JP4606028B2 - 被分析物の分析方法 - Google Patents

被分析物の分析方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4606028B2
JP4606028B2 JP2003584731A JP2003584731A JP4606028B2 JP 4606028 B2 JP4606028 B2 JP 4606028B2 JP 2003584731 A JP2003584731 A JP 2003584731A JP 2003584731 A JP2003584731 A JP 2003584731A JP 4606028 B2 JP4606028 B2 JP 4606028B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
mass
group
analyte
peptide
matrix
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2003584731A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2005521892A (ja
Inventor
ハギン トンプソン アンドリュー
ハモン クリスティアン
クーン カルステン
マイアー マルクス
ユルゲン シャーファー
ノイマン トマス
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Electrophoretics Ltd
Original Assignee
Electrophoretics Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Electrophoretics Ltd filed Critical Electrophoretics Ltd
Publication of JP2005521892A publication Critical patent/JP2005521892A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4606028B2 publication Critical patent/JP4606028B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01NINVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
    • G01N33/00Investigating or analysing materials by specific methods not covered by groups G01N1/00 - G01N31/00
    • G01N33/48Biological material, e.g. blood, urine; Haemocytometers
    • G01N33/50Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing
    • G01N33/68Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing involving proteins, peptides or amino acids
    • G01N33/6803General methods of protein analysis not limited to specific proteins or families of proteins
    • G01N33/6848Methods of protein analysis involving mass spectrometry
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K1/00General methods for the preparation of peptides, i.e. processes for the organic chemical preparation of peptides or proteins of any length
    • C07K1/13Labelling of peptides
    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01NINVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
    • G01N33/00Investigating or analysing materials by specific methods not covered by groups G01N1/00 - G01N31/00
    • G01N33/48Biological material, e.g. blood, urine; Haemocytometers
    • G01N33/50Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing
    • G01N33/68Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing involving proteins, peptides or amino acids
    • G01N33/6803General methods of protein analysis not limited to specific proteins or families of proteins
    • G01N33/6848Methods of protein analysis involving mass spectrometry
    • G01N33/6851Methods of protein analysis involving laser desorption ionisation mass spectrometry

Landscapes

  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • Bioinformatics & Computational Biology (AREA)
  • Hematology (AREA)
  • Urology & Nephrology (AREA)
  • Immunology (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • Analytical Chemistry (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Spectroscopy & Molecular Physics (AREA)
  • Pathology (AREA)
  • Food Science & Technology (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • General Physics & Mathematics (AREA)
  • Cell Biology (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Optics & Photonics (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Other Investigation Or Analysis Of Materials By Electrical Means (AREA)
  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)

Description

本発明は、検出感度を高めるマーカーを用いて、被分析物である分子、具体的には不揮発性生体分子を標識する方法に関し、このマーカーを用いれば、それらが結合した被分析物である生体分子をマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法によって検出することができる。特に、本発明は、被分析物を標識するための特定の色素であって、これによりMALDI質量分析法による検出感度を向上させることができるものの特性を利用するものである。
生物学的サンプル中のタンパク質の同定、特にタンパク質の配列の決定は、生化学的分析に不可欠な作業である。なぜなら、配列によりタンパク質の構造を決定でき、ひいてはタンパク質の機能の決定を可能にするからである。従来におけるタンパク質を同定するための技術は、面倒であり且つ比較的時間がかかる。タンパク質同定技術の主要な柱は、エドマン分解を用いる化学的なペプチド配列決定法であった。この方法は、N末端からペプチド中のアミノ酸を連続して特定するものである。この配列決定技術は、典型的には、タンパク質またはポリペプチドの酵素的消化と組み合わせて用いられる。通常は、同定すべきポリペプチドを消化し、その各成分ペプチドをクロマトグラフィーにより分離する。次いで、これら個々のペプチドをエドマン分解に供する。これらペプチドの配列は、同定対象であるポリペプチドを異なる配列特異的切断試薬により消化し、得られた複数のペプチドの配列を比較することによって、順序付けすることができる。このプロセスによって、ポリペプチドの完全な配列の決定が可能になる。この技術は、タンパク質同定にとり極めて有用なものとして用いられてきたが、かなりの労力を要する。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析法のような新しい技術によって、さらに迅速なタンパク質同定が可能になってきており、これによってタンパク質同定のためのより迅速な方法であるペプチドマスフィンガープリントの発展が可能になった。
典型的なペプチドマスフィンガープリントのプロトコールは、同定対象となるタンパク質の質量を決定し、次いで、トリプシンのような酵素でタンパク質を消化(ゲル中または溶液中)する過程を含む。トリプシンは、ポリペプチドをアルギニンおよびリシン残基で選択的に切断し、生成したペプチドのC末端にアルギニンまたはリシンのいずれかを残す。ポリペプチド配列中のリシンおよびアルギニンの位置によって、このポリペプチドがどの位置で切断されるかが決まり、特徴的なペプチド群が生じる。斯かるペプチド群のパターンは、MALDI-TOF質量分析法によって容易に決定できる。この質量分析技術は、分析できる質量範囲が大きく、大型の生体分子を容易にイオン化でき、一価のイオンを優先的に生成することができる。従って、時として他の方法が用いられることがあっても、イオン化法としてはこの技術が主として用いられる。このことは、各々のペプチドの質量スペクトルには一般的に1つのピークが存在し、各々のピークでの質量対電荷の比は、このペプチドをイオン化するために添加されたプロトンを含むこのペプチドの質量と本質的に同じ値を有し、そして未同定のタンパク質のトリプシン消化により生じるほとんど(時には全て)のペプチドを同時に分析できることを意味する。事実、質量スペクトルは「バーコード」状となり、このスペクトル中のラインは、このタンパク質の特徴的な切断ペプチドの質量に相当する。任意のタンパク質において、別のタンパク質由来のペプチドと同じ質量を有するペプチドが生じる可能性がある。しかし、2つの異なるタンパク質から生じるペプチドの全てが、同一の質量を有するという可能性は極めて低い。従って、あるタンパク質のトリプシン消化物の質量パターンは、そのタンパク質の固有の識別因子であることになる。この質量パターンは、ペプチドマスフィンガープリント(PMF)と呼ばれる。PMFに比較的独自性があることは、既知のタンパク質配列、またはゲノムDNAもしくは発現配列タグ(EST)から予測される配列から決定された、計算上(または理論上)のPMFのデータベースを、生物学的サンプル中のタンパク質を同定するために用いることができることを意味する(非特許文献1〜3)。未同定タンパク質のPMFをデータベース中のPMFの全てと比較し、最も適合するものを見出すことによって、このタンパク質を同定することができる。この種の検索は、消化前のタンパク質の質量の決定によって、簡素化することができる。この方法においては、未同定のポリペプチドの質量パターンは、その配列と関連しているので、特定サンプル中のタンパク質の役割を決定するための一助となり得る。
しかし、タンパク質のPMFを決定することに関しては、多くの技術的問題がある。一般的なタンパク質は、トリプシンで切断すると20個〜30個のペプチドを生じるが、これらペプチドの全てが質量スペクトルに現われるわけではない。この正確な理由は、必ずしも完全に解明されているわけではない。この様な不完全なスペクトルの原因と考えられる1つの要因としては、イオン化プロセスにおけるプロトン化の競合がある。斯かる競合によって、アルギニンを含むペプチドが優先的にイオン化されることになる(非特許文献4)。更に、MALDIのターゲットを調製するプロセスにより生じる表面効果がある。このターゲットは、ペプチド消化物をマトリックス材料の溶液に溶解させることにより調製される。ペプチド/マトリックス溶液の小滴は、金属ターゲット上に滴下され、乾燥される。その際、ペプチドの溶解性の相違によって、ペプチドがより容易に脱離するマトリックスの上面付近において、いくつかのペプチドが優先的に結晶化されてしまう。
感度もまた、PMFからタンパク質を同定する従来のプロトコールにおいて問題になる。有効なツールであるためには、タンパク質サンプルの分析感度を改善するために、できるだけ小さいタンパク質サンプルについてPMFを決定することができなければならない。
ペプチドを化学的に誘導体化することによって、アルギニンを含まないペプチドのイオン化を改善するという試みが行なわれてきた。リシンからホモアルギニンへの変換は、ある程度の成功をもたらしたアプローチの1つである(非特許文献5〜7)。リシンからホモアルギニンへの変換によって、C末端ペプチドを除くトリプシン消化物由来の全てのペプチドにグアニジノ官能基が導入され、MALDI-TOF質量分析によるリシン含有ペプチドの被解析性が大きく改善される。
グアニジノ基を導入するためペプチドを誘導体化する方法によって、誘導体化されたペプチドのプロトン親和性を改善することができる。感度を改善するための斯かるアプローチによって、エレクトロスプレーイオン化(ESI)やMALDI分析の様な、イオン化を達成するためにプロトン化に依存する技術の検出感度は、ある程度高めることに成功された。これらの技術は、被分析物がプロトン親和性の高い官能基、例えばオリゴサッカライドをはじめから保有していない場合に、最も有効である(非特許文献8)。しかし、例えばトリプシンにより消化されたペプチドの様に、容易にプロトン化される官能基をはじめから有する被分析物の場合には、このような試薬からは有意な効果が得られないことから、この様な種類の被分析物の感度を改善するには他の方法が必要である。
また、他にもペプチドを誘導体化するための種々の試薬が開発されている。第四級アンモニウム官能基や第四級ホスホニウム官能基を導入するための試薬が、陽イオン質量分析法のために開発されている。ハロゲン化化合物、特にハロゲン化芳香族化合物は、周知の電子運搬体(electrophore)である。つまり、それら化合物は、熱電子を極めて容易に拾い上げる。様々なフッ化芳香族化合物系誘導体化試薬(非特許文献9)が、電子捕捉型検出のために開発されてきた。この電子捕捉型検出は、陰イオン質量分析法と共に用いることができる極めて高感度なイオン化と検出のプロセスである(非特許文献10)。また、フッ化芳香族基は、感度を高めるための基としても用いることができる。芳香族スルホン酸は、陰イオン質量分析の感度を改善するためにも用いられている。
先行技術において開示されている各々のタイプの誘導体化試薬は、用いられるイオン化の方法や用いられる質量分析の方法に依存して様々な利益と限界を有する(概説については、非特許文献11を参照のこと)。感度が向上するメカニズムも、各々のタイプの基により異なり得る。いくつかの誘導体化方法は、塩基性度を増大させることによりプロトン化や電荷局在化を促進し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)および高速原子衝撃(FAB)の様な表面脱離技術における感度を向上させる。現在のところ、電荷を運搬する官能基またはプロトン親和性の高い官能基を導入する試薬がMALDI質量分析法のために開発されているが、光の吸収能やマトリックスとの混合能を増大させることによって、被分析物の脱離性を改善するような試薬は報告されていない。
陰イオン質量分析法は、バックグラウンドノイズが少ないことから、さらに鋭敏である場合がある。負イオンモード検出と正イオンモード検出の両方を増強することができるタグは、有意な利点を有すると考えられる。結合した被分析物全ての感度を同じ様に改善するためのタグは、全ての質量分析技術においてまだ見出されておらず、普遍的な試薬が見出される可能性は低い。しかし、特定の質量分析技術においては、特定の技術の特徴を利用することによって、検出感度を高める試薬を設計することが可能であるはずである。
本発明では、MALDI質量分析法による検出感度を高めるための誘導体化試薬およびその使用方法が開発されている。当該試薬は、本発明技術により検出され得るほとんどの被分析物に対して有効であるはずであることが予想される。本発明技術は、アミノ基やグアニジノ基の様に容易にプロトン化される官能基を含むペプチドの検出さえも増強する。本発明者らは、遊離のマトリックス中へペプチドを包埋する前に、ペプチドのような生体分子へ直接MALDIマトリックス色素をカップリングさせることによって、このペプチドが検出され得るまで感度を大きく向上させることを観察した。
特許文献1は、質量分析により検出可能で切断可能なラベル群であって、共有結合することにより核酸プローブの配列を決定するためのものを記載している。これら質量ラベルは、他の核酸分析方法よりも多くの利点を有する。現在市販されている主要なシステムは、DNAの蛍光ラベルをベースとする。蛍光ラベルスキームによって、比較的少数の分子を同時に標識することが可能になり、代表的には4つのラベルを同時に、そして可能性としては8つまで用いることができ得る。しかし、高額な検出装置の費用や得られたシグナルの分析が困難であることから、蛍光検出スキームにおいて同時に用いることができるラベルの数は制限される。質量ラベルを用いることの利点としては、質量スペクトルにおいて別個のピークを有する多数のラベルを生成できることがある。この利点によって、同じ数の異なった分子種を同時に標識することが可能になる。質量ラベルは比較的簡単なポリマーを含んでもよいことから、多数のラベルのコンビトナル合成が低コストで可能になる。その一方で、蛍光色素の合成にはコストがかかる。本出願では、生体分子を標識するための質量調節MALDIマトリックス分子の使用を開示する。ケイ皮酸やシナピン酸のようなMALDIマトリックス因子を含むタグは、光切断可能なリンカーを通じて生体分子に結合させることが可能である。これによって、更なるマトリックスを必要とすることなく、レーザー脱離イオン化質量分析計内でのタグの切断と脱離が可能になる。
特許文献2は、核酸とオリゴヌクレオチドを標識するためのトリチル官能基を含む質量タグを開示している。これらのタグは、MALDI-TOF質量分析装置において、脱離の前に光分解により結合させられたオリゴヌクレオチドから切断され得る。この切断産物は荷電しているので、タグの検出感度を高めることができ有利である。この方法はまた、更なるマトリックスを必要としない。
即ち、当該先行技術は、MALDI質量分析装置において使用可能なものであり、更なるマトリックスなしに脱離することのできる切断可能タグに関する方法と試薬を開示している。本発明と当該先行技術とは、本発明タグが被分析物から切断されず、遊離のマトリックス材料の存在下で用いられるという事実によって区別される。本発明においては、遊離のマトリックス材料がないと悪影響が生じる。
Pappin DJC,Hoejrup PおよびBleasby AJ,Current Biology,第3巻:第327〜332頁,「ペプチドマスフィンガープリントによるタンパク質の迅速な同定」(1993年) Mann M,Hojrup P,Roepstorff P,Biol Mass Spectrom,第22巻6号:第338〜345頁,「配列データベースにおける質量スペクトル分子量情報のタンパク質を同定するための利用」(1993年) Yates JR 3世,Speicher S,Griffin PR,Hunkapiller T,Anal Biochem,第214巻2号:第397〜408頁,「ペプチドマスマップ:タンパク質を同定するために有益なアプローチ」(1993年) Krause E.とWenschuh H.とJungblut P.R.,Anal Chem,第71巻19号:第4160〜4165頁,「トリプシンを利用したタンパク質のMALDIマスフィンガープリントにおけるアルギニン含有ペプチドの優先度」(1999年) V.Bonettoら,Journal of Protein Chemistry,第16巻5号:第371〜374頁,「MALDIマスによる修飾ペプチドC末端の配列決定」(1997年) Francesco L.Brancia,Stephen G.OliverおよびSimon J.Gaskell,Rapid Commun. in Mass Spec.,第14巻,第2070〜2073頁,「リシン含有ペプチドのグアニジン化に続き、トリプシンにより加水分解した消化物の、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法の改良法」(2000年) Branciaら,Electrophoresis,第22巻:第552〜559頁,「化学的誘導体化と改良バイオインフォマティクス手段との組合わせによって、プロテオミクスのためのタンパク質同定を最適化できる」(2001年) Okamotoら,Anal Chem.,第69巻15号:第2919〜2926頁,「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法による2-アミノピリジン誘導体化オリゴサッカライドの高感度検出とポストソース分解」(1997年) Bian N.ら,Rapid Commun Mass Spectrom,第11巻16号:第1781〜1784頁,「多重電子運搬体で標識されたアルブミンのレーザー脱離質量分析による検出」(1997年) Abdel-Baky S.およびGiese R.W.,Anal Chem,第63巻24号:第2986〜2989頁,「ゼプトモルレベルにおけるガスクロマトグラフィー/電子捕捉陰イオン質量分析」(1991年) Rothら,Mass Spectrometry Reviews,第17巻:第255〜274頁,「質量分析のためのペプチドの電荷誘導体化」(1998年) WO98/31830 WO99/60007
本発明の目的は、上記の先行技術に関する問題を克服することにある。詳細には、改良ペプチドマスフィンガープリントを作成するために用いることができる方法とラベルを提供することが、本発明の目的である。本発明により、不揮発性高分子、特に核酸のような生体分子の検出感度を、従来のラベルで標識された場合よりも改善する。
更に本発明の目的は、質量ラベルとして好ましい特徴を有する化合物と、当該化合物を被分析物に結合させることにより被分析物の質量スペクトルを改善するという当該化合物の使用方法を提供することにある。
即ち、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により被分析物を分析するための方法であって:
(a) 予め定めた周波数の光を吸収する光吸収ラベルにより該被分析物を標識することによって、標識化被分析物を形成する工程;
(b) 該標識化被分析物を、少なくとも1つの光吸収性化合物から形成されたマトリックス中に包埋することによって、包埋標識化被分析物を形成する工程;
(c) 該包埋標識化被分析物を、予め定めた該周波数を有する光に露光することにより脱離させて、脱離被分析物を形成する工程;および
(d) 該脱離被分析物を質量分析法により検出することによって、該被分析物を分析する工程、を含むことを特徴とする方法を提供するものである。
本発明では、被分析物に結合させた光吸収ラベルの存在によって、標識された被分析物分子はエネルギーを吸収することが可能になり、次にこの被分析物へのエネルギー供与を補助して、これを気相とすることができる。その結果、この被分析物を質量分析装置により検出することが可能になる。一般的には、マトリックスを形成する物質や化合物も光を吸収し、被分析物と共に気相となる。従って、光吸収ラベルおよび/またはマトリックスを形成する化合物が、光照射により迅速に脱離できるのであれば、本発明にとり有利となる。
本発明に係る方法(および化合物とキット)の利点は、これらが感度の改善に寄与して、タンパク質から検出されるペプチド(例えば、従来のMALDI実験において検出不能な、低分子ペプチド)の数を増大し得るということにある。さらに本発明によれば、適切なタグの使用を通じて多数のサンプルを同時に分析することが可能であり、また異なるサンプル中における対応するペプチドとの比を決定することもできる。また、適切な標識手段を用いて、質量分析による検出のためのポリペプチドサンプルの調整を容易に行うことができる。
好ましい実施態様では、吸着された被分析物を、質量分析法によって直接検出する。本発明において、このことは、質量分析により検出されるものは質量ラベルなど被分析物に単に結合する部分構造ではなく、被分析物自体であるということを意味する。斯かる実施態様は、1つ以上のペプチドマスフィンガープリント(PMF)が、タンパク質またはタンパク質群を同定できる様に作成されている場合に、特に好ましいものである。
或いは、脱離した被分析物を、質量分析により間接的に検出してもよい。この実施態様で、被分析物は、この被分析物に応じた質量ラベルにより標識する。この質量ラベルは、質量分析装置中へ供給される前に、脱離させられた被分析物から切断されることが好ましい。この被分析物は、質量ラベルの検出と、これを被分析物に関係付けることにより同定することができる。
本発明において使用される光は、光吸収ラベルと被分析物を十分に励起できるものであれば、特に限定されない。代表的には、包埋された標識化被分析物に照射される光は、レーザー光である。この光の周波数も特に限定されず、UV光、可視光または赤外線光を用いることができる。
マトリックスを形成する化合物としては、光吸収ラベルと同じ周波数の光を吸収できるものが特に好ましい。斯かる化合物によれば、装置において単一の光源を使用することができるので効率的である。これを達成する方法の1つは、マトリックスと光吸収ラベルを、同じ化合物により形成することである。この方法は、本発明を実施する好ましいものである。この点に関して、最終の光吸収ラベルとマトリックス形成化合物は、同一である必要はない(一方がこの被分析物へ化学的に結合するので、これらは、同一であることはできない)。しかしその代わりに、同一のまたは実質的に同一の波長で光を吸収できるように、実質的に同じでなければならないか、または同じ若しくは類似の基を含むものでなければならない。
光吸収ラベルとしては、非蛍光色素などの色素から形成されるものが好ましい。非蛍光色素の利点は、吸収されたエネルギーが、蛍光として再放射されることにより損失されるよりも、分子中に保持され気相中への放散を補助するという点にある。
本発明では、被分析物は特に限定されるものではなく、あらゆる被分析物を同定するために用いることができる。しかし本発明は、例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチドフラグメントやアミノ酸などの生体分子に特によく適合する。
本発明方法は、タンパク質やペプチドからPMFを作成するのに有用である。従って、本発明はまた、ポリペプチドを分析するための方法であって:
(a) 必要に応じて該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元して遊離のチオールを形成し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
(b) 配列特異的切断試薬により該ポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
(c) 必要に応じて該切断試薬を不活性化する工程;
(d) 1または2以上のε-アミノ基が存在する場合に、これをリシン反応性試薬によりキャッピングする工程;
(e) 上記記載の方法により該ペプチドフラグメントを分析することによって、該ポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
(f) 該マスフィンガープリントから該ポリペプチドを同定する工程;
を含む方法を提供する。
タンパク質群またはポリペプチド群を検討する場合にも、やはり本発明を使用することができる。この点に関して、本発明はまた、ポリペプチド群を分析するための方法であって:
(a) 必要に応じて1または2以上の該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元して遊離のチオールを形成し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
(b) 該ポリペプチド群から1または2以上のポリペプチドを分離する工程;
(c) 配列特異的切断試薬により1または2以上のポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
(d) 必要に応じて該切断試薬を不活性化する工程;
(e) 1または2以上のε-アミノ基が存在する場合に、これをリシン反応性試薬によりキャッピングする工程;
(f) 上記記載の方法により1または2以上のペプチドフラグメントを分析することによって、該ポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
(g) 該マスフィンガープリントから1または2以上のポリペプチドを同定する工程;
を含む方法を提供する。
本発明はまた、多数のタンパク質やポリペプチドのサンプルを比較するためにも用いることができる。従って、本発明はさらに、各サンプルが1または2以上のポリペプチドを含む複数のサンプルを比較するための方法であって:
(a) 必要に応じて、該サンプル由来の1または2以上の該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
(b) 該サンプルの各々から1または2以上のポリペプチドを分離する工程;
(c) 配列特異的切断試薬により該ポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
(d) 必要に応じて該切断試薬を不活性化する工程;
(e) 1または2以上のε-アミノ基が存在する場合に、これをリシン反応性試薬によりキャッピングする工程;
(f) 上記記載の方法によりペプチドフラグメントを分析することによって、該サンプル由来の1または2以上のポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
(g) 1または2以上のマスフィンガープリントから該サンプル中の1または2以上のポリペプチドを同定する工程;
を含む方法を提供する。
本発明の後者の3つの場合では、リシン反応性試薬は、標識された反応性試薬であることが好ましい。このラベルは、どのタンパク質またはどのポリペプチドがどのサンプルに由来するかを識別するために使用することが可能であり、その結果、このサンプルを分析のために必要に応じてプールすることができる。
本発明におけるこれらの場合では、配列特異的な切断試薬を用いて、リシン残基のC末端側で1つ以上のポリペプチドを切断する。好ましくは、この特異的な切断試薬は、Lys-Cまたはトリプシンを含む。キャッピングされたε-アミノ基を有するペプチドフラグメントは、アフィニティーキャプチャによって除去することが好ましい。これは、リシン反応性試薬にビオチン含ませることによって達成できる。
本発明で使用するものとして最も好ましいリシン反応性試薬は、ヒンダード・ミカエル試薬を含むものであり、代表的には、このヒンダード・ミカエル因子は、以下の構造を有する化合物を含む。
式中、Xは負荷電を安定化することができる電子求引基であり;R基は、該R基の少なくとも1つは立体障害性基を含む条件下で、独立して水素、ハロゲン、アルキル、アリールまたは芳香族基を含むものであり;R2基は、水素、ハロゲン、炭化水素基、電子求引基および/またはアフィニティーキャプチャ性官能基若しくは固相支持体に結合できるリンカーを含むものである。
本発明はまた、標識化被分析物としての化合物を提供するが、この化合物は以下の構造を有する。
D−M−L−A
式中、Dは光吸収ラベルを含むものであり、Mは質量調節因子を含むものであり、Lはリンカーを含むものであり、Aは被分析物を含むものである。
本発明の好ましい実施形態において、Dは、非蛍光色素などの色素を含むものである。一般的には、この非蛍光色素は、4-ジメチルアミノアゾベンジン-4'-スルフォニルクロライド(ダンシルクロライド)、3-ヒドロキシピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸および4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸から選択される化合物を含む。Mは任意の質量マーカーであり、特に限定はされない。好ましくは、Mは、アリールエーテルから形成される化合物、および2つ以上のアリールエーテル単位から形成されるオリゴマーから選択される。
このリンカーは特に限定されず、好ましくは、-CR2-CH2-SO2-、-N(CR2-CH2-SO2-)2、-NH-CR2-CH2-SO2-、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-NH-CS-NH-、-CH2-NH-、-SO2-NH-、-NH-CH2-CH2-および-OP(=O)(O)O-から選択される基を含む。
被分析物であるAは、本発明方法に関して上記で既に説明した通り、任意の被分析物である。好ましくは、Aは、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチドフラグメント、およびアミノ酸などの生体分子である。
本発明はまた、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法によって被分析物を同定するためのキットを提供する。このキットは以下を含有する。:
(a) 被分析物へラベルを結合させるための反応性官能基を有する1または2以上の光吸収ラベル;および
(b) マトリックスを形成するための化合物であって、該光吸収ラベルと同じ周波数の光を吸収する化合物。
本発明は、単なる例示として、添付の図面を参照することによってさらに詳細に記載される。
ここで、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明では、以下の構造の標識分子を、対象となる被分析物へ光吸収ラベル(または色素)を結合させるために使用する:
色素−反応性官能基
式中、色素としては非蛍光のものが好適であり、好ましくは吸収された放射線を熱として放散するものである。
好ましい実施形態では、この標識分子は、以下の構造を含む:
色素−質量調節因子−リンカー−反応性官能基。
いずれの場合でも、反応性官能基は、対象である被分析物へラベルを結合させ得るものである限りは、特に限定されない。
本発明の好ましい態様では、被分析物分子を分析する方法が提供される。この方法は、以下の工程を包含する:
1. 予め定めた周波数の光を吸収する色素により被分析物を標識する工程。
2. 標識した被分析物を、脱離工程で用いるレーザー光と同一周波数の光を吸収する色素を含むマトリックス中に包埋する工程。
3. 予め定めた周波数のレーザー光を照射することにより標識した被分析物分子を脱離させ、マトリックスと共に標識した被分析物を昇華させる工程。
4. 脱離工程において形成されたイオンを質量分析法によって検出する工程。
本発明の別の態様では、以下を含有するキットが提供される:
1.本発明の第一の態様で用いられる質量標識分子;および
2.適切なMALDIマトリックス試薬。
MALDIマトリックス色素
高分子量である生体分子のMALDI分析のためのマトリックスとして、種々の化合物が有用であることが見出されている。これらの化合物は、一般的に、多数の特性によって特徴付けられる。これら化合物は、一般的に、脱離のために用いられるレーザーの周波数に対して大きな減衰係数を有する。また、これら化合物は、固体溶液中で被分析物分子を認識することができ、MALDI質量分析計中でレーザーショットに曝された場合、十分な揮発性を有することから迅速に昇華できる。この様な昇華性色素は、包埋された被分析物分子を運搬するための噴流中で迅速に揮発し、そしてこの揮発は、ほとんどの実施態様において好ましいことに、被分析物のフラグメンテーションなしに起こるはずである(但し、このフラグメンテーションは、被分析物についての構造情報が求められる場合、望ましいことされる場合がある)。一方、マトリックスは、揮発性でありすぎてはならない。なぜなら、実験には数時間かかることがあり、被分析物/マトリックスの共晶(co-crystal)は、その間、イオン供給源内において減圧下で安定でなければならないからである。レーザー照射に対する揮発性の特性は、マトリックスにより生成された被分析物イオンの初期速度を決定することによっておおよそ判断することができる。最初の揮発性が高いほど、「よりソフトな(softer)」イオン化、すなわちフラグメンテーションを低減できることが観察されている(Karas M.およびGlueckmann M.,J Mass Spectrom,第34巻:第467〜477頁,「紫外線マトリックス支援レーザー脱離/イオン化における初期イオン速度と、そのマトリックス、被分析物および調整方法に対する依存性」,1999年)。しかし、マトリックスの高い初期イオン揮発性もまた、減圧下での迅速な昇華に関連していることがある。
異なるマトリックスは、包埋された被分析物の脱離と、その後における被分析物が検出される感度を補助する能力において、異なる特性を有する。特定のマトリックスが、特定の被分析物の分析において他のものよりも適切であるということが、経験的に見出されている。例えば、3-ヒドロキシピコリン酸は、オリゴヌクレオチドの分析に最も有効であることが見出されている(Wuら,Rapid Commun. Mass Spectrom.,第7巻:第142〜146頁,「紫外線感応性マトリックスとして3-ヒドロキシピコリン酸を用いたオリゴヌクレオチドのマトリックス支援レーザー脱離飛行時間型質量分析法」,1993年)、一方、2,5-ジヒドロキシ安息香酸と4-ヒドロキシ-α-シアノ-ケイ皮酸(HCCA)は、両方とも、ペプチドおよびタンパク質の分析に最も有効である(Strupatら,Int. J. Mass Spectrom. Ion Proc.,第111巻:第89〜102頁,「2,5-ジヒドロキシ安息香酸:レーザー脱離/イオン化質量分析法のための新しいマトリックス」,1991年;Beavisら,Org. Mass Spectrom.,第27巻:第156〜158頁,「マトリックス支援レーザー脱離質量分析法のためのマトリックスとしてのα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸」,1992年)。種々のケイ皮酸誘導体が、タンパク質の分析に有効であることが見出されている(Beavis R.C.およびChait B.T.,Rapid Commun Mass Spectrom,第3巻12号:第432〜435頁,「タンパク質の紫外線レーザー脱離質量分析法のためのマトリックスとしてのケイ皮酸誘導体」,1989年)。そして、マトリックスの選択は被分析物の性質に依存している。例えば、シナピン酸は、高分子量のペプチドやポリペプチドについてはHCCAよりも好ましく、一方、HCCAは、一般的には、より小さいペプチドにとり好ましい。2,5-ジヒドロキシ安息香酸は、ケイ皮酸誘導体よりも生じる断片化が少ない傾向にある。
上記で考察されたマトリックスのほとんどが、酸性のマトリックスであった。塩基性マトリックスも開発されており、酸感受性化合物の分析により適切である(Fitzgeraldら,Anal Chem.,第65巻22号:第3204〜3211頁,「タンパク質とオリゴヌクレオチド用のマトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法のための塩基性マトリックス」1993年)。
赤外線MALDI(IR-MALDI)は、被分析物をマトリックスに包埋しなければならず、マトリックスは脱離装置中のレーザーの周波数で大きな減衰係数を有することが好ましいという点で、紫外線MALDI(UV-MALDI)とおおよそ同等である。適切なマトリックスは、UV-MALDIで用いられる化合物とは異なる化合物である傾向にあり、多くの場合、液体マトリックスが用いられる。グリセロール、尿素、氷およびコハク酸は、全てIR-MALDIに有効なマトリックスであることが示されている(Talroseら,Rapid Commun Mass Spectrom,第13巻21号:第2191〜2198頁,「赤外線マトリックス支援レーザー脱離/イオン化における照射/エネルギー転移の吸収に関する洞察:マトリックス、水および金属基材の役割」1999年)。しかし、例えばケイ皮酸誘導体などいくつかのUV-MALDIマトリックスは、IRマトリックスとしても働く(Niuら,J Am.Soc.Mass Spectrom.,第9巻:第1〜7頁,「タンパク質の赤外線および紫外線波長マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法の直接比較」,1998年)。
UV-MALDIのための液体マトリックスも、探究されている(Ring S.およびRudich Y.,Rapid Commun Mass Spectrom,第14巻6号:第515〜519頁,「マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法における液体マトリクスと固体マトリックスとの比較試験と衝突断面測定」2000年;Szeら,J Am Soc Mass Spectrom,第9巻2号:第166〜174頁,「生体分子のマトリックス支援レーザー脱離/イオン化において用いるためのマトリックス溶液の処方」1998年;Karasら,Mass Spectrom Rev,第10巻:第335頁,1991年)。液体マトリックスの最も簡単な例は、固体として用いられるマトリックスの溶液を含むものである。ニトロベンゾイルアルコールのような真の液体マトリックスも知られている。いずれのタイプのマトリックスも、サンプルとの適合性、減圧下での安定性および取り扱いの容易さに関していくつかの利点を有するが、固体マトリックスは、さらに鋭敏である傾向を示す。本発明の背景では、感度の改善ためには、液体マトリックスの使用をよしとする。液体マトリックスには、サンプル調製の自動化において特別な利点があるからである。なぜなら、液体を取り扱うロボット工学を広く適用することができる上に、固体マトリックスは共晶することから分配デバイスを簡単に詰まらせてしまうので溶液として使用しなければならないが、液体マトリックスではその必要がないからである。
色素を含む反応性タグとMALDIマトリックスタグ
本発明の1つの態様では、被分析物に結合させる光吸収色素分子を提供する。本発明では、これまでMALDI質量分析では用いられていなかった種々の色素を使用することができる。4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4'-スルホニルクロライド(ダンシルクロライド,Sigma-Aldrich,Poole,Dorset,UK)など、UV周波数の光を強く吸収し、反応性官能基を有する色素が市販されている。この試薬のみならず、発光励起を熱的に放散する同様のUV吸収色素も、本発明において適用可能である。
市販の中間体から反応性色素を合成することも可能である。ケイ皮酸、ニコチン酸およびヒドロキシ安息香酸誘導体など、MALDI質量分析で広範に用いることができる多数の酸性マトリックスが市販されている。これらの試薬のほとんどにおける酸性の官能基は、カルボン酸基である。この官能基は、従来の化学的方法によって、活性エステルや酸塩化物へ容易に変換できる(例えば、Solomons,「Organic Chemistry」,Wiley発行、第5版を参照のこと)。好ましい活性エステルとしては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルやペンタフルオロフェニルエステルが挙げられる。種々の色素を本発明方法において用いることができるが、好ましい化合物は、質量分析計においてレーザー脱離に用いられる周波数の光を強く吸収するものである。代表的には、紫外(UV)線照射が用いられる。赤外線レーザーも、MALDIに適用されることがある。
ケイ皮酸誘導体は好ましい色素であり、UV-MALDI TOFにおいて広く用いられている(Beavis RC,Chait BT,Rapid Commun Mass Spectrom,第3巻12号:第432〜435頁,「タンパク質の紫外線レーザー脱離質量分析法でマトリックスとして用いられるケイ皮酸誘導体」1989年)。ケイ皮酸の反応性誘導体は、後述する実施例において考察されている。この試薬は、UV-MALDIとIR-MALDIのいずれにも適用可能であり得ることが期待される。
反応性官能基
様々な他の反応性官能基が、本発明で使用する反応性色素を調製するために適切なものとして考えられる。以下の表1では、色素分子へ組み込まれ得るいくつかの反応性官能基を列挙している。これらの反応性官能基は、生体分子、特にペプチドやポリペプチドにみられる求核性反応基と反応することができる。例示した求核性官能基と反応性官能基の反応によって、2つの基の間に共有結合が形成される。この共有結合は、この表の三列目に示されている。合成オリゴヌクレオチドへの適用に際しては、多くの場合、第一級アミンまたはチオールが、標識を可能にするため合成過程において分子末端に導入される。目的分子に質量マーカーを結合させるために、以下に挙げる官能基のいずれかを本発明の化合物に導入することができる。反応性官能基は、必要である場合には、さらなるリンカー基をさらなる反応性官能基と共に導入するため用いることができる。表1は、その他の態様を排除するものではなく、本発明は、列挙された官能基のみの使用に限定されない。
本発明の質量マーカーを用いてオリゴヌクレオチドを標識する工程においては、上記反応性官能基またはそれらから得られた結合基の中には、オリゴヌクレオチド合成装置への導入する前に保護されなければならないものがあることに注意すべきである。保護されていないエステル、チオエーテルおよびチオエステル、アミンおよびアミドによる結合は、避けることが好ましい。これらは、通常、オリゴヌクレオチド合成装置の中で安定ではないからである。望ましくない副反応から結合を保護するために用いることができる様々な保護基が、当該分野で広く知られている。或いは、アミン官能化オリゴヌクレオチドは、当該分野で公知の標準的方法を用いて調製することができ、NHS-エステルのようなアミン反応性試薬で標識することができる。
標識化生体分子の分析
本発明における第二の態様では、生体分子を検出する方法が提供される。この方法では、生体分子は色素分子により共有結合的に標識される。次いで、この標識化分子は、色素分子を含むMALDIマトリックス中に包埋されるが、この色素分子は、生体分子を標識するために用いられた色素と同じであっても異なってもよい。次に、包埋された標識化生体分子を、MALDI質量分析計で分析する。被分析物である生体分子を標識するために用いた色素と遊離のマトリックスとして選択された色素は、両方ともMALDIプロセスで用いられる周波数の光を強く吸収するように選択される。代表的には、266nm(Nd-YAGレーザー)または337nm(Nitrogen Lasers)のレーザー紫外(UV)周波数を用いる。
ペプチドとタンパク質は、本発明方法により好適な分析結果が得られる生体分子である。ポリペプチドもしくはペプチド、またはポリペプチドもしくはペプチドの混合物は、電気泳動、クロマトグラフィまたはアフィニティークロマトグラフィなどの従来手段によって、分析のために単離することができる。質量分析の目的のためには、ポリペプチドやタンパク質は、塩または洗浄剤、特に金属塩で汚染されていないことが好ましい。ポリペプチドやペプチド混合物を脱塩するための種々の技術は、当該分野で公知である。例えば、ゲルろ過、透析または疎水性樹脂を使用することができる。ペプチドを脱塩するため特に利便性の高い簡便な方法としては、C18パッキング物質を取り込んでいるピペットチップへ少量のペプチド溶液またはポリペプチド混合物溶液を吸引することが挙げられる。塩と洗浄剤は最初に除去され、これによりペプチド分析の検出感度が実質的に改善される。適切な樹脂が予め充填されているピペットチップおよびその使用のための装置は、Millipore(Bedford,MA,USA)から、「Zip Tip」の商標で市販されている。脱塩処理は、それが好ましい場合には、未反応のタグを取り除くため被分析物の標識後に行なってもよい。
タンパク質は種々の求核官能基を含むことから、この官能基と反応する試薬により標識することができる。タンパク質は、代表的には、チオール基、アミノ基、水酸基およびイミダゾール基を含む。これら基は、それが好ましい場合には、適切な試薬で全て標識することができる。本発明の好ましい実施態様では、アミノ基を標識する。アミノ基は様々なラベルにより標識することができるが、通常、酸塩化物と活性エステルが最も多く選択される反応性官能基である。本発明で用いられる好ましいUV吸収色素としては、ケイ皮酸の活性エステルおよびその誘導体、ニコチン酸の活性エステルまたはヒドロキシ安息香酸誘導体の活性エステルが挙げられる。従って、本発明の第2態様における1つの実施形態では、混合物中から単離されたペプチドは、4-ヒドロキシ-α-シアノ-ケイ皮酸の活性エステルで標識される。このペプチドをZip Tipにより脱塩し、次いで、未修飾の4-ヒドロキシ-α-シアノ-ケイ皮酸のマトリックス中に包埋させる。代表的には、マトリックス溶液は、少量のトリフルオロ酢酸(0.1〜0.5%までの容量で十分である)を含むアセトニトリルのような揮発性溶媒により調製する。次に、この溶液を金属ターゲット上にピペッティングして小滴とする。次いで、脱塩された少量の標識化ペプチド溶液をマトリックス溶液の液滴に滴下する。次に、この溶液を放置して乾燥することよって、このペプチドをマトリックスとともに共晶化させることができる。他の技術では、このマトリックス溶液を乾燥させて結晶化させ、その後にペプチド溶液を上面に添加する(HutchensおよびYip,Rapid Commun.Mass Spectrom.,第7巻:第576〜580頁,1993年)。この手順は、被分析物とマトリックスとの共晶化層を作製するために繰り返してもよい。これらおよび他の様々な共晶化技術を用いて、ペプチドやポリペプチドの分析を改善することができる。上記で考察したような液体マトリックスも用いることができる。そして、マトリックス/ペプチド共晶を、MALDI-TOF質量分析計中で、レーザー脱離によって分析する。
質量分析計
質量分析計に不可欠な構成は、以下のとおりである。
入力システム→イオン供給源→質量分析計→イオン検出器→データ捕捉システム
入力システム、イオン供給源および質量分析計には、大型の生体分子を分析する目的のため用いることができる様々なものがある。本発明においては、イオン供給源としてマトリックス支援レーザー脱離イオン供給源を用いるが、これについては限られた数の入力システムしか存在しない。様々な質量分析計、イオン検出器およびデータ捕捉システムをMALDIとともに用いることができるが、ある種の質量分析計の中には、商業的には製造されていないものがある。飛行時間型質量分析計は、通常、MALDIならびにフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計および四重極/飛行時間型質量分析計とともに用いられる。原理上、イオントラップとセクター装置はMALDIで用いることができるが、一般にはこれらは商業的には製造されていない。
入力システム
移動ベルトシステムは、標識された核酸の分析のためにレーザー脱離とともに用いられている新しい入力システムの1つである(Linxiao Xuら,Anal.Chem.,第69巻:第3595〜3602頁,「電気泳動質量タグジデオキシDNAシークエンシング」,1997年)。この技術はMALDIで用いられていないが、このようなインターフェースを本発明の試薬や方法とともに使用するために適合させることは簡単なはずである。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)
MALDIにおいては、生体分子溶液を大モル過剰の光励起性「マトリックス」中に包埋しなければならない。適切な周波数のレーザー光の照射によりマトリックスが励起され、その結果、包埋された生体分子と一緒にマトリックスが迅速に蒸発する。酸性マトリックスから生体分子へのプロトンの移動によりプロトン化型の生体分子が生じ、これが、陽イオン質量分析法、特に飛行時間型(TOF)質量分析法により検出される。陰イオン質量分析もまた、MALDI TOFにより可能である。この技術によって、大量の伝達エネルギーがイオンに与えられるが、それにもかかわらず過剰なフラグメンテーションはあまり誘導されない。供給源からイオンを加速させるために用いられるレーザーエネルギーや電位差の適用のタイミングを用いて、この技術によりフラグメンテーションを制御することができる。この技術は、その質量範囲が大きいこと、そのスペクトル中の一価のイオンの分布、そして多数のペプチドを同時に分析する能力から、ペプチドマスフィンガープリントの決定に極めて好ましい。
光励起性マトリックスは、「色素」、すなわち、特定の周波数の光を強く吸収し、好ましくは蛍光または燐光によってはそのエネルギーを放散しないが、このエネルギーを熱的に、つまり振動の形で放散する化合物を含む。レーザー励起によりマトリックスの振動が生じるが、その結果、色素の迅速な昇華を生じ、同時に包埋された被分析物が気相となる。
質量分析計
飛行時間型質量分析計
その名称が示すとおり、飛行時間型質量分析計は、予め定められた電位差の作用により定められた距離をイオンが移動するのに要する時間を測定するものである。この飛行時間測定によって、検出器に衝突するイオンの質量電荷比を算出することが可能になる。これらの装置は、サンプル中のほぼ全てのイオンの到達を測定するため、結果としてかなり高感度であり得るが、この技術では選択性を達成することは困難である。また、この技術によって、通常、イオントラップや四重極質量分析計により測定できるよりも高い質量電荷比でイオンを検出することもできる。TOF質量分析計は、現在のところ、MALDIで広く用いられている。
イオントラップ
イオントラップ質量分析計は、四重極質量分析計と関係する。イオントラップは、一般的に3電極の構造(各々の末端でキャビティーを形成する「キャップ」電極を有する円柱状電極)を有する。正弦波電位がこの円柱状電極に加えられ、一方で、キャップ電極はDCまたはACの電位により偏向される。キャビティーへ注入されたイオンは、円柱状電極の電場振動によって、安定な環状の軌道に拘束される。しかし、ある発振ポテンシャルの振幅において、特定のイオンは不安定な軌道を有しており、トラップから追い出される。トラップに注入されたイオンのサンプルは、発振高周波ポテンシャルが変化することによって、それらの質量/電荷比に従いトラップから連続的に排出され得る。次いで、この排出イオンが検出され、これによって質量スペクトルが作成される。
イオントラップは、一般的に、ヘリウムのようにイオントラップキャビティに存在する少量の「バス・ガス(bath gas)」で操作される。その結果、このデバイスの分析能と感度の両方を向上させることができる。なぜなら、このトラップに入るイオンは、基本的に、バス・ガスとの衝突を通じてバス・ガスの環境温度まで冷却されるからである。衝突もまた、サンプルがこのトラップに導入される際におけるイオン化を増大させる上に、イオンの軌道の振幅と速度を減衰させることによって、イオンをトラップの中心に近く保持する。このことは、発振ポテンシャルが変化する際に、軌道が不安定になるイオンが、エネルギーを失った循環イオンよりも迅速にエネルギーを獲得し、トラップから出てさらに緊密な集団となることによって、さらに狭く大きいピークが生じることを意味する。
イオントラップは、タンデム質量分析計に類似するものでもよく、実際、トラップされたイオンの複雑な分析が可能となる様に、多重質量分析計(multiple mass spectrometer)に類似するものとしてもよい。サンプルからの単一の質量種を、トラップ中に保持することができる。つまり、他の全ての種を注入してもよく、この保持された種は、最初の周波数の上に第二の発振周波数を重ね合わせることによって、入念に励起せられ得る。次いで、励起させられたイオンはバス・ガスと衝突し、十分に励起させられるとフラグメントとなる。次に、このフラグメントは分析されることになる。他のイオンを注入し、次いでこのフラグメントイオンをフラグメントに励起させることによって、さらなる分析のためにフラグメントイオンを保持することが可能である。このプロセスは、さらなる分析を可能とするに十分なサンプルが存在する限りは、繰り返すことができる。これらの装置は、一般的に、フラグメンテーションの誘導後、高い割合のフラグメントイオンを保持するという点に注目すべきである。これらの装置およびFTICR質量分析計(以下で説明する)は、線形質量分析計においてみられる様に空間的に解析されるタンデム質量分析とは異なり、時間的に解析されるタンデム質量分析の形態をとる。
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FTICR MS)
FTICR質量分析法は、イオンのサンプルがキャビティー内で保持されるという点でイオントラップと同様の特徴を有するが、FTICR MSでは、イオンは交差した電場と磁場により高真空チャンバ中で捕捉される。ボックスの2つの側面を形成する1対のプレート電極が、電場を生じる。このボックスは、超伝導磁石の磁場に入れる。この磁場は、トラッププレートであるこの2つのプレートとの協同作用により、注入されたイオンを、このトラッププレートの間の当該磁場に垂直な環状軌道に拘束する。このイオンは、当該ボックスの別の2つの向かい合う側面を形成する2つの「トランスミッタープレート(transmitter plates)」に高周波パルスを加えることによって、より大きい軌道へ励起される。このイオンの円柱状の動きによって、「レシーバープレート(receiver plates)」を含む当該ボックスの残りの2つの対向側面において対応する電場が生じる。この励起パルスが、イオンをさらに大きい軌道へ励起させ、この軌道は、イオンの干渉運動が衝突によって失われるにつれて減衰する。レシーバープレートによって検出される対応シグナルは、フーリエ変換(FT)解析によって質量スペクトルに変換される。
フラグメンテーション誘導実験のためには、これらの装置は、イオントラップと同様の様式で操作することができる(目的の一つの種を除く全てのイオンを、このトラップから排除できる)。衝突ガスをトラップに導入することができ、そしてフラグメンテーションを誘導できる。フラグメントイオンは、引き続いて解析することができる。
質量分析法によるペプチドの解析
ペプチドの配列を決定するために、衝突誘起解離によるペプチドのフラグメント化を本発明において用いることによって、その消化産物の質量のパターンによっては同定されないタンパク質を同定することができる。さらに、フラグメント化は、光励起や電子衝撃によっても行なうことができる。ペプチドをフラグメント化するためやフラグメントの質量を決定するために、様々な質量分析計を用いることができる。
ペプチドのMS/MSおよびMSn解析
タンデム質量分析計によって、予め決定した質量対電荷比を有するイオンを選択してフラグメンテーションさせることができる(例えば、衝突誘起解離(CID)によって)。次いで、このフラグメントを検出し、選択されたイオンについての構造情報を得ることができる。タンデム質量分析計においてCIDによりペプチドを解析する場合、特徴的な切断パターンが観察され、それによってペプチドの配列を決定することができる。天然のペプチドは、通常、ペプチド骨格のアミド結合で無作為にフラグメント化され、当該ペプチドに特徴的なイオン群を生じる。CIDフラグメント群は、n番目のペプチド結合での切断について、an、bn、cnなどで表され、ここでイオンの電荷は、そのイオンのN末端フラグメント上に保持されている。同様に、フラグメント群は、xn、yn、znなどで表され、ここでの電荷は、そのイオンのC末端フラグメント上に保持されている。
トリプシン、Lys-Cおよびトロンビンは、タンデム質量分析計のための好ましい切断試薬である。なぜなら、これらは、分子の両末端に塩基性基、すなわちN末端にαアミノ基を、そしてC末端にはリジンまたはアルギニン側鎖を有するペプチドを生成するからである。これらは、荷電された中心が分子の反対の末端にある二価イオンを選択的に形成する。これら二価イオンは、CIDの後にC末端およびN末端の両方のイオン群を生成する。これによって、ペプチドの配列の決定を補助する。一般的にいえば、考えられるイオン群のうちわずか1つか2つが、与えられたペプチドのCIDスペクトルで観察される。四重極をベースとする装置において典型的である低エネルギーの衝突では、N末端フラグメントのbシリーズまたはC末端フラグメントのyシリーズが優勢である。二価のイオンが解析される場合には、多くの場合、両方のシリーズとも検出される。一般には、yシリーズのイオンはbシリーズよりも優勢である。
一般的に、ペプチドは、アミド骨格のプロトン化とこれに続く分子内求核攻撃を含むメカニズムによって断片化され、これにより5員のオキサゾロン構造の形成とプロトン化されたアミド結合の切断を生じる(Schlosser A.およびLehmann W.D.,J.Mass Spectrom.,第35巻:第1382〜1390頁,「ペプチドの単分子反応における五員環形成:低エネルギー衝突誘起解離をコントロールするための主要な構造要素」,2000年)。図16aは、この種類のフラグメンテーションを生じるメカニズム仮説の1つを示す。このメカニズムでは、求核攻撃を可能なものとするために、プロトン化されたアミドのN末端におけるプロトン化されたアミドに隣接して結合しているアミド結合に由来するカルボニル基を必要とする。荷電したオキサゾロニウムイオンは、bシリーズのイオンを生じるが、N末端フラグメントからC末端フラグメントへのプロトンの移動によって、図16aに示されるようなyシリーズのイオンが生じる。適切な位置にあるこの様なカルボニル基の必要性は、N末端が保護されていない場合や、bシリーズのイオンがペプチドのN末端と2番目のアミノ酸との間のアミドについて一般的に見られない場合において、N末端アミノ酸に隣接するアミド結合での切断の理由にはならない。しかし、アセチル化されたN末端を有するペプチドは、このメカニズムの構造的要件を満たし、そしてこのメカニズムによって、1番目のアミノ酸の直後のアミド結合でフラグメンテーションが生じ得る。本発明の活性なエステルタグを用いてリジンまたはαアミノ基で標識されたペプチドは、このタグ分子中に適切に配置されたカルボニル基がない場合には、低エネルギーのCID解析の間に、このタグペプチドで有意な切断を受けないはずである。このことは、スペクトルがこのタグの質量の倍数に相当する質量シフトを示すものの、標識されたペプチドのCIDスペクトルは未標識のペプチドのスペクトルと同様でなければならないことを意味する。このことは、斯かるCIDスペクトルの解析により容易に実証され得る。
代表的なタンデム質量分析計には、衝突チャンバによって隔てられた2つの四重極質量分析計と四重極を備える三連四重極型のものがある。この衝突四重極は、2つの質量分析計四重極の間のイオンガイドとして機能する。ガスは、第一の質量分析計からのイオン流と衝突するように、衝突四重極に導入され得る。この第一の質量分析計は、それらの質量/荷電比に基づいてイオンを選択し、イオンは衝突セルでフラグメンテーションされつつここを通過する。このフラグメントイオンは、第三の四重極において分離されて検出される。誘導切断は、タンデム分析器以外の形状で起こり得る。イオントラップ質量分析計は、バス・ガスとの衝突を生じる規定のm/z範囲の励起によりフラグメンテーションを促進し得る。イオントラップは、一般にヘリウムのようなバス・ガスを含む。同様に、プロトン誘導性フラグメンテーションは、トラップされたイオンに適用することができる。別の好ましい装置としては、四重極/直交飛行時間タンデム装置があり。当該装置では、フラグメンテーション生成物を特定するために、四重極の高い反応性とリフレクトロンTOF質量分析計の高感度が合わせて利用されている。
従来の「扇形(sector)」装置は、タンデム質量分析法において用いられる別の一般的な装置である。セクター質量分析計は、2種類の「セクター」を含む。イオンビームを集中する扇形電場は、電場を用いて同じ動態学的なエネルギーを有するイオン流中に供給源を置く。扇形磁場は、その質量に基づいてイオンを分離して、検出器でスペクトルを生成する。タンデム質量分析法のために、この種の2つの扇形質量分析計を用いることができる。ここでは、扇形電場が第一の質量分析計の段階を提供し、扇形磁場が第二の質量分析計を提供し、2つのセクターの間に衝突セルが配置されている。衝突セルによって隔てられた2つの完全な扇形質量分析計も、質量標識ペプチドの分析に用いることができる。
アフィニティーキャプチャリガンド
本発明の特定の実施形態では、質量マーカーとして、アフィニティーキャプチャリガンドを含むものを用いる。アフィニティーキャプチャリガンドは、極めて特異的な結合パートナーを有するリガンドである。これらの結合パートナーによって、リガンドでタグ化された分子は、結合パートナーにより選択的に捕捉されることが可能になる。好ましくは、固体支持体は結合パートナーで誘導体化され、その結果、アフィニティーリガンドタグ化分子が固相支持体上へ選択的に捕捉され得る。アフィニティーキャプチャリガンドの使用によって、質量分析法のための被分析物の馴化も可能であるままで、タグ化種が分析の前に選択的に捕捉されタグ化物質および非タグ化物質の分離が可能になるという点で、多くの利点が生まれる。サンプルの馴化には、イオン化を抑制するか或いは質量分析法を妨害し得る洗浄剤や他の混入物の除去が含まれる。また、馴化には、質量スペクトルにおいて質量シフトを起こす被分析物との付加物を形成し得る塩の除去が含まれる。さらに、イオン化を最適化するためにpHを調節してもよい。固相支持体上に捕捉されたタグ化被分析物の馴化は容易である。なぜなら、捕捉された物質は、所望のpHに応じて、炭酸アンモニウムやトリフルオロ酢酸のような揮発性の塩を含む適切な緩衝液で容易に洗浄できるからである。この洗浄工程により混入物質を除去することができる上に、pHを適切に調節することができる。
アフィニティーリガンドを含めることによるさらなる利点は、タグが特定の被分析物に対してアフィニティーリガンドを結合させる反応性官能基をさらに含む場合、特定の被分析物種を選択的に単離できる点にある。例えば、Gygiら(Nature Biotechnology,第17巻:第994〜999頁,1999年)は、タンパク質からのペプチドを捕捉するための「同位体でコードされたアフィニティータグ(isotope encoded affinity tags)」(ICAT)であって、タンパク質の発現解析を可能にするものの使用を開示している。著者らは、酵母におけるタンパク質の大部分(>90%)が、少なくとも1つのシステイン残基を有することを報告している(平均して、1タンパク質あたり5個までのシステイン残基が存在する)。タンパク質サンプル中のジスルフィド結合の還元と、ヨードアセトアミジルビオチンによる遊離チオールのキャッピングによって、全てのシステイン残基を標識することができる。次に、標識されたタンパク質をトリプシン等で消化し、システイン標識されたペプチドをアビジン化ビーズにより単離することができる。次いで、単離されたこれらペプチドを、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)により解析し、タンパク質サンプルについての発現プロフィールを決定することができる。2つのタンパク質サンプルは、システイン残基を標識することによって、別の同位体で修飾されたビオチンタグと比較することができる。本発明の有用な実施態様において、アフィニティーリガンドを含み同位体的に識別された本発明のシステイン反応性タグは、ICAT解析方法の感度を改善するために用いることができる。同様に、SchmidtとThompson(WO 98/32876)は、質量分析法によるタンパク質発現プロファイリング解析のために、C末端またはN末端のペプチドを捕捉するビオチン試薬の使用を開示している。このプロセスの感度も、アフィニティーリガンドを含む本発明のタグにより高めることができる。
好ましいアフィニティーキャプチャリガンドはビオチンであり、これは、当該分野で知られている標準的な方法により本発明のタグへ導入することができる。詳細には、リシン残基はアミノ酸2の後ろに組み込むことができ、これによって、アミン反応性ビオチンをペプチド質量タグに連結することができる(例えば、Geahlen R.L.ら,Anal Biochem,第202巻1号:第68〜67頁,「C末端がビオチン化されたペプチドの一般的な製造方法」1992年;Sawutz D.G.ら,Peptides,第12巻5号:第1019〜1012頁,「ビオチン化された[Lys]ブラジキニン誘導体の合成と分子の同定」1991年;Natarajan S.ら,Int J Pept Protein Res,第40巻6号:第567〜567頁,「部位特異的なビオチン化。新規方法とそのエンドセリン-1誘導体とPTH誘導体への適用」,1992年を参照のこと)。イミノビオチンとデスチオビオチンも適用可能である。ビオチンに対しては、様々なアビジンカウンターリガンドを使用することができる。例えば、アビジンの単量体や四量体、およびストレプトアビジンなどである。これらの全てを、多くの固体支持体上で利用することができる。
他のアフィニティーキャプチャリガンドとしては、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、ニトロフェニル部、およびc-mycエピトープなど多数のペプチドエピトープを挙げることができる。これらに対する選択的なモノクローナル抗体は、カウンターリガンドとして存在する。Ni2+イオンへ容易に結合するヘキサヒスチジンのような金属イオン結合リガンドも適用可能である。例えば、イミノ二酢酸キレート化Ni2+イオンを提示するクロマトグラフィー樹脂が市販されている。これらが固定されたニッケルカラムを用いて、オリゴマーヒスチジンを含むタグ化ペプチドを捕捉することができる。さらなる選択肢として、アフィニティーキャプチャ官能基は、適切に誘導体化された固相支持体と選択的に反応するものであってもよい。例えばボロン酸は、近接するシス-ジオールや、サリチルヒドロキサム酸など化学的に類似するリガンドと、選択的に反応することが知られている。ボロン酸を含む試薬は、サリチルヒドロキサム酸で誘導体化された固体支持体上へのタンパク質捕捉のために開発されている(Stolowitz M.L.ら,Bioconjug Chem,第12巻2号:第229〜239頁,「フェニルボロン酸−サリチルヒドロキサム酸 生物接合体1。タンパク質の固定化のための新規なボロン酸複合体」2001年;Wiley J.P.ら,Bioconjug Chem,第12巻2号:第240〜250頁,「フェニルボロン酸−サリチルヒドロキサム酸 生物接合体2。アフィニティークロマトグラフィのためのタンパク質リガンドの多価固定化」2001年,Prolinx, Inc,Washington State,USA)。本発明のタグに対してフェニルボロン酸官能基を結合させて、選択的な化学反応により捕捉され得る捕捉試薬を生成することは、比較的簡単なはずであると理解される。この種類の化合物は、隣接するシス-ジオールを含む糖を保有している生体分子と直接適合はしない。しかし、斯かる種の糖は、ボロン酸誘導体化タグ試薬との反応の前に、フェニルボロン酸または関連の試薬を用いてブロックすることができる。
ペプチドの荷電誘導体化
本発明のいくつかの実施態様では、タグは、容易にイオン化できる基を含み得、当該基が、質量分析計におけるタグおよびタグ化された被分析物の可溶化、ならびにタグ化被分析物のイオン化の両方を補助し得る。種々の官能基を、イオン化可能基として用いることができる。第三級アミノ基およびグアニジノ基は、両方とも可溶化およびイオン化に有用な官能基である(Francesco L.Branca,Stephen G.OliverおよびSimon J.Gaskell,Rapid Commun.in Mass Spec.,第14巻,第2070〜2073頁,「改良マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法によるリシン含有ペプチドのグアニジン化に続くトリプシンによる加水分解物の分析」2000年)。
他にも、ペプチドを誘導体化するための様々な方法が開発されている。当該方法としては、陽イオン質量分析法のための第四級アンモニウム誘導体、第四級ホスホニウム誘導体およびピリジル誘導体の使用が挙げられる。各々のタイプのイオン化可能官能基は、用いるイオン化方法や用いる質量分析方法に応じた異なる利点を有している。いくつかの誘導体化試薬は塩基度を増大させ、その結果、陽イオン質量分析法のためのプロトン化および/または電荷局在を促進する。一方、他の試薬は容易にプロトンを失うので陰イオン質量分析法に適切なものであり、この陰イオンン質量分析法は、バックグラウンドノイズが少ないことから、多くの場合において陽イオン質量分析法よりも感度が高い。荷電誘導体化も、衝突誘起解離を用いる場合、誘導体化ペプチドのフラグメント化産物を変化させることができる。具体的には、いくつかの誘導体化技術によって、フラグメント化のパターンは簡単になる。このことは、ペプチドを衝突誘起解離のような技術により分析するべき場合に、極めて有利である。イオン化する官能基の選択は、使用される質量分析技術によって決定される(概説については、Rothら,Mass Spectrometry Reviews,第17巻:第255〜274頁,「質量分析法による分析のためのタンパク質の荷電誘導体化」,1998年を参照のこと)。本発明のこの目的のためには、陽イオンまたは陰イオン形成を促進するイオン化官能基も、同様に適用可能である。
第三級アミノ官能基、グアニジノ官能基およびスルホン酸官能基などの荷電した基には、さらなる利点がある。これらの基は、アフィニティーリガンドとして作用することが可能であり、これによってタグ化された被分析物をイオン交換によって精製することができる。グアニジノおよび第三級アミノ官能基を含むタグは、強力な陽イオン交換樹脂により捕捉することができ、これによって質量分析の前に馴化させることができる。同様に、スルホン酸官能基を含むタグは陰イオン交換樹脂により捕捉することができ、これによって質量分析の前に馴化させることができる。さらに、未反応のタグと樹脂(陰イオン交換樹脂または陽イオン交換樹脂)との間の相互作用は、タグ化された被分析物の相互作用よりも弱いので、未反応のタグは容易に洗い流すことができる。タグ化被分析物は、樹脂に応じて、適切な濃度の揮発性酸、塩基または塩を含む適切な緩衝液を用いて溶出することができる。従って、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂が充填されたピペットチップ、スピンカラムおよびカートリッジは、標識されたサンプルの調製に有用なツールであり、分析前において標識化ペプチドの洗浄を容易にすることができるものであると考えられる。
さらに、スルホン酸基は、MDLDI TOF分析に有利である。ペプチドのαアミノ官能基のスルホン酸誘導体は、ペプチドのMALDI-Ion Trap分析のフラグメント化の効率を高めることが示されており、アスパラギン酸やグルタミン酸を含むペプチドなど、イオントラップにおいて、通常、不十分なMS/MSスペクトルしか示さない特定ペプチドについて、そのスペクトルを改善する(Keough,T.,Lacey M.P.ら,Rapid Commun Mass Spectrom,第15巻23号:第2227〜2239頁,「スルホン酸誘導体化されたトリプシン消化物ペプチドの常圧マトリックス支援レーザー脱離/イオン化イオントラップ質量分析」,2001年)。強力な酸性官能基によって、MALDIにおける一価のペプチドのアミド骨格のプロトン化が促進され、これによりフラグメンテーションの増大がもたらされる。
本発明の特定の実施態様では、グアニジノ基およびスルホン酸基を含むタグが合成されている。図17、18および19ならびに実施例のセクションを参照のこと。一般的な、好適な荷電基としては、グアニジノ基、第三級アミノ基およびスルホン酸基が挙げられる。
表面活性化レーザー脱離イオン化
表面活性化レーザー脱離イオン化(SELDI)は、MALDIの改良型であり、ここでは、MALDIの有用な金属ターゲットは誘導体化される(Weinberger S.R.,Morris T.S.,Pawlak M.,Pharmacogenomics,第1巻4号:第395〜416頁「プロテインバイオチップ技術における最近のトレンド」,2000年)。斯かる表面修飾としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体、疎水性表面または親水性表面での誘導体化が挙げられる。タンパク質またはペプチドのサンプルがこれらの表面に加えられると、サンプルは表面に吸着する。適切な洗浄工程によって、MALDI TOF質量分析計によるさらなる分析のために、サンプルフラクションから、ターゲット上に残留している特定の成分を選択的に除去することができる。この技術においては、分析目的と標識化被分析物を未反応のタグから分離する目的の両方のため、本発明の標識の適用が有用であると考えられる。特に、陽イオンまたは陰イオン交換樹脂でコーティングされた表面に適用するに際して有用であることが認識される。
本発明は、単なる例示である以下の特定の実施態様を参照することによって、さらに詳細に説明される。
実施例1 4-ヒドロキシ-α-シアノ-ケイ皮酸のアミン反応性誘導体の合成
4-ヒドロキシ-α-シアノ-ケイ皮酸(HCCA)の2つの異なる反応性誘導体を合成した。調製した第1の誘導体は、HCCAのカルボキシル官能基のN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルとした。HCCAのNHSエステル(NHS-HCCA)は、アミン反応性誘導体である(図1を参照)。この第1の合成は成功し、MALDIで良好な結果が得られたが、ペプチドとの反応収率は望まれるほど良くなかった。そこで、第2の合成を考案し、ケイ皮酸官能基と反応性NHSエステル基との間にスペーサーを組み込んだHCCAの誘導体を得た。この第2の試薬(図1を参照のこと)は、NHS-L-HCCAと呼ばれ、これもアミン反応性である。
実施例2 2-シアノ-3-(4-tert-ブトキシカルボニルオキシフェニル)アクリル酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル[NHS-HCCA]の合成
NHS-HCCAの合成を図1に示す。第1の工程において、HCCAのヒドロキシル官能基を保護し、次にカルボン酸部分を活性化する。
実施例2a 2-シアノ-3-(4-tert-ブトキシカルボニルオキシフェニル)アクリル酸の合成
5.6 g(30 mmol)の2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)アクリル酸を溶解した40 mlのアセトニトリルを、透明な溶液が得られるまで、4.6 ml(33 mmol)のトリエチルアミンとともに撹拌した。次いで、0.2 g(4 mmol)の4-ジメチルアミノピリジンと7.3 g(33 mmol)のtert-ブチルピロカルボネートを、この透明溶液に添加した。2時間の反応後(この溶液はその時点で無色である)、当該溶液をその半分の容積に減らし、200 mlの冷5%クエン酸溶液で洗浄した。
この有機層を、酢酸エチルによって抽出した。溶媒を留去した後、生成物をヘプタン/酢酸エチルから沈殿させた。
収率:7.4=85%
融点:120〜121℃。
実施例2b 2-シアノ-3-(4-tert-ブトキシカルボニルオキシフェニル)アクリル酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルの合成
0.95 g(5 mmol)の2-シアン-3-(4-tert-ブトキシカルボニルオキシフェニル)アクリル酸と0.6 g(5 mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドを10 mlのアセトニトリルに溶解した。1.1 g(5.7 mmol)のN-エチル-N'-3-ジメチルアミノジシクロヘキシルカルボジイミド塩酸塩を、反応混合物に少しずつ添加した。2時間後、溶媒を留去した。得られた残渣を酢酸エチルで、そして冷5%クエン酸溶液で、次いで、飽和NaCl溶液で洗浄した。生成物をクロマトグラフィーによって精製した。
収率:1.2 g=63%。
実施例3 2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)アクリル酸(6-(2,5-ジオキソ-ピロリジニル-N-オキシ)-6-オキソ)ヘキシルアミド[NHS-L-HCCA]の合成
NHS-L-HCCAの合成を、図1に示す。最初の工程で、塩素化したリンカーを生成させる。次いで、この塩素基をシアン化物イオンにより求核置換する。次に、このシアノリンカーを4-ヒドロキシベンズアルデヒドと縮合させ、遊離カルボキシル基を有する6個の炭素鎖リンカーを有するケイ皮酸誘導体を得る。当該化合物は、この合成の最終工程で活性化されてNHSエステルを形成する。
実施例3a 6-(クロロアセトアミド)ヘキサン酸の合成
18 ml(221 mMol)のクロロアセチルクロライドを、20 g(153 mmol)の6-アミノヘキサン酸を溶解した80 mlの冷NaOH溶液(2 N)へ室温で滴下した。NaOH溶液(6 N)を時々添加することによって、この溶液のpHを10〜11に保ちつつ、この反応混合物を30分間撹拌した。次いで、HCl(2 N)を用いて反応混合物のpHをpH 5とし、残渣を濾別した。次に、濾液のpHが中性になるまで、この残渣を水で洗浄した。この生成物を五酸化リンにより乾燥し、300 mlのクロロホルムに再度溶解し、濾過により溶解しない残渣を除去した。濾液にヘプタンを添加し、冷却下で撹拌することによってシロップを得た。この生成物を濾過し、乾燥して、次いで水から結晶化させた。
収率:20 g=63%
融点:82℃。
実施例3b 6-(シアノアセトアミド)ヘキサン酸の合成
2.8 g(20 mmol)の炭酸水素カリウムを、8.3 g(40 mmol)の6-(クロロアセトアミド)ヘキサン酸を溶解した25 mlの水に添加した。次いで、3.2 g(48 mmol)のシアン化カリウムをこの透明な溶液に添加して、氷上で冷却した。この反応混合物を17時間撹拌し、次いでHCl(2 N)で酸性化した。抽出後の残渣をクロマトグラフィー(シリカゲル,溶媒:酢酸エチル)により精製した。
収率:6 g=76%
融点:80〜81℃。
実施例3c 2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)アクリル酸の(6-ヒドロキシ-6-オキソ-ヘキシル)アミドの合成
7.5 g(38 mmol)の6-(シアノアセトアミド)ヘキサン酸を、50 mlのピリジンに溶解させた。4.6 g(38 mmol)の4-ヒドロキシベンズアルデヒドと0.7 ml(7 mmol)のピペリジンをこの溶液に添加して、反応混合物を50℃で2時間撹拌した。次いで、さらに0.4 mlのピペリジンをこの反応に添加し、溶液を室温で60時間撹拌した。ピリジンの留去後の残渣をHCl(2 N)により酸性化して、酢酸エチルで抽出した。この有機層を300 mlの炭酸水素ナトリウムの飽和溶液に注いだ。次いで、この水層をHCl(2 N)を用いて注意深く酸性化した。沈殿した残渣を濾過して、水で洗浄した。乾燥生成物をジオキサンから結晶化させた。
収率:8.4 g=74%
融点:178℃。
実施例3d 2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)アクリル酸の(6-[2,5-ジオキソ-ピロリジニル-N-オキシ]-6-オキソ)ヘキシルアミドの合成
2.3 g(20 mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミドと6.0 g(20 mmol)の2-シアン-3-(4-ヒドロキシフェニル)アクリル酸の(6-ヒドロキシ-6-オキソ-ヘキシル)アミドを、60〜70℃で200 mlのジオキサンに溶解した。4.6 g(22 mmol)のジシクロヘキシルカルボジイミドを反応混合物に添加し、これを撹拌して30℃に冷却した。この温度を、1時間維持した。次いで、反応混合物を室温にし、20時間撹拌した。溶液を濾過して溶媒を留去した。残渣をジクロロメタンと重炭酸ナトリウムの溶液で処理した。抽出後の有機層を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒の留去後、次に、残渣をシリカゲル上でクロマトグラフィーにかけた。この生成物を酢酸エチルから結晶化させた。シリカゲル上への生成物の沈着によって生じる発熱反応を回避するために、最初にカラムを冷却した。
収率:50 g=63%
融点:142℃。
実施例4 樹脂結合ペプチドとのNHS-HCCAの反応
1番目の活性なエステルケイ皮酸質量タグ(NHS-HCCA)(その合成は上記に記載されている)を、以下の手順に従って樹脂に結合させたペプチドに結合した。
標的ペプチド
HRDPYRFDPHKDのペプチド配列を、標準的なFmoc/tBu合成手順を用いてWang型の樹脂上で合成した(例えば、Fields G.B.およびNoble R.L.,Int J Pept Protein Res,第35巻3号:第161〜214頁,「9-フルオレニルメトキシカルボニルアミノ酸を利用したペプチドの固相合成」1990年を参照のこと)。樹脂に結合させたペプチドは、切断後に遊離の酸部分を生じた。
NHS-HCCA
分子量=286.24
正確な質量=286.06
分子式=C141025
分子組成=C 58.7%,H 3.5%,N 9.8%,O 28.0%。
標識のプロトコール
樹脂に結合させたペプチドを、標準的な方法(ピペラジンを含有するDMF)に従ってN末端で脱保護して、過剰量の上記試薬であるNHS-HCCAと過剰の塩基(117 mg=0.4 molを800μlのDMF中に、1当量=44.3 mg DIPEAとともに含有)と反応させた。この混合物を室温で3時間インキュベートした。
切断と完成
標識後に樹脂を洗浄し、スカベンジャー混合物(TFA:チオアニソール:トリエチルシラン:水が、それぞれ、92.5%:2.5%:2.5%:2.5%)と2時間インキュベーションすることによって、ペプチドを樹脂から切断した。このペプチドを沈殿させて、ジエチルエーテルで洗浄し、tert-ブタノール/水(4:1)から凍結乾燥して白色粉末を得た。
所望の化合物の構造
NH-HRDPYRFDPHKD-COOH
分子量:1753.87 g/mol(平均)/1752.78 g/mol(モノアイソトピック質量)
モノアイソトピック組成:C80H104N24O22
実施例5 NHS-HCCA標識ペプチドの分析と未標識ペプチドとの比較
標識反応生成物をHPLCによって分析して(図2を参照のこと)、標識および未標識のペプチドの混合物を含むことを見出した。標識されたペプチドが混合物の約85%を占め、未標識のペプチドは混合物の約15%を占める。エレクトロスプレーイオン化質量分析法によるこの混合物の解析によっては、標識されたペプチドの検出感度の改善はまったく示されないが、MALDI TOF MSによるこの混合物の分析(図3)は、この混合物のうち、さらに少ない割合を占める標識されたペプチドが、未標識のペプチドよりもかなり高い感度で検出されることを示している。
実施例6 NHS-L-HCCAと樹脂に結合させたペプチドとの反応
さらに6個の炭素鎖のリンカーを含む第2の活性エステルケイ皮酸質量タグ(NHS-L-HCCA)(その合成は上記に記載されている)を、以下の手順に従って、樹脂に結合させたペプチドに結合した。
ペプチド
以下のペプチド配列を、標準的なFmoc/tBu合成手順によりWang型の樹脂上で合成した:
HSRGARGHSHAHRG(高い塩基性) M:1522.62
YDSGEGDESDAYEG(高い酸性) M:1493.38
LGWSGFGWSFSYLG(高い疎水性) M:1563.75
(切断後において遊離の酸を生じるようにトリチル型樹脂に結合させた)。
NHS-L-HCCA
分子量=399.40
正確な質量=399.14
分子式= C20H21N3O6
分子組成=C 60.14%,H 5.30%,N 10.52%,O 24.04%。
ペプチド標識のためのプロトコール
樹脂に結合させたペプチドを、標準的な方法(ピペリジン含有DMF)に従ってN末端で脱保護し、過剰の試薬NHS-L-HCCAと、過剰の塩基(128 mg=0.4 Mを800μlのDMFに、1当量=44.3 mg DIPEAとともに含有)と反応させた。この混合物を室温で3時間インキュベートした。
切断と完成
標識反応後に樹脂を洗浄し、スカベンジャー混合物(TFA:92.5%/チオアニソール;2.5%/トリエチルシラン;2.5%/水;2.5%)と2時間インキュベーションにすることによって、ペプチドを樹脂から切断した。このペプチドを沈殿させて、ジエチルエーテルで洗浄した。最終的に、このペプチドを、tert-ブタノール/水(4:1)から凍結乾燥して白色粉末を得た。
目的化合物の構造
NH-HSRGARGHSHAHRG-COOH
分子量:1806.94 g/mol(平均)/1805.87 g/mol(モノアイソトピック質量)
モノアイソトピック組成:C76H111N33O20
NH-YDSGEGDESDAYEG-COOH
分子量:1777.70 g/mol(平均)/1776.63 g/mol(モノアイソトピック質量)
モノアイソトピック組成:C76H96N16O34
NH-LGWSGFGWSFSYLG-COOH
分子量:1848.06 g/mol(平均)/1846.84 g/mol(モノアイソトピック質量)
モノアイソトピック組成:C94H114N18O22
実施例6 NHS-L-HCCA標識ペプチドの分析および未標識ペプチドとの比較
ペプチドは、HPLCにより分析した。最初のペプチドであるHSRGARGHSHAHRGは、リンカーを含むタグとの反応が完了したとき、純粋に単離された。標識したペプチドを未標識のペプチドと混合し、50/50の混合物を1μmol/μlの各ペプチド濃度で得た。エレクトロスプレーイオン化質量分析による混合物の分析では、標識されたペプチドの検出感度は、未標識のペプチドに比べて全く改善を示さない。しかし、MALDI TOF MSによって分析された金属標的上での0.5μlの混合物は、標識ペプチドが未標識のペプチドよりも大きい感度で検出されることを示している。このことは、リンカー官能基は、タグの有効性を低下させることなく、標識反応の収率を改善するために用いることができることを示している。
実施例7 NHS-L-HCCAのβ-MSHペプチドとの反応
マトリックスMT
NHS-L-HCCAの分子式:C20H21N3O6
分子量:399.41。
溶液中のペプチド標識
タンパク質:β-MSH(DEGPYKMEHFRWGSPPKD,M:2175)
1 mg(0.46μmol)のペプチドを、水/アセトニトリル(250μl,90/10)に溶解させる。30μgのトリプシンを含有するホウ酸緩衝液(100μl,pH 8.0)を、ペプチド溶液に添加する。この消化を37℃で18時間行う。
2.5 mg(6.3 mmol)のNHS-L-HCCAを含有する250μLのアセトニトリルを、175μl(消化溶液の1/2)のトリプシンペプチド溶液に添加する。この標識反応を、室温かつpH 7.5で5時間行う。次いで、100μlのH2O/アセトニトリル(95/5)および1%のTFAを添加することによって、この反応を停止させる。次に、標識されたペプチド溶液をMALDI MSにより測定する。
実施例8 NHS-L-HCCA標識β-MSHペプチドのスペクトルと未標識のβ-MSHペプチドのスペクトルとの比較
β-MSH由来のペプチドマスフィンガープリント
未標識のβ-MSHのトリプシン消化により、以下の表2に示すような3つのフラグメントが生じる。
標識されたβ-MSHのトリプシン消化により、以下の表3に示すような3つのフラグメントが生じる。
上記の標識消化物および未標識の消化物について、種々の実験を行った。β-MSHの標識のプロトコールの模式図を図5aに示す。図5bは、未標識のペプチドおよび未消化のペプチドのMALDI TOF質量スペクトルを示す。
図6は、β-MSHの未標識消化物および標識消化物のMALDI TOFスペクトルを示す。未標識の消化物について予想される3つのペプチドが、未標識ペプチドのスペクトル中に存在することを確認することができる。標識ペプチドのスペクトルでは、4つの異なる種がみられる。アミノ酸1〜6を含むペプチドは、標識可能な2つの部位を有している。すなわち、αアミノ基とリジンεアミノ基である。これらのいずれも、完全に標識されているようであり、二重に標識されたペプチドに対応する1つの種のみが、スペクトル中に現れている。同様に、アミノ酸12〜18を含むペプチドは、標識可能な2つの部位であるαアミノ基およびリジンεアミノ基を有する。ここでも、これらのいずれもが完全に標識されているようであり、そして二重に標識されたペプチドに対応する1つの種のみがスペクトル中に現れている。アミノ酸7〜11を含むペプチドは、αアミノ基でのみ標識されるはずであるが、質量スペクトルにおいては二重に標識されているようである。なぜなら、このペプチドに対応する2つの種が、標識されたフラグメントのスペクトルにおいて検出されるからである。NHS-L-HCCAがヒスチジンと反応するという副反応がわずかにあり、その結果、このペプチドのスペクトルに第二のピークを生じている。
β-MSHのアミノ酸7〜11を含む単一標識されたペプチドは、標識されたタンパク質のスペクトル中で最も強く現れた。このペプチドフラグメントをHPLCクロマトグラフィーにより単離し、このペプチドの溶液を調製した。図7は、このペプチドと未標識のβ-MSHの消化物とを様々なモル比で混合したものの、MALDI TOF質量スペクトルである。標識されたペプチドの検出量は、未標識のペプチドに対して標識されたペプチドの比が最低である場合(5:95)であってもなお、未標識のペプチドよりも大きいということが明確に観察できる。
図8は、本発明のタグによる感度の増大を実証するためのさらなる実験の結果を示す。図8は、β-MSHのアミノ酸7〜11を含む標識ペプチドの44 pmolのストック溶液と、180 pmolの消化された未標識のβ-MSHとを混合した段階希釈物についての多数のMALDI TOF質量スペクトルを示す。最初のスペクトルは、当該ストック溶液のMALDI TOF分析を示す。625倍の希釈に達するまでは、標識されたペプチドおよび未標識のペプチドの両方が、ストック溶液の種々の希釈物において見られ得る(中途のスペクトルは示していない)。625倍希釈のスパクトルは、図8に示す第2のスペクトルである。標識されたペプチドと未標識のペプチドは、この希釈物でも依然として見ることができるが、スペクトルの低い質量範囲ではノイズが見られる。さらなる5倍の希釈から3125倍の希釈によって、未標識のペプチドはもはや検出できないが、標識されたペプチドは依然として検出可能であるスペクトルが生じる。この標識されたペプチドは、この溶液のさらに5倍の希釈でも(15625倍)、依然として検出可能である。上記の結果の全ては、MALDIマトリックスを含むタグにペプチドを共有結合させた場合には、ペプチドの検出感度が有意に増大することを示している。
実施例9 タンパク質を用いたペプチドマスフィンガープリント実験
全タンパク質を用いたさらなる実験を行なった。タンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)とグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を別々に分析した。
BSAおよびGAPDHのトリプシン消化物の標識
BSA(プローブA):69.2 kDa/60*Lys/26*Arg
GAPDH(プローブB):35.7 kDa/26*Lys/10*Arg。
2μg/mlのタンパク質を含むホウ酸緩衝液(50 mmol,pH 8)および尿素/チオ尿素(100 mmol、2/1)のストック溶液を、新しく調製する。20μl(1μg/ml)のトリプシンを、260μlのタンパク質ストック溶液に添加する。この酵素切断反応を、37℃、pH 8.0で16時間行なう。
160μlのトリプシンペプチド溶液を、2.5 mgのNHS-L-HCCAを溶解した250μlのアセトニトリルで標識する。25℃、pH 7.8で5時間の標識後、この反応を100μlのH2O/アセトニトリル(95/5)+1%TFAを添加することによって停止させる。
実施例10 NHS-HCCAで標識したBSAペプチドのスペクトルと未標識BSAペプチドのスペクトルとの比較
図9は、BSAの典型的なMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントの質量スペクトルを示す。このスペクトルで決定した質量は、そのトリプシンペプチドフラグメント成分の質量からタンパク質を同定するために、公知で且つ予測された質量スペクトルのデータベースを検索するために用いることができる。図10は、図10に示すスペクトルから得られる質量について、ProteinProspectorデータベースサーバー上でMS-Fitプログラムを用いることによって、SWISS-PROTデータベースを検索した結果を示している。このツールは、ワールドワイドウェブで利用可能であり、修飾されたアミノ酸を有するタンパク質を同定できる(Clauser K.R.,Baker P.R.およびBurlingame A.L.,Analytical Chemistry,第71巻14号:第2871頁,「マスまたはマス/マスおよびデータベース検索を用いるタンパク質同定戦略における正確な質量測定(+/- 10 ppm)の役割」1999年)。修飾されたアミノ酸の質量は、一連の修飾ペプチド質量とともにプログラム中に入れられる。プログラムからの出力データは、データベースへ提示された質量に適合するペプチドを含むタンパク質のリストである。次に、MS-Fitによって特定される適合タンパク質について適合するペプチドを提示して、このペプチドがどの程度タンパク質と適合するかを決定することが可能である。これを図10に示す。この分析は未修飾のリシンを用いて行った。
図11は、NHS-L-HCCAで標識したBSAに対応するMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントの質量スペクトルを示す。図12は、Ms-Fitプログラムを用いたSWISS-PROTデータベースの検索から得られた結果であり、BSAに適合するペプチドを示している。ここでは、図11のスペクトルからのペプチド質量とともに、適切に修飾されたリシンの質量もみられる。
図13は、GAPDHについての典型的なMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントの質量スペクトルを示す。このスペクトルで決定した質量は、公知のデータベースを検索するために用いることができ、また、予測される質量スペクトルは、各トリプシンペプチドフラグメント質量からタンパク質を同定するために用いることができる。図14は、MS-Fitプログラムを用いたSWISS-PROTデータベースの検索の結果を示し、加えて図13に示すスペクトルからの質量のいくつかを示している。ここでは、未修飾のリジンが検索されている。
図15は、NHS-L-HCCAで標識したBSAに対応するMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントの質量スペクトルを示す。図16は、Ms-Fitプログラムを用いたSWISS-PROTデータベースにより検索したものであり、GAPDHに適合するペプチドを示している。ここでは、図15のスペクトルからのペプチド質量とともに、適切に修飾されたリシンの質量もみられる。
実施例11 例示的なタグの調製
以下の例は、本発明に係る新規のタグであり、図17a〜17dに示されるものの合成をさらに示す。これらのタグは、全てイオン化可能な官能基を含む。イオン化可能な官能基は、有用な目的のために役立つ。イオン化可能な官能基は、水性溶媒や緩衝液中でのタグの溶解性を改善する。イオン化可能な官能基は、アフィニティーリガンドとして働くことから、イオン交換樹脂を用いて、標識化被分析物からの未反応のタグの分離を可能にすることができる。スルホン酸部分は、陰イオン交換樹脂に対して親和性を有するが、イオン化する基はすべて陽イオン交換樹脂に親和性を有する。さらに、イオン化可能な官能基は、質量分析計においてイオン化を促進する。図17aに示すタグは、スルホン酸官能基を含む。図17bと17cのタグはグアニジノ官能基を含むが、図17dのタグは第三級アミノ官能基を含む。
6-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-3-スルホネート-フェニル)-アクリロイルアミノ]-ヘキサン酸-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)-エステルナトリウムの合成
ここで、図17aに示すタグ化合物の合成を記載する。中間体は、図18に示すスキームに従って番号付けする。
6-(2-クロロアセチルアミノ)-ヘキサン酸(5)
20 g(153 mMol)の6-アミノ-ヘキサン酸を、80 mlの2 N 水酸化ナトリウム(NaOH)と混合した。18 ml(221 mMol)のクロロ-アセチルクロライドと6 N NaOHを、室温でこの混合物に添加した。クロロ-アセチルクロライドと6 N NaOHを添加するに当たっては、ビュレットを用いて添加を制御することによって、反応混合物のpHを10〜11の間に保った。この混合物を、この一定のpHで30分間撹拌した。次いで、酢酸エチル(EtOAc)を反応混合物に添加し、2 Nの塩酸(HCl)を用いてpHを2に調節した。生成物を得るために、EtOAc層を分離し、EtOAcで水相を抽出した。有機層を乾燥して溶媒を留去した。次に、残渣をジイソプロピルエーテル/EtOAc(1:1、v:v)から再結晶させた。
収率:25.3 g(80%);融点(Mp) 82℃。
6-(2-シアノ-アセチルアミノ)-ヘキサン酸(1)
8.3 g(40 mMol)の6-(2-クロロ-アセチルアミノ)-ヘキサン酸(5)を、2.8 g(20 mol)のK2CO3とともに25 mlの水に室温で溶解した。3.2 g(48 mMol)のKCNを添加した後、反応混合物を室温で17時間撹拌した。次いで、溶液のpHを2 N HClを用いて2とした後、生成物をEtOAcで抽出した。生成物を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した後、酢酸エチルを用いたクロマトグラフィーにより生成物を精製した。次いで、この化合物をEtOAcから再結晶した。
収率:6 g(76%);融点(Mp) 90℃。
HPLC:97%[LiChrospher 100,RP18,(5μm);CH3CN:(H2O+0.01 M TBAS)=40:60,流量1 ml/分;2.4分]
1H-NMR (d6-DMSO) δ 1.23-1.50(m, m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.18(t, 2H, CH2-CO2); 3.05(m, 2H, N-CH2); 3.56(s, 2H, NC-CH2); 8.15(t, 1H, NH); 11.94(s, 1H, OH)。
6-(2-シアノ-アセチルアミノ)-ヘキサン酸(1)
6.55 g(50 mMol)の6-アミノ-ヘキサン酸と9.2 g(110 mMol)のNaHCO3を80 mlの水に溶解した。9.1 gのシアノ酢酸-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)-エステル[C. Bartolucciら,第47巻,第1367頁(1992年)]の溶液を、室温で当該混合物に少しずつ加えた。当該反応混合物を室温で16時間撹拌した後、2 N HClを用いてpHを2とし、酢酸エチルで抽出した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、次いで溶媒を留去した。次に、目的化合物をEtOAcから再結晶させた。
収率:5 g(51%);融点(Mp) 95℃
HPLC:>98%[LiChrospher 100,RP 18,(5μm);CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=40:60,流量1 ml/分;2.4分]
1H-NMR (d6-DMSO) δ 1.23-1.50(m, m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.18(t, 2H, CH2-CO2); 3.05(m, 2H, N-CH2); 3.56(s, 2H, NC-CH2); 8.15(t, 1H, NH); 11.94(s, 1H, OH)。
3-ホルミル-6-ヒドロキシ-フェニル-スルホン酸ナトリウム(7)
20 g(164 mMol)の4-ヒドロキシベンズアルデヒドを100 mMの濃H2SO4に溶解し、この溶液を80℃で20時間撹拌した。次いで、冷却した溶液を350 gの氷に注いだ。60 gの塩化ナトリウム(NaCl)を添加したところ、無色の生成物の結晶が短時間で形成された。0℃に冷却した後、この生成物を濾別して、50 mlの飽和NaCl溶液で2回洗浄した。次いで、この固体残渣を150 mlの飽和NaCl溶液中で加熱して、冷却し、濾別した。この残渣を再度25 mlの飽和NaCl溶液で2回、そして15 mlの氷冷した水で2回洗浄した。150 mlの水にこの生成物を懸濁させ、そして2 NのNaOHを用いてこの溶液をpH 7.2まで中和することによってナトリウム塩を得た。この時点で、溶液中の出発材料(アルデヒド添加物)のわずかな未反応物を酢酸エチルで抽出することができた。水層をA-Kohleで処理して、濾別し、溶媒を減圧下で留去した。乾燥した固体残渣を、アセトンで処理して濾別した。
収率:30.5 g(83%)
F=0.48(EtOAc/AcOH=2:1)
HPLC:>98%[LiChrospher 100,RP 18,(5μm)Merck# 50377;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=40:60,流量 1ml/分;5.2分]
1H-NMR (d6-DMSO) δ 6.53(d, 1H, 5-H-Ph); 7.50(m, 1H, 4-H-Ph); 7.92(d, 1H, 2-H-Ph); 9.50(s, 1H, OH)。
ナトリウム 6-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-3-スルホネート-フェニル]-アクリロイルアミノ)-ヘキサン酸(2)
17.85 g(90 mMol)の6-(2-シアノ-アセチルアミノ)-ヘキサン酸(1)と17.92 g(80 mMol)の3-ホルミル-6-ヒドロキシ-フェニル-スルホン酸ナトリウム(7)を、160 mlのピリジンと1.6 mlのピペリジン中、65℃で3日間撹拌した。この反応混合物を200 mlのアセトニトリルで希釈し、その残渣を濾別してアセトニトリルとアセトンで洗浄した。固体残渣を150 mlのアセトニトリル中で1時間加熱して、冷却して濾別した。
収率:28 g(86%)
HPLC:93%[LiChrospher 100,RP 18,(5 pm)Merck# 50377;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=40:60,流量 1 ml/分;6.3分]
1H-NMR (D2O) δ 1.29-1.36 u. 1.53-1.60(m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.14-2.19(m, 2H, CH2-CO2); 3.25-3.28(m, 2H, N-CH2); 6.73(d, 1H, 5-H-Ph); 7.80(m, 1H, 6-H-Ph); 8.30(d, 1H, 2-H-Ph); 7.92(s, 1H, CH=C-CN)。
ナトリウム 6-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-3-スルホネート-フェニル)-アクリロイルアミノ]-ヘキサン酸-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)-エステル(3)
9.2 g(80 mMol)のN-ヒドロキシ-スクシンイミドを、90〜100℃(水浴温度)で融解させた。4.04 g(10 mMol)のナトリウム 6-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-3-スルホネート-フェニル)-アクリロイルアミノ]-ヘキサン酸(2)を、この融解させた残渣に少しずつ加え、撹拌することにより均質な相を得た。この反応混合物に15 mgのDMAPを添加した後、4.12 g(20 mMol)のジシクロヘキシルカルボジイミドを溶解させた50 mlのアセトニトリルの溶液をこの反応混合物に一滴ずつ加え、得られた溶液を還流下で1時間加熱した。次いで、さらに100 mlのアセトニトリルをこの溶液に添加した。固体残渣を濾別し、濾液から溶媒を留去した。この濾液から得られた残渣をアセトンに溶解し、不溶性の残渣の全てを分離した。この溶液を約50 mlに減らし、250 mlのEtOAcを添加することにより生成物を沈殿させた。沈殿した生成物を水に溶解し、この水層をEtOAcで数回抽出した。次いで、この水層を凍結乾燥した。
収率:1.42 g(28%)
HPLC:>90%[Lichrosorb RP 18,(5μm)Merck# 50333;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=40:60,流量 1ml/分;10.3分]
1H-NMR (D2O) δ 1.39-1.67 (m, m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.69(t, 2H, CH2-CO2); 2.80(s, 4H, OSu); 3.18-3.20(m, 2H, N-CH2); 6.97(d, 1H, 5-H-Ph); 7.92(m, 1H, 6-H-Ph); 8.13(d, 1H, 2-H-Ph); 8.03(s, 1H, CH=C-CN); 8.31(t, 1H, NH); 11.22(s, 1H, OH)。
Nα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル)-Argωω`(Boc2)-2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルエステルの合成
ここで、図17bに示すタグ化合物の合成を記載する。中間体は、図19に示すスキームに従って番号付けする。
Nα-(2-シアノ-アセチル)-Argωω`(Boc2)-OH(2)
4 g(5 mMol)のCu[Argωω`(Boc2)]2[M..Bernatowiczら,Synth. Commun., 第23巻,第3055頁(1993年)]、2.74 g(6 mMol)のEDTA・4Na・H2Oおよび1.97 g(23.5 mMol)のNaHCO3を19 mlの水に溶解させた。2.18 g(11.96 mMol)の2-シアノ-酢酸-OSu-エステルを溶解させた46 mlのアセトンの溶液を、この反応混合物に室温で一滴ずつ添加した。次いで、この混合物を16時間撹拌した。このアセトン層を減圧留去し、5%KHSO4溶液を用いてこの水層のpHを3に調節し、EtOAcで抽出した。有機層を乾燥して溶媒を留去した後、目的化合物をCH2Cl2/CH3OH(10:1,v:v)を用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:2.2 g(50%)
HPLC:96%[LiChrospher 100 RP 18,(5μm)Merck# 50377;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=90:10,流量 1ml/分;2.5分]。
Nα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Argωω`(Boc2)-OH(3)
19.5 g(44 mMol)のNα-(2-シアノ-アセチル)-Argωω`(Boc2)-OH(2)と5.37 g(4 mMol)の4-ヒドロキシ-ベンズアルデヒドを、0.9 mlのピペリジンとともに60 mlのピリジンに添加した。この混合物を50℃で2時間加熱し、次いで室温で16時間撹拌した。減圧下でピリジンを留去し、5%KHSO4溶液を用いて得られた溶液のpHを3とした。EtOAcで残渣を抽出し、MgSO4で有機層を乾燥した後、溶媒を留去した。この生成物を、CH2Cl2/CH3OH(100:3,v:v)を用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:14.2 g(59%)
HPLC:>98%[LiChrospher 100 RP 18,(5μm)Merck# 50377;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=90:10,流量 1ml/分;2.6分]
1H-NMR (d6-DMSO) δ 1.37 u. 1.45 (s, s, 18H, 2× t-Bu); 1.45-1.88(m, 4H); 3.32(m, 2H, N-CH2); 4.31(m, 1H, N-CH); 6.94 u. 7.88(m, m, 4H, Ph); 8.06(s, 1H, CH=C-CN); 8.31, 8.45,〜10.4, 11.5 u. 12.6(5H, 3× NH, 2× OH)。
Nα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Argωω`(Boc2)-2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルエステル(4)
2.71 g(5 mMol)のNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Argωω`(Boc2)-OH(3)と0.58 g(5 mMol)のN-ヒドロキシ-スクシンイミドを、50 mlのCH2Cl2に溶解させた。1.03 g(5 mMol)ジシクロヘキシル-カルボジイミドをこの反応混合物に添加して、溶液を室温で20時間撹拌した。沈殿物を濾別して、濾液から溶媒を留去した。得られた残渣をEtOAcに溶解した。このEtOAc層を、NaHCO3溶液で2回、5%クエン酸で2回、そして飽和NaCl溶液で2回洗浄し、MgSO4で乾燥して、次いで溶媒を留去した。残りの固体発泡体を約5 mlのEtOAcに溶解して、この溶液が濁るまで、約50 mlのジエチルエーテルを注意深く添加した。次いで、A-Kohleをこの混合物に混合し、撹拌して、濾過した。この濾液から溶媒を留去し、残った残渣をジイソプロピルエーテルで処理した後に濾別した。
収率:1.58 g(50%)
1H-NMR (CDCl3) δ 1.32 u. 1.43(s, s, 18H, 2× t-Bu); 1.57-2.04(m, 4H); 2.78(s, 4H, O-Su); 3.25-3.67(m, 2H, N-CH2); 4.88(m, 1H, N-CH); 6.88 u. 7.76(m, m, 4H, Ph); 8.04(s, 1H, CH=C-CN); 7.21, 8.49, 〜8.75, 11.45(4H, 3× NH, OH)
MS: 643 (M+1)。
Nα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Arg-ωω`(Boc2)-N-(6-アミノ-ヘキサン酸-OSu-エステル)の合成
ここで、図17cに示すタグ化合物の合成を記載する。この中間体は、図20に示すスキームに従って番号付けする。
Nα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Arg-ωω`(Boc2)-N-(6-アミノ-ヘキサン酸)(2)
5.42 g(10 mMol)のNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Arg-ωω`(Boc2)-OH(1)と1.15 g(10 mMol)のN-ヒドロキシ-スクシンイミドを、100 mLのジクロロメタンに溶解させた。2.06 g(10 mMol)のジクロロヘキシル-カルボジイミドをこの溶液に添加し、反応混合物を室温で20時間撹拌した。この沈殿物を濾別して、濾液から溶媒を留去した。次いで、(1)から得られた粗活性エステル生成物を45 mlのTHFに溶解させた。1.31 g(10 mMol)の6-アミノ-ヘキサン酸と0.84 g(10 mMol)のNaHCO3の水溶液を、この反応混合物に添加した。反応混合物を室温で20時間撹拌した後、2 NのHCl溶液を用いて溶液のpHを3とし、生成物をEtOAcで抽出した。次いで有機層を乾燥して溶媒を留去した。残渣をEtOAc/ジイソプロピルエーテル(1:l,v:v)を用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:2.6 g(40%)
HPLC:>98%[Lichrosorb RP 18,(5μm)Merck# 50333;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=55:45,流量 1 ml/分;4.1分]
1H-NMR (CDCl3) δ 1.43 u. 1.48(s, s, 18H, 2× t-Bu); 1.30-1.73(m, 10H); 1.74-1.85(m, 1H); 1.85-1.97(m, 1H); 2.34(m, 2H); 3.15-3.39(m, 2H); 3.45(m, 2H); 4.51(m, 1H); 6.92 u. 7.76(m, m, 4H, Ph); 8.0(s, 1H, CH=C-CN); 7.03, 7.26, 〜8.55, 9.5(4H, 3× NH, OH)。
Nα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Arg-ωω`(Boc2)-N-(6-アミノ−ヘキサン酸-OSu-エステル)(3)
2.63 g(4 mMol)のNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Arg-ωω`(Boc2)-N-(6-アミノ-ヘキサン酸)(2)と0.46 g(4 mMol)のN-ヒドロキシ-スクシンイミドを、50 mlのCH2Cl2に溶解させた。次いで、0.91 g(4.4 mMol)のジシクロヘキシル-カルボジイミドを溶液に添加し、反応混合物を室温で20時間撹拌した。沈殿物を濾別して濾液から溶媒を留去した。次いで、得られた残渣をEtOAcに溶解させて、有機溶液をNaHCO3溶液と水で洗浄した。有機層を乾燥して溶媒を留去した後、適度な圧力のもとで短いシリカゲルカラムとEtOAcを用いたクロマトグラフィーによって、残渣を迅速に精製した。
収率:1.53 g(50%)
RF=0.56(EtOAc)
HPLC:95%[Lichrosorb RP 18,(5μm)Merck# 50333;CH3CN:(H2O+0.01M TBAS)=55:45,流量 1 ml/分;6.1分]
1H-NMR (CDCl3) δ 1.45 u. 1.49(s, s, 18H, 2× t-Bu); 1.40-1.98(m, 11H); 2.6(t, 2H); 2.85(s, 4H, OSu); 3.24-3.37(m, 2H); 3.38-3.57(m, 2H); 4.54(m, 1H); 6.92と7.77(m, 4H, Ph); 8.01(s, 1H, CH=C-CN); 6.85, 7.09, 8.53, 11.45(4H, 3× NH, OH)。
4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-[5-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルオキシカルボニル)-ペンチル]-ピペラジン-1-イウム塩酸塩の合成
ここで、図17dに示すタグ化合物の合成を記載する。中間体は図21に示すスキームに従って番号付けする。
4-Boc-l-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(2)
24.3 g(90 mMol)の6-ヨードヘキサン酸-エチルエステルと16.76 g(90 mmol)の1-Boc-ピペラジン(1)を、75 mlのTHFに溶解させて、16.95 ml(99 mmol)のジイソプロピル-エチル-アミンをこの溶液に添加した。この反応混合物を還流下で6時間加熱した。次いで、溶媒を減圧下で留去した。この残渣をEtOAcに溶解し、得られた溶液をNaHCO3溶液で3回、そして水で1回洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥し溶媒を留去した後、残った油状物を、EtOAcを用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:27.6 g(93%)
1H-NMR (CDCl3) δ 1.25(t, 3H, O-C-CH3); 1.3-1.38(m, 2H); 1.45(s, 9H, t-Bu); 1.48-1.55(m, 2H); 1.6-1.68(m, 2H); 2.27-2.4(m, 8H, 3× C-N-CH2, CH2-CO); 3.42(t, 4H, 2× CO-N-CH2); 4.12(q, 2H, O-CH2)。
6-(ピペラジン-1-イル)-ヘキサン酸-エチルエステル(3)
26.3 g(80 mmol)の4-Boc-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)ピペラジン(2)を、150 mlの2 N HClに溶解させ、この溶液を減圧下で50℃でロータリーエバポレーターを用いて蒸留した。15%のNaOH溶液を用いて残渣のpHを10とし、目的化合物をEtOAcで抽出した。この有機層をMgSO4で乾燥し、溶媒を留去した。
収率:2.2 g(66%)
HPLC>98%[Lichrosorb RP 18(5μm)Merck# 50333;アセトニトリル/(H2O+0.01M TBAS)=25:75;流量 1ml/分;6.3分]。
4-(2-クロロアセチル)-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(4)
12.2 g(53 mMol)の6-(ピペラジン-1-イル)-ヘキサン酸エチルエステル(3)および7.35 ml(53 mMol)のTEAを、140 mlのCH2Cl2に溶解させた。この溶液に、4.22 ml(53 mMol)の塩化クロロアセチルを0℃で一滴ずつ添加した後、この反応混合物を室温で2時間撹拌した。この溶液をNaHCO3溶液で2回、水で1回洗浄した。MgSO4で有機層を乾燥し、溶媒を留去した後、残りの油状物を、EtOAc/CH3OH(10:1,v:v)を用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:10.3 g(67%)
F=0.44(EtOAc/CH3OH=5:1)
HPLC 91%[Lichrosorb RP 18(5μm)Merck# 50333;アセトニトリル/(H2O+0.01M TBAS)=25:75;流量 1 ml/分;2.1分]。
この段階で、この化合物は、化合物(5)の合成のために十分に純粋である。
4-(2-シアノアセチル)-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(5)
10.3 g(36 mMol)の4-(2-クロロアセチル)-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(4)および2.76 g(42 mMol)のKCNを、50 mlのDMSOに溶解させ、混合物を室温で3時間撹拌した。溶液を冷却した後、この混合物を300 mlの水に注いで、生成物をEtOAcで抽出した。この有機層を飽和NaCl溶液で2回洗浄して、MgSO上で乾燥し、次いで溶媒を留去した。その残渣をEtOAc/CH3OH(10:1,v:v)を用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:5.2 g(53%)
HPLC>98%[Lichrosorb RP 18(5μm)Merck# 50333;アセトニトリル/(H2O+0.01M TBAS)=25:75;流量 1ml/分;2.0分]
1H-NMR (CDCl3) δ 1.25(t, 3H, O-C-CH3); 1.31-1.39, 1.46-1.54, 1.6-1.68(m, m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.3, 2.36, 2.42 u. 2.49(t, t, t, t, 8H, 3× C-N-CH2, CH2-CO); 3.45 u. 3.62(t, t, 4H, OSu); 3.24-3.37(m, 2H); 3.38-3.57(m, 2H); 4.54(m, 1H); 6.92と7.77(m, 4H, 2× CO-N-CH2); 3.53(s, 2H, NC-CH2); 4.12(q, 2H, O-CH2)。
4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(6)
5.15 g(18.4 mMol)の4-(2-シアノ-アセチル)-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(5)および2.25 g(18.4 mMol)の4-ヒドロキシベンズアルデヒドを、30 mLのピリジンに溶解させた。この溶液に0.33 mlのピペリジンを添加した後、反応混合物を55℃で3時間、そして室温で20時間撹拌した。次いで、ピリジンを減圧下で留去し、残渣をEtOAcに溶解した。その有機溶液を飽和NaCl溶液で3回洗浄し、MgSO4で乾燥し、溶媒を留去した。残った生成物をEtOAc/CH3OH(10:1,v:v)を用いたクロマトグラフィーにより精製した。
収率:5.8 g(79%)
HPLC>98%[Lichrosorb RP 18(5μm)Merck# 50333;アセトニトリル/(H2O+0.01M TBAS)=25:75;流量 1ml/分;3.0分]
1H-NMR (d6-DMSO) δ 1.17(t, 3H, O-C-CH3); 1.23-1.32, 1.38-1.47, 1.49-1.57(m, m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.24-2.31, 2.38, 2.42 u. 2.49(m, t, 8H, 3× C-N-CH2, CH2-CO); 3.54(t, 4H, 2× CO-N-CH2); 4.04(q, 2H, O-CH2), 6.91 u. 7.83(m, m, 4H, Ph); 7.62(s, 1H, CH=C-CN); 10.47(br.s, 1H, OH)。
4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-(5-ヒドロキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン-1-イウム;塩酸塩(7)
5.79 g(14.5 mMol)の4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-(5-エトキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン(6)を、25 mlのメタノールに溶解させた。20 ml(40 mMol)の2 N NaOHを、この溶液へ室温で添加し、この反応混合物を室温で2時間撹拌した。次いで、2 N HClを用いてこの溶液のpHを4.2とし、減圧下でメタノールを留去した。これによって、油状の層を有する水相が残り、これを直ちに再結晶させた。この生成物を濾別して、水およびアセトンで洗浄した。
収率:4.5 g(76%)
HPLC 94%[Lichrosorb RP 18(5μm)Merck# 50333;アセトニトリル/(H2O+0.01M TBAS)=20:80;流量 1ml/分;2.3分]
1H-NMR (d6-DMSO) δ 1.23-1.35, 1.46-1.56, 1.65-1.78(m, m, m, 6H, N-C-(CH2)3-C-CO); 2.23(t, 2H, CH2-CO); 3.05(m, 4H, 2× CO-N-CH2); 3.5(m, 4H, 2× N+-CH2-C-N-); 4.25(m, 2H, N+-CH2), 6.95 u. 7.86(m, m, 4H, Ph); 7.71(s, 1H, CH=C-CN); 10.66(s, 1H, +NH); 11.34と12.04(br.s, br.s, 2H, 2× OH)。
4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-[5-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルオキシカルボニル)-ペンチル]-ピペラジン-1-イウム塩酸塩(8)
1.86 g(5 mMol)の4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-(5-ヒドロキシカルボニル-ペンチル)-ピペラジン-1-イウム塩酸塩(7)および0.64 g(5.5 mMol)のN-ヒドロキシ-スクシンイミドを、25mlのDMFに溶解させた。2.06 g(10 mMol)のジシクロヘキシル-カルボジイミドをこの溶液に添加し、反応混合物を室温で20時間撹拌した。沈殿を濾別し、濾液を200 mlのジイソプロピルエーテルと混合した。この時点で、油状物が形成された。この混合物を−20℃まで冷却したところ、その残渣は極めて粘稠になり、透明な液体を除去することができた。ジイソプロピルエーテルでこの残渣を2回洗浄した後、この油状物をアセトニトリルに溶解させた。次いで、この溶液を濾過し、その濾液から溶媒を留去した。残った固体発泡体をEtOAcで処理して濾別した。
収率:2.03 g(81%)
HPLC 97%[Lichrosorb RP 18(5μm)Merck# 50333;アセトニトリル/(H2O+0.01M TBAS)=15:85;流量 1ml/分;6.4分]。
図1は、4-ヒドロキシ-α-シアノ-ケイ皮酸をベースとする2つのMALDIマトリックス質量タグの合成スキームを示す。 図2は、本発明の反応性タグと合成ペプチドとのカップリング反応により得られた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のチャートを示す。 図3は、図1に示したペプチド混合物のMALDI TOFマススペクトルを示す。 図4は、合成ペプチドと、リンカーを含む反応性MALDIマトリックス質量タグとの標識反応から得られたMALDI TOFマススペクトルを示す。 図5aは、β-MSHについての標識化プロトコールのスキームを示す。 図5bは、標識されていない未消化のβ-MSHペプチドのMALDI TOFスペクトルを示す。 図6は、β-MSH消化物の標識されているものといないものとの標識消化物のMALDI TOFスペクトルを示す。 図7は、ペプチドと標識されていないβ-MSHの消化物とを種々のモル比で混合したもののMALDI TOFマススペクトルを示す。 図8は、β-MSHのアミノ酸7〜11を含む44pmolの標識化ペプチドと、180pmolの未標識β-MSH消化物とを混合したストック溶液の段階希釈物についての多数のMALDI TOFマススペクトルを示す。最初のスペクトルは、ストック溶液のMALDI TOF分析を示す。 図9は、未標識BSAの代表的なMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントのマススペクトルを示す。 図10は、MS-Fitデータベース検索プログラムを用いた、SWISSPROTデータベース中の未修飾BSAペプチドについての検索結果を示す。 図11は、標識化BSAのMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントのマススペクトルを示す。 図12は、MS-Fitデータベース検索プログラムを用いた、SWISSPROTデータベース中の修飾化BSAペプチドについての検索結果を示す。 図13は、未標識のGAPDHについての代表的なMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントのマススペクトルを示す。 図14は、MS-Fitデータベース検索プログラムを用いた、SWISSPROTデータベース中の未修飾のGAPDHペプチドについての検索結果を示す。 図15は、標識化GAPDHのMALDI TOFペプチドマスフィンガープリントのマススペクトルを示す。 図16は、MS-Fitデータベース検索プログラムを用いた、SWISSPROTデータベース中の修飾化GAPDHペプチドについての検索結果を示す。 図17aは、タグ化合物である6-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-3-スルホネート-フェニル)-アクリロイルアミノ]-ヘキサン酸-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)エステル ナトリウムを示す。 図17bは、タグ化合物であるNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Argωω`(Boc2)-2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルエステルを示す。 図17cは、タグ化合物であるNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Argωω`(Boc2)-N-(6-アミノ-ヘキサン酸-OSu-エステル)を示す。 図17dは、タグ化合物である4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-[5-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルオキシカルボニル)-ペンチル]-ピペラジン-1-イウム ハイドロクロライドを示す。 図18は、図17aに示される、タグ化合物である6-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-3-スルホネート-フェニル)-アクリロイルアミノ]-ヘキサン酸-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イル)-エステル ナトリウムの合成スキームを示す。 図19は、図17bに示されるタグ化合物であるNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]-Argωω`(Boc2)-2,5-ジオキソ−ピロリジン-1-イルエステルの合成スキームを示す。 図17cに示されるタグ化合物であるNα-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-アクリロイル]- Argωω`(Boc2)-N-(6-アミノ-ヘキサン酸-OSu-エステル)の合成スキームを示す。 図21は、図17dに示されるタグ化合物である4-[2-シアノ-3-(4-ヒドロキシ-フェニル)-アクリロイル]-1-[5-(2,5-ジオキソ-ピロリジン-1-イルオキシカルボニル]-ペンチル]-ピペラジン-1-イウム ハイドロクロライドの合成のスキームを示す。

Claims (43)

  1. マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により被分析物を分析するための方法であって:
    (a) 予め定めた周波数の光を吸収する光吸収ラベルにより該被分析物を標識することによって、標識化被分析物を形成する工程;
    (b) 該標識化被分析物を、上記光吸収ラベルが吸収する光と同じ周波数の光を吸収する少なくとも1つの光吸収性化合物から形成されたマトリックス中に包埋することによって、包埋標識化被分析物を形成する工程;
    (c) 該包埋標識化被分析物を、予め定めた該周波数を有する光に露光して上記光吸収ラベルを介して発光励起を熱的に放散させることにより脱離させて、脱離標識化被分析物を形成する工程;および
    (d) 該脱離標識化被分析物を質量分析法により検出することによって、該被分析物を分析する工程;
    を含むことを特徴とする方法。
  2. 請求項1に記載の方法において、上記脱離標識化被分析物を質量分析法により直接検出する方法。
  3. 請求項1に記載の方法において、上記脱離標識化被分析物を質量分析法により間接的に検出するものであり、上記被分析物をこれに関係し得る質量標識でさらに標識し、且つ、該質量標識を上記脱離標識化被分析物から切断して質量分析法により検出することによって、被分析物を分析する方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、上記包埋標識化被分析物に露光する光をレーザー光とする方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の方法において、上記マトリックスおよび上記光吸収ラベルを同じ化合物で形成する方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の方法において、上記マトリックスとして固体マトリックスまたは液体マトリックスを用いる方法。
  7. 請求項6に記載の方法において、上記マトリックスとしてニトロベンジルアルコールを含む液体マトリックスを用いる方法。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の方法において、上記マトリックスとして酸性マトリックスまたは塩基性マトリックスを含むものを用いる方法。
  9. 請求項8に記載の方法において、上記マトリックスとして、3-ヒドロキシピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸および4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸から選択される化合物を含むものを用いる方法。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の方法において、上記光吸収ラベルとして色素から形成されるものを用いる方法。
  11. 請求項10に記載の方法において、上記色素として非蛍光色素を用いる方法。
  12. 請求項10または請求項11に記載の方法において、上記色素として、4-ジメチルアミノアゾベンジン-4'-スルフォニルクロライド(ダンシルクロライド)、3-ヒドロキシピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸および4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸を含むものを用いる方法。
  13. 請求項1〜12のいずれかに記載の方法において、上記被分析物として、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチドフラグメントおよびアミノ酸から選択される1つ以上の化合物を含むものを分析する方法。
  14. ポリペプチドを分析するための方法であって:
    (b) 配列特異的切断試薬により該ポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
    (e) 請求項1〜13のいずれかに記載の方法により該ペプチドフラグメントを分析することによって、該ポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
    (f) 該マスフィンガープリントから該ポリペプチドを同定する工程;
    を含む方法。
  15. さらに、下記の工程を含む請求項14に記載の方法。
    (a) 該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元して遊離のチオールを形成し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
    (c) 該切断試薬を不活性化する工程;
    (d) ε-アミノ基をリシン反応性試薬によりキャッピングする工程
  16. ポリペプチド群を分析するための方法であって:
    (i) 該ポリペプチド群から1または2以上のポリペプチドを分離する工程;
    (j) 配列特異的切断試薬により1または2以上のポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
    (m) 請求項1〜13のいずれかに記載の方法により1または2以上のペプチドフラグメントを分析することによって、該ポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
    (n) 該マスフィンガープリントから1または2以上のポリペプチドを同定する工程;
    を含む方法。
  17. さらに、下記の工程を含む請求項16に記載の方法。
    (h) 1または2以上の該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元して遊離のチオールを形成し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
    (k) 該切断試薬を不活性化する工程;
    (l) ε-アミノ基をリシン反応性試薬によりキャッピングする工程
  18. 各サンプルが1または2以上のポリペプチドを含む複数のサンプルを比較するための方法であって:
    (i) 該サンプルの各々から1または2以上のポリペプチドを分離する工程;
    (j) 配列特異的切断試薬により該ポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
    (m) 請求項1〜13のいずれかに記載の方法によりペプチドフラグメントを分析することによって、該サンプル由来の1または2以上のポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
    (n) 1または2以上のマスフィンガープリントから該サンプル中の1または2以上のポリペプチドを同定する工程;
    を含む方法。
  19. さらに、下記の工程を含む請求項18に記載の方法。
    (h) 該サンプル由来の1または2以上の該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
    (k) 該切断試薬を不活性化する工程;
    (l) ε-アミノ基をリシン反応性試薬によりキャッピングする工程
  20. 請求項15、17、19のいずれかに記載の方法において、上記リシン反応性試薬として標識されたものを用いる方法。
  21. 各サンプルが1または2以上のポリペプチドを含む複数のサンプルを比較するための請求項18または19に記載の方法において:
    (b) 各サンプル中のε-アミノ基を標識されたリシン反応性試薬によりキャッピン
    グする工程;
    (c) 該サンプルをプールする工程;
    (d) プールされた該サンプルから1または2以上のポリペプチドを分離する工程;
    (e) 配列特異的切断試薬により該ポリペプチドを切断し、ペプチドフラグメントを形成する工程;
    (g) 請求項1〜13のいずれかに記載の方法によりペプチドフラグメントを分析することによって、該サンプル由来の1または2以上のポリペプチドについてのマスフィンガープリントを作成する工程;並びに
    (h) 1または2以上のマスフィンガープリントから該サンプル中の1または2以上のポリペプチドを同定する工程;
    を含み、
    ここで、同じサンプル由来のポリペプチドまたはペプチドに対しては同じ標識を使用し、異なるサンプル由来のポリペプチドまたはペプチドに対しては異なる標識を用いることによって、ポリペプチドまたはペプチドが含まれていたサンプルの決定が、その標識から可能になる方法。
  22. さらに、下記の工程を含む請求項21に記載の方法。
    (a) 該サンプル由来の1または2以上の該ポリペプチド中のシステインジスルフィド結合を還元し、遊離した該チオールをキャッピングする工程;
    (f) 該切断試薬を不活性化する工程
  23. 請求項14〜22のいずれかに記載の方法において、上記配列特異的切断試薬によって、1または2以上のポリペプチドのリシン残基のC末端側において切断する方法。
  24. 請求項14〜23のいずれかに記載の方法において、上記特異的切断試薬としてLys-C
    またはトリプシンを含むものを用いる方法。
  25. 請求項15、17、及び19〜24のいずれかに記載の方法において、キャッピングされたε-アミノ基を有する上記ペプチドフラグメントをアフィニティーキャプチャ法によ
    り除去し、上記リシン反応性試薬としてビオチンを含むものを用いる方法。
  26. 請求項15、17、及び19〜25のいずれかに記載の方法において、上記リシン反応性試薬としてヒンダード・ミカエル試薬を含むものを用いる方法。
  27. 請求項26に記載の方法において、上記ヒンダード・ミカエル試薬として以下構造を有するものを用いる方法:
    式中、Xは負荷電を安定化することができる電子求引基であり;R基は、該R基の少なくとも1つは立体障害性基を含む条件下で、独立して水素、ハロゲン、アルキル、アリールまたは芳香族基を含むものであり;R基は、水素、ハロゲン、炭化水素基、電子求引基および/またはアフィニティーキャプチャ性官能基若しくは固相支持体に結合できるリンカーを含むものを示す。
  28. 請求項1〜27のいずれかに記載のマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により被分析物を分析するための方法に用いるキットであって:
    (a) 被分析物へラベルを結合させるための反応性官能基を有する1または2以上の光吸収ラベル;および
    (b) マトリックスを形成するための化合物であって、該光吸収ラベルと同じ周波数の光を吸収する化合物
    を含有するキット。
  29. 請求項28に記載のキットにおいて、上記構成要素(a)が、以下の構造を有する化合物を含むキット:
    M−L−R
    式中、Mは、ケイ皮酸誘導体、ニコチン酸誘導体、ピコリン酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸誘導体、メトキシ安息香酸誘導体またはシナピン酸誘導体を含む質量マーカーであり、Lはリンカーを含むものであり、Rは該化合物を被分析物に結合させるための反応性官能基を含む。
  30. 請求項29に記載のキットにおいて、Mが、4-ジメチルアミノアゾベンジン-4'-スルフォニルクロライド(ダンシルクロライド)、3-ヒドロキシピコリン酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸および4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸から選択される非蛍光色素化合物を含むものであるキット。
  31. 請求項29または30に記載のキットにおいて、上記リンカーが、-CR2-CH2-SO2-、-N(CR2-CH2-SO2-)2、-NH-CR2-CH2-SO2-、-CO-NH-、-CO-O-、-NH-CO-NH-、-NH-CS-NH-、-CH2-NH-、-SO2-NH-、-NH-CH2-CH2-、-OP(=O)(O)O-およびMの酸基によるアミド結合から選択
    される基を含むものであるキット。
  32. 請求項29〜31のいずれかに記載のキットにおいて、Rが、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチドフラグメントまたはアミノ酸へ該化合物を結合するためのものであるキット。
  33. 請求項29〜32のいずれかに記載のキットにおいて、Rが、エステル基、酸無水物基、酸ハライド基、N-ヒドロキシコハク酸アミド基、ペンタフルオロフェニルエステル基、マレイミド基、アルケニルスルホン基またはヨードアセトアミド基を含むものであるキット。
  34. 請求項29〜33のいずれかに記載のキットにおいて、更にアフィニティーリガンドを含むものであるキット。
  35. 請求項34に記載のキットにおいて、上記アフィニティーリガンドがビオチンを含むものであるキット。
  36. 請求項29〜35のいずれかに記載のキットにおいて、さらにイオン化可能部分を含むものであるキット。
  37. 請求項36に記載のキットにおいて、上記イオン化可能部分が、第三級アミノ基、グアニジノ基およびスルホン酸基から選択されるものであるキット。
  38. 請求項29〜37のいずれかに記載のキットにおいて、ケイ皮酸官能基を含むものであるキット。
  39. 請求項28に記載のキットにおいて、上記構成要素(a)として、以下の構造を有する化合物を2つ以上含む化合物群を含み、且つ該化合物群中の各化合物の質量は、該化合物群中の他の全ての化合物の質量と異なるものであるキット
    M−L−R
    式中、Mは、ケイ皮酸誘導体、ニコチン酸誘導体、ピコリン酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸誘導体、メトキシ安息香酸誘導体またはシナピン酸誘導体を含む質量マーカーであり、Lはリンカーを含むものであり、Rは該化合物を被分析物に結合させるための反応性官能基を含む
  40. 請求項39に記載のキットにおいて、該化合物群における各化合物の質量の相違が、同位体置換によるものであるキット。
  41. さらに、イオン交換樹脂を含有する請求項29〜40のいずれかに記載のキット。
  42. 請求項41に記載のキットにおいて、上記化合物または化合物群が、正の電荷を生じ得るイオン化可能部分を含み、上記イオン交換樹脂が陽イオン交換樹脂を含むものであるキット。
  43. 請求項41に記載のキットにおいて、上記化合物または化合物群が、負の電荷を生じ得るイオン化可能部分を含み、上記イオン交換樹脂が陰イオン交換樹脂を含むものであるキット。
JP2003584731A 2002-04-04 2003-04-04 被分析物の分析方法 Expired - Fee Related JP4606028B2 (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
EP02252440 2002-04-04
PCT/GB2003/001485 WO2003087839A1 (en) 2002-04-04 2003-04-04 Method for characterising analytes

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2005521892A JP2005521892A (ja) 2005-07-21
JP4606028B2 true JP4606028B2 (ja) 2011-01-05

Family

ID=29225716

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2003584731A Expired - Fee Related JP4606028B2 (ja) 2002-04-04 2003-04-04 被分析物の分析方法

Country Status (6)

Country Link
US (1) US7700306B2 (ja)
EP (1) EP1490693A1 (ja)
JP (1) JP4606028B2 (ja)
AU (1) AU2003224253A1 (ja)
CA (1) CA2480836C (ja)
WO (1) WO2003087839A1 (ja)

Families Citing this family (24)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP1687638B1 (en) * 2003-11-26 2007-10-31 Applera Corporation Analysis of mass spectral data in the quiet zones
US20060214104A1 (en) * 2004-10-26 2006-09-28 Invitrogen Corporation Compositions and methods for analyzing biomolecules using mass spectroscopy
US7095018B2 (en) * 2004-12-29 2006-08-22 Wisconsin Alumni Research Foundation Deposition of samples and sample matrix for enhancing the sensitivity of matrix assisted laser desorption/ionization mass spectrometry
JP4720254B2 (ja) * 2005-03-31 2011-07-13 日本電気株式会社 分析方法、分析システム、及び分析プログラム
US20060261267A1 (en) * 2005-05-20 2006-11-23 Agency For Science, Technology And Research Composite MALDI matrix material and methods of using it and kits thereof in MALDI
US20070134802A1 (en) * 2005-06-30 2007-06-14 Heinz Doebeli Ionization modifier for mass spectrometry
GB0518585D0 (en) 2005-09-12 2005-10-19 Electrophoretics Ltd Mass labels
DE102007040251B3 (de) 2007-08-27 2009-01-08 Johann Wolfgang Goethe-Universität Frankfurt am Main Verwendung von Cyanozimtsäurederivaten als Matrizes in MALDI-Massenspektrometrie
JP5872768B2 (ja) * 2008-06-12 2016-03-01 住友ベークライト株式会社 糖鎖試料調製方法
NZ591837A (en) * 2008-09-18 2013-03-28 Nippon Zoki Pharmaceutical Co Amino acid derivative
EP2226314A1 (fr) 2009-03-04 2010-09-08 Centre National De La Recherche Scientifique -Cnrs- Agents de reticulation
JP5283178B2 (ja) * 2009-03-05 2013-09-04 株式会社島津製作所 マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析用マトリックス
DE102010010155A1 (de) 2010-03-04 2011-09-08 Johann Wolfgang Goethe-Universität Verwendung von halogenierten Cyanozimtsäurederivaten als Matrizes in MALDI-Massenspektrometrie
JP5210405B2 (ja) * 2010-03-17 2013-06-12 日本臓器製薬株式会社 アミノ酸誘導体を含有する医薬及び該誘導体の製造方法
CN103376324A (zh) * 2012-04-25 2013-10-30 中国科学院上海生命科学研究院 白蛋白作为肥胖型糖尿病标志物的应用
EP2906720A4 (en) 2012-10-10 2016-06-01 Univ Arizona SYSTEMS AND DEVICES FOR DETECTING MOLECULES AND METHOD FOR THE PRODUCTION THEREOF
JP6108805B2 (ja) * 2012-12-10 2017-04-05 公益財団法人野口研究所 レーザー脱離イオン化質量分析法
EP3462167A1 (en) 2013-03-05 2019-04-03 Arizona Board of Regents on behalf of Arizona State University Translocation of a polymer through a nanopore
WO2015033743A1 (ja) * 2013-09-06 2015-03-12 住友ベークライト株式会社 標識糖鎖試料の調製方法
US10336713B2 (en) 2014-02-27 2019-07-02 Arizona Board Of Regents, Acting For And On Behalf Of, Arizona State University Triazole-based reader molecules and methods for synthesizing and use thereof
EP3148522A4 (en) * 2014-05-28 2018-01-10 The Board of Regents of The University of Texas System Novel compounds supports hematopoietic stem cells and red blood cells
JP6857569B2 (ja) * 2017-07-26 2021-04-14 日本電子株式会社 質量分析システム及び質量スペクトル表示方法
GB2593091B (en) * 2018-10-05 2023-12-20 Univ Texas Solid-phase N-terminal peptide capture and release
CN110927270B (zh) * 2019-11-28 2022-05-31 合肥安德生制药有限公司 紫杉肽中有关物质dmap的检测方法

Family Cites Families (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH05137599A (ja) 1991-11-22 1993-06-01 Takara Shuzo Co Ltd 蛍光基質
US5506115A (en) 1994-04-29 1996-04-09 G. D. Searle & Co. Reagent and method for determining activity of herpes protease
US5986076A (en) 1994-05-11 1999-11-16 Trustees Of Boston University Photocleavable agents and conjugates for the detection and isolation of biomolecules
ATE374836T1 (de) * 1997-01-15 2007-10-15 Xzillion Gmbh & Co Kg Massenmarkierte hybridisierungssonden
IL130949A (en) 1997-01-23 2004-12-15 Xzillion Gmbh & Co Kg Method for characterising polypeptides
ATE256142T1 (de) 1998-05-15 2003-12-15 Isis Innovation Bibliotheken von unterschiedlich markierten oligomeren
GB9821393D0 (en) 1998-10-01 1998-11-25 Brax Genomics Ltd Protein profiling 2
GB0006141D0 (en) * 2000-03-14 2000-05-03 Brax Group Ltd Mass labels
WO2002012893A2 (en) 2000-08-03 2002-02-14 Massachusetts Institute Of Technology Microarrays of functional biomolecules, and uses therefor
DE60127162T2 (de) * 2000-10-06 2008-04-24 The Trustees Of Columbia University In The City Of New York Massives Parallelverfahren zur Dekodierung von DNA und RNA

Also Published As

Publication number Publication date
WO2003087839A1 (en) 2003-10-23
CA2480836A1 (en) 2003-10-23
CA2480836C (en) 2015-06-09
JP2005521892A (ja) 2005-07-21
AU2003224253A1 (en) 2003-10-27
EP1490693A1 (en) 2004-12-29
US7700306B2 (en) 2010-04-20
US20060040334A1 (en) 2006-02-23

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4606028B2 (ja) 被分析物の分析方法
JP4290003B2 (ja) 質量標識体
US9023656B2 (en) Reactive mass labels
JP4744433B2 (ja) 質量標識体
EP1926997B1 (en) Mass labels
JP4163103B2 (ja) ポリペプチドの特徴分析方法
US20070009960A1 (en) Characterising polypeptides
AU2002331952B2 (en) Mass labels
AU2002331952A1 (en) Mass labels

Legal Events

Date Code Title Description
A625 Written request for application examination (by other person)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A625

Effective date: 20060403

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20060403

A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711

Effective date: 20080110

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20080110

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20090203

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20090507

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20090514

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20090603

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20090610

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20090703

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20091006

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20100106

A602 Written permission of extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A602

Effective date: 20100114

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20100202

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20100420

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20100715

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20100810

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20100818

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20100914

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20101005

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131015

Year of fee payment: 3

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees