本発明に係る超音波診断装置および超音波診断装置の制御方法の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る超音波診断装置の第1の実施形態を示す構成図である。
超音波診断装置10は、超音波プローブ11、受信回路12、送信回路13および制御装置14を備える。制御装置14は、本発明に係る超音波診断装置の制御方法により、超音波診断装置10を制御する機能を備え、送信データ作成系15とデータ処理部16とを有する。制御装置14の全部あるいは一部は、特定の回路で構成する他、コンピュータに制御プログラムを読み込ませることにより構築することもできる。そして、受信回路12は、送信データ作成系15と接続される一方、送信回路13はデータ処理部16と接続される。また、超音波プローブ11は、単一あるいは複数の圧電振動子を備え、受信回路12および送信回路13は超音波プローブ11内の共通の圧電振動子と接続される。
送信データ作成系15は、送信回路13に制御信号を与えることにより、各種スキャンを実行させる機能を有する。具体的には、送信データ作成系15には、Bモード像を得るためのBスキャン、Cbモード像を得るためのCbスキャン並びにDモード像やドプラオーディオ信号を得るための第1のパルスドプラスキャンとしてのDスキャンおよび第2のパルスドプラスキャンとしてのAcスキャンが、DスキャンのみのブロックとDスキャン以外の他のスキャン(Bスキャン、CbスキャンおよびAcスキャン)のブロックとに分けて実行されるように、制御信号を作成させる機能が備えられる。
尚、Dスキャン以外の他のスキャン中には、Bスキャン、CbスキャンおよびAcスキャン以外のスキャンが含まれていてもよい。
ここで、Acスキャンとは、Dモードによるスキャン位置における血流ドプラ信号を取得して自己相関法により血流の速度情報を測定するためのスキャンである。Acスキャンは、Dスキャン以外の他のスキャンが行なわれるブロックにおいて、断続的あるいは離散的に行なわれる。
つまり、送信データ作成系15は、超音波診断装置10によりBスキャン、Cbスキャン、AcスキャンおよびDスキャンが、DスキャンのみのブロックとBスキャン、CbスキャンおよびAcスキャンのブロックとに分けて実行されるように、送信回路13に制御信号を与えて制御する送信回路制御手段としての機能を有する。
送信回路13は、送信データ作成系15から制御信号として受けた基準レートパルスに適宜遅延時間を与えることにより送信信号として電気パルスを生成し、超音波プローブ11内の圧電振動子内に印加する機能を有する。
超音波プローブ11は、送信回路13から受けた送信信号である電気パルスを圧電振動子により超音波パルスに変換して図示しない被検体内に送信する機能と、被検体内において生じた反射波を圧電振動子により受信して電気信号に変換し、受信信号として受信回路12に与える機能とを有する。
すなわち、送信回路13から受けた送信信号に従って、超音波プローブ11から超音波パルスが被検体に送信され、Bスキャン、Cbスキャン、AcスキャンおよびDスキャンのいずれかを実行することができる。そして、Bスキャン、Cbスキャン、AcスキャンおよびDスキャンにおける受信信号である反射波信号や血流ドプラ信号を受信して受信回路12に与えることができる。
受信回路12は、超音波プローブ11内の圧電振動子から受けた受信信号の整相加算処理や位相検波を行なうことにより受信信号をIQ信号に変換する機能と、IQ信号に対してレンジゲート範囲内の加算処理を行ってデータ処理部16に与える機能を有する。
データ処理部16は、Bモード処理系17、カラードプラ処理系18、スペクトルドプラ処理系19および表示系20を備える。さらに、データ処理部16には、出力手段としてのモニタ21およびスピーカ22が設けられ、表示系20の出力側にモニタ21が設けられる一方、スペクトルドプラ処理系19の出力側に音声出力手段としてのスピーカ22が設けられる。
Bモード処理系17は、図示しない対数増幅器、包絡線検波器、およびA/D変換器を備えて構成される。Bモード処理系17は、受信回路12からBスキャンの実行により得られたIQ信号を入力して、Bモード像データの生成処理を行なうことにより、被検体の2次元断層像をBモード像として表示させるためのBモード像データを生成する機能と、生成したBモード像データを表示系20に与える機能を有する。
カラードプラ処理系18は、図示しないウォールフィルタ、自己相関器および演算器等の通常備えられる機器で構成される。カラードプラ処理系18は、受信回路12からCbスキャンの実行により得られた被検体の同一部位からの複数のIQ信号を入力して、カラードプラ像データの生成処理を行なうことにより血流をカラードプラ像(Cbモード像)としてカラーで表示させるためのカラードプラ像データを生成する機能と、生成したカラードプラ像データを表示系20に与える機能を有する。
スペクトルドプラ処理系19は、受信回路12からDスキャンの実行により得られたIQ信号を入力して、Dモード像データの生成処理を行なうことにより、血流速度成分の大きさを輝度として、その時間変化をスペクトグラムとして表示するDモード像を表示させるためのDモード像データを生成する機能と、血流の速度情報を音声としてオーディオ出力するためのドプラオーディオ信号を生成する機能とを有する。
また、スペクトルドプラ処理系19は、Dスキャンの実行により得られたIQ信号と、Acスキャンの実行により得られたIQ信号とから、Dスキャンが行なわれないギャップ部分については、血流からのIQ信号を推定し、推定した血流の速度情報からDモード像データおよびドプラオーディオ信号を生成する機能を有する。
そして、スペクトルドプラ処理系19は、得られたDモード像データを表示系20与える一方、ドプラオーディオ信号をスピーカ22に与えて血流の速度情報を音声出力させるように構成される。
表示系20は、Bモード処理系17から受けたBモード像データ、カラードプラ処理系18から受けたカラードプラ像データおよびスペクトルドプラ処理系19から受けたDモード像データをモニタ21に与えて表示させる機能を有する。この際、必要に応じてBモード像データ、カラードプラ像データおよびDモード像データの全部あるいは一部が合成されてモニタ21に与えられる。
次に、超音波診断装置10のスペクトルドプラ処理系19の詳細構成について説明する。
図2は、図1に示す超音波診断装置10におけるスペクトルドプラ処理系19の詳細機能ブロック図である。
スペクトルドプラ処理系19は、等間隔データ処理系30、不等間隔データ処理系31、ギャップ部データ推定系32およびオーディオ信号生成系33を有する。不等間隔データ処理系31およびオーディオ信号生成系33はMUX(multiplexer)34を介して受信回路12の出力先とされ、MUX34により出力先を切り換えることができるように構成される。
等間隔データ処理系30は、第1のウォールフィルタ(Wall Filter)35、第1のメモリ36、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier transform)部37、LOG部38とを有する。
第1のウォールフィルタ35は、受信回路12からMUX34を介してDスキャンにより得られたIQ信号を入力し、IQ信号から血流以外の動きの遅いクラッタ成分を除去して血流ドプラ信号を抽出する血流ドプラ信号抽出手段としての機能と、抽出した血流ドプラ信号を第1のメモリ36に書き込む機能とを有する。第1のウォールフィルタ35は、無限インパルス応答フィルタ(IIR:infinite impulse response filter)で構成することが望ましい。
FFT部37は、第1のメモリ36から読み込んだ血流ドプラ信号のFFT演算を行なって血流ドプラ信号の周波数データを求める機能と、求めた血流ドプラ信号の周波数データをLOG部38に与える機能とを有する。
LOG部38は、FFT部37から受けた血流ドプラ信号の周波数データに対数変換処理を施すことにより、パワースペクトルを求める機能と、求めたパワースペクトルをDモード像データとして表示系20に出力する機能とを有する。
また、不等間隔データ処理系31は、第2のウォールフィルタ39、血流情報推定部40(V、P、T推定部)および第2のメモリ41を備える。
第2のウォールフィルタ39は、受信回路12からMUX34を介してDスキャンにより得られた不等間隔のIQ信号およびAcスキャンにより得られた不等間隔のIQ信号を入力し、第1のウォールフィルタ35と同様に、IQ信号から血流以外の動きの遅いクラッタ成分を除去して血流ドプラ信号を抽出する血流ドプラ信号抽出手段としての機能と、抽出した血流ドプラ信号を血流情報推定部40に与える機能とを有する。
血流情報推定部40は、第2のウォールフィルタ39から受けたDスキャンおよびAcスキャンによる不等間隔の血流ドプラ信号に基づいて、血流の平均速度V、パワーP、分散Vを求める血流情報推定手段としての機能と、求めた平均速度V、パワーP、分散Vを第2のメモリ41に書き込む機能とを有する。
ギャップ部データ推定系32は、ARパラメータ推定部42、第3のメモリ43、相関演算部44、ARパラメータ設定部45、パラメータ内挿部46、波形推定部47を備える。そして、ギャップ部データ推定系32には、Dスキャンのギャップ部におけるDモード像を生成するための血流ドプラ信号を推定する機能が備えられる。
ここで、Dスキャンのギャップ部におけるDモード像の血流速度波形の推定の際に用いられるARモデルとARパラメータの推定について説明する。ARモデルとは、式(2)で表されるモデルのことである。
式(2)において、y(n)はARモデルの出力、pはARモデルの次数、x(n)は白色雑音源、akはARパラメータである。このARモデルによれば、ARパラメータakが分かれば過去の出力y(n−k)から次の出力y(n)を予測することができる。このARモデルにおけるARパラメータakを求めることをARモデルのパラメータ推定と呼び、ARパラメータakは、過去の出力y(n−k)からBurg法等の計算法により計算することができる。そして、得られたARパラメータakからARモデルにより、Dスキャンのギャップ部におけるDモード像用の血流ドプラ信号を推定することができる。
ARパラメータ推定部42は、定常的に第1のメモリ36から過去の血流ドプラ信号を読み込んで、Burg法等の計算法により各時刻におけるARパラメータakを推定するARパラメータ推定手段としての機能と、推定した各時刻におけるARパラメータakを第3のメモリ43に書き込む機能とを有する。
相関演算部44は、第2のメモリ41を参照し、Dスキャンのギャップ中およびその近傍においてAcスキャンまたはDスキャンにより得られた血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列と最も相関の高い過去の非ギャップ部の血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列を検索する機能と、相関の高いデータ列の算出に用いられた血流ドプラ信号の受信時刻を求めて時刻情報としてARパラメータ設定部45に与える相関演算手段としての機能とを有する。
ARパラメータ設定部45は、相関演算部44から受けた時刻情報に基づいて、第3のメモリ43から相関の高い時刻のARパラメータを読み込んで、ギャップ中におけるAcスキャンの中央の時刻のARパラメータとして設定するARパラメータ設定手段としての機能と、設定したARパラメータをパラメータ内挿部46に与える機能とを有する。
パラメータ内挿部46は、ARパラメータ設定部45から受けたAcスキャンの中央の時刻のARパラメータから、Acスキャンの中央の時刻以外の時刻におけるARパラメータを内挿によって求める機能と、求めたギャップ部の各時刻におけるARパラメータを波形推定部47に与える機能とを有する。
波形推定部47は、パラメータ内挿部46から受けた各時刻のARパラメータから式(2)で示されるARモデルによってIQ信号(血流ドプラ信号)の波形を推定する波形推定手段としての機能と、推定して得られたIQ信号を第1のメモリ36に書き込む機能とを有する。
そして、ギャップ部データ推定系32の各機能とFFT部37とによってDスキャンのギャップ部における血流ドプラ信号の周波数を推定する周波数推定手段としての機能が超音波診断装置10に備えられる。
また、オーディオ信号生成系33は、順流逆流分離部48、オーディオ信号生成部49とを有する。順流逆流分離部48は、第1のメモリ36からDモード用の血流ドプラ信号を読み込んで、血流ドプラ信号を順流のものと逆流のものとに分離して、オーディオ信号生成部49に与える機能を有する。また、オーディオ信号生成部49は、順流逆流分離部48から受けた順流および逆流の血流ドプラ信号をそれぞれ識別可能にオーディオ信号に変換してスピーカ22に与えることにより、血流速度情報および流れ方向を音声として出力させる機能を有する。
次に超音波診断装置10の作用について説明する。
図3は、図1に示す超音波診断装置10によりBモード像あるいはCbモード像とともにDモード像を生成して表示させる際における超音波診断装置10の制御手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
まずステップS1において、送信データ作成系15により、予めBモード、Cbモード、Acモード、Dモードによるスキャンが実行されるように、送信回路13の制御信号が作成される。そして、送信データ作成系15により作成された制御信号は基準レートパルスとして送信回路13に与えられる。
図4は、図1に示す超音波診断装置10によるスキャンの実行順序を示す図である。
図4(a)に示すように、送信データ作成系15は、DスキャンのみのブロックとBスキャン、CbスキャンおよびAcスキャンのブロックとに分けて実行されるように、送信回路13の制御信号を発生させる。つまり、超音波診断装置10によるスキャン方法は、Bスキャン、Cbスキャン、AcスキャンおよびDスキャンが、DスキャンのみのブロックとBスキャン、CbスキャンおよびAcスキャンのブロックとに分けて実行する方法とされる。
すなわち、Dスキャン中は例えば256回のDモード用の超音波パルスの送信が行われる。そして、Dスキャンの後に、BモードとCbモードによるスキャンが行われる。さらに、BモードとCbモードによるスキャン中にDモードによるスキャン位置における血流の速度情報を自己相関法により測定するためのAcスキャンが含められる。
この結果、Bスキャン+Cbスキャン+Acスキャンという3つのモードによるスキャンを実行するためのスキャンブロックが形成される。そして、このBスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロック内の各スキャンが終了すると、再度Dモードによるスキャンが行われる。従ってDモードによるスキャンに着目すれば、Bスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロックのスキャン時間がギャップ時間となる。Bスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロックでは、例えば323回に亘って超音波パルスの送信が行なわれる。
また、Bスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロックは、図4(b)に示すように、例えばCbスキャンのみのブロックとBスキャンおよびAcスキャンのブロックとが交互に行なわれる構成とされる。Cbスキャンのみのブロックでは、例えば56回に亘る超音波パルスの送信が行なわれ、BスキャンおよびAcスキャンのブロックでは、例えば33回に亘る超音波パルスの送信が行なわれる。
すなわち、図4(a)(b)に示すような手順でスキャンが実行されるように、送信データ作成系15により、送信回路13の制御信号が作成されて基準レートパルスとして送信回路13に与えられる。
このため、まずステップS2において、Dモード像を得るためのDスキャンが連続して行なわれるように、送信データ作成系15から制御信号が送信回路13に与えられる。送信回路13では、送信データ作成系15から制御信号として受けた基準レートパルスに適宜遅延時間を与えることにより送信信号として電気パルスが生成され、超音波プローブ11内の圧電振動子内に印加される。そして、超音波プローブ11尚の圧電振動子は、送信回路13から受けた送信信号である電気パルスを超音波パルスに変換して図示しない被検体内に送信する。
図5は、図4に示すDスキャンのみのブロックを詳細に示した図である。
図5(a)に示すように、Dスキャンが実行され、所定の周期TDで血流観測点を通る所定の方向にND回に亘って超音波パルスが送信される。図4および図5は、ND=256の場合を示す。
さらに、超音波プローブ11内の圧電振動子は、被検体内における超音波パルスの送信に伴って生じた反射波を受信して電気信号に変換し、受信信号として受信回路12に与える。Dスキャンによって得られた受信信号は受信回路12において整相加算処理や位相検波によりIQ信号に変換される。そして、得られたIQ信号に対してレンジゲート範囲内の加算処理が行われる。
次に、ステップS3において、DスキャンによるIQ信号は受信回路12からデータ処理部16のスペクトルドプラ処理系19に入力される。そして、Dスキャンによって得られたデータ欠落のない連続したIQ信号は、スペクトルドプラ処理系19のMUX34により等間隔データ処理系30に導かれる。等間隔データ処理系30に導かれたIQ信号は、第1のウォールフィルタ35において血流以外の動きの遅いクラッタ成分が抑圧されて、血流ドプラ信号として第1のメモリ36に保存される。次に、血流ドプラ信号は、第1のメモリ36からFFT部37に与えられる。FFT部37ではIQ信号のFFT演算が行なわれIQ信号の周波数データが求められる。
さらに、FFT演算によって得られたIQ信号の周波数データは、LOG部38に与えられる。LOG部38では、FFT演算によって得られた周波数データの対数変換処理が行なわれ、パワースペクトルに変換される。得られたパワースペクトルは、LOG部38から表示系20にDモード像データとして出力される。
そして、表示系20からモニタ21にDモード像データが与えられることにより、Dスキャンの非ギャップ部におけるDモード像がモニタ21に表示される。
尚、周波数データの時間変化表示を行うために、FFT解析を行う点数は例えば64データとして、窓関数(例えばハミング窓)をかけてデータ列を50%オーバーラップして出力すると、7組の周波数データを32TDの間隔で得ることができる。
また、第1のメモリ36に保存された血流ドプラ信号は、オーディオ信号生成系33の順流逆流分離部48にも与えられ、順流逆流分離部48において血流ドプラ信号が順流のものと逆流のものとに分離される。さらに、順流逆流分離部48から順流および逆流の血流ドプラ信号がオーディオ信号生成部49に与えられ、オーディオ信号生成部49において、血流ドプラ信号が順流のものであるか逆流のものであるかに応じて異なる周波数のオーディオ信号に変換され、スピーカ22に与えられる。この結果、スピーカ22からは、血流速度情報および流れ方向が音声として出力される。
さらに、第1のメモリ36に保存された血流ドプラ信号は、定常的にARパラメータ推定部42に読み込まれる。そして、ARパラメータ推定部42では、Burg法等の計算法により定常的に過去の各時刻におけるARモデルのARパラメータakが推定される。ARパラメータ推定部42において、推定された各時刻におけるARパラメータakは第3のメモリ43に書き込まれて保存される。
一方、Dスキャンの実行時には、等間隔データ処理系30におけるデータ処理と並行して不等間隔データ処理系31においてもデータ処理が行なわれる。すなわち、図5(b)に示すような超音波パルスの送信間隔で得られたIQ信号のデータ列が、MUX34により受信回路12から不等間隔データ処理系31に導かれる。
不等間隔データ処理系31に導かれるIQ信号のデータ列の間隔は不等間隔であり、後述するBスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロック内でのAcスキャンで得られるIQ信号のデータ列の間隔と同じ間隔とされる。そして、不等間隔データ処理系31において、Dスキャンにより得られた不等間隔のIQ信号には、後述するAcスキャンで得られるIQ信号と同様な処理が施される。
すなわち、第2のウォールフィルタ39において血流以外のクラッタ成分のIQ信号が除去されて血流ドプラ信号が抽出される。さらに、血流ドプラ信号は血流情報推定部40に与えられ、血流の平均速度V、パワーP、分散Tが求められる。そして、求められた血流の平均速度V、パワーP、分散Tは、第2のメモリ41に書き込まれて保存される。
次に、Dスキャンが終了すると、ステップS4において、Bスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロックによるスキャンが行なわれるように、送信データ作成系15から制御信号が送信回路13に与えられる。そうすると、送信回路13から電気パルスが超音波プローブ11内の圧電振動子内に印加され、超音波プローブ11は、超音波パルスが被検体内に送信される。そして、超音波プローブ11により反射波が受信されて受信信号として受信回路12に与えられる。すなわち、CbスキャンとBスキャンおよびAcスキャンとが交互に実行されるが、例えば、始めにカラードプラ像を得るためのCbスキャンから実行される。
図6は、図4(b)に示すCbスキャンのブロックを詳細に示した図である。
図6に示すように、Cbスキャンでは、例えば、パケットサイズ、すなわち同一方向への超音波パルスの送信回数を7回、ダミー送信を1回とし、単一のCbスキャンのブロックにおいて同様に7方向に超音波パルスの送信が行われる。すなわち、各ラスタ(n,n+1,・・・,n+7)の最初の送信は、前の送信の残留エコーの影響を除くための送信であり、受信信号を得るためには使用しないダミー送信である。
従って、単一のCbスキャンのブロックでは、ダミー送信1回と受信信号を得るための7回の送信が7つのラスタにおいて行なわれるため、合計(1dummy+7data)×7raster=56回の送信が行なわれることとなる。
尚、Cbスキャンにおける超音波パルスの送信間隔TCbはDスキャンにおける超音波パルスの送信間隔TDとは独立に設定可能である。
さらに、例えば、従来から用いられる並列同時受信技術を併用し、受信回路12で、1つの送信ビームから4つの受信ラスタを生成すると、1つのブロックで28本分の受信ラスタが生成される。このため、Dスキャンのギャップ部分であるBスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロックに4つのCbスキャンのブロックがあれば、112本分の受信ラスタを生成することができる。そして、このようにして受信されたCbスキャンのIQ信号により、カラードプラ像の1フレームを構成することができる。
Cbスキャンにより得られた受信信号は、受信回路12においてIQ信号に変換される。さらに、Cbスキャンに続いてBスキャンおよびAcスキャンが実行される。
図7は、図4(b)に示すBスキャンおよびAcスキャンのブロックを詳細に示した図である。
図7に示すように、送信間隔が不等間隔となるようにAcスキャンが行なわれ、Acスキャンの間にBスキャンが連続的あるいは断続的に行なわれる。また、Acスキャンの直前にAcスキャンが行なわれない場合には、Acスキャンに先立ってダミー送信が行なわれる。Acスキャンのダミー送信を行うのは、Cbスキャンと同様に前の送信の残留エコーの影響を除くためである。
超音波パルスの送信回数は、例えば図7に示すように、単一のAcスキャンおよびBスキャンのスキャンブロックにおいて、Acスキャンの送信が8回、Acスキャンのダミー送信が5回、Bスキャンの送信が20回とされる。このため、単一のAcスキャンおよびBスキャンのスキャンブロックでは、合計33回に亘る送信が行なわれる。
Acスキャンにおける超音波パルスの送信方向は、Dスキャンにおける超音波パルスの送信方向と同一とされる。さらに、送信パルスの波形もDスキャンにおける送信とAcスキャンにおける送信とで同一にされる。
また、Acスキャンの送信間隔は、不等間隔データ処理系31に導かれるDスキャンより得られたIQ信号のデータ列の間隔と同じ間隔である。さらに、Acスキャンが連続して行なわれる部分のAcスキャンの送信間隔は、Dスキャンの送信間隔TDと同一とされる。図7では、Acスキャンが4回連続して行なわれており、4回のAcスキャンの送信間隔は、Dスキャンにおける送信間隔TDと同一にされる。
図8は、図7に示すBスキャンおよびAcスキャンのブロックにおける超音波パルスの送信間隔およびAcスキャンの送信時刻を時系列に並べた図である。
Bスキャンの送信間隔をTBとすると、図7で表現されるBスキャンおよびAcスキャンのブロックにおける送信間隔は図8(a)のようになる。
尚、図8(a)において、ダミー送信ではなく実際に受信信号として使用される不等間隔のAcスキャンによりデータ列を(TD)で示す。
さらに図8(a)において、受信信号として使用される最初のAcスキャンの送信時刻を0として、送信間隔(TD)で示される各Acスキャンの送信時刻を時系列に表現すると図8(b)のようになる。従って、図8(b)に示す送信時刻にAcスキャンの超音波パルスが送信されて、反射波が受信回路12で受信される。
このようなBスキャンおよびAcスキャンにおいて、例えば、従来から用いられる並列同時受信技術を併用し、受信回路12で、1つの送信ビームから2つの受信ラスタを生成すると、1つのブロックで40本分の受信ラスタが生成される。このため、Dスキャンのギャップ部分であるBスキャン+Cbスキャン+Acスキャンで構成されるスキャンブロックに3つのAcスキャンおよびBスキャンのスキャンブロックがあれば、120本分のBモード用の受信ラスタを生成することができる。そして、このようにして受信されたBスキャンのIQ信号により、Bモード像の1フレームを構成することができる。
AcスキャンおよびBスキャンにより得られた受信信号は、受信回路12においてIQ信号に変換される。
次に、ステップS5において、CbスキャンによるIQ信号が受信回路12からデータ処理部16のカラードプラ処理系18に入力される。そして、Cbスキャンによって得られたIQ信号は、カラードプラ処理系18において、カラードプラ像データの生成処理に施される。すなわち、カラードプラ処理系18では、同一部位からの複数のIQ信号に対して最小2乗フィッティングを行なうことにより血流以外のクラッタ成分のIQ信号が除去された後、血流からのIQ信号の位相差が自己相関処理によって求められる。そして、血流からのIQ信号の位相差から血流速度を検出することによりカラードプラ像データが生成される。
尚、カラードプラ処理系18において、IQ信号は、HPF(High Pass Filter )の特性を有するウォールフィルタを経由するため、各ラスタにおける最初のダミー送信により、同一のラスタにおけるIQ信号からは残留エコーの影響が除去される。
また、BスキャンによるIQ信号が受信回路12からデータ処理部16のBモード処理系17に入力される。そして、Bスキャンによって得られたIQ信号は、Bモード処理系17において、Bモード像データの生成処理に施される。すなわち、Bモード処理系17では、IQ信号が対数増幅器で対数的に増幅され、増幅されたIQ信号の包絡線が包絡線検波器で検波される。さらに、IQ信号の包絡線がA/D変換器でデジタル信号に変換されて被検体の2次元断層像を輝度表示させるためのBモード像データが生成される。
このようにカラードプラ処理系18において生成されたカラードプラ像データおよびBモード処理系17において生成されたBモード像データは、それぞれ表示系20に出力される。そして、表示系20においてカラードプラ像データとBモード像データとが合成されてモニタ21に与えられる。このため、モニタ21には、被検体の2次元断層像であるBモード像に血流がカラーで重畳表示される。
さらに、AcスキャンによるIQ信号が受信回路12からデータ処理部16のスペクトルドプラ処理系19に入力される。AcスキャンによるIQ信号の時系列データはスペクトルドプラ処理系19において、MUX34によって不等間隔データ処理系31に導かれる。
Acスキャンによる不等間隔のIQ信号のデータ列は、不等間隔データ処理系31の第2のウォールフィルタ39に与えられ、IQ信号から動きの遅い血流以外のクラッタ成分が抑圧される。
一般に組織からのIQ信号は動きが遅く、IQ信号の振幅は血流内の赤血球から得られるドプラ信号の振幅に比べて40dB程度大きい。このため、最小2乗法により近似したIQ信号は組織からのIQ信号とみなすことができる。そこで、第2のウォールフィルタ39において、不等間隔のIQ信号のデータ列が最小2乗法によって低次の次数で近似される。そして、最小2乗法による近似前のIQ信号の原信号から近似により得られたIQ信号を減算することにより、血流からのIQ信号を抽出することができる。
血流からのIQ信号を抽出するために、図8(b)に示す送信時刻において超音波パルスが送信されて得られた不等間隔のIQ信号のデータ列を2次多項式で近似する場合には、式(3)のように行列Aを定義し、行列Aから第2のウォールフィルタ39で用いられるフィルタ求めることができる。
すなわち、最小2乗フィッティング前の原信号である第2のウォールフィルタ39の入力信号ベクトルをX、最小2乗フィッティング後の信号ベクトルをYとした場合、Y=AXで示される多項式行列Aに対して入力信号ベクトルXを求める問題となる。この場合、行列Aが正則であれば逆行列によって算出することができるが、2次多項式フィッティングの場合のように多項式行列Aのランクが入力信号ベクトルXの行数より小さい場合には入力信号ベクトルXの最小2乗解X’を求めることになる。
即ち、X’=BYによって示される多項式行列Bによって最小2乗解X’を求めることができる。このとき、多項式行列BはATを行列Aの転置行列、A−1を行列Aの逆行列とすると式(4)で示される。
[数4]
B=(ATA)−1AT ・・・(4)
従って、第2のウォールフィルタ39で用いられるフィルタ行列Wは、Iを単位行列とすると式(5)のように計算することができる。
[数5]
W=I−AB=I−A(ATA)−1AT ・・・(5)
よって、第2のウォールフィルタ39の出力信号である血流ドプラ信号をuとすると、血流ドプラ信号uは、不等間隔のIQ信号のデータ列を信号ベクトルY=[y1,y2,y3,y4,y5,y6,y7,y8]Tとして式(6)で計算できる。
[数6]
u=Wy ・・・(6)
このように、血流ドプラ信号を得るために、不等間隔のIQ信号のデータ列を用いれば、Acスキャンが行われない間にBスキャンを実行することができるのみならず、観測時間を長く取ることで、第2のウォールフィルタ39のHPF動作において、カットオフ周波数をより低く、肩特性をより急峻にすることができる。
つまり、一般にフィルタはデータ長が長いほど、カットオフ周波数をより低く、肩特性をより急峻にすることが可能であるが、その理由は観測時間が長くなるからである。従って、観測時間を決定する最初のデータから最後のデータまでの時間が同じであれば、間のデータが抜けていても同等のカットオフ周波数および肩特性を得ることができる。
図9は、等間隔のIQ信号のデータ列に対してウォールフィルタを適用して最小2乗法による2次の多項式近似を行なった場合の周波数特性と不等間隔のIQ信号のデータ列にウォールフィルタを適用して最小2乗法による2次の多項式近似を行なった場合の周波数特性とを比較した図である。
図9において横軸は、等間隔に超音波パルスを送信した場合のナイキスト周波数によって規格化された規格化周波数であり、縦軸は信号強度(amplitude)を示す。また図9中の点線は、等間隔のIQ信号の28データ列に対してウォールフィルタを適用して最小2乗法による2次の多項式近似を行なった場合の周波数特性を示し、実線は、不等間隔のIQ信号の8データ列にウォールフィルタを適用して最小2乗法による2次の多項式近似を行なった場合の周波数特性を示す。
また、不等間隔のIQ信号のデータ列を得るための観測時間は、等間隔の28のデータ列を取得するための観測時間と同じであり、不等間隔のIQ信号のデータ列は、等間隔の28データ列[0,1,・・・,28]のうち[0,8,12,13,14,15,19,27]のデータに相当する8データで構成されたデータ列である。
図9によれば、等間隔のIQ信号のデータ列に対して多項式近似を行なった場合と、不等間隔のIQ信号のデータ列に対して多項式近似を行なった場合とで、カットオフ周波数および肩特性はおおよそ一致していることが分かる。
尚、不等間隔のIQ信号のデータ列[0,8,12,13,14,15,19,27]は、図8に示す送信間隔のデータ列において、TB=TD=1とした場合に相当する。
さらに、図9によれば、不等間隔のIQ信号のデータ列を得る際のナイキスト周波数は不等間隔のIQ信号のデータ列を得る際のナイキスト周波数と等しいことが分かる。従って、不等間隔のIQ信号のデータ列を血流ドプラ信号の検出用に用いることで、不等間隔のIQ信号のデータ列のうち最も短い周期と同じ周期で、かつ同じ観測時間を持つ等間隔のIQ信号のデータ列を用いた場合と同等な血流の最高流速検出能あるいは最低流速検出能を得ることができる。
そして、このようにして第2のウォールフィルタ39いおいて得られた血流ドプラ信号は、血流情報推定部40に与えられる。血流情報推定部40では、血流の平均速度V、パワーP、分散Tが計算される。
尚、通常のカラードプラ処理では、隣接する2つのパルスペアから自己相関法によって血流の平均速度が計算されるが、不等間隔データ処理系31の血流情報推定部40では、間隔がDスキャンにおける送信間隔TDと同一のパルスペアのみが計算に使用される。
つまり、血流ドプラ信号u=[u1,u2,u3,u4,u5,u6,u7,u8]Tとすると、u3とu4,u4とu5,u5とu6のパルスペアの自己相関関数acが式(7)により計算される。
[数7]
ac=(u3*u4+u4*u5+u5*u6)/3 ・・・(7)
但し、式(7)において、*は共役複素数を表す。
さらに、自己相関関数acから式(8)により血流の平均速度Vが計算される。
[数8]
V=atan2{imag(ac),real(ac)} ・・・(8)
但し、式(8)において、atan2は−π〜+πまでの角度を返すarctangent関数である。
また、血流のパワーPは、血流ドプラ信号uの全出力データを使用して、式(9)により計算される。
[数9]
P=(|u1|2+|u2|2+|u3|2+|u4|2+|u5|2+|u6|2+|u7|2+|u8|2)/8 ・・・(9)
さらに、血流の分散Tは、血流のパワーPと自己相関関数acとから式(10)により計算される。
[数10]
T=1−|ac|/P ・・・(10)
このような、血流情報推定部40における血流の平均速度V、パワーP、分散Tの推定処理はカラードプラ像を得るための処理に類似している。しかし、カラードプラ像を得るための処理は2次元空間の各点について行われるものであるのに対して、不等間隔データ処理系31の血流情報推定部40における処理は、パルスドプラの観測点の1点に対してのみ血流の平均速度V、パワーP、分散Tを計算するものであるため、カラードプラ像を得るための処理に比べて処理が容易である。
そして、不等間隔データ処理系31の血流情報推定部40でAcスキャンによる血流ドプラ信号から求められた各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Tは、順次第2のメモリ41に書き込まれて保存される。このため、前述のように、第2のメモリ41には、Dスキャンにより得られた非ギャップ部の不等間隔のIQ信号に基づいて算出された血流の平均速度V、パワーP、分散TとAcスキャンにより得られたDスキャンのギャップ中における不等間隔のIQ信号に基づいて算出された血流の平均速度V、パワーP、分散Tとが保存されることとなる。
そして、ステップS6において、Dスキャンのギャップ中における血流の平均速度V、パワーP、分散Tと、非ギャップ部の血流の平均速度V、パワーP、分散Tとが参照されて、適切なARパラメータが推定されるとともに、推定したARパラメータに基づいてDスキャンのギャップ部における血流ドプラ信号が求められる。
すなわち、まず、相関演算部44において、第2のメモリ41が参照され、Dスキャンのギャップ中における血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列と最も相関の高い過去の非ギャップ部の血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列が検索される。
具体的には、ギャップ部とギャップ部前後の非ギャップ部において得られた血流ドプラ信号による血流の平均速度V,パワーP、分散Tの一定の範囲のデータ列と最も相関の高い過去の平均速度V,パワーP、分散Tのデータ列を検索する。このとき、相関値は平均速度Vの重みを最も高くし、分散Tの重みは最も低くすると、より適切なデータ列を検索することができる。
そして、過去の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列との間の相関度数が一定値より高ければ、その過去のデータ列の算出に用いられた血流ドプラ信号の受信時刻が求められる。
一方、過去の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列に、相関度数が一定値より高くなるデータ列が存在しない場合には、データ列の範囲が狭く設定されて、狭い範囲のデータ列について再度、相関度数の値が一定値より大きくなるか否かが判定される。さらに、狭い範囲のデータ列についても相関度数が一定値より高くなるデータ列が存在しない場合には、推定したい場所における平均速度Vの相関係数の最も高い場所の血流ドプラ信号の受信時刻が求められる。
このようにして相関演算部44は、最も相関の高い非ギャップ部における過去の血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列の算出に用いられた血流ドプラ信号の時刻情報をARパラメータ設定部45に与える。
次に、ARパラメータ設定部45は、相関演算部44から受けた時刻情報に基づいて、最も相関の高い時刻のARパラメータを、第3のメモリ43から読み込んで、ギャップ中における時刻のARパラメータとして設定する。この結果、Dスキャンのギャップ中におけるAcスキャンの中央の時刻のARパラメータが推定できる。
ARパラメータ設定部45は、Acスキャンの中央の時刻のARパラメータをパラメータ内挿部46に与える。パラメータ内挿部46では、Acスキャンの中央の時刻のARパラメータから、Acスキャンの中央の時刻以外の時刻におけるARパラメータが内挿によって求められる。求められたギャップ部の各時刻におけるARパラメータは、波形推定部47に与えられる。
波形推定部47では、内挿により得られた各時刻のARパラメータから式(2)で示されるARモデルによってIQ信号(血流ドプラ信号)の波形が推定される。そして、推定された血流ドプラ信号は、第1のメモリ36に書き込まれて保存される。
このため、ギャップ部における血流ドプラ信号が第1のメモリ36に保存され、FFT部37における血流ドプラ信号の波形に基づく周波数解析およびLOG部38における対数変換処理を経て、ギャップ部のDモード像データが生成される。生成されたDモード像データは表示系20を経由してモニタ21に与えられ、モニタ21にはDモード像が表示される。また、ギャップ部における血流ドプラ信号は、オーディオ信号生成系33においてオーディオ信号に変換されてスピーカ22に与えられ、血流速度情報および流れ方向がスピーカ22から音声として出力される。
図10は、図2に示すスペクトルドプラ処理系19により、Dスキャンのギャップ部分におけるDモード像を推定した例を示す図である。
図10の横軸は時間を、縦軸は血流速度をそれぞれ示し、図10中の点線はDモード像におけるIQ信号の理想値を、実線はスキャンにより得られたDモード像であるIQ信号を、一点鎖線はAR法によるIQ信号の推定値をそれぞれ示す。
図10に示すように、Dモード像にはギャップ部(ギャップ1、ギャップ2、・・・)が存在する。このため、ギャップ部およびギャップ部近傍における複数の血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列と最も相関の高い部位が検索される。例えば、図10の実線枠で囲った中央のギャップ部(ギャップ2)における5つのデータ列と相関の高い部位として点線枠で囲った過去の非ギャップ部におけるデータ列が検出される。
そして、相関が高いとして検出されたデータ列におけるARパラメータが、ギャップ部におけるARパラメータとされ、ARパラメータの内挿により得られた各時刻のARパラメータを式(2)に示すARモデルに代入することにより血流ドプラ信号が推定される。さらに、推定された血流ドプラ信号の周波数解析および対数変換処理によりギャップのDモード像が作成される。
すなわち以上のような超音波診断装置10は、DスキャンのみのブロックとBスキャンおよびCbスキャンのブロックに分けたスキャン法による超音波診断おいて、Dスキャンのギャップ中にAcスキャンを行なって血流ドプラ信号の観測を行い、ギャップ中おけるDモード用の血流ドプラ信号を血流の平均速度、分散、パワーを対象とする自己相関法によって推定するものである。
このため、超音波診断装置10によれば、従来のDスキャンのギャップ中にDモード用の血流ドプラ信号を観測しないでギャップ中における血流ドプラ信号の波形およびDモード像を推定する手法に比べて、ギャップ中における血流ドプラ信号およびDモード像の推定精度を向上させることができる。特に、従来の血流ドプラ信号およびDモード像の推定方法では、ギャップ中にDモード像の血流ドプラ周波数が単調増加あるいは単調減少を示さないような変化を示した場合には推定精度が低下するのに対し、超音波診断装置10によれば、そのような場合であっても精度良くギャップ中の血流ドプラ周波数を推定することができる。
また、超音波診断装置10では、Dスキャンのギャップ中に行なわれるAcスキャンにおいて、超音波パルスの送受間隔が不等間隔となるようなデータ列を使用することができる。そうすることで、Dスキャンのギャップ中に占めるDモード像推定のための自己相関法に必要な超音波パルスの送信回数を少なくすることができるのみならず、得られたIQ信号にHPFを掛けて血流ドプラ信号を抽出する際に超音波パルスの送受間隔が等間隔であるデータ列を用いた場合と同等なカットオフ周波数および肩特性を実現することができる。
また、超音波診断装置10によれば、血流ドプラ信号の順流および逆流を分離してステレオ・オーディオで出力する場合には、Dスキャンのギャップ中であっても精度よく血流ドプラ信号を推定できるため、途切れることなくオーディオ出力することができる。
図11は本発明に係る超音波診断装置の第2の実施形態を示す機能ブロック図である。
図11に示された、超音波診断装置10Aでは、スペクトルドプラ処理系19の構成が図1に示す超音波診断装置10と相違する。スキャン方法を始めとして他の構成および作用については図1に示す超音波診断装置10と実質的に異ならないためスペクトルドプラ処理系19の構成のみ図示し、同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
超音波診断装置10Aのスペクトルドプラ処理系19は、等間隔データ処理系30、不等間隔データ処理系31、ギャップ部データ推定系32およびオーディオ信号生成系33を有する。不等間隔データ処理系31およびオーディオ信号生成系33はMUX34を介して受信回路12の出力先とされ、MUX34により出力先を切り換えることができるように構成される。
等間隔データ処理系30、不等間隔データ処理系31およびオーディオ信号生成系33の構成は、図1に示す超音波診断装置10の等間隔データ処理系30、不等間隔データ処理系31およびオーディオ信号生成系33と同等である。
ギャップ部データ推定系32は、相関演算部44、第4のメモリ50、周波数推定部51、周波数内挿部52、逆フーリエ変換(IFFT)部53を有する。
相関演算部44は、第2のメモリ41を参照し、Dスキャンのギャップ中およびその近傍においてAcスキャンまたはDスキャンにより得られた血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列と最も相関の高い過去の非ギャップ部の血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列を検索する機能と、相関の高いデータ列の算出に用いられた血流ドプラ信号の受信時刻を求めて時刻情報として周波数推定部51に与える機能とを有する。
第4のメモリ50には、FFT部37から過去の各時刻における血流ドプラ信号の周波数データが定常的に書き込まれて保存される。
周波数推定部51は、第4のメモリ50を参照し、相関演算部44から受けた時刻情報に対応する時刻における相関の高い血流ドプラ信号の周波数データをAcスキャンの中央の時刻における周波数データとして求めるギャップ内周波数推定手段としての機能と、求めたAcスキャンの中央の時刻における血流ドプラ信号の周波数データを周波数内挿部52に与える機能とを有する。
周波数内挿部52は、周波数推定部51から受けたAcスキャンの中央の時刻における血流ドプラ信号の周波数データから、Acスキャンの中央の時刻以外の時刻における周波数データを内挿によって求める機能と、求めたギャップ部の各時刻における周波数データをIFFT部53に与える機能とを有する。
IFFT部53は、周波数内挿部52から受けたギャップ部の各時刻における周波数データに対して逆フーリエ変換処理を行なうことにより、ギャップ部における血流ドプラ信号の波形を推定する機能と、推定して得られた血流ドプラ信号を第1のメモリ36に書き込む機能とを有する。
そして、ギャップ部データ推定系32の各機能とFFT部37とによってDスキャンのギャップ部における血流ドプラ信号の周波数を推定する周波数推定手段としての機能が超音波診断装置10Aに備えられる。
次に、超音波診断装置10Aの作用について説明する。
超音波診断装置10Aでは、Dスキャンのギャップ中における血流ドプラ信号およびDモード像の推定方法が図1に示す超音波診断装置10と異なる。
すなわち、超音波診断装置10Aでは、Dスキャンや過去のギャップ中における血流ドプラ信号の周波数データの推定により、過去の各時刻における血流ドプラ信号の周波数データが第4のメモリ50に保存される。
そして、相関演算部44は、Dスキャンのギャップ中およびその近傍においてAcスキャンまたはDスキャンにより得られた血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列と最も相関の高い過去の非ギャップ部の血流の平均速度V、パワーP、分散Tのデータ列を検索し、相関の高いデータ列の算出に用いられた血流ドプラ信号の受信時刻を求めて時刻情報として周波数推定部51に与える。
次に、周波数内挿部52は、周波数推定部51から受けたAcスキャンの中央の時刻における血流ドプラ信号の周波数データから、Acスキャンの中央の時刻以外の時刻における周波数データを内挿によって求め、求めたギャップ部の各時刻における周波数データをIFFT部53に与える。
さらに、IFFT部53は、周波数内挿部52から受けたギャップ部の各時刻における周波数データに対して逆フーリエ変換処理を行なうことにより、ギャップ部における血流ドプラ信号の波形を推定し、推定して得られた血流ドプラ信号を第1のメモリ36に書き込む。
この結果、第1のメモリ36には、Dスキャンのギャップ中における血流ドプラ信号の波形が書き込まれて保存される。そして、Dスキャンのギャップ中における血流ドプラ信号のFFT部37におけるFFT処理、LOG部38における対数変換処理を経て、表示系20を介してDモード像となってモニタ21に表示される。
すなわち、超音波診断装置10Aは、ARモデルによる血流ドプラ信号の波形推定を行わない代わりに、定常的に記録した過去のFFTによる血流ドプラ信号の周波数解析結果を用いてDスキャンのギャップ部における血流ドプラ信号の周波数を推定するものである。
このような、超音波診断装置10Aによれば、Dスキャンのギャップ中におけるAcスキャンによる観測によって、図1に示す超音波診断装置10と同様な原理により、従来法よりも精度良く血流ドプラ信号およびDモード像を推定することができる。さらに、加えて、より簡易な装置構成で超音波診断装置10Aを構成し、より少ない処理で血流ドプラ信号およびDモード像を推定することができる。
尚、超音波診断装置10Aにおいて、周波数データの内挿により得られた各時刻における血流ドプラ信号の周波数データに対して、逆フーリエ変換処理を施さずに、そのまま対数変換処理を行なって得られたデータを表示系20を介してモニタ21に表示させることも可能である。
図12は本発明に係る超音波診断装置の第3の実施形態を示す機能ブロック図である。
図3に示された、超音波診断装置10Bでは、スペクトルドプラ処理系19の構成、スキャン方法およびスピーカ22が設けられない点が図1に示す超音波診断装置10と相違する。スキャン方法を始めとして他の構成および作用については図1に示す超音波診断装置10と実質的に異ならないためスペクトルドプラ処理系19の構成のみ図示し、同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
超音波診断装置10Bのスペクトルドプラ処理系19は、等間隔データ処理系30、不等間隔データ処理系31およびギャップ部データ推定系32を有する。不等間隔データ処理系31およびオーディオ信号生成系33は第1のMUX34aを介して受信回路12の出力先とされ、第1のMUX34aにより出力先を切り換えることができるように構成される。
等間隔データ処理系30は、第1のウォールフィルタ35、第1のメモリ36、FFT部37、第2のMUX34b、LOG部38とを有する。第1のウォールフィルタ35、第1のメモリ36、FFT部37およびLOG部38の機能は、図1に示す超音波診断装置10と同等である。ただし、FFT部37の出力側とギャップ部データ推定系32の出力側がそれぞれ第2のMUX34bの入力側とされるとともに、第2のMUX34bの出力側がLOG部38の入力側とされる。そして、第2のMUX34bを切り換えることによりLOG部38の入力をFFT部37の出力とギャップ部データ推定系32の出力とから選択することができるように構成される。
不等間隔データ処理系31は、第2のウォールフィルタ39および血流情報推定部40を備える。第2のウォールフィルタ39および血流情報推定部40の機能は、図1に示す超音波診断装置10と同等である。ただし、血流情報推定部40の出力側は、ギャップ部データ推定系32の入力側とされる。尚、血流情報推定部40の出力側に図1に示す超音波診断装置10と同様に第2のメモリ41を設けてもよい。
ギャップ部データ推定系32は、血流情報内挿部60(V、P、T内挿部)、周波数推定部61およびRAMテーブル62を備える。
RAMテーブル62には、予め心臓や頚動脈等の部位毎に、血流の平均速度V、パワーP、分散Vと血流の周波数データとが関連付けられて保存される。すなわち、RAMテーブル62には、血流の平均速度V、パワーP、分散Vから血流の周波数データを推定するための情報が保存される。
血流情報内挿部60は、不等間隔データ処理系31の血流情報推定部40からAcスキャンによって得られた血流の平均速度V、パワーP、分散Vを受けて、内挿により各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vを求める機能と、求めた各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vを周波数推定部61に与える機能とを有する。
周波数推定部61は、血流情報内挿部60から受けた各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vに基づいて、RAMテーブル62を参照することにより、血流の周波数データを推定する機能と、推定して得られた血流の周波数データを等間隔データ処理系30の第2のMUX34bに出力する機能とを有する。
そして、ギャップ部データ推定系32の各機能によってDスキャンのギャップ部における血流ドプラ信号の周波数を推定する周波数推定手段としての機能が超音波診断装置10Bに備えられる。
次に、超音波診断装置10Bの作用について説明する。
超音波診断装置10Bでは、Dスキャンのギャップ中における血流ドプラ信号およびDモード像の推定方法並びに、Dスキャンにより得られたIQ信号が血流ドプラ信号およびDモード像の推定のために用いられない点が図1に示す超音波診断装置10と異なる。
超音波診断装置10BではDスキャンにより得られたIQ信号が血流ドプラ信号およびDモード像の推定のために用いられないため、Dスキャンにより得られたIQ信号は、スペクトルドプラ処理系19の等間隔データ処理系30にのみ導かれて処理の対象とされる。そして、Dスキャンにより得られた非ギャップ中のIQ信号は、等間隔データ処理系30の第1のウォールフィルタ35、第1のメモリ36、FFT部37を経由した後、第2のMUX34bの切換えによりLOG部38に導かれてDモード像データとして表示系20に出力される。
一方、Dスキャンのギャップ中では、BスキャンやCbスキャンとともにAcスキャンが実行される。Acスキャンにより得られたIQ信号は、不等間隔データ処理系31の第2のウォールフィルタ39に導かれる。第2のウォールフィルタ39では、Acスキャンにより得られたIQ信号から血流ドプラ信号が抽出されて血流情報推定部40に与えられる。血流情報推定部40では、Acスキャンによって得られた血流ドプラ信号から図1に示す超音波診断装置10と同様な手法により血流の平均速度V、パワーP、分散Vが求められる。
次に、血流情報推定部40において求められた血流の平均速度V、パワーP、分散Vは、血流情報内挿部60に与えられる。血流情報内挿部60では、血流情報推定部40から受けた血流の平均速度V、パワーP、分散Vに対して内挿を行なうことにより各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vが求められる。そして、求められた各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vは周波数推定部61に与えられる。
周波数推定部61では、血流情報内挿部60から受けた各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vに基づいて、RAMテーブル62を参照することにより、血流の周波数データが推定される。そして、推定して得られた血流の周波数データは等間隔データ処理系30の第2のMUX34bに出力される。さらに、第2のMUX34bの切換えにより、Dスキャンのギャップ中では、周波数推定部61において推定された血流の周波数データがLOG部38に導かれてDモード像データとして表示系20に出力される。
つまり、超音波診断装置10Bは、Dスキャンのギャップ中にBスキャンやCbスキャンとともにAcスキャンを行なうことによってIQ信号を離散的に取得し、内挿を伴って各時刻における血流の平均速度V、パワーP、分散Vを求めた後、予めデータベース化された推定テーブルに基づいて血流の周波数データを求める構成である。
このような超音波診断装置10Bによれば、Dスキャンのギャップ中に行なわれるAcスキャンにより、より簡易な処理および装置構成で、従来よりも精度よくDスキャンのギャップ中における血流ドプラ信号およびDモード像を推定することができる。超音波診断装置10Bでは、Dモード像のみを推定する構成としたが、オーディオ信号生成系33およびスピーカ22を設けて血流速度情報を音声出力できるように構成してもよい。
尚、以上の各実施形態における超音波診断装置10、10A、10Bを組み合わせて構成してもよく、また一部の機能や処理を省略してもよい。例えば、Acスキャンのデータ列を等間隔としてもよい。