JP4586253B2 - エステル交換反応の停止方法 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エステル交換反応の停止方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
エステル交換は油脂の改質法として有効な手段の1つである。エステル交換は従来より化学的な手法、即ちアルカリ金属アルコラート、アルカリ金属、アルカリ金属水酸化物等を触媒として使用するランダムにエステル交換する金属触媒法とリパーゼを使用して位置特異性又はランダムにエステル交換する、酵素的エステル交換法の二種に大別される。
【０００３】
また、エステル交換法にはバッチ式と連続式があるが、何れの方法においてもエステル交換反応が終了した段階、または休日等の関係からエステル交換反応を一時的に中断した段階で、未だ触媒に活性能を保持している場合には、活性能を維持した状態で当該触媒を保存しておくのが有利である。
【０００４】
ところが、従来ではエステル交換反応の終了時、またはエステル交換反応の一時的中断時には、反応装置内からエステル交換反応が終了した油類（反応油と反応済みの脂肪酸の1価アルコールエステルとの混合物）または当該反応途中の油類を抜き出すか、あるいは抜き出さずに反応装置内に止めた状態で放置している。
【０００５】
このようにエステル交換反応の終了時またはエステル交換反応の一時的中断時に反応装置内から油類を抜き出したり、油類を反応装置内に止めた状態で放置しておくと、望ましくない反応が進む結果、製品の品質に悪影響を及ぼしたり、また触媒の活性が低下して触媒が劣化するという欠点がある。特に原料油または反応油の融点が高い場合には、油類を反応装置内に止めた状態で放置しておくと固化するので、再使用に際して固化した当該油類を加温して融解する必要があるが、かかる加温により触媒の活性が著しく低下するという欠点がある。
【０００６】
例えば、トリグリセリドと脂肪酸の1価アルコールエステルとをリパーゼを用いた酵素的エステル交換することによりカカオ脂を代表とする高付加価値の対称型トリグリセリドを製造する方法がある。このようなエステル交換反応には、固定化酵素を充填したカラム内に油脂と脂肪酸の1価アルコールエステルの混合物である基質を通液するカラム通液（連続式）反応と、酵素と当該基質を攪拌して接触反応されるバッチ式反応とがあり、かかる連続式またはバッチ式により対称型トリグリセリドを製造するが、連続式の場合、休日等で2日ないし一週間またはそれ以上の間、一時的に通液を停止することがある。
【０００７】
また、バッチ式においては未だ酵素の活性が劣化していない状態で反応を終了することがある。前者の連続式の場合、カラム内から油脂と脂肪酸の1価アルコールエステルの混合物である基質を抜き出さずに放置すると、通液停止期間中もカラム内ではエステル交換反応が進行し、その結果、過反応物であるトリ飽和トリグリセリド（以下、SSSと記載する場合がある）、1，2−飽和−3−不飽和トリグリセリド（以下、SSUと記載する場合がある）が過剰に生成し、1，3−飽和−2−不飽和トリグリセリド（以下、SUSと記載する場合がある）を主成分とするテンパリング型ハードバターの冷却曲線を悪化させ、テンパリング特性等に影響を与えたり、ハードバターの融点を上昇させる為チョコレート用油脂としては好ましくない。
【０００８】
また、生じたSSS、SSUによりカラム内及びカラム同士を連結している配管中で固化し、閉塞が起こり、通液再開時の作業性に影響を与える。また、後者のバッチ式の場合においても油脂と脂肪酸の1価アルコールエステルの混合物である基質をそのままの状態で放置しておくと同様なことが起こり好ましくない。
【０００９】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は触媒の活性が未だ維持している状態でのエステル交換反応終了後、またはエステル交換反応の一時的中断後にエステル交換反応を再開しても、エステル交換反応の作業性やエステル反応油脂の品質に悪影響を及ぼすことなく、かつ当該触媒の活性を劣化させ難い、エステル交換反応の停止方法を提供することを目的とする。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討した結果、一時的なエステル交換反応の停止時にカラム内のエステル交換反応生成物を、エステル交換反応原料として使用している脂肪酸の1価アルコールエステルで置換することによって上記する課題を解決することができ、かつSSS等の過反応生成物の生成が抑制され、従って配管での閉塞等の通液再開時の作業性を困難にする等問題もなく、品質良好なエステル交換油を得ることができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【００１１】
すなわち本発明は、反応容器／管中のトリグリセリド(TG)及び脂肪酸の1価アルコールエステル(FA)を含む混合物を脂肪酸の1価アルコールエステル(FA)に置換することによりエステル交換反応を停止する方法、である。
【００１２】
【発明の実施の形態】
本発明において、エステル交換反応はバッチ式、連続式の何れであってもよいが、通常は連続式が一般的に採用されている。これらのエステル交換反応に使用される触媒にはアルカリ金属系触媒もあり得るが、今日においてはリパーゼを用いてランダム又は選択的にエステル交換する酵素触媒が主流を占めている。
【００１３】
反応容器／管中に残留する反応油脂と反応済みの脂肪酸の1価アルコールエステルとの混合物、またはトリグリセリドと脂肪酸の1価アルコールエステルとの混合物である基質を置換する脂肪酸の1価アルコールエステルは、任意の脂肪酸の1価アルコールエステルが使用できるが、当該エステル交換反応に原料として使用している脂肪酸の1価アルコールエステルと同じ脂肪酸の1価アルコールエステルを使用するのが製品に影響を与えないので好ましい。
【００１４】
通常、これらの脂肪酸の1価アルコールエステルはエステル交換反応油脂に比べ融点が低いため、反応装置内で固化しても反応温度までの加熱で融解は容易にできるので、触媒の活性を損なうことなく、かつ触媒に接触していても何ら反応が進まないので触媒の活性を停止時の状態のまま維持することができる。
【００１５】
また、脂肪酸の1価アルコールエステル置換後の反応装置停止状態の温度は、当該温度を持続させるのに費用を要しない温度が適当であって、大気温度に任せた常温状態で停止させることもできる。反応再開時の作業性を考慮した場合、当該脂肪酸の1価アルコールエステルが液状状態で存在していることが好ましく、従い当該脂肪酸の1価アルコールエステルが固化しない下限温度付近で保持してもよい。
【００１６】
また、反応装置内への脂肪酸の1価アルコールエステルの置換の割合は、言うまでもなく、可及的全量を置換するのが好ましく、置換の割合が高ければ高いほど効果も高く、置換の割合が低ければ低いほど効果を得難いので、実施に際しては適宜実験的に確かめた上で実施するのがよい。
【００１７】
また、停止期間は言うまでもなく可及的短いのが有利であるが、触媒の活性が保持できる期間であれば何日間または何週間あるいは何ヶ月間であってもよい。
【００１８】
【実施例】
以下、実施例により本発明の実施態様を説明するが、これは例示であって本発明の精神がこれらに制限されるものではない。なお、例中、部及び％は何れも重量基準を意味する。
【００１９】
実施例1
ステアリン酸エチル（C18純度97.8％）65部と、ハイオレイックひまわり油35部を混合し、1,3特異性を持つリパーゼを担持したケイソウ土を充填したカラムに、上記の反応基質を40℃で通液してエステル交換反応させた。通液停止の1日前から反応基質の代わりにステアリン酸エチルを通液し、全てのカラムをステアリン酸エチルに置換し、通液を停止した。5日間の通液停止終了後、反応基質の通液を開始し、得られた反応後の混合組成物を蒸留精製により脂肪酸の1価アルコールエステル及び脂肪酸の全てを除去し、エステル交換油脂グリセリドを得た。
反応基質の通液を開始24、48時間後の油脂グリセリドの組成をHPLC分析した。その結果を比較例と共に表1に示す。
【００２０】
比較例1
実施例１において通液停止の際、ステアリン酸エチルによる置換を行わずに、カラム内には反応基質が存在する状態で通液を停止した以外は、実施例と同様に行った。結果を上の実施例と共に表１に示す。
【００２１】

【００２２】
以上の結果、触媒の活性が持続した状態でエステル交換反応を終了、または一時的に停止する際、反応装置内に残留する油脂を脂肪酸の1価アルコールエステルで置換することにより、品質良好なエステル交換反応油脂を得ることができ、また、カラム内及びカラム同士を連結している配管中での固化による閉塞を防止でき通液再開時の作業性に困難をきたす問題も解決できる。
【００２３】
【発明の効果】
以上のように、本発明により、エステル交換反応の作業性やエステル交換反応油脂の品質に悪影響を及ぼすことなく、かつ当該触媒の活性を劣化させ難い、エステル交換反応の停止方法を提供することができるようになった。

Claims (2)

1. トリグリセリド（ＴＧ）と脂肪酸の１価アルコールエステルを、酵素触媒としてリパーゼを用い、ランダム又は選択的にエステル交換し、ハードバターを製造する方法において、反応容器／管中のトリグリセリド（ＴＧ）及び脂肪酸の１価アルコールエステルを含む混合物を脂肪酸の１価アルコールエステルに全量置換することにより、触媒の活性が持続した状態でエステル交換反応を終了、または一時的に停止する方法。
2. 置換後反応再開まで温度制御と原料供給を停止する請求項１記載のエステル交換反応を終了、または一時的に停止する方法。