JP4520028B2 - ロケットフェアリングの防音構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロケット先端部に人工衛星を格納するために取り付けられるフェアリングの防音構造に係るもので、より詳しくは、ロケットの打ち上げ時や飛翔時にフェアリングが高音響に晒されても、フェアリング内部に収納されている人工衛星に音響疲労が生じないようにするため、人工衛星周囲の音圧を著しく低減させるためのロケットフェアリングの防音構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ロケットフェアリングは軽量でかつ高剛性が要求されるため、アルミ或いはCFRPを面板とするハニカム構造体が用いられている。フェアリングの内部は、吸音率が非常に小さいパネルで囲まれているため、ロケットの打ち上げ時や飛翔時にはフェアリング内で音がこもり、人工衛星の外周部は非常に大きな音圧となる。
このような人工衛星に対する耐音響強度設計を行う場合、人工衛星とフェアリングとの間隔が狭い部位で特に音圧が大きくなるというフィルイフェクト現象が明らかでなかったため、耐音響環境はフィルイフェクト現象も包含する仕様で規定していた。
また、フェアリング内部の吸音力を増加させるために、フェアリング内面に防音ブランケット(吸音材)を貼着するという対策が行われていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、人工衛星に対する耐音響強度設計を行う場合、人工衛星とフェアリングとの間隔が狭い部位で特に音圧が大きくなるというフィルイフェクト現象を包含した仕様で耐音響環境を規定すると、人工衛星の耐音響設計は過大となるため、人工衛星の重量が増加して開発費増加の要因となっていた。
一方、フェアリング内部の吸音力を増加させるために、フェアリング内面に防音ブランケット(吸音材)を貼着する方法では、フェアリング内部の音圧レベルは下がるものの、特に数百ヘルツ以下の低域周波数帯では吸音材付加による重量増加に比べ音圧低減効果は少なかった。また、フェアリング内面の面板と人工衛星の外周部との間隔が狭い部位では、厚みのある吸音材を装備し難いという問題があった。
【0004】
本発明は、フェアリング内部の吸音性能を向上させる方法として、吸音材等を新規に付加するのではなく、共鳴吸音及び膜状吸音の原理を用いて、重量増加を極力抑制しながら周波数帯での吸音性能を大きくするものである。
また、フェアリング内部に搭載する人工衛星の外形形状に応じて、人工衛星の外周部で局部的に音圧が大きくなる部位に吸音対策を施すことにより、重量増加や施工コストの増加を低減させるものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ロケット打上げ時及び飛翔時に人工衛星を格納しておくハニカム体の外殻を有するフェアリングにおいて、
前記ハニカム体の内面部に複数のリブを立設すると共に、
前記リブに多孔板を覆設し、フェアリング内部空間側に前記多孔板を設けたことを特徴とするロケットフェアリングの防音構造である。
【0006】
また本発明は、前記ハニカム体の内面部の面板に、各ハニカムコアに通じる穴を少なくとも一個以上貫設したことを特徴とする。
【0007】
また本発明は、前記多孔板のフェアリング内部空間側に孔隙を有するシートを張着したことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記ハニカム体の内面部の面板に、各ハニカムコアに通じる穴を少なくとも一個以上貫設すると共に、前記面板に孔隙を有するシートを張着したことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、ロケット打上げ時及び飛翔時に人工衛星を格納しておくハニカム体の外殻を有するフェアリングにおいて、前記ハニカム体の内面部と前記フェアリング内部に格納された人工衛星との間隔が狭い部位に、ロケットフェアリングの防音構造を局所的に設けたことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく適宜変更して実施が可能である。
図1は、本発明の第1実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。同図において、ハニカム体1はフェアリング9(図2参照)の外殻11と面板12に挟持されたハニカムコア14より形成されている。前記面板12上には、適宜の間隔にて複数のリブ2を垂設し、該リブ2に多孔板3を覆設した構造としている。
これにより、共鳴吸音による垂直入射吸音率を大きくしてフェアリング9内部空間の音圧の低減を図るものである。前記吸音率は面板12と多孔板3により形成された空間6と多孔板3の穴径との関係で定まる周波数に影響され、該周波数は空間6の体積と穴31の開口面積を変更することにより任意に設定できる。
【0012】
図2は人工衛星7を打ち上げるロケット8の概略図を示したもので、(a)は全体図、(b)はA部を拡大したフェアリング9の概略正面断面図、(c)はB部の第1実施形態を示す拡大断面図である。同図において、フェアリング9はロケット8本体の先端部に取り付けられる。該フェアリング9の先端部は空気抵抗が少なくなるようにコーン状91とし、人工衛星7を搭載する部位は円筒状92とするのが一般的である。このフェアリング9は軽量で、且つ剛性を大きくする必要があることから、アルミニウムやCFRPを面板とするハニカムが主として用いられている。
ロケット8打上後に該ロケット8が所定位置に達すると、フェアリング9はコーン状91部及び円筒状92部が半割れ状に分離・開筒すると同時に前記人工衛星7をフェアリング9の外側、即ち宇宙空間へ放出する。このように、フェアリング9は人工衛星7を宇宙空間まで安全に運ぶための保護ケースとしての役割を果たしている。
【0013】
ロケット8の打上げ時及び飛翔時には、フェアリング9の周囲は非常に大きな音圧が発生し、この音圧がフェアリング9を振動させてフェアリング9内部にも音を放射すると共に、フェアリング9内部全体に音波が透過して、該フェアリング9内部の音圧が大きくなる。さらに、フェアリング9の外殻11を形成するハニカム体1の面板12は非常に吸音率の小さいアルミ等から構成されているため、フェアリング9内部の空間の音はビルドアップする。
人工衛星7はこのフェアリング9内部の音環境に晒されるから、該人工衛星7は音響によって振動し疲労破壊をおこす恐れがある。そこで、音響疲労が起こらないようにフェアリング9内部の音圧を低減する方法として、前記第1実施形態に示す防音構造としたものである。
【0014】
図3は、本発明の第2実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。同図において、ハニカム体1はフェアリング9の外殻11と面板12に挟持されたハニカムコア14より形成されている。前記面板12上には、各ハニカムコア14の空間16に通じる穴13を少なくとも一個以上、例えば1個〜4個貫設している。
これにより、共鳴吸音による垂直入射吸音率を大きくしてフェアリング9内部空間の音圧の低減を図るものである。吸音率は前記ハニカムコア14と前記面板12にあけられた穴13との関係で定まる周波数に影響され、該周波数は空間16の体積と穴13の開口面積を変更することにより任意に設定できる。
【0015】
図4は、本発明の第3実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。同図において、ハニカム体1はフェアリング9の外殻11と面板12に挟持されたハニカムコア14より形成されている。前記面板12上には、適宜の間隔にて複数のリブ2を垂設し、該リブ2に多孔板3を覆設している。さらに、該多孔板3のリブ2を垂設した反対面には孔隙を有するシート4、例えば、ワイヤメッシュ、フィルター、繊維状の吸音材、発泡金属等を張着する。
これにより、共鳴吸音による垂直入射吸音率を大きくしてフェアリング9内部空間の音圧の低減を図るものである。吸音率は前記面板12と前記多孔板3により形成された空間6と前記多孔板3の穴径との関係で定まる周波数に影響され、該周波数は空間6の体積と穴31の開口面積を変更することにより任意に設定できる。
また、前記孔隙を有するシート4を前記多孔板3に張着することにより、音波が通過するときの流れ抵抗が増大して、吸音効果の高い周波数範囲を広げることができる。
【0016】
図5は、本発明の第4実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。同図において、ハニカム体1はフェアリング9の外殻11と面板12に挟持されたハニカムコア14より形成されている。前記面板12上には、各ハニカムコア14の空間16に通じる穴13を少なくとも一個以上、例えば1個〜4個貫設している。
さらに、前記面板12上には孔隙を有するシート4、例えば、ワイヤメッシュ、フィルター、繊維状の吸音材、発泡金属等を張着する。
これにより、共鳴吸音による垂直入射吸音率を大きくしてフェアリング9の内部空間の音圧の低減を図るものである。吸音率は前記ハニカムコア14の空間16と前記面板12にあけられた穴13との関係で定まる周波数に影響され、該周波数はハニカムコア14の1セルの体積と穴の開口面積を変更することにより任意に設定できる。
また、前記孔隙を有するシート4を前記面板12上に張着することにより、音波が通過するときの流れ抵抗が増大して、吸音効果の高い周波数範囲を広げることができる。
【0017】
図6は、本発明の第5実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。同図において、ハニカム体1はフェアリング9の外殻11と面板12に挟持されたハニカムコア14より形成されている。前記面板12上には、適宜の間隔にて複数のリブ2を垂設し、該リブ2に孔隙を有しないシート5、例えば、0.1〜1mm厚さのゴム系シートを張着する。また、可撓性を有する合成樹脂シート等を張着してもよい。
これにより、フェアリング9の内部の音圧が前記シート5を振動させ、該シート5の質量及びシート背後の空間6がバネとして作用する振動数において、膜状吸音の原理に基づいて吸音率を大きくすることができる。該シート5は非常に薄くても充分な効果が得られるので、殆ど重量増加することなく所望の周波数帯において吸音性能を向上できるという利点がある。
【0018】
図7は、本発明の第6実施形態を示すフェアリング部の概略側面断面図である。同図に示すように、本発明の第1〜5いずれかの実施形態によるロケットフェアリングの防音構造を、ハニカム体1の内面部と前記人工衛星7の外周部との間隔が狭い部位Nに局所的に設けたものである。
【0019】
【実施例】
図8は、インピーダンスチューブを用いて、ハニカム構造の垂直入射吸音率を計測した結果を示すものであり、横軸は1/3オクターブバンド周波数(Hz)を、縦軸は吸音率(割合)を示す。また、a線は孔径0.6mm,b線は孔径1.8mmを示したもので、共鳴周波数はいずれも2500Hz付近で最も吸音率が大きいことが確認された。
また、孔径を小さくすると吸音率が大きくなることより、重量を増加させることなく吸音効率を向上させることが可能となる。
【0020】
図9は、本発明の第4実施形態による防音構造について、垂直入射吸音率を計測した結果を示すものであり、横軸は1/3オクターブバンド周波数(Hz)を、縦軸は吸音率(割合)を示す。また、a線は0.4mmのステンレスワイヤメッシュシートを張着したもの、b線は0.9mmのステンレスワイヤメッシュシートを張着したものであり、c線は比較例としてステンレスワイヤシートを張着しないものを示している。
図よりあきらかなように、ステンレスワイヤメッシュシートを張着したもの(a,b)の方が、ステンレスワイヤメッシュシートを張着しないもの(c)よりも、広い周波数帯において高い吸音率を示すことが確認された。これは、ワイヤメッシュシート部を音波が通過するときに流れ抵抗が増大し、この抵抗の増加が吸音率を向上させると推定できる。
【0021】
図10は本発明の第5実施形態による防音構造について、垂直入射吸音率を計測したもので、(a)は計測方法の説明図であり、(b)は垂直入射吸音率を計測した結果である。図中で横軸は周波数(Hz)を、縦軸は吸音率(割合)を示す。図10(a)において、0.5mm厚さのネオブチレンゴムシートを用いて、前記シートと面板との間に背後空気層δを設け、シート面に音波を放射する。図10(b)において、a線は背後空気層δが70mm、b線は背後空気層δが50mm、c線は背後空気層δが30mm、d線は背後空気層δが0mmとしたものを示している。図よりあきらかなように、背後空気層δがない場合は殆ど吸音しないが、30mm〜70mmの背後空気層δを設けると、吸音率の最大値は背後空気層δの数値により異なるが160〜600Hzの周波数帯において高い吸音率を示すことが確認された。
【0022】
図11はフィルイフェクト量の計算値を示したもので、(a)は周波数と音圧増加量の関係を示した図であり、(b)はフェアリングと人工衛星の間隔を示す説明図である。
フィルイフェクト現象とは、フェアリング9内の人工衛星7まわりの音圧が場所によって異なり、フェアリング9と人工衛星7の間隔が狭いところでは特に音圧が大きくなるという現象をいう。
この現象を解析的に求めたものが図11(a)であり、横軸に周波数(Hz)を、縦軸には人工衛星7を搭載しないときの音圧を0として、人工衛星7を搭載した場合の音圧増加量(dB)を示す。また、図中の各線は図11(b)に示す間隙H(メートル)のパラメーターである。図よりあきらかなように、周波数(Hz)が低いほど又は間隔Hが狭いほど音圧増加量が大きい。
【0023】
人工衛星7の耐音響疲労強度を確認するには、一様な拡散音場に人工衛星7を設置した音響試験が行われており、人工衛星7まわりの音圧を同レベルにすることが望ましい。すなわち、フェアリング9と人工衛星7との間隔Hが狭い部位に着目して防音対策を行えば、人工衛星7に対する耐音響試験で与える音響環境が小さくなるため、人工衛星7の耐音響設計値を低減することができる。
かかる観点から、搭載する人工衛星7の形状に応じて、特にフェアリング9と人工衛星7の間隔Hが狭い部位を対象として、第1〜5実施形態による吸音構造を設けることにより、重量増加及び施工コストを極力抑えることができる。
【0024】
【発明の効果】
本発明によるロケットフェアリングの防音構造は以上のように構成されており、以下に示すような効果を奏する。
フェアリング内部の吸音性能を向上させる方法として、共鳴吸音及び膜状吸音の原理を用いたので、フェアリングの重量増加を極力抑制しながら所望する周波数帯での吸音性能の向上を図ることができ、フェアリング内部に搭載した人工衛星に及ぼす音響疲労破壊の恐れを未然に防止することができる。
【0025】
また、人工衛星の耐音響環境を設定する場合に、フィルイフェクト現象も包含した仕様で規定していたが、本発明による防音構造とすることにより、より微小な重量増加で足りる効率的な人工衛星の耐音響設計が行える。
【0026】
また、フェアリング内部に搭載する人工衛星の外形形状に応じて、人工衛星の外周部で局部的に音圧が大きくなる部位に、本発明による防音構造を施工することにより、重量増加や施工コストの増加を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図2】人工衛星を打ち上げるロケットの概略図を示したもので、(a)は全体図、(b)はA部を拡大したフェアリングの概略正面断面図、(c)はB部の拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図5】本発明の第4実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図6】本発明の第5実施形態を示すもので、(a)は部分側面断面図であり、(b)は部分斜視図である。
【図7】本発明の第6実施形態を示すフェアリング部の概略側面断面図である。
【図8】インピーダンスチューブを用いて、ハニカム構造の垂直入射吸音率の計測を行なった結果を示す図である。
【図9】本発明の第4実施形態による防音構造について、垂直入射吸音率を計測した結果を示す図である。
【図10】本発明の第5実施形態による防音構造について、垂直入射吸音率を計測したもので、(a)は計測方法の説明図であり、(b)は垂直入射吸音率を計測した結果を示す図である。
【図11】フィルイフェクト量の計算値を示したもので、(a)は周波数と音圧増加量の関係を示した図であり、(b)はフェアリングと人工衛星の間隔を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ハニカム体
2 リブ
3 多孔板
4 孔隙を有するシート
5 孔隙を有しないシ−ト
6 空間
7 人工衛星
8 ロケット
9 フェアリング
11 外殻
12 面板
13、31 穴
14 ハニカムコア
16 コアの空間
91 コーン状
92 円筒状
H 間隙
N 間隙が狭い部位
δ 背後空気層
Claims (5)
- ロケット打上げ時及び飛翔時に人工衛星を格納しておくハニカム体の外殻を有するフェアリングにおいて、
前記ハニカム体の内面部に複数のリブを立設すると共に、
前記リブに多孔板を覆設し、フェアリング内部空間側に前記多孔板を設けたことを特徴とするロケットフェアリングの防音構造。 - 前記ハニカム体の内面部の面板に、各ハニカムコアに通じる穴を少なくとも一個以上貫設したことを特徴とする請求項1に記載のロケットフェアリングの防音構造。
- 前記多孔板のフェアリング内部空間側に孔隙を有するシートを張着したことを特徴とする請求項1または2に記載のロケットフェアリングの防音構造。
- 前記ハニカム体の内面部の面板に、各ハニカムコアに通じる穴を少なくとも一個以上貫設すると共に、前記面板に孔隙を有するシートを張着したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のロケットフェアリングの防音構造。
- ロケット打上げ時及び飛翔時に人工衛星を格納しておくハニカム体の外殻を有するフェアリングにおいて、前記ハニカム体の内面部と前記フェアリング内部に格納された人工衛星との間隔が狭い部位に、ロケットフェアリングの防音構造を局所的に設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のロケットフェアリングの防音構造。
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