JP4557663B2 - 防振切削工具 - Google Patents

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この発明は、切削時に工具本体がねじり力を受け、そのねじり力が原因になって起こるビビリ振動を効果的に抑制できるようにしたドリル、エンドミル、リーマ、ボーリングバイト、ボーリングクイルなどの切削工具に関する。
工具本体の内部にダンパを組み込み、そのダンパに含ませたウエイトの慣性やダンパの摩擦力などを利用して切削時のビビリ振動を抑制する方法は従来からよく知られている。そのダンパの働きによって工具本体の振動を減衰させる切削工具としては、例えば、下記特許文献1〜6に記載されたものなどがある。
しかしながら、これらの特許文献に開示された防振切削工具は、工具本体(ホルダのシャンク)が軸直角方向に撓んで発生するビビリ振動を抑制するものであって、切削力で工具本体がねじれ、その後にねじれが開放される動作が繰り返されて発生するビビリ振動(いわゆるねじり振動)に対しては、十分な減衰効果が発揮されない。
また、特許文献1〜3の防振切削工具は、シャンクに深穴をあけてその穴にダンパを挿入しているので、小径でシャンク長が長いものは特に、穴加工をガンドリルなどで行わざるを得ず、加工コストが高くついて製品価格に影響する。また、ダンパを挿入する中空部を大きくとっているために工具本体の剛性も低下する。
特許文献4、5が開示している工具も同様の問題を有している。また、振動エネルギーを制振材で吸収する方法は、制振材として減衰性能の高いMn−Cu系制振合金などを用いる必要があるが、このような合金は高価で加工性も良くないなどの間題をかかえていることが多く、性能、コストの両面に優れる工具を実現するのが難しい。
特開2003−136301号公報 特開平6−31507号公報 特許第2979823号公報 特開平6−31507号公報 特開2001−96403号公報 特開2003−62703号公報
この発明は、切削時に工具本体にねじり力が加わり、そのために従来の防振対策では振動を十分に減衰できなかったドリル、エンドミル、リーマ、ボーリングバイト、ボーリングクイルなどの切削工具についても、構造の簡単な機構で加工時のビビリ振動を効果的に抑制できるようにすることを課題としている。
上記課題を解決するため、この発明においては、切削時にねじり力を受ける工具の本体部にポケットを形成してそのポケットに制振ピースを挿入し、この制振ピースが本体部の中心に回転支点を持ち、右回り、左回りの各回転において前記ポケットの内壁に衝突して本体部のねじり振動を減衰させるようにした防振切削工具を提供する。
制振ピースは、前記回転支点を基準にした点対称位置で前記ポケットの内壁に衝突可能となしておくのが望ましい。
この防振切削工具の具体例としては、切れ刃を有する切削ヘッドを、切屑排出溝を有する本体部の先端に着脱自在に装着して構成されるドリル、エンドミル、リーマなどの回転切削工具が挙げられ、この回転切削工具においては、本体部の先端に切削ヘッドによって入り口が封鎖されるポケットを設けてそのポケットに制振ピースを挿入する。
この発明を適用する防振切削工具は、先端外周に切れ刃を有する切削ヘッドを本体部(シャンク)の先端に取り付けて構成されるボーリングバイトやボーリングクイルなどであってもよい。このボーリングバイトやボーリングクイルなどは、本体部の先端に切削ヘッドによって入り口が封鎖されるポケットを設けてそのポケットに制振ピースを挿入する。
なお、制振ピースは、比重が本体部の材質と同等あるいはそれよりも大きい材料で形成すると好ましい。
この発明の、防振切削工具は、ねじり振動が発生すると、ポケットに内蔵した制振ピースが慣性によって本体部のねじれとは反対向きに運動し、ポケットの内壁を叩く。そのときの制振ピースの振動は、振幅が本体部の振動の振幅と逆位相になり、そのために、本体部のねじり振動が打ち消されて小さくなる。
制振ピースが回転支点を基準にした点対称位置でポケットの内壁に衝突するようにしたものは、振動の打ち消しが回転対称位置でバランスよくなされ、特に優れた振動減衰効果が望める。制振ピースを本体部の中心から外れた位置に設ける工具も、回転対称位置にポケットを設けて各ポケットに同一サイズ、同一重さの制振ピースを組み込むと、振動の打ち消しが回転対称位置でバランスよくなされる。
制振ピースは、大きなものは必要とせず、本体部に大きなポケットを形成する必要がないので、ポケット設置による本体部の剛性低下を最小限に抑えつつ構造の簡素化を図って工具のコストを低減することも可能になる。
以下、この発明の実施の形態を、添付図面の図1〜図6に基づいて説明する。図1は、
この発明を適用したボーリングバイトを示している。このボーリングバイト1は、本体部
(シャンク部)2の先端に切削ヘッド3を取り付けて構成されている。
本体部2には、先端に開放するポケット4を放電加工などで設けており、そのポケット4に制振ピース5を挿入し、その後、切削ヘッド3を本体部2の先端に取り付けてこの切削ヘッド3でポケット4の開口を塞いでいる。切削ヘッド3は、先端外周に設けた座溝にスローアウェイチップ6を皿ねじなどのクランプ手段で着脱自在に装着したものであり、本体部2に対する取付けは、ねじ止め、鑞付け、ねじ込みなどの適当な方法で行える。
制振ピース5は、本体部2の材質よりも比重の小さい材料で形成したものも有効であるが、本体部2の材質よりも比重の大きい材料、例えば、本体部2を鋼材で形成する場合には、鋼材よりも比重の大きい超硬合金や比重が約18のヘビーメタルなどで形成するのがよい。この制振ピース5は、ここではポケット4を角穴としたので、これに対応させた直方体形状の制振ピースを採用したが、制振ピース5の形状は特に問わない。図示の制振ピース5は、前後部の中心部にそれぞれ支軸5aを有し、その支軸5aを本体部2の軸心部と切削ヘッド3の軸心部にそれぞれ設けた軸受穴に緩く嵌めている。
ポケット4の壁面4a、4bと制振ピース5との間には、隙間(クリアランス)を設けてあり、そのために、制振ピース5は支軸5aを支点にして回転することができる。この制振ピース5と壁面4a、4bとの間の隙間は、0.01mm〜0.5mm程度となすのがよい。この隙間が小さすぎると、熱変形などでポケット4内の制振ピース5が動けなくなる可能性が生じてくる。一方、この隙間が大きすぎると工具に生じるねじり振動と制振ピース5の反復回転の周期にずれが生じ、制振ピースがポケット4の壁面に衝突し難くなって振動の減衰効果が薄れることが懸念される。
なお、制振ピース5の断面形状は矩形に限定されない。図2に示すようなH型や、図3に示すような蝶の羽に似た形状であってもよい。断面積をできるだけ小さくして、回転モーメントを大きく取れる形状がよい。また、この制振ピース5は本体部2の軸心部に回転支点を有していればよく、支軸5aは必須の要素ではない。図3に示すように、軸直角断面において制振ピース5の中央部がくびれている場合には、そのくびれ部に対応させたくびれ部をポケット4に形成し、これらを互いに係止させて回転支点を構成することができる。この構造は支軸を必要とせず、構造の簡素化が図れる。
図4は、この発明を適用した刃先交換式ドリルである。この刃先交換式ドリル7は、一体のシャンク8を有する本体部9と切削ヘッド(ドリルヘッド)10とを有する。切削ヘッド10は先端に切れ刃11を設け、さらに外周に2条のねじれ溝12を設けて構成しており、この切削ヘッド10を、締結ボルト(図示せず)を用いて本体部9の先端に着脱自在に取り付けている。
本体部9は、切削ヘッド10の外周のねじれ溝に連なる2条のねじれ溝12を外周に有する。この本体部9の先端にポケット4を設け、そのポケット4に制振ピース5を挿入している。制振ピース5は、本体部9を構成する鋼材よりも比重の大きい超硬合金やヘビーメタルなどで形成し、直方体形状にしたこの制振ピース5を断面矩形のポケット4に挿入し、制振ピース5の前部と後部の中心に設けた支軸5aを本体部9の軸心部と切削ヘッド10の軸心部にそれぞれ設けた軸受穴に緩く嵌めている。また、制振ピース5とポケット4との間に0.01〜0.5mm程度の隙間を設けている。この刃先交換式ドリルも、図1のボーリングバイトと同様、ビビリ振動が発生すると制振ピース5が支軸5aを支点にして回転し、ポケット4の壁面4a、4bに制振ピース5がビビリ振動の振幅とは逆位相となるように動いて交番に衝突し、それによりビビリ振動が打ち消されて小さくなる。
なお、ポケット4を角溝で形成してそこに直方体の制振ピース5を挿入するものは、ねじれ溝のねじれ角が小さくなるほどポケット4の軸方向長さを長くして制振ピース5の重量を大きくすることができる。このため、切屑排出溝にねじれ角が付いている工具よりもその切屑排出溝のねじれ角が0度になっている工具の方がこの発明の効果を顕著に引き出すことができる。
制振ピース5は、ボーリングバイトの場合と同様、図4に示すような断面H型や、図5に示すような蝶の羽に似た形状にすることができる。また、この制振ピース5は、本体部9の軸心部に回転支点を有していればよく、図5に示すように回転中心に支軸を持たないものを採用することも可能である。
この発明は、刃先交換式ドリル以外の回転切削工具、例えば、エンドミルやリーマなどに採用しても効果がある。エンドミルやリーマに採用する制振ピースとその制振ピースを収納するポケットは例示のドリルに採用したものと同様のものでよいので、エンドミルやリーマに対する適用例は図を省略する。2枚以上の切れ刃を有するドリル、エンドミルなどの工具は、切屑排出溝間の限られた厚さの芯厚部にポケット4を設ける必要があるので、ポケット4と制振ピース5を図5のように中央がくびれた形状にするとポケット設置による芯厚部の強度低下を小さく抑えることができる。
制振ピース5は、図6に示すような花弁状断面をもつものであってもよい。花弁の数は3枚以上あってもよく、ポケット4を対応した断面形状にすれば、このような、花弁状断面の制振ピース5を使用することもできる。エンドミルやリーマは一般に良く知られた工具であり、ドリルに適用したのと同様の構造を採用してねじり振動を低減する。
以下に、この発明の効果の確認試験結果を示す。試験は、下記の仕様の図1に示す形状のボーリングバイトを用いて行った。
工具形状:S16RSSKPR09
チップ:SPGT090304L(研ぎ付けブレーカあり、シャープエッジ)
このボーリングバイトのホルダの直径:φ16mmの本体部(シャンク)に、幅13mm×高さ4mm×長さ20mmのポケットを加工し、そのポケットに直方体の制振ピースを挿入した。この制振ピースとポケットとの間には、0.3mmの隙間がある。スローアウェイチップの刃先からポケットまでの距離(図1(a)のL)は27mmとした。制振ピースの前後部の中心に回転支点になる支軸を設けた発明品と、その支軸の無い制振ピースを使用した比較品1と、制振ピースを使用していないポケットも無い比較品2の各バイトを準備し、下記の条件で加工を行った。
(加工条件)
支持点からのホルダ突き出し量:64mm
切り込み:0.5mm/rev
送り速度:0.1mm/rev
上記の条件で切削速度を変化させて加工を行い、ビビリ振動が発生したときの切削速度を調査した。その結果を表1に示す。
Figure 0004557663
比較品1も振動吸収能が全く無い比較品2に比べればビビリ振動の抑制効果が得られるが、ねじり振動に対しては、制振ピースを本体部の軸心を支点にして回転させることが極めて有効なことが表1の結果によく現れている。
(a)この発明を適用したボーリングバイトの平面図、(b)図1(a)の A−A線に沿った断面図 図1の制振ピースの他の実施形態を示す断面図 図1の制振ピースのさらに他の実施形態とこの制振ピースの回転支点の変形 例を示す断面図 (a)この発明を適用した刃先交換式ドリルの側面図、(b)図4(a)の A−A線に沿った断面図 図4の制振ピースの他の実施形態とこの制振ピースの回転支点の変形例を示 す断面図 図4の制振ピースのさらに他の実施形態を示す断面図
符号の説明
1 ボーリングバイト
2、9 本体部
3 切削ヘッド
4 ポケット
4a、4b 壁面
5 制振ピース
5a 支軸
6 スローアウェイチップ
7 刃先交換式ドリル
8 シャンク
10 切削ヘッド
11 切れ刃
12 ねじれ溝

Claims (4)

  1. 切削時にねじり力を受ける工具の本体部にポケットを形成してそのポケットに制振ピー
    スを挿入し、この制振ピースが本体部の中心に回転支点を持ち、右回り、左回りの各回転
    において前記ポケットの内壁に衝突して本体部のねじり振動を減衰させるようにした防振
    切削工具。
  2. 前記制振ピースを、前記回転支点を基準にした点対称位置で前記ポケットの内壁に衝突
    可能となした請求項1に記載の防振切削工具。
  3. 前記工具が、切れ刃を有する切削ヘッドを、切屑排出溝を有する本体部の先端に着脱自
    在に装着して構成されるドリル、エンドミル、リーマなどの回転切削工具であり、前記本
    体部の先端に前記切削ヘッドによって入り口が封鎖されるポケットを設けてそのポケット
    に前記制振ピースを挿入した請求項1又は2に記載の防振切削工具。
  4. 前記工具が、先端外周に切れ刃を有する切削ヘッドを、本体部の先端に取り付けて構成
    されるボーリングバイト又はボーリングクイルであり、このボーリングバイト又はボーリ
    ングクイルの本体部の先端に前記切削ヘッドによって入り口が封鎖されるポケットを設け
    てそのポケットに前記制振ピースを挿入した請求項1又は2に記載の防振切削工具。
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