JP4541477B2 - 窒化珪素質焼結体、それを用いた工具ならびに摺動部材、及び窒化珪素質焼結体の製造方法 - Google Patents

窒化珪素質焼結体、それを用いた工具ならびに摺動部材、及び窒化珪素質焼結体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は窒化珪素質焼結体と、それを用いたセラミック工具及びセラミック摺動部材、及び窒化珪素質焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、窒化珪素質焼結体は、耐摩耗性、耐熱性、耐熱衝撃性あるいは耐酸化性に優れることから、ベアリングボール等の機械摺動部品、工具、タペット、ターボロータ、ビストンピンやエンジンバルブ等の自動車用部品、さらにはタービンブレードといった耐熱性構造部材への適用が図られている。
【0003】
窒化珪素質焼結体は、一般には窒化珪素質主相粒子と、焼結助剤成分を主体とする粒界相とによって構成されており、例えば耐摩耗性や摺動特性を向上させる方法として、粒界相の結晶化や異種粒子の添加等が試みられてきた。しかしながら、結晶化は処理が難しく、組成によっては結晶相の析出形成が不可能となることもある。また、異種粒子の分散を行う場合は、異種粒子を原料粉末の段階で添加する方法により行われているが、その添加により焼結性が低下する等の問題があり、焼結不能となったり、仮に焼結できても強度等の特性が不十分となるなどの問題があった。
【0004】
一方、特開平11−79848号公報あるいは特開平11−100272号公報には、焼結体中に微小なSi粒子を析出させることにより、焼結体の強度あるいは破壊靭性値を向上させる技術が開示されている。これら公報によると、析出させるSi粒子は、走査型電子顕微鏡等で観察識別不能な程度に微小なものでなければ、所期の効果が達成できないとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果によると、前記公報に記載された窒化珪素質焼結体におけるSi粒子の形成形態では、耐熱性、耐摩耗性あるいは摺動特性を必ずしも十分には改善できないことが判明した。
【0006】
本発明の課題は、特有の構造及び分散形態を有するSi粒子を含有することにより、安価で簡便な方法により製造可能であり、かつ耐熱性、耐摩耗性あるいは摺動特性が一層良好な窒化珪素質焼結体と、それを用いた工具ならびに摺動部品、及び窒化珪素質焼結体を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上記の課題を解決するために、本発明の窒化珪素質焼結体の第一は、窒化珪素を主成分とし、焼結助剤成分を含有する窒化珪素質焼結体であって、焼結助剤成分がアルミニウム及び希土類成分を含有し、その焼結助剤成分の含有量が酸化物換算にて2〜5重量%とされるとともに、アルミニウムの含有量が酸化物換算にて0.5〜3重量%、希土類成分の含有量が酸化物換算にて1〜4重量%とされており、焼結体の粒界において、その全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの、還元雰囲気中にて焼成することにより、単結晶状のSi粒子を分散させたことを特徴とする。なお、本発明において、「主成分」(「主体」あるいは「主に」等も同義)とは、特に断りがない限り、着目している物質において含有率が50重量%以上であることを意味する。
【0008】
上記本発明の窒化珪素質焼結体の第一は、発明の要部であるSi粒子の特徴を構造的な観点から捉えたものであるが、以下の本発明の窒化珪素質焼結体の第二は、Si粒子の特徴を組織上の外観から捉えたものである。すなわち、該焼結体は、上記本発明の窒化珪素質焼結体の第一と同様、焼結助剤成分がアルミニウム及び希土類成分を含有し、その焼結助剤成分の含有量が酸化物換算にて2〜5重量%とされるとともに、アルミニウムの含有量が酸化物換算にて0.5〜3重量%、希土類成分の含有量が酸化物換算にて1〜4重量%とされており、焼結体の粒界において、その全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの、還元雰囲気中にて焼成することにより、金属状の光沢を呈するSi粒子を分散させたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の窒化珪素質焼結体にて構成されたセラミック工具あるいは摺動部材も提供する。なお、本発明の窒化珪素質焼結体は、これ以外にも上記以外の耐摩耗部材や耐食用部材、耐熱性部材あるいはその他の構造用部材に適用可能である。具体例としては、ベアリングボール、切削工具、線引きロール、タペット、ターボロータ、ビストンピンやエンジンバルブ等の自動車用部品、さらにはタービンブレードといった耐熱性構造材料等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
本発明者らは、窒化珪素質焼結体の内部、特に粒界の結合相部分に異種粒子を分散させ、その強化を図る一つの方法として、特定構造のSi粒子を、ある特有の寸法範囲を有するものとして分散形成することが有効であることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。すなわち、本発明では、焼結体の全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの単結晶状及び/又は金属状の外観を呈するSi粒子を分散させることにより、耐熱性、耐摩耗性あるいは摺動特性が一層良好な窒化珪素質焼結体が実現される。
【0011】
本発明において重要な点は2つある。まず第一は、焼結体組織中に存在するSi粒子が、平均寸法にて0.1〜10μmとなっていること、つまり、金属顕微鏡に代表される光学系の顕微鏡において、1000倍程度の倍率により目視観察できる程度の大きさで形成されている点である。本発明においては、Si粒子が分散形成された窒化珪素質焼結体の強度や靭性、ひいては耐摩耗性や耐熱性あるいは摺動特性を向上させるために、Si粒子を平均寸法にて0.1μm以上の、観察可能な大きさに成長させた点に第一の特徴がある。それよりもSi粒子が小さくなっていること、例えば前記した公報の窒化珪素質焼結体のように、Si粒子が電子顕微鏡やX線回折にて検出不能な大きさに形成されていたのでは、十分な効果が達成されない。Si粒子の平均寸法は、より望ましくは0.5μm以上となっているのがよい。一方、Si粒子の平均寸法が10μmを超えた場合も、窒化珪素質焼結体の強度や靭性を十分に確保することが困難となる。該Si粒子の平均寸法は、望ましくは5μm以下であるのがよい。
【0012】
なお、Si粒子に限らず、本発明において粒子(あるいは空隙)の寸法とは、図1に示すように、焼結体の組織上で観察される粒子の外形線に対し、その外形線と接しかつ空隙内を横切らないように2本の平行線を、その空隙との位置関係を変えながら各種引いたときの、上記平行線間の距離の最大値Dmaxと同じく最小値Dminとの平均値(≡(Dmax+Dmin)/2)として定義する(後述の結晶粒子の寸法も同様の定義による)。また、Si粒子の寸法は、平均寸法にて0.1〜10μmに収まっていればよいのであって、一部の粒子が0.1μm未満、あるいは10μmを超える寸法となっていることを妨げない。
【0013】
次に、第二に重要な点は、生成しているSi粒子が、単結晶か、あるいは多結晶であっても、精々数個程度までの少数の単結晶粒子にて構成されていると推測される点である。Si(シリコン)の単体はよく知られている通り半導体であり、相当数の自由電子が存在しているために、平滑に表面を研磨すれば金属状の光沢を呈するものとなる。例えば、金属顕微鏡等により可視光反射にて拡大観察すれば、図23に示すように、Si粒子の部分が輝点状に観察される(この例では、やや暗い背景中に散点状に明るく現われているのがSi粒子である)。
【0014】
しかし、万一、異種の金属粒子等が上記のSi粒子と混在していると考えられる場合には、その粒子が単結晶状のSi粒子であるか否かを、顕微鏡ラマン分光分析法によって識別することができる。すなわち、組織表面を研磨し、これを光学系の顕微鏡にて観察するとともに、図4に示すように、その観察画像上にて認められる粒子が包含されるようにレーザー光のスポットを照射し、反射光のラマンスペクトルを測定する。そして、そのスポットに包含される粒子がもしSi粒子であれば、図24に示すように、そのラマンスペクトルプロファイルにおいて、519〜521cm−1にSiの鋭いピークが現われる(以下、これを第一ピークと称する)。さらに、そのSi粒子が単結晶状であれば、850〜1000cm−2にややブロードな第二ピークが現われるので、この第二ピークが現われているか否かにより、その粒子が単結晶状Si粒子か否かを識別することができる。
【0015】
なお、本発明においては、スポット径2μmのアルゴンレーザー(波長:514.5nm)を用いて測定したときのラマンスペクトルプロファイルにおいて、バックグラウンドレベルからの第一ピークの高さSに対する、同じく第二ピークの高さTの比T/Sが0.01以上となるSi粒子を、単結晶状Si粒子として定義する。ただし、各ピーク高さは、得られたスペクトルプロファイルにデジタルローパスフィルタ処理を施して波長300cm−1以下の成分をカットすることによりバックグラウンド曲線を生成し、そのバックグラウンド曲線からの突出高さにて求めるものとする。
【0016】
焼結体の断面組織にて観察されるSi粒子が、上記のような単結晶状Si粒子となっている場合において、焼結体の耐摩耗性や耐熱性及び摺動特性は特に良好となる。Si粒子が仮に形成されていても、それが、ラマンスペクトルプロファイルを測定したときに前記した第二ピークが現われないような粒子になっていると、十分な効果が達成されない。
【0017】
上記のような単結晶状Si粒子が形成された窒化珪素質焼結体を製造するためには、窒化珪素質粉末に焼結助剤粉末を配合して成形用素地粉末となし、これを所期の形状に成形した後、還元雰囲気中にて焼成することが有効である。例えば焼成空間を形成する炉材の一部や、あるいは焼成容器を炭素(カーボン)質の材料で構成したり、あるいは炉中に被焼成物とともに炭素質の粉末を挿入することにより、炉内の焼成雰囲気を炭素成分(例えば一酸化炭素)を含有した還元雰囲気とした場合に特に顕著である。特に、酸素分圧を1×10−5atm以下とし、焼成空間1m当りの炭素粉末挿入量を10〜50kgとすることで、上記のような単結晶状Si粒子の析出形成に有利な還元雰囲気を形成することができる。
【0018】
また、焼成温度や圧力は、焼結体の用途に応じて適宜設定されるが、例えば一次焼成および二次焼成の2段階焼成によって行う場合、一次焼成は、窒素を含む1〜10気圧以下の雰囲気下にて1900℃以下で行い、一次焼成後の焼結体相対密度を78%以上、好ましくは90%以上となるように行うことが望ましい。また、二次焼成は、窒素を含む10〜1000気圧の雰囲気にて、1600から1950℃で行うことができる。ただし、強度や靭性、ひいては耐摩耗性や耐熱性あるいは摺動特性等、十分な性能が保証される範囲内であれば、一段階焼成であってもよい。
【0019】
単結晶状Si粒子の形成が窒化珪素質焼結体の特性向上に有効に寄与する要因は、次のように推測される。まず、Si粒子は窒化珪素よりも熱膨張率が小さく、例えば焼成段階で形成されているSi粒子には、図3(a)に示すように、冷却時において、収縮率の大きい窒化珪素質マトリックスからの後背応力(バックストレス)を受けることにより、圧縮応力場が形成される。窒化珪素質マトリックスあるいは粒界相中を進展するクラックは、例えば図3(b)に示すように、形成されている圧縮応力場により進展を止められたり、あるいは同図(c)に示すように迂回を強いられたりする。これらはいずれも、焼結体の強度や破壊靭性値の向上効果、ひいては耐摩耗性や耐熱性及び摺動特性の向上をもたらす
【0020】
一方、単結晶状Si粒子が析出するような還元雰囲気において焼成を行うと、粒界相中の過剰な酸化物成分が適度に減少し、また、その分布状態も改善されて粒界強度が向上することも考えられる。例えば、粒界相には、窒化珪素原料粉末中の不純物や焼結助剤の形で導入されるSiO成分が含有される場合があるが、このSiO成分が、例えば焼結体の緻密化に影響を与えない程度において適度に減少することにより粒界相強度を著しく高めることができ、耐摩耗性や耐熱性及び摺動特性の向上をもたらす。この場合、SiO成分の還元・分解の結果としてSi粒子が析出すると推測されるが、そのSi粒子が特に単結晶状Si粒子となることが本発明においては重要であり、焼結体の性能向上の鍵を握る形となる。換言すれば、Si粒子の析出態様が、粒界相状態、特にSiO成分等の過剰な酸化物成分の存在状態等を反映した指標となり、前記した粒径範囲の単結晶状Si粒子が形成されることで、これと表裏一体をなす結果として、粒界相は強度向上の観点においてもっとも好ましい形成状態に調整されるのである。
【0021】
上記のような単結晶状Si粒子の分散している領域は、図2(a)に示すように、焼結体の表層部のみであってもよいし、同図(b)に示すように、焼結体の表層部及び内部をも含めた形になっていてもよいし、さらに同図(c)に示すように、焼結体の内部のみとなっていてもいずれでもよい。
【0022】
次に、Si粒子の分散している領域において、該Si粒子の、100μm四方の視野当りの平均存在個数は、1〜50個となっているのがよい。該個数が1個未満では上記した本発明の効果が不十分となる場合があり、50個を超えると、焼結体の強度が却って低下したり、摺動特性が不十分となってしまう不具合を招く場合がある。なお、該個数は、より望ましくは10〜40個となっているのがよい。
【0023】
窒化珪素質焼結部材の組織は、窒化珪素を主成分とする主相結晶粒子が、ガラス質及び/又は結晶質の結合相にて結合した形態のものとなる。なお、主相は、α化率が70体積%以上(望ましくは90体積%以上)のSi相を主体とするものであるのがよい。この場合、Si相は、SiあるいはNの一部が、Alあるいは酸素で置換されたもの、さらには、相中にLi、Ca、Mg、Y等の金属原子が固溶したものであってもよい。例えば、次の一般式にて表されるサイアロンを例示することができる;
β−サイアロン:Si6−zAl8−z(z=0〜4.2)
α−サイアロン:M(Si,Al)12(O,N)16(x=0〜2)
M:Li,Mg,Ca,Y,R(RはLa,Ceを除く希土類元素)。
【0024】
焼結助剤成分は、周期律表の3A、4A、5A、3B(例えばAl)及び4B(例えばSi)の各族の元素群及びMgから選ばれる少なくとも1種を使用でき、例えば酸化物の形で添加できる。
【0025】
焼結助剤成分は、例えば酸化物換算にて2〜30重量%の範囲で含有させることができる。また、これに対応して窒化珪素は70〜98重量%の範囲にて含有させることができる。焼結助剤成分が2重量%未満では緻密な焼結体が得にくくなる。しかしながら、本発明の効果を有効に引き出すためには、上限値は、一般的な窒化珪素焼結体の添加レベルよりも低い5重量%程度とすることが望ましい。焼結助剤成分が多すぎると、Si粒子の析出が妨げられて、本発明の構成の窒化珪素質焼結体を得にくくなり、ひいては本発明が意図するレベルでの強度や靭性、耐摩耗性あるいは耐熱性の不足を招いたり、あるいは摺動部品の場合には耐摩耗性の低下にもつながるためである。焼結助剤成分の含有量は、より望ましくは酸化物換算にて1〜5重量%(窒化珪素の含有量では95〜99重量%)とするのがよい。
【0026】
なお、3A族(希土類)の焼結助剤成分としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが一般的に用いられる。これらの元素Rの含有量は、CeのみRO、他はR型酸化物にて換算する。これらのうちでもY、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybの各重希土類元素の酸化物は、窒化珪素質焼結体の強度、靭性及び耐摩耗性を向上させる効果があるので好適に使用される。
【0027】
焼結助剤成分が希土類成分を含有する場合、その希土類成分の焼結体中の含有量が酸化物換算にて1〜4重量%、望ましくは1〜3重量%となっていることが望ましい。希土類成分は還元雰囲気下の焼成では、焼結体表層部に集まりやすく、含有量が過剰になるとSi粒子の析出をより妨げやすくなるためである。また、1重量%未満では、希土類元素酸化物使用による、窒化珪素質焼結体の強度、靭性及び耐摩耗性の向上効果が十分に期待できない。
【0028】
焼結助剤成分は、主に結合相を構成するが、一部が主相中に取り込まれることもありえる。なお、結合相中には、焼結助剤として意図的に添加した成分のほか、不可避不純物、例えば窒化珪素原料粉末に含有されている酸化珪素(例えばSiOである)などが含有されることがある。
【0029】
本発明の窒化珪素質焼結体は、高レベルの耐摩耗性が要求される各種窒化珪素質部品、わけてもベアリングボールをはじめとする機械摺動部品に好適に使用することができる。また、精密電子機器、例えばコンピュータハードディスクドライブの軸受けとして使用されている高速回転のベアリングは、異音等の発生がなきよう特に高精度の研磨仕上が要求されるが、本発明によれば高精度に仕上げられたベアリングボールも容易に得ることができ、異音や振動発生の問題も生じにくい。
【0030】
次に、本発明の焼結体は、断面組織にて観察される寸法1μm以上の気孔の累積面積率が3%以下であるのがよい。気孔の累積面積率が3%を超えると、焼結体の密度が不十分となり、強度等の確保が困難となる場合がある。また、摺動部材の場合は、摺動特性の悪化を招く惧れがある。
【0031】
また、焼結体断面(球状焼結体の場合は、球のほぼ中心を通る断面)の組織において観察される寸法1μm以上の空隙の、該断面1mm当たりの平均存在個数の観点から見れば、該平均個数が500個以下を満足していることが望ましい。該個数が500個を超えると、焼結体の耐摩耗性や強度が不足する場合がある。
【0032】
さらに、ベアリングボールの場合は、寸法1μm以上の空隙が多くなると、研磨後の焼結体表面にこれが開気孔(オープンポア)となって残留し、寸法精度の低下、真球度や直径不同等の精度が確保できなくなる場合がある他、ベアリングとしての使用時に振動や異音が生じやすくなる。この観点においては、前記の気孔の累積面積率は、より望ましくは1%以下であるのがよい。
【0033】
次に、特に5mm以下の小径のベアリングボールを製造する場合において、より有利となる参考技術について説明する。ただし、該技術は本発明の必須要件を構成するものでないことはもちろんであり、本発明と組み合わせて実施しても、あるいは本発明とは無関係に実施してもいずれでもよい。従って、当然に本発明を限定するものではない。ただし、本発明と組み合わせることにより、摺動特性あるいは耐摩耗性に一層優れた小径のベアリングボールを実現することができる。
【0034】
電子精密機器用のベアリング等への適用を前提とした小径でグレードの高いベアリングボールの場合、焼結体の高密度化に効果のあるHIP法(例えば、焼成圧力200atm以上、通常1000〜2000atm)を採用することもできるが、焼結体の表面が硬質化しやすいので研磨がやや困難となり、高精度の真球度あるいは直径不同の確保に影響を及ぼすこともありうる。そこで、表面が硬質化しにくい常圧又はガス圧焼成による窒化珪素質セラミックボールの製造を考えた場合、焼結性の阻害による密度低下ひいてはそれによる耐摩耗性等の性能低下が著しくなるベアリングボールの寸法範囲が、表面積A(単位:mm)と重量W(単位:g)との比A/Wが300以上となる寸法範囲であることが判明した。具体的には、窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを主体に構成された成形用素地粉末を、表面積A’(単位:mm)と重量W’(単位:g)との比A’/W’が350以上となり、かつ密度が2.0〜2.5g/cmとなるように球状に成形し、常圧又はガス圧焼成により、その球状成形体(以下、単に成形体ともいう)を焼結することが有効である。焼成前の成形体の段階では、密度が2.0〜2.5g/cmとなるように成形用素地粉末を成形することを考慮すれば、表面積A’(単位:mm)と重量W’(単位:g)との比A’/W’が350以上に対応する。
【0035】
また、焼成前の成形体の密度(密度)が2.0〜2.5g/cmの範囲に収まるように成形用素地粉末を成形することにより、A/Wが300以上となるような小径のベアリングボールであっても、常圧あるいはガス圧焼成により十分高密度に焼結が可能となる。そして、その焼成により得られる研磨前のベアリング素球は表面の硬質化が進みにくくなり、精密な研磨加工を極めて容易に能率良く行うことができる。その結果、A/Wが300以上であって、かつ密度において3.2g/cm以上に高密度化し、さらに真球度及び直径不同が共に0.10μm以下という、従来法では実現不能であった高性能かつ高精度の小径窒化珪素質セラミックベアリングボールが実現可能となる。例えばコンピュータハードディスクドライブ等の精密電子機器において、高速回転(例えば5400〜12000rpm)で使用されても、音や振動を発することなく長期間にわたってその寿命を確保することができる。
【0036】
なお、本明細書において真球度とは、ベアリングボールの表面に外接する最小球面とベアリングボール表面の各点との半径方向の距離の最大値をいう。また、直径不同とは、1個のベアリングボールの直径の最大値と最小値との差をいう。
【0037】
また、本明細書においてガス圧焼成は、1atmを超え、200atm以下の少なくとも窒素を含有する雰囲気下で焼成を行うことをいい、常圧焼成とは1atm以下の少なくとも窒素を含有する雰囲気下で焼成を行うことをいう。ガス圧焼成の雰囲気圧力の上限を200atmとすることで、焼結体の表面の過度の硬質化を効果的に防止でき、ひいては研磨後の窒化珪素質セラミックボールの真球度あるいは直径不同を一層確保しやすくなる。
【0038】
上記の効果は、A/Wが500を超える範囲にてさらに有効に発揮される。他方、A/Wが5000を超えると、高密度の球状成形体の製造が困難となるため、それ以下のA/W、より望ましくは2000以下のA/Wのベアリングボールを対象とすることが望ましい。上記のA/Wの範囲は、窒化珪素質セラミックの密度を考慮すれば、ボールの直径が0.5〜6mm(望ましくは、1〜6mm)の範囲に相当する。
【0039】
また、ベアリングボールの密度が3.2g/cm未満になると耐摩耗性や強度が不足し、特に高速回転が要求されるコンピュータハードディスク等の精密電子機器用ベアリング等に適用された場合に、十分な性能及び寿命を確保できなくなる。他方、窒化珪素質セラミックの密度の上限は、セラミック組成毎に定まる理論密度値である、焼成条件の選択等により可及的に理論密度値に近付けるほど、耐摩耗性あるいは強度向上させる上で有利である。
【0040】
理論密度値が実測あるいは推定可能である場合、ベアリングボールの密度を、その見かけの密度の理論密度に対する比率、すなわち相対密度で表すこともできる。この場合、その相対密度は99.0%以上、より望ましくは99.5%以上であるのがよい。また、相対密度が100%未満になるということは、焼結体組織中に微細な空隙が残留して焼結体の密度が小さくなっていることを意味する。従って、焼結体中の空隙の存在比率は、焼結体の相対密度を反映したパラメータとなりうる。
【0041】
ベアリングボールの真球度及び直径不同を0.10μm以下とすることで、これをコンピュータハードディスク等の精密電子機器用のベアリングに組み込んで、高速回転(例えば5400〜10000rpm)にて使用した時に、音や異常振動の発生を顕著に抑制することが可能となる。なお、ベアリングボールの真球度は、より望ましくは0.03μm以下であるのがよく、また、直径不同は、より望ましくは0.07μm以下であるのがよい。
【0042】
ベアリングボールを製造する際の、球状成形体の表面積A’(単位:mm)と重量W’(単位:g)との比A’/W’が350未満になると、最終的に得られるベアリングボールのA/Wの値を300以上とすることが不可能となる(厳密には、ベアリング素球とベアリングボールとでは研磨代の分だけ寸法に差があるが、研磨代は球の直径に比して十分小さく、A/Wの値にはそれほど影響はしない)。なお、A’/W’の上限値は、得られるセラミックボールのA/W値の上限値が5000(望ましくは2000)である場合、これに対応して2560(望ましくは1650)程度となる。
【0043】
また、球状成形体の密度が2.0g/cm未満になると、ガス圧焼結あるいは常圧焼結による焼結時に緻密化が進まず、耐摩耗性等の性能低下を招いたり、あるいは気孔の残留により0.10μm以下の真球度や直径不同を達成できなくなる。一方、成形体の密度が2.5g/cmを超えると、成形後に成形体に残留する応力が高くなり過ぎ、成形体の崩壊を招いたり、あるいは焼成時の割れやクラック発生を助長して歩留まり低下につながる問題を生ずる。なお、球状成形体の密度は、より望ましくは2.15〜2.38g/cmとするのがよい。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の窒化珪素質焼結部材の実施の形態について説明する。
図4は、本発明の窒化珪素質焼結体の一実施例であるベアリングボール43を、金属あるいはセラミック製の内輪42及び外輪41の間に組み込んで構成したボールベアリング40を示している。ボールベアリング40の内輪42内面に軸SHを固定すれば、ベアリングボール43は、外輪41又は内輪42に対して回転又は摺動可能に保持される。すでに詳しく説明した通り、ベアリングボール43を構成するセラミックは、窒化珪素を主成分とし、焼結助剤成分を含有するとともに、焼結体の全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの単結晶状のSi粒子が分散した窒化珪素質セラミックである。
【0045】
以下、セラミックボール43の製造方法の一例について説明するが、この製造方法に限定されるものではない。まず、原料となる窒化珪素粉末はα率が70%以上のものを使用することが望ましく、これに焼結助剤として、希土類元素、3A、4A、5A、3Bおよび4B族の元素群から選ばれる少なくとも1種を酸化物換算で2〜8重量%、好ましくは2〜4重量%の割合で混合する。なお、原料配合時においては、これらの元素の酸化物のほか、焼結により酸化物に転化しうる化合物、例えば炭酸塩や水酸化物等の形で配合してもよい。
【0046】
成形用素地粉末は、例えば後述する転動造粒法に好適なものとして、レーザー回折式粒度計にて測定された平均粒子径が0.3〜2μm、同じく90%粒子径が0.4〜3.5μm(望ましくは0.7〜2.0μm)、さらにBET比表面積値が5〜13m/gのものを採用するのがよい。ただし、転動造粒法以外の成形方法を採用する場合はこの限りではない。
【0047】
レーザー回折式粒度似て測定される粉末粒子径は、図5に示す二次粒子径Dを反映したものである。また、粒子の小粒径側からの相対累積度数は、図6に示すように、評価対象となる粒子を粒径の大小順に配列し、その配列上にて小粒径側から粒子の度数を計数したときに、着目している粒径までの累積度数をNc、評価対象となる粒子の総度数をN0として、nrc=(Nc/N0)×100(%)にて表される相対度数nrcをいう。そして、X%粒子径とは、前記した配列においてnrc=X(%)に対応する粒径をいう。すなわち、90%粒子径とは、nrc=90(%)に対応する粒径をいう。
【0048】
他方、成形用素地粉末の比表面積値は吸着法により測定され、具体的には、粉末表面に吸着するガスの吸着量から比表面積値を求めることができる。一般には、測定ガスの圧力と吸着量との関係を示す吸着曲線を測定し、多分子吸着に関する公知のBET式(発案者であるBrunauer、Emett、Tellerの頭文字を集めたもの)をこれに適用して、単分子層が完成されたときの吸着量vmを求め、その吸着量vmから算出されるBET比表面積値が用いられる。ただし、近似的に略同等の結果が得られる場合は、BET式を使用しない簡便な方法、例えば吸着曲線から単分子層吸着量vmを直読する方法を採用してもよい。例えば、ガス圧に吸着量が略比例する区間が吸着曲線に現われる場合は、その区間の低圧側の端点に対応する吸着量をvmとして読み取る方法がある(The Journal of American Chemical Society、57巻(1935年)1754頁に掲載の、BrunauerとEmettの論文を参照)。いずれにしろ、吸着法による比表面積値測定においては、吸着する気体分子は二次粒子中にも浸透して、これを構成する個々の一次粒子の表面を覆うので、結果として比表面積値は、一次粒子の比表面積、ひいては図5の一次粒子径dの平均値を反映したものとなる。
【0049】
以下、上記のような成形用素地粉末の調製に好都合な方法の一例について説明する。図7は成形用素地粉末調製工程に使用される装置の一実施例である。該装置において、熱風流通路1は縦に配置された熱風ダクト4を含んで形成され、その熱風ダクト4の中間には、熱風の通過を許容し乾燥メディア2の通過は許容しない気体流通体、例えば網や穴空き板等の構成されたメディア保持部5が形成されている。そして、そのメディア保持部5上には、アルミナ、ジルコニア、及びそれらの混合セラミックのいずれかを主体とするセラミック球からなる乾燥メディア2が集積され、層状の乾燥メディア集積体3が形成されている。
【0050】
他方、原料は、窒化珪素粉末と焼結助剤粉末との配合物に、水系溶媒を加えてボールミルやアトライターにより湿式混合(あるいは湿式混合・粉砕)して得られる泥漿の形で準備される。この場合、その一次粒子の大きさは、BET比表面積値が5〜13m/gとなるように調整される。
【0051】
図8に示すように、乾燥メディア集積体3に対し、熱風が熱風ダクト4内においてメディア保持部5の下側から乾燥メディア2を躍動させつつ上側に抜けるように流通される。他方、図7に示すように、泥漿6は泥漿タンク20からポンプPにより汲み上げられ、該乾燥メディア集積体3に対して上方から落下供給される。これにより、図9に示すように、泥漿が熱風により乾燥されて乾燥メディア2の表面に粉末凝集層PLの形で付着する。
【0052】
そして、熱風の流通により、乾燥メディア2は躍動・落下を繰り返して相互に打撃を加え合い、さらにその打撃による擦れ合いにより、粉末凝集層PLは成形用素地粉末粒子9に粉砕される。この解砕された成形用素地粉末粒子9は、孤立した一次粒子形態のものも含んでいるが、多くは一次粒子が凝集した二次粒子となっている。該成形用素地粉末粒子9は、一定以下の粒径のものが熱風とともに下流側に流れていく(図7)。他方、ある程度以上に大きい解砕粒子は、熱風で飛ばされずに再び乾燥メディア集積体3に落下して、メディア間でさらに粉砕される。こうして、熱風とともに下流側に流された成形用素地粉末粒子9は、サイクロンSを経て回収部21に成形用素地粉末10として回収されている。
【0053】
図7において、乾燥メディア2の直径は、熱風ダクト4の流通断面積に応じて適宜設定する。該直径が不足すると、メディア上に形成される粉末凝集層への打撃力が不足し、所期の範囲の粒子径の成形用素地粉末が得られない場合がある。他方、直径が大きくなり過ぎると、熱風を流通しても乾燥メディア2の躍動が起こりにくくなるので同様に打撃力が不足し、所期の範囲の粒子径の成形用素地粉末が得られない場合がある。なお、乾燥メディア2は、なるべく大きさの揃ったものを使用することが、メディア間に適度な隙間を形成して、熱風流通時のメディアの運動を促進する上で望ましい。
【0054】
また、乾燥メディア集積体3における乾燥メディア2の充填深さt1は、熱風の流速に応じて、メディア2の流動が過不足なく生ずる範囲にて適宜設定される。充填深さt1が大きくなり過ぎると、乾燥メディア2の流動が困難となり、打撃力が不足して所期の範囲の粒子径の成形用素地粉末が得られない場合がある。また、充填深さt1が小さくなり過ぎると、乾燥メディア2が少なすぎて打撃頻度が低下し、処理能率低下につながる。
【0055】
次に、熱風の温度は、泥漿の乾燥が十分に進み、かつ粉末に熱変質等の不具合が生じない範囲にて適宜設定される。例えば泥漿の溶媒が水を主体とするものである場合、熱風温度が100℃未満になると、供給される泥漿の乾燥が十分進まず、得られる成形用素地粉末の水分含有量が高くなり過ぎて凝集を起こしやすくなり、所期の粒子径の粉末が得られなくなる場合がある。さらに、熱風の流速は、乾燥メディア3を回収部21へ飛ばさない範囲にて適宜設定する。流速が小さくなり過ぎると、乾燥メディア2の流動が困難となり、打撃力が不足して所期の範囲の粒子径の成形用素地粉末が得られない場合がある。また、流速が大きくなり過ぎると、乾燥メディア2が高く舞い上がり過ぎて却って衝突頻度が低下し、処理能率の低下につながる。
【0056】
こうして得られた成形用素地粉末10は、転動造粒成形法により球状に成形することができる。すなわち、図10に示すように、成形用素地粉末10を造粒容器132内に投入し、図11に示すように、その造粒容器132を一定の周速にて回転駆動する。なお、造粒容器132内の成形用素地粉末10には、例えばスプレー噴霧等により水分Wを供給する。図12に示すように、投入された成形用素地粉末は、回転する造粒容器内に形成される傾斜した粉末層10kの上を転がりながら球状に凝集して成形体Gとなる。転動造粒装置30の運転条件は、得られる成形体Gの相対密度が61%以上となるように調整される。具体的には、造粒容器32の回転速度は10〜200rpmにて調整され、水分供給量は、最終的に得られる成形体中の含水率が、例えば10〜20重量%となるように調整される。図12(e)に示すように、水分の供給により、粉末粒子間にその水分が浸透し、成形体の高密度化がさらに促進される。
【0057】
上記のような転動造粒法の採用により、例えば直径が10mm程度までの高密度の球状成型体を、極めて高能率に製造することができる。また、得られる成形体Gの表面積A’と重量W’との比A’/W’が350以上(例えば径が6.73mm以下である)の小径のものについては、成形体の密度を、通常のプレス法等では不可能な2.0〜2.5g/cm程度のレベルも十分に確保できる。
【0058】
転動造粒を行うに際しては、成形体成長を促すため、図10に示すように、成形核体50を造粒容器132内に投入しておくことが望ましい。こうすれば、図12(a)に示すように、成形核体50が成形用素地粉末層10k上を転がりながら、同図(b)に示すように、該成形核体50の周囲に成形用素地粉末10が球状に付着・凝集して球状成形体80となる(転動造粒工程)。この成形体80を焼結することにより、図13に示すように、ベアリング素球(球状窒化珪素質焼結体)90が得られる。
【0059】
成形核体50は、セラミック粉末を主体に構成すること、例えば成形用素地粉末10と類似の組成の材質にて構成すること(ただし、成形用素地粉末の主体をなすセラミック粉末(無機材料粉末)とは別材質のセラミック粉末を用いてもよい)が、最終的に得られる球状窒化珪素質焼結体90に対し核体が不純物源として作用しにくいので望ましい。しかしながら、核体成分の拡散が得られる球状窒化珪素質焼結体90の表層部にまで及ぶ懸念のない場合は、核体を、金属核体あるいはガラス核体等とすることも可能である。また、焼成時に熱分解あるいは蒸発により消滅する材質、例えばワックスや樹脂等の高分子材料にて核体を形成することも可能である。成形核体は、球状以外の形状としてもよいが、球状のものを使用することが、得られる成形体の球形度を高める上で望ましいことはいうまでもない。
【0060】
成形核体の製造方法は特に限定されないが、セラミック粉末を主体に構成する場合は、セラミック粉末ダイプレス等により圧縮成形して核体を得る方法がある。また、粉末を溶融した熱可塑性バインダーに分散させて溶融コンパウンドとし、これを噴霧凝固させて球状の核体を得る方法や、溶融コンパウンドを射出金型の球状のキャビティに射出して、球状の核体を成形する方法もある。一方、図10において成形用素地粉末10のみを造粒容器132内に投入して、成形体成長時よりも低速にて容器を回転させることにより粉末の凝集体を生成させ、十分な量及び大きさの凝集体が生じたら、その後容器132の回転速度を上げて、その凝集体を核体50として利用する形で成形体80の成長を行ってもよい。この場合は、上記のように別工程にて製造した核体を、敢えて成形用素地粉末10とともに容器132に内に投入する必要はなくなる。
【0061】
上記のようにして得られる成形核体50は、多少の外力が作用しても崩壊せずに安定して形状を保つことができる。その結果、図12(a)に示すように成形用素地粉末層10k上で転がった際にも、自重による反作用を確実に受けとめることができる。また、図12(c)に示すように、転がった時に巻き込んだ粉末粒子を表面にしっかりと押しつけることができるので、粉末が適度に圧縮されて密度の高い凝集層10aを成長できるものと考えられる。これに対し、図12(d)に示すように、核体を使用しない場合は、核体に相当する凝集体100は偶発的な要因でしか発生せず、しかも凝集度が低く軟弱なため、成形用素地粉末層10k上で転がったときに変形したり、最悪の場合は解砕されたりして、粉末の付着・凝集を起こさせるのに十分な力を発生させることができないことが多い。その結果、成形体の成長に時間がかかるうえ、仮に成長したとしてもクラックや粉末粒子のブリッジングによる空隙など、欠陥の多いものしか得られなくなってしまう場合がある。
【0062】
なお、核体50の寸法は最小限40μm程度(望ましくは80μm程度)確保されているのがよい。核体50があまりに小さすぎると、凝集層10aの成長が不完全となる場合がある。また、核体が大きすぎると、形成される凝集層の厚さが不足し、焼結体に欠陥等が生じやすくなる場合があるので、その寸法を例えば1mm以下に設定するのがよい。
【0063】
成形核体はセラミック粉末を、成形用素地粉末のかさ密度(例えば、JIS−Z2504(1979)に規定された見かけ密度)よりは高密度に凝集させた凝集体を使用することが、粉末粒子の押しつけ力を確実に受けとめて、凝集層10aの成長を促す上で望ましい。具体的には、成形用素地粉末のかさ密度の1.5倍以上に凝集させたものを使用するのがよい。この場合、成形用素地粉末層10k上での転がり衝撃により崩壊しない程度に凝集していれば十分である。
【0064】
なお、より安定した成形体の成長を行うためには、核体50の寸法は得るべき成形体の寸法に応じて次のように設定することが望ましい。すなわち、図12(b)に示すように、成形核体50の寸法を、これと同体積の球体の直径dcにて表す一方、(もちろん、核体50が球状である場合には、その直径がここでいう寸法そのものに相当する)、最終的に得られる球状成形体の直径をdgとして、dcが、dc/dgが1/100〜1/2を満足するように設定する。dc/dgが1/100未満では、核体が小さすぎて凝集層10aの成長が不完全となったり、欠陥の多いものしか得られなくなったりする懸念が生ずる。他方、1/2を超えると、例えば核体50の密度がそれほど高くない場合には、得られる焼結体の強度が不足する場合がある。なお、dc/dgは、望ましくは1/50〜1/5、より望ましくは1/20〜1/10の範囲にて調整するのがよい。また、成形核体の寸法dcは、成形用素地粉末の平均粒径を尺度として見た場合は、その平均粒径の20〜200倍に設定するのがよい。他方、該寸法dcの絶対値は、例えば50〜500μmに調整するのがよい。
【0065】
なお、転動造粒法以外の成形方法としては、図19(b)に示すように、成形ダイ101のダイ孔102に挿入される上下のプレスパンチ103,103の各先端面に半球状の凹部103a,103aをそれぞれ形成し、両パンチ103,103間で粉末を圧縮することにより、球形のセラミック成形体104を得ることができる。上記のようなダイプレス法においては、プレスパンチ103,103のパンチ面外周縁部を平坦化し、当該領域のプレス圧を増加させる方法を採用することが望ましいが、この方法では、プレスパンチ103,103の平坦化部分103b,103bに対応して、成形体104には必然的に鍔状の不要部分104が形成される。この不要部分104は、焼成前ないしは後に研磨等により除去する必要がある。
【0066】
また、金型プレスのほか、冷間静水圧プレス(CIP)法を採用することも可能である。具体的には、上記のようなダイプレス法等により球状に仮成形し、その仮成形体をゴム製のチューブ内に封入し、これに油や水等の液状成形媒体により静水圧を印加して略当方的な加圧を行う。なお、一回の冷間静水圧プレスにて成形体の密度が十分に向上しない場合には、該冷間静水圧プレスを繰返し行うサイクルCIP法を採用してもよい。
【0067】
さらに、金型成形法以外では、成形用素地粉末を熱可塑性バインダーに分散させてスラリーとし、このスラリーをノズルから自由落下させて表面張力により球状とし、空気中で冷却・固化させる方法(例えば、特開昭63−229137号公報に開示されている)、あるいは、成形用素地粉末とモノマー(あるいはプレポリマー)及び分散溶媒からなるスラリーを、該スラリー混和しない液体中に液滴として分散させ、その状態でモノマーあるいはプレポリマーを重合させることにより球状成形体を得る方法(例えば、特開平8−52712号公報に開示されている)等を例示することができる。
【0068】
上記のようにして得られた成形体の焼成は、例えば、一次焼成および二次焼成の2段階焼成によって行うことができる。一次焼成は、窒素を含む1〜10気圧以下の非酸化性雰囲気下にて1900℃以下で行い、一次焼成後の焼結体密度を78%以上、好ましくは90%以上となるように行うことが望ましい。一次焼成密度が78%未満では、二次焼成後にポア等の欠陥が多く残りやすくなる場合がある。また、二次焼成は、窒素を含む10〜1000気圧の非酸化性雰囲気にて、1600〜1950℃で行うことができる(熱間静水圧プレス法の概念も含む)。焼成の圧力が10気圧未満では、窒化珪素の分解が抑えられず、この圧力が1000気圧を超える圧力であっても何ら効果に変化はなく、また、コスト面でも不利である。また、焼成温度が1600℃未満では、ポア等の欠陥を消滅させることができず強度が低下やすくなる。ただし、上記の二次焼成に相当する焼成条件によって十分な高密度化を図ることができ、欠陥等も少なくできる場合には、一次焼成を省略して一段階焼成とすることも可能である。また、二次焼成を行う場合は、これを窒素を含む200気圧以下の常圧又はガス圧により行うことで、得られる焼結体(ベアリング素球)の表面硬さの過度の上昇を抑制することができる。これにより、研磨等の加工をよりスムーズに行うことができ、ひいては真球度や直径不同など、研磨後のベアリングボールの寸法精度を確保しやすくなる。
【0069】
上記の焼成の雰囲気を(二段階焼成の場合は、少なくとも二次焼成の雰囲気)を還元雰囲気とすることにより、得られる焼結体には、図2に示すような単結晶状Si粒子が分散形成される。例えば、図14に示す焼成炉100内に適当な炭素源を配置することにより、炉内の雰囲気を、炉内の焼成雰囲気を炭素成分(例えば一酸化炭素)を含有した還元雰囲気とすることができる。
【0070】
具体的には、図14に示すように、炉中に成形体80(被焼成物)とともに炭素質粉末104を挿入することが有効である。また、焼成空間101を形成する炉材(炉壁材)の一部や加熱源となるヒータ102、さらには焼成容器103を炭素(カーボン)質の材料で構成することも有効である。ただし、雰囲気形成に大きく寄与するのは総表面積の大きい炭素質粉末であり、炉材や加熱源の構成炭素からの寄与は、それに比べれば小さいことも多い。例えば、炭素質粉末104としてグラファイト粉末やカーボンブラック粉末を使用する場合、前記した焼成温度を採用する場合、炭素粉末として酸素分圧を例えば1×10−5atm以下とし、焼成空間101の単位体積当りの炭素質粉末104の挿入量を10〜50kgとすることで、単結晶状Si粒子の析出・形成に有利な還元雰囲気を形成することができる。そして、焼成時の保持時間は、焼結体密度が十分に高められ(相対密度:例えば99%以上)、かつ単結晶状Si粒子が十分析出するように、例えば1〜4時間の範囲にて設定される。なお、炭素質粉末の平均粒径は、例えば0.01〜100μmの範囲に適宜選択することができる。
【0071】
こうして得られた焼結体90、すなわちベアリング素球は表面が精密研磨され、図4のベアリングボール43とされる。
【0072】
なお、転動造粒法により得られた球状成形体80(図12)を焼成すれば、得られるベアリング素球は、図13に示すように、略中心を通る断面を研磨してこれを拡大観察したときに、その中心部に、成形核体に由来する核部91が、凝集層に由来する高密度で欠陥の少ない外層部92との間で識別可能に形成されることとなる。研磨された断面において、この核部91は、外側部との間に明るさ及び色調の少なくともいずれかにおいて目視識別可能なコントラストを呈することが多い。これは、外層部92を構成するセラミックの密度ρeが、核部91を構成するセラミックの密度ρcと異なるためであると推測される。例えば、成形核体50(図12)が凝集層10aよりも低密度の場合は、外層部92を構成するセラミックの密度ρeが、核部91を構成するセラミックの密度ρcよりも高密度となることが多く、外層部92は核部91よりも明るい色調で表れる。なお、外層部92の相対密度は、セラミックの強度や耐久性確保の観点から、95%以上、望ましくは99%以上となっているのがよい。いずれにせよ、研磨断面に上記のような組織の現われる焼結体構造とすることで、ベアリング等の性能向上の鍵を握る外層部92の欠陥形成割合が小さく(例えば、ポアが確認されない程度)、高密度で強度の高いベアリングボールが実現される。ただし、焼結体は、焼成が均一に進行した場合には、表層部から中心部半径方向において、ほぼ一様な密度を呈するものとなる場合もある。また、核部と外層部との間に色調や明度の差異が生じていても、密度の上ではほとんど差を生じていない、といったこともあり得る。さらに、焼結がより均一に進行した場合には、核部91あるいは外層部92における同心的なコントラスト(後述)を目視により確認することが困難となる場合もある。
【0073】
ここで、図12(b)に示すように、成形核体50の直径dcが球状成形体の直径をdgとして、dc/dgが1/100〜1/2(望ましくは1/50〜1/5、より望ましくは1/20〜1/5)の範囲にて調整される場合、図13において焼結体90の断面は、核部91の寸法をこれと同面積の円の直径Dcにて表す一方、セラミック焼結体の直径をDgとしたときに、Dc/Dgが1/100〜1/2(望ましくは1/50〜1/5、より望ましくは1/20〜1/10)を満足する組織を呈するようになる。Dc/Dgが1/50未満では、外層部92のもととなる凝集層10a(図12)に欠陥が生じやすくなり、強度不足等につながる場合がある。他方、1/5を超えると、例えば核体50の密度がそれほど高くない場合には、焼結体の強度が不足する場合がある。なお、Dc/Dgは、より望ましくは1/20〜1/10の範囲にて調整するのがよい。
【0074】
焼結体90において核部91と外層部92との間に目視識別可能なコントラストが生ずる状態として、例えば、明るさあるいは色調の差異が球の半径方向に形成され、周方向には形成されていない状態を例示できる。具体的な態様として、研磨された断面において外側部に、核部91を取り囲む層状パターンが同心的に形成される場合がある。これは、転動造粒法を採用した場合に見られる特徴的な組織であるが、形成原因は以下のように推測できる。すなわち、図12(a)に示すように成形体80は、成形用素地粉末層10k上を転がりながら凝集層10aを成長させてゆくが、転動造粒の継続中において、成形体80は常に成形用素地粉末層10k上に存在するのではない。すなわち、造粒容器の回転に伴う粉末の雪崩的な流動により、成形用素地粉末層10kの下側までくると成形用素地粉末層10k内に潜り込み、造粒容器の壁面に連れ上げられて成形用素地粉末層10kの上側へ運ばれ、再び成形用素地粉末層10k上で転がり落ちる。成形用素地粉末層10k内へ潜り込んだときは、周囲を粉末にて押さえ込まれ、転がり落下による衝撃が比較的加わりにくくなって、粉末粒子は比較的ゆるく付着する。これに対し、成形用素地粉末層10k上で転がる際には、転がり落下による衝撃が加わるほか、水分等の液状噴霧媒体Wの噴霧も受けやすく、粉末は堅く締まり易くなる。そして、成形用素地粉末層10k上で転がりと、成形用素地粉末層10k内への潜り込みとが周期的に繰り返されることにより粉末の付着形態も周期的に変化するので、付着する粒子による凝集層10aには半径方向の疏密が生じ、これが焼成後にも微妙な密度等の差となって表れる結果、層状パターンが形成されるものと考えられる(疏密の差異が非常に小さい場合は、実際に粗密が生じていることを、通常の密度測定の精度レベルでは確認できないこともあり得る)。例えば、上記の層状パターンは、同心円弧状部分と、それよりも高密度の残余部分とが半径方向に交互に積層することにより形成されたものになると考えられる。
【0075】
なお、図15は、窒化珪素粉末を用いてスプレードライ法により球状の成形核体50を作り、転動造粒法によりその周囲に凝集層を形成した球状成形体の、破断面のSEM観察画像である(倍率100倍)。この球状成形体の平均の相対密度は約71%である。中心部に、球状の成形核体(Coreと表示している部分)が存在していることが明らかに認められる。他方、図16(a)〜(d)は、その成形体を1400℃にて窒素雰囲気中にて仮焼したもの(平均の相対密度は約74%である)の断面を、種々の倍率にて光学顕微鏡観察したときの画像である(倍率は、画像中のスケールにて表示している。また、観察面は酸化鉄により着色を施している)。中心部に、成形核体50に対応する円形の領域(仮焼体の直径の1/10程度、約200μm)が明瞭に観察される。また、凝集層10aに対応する領域には、同心円的な層状パターンが観察される。そして、図17(a)〜(c)は、焼結体の研磨面の光学顕微鏡写真である(倍率は、画像中のスケールにて表示している)。図6に模式的に示した核部91(中央の最も暗く写っている部分)と、外層部92(層状のパターンが同心的あるいは年輪状に観察される)とが、色調コントラストにより明瞭に識別できることがわかる。なお、この焼結体の相対密度は99.9%以上である。
【0076】
次に、本発明の窒化珪素質焼結体は、ボールベアリングに限らず、他の摺動部品、例えば図18に示すようにセラミックタペット50等に適用することも可能である。図18では、本発明の窒化珪素質焼結体として構成されたセラミック板53を、金属製の本体部51の端面にろう材層52を介して接合した構造を有している。セラミック板53の接合面と反対側に摺動面53aが形成されている。セラミック板53は、図19(a)に示すように、成型用素地粉末をプレス成型することにより板状の成形体104を作り、これを焼成することにより製造できる。この場合、成型用素地粉末の粒度分布あるいはBET比表面積等は、転動造粒法に好適な前記の条件のものを満たしている必要は必ずしもないので、その調製方法も図7あるいは図8に示した装置を用いたものに限らず、スプレードライ法など公知のものを採用できる。
【0077】
また、本発明の窒化珪素質焼結体は、工具への適用も可能である。図20は、全体を本発明の窒化珪素質焼結体として構成した切削用スローアウェイチップの一例を示す。スローアウェイアウェイチップ301は、略正方形断面の偏平角柱形状を有し、図21(a)に示すように、被削材Wを軸線周りに回転させ、その外周面に対しスローアウェイアウェイチップ301を、図21(b)に示すように当接させ、主面301cの一方をすくい面(以下、すくい面を301c’で表す)、側面301eを逃げ面として用いることにより、被削材Wの外周切削を行うことができる。なお、図20に示すように、スローアウェイアウェイチップ301のコーナー部301aにアールが施されており、エッジ部301bには所定幅および所定角度の面取り部(チャンファ)が形成されている。
【0078】
上記のようなスローアウェイチップ301も、図19(a)と同様に成型用素地粉末をプレス成型することにより成形体104を作り、これを焼成することにより製造できる。
【0079】
【実験例】
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
まず、素材粉末として、窒化珪素粉末(α化率97%以上、O含有レベル:SiO換算にて1.2重量%、平均粒子径0.7μm)、各種希土類酸化物粉末(平均粒子径1.3μm)、Al粉末(平均粒子径1.2μm)、塩基性炭酸マグネシウム粉末(平均粒子径0.5μm)、ZrO粉末(平均粒子径1.1μm)、Si粉末(平均粒子径3μm)を用意した。これら粉末を表1および表2に示す各種組成にて配合し、適量の溶媒と有機結合剤とを加えてボールミルを用いて混合を行った後、スプレードライ法にて乾燥を行うことにより、造粒された成型用素地粉末を得た。なお、この実施例においてZrO粉末を添加しているのは、焼結性の向上と得られる焼結体の靭性向上を図るためである。
【0080】
そして、上記の成型用素地粉末をダイプレス法により仮成形した後、圧力2トン/cmにてCIPを行い、粉末成形体を得た。なお、粉末成形体の形状は、切削工具試験片(スローアウェイチップ形状)用、摺動試験片用、及び疲労寿命試験片用の3種類を用意した。得られた成形体は、焼成温度以下の所定温度にて脱バインダ処理を行い、次いで焼成を行った。焼成は以下のような2段階処理にて行っている。まず、1700℃で2時間、1atmの窒素雰囲気中で常圧一次焼成することにより、相対密度90〜94%の仮焼体を得た。次いでこの仮焼体を、図14に示す焼成炉にて各種条件にてガス圧二次焼成してベアリング素球を得た。その条件設定は表1及び表2に示す通りである。なお、焼成空間体積は約1.57mあり、ここに成形体を約60kg、炭素質粉末104としてのグラファイト粉末(63μm以下の粒子含有比率が50重量%以上、平均粒径:8μm)を約50kg挿入した。カーボンブラック粉末の挿入量は、焼成空間1m当りに換算すれば約32kg、成形体1kg当りに換算すれば0.83kgである。また、ガス中の酸素分圧及び窒素分圧は表中に示す各種値に調整している。この酸素分圧に応じて、炉内には、各種圧力のCO還元雰囲気が形成される。
【0081】
得られた焼結体の密度をアルキメデス法により測定した。他方、焼結体の強度は、その他の各種測定が終了した後、試験片を切り出して、JIS−R1601に規定された方法により3点曲げ強度を測定した。さらに、各試験片の表面を鏡面研磨し、ラマン分光分析装置(フランスISA社製、Labram、Arレーザー(波長:514.5nm))に付属の光学顕微鏡(倍率:1000倍)にて観察し、金属状光沢を示す粒子のうち、0.1μm以上のものをSi粒子として計数するとともに、視野100μm四方当りの存在個数を求めた(ただし、最終的な存在個数は、異なる5視野についての測定値の平均にて求めている)。結果を表1および表2に示している。
【0082】
また、表1の試料番号3についての観察画像の一例を図23に示す。画像中、明るく散点状に現われているのがSi粒子である。また、光沢粒子については、該粒子がスポット内に入るようにレーザービーム(スポット径2μm)を照射し、積算時間が5秒、最大ピークが5000〜10000カウントとなるまで露光して、ラマン分光スペクトルを測定した。その測定されたスペクトルプロファイルの一例を図24に示す。519〜521cm−1にSiの鋭い第一ピークが現われており、さらに、850〜1000cm−2にややブロードな第二ピークが現われている。そして、バックグラウンドレベルからの第一ピークの高さSに対する、同じく第二ピークの高さTの比T/Sは0.036であり、本明細書で定義した単結晶状Si粒子となっていることがわかる。また、他の試料についても、形成されているSi粒子は輝点状の光沢を呈し、また、ラマン分光スペクトル測定により単結晶状Si粒子であることが確認できた。
【0083】
次に、切削工具試験片を用いて、以下の条件にて切削試験を行った。まず、試験片形状は、図20に示す通りのものである(lSO規格でSNGN120408として規定されているもの)。すなわち、試験片301は、厚さ約4.76mm、一辺が約12.7mmの略正方形断面の偏平角柱形状を有し、そのコーナー部1aに施されたアールの大きさRは約0.8mmとした。また、エッジ部301bに施された面取り部(チャンファ)は、図20(b)に示すように、主面301c側の幅tが約0.15mm、主面301cに対する傾斜角度θが約25°となるように形成した。
【0084】
各工具の切削性能の評価条件は以下の通りである。すなわち、図21(a)に示す形状の棒状の被削材Wを軸線周りに回転させ、その外周面に対し図20に示す試験片301を、図20(b)に示すように当接させ、主面301cの一方をすくい面(以下、すくい面を301c’で表す)、側面301eを逃げ面として用いることにより、以下の条件にて被削材の外周面を乾式で連続切削した。
被削材:鋳鉄(FC230)、丸棒形態(外径φ240mm、長さ100mm)
切削速度V:500m/分
送り量 f:0.3mm/1回転
切り込みd:1.0mm
切削油 :なし
切削時間 :10分
試験片1と被削材とのより詳細な位置関係は、図22に示す通りである。なお同図において、1gは横逃げ面、1fは前逃げ面をそれぞれ示す。他の符号の意味は図面中に示している。切削終了後、工具の刃先の逃げ面摩耗量Vn(横逃げ面1g側の旋削方向の摩耗高さ:図21(c)参照)を測定した。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0085】
また、摺動試験片を用いて以下に説明するリングオンプレート試験により、摺動試験を行った。すなわち、摺動試験片は、主面が縦横30mmの正方形で、厚さ5mmの角板状であり、各面を算術平均粗さRaが0.01μmとなるように主面を鏡面研磨し、その主面上に炭素鋼製(材質:S45C)のリングを載せ、水滴を垂らしながらリングを試験片に向けて所定荷重で押しつけ、試験片側を回転させることにより摺動を行った。リングの大きさは外径20mm、内径10mm、高さ33mmであり、摺動条件は、回転数300rpm、荷重150kgf、摺動時間2hr、水滴供給量10ml/分とした。なお、水には適量の水溶性研削油を含ませた。この試験においては、試験初期には不安定な摺動挙動を示すため、回転トルクは一定とならないが、試験を継続するにつれトルクが安定化する。この安定化するまでの時間(安定化時間)を、摺動性能を測るための一指標としてとして計測した。また、試験後に、試験片に付着した鉄成分を除去(付着の強固なものは希塩酸洗浄する)して乾燥後し、試験前にの状態からの重量片かを測定することにより、摩耗体積を求めた。
【0086】
また、疲労寿命試験を、疲労寿命試験片を用いることにより、以下に説明する転がり疲労寿命試験により行った。試験片は、主面が縦横50mmの正方形で、厚さ10mmの角板状であり、算術平均粗さRa(JIS−B0601による:以下、同じ)が0.01μmとなるように主面を鏡面研磨した。そして、6球式スラスト軸受け試験機を用い、振動により疲労寿命を検出した。該試験は、軸受け荷重180kgf、回転数3000rpmとして、60℃の潤滑油を供給しながら2000時間まで行った。以上の結果を表1及び表2に示す。
【0087】
【表1】
Figure 0004541477
【0088】
【表2】
Figure 0004541477
【0089】
表1に示す結果より、観察されるSi粒子の大きさが10μm以下である場合に、摺動試験、切削摩耗試験のいずれにおいても良好な結果が得られていることがわかる。また、視野100μm四方当りのSi粒子の平均存在個数が50個未満となることで、疲労寿命においても良好な結果が得られていることがわかる。さらに、表2には 焼結助剤成分の合計を5重量%未満、特に、希土類成分の焼結体中の含有量を酸化物換算にて4重量%未満とした組成を有するものについて、同様の試験を行った結果を示している。摺動試験及び切削摩耗試験の結果がさらに良好であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】粒子寸法の定義を示す説明図。
【図2】焼結体組織中のSi粒子の分布形態をいくつか例示して示す模式図。
【図3】焼結体の強度向上に及ぼすSi粒子の作用を推測して説明する模式図。
【図4】ベアリングボールを本発明の窒化珪素質焼結体として構成したボールベアリングの一例を示す模式図。
【図5】一次粒子径と二次粒子径との概念を説明する図。
【図6】相対累積度数の概念を示す説明図。
【図7】成形用素地粉末の製造装置の一例を概念的に示す縦断面図。
【図8】図7の装置の作用説明図。
【図9】図9に続く作用説明図。
【図10】転動造粒の工程説明図。
【図11】図10に続く工程説明図。
【図12】転動造粒成形工程の進行過程を説明する図。
【図13】転動造粒法により製造されたベアリング素球の断面構造の一例を示す模式図。
【図14】焼成炉の一例を示す模式図。
【図15】転動造粒法により製造された球状成形体の一例の破断面を示すSEM観察画像。
【図16】図15の球状成形体の仮焼体の断面を各種倍率にて示す光学顕微鏡観察画像。
【図17】転動造粒法により製造された、いくつかの窒化珪素質セラミックボールの断面を示す光学顕微鏡観察画像。
【図18】本発明の窒化珪素質焼結体を用いたセラミックタペットの一例を示す正面図。
【図19】ダイプレスによる粉末成型法をいくつか例示して説明する断面図。
【図20】本発明の窒化珪素質焼結体として構成した工具の平面図、側面図及びそのエッジ部の側面拡大図。
【図21】切削試験の概要を示す説明図。
【図22】切削試験における試験片と被削材との位置関係を示す説明図。
【図23】Si粒子が分散形成された窒化珪素しつ焼結体の組織の一例を示す光学顕微鏡観察画像。
【図24】単結晶状Si粒子に対する顕微鏡ラマン分光分析のスペクトルプロファイルの一例を示す図。
【符号の説明】
1 セラミック工具(窒化珪素質焼結体)
40 ボールベアリング(セラミック摺動部材)
43 ベアリングボール(窒化珪素質焼結体)
50 タペット(セラミック摺動部材)

Claims (9)

  1. 窒化珪素を主成分とし、焼結助剤成分を含有する窒化珪素質焼結体であって、
    前記焼結助剤成分はアルミニウム及び希土類成分を含有し、その焼結助剤成分の含有量が酸化物換算にて2〜5重量%とされるとともに、アルミニウムの含有量が酸化物換算にて0.5〜3重量%、希土類成分の含有量が酸化物換算にて1〜4重量%とされており、
    焼結体の粒界において、その全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの、還元雰囲気中にて焼成することにより、単結晶状のSi粒子を分散させたことを特徴とする窒化珪素質焼結体。
  2. 窒化珪素を主成分とし、焼結助剤成分を含有する窒化珪素質焼結体であって、
    前記焼結助剤成分はアルミニウム及び希土類成分を含有し、その焼結助剤成分の含有量が酸化物換算にて2〜5重量%とされるとともに、アルミニウムの含有量が酸化物換算にて0.5〜3重量%、希土類成分の含有量が酸化物換算にて1〜4重量%とされており、
    焼結体の粒界において、その全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの、還元雰囲気中にて焼成することにより、金属状の光沢を呈するSi粒子を分散させたことを特徴とする窒化珪素質焼結体。
  3. 前記Si粒子の分散している領域において、100μm四方の視野当りの寸法0.1μm以上のSi粒子の平均存在個数が1〜50個である請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
  4. 前記断面組織にて観察される寸法1μm以上の気孔の累積面積率が3%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体にて構成されたことを特徴とするセラミック工具。
  6. 請求項1ないし4のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体にて構成されたことを特徴とするセラミック摺動部材。
  7. 窒化珪素を主成分とし、焼結助剤成分を含有する窒化珪素質焼結体の製造方法であって、
    前記焼結助剤成分がアルミニウム及び希土類成分を含有するものとし、その焼結助剤成分の含有量を酸化物換算にて2〜5重量%とするとともに、アルミニウムの含有量を酸化物換算にて0.5〜3重量%、希土類成分の含有量を酸化物換算にて1〜4重量%として、
    窒化珪素質粉末に焼結助剤粉末を配合して成形用素地粉末となし、これを所期の形状に成形した後、還元雰囲気中にて焼成することにより、窒化珪素を主成分とし、焼結助剤成分を含有するとともに、焼結体の粒界において、その全体又は一部に、断面組織にて観察される平均寸法にて0.1〜10μmの、単結晶状のSi粒子を分散析出させた窒化珪素質焼結体を得ることを特徴とする窒化珪素質焼結体の製造方法。
  8. 前記成形用素地粉末として、不純物以外のSi粒子を含有しないものが使用される請求項7記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
  9. 前記焼成は、酸素分圧が1×10−5atm以下のものが使用され、かつ成形体とともに、焼成空間1m当りに炭素粉末を10〜50kg挿入して行われる請求項7又は8に記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
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