JP4593680B1 - 金属加工具の再処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】使用済み金属加工具を、チタン系焼結体の優れた性能を維持しつつ、十分な耐酸化性を有する状態に処理できる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、炭窒化チタンを硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材11を備えた使用済み金属加工具を再生利用するための方法を対象とする。本方法は、サーメット基材11を洗浄する洗浄工程と、その後、前記サーメット基材11の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜12を形成する耐酸化膜形成工程とを含む。洗浄工程は、アルカリ性水溶液によりサーメット基材11を洗浄するアルカリ洗浄処理と、アルカリ洗浄処理完了後、お湯によりサーメット基材11を洗浄する水洗処理と、水洗処理完了後、エアーブローによりサーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行う。
【選択図】図7

Description

この発明は、使用済みの金属加工具を再生利用するための金属加工具の再処理方法およびその関連技術に関する。
炭窒化チタン(TiCN)を硬質相の主成分とし、鉄属金属を結合相の主成分とする炭窒化チタン系焼結体(炭窒化チタン基サーメット)は、硬度や強度が高く、またアルミニウムやその合金と反応し難いこと、各種金属との滑り性が良く低摩擦係数が得られる等の優れた特徴を保有しており、金属パイプの拡管用ダイス、縮管用ダイス、切削用チップ等の金属加工品(金属加工具)として好適に用いられている。
ところが、TiCN系サーメットは、高温下で、酸素が存在する雰囲気中に曝されると、構成元素のチタンが酸化されてサーメット表面に酸化チタンが生成されてしまう。この酸化チタンは脆いため、酸化チタン膜が形成されたサーメット製の工具によって、金属を加工すると、酸化チタン膜が脱落し、表面が荒れてしまい、加工性能が低下する。さらに酸化チタン層は、摩耗が早いため、耐久性も低下してしまう。
そこで従来より、チタン系サーメットの耐酸化性を向上させるために、サーメットを構成する成分に、他の元素を添加する方法が提案されている。
例えば特許文献1に示すサーメットは、チタン系焼結材料にクロムを含有させることにより、クロム(Cr)とチタン(Ti)との複合化合物を主成分として構成されており、耐酸化性を向上させるようにしている。
一方、耐酸化性の向上を目的とするものではないが、チタン系焼結体に硬質膜が形成された表面被覆サーメット部材も従来より多数提案されている。
例えば特許文献2に示す表面被覆サーメット部材は、基材としてのサーメットの表面に、CVD(化学蒸着法)やPVD(物理蒸着法)等によって、チタンを含む硬質膜が形成されるものである。
さらに特許文献3に示す表面被覆サーメット部材は、サーメット基材の表面に硬質膜が形成されるとともに、サーメット基材表面と硬質膜との界面に、硬質膜の密着性を向上させるために、拡散元素含有層が形成されている。
特開2006−213977号(特許請求の範囲) 特開2005−111623号(特許請求の範囲) 特開2000−355777号(特許請求の範囲)
ところが、上記特許文献1に示すように、チタン系焼結材料の成分に他の成分を含有させて形成したサーメット(焼結体)は、チタン系焼結体と成分が異なり、変質されてしまうため、チタン系焼結体の優れた性能が損なわれてしまう、という問題があった。
上記特許文献2に示す表面被覆サーメット部材は、拡散によって単純に硬質膜を形成するものであるが、サーメット基材の結合相(Co)上と、硬質相(TiC)では拡散量が異なり、例えば硬質相上では拡散がほとんど進行しないため、硬質膜の密着性が低下して、剥離によって十分な耐酸化性を確保することが困難である、という問題が発生する。
上記特許文献3に示す表面被覆サーメット部材は、硬質膜とサーメット基材との界面にさらに、拡散元素含有層を形成するものであるため、構造が複雑になり、製作が困難である、という問題が発生する。
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、使用済み金属加工具を処理することによって、チタン系焼結体の優れた性能を維持しつつ、耐酸化性を向上できる金属加工具を簡単に製作することができる金属加工具の再処理方法およびその関連技術を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
[1]炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材を備えた使用済み金属加工具を再生利用するための再処理方法であって、
前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程が完了した後、前記サーメット基材の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜を形成することにより、再処理後の金属加工具をなす表面被覆サーメット部材を得る耐酸化膜形成工程とを含み、
前記洗浄工程は、
アルカリ性水溶液により前記サーメット基材を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
前記アルカリ洗浄処理が完了した後、お湯により前記サーメット基材を洗浄する第1水洗処理と、
前記第1水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記サーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる第1乾燥処理とを行うようにしたことを特徴とする金属加工具の再処理方法。
[2]前記洗浄工程において、アルカリ洗浄処理を行った後、第1水洗処理を行う前に、酸性水溶液による中和処理を行うようにした前項1に記載の金属加工具の再処理方法。
[3]前記洗浄工程において、第1乾燥処理を行った後、研磨具により前記サーメット基材の表面を研磨する表面研磨処理を行うようにした前項1または2に記載の金属加工具の再処理方法。
[4]前記洗浄工程において、表面研磨処理を行った後、有機溶剤により、前記サーメット基材を洗浄する有機溶剤洗浄処理を行うようにした前項3に記載の金属加工具の再処理方法。
[5]前記洗浄工程において、有機溶剤洗浄処理を行った後、お湯により前記サーメット基材を洗浄する第2水洗処理を行うようにした前項4に記載の金属加工具の再処理方法。
[6]前記洗浄工程において、前記第2水洗処理を行った後、エアーブローにより前記サーメット基材の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる第2乾燥処理とを行うようにした前項5に記載の金属加工具の再処理方法。
[7]前記チタン化合物は、炭窒化チタンによって構成される前項1〜6のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[8]前記耐酸化膜は、前記サーメット基材の表面のチタン化合物と反応して、前記複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を、前記サーメット基材に塗布した後、加熱することによって形成される前項1〜7のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[9]前記処理液を塗布する前に予め、前記サーメット基材に対し酸化処理を行う前項8に記載の金属加工具の再処理方法。
[10]前記耐酸化膜は、ペロブスカイト型複合酸化物によって構成される前項1〜9のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[11]前記耐酸化膜は、前記サーメット基材に、アルカリ土類金属化合物を含む処理液を塗布した後、加熱することによって形成される前項10に記載の金属加工具の再処理方法。
[12]前記耐酸化膜は、イルメナイト型複合酸化物によって構成される前項1〜9のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[13]前記耐酸化膜は、前記サーメット基材に、鉄属2価イオンの遷移金属化合物を含む処理液を塗布した後、加熱することによって形成される前項12に記載の金属加工具の再処理方法。
[14]前記耐酸化膜は、スピネル型複合酸化物によって構成される前項1〜9のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[15]前記耐酸化膜は、前記サーメット基材に、マグネシウム化合物またはコバルト化合物を含む処理液を塗布した後、加熱することによって形成される前項14に記載の金属加工具の再処理方法。
[16]前記耐酸化膜の厚さが0.5μm以下である前項1〜15のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[17]前記複合酸化物は、酸素イオンが最密充填された結晶構造を有することを特徴とする前項1〜16のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
[18]押出材を押出成形するための押出ダイスであって、
前項1〜17のいずれかに記載の再処理方法によって得られた再処理後の金属加工具によって形成されたことを特徴とする押出ダイス。
[19]予備加熱が行われた押出ダイスによって、押出材を押出成形するようにした押出加工方法であって、
前記押出ダイスとして、前項18に記載の押出ダイスを用いるとともに、
押出成形を開始した後に、流動する押出材によって前記押出ダイスの耐酸化膜を剥離させるようにしたことを特徴とする押出加工方法。
[20]炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材の表面に、耐酸化膜が形成された表面被覆サーメット部材を製造する方法であって、
前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程が完了した後、前記サーメットの表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される前記耐酸化膜を形成して、前記表面被覆サーメット部材を得る耐酸化膜形成工程とを含み、
前記洗浄工程は、
アルカリ性水溶液により前記使用済み金属加工具の表面を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
前記アルカリ洗浄処理が完了した後、お湯により前記金属加工具を洗浄する水洗処理と、
前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記金属加工具表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うとともに、
前記耐酸化膜形成工程は、
前記サーメット基材の表面に、前記サーメット基材表面のチタン化合物と反応して複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を塗布する処理液塗布処理と、
前記塗布の後に加熱することによって耐酸化膜を形成する加熱処理とを行うようにしたことを特徴とする表面被覆サーメット部材の製造方法。
[21]炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材の表面に、耐酸化膜が形成された表面被覆サーメット部材を製造する方法であって、
前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程が完了した後、前記サーメットの表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される前記耐酸化膜を形成することにより、前記表面被覆サーメット部材を得る耐酸化膜形成工程とを含み、
前記洗浄工程は、
アルカリ性水溶液により前記サーメット基材を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
前記アルカリ洗浄処理が完了した後、お湯により前記サーメット基材を洗浄する水洗処理と、
前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記サーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うとともに、
前記耐酸化膜形成工程は、
前記サーメット基材を加熱により酸化する酸化処理と、
前記酸化処理がなされたサーメット基材の表面に、前記サーメット基材表面のチタン化合物と反応して複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を塗布する処理液塗布処理と、
前記塗布の後に加熱することによって耐酸化膜を形成する加熱処理とを行うようにしたことを特徴とする表面被覆サーメット部材の製造方法。
[22]炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜を形成するサーメット基材の耐酸化膜形成方法であって、
前記サーメット基材に前記耐酸化膜を形成する前に予め、前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程を含み、
前記洗浄工程は、
アルカリ性水溶液により前記サーメット基材を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
前記アルカリ洗浄処理が完了した後、お湯により前記サーメット基材を洗浄する水洗処理と、
前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記サーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うようにしたことを特徴とするサーメット基材の耐酸化膜形成方法。
[23]炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体における酸化を防止するためのチタン系焼結体の酸化防止方法であって、
前記焼結体の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程が完了した後、前記焼結体の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜を形成する耐酸化膜形成工程とを含み、
前記洗浄工程は、
アルカリ性水溶液により前記焼結体を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
前記アルカリ洗浄処理が完了した後、お湯により前記焼結体を洗浄する水洗処理と、
前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記焼結体表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うようにしたことを特徴とするチタン系焼結体の酸化防止方法。
発明[1]の金属加工具の再処理方法によれば、再処理された金属加工具が、炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されたチタン系サーメット基材の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成されたものであるため、チタン系焼結体の優れた性能を維持しつつ、耐酸化性を向上させることができる。さらに洗浄工程後に、サーメット基材に、耐酸化膜を形成するだけで簡単に製作することができる。
発明[2]〜[6]の金属加工具の再処理方法によれば、サーメット基材を、より一層確実に洗浄することができる。
発明[7]の金属加工具の再処理方法によれば、炭窒化チタン系焼結体の優れた性能を有する金属加工具を得ることができる。
発明[8]の金属加工具の再処理方法によれば、より簡単に再処理することができる。
発明[9]〜[15]の金属加工具の再処理方法によれば、より一層優れた耐酸化性を有する金属加工具を得ることができる。
発明[16]の金属加工具の再処理方法によれば、金属加工具を再使用する際に、その金属加工具において、耐酸化膜が剥がれた後の平滑性をより確実に確保することができる。
発明[17]の金属加工具の再処理方法によれば、耐酸化膜が、酸素イオンが最密充填された結晶構造を有しているから、酸素イオンが移動し難い安定した構造を有し、耐酸化性に優れた耐酸化膜(不動態膜)を備えた金属加工具を得ることができる。

発明[18]の押出ダイスによれば、上記と同様に、同様の効果を得ることができる。
発明[19]の押出加工方法によれば、上記と同様の効果を得ることができる上さらに、より一層確実に、チタン系焼結体の優れた性能を得ることができる。
発明[20][21]の表面被覆サーメット部材の製造方法によれば、上記と同様に、同様の効果を得ることができる。
発明[22]のサーメット基材の耐酸化膜形成方法によれば、上記と同様に、同様の効果を得ることができる。
発明[23]のチタン系焼結体の酸化防止方法によれば、上記と同様に、同様の効果を得ることができる。
図1はこの発明の実施形態に採用された表面被覆サーメット部材を模式化して示す断面図である。 図2は実施形態に採用された表面被覆サーメット部材の製造プロセスの一例を示すブロック図である。 図3は実施形態に採用された表面被覆サーメット部材の製造プロセスの他の例を示すブロック図である。 図4はこの発明の第1実施形態である押出機の押出ダイス周辺を概略的に示す断面図である。 図5は本発明のサンプルと比較のサンプルにおける熱重量変化を示すグラフである。 図6はこの発明の第1実施形態である押出ダイスの再処理方法のプロセスを示すブロック図である。 図7は第1実施形態の再処理方法における洗浄工程のプロセスを示すブロック図である。 図8はこの発明の第2実施形態である押出ダイスを示す斜視図である。 図9は第2実施形態の押出ダイスを切り欠いて示す斜視図である。 図10は第2実施形態の押出ダイスを分解して示す斜視図である。 図11は第2実施形態の押出ダイスを示す側面断面図である。 図12は第2実施形態の押出ダイスが適用された押出機の主要部を切り欠いて示す斜視図である。 図13は第2実施形態の押出機におけるダイス周辺を示す側面断面図である。 図14は第2実施形態の押出機によって製造された熱交換チューブを示す斜視図である。 図15は第2実施形態の熱交換チューブを示す正面断面図である。
<第1実施形態>
図1はこの発明の実施形態に用いられるチタン系の表面被覆サーメット部材(1)を概略的に示す断面図である。同図に示すようにこの表面被覆サーメット部材(1)は、サーメット基材(11)と、サーメット基材(11)上に設けられた耐酸化膜(12)とを備えている。
本実施形態に用いられるサーメット基材(11)は、炭窒化チタン(TiCN)の焼結体によって構成されている。このTiCN系焼結体(TiCN系サーメット)は、炭窒化チタンを主成分(硬質相における含有率が50質量%以上である成分)とする硬質相と、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)等の鉄属金属を主成分(結合相における含有率が50質量%以上である成分)とする結合相とを備えた複合材料によって構成されている。
なお、本発明において、サーメット基材(11)における硬質相の主成分は、炭窒化チタンに限られず、炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物であれば、硬質相の主成分として採用することができ、例えばサーメット基材(11)の硬質相の主成分として、TiCN−WC−TaC、TiC−WC−TaC等の多元系のチタン化合物も採用することができる。
また本発明において、サーメット基材は、必ずしもサーメットのみで構成されるものに限定されるものではない。例えばダイス鋼やセラミクス等のサーメット以外の材料の表面にサーメット層が設けられた構成のものであっても良い。さらにダイス鋼やセラミクス等のサーメット以外の材料の表面にサーメット層を設ける手法は特に限定されないが、例えば溶射法、PVD法等を好適に用いることができる。
耐酸化膜(12)は、チタンを含む複合酸化物によって構成されている。前記チタンを含む複合酸化物は、酸素イオンが最密充填された結晶構造を有したものであるのが好ましい。複合酸化物が、酸素イオンが最密充填された結晶構造を有している場合には、酸素イオンが移動し難い安定した構造を有し、耐酸化性に優れた耐酸化膜(不動態膜)を形成することができる。
この複合酸化物としては例えば、ペロブスカイト(CaTiO3)型複合酸化物、イルメナイト(FeTiO3)型複合酸化物、スピネル(MgAl24)型複合酸化物を好適例として挙げることができる。
中でもペロブスカイト型複合酸化物およびイルメナイト型複合酸化物は、結晶構造において対称性および安定性が非常に高いものであり、酸素イオンの移動をより確実に妨げることができ、より一層耐酸化性に優れた耐酸化膜を形成することができる。
ペロブスカイト型複合酸化物としては、CaTiO3、SrTiO3、BaTiO3等の化学組成を有する酸化物を挙げることができる。
このペロブスカイト型複合酸化物は、酸素イオンが面心立方型最密充填された構造において、12配位の位置で、Ca2+、Sr2+、Ba2+等のイオン半径の大きな陽イオンが酸素イオンと置換され、さらに酸素イオンおよび陽イオンの隙間に、イオン半径の小さいTi4+イオンが入り込んだ構造を有している。換言すれば、最密状態に詰め込まれた大きい2価の陽イオンおよび酸素イオンの隙間に、小さいTi4+イオンが入り込んだ構造を有している。この結晶構造は、非常に安定しており、既述したように酸素イオンが移動し難い構造となっている。
このペロブスカイト型複合酸化物からなる耐酸化膜(12)は、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属を、サーメット基材表面に生成される酸化チタン(TiO2)等のチタン酸化物と反応させることによって形成するものである。
イルメナイト型複合酸化物としては、FeTiO3、NiTiO3、CoTiO3、MnTiO3、MgTiO3、ZnTiO3等の化学組成を有する酸化物を挙げることができる。
このイルメナイト型複合酸化物は、コランダムと同形の結晶構造を有し、酸素イオンが六方最密充填された構造において、酸素イオンの隙間の位置(6配位)にカチオンが入り込んだ構造を有している。換言すれば、最密状態に詰め込まれた酸素イオンの隙間に、イオン半径の小さいFe2+、Ni2+、Co2+、Mn2+、Mg2+、Zn2+イオン等と、Ti4+イオンとが入り込んだ構造を有している。この結晶構造も、非常に安定しており、既述したように酸素イオンが移動し難い構造となっている。
このイルメナイト型複合酸化物からなる耐酸化膜(12)は、Fe、Ni、Co、Mn、Mg、Zn等の鉄属2価イオンの遷移金属を、サーメット基材表面に生成される酸化チタンと反応させることによって形成するものである。
スピネル型複合酸化物としては、MgTi24、Mg2TiO4、CoTi24、Co2TiO4等の化学組成を有する酸化物を挙げることができる。
このスピネル型複合酸化物は、酸素イオンが面心立方型最密充填された構造を有している。Tiを含むスピネル型複合酸化物は、Tiイオンの電荷に違いがあり、僅かながら安定性に劣る結晶である。しかしながら、実際にはTi3+イオンが観察されることはなく、同じ元素による複合酸化物であっても、Tiが3価のMgTi24よりもTiが4価のMg2TiO4のスピネル型構造を有し、いわゆるAサイトにMgが、BサイトにMgとTi4+が入り込んだ構造を有するものと考えられる。
一方、本発明において、サーメット基材(11)上に形成されるアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型等の酸化チタンは、耐酸化膜(12)として採用されることはない。すなわちこれらの酸化チタンは、酸素イオンが最密充填されず、緻密な構造でなく脆いため、例えば450℃以上の高温の有酸素環境下においては、時間の経過と共に酸化チタン層が厚く成長し、またその層内にはクラックや空孔が無数に形成されて、十分な耐酸化性を得ることが困難である。
なお、ルチル型の酸化チタンは、酸化チタンの中では比較的、対称性が高いものではあるが、中心が歪んだTiO6の正八面体の結晶構造を有しており、安定性に欠けているため、隙間が多く、酸素イオンが移動し易く、酸化を防止するのが困難であることにかわりはない。
本発明において、サーメット基材(11)に形成される耐酸化膜(12)の厚さ(T)は、0.5μm以下、好ましくは0.4μm以下、より好ましくは0.1μm以上に調整するのが良い。すなわち、この膜厚(T)が厚過ぎる場合には、後述するように本発明に関連した表面被覆サーメット部材(1)によって構成される押出ダイスから耐酸化膜(12)が剥離した面が粗くなるおそれがある。逆に膜厚(T)が薄過ぎる場合には、酸化防止効果を十分に得ることが困難になるおそれがある。
次に、サーメット基材(11)上に上記耐酸化膜(12)を形成するためのプロセス(耐酸化膜形成工程)について説明する。
図2に示すように、まず、サーメット基材(11)を加熱して酸化処理を行った後、サーメット基材(11)の表面に所定の金属塩を含む処理液を塗布する(処理液塗布処理)。その後、乾燥させてから、サーメット基材(11)を加熱することによって、処理液中の金属塩を、サーメット基材表面のチタン酸化物(酸化チタン)と反応させて、耐酸化膜(12)としての複合酸化物を生成させるものである。
ここで、酸化チタンと反応して、ペロブスカイト型複合酸化物を生成する金属塩は、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属であり、このアルカリ土類金属化合物が処理液に含まれている。アルカリ土類金属の化合物としては例えば酢酸カルシウム(例えば酢酸カルシウム・1水和物など)等を挙げることができる。
イルメナイト型複合酸化物を生成する金属塩は、Fe、Ni、Co、Mn、Mg、Zn等の鉄属2価イオンの遷移金属であり、この遷移金属化合物が処理液に含まれている。この遷移金属の化合物としては例えば酢酸ニッケル(例えば酢酸Ni(II)・4水和物など)等を挙げることができる。
またスピネル型複合酸化物を生成する金属塩は、Mg、Coの塩であり、これらの金属化合物が処理液に含まれている。この金属化合物としては例えば酢酸コバルト(例えば酢酸Co(II)・4水和物など)等を挙げることができる。
一方、金属塩を含む処理液は、添加される種々の添加物に応じて、水系、非水系の溶媒が用いられる。
さらに膜形成用の処理液は、サーメット基材(11)の表面との「濡れ性」の問題がある。この「濡れ性」が悪い場合には、処理液をサーメット基材表面に塗布する際に、サーメット基材表面ではじかれてしまい、塗布量不足により、所望の耐酸化膜(12)を形成するのが困難になるおそれがある。従って「濡れ性」が悪い場合には、その問題を解決する必要がある。この解決方法としては、サーメット基材(11)の表面を過酸化水素水で酸化するか、大気中で加熱して酸化することにより、基材表面に極薄の酸化物層を形成する等の方法を好適に採用することができる。また処理液に、適当な界面活性剤等の添加剤を添加することにより、「濡れ性」を改善することができる。
また、処理液をサーメット基材(11)に塗布する際、処理液の粘性によっては、処理液の「タレ」の問題がある。この「タレ」が発生すると、処理液不足によって、所望の耐酸化膜(12)を形成するのが困難になってしまう。特に三次元形状のものには必ず、立ち上がった部分が存在するため、その立ち上がり部分において「タレ」が生じ易くなっている。そこで水系溶媒を用いた処理液等の場合には、「タレ」の問題を解消するために、処理液に水溶性の糊剤(増粘剤)を添加しておき、適度な粘性を付与し、これにより「タレ」の発生を確実に防止した状態で、乾燥処理、加熱処理等の以降の工程を行うのが良い。
また糊剤の種類や濃度によっては水分乾燥後の塗膜が、収縮等によって剥離する場合がある。この収縮剥離の問題は、比較的高沸点を有する水溶性の多価アルコールを可塑剤として添加することによって解決することが可能である。この添加により、膜は水分乾燥後でも柔軟性を保つことができる。
また処理液中の金属塩の溶解度が小さい場合には、金属塩の沈殿が起こってしまう場合がある。この溶解度の問題は、処理液中にギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸を添加することにより解決することが可能である。
また複合酸化物の生成温度を低く抑えたい場合(例えば500℃以下にしたい場合)には、低温での複合酸化物生成を行わせるためのナトリウム塩(例えば炭酸水素ナトリウム等)を反応助剤として添加すれば良い。
このように水系の処理液は、金属塩や溶媒の他に、糊剤、界面活性剤、可塑剤、有機酸、反応助剤等を含み、スラリー、ペースト等の粘性を有するものにより構成されている。
また処理液をサーメット基材(11)の表面に塗布する方法としては、処理液をハケ等で塗布したり、スプレー等で吹き付けたり、サーメット基材(11)を処理液中に浸漬する方法等を採用することができる。
上記したように、サーメット基材(11)に処理液を塗布して乾燥した後、加熱により耐酸化膜(12)を生成させるものであるが、この膜形成時の加熱条件は、ナトリウム塩を非添加の場合、空気中において380〜700℃で1〜60分、好ましくは570〜620℃で2〜20分に設定するのが良い。すなわち加熱温度が高過ぎると、耐酸化膜(12)の生成よりも酸化の進行が勝ってしまうおそれがあり、加熱温度が低過ぎたり、加熱時間が短過ぎる場合には、耐酸化膜(12)の形成が不十分となったり、膜厚が薄過ぎて耐酸化効果を十分に得ることが困難になるおそれがある。
なお上記の例では、サーメット基材(11)に処理液を塗布する前に、加熱による酸化処理を行うようにしている。このように処理液の塗布前に加熱してチタンの酸化を促進しておくのが好ましいが、この加熱酸化処理は必ずしも必要でなく、省略することも可能である。即ち、図3に示すように、加熱酸化処理を行わずに直ちに、サーメット基材(11)に処理液を塗布し(処理液塗布処理)、その後、乾燥して、加熱による耐酸化膜形成処理を行うようにしても良い。このように事前に酸化処理を行わなくとも、サーメット基材(11)の表面には、耐酸化膜形成時に、ある程度、酸化チタン膜が生成されるため、この酸化チタンと処理液とが反応することによって、所望の耐酸化膜(12)が形成されるものである。
当然のことながら、ペロブスカイト型複合化合物、イルメナイト型複合酸化物およびスピネル型複合酸化物のいずれの耐酸化膜(12)を形成する場合であっても、処理液塗布前の酸化処理は省略することができる。
こうして炭窒化チタン系のサーメット基材(11)の表面に、耐酸化膜(12)が形成されて、本発明に関連したTiCN系の表面被覆サーメット部材(1)が製作されるものである。この表面被覆サーメット部材(1)において、サーメット基材(11)の構成成分は、TiCN系焼結体の構成成分と等しく、基材(11)の性質が変化することはないため、TiCN系焼結体が保有する優れた性能を確実に得ることができる。
さらに本発明に関連する表面被覆サーメット部材(1)は、サーメット基材(11)に処理液を塗布して、加熱するだけで簡単に製造することができる。
特に、サーメット基材(11)に生成させる酸化チタン膜に、処理液の金属塩を反応させて、耐酸化膜(12)を形成するものであるため、サーメット基材中に含まれる元素の種類等に影響されずに、確実に耐酸化膜(12)を形成することができ、耐酸化膜(12)をより一層簡単に形成することができ、ひいては表面被覆サーメット部材(1)を、より一層簡単に製作することができる。
また後の実験例から明らかなように、本発明に関連した表面被覆サーメット部材(1)は、耐酸化性、特に高温環境下での耐酸化性を向上させることができる。
本第1実施形態においては、上記の表面被覆サーメット部材(1)を、押出ダイス(金属加工具)として用いるものである。ここで、本発明においては、押出ダイス全体を表面被覆サーメット部材(1)で構成するようにしても良いが、本実施形態では、押出ダイス(3)のダイス本体(31)のみを表面被覆サーメット部材(1)で構成している。
具体的には、図4に示す押出機の押出ダイス(3)は、ベアリング部等のダイス本体(31)と、そのダイス本体(31)を支持するダイスホルダー(32)とを備えているが、その押出ダイス(3)のダイス本体(31)を、上記の表面被覆サーメット部材(1)によって構成するとともに、ダイスホルダー(32)を、鋼材等によって構成している。この構成の押出ダイス(3)を製作する場合には例えば、熱間状態のダイスホルダー(32)に、ダイス本体(31)としてのサーメット基材(11)を焼き嵌めした後、そのサーメット基材(11)に上記したように耐酸化膜(12)を形成して、ダイス本体(31)を表面被覆サーメット部材(1)によって構成するようにしている。
なお、耐酸化膜(12)は、ダイス本体(31)の全周面に形成しても良いし、押出孔(ベアリング孔33)の内周面にのみ形成するようにしても良い。要は、耐酸化膜(12)は、少なくとも押出孔(33)の内周面における少なくとも一部に形成すれば良い。
また本発明において、ダイス本体(31)とは、押出孔の内周面の部分を形成する部材を言う。
ここで、耐酸化膜(12)を生成する際の温度を、鋼材の焼き戻し温度を超えた温度で行うと、ダイスホルダー(32)の硬度が低下してしまうため、膜形成温度は、上記鋼材の焼き戻し温度以下の温度で行う必要がある。SKD61熱間ダイス鋼材の場合には、520℃以下での複合酸化物生成が望ましく、この条件に適合させるには例えば、膜形成時に、温度を500℃前後、加熱時間を30分程度に調整すれば良く、それにより膜厚0.2μm程度の耐酸化膜(12)を形成することができる。この膜形成時の加熱温度は、一般の酸化膜形成温度に比べて低温であり、サーメット基材(11)に対する耐酸化膜(12)の密着性がさほど高くなっていない。ところが、後述するように本実施形態では、押出成形開始後に耐酸化膜(12)をサーメット基材(11)から速やかに除去(剥離)させることを要求するものであり、耐酸化膜(12)の密着性がさほど高くなくとも、何ら不具合が生じるものではなく、むしろ、所要時に耐酸化膜(12)を速やかに除去するという要件に適合するものである。
次に上記構成の押出ダイス(3)を用いて押出成形を行う場合について説明する。まず実際に押出成形を行う前には、押出ダイス(3)は、予備加熱炉において予備加熱されるのが一般的である。この予備加熱時において、押出ダイス(3)は、高温下で酸素雰囲気中に曝されるが、ダイス本体(31)が、表面被覆サーメット部材(1)によって構成されているため、耐酸化膜(12)によって、サーメット基材(11)の酸化を防止できて、酸化チタンの生成を防止することができる。従って、酸化チタンの生成による表面の脆化を防止でき、後に行われる押出成形時の脱落等を有効に防止できて、耐摩耗性および耐久性を向上させることができる。
予備加熱が終了すると、その押出金型(3)を押出機のコンテナ(2)にセットして、押出成形を開始する。この押出成形時には、コンテナ(2)内の押出材(金属材料F)が加圧状態で押出ダイス(3)側に向かって流動し、押出材(F)が押出ダイス(3)の押出孔(33)を通過することによって成形される。一方、こうして押出成形が開始されると、加圧状態で流動する押出材(F)によって、ダイス本体(31)を構成する表面被覆サーメット部材(1)の耐酸化膜(12)が削り取られて、耐酸化膜(12)が速やかに除去(剥離)される。これによりダイス本体(31)が、膜の無いむき出し状態のサーメット基材(11)により構成されるようになり、ダイス本体(31)が、TiCN系焼結体(サーメット基材)自体が保有する優れた性能(アルミニウムやその合金と反応し難い等の優れた性能)を遺憾なく発揮するようになる。このため例えば、ダイス本体(31)の寸法安定性、強度、硬度を十分に確保することができ、押出加工を安定状態で精度良くスムーズに行えて、表面状態や寸法精度において高い品質を備えた押出製品(押出加工品)を得ることができるとともに、早期の劣化、破損、脱落を防止できて、耐劣化性、耐摩耗性および耐久性等を確実に向上させることができる。また、TiCN焼結体をダイスとして用いることにより、ダイスの軽量化も実現することができる。
ここで本第1実施形態においては、押出開始から押出材を10m押し出した時点で、ダイス本体(表面被覆サーメット部材1)における耐酸化膜(12)が、押出開始前に比べて、90%以上剥離されるように構成するのが好ましい。すなわち押出後における耐酸化膜の剥離量が少な過ぎる場合には、TiCN系焼結体が保有する優れた性能を十分に発揮するのが困難になるおそれがある。
なおダイス本体(表面被覆サーメット部材)から剥離した耐酸化膜は、押出材中に含まれるようになる。
<実験例1>
上記第1実施形態と同様に、炭窒化チタン系の焼結体によって構成されるサーメット基材を準備すると共に、耐酸化膜形成用の処理液として、酢酸Ni(II)・4水和物9.3質量部、ポリビニルピロリドン(糊剤)4.7質量部、アルキルグルコシド(界面活性剤)1.9質量部、グリセリン(多価アルコール)5.6質量部、クエン酸4.9質量部、炭酸水素ナトリウム(ナトリウム塩)6.5質量部、水67.1質量部を混合した混合物を準備した。
前記サーメット基材の表面に、処理液を塗布した後、乾燥し、大気中(空気中)において、500℃の温度まで熱風循環式高温炉で昇温し、さらに500℃で30分間保持し、サーメット基材上に、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)によって構成される耐酸化膜を形成して、表面被覆サーメット部材を得た。この場合、表面に生成した耐酸化膜は、青系統の干渉色を示していた。
こうして得られた表面被覆サーメット部材を、TGA(熱重量分析、熱重量測定)に基づいて、以下の条件で熱重量変化に関する試験を行った。
このとき、試験装置としては島津製作所製のDTG60Hを用いた。さらにこの実験例1における表面被覆サーメット部材の試験用サンプルとしては、3mm×4mm×0.15mmの大きさのものを用い、このサンプルを、アルミナ製のセルに収容して、上記の試験装置にセットし、大気中(空気中)の雰囲気で、昇温速度を1℃/分に設定して、熱重量変化を測定した。その測定結果を図5に示す。
<比較例1>
耐酸化膜が形成されていない上記実験例1と同様の炭窒化チタン系焼結体からなるサーメット基材を、比較例のサンプルとして、上記と同様の試験を行った。その試験結果を図5に併せて示す。
<耐酸化性の評価>
図5から明らかなように、耐酸化膜のある実験例1のものは、加熱温度が上昇していくにもかかわらず、重量変化(重量増加)がほとんど認められず、酸化がほとんど進行していないのが判る。
これに対し、耐酸化膜のない比較例のものは、加熱温度が上昇していくに従って、重量も増加していき、酸化が進行しているのが判る。特に比較例のものは、押出ダイスの温度環境範囲内において、急激に重量が上昇し、この温度域において、急激に酸化が進行することが判る。
以上のように、実験例1のものでは、高温下で酸素雰囲気中に曝されたとしても、サーメット基材部分の酸化を確実に防止できるため、酸化による不具合、例えば表面脆化による破損や脱落等を有効に防止できると考えられる。
<実験例2>
上記第1実施形態と同様に、炭窒化チタン系の焼結体によって構成されるサーメット基材を準備した。
また、酢酸カルシウム・1水和物9.8質量部、ポリビニルピロリドン(糊剤)3.9質量部、アルキルグルコシド(界面活性剤)1.4質量部、グリセリン(多価アルコール)4.4質量部、酢酸24.4質量部、酢酸ナトリウム(ナトリウム塩)4.9質量部、水51.2質量部を混合した混合物を処理液として準備しておき、この処理液を、上記サーメット基体の表面に塗布し、空気中において500℃の温度まで熱風循環式高温炉(電気炉)で昇温し、さらに500℃で30分間保持し、サーメット基材上に、ペロブスカイト型複合酸化物(CaTiO3層)によって構成される耐酸化膜を形成して、実験例2の表面被覆サーメット部材を得た。この場合、耐酸化膜は、やや光沢のある銀灰色を呈していた。
この実験例2の表面被覆サーメット部材からなる試験用サンプルに対し、上記と同様の試験を行ったところ、同様の評価を得ることができた。つまり、実験例2においても、600℃の温度範囲まで急激な重量増加がなく、耐酸化性に優れていることを確認することができた。
<実験例3>
酢酸Co(II)・4水和物14.7質量部、ポリビニルピロリドン(糊剤)6.2質量部、アルキルグルコシド(界面活性剤)1.8質量部、グリセリン(多価アルコール)2.1質量部、水75.2質量部を混合した混合物を処理液として準備し、その処理液を、上記実験例1と同様の炭窒化チタン系焼結体からなるサーメット基材の表面に塗布し、空気中において600℃の温度まで熱風循環式高温炉(電気炉)で昇温し、さらに600℃で30分間保持し、サーメット基材上にスピネル型複合酸化物(Co2TiO4層)を形成して、実験例3の表面被覆サーメット部材を得た。この場合、ややくすんでいたが、青色を主体とした光沢のある耐酸化膜が観察された。
この実験例3の表面被覆サーメット部材によって構成される試験用サンプルに対し、上記と同様の試験を行ったところ、同様の評価を得ることができた。つまり、実験例3においても、600℃の温度範囲まで急激な重量増加がなく、耐酸化性に優れていることを確認することができた。
次に上記のようにして得られた実験例1〜3及び比較例1の表面被覆サーメット部材の実使用における耐酸化性を評価するために、前述した図4に示す押出ダイス(3)のダイス本体(31)を上記各表面被覆サーメット部材(1)によって構成し、この押出ダイス(3)を用いてアルミニウム合金製丸棒の押出成形を行った。
前記押出ダイス(3)の製作は、次のようにして行った。即ち、熱間状態の鋼材からなるダイスホルダー(32)に、ダイス本体(31)を構成するサーメット基材(11)を焼き嵌めした後、該サーメット基材(11)に上記耐酸化膜を形成することによって、ダイス本体(31)を表面被覆サーメット部材(1)によって構成して、押出金型(3)の製作を行った。耐酸化膜形成時の加熱温度を500℃、加熱時間を30分に設定し、これにより膜厚0.2μmの耐酸化膜(12)を形成した。
次に、前記押出ダイス(3)を用いて押出成形を行うに際し、押出ダイス(3)を予備加熱炉において450℃で300分間予備加熱した。しかる後、押出ダイス(3)を押出機のコンテナ(2)にセットして、ビレット温度450℃で、アルミニウム合金製丸棒の押出成形を行った。押出長さが50000mに達した時のダイス本体(31)としての表面被覆サーメット部材(1)の摩耗量を評価した。摩耗量の評価結果を表1に示す。
Figure 0004593680
表1から明らかなように、この発明の実験例1〜3の表面被覆サーメット部材を用いた押出ダイスで押出成形したものでは、表面被覆サーメット部材の摩耗量が少なく、ダイスとして十分な耐久性が得られた。
これに対し、耐酸化膜(表面被覆)の形成されていない比較例1のサーメット部材を用いた押出ダイスで押出成形したものでは、50000mの押出評価を行うことができなかった、即ち押出長さが10000mに達した時にサーメット部材の摩耗量が30μmに達しており、10000m押出後のダイスの表面において酸化による脱落が確認された。この比較例1は、比較例2の従来のWC−Co超硬材を用いた系と比較して摩耗が極端に早いものであった。
<第1実施形態における押出ダイスの再処理>
第1実施形態においては、上記の押出加工に用いられた表面被覆サーメット部材製の押出ダイス(3)のダイス本体(31)を、以下に詳述するように再処理することによって、再使用可能な押出ダイス(ダイス本体)を製作するものである。
なお、使用済みのダイス本体(31)は、その耐酸化膜(12)のほとんどが削り取られており、さらに表面には、押出成形材料(成形材F)としてのアルミニウムまたはアルミニウム合金材料(金属材料)が残存固着しているものである。
図6に示すように、この使用済み押出ダイスに対し、洗浄工程(ステップS1)を行った後、耐酸化膜形成工程(ステップS2)を行うものである。
洗浄工程(ステップS1)においては、図7のステップS11に示すように、使用済みダイス本体を、アルカリ性水溶液に浸漬して、押出ダイスに残留固着した押出成形材料としてのアルミニウム材料を、アルカリ性水溶液中に溶出させて除去する(アルカリ洗浄処理)。
このアルカリ洗浄処理において用いられるアルカリ性水溶液としては、温度90℃、濃度12%の水酸化ナトリウム水溶液や、水酸化カリウム水溶液が好適に用いられる。さらにこのアルカリ性水溶液には、アルミニウムの溶解度を高めるために、グルコン酸ソーダ等の添加剤を混入するようにしても良い。
またアルミニウム材料を十分に除去するためには、浸漬時間を、少なくとも3時間以上に設定するのが良い。
アルカリ洗浄処理を行った後、必要に応じて、ステップS12に示すように、酸性水溶液を用いて中和処理を行う。この中和処理に用いられる酸性水溶液としては、塩酸水溶液を好適に用いることができる。
中和処理を行った後、ステップS13に示すように、第1水洗処理を行う。この第1水洗処理においては、80℃程度のお湯を用いて、押出ダイスの表面を洗浄するものである。
第1水洗処理を行った後、ステップS14に示すように、第1乾燥処理を行う。この第1乾燥処理においては、まず、エアーブローによって、ダイス表面に付着した水分を吹き飛ばした後、自然乾燥させるものである。
次にステップS15に示すように、ダイス本体の表面状態を目視、または場合によっては拡大スコープを用いて目視により観察し、ダイス表面のアルミニウム材料が確実に除去されているかを確認する(表面状態確認処理)。
言うまでもなく、表面状態を確認した際に、アルミニウム材料の除去が不十分であった場合には、当該ダイス本体に対し、上記のステップS11〜S14に示す処理を繰り返し行ったり、またはダイス本体表面の傷みがはげしいような場合等には、当該ダイス本体を再生利用不可として廃棄するものである。
なお、この表面状態確認処理(ステップS15)も含めて、以下のステップS16〜S19で示す処理は、必要に応じて行えば良く、本発明において、必ずしも行う必要はない。
表面状態確認処理を行った後、ステップS16に示すように、表面研磨処理を行う。この表面研磨処理においては、例えば♯1000の紙ヤスリを用いて、ダイス表面を丁寧に研磨するものである。
表面研磨処理を行った後、ステップS17に示すように、有機溶剤洗浄処理を行うものである。この有機溶剤洗浄処理においては、例えばエタノールやアセトン等の有機溶剤を用いて、ダイス表面を洗浄するものである。
有機溶剤洗浄処理を行った後、ステップS18に示すように、第2水洗処理を行うものである。この第2水洗処理においては、50℃程度のお湯を用いて、ダイス表面を洗浄するものである。
第2水洗処理を行った後、ステップS19に示すように、第2乾燥処理を行うものである。この第2乾燥処理においては、上記の第1乾燥処理と同様、エアーブローによって、ダイス表面に付着した水分を吹き飛ばした後、自然乾燥させるものである。
これにより、使用済み押出ダイス(ダイス本体)の洗浄工程が完了し、ダイス表面が、新品同様の良好な状態に仕上げられる。
こうして洗浄工程が完了した後は、図6のステップS2に示すように、耐酸化膜形成工程によって、洗浄済みのダイス本体としてのサーメット基材(11)上に、耐酸化膜(12)を形成するものである。
この耐酸化膜形成工程は、図2,3等に示すように、上記と同様にして、サーメット基材(11)上に所定の耐酸化膜(12)を形成し、その表面被覆サーメット部材(1)によって構成されるダイス本体(再処理後のダイス本体)を製作するものである。
この再処理後の押出ダイス(ダイス本体)の使用方法も、上記と同様にして、押出加工に用いられるものである。
そして再処理された押出ダイスを用いた押出加工においても、上記したように新品の押出ダイスを用いた押出加工と同様に、ほぼ同様の作用効果を得ることができる。
<第2実施形態>
図14,15はこの発明の第2実施形態としての押出ダイス(100)によって成形加工された押出チューブとしての熱交換チューブ(160)を示す図である。
両図に示すようにこの熱交換チューブ(160)は、カーエアコン用コンデンサ等の熱交換器に採用されるアルミニウムまたはアルミニウム合金製のもので、扁平な中空形状を有している。このチューブ(160)の中空部は、チューブ長さ方向に延び、かつ互いに平行に配置された複数の隔壁(162)によって、複数の冷媒流路(163)に仕切られている。これらの冷媒通路(163)は、チューブ長さ方向に延び、かつチューブ幅方向に沿って並列に配置されている。
図8〜11に示すように上記の熱交換チューブ(160)を製作するための押出ダイス(100)は、ダイスケース(120)と、オス型ダイス(130)と、メス型ダイス(140)と、流動制御板(150)とを基本的な構成要素として備えている。
ダイスケース(120)は、中空構造を有しており、押出材料(押出材)としての金属ビレットの押出方向に対し、上流側(後側)に設けられるドーム部(121)と、下流側(前側)に設けられるベース部(125)とを有している。
ドーム部(121)は、押出方向に対向する面(後面)が、受圧面(122)として形成されている。この受圧面(122)は、押出方向に対向する方向(後方向)に突出する半球面形状の凸球面に形成されている。
ドーム部(121)の周壁中央には、内部の中空部(ウェルドチャンバ112)に連通するオス型ダイス保持孔(123)が軸心(A1)に沿って設けられている。このオス型ダイス保持孔(123)は、オス型ダイス(130)の断面形状に対応して、偏平な矩形状に形成されている。
ドーム部(121)の周壁両側には、軸心を挟んだ両側に一対のポート孔(124)(124)が形成されている。各ポート孔(124)は、周方向に沿って延びる長孔形状を有しており、互いに周方向に等間隔をおくように対向して配置されている。さらにポート孔(124)は下流側(前方)に向かうに従ってドーム部(121)の軸心(A1)に近づくように配置されている。
なお本実施形態において、ダイスケース(120)の軸心とドーム部(121)の軸心とは一致するよう構成されている。
ベース部(125)は、ドーム部(121)に対し一体に形成されており、外周面がドーム部(121)の他端側外周よりも外側に張り出すように形成されている。
ベース部(125)の内側には、内部のウェルドチャンバ(112)に連通し、かつメス型ダイス(140)の断面形状に対応する円筒形のメス型ダイス保持孔(126)が形成されている。このメス型ダイス保持孔(126)の軸心は、ダイスケース(120)の軸心(A1)に一致するように構成されている。
また図10に示すようにメス型ダイス保持孔(126)の内周面における両側部には、軸心(A1)に対し平行なキー溝(127)(127)が形成されている。
オス型ダイス(130)は、その前半の主要部がマンドレル(131)として構成されている。図10,11に示すようにマンドレル(131)の前端部は、熱交換チューブ(160)の中空部を成形するもので、熱交換チューブ(160)の各通路(163)に対応した複数個の通路成形用凸部(133)を有している。これら複数の通路成形用凸部(133)は、マンドレル(131)の幅方向に所定間隔おきに並んで配置されている。さらにこれらの通路成形用凸部(133)の各間に設けられた隙間は、熱交換チューブ(160)の隔壁(162)を形成する隔壁成形用溝(132)として構成されている。
このオス型ダイス(130)が、上記ダイスケース(120)のオス型ダイス保持孔(123)に、その受圧面(122)側から挿入されて固定される。この固定状態では、オス型ダイス(130)のマンドレル(131)が、ダイスケース(120)の内部におけるオス型ダイス保持孔(123)から内部に所定量突出した状態に配置される。
なおオス型ダイス(130)の基端面(後端面)は、ダイスケース(120)の受圧面(122)に倣う球面の一部に形成されており、オス型ダイス(130)の基端面(後端面)と、受圧面(122)とにより協同で所望の円滑な凸球面が形成されるよう構成されている。
図9〜11に示すようにメス型ダイス(140)は、円柱形状を有しており、外周面の両側部には、上記ダイスケース(120)におけるメス型ダイス保持孔(126)のキー溝(127)(127)に対応して、軸心と平行なキー突起(147)(147)が形成されている。
メス型ダイス(140)には、後端面側に開放し、かつオス型ダイス(130)のマンドレル(131)に対応して形成されるダイス孔(ベアリング孔141)と、ダイス孔(141)に連通し、かつ前端面側に開放するレリーフ孔(142)とが設けられている。
ダイス孔(141)は、その内周縁部に沿って内方突出部が設けられて、熱交換チューブ(160)の外周部を成形できるよう構成されている。さらにレリーフ孔(142)は、前端側(下流側)に向かうに従って次第に厚さ(高さ)が大きくなるように末広がりのテーパ状に形成されて、下流側に開放されている。
流動制御板(150)は、その外周形状が、上記ダイスケース(120)におけるメス型ダイス保持孔(126)の断面形状に対応して円形に形成されている。さらに流動制御板(150)の中央には、オス型ダイス(130)のマンドレル(131)およびメス型ダイス(140)のダイス孔(141)に対応して、中央貫通孔(151)が形成されている。
なお図10に示すように、流動制御板(150)における外周縁部の両側部には、上記ダイスケース(120)におけるメス型ダイス保持孔(126)のキー溝(127)(127)に対応して、キー突起(157)(157)が形成されている。
そして上記メス型ダイス(140)が、ダイスケース(120)のメス型ダイス保持孔(126)に、流動制御板(150)を介して収容されて固定される。このときメス型ダイス(140)のキー突起(147)(147)および流動制御板(150)のキー突起(157)(157)がメス型ダイス保持孔(126)のキー溝(127)(127)に係合されることにより、軸心回り方向の位置決めが図られる。そして、オス型ダイス(1
30)のマンドレル(131)およびメス型ダイス(140)のダイス孔(141)が流動制御板(150)の中央貫通孔(151)内に対応して配置される。これによりオス型ダイス(130)のマンドレル(131)が、メス型ダイス(140)のダイス孔(141)の内側に配置されて、マンドレル(131)およびダイス孔(141)間で偏平環状の押出孔(111)が形成される。さらにこの押出孔(111)は、マンドレル(131)の複数の隔壁形成溝(132)が幅方向に並列に配置されて、上記の熱交換チューブ(60)の断面形状に対応した形状を有している。
そして本第2実施形態においては、押出ダイス(100)の構成部材のうち、メス型ダイス(140)を、上記第1実施形態に用いられた表面被覆サーメット部材(1)によって構成されるものである。
ここで本第2実施形態においては、サーメット基材(11)としてのメス型ダイス(140)の全周面に耐酸化膜(12)を形成しても良いし、メス型ダイス(140)におけるダイス孔(141)の内周面にのみ、耐酸化膜(12)を形成するようにしても良い。
なお、本第2実施形態においては、メス型ダイス(130)によって、ダイス本体が構成されるものである。
また、本発明においては、押出ダイス(100)の構成部材のうち、メス型ダイス(140)以外の構成部材、例えばオス型ダイス(130)等を、上記の表面被覆サーメット部材(1)によって構成するようにしても良い。
さらに本発明において、押出孔の内周面という場合、メス型ダイスにおけるダイス孔の内周面だけでなく、オス型ダイスにおけるマンドレルの外周面も含まれるものである。
以上のように構成された第2実施形態の押出ダイス(100)は、図12,13に示すように押出成形機にセットされる。すなわち押出ダイス(100)が、プレート(5)の中央に設けられたダイス設置孔(5a)に取り付けられた状態で、コンテナ(6)にセットされる。なお押出ダイス(100)は、プレート(5)によって押出方向と直交する方向に対し固定されるとともに、図示しないバッカーによって押出方向に対し固定されている。なお押出ダイス(100)は、押出成形を行う前(コンテナにセットする前)には、上記第1実施形態と同様に、押出ダイス(100)を、予備加熱するのが一般的である。この予備加熱の際、押出ダイス(100)は、プレート(5)と図示しないバッカーによって固定されており、ダイス予備加熱時には、これらのダイス一式をまとめて予備加熱する。
そしてコンテナ(6)内に挿入されたアルミニウムビレットなどの金属ビレット(押出材)を、ダミーブロック(7)を介して図12の右方向(押出方向)に押し込む。これにより金属ビレットは、押出ダイス(100)におけるダイスケース(120)の受圧面(122)に押し付けられて塑性変形する。こうして押出材が塑性変形しつつ、一対のポート孔(124)(124)を流通してダイスケース(120)のウェルドチャンバ(112)に導入されさらに、押出孔(111)を通って前方へ押し出されることにより、押出材が押出孔(111)の開口形状に対応した断面形状に成形されて、上記の形状の熱交換チューブ(160)が製造される。
一方、こうして押出成形が開始されると、加圧状態で流動する押出材(金属ビレット)によって、メス型ダイス(140)を構成する表面被覆サーメット部材(1)の耐酸化膜(12)が削り取られて、耐酸化膜(12)が速やかに除去(剥離)される。これによりメス型ダイス(140)のダイス孔内周面(ベアリング孔内周面)が、膜の無いむき出し状態のサーメット基材(11)により構成されるようになり、メス型ダイス(140)が、TiCN系焼結体(サーメット基材)自体が保有する優れた性能(アルミニウムやその合金と反応し難い等の優れた性能)を遺憾なく発揮するようになる。このため例えば、メス型ダイス(140)の寸法安定性、強度、硬度を十分に確保することができ、押出加工を安定状態で精度良くスムーズに行えて、表面状態や寸法精度において高い品質を備えた熱交換チューブを得ることができるとともに、早期の劣化、破損、脱落を防止できて、耐劣化性、耐摩耗性および耐久性等を確実に向上させることができる。また、TiCN焼結体をダイスとして用いることにより、ダイスの軽量化も実現することができる。
<実験例11>
Figure 0004593680
表2に示すように、上記第2実施形態と同様の押出ダイス(100)を準備した。このとき、押出ダイス(100)のメス型ダイス(140)として、炭窒化チタン系サーメットをダイス(140)の基材とし、その基材の表面に、上記実験例1と同様に、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)によって構成される表面被覆層(耐酸化膜)を形成したものを準備した。
なお押出ダイス(100)の構成部材のうち、メス型ダイス(140)以外のものは、鋼材製である。
さらにこの押出ダイス(100)を420℃で8時間予備加熱して、上記第2実施形態と同様に、押出加工を行った。
そして押出製品(押出加工品)としての熱交換チューブ(160)の外表面粗さが5μmを超えるまでの押出長さ(ダイス1つあたりの押出量)を測定した。
<実験例12>
表2に示すように、押出ダイス(100)の予備加熱温度を450℃、予備加熱時間を4時間とした以外は、上記実験例11と同様にして、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<実験例13>
表2に示すように、予備加熱時間を8時間とした以外は、上記実験例12と同様にして、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<実験例14>
表2に示すように、予備加熱時間を24時間とした以外は、上記実験例12と同様にして、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<実験例15>
表2に示すように、予備加熱時間を28時間とした以外は、上記実験例12と同様にして、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<実験例16>
表2に示すように、予備加熱温度を500℃、予備加熱時間を24時間とした以外は、上記実験例12と同様にして、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<実験例17>
表2に示すように、予備加熱温度を520℃、予備加熱時間を24時間とした以外は、上記実験例12と同様にして、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<比較例11>
表2に示すように、押出ダイス(100)のメス型ダイス(140)として、炭窒化チタン系サーメットを基材とし、ダイス孔内周面に、アナターゼ型の酸化物によって構成される表面被覆層を形成したものを用いた。なお上記の第1実施形態で詳述したように、アナターゼ型の酸化チタンは、本発明の耐酸化膜とは異なるものである。
この押出ダイス(100)を用いて、上記実験例12と同様に、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<比較例12>
表2に示すように、ダイス孔内周面に酸化膜のないメス型ダイス(140)を用い、予備加熱温度を420℃とした以外は、上記比較例11と同様に、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<比較例13>
表2に示すように、予備加熱温度を420℃、予備加熱時間を6時間とした以外は、上記比較例11と同様に、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<比較例14>
表2に示すように、メス型ダイス(140)として、WC−Co超硬材からなるものを用い、予備加熱時間を6時間とした以外は、上記実験例12と同様に、押出加工を行い、同様の測定を行った。
<評価>
比較例11,13に示すように、耐酸化膜が形成されない炭窒化チタン系サーメット基材をメス型ダイス(140)とする押出ダイス(100)において、予備加熱温度を450℃に設定したもの(比較例1)や、あるいは予備加熱時間を6時間に設定したもの(比較例3)では、押出長さが非常に短くなっている。さらにダイス孔内周面(ベアリング面)も激しく荒れており、早期の磨耗による耐久寿命にも大きな課題を抱えている。また比較例2に示すように、予備加熱を420℃で4時間行ったものでは、押出長さが比較的長く、良好な結果が得られている。これらの結果から判断すると、耐酸化膜が形成されない炭窒化チタン系サーメット基材をメス型ダイス(140)とするもの(比較例11〜13)では、予備加熱温度は420℃、予備加熱時間が4時間が上限であると思われ、これを超えるような予備加熱を行うと、酸化チタンの生成による不具合が生じると考えられる。
なお比較例12のものは、押出長さが比較的長いものではあるが、このような予備加熱条件では、押出加工に供するダイス(金型)にとっては加熱条件(温度×時間)が低いため、押出圧力が高くなり、押出加工をスムーズに行うことが困難となる。さらに予備加熱条件が非常に制約されるため、温度管理が難しく、実際の生産に採用することには無理があるように思われる。
また比較例14のものは、比較例11,13のものと比較すると、予備加熱時の加熱温度等を高くしても、まずまずの評価が得られ、予備加熱条件の制約が少し緩和されている。
これに対し、実験例11〜14に示すように、耐酸化膜が形成された炭窒化チタン系サーメット基材をメス型ダイス(140)とするものでは、予備加熱時の加熱温度が少し高くしても、さらに加熱時間の長短にかかわらず、押出長さを十分に長くとることができた。
また実験例15〜17に示すように、予備加熱温度を非常に高温に設定したり、加熱時間を非常に長く設定しても、押出長さをある程度長く確保することができた。従って、本発明に関連した実験例11〜17のものは、予備加熱条件の制約を非常に少なくすることができ、温度管理を容易に行うことができ、実際の生産に好適に採用でき、特に、実験例11〜14のものは、押出長さをより一層長く確保でき、耐久寿命が長く、効率の良い生産性を確保できるものと考えられる。
具体的には、炭窒化チタン系サーメット基材の表面に、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)の耐酸化膜を形成したメス型ダイスを用いたものでは、つまり本発明に関連したメス型ダイスを用いたものでは、予備加熱条件として、加熱温度を420〜520℃、より好ましくは450〜500℃に設定でき、加熱時間を28時間以下、好ましくは4時間以上、より好ましくは24時間以下に設定することができる。
なお、上記実験例11〜17は、炭窒化チタン系サーメット基材の表面に、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)の耐酸化膜を形成したメス型ダイスを用いたものであるが、上記実験例2のように、炭窒化チタン系サーメット基材の表面に、ペロブスカイト型複合酸化物(CaTiO3層)の耐酸化膜を形成したメス型ダイスを用いたものや、上記実験例3のように、炭窒化チタン系サーメット基材の表面に、スピネル型複合酸化物(Co2TiO4層)の耐酸化膜を形成したメス型ダイスを用いたもので、上記実験例11〜17と同様に、押出加工を行って、同様の測定を行ったところ、上記実験例11〜17と同様の評価を得ることができた。従って、耐酸化膜は、上記実験例11〜17に示すようなイルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)に限られず、ペロブスカイト型複合酸化物(CaTiO3層)や、スピネル型複合酸化物(Co2TiO4層)であっても、予備加熱条件として、上記と同様の条件を設定することができる。
<第2実施形態における押出ダイスの再処理>
第2実施形態で押出加工に用いられた押出ダイス(100)のメス型ダイス(140)においても、上記第1実施形態と同様に、再処理することによって、再使用可能なメス型ダイス(140)を製作することができる。
すなわち使用済みのメス型ダイス(140)に対し、図6のステップS1と同様に洗浄を行う。この洗浄工程においては、上記と同様、図7に示すように、アルカリ洗浄処理(ステップS11)、中和処理(ステップS12)、第1水洗処理(ステップS13)、第1乾燥処理(ステップS14)、表面状態確認処理(ステップS15)、表面研磨処理(ステップS16)、有機溶剤洗浄処理(ステップS17)、第2水洗処理(ステップS18)および第2乾燥処理(ステップS19)を必要に応じて順次行う。
このように洗浄された使用済みメス型ダイス(140)としてのサーメット基材(11)に、図6のステップS2および図2,3に示すように、上記と同様に、耐酸化膜(12)を形成する。これによりサーメット基材(11)上に耐酸化膜(12)が形成された表面被覆サーメット部材(1)によって構成されるメス型ダイス(140)を製作するものである。
こうして再処理されたメス型ダイス(140)を備えた押出ダイス(100)を用いて、上記と同様に押出加工した場合、上記新品のメス型ダイス(140)を備えた押出ダイス(100)を用いた押出加工と同様に、ほぼ同様の作用効果を得ることができる。
なお上記各実施形態においては、再処理される金属加工具が、押出ダイス(ダイス本体、メス型ダイス)等によって構成される場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、再処理される金属加工具としては、拡管用ダイスや縮管用ダイス等の引抜ダイス、温間用、冷間用の鍛造加工用金型、ダイキャスト用金型、曲げ加工用金型、温間用、冷間用の圧延加工用ロール、鋳造用モールド等の塑性加工用の金型(ダイス)の他、切削用チップやバイト等の切削機械工具等にも適用することができる。
<参照例1>
Figure 0004593680
表3に示すように、上記実験例11と同様の押出ダイス(100)を準備した。すなわちメス型ダイス(140)として、炭窒化系サーメットをダイス(140)の基材とし、その基材の表面に、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)によって構成される表面被覆層(耐酸化膜)を形成したものを準備した。
この押出ダイス(100)を450℃で8時間予備加熱した後、上記実験例11と同様に、押出加工を行った。
そして押出長さが30000mに達した時点での、押出加工品としての熱交換チューブ(160)の表面粗さを測定し、その表面粗さ5μm以下の場合に、表面状態が「良(良好)」と評価した。
<実施例1>
表3に示すように、参照例1で使用した使用済みのメス型ダイス(140)に対し、上記第2実施形態と同様に、洗浄工程(図6のステップS1)および耐酸化膜形成工程(同図のステップS2)を行って、メス型ダイス(140)を再使用可能な状態に再処理した。このとき耐酸化膜は、参照例1と同様、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)により構成されるものとした。
そしてこの再処理後のメス型ダイス(140)を用いて、上記参照例1と同様に、押出加工を行い、同様の評価を行った。
<参照例2>
表3に示すように、メス型ダイス(140)として、耐酸化膜がペロブスカイト型化合物(CaTiO3層)によって構成されるものを準備した。なおこの耐酸化膜は、上記実験例2と同様にして形成した。
このメス型ダイス(140)を備えた押出ダイス(100)を用いて、参照例1と同様に、押出加工を行い、同様の評価を行った。
<実施例2>
表3に示すように、参照例2で使用した使用済みのメス型ダイス(140)に対し、上記実施例1と同様に洗浄した後、同様に耐酸化膜を形成することにより、メス型ダイス(140)を再使用可能な状態に仕上げた。このとき耐酸化膜は、参照例2と同様、ペロブスカイト型化合物(CaTiO3層)によって構成されるものとした。
そしてこの再処理後のメス型ダイス(140)を用いて、上記参照例2と同様に、押出加工を行い、同様の評価を行った。
<参照例3>
表3に示すように、メス型ダイス(140)として、耐酸化膜がスピネル型複合酸化物(Co2TiO4層)によって構成されるものを準備した。なおこの耐酸化膜は、上記実験例3と同様にして形成した。
このメス型ダイス(140)を備えた押出金型(100)を用いて、参照例1と同様に、押出加工を行い、同様の評価を行った。
<実施例3>
表3に示すように、参照例3で使用した使用済みメス型ダイス(140)に対し、上記実施例1と同様に洗浄した後、同様に耐酸化膜を形成することにより、メス型ダイス(140)を再使用可能な状態に仕上げた。このとき耐酸化膜は、参照例3と同様、スピネル型複合酸化物(Co2TiO4層)によって構成されるものとした。
そしてこの再処理後のメス型ダイス(140)を用いて、上記参照例2と同様に、押出加工を行い、同様の評価を行った。
<まとめ>
実施例1と参照例1との比較、実施例2と参照例2との比較、実施例3と参照例3との比較から明らかなように、使用済みのメス型ダイス(140)を本発明に関連した手段によって再処理することにより、メス型ダイス(140)を新品同様に再生することができた。さらに本発明に関連した手段による再処理によれば、耐酸化膜が、イルメナイト型複合酸化物(NiTiO3層)、ペロブスカイト型化合物(CaTiO3層)およびスピネル型複合酸化物(Co2TiO4層)のいずれの種類のものであっても、新品同様に再生することができた。
この発明の金属加工具の再処理方法は、金属材料を金属加工具によって加工する金属加工技術に適用することができる。
1:表面被覆サーメット部材
11:サーメット基材
12:耐酸化膜
31:ダイス本体(金属加工具)
140:メス型ダイス(金属加工具)
F…押出材(金属材料)
T…膜厚

Claims (22)

  1. 炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材を備えた使用済み金属加工具を再生利用するための再処理方法であって、
    前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
    前記洗浄工程が完了した後、前記サーメット基材の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜を形成することにより、再処理後の金属加工具をなす表面被覆サーメット部材を得る耐酸化膜形成工程とを含み、
    前記洗浄工程は、
    アルカリ性水溶液により前記サーメット基材を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
    前記アルカリ洗浄処理が完了した後、前記サーメット基材を洗浄する第1水洗処理と、
    前記第1水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記サーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる第1乾燥処理とを行うものとし、
    前記耐酸化膜形成工程において、前記耐酸化膜は、前記サーメット基材の表面のチタン化合物と反応して、前記複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を、前記サーメット基材に塗布した後、380〜700℃で加熱することによって形成されるようにしたことを特徴とする金属加工具の再処理方法。
  2. 前記洗浄工程において、アルカリ洗浄処理を行った後、第1水洗処理を行う前に、酸性水溶液による中和処理を行うようにした請求項1に記載の金属加工具の再処理方法。
  3. 前記洗浄工程において、第1乾燥処理を行った後、研磨具により前記サーメット基材の表面を研磨する表面研磨処理を行うようにした請求項1または2に記載の金属加工具の再処理方法。
  4. 前記洗浄工程において、表面研磨処理を行った後、有機溶剤により、前記サーメット基材を洗浄する有機溶剤洗浄処理を行うようにした請求項3に記載の金属加工具の再処理方法。
  5. 前記洗浄工程において、有機溶剤洗浄処理を行った後、前記サーメット基材を洗浄する第2水洗処理を行うようにした請求項4に記載の金属加工具の再処理方法。
  6. 前記洗浄工程において、前記第2水洗処理を行った後、エアーブローにより前記サーメット基材の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる第2乾燥処理とを行うようにした請求項5に記載の金属加工具の再処理方法。
  7. 前記チタン化合物は、炭窒化チタンによって構成される請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  8. 前記処理液を塗布する前に予め、前記サーメット基材に対し酸化処理を行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  9. 前記耐酸化膜は、ペロブスカイト型複合酸化物によって構成される請求項1〜のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  10. 前記耐酸化膜は、前記サーメット基材に、アルカリ土類金属化合物を含む処理液を塗布することによって形成される請求項に記載の金属加工具の再処理方法。
  11. 前記耐酸化膜は、イルメナイト型複合酸化物によって構成される請求項1〜のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  12. 前記耐酸化膜は、前記サーメット基材に、鉄属2価イオンの遷移金属化合物を含む処理液を塗布することによって形成される請求項1に記載の金属加工具の再処理方法。
  13. 前記耐酸化膜は、スピネル型複合酸化物によって構成される請求項1〜のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  14. 前記耐酸化膜は、前記サーメット基材に、マグネシウム化合物またはコバルト化合物を含む処理液を塗布することによって形成される請求項1に記載の金属加工具の再処理方法。
  15. 前記耐酸化膜の厚さが0.5μm以下である請求項1〜1のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  16. 前記複合酸化物は、酸素イオンが最密充填された結晶構造を有することを特徴とする請求項1〜1のいずれか1項に記載の金属加工具の再処理方法。
  17. 押出材を押出成形するための押出ダイスであって、
    請求項1〜1のいずれかに記載の再処理方法によって得られた再処理後の金属加工具によって形成されたことを特徴とする押出ダイス。
  18. 予備加熱が行われた押出ダイスによって、押出材を押出成形するようにした押出加工方法であって、
    前記押出ダイスとして、請求項1に記載の押出ダイスを用いるとともに、
    押出成形を開始した後に、流動する押出材によって前記押出ダイスの耐酸化膜を剥離させるようにしたことを特徴とする押出加工方法。
  19. 炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材の表面に、耐酸化膜が形成された表面被覆サーメット部材を製造する方法であって、
    前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
    前記洗浄工程が完了した後、前記サーメットの表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される前記耐酸化膜を形成して、前記表面被覆サーメット部材を得る耐酸化膜形成工程とを含み、
    前記洗浄工程は、
    アルカリ性水溶液により前記使用済み金属加工具の表面を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
    前記アルカリ洗浄処理が完了した後、前記金属加工具を洗浄する水洗処理と、
    前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記金属加工具表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うとともに、
    前記耐酸化膜形成工程は、
    前記サーメット基材の表面に、前記サーメット基材表面のチタン化合物と反応して複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を塗布する処理液塗布処理と、
    前記塗布の後に、380〜700℃で加熱することによって耐酸化膜を形成する加熱処理とを行うようにしたことを特徴とする表面被覆サーメット部材の製造方法。
  20. 炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材の表面に、耐酸化膜が形成された表面被覆サーメット部材を製造する方法であって、
    前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程と、
    前記洗浄工程が完了した後、前記サーメットの表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される前記耐酸化膜を形成することにより、前記表面被覆サーメット部材を得る耐酸化膜形成工程とを含み、
    前記洗浄工程は、
    アルカリ性水溶液により前記サーメット基材を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
    前記アルカリ洗浄処理が完了した後、前記サーメット基材を洗浄する水洗処理と、
    前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記サーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うとともに、
    前記耐酸化膜形成工程は、
    前記サーメット基材を加熱により酸化する酸化処理と、
    前記酸化処理がなされたサーメット基材の表面に、前記サーメット基材表面のチタン化合物と反応して複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を塗布する処理液塗布処理と、
    前記塗布の後に、380〜700℃で加熱することによって耐酸化膜を形成する加熱処理とを行うようにしたことを特徴とする表面被覆サーメット部材の製造方法。
  21. 炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体によって構成されるサーメット基材の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜を形成するサーメット基材の耐酸化膜形成方法であって、
    前記サーメット基材に前記耐酸化膜を形成する前に予め、前記サーメット基材の表面を洗浄する洗浄工程を含み、
    前記洗浄工程は、
    アルカリ性水溶液により前記サーメット基材を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
    前記アルカリ洗浄処理が完了した後、前記サーメット基材を洗浄する水洗処理と、
    前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記サーメット基材表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行うものとし、
    前記耐酸化膜は、前記サーメット基材の表面のチタン化合物と反応して、前記複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を、前記サーメット基材に塗布した後、380〜700℃で加熱することによって形成されるようにしたことを特徴とするサーメット基材の耐酸化膜形成方法。
  22. 炭化チタン、窒化チタンおよび炭窒化チタンのうち、少なくとも1種以上のチタン化合物を硬質相の主成分とする焼結体における酸化を防止するためのチタン系焼結体の酸化防止方法であって、
    前記焼結体の表面を洗浄する洗浄工程と、
    前記洗浄工程が完了した後、前記焼結体の表面に、チタンを含む複合酸化物によって構成される耐酸化膜を形成する耐酸化膜形成工程とを含み、
    前記洗浄工程は、
    アルカリ性水溶液により前記焼結体を洗浄するアルカリ洗浄処理と、
    前記アルカリ洗浄処理が完了した後、前記焼結体を洗浄する水洗処理と、
    前記水洗処理が完了した後、エアーブローにより前記焼結体表面の水分を吹き飛ばしてから、自然乾燥させる乾燥処理とを行う一方、
    前記耐酸化膜形成工程において、前記耐酸化膜は、前記サーメット基材の表面のチタン化合物と反応して、前記複合酸化物を生成する金属塩を含む処理液を、前記サーメット基材に塗布した後、380〜700℃で加熱することによって形成されるようにしたことを特徴とするチタン系焼結体の酸化防止方法。
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