JP4522749B2 - ガス収支測定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、植物体の光合成、呼吸及び蒸散や土壌呼吸等に伴うターゲットガスの収支を測定するガス収支測定装置に関するものである。
従来、植物体の葉の光合成、呼吸及び蒸散に伴うターゲットガスの収支や、植物根の呼吸や土壌中の微生物の呼吸等からなる土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支を測定する装置として、同化箱法(チャンバー法)を用いたガス収支測定装置がある。ターゲットガスは、植物体の光合成、呼吸及び蒸散又は土壌呼吸に伴って、植物体又は土壌に吸収される気体、或いは植物体又は土壌から放出される気体であり、炭酸ガス、酸素、水蒸気、酸化窒素、メタンなどが代表的である。
植物体の光合成呼吸に伴うターゲットガスの収支測定に使用される従来のガス収支測定装置は、測定対象である植物体の多数の葉のうち一枚の葉を格納する同化箱を有し、同化箱に空気を通気して同化箱の出入口における空気中のターゲットガスの濃度測定を行なうものである。このガス収支測定装置の測定結果から求められる同化箱の出入口におけるターゲットガスの収支(濃度差)を、空気が同化箱を通過するのに要する時間と同化箱に格納した一枚の葉の面積で割ることにより、1枚の葉の単位面積当りの光合成呼吸速度が求められる。この単位面積当りの光合成呼吸速度に測定対象である植物体全体の葉面積を掛けることにより、測定対象である植物体の光合成呼吸速度が求められる。なお、植物体の蒸散速度は、同化箱の出入口における空気中の水蒸気の収支(湿度差又は水蒸気の濃度差)から求められる。このようなガス収支測定装置としては、例えば特許文献1(特開平5−79980号公報)や非特許文献1(p.111−114参照)に開示されたものがある。
他方、土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支測定に使用される従来のガス収支測定装置には、閉鎖式と開放式の2種類がある。閉鎖式のガス収支測定装置は、測定対象である土壌表面に同化箱を被せて密閉空間を形成し、同化箱内のターゲットガス(例えば炭酸ガスや酸化窒素ガスなど)の濃度測定を行なうものである。閉鎖式のガス収支測定装置を使用した場合は、その測定値の経時変化に基づいて土壌呼吸速度が求められる。他方、開放式のガス収支測定装置は、測定対象である土壌表面に被せた同化箱に空気を通気して、同化箱の出入口における空気中のターゲットガスの濃度測定を行なうものである。開放式のガス収支測定装置を使用した場合は、同化箱の出入口におけるターゲットガスの収支に基づいて土壌呼吸速度が求められる。このようなガス収支測定装置としては、例えば特許文献2(特開平8−261892号公報)や非特許文献1(p.144−146参照)に開示されたものがある。
特開平5−79980号公報 特開平8−261892号公報 大政謙次(ほか二名)編、「植物の計測と診断」、朝倉書店、1988年5月、p.111−114、p.144−146
上述のように、従来は、1つの装置で、植物体の光合成、呼吸及び蒸散に伴うターゲットガスの収支測定と、当該植物体周辺の土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支測定の両方を行なえるものがなかった。
一方、植物体の光合成等に伴うターゲットガスの収支測定に使用される従来のガス収支測定装置は、植物体の多数の葉のうち一枚の葉の光合成呼吸速度等を測定するものである。しかし、植物体の多数の葉の中から選別された一枚の葉の測定結果を植物体全体に及ばせると、植物体の葉ごとに健康状態が相違することから、同化箱に格納する葉の選別基準によって、植物体全体の光合成呼吸速度等にばらつきが生じる。
他方、土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支測定に使用される閉鎖式及び開放式のガス収支測定装置は、土壌表面に同化箱を被せることで、植物根の呼吸等に伴って土壌表面から放出されるターゲットガスを確実に捉えられる。しかし、同化箱を土壌表面に被せるに際しては、同化箱の下部と土壌表面との間から空気が漏れないように、同化箱の下部を土壌中に埋め込む必要がある。同化箱の下部を土壌中に埋め込むと、同化箱によって植物根が切断されるおそれがある。植物根が切断されてしまうと、土壌呼吸速度に植物根の呼吸速度を反映させ難くなり、土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支測定の精度が低下する。
このように、従来の各ガス収支測定装置はいずれも、測定精度が低いことから、これらを併用して植物体の光合成等に伴うターゲットガスの収支測定と、当該植物体周辺の土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支測定とを同時に行なうことができなかった。このため、植物体の光合成等及び土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支を総合的に評価検討することができなかった。
本発明は、斯かる実情に鑑み創案されたものであって、その目的は、植物体の光合成等及び土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支を総合的に評価検討し得るガス収支測定装置を提供することにある。
本発明のガス収支測定装置は、上記目的を達成するため、植物体を格納する同化箱と、前記同化箱へ供給ガスを給気するガス供給手段と、前記ガス供給手段から前記同化箱へ給気される供給ガス及び前記同化箱から排出された排気ガスをサンプリングすると共に、供給ガス及び排気ガスに含まれるターゲットガスの濃度を測定するガス測定手段とを備え、前記同化箱におけるターゲットガスの収支を測定するガス収支測定装置において、前記同化箱が、前記植物体の地上部を格納する上室と、前記植物体の地下部を土壌と共に格納する下室とを有し、前記同化箱の上室及び下室の各々におけるターゲットガスの収支を測定するように構成したことを特徴としている。
図1を参照して、上記のガス収支測定装置の作用について説明する。同化箱10の内部は、植物体1の地上部1aを格納する上室11と、植物体1の地下部1bを土壌2と共に格納する下室12に区画されている。同化箱10の上室11及び下室12の各々には、ガス供給手段20から供給ガスが給気されると共に、同化箱10の上室11及び下室12から排気ガスが排出される。同化箱10の上室11では、植物体1の地上部1aの光合成、呼吸及び蒸散に伴って供給ガス中のターゲットガスが植物体1に吸収され、或いは植物体1からターゲットガスが放出される。他方、同化箱10の下室12では、土壌呼吸に伴って供給ガス中のターゲットガスが土壌2中に吸収され、或いは土壌2からターゲットガスが放出される。ガス供給手段20から同化箱10の上室11及び下室12へ給気される供給ガスと、同化箱10の上室11及び下室12から排出される排気ガスとをサンプリングして、ガス測定手段30にて供給ガス及び各排気ガス中に含まれるターゲットガスの濃度を測定する。ガス供給手段20から同化箱10の上室11へ給気される供給ガスの測定値と、同化箱10の上室11から排出された排気ガスの測定値との差から、植物体1の葉全体の光合成、呼吸及び蒸散に伴うターゲットガスの収支が求められる。他方、ガス供給手段20から同化箱10の下室12へ給気される供給ガスの測定値と、同化箱10の下室12から排出された排気ガスの測定値との差から植物体1の植生箇所における土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支が求められる。
なお、「供給ガス」は、収支測定の目的に応じた気体であればターゲットガスの有無に関わらず如何なるものでもよく、混合気体(例えば空気など)は勿論のこと、単一の気体であっても構わない。「植物体の地下部」は、土壌中の植物根のみならず植物体の土壌表面から突出した根元部分(例えば茎の一部)を含むものとし、「植物体の地上部」は、植物根及び植物体の土壌表面から突出した根元部分を除く他の部分をいい、好ましくは植物体の葉全体を含む部分である。また、本発明のガス収支測定装置は、1種類のターゲットガスに限らず、複数種類のターゲットガス(例えば炭酸ガス及び水蒸気など)を対象にして各ターゲットガスの収支を測定するものであっても構わない。
本発明のガス収支測定装置によれば、同化箱の上室に植物体の葉全体を含む植物体の地上部を格納し、植物体の葉全体の光合成、呼吸及び蒸散に伴うターゲットガスの収支を直接的に測定するようにしたから、かかる測定精度を向上させることができる。また、同化箱の下室に植物体の地下部を格納して植物体の植生箇所における土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支を測定するようにしたから、土壌呼吸に植物根の呼吸を確実に反映させることができ、かかる測定精度を向上させることができる。さらに、同化箱の上室及び下室におけるターゲットガスの収支測定を同時に行なうことで、植物体の光合成等及び土壌呼吸に伴うターゲットガスの収支を総合的に評価検討することが可能になる。
以下、図面を参照しつつ本発明に係るガス収支測定装置の一実施形態について説明する。
図2は、本発明に係るガス収支測定装置の一実施形態を示す概略図で、同図において、10は同化箱、20はガス供給手段、30はガス測定手段である。なお、この実施形態におけるガス収支測定装置は、同化箱10の上室11及び下室12へ供給ガスとして空気を給気し、かつ、同化箱10の上室11及び下室12における収支測定の対象であるターゲットガスを主として炭酸ガス及び水蒸気としたものである。
同化箱10は、図2に示すように、植物体1全体を格納する容器である。同化箱10の内部は、植物体1の地上部1aを格納する上室11と、植物体1の地下部1bを格納する下室12に区画されている。この実施形態における同化箱10は、上室11を構成する上部容器13と、下室12を構成する下部容器14と、上部容器13及び下部容器14の相互間に介設して上室11及び下室12を気密に区画する仕切部材15とを主要な構成要素としており、植物体1を鉢植え3に植生させた状態で格納するように構成してある。
図3は、同化箱10の縦断面図であり、これを参照して上部容器13、下部容器14及び仕切部材15について説明する。
上部容器13は、植物体1の地上部1aに覆い被せるように下方に開口したカバー状に形成したものである。この実施形態における上部容器13は、円筒状に形成し、かつ、底面中央部を開口させると共に、底面外周部を下部容器14の上端部に仕切部材15を介して載置するように構成してある。また、上部容器13は、透明な材料(例えばアクリル樹脂やガラスなど)で構成され、外部光(例えば太陽光や照明器具の光)を上室11内に採光し得るようになっている。
上部容器13には、ガス供給手段20から空気を給気するための供給管20aと、上部容器13から空気を排出するための排気管30aとを接続してある。供給管20aは上部容器13の下部に接続し、排気管30aは上部容器13の上部に接続してある。また、供給管20aは、上部容器13の下部内周面に沿って環状に配設された給気管13aに連通している。給気管13aは、円周方向に所定の間隔で複数の給気口13a1,13a1,・・・を穿設してあり、上部容器13の下部からほぼ均一に空気を給気するようになっている。
また、上部容器13の内部には、上室11内で空気を攪拌しつつ下方から上方へ流動させるための複数個のファン13b,13b,…を配設してある。より詳しくは、複数個のファン13b,13b,…を上部容器13の周方向及び上下方向に所定の間隔を隔てて螺旋状に配設すると共に、各ファン13b,13b,…を上部容器13の内壁面に沿って斜め上方へ送風するように傾けて設置してある。これにより上室11内の空気は、上室11の下方から上方へほぼ螺旋状に流動して攪拌され、植物体1の地上部1aの各葉に対してほぼ均一に供給される。
下部容器14は、植物体1の地下部1b及び土壌2を鉢植え3に収容した状態で格納するように構成してある。下部容器14の内周面と鉢植え3との間に形成された隙間は、シール部材14aによって閉塞されている。シール部材14aは、ゴム等の弾性材料を環状に形成した部材であって、シール部材14aの外周部を下部容器14の内周面に密着させると共に、シール部材14aの底面部を鉢植え3の上端部に密着させてある。これにより鉢植え3内の土壌2の表面と仕切部材15との間に土壌呼吸用の空間14bが形成される。なお、下部容器14には、ガス供給手段20から土壌呼吸用の空間14bへ空気を給気するための供給管20bと、土壌呼吸用の空間14bから空気を排出するための排気管30bとを接続してある。また、下部容器14には、土壌呼吸用の空間14b内の空気を攪拌するためのファン14cを配設してある。
一方、鉢植え3は、カップ部材14dに気密に嵌合させた状態で下部容器14の内底部に設置してある。鉢植え3内の土壌2の表面は、カップ部材14dによって下部容器14内の所望の高さ位置に維持される。また、植物体1は鉢植え3に植えた状態で長期間生育させると鉢植え3の底部まで植物根を張るので、鉢植え3の水抜き孔3aを介した土壌呼吸が生じる。鉢植え3をカップ部材14dに嵌合して、鉢植え3内の土壌2が水抜き孔3aから露出される空間を狭くしておくと、鉢植え3とカップ部材14dで囲まれた空間の酸素は、鉢植え3の水抜き孔3aを介した土壌呼吸によって消費されて無くなる。このように鉢植え3とカップ部材14dで囲まれた空間の酸素を無くすことにより、鉢植え3の水抜き孔3aを介した土壌呼吸は止まる。これにより下室12における土壌呼吸は、土壌2と土壌呼吸用の空間14bとの間でのみ行なわれるようになる。
このように、鉢植え3内にしっかりと植物根を張った植物体1の地下部1bを土壌2と共に下部容器14に格納し、かつ、下室12における土壌呼吸が土壌2と土壌呼吸用の空間14bとの間でのみ行なわれるように、下部容器14の内周面と鉢植え3との間をシールすると共に鉢植え3の水抜き孔3aを介した土壌呼吸を止めてあるから、下室12における土壌呼吸が自然に植生した植物周辺の土壌呼吸とほぼ同じ状況下で行なわれる。
仕切部材15は、上部容器13の内部と下部容器14の内部を気密に区画するものである。この実施形態における仕切部材15は、上部容器13の底面部に密着させる上層のシート材15aと、下部容器14の上端部に密着させる下層のシート材15bと、上層のシート材15a及び下層のシート材15bの相互間に介在させる中層のシート材15cとを積層して構成してある。上層のシート材15a及び下層のシート材15bは、例えばビニル樹脂などの弾性材料で構成する一方、中層のシート材15cは、例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、「テフロン(登録商標)」)などの芯材で構成してある。各シート材15a,15b,15cは、図4に示すように、植物体1の茎1cを通す茎孔15a1,15b1,15c1を有し、かつ、植物体1の茎1cに嵌め付けるための切り込み部15a2,15b2,15c2を形成してある。各シート材15a,15b,15cの茎孔15a1,15b1,15c1と植物体1の茎1cとの間の隙間はシール剤15dで閉塞してある。また、各シート材15a,15b,15cは、各々の切り込み部15a2,15b2,15c2を接合し、切り込み部15a2,15b2,15c2をずらして積層してある。
なお、図2において、16はインキュベータで、同化箱10を収納する箱体であって、同化箱10の上室11の内部の光強度を調整すると共に、インキュベータ16に収納された同化箱10の外部の気温を調整するものである。この実施形態では、インキュベータ16の内壁面に多数の蛍光灯16a,16a,…を配設し、この蛍光灯で同化箱10の上室11に光を照射するようになっている。同化箱10の上室11に格納された植物体1の地上部1aにインキュベータ16によって光を照射すると、当該植物体1の地上部1aのほぼ全ての葉が光合成呼吸を行なう。一方、インキュベータ16による光の照射を停止して、インキュベータ16の内部を暗室状態にすると、同化箱10の上室11に格納された植物体1の地上部1aは、光合成を停止して呼吸のみを行なう。また、インキュベータ16は、同化箱10の外部の気温を調整する図示しない空調装置を備えており、蛍光灯16a,16a,…の熱によって同化箱10内の温度が上昇するのを防止している。なお、図示しない空調装置は、同化箱10の外部の気温を、同化箱10の内部の気温(ガス供給手段20から同化箱10へ供給される空気の温度とほぼ同じ温度である。)や地温よりも2〜5℃程度低い温度に維持している。
図2に示すガス供給手段20は、同化箱10の上室11及び下室12の各々へ空気を所定の流量で給気するものである。この実施形態におけるガス供給手段20は、空気中の炭酸ガスを吸収する吸収部21と、吸収部21にて炭酸ガスが取り除かれ、吸収部21から所定の流量で供給される空気に対して炭酸ガスを所望の流量で混入する混入部22とを有し、同化箱10の上室11及び下室12の各々へ給気される空気中の炭酸ガスの濃度調整を行なえるようになっている。また、ガス供給手段20は、空気中の水分を吸収する除湿部23と、空気を加湿する加湿部24とを有する。加湿部24の上流側には、吸収部21及び混入部22と、除湿部23と、外気採取管25とが並列に配設されている。外気採取管25は、大気を同化箱10へ供給するためのものである。加湿部24の下流側には、同化箱10へ給気される空気の温度を調整する温度調整部26を配設してある。なお、図中、Pはポンプ、Fはフィルタである。
上記のガス供給手段20は、炭酸ガスの濃度調整を行なった空気を同化箱10へ給気する場合、吸収部21及び混入部22にて空気中の炭酸ガスの濃度調整を行なったのち、当該空気をフィルタFに通して不純物の除去を行なう。次いで、加湿部24にて空気の加湿を行なうと共に、温度調整部26にて空気の温度を調整して同化箱10へ空気を給気する。また、水蒸気の濃度調整を行なった空気を同化箱10へ給気する場合は、除湿部23にて空気中の水蒸気を除去したのち、当該空気をフィルタFに通して不純物の除去を行なう。次いで、加湿部24にて空気の加湿を行なうと共に、温度調整部26にて空気の温度を調整して同化箱10へ空気を給気する。さらに、炭酸ガスの濃度調整を行なわずに大気を同化箱10へ給気する場合は、外気採取管25から採取した大気を同化箱10へ給気する。なお、炭酸ガス及び水蒸気の収支測定と共に、炭酸ガス及び水蒸気以外の他のターゲットガスの収支測定を行なう場合は、外気採取管25に、他のターゲットガスの吸収部(図示略)及び他のターゲットガスの混入部(図示略)を接続する。
また、同化箱10へ給気される空気等(炭酸ガス濃度や温度、湿度が調整された空気、及び、炭酸ガス濃度未調整の大気)は、湿度が概ね50%未満になると乾燥によるストレスを植物体1に与えて光合成呼吸が正常に行なわれなくなるので、加湿部24にて湿度を調整して概ね50%以上とする。また、同化箱10へ給気される空気等は、温度が概ね10℃未満になると配管や同化箱10の内部に結露が生じて蒸散の測定に影響を及ぼすので、温度調整部26にて温度を調整して概ね10℃以上とする。
図2に示すガス測定手段30は、ガス供給手段20から同化箱10へ給気される空気及び同化箱10の上室11及び下室12から排出された空気をサンプリングし、各空気に含まれる炭酸ガス及び水蒸気等の濃度を測定するものである。この実施形態では、同化箱10の上室11から排出された空気のサンプリングと、同化箱10の下室12から排出された空気のサンプリングとを三方弁31で切替えて行ない、各空気の測定をひとつのガス測定手段30で行なっている。ひとつのガス測定手段30で測定を行なうことにより測定結果に機械的誤差が生じない。この場合、各空気の測定に僅かな時間差が生じるが、インキュベータ16により上室11内の光強度を所定値に維持すると共に、炭酸ガス濃度、温度及び湿度が所定値に維持された空気を上室11及び下室12へ同時に供給している限り、同化箱10の上室11及び下室12から所期の空気が排出され、各空気の測定を複数のガス測定手段で同時に測定する場合とほぼ同じ測定結果が得られる。また、下室12から排出された空気は、大気へ放出されるものと、ガス測定手段30に供給されるものと、下室12に戻されるものに分流される。
以下、上記のガス収支測定装置による収支測定について説明する。ガス供給手段20にて炭酸ガス及び水蒸気の濃度が調整され、同化箱10へ給気される空気と、同化箱10の上室11及び下室12から排出された空気をサンプリングし、各空気に含まれる炭酸ガス及び水蒸気の濃度を測定する。同化箱10へ給気される空気中の炭酸ガスの濃度測定結果と、上室11から排出された空気中の炭酸ガスの濃度測定結果から、上室11に格納された植物体1の地上部1aの光合成呼吸に伴う炭酸ガスの収支が求められる。また、同化箱10へ給気される空気中の水蒸気の濃度測定結果と、上室11から排出された空気中の水蒸気の濃度測定結果から、上室11に格納された植物体1の地上部1aの蒸散に伴う水蒸気の収支が求められる。他方、同化箱10へ給気される空気中の炭酸ガスの濃度測定結果と、下室12から排出された空気中の炭酸ガスの濃度測定結果から、下室12における土壌呼吸に伴う炭酸ガスの収支が求められる。
上室11及び下室12における炭酸ガスの収支測定結果に基づき、上室11における植物体1の地上部1aの光合成呼吸速度と、下室12における土壌呼吸速度とが求められる。上室11における炭酸ガスの収支測定を、インキュベータ16で上室11内の光強度をゼロにして行なうと、植物体1の地上部1aの呼吸速度が求められる。かかる呼吸速度と光合成呼吸速度の速度差から植物体1の地上部1aの光合成速度が求められる。上室11における水蒸気の収支測定結果に基づき、植物体1の地上部1aの蒸散速度が求められる。
また、上室11及び下室12における炭酸ガスの収支測定や、上室11における水蒸気の収支測定を、上室11内の光強度、下室12に格納する土壌2の種類(例えば空隙率の相違する複数種類のものなど)、並びに同化箱10へ給気される空気等の温度及び湿度などの環境条件を変更して行なうと、植物体1の地上部1aの光合成や呼吸、蒸散、及び、土壌呼吸に対する各種環境条件の影響を評価することができる。
さらに、上室11及び下室12における炭酸ガス及び水蒸気以外の他のターゲットガス(例えばメタンや酸化窒素など)の収支測定を行なうと、植物体1の地上部1aの光合成や呼吸に伴って他のターゲットガスが植物体1に吸収される速度又は他のターゲットガスが植物体1から放出される速度や、土壌呼吸に伴って他のターゲットガスが土壌2に吸収される速度又は他のターゲットガスが土壌2から放出される速度を求めることができる。かかる他のターゲットガスの収支測定を、環境条件を変更して行なうと、他のターゲットガスが植物体1又は土壌2に吸収される速度や他のターゲットガスが植物体1又は土壌2から放出される速度に対する各種環境条件の影響を評価することができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明に係るガス収支測定装置は上記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得る。例えば、同化箱10の下室12には、図2に示すように、植物体1の地下部1b及び土壌2を鉢植え3に収容した状態で格納することに限らず、図1に示すように、同化箱10の下室12に直接格納した土壌2に植物体1を植えるようにしても構わない。
また、上記実施形態では、上室11及び下室12へ給気される空気と、上室11及び下室12から排出された空気の測定をひとつのガス測定手段30で行なっているが、かかる測定は複数のガス測定手段で行なうようにしても構わない。
さらに、上記実施形態では、ターゲットガスとしての炭酸ガスの収支を測定することで、植物体1の地上部1aの光合成速度や呼吸速度、土壌呼吸速度を求めているが、ターゲットガスを酸素ガスとしても植物体1の地上部1aの光合成速度や呼吸速度、土壌呼吸速度を求めることは可能である。
本発明に係るガス収支測定装置の概念図である。 本発明に係るガス収支測定装置の一実施形態を示す概略図である。 同化箱の一実施形態を示す縦断面図である。 仕切部材の一実施形態を示す平面図である。
符号の説明
1 植物体
1a 地上部
1b 地下部
2 土壌
10 同化箱
11 上室
12 下室
20 ガス供給手段
30 ガス測定手段

Claims (2)

  1. 植物体を格納する同化箱と、前記同化箱へ供給ガスを給気するガス供給手段と、前記ガス供給手段から前記同化箱へ給気される供給ガス及び前記同化箱から排出された排気ガスをサンプリングすると共に、供給ガス及び排気ガスに含まれるターゲットガスの濃度を測定するガス測定手段とを備え、前記同化箱におけるターゲットガスの収支を測定するガス収支測定装置において、
    前記同化箱が、前記植物体の地上部を格納する上室と、前記植物体の地下部を土壌と共に格納する下室とを有し、前記同化箱の上室及び下室の各々におけるターゲットガスの収支を測定するように構成したガス収支測定装置。
  2. 前記同化箱が、植物体の地上部を覆うように下方に開口したカバー状に形成して前記上室を構成する上部容器と、植物体の地下部を土壌と共に格納するように上方に開口した箱状に形成して前記下室を構成する下部容器と、前記上部容器及び前記下部容器の相互間に介設して前記上室及び前記下室を区画する仕切部材とを備えた請求項1に記載のガス収支測定装置。
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