JP4619487B2 - プロモーター遺伝子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、担子菌シイタケのユビキチン遺伝子における転写開始を指令するプロモーター、シイタケユビキチン遺伝子の転写終結を指令するターミネーター、並びに該プロモーター及び/又は該ターミネーターを含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、該形質転換体を用いるポリペプチドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の組換えDNA技術の進歩により、大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母、糸状菌、動物細胞、植物細胞などの様々な細胞を宿主として用いる異種遺伝子発現用宿主ベクター系の開発が行われている。例えば、現在までに、大腸菌の宿主ベクター系を用いて、インシュリン、成長ホルモン、インターフェロンなどの様々な有用物質が生産されている。また、植物の育種においては、従来の古典的な交配法では不可能であった種を越えての異種生物由来の遺伝子導入が、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のTiプラスミドなどの宿主ベクター系を用いることにより行われ、所望の性質を有するトランスジェニック植物が作出されている。
【0003】
上記の宿主ベクター系のうち、現在までに最も多く実用化されているのは大腸菌の宿主ベクター系である。しかし、大腸菌を宿主として用い、ヒトなどの高等動物由来のポリペプチドを生産させた場合、生産されたポリペプチドに糖鎖が付加されないことやポリペプチド鎖が本来の高次構造にフォールディング(folding)されないことなどが原因で、元来の生理活性を示さないことが多い。さらに、大腸菌は目的ポリペプチドの生産過程において、該ポリペプチド以外にも様々な毒性物質を産生するため、多段階の精製過程を必要とするなどの問題点がある。
【0004】
そこで、それらの問題を解決するため、糖鎖付加機能及び適正なフォールディング機能を有する宿主として、酵母細胞や動物細胞などの真核細胞を用いる宿主ベクター系の開発が行われてきた。しかし、酵母細胞を用いてヒトなどの高等動物由来のポリペプチドを生産させた場合、ヒト由来のものとは異なる高マンノース型の糖鎖が付加される場合があること、あるいは目的ポリペプチドの生産が低いことなどの問題点が挙げられる。一方、動物細胞を用いた場合であっても、目的産物の収量が極めて少ないことや高価な培地を必要とすることなどの問題点が多い。そのような観点から、高等動物細胞と同等の糖鎖が付加されかつ安価に培養でき、そして安全性が高いなどの要件を満たす宿主ベクター系が求められていた。ところで、担子菌は一般に酵母よりも動物に近縁である[T. L. Smith : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 7063 (1989)]ため、適正な糖鎖付加機能及び適正なフォールディング機能を有していると思われる。特に、シイタケ(Lentinula edodes)は、長年食用に用いられてきた実績もあり、安全性に優れている。
【0005】
シイタケの属する食用担子菌の遺伝子工学的な処方による形質転換の技術開発は、これまで、Miranda D.らが、エレクトロポレーション法によるマッシュルームの形質転換[Miranda D. van de Rhee, et.al., Mol.Gen.Genet., 250, 252-258, (1996)]、Ming Pengらがエレクトロポレーション法によるヒラタケの形質転換[Peng, M., et.al., Curr. Genet., 22, 53-59, (1992)]、そしてYanai, K.らがポリエチレングリコール法によるヒラタケの形質転換[Yanai, K. et. al., Biosci. Biotech. Biochem., 60, 472-475 (1996)]について報告し、 Noёlらがポリエチレングリコール法によるフミヅキタケの形質転換[Noёl, T and Labarere, J. , Curr. Genet., 25: 432-437 (1994), Noёl, T. et al., Theor. Appl. Genet., 90: 1019-1027 (1995)]について報告している。
【0006】
シイタケの宿主ベクター系の開発は有効なものが確立されていなかったが、本発明者らは鋭意検討を重ね、有効なシイタケの形質転換方法[Sato, T. et. al., Biosci. Biotech. Biochem., 62, 2346-2350 (1998)、佐藤ら、特開平11-155568]及び発現ベクター(pLG及びpLT)を開発した(平野ら、特開2000-069975、及び、佐藤ら、特願平11-342347)。
【0007】
一般に、より高い発現量をもたらす発現ベクターを構築するためには、mRNAへの転写効率が高いプロモーターを用いることが必要である。ユビキチンは、蛋白質の分解提示シグナルの機能などを有する保存性の高い蛋白質であり、トウモロコシのユビキチンプロモーター(maize ubiquitin promoter)は、植物用の高発現ベクターに利用されている[Maria-Jesus Cornejo, et. al., (1993) Plant Molecular Biology 23: 567-581]。
【0008】
しかし、現在までにシイタケ由来のユビキチン遺伝子のプロモーター及び該プロモーターを含む組換えベクターは知られていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シイタケのユビキチン遺伝子の転写開始を指令するプロモーター、シイタケユビキチン遺伝子の転写終結を指令するターミネーター、並びに該プロモーター及び/又は該ターミネーターを含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、該形質転換体を用いるポリペプチドの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、シイタケ菌糸から調製したcDNA及びゲノムDNAライブラリーからユビキチン遺伝子を単離し、さらにそのプロモーター領域及びターミネーター領域を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(a)又は(b)に示される、プロモーターとして機能し得るDNAを提供する。
(a)配列番号1中の第1〜2116塩基で表される塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号1中の第1〜2116塩基で表される塩基配列において少なくとも1個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつプロモーター活性を有するDNA。
さらに、本発明は、上記DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するDNAを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、以下の(c)又は(d)に示される、ターミネーターとして機能し得るDNAを提供する。
(c)配列番号2中の第16〜1199塩基で表される塩基配列を含むDNA。
(d)配列番号2中の第16〜1199塩基で表される塩基配列において少なくとも1個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつターミネーター活性を有するDNA。
さらに、本発明は、上記DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつターミネーター活性を有するDNAを提供する。
【0013】
さらに、本発明は、上記のプロモーターとして機能し得るDNA及び/又は上記のターミネーターとして機能し得るDNAを含有する発現用組換えベクターを提供する。
さらに、本発明は、上記発現用組換えベクターに任意のポリペプチドをコードする遺伝子が組み込まれた組換えベクターを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、上記発現用組換えベクターを含む形質転換体を提供する。
さらに、本発明は、上記組換えベクターを含む形質転換体、並びに、該形質転換体を培養又は栽培し、得られる培養物又は栽培物からポリペプチドを採取することを特徴とする前記ポリペプチドの製造方法を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のプロモーターは、(a)配列番号1で表される塩基配列を含むDNA、又は(b)配列番号1で表される塩基配列において少なくとも1個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつプロモーター活性を有するDNAであり、このようなDNAはプロモーターとして機能し得る。また、本発明のターミネーターは、(c)配列番号2で表される塩基配列を含むDNA、又は(d)配列番号2で表される塩基配列において少なくとも1個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、かつターミネーター活性を有するDNAであり、このようなDNAはターミネーターとして機能し得る。
【0016】
上記配列番号1で表される塩基配列を含むプロモーターは、シイタケユビキチン遺伝子の5'上流域から単離したものであり、上記配列番号2で表される塩基配列を含むターミネーターは、シイタケユビキチン遺伝子の3'下流域から単離したものである。また、本発明の発現用組換えベクターは、従来のシイタケ用発現ベクターと異なり、上記のユビキチン遺伝子プロモーター及び/又はユビキチン遺伝子ターミネーターを組み込んだベクターである。本発明の発現用組換えベクターは、所望のタンパク質又はポリペプチドの生産に用いることができる。
【0017】
以下、本発明のプロモーター及びターミネーターの単離、本発明の発現用組換えベクターの構築、該ベクターを用いるポリペプチドの生産について詳細に説明する。
【0018】
1.シイタケユビキチン遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域の単離
本発明のプロモーター及びターミネーターは、シイタケユビキチン遺伝子cDNAの配列決定、シイタケゲノムDNAライブラリーの調製、該ライブラリーからのシイタケユビキチン遺伝子ゲノムDNAの単離、該ゲノムDNAの配列決定、cDNAとゲノムDNAの配列比較によるプロモーター領域及びターミネーター領域の特定、並びにこれらの領域の単離という手順で得ることができる。以下、各工程について説明する。
【0019】
(1)シイタケのmRNA及びcDNAライブラリーの調製
mRNAの供給源は、シイタケ(Lentinula edodes)の傘、菌褶、菌輪、菌柄、脚苞、菌糸等、子実体の一部でもよく、子実体全体でもよい。また、胞子又は一次菌糸若しくは二次菌糸を0.25×MYPG培地、SMY培地、グルコース・ペプトン培地などの固体培地で培養後、菌糸を液体培地に接種し、生育してきた菌体も用いることができる。
【0020】
mRNAの調製は、通常行われる手法により行うことができる。例えば、まず、液体培地での培養により得られた菌糸を、濾過によって回収後、液体窒素で凍結する。次いで、凍結した菌糸を磨砕後、ISOGEN(ニッポンジーン社製)等を加えて核酸を抽出する。抽出した核酸を、クロロホルムやフェノール試薬などで処理して全RNAを得た後、オリゴ dT-セルロースやセファロース2Bを担体とするポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法、若しくはStraight A's mRNA Isolation System(Novagen社製)などのキットを用いてmRNA(ポリ(A)+RNA)を調製することができる。
【0021】
このようにして得られたmRNAを鋳型として、市販のキット(例えば、ZAP ExpressTM cDNA Synthesis Kit:Stratagene社製)を用い、オリゴdT20及び逆転写酵素によって一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成する。次いで、得られた二本鎖cDNAにEco RIアダプターなどの適切なアダプターを付加後、Uni-ZAP XR Vector(Stratagene社製)やλgt10(Amersham社製)などの適当なクローニングベクターに組み込んで、組換えベクターを作製する。
【0022】
クローニングベクターとしてプラスミドベクターを用いた場合、得られた組換えベクターを大腸菌に形質転換する。ここで、大腸菌の形質転換はHanahanの方法[Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166: 557-580 (1983)]、すなわち塩化カルシウム、塩化マグネシウム又は塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、組換えベクターを加える方法等により行うことができる。なお、ここで用いたプラスミドベクターには、プレート上でのコロニーの選択用にテトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が含有されていることが必要である。次いで、二本鎖cDNAを含むプラスミドベクターにより大腸菌を形質転換後、テトラサイクリン耐性、アンピシリン耐性を指標として形質転換体を選抜することにより、cDNAライブラリーを得ることができる。
【0023】
一方、クローニングベクターとしてファージベクターを用いた場合には、得られた組換えベクターをGiga Pack III Gold Packaging Extract(Stratagene社製)などのキットを用いてin vitroパッケージングした後、形成されたファージを大腸菌に感染させる。これをLB Agarなどの寒天培地を用いて培養し、プラークを形成させることによりcDNAライブラリーを得ることができる。
【0024】
(2)シイタケのゲノムDNA及びゲノムDNAライブラリーの調製
ゲノムDNAの供給源は、上記(1)と同様に、シイタケの傘、菌褶、菌輪、菌柄、脚苞、菌糸等、子実体の一部でもよく、子実体全体でもよい。また、胞子又は一次菌糸若しくは二次菌糸を0.25×MYPG培地、SMY培地、グルコース・ペプトン培地などの固体培地で培養後、菌糸を液体培地に接種し、生育した菌体を用いることができる。
【0025】
ゲノムDNAの調製は、通常行われる手法により行うことができる。例えば、まず、液体培養したシイタケの菌体を濾過などにより集菌後、菌体を液体窒素で凍結し、凍結菌体を乳鉢を用いて磨砕する。磨砕した菌体にDNA抽出用緩衝液を加え、クロロホルムを加えて激しく撹拌する。クロロホルムを除去後、水層部分にエタノールを徐々に添加し、DNAが析出したところでゲノムDNAを巻取り、TE緩衝液に溶解することにより、ゲノムDNA溶液を得ることができる。あるいは、磨砕した菌体から、市販のキット(例えばISOPLANT:ニッポンジーン社製)を用いてゲノムDNAを得ることもできる。
【0026】
ゲノムDNAライブラリーの作製は、通常行われる手法により行うことができる。例えば、まず、ゲノムDNAを制限酵素Sau3AIなどの制限酵素で消化し、フェノール・クロロホルム処理後、エタノール沈殿によりDNA断片を回収する。次いで市販のキット(例えば、Lambda EMBL3/Bam HI Vector Kit:Stratagene社製)を用い、該断片を、例えば、λ EMBL3-Bam HIアームにT4 DNAリガーゼを用いて連結し、得られたファージDNAを大腸菌に感染させる。その後、これをLB Agar等の寒天培地を用いて培養し、プラークを形成させることによりゲノムDNAライブラリーを作製することができる。
【0027】
(3)ユビキチン遺伝子の単離
ユビキチン遺伝子は、cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリーから、通常の方法(例えば、PCR法、プラークハイブリダイゼーション法等)によりスクリーニングすることができる。すなわち、既知の糸状菌類のユビキチンにおいて保存性の高いアミノ酸配列[Lyndon M. Foster, et. al., (1993) Mycol. Res. 97(7): 769-781]をもとに縮重センスプライマー及び縮重アンチセンスプライマーを合成する。次いで、これらを用いて縮重ポリメラーゼ連鎖反応(縮重PCR)を行う。得られた断片をプローブとして、シイタケcDNAライブラリーをスクリーニングし、ユビキチン遺伝子を得ることができる。
【0028】
上記縮重PCRに用いられる鋳型DNAとしては、上記(2)で調製したゲノムDNAが挙げられる。またプライマーとしては、上述のように、保存性の高いアミノ酸配列に基づいて合成した縮重プライマーが挙げられ、その塩基配列は特に限定されないが、例えば、センス鎖については、アミノ酸配列:MQIFVKT(配列番号3)に基づいて設計したユビキチン上流プライマーU1(5'-ATGCARATHTTYGTNAARAC-3':配列番号4)を、アンチセンス鎖については、アミノ酸配列:IEKESTL(配列番号5)に基づいて設計したGPD下流プライマーL1(5'-ARNGTNSWYTCYTTYTCDAT-3':配列番号6)等を用いることができる。ここで、RはG又はAを示し、HはA、T又はCを示し、YはT又はCを示し、SはG又はCを示し、WはA又はTを示し、DはA、G又はTを示し、NはA、T、C又はGを示す。
【0029】
このようにして得られたDNA増幅断片の塩基配列を決定し、担子菌の公知のユビキチン遺伝子とホモロジーが高いことを確認した後、その断片にペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等による酵素直接標識、又は32P、35S等による放射性標識を施し、これを上記スクリーニング用のプローブとして用いることができる。上記DNA増幅断片の塩基配列は特に限定されないが、例えば、配列番号11で表される塩基配列を挙げることができる。次いで、こうして得られるプローブを、ファージライブラリーのDNAを変性固定したニトロセルロースやナイロンメンブレンフィルターとハイブリダイズさせる。そして、得られたポジティブシグナルからファージクローンを同定し、シイタケのユビキチン遺伝子をクローニングすることができる。
【0030】
(4)塩基配列の決定
上記(3)のスクリーニングにより得られたクローンは、pBlueScript SK(+)(Stratagene社製)、pCR2.1(Invitrogen社製)等の市販されている適切なプラスミドベクターにサブクローニングし、例えばサイクルシークエンス法などの塩基配列の解析を行うことができる。塩基配列の決定は、自動塩基配列決定装置(例えば、Perkin Elmer社製、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer)を用いて行われる。
【0031】
(5)ユビキチン遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域の単離
ユビキチン遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域の単離は、該領域をそれぞれ含むユビキチン遺伝子の上流約2.1kbpの領域及び下流約1.2kbpの領域を、上記(4)において決定された塩基配列に基づいて合成したプライマーを用いて、ゲノムライブラリーからクローニングしたゲノムユビキチン遺伝子、シイタケ染色体DNAなどを鋳型とするPCRによって増幅することにより行うことができる。ここで、プロモーター領域単離のためのPCRに用いることができるプライマーとして、例えば、5'-TATAATAAAACACAACGCCGCAGAC-3'(UproU:配列番号7)の塩基配列で表される5'センスプライマー及び5'-CATTTTGCGGGAGTGAATCGACTAC-3'(UproL:配列番号8)の塩基配列で表される3'アンチセンスプライマーが挙げられる。また、UproL(配列番号8)に代えて5'-TTTGCGGGAGTGAATCGACTACCAC-3'(配列番号12)の塩基配列で表される3'アンチセンスプライマーを用いると、開始コドンを含まないプロモーターを得ることができる。さらに、ターミネーター領域単離のためのPCRに用いることができるプライマーとして、例えば、5'-GGTGGATGTCCTTAGTTGTGTTG-3'(UterU:配列番号9)の塩基配列で表される5'センスプライマー及び5'-AGAAACTTCTATCCGCCAAACC-3'(UterL:配列番号10)の塩基配列で表される3'アンチセンスプライマーが挙げられる。また、UterU(配列番号9)に代えて5'-TTGTGTTGATTCTTGACAATCCG-3'(配列番号13)の塩基配列で表される5'センスプライマーを用いると、終止コドンを含まないターミネーターを得ることができる。
【0032】
配列番号1中の第1〜2116塩基に本発明のプロモーター活性を有するDNAの塩基配列、配列番号2中の第16〜1199塩基に本発明のターミネーター活性を有するDNAの塩基配列を例示するが、前者の場合であればプロモーター活性、後者の場合であればターミネーター活性を有する限り、当該塩基配列において少なくとも1個の塩基の欠失、置換、付加等の変異が生じてもよいし、このような変異を導入してもよい。ここで、欠失、置換、付加とは、1〜10個の短い欠失、置換、付加のみならず、10〜50塩基、さらには50〜100塩基の長い欠失、置換、付加も含む。
【0033】
さらに、配列番号1に本発明のプロモーター活性を有するDNAの塩基配列、配列番号2に本発明のターミネーター活性を有するDNAの塩基配列を例示するが、前者の場合であればプロモーター活性、後者の場合であればターミネーター活性を有する限り、当該塩基配列において少なくとも1個の塩基の欠失、置換、付加等の変異が生じてもよいし、このような変異を導入してもよい。ここで、欠失、置換、付加とは、1〜10個の短い欠失、置換、付加のみならず、10〜50塩基、さらには50〜100塩基の長い欠失、置換、付加も含む。
【0034】
なお、DNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えば Mutant-K や Mutant-G(TaKaRa社製))などを用いて、あるいはTaKaRa社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異を導入することができる。
【0035】
また、上記プロモーター領域又はターミネーター領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性又はターミネーター活性を有するDNAも本発明のDNAに含まれる。
【0036】
さらに、本発明のDNAは、配列番号1中の第1〜2116塩基若しくは配列番号1の全体又は配列番号2中の第16〜1199塩基若しくは配列番号2の全体で表される塩基配列と、少なくとも90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有し、かつ、プロモーター活性又はターミネーター活性を有するDNAをも包含する。上記の相同性の数値は、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、好ましくはBLASTにおいてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出される数値である。
【0037】
上記のような、配列番号1又は配列番号2以外の塩基配列を有するDNAがプロモーター活性又はターミネーター活性を有するか否かは、例えば、これらのDNAをマーカー遺伝子と共に機能しうる形で組み込んだ発現ベクターを調製し、該発現ベクターで形質転換したシイタケを培養して上記マーカーの発現を調べることにより確認することができる。マーカー遺伝子としては、例えば、抗生物質ハイグロマイシンBに対する抵抗性を付与するハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(Hygromycin B phosphotransferase, hph)遺伝子[Griz and Davis, Gene, 25: 179-188 (1983)]、除草剤ビアラフォスに対する抵抗性を付与するホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(phosphinothricin acetyltransferase, bar)遺伝子[Murakami et al., Mol. Gen. Genet., 205: 42-50 (1986)]等が挙げられる。発現ベクターの調製及び形質転換体の作製については後に詳述する。
【0038】
一旦、本発明のDNAの塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又は本発明のDNAを含むcDNAないしゲノムDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることにより、本発明のDNAを得ることができる。
【0039】
2. 本発明の発現用組換えベクターの構築
上記1.において得られたユビキチン遺伝子のプロモーター領域及び/又はターミネーター領域を適当なプラスミドベクター(例えば、pUC19ベクター等)に連結することにより、本発明の発現用組換えベクターを構築することができる。
【0040】
発現用組換えベクターには、外来遺伝子の導入を実際に確認する上で有効なマーカー遺伝子を併用して使用することが望ましい。そのため本発明の発現用組換えベクターには、ユビキチン遺伝子のプロモーター領域の下流に、例えば、抗生物質ハイグロマイシンBに対する抵抗性を付与するハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(Hygromycin B phosphotransferase, hph)遺伝子[Griz and Davis, Gene, 25: 179-188 (1983)]、除草剤ビアラフォスに対する抵抗性を付与するホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(phosphinothricin acetyltransferase, bar)遺伝子[Murakami et al., Mol. Gen. Genet., 205: 42-50 (1986)]などを連結するとよい。こうして作出した発現用組換えベクターをPEG法、エレクトロポレーション法、REMI法などの様々な遺伝子導入法でシイタケに導入し、その薬剤に対する抵抗性を指標として形質転換体を得ることができる。
【0041】
3.本発明の発現用組換えベクターを用いるポリペプチドの生産
本発明の発現用組換えベクターを用いて、シイタケにおいて目的のポリペプチドを遺伝子工学的に得ることができる。
【0042】
上記2.の発現用組換えベクターに、目的のポリペプチド(例えばインシュリン、成長ホルモン、チロシナーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼなどの有用タンパク質)をコードする遺伝子を連結(挿入)することにより組換えベクターを作製することができる。本発明のベクターに目的のポリペプチドをコードする遺伝子を挿入する方法としては、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、本発明のベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が挙げられる。得られた組換えベクターをシイタケにPEG法、エレクトロポレーション法、REMI(Restriction Enzyme-Mediated Integration)法などの方法によって導入することにより、形質転換体を得ることができる。
【0043】
次いで、得られた形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより、目的のポリペプチドを得ることができる。
【0044】
本発明において形質転換体の菌糸を培養する方法としては、シイタケの培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0045】
シイタケを宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、シイタケが資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0046】
炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン、マルトース、デキストリン等の炭水化物が用いられる。
【0047】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、NZアミン等が用いられる。
【0048】
無機物としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸亜鉛、塩化マンガン、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0049】
菌糸の培養は、液体培地での振盪培養、通気撹拌培養、固体培地での静置培養等の好気〜微好気条件下、25℃で数日間〜2ヶ月程度行うことが好ましい。継代は生育した菌糸の一部を新たな培地に接種することにより行うことができる。培養中は、必要に応じてハイグロマイシンやビアラフォス等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0050】
目的のポリペプチドがシイタケ子実体において生産される場合には、シイタケ菌株を用いて子実体を立ち上げることができる。シイタケ子実体を立ち上げる方法としては、例えば、菌床培養が挙げられる。
【0051】
菌床培養を行うためには、まず、種菌を調製する。ここで、「種菌」とは、シイタケ栽培において種として使用するもので、適度な条件下で純粋に培養した菌体又は培養物をいう。このような種菌としては、液体培地にて調製した液体種菌、菌糸を断片化した液体種菌、寒天培地で調製したもの、オガクズ種菌等が挙げられる。
【0052】
種菌の調製は、公知の方法を用いて行うことができ、その方法は特に制限されないが、ここでは1例としてオガクズ種菌培養法を用いた例を示す。培地は、オガクズと米ヌカとを10:1の割合で混合し、含水率63%に調製する。これをポリプロピレン製培養器(800ml)に500g充填し、蓋をして121℃で40分間加圧蒸気滅菌をする。室温まで放冷した後、シイタケ菌株を接種し培養する。培養の条件は、当業者であれば適切に設定することができるため、特に制限されない。このような培養は、例えば、20℃、相対湿度65%にて約50日間培養することにより行うことができる。
【0053】
次に、上記のようにして得られる種菌を用いて、菌床培養を行う。ここで、「菌床」とは、シイタケの栽培を目的として調製された培地に種菌を接種したもの、又はその菌が蔓延したものをいう。この菌床培養は、当業者であれば適切に行うことができるため、その方法は特に制限されないが、1例として以下のような方法を挙げることができる。
【0054】
オガクズ:北研バイデル(10:1)からなる培地の水分を63%に調整し、フィルター付きポリプロピレン製袋に、培地を2.5kg詰め込み、直方体(密度0.7g/cm)に成形する。培地中央部に直径2cmの穴を底部に到達するまで開け、これをオートクレーブにて、121℃で40分間滅菌し、室温で一晩放冷したものを培養基とする。この培養基に上記オガクズ種菌を約17gずつ接種し、ヒートシーラーにて速やかに袋を閉じる。これを20℃、相対湿度65%の条件下において暗黒下で培養する。この培養は、菌糸が菌床全面に蔓延し、完熟するまで行うが、通常、種菌接種から菌床完熟までの期間は102〜116日間である。
【0055】
最後に、上記の菌床培養によって得られる菌床から子実体を発生させる。この操作は当業者であれば適切に行うことができるため、その方法は特に制限されないが、1例として以下のような方法を挙げることができる。
【0056】
菌床完熟培養した袋を開封して菌床を取り出し、温度16℃、湿度85%、照度300ルックス(12時間おき)の条件下で子実体を発生させ、収穫する。子実体の芽出しから収穫までの期間を特に「発生期間」というが、この発生期間は、当業者であれば適切に設定することができるため、特に制限されない。発生終了後、浸水処理(約20時間)を施した後に、再度発生のための培養を行って2回目の発生を行う。さらに、収穫後、再度浸水処理を行い、2回目と同じく子実体の発生を行うことができる。
【0057】
培養後、目的のポリペプチドが菌体内あるいは子実体内に生産される場合には菌体あるいは子実体を破砕する。一方、目的のポリペプチドが菌体外に分泌される場合には、液体培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体を除去し、上清を得る。そして、ポリペプチドの単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、上記培養物中から目的のポリペプチドを単離精製することができる。
【0058】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1〕シイタケユビキチン遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域の単離
(1)シイタケ菌糸の調製
北研産業のシイタケ菌株北研57(市販株)の2核菌糸を0.25×MYPG寒天培地(0.25%麦芽エキス、0.1%酵母エキス、0.1%ペプトン、0.5%グルコース、1.5%寒天)に接種し、約2週間、25℃で培養した。生育した菌糸を寒天培地上からかきとり、100mlの0.25×MYPG液体培地(0.25%麦芽エキス、0.1%酵母エキス、0.1%ペプトン、0.5%グルコース)の入った200ml容三角フラスコに接種した。接種後、25℃で約2〜4週間振盪培養し、菌糸を生育させた。
【0060】
(2)シイタケ菌糸cDNAライブラリーの調製
上記(1)により得られた液体培養液をガラスフィルターで濾過することにより、菌糸を回収した。水分をペーパータオルで十分に除去し、湿重量約1gの菌糸を、液体窒素存在下で乳鉢及び乳棒を用いて、パウダー状になるまで磨砕した。液体窒素を除くために2分間ほど放置した後、磨砕した菌糸をポリプロピレン製の50ml容遠心チューブに移し、10mlのISOGEN(ニッポンジーン社製)を加えて、室温で10分間激しく撹拌後、さらに2mlのクロロホルムを加えて、室温で1分間激しく撹拌した。
【0061】
磨砕液を10000×g、4℃で5分間遠心し、水層を回収した。再度、タンパク質やDNA等を取り除くため、回収した水層に5mlのISOGEN及び1mlのクロロホルムを加えて、激しく撹拌した。この混合物を10000×g、4℃で5分間遠心後、水層を回収し、フェノール・クロロホルム処理及びイソプロパノール沈殿を行った。
【0062】
得られた沈殿物を1mlのDEPC処理水(滅菌水にジエチルピロカーボネイトを0.1%になるように溶解し、オートクレーブ中、120℃で1時間処理したもの)に溶解後、250μlの10M塩化リチウム水溶液を加え、-80℃で1時間冷却した。次いで、この混合物を12000×g、4℃で15分間遠心した。上清を除去した後、ペレットを70%エタノールで洗浄後、200μlのDEPC処理水に溶解した。この混合物を10000×g、4℃で5分間遠心し、上清を回収し、次いでエタノール沈殿を行うことにより全RNAを得た。得られた全RNAを200μlのDEPC処理水に溶解し、吸光度測定法及びホルムアルデヒド変性アガロースゲル電気泳動により、良質の全RNAが調製されたことを確認した。
【0063】
次いで、全RNAから、Straight A'sTM mRNA Isolation System (Novagen社製)を用いて、ポリ(A)+RNAを精製した。得られたRNAの量をUV分光器により測定したところ、20μgであった。
【0064】
得られたポリ(A)+RNAを鋳型として、ZAP ExpressTM cDNA Synthesis Kit (Stratagene社製)を用いて二本鎖cDNAの合成を行った。すなわち、まず、下記の表1に示す組成を有する溶液に、逆転写酵素(MMLV-RTase)3.5μl(20U/μl)を添加して、37℃で1時間インキュベートすることにより一本鎖cDNAを合成した。インキュベート後、反応液を氷中で冷却した。
【0065】
【表1】
【0066】
次に、得られた一本鎖cDNAの反応液に、下記の表2に示す試薬を順に加え、得られた反応液を、16℃で2.5時間インキュベートすることにより第2鎖cDNAを合成した。インキュベート後、反応液を氷中で冷却した。
【0067】
【表2】
【0068】
合成した二本鎖cDNAに、2μlの2.5U/μl Cloned Pfu DNA polymerase(Stratagene社製)を加え、72℃で30分間インキュベートすることにより、該二本鎖cDNAの末端を平滑化した。次いで、フェノール・クロロホルム抽出及びエタノール沈殿を行った後、9.0μlのEco RIアダプター溶液(Stratagene社製)に沈殿を溶解して、二本鎖cDNA溶液を得た。
【0069】
合成した二本鎖cDNAのサイズは、二本鎖cDNA溶液9μlのうち1μlを1.0%アルカリアガロースゲル電気泳動に供試することにより確認した。
【0070】
次に、8.0μlの二本鎖cDNA溶液に、下記の表3に示す組成を有する溶液を加え、得られた反応液を8℃で一晩インキュベートすることにより、二本鎖cDNAの両末端にEco RIアダプターを付加した。アダプター付加後、反応液を70℃で30分間熱処理し、リガーゼを失活させた。
【0071】
【表3】
【0072】
次いで、ベクターとのライゲーションを行うため、下記の表4に示される組成を有する反応液を、37℃で30分間インキュベートすることにより、二本鎖cDNAのEco RI末端のリン酸化を行った。反応後、反応液を70℃で30分間熱処理し、キナーゼを失活させた。
【0073】
【表4】
【0074】
次に、二本鎖cDNAがベクターにセンス方向に組み込まれるようにするため、下記の表5に示される組成を有する反応液を、37℃で90分間反応させることにより、Eco RIアダプター付加二本鎖cDNAをXho Iで消化し、3'末端にXho Iサイトを生じさせた。反応後、反応液を室温にまで冷却し、5μlの10×STE緩衝液を加えた。これにより、上記二本鎖cDNAの5'末端にEco RIサイトを、3'末端にXho Iサイトを生じさせた。
【0075】
【表5】
【0076】
上記溶液を、1×STE緩衝液で平衡化したSephacryl S-500カラム(Stratagene社製)に供して、未付加のアダプターとXho I消化産物を除去した。次いで、カラムの溶出画分のフェノール・クロロホルム抽出、さらにエタノール沈殿を行い、得られた沈殿を5μlの滅菌水に溶解した。得られたcDNA溶液の濃度を吸光度測定法(260nm)により定量した。
【0077】
上記のようにして得られた、5'末端にEco RIサイト、3'末端にXho Iサイトを有するcDNA(100ng)を、クローニングベクターであるZAP Express Vector arms(Stratagene社製)に2UのT4 DNA リガーゼを用いて挿入した。反応は12℃で14時間行った。このライゲーション反応液5μlのうち2μlを、Giga Pack III Gold Packaging Extract(Stratagene社製)を用いて、in vitroパッケージングに供した。
【0078】
パッケージングされた組換えバクテリオファージを含むパッケージング溶液30μlに、10mM MgCl2でOD600が0.5となるように調製したE. coli XL1-blue MRF'株を600μl加え、37℃で15分間培養した。これを48℃に保温した6.5mlのNZYトップアガロース(0.5%塩化ナトリウム、0.2%硫酸マグネシウム7水和物、0.5%酵母エキス、1%NZアミン、0.7%アガロース、pH7.5)に加え、90mm×130mmの角型シャーレを用いたNZYプレート(0.5%塩化ナトリウム、0.2%硫酸マグネシウム7水和物、0.5%酵母エキス、1%NZアミン、1.5%アガー、pH7.5)上に、1枚当たり約5万個のプラークが形成されるように、計15枚のプレートに播き、合計75万個のプラークからなるライブラリーを作製した。
【0079】
(3)シイタケのゲノムライブラリーの調製
上記(1)により得られた液体培養液をガラスフィルターで濾過することにより、菌糸を回収した。水分をペーパータオルで十分に除去し、湿重量約1gの菌糸を、液体窒素存在下で乳鉢及び乳棒を用いて、パウダー状になるまで磨砕した。液体窒素を除くために2分間ほど放置した後、磨砕した菌糸をポリプロピレン製の50ml容遠心チューブに移し、20mlのTESS緩衝液(0.73M シュクロース、10mMトリス緩衝液(pH 8.0)、1mM EDTA(pH8.0)、1%SDS)を加えて、65℃で1時間インキュベートした。これに終濃度が1Mとなるように5M NaClを加えて、8,000×gで20分間遠心し、上清を回収した。回収した上清に等量のフェノール・クレゾール試薬(100gのフェノールに4.7mlのm-クレゾールを加えて50℃で溶解させ、これに8-キノリノールを0.05%となるように加え、さらに等量の1M NaClで平衡化させたもの)を加え、1,300×gで5分間遠心して、上清(水層)を回収した。回収した上清をクロロホルム処理し、さらにエタノール沈殿を行って、1mlのTE緩衝液に溶解した。その溶液をRNase A及びproteinase Kで処理し、フェノール・クロロホルム処理とエタノール沈殿を行って、適当量のTE緩衝液に溶解し、染色体DNA試料とした。
【0080】
得られたDNA試料を制限酵素Sau 3AIによって消化し、フェノール・クロロホルム処理後、エタノール沈殿を行って適当量のTE緩衝液に溶解した。得られたDNA断片を用い、Lambda EMBL3/Bam HI Vector Kit(Stratagene社製)によりゲノムDNAライブラリーを作製した。
【0081】
(4)縮重プライマーの作製
既知の糸状菌類のユビキチンにおいて保存性の高いアミノ酸配列[Lyndon M. Foster , et. al., (1993) Mycol. Res. 97 (7): 769-781]をもとに縮重センスプライマー及び縮重アンチセンスプライマーを合成した。すなわち縮重プライマーとして、センス鎖についてはアミノ酸配列MQIFVKT(配列番号3)に基づいて合成したユビキチン遺伝子上流プライマー(U1)5'-ATGCARATHTTYGTNAARAC-3'(配列番号4)を、アンチセンス鎖についてはアミノ酸配列IEKESTL(配列番号5)に基づいて合成したユビキチン遺伝子下流プライマー(L1)5'-ARNGTNSWYTCYTTYTCDAT-3'(配列番号6)を合成した。なお、合成オリゴヌクレオチドは常法により合成した(日本製粉中央研究所カスタムサービスに委託)。
【0082】
(5)縮重プライマーを用いたPCR
上記(3)において得られたシイタケゲノムDNAを鋳型に、上記(4)において調製したプライマーを用いて、PCRを行った。PCRの反応液の組成は下記の表6に示す。
【0083】
【表6】
【0084】
上記PCRは、96℃で30秒間の熱変性、50℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の伸長反応の条件を1サイクルとして、30サイクル行った。反応終了後、反応液を新しいマイクロチューブに移し、そのうち5μlを1%アガロースゲルによる電気泳動に供し、増幅断片の確認を行った。次いで、残りの反応液に対してフェノール・クロロホルム処理とエタノール沈殿を行い、ペレット化したPCR産物を20μlのTE緩衝液に溶解した。
【0085】
得られたPCR産物を1%低融点アガロースゲル電気泳動に供し、約250bpの断片を切り出し、QIAEX II(QIAGEN社製)を用いてゲルからDNAを抽出し、PCR産物を回収した。
【0086】
次いで、このPCR産物をTA Cloning Kit(Invitrogen社製)でpCR2.1ベクターにサブクローニングした後、蛍光自動DNAシーケンサー(Parkin Elmer 社製、ABI PRISM 310型)により塩基配列を解析した。その結果、得られたPCR産物は配列番号11で表される塩基配列を有しており、公知のユビキチン遺伝子(Neurospora crassa由来;GenBankアクセッション番号:X13140)と高いホモロジー(58.8%)を有していることが示された。なお、このホモロジーの値は、DNASIS(日立ソフトウエアエンジニアリング)において、デフォルト(初期設定)のパラメーターを用いて算出した。そこで、プロモーター及びターミネーター領域を含むユビキチン遺伝子の全長配列をクローニングするために、このPCR産物を、シイタケ菌糸cDNAライブラリー及びシイタケゲノムライブラリーをスクリーニングするためのプローブとして用いた。
【0087】
(6)菌糸cDNAライブラリーからのユビキチン遺伝子の単離
ユビキチン遺伝子のスクリーニングにおいて、プラークの形成及びライブラリーの増幅はZAP Express cDNA synthesis Kit(Stratagene社製)の説明書に基づいて行った。すなわち、上記(2)において得られたcDNAライブラリーから合計約20万個のプラークをスクリーニングするため、1×107pfu/mlのファージ溶液5μlを5本用意し、それぞれに10mM MgSO4でOD600が0.5となるように調製した大腸菌XL1-Blue MRF'株600μlを加えて、37℃で15分間インキュベートした。次いで、6.5mlのNZYトップアガーを加えて、90mm×130mmの角型NZYプレートに重層し、37℃で6〜8時間インキュベートし、プラークを形成させた。プラークが形成したプレートは4℃で保存した。
【0088】
予め大きさを合わせて切断したHynond N+ナイロンメンブレン(90mm×130mm、Amersham Life Science社製)をプレートに重ね、2分間放置し、ファージDNAをメンブレンに転写した。次いで、該メンブレンをアルカリ変性溶液(0.25M NaOH、1.5M NaCl)で20分間処理し、DNAをアルカリ変性させた。変性後、メンブレンを中和液(0.5M Tris-HCl (pH8.0)、1.5M NaCl)に浸して、室温で5分間振盪し、続いて、リンス溶液(0.2M Tris-HCl (pH7.5)、2×SSC)中で30秒間メンブレンを洗浄後、ペーパータオルにメンブレンを挟んで、80℃で2時間加温することで、DNAをメンブレンに固定した。
【0089】
次いで、プラークハイブリダイゼーション及びシグナルの検出を、ECLTM direct nucleic acid labelling and detection system(Amersham Life Science社製)を用いて行った。すなわち、上記のメンブレンをハイブリバック(コスモバイオ社製)に入れ、キット付属のハイブリダイゼーション緩衝液を適量加えて、密閉し、42℃で1時間プレハイブリダイゼーションを行った。次いで、溶液を除去し、上記(5)において調製したプローブをペルオキシダーゼ標識したもの50ngを含む5mlのハイブリダイゼーション緩衝液を加え、42℃で4時間ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション完了後、メンブレンを0.4%SDS、36%Ureaを含む0.5×SSCを用い、42℃で20分間の洗浄を2回行った。さらに、2×SSCを用い、室温で5分間の洗浄を2回行った。
【0090】
このメンブレンを1mlのECL detection reagentで1分間処理し、サランラップで包み、フィルムカセットに入れ、生じたシグナルをHyperfilm-ECL(Amrsham Life Science社製)に感光させた。フィルムを現像したところ、陽性シグナルが得られた。得られたシグナルに対するプラークをピペットで吸い取り、それを1mlのSM緩衝液(100mM NaCl、100mM MgSO4、50mM Tris-HCl (pH7.5)、0.01%ゼラチン)に懸濁し、20μlのクロロホルムを加えて撹拌した。このファージ懸濁液を適当に希釈してプレーティングし、上記と同様にスクリーニングを行い、陽性プラークを得た。
【0091】
スクリーニング後、ファージミド形成はZap Express cDNA synthesis kit(Stratagene社製)の説明書に基づいて行った。すなわち、1mlのSM緩衝液に懸濁した陽性組換えファージ250μlに、10mM MgSO4でOD600が1.0となるように調製した大腸菌XL1-Blue MRF'株200μlと、EXassistヘルパーファージを加えて、37℃で15分間インキュベートした。そこへ、3mlのNZY brothを加えて、さらに37℃で2.5時間インキュベートした。インキュベート後、70℃で20分間加温し、1000×gで15分間遠心して上清を回収し、ファージミド溶液を得た。次に、ファージミドを大腸菌に組み込むため、ファージミド溶液100μl若しくは10μlに、10mM MgSO4でOD600が1.0となるように調製した大腸菌XLOLR株200μlを加えて、37℃で15分間インキュベートした。培養液200μlを50μg/mlのカナマイシンを含むLBプレートに播き、37℃で一晩インキュベートし、生じたコロニーからファージミドを調製した。
【0092】
ファージミドの調製はRPM Kit(BIO 101社製)を用いて行った。すなわち、上記で得られたコロニーを50μg/mlのカナマイシンを含む3mlのLB液体培地に接種し、37℃で一晩インキュベートした。培養液をマイクロチューブに取り、10,000×gで1分間遠心して、集菌した。回収した菌体にPre-Lysis緩衝液50μlを加えて激しく撹拌し、菌体を懸濁した。さらに、100μlのアルカリLysis緩衝液を加えて、穏やかに撹拌し、菌体を完全に溶解させた。次に、100μlの中和溶液を加えて激しく撹拌し、10,000×gで2分間遠心して、上清を回収した。キット付属のSPIN FIRTERによく混ぜたGlass Milkを250μl加えて、そこへ回収した上清を加えてよく撹拌し、マイクロチューブにSPIN FIRTERをのせた。10,000×gで1分間遠心し、さらにWash緩衝液350μlを加えて同様に遠心した後、新しいマイクロチューブにSPIN FIRTERをのせ、TEを50μl加えて10,000×gで30秒間遠心し、Glass Milkからファージミドを溶出させた。エタノール沈殿後、得られた沈殿を20μlのTEに溶解し、塩基配列の決定に供した。
【0093】
(7)ゲノムライブラリーからのユビキチン遺伝子の単離
上記(3)において作製したゲノムライブラリーから、上記(6)とほぼ同様の手順でユビキチン遺伝子を単離した。プラークの形成及びライブラリーの増幅は、大腸菌XL1-blue MRA株を使用して、Lambda EMBL3/Bam HI vector kit(Stratagene社製)の説明書に基づいて行い、プラークハイブリダイゼーション及びシグナルの検出は、上記(6)と同じ手順で行った。
【0094】
次いで、得られたシグナル付近のプラークを掻き取り、それをSM緩衝液に懸濁した。このファージ懸濁液を適度に希釈してプレーティングし、上記と同様のスクリーニングを行い、ゲノムのユビキチン遺伝子を含む組換え体ファージを得た。クローン化したファージをそれぞれプレーティングし、37℃で6〜8時間インキュベートしてプラークを形成させた。プラークが形成したプレートに10mlのSM緩衝液を重層し、4℃で12時間以上振盪培養して、ファージをSM緩衝液中に遊離させた。ファージを含むSM緩衝液をプロピレン製の15ml容遠心チューブに回収し、クロロホルムを終濃度5%となるように加えて、室温に15分間放置し、それを1,500×gで10分間遠心し、上清を回収した。次いで、Wizard Lambda Preps DNA Purification System(Promega社製)を用いて、回収した上清からファージDNAを精製し、塩基配列の決定に供した。
【0095】
(8)塩基配列の決定
上記(6)及び(7)において得られた陽性クローンの塩基配列を、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Seqeuencing Ready Reaction Kit, FS(Perkin Elmer社製)を用いて決定した。PCR反応はその説明書に基づいて行い、得られたPCR産物はABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Perkin Elmer社製)によって解析した。ユビキチン遺伝子を含むcDNAの塩基配列とユビキチン遺伝子を含むゲノムDNAの塩基配列の比較から、解析したユビキチン遺伝子は、図1のように2つのイントロン(直線部分)を有する3つのエキソンに分断されてゲノム上に存在することを見出した。
【0096】
〔実施例2〕pLU-hphベクターの構築
(1)ユビキチン遺伝子のプロモーター領域の単離
単離したユビキチン遺伝子の翻訳開始コドンを含む5'側上流域約2.1 kbの塩基配列を配列表の配列番号1に示す。この領域には、各種プロモーターに見出される特定塩基配列(CAAT box、CT rich motif等)が存在していた。そこで、翻訳開始コドンから上流約2.1 kbをプロモーター領域とみなし、ゲノムユビキチン遺伝子を鋳型としてPCRを行い、ユビキチン遺伝子のプロモーター領域を大量に調製した。
【0097】
5'センスプライマー(UproUプライマー)として、翻訳開始点から-2116〜-2092 bpの位置に存在する配列:5'-TATAATAAAACACAACGCCGCAGAC-3'(配列番号7)を有するものを用い、3'アンチセンスプライマー(UproLプライマー)として、翻訳開始点から-22〜+3 bpの位置に存在する配列:5'-CATTTTGCGGGAGTGAATCGACTAC-3'(配列番号8)を有するものを用いた。PCRの反応液組成は下記の表7に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
上記PCRは、96℃で30秒間の熱変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の伸長反応の条件を1サイクルとして、30サイクル行った。反応終了後、反応液を新しいマイクロチューブに移し、そのうち5μlを1%アガロースゲルによる電気泳動に供し、増幅断片の確認を行った。次いで、残りの反応液に対してフェノール・クロロホルム処理とエタノール沈殿を行い、ペレット化したPCR産物を20μlのTE緩衝液に溶解した。
【0100】
得られたPCR産物を1%低融点アガロースゲル電気泳動に供し、約2,118 bpの断片を切り出した。その断片をQIAEX II(QIAGEN社製)を用いてゲルから抽出し、2,118 bpのユビキチン遺伝子プロモーターを精製した。
【0101】
(2)ユビキチン遺伝子のターミネーター領域の単離
単離したユビキチン遺伝子の翻訳終止コドンを含む3'側下流域約1.2 kbの塩基配列を配列表の配列番号2に示す。この領域をユビキチン遺伝子ターミネーター領域とみなし、ゲノムユビキチン遺伝子を鋳型としてPCRを行い、ユビキチン遺伝子のプロモーター領域を大量に調製した。
【0102】
5'センスプライマー(UterUプライマー)として、終止コドンから-12〜+11 bpの位置に存在する配列:5'-GGTGGATGTCCTTAGTTGTGTTG-3'(配列番号9)を有するものを用い、3'アンチセンスプライマー(UterLプライマー)として、終止コドンから+1166〜+1187 bpの位置に存在する配列:5'-AGAAACTTCTATCCGCCAAACC-3'(配列番号10)を用いた。PCR反応は、上記(1)におけるプロモーターの単離と同条件で行った。
【0103】
得られたPCR産物を1%低融点アガロースゲル電気泳動に供し、約1.2 kbpの断片を切り出した。その断片をQIAEX II(QIAGEN社製)を用いてゲルから抽出し、約1.2 kbpのユビキチン遺伝子ターミネーターを精製した。
【0104】
(3)組換えベクターの構築
上記(1)及び(2)において単離したユビキチンのプロモーター領域とターミネーター領域を利用し、異種生物由来の遺伝子として大腸菌由来のハイグロマイシンB耐性遺伝子(hygromycin B phosphotransferase gene, hph)[Gritz and Davies, Gene, 25, 179-188, 1983]を用い、シイタケを宿主とする組換えベクターを構築した。
【0105】
すなわち、hphをマーカー遺伝子として有するpCHベクター[Matsuki et al., Mol. Gen. Genet., 220, 12-16, 1989]を制限酵素BamHIで消化することにより、hph断片を切り出した。その断片を、BamHIで消化した大腸菌のプラスミドベクターpUC19[Yanisch-Perron et al., Gene, 33, 109-119, 1985]に組込み、コンピテント細胞Top 10 F'(Invitrogen社製)に導入して、hph遺伝子を含有するpUC19プラスミドを大量に調製した。このプラスミドベクターを制限酵素Xba Iで消化し、平滑末端化、脱リン酸化を行った後、pT7Blue Perfectly Blunt Cloning Kit(Novagen社製)を用いて、単離したユビキチン遺伝子のプロモーターとライゲーションさせた。こうして作出したプラスミドのうち、転写方向的に正しく挿入されたものを選抜して、大量に調製した。このプラスミドベクターを制限酵素Sma Iで消化し、脱リン酸化を行った後、上述の方法で単離したユビキチン遺伝子のターミネーターとライゲーションさせた。こうして作出したプラスミドのうち、pLU-hphベクターの模式図を図2に示す。
【0106】
〔実施例3〕REMI法によるシイタケの形質転換
(1)プロトプラストの調製
野性型のシイタケ菌株の2核菌糸を、0.25×MYPG寒天培地(0.25%麦芽エキス、0.1%酵母エキス、0.1%ペプトン、0.5%グルコース、1.5%寒天)で、25℃2週間培養した。生育した菌糸をかきとり、50mlの0.25×MYPG液体培地(0.25%麦芽エキス、0.1%酵母エキス、0.1%ペプトン、0.5%グルコース)で1週間培養した。得られた菌糸はガラスフィルターで集菌し、50mlの0.25×MYPG液体培地に懸濁してポリトロンホモジナイザーで裁断し、100μmのナイロンメッシュで濾過した濾過菌糸をさらに0.25×MYPG液体培地中、25℃で5日間培養した。培養菌糸は100μmのナイロンメッシュで集菌後、クエン酸緩衝液(0.6Mマンニトールを含む50mMクエン酸緩衝液(pH5.6))で2回洗浄し、菌糸1g当たり10mlの酵素溶液[2.5重量%セルラーゼ(セルラーゼ“オノズカ”RS:ヤクルト薬品工業社製)、0.1重量%キチナーゼ(シグマ社製)を含むクエン酸緩衝液(pH5.6)]に菌糸を懸濁し、28℃で3〜4時間インキュベートした。酵素処理した菌糸を40μmのナイロンメッシュで濾過し、濾液を1,500×gで10分間遠心分離して、プロトプラストを沈殿させた。上清を捨て、プロトプラストをSTC緩衝液(10mM塩化カルシウム、1.2Mソルビトールを含む10mM Tris-HCl、pH7.5)で洗浄後、再び1mlのSTC緩衝液にプロトプラストを懸濁し、顕微鏡でプロトプラストの数を計測した。最終的には、STC緩衝液100μlに0.5〜1.0×107 protoplastsとなるように調整して、形質転換用のプロトプラストとした。
【0107】
(2)pLU-hphベクターの導入
形質転換は、pLU-hphベクターを3箇所で切断する制限酵素Dra I(図2参照)を用いたRestriction Enzyme Mediated Integration(REMI)法(特開平11−155568)によって行った。すなわち、2.5μgのpLU-hphと50ユニットのDra Iを含む150μlのSTC緩衝液に、上記のプロトプラスト懸濁液100μlを穏やかに加え、氷中で20分間インキュベートした。これに62.5μlのPEG溶液(10mM塩化カルシウム、60%PEG4000を含む10mM Tris-HCl、pH7.5)を加え、氷中で20分間インキュベートした。さらに3.125mlのPEG溶液を加えて、室温で20分間インキュベートした。次に、10 mlのSTC緩衝液を加えて溶液全体を十分に懸濁し、1,500×gで10分間遠心し、プロトプラストを沈殿させた。回収したプロトプラストを4mlのMS(2%麦芽エキス、0.6Mスクロース)液体培地に懸濁し、25℃で3〜4日間静置培養した。
【0108】
(3)ハイグロマイシンB耐性菌糸の選抜
プロトプラストから再生した菌糸を1,500×gで10分間遠心することにより回収した。回収した菌糸を1mlのMS液体培地に再懸濁し、5μg/mlハイグロマイシンBを含む最少寒天培地(2%グルコース、0.2%酒石酸アンモニウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.1%リン酸二水素カリウム、0.112%炭酸ナトリウム、0.132%フマル酸、10ppm硫化鉄、8.8ppm硫化亜鉛、7.2ppm塩化マンガン、pH4.5、1.5%寒天)にまき、25℃で5日間培養した。次に、一旦溶解し、50℃程度に冷却させた0.25×MYPG寒天培地に、20μg/mlハイグロマイシンBを加え、それを最少寒天培地上で生育した菌糸上に重層した。25℃で約5日間培養後、増殖してきた菌糸を分離し、20μg/mlハイグロマイシンBを含む新しいMYPG寒天培地に植え替えた。さらに1週間程度培養し、増殖してきた菌糸を新しい20μg/mlハイグロマイシンBを含むMYPG 寒天培地に植え替えて培養し、ハイグロマイシン耐性を獲得した菌糸を選抜した。
【0109】
(4)結果
上記の結果を表8に示す。数値は3連の実験の平均値である。pLU-hphベクターによりハイグロマイシン耐性を獲得したシイタケ形質転換体が作出され、本発明の発現用組換えベクターが、シイタケを宿主とする異種遺伝子発現用ベクターとして有効であることを確認した。
【0110】
【表8】
【0111】
【発明の効果】
本発明により、シイタケユビキチン遺伝子の転写開始を指令するプロモーター、シイタケユビキチン遺伝子の転写終結を指令するターミネーター、並びに該プロモーター及び/又は該ターミネーターを含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、該形質転換体を用いるポリペプチドの製造方法が提供される。
【0112】
【配列表】
【0113】
【配列表フリーテキスト】
配列番号3:糸状菌由来のユビキチンにおける保存配列
配列番号4:プライマー。第15塩基のnは、a、t、c又はgである。
配列番号5:糸状菌由来のユビキチンにおける保存配列
配列番号6:プライマー。第3塩基及び第6塩基のnは、a、t、c又はgである。
配列番号7〜10:プライマー
配列番号12及び13:プライマー
【図面の簡単な説明】
【図1】シイタケユビキチン遺伝子の構造を表わす模式図である。
【図2】本発明の遺伝子発現ベクターpLU-hphの構造を表わす模式図である。
Claims (7)
- 配列番号1中の第1〜2116塩基で表される塩基配列を含むDNAであって、プロモーターとして機能し得るDNA。
- 配列番号2中の第16〜1199塩基で表される塩基配列を含むDNAであって、ターミネーターとして機能し得るDNA。
- 請求項1記載のDNA及び/又は請求項2記載のDNAを含有する発現用組換えベクター。
- 請求項3記載の発現用組換えベクターに任意のポリペプチドをコードする遺伝子が組み込まれた組換えベクター。
- 請求項3記載の発現用組換えベクターを含む形質転換体。
- 請求項4記載の組換えベクターを含む形質転換体。
- 請求項6記載の形質転換体を培養又は栽培し、得られる培養物又は栽培物からポリペプチドを採取することを特徴とする前記ポリペプチドの製造方法。
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