JP4552393B2 - 生物学的水処理設備の運転支援装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生物学的水処理設備の運転支援装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
下水処理場では、下水中の有機物に加えて窒素,リンも除去できる高度処理方式を導入し、環境保全している。高度処理方式は従来の標準活性汚泥法に比べ維持管理が複雑であり、運転員への負担が増加している。さらに、環境面と財政面から省エネルギーも課題となっており、運転員には水質と省エネルギーの両面を考慮した維持管理が要求されている。
【0003】
これらの課題に対する運転支援方式の一つに数理モデルに基づいた下水水質シミュレータがある。水質シミュレータに用いられる生物反応モデルにはIWA(International Water Association、国際水学会)が提案している活性汚泥モデルがよく知られている。水質シミュレータは、この他に生物反応槽の流体モデルと最終沈殿池の流体モデルなどから構成されている。水質シミュレータでは運転条件や流入条件が異なる場合の処理水質が予測でき、この予測結果を運転支援に活用できる。さらに、運転条件毎の電力量を求め、省エネルギーを考慮した運転支援ができる水質シミュレータもある。このような水質シミュレータの例として、特許文献1(特開2001−334287号公報)がある。また、下水処理場の省エネルギーに関する提案方法として、特許文献2(特開2003−10835号公報)などがある。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−334287号公報
【特許文献2】
特開2003−10835号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
下水処理場で最も分析頻度が高いのは処理水である。また、有機物,窒素,りんなどの自動計測器が導入されるのは大部分が処理水を対象としたものである。
したがって、処理水質の計測データが最も豊富にあり、その値を水質シミュレータに反映できると運転支援に有効となる。しかし、特許文献1の水質シミュレータでは流入水質を入力する必要がある。このため、流入水質の仮定では予測精度が低下し、流入水質の実測値を入力するには通常の処理水の計測に加え流入水の計測する作業が発生し、運転員への負担を増加させる恐れがある。
【0006】
また、運転条件と運転費に関する特許文献1と特許文献2では、2種類の運転条件の変更に伴う処理水質及び運転費の関係を1つの図で表示するための考慮がなされていない。
【0007】
本発明の目的は、処理水質と運転条件から流入水質を推定するための運転支援装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下水を活性汚泥法により処理する下水処理場の水質をシミュレーションする運転支援装置において、前記下水処理場の計測手段により計測された処理水の水質を取得する処理水質取得手段と、前記下水処理場の現在の運転条件を取得する運転条件取得手段と、任意の流入水質を設定する流入水質仮定手段と、前記流入水質仮定手段からの流入水質と、前記運転条件取得手段の運転条件に基づいて処理水質を算出する処理水質算出手段と、複数の前記処理水質算出手段の値と、前記処理水質取得手段の値とを比較し、最も良く一致するときの流入水質の値を流入水質として推定する流入水質推定手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態は、活性汚泥を用いた嫌気−無酸素−好気法,嫌気−好気法などの下水処理方式の運転支援方式に関するもので、特に、活性汚泥反応をモデル化し処理水質を算出するシミュレーション装置に関する。
【0010】
本発明の実施の形態は、下水を活性汚泥法により処理する下水処理場の水質をシミュレーションする運転支援装置において、処理水の水質を把握するための処理水質把握手段と、流入水量,DO,風量,活性汚泥濃度などの運転条件管理手段と、任意の流入水質を設定する流入水質仮定手段と、前記流入水質仮定手段からの流入水質と、前記運転条件管理手段の運転条件に基づいて処理水質を算出する処理水質算出手段と、前記処理水質算出手段の値と、前記処理水質把握手段の値とを比較し、一致する算出条件を抽出し流入水質を推定する流入水質推定手段とを備える。
【0011】
また、流入水質に前記流入水質推定手段の値を用い、運転条件を段階的に変化させ、その時の処理水質を算出する機能を設ける。
【0012】
さらに、処理水質の算出値を、X軸及びY軸に処理水質または処理水質を基に算出した値を用いた図とし、その図に2種類の運転条件を変化させたときの処理水質の算出結果をプロットし、その値を線で結び操作線図を作成し出力する機能を設ける。または、2種類の運転条件の一方を溶存酸素濃度または送気量とし、他方に循環率,返送汚泥率,ステップ流量比率,活性汚泥濃度の中の何れか一つとする。また、X軸に処理水の全窒素濃度当りの硝酸体窒素濃度の比率、Y軸に処理水の全窒素濃度とする。さらに、各運転条件での消費電力量などを算出するエネルギー算出手段と、前記エネルギー算出手段の算出結果を所定数に分類し、前記操作線図に記号の種類または色を変えてプロットする。
【0013】
(実施例)
図1に本発明を適用する活性汚泥プロセスの一例を示す。反応槽は生物反応槽1と沈殿池2からなる。生物反応槽1へ流入する液を流入水,沈殿池2から流出する液を処理水とする。複数の微生物群からなる活性汚泥が生息する生物反応槽1を複数に分割し、前段を嫌気槽11,嫌気槽11の下流に無酸素槽12,無酸素槽12の下流に好気槽13を設けた。この方式は一般に嫌気−無酸素−好気法と呼ばれ、流入下水中の有機物,窒素及びりんを除去できる。好気槽13にはブロア等からなる空気供給手段3から供給される空気を好気槽へ供給する散気手段4からが設置され、空気供給手段3は制御手段5によって空気量が制御され好気槽13の反応液を好気条件に維持する。また、無酸素槽12と好気槽13の間にはポンプ等からなる反応液循環手段6が設置され、好気槽13から無酸素槽12へ反応液が循環するようになっている。反応液循環手段6の循環流量は制御手段5によって制御されている。生物反応槽1の下流には反応液と活性汚泥とを固液分離する沈殿池2が設置されている。沈殿池2に沈降した活性汚泥の一部は嫌気槽11に返送汚泥として循環する。さらに、嫌気槽11に流入する流量を計測するための流量計7,好気槽13の反応液の溶存酸素を計測するためのDO計8,処理水の水質を計測するための計測手段9が設置されている。
【0014】
本実施例では計測手段9の計測項目は全窒素,硝酸体窒素とする。流量計7やDO計8の信号は制御手段5に送られ、制御手段5はこれらの情報を基に空気供給手段3や反応液循環手段6を制御している。また、本プロセスの運転情報を管理する運転情報管理手段20が設置され、流量計7の流量,空気供給手段3の空気量,好気槽13の溶存酸素濃度,反応液循環手段6の流量,処理水の全窒素及び硝酸体窒素の計測値の情報が送られている。図示していないが、この他にも活性汚泥濃度,水温,有機物濃度,りん濃度などの水質データ,空気供給手段3や反応液循環手段6などの機器仕様,生物反応槽1や沈殿池2の寸法や容積などシミュレータ21のシミュレーションに必要なデータを管理している。水質データは連続計測である必要はなく、手分析値でもよい。シミュレータ21は運転情報管理手段20の情報を基に生物反応槽1や処理水の水質をシミュレーションし、その結果をモニタ22に出力する。
【0015】
シミュレータ21の生物反応モデルにはIWA(International Water Association、国際水学会)が提案している活性汚泥モデルなどの公知のモデルを適用してもよいし、化学反応式から作成したモデルや実験的に求めたモデルを適用してもよい。また、生物反応槽1や沈殿池2の水理モデルとして、完全混合槽列モデルや汚泥移流モデルなどを適用するとよい。また、DOと供給空気量の関係は総括移動容量係数を適用することで求められる。
【0016】
次に、本発明のシミュレータの動作を説明する。図2はシミュレータのフローチャートである。本実施例では窒素除去を対象にした運転支援方法について説明する。まず、ステップS1では、運転情報管理手段20から処理水質の情報を得る。本実施例では全窒素と硝酸体窒素であるが、全窒素,硝酸性窒素、及びアンモニア体窒素の中で2つ以上の情報が得られればよい。また、計測値は自動計測器でも手分析でもよい。なお、シミュレーションに用いる処理水質は半日から数日程度の所定期間の平均値を用いるとよい。
【0017】
次に、ステップS2では運転情報管理手段20から現状の運転条件の情報を得る。運転条件とは流量,DO,循環率,返送率,活性汚泥濃度,水温,生物反応槽1や沈殿池2の容積などである。運転条件の情報は自動計測器,手分析どちらのでもよい。また、流量,汚泥濃度,水温など変動するものはステップS1の処理水質の平均に用いたのと同じ期間にするとよい。
【0018】
次に、ステップS3では流入水質を推定する。まず、処理水質の計測値から全窒素と、全窒素に対する硝酸体窒素の割合を求める。次に、流入水質の所定の項目を所定の範囲で変更し、ステップS2で得た運転条件で流入水質の設定値毎の処理水を算出する。各処理水計算値の全窒素と、全窒素に対する硝酸体窒素の割合を求め、上述の計測値の値と比較し、最もよく一致しているときの流入水質を抽出し、その値を流入水質とする。本実施例では流入水質の変更項目は有機物と全窒素とし、アンモニア体窒素は全窒素の30%から90%の間で固定するとよい。固定した比率は代表的な流入水質の値を用いるとよい。本実施例では窒素を対象としているので流入水質のりんの値は、直接窒素除去に関与しないため、0mg/Lでない代表的な値を固定しておくとよい。また、濃度変更幅は5mg/L以下にするとよい。また濃度変更の上限値と下限値は、各処理場の実績を踏まえて設定するとよい。
【0019】
次に、ステップS4では、ステップS3で求めた流入水質を設定し、DO,循環率の運転条件を変更したときの全窒素と硝酸体窒素の処理水質を算出する。試算条件はDOが0.1mg/L刻みで、1.0mg/Lから3mg/L程度、循環率が10%刻みで50%から300%程度までとするとよい。なお、試算条件の上限は各処理場の機器構成から予め設定しておくとよい。得られた計算値から全窒素に対する硝酸体窒素の割合を求める。全窒素に対する硝酸体窒素の割合をX軸に、全窒素をY軸としプロットする。軸の選択理由は以下の通りである。
【0020】
活性汚泥による生物学的窒素除去はアンモニア体窒素を好気条件で硝酸体窒素に酸化する硝化反応と、硝酸体窒素を嫌気条件でN2 に還元する脱窒反応からなる。硝化反応は好気槽、脱窒反応は無酸素槽で進行する。嫌気−無酸素−好気法では好気槽の硝化量がDO,無酸素槽の脱窒量が好気槽から無酸素槽への反応液の循環量に大きく影響される。このように、嫌気−無酸素−好気法の窒素除去はDOと循環の運転条件が重要となる。一方で、硝化量や脱窒量はDOや循環に加え、反応液中のアンモニア体窒素や硝酸体窒素の比率にも影響する。つまり、アンモニア体窒素が少ない条件でDOを増加したり、硝酸体窒素が少ない反応液を循環しても窒素除去量は向上しない。このため、反応液中の窒素の組成に基づく運転支援が重要となる。下水中の窒素は主に有機態窒素,アンモニア体窒素,硝酸体窒素である。反応の進行に伴い有機態窒素はアンモニア体窒素に加水分解されるため、処理水ではアンモニア体窒素と硝酸体窒素が大部分を占める。このため、全窒素とアンモニア体窒素または硝酸体窒素を測定することで、アンモニア体窒素と硝酸体窒素の比率を把握できる。
【0021】
図3に運転条件毎の処理水質をプロットした結果を示す。このように処理水の全窒素濃度に対応するDOや循環量の運転条件の組み合わせは一つだけでなく複数存在する。このため、運転員は本図を参考に運転条件変更時の処理水質を予測し、処理水質を満足する条件を選択できる。
【0022】
次に、ステップS5ではステップS4で求めた運転条件毎のDOを維持するための空気供給手段3の風量と、反応液循環手段6の流量を算出する。
【0023】
次にステップS6では予め入力された空気供給手段3と反応液循環手段6の器機仕様から運転量当りの電力消費量を算出し、予め入力されている電力料金に基づき、電力料金を算出する。この結果を図3に付加した結果を図4に示す。所定の料金毎にプロットの形や色を変更することで処理水質,運転条件及び電力料金を1つの図で把握できる。
【0024】
本発明により、流入水質を計測することなく処理水質と運転条件から流入水質を推定し、運転条件変更時の処理水質を予測し、処理水質を満足し、かつ運転費の安価な運転条件を選択するための運転支援を実現できる。
【0025】
【発明の効果】
本発明によると、流入水質を計測することなく処理水質と運転条件から流入水質を推定するための運転支援を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の活性汚泥プロセスである。
【図2】本発明のシミュレーション動作のフローチャートである。
【図3】本発明のシミュレーション結果の表示例である。
【図4】本発明の他のシミュレーション結果の表示例である。
【符号の説明】
1…生物反応槽、2…沈殿池、3…空気供給手段、4…散気手段、5…制御手段、6…反応液循環手段、7…流量計、8…DO計、9…計測手段、11…嫌気槽、12…無酸素槽、13…好気槽、20…運転情報管理手段、21…シミュレータ、22…モニタ。
Claims (5)
- 下水を活性汚泥法により処理する下水処理場の水質をシミュレーションする運転支援装置において、前記下水処理場の計測手段により計測された全窒素,硝酸性窒素、及びアンモニア体窒素の中で2つ以上の情報である処理水の水質を取得する処理水質取得手段と、前記下水処理場の現在の流入流量,DO,風量,活性汚泥濃度を含む運転条件を取得する運転条件取得手段と、任意の流入水質を設定する流入水質仮定手段と、前記流入水質仮定手段からの流入水質と、前記運転条件取得手段の運転条件に基づいて処理水質を算出する処理水質算出手段と、複数の前記処理水質算出手段の値と、前記処理水質取得手段の値とを比較し、最も良く一致するときの流入水質の値を流入水質として推定する流入水質推定手段とを備えたことを特徴とする活性汚泥プロセスの運転支援装置。
- 請求項1に記載の活性汚泥プロセスの運転支援装置において、流入水質に前記流入水質推定手段の値を用い、前記条件取得手段で取得された運転条件を段階的に変化させ、その時の処理水質を前記処理水算出手段により算出することを特徴とする活性汚泥プロセスの運転支援装置。
- 請求項2に記載の活性汚泥プロセスの運転支援装置において、処理水質の算出値を、X軸に処理水の全窒素濃度当りの硝酸体窒素濃度の比率、Y軸に処理水の全窒素濃度としてプロットした図とし、その図に2種類の運転条件を変化させたときの処理水質の算出結果をプロットし、その値を線で結び操作線図を作成し出力する手段を設けたことを特徴とする活性汚泥プロセスの運転支援装置。
- 請求項3に記載の活性汚泥プロセスの運転支援装置において、2種類の運転条件の一方を溶存酸素濃度または送気量とし、他方に循環率,返送汚泥率,ステップ流量比率,活性汚泥濃度の中の何れか一つとしたことを特徴とする活性汚泥プロセスの運転支援装置。
- 請求項3に記載の活性汚泥プロセスの運転支援装置において、各運転条件での消費電力量などを算出するエネルギー算出手段と、前記エネルギー算出手段の算出結果を電気料金毎に分類し、前記操作線図に記号の種類または色を変えてプロットすることを特徴とする活性汚泥プロセスの運転支援装置。
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