JP4521300B2 - 複層電着塗膜形成方法 - Google Patents
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Description
現状の塗装ラインの一例を図1に示す。図1では、着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)(以下、「クリヤ電着塗料」と称する場合がある)の浴と着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)の浴が連続して設置されている。さらなる高耐候性で着色した塗膜を得ることを目的として、着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)の塗膜を下層に、着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)の塗膜を上層とした着色複層塗膜を形成する必要がある。
しかし最初に着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)で電着塗装を行って塗膜を形成し、次に着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)を塗装すると、水洗で十分に洗浄できなかった余分なアニオン電着塗料(B)がアニオン電着塗料(A)に混入することとなり、アニオン電着塗料(A)の浴塗料をアニオン電着塗料(B)で汚染する。その為、次に、着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)を塗装する場合には、不具合が生じる。
他に、被塗装面に、一段目として、(A)電析塗膜分極値(kΩ・cm2)200〜2500であるアニオン型アクリル系樹脂電着塗料(I)を電着塗装して被膜を形成させた後、二段目として、(B)電析塗膜分極値(kΩ・cm2)が(A)電析塗膜分極値(kΩ・cm2)と同一もしくは小さい、小さい場合には、その差が最高1500である、アニオン型フッ素系樹脂電着塗料(II)を電着塗装して塗り重ね、次いで加熱させることを特徴とする高耐久性アニオン電着塗膜の形成方法に、関する発明がある[特許文献2]。
これらの公報に従って、まず先に着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)を電着塗装し、未硬化のアニオン電着塗料(B)の塗膜上に、次に着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)を塗装して焼付け乾燥した塗膜は、下層にアニオン電着塗料(B)の塗膜、上層にアニオン電着塗料(A)の塗膜を有する着色複層塗膜を形成できる。しかし塗装ラインでは連続的に電着塗装を行っており、水洗が不十分なアニオン電着塗料(B)の被塗物によって、着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)の浴に着色顔料が混入して汚染することとなってしまう。
他に、アルミニウム又はアルミニウム合金の塗装工程において、被塗装材の表面に、クリヤー塗料と艶消し塗料のうち、いずれか一方の塗料による電着塗装手段で第1の塗装を行い、次いで、この塗膜を未硬化のまま他方の塗料による電着塗装手段で第2次塗装を行った後、塗膜の焼付け乾燥処理を施すことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の塗装方法がある[特許文献3]。
この塗装方法によると、各塗膜の膜厚を調整することによって、表面光沢度の異なった多種類の塗膜が自由に得られる。しかし着色顔料を含有するアニオン電着塗料を使用した塗装方法ではなく、さらに着色顔料を含有するアニオン電着塗料の混入を配慮した発明ではない。また1回目に塗装した塗料が下層塗膜を形成し、2回目に塗装した塗料が上層塗膜を形成するものである。
本発明によると、被塗物に、着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)を電着塗装して該アニオン電着塗料(A)に基づく未硬化の電着塗膜を形成し、ついで、該未硬化の電着塗膜を形成した被塗物に、着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)を電着塗装し、焼付硬化することによって、被塗物上にアニオン電着塗料(B)に基づく電着塗膜(B1)が形成され、該電着塗膜(B1)上に電着塗膜(A1)が形成される。以下、詳細に説明する。
着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A):
本発明で用いられる着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)は、連続被膜形成最低温度(注1)が10〜22℃の範囲にあって、さらに該連続被膜形成最低温度以下の浴温度で電着塗装して、透明の塗膜(クリヤ塗膜)を形成することを特徴としている。アニオン電着塗料(A)の連続被膜形成最低温度が10℃未満であっても、また22℃を越えても、下層にアニオン電着塗料(B)に基づく塗膜、上層にアニオン電着塗料(A)に基づく塗膜を形成できない。この理由としては、アニオン電着塗料(A)の連続被膜形成最低温度が10℃未満であると仕上り性が低下することとなり、一方、22℃を越えるとガス穴が融着し、アニオン電着塗料(B)が下層に析出しない。
(注1) 連続被膜形成最低温度:連続被膜形成最低温度は、電着塗料を用いて一定の
印加電圧で電着塗装を実施する場合、浴温と膜厚の関係は、図2のように示される。図2によれば、電着塗装を行う時の浴温が、低温から高くなるに従って被塗物上に形成される電着塗膜の膜厚が低下し、一定の浴温以上になれば、逆に膜厚が増大する。このような浴温と膜厚の関係において、膜厚が最小になるときの浴温(図2に示すカーブの極小値に対応する浴温)を連続被膜形成最低温度(MFT)という。
上記カルボキシル基含有ラジカル重合性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の単量体が挙げられる。水酸基含有ラジカル重合性不飽和単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及びこれ以外にプラクセルFM1(ダイセル化学社製、商品名、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル類)、プラクセルFM2(同左)、プラクセルFM3(同左)、プラクセルFA1(同左)、プラクセルFA2(同左)、プラクセルFA3(同左)等が挙げられる。
上記その他のラジカル重合性不飽和単量体としては、例えば、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有不飽和単量体;例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸のC1〜C18のアルキル又はシクロアルキルエステル類、スチレンなどの芳香族ビニルモノマ−類、(メタ)アクリル酸アミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロ−ル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド及びその誘導体類、(メタ)アクリロニトリル化合物類等が挙げられる。
これ以外にも必要に応じて、例えば、キシレン、トルエンなどの芳香族類;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;も併用することができる。
ラジカル共重合に用いるラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クミルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンザンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウリルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物、α,α'−アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリルなどのアゾ化合物が挙げられる。
上記のようにして製造されたアクリル樹脂の重量平均分子量(注2)は、5,000〜150,000、好ましくは20,000〜100,000の範囲が好適である。
(注2)重量平均分子量:JIS K 0124−83に準じて行ない、分離カラムにTSK GEL4000HXL+G3000HXL+G2500HXL+G2000HXL(東ソー社製)を用いて40℃で流速1.0ml/分、溶離液にGPC用テトラヒドロフランを用いて、RI屈折計で得られたクロマトグラフとポリスチレンの検量線から計算により求めた。
上記メチロール化アミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂が好適であり、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部もしくは全部がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等の1種もしくは2種以上の1価アルコールで変性されたメラミン樹脂を使用することができる。
上記のメラミン樹脂の市販品としては、例えば、ユーバン20SE−60、ユーバン225(以上、いずれも三井化学社製、商品名)、スーパーベッカミンG840、スーパーベッカミンG821(以上、いずれも大日本インキ化学工業社製、商品名)などのブチルエーテル化メラミン樹脂;スミマールM−100、スミマールM−40S、スミマールM−55(以上、いずれも住友化学社製、商品名)、サイメル232、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370(以上、いずれも日本サイテックインダストリーズ社製、商品名)、ニカラックMS17、ニカラックMX15、ニカラックMX430、ニカラックMX600、(以上、いずれも三和ケミカル社製、商品名)、レジミン741(モンサント社製、商品名)等のメチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル235、サイメル202、サイメル238、サイメル254、サイメル272、サイメル1130(以上、いずれも三井サイテック社製、商品名)、スマミールM66B(住友化学社製、商品名)等のメチル化とイソブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂;サイメルXV805(三井サイテック社製、商品名)、ニカラックMS95(三和ケミカル社製、商品名)等のメチル化とn−ブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
ブロックポリイソシアネート化合物の市販品の例としては、バーノックD−750、−800、DN−950、−970もしくは15−455、(以上、大日本インキ化学工業社製、商品名)、デスモジュールL、N、HL、ILもしくはN3390(以上、バイエル社製品社製)、タケネートD−102、−202、−110Nもしくは123N(武田薬品工業社製、商品名)、コロネートL、HL、EHもしくは203(日本ポリウレタン工業社製、商品名)またはデュラネート24A−90CX(旭化成工業社製、商品名)等が挙げられる。
カルボキシル基含有樹脂の中和に用いる塩基性化合物は、エチルアミン、プロピルア
ミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノールなどの第1級モノアミン;ジエチルアミジエタノールアミン、ジ−n−またはジ−iso −プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどの第3級モノアミン;ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどのポリアミントリエチルアミンなどがある。
アニオン電着塗料(A)における、塩基性化合物の配合割合は、中和当量として0.1〜1.2当量の範囲が好ましく、カルボキシル基含有樹脂、架橋剤の固形分の総合計量に対して塩基性化合物が0.01〜10重量%の範囲、好ましく0.05〜5重量%である。カルボキシル基含有樹脂の水分散化は、カルボキシル基含有樹脂に、架橋剤、塩基性化合物、脱イオン水を加え、ディスパーなどで攪拌しながらエマルションを得ることができる。
該アニオン電着塗料を使用して塗膜を形成するには、上記で得られたアニオン電着塗料(A)を浴(図1(1))とし、この浴中に被塗物を浸漬した後、連続被膜形成最低温度以下の浴温度、好ましくは10〜20℃、さらに好ましくは14〜18℃で、通常の塗装電圧(120〜160V)で乾燥膜厚が約5〜30μmになるようにアニオン電着塗装を行い、必要に応じて、温度が0〜35℃程度の純水又は逆浸透膜(RO)水などの水で水洗を行い、さらに好ましくはセッティング又はエアブローを施した後、着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)を塗装する。
純水または逆浸透膜(RO)水は、夾雑イオンがなく仕上り性が良好となる。水洗水(C)の温度が0℃以下では、仕上り性が低下することとなり、35℃を越えるとガス穴が融着し、アニオン電着塗料(B)が下層に析出し難くなる。また、セッテングまたはエアブローを施すことによって水洗水(C)をなくしてアニオン電着塗料(B)が汚染することを防ぐ、さらにアニオン電着塗料(A)のガス穴へアニオン電着塗料(B)が析出し易くなる。
本発明に用いる着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)の電着塗装は、アニオン電着塗料を浴(図1(2))とし、浴温度が20〜35℃でかつ、アニオン電着塗料(A)の浴温度より5〜35℃高い温度にてアニオン電着塗装を行って塗膜を形成する。
アニオン電着塗料(B)の浴温度が20℃未満でも、または35℃を越えても、下層にアニオン電着塗料(B)に基づく塗膜、上層にアニオン電着塗料(A)に基づく塗膜を形成できなくなる。この理由としては、アニオン電着塗料(B)の浴温度が20℃未満では、アニオン電着塗料(B)のエマルション粒子の柔軟性が低下し、アニオン電着塗料(A)の塗膜のガス穴に塗料が析出してしまい、下層に良好な塗膜を形成することができず、またアニオン電着塗料(B)の浴温度が35℃を越えると塗料安定性を損なう為、正常な塗膜の析出が阻害されることが考えられる。
またアニオン電着塗料(B)の浴温度が20〜35℃の範囲であっても、アニオン電着塗料(A)の浴温度から5〜35℃高い範囲をはずれる場合は、下層にアニオン電着塗料(B)に基づく塗膜、上層にアニオン電着塗料(A)に基づく塗膜を形成できなくなる。この理由としては、アニオン電着塗料(A)の塗膜のガス穴にアニオン電着塗料(B)が析出してしまい、塗膜を形成することができなくなる為と考えられる。
アニオン電着塗料(B)のカルボキシル基含有樹脂、架橋剤は、それぞれアニオン電着塗料(A)において用いることができるものの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、カルボキシル基含有樹脂としては、例えば、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂が挙げられ、この中でも耐候性の面からアクリル樹脂が好適である。
架橋剤としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂、該メチロール化アミノ樹脂のアルキルエーテル化物及びブロックポリイソシアネート化合物があげられる。
上記メチロール化アミノ樹脂としては、メチロール化メラミン樹脂が好適であり、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基の一部もしくは全部がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等の1種もしくは2種以上の1価アルコールで変性されたメラミン樹脂を使用することができる。
アニオン電着塗料(B)において、カルボキシル基含有樹脂の中和に用いる塩基性化合物の配合割合は、中和当量として0.1〜1.2当量の範囲が好ましく、カルボキシル基含有樹脂、架橋剤の固形分の総合計量に対して塩基性化合物が0.01〜10重量%の範囲、好ましく0.05〜5重量%である。
カルボキシル基含有樹脂の水分散化は、カルボキシル基含有樹脂に、架橋剤、塩基性化合物、脱イオン水を加え、ディスパーなどで攪拌しながらエマルションを得ることができる。
なおアニオン電着塗料(B)は、必要に応じて、硬化触媒、表面調整剤を加えて、pH調整を行い、脱イオン水を加えて固形分5〜20重量%のアニオン電着塗料を得ることができる。
このようにして複層塗膜を形成するためには、アニオン電着塗料(A)の連続被膜形成最低温度が10〜22℃であって、アニオン電着塗料(A)を電着塗装するに際しての浴温度が該連続被膜形成最低温度以下であり、かつアニオン電着塗料(B)を電着塗装するに際しての浴温度が20〜35℃の範囲内であるとともに上記アニオン電着塗料(A)を電着塗装するに際しての浴温度より5〜35℃高い温度でなければならない。
アニオン電着塗料の連続被膜形成温度が10℃未満では、仕上り性が低下することとなり、22℃を越えるとガス穴が融着し、アニオン電着塗膜が下層に析出しなくなる。
また、アニオン電着塗料(B)を電着塗装するに際しての浴温度を20〜35℃の範囲であって、アニオン電着塗料(A)の電着塗装の際の浴温度より5〜35℃高い温度としなければならない。
アニオン電着塗料(B)の電着塗装浴の浴温度が20℃未満ではアニオン電着塗料(A)の塗膜の下層に析出しなくなり、また35℃を越えると塗料安定性を損なう。
アニオン電着塗料(B)の浴温度がアニオン電着塗料(A)の浴温度より5℃以下低いと仕上り性が低下することとなり、35℃以上高いと塗料安定性を損なうこととなる。
本発明の複層塗膜形成方法の一例として、例えば、アニオン電着塗料(A)として連続被膜形成最低温度が18℃であるものを用い、浴温10℃にて被塗物に電着塗装を行う。次に、好ましくは水洗を施し、さらに好ましくはセッティング又はエアブローを行った後、浴温20℃のアニオン電着塗料(B)の浴中に上記アニオン電着塗料(A)を電着塗装した被塗物を浸漬して電着塗装を行い、焼付け硬化することによって複層塗膜を形成する方法を挙げることができる。
製造例1 アクリル樹脂溶液No.1の製造例
反応容器中に混合溶剤A(注3)210部を仕込み85℃に保持した中へ以下の「混合物(A)」を3時間掛けて滴下し、次いでアゾビスジメチルバレロニトリル3部を添加し、85℃で4時間保持して反応を行って、固形分70重量%のアクリル樹脂溶液No.1を製造した。
混合物(A)
スチレン 10.5部
メチルメタクリレート 36.8部
n−ブチルアクリレート 3.7部
エチルアクリレート 20.0部
2−エチルヘキシルメタクリレート 4.0部
アクリル酸 5.5部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 12.0部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート 7.5部
アゾビスジメチルバレロニトリル 2.1部
(注3)混合溶剤A:プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)/イソプロピルアルコール(沸点82℃)/n−ブチルアルコール(沸点118℃)/エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)=42部/42部/42部/84部
表1の単量体とする以外は、製造例1と同様にして、アクリル樹脂溶液No.2〜No.4を得た。
上記の製造例1で得た70%のアクリル樹脂溶液No.1 92.7部(固形分65部)、サイメル232(注4)35部(固形分35部)、トリエチルアミン1.9部(0.4中和当量分)を加えて水分散後、脱イオン水で希釈して固形分8%、pH8.2のアニオン電着塗料No.1を得た。アニオン電着塗料No.1の連続被膜形成最低温度は、14℃であった。
(注4)サイメル232:三井サイテック社製、商品名、メチル/ブチルの混合エーテル化のメラミン樹脂)
配合内容を表2とする以外は、製造例5と同様にして、アニオン電着塗料No.2〜No.4を得た。
ボールミルに、60%アミン中和アクリル樹脂系顔料分散樹脂 9.6部(固形分5.8)、CR−97(石原産業社製、商品名、チタン白) 48.3、トダカラーKN−O(注5) 0.07部、TAROX LL50(注6) 0.9部、及び脱イオン水41.17部を仕込み、20時間分散処理し、固形分55%の顔料分散ぺーストを得た。
(注5)トダカラーKN−O:戸田工業社製、商品名、べんがら
(注6)TAROX LL50:チタン工業社製、商品名、黄色酸化鉄
上記の製造例1で得た70%のアクリル樹脂溶液No.1 85.7部(固形分60部)、サイメル232(注4)40部(固形分40部)、トリエチルアミン1.9部(0.4中和当量分)を加えて水分散後、製造例9で得た55%の顔料分散ぺースト100部を加えて攪拌し、脱イオン水で希釈して固形分12%、pH8.2のアニオン電着塗料No.5を得た。
試験板について
1次電解処理(脱脂−エッチング−中和−陽極酸化処理−封孔)を施した被膜厚さ約10μmのアルミニウム材(シルバー:大きさは150mm×70mm×0.5mm)を試験板として用いた。
以下の工程1〜4により、複層塗膜No.1を作成した。
工程1:上記の試験板を用いて、アニオン電着塗料No.1(連続被膜形成最低温度14℃)を浴温10℃にて、塗装電圧140Vで150秒間アニオン電着塗装を行った。得られた塗膜は10μmであった。
工程2:工程1で得られた塗膜を15℃の逆浸透膜(RO)水を用いて水洗し、その後、3分間室温でセッティングを施した。
工程3:アニオン電着塗料No.5を浴温22℃にて、塗装電圧170Vで150秒間アニオン電着塗装を行った。得られた塗膜は5μmであった。
工程4:180℃で20分間熱風乾燥機にて加熱乾燥した。焼付け乾燥後、複層塗膜として上層にアニオン電着塗料No.1に基く塗膜、下層にアニオン電着塗料No.5に基く塗膜が形成されていることを目視、及び走査型電子顕微鏡(日本電子社製 JSM−5310LV、にて測定、図3)にて確認した。
表3に示す工程とする以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜No.2〜No.5を得た。併せて、塗膜性能を示す。
以下の工程により、複層塗膜No.6を作成した。
工程1:上記の試験板を用いて、アニオン電着塗料No.2(連続被膜形成最低温度18℃)を浴温20℃にて、塗装電圧100Vで120秒間アニオン電着塗装を行った。得られた塗膜は5μmであった。
工程2:工程1で得られた塗膜を18℃の逆浸透膜(RO)水を用いて水洗し、その後、3分間室温でセッティングを施した。
工程3:アニオン電着塗料No.5を浴温22℃にて、塗装電圧200Vで150秒問アニオン電着塗装を行った。得られた塗膜は10μmであった。
工程4:180℃で20分間熱風乾燥機にて加熱乾燥した。焼付け乾燥後、下層にアニオン電着塗料No.2に基く塗膜、上層にアニオン電着塗料No.5に基く塗膜を形成することを目視、及び走査型電子顕微鏡写真(図4)にて確認した。
比較例2〜4
表4に示す工程とする以外は、比較例1と同様にして、複層塗膜No.7〜9を得た。併せて、塗膜性能を示す。
○は、塗膜上層に1回目に電着塗装を行ったアニオン電着塗料に基く塗膜、塗膜下層に2回目に電着塗装を行ったアニオン電着塗料に基く塗膜を目視、走査型電子顕微鏡写真にて確認できた。
△は、1回目に電着塗装を行ったアニオン電着塗料に基く塗膜と、2回目に電着塗装を行ったアニオン電着塗料に基く塗膜が塗膜表面で混在する。
×は、塗膜上層に2回目に電着塗装を行ったアニオン電着塗料に基く塗膜、塗膜下層に1回目に電着塗装を行ったアニオン電着塗料に基く塗膜を形成し、電着塗装を行った順番に複層塗膜を形成している。
(注8)耐候性:JIS K5400に準拠し、カーボンアーク灯式促進耐候性試験機サンシャインウェザオメーターを使用して塗膜の光沢を測定し、暴露試験前の光沢に対する光沢保持率が80%を割る時間を測定した。さらに塗膜表面を目視により観察した。
◎は、光沢保持率が80%を割る時間が3,000時間を越える
○は、光沢保持率が80%を割る時間が2,500時間以上、かつ3,000時間未満
○△は、光沢保持率が80%を割る時間が2,000時間以上、かつ2,500時間未満
△は、光沢保持率が80%を割る時間1,000時間以上、かつ2,000時間未満、
×は、光沢保持率が80%を割る時間1,000時間未満
(注9)仕上り性:
○は、良好
△は、ユズ肌、凹凸、ツヤムラ、ハジキ、ブツ、ヘコミにおける、いづれかの塗膜異常が認められる。
×は、ユズ肌、凹凸、ツヤムラ、ハジキ、ブツ、ヘコミにおける、いづれかの塗膜異常が著しい。
(注10)60度鏡面光沢度:複層塗膜の光沢の程度を、JIS K−5400 7.6(1990)の60度鏡面光沢度に従い、入射角と受光角とがそれぞれ60度のときの反射率を測定して、鏡面光沢度の基準面の光沢度を100としたときの百分率で表した。
(注11)密着性:40℃にて240時間浸漬したそれぞれの鋼板に、カッターナイフでクロスカットをいれて、セロテープ(ニチバン株式会社の登録商標)を貼り付けて瞬時に剥離した。
○は、異常のないもの
△は、塗膜の一部が剥離したもの
×は、塗膜が剥離したもの
2 着色顔料を含有するアニオン電着塗料の浴
3 水洗設備
4 被塗物
5 連続被膜形成最低温度(MFT)
6 素材
7 処理被膜
8 着色顔料を含有する塗膜
9 クリヤ塗膜
Claims (2)
- 被塗物に、着色顔料を含有しないアニオン電着塗料(A)を電着塗装してアニオン電着塗料(A)に基づく未硬化の電着塗膜を形成し、ついで、該未硬化の電着塗膜を形成した被塗物に、着色顔料を含有するアニオン電着塗料(B)を電着塗装した後焼付けて、被塗物上にアニオン電着塗料(B)に基づく電着塗膜(B1)が形成され且つ該電着塗膜(B1)上にアニオン電着塗料(A)に基づく電着塗膜(A1)が形成された複層電着塗膜を形成する方法であって、アニオン電着塗料(A)の連続被膜形成最低温度が10〜22℃であって、アニオン電着塗料(A)を電着塗装するに際しての浴温度が該連続被膜形成最低温度以下であり、且つアニオン電着塗料(B)を電着塗装するに際しての浴温度が20〜35℃の範囲内であるとともに、アニオン電着塗料(A)を電着塗装するに際しての浴温度より5〜35℃高い温度であることを特徴とする複層電着塗膜形成方法。
- アニオン電着塗料(A)がカルボキシル基含有樹脂を30〜90重量%及び架橋剤を70〜10重量%含有し、アニオン電着塗料(B)がカルボキシル基含有樹脂を20〜65重量%、架橋剤を5〜30重量%及び顔料成分を1〜40重量%含有する、請求項1に記載の複層電着塗膜形成方法。
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