号公報にBCEEAAとして記載された化合物である。しかしながら、本発明のアミノ酸誘導体組成物は2種以上の上記アミノ酸誘導体を含むものであり、これらの相乗的な作用により優れたキレート作用を有するとともに、高い生分解性を示すものであることから、当該BCEEAAとは異なるものであり、作用効果も相違するものである。
【0050】
本発明のアミノ酸誘導体組成物を製造する方法としては特に限定されず、例えば、アミノ酸にアルキレンオキサイドを付加させる工程、及び、アミノ酸のアルキレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下で不飽和カルボン酸を反応させる工程、を含む製法により製造することができる。
【0051】
上記製造方法では、1回の操作で一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体の1種を製造し、2回以上の操作により2種以上のアミノ酸誘導体を製造して混合することで本発明のアミノ酸誘導体組成物を製造することができる。また、1回の操作で一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体の2種以上を含むアミノ酸誘導体組成物を製造することができる。本発明では、1回の操作で行うことが好適であり、これにより一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体の2種以上を含むアミノ酸誘導体組成物を簡便に製造することができることになる。
【0052】
上記一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体を製造する方法であって、アミノ酸にアルキレンオキサイドを付加させる工程、及び、アミノ酸のアルキレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下で不飽和カルボン酸を反応させる工程を含むアミノ酸誘導体の製造方法では、製造工程を簡素化し、副生成物が生じるおそれを低くし、しかも収率を高くしてアミノ酸誘導体を製造することができる。
上記工程の典型的な例を記載すれば、下記のようである。
【0053】
本明細書中において、アミノ酸にアルキレンオキサイドを付加させる工程をアルキレンオキサイド付加工程ともいう。また、アミノ酸のアルキレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下で不飽和カルボン酸を反応させる工程を不飽和カルボン酸付加工程ともいう。
【0054】
【化16】
【0055】
式中、R、L1 、L2 、M1 、M2 、M3 、M4 、X、m及びnは、前記と同じ。
上記アルキレンオキサイド付加工程においては、通常は、原料であるアミノ酸のアミノ基の2つの水素がすべてアルキレンオキサイドと置換して生成するアルキレンオキサイド付加体(上記一般式(7))が生成する。このようにして生成した一般式(7)で表されるアルキレンオキサイド付加体に対して、不飽和カルボン酸を付加させる反応を行うことによりカルボン酸付加体を得ることができる。このような反応により得ることができるカルボン酸付加体としては、不飽和カルボン酸が1個付加したカルボン酸付加体1(上記一般式(8))、及び、不飽和カルボン酸が2個付加したカルボン酸付加体2(上記一般式(9))の2通りを挙げることができる。
【0056】
上記アミノ酸誘導体の製造方法もまた、本発明の一つである。本発明のアミノ酸誘導体の製造方法によれば、下記一般式(10);
【0057】
【化17】
【0058】
(式中、Xは、前記と同じ。)で表される化合物が生成する可能性は全くなく、この点において、本発明のアミノ酸誘導体組成物の製造方法は、国際公報WO97/45396号公報に開示された製造方法とは全く異なるものである。なお、上記一般式(10)で表される化合物は、キレート作用も生分解性も劣ることから、本発明のアミノ酸誘導体組成物におけるアミノ酸誘導体とは全く別異の化合物である。
【0059】
上記アルキレンオキサイド付加工程において用いられるアミノ酸としては特に限定されず、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、メチルグリシン、β−アラニン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、生成するアミノ酸誘導体が高いキレート作用を有することから、アスパラギン酸、グルタミン酸が好ましい。より好ましくは、アスパラギン酸である。上記アミノ酸は、L体であってもD体であってもよく、ラセミ体等の混合物であってもよいが、L体がラセミ体及びD体よりも安価であることから好ましい。また、L体のアミノ酸を用いると、L体の立体配置が保持されることから、L体に由来する立体配置がそのまま構造式中の不斉炭素に立体配置Sとして保持されることとなり、生成するアミノ酸誘導体組成物が生分解性に優れたものとなることからもL体が好ましい。従って、本発明においては、アミノ酸としてL−アスパラギン酸が最も好適に用いられることになる。
【0060】
上記アルキレンオキサイドとしては特に限定されず、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、反応性に優れることから、エチレンオキサイドが好ましい。
【0061】
上記不飽和カルボン酸付加工程に用いられる不飽和カルボン酸としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られるアミノ酸誘導体において金属に対する配位数が多くなることから、不飽和ジカルボン酸が好ましい。また、不飽和ジカルボン酸の中でも、マレイン酸、無水マレイン酸等が好ましく、反応を効率的にするためには、無水マレイン酸を原料として用いることが好ましい。
【0062】
上記不飽和カルボン酸付加反応に用いられる希土類系触媒としては特に限定されず、例えば、形態は通常、酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩等であり、希土類元素としてはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム等のランタノイド系元素;スカンジウム;イットリウム等を挙げることができ、これらのうちでランタンは比較的安価で入手しやすい。好ましくは、酸化ランタンである。
【0063】
上記アルキレンオキサイド付加工程において、アミノ酸とアルキレンオキサイドとのモル比としては特に限定されず、例えば、アミノ酸のアミノ基の2つの水素原子がすべてアルキレンオキサイドと置換されるようにするために、(アルキレンオキサイドのモル数)/(アミノ酸のモル数)が2〜10となるようにすることが好ましい。より好ましくは、2.5〜8であり、更に好ましくは、3〜6である。
【0064】
上記アルキレンオキサイド付加工程においては、アミノ酸におけるカルボン酸の水素原子を置換するために、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニウム基を有する化合物等を用いることが好ましい。
上記アミノ酸におけるカルボン酸の水素原子を置換するために用いる化合物の使用量としては特に限定されず、例えば、アミノ酸におけるカルボン酸の水素原子を全て置換する場合には、アミノ酸に対して等当量以上の上記化合物を使用することが好ましい。例えば、アミノ酸1当量に対して上記化合物が1〜3当量となるようにすることが好ましい。より好ましくは、1〜2当量である。
【0065】
上記アルキレンオキサイド付加工程における反応方法としては特に限定されず、例えば、反応系を窒素ガス等の不活性ガスで置換することが好ましく、反応媒体を用いて行うことが好ましく、アルキレンオキサイドの反応を制御するためにアルキレンオキサイドを時間をかけて添加(滴下)することが好ましい。
上記反応媒体としては特に限定されず、例えば、水性媒体が好ましい。より好ましくは、水である。
上記反応媒体の使用量としては特に限定されず、例えば、アミノ酸塩の均一溶液となる量、例えば、通常はアミノ酸塩が40重量%程度で反応するようにすることが好ましい。
上記アルキレンオキサイドの添加(滴下)時間としては特に限定されず、例えば、エチレンオキサイドを用いる場合には、0.5〜6時間が好ましい。より好ましくは、1〜5時間である。
【0066】
上記アルキレンオキサイド付加工程における反応温度や反応時間としては特に限定されず、エチレンオキサイドを用いる場合には、反応温度が15〜80℃であり、反応時間がエチレンオキサイドの添加(滴下)を終了してから0.5〜5時間であることが好ましい。より好ましくは、反応温度が20〜60℃であり、反応時間がエチレンオキサイドの添加(滴下)を終了してから1〜4時間である。
【0067】
上記アルキレンオキサイド付加工程におけるアミノ酸の転化率としては特に限定されず、例えば、60%以上となるようにすることが好ましい。より好ましくは、80%以上であり、更に好ましくは、90%以上であり、最も好ましくは、95%以上である。
【0068】
上記不飽和カルボン酸付加工程において、不飽和カルボン酸とアミノ酸のアルキチレンオキサイド付加体とのモル比としては特に限定されず、例えば、(不飽和カルボン酸)/(アミノ酸のアルキチレンオキサイド付加体)が0.5〜4となるようにすることが好ましい。より好ましくは、1〜3である。
上記不飽和カルボン酸付加工程においては、不飽和カルボン酸とアミノ酸のアルキレンオキサイド付加体とのモル比を調整することで、得られるアミノ酸誘導体におけるカルボン酸付加体1とカルボン酸付加体2とのモル比を調整することができる。
【0069】
上記不飽和カルボン酸付加工程においては、不飽和カルボン酸におけるカルボン酸の水素原子を置換するために、アルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニウム基を有する化合物等を用いることが好ましい。上記不飽和カルボン酸におけるカルボン酸の水素原子を置換するために用いる化合物の使用量としては特に限定されず、例えば、不飽和カルボン酸におけるカルボン酸の水素原子をすべて置換する場合には、不飽和カルボン酸に対して等当量以上の上記化合物を使用することが好ましい。例えば、不飽和カルボン酸1当量に対して上記化合物が1〜3当量となるようにすることが好ましい。より好ましくは、1〜2当量である。
【0070】
上記不飽和カルボン酸付加工程における反応方法としては特に限定されず、例えば、反応系のpHを調整して行うことが好ましい。
上記不飽和カルボン酸付加工程における反応系のpHとしては特に限定されず、例えば、8以上であることが好ましい。より好ましくは、9以上であり、更に好ましくは、9.5以上である。
【0071】
上記一般式(8)で表されるカルボン酸付加体1、及び、上記一般式(9)で表されるカルボン酸付加体2をアルカリ金属塩として得るためには、アルカリ金属の炭酸塩及び/又は重炭酸塩等を添加して塩交換を行い、系中に含まれる希土類炭酸塩を沈殿させ濾過等の手段によって除去することにより、上記一般式(8)で表されるカルボン酸付加体1、及び、上記一般式(9)で表されるカルボン酸付加体2のアルカリ金属塩が水溶液として得られる。
【0072】
上記不飽和カルボン酸付加工程により得られた組成物は更に、各成分の分離によりアミノ酸誘導体を各々単離することができる。
上記単離の方法としては特に限定されず、例えば、酸処理によりカルボキシル基を全て酸型へと変換した後、塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用い、ギ酸水溶液等を溶離液として分離操作を行い、上記一般式(8)で表されるカルボン酸付加体1、及び、上記一般式(9)で表されるカルボン酸付加体2をそれぞれ酸型として得ることができる。
【0073】
上記一般式(8)で表されるカルボン酸付加体1と上記一般式(9)で表されるカルボン酸付加体2とを含み、これらの存在比が、特定の範囲にあるアミノ酸誘導体組成物は、上記製造方法により得られるそれぞれのアミノ酸誘導体を単離する必要もなく、かつ、単離したアミノ酸誘導体を超えるキレート作用及び生分解性を有することもあることから極めて有用な組成物である。
【0074】
本発明のアミノ酸誘導体組成物は、上記カルボン酸付加体1と上記カルボン酸付加体2との存在比を調整することにより、キレート作用と生分解性とを調整することができるものである。これにより、本発明のアミノ酸誘導体組成物がキレート剤に含有される場合に、キレート剤として用いられる分野や要求される性能により、キレート作用と生分解性とを調整することができることとなる。
【0075】
本発明のアミノ酸誘導体組成物における上記カルボン酸付加体1と上記カルボン酸付加体2との存在比は、通常、1:99〜99:1である。上記存在比が1:99を外れたり、99:1を外れたりすると、キレート作用と生分解性とを調整することができないこととなる。
上記存在比は、好ましくは、1:9〜9:1である。
上記存在比が1:9を外れカルボン酸付加体1の存在量が小さくなりすぎると、生分解性が減少してきて生分解性とキレート作用とのバランスを図ることができなくなるおそれがある。また、上記存在比が9:1を外れカルボン酸付加体1の存在量が大きくなりすぎると、本来のキレート作用が減少してきてキレート作用と生分解性とのバランスを図ることができなくなるおそれがある。
上記存在比は、より好ましくは、2:8〜8:2であり、更に好ましくは、3:7〜7:3であり、最も好ましくは、4:6〜6:4である。
【0076】
上記一般式(2)で表されるL−アスパラギン酸誘導体もまた、充分のキレート性能を有し、しかも格段に優れた生分解性を有するものでもある。このようなL−アスパラギン酸誘導体もまた、本発明の一つである。
本明細書において、「L−アスパラギン酸誘導体」の用語は、L−アスパラギン酸を原料として得られる化合物であることを意味するものではなく、分子中にL−アスパラギン酸の基本骨格を有する化合物であることのみを意味する。
【0077】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体の化学構造上の特徴の1つは、カルボキシル基、又は、置換されたカルボキシル基を少なくとも4個以上かつ窒素原子及びエーテル基由来の酸素原子が一分子内に同時に存在することである。
【0078】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体は、その化学構造上の特徴から、金属イオンに対して6座以上の配位子となり得ることができるため、良好なキレート作用を発現することとなる。また、本発明のL−アスパラギン酸誘導体のうち、nが0、mが2の化合物については、金属イオンに対して更に配位数を増やすことができることから、更に良好なキレート作用を発現することとなる。
【0079】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体のうち、nが1、mが1、Mが水素の化合物であって、かつ、*が付された不斉炭素について立体配置が特定されていない化合物については、国際公開公報WO97/45395号公報にBCEEAAとして記載された化合物である。しかしながら、当該BCEEAAは、合計3個の不斉炭素をその分子中に有するにもかかわらず3個の不斉炭素とも立体配置が特定されていないものであり、1個の不斉炭素について立体配置が特定された本発明のL−アスパラギン酸誘導体とは別異の化合物であるものと考えるべきものである。また、本発明のL−アスパラギン酸誘導体は、立体配置が特定された1個の不斉炭素が第3級アミンを構成する窒素原子に結合しているところにその化学構造上の特徴の1つがあることからも、当該BCEEAAと本発明のL−アスパラギン酸誘導体とは別異の化合物であるものと考えるべきものである。更に、本発明のL−アスパラギン酸誘導体は、BCEEAAとは、キレート剤としての効果も、そして特に生分解性についても別異の効果を示すことから、本発明は、当該公開公報に記載された発明とは異なるものである。
【0080】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体は、優れたキレート作用を有するとともに、高い生分解性を示すものである。このような優れたキレート作用と高い生分解性がなぜ発現するのかについては、上述したのと同様な理由が考えられる。つまり、本発明のL−アスパラギン酸誘導体が、キレート作用を高める基を複数有していることが考えられる。また、本発明のL−アスパラギン酸誘導体が、S配置である不斉炭素を有し、かつ、第3級アミンの構造において、窒素原子に当該S配置である不斉炭素が結合し、例えば、一般式(2)におけるmが2であり、nが0の場合には、水酸基を有するものとなり、生分解を受けやすいこれらの不斉炭素や水酸基を有するものであることから、効果的に生分解されるものであると考えられる。また、これらの不斉炭素や水酸基が生分解を受けると、連鎖的に生分解されていくため、高い生分解性が発現するものと考えられる。
【0081】
上記一般式(2)で表される本発明のL−アスパラギン酸誘導体としては、例えば、mが1であり、nが1の場合には、一般式(3)で表されるL−アスパラギン酸誘導体(A)となり、mが2であり、nが0の場合には、一般式(4)で表されるL−アスパラギン酸誘導体(B)となる。従って、本発明のL−アスパラギン酸誘導体としては、上記L−アスパラギン酸誘導体(A)、及び、上記L−アスパラギン酸誘導体(B)の2つが考えられる。
【0082】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体の特徴の1つは、一般式(2)で表される構造式中に*を付して示した不斉炭素の立体配置が、Sであるところにある。一般式(2)中には、不斉炭素は3個存在するが、本発明のL−アスパラギン酸誘導体においては、*を付して示した不斉炭素以外の不斉炭素の立体配置については特定のものである必要はなく、S配置のものとR配置のものとが、その存在比を限定されることなく混在していてよい。従って、本発明のL−アスパラギン酸誘導体は、分子中に存在する3個の不斉炭素のうち、一般式(2)中で*を付して示した不斉炭素1個の立体配置がSと特定された化合物である。
【0083】
後に詳述する本発明のL−アスパラギン酸誘導体の製造方法を用いて本発明のL−アスパラギン酸誘導体を製造する場合には、原料としてのL−アスパラギン酸の立体配置が維持されるところから、L−アスパラギン酸に由来する立体配置がそのまま一般式(2)で表される構造式中に*を付して示した不斉炭素の立体配置Sとして維持されることとなる。
【0084】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体のキレート作用及び生分解性を測定する方法としては特に限定されず、種々の測定方法があるが、例えば、上述したアミノ酸誘導体組成物において用いられる測定方法等を適用することができる。
【0085】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上述のアミノ酸誘導体の製造方法において、アミノ酸としてL−アスパラギン酸を用い、アルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドを用い、不飽和カルボン酸としてマレイン酸を用いることにより、L−アスパラギン酸誘導体にエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、L−アスパラギン酸誘導体のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程を含む製法により製造することができる。
上記工程の典型的な例を記載すれば、下記のようである。
【0086】
本明細書中において、L−アスパラギン酸誘導体にエチレンオキサイドを付加させる工程をエチレンオキサイド付加工程ともいう。また、L−アスパラギン酸誘導体のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程をマレイン酸付加工程ともいう。
【0087】
【化18】
【0088】
式中、Xは、上記と同じ。
上記エチレンオキサイド付加体としては、通常は、原料であるL−アスパラギン酸のアミノ基の2つの水素がすべてエチレンオキサイドと置換して生成するエチレンオキサイド付加体(上記一般式(11))を挙げることができる。このようにして生成した一般式(11)で表されるエチレンオキサイド付加体に対しては、通常は、マレイン酸を付加させる反応を行うことによりマレイン酸付加体を得ることができる。このような反応により得ることができるマレイン酸付加体としては、マレイン酸が1個付加したマレイン酸付加体1(上記一般式(12))、及び、マレイン酸が2個付加したマレイン酸付加体2(上記一般式(13))の2つを挙げることができる。
【0089】
上記L−アスパラギン酸誘導体の製造方法もまた、本発明の一つである。本発明の製造方法によれば、上述したのと同様に、上記一般式(10)で表される化合物が生成する可能性は全くなく、この点において、本発明のL−アスパラギン酸誘導体の製造方法は、国際公報WO97/45396号公報に開示された製造方法とは全く異なるものである。なお、上記一般式(10)で表される化合物は、キレート作用も生分解性も劣ることから、本発明のL−アスパラギン酸誘導体とは全く別異の化合物である。
【0090】
上記エチレンオキサイド付加工程及び上記マレイン酸付加工程における原料比率や反応条件等の反応方法は、上述したアルキレンオキサイド付加工程及び不飽和カルボン酸付加工程と同様である。また、同様に、マレイン酸付加工程により得られた組成物は更に、各成分の分離によりL−アスパラギン酸誘導体を各々単離することができる。
【0091】
上記のL−アスパラギン酸誘導体の製造方法により製造される一般式(12)で表されるマレイン酸付加体1は、既に説明した上記一般式(3)で表されるL−アスパラギン酸誘導体(A)と同一の化合物であり、一般式(13)で表されるマレイン酸付加体2は、既に説明した上記一般式(4)で表されるL−アスパラギン酸誘導体(B)と同一の化合物である。
【0092】
上記L−アスパラギン酸誘導体(A)と上記L−アスパラギン酸誘導体(B)とを含み、これらの存在比が、特定の範囲にあるL−アスパラギン酸誘導体組成物は、それぞれのL−アスパラギン酸誘導体を単離する必要もなく、かつ、単離したL−アスパラギン酸誘導体と同等又はそれ以上のキレート作用及び生分解性を有することから極めて有用な組成物である。上記L−アスパラギン酸誘導体組成物もまた、本発明の一つである。
【0093】
上記L−アスパラギン酸誘導体組成物は、上記L−アスパラギン酸誘導体(A)と上記L−アスパラギン酸誘導体(B)との存在比を調整することにより、キレート作用と生分解性とを調整することができるものである。これにより、上記L−アスパラギン酸誘導体組成物がキレート剤に含有される場合に、キレート剤として用いられる分野や要求される性能により、キレート作用と生分解性とを調整することができることとなる。
【0094】
上記L−アスパラギン酸誘導体組成物における上記L−アスパラギン酸誘導体(A)と上記L−アスパラギン酸誘導体(B)との存在比は、通常、1:99〜99:1である。上記存在比が1:99を外れたり、99:1を外れたりすると、キレート作用と生分解性とを調整することができないこととなる。
上記存在比は、好ましくは、1:9〜9:1である。
上記存在比が1:9を外れL−アスパラギン酸誘導体(A)の存在量が小さくなりすぎると、生分解性が減少してきて生分解性とキレート作用とのバランスを図ることができなくなるおそれがある。また、上記存在比が9:1を外れL−アスパラギン酸誘導体(A)の存在量が大きくなりすぎると、本来のキレート作用が減少してきてキレート作用と生分解性とのバランスを図ることができなくなるおそれがある。
上記存在比は、より好ましくは、2:8〜8:2であり、更に好ましくは、3:7〜7:3であり、最も好ましくは、4:6〜6:4である。
【0095】
本発明のL−アスパラギン酸誘導体組成物は、既に述べたように、L−アスパラギン酸にエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、L−アスパラギン酸のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程を含む製造方法により製造することができる。このようなL−アスパラギン酸誘導体組成物の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0096】
本発明のアミノ酸誘導体組成物、L−アスパラギン酸誘導体及びL−アスパラギン酸誘導体組成物は、キレート作用と生分解性とを同時に有するものであるので、各種キレート剤として用いることができる。本発明のアミノ酸誘導体組成物、L−アスパラギン酸誘導体及びL−アスパラギン酸誘導体組成物を含むキレート剤もまた、本発明の一つである。
【0097】
本発明のキレート剤は、本発明のアミノ酸誘導体組成物、L−アスパラギン酸誘導体及びL−アスパラギン酸誘導体組成物以外のキレート作用を有するものや添加剤等を含んでいてもよい。
本発明のキレート剤は、洗剤、洗剤組成物、繊維工業用薬剤、紙パルプ製造用薬剤、金属表面処理用薬剤、写真現像用薬剤等の幅広い分野において、活用することができるものである。
【0098】
上記一般式(5)で表されるN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を製造する方法であって、水溶液中でアミノ酸塩にアルキレンオキサイドを付加させる工程を含むN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法では、製造工程を簡素化し、副生成物が生じるおそれを低くし、しかも収率を高くしてN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を製造することができる。このようなN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法もまた、本発明の一つである。
上記水溶液中でアミノ酸塩にアルキレンオキサイドを付加させる工程をアルキレンオキサイド付加工程(2)ともいう。
【0099】
上記アミノ酸塩としては、アミノ酸が有するカルボキシル基における水素イオンが金属イオンやアンモニウムイオン等のカチオンですべて置換された化学構造のものであれば特に限定されず、例えば、複数のカルボキシル基を有するアミノ酸の場合には、複数のカルボキシル基における水素イオンをナトリウムイオンですべて置換したものであることが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本発明が奏する効果を損なわない範囲内で、アミノ酸が有する複数のカルボキシル基における水素イオンのうち金属イオンやアンモニウムイオン等のカチオンで一部が置換された化学構造のものを含んでもよい。
【0100】
本発明に用いられるアミノ酸塩としては特に限定されず、例えば、上述したアミノ酸の塩等が挙げられる。上記アミノ酸塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アスパラギン酸塩を用いることが好ましい。上記アミノ酸塩は、光学活性を有してもよく、有しなくてもよいが、L体がラセミ体及びD体よりも安価であることから、L体であることが好ましい。また、後に詳述するように、N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が生分解性に優れたものとなることからもL体であることが好ましい。従って、本発明の最も好ましい形態としては、L−アスパラギン酸塩を用いる。
【0101】
本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法においては、上記アミノ酸塩を得るための工程を含んでもよい。
上記アミノ酸塩を得るための工程としては特に限定されず、例えば、上述したアミノ酸におけるカルボン酸の水素原子を置換するために適用される操作等を好適に適用することができる。また、上記アミノ酸塩を得るための工程においては、アミノ酸におけるカルボキシル基の水素イオンをすべて置換することが好ましい。
【0102】
上記アルキレンオキサイド付加工程において、アミノ酸塩とアルキレンオキサイドとのモル比としては特に限定されず、例えば、アミノ酸塩のアミノ基の2つの水素がすべてアルキレンオキサイドと置換されたN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の収率を向上させるために、(アルキレンオキサイドのモル数)/(アミノ酸塩のモル数)が2.0〜4.5となるようにすることが好ましい。より好ましくは、2.5〜4.0である。
【0103】
上記反応媒体としては水を含むものであれば特に限定されず、例えば、水;水とアルコール等との水溶性有機溶媒との混合媒体等が挙げられる。これらの中でも、水のみを用いることが好ましい。
【0104】
上記アルキレンオキサイド付加工程(2)の反応条件やアミノ酸塩の転化率等としては、例えば、上述したアルキレンオキサイド付加工程(1)におけるのと同様に行うことができる。
【0105】
上記アルキレンオキサイド付加工程(2)においては、アミノ酸塩のアミノ基の2つの水素原子がすべてアルキレンオキサイドに置換されたN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が生成するが、アミノ酸塩のアミノ基の1つの水素だけがアルキレンオキサイドに置換されたN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が生成されてもよい。
【0106】
本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法は、上述した工程の他に、上記アルキレンオキサイド付加工程により製造されたN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が有するカルボキシル基におけるカチオンを他のカチオンや水素イオンに変換する工程を含んでもよい。
【0107】
本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法は、製造工程が簡素化されているため、製造コスト面で有利となる。また、副生成物が生じるおそれが低くなる。更に、水溶液中でアルキレンオキサイドを反応させるために、アミノ酸塩のモル数に対して、アルキレンオキサイドのモル数を過剰に反応させることができることとなる。そのため、製造工程が簡素化され、副生成物が生じるおそれが低くなることとの相乗効果として、収率を高くしてN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を効率的に製造することができることとなる。
【0108】
本発明により製造されてなるN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類は、その化学構造上の特徴の1つが、カルボキシル基又は置換されたカルボキシル基が少なくとも1つと、窒素原子とが一分子内に同時に存在することにあり、金属イオンに対して2座以上となり得ることができる。そのため、良好なキレート作用を発現することとなる。
【0109】
上記N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類は、キレート作用を有するとともに、高い生分解性を示すものである。このような優れたキレート作用と高い生分解性がなぜ発現するのかについては、上述したのと同様な理由が考えられる。つまり、本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が、キレート作用を高める基を複数有していることが考えられる。また、本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が、第3級アミンの構造において、生分解を受けやすい水酸基を有するものであることから、効果的に生分解されるものであると考えられる。また、水酸基が生分解を受けると、連鎖的に生分解されていくため、高い生分解性が発現するものと考えられる。
【0110】
上記N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類が、水溶液中でL体であるアミノ酸塩にアルキレンオキサイドを付加させる工程を含むことにより製造されてなる場合、本発明により製造されてなるN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類は、例えば、下記一般式(14);
【0111】
【化19】
【0112】
(式中、R、M2 及びXは、上記と同じ。*は、これが付された不斉炭素が、S配置であることを意味する。)で表されるものとなる。
この場合、N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類は、その化学構造が、S配置である不斉炭素を有し、かつ、第3級アミンの構造において、窒素原子に当該S配置である不斉炭素が結合し、水酸基を有するものとなり、優れた生分解性を示すものとなる。その理由は必ずしも定かではないが、例えば、上述したのと同様に、S配置である不斉炭素を有し、かつ、第3級アミンの構造において、窒素原子に生分解を受けやすい当該S配置である不斉炭素が結合し、かつ、水酸基を有していることから、効果的に生分解されるものであると考えられる。また、これらの不斉炭素や水酸基が生分解を受けると、連鎖的に生分解されていくため、高い生分解性が発現するものと考えられる。
【0113】
上記N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法は、分子中にアミノ酸の基本骨格を有する化合物、例えば、上述したアミノ酸誘導体組成物を製造するための中間体を製造する製造方法として、また、上述したアミノ酸誘導体の製造方法のための前工程としても有用なものである。この点において、本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法を含む製造方法により、上述したアミノ酸誘導体組成物やアミノ酸誘導体を製造工程を簡素化し、副生成物が生じるおそれを低くし、しかも収率を高くして製造することができることから、極めて有用な製造方法である。
【0114】
この場合、上記一般式(14)で表されるN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を中間体として用いることにより、上述したのと同様の理由により、最終生成物である分子中にアミノ酸の基本骨格を有する化合物は、その製造コストが抑制され、また、不斉炭素の立体配置がS配置として維持されることにより、優れた生分解性を有するものとなる。
【0115】
上記一般式(6)で表されるN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類を製造する方法であって、水溶液中でアスパラギン酸塩にエチレンオキサイドを付加させる工程を含むN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類の製造方法では、製造工程を簡素化し、副生成物が生じるおそれを低くし、しかも収率を高くしてN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類を製造することができる。このようなN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0116】
上記水溶液中でアスパラギン酸塩にエチレンオキサイドを付加させる工程としては特に限定されず、上述したN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を製造する方法において、アミノ酸塩としてアスパラギン酸塩を用い、アルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドを用いることにより行われる。上記アスパラギン酸塩は、光学活性を有してもよく、有しなくてもよいが、上述の理由によりL体であることが好ましい。
【0117】
上記水溶液中でアスパラギン酸塩にエチレンオキサイドを付加させる工程においては、反応原料の比率、反応条件、アミノ酸塩の転化率、副生成物、その他の工程等の反応方法を上述したN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法におけるのと同様に行うことができる。
【0118】
本発明のN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類の製造方法においても、上述したN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法と同様な作用効果を得ることができる。
【0119】
本発明により製造されてなるN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類は、その化学構造上の特徴の1つが、カルボキシル基若しくは置換されたカルボキシル基が2つと、窒素原子とが一分子内に同時に存在することにあり、金属イオンに対して3座以上の配位子となり得ることができる。そのため、良好なキレート作用を発現することとなる。
上記N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類はまた、優れたキレート作用を有するとともに、高い生分解性を示すものである。
【0120】
上記N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類が、水溶液中でL体であるアスパラギン酸塩にエチレンオキサイドを付加させる工程を含むことにより製造されてなる場合、本発明により製造されてなるN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類は、下記一般式(15);
【0121】
【化20】
【0122】
(式中、Xは、上記と同じ。*は、これが付された不斉炭素が、S配置であることを意味する。)で表されるものとなる。
この場合、N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類は、その化学構造が、S配置である不斉炭素を有し、かつ、第3級アミンの構造において、窒素原子に当該S配置である不斉炭素が結合し、水酸基を有するものとなり、優れた生分解性を示すものとなる。この理由としては、上述したN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の生分解性におけるのと同様の理由等が考えられる。
【0123】
上記N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類は更に、分子中にアスパラギン酸の基本骨格を有する化合物、例えば、上述したアミノ酸誘導体組成物を製造するための中間体を製造する製造方法として、また、上述したアミノ酸誘導体の製造方法のための前工程としても有用なものである。
【0124】
この場合、上記一般式(15)で表されるN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類を中間体として用いることにより、上述したのと同様の理由により、最終生成物である分子中にアスパラギン酸の基本骨格を有する化合物は、その製造コストが抑制され、また、不斉炭素の立体配置がS配置として維持されることにより、優れた生分解性を有するものとなる。
【0125】
本発明におけるN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類やそれを中間体として用いて製造した化合物は、キレート剤等として有用なものである。これらの化合物と、必要によりこれら以外のキレート作用を有するものや添加剤等とを含むキレート剤は、洗剤、洗剤組成物、繊維工業用薬剤、紙パルプ製造用薬剤、金属表面処理用薬剤、写真現像用薬剤等の幅広い分野において、活用することができるものである。
【0126】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0127】
製造例1
エチレンオキサイド付加工程:N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸ジナトリウム塩の製造
L−アスパラギン酸26.62g(0.2モル)を、水40gに加え、水酸化ナトリウム16.0gを添加した後、水で全体重量を88.56gとした。この水溶液をオートクレーブ中に仕込み、窒素で充分に置換し40℃に昇温した後、エチレンオキサイド35.24g(0.8モル)を3時間かけて添加した。添加終了後、更に40℃で1時間攪拌を行い、系中に存在するエチレンオキサイドを除去し、107.69gの水溶液を得た。この反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、原料であるL−アスパラギン酸の転化率は100%であり、N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸ジナトリウム塩53.02gを含有していた。
【0128】
製造例2
マレイン酸付加工程:L−アスパラギン酸誘導体組成物の製造
製造例1で得られた水溶液53.85gに無水マレイン酸29.42g(0.3モル)、水酸化ナトリウム24.0g及び酸化ランタン4.89gを加え、pHを10.5に調整した後、全体重量が114.65gになるまで濃縮した。この溶液を90℃で8時間攪拌した後、炭酸ナトリウム6.36gを添加し、さらに80℃で1時間攪拌を行い、室温まで放冷したのち析出した固体をろ過で除去し、114.82gの水溶液を得た。この水溶液を分析したところ、目的とするL−アスパラギン酸誘導体(A)が28.89重量%及びL−アスパラギン酸誘導体(B)が48.93重量%含まれていることが分かった。
【0129】
製造例3
製造例2で得られた反応溶液50gを強酸性陽イオン交換樹脂「DIAION PK216」(商品名、三菱化学社製)で処理した後、強塩基性陰イオン交換樹脂「DIAION PA316」(商品名、ギ酸アニオン型、三菱化学社製)を充填したカラムを用い、ギ酸水溶液(0M〜2.5M)を溶離液として分離操作を行い、L−アスパラギン酸誘導体(A)6.86g、及び、L−アスパラギン酸誘導体(B)12.34gをそれぞれ酸型として得た。
【0130】
実施例1及び2、比較例1 Ca 2+ に対するキレート性能評価
製造例3で得られたL−アスパラギン酸誘導体(A)〔実施例1〕、L−アスパラギン酸誘導体(B)〔実施例2〕、及び、〔S,S〕−エチレンジアミン−N,N′−ジコハク酸塩(ss−EDDS)〔比較例1〕を試料として、上述したCa2+に対するキレート性能評価を行った。その結果を表1に記載した。尚、試料はすべてNa塩型とし、試料1gあたりのCaCO3 捕捉量(mgCaCO3 /g)で表示した。
【0131】
【表1】
【0132】
表1中、ss−EDDS(4Na)とは、ss−EDDSのNa塩型であることを表す。
実施例3、比較例2〜5 H 2 O 2 安定化試験
製造例3で得られたL−アスパラギン酸誘導体(B)〔実施例3〕、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)〔比較例2〕、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)〔比較例3〕、ニトリロトリ酢酸(NTA)〔比較例4〕、及び、ブランク(キレート剤なし)〔比較例5〕を試料として、上述したH2 O2 安定化試験を行った。その結果を表2及び図1に記載した。尚、試料はすべてNa塩型とした。
【0133】
【表2】
【0134】
表2中、DTPA(5Na)、EDTA(4Na)及びNTA(3Na)とは、それぞれ、DTPA、EDTA及びNTAのNa塩型であることを表す。
【0135】
実施例4〜5 生分解性試験
製造例3で得られたL−アスパラギン酸誘導体(B)〔実施例4〕、製造例3で得られたL−アスパラギン酸誘導体(B)と同じ構造で光学活性を有さない化合物〔実施例5〕を試料として、上述した試験法301C:修正MITI試験(I)により生分解性試験を行った。その結果を表3に示した。
【0136】
【表3】
【0137】
表3中、数値は、28日後のDOC分解度(%)を示す。
【0138】
製造例4
L−アスパラギン酸26.62g(0.2モル)を、水40gに加え、水酸化ナトリウム16.0gを添加した後、水で全体重量を88.56gとした。この水溶液をオートクレーブ中に仕込み、窒素で充分に置換し40℃に昇温した後、エチレンオキサイド35.24g(0.8モル)を3時間かけて添加した。添加終了後、更に40℃で1時間攪拌を行い、系中に存在するエチレンオキサイドを除去し、107.69gの水溶液を得た。この反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、原料であるL−アスパラギン酸の転化率は100%であり、N−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸ジナトリウム塩53.02gを含有していた。
【0139】
【発明の効果】
本発明のアミノ酸誘導体組成物は、上述の構成よりなるので、優れたキレート剤効果及び生分解性をともに有する化合物であって、環境汚染のおそれがないキレート剤として有用である。また、本発明のN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類の製造方法は、上述の構成よりなるので、製造工程を簡素化し、副生成物が生じるおそれを低くし、しかも、収率を高くしてN−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】H2 O2 安定化試験におけるH2 O2 残存率(%)の経時変化を示すグラフである。
Claims (6)
- 請求項1記載の生分解性L−アスパラギン酸誘導体を製造する方法であって、
L−アスパラギン酸にエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、L−アスパラギン酸のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程を含むことを特徴とする生分解性L−アスパラギン酸誘導体の製造方法。 - 請求項1記載の生分解性L−アスパラギン酸誘導体を含むことを特徴とするキレート剤。
- 下記一般式(3);
下記一般式(4);
該キレート剤用L−アスパラギン酸誘導体含有組成物中における、該L−アスパラギン酸誘導体(A)と該L−アスパラギン酸誘導体(B)との存在比(モル数)は、1:99〜99:1であることを特徴とするキレート剤用L−アスパラギン酸誘導体含有組成物。 - 請求項4記載のキレート剤用L−アスパラギン酸誘導体含有組成物を製造する方法であって、
L−アスパラギン酸にエチレンオキサイドを付加させる工程、及び、L−アスパラギン酸のエチレンオキサイド付加体に希土類系触媒の存在下でマレイン酸を反応させる工程を含むことを特徴とするキレート剤用L−アスパラギン酸誘導体含有組成物の製造方法。 - 請求項4記載のキレート剤用L−アスパラギン酸誘導体含有組成物を含むことを特徴とするキレート剤。
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