JP4606707B2 - いす形6員環単糖化合物 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、いす形6員環単糖化合物、その前駆体及びこれを用いた疾患、感染症等の診断方法あるいは検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、糖の6員環は、三枚屏風のように波打っており、横から見るとジグザグ線に見える。これにうまく力を加えると、逆ジグザグに反転させることができることは知られていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、本発明のいす形6員環単糖化合物とは別の物質と結合し得る官能基含有化合物の官能基が、該他の物質と反応することにより蛍光基の蛍光度が変化することを特徴としたいす形6員環単糖化合物を提供することにある。
また。本発明の課題は、該化合物を用いた疾患、感染症等の診断方法および検査方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の発明に係る。
1.いす形6員環単糖化合物であって、該化合物の2位および4位の炭素に蛍光基を有し、かつ、1位および3位の炭素に他の物質と結合し得る官能基含有化合物を結合したいす形6員環単糖化合物。
2.他の物質と結合し得る官能基含有化合物が、単糖、糖鎖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質あるいはポリアミドである上記のいす形6員環単糖化合物。
3.1位および3位の炭素に水酸基あるいはアルコキシ基を有する上記のいす形6員環単糖化合物の前駆体。
4.上記のいす形6員環単糖化合物における、他の物質と結合し得る官能基含有化合物の官能基が、該他の物質と反応することにより、蛍光度が変化することを利用した診断方法あるいは検査方法。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明のいす形6員環単糖化合物は、2位および4位の炭素に蛍光基を有し、かつ、1位および3位の炭素に他の物質と結合し得る官能基を有するいす形6員環単糖化合物である。
該いす形6員環単糖化合物は例えば下記式(1)で示すことができる。
【0006】
【化1】
Figure 0004606707
〔式中、RおよびRは他の物質と結合し得る官能基を示す。RおよびRは蛍光基を示す。Xは酸素原子あるいは硫黄原子を示す。〕
【0007】
本発明のいす形6員環単糖化合物の1位の炭素とは、式(1)のRが結合している炭素のことを言う。また、同様に、式(1)のRが結合している炭素のことを3位の炭素、Rが結合している炭素のことを2位の炭素、Rが結合している炭素のことを4位の炭素と言う。
【0008】
本発明のいす形6員環単糖化合物は1位および3位の炭素に水酸基あるいはアルコキシ基を有する以外は上記化合物(1)と同じ構造を有する化合物(以下、本発明の前駆体という)に、他の物質と結合し得る官能基含有化合物を反応させることにより得られる。上記前駆体においてアルコキシ基としては炭素数1〜4のアルコキシ基を例示することができる。
本発明の他の物質と結合し得る官能基含有化合物とは、本発明のいす形6員環単糖化合物とは別の物質と結合する官能基を有する化合物のことを言う。好ましくは、該物質と選択的に結合する官能基を含有する化合物が好ましい。該化合物としては例えば、単糖、糖鎖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質あるいはポリアミド等を挙げることができる。
【0009】
インフルエンザウイルス等のウイルスは、ウイルス独自で増殖することができず、細胞の中に入り込んで宿主のタンパク合成系を借用して増殖する。この細胞の中に入り込む時の目印として単糖(シアル酸等)や糖鎖(シアリルラクトース等)に結合している。また、ウイルスの違いでその目印となる単糖や糖鎖が異なっているが、ウイルスは目的となる単糖や糖鎖と選択的に結合している。
【0010】
蕁麻疹や花粉症等のアレルギーは、免疫反応(抗原抗体反応)であり、抗原に対して抗体が選択的に反応を起こしている。この抗原になるものは、様々であり単糖、糖鎖、アミノ酸、ペプチドあるいはタンパク質等を挙げることができる。これらもまた抗原に対して抗体が選択的に結合している。
【0011】
単糖としては、天然に存在しているものや、その一部を化学反応や酵素反応により変化させた糖誘導体を挙げることができる。具体的には、シアル酸、ガラクトースやグルコース等を挙げることができる。また、その誘導体としては、環内の酸素原子を硫黄原子に変換したチオ糖や水酸基をナトリウム原子で中和した塩等を挙げることができる。
【0012】
糖鎖としては、上記の単糖を酵素等によりグリコシド結合させた二糖類や多糖類を挙げることができる。具体的には、O−結合型糖鎖、N−結合型糖鎖等を挙げることができる。
【0013】
アミノ酸としては、アラニン、アスバラギンやシステイン等タンパク質中に存在する23種類のアミノ酸を挙げることができる。
【0014】
ペプチドやタンパク質としては、上記のアミノ酸をペプチド結合させたものを挙げることができる。具体的には、ケモカイン、サイトカインや抗体の生理活性ペプチドあるいはタンパク質を挙げることができる。
【0015】
本発明の蛍光基としては、一般に使用されている蛍光基であれば特に限定されないが、例えば、ピレンカルボニルオキシ、アントラセンカルボニルオキシ、ナフタレンカルボニルオキシ基等を挙げることができる。好ましくは、ピレンカルボニルオキシ、アントラセンカルボニルオキシ基がよい。
【0016】
本発明のいす形6員環単糖化合物の製造方法の1例を挙げる。先ず本発明の前駆体である例えば、環内に酸素原子を有するいす形6員環単糖化合物であって、1位および3位の炭素にそれぞれメトキシ基及び水酸基を有するメチル β−D−キシロピラノシドに、蛍光基を有する化合物である1−ピレンカルボン酸を反応させ、メチル 2,4−ジ−O−ピレンカルボニル−β−D−キシロピラノシドを製造する。次いで、1位と3位の炭素に他の物質と結合し得る官能基を導入する。
上記反応において、メチル β−D−キシロピラノシド1molに対して1−ピレンカルボン酸を1〜10mol使用するのがよい。また、溶媒は、反応を阻害せず、ある程度溶解させる事ができるものであればどのようなものでも使用でき、例えば、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。反応には縮合剤、反応促進剤等を使用してもよい。縮合剤としては、例えば1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)などを、反応促進剤としては、例えば4−アミノピリジンなどを例示することができる。1−ピレンカルボン酸、縮合剤、反応促進剤を溶媒に溶かした溶液とし、そこにメチル β−D−キシロピラノシドを溶媒に溶かした溶液を低温(0℃前後)で徐々に加えるのが好ましい。縮合剤は、メチル β−D−キシロピラノシド1molに対して1mol〜10mol、反応促進剤もメチル β−D−キシロピラノシド1molに対して1mol〜10mol程度が適切である。反応条件としては、0〜60℃、好ましくは20〜40℃で、10〜30時間、好ましくは1〜25時間反応させるのがよい。反応終了後、蒸留、減圧等の周知の方法により溶媒を留去後、精製し、本発明の化合物の前駆体(メチル 2,4−ジ−O−ピレンカルボニル−β−D−キシロピラノシド)を得ることができる。
【0017】
次いで、周知の方法により上記前駆体1位と3位の炭素に、本発明のいす形6員環単糖化合物とは別の物質と結合する官能基を有する化合物、例えば、単糖、糖鎖、アミノ酸、ペプチド、タンパク質あるいはポリアミド等を導入する。周知の方法とは、例えば1位の炭素の場合は、グリコシド化反応によるO−グリコシド結合の形成、チオグリコシド化によるS−グリコシド結合の形成、ラジカル付加反応によるC−グリコシド結合の形成などをいい、3位炭素の場合は、求核置換反応によるエーテル結合やスルフィド結合の形成、アシル化反応によるエステル結合やアミド結合の形成などを含む方法である。
【0018】
本発明のいす形6員環単糖化合物は、その立体構造の変化に由来する、蛍光基の蛍光変化を利用することにより、癌、アレルギー、循環器疾患、ウイルスあるいは細菌感染等の各種疾患の診断薬および検査薬等に利用することができる。
【0019】
具体的には例えば、本発明のいす形6員環単糖化合物上の1位と3位の炭素に存在する他の物質と結合し得る官能基(例えば、糖鎖)が、上記疾患の原因物質(例えばウイルス)と反応して、その結果、2位および4位の炭素に結合した蛍光基同士が接近して蛍光変化が起こるため、診断薬および検査薬等に利用することができる。
【0020】
【実施例】
以下に参考例及び実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、何らこれに限定されるものではない。
【0021】
実施例1
1−ピレンカルボン酸201.0mg、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩167.7mg、4−ジメチルアミノピリジン107.1mgをジメチルホルムアミド3.6mlに溶かし、0℃で1時間反応させた溶液3mlを、メチル β−D−キシロピラノシド53.8mgのジメチルホルムアミド2ml溶液に対し、0℃でゆっくりと滴下した。滴下から30分後、室温にてさらに22時間反応させた後、溶媒を減圧下留去、クロロホルムで抽出、飽和塩化ナトリウム水溶液、1M塩酸水溶液、飽和重曹水溶液で洗浄、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、シリカゲルカラム(トルエン:酢酸エチル50:1→7:1)で精製し、黄色固体7.1mg(収率3%)を得た。下記にCDCl、メタノール(MeOH)、DMSO(ジメチルスルホキシド)溶媒でのH−NMR測定結果を示す。測定機器はVarian Unity−400を用いた。
【0022】
CDCl溶媒でのH−NMR測定
H NMR(400 MHz,CDCl,298K)d 7.339−9.015(m,18H,aromatic),5.304−5.329(m,2H,H−2,4),5.112(d,1H,J1,2=2.1Hz,H−1),4.582(m,1H,H−3),4.516(dd,1H,J4,5a=2.6Hz,J5a,5b=13.1Hz,H−5a),4.074(dd,1H,J4,5b=2.4Hz,H−5b),3.645(s,3H,OMe),3.570(d,1H,J3,OH=8.9Hz,OH)
【0023】
MeOH溶媒でのH−NMR測定
H NMR(400 MHz,MeOH,298K) d 7.628−8.931(m,18H,aromatic),5.228(dd,1H,J1,2=4.3Hz,J2,3=5.5Hz,H−2),5.195(dt,1H,H−4),4.935(d,1H,H−1),4.471−4.551(m,2H,H−3,5a),3.869(dd,1H,J4,5b=5.3Hz,J5a,5b=12.4Hz,H−5b),3.574(s,3H,OMe)
【0024】
DMSO溶媒でのH−NMR測定
H NMR(400 MHz,DMSO−d6,298K) d 8.126−9.129(m,18H,aromatic),6.087(d,1H,J3,OH=5.8Hz,OH),5.202−5.239(m,2H,H−2,4),4.862(d,1H,J1,2=6.7Hz,H−1),4.349(dd,1H,J4,5a=4.7Hz,J5a,5b=11.6Hz,H−5a),4.306(dt,1H,J2,3=8.2Hz,J3,4=8.2Hz),3.753(dd,1H,J4,5b=9.0Hz,H−5b),3.503(s,3H,OMe)
【0025】
上記のH−NMRデータよりメチル 2,4−ジ−O−ピレンカルボニル−β−D−キシロピラノシドであることがわかる。また、溶媒により立体構造が変化していることもわかる。
【0026】
蛍光スペクトル測定
メチル 2,4−ジ−O−ピレンカルボニル−β−D−キシロピラノシドの1μM DMSO溶液(1)、MeOH溶液(2)、CHCl溶液(3)およびHO溶液(4)を下記の測定条件にて蛍光スペクトル測定を行った。結果を図1に示す。
測定機器:
測定条件:スキャン範囲 360nm〜600nm,励起波長 355nm,サンプリング間隔 1nm,バンド幅 EX.10.0nm,EM.1.5nm,スキャン速度 Fast,感度 High,レスポンス auto,シャッター Manual,Open
【0027】
【発明の効果】
本発明の蛍光基を有するいす形6員環単糖化合物は、本発明のいす形6員環単糖化合物とは別の物質と結合し得る官能基を有し、該別の物質と反応することにより蛍光基の蛍光度が変化することを利用して、例えば疾患、感染症等の診断方法および検査方法を提供することができる。
また本発明の上記いす形6員環単糖化合物の前駆体は、上記のH−NMRデータより溶解する溶媒により立体構造が変化し、これに伴い溶液の色が変化するので、その溶液中の有機溶剤濃度のセンサーや有機溶剤と相互作用する化合物センサーあるいはバイオセンサー等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】メチル 2,4−ジ−O−ピレンカルボニル−β−D−キシロピラノシドを各種溶媒に溶解させた溶液の蛍光スペクトルを示す。
【符号の説明】
1 DMSO溶液、
2 MeOH溶液、
3 CHCl溶液、
4 水溶液

Claims (2)

  1. 式(1)で表わされる化合物。
    Figure 0004606707
    〔式中、RおよびRは水酸基あるいはアルコキシ基を示す。RおよびRは、ピレンカルボニルオキシ基、アントラセンカルボニルオキシ基、または、ナフタレンカルボニルオキシ基を示す。Xは酸素原子あるいは硫黄原子を示す。〕
  2. 化合物が、メチル 2,4−ジ−O−ピレンカルボニル−β−D−キシロピラノシドである請求項1に記載の化合物。
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