JP4590830B2 - チューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法、チューブハイドロフォーミング装置およびそれらを用いた金属部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チューブハイドロフォーミングのローディングパス(Loading Path)決定方法、チューブハイドロフォーミング装置および金属部材の製造方法に関し、例えば、金属管をチューブハイドロフォーミングにより成形して自動車部品等に代表される部材を製造する際に、軸押し量および成形圧力の印加スケジュールであるローディングパスを最適に決定しうるチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法、チューブハイドロフォーミング装置およびそれらを用いたチューブハイドロフォーミングによる金属部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品、例えば自動車車体のフレームの中では、フロントサイドフレームや足回り部品の一つであるサブフレーム等がその例であるが、それらを含め、自動車、電化製品、産業機械、プラント等の構造部材に、管(金属管)をハイドロフォーミングした金属部材が使用されることがある。管のハイドロフォーミング(略号HF)すなわちチューブハイドロフォーミング(略号THF)とは、所望の形状をした金型の内部に管を装入し、被成形金属管の軸(中心軸)方向両端(以下、管端という。)から軸押しポンチで力を加えながら、管の内部に入れた液体(水、油など)に、圧力(成形圧力)をかけて管を膨らませ、所望の形状に成形する方法である。
【0003】
THFにおいて、液体にかける圧力が過小で金型に沿う形状まで十分に管の成形が行われない成形不足が生じたり、軸押し量が過小になって、管の減肉が大きくなり、破断してしまったり、軸押し量が過多になって管の座屈を生じてしまったりするのを防止し、成功裡に成形を完了するには、成形に寄与する2つのプロセスパラメータである軸押し量と成形圧力の調和の取れた時間的な変化が重要である。すなわち、これら2つのプロセスパラメータの時間的な変化の組み合わせとして最適なものを選ぶことが肝要である。しかし、最適な組み合わせを見出すことは簡単ではなく、熟練した作業者が経験に頼って決めているのが現状であるため、最適な組み合わせを見出すまでに多大な時間と労力を要する等、効率が悪く、また、最適と思っているローディングパスが必ずしも最適でないという場合もある。ここで、ローディングパスとは、軸押し量および成形圧力の印加スケジュールすなわち時間的な変化のことで、これらプロセスパラメータの時間的な変化を規定したもの(数式、図、テーブルなど)で表される。
【0004】
また、チューブハイドロフォーミングのFEM(有限要素法)シミュレーションにより、先述のような成形不足や座屈を生じないローディングパスを見出し、実際に金属管の成形に適用することで、最適なローディングパスの探索の手間を省く試みもなされているが、FEMシミュレーションによる最適なローディングパスの探索も、生産現場においてと同様、熟練した作業者の経験が必要であり、やはり効率が良いとはいえない。
【0005】
そこで、オハイオ州立大学(略号OSU)のアルタン(Altan )教授らは、アダプティブシミュレーション(Adaptive Simulation ;略号AS)という最適なローディングパスの探索方法を開発し、発表した(非特許文献1参照)。この方法は、FEMシミュレーションにおいて、成形中の管の指定領域の面積Sと体積Vについて、以下のような処理を行うものである。
(1) まず、Vfcを指定領域の管内部の体積、Sを指定領域の管の表面積として、セルフフィーディング(Self feeding)法と呼ばれる手法で、FEMシミュレーションを行って、VfcおよびSをそれぞれ時間τの関数Vfc self(τ)、Sself(τ)として予測した後、Vfc self(τ)とSself(τ)の関係から関数Sself( Vfc) を求める。
(2) 次に、ローディングパスを決定するに際し、先述のASを行って、
V(τ)=(Vfc(τ)−Vfc self(τ0 ))/(Vfc self(τf )−Vfc self(τ0 )) ‥‥(1)
τ0 :開始時刻、 τf :終了時刻
で示される、体積を無次元化した指標として示す時間の関数V(τ)を求め、このV(τ)と、別途求めたS(τ)とから、S(V)を求め、成形中に管に発生することのあるシワの指標である、
W(V)=(S(V)/Sself(V)−1)×100 ‥‥(2)
を算出し、W(V)がある範囲内に入るようにすることで、シワが発生しないようにローディングパスを調整する、という一連の処理を繰り返す。
【0006】
【非特許文献1】
Annals of 51st CIRP, Nancy(France), agosto 2001.
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
実際のチューブハイドロフォーミングにおいても、FEMシミュレーションにおいても、軸押し量が大きすぎるとシワが発生したり、被成形金属管が座屈したりして所望の形状が得られず、一方で、軸押し量が小さすぎると、管の減肉が大きくなりすぎて破断してしまう。したがって、シワが発生しないように、あるいは発生しても最終的にはシワが消えるような範囲ぎりぎりで軸押し量を大きくしつつチューブハイドロフォーミングを行うローディングパスが最適になる。よって、発生することのあるシワをFEMシミュレーションでいかに定量的に捉え、監視するかがポイントとなる。
【0008】
この点からみて非特許文献1のASによる方法は非常に有効であるが、式が複雑であり、チューニングパラメータが上手く設定できなかった場合、原因を調べるのが困難になる、という問題があった。生産現場で用いるにはなおさらであった。さらに、近年では、特に自動車部品には、成形のより難しい管が用いられるようになるなど、事態を一層困難にしていた。
【0009】
本発明の目的は、上記のような問題を解決し、最適なローディングパスを簡単に決定できるチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法、チューブハイドロフォーミング装置およびそれらを用いた金属部材の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記非特許文献1のASによる方法を参考にして検討を重ねた結果、より簡単なシワの定量化方法を見出し、本発明をするに至った。すなわち本発明は、次のとおりである。
(1)チューブハイドロフォーミングのローディングパスを決定するにあたり、前段階のシミュレーション結果を利用して管のシワが発生しやすい箇所である注目領域を決定しておき、暫定したローディングパスについてFEMシミュレーションを行い、各解析ステップごとに管の前記注目領域の表面積Sと体積Vを算出し、シワ発生の有無を予測する指標としたV1/3 とS1/2 の比ν=V1/3 /S1/2 が所定の暫定的な閾値ν limit 以上になるようにローディングパスを修正し、その際、前記注目領域での最大減肉量thを算出し、thが減肉量限界値thmax より大であれば、閾値νlimit を小さく変更して、始めに戻って再度計算を始めるようにし、thがth max 以下となるまでこれを繰り返してローディングパスを決定することを特徴とするチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法。
(2)金型と、 該金型の内部にて被成形金属管の軸方向に動作する該金型軸方向両端に配した液圧シリンダと、該液圧シリンダの動作方向を切換える電磁弁と、該電磁弁に液体を供給する液圧供給源と、(1)に記載のチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法でローディングパスを決定する機能を内部に有する計算機と、該計算機からの指令により、成形圧力と軸押し量を制御する制御盤とを備えたことを特徴とするチューブハイドロフォーミング装置。
(3)(1)に記載のチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法で決定されたローディングパスに従うチューブハイドロフォーミングにより金属部材を製造することを特徴とする金属部材の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
図1および図2に、自動車の足回り部品の一つであるサブフレームをチューブハイドロフォーミングにて成形する実験を行った際のFEMシミュレーション結果を示す。図1はシワが発生した場合、図2(a) はシワが発生しなかった場合の成形後製品の外観をそれぞれ示す。双方のローディングパスは非常に近いもので、ほんの僅かの差がシワの発生につながっている。また、図2(b)には、シワが発生しなかった場合の成形圧力と減肉率の関係をFEMシミュレーション結果と実験結果とで比較して示した。なお、図中、成形途中の実験データは、成形を途中で中止したサンプルについて肉厚を測定して得た。FEMシミュレーション結果と実験結果とはよく一致しており、FEMシミュレーションの精度は十分であると言える。
【0012】
図1においてシワが発生した管の領域を、本発明では注目領域とし、この領域について、前述したシワの発生した場合と発生しなかった場合、双方のローディングパスの場合のFEMシミュレーション結果から、管の表面積S(管外周で囲まれる空間の表面積)および体積V(管外周で囲まれる空間の体積)の時間的な変化を逐次的に捉えた。表面積Sは注目領域内の各要素の表面積の総和とした。体積Vは、例えば図3に示すように、管の注目領域2を含む仮想領域3(体積Vc の立方体もしくは直方体)の中に、乱数を用いて総数Nの点群を仮想的に計算機内に発生させ、その点群が注目領域の内側にあるか否かを計算機内で行うFEMシミュレーションで判別し、内側にあると判別された点の数Cを求め、次式
V=C/N×Vc ‥‥(3)
によって算出した。なお、図3の右側の点群プロット図の縦軸、横軸の目盛りはFEMシミュレーションで用いた位置的な座標である。
【0013】
シワが発生すると体積Vは小さくなり、表面積Sは増加する。よって、VとSを組み合わせたパラメータを用いれば、シワを定量的に捉えて予測し、シワの発生の有無が判別可能である。そのパラメータとして、発明者らは当初、従来よく用いられることのあったV/Sのほかに、新たにV1/3 /S1/2 という指標も考え、2種類を試すことにした。後者の方が無次元化されているためより良いパラメータであると考えられたからである。この点は、上記図1(シワ発生)の場合と図2(a)(シワ発生なし)の場合のそれぞれについてFEMシミュレーションにより算出した注目領域の表面積Sと体積Vを用いてV/SおよびV1/3 /S1/2 の時間的な変化を再現して示した結果、予想に違わず、図6に示すように、V1/3 /S1/2 の方が、シワ発生の場合とシワ発生なしの場合を、閾値を挟んで上下により明確に判別できることによって裏付けられた。よって、本発明では、チューブハイドロフォーミングにてシワの発生の有無を予測する指標として、体積Vと表面積Sを1次元化したものの比
ν=V1/3 /S1/2 ‥‥(4)
を採用した。
【0014】
例えば図6の場合、シワ発生が抑制されるνの閾値(シワ発生とシワ発生なしの境界値)νlimit としては、管と金型が部分的に接触した後の段階では、例えば0.491 、接触する前の段階では、例えば初期値(成形前の値)である0.485 を採用することができる。νが閾値νlimit 以上になるようにすれば、言い換えるとνが閾値νlimit 以上で時間的に変化するようにすれば、シワは発生しないことを意味する。なお、νlimit は、これらの値に限るものではなく、例えば前者の管と金型が部分的に接触した後の段階では、図6中下の図に示したハッチングした領域内のどこでも設定することができる。何らかの外乱に対する安全上、その中央近辺に閾値を設定するのが好ましいため、上記のような値としたものである。後者の場合は領域が比較的狭くなっているがやはり同様である。
【0015】
このようにシワ発生の場合とシワ発生なしの場合からわかる閾値を用いて後述の図4の説明に出てくる暫定的な閾値νlimit として設定しておけば、FEMシミュレーションと並行して実際のチューブハイドロフォーミングを同時に行う場合でもシワが発生する問題が実際上は避けられる。実際上といったのは、素材である管の強度のばらつきや成形圧力の油圧変動等の外乱による振れが起こった場合にν<νlimit となってしまう場合があるということであるが、実際問題、FEMシミュレーションは各解析ステップごとに行われ、最大減肉量thが減肉量限界値thmax より大となる解析ステップがあったとしても、すぐに閾値νlimit を下げるようにはたらくため、実際にシワが発生するまでにはなかなか至らない。
【0016】
以上は、シワ発生の場合とシワ発生なしの場合から閾値を見出した場合と同じ管の材質、寸法の場合に言えることであるが、それとは異なる材質、寸法の管にハイドロフォーミングを行う場合は、まずFEMシミュレーションだけを行ってみて(その過程でν<νlimit となることは十分あり得る)、最適なローディングパス(この最適なローディングパスではν≧νlimit となる)を見出せたのちに実際のチューブハイドロフォーミングをFEMシミュレーションと並行して同時に行うようにすれば問題はない。その際はもちろん、FEMシミュレーションだけを行って得られた閾値を暫定的に設定しておく。
【0017】
また、発明者らは、様々な形状の部品についてFEMシミュレーションを行い、その結果、管と金型が接触している状態でのνlimit としては、管ではなく金型の形状データを用いて管の注目領域に対応する部分について算出した体積Vと表面積Sから(4) 式のνを求め、その値に0.99〜1.00の係数を掛けたものを採用できることも見出した。この係数を0.99〜1.00の間で数水準とり、その中で最適な値(最適な値は、FEMシミュレーションを各々の係数で実施し、シミュレーション結果による成形後の管の目視形状及び減肉率が実際に成形を行った後の管のそれらと最もよく一致するものによって判定しうる)を選択すればよい。実際、この係数は3水準程度試すことで十分良好な結果を得ることができる。
【0018】
また、管の注目領域としてはシワが発生しやすい場所を選定する必要があるが、例えばプリベンドされた(予めチューブハイドロフォーミングされる前に曲げ加工された)管のチューブハイドロフォーミングにおいて、シワが発生しやすい箇所は、曲げの内側など、ある程度限られることが経験上わかっているので、そのような箇所を含むように選定するのがよい。なお、注目領域の大きさは、小さいほどパラメータνによりシワ発生の有無を明確に判別できるようになるため、できるだけ小さくとるのが好ましい。
【0019】
上記パラメータνを用いた本発明のローディングパス決定方法の一例を、図4に示した流れ図を用いて説明する。FEMシミュレーションだけを行う仮想的な場合もFEMシミュレーションと並行して実際のチューブハイドロフォーミングを同時に行う場合も含む。
まず、暫定的なローディングパスと閾値νlimit を仮に設定し、素材である金属管の寸法(外径D、肉厚t0 )と降伏応力σy から算出される塑性変形開始圧力pi まで軸押しを行わずに成形圧力を上昇させる。次いでシワ発生の解析をFEMシミュレーションにより行う。ここでは、注目領域のVとSとからパラメータνを算出し、予め設定しておいた閾値νlimit と比較し、それ未満ならば軸押しを行わずに成形圧力だけをΔp増加させ、それ以上ならば成形圧力は維持して軸押し量(長さ)をΔd仮想的に増加させる。
【0020】
次いで注目領域での最大減肉量thを算出し、thが減肉量限界値thmax より大であれば、閾値νlimit を変更し(小さくして)、始めに戻って再度計算を始めるようにするのが好ましい。thが減肉量限界値thmax 以下であれば、実際のチューブハイドロフォーミングを同時に行う場合は、実際にΔpあるいはΔdを増加させ、管と金型の接触率αを計算し、αが例えば90%以下であれば、再びシワ発生の解析の最初に戻り、ΔpあるいはΔdの仮想的な増加後のνについてνlimit との比較を行う。90%超となっていれば、軸押し量増分をあるΔdf に仮想的にあるいは実際に固定して成形圧力を最大成形圧力pmax まで仮想的にあるいは実際に上昇させる。最大成形圧力pmax はチューブハイドロフォーミング装置の仕様上の最大値のことで、管を成形後のコーナのR部まで金型に沿うようにしっかりと成形するためにはこの最大成形圧力まで成形圧力を上昇させる必要がある。また、Δdf は管が金型に沿うように最終的に成形されていくに従い、管が短くなるように変形するのにうまく追随していくように、両軸端を押し込み過多にならない限度で押し込んでいくのに好適な、経験上見出される値であり、成形後製品の形状にもよるが通常は0〜10mm程度である。
【0021】
次いで最大成形圧力pmax での最大減肉量thを算出し、thが減肉量限界値thmax より大であれば、閾値νlimit を変更し(小さくして)、始めに戻って再度計算を始め、そうでなければ、計算を終了する。
以上を一つのステップとし、FEMシミュレーションの解析にとっても、実際のチューブハイドロフォーミングを並行して行う場合のチューブハイドロフォーミングにとっても一ステップとすれば、このように、FEMシミュレーションの各解析ステップ毎に計算されるνと閾値νlimit を比較してシワ発生の有無を予測し、あるいは、実際のチューブハイドロフォーミングを並行して行う場合は、シルナックセンサなどによる軸押し量に関するデータや圧力センサPTの出力する測定値をFEMシミュレーションの各解析ステップ毎に反映させることで計算されるνとνlimit を比較して判別し、シワ発生の場合はローディングパスを修正し、シワ発生なしの場合に限って最大減肉量が限界値を上回らないかどうかを判別し、上回る場合は閾値νlimit を変更する。このようにしたのは、金型に沿う形状まで十分に管の成形が行われるか否か、すなわち成形性の良否判別の優先度として、シワの方が減肉よりも高い(シワが発生すると直ちに成形失敗となるが、減肉は許容範囲が比較的大きい)からである。以上のようなステップを繰り返すことで次第にローディングパスが修正され、決定していく。このようにして決定されたローディングパスでは、各解析ステップ毎に算出されたνは閾値νlimit 以上となる。
【0022】
さて、本発明により得られたローディングパスは、そのまま実際にチューブハイドロフォーミングに用いてもよいが、図5の点線に示すように成形圧力と軸押し量の関係がステップ状となっているため、このステップ状のローディングパスの各頂点を結んで実線で示すように修正したものを用いる方が好適である。
図7に、本発明により得られたローディングパスを実際にチューブハイドロフォーミングに適用した結果(本発明例)と、実験により経験的に最適化されたローディングパス(従来例A;シワ発生なし)および実験の結果シワが発生したローディングパス(従来例B)とを比較して示す。本発明例では従来例A,Bよりも最終的な軸押し量が小さく、同じ軸押し量に相当する成形圧力が従来例A,Bよりも高圧力側に移行している。このことは、従来は低い成形圧力を軸押しで助けることによって成形していたことを意味しており、軸押し量過多気味すなわち管の座屈、局部的なシワの発生等を起こしやすいローディングパスでハイドロフォーミングを行っていたことを意味している。この点、本発明はそれらよりも良いローディングパスでハイドロフォーミングを行えたことになる。最大減肉率を測定してみると、従来例Aでは26.7%であったものが、本発明例では24.3%と小さくなっており、本発明の効果が確認された。
【0023】
なお、先述の通り、普通は軸押し過小の場合に減肉が問題になるのであるが、ここで軸押し過多なのを是正した場合も減肉が減っているのは、軸押し過多だと局部的に管の座屈という異常な変形が発生しかかっていたために、さらに小さな箇所で異常に減肉の大きな箇所が従来あったのが、なくなったということに基づくものと推定している。
【0024】
次に、本発明によるローディングパス決定方法を実際に実現するためのハイドロフォーミング装置について図8を用いて説明する。FEMシミュレーションを行うための計算機10は、パーソナルコンピュータに防塵用カバー20をかけたものが好ましい。FEMシミュレーション用ソフトウエアとしては、動的陽解法、静的陽解法、静的陰解法のいずれも用いて好適である。なお、FEMシミュレーションに要する時間の短縮と精度の兼ね合いの観点からみて発明者らは動的陽解法が最適と考えている。本発明により得られたローディングパスは、例えば〔時間〕‐〔成形圧力〕および〔時間〕‐〔軸押し量〕の関係のテーブルデータとして、先述の計算機10に記憶しておき、伝送径路Eを経てチューブハイドロフォーミング装置の制御盤30に伝送するようにする。テーブルデータの保存のしかたとしては、テキスト形式(ASCII 形式)でも、よく用いられている市販の表計算ソフトウエアの形式でもよい。
【0025】
制御盤30からの指令を伝送径路Fを経て受け、図8中に40で示す電磁弁の切換えにより、油圧油等の液圧の供給源P(ポンプ)から送られてくる液体の液圧シリンダ50への供給を加減するよう制御する。液圧シリンダ50には、その内部(例えばロッド)に図示しないシルナックセンサを埋め込んだものを使用するなどして、軸押し量に関するデータを制御盤30に伝送径路Gを経て伝送するようにし、軸押し量がローディングパスのテーブルデータ通りになることを目標に制御を行う。液圧シリンダのロッドを動きにくくする機構を備えることが望ましく、ロッドを動きにくくした状態で電磁弁40を切換えれば、成形圧力の加減が容易になるから、そのもとで圧力センサPTがテーブルデータ通りになることを目標に制御を行うようにするのが好ましい。なお、図8の例では電磁弁としてDS3P(Double Solenoid 3 Position )のタイプのものを使用しているが、サーボ弁を用いてもよい。
【0026】
液圧シリンダのロッドを動きにくくする機構は例えば次のようにして実現できる。電磁弁40よりも液圧シリンダ50側に絞り弁60を設けておく。これを絞れば同じ液圧をかけても流路が絞られている分、流量が少なくなる一方で、閉じているわけではないから液圧シリンダに供給する液体の圧力は上げることができる。そうはいえ、液圧の供給源から供給される液体の流量は一定しているから、余る分はリリーフ弁70を経てタンクTに戻る。このリリーフ弁は、クラッキング圧と呼ばれる一定の圧力を超えると流路が開く仕組みの弁である。絞り弁60の絞りもリリーフ弁70のクラッキング圧も図示しないアクチュエータにより、制御盤30からの図示しない伝送径路を経た指令により調整される。
【0027】
【実施例】
JIS STKM12A 相当の鋼管(寸法:φ35mm×2.3mmt×1000mmL )を素材に用い、実施例として、本発明例(前記方法)により決定したローディングパスに従って10000 本、比較例として従来例Aのように実験により経験的に決定したローディングパスに従って同本数の素材を、図2(a)の成形後製品の形状に対応する金型を用いてチューブハイドロフォーミングを行い、その結果として、シワ発生なしの本数、破断もしくはシワ発生の本数、および成形後製品各10000 本の中からそれぞれ無作為抽出した100 本について最小肉厚を測定した結果の平均値を調査した。その結果を表1に示す。同表に示すとおり、実施例では比較例よりもシワ発生なしの本数が多く、平均最小肉厚が厚くなっており、本発明のローディングパス決定方法による金属部材の製造方法により、従来よりも優れた成形性が示された。
【0028】
【表1】
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、最適なチューブハイドロフォーミング用ローディングパスを決定することができる。
なお、本発明を実現するためのチューブハイドロフォーミング装置を用いれば、副次的な効果として、従来のチューブハイドロフォーミング装置は作業者がローディングパスデータを制御盤に手で入力するケースが多く、該データの入力ミスが起こりうるところ、入力ミスも防げる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シワが発生したチューブハイドロフォーミング成形後製品の外観を示す図である。
【図2】(a)は図1の場合と同じ金型を用い、図1の場合とわずかに異なるローディングパスをとったチューブハイドロフォーミングでシワが発生しなかった成形後製品の外観を示す図であり、(b)は(a)の成形について成形圧力と減肉率の関係をFEMシミュレーションと実験とで比較して示した図である。
【図3】FEMシミュレーション結果から注目領域の体積Vを算出する方法の説明図である。
【図4】本発明によるローディングパス決定方法の一例を示す流れ図である。
【図5】ローディングパスの好適な修正方法の説明図である。
【図6】2種類のパラメータV/SおよびV1/3 /S1/2 の、シワ発生の有無を予測する指標としての有用性を比較して示した図である。
【図7】本発明によるローディングパスと従来のものとを比較して示した図である。
【図8】本発明を実現するためのチューブハイドロフォーミング装置の全体を示す図である。
【符号の説明】
1 管(金属パイプまたは金属チューブ)
2 注目領域
3 仮想領域
5 金型
10 計算機
20 防塵用カバー
30 制御盤
40 電磁弁
50 液圧シリンダ
60 絞り弁
70 リリーフ弁
100 ハイドロフォーミング装置
E 伝送径路
F 伝送径路
G 伝送径路
P 液圧の供給源(ポンプ)
T タンク(液体の戻り)
PT 圧力センサ
Claims (3)
- チューブハイドロフォーミングのローディングパスを決定するにあたり、前段階のシミュレーション結果を利用して管のシワが発生しやすい箇所である注目領域を決定しておき、暫定したローディングパスについてFEMシミュレーションを行い、各解析ステップごとに管の前記注目領域の表面積Sと体積Vを算出し、シワ発生の有無を予測する指標としたV1/3 とS1/2 の比ν=V1/3 /S1/2 が所定の暫定的な閾値ν limit 以上になるようにローディングパスを修正し、その際、前記注目領域での最大減肉量thを算出し、thが減肉量限界値thmax より大であれば、閾値νlimit を小さく変更して、始めに戻って再度計算を始めるようにし、thがth max 以下となるまでこれを繰り返してローディングパスを決定することを特徴とするチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法。
- 金型と、 該金型の内部にて被成形金属管の軸方向に動作する該金型軸方向両端に配した液圧シリンダと、該液圧シリンダの動作方向を切換える電磁弁と、該電磁弁に液体を供給する液圧供給源と、請求項1に記載のチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法でローディングパスを決定する機能を内部に有する計算機と、該計算機からの指令により、成形圧力と軸押し量を制御する制御盤とを備えたことを特徴とするチューブハイドロフォーミング装置。
- 請求項1に記載のチューブハイドロフォーミングのローディングパス決定方法で決定されたローディングパスに従うチューブハイドロフォーミングにより金属部材を製造することを特徴とする金属部材の製造方法。
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