JP4617261B2 - 組織標本のパラフィン浸透処理方法及びその処理装置 - Google Patents
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Description
この一連の組織標本の作製工程において、パラフィン浸透処理を施した組織標本は、その組織内に浸透した溶融パラフィンが溶融状態でパラフィン包埋処理に付せられる。
しかしながら、皮膚や坐骨神経等の組織標本は、従来のパラフィン浸透処理では、組織標本の組織内にパラフィンが充分に浸透し難い場合がある。この様に、パラフィンの浸透が不充分な組織標本では、パラフィンに包埋されている組織標本の薄切は困難であり、且つ得られた薄片にも割れが多く発生している。このため、かかる薄片は顕微鏡観察には供し得ないものである。
そこで、本発明の課題は、従来のパラフィン浸透処理方法では、組織標本の組織内にパラフィンを充分に浸透し難い組織標本でも、充分にパラフィンを浸透し得る組織標本のパラフィン浸透処理方法及びその処理装置を提供することにある。
すなわち、本発明は、顕微鏡観察に供する組織標本を作製する作製工程における、パラフィンが浸透された組織標本をパラフィン内に包埋するパラフィン包埋処理前に、脱水及び脱脂処理が施された組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透処理する方法において、該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透した後、前記組織標本を冷却して浸透した溶融パラフィンを固化し、次いで、前記組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する固化・再溶融処理を、同一組織標本に対して少なくとも一回施すことを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理方法にある。
かかる本発明において、組織標本に浸透した溶融パラフィンの冷却固化処理を、前記組織標本をパラフィン溶融液から分離した状態で施すことによって、組織標本の冷却固化速度を向上できる。
また、この冷却固化処理を、室温以下、特に0℃以下の雰囲気温度下で施すことによって、パラフィン浸透処理して得られた組織標本をパラフィン包埋して薄切する際に、組織標本を容易に薄切でき、顕微鏡観察に適した良好な薄片を得ることができる。
尚、本発明でいうパラフィン浸透処理には、パラフィン浸透処理工程を終了した組織標本をパラフィンに包埋してブロックを作成する包埋処理工程の処理は含まない。
この点、本発明によれば、皮膚や坐骨神経等の組織標本であっても、パラフィン浸透処理後の組織標本をパラフィン包埋後に薄切でき、得られた薄片を顕微鏡観察用として使用できる。
この様に、従来のパラフィン浸透処理方法では、パラフィン包埋後の薄切が困難な組織標本でも、本発明によって処理した組織標本をパラフィン包埋後に薄切できるようになった詳細な理由は不明であるが、以下のように考えられる。
皮膚や坐骨神経等の組織標本では、脂肪分が多く、通常の組織標本のパラフィン浸透処理方法で採用される脱脂処理では充分に脱脂できなかった。このことは、予め著しく長時間の脱脂処理を皮膚や坐骨神経等の組織標本に施した後、従来のパラフィン浸透処理方法で処理して得られた組織標本は薄切可能となることからも判る。
この様に、組織標本に浸透されているパラフィンの固化・再溶融を、組織標本に対して少なくとも一回施すことによって、組織標本の細胞内に浸透したパラフィンは固化状態から溶融状態に変化する。その際に、細胞内のパラフィンの体積は収縮状態から膨張状態に変化し、細胞内に残留していた脂肪分を細胞外に排出でき、細胞内を充分にパラフィンに置換できる。
その結果、本発明によって処理して得られた組織標本の細胞内は、パラフィンによって充分に置換されており、脂肪分の多い皮膚や坐骨神経等の組織標本でも、パラフィンによって包埋した組織標本を薄切でき、得られた薄片の状態も良好である。
かかる本発明では、パラフィン浸透処理の前に、予め著しく長時間の脱脂処理を施すことを要しないため、組織標本の処理効率を向上できる。
更に、処理槽10内に挿入されたバスケット12に収容された組織標本を処理するエタノールやキシレンは、収容部14に収容された複数個の薬液タンク16,16・・に貯留されており、凝固点が60℃近傍のパラフィン溶融液は、ヒータ付薬液タンク18、18内に貯留されている。
かかる薬液タンク16,16・・及びヒータ付薬液タンク18、18の各々に一端が接続された配管22,22・・・は選択バルブ20に接続され、選択バルブ20と処理槽10とは配管24によって接続されている。この選択バルブ20には、複数の薬液タンク側ポートが形成された弁座20aと処理槽側ポートが形成された弁板20bとが設けられている。この弁座20aの各薬液タンク側ポートには、配管22,22・・・の対応する他端が接続されている。
また、処理槽10の側面に設けられたジャケット26には、配管30aの電磁弁32aを経由して冷媒を供給でき、ジャケット26に供給された冷媒を配管30bの電磁弁32bを経由して排出できる。更に、処理槽10のジャケット26には、配管26aの電磁弁28aを経由して熱媒を供給でき、ジャケット26に供給された熱媒を配管26bの電磁弁28bを経由して排出できる。
更に、かかる選択バルブ20、電磁弁28a,28b,32a,32bは、制御部によって制御されているため、ジャケット26への熱媒及び冷媒の給排を制御して処理槽10内を所望温度に制御できる。
また、薬液タンク16,16・・とは別に設けられたヒータ付薬液タンク18、18・・には、パラフィン溶融液を貯留する。
先ず、制御部からの選択バルブ20への信号によって、エタノールが貯留されている薬液タンク16,16・・のうち、選択した最初の薬液タンク16からエタノールを処理槽10に送液して所定時間保持して排出した後、選択した次の薬液タンク16からエタノールを処理槽10に送液する。この様に、エタノールを貯留した薬液タンク16,16・・から所望の順序でエタノールを処理槽10に送液し、組織標本中の水分をエタノールに置換する。
更に、エタノールの処理が終了した処理槽10内の組織標本には、制御部からの選択バルブ20への信号によって、キシレンが貯留された薬液タンク16,16・・のうち、選択した最初の薬液タンク16からキシレンを処理槽10に送液して所定時間保持して排出した後、選択した次の薬液タンク16からキシレンを処理槽10に送液する。この様に、キシレンを貯留した薬液タンク16,16・・から所望の順序でキシレンを処理槽10に送液し、組織標本中のエタノールをキシレンに置換する。
かかるパラフィン溶融液による処理の際には、処理槽10内をパラフィンの凝固温度以上の温度に保持する。このため、制御部からの信号によって電磁弁28a,28bを開いて、熱媒をジャケットに供給してもよい。
次いで、処理槽10のジャケット26に、制御部からの信号によって電磁弁32a,32bを閉じ且つ電磁弁28a,28bを開いて熱媒を供給して処理槽10を加温すると共に、ヒータ付薬液タンク18、18に貯留したパラフィン溶融液のうち、最後に選択したヒータ付薬液タンク18からパラフィン溶融液を処理槽10に再送液し、組織標本内で固化したパラフィンを再溶融する。
かかる処理槽10の冷却及び溶融パラフィンの供給によって、組織標本に浸透したパラフィンの固化及び再溶融を少なくとも一回施すことによって、パラフィン浸透処理を終了した組織標本は、パラフィンで包埋して容易に薄切でき、得られる薄片も顕微鏡観察に供給できる良好なものである。
本発明の様に、組織標本に浸透したパラフィンを固化・再溶融することによって、パラフィン浸透処理を施した組織標本を容易に薄切できるようになる理由は、パラフィンは、固化すると体積が収縮し、溶融すると体積は膨張する。このため、細胞内に浸透している溶融パラフィンを固化させた後、再溶融することによって、細胞内に残留していた脂肪分等を細胞外に排出でき、細胞内を充分にパラフィンに置換できるからであると考えられる。
また、この冷却固化を、組織標本の種類等によっては、室温以下、特に0℃以下(特に好ましくは0〜−5℃)の雰囲気温度下で施すことによって、パラフィン浸透が更に促進され、得られた組織標本をパラフィン包埋して薄切する際に、組織標本を容易に薄切でき、顕微鏡観察に適した良好な薄片を得ることができる。
更に、組織標本に浸透したパラフィンの固化・再溶融は一回でもよいが、パラフィンが浸透し難い組織標本では、同一組織標本に対して二回以上繰り返すことが好ましい。
但し、この固化・再溶融の繰り返し回数を無暗に増加させても、パラフィンの浸透処理時間が長くなるものの、奏し得る効果は飽和に達する。このため、顕微鏡観察に供する組織標本に対して施す、組織標本に浸透したパラフィンの固化・再溶融の繰り返し回数は、予め実験的に求めておくことが好ましい。
パラフィンの浸透処理が終了した組織標本は、処理槽10から取り出して、組織標本をパラフィンに包埋した後、ミクロトームによって薄切することによって、顕微鏡観察用の薄片を得ることができる。
尚、処理槽10に収納された組織標本に各種処理を施す際に、処理速度を促進すべく、処理温度や処理圧力を変更したり、液撹拌を施してもよい。
表1に示すエタノール処理及びパラフィン処理では、組織標本の組織内への浸透を促進すべく、加圧状態と減圧状態とを数回繰り返した。この際の、加圧状態の圧力及び減圧状態の圧力を表1に併記した。
次いで、浸透されたパラフィンが固化された組織標本を、63℃に保持されたパラフィン溶融液中に再度浸漬し、浸透されたパラフィンを再溶融する。更に、再溶融パラフィンが浸透された組織標本を、再度、−5℃の雰囲気中に10分間保持して、再溶融パラフィンを再固化する。
この様に、組織標本内に浸透しているパラフィンの固化・再溶融の処理を、同一組織標本に対して四回繰り返した。
その後、得られた組織標本をパラフィンに包埋して得たブロックを、ミクロトームによって薄切して厚さ3μmの薄片を得た。
得られた薄片を観察すると、組織や組織・パラフィンの境界も裂けることなく切れており、顕微鏡観察に供し得るものであった。
この薄切では、実施例1に比較して、その切易さは低下したが、厚さ3μmの薄片を得ることができた。
また、得られた薄片を観察すると、組織とパラフィンとの境界に裂け目が存在していたが、顕微鏡観察に供し得るものであった。
この薄切では、実施例1に比較して、その切易さは低下したが、厚さ3μmの薄片を得ることができた。
また、得られた薄片を観察すると、組織とパラフィンとの境界に裂け目が存在していたが、顕微鏡観察に供し得るものであった。
しかしながら、ミクロトームによる薄切は殆どできず、得られた薄片も、組織や組織・パラフィンの境界に裂け目が多く存在しており、顕微鏡観察に到底供し得ないものであった。
しかしながら、ミクロトームによる薄切は殆どできず、得られた薄片も、組織や組織・パラフィンの境界に裂け目が多く存在しており、顕微鏡観察に到底供し得ないものであった。
12 バスケット
14 収容部
16 薬液タンク
18 ヒータ付薬液タンク
20 選択バルブ
22,24,26a,26b,30a,30b 配管
26 ジャケット
28a,28b,32a,32b 電磁弁
Claims (9)
- 顕微鏡観察に供する組織標本を作製する作製工程における、パラフィンが浸透された組織標本をパラフィン内に包埋するパラフィン包埋処理前に、脱水及び脱脂処理が施された組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透処理する方法において、
該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透した後、前記組織標本を冷却して浸透した溶融パラフィンを固化し、
次いで、前記組織標本をパラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する固化・再溶融処理を、同一組織標本に対して少なくとも一回施すことを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理方法。 - 組織標本に浸透した溶融パラフィンの固化を、前記組織標本をパラフィン溶融液から分離した状態で施す請求項1記載の組織標本のパラフィン浸透処理方法。
- 組織標本に浸透した溶融パラフィンの固化を、室温以下の雰囲気温度下で施す請求項1又は請求項2記載の組織標本のパラフィン浸透処理方法。
- 雰囲気温度を、0℃以下とする請求項3記載の組織標本のパラフィン浸透処理方法。
- 顕微鏡観察に供する組織標本を作製する作製工程における、パラフィンが浸透された組織標本をパラフィン内に包埋するパラフィン包埋処理前に、脱水及び脱脂処理を施した組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本内にパラフィンを浸透するパラフィン浸透処理装置であって、
該組織標本をパラフィン溶融液に浸漬して、前記組織標本の組織内に溶融パラフィンを浸透する浸透処理を施す浸透処理手段と、前記浸透処理手段によって組織標本に浸透された溶融パラフィンを冷却固化処理する冷却固化処理手段とを具備し、
前記パラフィン溶融液に浸漬して溶融パラフィンが浸透されている組織標本を冷却し、組織標本の内部に浸透している溶融パラフィンを固化する冷却固化処理と、浸透された溶融パラフィンが固化された組織標本を、パラフィン溶融液に再浸漬して、組織標本の内部に浸透している固化パラフィンを再溶融する再溶融処理とを、同一組織標本に対して少なくとも一回施すように、前記浸透処理手段と冷却固化処理手段とを制御する制御部が設けられていることを特徴とする組織標本のパラフィン浸透処理装置。 - ジャケットが周面に設けられた処理槽と、
処理槽内に設けられた組織標本が収納されるバスケットと、
第1電磁弁を経由してジャケットに冷媒を供給する配管と、
第2電磁弁を経由してジャケットから冷媒を排出する配管と、
第3電磁弁を経由してジャケットに熱媒を供給する配管と、
第4電磁弁を経由してジャケットから熱媒を排出する配管とを具備し、
前記制御部は、第1電磁弁、第2電磁弁、第3電磁弁及び第4電磁弁を制御することでジャケットへの熱媒及び冷媒の給排を制御し、処理槽内を所望温度に制御する請求項5記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。 - 組織標本に浸透された溶融パラフィンを冷却固化処理する冷却固化処理手段が、パラフィン溶融液から分離した組織標本内に浸透されている溶融パラフィンを冷却固化する冷却固化処理手段である請求項5又は請求項6記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。
- 冷却固化処理手段が、溶融パラフィンの浸透している組織標本を室温以下の雰囲気温度下で冷却する冷却固化処理手段である請求項5〜請求項7のうちのいずれか1項記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。
- 雰囲気温度が、0℃以下である請求項8記載の組織標本のパラフィン浸透処理装置。
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