JP4613441B2 - 新規ルシフェラーゼおよび発光蛋白質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、十脚類(Decapoda)由来のルシフェラーゼ、具体的にはヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)由来の分泌型ルシフェラーゼに関する。詳細には、19kDaおよび35kDaの蛋白質から構成される該ルシフェラーゼ、19kDaおよび35kDaの蛋白質、該蛋白質をコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターで形質転換した宿主、並びに該宿主を培養するまたは該組換えベクターを用いてインビトロ−トランスクリプション−トランスレーションを実施することを特徴とする発光活性を有する蛋白質の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、ルシフェラーゼおよび発光蛋白質をコードする遺伝子は、表1に示される文献に開示されるもののみが知られている。
【0003】
【表1】
【0004】
これらの発光蛋白質およびルシフェラーゼは、産業上重要な酵素として、例えばレポーター蛋白質として既に広く利用されている。これら酵素群の発光反応を利用した種々の検出法の開発に伴い、発光検出装置が普及し、また、高感度化など該装置も進歩している。しかし、このような状況下において、これまでに知られている発光蛋白質およびルシフェラーゼの中で、広範囲の用途に適用し得るルシフェラーゼまたは発光蛋白質は存在せず、それぞれの目的に適合する酵素を選択する必要があった。
【0005】
一方、学術論文、特許明細書等に開示されている発光基質(ルシフェリンと称される)について、その構造が決定されているものは下記の式(1)〜式(8)に示すもののみである。
【化1】
【0006】
【化2】
【0007】
【化3】
【0008】
【化4】
【0009】
【化5】
【0010】
【化6】
【0011】
【化7】
【0012】
【化8】
【0013】
発光基質には生物種特異的であるものと生物種非特異的なものがあり、更にその他の生体成分(補酵素、補欠分子等)を必要とする発光反応がある。生物発光酵素反応のうち最小単位での発光反応は、発光酵素ルシフェラーゼ、発光基質ルシフェリン、分子状酸素の3者のみで発光反応が起きる場合である。
【0014】
表1における最小単位での発光反応の例は、腔腸動物の花虫類(Cindaria)に属するレニラ(Renilla)由来ルシフェラーゼ、甲殻類(Ostracoda)に属するウミホタル(Cypridina)由来のルシフェラーゼと鞭毛藻類(Flagellata)に属するゴニオラックス(Gonyaulax)由来のルシフェラーゼであるが、これらに対応する発光基質ルシフェリンの構造は、例えば前記式(4)および(5)に示すように非常に複雑である。例えば、ウミホタルおよびゴニオラックスルシフェリンの合成法は知られているが、その複雑な合成工程のために収率が悪く、天然抽出ルシフェリンが使用されている。このため、価格が非常に高価であり、産業用としての実用性は乏しい。これに対し、セレンテラジンとして知られているレニラルシフェリンは種々の方法が確立されているため、セレンテラジンおよびその誘導体は安価に販売されており、容易に取得することができる。
【0015】
また、表1の発光蛋白質群において、天然に存在する分泌型ルシフェラーゼは、ウミホタルルシフェラーゼのみであり、その遺伝子構造はThompson, E.M., et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 6567-6571 (1989年)に、その使用例は、Inouye, S., et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 9584-9587 (1992年) に開示されている。
【0016】
分泌型ルシフェラーゼの産業上有効な点は、ドラッグスクリーニングシステム等のバイオアッセイ系を構築する場合、細胞外分泌するルシフェラーゼをレポーター分子として用いることにより、細胞破砕せず、生細胞においてその活性を容易に検出できることである。また、本来分泌性の蛋白質を製造することは、宿主−ベクター系を適切に選別すればさほど困難でなく、培養液中からの組換え蛋白質の精製は容易である。このため、分泌型ルシフェラーゼを大量に製造する場合、その製造・精製のコストを押さえることができるという利点がある。
【0017】
さらに、発光反応が最小単位、即ち発光酵素ルシフェラーゼ、発光基質ルシフェリンおよび分子状酸素の3者のみで起こり、且つ発光基質ルシフェリンが取得が容易なセレンテラジンまたはその誘導体であり、該ルシフェラーゼが分泌型蛋白質である発光反応系が特に有利である。しかし、そのような分泌型のルシフェラーゼの遺伝子単離および生細胞での発現は報告されていない。このような分泌型ルシフェラーゼおよびその遺伝子は学術基礎、応用研究の領域に留まらず、診断薬や検査薬等、産業上有用である。
【0018】
発明者は、先行技術文献等を調査・検討した結果、これまで確認されているセレンテラジンを発光基質とした分泌型ルシフェラーゼは、十脚類(Decapoda)に属する発光エビ由来のルシフェラーゼのみであることを知った。発光エビは分泌性のルシフェラーゼ(酵素)を有し、これをルシフェリン(発光基質)および分子状酸素と反応させると青色に発光する。世界中に生息する発光エビ分類の詳細は、Herring, P.J., J. Mar. Biol. Ass. U.K., 56, 1029-1067 (1976年)に開示されている。そして、発光エビのルシフェラーゼに関する唯一の生化学的研究としては、静岡県の駿河湾に生息する深海発光エビであるヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)についてのShimomura, O., Masugi, T., Johnson, F.H. & Haneda, Y., Biochemistry, 17, 994-998(1978年)である。前記先行技術は、分子量31,000のモノマーの4量体からなる分子量約130,000を有するルシフェラーゼを開示しており、さらに当該ルシフェラーゼの22℃における光子収量が0.32であり、高発光活性(1.75×1015Photon/s.mg)を有し、最適発光温度は40℃で熱安定性にすぐれ、幅広いpHで反応が進むことを記載している。
【0019】
このヒオドシエビル由来のシフェラーゼの発光反応におけるルシフェリンは前記の式(2)に示されるセレンテラジンである。セレンテラジンはレニラ(Renilla)ルシフェラーゼ反応、および発光蛋白質イクオリン(Aequorin)の発光反応の発光基質でもある。これらの酵素群とヒオドシエビのルシフェラーゼの最大の相違点は、レニラルシフェラーゼや発光蛋白質イクオリンの発光基質特異性と比較して、ヒオドシエビのルシフェラーゼは非常に幅広い基質特異性を示す点にある。即ち、ヒオドシエビのルシフェラーゼは、発光基質セレンテラジン誘導体として安価に合成できるビスデオキシセレンテラジンを使用することができ、他のルシフェラーゼ酵素と比較して有利である。
【0020】
しかしながら、分泌型ヒオドシエビ由来のルシフェラーゼについて、上記先行技術に記載されていること以外について、例えばその蛋白質構造および遺伝子構造に関する情報は全く得られていない。発光エビの多くは深海に生息するため実験材料としての生個体の大量入手が非常に困難であることがその理由と考えられる。また、近年の環境変化の影響等により個体が減少し、少量の生固体の入手さえも困難になってきている状況である。このため、生物資源の一つであるヒオドシエビの遺伝子ライブラリーの構築とともに、早急なヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子の単離が望まれている。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、深海に生息するヒオドシエビ由来のルシフェラーゼ遺伝子を単離し、該遺伝子を用いて高純度の組換え分泌型ルシフェラーゼ蛋白質を提供することである。また、本発明の目的は、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターで形質転換した宿主細胞、例えば微生物および動物培養細胞、並びに高純度の組換え分泌型ルシフェラーゼ蛋白質の製造方法を提供することである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
ヒオドシエビから発光活性を有する分泌型ルシフェラーゼを単離・精製した結果、分子量19kDaおよび35kDaの蛋白質から構成される分泌型ルシフェラーゼを見出した。そして、各々の蛋白質のアミノ酸配列を部分的に決定し、これに基づきルシフェラーゼの構成蛋白質である19kDaおよび35kDa蛋白質をコードする遺伝子を単離し、該遺伝子の塩基配列および該遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を決定した。さらに、該遺伝子を含む組換えベクターを作製し、該ベクターを用いる無細胞発現系および該ベクターで形質転換した宿主、例えば大腸菌や酵母などの微生物または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系によって前記蛋白質を製造した。
【0023】
即ち、本発明は、十脚類(Decapoda)由来のルシフェラーゼに関する。具体的には、19kDaおよび35kDaの蛋白質から構成される該ルシフェラーゼに関する。詳細には、ヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)由来の19kDaおよび35kDaの蛋白質から構成される分泌型ルシフェラーゼルに関する。
【0024】
本発明はまた、該ルシフェラーゼを構成する19kDaの蛋白質であって、発光活性を有する蛋白質に関する。具体的には、前記発光蛋白質は、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列の28〜196番のアミノ酸配列、またはそのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ発光活性を有する蛋白質である。
【0025】
19kDaの蛋白質は、さらに当該技術分野において知られている、蛋白質精製のためのペプチド配列および/または細胞外分泌シグナルペプチドもしくは細胞内器官への移行シグナルペプチドを含むことができ、そのようなシグナルペプチドは、19kDa蛋白質の前駆体由来のSEQ ID NO:2のアミノ酸配列1〜27番に包含されるシグナルペプチド、または他の公知のシグナルペプチドとすることができる。細胞外分泌シグナルペプチドとしては、公知の真核生物の分泌シグナルペプチド(例えば、von Heijne, G. Eur. J. Biochem 133:17-21 (1983年))および公知の原核生物の分泌シグナルペプチド(例えば、von Heijne, G. & Abrahmsen, L. FEBS Lett. 244: 439-446(1989年)に記載)を挙げることができる。また、細胞内器官への移行シグナルペプチドとしては、ミトコンドリアへの移行シグナルペプチド(例えば、Gavel, Y. & von Heijne, G., Protein Engineering 4: 33-37 (1990年))、 クロロプラスト移行シグナルペプチド(例えば、Gavel, Y.& von Heijne, G., FEBS Lett. 261:455-458(1990年))および核内移行シグナルペプチド(例えば、Dingwall, C. & Laskey, R.A., Trends Biochem.Sci. 16:478-481 (1991年))を挙げることができる。
【0026】
本発明はまた、該ルシフェラーゼを構成する分子量35kDaの蛋白質に関し、具体的にはSEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列の40〜359番のアミノ酸配列、またはそのアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質に関する。前記35kDaの蛋白質は、さらに35kDa蛋白質の前駆体由来のSEQ ID NO:4のアミノ酸配列1〜39番に包含されるシグナルペプチド、または上述のシグナルペプチドを含むことができる。
【0027】
本発明はまた、前記19kDaの発光蛋白質をコードするポリヌクレオチドに関する。そのようなポリヌクレオチドは、(a)SEQ ID NO:1に示す塩基配列の46〜633番の塩基配列、(b)前記塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ発光活性を有する蛋白質をコードする塩基配列、および(c)前記(a)または(b)の塩基配列と相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列を有する。
【0028】
本発明はまた、前記35kDaの蛋白質をコードするポリヌクレオチドに関する。そのようなポリヌクレオチドは、(a)SEQ ID NO:3に示す塩基配列の79〜1155番の塩基配列、(b)前記塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ発光活性を有する蛋白質をコードする塩基配列、および(c)前記(a)または(b)の塩基配列と相補的な塩基配列からなる群から選択される塩基配列を有する。
【0029】
前記19kDaの蛋白質をコードするポリヌクレオチドおよび/または35kDaの蛋白質をコードするポリヌクレオチドは、さらに公知の上述のペプチド配列をコードするポリヌクレオチド、例えば上記文献に開示されるシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを包含することができる。なお、本明細書においてポリヌクレオチドは、DNA(cDNA,ゲノムDNA、合成DNA)、RNA(例えばmRNA、合成RNA)を包含する。
【0030】
本発明はまた、上述したルシフェラーゼ、前記19kDaの発光蛋白質、または前記19kDaおよび35kDaの蛋白質に、セレンテラジンまたはその誘導体を基質として作用させることを特徴とする発光方法に関する。本発明のルシフェラーゼおよび発光蛋白質は、酵素である該蛋白質、発光基質ルシフェリンであるセレンテラジンまたはその誘導体、および分子状酸素のみで発光反応が起きる。その反応条件として、温度は10〜50℃、好ましくは20〜35℃の範囲であり、pHは5.5〜11の範囲、好ましくは7〜10の範囲である。
【0031】
本発明はまた、19kDaの発光蛋白質および/または35kDaの蛋白質をコードする前記ポリヌクレオチドを挿入物として含有する組換えベクターに関する。本発明の好ましい態様において、組換えベクターは、その挿入物を発現させうる組換え発現ベクターである。そのような組換えベクターは、当該技術分野における公知の任意の方法で作製することができる。
【0032】
本発明において、前記蛋白質を発現させるために用いるベクターには、無細胞発現系(インビトロ トランスクリプション−トランスレーション)に、および宿主細胞、例えば大腸菌、酵母または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系に適するベクターとすることができ、そのようなベクターは市販されているかまたは公知のベクターから容易に作製することができる。例えば、インビトロトランスレーションおよび動物培養細胞における発現に用いるベクターは、ヒトサイトメガロウイルスのimmeadiate-early エンハンサー/プロモター領域を組込み、その下流域にT7のプロモター配列/マルチクローニング部位を有するpTargetTベクターやSV40エンハンサーとSV40のearlyプロモターを有するpSIベクター(プロメガ社)、pBK−CMV、CMV−Script、pCMV−TagおよびpBK−RSV(ストラタジーン社)などである。また、大腸菌、酵母などの微生物宿主における発現に適するベクターは、例えば大腸菌系のT7のプロモターを有するpETシリーズベクター発現システム(例えばpET3a,pET27b(+)やpET28a(+);ノバジェン社)、および酵母系においてはアルコールオキシダーゼのプロモターを有するピチア発現系ベクターpICシリーズベクター(例えばpPIC9KやPIC3.5K;インビトロゲン社)などである。
【0033】
また、精製のためのペプチド配列としては、当該技術分野にて用いられているペプチド配列とすることができるが、例えばヒスチジン残基が4個以上、好ましくは6個以上連続したヒスチジンタグ配列、モノクローナル抗体への結合能を持つエピトープタグ配列、グルタチオン S−トランストランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインまたはプロテインAをコードする配列などが包含される。これらペプチド配列をコードするDNAを挿入物として含有するベクターは市販されている。例えば、大腸菌、酵母などの微生物宿主に用いるベクターは、大腸菌系のT7のプロモターを有し、ヒスチジン残基を10個をアミノ末端に融合発現ベクター(例えばpET16b;ノバジェン社)、ヒスチジン残基を6個をアミノ末端に有する発現ベクター(例えばpHB6;ロッシュダイアグノスチィック社、pTrc−Hisシリーズベクター;インヴィトロゲン社、pHATベクターシリーズ;クローンテック社)などである。動物培養細胞における発現に用いるベクターは、ヒスチジン残基を6個をアミノ末端に融合発現ベクター(例えば、pHM6やpVM6;ロッシュダイアグノスチィック社)の使用が可能である。昆虫培養細胞系ではバキュロウイルス系のヒスチジン残基を6個をアミノ末端に融合発現ベクター(例えば、pBacPAK−Hisベクター;クローンテック社)。また、グルタチオンS−トランスフェラーゼと融合発現するpGEXシリーズベクター(ファルマシア)、プロテインAを発現するpRIT2またはpEZZ18ベクター(ファルマシア)が使用可能である。
【0034】
本発明の蛋白質を製造するためのインビトロトランスレーションは、公知の方法、例えばSpirin, A.S., et.al., Science 242: 1162-1164(1988年)および Patnaik, R. & Swartz, J.M. Biotechniques 24: 862-868(1998年)に記載の方法で実施することができ、市販のインビトロトランスレーションキット(例えば、TNT−インビトロトランスクリプション−トランスレーションキット、プロメガ社製)を用いてもよい。
【0035】
本発明または、上述の組換えベクターで形質転換した、宿主細胞、例えば微生物(大腸菌、酵母など)および動物培養細胞(昆虫培養細胞、哺乳類培養細胞、例えばCHO細胞、COS7細胞など)に関する。
【0036】
従って、本発明は、19kDaの発光蛋白質および/または35kDaの蛋白質をコードするポリヌクレオチドを挿入物として含有する組換え発現ベクターを用いてインビトロトランスクリプション−トランスレーションを実施することからなる、本発明のルシフェラーゼまたはその構成成分である19kDaの発光蛋白質および/または35kDaの蛋白質の製造方法に関する。さらに本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換した宿主細胞を培養し、所望の蛋白質を単離することからなる、本発明のルシフェラーゼまたはその構成成分である19kDaの発光蛋白質および/または35kDaの蛋白質の製造方法に関する。
【0037】
本発明の蛋白質の製造方法において、発現させた蛋白質は、宿主細胞の培養後、その培地からまたは菌体の可溶性画分から単離することができ、実際に培養した宿主細胞を破砕し、遠心分離した得られた可溶性画分に十分な発光活性が検出された。しかし、大腸菌で発現させた場合に、本発明の蛋白質、例えば19kDaの発光蛋白質が菌体内に封入体(インクルージョンボデイ)として大量に蓄積され(菌体の5%〜10%程度)、不活性状態にあることが見い出された。故に、封入体を包含する不溶性画分から発現させた蛋白質を回収し、再活性化を行うことができれば、発光活性を有する所望の蛋白質をより多量に製造することが可能となる。
【0038】
故に、本発明の蛋白質の製造方法は、当該技術分野において知られている蛋白質の可溶化剤でその不溶性画分を処理することにより、所望の蛋白質を可溶化して次いで単離・精製し、さらに単離した蛋白質を溶媒として1つ以上の多価アルコールの存在下にて再生させて、再活性化させることを包含する。
【0039】
発現した蛋白質の可溶化は、当該技術分野において知られている可溶化剤、例えば尿素および/またはグアニジン塩酸塩を用いて行うことができる。その濃度は、尿素の場合は2〜8Mの範囲、好ましくは8Mであり、グアニジン塩酸塩の場合は1〜6Mの範囲、好ましくは6Mである。またその際のpHは通常6〜9の範囲、好ましくはpH7〜8の範囲であり、処理温度は通常10〜60℃の範囲、好ましくは20〜35℃の範囲である。
【0040】
再生・再活性化において溶媒として用いることができる多価アルコールは、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトール、ショ糖、果糖およびブドウ糖からなる群から選択される1つ以上の多価アルコールであり、好ましくはグリセリン、ポリエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール、より好ましくはグリセリンである。また、多価アルコールの濃度範囲は、10〜90%(W/V)、好ましくは30〜90%(W/V)、より好ましくは50〜70%(W/V)である。
【0041】
また、本発明の蛋白質の製造方法において、発現させた蛋白質は公知の方法により単離・精製されるが、その精製法としては公知の任意の方法から適宜選択することができる。例えば、本発明の蛋白質が上述した精製のためのペプチド配列を包含する場合、これを用いて精製するのが好ましい。具体的には、ヒスチジンタグ配列にはニッケルキレートアフィニティークロマト法、S−トランストランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインにはグルタチオン結合ゲルによるアフィニティークロマト法、プロテインAまたは他の蛋白質の配列の場合には抗体アフィニティークロマト法を用いることができる。
【0042】
さらに本発明は、下記のアミノ酸配列の繰り返し単位:
(Leu/Ile)−Xaa−Xaa−Leu−Xaa−(Leu/Ile)−Xaa−Xaa−Asn−Xaa−(Leu/Ile)−Xaa−Xaa−Xaa−Pro
(但し、Xaaは任意のアミノ酸を示す。)
を有する蛋白質であって、前記ルシフェラーゼを構成し、且つルシフェラーゼを安定化する機能を有する蛋白質に関する。このようなロイシンリピート構造は、図2に示すように、35kDaの蛋白質のアミノ酸配列に見出されるものである。従って、前記35kDa蛋白質と同様に、ルシフェラーゼを安定化する機能を有することが期待される。
【0043】
本発明はまた、抗原として前記ルシフェラーゼ、前記19kDaもしくは35kDaの蛋白質またはそれらの断片を抗原として作製され、且つ前記抗原と特異的に結合する抗体、例えばポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体に関する。前記抗原として、抽出した天然の蛋白質、組換え蛋白質、これらの蛋白質の部分的分解物、または本発明の蛋白質のアミノ酸配列に基づく合成ペプチドを用いることができる。そのような抗原は、例えばSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列の28〜196番のアミノ酸配列、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列の40〜359番のアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列から選択される少なくとも5個の連続したアミノ酸配列、好ましくは10〜15アミノ酸残基からなるポリペプチドである。本発明にかかる抗体は、常法(例えば、Harlow, E. & Lane, D, in Antibodies-Laboratory manual Cold Spring Harbor Laboratory Press., pp53-138 (1988年))に従って作製することができる。
【0044】
本発明にかかる抗体は、ヒオドシエビ由来の分泌型ルシフェラーゼ、またはこれを構成する蛋白質の検出に用いることができるが、これらと配列相同性がある他のルシフェラーゼまたは発光蛋白質の検出および検索にも使用することができる。従って、本発明はまた、前記抗体を用いるルシフェラーゼまたは発光蛋白質の検出および/または検索方法に関し、前記方法によって同定される新規なルシフェラーゼまたは発光蛋白質もまた本発明に包含される。本発明の検出および/または検索法によれば、分類上に近種ルシフェラーゼを容易に取得することが可能である。
【0045】
上述のルシフェラーゼまたは発光蛋白質の検出および/または検索方法は、例えば他の発光エビまたは発光蛋白質(酵素)を包含している他の生物もしくはその組織の粗抽出物を試料として、本発明の抗体が結合する蛋白質を検出・検索することからなる。そのような検出手段としては、例えばイムノブロット、イムノアフィ二ティクロマトグラフィーを挙げることができる。また、他の発光エビまたは発光蛋白質(酵素)を包含している他の生物もしくはその組織のDNAライブラリーについて、本発明の抗体を用いてエクスプレッション クローニング(Sambrook, J., Fritsch,E.F., & Maniatis,T., Molecular Cloning − a Laboratory Mannual, second edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press. pp12.3-12.44 (1989年))を実施して、新規なルシフェラーゼまたは発光蛋白質をコードするDNAを直接得ることができる。
【0046】
本発明はまた、SEQ ID NO:2に示される本発明の19kDa蛋白質をコードするDNAの塩基配列およびその相補的配列において、少なくとも10個の連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、詳細にはSEQ ID NO:1の塩基配列またはその相補的な塩基配列において、少なくとも10個の連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに関する。オリゴヌクレオチドの長さは、好ましくはアミノ酸5個の長さに対応する14個であるのが好ましく、アミノ酸7個に対応する20個以上であるのがさらに好ましい。そのようなプライマーにはその5′末端に適する制限酵素部位を包含させることができる。
【0047】
本発明はまた、SEQ ID NO:4に示される本発明の35kDa蛋白質をコードするDNAの塩基配列およびその相補的配列において、少なくとも10個の連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマー、詳細にはSEQ ID NO:3の塩基配列またはその相補的な塩基配列において、少なくとも10個の連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドに関する。オリゴヌクレオチドの長さは、上述した通りであり、同様にその5′末端に適する制限酵素部位を包含させることができる。
【0048】
これらオリゴヌクレオチドプライマーは、本発明のルシフェラーゼを構成する蛋白質をコードするDNAおよびRNAの検出に用いるとができ、その手法としては公知の遺伝子検出法を用いることができるが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法が特に好ましい。
【0049】
また、これらのプライマーを用いて、他の発光エビまたは発光蛋白質(酵素)を包含している他の生物もしくはその組織のDNAライブラリー(cDNA、ゲノムDNA)から、新規なルシフェラーゼまたは発光蛋白質をコードするDNAをクローニングすることもできる。その手段としては、公知の適する方法を用いることができるが、PCR法が好ましい。
【0050】
従って、本発明はまた、これらオリゴヌクレオチドプライマーを用いる、ルシフェラーゼを構成する蛋白質および発光蛋白質をコードする遺伝子の検出および/または検索法に関し、前記方法によって検索される新規ルシフェラーゼ、これを構成する新規蛋白質および発光蛋白質、並びに該蛋白質をコードする新規遺伝子もまた本発明に包含される。本発明の検出および/または検索法によれば、分類上に近種ルシフェラーゼ、具体的には相同性が50%程度までのルシフェラーゼ遺伝子を容易に取得することが可能である。
【0051】
下記の実施例により本発明のルシフェラーゼ、これを構成する蛋白質の単離および精製、該蛋白質をコードする遺伝子の単離ならびにそれらの同定法についてについて説明する。
【0052】
【実施例】
実施例1 発光エビのルシフェラーゼの精製と構成蛋白質の同定
材料である発光ヒオドシエビ(学名:Oplophorus gracilirostris)は、静岡県駿河湾で行われている桜エビ漁の網に混入するヒオドシエビを採取した。粗精製物は、Shimomura, O., Masugi, T., Johnson, F.H. & Haneda, Y., Biochemistry 17:994-998(1978年)に記載の方法に従って調製した。さらに、精製度をあげるため疎水性クロマトグラフィーであるブチルセファロース4ファーストフロー(ファルマシア社、カラムサイズ:0.7cm(直径)×3.5cm)を使用し、1.5M 硫酸アンモニウムを含有する20mMのTris−HCl,pH8.5の緩衝液で平衡化したカラムより、硫酸アンモニウム濃度を下げることにより溶出し発光活性をもつ画分を集めた。この画分を50mM 塩化ナトリウム含有20mM Tris−HCl,pH8.5の緩衝液で平衡化したスーパーデックスカラム(ファルマシア社、カラムサイズ:1cm(直径)×48cm)に供しゲルろ過を行った。同一カラムでの分子量サイズマーカー(a:アミラーゼ(200kDa),b:アルコールデヒドロゲナーゼ(150kDa),c:血清アルブミン(67kDa),d:オボアルブミン(43kDa),e:カルボニックアンハイドラーゼ(30kDa)およびf:リボヌクレアーゼ(13.7kDa))と比較した結果、ヒオドシエビのルシフェラーゼの分子量は、約106kDaであった。その結果を図1に示す。また、精製酵素の比活性は1.3×1015quanta/s.mgであった。
【0053】
精製したサンプルについて、SDS−PAGE(12%アクリルアミドゲル)によって分析した。その結果、精製画分は、分子量35kDaと19kDaの蛋白質で構成されていることが明かとなった。更に、精製した蛋白質(25μg)を0.1%(w/v)SDS 0.3mlに溶解し、ゲルろ過カラムによる高速液体クロマトグラフィーにて分離した。即ち、0.1Mの塩化ナトリウムおよび0.1%のSDSを含む20mMのTris−HCl、pH7.7の溶媒系で、ゲルろ過用カラムTSK3000SW(東ソー、0.75cm(直径)×30cm)を使用し、分離蛋白質を吸光度280nmで検出した。その結果、2つの主ピークを検出し、SDS−PAGE分析の結果、それぞれのピークは分子量35kDaと19kDaの蛋白質に対応することが明らかとなった。以上のことより、分子量が約106kDaを示すヒオドシエビの有する本発明のルシフェラーゼは、分子量35kDaと19kDaの蛋白質それぞれ2個より構成されることが明らかとなった。
【0054】
実施例2 ルシフェラーゼのアミノ酸配列の決定
アミノ酸配列の決定は、常法によって気相シークエンサー(アプライドバイオシステム社製のモデル470型)用いて実施した。サンプル調製は以下の通りである。
【0055】
1)精製ルシフェラーゼは、12%アクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEで分子量35kDaの蛋白質と分子量19kDaの蛋白質を分離後、エレクトロブロット法を用いて、150mA、1時間の条件でポリビニリデンジフルオライド メンブレン(PVDF膜、ミリポア社製)にトランスファーした。染色後、分子量19kDaと35kDaの蛋白質部分をそれぞれ切り出して、シークエンサーに供し、その部分的アミノ酸配列を決定した。
【0056】
2)精製ルシフェラーゼ(50μg)を5C4カラム(ウオーターズ社製、カラムサイズ:0.39cm(直径)×15cm)を用い逆相系の高速液体クロマトグラフィーにて分離した。溶媒系はトリフルオロ酢酸0.1%を含むアセトニトリル/水で、アセトニトリル勾配(80分間で0%から80%に上ける)によって溶出し、蛋白質画分を吸光度220nmで検出してピーク画分を集め、減圧下に濃縮して、シークエンサーを用いてそのアミノ酸配列を決定した。分子量35kDaの蛋白は、リジンエンドペプチダーゼ(ベーリンガー社製、シークエンスグレード)を重量比50分の1にて処理し、ペプチド断片を5C8カラム(バイダック社製、カラムサイズ:0.46cm(直径)×25cm)を用い逆相系の高速液体クロマトグラフィーにて分離した。溶媒系は、トリフルオロ酢酸0.1%を含むアセトニトリル/水で、アセトニトリル勾配(80分間で15%から55%に上げる)によって溶出し、ペプチド断片画分を吸光度220nmで検出してピーク画分を集め、シークエンサーを用いてその部分的アミノ酸配列を決定した。
【0057】
上述のように決定された酸配列を以下に示す。
▲1▼ 分子量19kDaの蛋白質について決定したアミノ酸配列
N-末端配列(SEQ ID NO:5):Phe-Thr-Leu-Ala-Asp-Phe-Val-Gly-Asp-Trp-Gln-Gln-Thr-Ala-Gly-Tyr-Asn-Gln-Asp-Gln-Val-Leu-Glu-Gln-Gly-Gly-Leu-Ser
▲2▼ 分子量35kDaの蛋白質について決定したアミノ酸配列
N-末端配列(SEQ ID NO:6):Ala-Val-Ala-(x)-Pro-Ala-Ala-Glu-Asp-Ile-Ala-Pro-(x)-Thr-(x)-Lys-Val-Gly-Glu-Gly-Asp-Val-Met-Asp-Met-Asp-(x)-Ser-Lys
(ここで(x)は、未決定アミノ酸を示す。)
▲3▼ リジンエンドペプチダーゼ処理により得られたペプチド断片の配列:
a) Val-Thr-Ser-Asp-Ala-Glu-Leu-Ala-Ser-Ile-Phe-Ser-Lys-Thr-Phe-Pro(SEQ ID NO:7)
b) Asn-Asp-Leu-Ser-Ser-Phe-Pro-Phe-Glu-Glu-Met-Ser-Gln-Tyr-Thr-Lys(SEQ ID NO:8)
c) Leu-Val-Leu-Gly-Tyr-Asn-Gly-Leu-Thr-Ser-Leu-Pro-Val-Gly-Ala-Ile(SEQ ID NO:9)
d) Asn-Leu-Asp-Pro-Ala-Val-Phe-His-Ala-Met-(x)-Gln(SEQ ID NO:10)
【0058】
実施例3 ヒオドシエビのcDNA遺伝子ライブラリーの作製およびルシフェラーゼ遺伝子クローニング
駿河湾に生息するヒオドシエビを採取し、直ちにドライアイス上で凍結を行い、使用まで−80℃で保存した。全RNAの調製は、Inouye, S. & Tsuji, F.I., FEBS Lett., 315, 343-346 (1993年) に記載のグアニジンイソチオシアネート法により行った。その結果、2尾(体長40mm、重さ2.8g)のヒオドシエビから2M LiClを用いて得られた全RNAの沈澱を回収し、約0.9mgの全RNAを得た。続いて、ポリ(A)+RNAをオリゴ(dT)−セルロース スパンカラム(ファルマシア社製)を用いて精製し、Kakizuka, A., Yu, R., Evans, R.M. & Umesono, K., in Essential Developmental Biology (Stern, C.D. ed.), IRL Press, Oxford, U.K., pp223-232 (1993年) に記載の方法に従い、2μgのポリ(A)+RNAをdT12-18をプライマーとして、cDNA合成キット(タイムセーバーcDNA合成キット;ファルマシア−バイオテック社製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNA(20ng)にEcoRI/NotIの制限酵素部位を有するリンカーを付加し、予め1μgの牛小腸由来アルカリフォスファターゼ処理をしたλZapIIベクター(ストラタジーン社製)に全量5μlを添加し、4℃、16時間処理してこれらを連結させた。次いで、Gigapack GoldIII(ストラタジーン社製)のパッケージング・キットを用いて、cDNAライブラリーを作製した。その力価は、1.1×106プラーク形成/ユニットであった。
【0059】
実施例4 合成オリゴヌクレオチドプローブおよびPCRプライマーの調製
スクリーニング用およびPCR用のオリゴヌクレオチドは、市販業者へ化学合成による合成を依託して入手した。
遺伝子ライブラリーから分子量19kDaおよび35kDa蛋白質に対応するcDNAを分離するためのオリゴヌクレオチドプローブは、実施例2により得られた上記のアミノ酸配列の情報をもとにそれぞれ作製した。
【0060】
19kDa蛋白質については、Ala-Gly-Tyr-Asn-Gln-Asp-Gln(SEQ ID NO:11)のアミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドプローブSOL−2(5′GCN-GGN-TA(T/C)-AA(T/C)-CA(A/G)-GA(T/C)-CA 3′)(SEQ ID NO:13)を、そして35kDa蛋白質については、Gly-Asp-Val-Met-Asp-Met-Asp(SEQ ID NO:12)のアミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドプローブOL−3(5′GTN-GT(T/C)-GTN-ATG-GA(T/C)-ATG-TC 3′)(SEQ ID NO:14)を合成した。
【0061】
実施例5 ルシフェラーゼを構成する19kDaおよび35kDa蛋白質をコードする遺伝子のクローニング
実施例3で得られたcDNAライブラリーについて、実施例4で合成したオリゴヌクレオチドプローブを用いて、Wallace, R.B., et.al., Nucl. Acids Res., 9, 879-897(1981年)に記載のプラークハイブリダイゼーション法によって、19kDa蛋白質についてはプローブSOL−2を、35kDa蛋白質についてはプローブOL−3を用いてスクリーニングを実施した。SOL−2およびOL−3は、[γ−32P]ATPで5′末端ラベルして標識プローブとして用いた。cDNAライブラリーから直径15cmのLB−培地プレート(1.2% アガロース,水1L中、バクトトリプトン10g、イーストエキストラクト5g、塩化ナトリウム5g,pH7.2)に、35,000個のファージプラークが生成するように蒔き、37℃で8時間培養後、それぞれ2枚のフィルターをとり、アルカリDNA変性、中和、風乾後、紫外線照射しDNAを固定した。そして、フィルターを20mlのハイブリダイゼーション液(900mM NaCl,90mM Tris−HCl(pH8.0),6mM EDTA,0.2%牛血清アルブミン、0.2%ポリビニルピロリドン、0.2%フィコール、1%SDS、50μg/ml熱変性サケ精子DNA)に入れ、50℃で1時間保温した。更に新しいハイブリダイゼーション液と入れ替えて1時間保温後、32P−標識プローブを加えて50℃で一昼夜ハイブリダイゼーションした。溶液を捨て、室温でフィルターをSSC緩衝液(300mM NaCl,30mM クエン酸ナトリウム)で3回洗浄後、オートラジオグラフィーにかけた。強いシグナルを示すファージ部分をかき出し、2次スクリーニングを同様に行い、単一のポジティブクローンを分離した。クローン化ファージからのプラスミドベクターへの変換は、pBluescript phagemid系(ストラタジーン社製)を用いて行った。結果として、SOL−2にポジティブなクローンを、遺伝子ライブラリー300,000個から1個取得し、一方、OL−3にポジティブなクローンを70,000個から9個得た。
【0062】
実施例6 組換えベクターの調製
実施例5で得られたクローンを用い、それぞれの組換えベクタープラスミドを、常法により大腸菌からアルカリ法で調製した。分子量19kDa蛋白質に由来し、SOL−2にポジティブな1個のクローンから得られた組換えプラスミドをpKAZ−412と命名した。他方、分子量35kDa蛋白質に由来し、OL−3にポジティブな9個のクローンから得られた組換えプラスミドについて制限地図切断試験を行った結果、9個とも同一制限酵素地図を示したため、最長なクローンを選択し、これをpOL−23と命名した。
【0063】
実施例7 遺伝子配列の決定およびルシフェラーゼ遺伝子の同定
塩基配列の決定は、ダイターミネーターサイクルシークエンシング法を用いて、アプライドバイオシステム社の蛍光シークエンサー(ABI 373および377型)により決定し、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:3に示すように遺伝子の塩基配列を明らかにした。
【0064】
その結果、シグナルペプチド配列を含む19kDa蛋白はSEQ ID NO:2に示す196アミノ酸から構成され、これはSEQ ID NO:1に示す塩基配列のうち46〜633に相当することが分かった。しかし、19kDa蛋白質は、実施例2にて決定されたアミノ末端のアミノ酸配列から、分泌のために必要なシグナルペプチド配列を除いたSEQ ID NO:2の28〜196番アミノ酸により示される169アミノ酸よりなる分子量18,689.50ダルトン(約19kDa)のポリペプチドであって、等電点が4.70と推定される。
【0065】
同様に、シグナルペプチド配列を含む35kDa蛋白は、SEQ ID NO:4に示す359アミノ酸から構成され、これはSEQ ID NO:3に示す塩基配列のうち79〜1155に相当することが分かった。そして、35kDa蛋白質は、実施例2にて決定されたアミノ末端のアミノ酸配列から、分泌のために必要なシグナルペプチド配列を除いたSEQ ID NO:4の40〜359番アミノ酸に示される320アミノ酸よりなる分子量34,837.08ダルトン(約35kDa)のポリペプチドであって、等電点が4.61と推定される。
【0066】
一方、実施例2にて決定されたペプチド断片のアミノ配列は全て、塩基配列の情報から得られるSEQ ID NO:2または SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と完全に一致した。このことより、クローン化されたpKAZ−412およびpOL−23は、ヒオドシエビルシフェラーゼを構成する19kDaと35kDa蛋白質をコードする遺伝子であることが明らかとなった。
【0067】
実施例8 ヒオドシエビルシフェラーゼ由来の SEQ ID NO :1−4に示される配列のデーターベース検索
SEQ ID NO:1−4に示される配列(アミノ酸配列、ヌクレオチド配列)について、相同性等を遺伝子データベース(National Center for Biotechnology informationに登録されている全てのデーターベース)を用いて検索した。解析ソフトはFASTA、BLAST等を用いた。SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:3の塩基配列については、すべてのエントリー遺伝子に対して、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列については、エントリーアミノ酸配列およびエントリー遺伝子より翻訳されるアミノ酸配列に対して行った。その結果、SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:3の塩基配列と著しい相同性のある遺伝子配列は検出されなかった。また、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列についても、顕著な相同性を有する配列は検出されなかった。特に、セレンテラジンを含むイミダゾピラノジン化合物関連蛋白質であるレニラルシフェラーゼ(36kDa;GenBank、M63501)、イクオリン(21.5kDa;GenBank,L29571)、レニラルシフェリン結合蛋白質(20.5kDa;SWISS−PRO,P05938)、ウミホタルルシフェラーゼ(58.5kDa;GenBank、M25666)、ホタルルシフェラーゼ、発光細菌ルシフェラーゼとは、全く相同性は検出できなかった。
【0068】
しかし、SEQ ID NO:2に示される19kDa蛋白質のアミノ酸配列は、大腸菌のアミンオキシダーゼ(登録番号pir 140924)のドメインD3−S1領域(アミノ酸配列217−392番)と弱い相同性(26%(同一のアミノ酸:44/169),49%(類似のアミノ酸:83/169))があり、また脂肪酸結合蛋白(GenBank、L23322)のアミノ末端領域(アミノ酸配列1〜47番)とも弱い相同性(28%(同一のアミノ酸:13/47),51%(類似のアミノ酸:24/47))があるが、機能的な相同性は検出できなかった。
【0069】
また、図2に示すように、SEQ ID NO:4に示される35kDa蛋白質のアミノ酸配列は、下記の繰り返し単位:
(Leu/Ile)-Xaa-Xaa-Leu-Xaa-(Leu/Ile)-Xaa-Xaa-Asn-Xaa-(Leu/Ile)-Xaa-Xaa-Xaa-Pro(Xaa:任意のアミノ酸)
に示される、ロイシンに富むリピート構造を有することが明らかとなった。
【0070】
実施例9 ルシフェラーゼに対する抗体の作製およびウエスタンブロット法によるルシフェラーゼ蛋白質の検出法
実施例1により得られた高度に精製したヒオドシエビルシフェラーゼ(80μg)を抗原として、常法によりニュージーランドホワイトウサギに免疫を行い、ヒオドシエビルシフェラーゼを構成する19kDaおよび35kDa蛋白質に対する抗体の作製を試みた。Inouye, S.およびTsuji, F.I., Anal. Biochem., 201: 114-118 (1992年)に従って、抗体血清を500倍希釈で使用したウエスタンブロット法にで分析した結果、作製された抗体は19kDaおよび35kDaを特異的に認識した(図3)。これにより、得られた本抗体を用いれば、ヒオドシエビルシフェラーゼ、および類似する配列を有し且つ類似な高次構造を有する他のルシフェラーゼまたは発光蛋白質の検出または検索が可能となる。
【0071】
実施例10 ルシフェラーゼ構成蛋白質発現ベクターの構築
実施例6で得られた組換えベクターpKAZ−412およびpOL−23を発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを用いて大腸菌内および培養細胞内で該蛋白質を発現させた。用いた発現ベクターの制限酵素地図を、図4および図5に示す。
(1)大腸菌内での発現ベクターは、19kDaまたは35kDa蛋白質をコードする、即ちSEQ ID NO:2の28〜196番のアミノ酸配列またはSEQ ID NO:4の40〜359番のアミノ酸配列に対応するDNA断片をPCR法を用いて調製し、該DNA断片を、市販ヒスチジンタグを有するpTrcHis−Bベクター(インビトロゲン社製)の制限酵素NheI/XhoI部位に挿入することによって作製することができる。具体的には、
▲1▼ 19kDa蛋白質発現ベクター場合
pKAZ−412を鋳型として2種のPCRプライマー:
KAZ−3(5′CCGGCTAGC-TTT-ACG-TTG-GCA-GAT-TTC-GTT-GGA 3′;NheI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:15)、および
T7−BcaBEST(5′TAATACGACTCACTATAGGG 3′)(SEQ ID NO:16)
を用いて、PCRキット(日本ジーン社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施して、所望のDNA領域を増幅した。得られた断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、常法により制限酵素NheI/XhoI消化した後,pTrcHis−Bの制限酵素NheI/XhoI部位に連結することによって、発現ベクターpHis−KAZを構築した。
【0072】
▲2▼ 35kDa蛋白質発現ベクターの場合
pOL−23を鋳型として2種のPCRプライマー:
OL−7(5′CCGTCTAGA-GCT-GTT-GCC-TGT-CCT-GCA-GCC 3′;XbaI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:17)および
OL−8(5′GCCGTCGAC-TTA-TTG-GCA-CAT-TGC-ATG-GAA 3′;SalI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:18)
を用いて、PCRキット(日本ジーン社製)にて(PCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施して、所望のDNA領域を増幅した。得られた断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、常法により制限酵素制限酵素XbaI/SalI消化した後、pTrcHis−Bの制限酵素NheI/XhoI部位に連結することによって、発現ベクターpHis−OLを構築した。
【0073】
(2)動物培養細胞での発現ベクターは、19kDaまたは35kDa蛋白質をコードする、即ちSEQ ID NO:2の28〜196番のアミノ酸配列またはSEQ ID NO:4の40〜359番のアミノ酸配列に対応するDNA断片をPCR法を用いて調製し、該DNA断片をNheI/XbaI消化した後、市販レニラルシフェラーゼ発現ベクターpRL−CMV(プロメガ社製)のNheI/XbaIレニラルシフェラーゼ遺伝子部分と置き換えることによって作製することができる。
▲1▼ 分泌シグナル配列を有する19kDa蛋白発現ベクターpSKAZ−CMVおよび分泌シグナル配列を欠失した19kDa蛋白発現ベクターpKAZ−CMVを、下記のプライマー:
KAZ−1:5′CCGGCTAGCCACC-ATG-GCG-TAC-TCC-ACT-CTG-TTC-ATA 3′(NheI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:19)
KAZ−2:5′CCGGCTAGCCACC-ATG-TTT-ACG-TTG-GCA-GAT-TTC-GTT-GGA 3′(NheI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:20)
KAZ−5:5′CCGCTCTA-GAA-TTA-GGC-AAG-AAT-GTT-CTC-GCA-AAG-CCT 3′(XbaI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:21)
を使用して(1)と同様にPCR法によって構築した。ここで、pSKAZ−CMVの構築にはプライマーKAZ−1とKAZ−5を、またpKAZ−CMVの構築にはプライマーKAZ−2とKAZ−5を使用した。
【0074】
▲2▼ 分泌シグナル配列を有する35kDa蛋白発現ベクターpSOL−CMVおよび分泌シグナル配列を欠失した35kDa蛋白発現ベクターpOL−CMVを、下記プライマー:
OL−4:5′CCGGCTAGCCACC-ATG-GCT-GTC-AAC-TTC-AAG-TTT 3′(NheI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:22)
OL−5:5′CCGGCTAGCCACC-ATG-GCT-GTT-GCC-TGT-CCT-GCA-GCC 3′(NheI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:23)
OL−6:5′CCGCTCTAGAA-TTA-TTG-GCA-CAT-TGC-ATG-GAA 3′(XbaI制限酵素部位はアンダーライン)(SEQ ID NO:24)
を使用して、上記▲1▼と同様にPCR法によって構築した。ここで、pSOL−CMVの構築にはプライマーOL−4とOL−6を、またpOL−CMVの構築にはプライマーOL−4とOL−5を使用した。
【0075】
実施例11 ルシフェラーゼ構成蛋白質の無細胞系での発現
実施例10で構築した発現ベクターpKAZ−CMV、pSKAZ−CMV、pOL−CMVおよびpSOL−CMV、並びに陽性コントロールとしてレニラルシフェラーゼを発現するpRL−CMVを用いて、無細胞系でヒオドシエビルシフェラーゼ構成蛋白質遺伝子を発現させた。無細胞系の遺伝子発現は、組換えプラスミドまたは該プラスミドより調製したmRNAから蛋白質を製造する方法であり、特に検出感度の高い発光系においては有用である。本実施例においては、市販のインビトロトランスレーションキット(TNT−インビトロトランスクリプション−トランスレーションキット、プロメガ社製)を使用した。また、発現蛋白質の分泌シグナルペプチドの存在を確認するため、分泌シグナルペプチド切断活性を持つマイクロゾーム膜画分を添加した。反応は、0.5μgのプラスミドDNA、20μlのウサギ網状赤血球、1μlの1mM−メチオニン、2.5μlのマイクロゾーム膜画分を加えて、全量を25μlとし30℃で90分保温した後、反応溶液の1μLの発光活性を測定した。
【0076】
発光測定のための反応溶液は、全量が100μlでEDTAを10mMの濃度で含む50mM濃度のTris−HCl(pH7.6)溶液に基質セレンテラジン1μgを加え、酵素を添加することにより発光反応を開始し、発光をルミフォトメーターで検出した。結果を表2に示す。なお、発光相対値1(rlu)=1.25×107フォトン/秒である。
【0077】
【表2】
【0078】
pKAZ−CMVには顕著な活性が見い出され、pSKAZ−CMVにマイクロゾーム膜画分添加することにより、その効率は低いものの活性が約20倍上がることから、pSKAZ−CMV発現の19kDa蛋白質のアミノ末端には、分泌シグナルペプチド様配列の存在が確認された。分泌シグナルペプチド様配列の問題は、他の効率的に切断される公知の分泌シグナルペプチドを付加またはこれと置換することにより解決することができる。また、実施例5で作製したルシフェラーゼ抗体を用いて、インビトロトランスレーション産生蛋白質をウエスタンブロット分析により解析した結果、19kDaおよび35kDa蛋白質の発現が確認された。
【0079】
実施例12 ルシフェラーゼを構成する蛋白質の大腸菌での発現
実施例10で構築した発現ベクターpHis−KAZとpHis−OL、およびコントロールプラスミドとしてpTrcHis−Bを用いて、常法に従って大腸菌BL21株を形質転換した。得られた形質転換株の一晩培養液0.1mlをアンピシリン(50μg/ml)含有LB液体培地(10ml)に植菌し、37℃で2時間振盪培養後、最終濃度が1mMになるようにイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、更に3時間培養した。その菌体をSDS−PAGE分析に供して、発現蛋白質を確認した。その結果、分子量20kDaおよび36kDaに相当する発現蛋白質のバンドを確認した。これらの発現蛋白質には、ニッケルキレートカラムで精製可能な6個のヒスチジン配列を含む14アミノ酸配列を付加しているため、分子量サイズが大きくなっていると考えられる。また、これらのバンドは、ヒスチジン配列を特異的に認識するモノクローナル抗体(キアゲン社製)および実施例9で作製したポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析では、両方の抗体により認識されることため、発現蛋白質はアミノ末端にヒスチジン配列を有するヒオドシエビルシフェラーゼの構成蛋白質(分子量19kDaおよび35kDa蛋白質)であることが確認された。
【0080】
上記IPTGで発現誘導処理した培養液1mlを10,000rpmで遠心分離し、集めた菌体を1mlの緩衝液(30mM Tris−HCl,10mM EDTA,pH7.6)に懸濁し超音波破砕した。10,000rpm、4℃で遠心分離し、上清を細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液に対して、セレンテラジンまたはビスデオキシセレンテラジンを基質として1μg添加して、発光活性をルミフォトメーターで測定した。その結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
この表から各々の活性を比較すると、pHis−KAZを保持する菌株の活性は、負の対照であるpTrcHis−BおよびpHis−OLの約一万倍である。従って、ヒオドシエビルシフェラーゼを構成する19kDaおよび35kDa蛋白質のうち、分子量19kDa蛋白質が発光活性を有することが明らかとなり、発光反応を19kDa単独でも行うことができること、ビスデオキシセレンテラジンを基質として利用できることが明らかとなった。このため、35kDaの蛋白質は、基質特異性に直接関与せず、発光活性を有する19kDa蛋白質に熱耐性を付与するなど、ルシフェラーゼ(酵素)の安定性を付与する機能を有していることが示唆される。
【0083】
実施例13 ルシフェラーゼを構成する蛋白質の動物培養細胞での発現
実施例10で構築した、動物培養細胞での発現ベクターである、プラスミドpKAZ−CMV、pSKAZ−CMV、pOL−CMVおよびpSOL−CMV、並びに正のコントロールとしてレニラルシフェラーゼを発現するpRL−CMVを、培養細胞COS7細胞にトランスフェクションすることにより、ヒオドシエビルシフェラーゼ構成蛋白質遺伝子の発現を試みた。COS7細胞(2×105個)は、10%(v/v)の熱不活性化胎牛血清(GIBCO BRL社製)、ペニシリン(100単位/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)を含むダルベッコ変型イーグル培地3mlを含有する35mmシャーレ中で培養した。24時間後、細胞を、トランスフェクション試薬FuGENE6(ロッシュ社製)を用いて2μgのプラスミドDNAで形質転換した。更に36時間培養した後、細胞と培地を分離した。得られた細胞を0.5mlのリン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、−80℃での凍結と37℃での融解を繰り返して抽出液を得た。セレンテラジンおよびビスデオキシセレンテラジンを基質として1μg添加して、発光活性をルミフォトメーターで測定した。その結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
活性を比較した結果、pKAZ−CMV、pSKAZ−CMVおよび正のコントロールpRL−CMVのみに顕著な発光活性が見い出された。pSKAZ−CMVの培養液への分泌効率が低いことは、実施例11の結果と一致する。一方、pKAZ−CMVの発光強度が現在レポータープラスミドとして市販されているpRL−CMVと同等であることから、ヒオドシエビ由来のルシフェラーゼの19kDa蛋白質遺伝子は、動物培養細胞系でのレポーター遺伝子として充分使用することが可能であることが示された。
【0086】
実施例14 大腸菌の封入体からの発現蛋白質の単離およびその再生
実施例11にて構築した組換え発現プラスミドpHis−KAZで形質転換し、実施例12で培養した菌体を20mlの20mM Tris−HCl緩衝液,pH7.5、に懸濁し、超音波破砕装置(ブランソン社製:モデル250型)で細胞を破壊後、冷却高速遠心機(12,000×g,20分)により封入体を包含する沈殿不溶性画分と可溶画分とに分離した。
【0087】
(1)尿素による発現蛋白質の可溶化
不溶性画分を先ず20mlの2M尿素(和光純薬社製)を含む20mM Tris−HCl緩衝液、pH7.5に超音波処理により十分に懸濁後、遠心分離(12,000×g,20分)して不溶性画分を回収し、この操作を2回繰り返す。2Mの濃度では目的の19kDa蛋白質は殆ど(5%以下)可溶化しないが、他の蛋白質不純物はかなり除去された。回収した不溶性画分に20mlの8M尿素を含む20mM Tris−HCl緩衝液、pH7.5に十分に懸濁後、遠心分離(12,000×g,20分)して、可溶化画分を回収した。電気泳動分析の結果、19kDa蛋白質の収率は95%以上であった。この回収画分をニッケルキレートカラムクロマトグラフィーに供した。
【0088】
(2)グアニジン塩酸塩による発現蛋白質の可溶化
不溶性画分を20mlの0.5Mグアニジン塩酸塩(和光純薬社製)を含む20mM Tris−HCl緩衝液、pH7.5に超音波処理により十分に懸濁後、遠心分離(12,000×g,20分)して不溶性画分を回収し、この操作を2回繰り返した。回収した不溶性画分に20mlの6Mグアニジン塩酸塩を含む20mM Tris−HCl緩衝液、pH7.5に懸濁後、遠心分離(12,000×g,20分)して、上清の可溶化画分を回収した。電気泳動分析の結果、電気泳動分析の結果、19kDa蛋白質の収率は90%以上であった。この回収画分を8モル尿素にて10倍に希釈してニッケルキレートカラムクロマトに供した。
【0089】
(3)グアニジン塩酸塩および尿素による発現蛋白質の可溶化
上記(2)と同様に不溶性画分を0.5M グアニジン塩酸塩で2回処理した。得られた不溶性画分を20mlの8M尿素を含む20mM Tris−HCl緩衝液、pH7.5に懸濁後、遠心分離(12,000×g,20分)して、上清の可溶化画分を回収した。電気泳動分析の結果、電気泳動分析の結果、19kDa蛋白質の収率は90%以上であった。この回収画分をニッケルキレートカラムクロマトに供した。
【0090】
(4)ニッケルキレートゲルクロマトグラフィーによる精製
ニッケルキレートゲルはキレートゲルファーストフロー(ファルマシア社)と0.01Mの塩化ニッケル水溶液を混合することにより調整し、カラム(カラムサイズ:1cm(直径)×6cm)に充填した。カラムゲルは濃度8Mの尿素を含む、濃度20mMのTris−HCl(pH7.5)緩衝液(以下に緩衝液Aと記載する)で平衡化したカラムに(1)〜(3)にて調製した可溶性画分を供した。緩衝液Aでカラムを洗浄した後、0.3Mのイミダゾール(和光純薬社)で吸着した蛋白質を溶出した。溶出画分(約10ml)を1Lの緩衝液A中において4℃で18時間透析を行い、イミダゾールを除去した。透析試料を再度を緩衝液Aで平衡化した上記カラムに供し、緩衝液A30mlで洗浄後、イミダゾールの0〜0.3Mの直線的濃度勾配(全溶出量,100ml)によりヒスチジンを有する19kDa蛋白質を溶出した。精製された蛋白質の純度は95%であった。バイオラッド社製の色素結合法による蛋白質定量の結果、400mlの培養菌体から6.8mg蛋白質を得た。
【0091】
(5)精製19kDa蛋白質の再生・再活性化
上記(4)にて精製した19kDa蛋白質は全く発光活性を示さない。そこで、多価アルコール溶媒としてグリセリン(和光純薬)を用い、精製した蛋白質をグリセリン最終濃度(v/w)0%〜90%の溶液中に25℃で、30分間放置し、上述のように発光活性を測定した。(1)の尿素よる可溶化試料についての結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
その結果、尿素を含まない緩衝液で処理することによりわずかに再活性化されるが、グリセリンを添加することにより再活性化が顕著に増加することが示された。特にグリセリン濃度が50〜70%の場合、グリセリンを添加しないものと比較して約50倍の再活性化が観察された。その再生の効率は、天然のルシフェラーゼ活性を基準に算出した結果、約60〜80%であった。また、(2)および(3)にて可溶化した場合でも同様な結果が得られた。
【0094】
さらに再生処理した当該蛋白質をグリセリン0%または50%中にて、4℃で30日間保存し、その発光活性を測定した。その結果、グリセリン0%では保存前と比較して発光活性が約1/5に低下したが、グリセリン50%では、−20℃で保存した場合(データは示さない)と同様に、ほとんど活性の低下が認められなかった。このことは、再生した活性化19kDa蛋白質は、グリセリン(50〜70%)中で安定に保存することが可能でありことを示している。保存試験の結果を下記の表に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
【発明の効果】
本発明によれば、深海に生息するヒオドシエビ由来のルシフェラーゼが分子量19kDaおよび分子量35kDaの蛋白質から構成されることが明らかとなり、さらに該蛋白質をコードする遺伝子が単離され、該遺伝子を用いて高純度の組換え分泌型ルシフェラーゼ蛋白質が提供される。また、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターで形質転換した細菌および動物培養細胞が得られ、これを用いた分泌型ルシフェラーゼ蛋白質の製造方法が提供される。これは、本発明のルシフェラーゼおよびその構成蛋白質を大量に調製することができることを意味する。本発明において調製されたルシフェラーゼおよびその構成蛋白質(特に分子量19kDaの蛋白質)は多くの測定・分析法に適用することができ、また診断薬や検査薬としても有用である。
さらに、本発明の蛋白質を抗原として作製される抗体、該蛋白質をコードするDNAから得られるプライマーは、本発明のルシフェラーゼ、またはこれを構成する蛋白質、およびこれらと相同性がある他のルシフェラーゼまたは発光蛋白質の検出、検索およびそのクローニングに用いることができる。
【0097】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】精製ヒオドシエビ由来ルシフェラーゼのゲル濾過による分子量の決定を示す。
【図2】ヒオドシエビ由来の35kDa蛋白質に存在するロイシンリピート配列を示す。
【図3】ヒオドシエビ由来のルシフェラーゼに対するポリクロナール抗体を用いたウエスタンブロット分析を示す。
【図4】ヒオドシエビ由来のルシフェラーゼを構成する19kDa蛋白質遺伝子の制限酵素地図と発現ベクターを模式的に示す図である。
【図5】ヒオドシエビ由来のルシフェラーゼを構成する35kDa蛋白質遺伝子の制限酵素地図と発現ベクターを模式的に示す図である。
Claims (28)
- 十脚類(Decapoda)由来であって、分子量19kDaおよび分子量35kDaの蛋白質から構成されるルシフェラーゼ。
- 十脚類が、ヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris )である請求項1に記載のルシフェラーゼ。
- 請求項1のルシフェラーゼを構成する、分子量19kDaの発光蛋白質。
- 前記発光蛋白質が、
(a)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列の28〜196番のアミノ酸配列、または
(b)(a)のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項3記載の発光蛋白質。 - さらに、精製のためのペプチド配列および/または細胞外分泌もしくは細胞内器官への移行のためのシグナルペプチド配列を有する、請求項3または4に記載の蛋白質。
- 請求項4に記載の発光蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
- (a)SEQ ID NO:1示す塩基配列の46〜633番の塩基配列、
(b)(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ発光活性を有する蛋白質をコードする塩基配列、および
(c)(a)または(b)の塩基配列と相補的な塩基配列
からなる群から選択される塩基配列を有する、請求項6記載のポリヌクレオチド。 - 請求項1のルシフェラーゼを構成する、分子量35kDaの蛋白質。
- 前記蛋白質が、
(a)SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列の40〜359番のアミノ酸配列、または
(b)(a)のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を有する請求項8記載の蛋白質。 - さらに、精製のためのペプチド配列および/または細胞外分泌もしくは細胞内器官への移行のためのシグナルペプチド配列を有する、請求項8または9に記載の蛋白質。
- 請求項9に記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
- (a)SEQ ID NO:3に示す塩基配列の79〜1155番の塩基配列、
(b)(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ請求項3〜5に記載の蛋白質と共にルシフェラーゼを構成することができる蛋白質をコードする塩基配列、および
(c)(a)または(b)の塩基配列と相補的な塩基配列
からなる群から選択される塩基配列を有する、請求項11に記載のポリヌクレオチド。 - 下記のアミノ酸配列の繰り返し単位をさらに有する、請求項9に記載の蛋白質。
(Leu/Ile)−Xaa−Xaa−Leu−Xaa−(Leu/Ile)−Xaa−Xaa−Asn−Xaa−(Leu/Ile)−Xaa−Xaa−Xaa−Pro
(但し、Xaaは任意のアミノ酸を示す。) - 請求項1または2に記載のルシフェラーゼ、請求項3〜5のいずれか1項に記載の発光蛋白質またはその断片を抗原として作製され、且つ前記抗原と特異的に結合する抗体。
- 請求項14に記載の抗体を使用する、ルシフェラーゼまたは発光蛋白質の検出方法。
- プロモーターに作動的に連結された、請求項6または11に記載のポリヌクレオチドの少なくとも1つを挿入物として含有する組換え発現ベクター。
- 請求項16に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
- 動物培養細胞または微生物細胞である、請求項17に記載の宿主細胞。
- 請求項16に記載の組換えベクターを用いてインビトロトランスクリプション−トランスレーションを実施して、発現した組換え蛋白質を単離することからなる、請求項3または8に記載の蛋白質の少なくとも1つを製造する方法。
- 請求項17または18に記載の宿主細胞を培養し、発現した組換え蛋白質を単離することからなる、請求項3または8に記載の蛋白質の少なくとも1つを製造する方法。
- さらに、溶媒として1つ以上の多価アルコールの存在下にて蛋白質を再生させてその酵素活性を再活性化させ、場合により前記溶媒中にて蛋白質を貯蔵することを包含する、請求項19または20に記載の方法。
- 多価アルコールが、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトール、ショ糖、果糖およびブドウ糖からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
- 請求項1もしくは2に記載のルシフェラーゼ、または請求項3〜5のいずれか1項に記載の発光蛋白質をレポーターとして用いて検出可能なシグナルを発生させることを特徴とする、分析物の検出方法。
- 発光反応の基質としてセレンテラジンまたはその誘導体を用いることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
- 請求項6もしくは7に記載のポリヌクレオチドまたは請求項16に記載の組換え発現ベクターをレポーターまたはマーカーとして用いて検出可能なシグナルを発生させることを特徴とする、試験試料中の分析物を検出するためのバイオアッセイ法。
- 発光反応の基質としてセレンテラジンまたはその誘導体を用いることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
- アッセイすべき試料が、生細胞、生組織もしくは器官、またはその部分である、請求項25または26に記載の方法。
- 請求項1もしくは2に記載のルシフェラーゼ、請求項3〜5のいずれか1項に記載の発光蛋白質、請求項6もしくは7に記載のポリヌクレオチドまたは請求項16に記載の組換え発現ベクターを含む、請求項23〜27のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキット。
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