JP4536907B2 - 眼用レンズの設計方法及びそれを用いて得られた眼用レンズ - Google Patents

眼用レンズの設計方法及びそれを用いて得られた眼用レンズ Download PDF

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、眼用レンズの新規な設計方法及びそれを用いて得られた眼用レンズに係り、特に、眼用レンズが、それの適用された角膜上又は眼内において移動して、眼の光軸に対して眼用レンズの光軸がずれた場合においても、見え方の大きな変化を回避して、その安定性を有利に確保した眼用レンズのレンズ規格を求める方法、及びそのようにして求められたレンズ規格に基づいて、目的とする眼用レンズを製造する方法、更には、そのようにして製造された眼用レンズに関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズは、レンズ単体において設計されてきており、レンズの光軸上での結像特性が最適化されてなるレンズとして製造され、装用されてきているのであり、また、そのような最適化のために、各種の手法が提案されている。例えば、特許第2859092号明細書においては、眼用レンズのデザイン方法として、形状が既に設定された一方のレンズ面における各基準点に入射される光線の通過経路が考慮され、かかる光線の通過経路上に位置する他方のレンズ面上の点における傾斜角度が、該光線に対して目的とする屈折力を及ぼし得るように決定されるようにしたデザイン手法が明らかにされている。また、特許第2913191号明細書においては、レンズの球面収差を少なくするために、光線追跡法を採用してレンズを設計する方法が明らかにされており、そこでは、設計するレンズの屈折面の形状を設定するに際し、光軸からの任意の高さを通過する光線が、レンズを通過した後に、予め設定された所望の最終通過点を通過するように、光線の通過する点での曲面の傾きを決定し、任意の光線の高さにおける曲面の傾きから、曲面全体の形状を設計する方法が、提案されている。
【0003】
しかしながら、このような従来の眼用レンズの設計方法は、何れも、レンズの光軸上での結像特性を最適化するものであるところから、眼に適用されたレンズが所望とする位置(眼の光軸)からずれた場合において、それらレンズと眼からなる光学系の光学特性が悪くなる等といった問題を内在するものであった。例えば、コンタクトレンズにあっては、殆どの場合、眼の瞳孔中心(光軸)とレンズの光学中心とは一致しておらず、角膜上での動きや安定位置も、レンズ適用者によって異なっているのである。そのため、コンタクトレンズの安定位置による見え方の鮮明さや、動きによる見え方の安定性が問題となっているのである。
【0004】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、眼に適用(装用乃至は挿入)された眼用レンズの光軸が、眼の光軸の位置とずれた(移動した)場合においても、それら二つの光軸が同軸上の場合におけるレンズ光学特性と同等乃至はそれに近いレンズ光学特性を備えた眼用レンズを設計するための方法、及びそのような設計方法に従って、目的とする眼用レンズを製造する方法、更には、そのような設計方法に従って得られた有用な眼用レンズを提供することにある。
【0005】
【解決手段】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題の解決のために、(A1 )レンズ適用者が必要とするレンズ度数を与えるように、仮レンズのレンズ規格を設定する工程と、(A2 )該仮レンズを所定の模型眼に対して適用し、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化を行なう工程と、(A3 )前記模型眼の光軸に対して前記仮レンズの光軸を所定のズレ量において移動せしめ、その状態における、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性を算出する工程と、(A4 )かかる算出された光学特性に基づき、前記仮レンズの光軸をずらせた状態で、該仮レンズのレンズ形状を順次変化せしめ、そしてそれぞれの変化状態における光学特性を算出する操作を繰り返して、光学特性が最良となる仮レンズ形状を求める工程と、(A5 )該最良の仮レンズ形状から、目的とする眼用レンズのレンズ規格を決定する工程と、を含むことを特徴とする眼用レンズの設計方法を、その要旨とするものである。
【0006】
すなわち、このような本発明に従う眼用レンズの設計方法にあっては、模型眼に対して仮レンズを適用した状態において、その光学系の光学特性を算出すると共に、それら模型眼と眼用レンズとの光軸を予測される実際のズレ量までずらせた状態において、その光学系の光学特性を算出し、更に仮レンズのレンズ形状を種々変化せしめて、それぞれの状態における光学特性を算出し、その光学特性が最良(最高)となる仮レンズ形状を求めるようにしたものであるところから、そのような最良の仮レンズ形状から求められたレンズ規格にて形成される眼用レンズにあっては、実際に眼に適用した場合において、眼の光軸との間にずれが生じても、良好な光学特性が確保され得ることとなるのであり、以て見え方の鮮明さや見え方の安定性が効果的に向上せしめられ得ることとなるのである。
【0007】
また、本発明にあっては、前記した課題の解決のために、(B1 )レンズ適用者が必要とするレンズ度数を与えるように、仮レンズのレンズ規格を設定する工程と、(B2 )該仮レンズを所定の模型眼に対して適用し、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化を行なう工程と、(B3 )前記仮レンズの光軸と前記模型眼の光軸とを一致せしめた状態において、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性を、基準特性として算出する工程と、(B4 )前記模型眼の光軸に対して、前記仮レンズの光軸を所定のズレ量において移動せしめ、その状態における前記光学系の光学特性を、変動特性として算出する工程と、(B5 )前記仮レンズの形状を順次変化させて、それぞれの変化状態における前記基準特性と前記変動特性の算出を行ない、それら両特性の差が最小となる仮レンズ形状を求める工程と、(B6 )前記基準特性と前記変動特性との差が最小となる仮レンズ形状から、目的とする眼用レンズの規格を決定する工程と、を含むことを特徴とする眼用レンズの設計方法をも、その要旨とするものである。
【0008】
従って、このようなB1 工程〜B6 工程よりなる、本発明に従う眼用レンズの設計方法にあっては、仮レンズを模型眼に対して適用せしめて、かかる仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化を行なった状態において、その光学系の光学特性を算出し、それを基準特性として、光軸のずれた仮レンズが適用された際の光学特性を変動特性として算出して、それら基準特性と変動特性との差が最小となるように、仮レンズ形状を種々変化せしめて、最も光学特性の良い仮レンズ形状を求めるようにしたものであるところから、眼の光軸に対するズレが惹起された場合にあっても、より一層優れた光学特性を与え得る眼用レンズを設計することが出来るのである。
【0009】
なお、上記した二つの本発明に従う眼用レンズの設計方法の有利な態様の一つによれば、前記仮レンズの光軸と前記模型眼の光軸とを一致せしめた状態において、前記光学系の正視化が行なわれ、また有利な態様の他の一つによれば、前記光学系の正視化が、前記模型眼の眼軸長、角膜前面の曲率半径、角膜後面の曲率半径、水晶体前面の曲率半径、水晶体後面の曲率半径、瞳孔径、補正レンズの度数のうちの何れか一つ又は二つ以上を組み合わせて、変化させることにより、実施されることとなる。
【0010】
また、かかる二つの本発明に従う眼用レンズの設計方法の好ましい態様の一つによれば、前記光学特性は、波面収差、PSF、MTF、または解像力において算出され、これにより、数値的な解析が容易に行なわれ得るのである。
【0011】
さらに、それら本発明方法の望ましい態様の他の一つによれば、前記模型眼として、レンズ適用者の模型眼が、有利に用いられることとなる。
【0012】
ところで、かかる本発明において、眼用レンズとしてコンタクトレンズが対象とされる場合にあっては、模型眼の光軸と仮レンズの光軸とのズレ量は、30°以内において設定されることとなる。そして、そのようなズレ量の設定値の範囲内において、かかるズレ量が10°以内の範囲内の複数点に分割され、それら複数点において、光学特性がそれぞれ算出されるのである。このように、ズレ量の範囲内の複数点において光学特性が算出されるようにすることによって、そのズレ量の全領域に亘って、最も望ましい光学特性を有利に選定することが可能となるのである。
【0013】
また、本発明において対象とする眼用レンズが、眼内レンズである場合にあっては、模型眼の光軸と前記仮レンズの光軸とのズレ量は、一般に、4mm以内となるように設定されることとなる。そして、そのようなズレ量の設定値の範囲内において、2mm以内の範囲内の複数点に分割され、それら複数点において、光学特性がそれぞれ算出されるようにすることによって、ズレ量の全領域に亘って、最も望ましい光学特性を有利に選定することが出来ることとなる。
【0014】
なお、本発明は、また、上述の如き設計方法において決定されたレンズ規格に基づいて、目的とする眼用レンズを製造することを特徴とする眼用レンズの製造方法をも、その要旨とするものであり、更にそのような設計方法に従って製造された眼用レンズをも、その対象とするものである。かかる製造手法によって、優れた光学特性を与える眼用レンズが有利に製造され得ることとなったのであり、また、それによって製造された眼用レンズは、眼の光軸からずれた場合においても、見え方の鮮明さや安定性の向上したものとなっているのである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、図面を参照しつつ、本発明の構成について、詳細に説明することとする。
【0016】
先ず、図1には、本発明に従うA1 工程〜A5 工程を含む第一の態様たる眼用レンズの設計方法について、その設計フロー図が示されており、そこにおいて、ステップ:S1では、レンズ適用者が必要とする度数を与えるように、仮レンズのレンズ規格が設定されることとなる。なお、ここで、レンズ適用者が必要とするレンズ度数は、眼用レンズの適用される対象者の眼に対する、各種の装置を用いた検査により、従来と同様にして求められるものである。そして、そのようなレンズ度数を与えるレンズ形状が、従来からの眼用レンズ形状に係る当業者の知識に基づいて、仮に選定され、仮レンズとして、そのレンズ規格、具体的にはレンズの後面カーブ(BC)、前面カーブ(FC)、直径(DIA)、中心厚み(CT)、非球面係数等が、レンズ材料の屈折率を考慮して設定されることとなるのである。
【0017】
次いで、ステップ:S2において、かかる仮レンズと所定の模型眼の光学系とが、同一の光軸上に配置される。即ち、該仮レンズを所定の模型眼に対して、それらの光軸が一致するように適用せしめるものであって、具体的には、後述する光学特性の演算のために、そのような仮レンズの適用状態が数学的に表現されるのである。
【0018】
なお、ここで用いられる模型眼としては、公知の各種の一般的な模型眼が対象とされ得るものであって、例えば、グルストランド(Gullstrand)模型眼にあっては、その調節休止時(休調状態)における標準パラメータが採用され、以下の如き数値設定が為されることとなる。
1)曲率半径(mm)の設定
・角膜 前面/後面:7.7/6.8
・水晶体 前面/後面:10.0/−6.0
・等質核 前面/後面:7.911/−5.76
2)屈折面位置(mm)の設定
・角膜 前面/後面:0.0/0.5
・水晶体 前面:3.6
・等質核 前面/後面:4.146/6.565
・水晶体 後面:7.2
・黄斑部 :24.0
3)屈折率の設定
・角膜 :1.376
・房水 :1.336
・水晶体 :1.386
・等質核 :1.406
・同格水晶体:1.4085
【0019】
尤も、本発明にあっては、上記のグルストランド模型眼の如き一般的な模型眼が用いられる他、上記の1)〜3)の中の任意のパラメータを、レンズ適用者から求められた数値に変更して、一般的な模型眼をレンズ適用者眼(装用者眼)に近似させてなるものを、レンズ適用者の模型眼として用いることも出来る。具体的には、角膜の前面、後面や、水晶体の前面、後面の曲率半径を測定して、その求められた数値を用いたり、また超音波を利用して、上記2)の各屈折面位置を測定して得られた数値を用いる等して、模型眼をレンズ装用者眼により近似させるようにすれば、本発明に従うレンズ設計方法の精度をより一層高めることが可能となる。
【0020】
そして、このような、仮レンズを所定の模型眼に対してそれらの光軸が一致するように適用せしめた状態において、かかる模型眼の眼軸長を変化させて、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化、換言すれば模型眼の網膜上への結像化(網膜上への像面の配置)が行なわれるのである(ステップ:S3)。
【0021】
その後、かかる模型眼に適用された仮レンズは、その光軸が模型眼の光軸に対して所定のズレ量となるように、移動せしめられることとなる(ステップ:S4)。なお、模型眼の光軸に対する仮レンズの光軸のズレ量としては、一般に、レンズ適用眼における眼用レンズの安定位置によるズレ量の平均値や動きによるズレ量の最大値から選定され、例えば、眼用レンズがコンタクトレンズである場合においては、そのようなズレ量は、それら光軸の交差角度において30°以内であるように選定され、また眼用レンズが眼内レンズの場合にあっては、そのようなズレ量が、模型眼の角膜上において4mm以内であるように選定される。
【0022】
そして、そのように仮レンズの光軸が模型眼の光軸に対してズレた状態において(ステップ:S4)、仮レンズの形状を順次変化させ、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性が最良乃至は最高となる仮レンズの形状を求める(ステップ:S5)の工程が実行されるのである。
【0023】
具体的には、模型眼の光軸に対して仮レンズの光軸を所定のズレ量においてずらせた状態において、仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性を算出すると共に、そのように算出された光学特性に基づき、かかる仮レンズの光軸をずらせた状態において、該仮レンズのレンズ形状を変化せしめ、そしてその状態における光学特性を再び算出し、更に、そのようなレンズ形状の変化−光学特性の算出を繰り返して、複数の光学特性値を求め、そしてその中より、最良の光学特性を選定して、該最良の光学特性を与える仮レンズ形状が求められるのである。
【0024】
なお、かかるステップ:S5における仮レンズのレンズ形状の変化は、レンズ規格の何れか一つ或いは二つ以上を組み合わせて変化させることによって、実施され得るが、眼用レンズがコンタクトレンズの場合にあっては、一般に、仮レンズの後面カーブ(BC)は、レンズ装用者の角膜曲率半径に対応して、決定されることとなるところから、そのようなBCを変化させることは、望ましくなく、それ故に、仮レンズの前面カーブ(FC)や中心厚み(CT)、非球面係数を変化せしめることによって、レンズ形状が変化せしめられることとなる。
【0025】
また、かくの如きステップ:S5において算出される仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性としては、一般に、相互に関係を有する波面収差、PSF(Point Spread Function )及びMTF(Modulation Transfer Function)のうちの何れかの数値として、また解像力の数値として、算出されることとなる。ここで、それら波面収差、PSF、MTF、及び解像力は、何れも、よく知られた光学系の特性を示す関数であって、具体的には、波面収差は、光学系を通過した波面の理想波面からのズレとして認識され、光線追跡により算出される波面と理想像点を中心とする参照球面の差によって、波面収差が求められることとなる。また、PSFは、物体空間にある点物体の光学系による像の像面における強度分布を表わす関数として認識され、以下の数1にて示される式を用いて算出される点像強度分布:I(x,y)にて示されるものである。
【数1】
Figure 0004536907
【0026】
さらに、MTFは、正弦波パターンの像のコントラストの変化を空間周波数の関数として表わしたものとして認識され、上記のPSF:点像強度分布I(x,y)のフーリエ変換で与えられるものである。
【0027】
そして、また、解像力は、レンズの性能を表わす量の一つとして認識され、図票の像のうちで見分けられる黒白一対の最小幅(mm)の逆数にて示されるものである。
【0028】
なお、これらの光学特性の算出は、当業者には周知の事項であり、商業的に入手可能なソフトウェアパッケージを用いての算出が、一般的に採用されることとなる。例えば、シンクレア・オプティクス社(Sinclair Optics, Inc. )のオスロ・シックス(OSLO SIX)や、フォーカス・ソフトウェア社(Focus Software, Inc.)のゼマックス(ZEMAX )等のソフトウェアパッケージを用いて、計算することが可能である。
【0029】
そして、かかる光学特性の算出が、模型眼の光軸に対して仮レンズの光軸をずらせた状態下において、仮レンズのレンズ形状を種々変化せしめて、順次実施され、これによって得られた複数の光学特性の中から、最良乃至は最高のものが決定されて、それに対応する仮レンズ形状が求められることとなるのである。
【0030】
更にその後、そのような最良の光学特性を与える仮レンズ形状から、目的とする眼用レンズのレンズ規格(BC、FC、DIA、CT、非球面係数)が、決定されることとなる(ステップ:S6)。
【0031】
このように、図1に示される設計フローに従って、目的とする眼用レンズのレンズ規格を決定する手法にあっては、眼球モデル(模型眼)を用いて、それに対する眼用レンズの安定位置を想定し、それによって得られる瞳孔中心(模型眼の光軸)からの眼用レンズの光軸のズレを設定して、そのズレ量において、仮レンズ形状のレンズ規格を変数にして、最適化を行なうようにしたものであるところから、眼用レンズのレンズ規格を実際の適用状態下におけるレンズの移動に対しても、良好な光学特性を与えるものとすることが出来、以て、そのようなレンズ規格に従って得られる眼用レンズの見え方の鮮明さや安定性の向上を効果的に図り得ることとなったのである。
【0032】
ところで、本発明においては、よりよいレンズ設計のために、前記B1工程〜B6工程に従う第二の態様として、図2に示される如きフロー図に従うレンズ設計手順も、有利に採用されることとなる。
【0033】
すなわち、かかる図2に示される設計フロー図において、ステップ:S14〜ステップ:S18の工程が、図1の設計フロー図とは異なっており、図2におけるステップ:S11〜ステップ:S13及びステップ:S19が、それぞれ、図1におけるステップ:S1〜ステップ:S3及びステップ:S6に対応して、同一の工程とされている。
【0034】
この図2に示される設計フロー図によれば、先ず、図1におけるステップ:S1〜S3と同様なステップ:S11〜S13の工程に従って、所定の模型眼とそれに適用された仮レンズとの光軸を一致せしめる一方、そのような仮レンズの適用された模型眼の正視化を行なった後、その状態において、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性(0)が、基準特性として算出される(ステップ:S14)。
【0035】
次いで、ステップ:S15においては、仮レンズの光軸を、コンタクトレンズや眼内レンズ等の実際の眼用レンズにおいて惹起されるズレを、所定のズレ量として、そのようなズレ量に至るまで移動せしめ、次いで、その状態において仮レンズと模型眼からなる光学系の光学特性(1)が、変動特性として算出されるステップ:S16が、実行される。
【0036】
そして、ステップ:S18において、上記で求められる二つの光学特性(0)と光学特性(1)の差が最小となるか、どうかを判断するために、仮レンズの形状を順次変化せしめて(ステップ:S17)、前記ステップ:S14〜S16の工程を繰り返し、仮レンズの変化形状に対応した光学特性(0)と光学特性(1)とが算出され、蓄積されるのである。
【0037】
このようにして、仮レンズの各種の形状変化状態における光学特性(0)と光学特性(1)とが算出された後、それら多数の光学特性(0)及び(1)の組の中から、それら光学特性(0)と光学特性(1)の差が最小となる組を与える仮レンズ形状が求められるのである。
【0038】
更にその後、かくして得られた光学特性(0)と光学特性(1)の差が最小となる仮レンズ形状から、目的とする眼用レンズのレンズ規格が決定されるのである(ステップ:S19)。
【0039】
従って、このような図2に示される設計フローによれば、仮レンズの変化した形状ごとに、仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化状態における光学特性である基準特性、換言すれば前記光学特性(0)と、所望のズレ量まで光軸がずらされた仮レンズの配設状態における光学特性が、変動特性、換言すれば前記光学特性(1)として算出され、そしてそれら二つの光学特性(0)及び(1)の差が最小となる状態が求められ、更にそのような最小差を与える仮レンズの変化形状から、目的とする眼用レンズのレンズ規格が決定されることとなるところから、レンズ特性のより一層向上せしめられた眼用レンズのレンズ設計が、より一層正確に行なわれ得ることとなり、以て眼に装用乃至は挿入することによって適用された眼用レンズの光軸が、眼の光軸の位置に対してずれた(移動した)場合においても、それら二つの光軸が同軸上の場合のレンズ特性と同程度或いはそれに近いレンズ特性を備えたものとすることが可能となったのである。
【0040】
また、模型眼の光軸に対する仮レンズの光軸のズレ量を大きく設定した場合において、かかるズレ量を比較的小さな割合において複数点に分割し、それら複数点において、仮レンズと模型眼からなる光学系の光学特性を算出するようにすることも可能であり、それによって、設定されたズレ量の全範囲に亘って、光軸がずれた場合において、より有効なレンズ特性を得ることが出来るのであり、その一例が、図3に、設計フロー図として示されている。
【0041】
すなわち、そのような図3において、ステップ:S21〜S23は、それぞれ、図1におけるステップ:S1〜S3と同様な工程であって、所定の仮レンズを模型眼に対して同一の光軸上に位置するように適用した状態において、模型眼の正視化を行なうものであり、そして、ステップ:S24においては、そのような状態の光学系の光学特性(0)が算出されるのである。
【0042】
次いで、ステップ:S25においては、模型眼の光軸に対する仮レンズの光軸のズレ量が設定される。なお、このズレ量は、眼用レンズの種類に応じて適宜に決定され、例えばコンタクトレンズの場合にあっては、それら二つの光軸の為す角度が30°以内であるようなズレ量において設定され、また眼内レンズの場合にあっては、模型眼の角膜上において4mm以内のズレ量として設定されることとなる。
【0043】
そして、かかるステップ:S25において設定されたズレ量の分割量が、ステップS26において設定されるのである。なお、このズレ量の分割量も、眼用レンズの種類に応じて適宜に設定されることとなるが、一般に、コンタクトレンズの場合にあっては、模型眼の光軸と仮レンズの光軸との交差角度が10°以内の範囲内の値において、複数点に分割され、それら複数点における光学特性が算出されるのである。また、眼用レンズとして眼内レンズが対象とされる場合にあっては、一般に、模型眼上における仮レンズの移動距離(ずれた距離)が2mm以内の範囲内の複数点において分割され、それら複数点における光学特性が算出されることとなるのである。
【0044】
次いで、かかる決定された分割量に基づき、その一の分割量だけ、仮レンズの光軸を模型眼の光軸に対して移動させて、ずらせた状態において、それら仮レンズと模型眼にて構成される光学系の光学特性(n)が算出されのである(ステップ:S27)。
【0045】
さらに、このようにして、光学特性(n)が算出された後、仮レンズの光軸がS25において設定されたズレ量に到達したか、どうかが、ステップ:S28において判断され、そのような設定ズレ量に到達していない場合(NO)にあっては、ステップ:S27に戻り、再度、仮レンズの光軸を更に一の分割量だけ移動させて、ずらせ、その状態において、光学特性(n)が算出され、そしてこれが繰り返されるのである。要するに、仮レンズの光軸が設定されたズレ量に到達するまで、ステップ:S27とステップ:S28とは、ループを構成して、仮レンズの光軸が一の分割量だけ移動せしめられる毎に、光学特性(n)の算出が行なわれるのである。
【0046】
そして、仮レンズの光軸が、ステップ:S25において設定されたズレ量に到達したとき(YES)には、ステップ:S30において、上記で求められる光学特性(0)〜光学特性(n)の偏差が最小となるか、どうかを判断するために、仮レンズの形状を順次変化せしめて(ステップ:S29)、前記ステップ:S24〜S28の工程を繰り返し、仮レンズの変化形状に対応した光学特性(0)〜光学特性(n)が算出され、蓄積されるのである。
【0047】
このようにして、仮レンズの各種の形状変化状態における光学特性(0)〜光学特性(n)が算出された後、それら多数の光学特性(0)〜光学特性(n)の組の中から、それら光学特性(0)〜光学特性(n)の偏差が最小となる組を与える仮レンズ形状が求められ、更に、そのようにして求められた光学特性(0)〜光学特性(n)の偏差が最小となる仮レンズ形状から、ステップ:S31においては、目的とする眼用レンズのレンズ規格が、決定されることとなるのである。
【0048】
このような図3の如き設計フローによれば、仮レンズの変化した形状ごとに基準特性たる光学特性(0)と変動特性たる光学特性(1)〜光学特性(n)を算出し、それらの偏差が最小となるように、前記設定されたズレ量の範囲内における複数点において検討することとなるところから、そのような偏差の最小値を求めることが容易であり、またズレ量の全範囲に亘っての光学特性を知って、その最も良好な光学特性を与える仮レンズ形状を特定し得るところから、目的とする眼用レンズのレンズ規格が有利に決定されることとなるのである。
【0049】
また、この図1〜図3に示される如き設計フローに従って得られたレンズ規格を用いて、目的とする眼用レンズ、例えばコンタクトレンズにあっては、所定の屈折率のレンズ材料を用い、それに対して切削や研磨等の加工を施すことにより、またモールド成形操作等により後面カーブ(BC)や前面カーブ(FC)を形成し、更に直径(DIA)や中心厚み(CT)、非球面係数を与えることにより、優れたレンズ特性を有する、目的とする眼用レンズが得られることとなったのである。
【0050】
以上、本発明の代表的な設計フローに基づいて、本発明を具体的に説明してきたが、それは文字通りの例示であって、本発明は、そのような例示の具体例にのみ限定して解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0051】
例えば、本発明は、コンタクトレンズの設計において有利に採用され得るものであるが、先にも触れたように、眼内レンズ等の他の各種眼用レンズの設計においても、同様に採用され得るものである。加えて、本発明は、コンタクトレンズの装用に関して、涙液レンズの有無に拘わらず、適用される設計である。
【0052】
また、本発明は、眼用レンズの屈折度の符合の如何に拘わらず適用され得るものであり、その他、単焦点レンズ、多焦点レンズ等、各種の屈折力を有する眼用レンズの設計にも、有利に適用され得るものである。
【0053】
さらに、上述せる具体的態様にあっては、仮レンズのレンズ規格と共に、模型眼についても、それを数値化して演算を行ない、模型眼の網膜上の結像状態をシミュレーションすることにより、目的とする眼用レンズのレンズ規格を決定することが出来るようになっているが、本発明は、それに限られるものでは決してなく、当業者が考え得る各種の手法において、実施することが可能である。
【0054】
加えて、例示の具体例では、模型眼と仮レンズとを同一の光軸上に配置して、それら模型眼と仮レンズからなる光学系の正視化を行なっているが、それら模型眼と仮レンズとの光軸を一致させることなく、かかる正視化操作を行なうことも、当業者の知識に基づいて容易に為し得るところであり、更に、そのような正視化を、模型眼の眼軸長を変化させることで実現するのみならず、かかる眼軸長、角膜前面の曲率半径、角膜後面の曲率半径、水晶体前面の曲率半径、水晶体後面の曲率半径、瞳孔径、補正レンズの度数の何れか一つ或いは二つ以上を組み合わせて、変化させることによって、実現することが可能である。
【0055】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【0056】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に従う眼用レンズの設計方法によれば、レンズの光軸と眼の光軸とがずれた場合においても、それら光軸が同軸上に位置する場合と比較して、それ程、レンズ特性の変化の少ない眼用レンズのレンズ規格を有利に決定し得ることとなったのであり、また、そのようにして求められたレンズ規格に基づいて、目的とする眼用レンズを製造することにより、見え方の鮮明さや安定性に優れた眼用レンズを有利に得ることが出来ることとなったのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の態様を示す設計フロー図である。
【図2】本発明の第二の態様を示す設計フロー図である。
【図3】本発明の第三の態様を示す設計フロー図である。

Claims (10)

  1. レンズ適用者が必要とするレンズ度数を与えるように、仮レンズのレンズ規格を設定する工程と、
    該仮レンズを所定の模型眼に対して適用し、該模型眼の眼軸長、角膜前面の曲率半径、角膜後面の曲率半径、水晶体前面の曲率半径、水晶体後面の曲率半径、瞳孔径、補正レンズの度数のうちの何れか一つ又は二つ以上を組み合わせて、変化させることにより、該模型眼の網膜上への結像化を図る、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化を行なう工程と、
    前記模型眼の光軸に対して前記仮レンズの光軸を所定のズレ量において移動せしめ、その状態における、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性を算出する工程と、
    かかる算出された光学特性に基づき、前記仮レンズの光軸をずらせた状態で、該仮レンズのレンズ形状を順次変化せしめ、そしてそれぞれの変化状態における光学特性を算出する操作を繰り返して、光学特性が最良となる仮レンズ形状を求める工程と、
    該最良の仮レンズ形状から、目的とする眼用レンズのレンズ規格を決定する工程と、
    を含むことを特徴とする眼用レンズの設計方法。
  2. レンズ適用者が必要とするレンズ度数を与えるように、仮レンズのレンズ規格を設定する工程と、
    該仮レンズを所定の模型眼に対して適用し、該模型眼の眼軸長、角膜前面の曲率半径、角膜後面の曲率半径、水晶体前面の曲率半径、水晶体後面の曲率半径、瞳孔径、補正レンズの度数のうちの何れか一つ又は二つ以上を組み合わせて、変化させることにより、該模型眼の網膜上への結像化を図る、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の正視化を行なう工程と、
    前記仮レンズの光軸と前記模型眼の光軸とを一致せしめた状態において、それら仮レンズと模型眼とからなる光学系の光学特性を、基準特性として算出する工程と、
    前記模型眼の光軸に対して、前記仮レンズの光軸を所定のズレ量において移動せしめ、その状態における前記光学系の光学特性を、変動特性として算出する工程と、
    前記仮レンズの形状を順次変化させて、それぞれの変化状態における前記基準特性と前記変動特性の算出を行ない、それら両特性の差が最小となる仮レンズ形状を求める工程と、
    前記基準特性と前記変動特性との差が最小となる仮レンズ形状から、目的とする眼用レンズの規格を決定する工程と、
    を含むことを特徴とする眼用レンズの設計方法。
  3. 前記仮レンズの光軸と前記模型眼の光軸とを一致せしめた状態において、前記光学系の正視化が行なわれる請求項1又は請求項2の何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  4. 前記光学特性が、波面収差、PSF、MTF、または解像力において算出される請求項1乃至請求項の何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  5. 前記模型眼が、レンズ適用者の模型眼である請求項1乃至請求項の何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  6. 前記眼用レンズがコンタクトレンズであり、且つ前記模型眼の光軸と前記仮レンズの光軸とのズレ量が、30°以内である請求項1乃至請求項の何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  7. 前記ズレ量を10°以内の範囲内の複数点に分割し、それら複数点において、前記光学特性がそれぞれ算出される請求項1乃至請求項の何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  8. 前記眼用レンズが眼内レンズであり、且つ前記模型眼の光軸と前記仮レンズの光軸とのズレ量が、4mm以内である請求項1乃至請求項の何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  9. 前記ズレ量を2mm以内の範囲内の複数点に分割し、それら複数点において、前記光学特性がそれぞれ算出される請求項1乃至請求項及び請求項のうちの何れかに記載の眼用レンズの設計方法。
  10. 請求項1乃至請求項の何れかに記載の設計方法において決定されたレンズ規格に基づいて、目的とする眼用レンズを製造することを特徴とする眼用レンズの製造方法。
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