JP4549547B2 - ステンレス鋼の耐食性の評価用試験液および評価方法 - Google Patents
ステンレス鋼の耐食性の評価用試験液および評価方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、河川ダム、河口堰、農業用水路、水道管あるいは地下水や工業用水を用いた化学プラントでの静水圧試験、循環冷却水、海水貯蔵用タンク類、海水輸送用ラインパイプ類など、淡水、汽水あるいは海水など複合的な環境微生物が存在する自然水環境で使用されるステンレス鋼に対して耐食性を評価するために用いる試験液およびその使用方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
河川ダム、河口堰、農業用水路、水道管あるいは地下水や工業用水を用いた化学プラントでの静水圧試験、循環冷却水、海水貯蔵用タンク類、海水輸送用ラインパイプ類など、淡水、汽水、あるいは海水などの環境微生物が存在する水環境でステンレス鋼使用を検討する場合、これまで環境中の微生物作用に起因する腐食発生については、重要視されてこなかった。しかしながら、近年、環境微生物による腐食誘起作用が無視できないものであることが、明らかになりつつある。
特に、酸素が利用できる好気環境中では、微生物の作用によってステンレス鋼の浸漬電位が貴化する現象が知られており、ステンレス鋼に腐食を誘起する主要因と考えられる。好気性微生物作用による電位貴化は、浸漬される淡水、汽水あるいは海水の季節変動によって、到達する貴化電位が変動する。電位レベルが高くなるほど、ステンレス鋼にすきま腐食あるいは孔食が発生する可能性が高くなる。ステンレス鋼のすきま腐食あるいは孔食の発生は浸漬電位と密接な関係にある。浸漬電位が貴化して、すきま腐食発生の臨界電位であるすきま腐食再不働態化電位を超えるとすきま腐食を発生する可能性がある。また、浸漬電位が貴化して孔食電位を超えると孔食が生じる(辻川茂男、久松敬広:防食技術、29、37(1980))。すきま腐食の方が孔食よりもはるかに発生しやすく、孔食電位はすきま腐食再不働態化電位よりも高い値となる。ステンレス鋼の実使用では溶接部やねじ止めなど、構造上、すきま構造を避けることは極めて難しい。電位貴化は、すきま構造に対して、腐食の発生原因となると共に、不働態被膜の再不働態化を阻害する原因にもなる。したがって、河川水や海水などでは微生物作用による電位貴化の影響を考慮した条件で、すきま腐食に対するステンレス鋼の耐食性を評価する必要がある。微生物腐食に対するステンレス鋼の耐食性を評価する従来技術としては、培養微生物を用いる方法(特開平11−299497号公報)や酸化酵素を用いた方法(特開平6−78794号公報、特開平8−68774号公報)、微生物腐食を考慮した腐食試験装置(特開平5−264497号公報)などがある。また、微生物腐食とは異なるが、酸化剤による電位貴化作用によってステンレス鋼の耐すきま腐食性を評価する方法として、6% 塩化第二鉄溶液浸漬試験法(ASTM G48)がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これまで、微生物腐食に対するステンレス鋼の耐食性を評価する技術はいくつか提案されているものの、微生物作用によるステンレス鋼の電位貴化メカニズムが十分に解明されてこなかった(明石正恒 第125回腐食防食シンポジウム資料P.55−P.70)ために、未だに確立した耐食性を評価する方法が確立されていないのが現状である。例えば、培養微生物を用いる方法(特開平11−299497号公報)では微生物腐食への影響が示唆されている培養可能な微生物種を単一種加えることにより、耐食性を評価する方法であり、環境中の複合的な微生物作用による電位貴化を考慮したものではない。また、酸化酵素を用いた方法(特開平6−78794号公報、特開平8−68774号公報)は電位貴化作用に着目した耐食試験法であるものの、酵素反応を用いるため、発生する貴化電位を安定に設定できない問題がある。さらに、微生物腐食を考慮した腐食試験装置(特開平5−264497号公報)も電位貴化の耐食性への影響を考慮した方法ではない。また、ステンレス鋼の耐すきま腐食性を評価する方法として用いられる6% 塩化第二鉄溶液浸漬試験法(ASTM G48)は、河川水や海水には存在しない非常に高濃度の第二鉄イオンの酸化力を用いるため、微生物作用による電位貴化に起因するすきま腐食発生とは全く異なるメカニズムに基づく耐食試験方法である。以上のように、従来の耐食性評価方法にはさまざまな問題があった。
【0004】
さて、耐食性を評価する最も直接的な方法は、現場の水環境に鋼材を浸漬して、耐食性を確認することである。しかしながら、実環境で耐食試験を行うことは、経済的にも、あるいは、期間的な問題からも容易ではない。場合によっては、実環境での耐食試験を未実施のまま、鋼材を使用しなければならない場合もあり得る。このような観点から、実験室レベルでより短期間に耐食性を評価できることが望ましい。しかしながら、実環境と同じ腐食環境を実験室的に再現することは極めて難しい。実環境の水質分析から、腐食に関与する物理化学パラメーター、例えば、pH、溶存酸素濃度、各種イオン濃度 などは、比較的容易に得られる。しかし、環境中に棲息する微生物の菌相は、場所ごとに大きく異なり、かつ、季節変動するので、その情報を入手することは難しい。また、環境中の微生物のうち、培養できるものはせいぜい10%程度であると考えられている。つまり、大多数を占める残り90%程度の微生物は、培養が困難であると考えられている。したがって、たとえ、実環境から微生物を含んだ水を採水することが可能であっても、鋼材が用いられる現場と同じ微生物環境を実験室的に再現することは、事実上、困難である。以上の理由から、環境に存在する微生物をそのまま用いるのではなく、微生物による腐食の本質的な原因を物理化学的な原因に帰結させて、耐食性を評価する必要がある。現状では、このような耐食性を評価する方法が確立されていない。
【0005】
本発明は、微生物作用に特徴的なステンレス鋼の電位貴化を人為的に再現可能とし、かつ、電位貴化にいたるまでの時間を短縮化して耐食性評価を効率的に実施可能な試験液および耐食性評価方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、微生物によるステンレス鋼の電位貴化を模してかつ、促進化して、ステンレス鋼を電位貴化させてステンレス鋼の耐食性を評価する試験液を提供する。すなわち本発明は、
(a)浸漬したステンレス鋼の貴化電位を470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値)以上になるように、過酸化水素を1Lあたり1mmol以上30mmol以下とpH3.0以上pH3.9以下の範囲で調整したことを特徴とするステンレス鋼の耐孔食性および耐すきま腐食性の評価用試験液、
(b)請求項1に記載の試験液にステンレス鋼を浸漬し、ステンレス鋼の目標とする浸漬電位に応じて過酸化水素濃度およびpHを調整することを特徴とするステンレス鋼の耐食性を評価する方法、を内容とするものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、従来、微生物作用によるステンレス鋼の浸漬電位の電位貴化原因が解明されてこなかったことが、微生物作用に対する耐食性評価方法が確立されない根本的な問題であると捉え、鋭意、解析・検討した結果、過酸化水素と酸性化の作用が組み合わさることにより微生物作用によるステンレス鋼の電位貴化が起こることを解明した。したがって、過酸化水素濃度とpHの条件設定した溶液によって、ステンレス鋼の浸漬電位を人為的に貴化することを考えた。実際の河川水、あるいは、海水等でのステンレス鋼の貴化電位の実測値との比較によって、実環境での微生物作用による貴化電位を短時間で再現し得るpHおよび過酸化水素の濃度範囲を特定化してステンレス鋼の耐すきま腐食性および耐孔食性を促進化して評価する試験液および耐食性評価方法を発明したのである。
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
好気性微生物作用によるステンレス鋼の電位貴化は、浸漬される淡水、汽水あるいは海水の季節変動によって、到達する貴化電位が変動する。ここで貴化電位とは電位の気化によって到達する定常的な浸漬電位(自然電位あるいは腐食電位ともいう)うぃ意味する。
【0010】
電位レベルが高くなるほど、ステンレス鋼にすきま腐食あるいは孔食が発生する可能性が高くなる。河川水、あるいは、海水中で、さまざまな季節にステンレス鋼の浸漬電位の測定を実施した結果、淡水および海水で+150mV以上+470mV以下の電位が得られた(いづれも飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値で記してある。)。そこで本発明者らは、一般的な河川水や海水であれば、+150mV以上+470mV 以下(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)の電位範囲に微生物作用による貴化電位が達することになるものと考えた。本発明者らは、このような微生物作用によるステンレス鋼の電位貴化がステンレス鋼が接触する液への過酸化水素添加とpH調整によって再現可能であることを見いだした。以下にステンレス鋼に接触して電位貴化させるための試験液の調製方法を示す。
(1) 試験液のベースとなる水あるいは水溶液としては、ステンレス鋼を使用しようとする実環境で、ステンレス鋼に接触する可能性がある河川水、湖沼水、地下水、農業用水、工業用水、循環冷却水などの淡水や、汽水、海水を採水したものを用意する。可能であれば、滅菌したものを用意することがより望ましい。
滅菌方法としてはフィルタ滅菌が望ましいが、オートクレーブ滅菌も適用可能である。
(2) 試験液のベースとなる水あるいは水溶液として(1)に記載の実使用環境からの採水が不可能な場合には、これらの含有成分濃度を人工的に模した水溶液を用いることも可能である。例えば海水に関しては、人工海水などが使用可能である。尚、実環境水の成分濃度も未知の場合には、類似した主要成分を含む水溶液であれば使用可能である。可能であれば、滅菌したものを用意することがより望ましい。滅菌方法としてはフィルタ滅菌が望ましいが、オートクレーブ滅菌も適用可能である。
(3) (1)あるいは(2)で用意した試験液のベースとなる水あるいは水溶液に、過酸化水素を1Lあたり 1 mmol 以上 30 mmol 以下の濃度範囲で添加して混合する。
(4) ステンレス鋼の耐すきま腐食性を評価する試験液を調製するためには、(3)に記載の水溶液に塩酸、硫酸、硝酸、炭酸あるいは酢酸、乳酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸を単独であるいは組み合わせて用いてpHを調整する。海水や河川水などで観測されるような+150mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)以上の貴化電位となるように、調整後のpHは pH3.0以上pH8.2以下の範囲で耐食性を評価したいステンレス鋼の目標とする貴化電位を与える pHに調製する。
(5) ステンレス鋼の耐孔食性および耐すきま腐食性を評価する試験液を調製するためには、(3)に記載の水溶液に塩酸、硫酸、硝酸、炭酸あるいは酢酸、乳酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸を単独であるいは組み合わせて用いてpHを調整する。pH3.0以上pH3.9の範囲で、すなわち+470mV (飽和KCl Ag/AgCl電極基準)以上の貴化電位になるように調製する。例えば、過酸化水素濃度が試験液1Lあたり 1 mmol含有する場合には、pH3.0、過酸化水素濃度が試験液1Lあたり 30 mmol含有する場合には、pH3.9でステンレス鋼の貴化電位+470mV (飽和KCl Ag/AgCl電極基準)が達成され得る。
【0011】
以上のように、ステンレス鋼の耐食性を評価する試験液を調製する。なお、過酸化水素の添加とpH調製の順序は同時でも逆でも可能である。
【0012】
上記(4)あるいは(5)に記載の試験液にステンレス鋼を接触させることにより、ステンレス鋼の浸漬電位は貴化する。通常、ステンレス鋼を河川水や海水に浸漬すると、微生物作用によって定常的な貴化電位に達するまでには一週間以上の長期間を要する。しかし、本試験液にステンレス鋼を接触させることにより、数時間から1日程度で定常的な貴化電位に達することが可能となる。このように、本試験液は微生物作用による電位貴化と比較してステンレス鋼の電位貴化に要する時間を短縮する効果がある。
【0013】
尚、一般的なステンレス鋼の耐食性評価には、河川、海水で観測された最高レベルの貴化電位以上の高い電位に設定して、より厳しい腐食環境で耐食性を評価するべきである。したがって、(5)に記載の試験液を用いて耐すきま腐食性および耐孔食性を評価することが好ましい。
【0014】
次に本発明の試験液を用いてステンレス鋼の耐食性を評価する方法を説明する。
【0015】
まず、耐食性を評価するためにはステンレス鋼を本発明の試験液に浸漬あるいは接触させる。ここで、耐食性を評価しようとするステンレス鋼の浸漬電位を、使用しようとする水環境に棲息する微生物作用による最高レベルの貴化電位と同等あるいはそれ以上の電位に設定することで、微生物作用に対する耐食性を評価することが可能となる。
【0016】
ステンレス鋼の浸漬電位を、このような目標電位に設定するために過酸化水素濃度とpHを調整して試験液を作成する方法について説明する。
【0017】
本発明の試験液のpH3.0以上pH8.2以下において、pHが低くなるほどステンレス鋼の浸漬電位は上がる。また、本発明の試験液の過酸化水素濃度が1Lあたり1mmol以上30mmol以下において、過酸化水素濃度が高くなるほどステンレス鋼の浸漬電位は上がる。例えば、過酸化水素濃度が1Lあたり1mmolでpH8.2の場合、ステンレス鋼の浸漬電位は約150mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)にまで貴化する。また、過酸化水素濃度が1Lあたり30mmolでpH3の場合、ステンレス鋼の浸漬電位は約550mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)にまで貴化する。この間の所望の貴化電位を過酸化水素濃度とpHの組み合わせで設定してステンレス鋼の耐食性評価を実施できる。
【0018】
次に、ステンレス鋼の浸漬電位を目標とする電位に設定した状態での耐食性評価の実施方法について説明する。ここで目標とする電位とは、海水や河川水などに浸漬したステンレス鋼で観測される貴化した電位と同等以上の、耐食性を評価したい電位を意味する。
【0019】
耐すきま腐食性を評価しようとする場合は、すきま構造を付与したステンレス鋼試験片について、(4)に記載の試験液に貴化電位となってから任意の時間浸漬後、試験片を取り出して、すきま腐食発生の有無、すきま腐食の発生数、分布、面積、あるいは試験片の腐食減量を測定することにより、ステンレス鋼の耐すきま腐食性を評価することができる。一般的な、すきま構造を付与したステンレス鋼にたいする腐食試験として、例えば、マルチクレビス試験法(ASTM G48−76)がある。すきま形成治具によってステンレス鋼表面に40個程度のすきまを作って、一定期間経過の後、すきま腐食の発生数によって耐食性を評価する方法であり、本発明の試験液に接触させることによる電位貴化にたいする耐すきま腐食性の評価にも適用可能である。なお、耐すきま腐食性を評価する温度としては、自然水環境に棲息する一般的な好気性微生物の生育に適した温度と同範囲の15℃以上40℃以下で実施することが望ましいが、本発明はこの温度範囲に限定されるものではない。
【0020】
また、耐孔食性および耐すきま腐食性を評価しようとする場合には、ステンレス鋼試験片を用いて、(5)に記載の試験液に貴化電位となってから任意の時間接触させることにより、耐孔食性および耐すきま腐食性を評価することができる。試験片表面を直接観察して孔食の有無を調べることや、孔食やすきま腐食の発生数、分布、腐食面積、試験片の重量変化による腐食減量を測定するなどして、耐食性を評価することができる。なお、耐孔食性を評価する温度としては、自然水環境に棲息する一般的な好気性微生物の生育に適した温度と同範囲の15℃以上40℃以下で実施することが望ましいが、本発明はこの温度範囲に限定されるものではない。
【0021】
以下に本発明の構成要件の限定理由を述べる。
(a)過酸化水素濃度としては試験液1Lあたり1 mmol 以上 30 mmol 以下の範囲に限定される。これは、ステンレス鋼の電位は過酸化水素濃度が試験液1Lあたり30mmol以下では、過酸化水素の濃度に依存して浸漬電位が貴化する傾向が顕著であるが、過酸化水素濃度が試験液1Lあたり30 mmolを超えると、過酸化水素の濃度増加に依存する浸漬電位上昇傾向が著しく鈍化する。したがって、浸漬電位の過酸化水素濃度依存性が顕著にみられる試験液1Lあたり30 mmol以下とした。
【0022】
また、河川水あるいは海水で実測した中で、最もpHが高いのは、8.2であり、ステンレス鋼の浸漬電位は+150mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)が貴化電位としては最低であった。過酸化水素濃度が1 mmol未満であると、PH8.2においてステンレス鋼の浸漬電位は+150mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)に達しなかった。また、過酸化水素濃度が1mmol未満であると電位貴化に1日以上の長時間を要するようになり、貴化電位も不安定になり、貴化電位に達するまでの時間が短縮化できなくなる傾向がある。従って、過酸化水素濃度は、1 mmol 以上 30 mmol以下の範囲に限定される。
(b)耐すきま腐食性を評価する試験液のpHとしては、pH3.0 以上 pH8.2 以下の範囲に限定される。これは、河川水あるいは海水で実測した中で、最もpHが高いのは、8.2であり、8.2を超えるpHは観測されなかった。また、よりアルカリ側の条件ほど、浸漬電位は、pHに依存して低くなるため、電位貴化による腐食発生を抑制する方向へむかう。そこで、pHは8.2以下とした。また、(a)で限定した過酸化水素濃度範囲で最も低い浸漬電位を与えるのは試験液1Lあたり1 mmolの過酸化水素の場合である。この場合、自然水環境で実測された最高レベルの貴化電位である+470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値)にまで電位貴化させるために、pH3.0にする必要がある。また、pH3未満では、電位貴化以外のステンレス鋼の腐食要因として酸性条件による腐食が懸念される。したがって、耐すきま腐食性を評価する試験液のpHは、pH3.0以上pH8.2以下の範囲に限定される。なお、pH調製に用いる酸として、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸あるいは有機酸(酢酸、乳酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸)を単独あるいは組み合わせて用いることが可能である。
(c)耐孔食性および耐すきま腐食性を評価する試験液のpHとしては、pH3.0 以上 pH3.9以下の範囲に限定される。耐孔食性は、自然水環境で実測される最高レベルの貴化電位以上の電位において評価されることが望ましい。(a)で限定した過酸化水素濃度範囲で自然水環境で実測された最高レベルの貴化電位である+470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値)と同等以上の貴化電位を発生させることが望ましい。過酸化水素濃度が試験液1Lあたり1 mmolの場合には、pH3.0、過酸化水素濃度が試験液1Lあたり30 mmolの場合にはpH3.9でステンレス鋼の貴化電位が+470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値)になり得る。pH3未満では、電位貴化以外のステンレス鋼の腐食要因として酸性条件による腐食が懸念される。また、pH3.9を超えると、過酸化水素濃度が試験液1Lあたり、1 mmol 以上30mmol以下の範囲では、+470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値)と同等以上の貴化電位を再現することが難しい。したがって、pHはpH3.0以上pH3.9以下の範囲に限定されるなお、pH調製に用いる酸として、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸あるいは有機酸(酢酸、乳酸、プロピオン酸、ギ酸、酪酸)を単独あるいは組み合わせて用いることが可能である。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。
実施例1
pHと過酸化水素濃度の組み合わせ効果によるステンレス鋼の電位貴化:
浸漬電位の測定:30w×25l×2tmmの寸法のステンレス鋼 SUS304試験片の全面をエメリー400番研磨紙を用いて湿式研磨したあと、上端にリード線をハンダ付けし、アセトン中にて脱脂をおこなった。pHと過酸化水素濃度をさまざまな条件に濃度設定した試験液を用意して、上記試験片を浸漬した。pH は pH8.2, pH6.0, pH 3.9, pH3.0 とし、過酸化水素濃度は試験液1Lあたり 0 mmol, 0.001 mmol, 0.01 mmol, 0.03 mmol, 0.1 mmol, 0.3 mmol, 1 mmol, 3 mmol, 10 mmol, 30 mmol, 100 mmol, 1000 mmol とした。浸漬電位の測定を24h継続しておこない、定常的な貴化電位を測定した。電位は、いずれも飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とする値で示した。
【0024】
耐すきま腐食性を評価する場合(表1)には、貴化電位が+150mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)以上となる場合に、判定○とした。ただし、定常的な貴化電位に達するまでの時間が24hrを超える場合には迅速な電位貴化再現が困難であるので耐すきま腐食性評価には不適であるため判定△とした。また、過酸化水素濃度が1Lあたり30mmolを超えるような高濃度の条件では、過酸化水素使用のコスト負担が増大することと、実際の微生物原因による過酸化水素濃度としては考えにくい高濃度であるため、耐すきま腐食性評価には不適であるため判定□とした。
【0025】
貴化電位が+150mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)未満の場合は、耐すきま腐食性評価には不適であるため判定×とした。
【0026】
耐孔食性および耐すきま腐食性を評価する場合(表2)には、貴化電位が+470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)以上となる場合に、判定○とした。ただし、過酸化水素濃度が1Lあたり30mmolを超えるような高濃度の条件では、過酸化水素使用のコスト負担が増大することと、実際の微生物原因による過酸化水素濃度としては考えにくい高濃度であるため、耐孔食性および耐すきま腐食性評価には不適であるため判定□とした。
【0027】
貴化電位が+470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極基準)未満の場合は、耐孔食性および耐すきま腐食性評価には不適であるため判定×とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
結果として過酸化水素濃度とpHを組み合わせて調整した試験液にステンレス鋼を浸漬することにより、河川水や海水で微生物作用により誘起されるような貴化電位に設定して耐食性評価を実施可能であることがあきらかになった。
【0030】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明で定めるpHおよび過酸化水素濃度条件を組み合わせた水溶液を用いて、河川水や海水などで観察されるステンレス鋼の貴化電位を考慮した耐食性を評価する試験液を調製して、ステンレス鋼の耐食性を評価することが可能である。
【0031】
したがって、本試験液を用いることは、微生物腐食に対する材料選定や、新たな鋼材開発に有用である。
Claims (2)
- 浸漬したステンレス鋼の貴化電位を470mV(飽和KCl Ag/AgCl電極を参照電極とした電位値)以上になるように、過酸化水素を1Lあたり1mmol以上30mmol以下とpH3.0以上pH3.9以下の範囲で調整したことを特徴とするステンレス鋼の耐孔食性および耐すきま腐食性の評価用試験液。
- 請求項1に記載の試験液にステンレス鋼を浸漬し、ステンレス鋼の目標とする浸漬電位に応じて過酸化水素濃度およびpHを調整することを特徴とするステンレス鋼の耐食性を評価する方法。
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