JP4525920B2 - 筒状ばね - Google Patents

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Description

本発明は、例えばピエゾアクチュエータやベッドのクッションなどに用いられる筒状ばねに関する。
円筒ばねには、多数のスリットが規則的に配置されている。スリットの形状としては、長方形、菱形、長円形などが用いられる(例えば、特許文献1〜3参照)。一例として、図27に、長円形のスリットを有する円筒ばねの斜視図を示す。図に示すように、円筒ばね100には、スリット101が多数開設されている。スリット101は、周方向に延びる長円形を呈している。当該スリット101により、円筒ばね100は、筒軸方向に弾性変形可能である。
特許文献4には、骨型のスリットを有する円筒ばねが紹介されている。図28に、同文献記載の円筒ばねに配置されているスリットの正面図を示す。なお、図27と対応する部位については、同じ符号で示す。図28に示すように、スリット101は、一対の端部102と連結部103とを備えている。連結部103は、長方形状を呈している。連結部103の周方向両端には、各々端部102が連結されている。端部102は、曲率中心Xを中心とする真円状を呈している。端部102と連結部103との接続部には、角張ったコーナー部Yが形成されている。
特開昭50−116857号公報 実公平6−15144号公報 特開平9−144794号公報 国際公開第00/08353号パンフレット
しかしながら、特許文献1〜4に記載の円筒ばねによると、筒軸方向から荷重が加わる場合、スリット101周辺における特定の部位に、応力が集中しやすかった。言い換えると、スリット101周辺の応力分布に、偏りが発生しやすかった。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、当該応力分布の偏りが、スリット101の形状に起因していることを見出した。本発明は、当該発明者の知見に基づいて完成されたものである。本発明は、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい筒状ばねを提供することを目的とする。
(1)上記課題を解決するため、本発明の筒状ばねは、周方向に延在する複数のスリットが配置された筒状ばねであって、前記スリットは、周方向に対向して配置され各々周方向先端に向かって先細る一対の端部と、一対の該端部同士を結ぶ連結部と、を備え、該連結部の筒軸方向最大幅は、該端部の筒軸方向最大幅未満に設定されており、該スリットの全てのコーナー部は、曲線状を呈していることを特徴とする。
本発明の筒状ばねのスリットは、各々反対方向に先細る一対の端部を、連結部で繋いだ形状を呈している。並びに、スリットの全てのコーナー部は、曲線状を呈している。つまり、前出図28に示すコーナー部Yのような角張ったコーナー部は配置されていない。
本発明の筒状ばねのスリットによると、後述するFEM(Finite Element Method)解析からも明らかなように、筒軸方向から荷重が加わる場合、スリット周辺に、応力集中部位が発生しにくい。つまり、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。このため、同じ荷重が加わる場合、従来の筒状ばねよりも、本発明の筒状ばねの方が、使用寿命が長くなる。スリット周辺に応力集中部位が発生しにくいのは、先細り形状の端部や曲線状のコーナー部周辺の肉部(筒状ばねの肉部分)の筒軸方向幅が、周方向に沿って緩やかに変化するためと考えられる。
なお、本発明における「周方向先端に向かって先細る」とは、端部が曲線のみで構成される場合、複数の曲率中心を有することが前提となる(この点、前出図28の端部102は、単一の曲率中心Xを有している)。あるいは、曲率中心が、アステロイド曲線(端部が楕円形の場合)などの軌跡を描くことをいう。
(2)好ましくは、一対の前記端部は、各々、周方向先端に行くにつれ接近する一対の直線部を持つ鏃状を呈している構成とする方がよい。本構成によると、端部が、一対の直線部を持つ鏃(arrow−head)状を呈している。本構成によると、一対の直線部周辺の肉部の筒軸方向幅が、周方向に沿って緩やかに変化する。このため、さらに、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記直線部と前記連結部との間には、湾曲方向の異なる二つの曲線部からなるS字部が介在している構成とする方がよい。つまり、本構成は、端部と連結部とを、S字部で接続するものである。本構成によると、S字部周辺の肉部の筒軸方向幅が、周方向に沿って緩やかに変化する。このため、さらに、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。
(4)好ましくは、上記(2)の構成において、一対の前記直線部同士の挟角θは、50°以上に設定されている構成とする方がよい。挟角θを50°以上としたのは、50°未満の場合、端部が周方向に過度に尖り、スリット周辺の応力分布に、却って偏りが発生しやすくなるからである。
また、好ましくは、上記(2)の構成において、一対の前記直線部同士の挟角θは、68°以下に設定されている構成とする方がよい。挟角θを68°以下としたのは、68°超過の場合、端部が鈍角になり、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しやすくなるからである。
(5)好ましくは、前記端部の筒軸方向最大幅bと前記連結部の筒軸方向最大幅aとの比b/aは、1.15以上に設定されている構成とする方がよい。比b/aを1.15以上としたのは、1.15未満の場合、連結部が端部に対して括れた状態でなくなり、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しやすくなるからである。
また、好ましくは、前記端部の筒軸方向最大幅bと前記連結部の筒軸方向最大幅aとの比b/aは、1.19以下に設定されている構成とする方がよい。比b/aを1.19以下としたのは、1.19超過の場合、端部が連結部に対して過度に張り出した状態になり、筒軸方向に隣接する他のスリットとの間隔が小さくなるからである。つまり、互いに筒軸方向に隣接する二つのスリット間の肉部の筒軸方向幅が、過度に小さくなるからである。
(6)好ましくは、周方向点線状に連なる複数の前記スリットからなるスリット列は、筒軸方向に複数配列されており、筒軸方向に隣接する該スリット同士は、互いに周方向にずれて配置されている構成とする方がよい。本構成によると、筒状ばねの周方向において、応力分布の偏りが発生しにくくなる。
特に好ましくは、互いに周方向に隣接する二つのスリットの周方向中心線(筒軸方向に延び、スリットを周方向に二分する線)間の中心を、二つの該スリットに筒軸方向に隣接する他のスリットの周方向中心線が、通る構成とする方がよい。本構成によると、さらに、筒状ばねの周方向において、応力分布の偏りが発生しにくくなる。
(7)好ましくは、上記(6)の構成において、筒軸方向に隣接する前記スリットの筒軸方向中心線間の筒軸方向幅を100%とすると、一方の該スリットと他方の該スリットとの間の筒軸方向最小幅wは、20%<wに設定されている構成とする方がよい。ここで、「筒軸方向中心線」とは、周方向に延び、スリットを筒軸方向に二分する線をいう。
筒軸方向最小幅wを、20%超過としたのは、20%以下の場合、互いに筒軸方向に隣接する二つのスリット間の肉部の筒軸方向幅が、過度に小さくなるからである。
また、好ましくは、上記(6)の構成において、筒軸方向に隣接する前記スリットの筒軸方向中心線間の筒軸方向幅を100%とすると、一方の該スリットと他方の該スリットとの間の筒軸方向最小幅wは、w<60%に設定されている構成とする方がよい。
筒軸方向最小幅wを、60%未満としたのは、60%以上の場合、互いに筒軸方向に隣接する二つのスリット間の肉部の筒軸方向幅が、過度に大きくなるからである。
本発明によると、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい筒状ばねを提供することができる。
以下、本発明の筒状ばねの実施の形態について説明する。
<第一実施形態>
まず、本実施形態の円筒ばねの構成について説明する。図1に、本実施形態の円筒ばねの斜視図を示す。図に示すように、円筒ばね1は、マルエージング鋼製であって、円筒状を呈している。円筒ばね1は、本発明の筒状ばねに含まれる。円筒ばね1の周方向全長は27.6mm、筒軸方向全長は20mm、円筒内周径(直径)は8.65mm、肉厚は0.42mmである。円筒ばね1の側周壁には、多数のスリット2が開設されている。スリット2の形状については後述する。また、円筒ばね1の側周壁には、側周壁を筒軸方向に貫通する溝3が形成されている。
次に、スリットの配置について説明する。図2に、本実施形態の円筒ばねの展開図を示す。図に示すように、スリット2は、周方向に、ちょうど点線のように、所定間隔離間して一列に連なっている。周方向に連なる複数のスリット2により、スリット列4A〜4Oが構成されている。スリット列4A〜4O各々の筒軸方向中心線4a〜4oは、周方向に延在している。互いに隣接する筒軸方向中心線4a〜4o間の間隔Aは、1.25mmに設定されている。
図3に、図2の円II内の拡大図を示す。図に示すように、スリット2LD(アルファベットはスリット列、後述のスリット行に対応している)と、スリット2MEと、の間の筒軸方向最小幅wは、0.51mmに設定されている。このため、間隔A(=1.25mm)を100%とすると、筒軸方向最小幅wは約41%となる。
図2に戻って、スリット2は、周方向のみならず、筒軸方向にも、所定間隔離間して一列に連なっている。筒軸方向に連なる複数のスリット2により、スリット行5A〜5Oが構成されている。ただし、周方向一端のスリット行5Aと周方向他端のスリット行5Oとは、実質的には、同一のスリット行(前出図1の溝3を隔てて形成されるスリット行)である。スリット行5A〜5O各々の周方向中心線5a〜5oは、筒軸方向に延在している。互いに隣接する周方向中心線5a〜5o間の間隔Bは、2.3mmに設定されている。
筒軸方向に隣接するスリット同士は、互いに周方向にずれて配置されている。一例として、スリット2NBの周方向中心線5bと、スリット2NDの周方向中心線5dとの間の中心を、スリット2OCの周方向中心線5cが、通るように配置されている。
次に、スリットの形状について説明する。図4に、本実施形態の円筒ばねに配置されているスリットの正面図を示す。図に示すように、スリット2は、一対の端部20と、連結部21と、合計四つのS字部22と、を備えている。スリット2は、全体として、両端矢印状を呈している。スリット2の周方向全長Dは、3.5mmである。連結部21は、長方形状であって、周方向に延在している。連結部21の周方向全長Eは、1.91mmである。
一対の端部20は、連結部21の周方向両端に、S字部22を介して、各々接続されている。S字部22の形状については後述する。一対の端部20は、各々鏃状を呈している。端部20は、一対の直線部200を備えている。一対の直線部200は、筒軸方向中心線Cに対して、線対称に配置されている。一対の直線部200は、端部20の周方向先端に行くにつれ、互いに接近するように配置されている。
スリット2の全てのコーナー部は、ラウンド面取り状を呈している。連結部21の筒軸方向最大幅aは、0.68mmに設定されている。端部20の筒軸方向最大幅bは、0.785mmに設定されている。このため、比b/aは、約1.15となる。筒軸方向中心線Cと直線部200との挟角θ/2は、34°に設定されている。このため、単一の端部20における一対の直線部200同士の挟角θは、68°となる。
図5に、図4の円IV内の拡大図を示す。図に示すように、S字部22は、端部20の直線部200と連結部21とを接続している。S字部22は、端部側曲線部220と連結部側曲線部221とからなる。端部側曲線部220と連結部側曲線部221とは、互いに反対方向に湾曲している。端部側曲線部220の曲率半径R1は、0.27mmに設定されている。連結部側曲線部221の曲率半径R2は、0.9mmに設定されている。なお、一対の直線部200間のコーナー部の曲率半径R3は、0.18mmに設定されている。
次に、本実施形態の円筒ばねの製造方法について説明する。まず、マルエージング鋼製の帯材に、所定のパターンで、多数のスリット2を穿設する。次いで、帯材を所定の寸法に剪断し、長方形の板材(ちょうど前出図2の形状を呈している)を作製する。それから、板材を順送り型のプレス成形機に搭載する。そして、前出図2における周方向両端側から、段階的に、板材に丸曲げ加工を施す。このようにして、本実施形態の円筒ばね1を製造する。
次に、本実施形態の円筒ばねの組み付け方法について説明する。円筒ばね1は、以下のようにして、ピエゾ素子と組み付けられる。まず、円筒ばね1の内周側に、短軸円柱状のピエゾ素子(図略)を複数配置する。ピエゾ素子は、円筒ばね1の筒軸に沿って、直列に並べられる。ここで、円筒ばね1の筒軸方向長さは、直列配置されたピエゾ素子群の筒軸方向長さよりも、若干短く設定されている。この状態で、円筒ばね1の上下開口を、各々カップ部材(図略)により封止する。ピエゾ素子群は、一対のカップ部材により(円筒ばね1の付勢力により)筒軸方向から圧縮された状態で、円筒ばね1内周側に収容されることになる。このようにして、ピエゾアクチュエータが完成する。
ピエゾアクチュエータは、以下のようにして用いられる。ピエゾ素子群に電圧をチャージすると、円筒ばね1の付勢力(圧縮力)に抗して、ピエゾ素子群の軸方向長さが伸張する。一方、電圧をディスチャージすると、ピエゾ素子群の軸方向長さは収縮、復元する。この際、円筒ばね1の付勢力は、当該ピエゾ素子群の復元を援助する。このように、円筒ばね1は、ピエゾ素子群の伸縮変形を援助し、駆動指令に対する応答性を高めている。
次に、本実施形態の円筒ばねの作用効果について説明する。本実施形態の円筒ばね1のスリット2は、各々反対方向に先細る一対の端部20を、連結部21で繋いだ形状を呈している。並びに、スリット2の全てのコーナー部は、曲線状(ラウンド面取り状)を呈している。このため、筒軸方向から圧縮荷重あるいは引っ張り荷重が加わる場合、スリット2周辺に、応力集中部位が発生しにくい。つまり、スリット周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。なお、応力集中部位が発生しにくいのは、互いに筒軸方向に隣接する二つのスリット2間の肉部の筒軸方向幅が、周方向に沿って徐々に変化するからであると考えられる。
また、本実施形態の円筒ばね1の一対の端部20は、各々、周方向先端に行くにつれ接近する一対の直線部200を持つ鏃状を呈している。この点においても、スリット2周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。
また、スリット2の直線部200と連結部21との間には、端部側曲線部220と連結部側曲線部221とを有するS字部22が介在している。この点においても、スリット2周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。
また、一対の直線部200同士の挟角θは、68°に設定されている。このため、端部20が周方向に過度に尖るおそれがない。この点においても、スリット2周辺の応力分布に、偏りが発生しにくい。
また、端部20の筒軸方向最大幅bと連結部21の筒軸方向最大幅aとの比b/aは、約1.15に設定されている。このため、端部20が連結部21に対して過度に張り出した状態になり筒軸方向に隣接する他のスリット2との間隔が小さくなるおそれがない。つまり、互いに筒軸方向に隣接する二つのスリット2間の肉部の筒軸方向幅が、過度に小さくなるおそれがない。
また、本実施形態の円筒ばね1におけるスリット2の配置は、前出図2に示すように、スリット2NBの周方向中心線5bと、スリット2NDの周方向中心線5dとの間の中心を、スリット2OCの周方向中心線5cが、通るように設定されている。このため、円筒ばね1の全周に亘って、応力分布の偏りが発生しにくい。
また、前出図3に示すように、スリット2LDとスリット2MEとの間の筒軸方向最小幅wは、間隔Aを100%として、約41%となるように設定されている。このため、二つのスリット2LD、2ME間の肉部の筒軸方向幅が、過度に小さくなるおそれがない。並びに、二つのスリット2LD、2ME間の肉部の筒軸方向幅が、過度に大きくなるおそれもない。
また、本実施形態の円筒ばね1のスリット2は、前出図28のコーナー部Yのような角張ったコーナー部を有していない。このため、スリット2穿設時において、打ち抜き用工具(パンチ類)の消耗(摩耗)が少なくなる。
<第二実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、スリットの形状のみである。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図6に、本実施形態の円筒ばねに配置されているスリットの正面図を示す。なお、図4と対応する部位については同じ符号で示す。
図6に示すように、スリット2のS字部22は、端部側曲線部220と連結部側曲線部221とS字部内直線部222とを備えている。S字部内直線部222は、端部側曲線部220と連結部側曲線部221とを、周方向に対して斜め(例えば30°)に、接続している。本実施形態の円筒ばねは、第一実施形態の円筒ばねと同様の作用効果を有する。
<第三実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、スリットの形状のみである。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図7に、本実施形態の円筒ばねに配置されているスリットの正面図を示す。なお、図4と対応する部位については同じ符号で示す。
図に示すように、一対の端部20は、各々、一対の第一曲線部201と第二曲線部202とを備えている。一対の第一曲線部201は、各々、ラウンド面取り部23を介して、連結部21と接続されている。第一曲線部201は、点状の曲率中心を中心とする真円の部分円弧状を呈している。第二曲線部202は、曲率中心がアステロイド曲線軌跡を描く楕円の部分円弧状を呈している。つまり、端部20は、二つの曲率中心を備えている。並びに、第二曲線部202の曲率中心は、点状ではなく、所定の軌跡を描く曲線状を呈している。本実施形態の円筒ばねは、第一実施形態の円筒ばねと同様の作用効果を有する。
<その他>
以上、本発明の筒状ばねの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
例えば、上記実施形態においては、本発明の筒状ばねとして真円筒状の円筒ばね1を用いたが、筒状ばねの形状は特に限定しない。例えば、楕円筒状、三角筒状、四角筒状などであってもよい。また、真円錐状、楕円錐状、三角錐状、四角錐状などであってもよい。また、上記実施形態においては、円筒ばね1に溝3(前出図1参照)を配置したが、溝3は無くてもよい。この場合、溝3の周方向両側を溶接等してもよい。
また、上記実施形態においては、円筒ばね1をマルエージング鋼製としたが、例えば、みがき特殊鋼(S60C、SK5)、ステンレス鋼(SUS300系、600系)などのばね鋼製、インコネルなどの耐熱合金鋼製としてもよい。また、樹脂製、セラミック製としてもよい。
また、上記実施形態においては、円筒ばね1製造の際、順送り型のプレス成形機を用いたが、単発型のプレス成形機を用いてもよい。また、単一または複数のロールを用いて板材に丸曲げ加工を施すロール曲げや、凹円弧状の壁を用いて板材に丸曲げ加工を施すカール曲げや、まず板材をW字状(半円が二つ連なる状態)にプレス成形し、次いで一方の半円を他方の半円に被せることにより円筒を形成するW−O曲げを用いて円筒ばね1を製造してもよい。
また、前記円筒ばねの使用方法においては、円筒ばね1を、自然長よりも長い状態(ピエゾ素子群(カップ部材)から常時引っ張り荷重を受けている状態)で用いたが、反対に、自然長よりも短い状態(ピエゾ素子群(カップ部材)から常時圧縮荷重を受けている状態)で用いてもよい。
また、本発明の筒状ばねは、ピエゾアクチュエータ用の円筒ばねの他、ベッドやシートのクッション用ばねなど、筒軸方向から荷重が加わるあらゆるばねとして用いることができる。
以下、本発明の筒状ばねに対して行ったFEM解析について説明する。
<解析1>
(解析モデル)
解析モデルとしては、本発明の筒状ばねの実施例である実施例1、実施例2、および従来の筒状ばねの例である比較例1を用いた。
まず、実施例1の解析モデルについて説明する。図8に、実施例1の解析モデル6の斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については同じ符号で示す。図8に示すように、実施例1の解析モデル6は、円筒ばねを中心角α=60°だけ切り出したものである。実施例1の解析モデル6を切り出す前の円筒ばねの寸法は、以下に示す部分以外は、前記第一実施形態と同様である。また、実施例1の解析モデル6の材質は、マルエージング鋼(ヤング率=182.466GPa、ポアソン比=0.30)を想定した。
実施例1の解析モデル6に配置されたスリット2の寸法を、前出図4を用いて説明する。連結部21の筒軸方向最大幅aは、0.68mmに設定されている。端部20の筒軸方向最大幅bは、0.785mmに設定されている。このため、比b/aは、約1.15となる。筒軸方向中心線Cと直線部200との挟角θ/2は、34°に設定されている。このため、単一の端部20における一対の直線部200同士の挟角θは、68°となる。
次に、実施例2の解析モデルについて説明する。実施例2の解析モデルは、スリットの寸法以外は、上記実施例1の解析モデル6と同様である。実施例2の解析モデルに配置されたスリットの寸法を、前出図4を用いて説明する。連結部21の筒軸方向最大幅aは、0.68mmに設定されている。端部20の筒軸方向最大幅bは、0.800mmに設定されている。このため、比b/aは、約1.18となる。筒軸方向中心線Cと直線部200との挟角θ/2は、27°に設定されている。このため、単一の端部20における一対の直線部200同士の挟角θは、54°となる。
次に、比較例1の解析モデルについて説明する。比較例1の解析モデルは、スリットの形状、寸法以外は、上記実施例1の解析モデルと同様である。比較例1の解析モデルに配置されたスリットは、前出図27に示すように、長円形を呈している。スリット101の周方向全長は3.35mm、筒軸方向全長は0.71mm、周方向両端に配置された一対の半円弧部分の曲率半径は0.355mmに設定されている。
(解析条件)
図8に示すように、まず、解析モデルの筒軸方向両端に剛体面(図中点線で示す)を配置する。次に、筒軸方向一端の剛体面を、セット荷重50N(つまり円筒ばね全体に換算すると300N=50N×(360°/60°))で押圧する。以下、この状態を「セット状態」と称す。続いて、セット状態から、ストローク40μmだけ、解析モデルを筒軸方向に圧縮変形させる。以下、この状態を「ストローク状態」と称す。
図9に、実施例1の解析モデルの部分拡大図を示す。図中矢印で示すように、スリット2の周方向中心線Fからの距離を、「展開長」と定義する。実施例2、比較例1の解析モデルについても、同様に定義する。
(解析結果)
図10に、ストローク状態における各解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。実施例1、2の解析モデルのデータを太線で、比較例1の解析モデルのデータを細線で、それぞれ示す。
図中の点に付された記号は、(A=ストローク状態 B=セット状態 、1=実施例1 2=実施例2 1’=比較例1 、a=極小点 b=極大点)というように、各々の点の情報を示している。例えば、点A1aの場合、「ストローク状態における、実施例1解析モデルの、極小点」という情報を示している。後述する他の解析結果についても、同様である。
実施例1の解析モデルの場合、点A1aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約450MPaが加わる。並びに、点A1bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.5mmの部位に、最大主応力の極大値=約504MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約54MPaである。
実施例2の解析モデルの場合、点A2aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約565MPaが加わる。並びに、点A2bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.3mmの部位に、最大主応力の極大値=約578MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約13MPaである。
比較例1の解析モデルの場合、点A1’aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約395MPaが加わる。並びに、点A1’bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.64mmの部位に、最大主応力の極大値=約561MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約166MPaである。
以上、ストローク状態についてまとめると、極大値と極小値との差は、比較例1>実施例1>実施例2であることが判る。
図11に、セット状態における各解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。実施例1、2の解析モデルのデータを太線で、比較例1の解析モデルのデータを細線で、それぞれ示す。
実施例1の解析モデルの場合、点B1aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約330MPaが加わる。並びに、点B1bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.5mmの部位に、最大主応力の極大値=約374MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約44MPaである。
実施例2の解析モデルの場合、点B2aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約445MPaが加わる。並びに、点B2bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.3mmの部位に、最大主応力の極大値=約454MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約9MPaである。
比較例1の解析モデルの場合、点B1’aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約300MPaが加わる。並びに、点B1’bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.64mmの部位に、最大主応力の極大値=約417MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約117MPaである。
以上、セット状態についてまとめると、極大値と極小値との差は、ストローク状態同様に、比較例1>実施例1>実施例2であることが判る。
図12に、各解析モデルのたわみと最大主応力との関係を示す。図中、横軸はたわみ(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(実施例1は展開長=約0.5mm部位、実施例2は展開長=約0.3mm部位、比較例1は展開長=約0.64mm部位)である。図に示すように、最大主応力が同じ場合、たわみは、実施例2>実施例1>比較例1であることが判る。
図13に、各解析モデルのたわみと荷重との関係を示す。図中、横軸はたわみ(mm)を、縦軸は荷重(N)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(実施例1は展開長=約0.5mm部位、実施例2は展開長=約0.3mm部位、比較例1は展開長=約0.64mm部位)である。また、荷重は、各解析モデルを円筒ばねに換算した値を示す。つまり、荷重300N(解析モデルの場合50N)の線と、各解析モデルのデータ線と、の交点が、各解析モデルのセット状態に相当する。図に示すように、荷重が同じ場合、たわみは、実施例2>比較例1≒実施例1であることが判る。図から、実施例1のばね定数は2585N/mm、実施例2のばね定数は2039N/mm、比較例1のばね定数は2564N/mmとなる。
(まとめ)
以上の解析結果を、表1にまとめて示す。
Figure 0004525920
表から、ストローク状態およびセット状態において、極大値と極小値との差は、比較例1よりも実施例1、2の方が、小さいことが判る。すなわち、ストローク状態においても、セット状態においても、比較例1よりも実施例1、2の方が、最大主応力分布の偏りが小さいことが判る。加えて、極大値と極小値との差は、実施例1よりも実施例2の方が、小さいことが判る。すなわち、前出図4に示すように、一対の直線部200同士の挟角θ(実施例1は68°、実施例2は54°)が小さく、端部20の筒軸方向最大幅bと連結部21の筒軸方向最大幅aとの比b/a(実施例1は約1.15、実施例2は約1.18)が大きい方が、極大値と極小値との差が小さいことが判る。
また、表から、極大値の変化(ストローク状態の極大値およびセット状態の極大値を、両値の平均値を中心とする変化幅で示したもの)は、比較例1よりも実施例1、2の方が、小さいことが判る。すなわち、セット状態とストローク状態とを切り替える際の最大主応力変化は、比較例1よりも実施例1、2の方が、小さいことが判る。
また、表から、比較例1のばね定数と実施例1のばね定数とは、ほぼ等しいことが判る。すなわち、同程度のばね定数を有するにもかかわらず、比較例1よりも実施例1の方が、最大主応力の極大値の平均値(実施例1は約439MPa、比較例1は約489MPa)が小さいことが判る。つまり、同程度のばね定数の場合、比較例よりも実施例の方が、最大主応力の極大値が小さいことが判る。
また、表から、比較例1のばね定数に対して、実施例2のばね定数は、約80%(=2039/2564×100)であることが判る。すなわち、同程度の最大主応力の極大値の平均値を有するにもかかわらず、比較例1よりも実施例2の方が、ばね定数が小さい(剛性が小さい)ことが判る。
<解析2>
(解析モデル)
解析モデルとしては、本発明の筒状ばねの実施例である実施例3、実施例4、実施例5および従来の筒状ばねの例である比較例2、従来の筒状ばねの改良例である(つまり従来例ではない)比較例3を用いた。
まず、実施例3の解析モデルについて説明する。図14に、実施例3の解析モデル7の正面図を示す。なお、図8と対応する部位については同じ符号で示す。図に示すように、実施例3の解析モデル7は、前出図8の実施例1の解析モデル6を、筒軸方向に1/16だけ切り出したものである。実施例3の解析モデル7の筒軸方向全長Gは、1.25mmに、周方向全長Hは4.6mmに、それぞれ設定されている。実施例3の解析モデル7を切り出す前の円筒ばねの寸法は、スリット2の寸法以外は、前記第一実施形態と同様である。また、実施例3の解析モデル7の材質は、マルエージング鋼(ヤング率=182.466GPa、ポアソン比=0.30)を想定した。スリット2の寸法は、実施例1の解析モデルのスリットの寸法と同様である。
次に、実施例4の解析モデルについて説明する。実施例4の解析モデルは、スリットの寸法以外は、上記実施例3の解析モデルと同様である。実施例4の解析モデルに配置されたスリットの寸法は、実施例2の解析モデルのスリットの寸法と同様である。
次に、実施例5の解析モデルについて説明する。実施例5の解析モデルは、スリットの寸法以外は、上記実施例3の解析モデルと同様である。実施例5の解析モデルに配置されたスリットの寸法を、前出図4を用いて説明する。連結部21の筒軸方向最大幅aは、0.69mmに設定されている。端部20の筒軸方向最大幅bは、0.82mmに設定されている。このため、比b/aは、約1.19となる。筒軸方向中心線Cと直線部200との挟角θ/2は、25°に設定されている。このため、単一の端部20における一対の直線部200同士の挟角θは、50°となる。
次に、比較例2の解析モデルについて説明する。図15に、比較例2の解析モデル8の正面図を示す。図に示すように、比較例2の解析モデル8は、前出図14の実施例3の解析モデル7に対応している。すなわち、円筒ばねの中心角60°部分を、筒軸方向に1/16だけ切り出したものである。比較例2の解析モデル8は、スリット80の形状、寸法以外は、上記実施例3の解析モデルと同様である。また、比較例2の解析モデル8に配置されたスリット80の形状、寸法は、比較例1の解析モデルに配置されたスリットの形状、寸法と、同様である。
次に、比較例3の解析モデルについて説明する。図16に、比較例3の解析モデル9の正面図を示す。図に示すように、比較例3の解析モデル9は、前出図14の実施例3の解析モデル7に対応している。すなわち、円筒ばねの中心角60°部分を、筒軸方向に1/16だけ切り出したものである。比較例3の解析モデル9は、スリット90の形状、寸法以外は、上記実施例3の解析モデルと同様である。比較例3の解析モデル9に配置されたスリット90は、前出図15の比較例2のスリット80(長円形)と前出図28のスリット101(骨型)との、中間の形状を呈している。以下、スリット90の形状を、「改良型」と称する。スリット90は、周方向中央が括れた連結部900と、真円状の一対の端部901と、を備えている。一対の端部901同士は、真円の部分円弧状の側壁を有する連結部900により、連結されている。
スリット90の連結部900の側壁の曲率半径Jは、8.3mmに設定されている。また、スリット90の一対の端部901の曲率中心M〜L間距離Kは2.6mmに、曲率中心M、Lを中心とする端部901の半径Nは各々0.45mmに、それぞれ設定されている。
(解析条件)
まず、解析モデルの筒軸方向両端に剛体面を配置する。次に、筒軸方向一端の剛体面を、セット荷重50N(つまり円筒ばね全体に換算すると300N=50N×(360°/60°))で押圧する。以下、この状態を「セット状態」と称す。続いて、セット状態から、ストローク5μmだけ、解析モデルを筒軸方向に圧縮変形させる。以下、この状態を「ストローク状態」と称す。前出図14に一端矢印で示すように、スリット2の周方向中心線Iからの距離を、「展開長」と定義する。実施例4、5、比較例2、3の解析モデルについても、同様に定義する。
(解析結果)
図17に、実施例3の解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。
図中の点に付された記号は、(A=ストローク状態 B=セット状態 、3=実施例3 4=実施例4 5=実施例5 2’=比較例2 3’=比較例3 、a=極小点 b=極大点)というように、各々の点の情報を示している。例えば、点A3aの場合、「ストローク状態における、実施例3解析モデルの、極小点」という情報を示している。後述する他の解析結果についても、同様である。
ストローク状態の場合、点A3aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約490MPaが加わる。並びに、点A3bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.5mmの部位に、最大主応力の極大値=約544MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約54MPaである。
セット状態の場合、点B3aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約300MPaが加わる。並びに、点B3bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.5mmの部位に、最大主応力の極大値=約334MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約34MPaである。
図18に、実施例3の解析モデルのたわみと荷重との関係を示す。図中、横軸はたわみ(μm)を、縦軸は荷重(N)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(展開長=約0.5mm部位)である。また、荷重は、各解析モデルを円筒ばねに換算した値を示す。つまり、荷重300N(解析モデルの場合50N)の線とデータ線との交点が、解析モデルのセット状態に相当する。図から、実施例3のばね定数は37836N/mmとなる。
図19に、実施例4の解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。
ストローク状態の場合、点A4aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約598MPaが加わる。並びに、点A4bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.3mmの部位に、最大主応力の極大値=約605MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約7MPaである。
セット状態の場合、点B4aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約400MPaが加わる。並びに、点B4bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.3mmの部位に、最大主応力の極大値=約405MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約5MPaである。
図20に、実施例4の解析モデルのたわみと荷重との関係を示す。図中、横軸はたわみ(μm)を、縦軸は荷重(N)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(展開長=約0.3mm部位)である。また、荷重は、各解析モデルを円筒ばねに換算した値を示す。つまり、荷重300N(解析モデルの場合50N)の線とデータ線との交点が、解析モデルのセット状態に相当する。図から、実施例4のばね定数は29786N/mmとなる。
図21に、実施例5の解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。
ストローク状態の場合、点A5aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約613MPaが加わる。並びに、点A5bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.3mmの部位に、最大主応力の極大値=約643MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約30MPaである。
セット状態の場合、点B5aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約428MPaが加わる。並びに、点B5bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.3mmの部位に、最大主応力の極大値=約445MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約17MPaである。
図22に、実施例5の解析モデルのたわみと荷重との関係を示す。図中、横軸はたわみ(μm)を、縦軸は荷重(N)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(展開長=約0.3mm部位)である。また、荷重は、各解析モデルを円筒ばねに換算した値を示す。つまり、荷重300N(解析モデルの場合50N)の線とデータ線との交点が、解析モデルのセット状態に相当する。図から、実施例5のばね定数は26558N/mmとなる。
図23に、比較例2の解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。
ストローク状態の場合、点A2’aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約443MPaが加わる。並びに、点A2’bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.64mmの部位に、最大主応力の極大値=約604MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約161MPaである。
セット状態の場合、点B2’aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約273MPaが加わる。並びに、点B2’bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.64mmの部位に、最大主応力の極大値=約372MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約99MPaである。
図24に、比較例2の解析モデルのたわみと荷重との関係を示す。図中、横軸はたわみ(μm)を、縦軸は荷重(N)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(展開長=約0.64mm部位)である。また、荷重は、各解析モデルを円筒ばねに換算した値を示す。つまり、荷重300N(解析モデルの場合50N)の線とデータ線との交点が、解析モデルのセット状態に相当する。図から、比較例2のばね定数は37555N/mmとなる。
図25に、比較例3の解析モデルの最大主応力分布を示す。図中、横軸は展開長(mm)を、縦軸は最大主応力(MPa)を、それぞれ示す。なお、最大主応力は、引っ張り方向を「+方向」と設定する。
ストローク状態の場合、点A3’aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約470MPaが加わる。並びに、点A3’bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.80mmの部位に、最大主応力の極大値=約793MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約323MPaである。
セット状態の場合、点B3’aに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0mmの部位に、最大主応力の極小値=約333MPaが加わる。並びに、点B3’bに示すように、スリット2の周辺の展開長=約0.80mmの部位に、最大主応力の極大値=約569MPaが加わる。極大値と極小値との差は、約236MPaである。
図26に、比較例3の解析モデルのたわみと荷重との関係を示す。図中、横軸はたわみ(μm)を、縦軸は荷重(N)を、それぞれ示す。なお、たわみは、セット状態およびストローク状態を含んでいる。また、たわみを解析した部位は、最大主応力の極大値発生部位(展開長=約0.80mm部位)である。また、荷重は、各解析モデルを円筒ばねに換算した値を示す。つまり、荷重300N(解析モデルの場合50N)の線とデータ線との交点が、解析モデルのセット状態に相当する。図から、比較例3のばね定数は23575N/mmとなる。
(まとめ)
以上の解析結果を、表2にまとめて示す。
Figure 0004525920
表から、ストローク状態およびセット状態において、極大値と極小値との差は、比較例2、3よりも実施例3、4、5の方が、小さいことが判る。すなわち、ストローク状態においても、セット状態においても、比較例2、3よりも実施例3、4、5の方が、最大主応力分布の偏りが小さいことが判る。加えて、極大値と極小値との差は、実施例3>実施例5>実施例4であることが判る。すなわち、前出図4に示すように、一対の直線部200同士の挟角θ(実施例3は68°、実施例4は54°、実施例5は50°)が50°θ68°であり、端部20の筒軸方向最大幅bと連結部21の筒軸方向最大幅aとの比b/a(実施例3は約1.15、実施例4は約1.18、実施例5は約1.19)が1.15b/a1.19である場合、極大値と極小値との差が小さいことが判る。
また、表から、極大値の変化(ストローク状態の極大値およびセット状態の極大値を、両値の平均値を中心とする変化幅で示したもの)は、比較例2、3よりも実施例3、4、5の方が、小さいことが判る。すなわち、セット状態とストローク状態とを切り替える際の最大主応力変化は、比較例2、3よりも実施例3、4、5の方が、小さいことが判る。また、表から、極大値の平均値は、比較例3よりも実施例3、4、5の方が、小さいことが判る。
また、表から、比較例2のばね定数と実施例3のばね定数とは、ほぼ等しいことが判る。すなわち、同程度のばね定数を有するにもかかわらず、比較例2よりも実施例3の方が、最大主応力の極大値の平均値(実施例3は約439MPa、比較例2は約488MPa)が小さいことが判る。つまり、同程度のばね定数の場合、比較例よりも実施例の方が、最大主応力の極大値が小さいことが判る。
また、表から、比較例2のばね定数に対して、実施例4のばね定数は、約79%(=29786/37555×100)であることが判る。すなわち、同程度の最大主応力の極大値の平均値を有するにもかかわらず、比較例2よりも実施例4の方が、ばね定数が小さい(剛性が小さい)ことが判る。
(結論)
上記、解析1、2から、比較例よりも実施例の方が、ストローク状態、セット状態共に、最大主応力の分布が均一であることが判る。また、比較例よりも実施例の方が、セット状態とストローク状態とを切り替える際の最大主応力の極大値の変化が小さいことが判る。つまり、切り替え時の最大主応力の振幅が小さいことが判る。
また、長円形のスリットを有する比較例よりも実施例の方が、ばね定数が同程度の場合、最大主応力の極大値が小さいことが判る。また、長円形のスリットを有する比較例よりも実施例の方が、最大主応力の極大値が同程度の場合、ばね定数が小さいことが判る。
また、改良型のスリットを有する比較例よりも実施例の方が、最大主応力の極大値が小さい(例えば実施例5の場合、約80%=約544(実施例5の平均値)/約681(比較例3の平均値)×100)ことが判る。
第一実施形態の円筒ばねの斜視図である。 同円筒ばねの展開図である。 図2の円II内の拡大図である。 同円筒ばねに配置されているスリットの正面図である。 図4の円IV内の拡大図である。 第二実施形態の円筒ばねに配置されているスリットの正面図である。 第三実施形態の円筒ばねに配置されているスリットの正面図である。 実施例1の解析モデルの斜視図である。 同解析モデルの部分拡大図である。 ストローク状態における各解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 セット状態における各解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 各解析モデルのたわみと最大主応力との関係を示すグラフである。 各解析モデルのたわみと荷重との関係を示すグラフである。 実施例3の解析モデルの正面図である。 比較例2の解析モデルの正面図である。 比較例3の解析モデルの正面図である。 実施例3の解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 同解析モデルのたわみと荷重との関係を示すグラフである。 実施例4の解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 同解析モデルのたわみと荷重との関係を示すグラフである。 実施例5の解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 同解析モデルのたわみと荷重との関係を示すグラフである。 比較例2の解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 同解析モデルのたわみと荷重との関係を示すグラフである。 比較例3の解析モデルの最大主応力分布を示すグラフである。 同解析モデルのたわみと荷重との関係を示すグラフである。 従来の長円形のスリットを有する円筒ばねの斜視図である。 従来の円筒ばねに配置されている骨型のスリットの正面図である。
符号の説明
1:円筒ばね(筒状ばね)、2:スリット、2LD:スリット、2ME:スリット、2NB:スリット、2ND:スリット、2OC:スリット、20:端部、200:直線部、21:連結部、22:S字部、220:端部側曲線部、221:連結部側曲線部、222:S字部内直線部、3:溝、4A〜4O:スリット列、4a〜4o:筒軸方向中心線、5A〜5O:スリット行、5a〜5o:周方向中心線、6:実施例1の解析モデル、7:実施例3の解析モデル、8:比較例2の解析モデル、80:スリット、9:比較例3の解析モデル、90:スリット、900:連結部、901:端部。
A:間隔、B:間隔、C:筒軸方向中心線、D:周方向全長、E:周方向全長、F:周方向中心線、G:筒軸方向全長、H:周方向全長、I:周方向中心線、J:曲率半径、K:曲率中心間距離、L:曲率中心、M:曲率中心、N:半径、R1:曲率半径、R2:曲率半径、R3:曲率半径、a:筒軸方向最大幅、b:筒軸方向最大幅、w:筒軸方向最小幅、α:中心角、θ:挟角。

Claims (12)

  1. 周方向に延在する複数のスリットが配置された筒状ばねであって、
    前記スリットは、周方向に対向して配置され各々周方向先端に向かって先細る一対の端部と、一対の該端部同士を結ぶ連結部と、を備え、
    該連結部の筒軸方向最大幅は、該端部の筒軸方向最大幅未満に設定されており、
    該スリットの全てのコーナー部は、曲線状を呈しており、
    一対の該端部が、各々、単一の曲率中心を有する曲線部のみからなる場合と比較して、筒軸方向から荷重が加わる際の周方向の最大主応力分布の偏りが小さいことを特徴とする筒状ばね。
  2. 一対の前記端部は、各々、周方向先端に行くにつれ接近する一対の直線部を持つ鏃状を呈している請求項1に記載の筒状ばね。
  3. 前記直線部と前記連結部との間には、湾曲方向の異なる二つの曲線部からなるS字部が介在している請求項2に記載の筒状ばね。
  4. 一対の前記直線部同士の挟角θは、50°以上68°以下に設定されている請求項2に記載の筒状ばね。
  5. 前記端部の筒軸方向最大幅bと前記連結部の筒軸方向最大幅aとの比b/aは、1.15以上1.19以下に設定されている請求項1に記載の筒状ばね。
  6. 周方向点線状に連なる複数の前記スリットからなるスリット列は、筒軸方向に複数配列されており、
    筒軸方向に隣接する該スリット同士は、互いに周方向にずれて配置されている請求項1に記載の筒状ばね。
  7. 前記直線部と前記連結部との間には、湾曲方向の異なる二つの曲線部と、二つの該曲線部同士を周方向に対して斜めに接続する直線部と、が介在している請求項2に記載の筒状ばね。
  8. 一対の前記端部は、各々、複数の曲率中心を有する複数の曲線部からなる請求項1に記載の筒状ばね。
  9. 複数の前記曲線部は、真円の部分円弧状の一対の第一曲線部と、楕円の部分円弧状の第二曲線部と、であり、
    一対の該第一曲線部の周方向内端は、各々、曲線状の前記コーナー部を介して、前記連結部に連なり、
    該第二曲線部は、一対の該第一曲線部の周方向外端同士を接続する請求項8に記載の筒状ばね。
  10. 有限要素法において、筒軸方向両端に配置した一対の剛体面のうち片方の該剛体面を300Nで押圧した状態をセット状態とした場合、
    該セット状態の前記スリットの周方向の最大主応力分布の(極小値/極大値)は、0.88以上0.99以下である請求項1に記載の筒状ばね。
  11. 前記セット状態に対して、筒軸方向全長20mmを40μmだけ圧縮した状態を、ストローク状態とした場合、
    該ストローク状態の前記スリットの周方向の最大主応力分布の(極小値/極大値)は、0.89以上0.97以下である請求項10に記載の筒状ばね。
  12. 前記セット状態に対して、筒軸方向全長1.25mmを5μmだけ圧縮した状態を、ストローク状態とした場合、
    該ストローク状態の前記スリットの周方向の最大主応力分布の(極小値/極大値)は、0.90以上0.99以下である請求項10に記載の筒状ばね。
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