本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、潜熱蓄熱材による良好な潜熱の保持及び放出が安定的に行われ得る、簡略な装置構成の始動促進装置を提供することにある。
(1)本発明の対象となる始動促進装置は、過冷却状態にて潜熱を保持し当該過冷却状態が解除されることで前記潜熱を放出する潜熱蓄熱材を、液密的に収容し得るように構成された潜熱蓄熱材収容部を備えていて、エンジンの始動を熱的に促進し得るように構成されている。
前記発核部材は、表面が前記潜熱蓄熱材収容部内に収容された前記潜熱蓄熱材と接触し得るように配置されていて、前記潜熱蓄熱材内で前記表面に応力が発生することで当該潜熱蓄熱材の前記過冷却状態を解除し得るように構成されている。すなわち、当該発核部材は、前記潜熱蓄熱材と接触する前記表面に応力が発生することで、過冷却状態の前記潜熱蓄熱材に対して所定の刺激(例えば、当該潜熱蓄熱材による濡れが生じていない新規な面との接触による物理化学的な刺激、電流や電圧の印加による電気的な刺激、等)を与え得るように構成されている。
かかる構成においては、前記エンジンの始動の際に、前記発核部材変形機構によって、前記発核部材が変形させられる。この発核部材の変形により、当該発核部材における、前記潜熱蓄熱材と接触する表面に、応力が発生する。これにより、過冷却状態の前記潜熱蓄熱材における、上述の応力が発生した前記発核部材の前記表面と接触した微小な部分に、上述の所定の刺激が与えられる。この刺激によって当該部分の過冷却状態が解除されることで、当該部分にて固相の核が生じる(発核する)。この固相の核が、その周囲の過冷却状態の前記潜熱蓄熱材と接触することで、当該潜熱蓄熱材における過冷却状態が順次解除される。この過冷却状態の解除によって、潜熱の放出が行われる。この放出された潜熱が、前記エンジンの各部に伝熱することで、当該エンジンの始動が熱的に促進される。
(1’)ここで、前記発核部材の前記表面が、金属や合成樹脂(フッ素系を除く)等の、前記潜熱蓄熱材に対して良好ないし適度の濡れ性(wettability)・親和性(affinity)を有する材質の表面であることが好適である。特に、前記発核部材がバネ鋼から構成されることが好適である。これにより、前記潜熱蓄熱材の過冷却状態がより確実に解除され、この過冷却状態の当該潜熱蓄熱材から潜熱の放出がより良好に行われ得る。
(1”)前記潜熱蓄熱材収容部は、前記エンジン本体(エンジンブロック)を構成するシリンダブロックに形成された空洞部からなり、その空洞部は、前記シリンダブロックに形成されたウォータージャケットと液密的に区分されていてもよい。
かかる構成によれば、前記シリンダブロックに前記略円筒状の空間を形成した後に、当該空間内に前記セパレーターを収容するだけで、前記ウォータージャケットと前記潜熱蓄熱材収容部とが形成され得る。また、前記セパレーターによって前記空間が複数の空間に区分されたうちの1つの空間に、前記潜熱蓄熱材が充填される。すなわち、前記シリンダブロックと前記潜熱蓄熱材とが直接接触する。これにより、前記潜熱蓄熱材に保持された潜熱が当該シリンダブロックに直接的に伝熱される。よって、放出された当該潜熱によってシリンダブロックが効率的に暖められる。したがって、暖機運転がさらに促進され得る。
あるいは、前記潜熱蓄熱材収容部は、前記エンジンの本体を構成するシリンダブロックに形成されたウォータージャケット内に収容され得るように構成された潜熱蓄熱材容器から構成されていてもよい。
また、かかる構成によれば、始動時に前記潜熱蓄熱材から放出された前記潜熱によって、前記ウォータージャケット内の冷却水が温められる。そして、この温められた冷却水を介して、前記エンジンの各部が暖められる。特に、車内暖房用ヒータ等の、前記エンジン本体の周辺装置の暖機性をも向上することが可能になる。
(2)前記発核部材の前記表面には、ノッチが形成されていてもよい。このノッチは、例えば、前記表面に形成されたV字状又はスリット状の溝や、前記発核部材に対して打ち抜き等により形成されたV字状又はスリット状の切り欠き等の、所定の工具による所定の形状・寸法のノッチとして形成され得る。あるいは、このノッチは、例えば、金属の繰り返し変形による疲労亀裂や、破断面同士を金型による塑性加工(プレス加工等)により接続することで形成された微小亀裂等の、不随意な形状・寸法のノッチとして形成され得る。さらには、このノッチは、上述の所定の形状・寸法のノッチの先端にて、応力集中等によって形成された、上述の不随意な形状・寸法のノッチとして形成され得る。
かかる構成においては、前記発核部材の前記表面に発生した応力により、前記ノッチのエッジ部の状態が変化する。これにより、当該ノッチの先端部と接触した微小な部分にて、発核が生じる。かかる構成によれば、過冷却状態の前記潜熱蓄熱材における発核が、より確実に生じ得る。
前記発核部材は、可撓性の板状部材から構成されている。前記発核部材変形機構は、気密的に形成された空気室と、前記エンジンの運転によって大気圧と異なる空気圧が発生する圧力発生部と前記空気室とを気密的に接続する接続管と、を備えている。そして、前記板状部材は、前記空気室内の空気圧に応じて変形し得るように、当該空気室の外形に沿って配置されている。
前記圧力発生部としては、例えば、前記エンジンの吸入空気流路にて負圧が発生している部分(例えばサージタンク及びその周辺)や、バキュームポンプ等を用いることが可能である。
かかる構成においては、前記エンジンの始動の際に、前記圧力発生部にて、大気圧と異なる空気圧(正圧又は負圧)が発生する。この空気圧の影響が、前記接続管を介して、前記空気室に及ぼされる。これにより、当該空気室の容積が変化する。すなわち、当該空気室の外形形状が変化する。この空気室の容積の変化(外形形状の変化)により、前記板状部材が変形する。この板状部材の変形によって、当該板状部材の表面と接触する過冷却状態の前記潜熱蓄熱材の微小部分にて、発核が生じる。
(4)前記発核部材には、前記空気室を形成する凹部が形成されていて、その凹部の内側には、前記空気室の気密性を高めるためのコーティング層が形成されていてもよい。
かかる構成によれば、前記発核部材変形機構が作動する際に、前記潜熱蓄熱材が所定の空間内から漏れ出したり、当該所定の空間内に異物が侵入したりすることが防止され得る。特に、前記圧力発生部が負圧発生部であって、当該負圧発生部における負圧の影響が前記空気室に及ぼされるように、前記発核部材変形機構が構成されている場合に、当該空気室内に前記潜熱蓄熱材が漏れ出すことが、前記コーティング層によって防止され得る。
(5)前記潜熱蓄熱材収容部が、前記エンジンの本体を構成するシリンダブロックに形成されたウォータージャケット内に収容され得るように構成された潜熱蓄熱材容器から構成されていて、前記発核部材が前記潜熱蓄熱材容器内に収容されていてもよい。
かかるウォータージャケットは、ピストンを往復移動可能に収容するシリンダを囲むように、前記シリンダブロックに形成された略円筒状(tubelike/tubular type)の空間(空洞部)から構成されている。
かかる構成においては、始動の際に、前記発核部材変形機構が動作することで、前記潜熱蓄熱材から潜熱が放出される。この放出された潜熱は、前記潜熱蓄熱材容器と前記ウォータージャケットとの間隙に充填された前記冷却水に伝達される。そして、この冷却水に伝達された熱によって前記シリンダブロックが加熱される。これにより、可及的に偏りなくシリンダブロックが加熱され得る。
また、暖機運転終了後は、前記ウォータージャケットの内壁面と前記潜熱蓄熱材容器の外壁面との間隙を前記冷却水が通過する。すなわち、高負荷時であっても、エンジンのサイクル運動によって発生する熱(燃焼熱及び摩擦熱)が、前記エンジンブロックを介して直接的に前記潜熱蓄熱材に伝達されるのではなく、前記ウォータージャケット内の前記冷却水を介して間接的に前記潜熱蓄熱材に伝達される。よって、暖機運転終了後における前記潜熱蓄熱材の過熱(例えば130℃以上になること)がより効果的に抑制され得る。
(5’)ここで、前記潜熱蓄熱材容器の、少なくとも前記潜熱蓄熱材と接触する表面が、前記潜熱蓄熱材に対する濡れ性・親和性が低い材質の表面から構成されていてもよい。この材質としては、例えば、フッ素系合成樹脂等が挙げられる。
かかる構成によれば、例えば外気温度が極低温であるために、前記エンジンの停止中に前記潜熱蓄熱材がきわめて低温になった場合であっても、前記潜熱蓄熱材容器の前記潜熱蓄熱材と接触する表面にて、過冷却状態の前記潜熱蓄熱材が誤って発核して潜熱が放出されてしまうことが抑制され得る。
(6)前記発核部材が、凹部を有する可撓性の薄板から構成され、前記潜熱蓄熱材容器が、凹状の容器本体と、その容器本体と接合されることで当該容器本体を支持する平板状の支持板と、から構成され、前記支持板の、前記容器本体が接合された側の表面に、当該表面と前記薄板の前記凹部とによって空間が形成されるように、当該薄板が接合され、前記支持板に、前記空間内の空気を排気するための排気通路が形成されていてもよい。すなわち、かかる構成においては、前記発核部材変形機構は、前記排気通路から構成されている。
この排気通路は、具体的には、例えば、以下のようにして、平板状の前記支持板の内部に形成され得る。まず、棒状の中子を用いて合成樹脂を射出成形する。これにより、当該中子の形状に即した形状の空洞が、平板状の部材の内部に、当該平板の厚さ方向と垂直な方向に沿って形成される。次に、前記発核部材を構成する前記薄板が接合される側から、前記空洞と連通するように、連通孔が形成される。この連通孔及び空洞によって、前記排気通路が構成される。そして、この連通孔を塞ぐように、前記薄板が、前記表面に接合される。
すなわち、かかる構成においては、前記支持板における前記容器本体が接合された側の表面と、前記薄板の前記凹部とによって形成された空間によって、前記空気室が構成されている。
かかる構成においては、前記エンジンの始動の際に、前記支持板の前記表面と前記薄板の前記凹部とによって形成された前記空間内の空気が、前記排気通路を介して排出される。これにより、当該空間の容積が小さくなり、前記薄板が変形する。この薄板の変形により、過冷却状態の前記潜熱蓄熱材にて発核が生じる。
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において取り敢えず出願人が最良と考えている実施形態)について図面を参照しつつ説明する。
<エンジンの概略構成>
図1は、本発明の一実施形態である始動促進装置(潜熱蓄熱装置)を備えたエンジン10の内部構成を説明するための側断面図である。なお、本エンジン10が複数気筒のエンジンである場合には、図1は、気筒配列方向と垂直な断面における断面図に相当するものとする。
本実施形態のエンジン10は、ガソリンエンジンであって、シリンダヘッド20と、シリンダブロック30とから構成されている。シリンダヘッド20とシリンダブロック30との接続部には、シリンダヘッドガスケット21が介装されている。このシリンダヘッドガスケット21には、冷却水Cが通過可能な貫通孔21aが形成されている。この貫通孔21aは、シリンダブロック30(後述するウォータージャケット33)とシリンダヘッド20(後述するウォータージャケット20a)との間で冷却水Cが交流可能に構成されている。
シリンダヘッド20には、冷却水Cの流路であるウォータージャケット20aが形成されている。このウォータージャケット20aは、燃料混合気の通路である吸気ポート20bの近傍位置に形成されている。また、ウォータージャケット20aは、燃焼後のガスを排出する通路である排気ポート20cの近傍位置にも形成されている。さらに、ウォータージャケット20aは、吸気ポート20bを開閉可能に配置された吸気弁22と、排気ポート20cを開閉可能に配置された排気弁23との間の位置にも形成されている。
シリンダブロック30には、気筒の中心軸方向に沿って形成された「円筒形状の貫通孔」(cylindrical bore)であるブロックボア30aが形成されている。このブロックボア30a内には、薄肉円筒形状(thin wall tube-like)のシリンダライナ31が挿入されている。このシリンダライナ31の内側の空間によって、ピストン32を往復運動可能に収容するシリンダ30bが形成されている。また、当該シリンダライナ31の内側の円筒面によって、シリンダボア内壁30b1が形成されている。
シリンダブロック30の上部には、冷却水Cの流路であるウォータージャケット33が形成されている。このウォータージャケット33は、シリンダ30bの上部、及びシリンダライナ31の上部を囲むように形成された、略円筒状(tubelike/tubular type)の空洞部からなる。シリンダブロック30の外側の壁面であって、ウォータージャケット33に対応する位置には、当該シリンダブロック30から熱を外気に放出するための冷却フィン34が形成されている。
ウォータージャケット33内には、潜熱を放出可能に保持する潜熱蓄熱装置40が収納されている。ウォータージャケット33の内壁面と潜熱蓄熱装置40の外壁面との間には、冷却水が通過可能な間隙33aが形成されている。
潜熱蓄熱装置40は、潜熱蓄熱材LMを液密的に収容する潜熱蓄熱材容器50と、その潜熱蓄熱材容器50の内側に収容された発核装置60とを備えている。潜熱蓄熱材LMは、過冷却状態にて潜熱を保持し得るとともに当該過冷却状態が解除されることで前記潜熱を放出し得る物質であり、本実施形態においては、酢酸ナトリウム3水和物(CH3COONa・3H2O:融点58℃)からなる。この潜熱蓄熱材LMは、暖機運転終了時点の冷却水温(すなわち上述の開弁温度:例えば82℃程度)よりも低い融点を有する材料である。また、この潜熱蓄熱材LMは、当該融点を超える温度に加熱されることで液相(ゲル相)となった後、融点以下の温度(マイナス20℃〜マイナス30℃程度まで)に冷却されても固相に相変化を起こさず潜熱を保持したまま液相(ゲル相)の状態を保つ特性(すなわち過冷却性)を有し、融点以下の温度にて外部からの刺激により過冷却状態が解除されることで潜熱を放出し得る材料である。
以下、本実施形態における潜熱蓄熱装置40の具体的構成について詳述する。
<潜熱蓄熱材容器の構成>
図2は、図1に示した潜熱蓄熱装置40を拡大した側断面図である。
潜熱蓄熱材容器50は、容器本体51と、スペーサー突起52と、接続部53とから構成されていて、潜熱蓄熱材LMとの濡れ性・親和性が低いフッ素系の合成樹脂の板状部材によって一体に形成されている。
容器本体51は、ウォータージャケット33(図1参照)の内側に収容され得るように、当該ウォータージャケット33とほぼ相似形の、平面視にてリングドーナツ形状(エンジン10(図1参照)が複数気筒のエンジンである場合には、複数のリングドーナツをつなげた形状)の外形を有している。よって、図2は、容器本体51(及び潜熱蓄熱装置40)における、上述のリングドーナツ形状の断面の一端部を図示しているものとする。この容器本体51の内側には、潜熱蓄熱材LMを収容し得る空間である潜熱蓄熱材収容室51aが形成されている。この潜熱蓄熱材収容室51a内には、発核装置60が配置されている。この発核装置60の構成の説明については後述する。
容器本体51の側方及び下方の外壁面には、スペーサー突起52が、外側及び下側に突出するように設けられている。このスペーサー突起52は、図1に示されているように、ウォータージャケット33の内壁面と潜熱蓄熱装置40の外壁面との間に、冷却水が通過可能な間隙33aを形成するための部材である。
再び図2を参照すると、容器本体51の上方の外壁面から上方に突出するように、チューブ状の接続部53が形成されている。この接続部53は、潜熱蓄熱材収容室51a内の発核装置60と接続された管状部材である接続管70の外側表面を囲むように形成されている。また、当該接続管70の外側表面と、接続部53の内側表面とが接合されていて、当該接合部が接着剤等によってシールされている。このシールによって、潜熱蓄熱材LMが、潜熱蓄熱材収容室51a内から漏れ出さないように液密的に収容されている。
容器本体51における、接続部53が形成された部分と対向する内壁面から、上方に突出するように、係止突起54が形成されている。この係止突起54は、短い薄肉円筒状の突起であって、接続部53とともに、発核装置60を潜熱蓄熱材収容室51a内にて所定の位置に支持し得るように構成されている。
<発核装置の構成>
発核装置60は、内部に空気室60aを有する複数の発核部材61と、これら複数の発核部材61の間を接続する発核部材接続管62と、最下部の発核部材61から下方に延びるように形成された係合管63とから構成されている。
発核部材61は、表面が潜熱蓄熱材LMと接触するように、潜熱蓄熱材収容室51a内に配置されている。この発核部材61は、潜熱蓄熱材LMに対して良好ないし適度の濡れ性(wettability)・親和性(affinity)を有する材質であるバネ鋼からなる、可撓性の薄板から構成されている。
発核部材61は、略凸レンズ状の部材であって、球体の端部を平面で切断した形状の凹部61aが形成された、一対のコンタクトレンズ状の薄板状部材を向かい合わせたような形状に形成されている。そして、この凹部61aの内側の空間によって、上述の空気室60aが形成されている。すなわち、発核部材61は、空気室60aの外形に沿って配置・形成された可撓性の薄板状部材から構成されている。この発核部材61には、空気室60aの外側に向けて突出するように、複数の発核部61bが形成されている。この発核部61bの詳細な構成については後述する。
発核部材接続管62は、複数の発核部材61における空気室60aを接続するように形成されている。すなわち、発核部材61における複数の空気室60aは、気密的に形成されていて、当該複数の空気室60aの相互間は当該発核部材接続管62によって互いに連通している。また、係合管63は、係止突起54と係合することで、発核装置60の潜熱蓄熱材収容室51a内における位置決めを行い得るように構成されている。
さらに、最上部の発核部材61のうちの1つは、接続管70に接続されている。この接続管70は、エンジン運転時に負圧が発生する負圧発生部と、発核部材61における空気室60aとを、気密的に接続するための配管部材である。そして、発核部材61は、空気室60a内の空気が接続管70を介して排出されて、当該空気室60a内の空気圧が大気圧よりも低くなることで、内側に縮むように(つぶれるように)変形し得るように構成されている。
<<発核部材の詳細な構成>>
発核部61bは、上述のような発核部材61の変形によって圧縮応力が発生し、この圧縮応力によって潜熱蓄熱材LMの過冷却状態を解除し得るように構成されている。すなわち、当該発核部61bは、潜熱蓄熱材LMと接触する表面にて上述の圧縮応力が発生することで、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMに対して物理化学的な所定の刺激(当該潜熱蓄熱材LMによる濡れが生じていない新規な発核部材61の表面との接触による刺激)を与え得るように構成されている。
図3は、発核部材61を拡大した図であり、図3(A)は正面図、図3(B)は側断面図である。
発核部61bの頂部(突出方向における先端部)には、ノッチ61cが形成されている。このノッチ61cは、深さがミクロンオーダーないしナノメーターオーダーのきわめて微小な亀裂であって、当該ノッチ61cに相当する部分をプレス絞り(drawing)加工等によって一旦破断させた後に、プレス加工によって当該破断部分(破断面)をつなげることによって形成されている。かかるノッチ61cの形成方法の具体例については後述する。
図3(B)に示されているように、凹部61aの内側には、空気室60aの気密性を高めるための、コーティング層64が形成されている。このコーティング層64は、弾性変形が可能で柔軟な、ゴムや合成樹脂製の薄膜から構成されている。
<吸気系統の配管構成>
図4は、エンジン10における吸気系統80及び制御系統90の概略構成を示す図である。
図4に示されているように、吸気系統80は、シリンダヘッド20の吸気ポート20bと接続された吸気管81と、その吸気管81の上流側(吸入空気の流動方向における上流側)に配置されたエアフィルタ82とを備えている。
吸気管81の内部であって、エアフィルタ82の下流側(吸入空気の流動方向における下流側)には、スロットルバルブ83が配置されている。このスロットルバルブ83は、DCモータからなるスロットルバルブアクチュエータ83aを介して駆動されることで、吸気管81の開口断面積を可変とするように構成されている。吸気管81の内部であって、スロットルバルブ83の下流側には、燃焼室にスワール流を発生させるためのスワールコントロールバルブ84が配置されている。このスワールコントロールバルブ84は、DCモータからなるSCVアクチュエータ84aを介して駆動されることで、スワール量を調整し得るように構成されている。このスワールコントロールバルブ84の下流側には、燃料を吸気ポート20b内に噴射するインジェクタ24が配置されている。
吸気管81における、スロットルバルブ83とスワールコントロールバルブ84との間の位置には、吸気の脈動を防止するためのサージタンク85が設けられている。このサージタンク85と、上述の接続管70とは、接続管86を介して接続されている。この接続管86は、吸気管81にて発生する負圧によって、発核装置60における空気室60a(図2参照)の内側の空間から、接続管70を介して空気をサージタンク85へ排出させ得るように構成されている。
接続管86には、チェックバルブ87が介装されている。このチェックバルブ87は、サージタンク85から接続管86を介して接続管70に空気が流入することを禁止し、接続管86からサージタンク85へ空気が流入することを許可し得るように構成されている。
接続管86における、チェックバルブ87よりも接続管70側の位置には、当該接続管86から分岐するように分岐管88が設けられている。分岐管88は、接続管86(接続管70)と外気とを連通させ得るように、その端部が外気に向かって開口して形成されている。この分岐管88には、開閉弁89aが介装されている。この開閉弁89aは、閉弁されることによって接続管86(接続管70)と外気との連通を閉塞し得るように構成されている。また、接続管86における、分岐管88よりもサージタンク85側の位置には、開閉弁89bが介装されている。
すなわち、本実施形態においては、吸気管81(サージタンク85)、接続管86、接続管70、及び空気室60a(図2参照)によって、発核部材61(図2及び図3参照)を変形させることで当該発核部材61における表面に応力を発生させる、本発明の発核部材変形機構が構成されている。
<制御系統>
制御系統90は、CPU91と、ROM92と、RAM93と、バックアップRAM94と、インターフェース95とを備えている。これらは互いにバスで接続されている。ROM92には、CPU91が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及びパラメータ等が予め格納されている。RAM93及びバックアップRAM94は、CPU91がルーチンを実行する際に、必要に応じてデータを一時的に格納し得るように構成されている。バックアップRAM94は、電源が投入された状態でデータが格納されるとともに、この格納されたデータが電源遮断後も保持され得るように構成されている。
インターフェース95は、エアフローメータ96、スロットルポジションセンサ97、水温センサ98、及び開閉弁89a等と電気的に接続されている。エアフローメータ96は、エアフィルタ82とスロットルバルブ83との間に介装されている。このエアフローメータ96は、周知の熱線式エアフローメータからなり、吸気管81内を流れる吸入空気の単位時間あたりの質量流量に応じた電圧を出力するように構成されている。
水温センサ98は、シリンダブロック30におけるウォータージャケット33内の冷却水温(この冷却水温と暖機運転の進行状況とは高い相関関係を有している)に応じた電圧を出力するように構成されている。
上述の通りの構成を有する制御系統90は、エアフローメータ96、スロットルポジションセンサ97、水温センサ98等の各種センサからの信号がインターフェース95を介してCPU91に供給され、当該信号に応じたCPU91の演算結果に応じて開閉弁89a等の各種アクチュエータを作動させるための駆動信号を当該各種アクチュエータに向けて送出するように構成されている。
<発核部の形成方法>
次に、図3における発核部61bに形成されたノッチ61cの形成方法の具体例を、図5を用いて説明する。この具体例においては、初期の形状が平板状である被加工物Wに対して、金型を用いたプレス絞り加工を行うことで、発核装置60(及びノッチ61c)を形成する方法が行われているものとする。
まず、図5(A)に示されているように、凹状の第1プレス上型111と凸状の第1プレス下型121との間で、被加工物Wが加圧される(1回目のプレス絞り加工)。これにより、図2や図3(B)に示されているような、球体の端部を平面で切断した形状の凹部61aが形成される。
次に、図5(B)に示されているように、凹状の第2プレス上型112と凸状の第2プレス下型122との間で、上述の1回目のプレス絞り加工を経た被加工物Wが加圧される(2回目のプレス絞り加工)。
ここで、第2プレス上型112には、図2や図3(B)における発核部61bの突出量よりも大きな深さの凹部であるキャビティ112aが、当該発核部61bに対応する位置に形成されている。同様に、第2プレス下型122には、当該キャビティ112aに収容される突起122aが、上述の発核部61bに対応する位置に形成されている。そして、第2プレス上型112のキャビティ112aと、第2プレス下型122の突起122aとの間には、被加工物Wの板厚分のクリアランスが形成されている。
図5(B)に示されているように、この2回目のプレス絞り加工によって、被加工物Wの、キャビティ112a及び突起122aに対応する位置には、図中上方に向けて突出する突起が形成される。そして、この突起の先端部には、破断による亀裂Gが形成される。
続いて、図5(C)に示されているように、凹状の第3プレス上型113と凸状の第3プレス下型123との間で、上述の2回目のプレス絞り加工を経た被加工物Wが加圧される(3回目のプレス絞り加工)。
ここで、第3プレス上型113には、図2や図3(B)における発核部61bの外側形状に相当する形状の凹部であるキャビティ113aが、当該発核部61bに対応する位置に形成されている。同様に、第3プレス下型123には、当該キャビティ113aに収容される突起123aが、上述の発核部61bに対応する位置に形成されている。この突起123aは、図2や図3(B)における発核部61bの外側形状に相当する形状の凸部として形成されている。そして、第3プレス上型113のキャビティ113aと、第3プレス下型123の突起123aとの間には、被加工物Wの板厚分のクリアランスが形成されている。
図5(C)に示されているように、この3回目のプレス絞り加工によって、被加工物Wの、キャビティ113a及び突起123aに対応する位置には、図2や図3(B)における発核部61bの形状に相当する形状の、上方に突出する突起が形成される。この3回目のプレス絞り加工の際に、図5(B)における亀裂Gの両端部が圧縮されることで接続され、図5(C)に示されているノッチ部が形成される。このノッチNは、図3に示されているノッチ61cに相当するものである。このノッチNは、潜熱蓄熱材LM(図2参照)や空気が通過しない程度に液密的・気密的に接続されている一方、当該ノッチNの外側表面には微小な亀裂が形成されている。
<実施形態の構成による動作>
次に、上述の構成を有する本実施形態の潜熱蓄熱装置40の動作について、図1ないし図4を参照しつつ説明する。
図4を参照すると、水温センサ98の出力に基づいて、冷却水温が所定の高温(例えば82℃程度)以上となったことがCPU91によって判定されると、暖機運転の終了が判定される。この判定結果は、バックアップRAM94に記憶される。
図1を参照すると、暖機運転終了後には、冷却水Cの温度が、潜熱蓄熱材LMの融点(58℃)よりもはるかに高温となっている。この場合、潜熱蓄熱材容器50内に収容されている潜熱蓄熱材LMの全量が、シリンダブロック30のウォータージャケット33内の冷却水Cによって、融点を超える温度に加熱される。これにより、当該潜熱蓄熱材LMの全量がゲル相となる。その後、エンジンが停止され、ウォータージャケット33内の冷却水Cの温度が外気温程度にまで低下しても、潜熱蓄熱材LMは、固相に相変化せずゲル相のまま過冷却状態となって、潜熱を保持している。
図4を参照すると、エンジン10が再始動される際に、前回の運転時における運転状態や、現在の始動時におけるエンジン10の各部の状態が、CPU91によって判定される。
ここで、水温センサ98の出力に基づく冷却水温の測定値が所定の低温(例えば20℃程度)よりも高い場合や、前回の運転時に冷却水温が上述の所定の高温以上となっていない(バックアップRAM94に上述の判定結果が記憶されていない)場合には、潜熱蓄熱装置40(図1参照)を作動させない。すなわち、開閉弁89bが閉鎖された後、開閉弁89aが開放される。これにより、接続管86及び接続管70を介して、発核装置60の空気室60a(図2及び図3参照)に外気が導入される。すなわち、当該空気室60a内の空気圧が大気圧と等しくなる。
一方、水温センサ98の出力に基づく冷却水温の測定値が、上述の所定の低温以下となっていることがCPU91によって判定されると、次に、潜熱蓄熱装置40(図1参照)を作動させ得るか否かが判定される。すなわち、CPU91によって、前回の運転時に冷却水温が上述の所定の高温以上となったか否か(バックアップRAM94に上述の判定結果が記憶されているか否か)が判定される。
前回の運転時に冷却水温が上述の所定の高温以上となったことが、CPU91によって判定された場合、潜熱蓄熱装置40(図1参照)を作動させ得ることが判定される。この場合、始動直後に、開閉弁89aが閉弁され、開閉弁89bが開弁される。これにより、吸気管81及びサージタンク85において発生した負圧の影響が、接続管86及び接続管70を介して、発核装置60の空気室60a(図2及び図3参照)に及ぼされる。すなわち、当該空気室60a内の空気圧が大気圧よりも低くなる。
図2及び図3を参照すると、空気室60a内の空気圧が大気圧よりも低くなることにより、発核部材61が内側につぶれるように変形する。この発核部材61の変形により、発核部61b(特にノッチ61cの近傍)に圧縮応力が発生する。これにより、ノッチ61cと接触している過冷却状態の潜熱蓄熱材LMの微小部分にて、当該過冷却状態が解除され、微小な固相の核が生成される。すなわち、ノッチ61cと接触している過冷却状態の潜熱蓄熱材LMにて、発核が生じる。
この発核は、以下のメカニズムによって生じるものと考えられる。ノッチ61cに対して応力がかかることで、当該ノッチ61cのエッジ部(端部や底部)にて、バネ鋼の新鮮面(潜熱蓄熱材LMによる濡れが生じていない新規な表面)が露呈する。この露呈した新鮮面との接触によって、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMに対して、物理化学的な刺激が与えられる。そして、当該刺激が与えられた、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMの微小部分にて、発核が生じる。
このようにして、発核装置60の作動によって形成された固相の核が、その周囲の過冷却状態の潜熱蓄熱材LMと接触することで、当該核の周囲の潜熱蓄熱材LMの過冷却状態が順次解除され、潜熱蓄熱材LMに蓄熱された潜熱が放出される。
再び図1を参照すると、上述のように過冷却状態の潜熱蓄熱材LMから取り出された潜熱が、潜熱蓄熱装置40の周囲のウォータージャケット33内の冷却水Cに伝達され、当該冷却水Cからシリンダブロック30の上部に伝達される。これにより、冷間始動時における暖機運転の進行が促進され得る。また、当該潜熱を受け取った冷却水Cがシリンダヘッド20のウォータージャケット20aに流入することで、シリンダヘッド20の吸気ポート20b及び吸気弁22の近傍位置が加熱される。これにより、冷間始動時において吸気ポート20bの内壁や吸気弁22の表面に気化燃料が凝縮して付着することが可及的に抑制され、以て混合気の空燃比変動が可及的に抑制され得る。
再び図4を参照すると、その後、開閉弁89bが閉鎖された後、開閉弁89aが開放される。これにより、接続管86及び接続管70を介して、発核装置60の空気室60a(図2及び図3参照)に外気が導入される。すなわち、当該空気室60a内の空気圧が大気圧と等しくなる。
再び図2及び図3を参照すると、接続管70を介して空気室60aに外気が導入され、空気室60a内の空気圧が大気圧と等しくなると、発核部材61の形状が、上述の変形状態から復元する。
<<実施形態の構成による作用・効果>>
以下、本実施形態の構成による作用・効果を、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態においては、図1ないし図4に示されているように、エンジン10の運転によって生じる負圧を発核装置60の空気室60aに導入して、当該発核装置60を変形させることで、冷間始動時における発核が行われている。これにより、きわめて簡略な装置構成を用いて、発核動作が確実に行われる。
ここで、図2を参照すると、本実施形態においては、発核部材61(発核部61b)の、潜熱蓄熱材LMと接触している表面が、バネ鋼から構成されている。このバネ鋼は、潜熱蓄熱材LMに対して良好ないし適度の濡れ性(wettability)・親和性(affinity)を有する材質である。これにより、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMにおける発核がより確実に行われ、当該過冷却状態の潜熱蓄熱材LMから潜熱の放出がより確実に行われ得る。
また、図2及び図3に示されているように、発核部材61(発核部61b)の、潜熱蓄熱材LMと接触する表面には、ノッチ61cが形成されている。これにより、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMにおける発核が、より確実に生じ得る。
図2を参照すると、本実施形態においては、潜熱蓄熱材容器50の、潜熱蓄熱材LMと接触する内側表面が、当該潜熱蓄熱材LMに対する濡れ性・親和性が低いフッ素系の合成樹脂の表面から構成されている。かかる構成によれば、例えば外気温度が極低温であるために、エンジン10の停止中に潜熱蓄熱材LMがきわめて低温になった場合であっても、潜熱蓄熱材容器50の前記内側表面にて、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMが誤って発核して潜熱が放出されてしまうことが抑制され得る。
また、図3(B)に示されているように、本実施形態においては、発核部材61(発核部61b)の、空気室60aと対向する内側表面に、当該空気室60bの気密性を高めるためのコーティング層64が形成されている。かかる構成によれば、発核部材61が変形する際に、潜熱蓄熱材LMが潜熱蓄熱材収容室51a(図2参照)から空気室60a側に漏れ出したり、当該潜熱蓄熱材収容室51a内に異物が侵入したりすることが防止され得る。
図1、図2、及び図4を参照すると、本実施形態においては、エンジン10が再始動される際に、前回の運転時における運転状態や、現在の始動時におけるエンジン10の各部の状態が、CPU91によって判定され、この判定結果に基づいて、潜熱蓄熱装置40(発核装置60)を作動させるか否かを判定している。すなわち、潜熱蓄熱装置40(発核装置60)を作動させる必要がない程度に、始動時の外気温が高い場合には、潜熱蓄熱装置40(発核装置60)を作動させない。また、前回の運転時にて、潜熱蓄熱装置40(潜熱蓄熱材容器50内の潜熱蓄熱材LM)に蓄熱された潜熱が放出された後に再度潜熱が蓄熱されなかった場合も、潜熱蓄熱装置40(発核装置60)を作動させない。これにより、潜熱蓄熱装置40(発核装置60)の耐久寿命を長くすることができる。
本実施形態においては、図1に示されているように、潜熱蓄熱装置40が、シリンダブロック30のウォータージャケット33内に収容されている。かかる構成によれば、エンジン始動時に、シリンダブロック30の内部のウォータージャケット33内にて、潜熱蓄熱材LMの過冷却状態の解除及び潜熱の放出が行われる。よって、当該過冷却状態の解除によって生じた熱が外気に逃げることなくシリンダブロック30に効率的に伝達される。また、潜熱蓄熱装置40がシリンダブロック30に内蔵されているので、エンジン10が小型化されるとともに、当該シリンダブロック30の外側面に冷却フィン34を障害なく形成することが可能になる。さらに、潜熱蓄熱材容器50をウォータージャケット33内に収容するという非常に簡略な構成で、良好な潜熱の保持(蓄熱)及び放出が実現され得る。
本実施形態においては、図1に示されているように、シリンダブロック30のウォータージャケット33の内壁面と潜熱蓄熱装置40の外壁面との間に、冷却水Cが通過可能な間隙33aが形成されている。かかる構成によれば、冷間始動の際に潜熱蓄熱材LMから潜熱が放出されると、この熱は潜熱蓄熱装置40とウォータージャケット33との間隙に充填された冷却水Cに伝達される。そして、この冷却水Cに伝達された熱によって、シリンダブロック30が、シリンダ30bの高さ方向について可及的に偏りなく加熱される。また、温度が上昇した冷却水Cがシリンダヘッド20を流れることで、吸気ポート20bを効率的に暖めることができる。さらに、暖機運転終了後は、ウォータージャケット33の内壁面と潜熱蓄熱装置40の外壁面との間隙を冷却水Cが通過することで、潜熱蓄熱装置40内の潜熱蓄熱材LMの過熱が防止され得る。また、冷間始動直後から、冷却水Cに伝えられた熱を介して、車内暖房用のヒータが効率的に暖められる。
<変形例の示唆>
なお、上述の実施形態及び実施例は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の実施形態等を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態等に何ら限定されるものではなく、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において種々の変形を施すことができることは当然である。
以下、先願主義の下で本願の出願の際に追記し得る程度で、変形例について幾つか例示するが、変形例とてこれらに限定されるものではないことはいうまでもない。本願発明を、上述の実施形態・実施例、及び下記変形例の記載に基づき限定解釈することは、先願主義の下で出願を急ぐ出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、発明の保護及び利用を目的とする特許法の目的に反し、許されない。
(i)本発明の構成は、上述の実施形態のようなエンジン用途や自動車用途に限定されない。また、エンジン用途の場合、本発明の構成はガソリンエンジンのみならず、ディーゼルエンジンにも適用可能である。
(ii)潜熱蓄熱材LMの材質としては、酢酸ナトリウム3水和物(CH3COONa・3H2O)の他、シュウ酸、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、及びこれらの水和物や、ナフタレン、パルミチン酸、安息香酸、高純度パラフィン等、及びこれらの混合物等が採用可能である。
(iii)図1を参照すると、潜熱蓄熱装置40は、シリンダブロック30の外表面に接するように配置されていてもよい。また、潜熱蓄熱装置40は、シリンダヘッド20内に配置されていてもよい。
(iv)図2を参照すると、発核部材61の材質は、上述のバネ鋼に限られず、蓄熱材との濡れ性・親和性が不良な材質(例えば、フッ素系合成樹脂、ロウ、石鹸等)以外の様々な材質が採用され得る。
(v)本発明の潜熱蓄熱材収容部(潜熱蓄熱材容器)、発核部材、及び発核部材変形機構の構成も、上述の実施形態にて開示された構成に限定されない。
図6は、上述の実施形態にて開示された構成に対する一変形例の、具体的な構成を示す側断面図である。この図6は、上述の実施形態における図2に相当する図である。なお、以下の説明において、上述の実施形態と共通する構成要素については、同一の符号が付されるものとし、その説明を省略する(既述の説明を援用する)ことがある。同様に、上述の実施形態の構成要素と類似の作用・機能を有する構成要素については、上述の実施形態における構成要素の符号にダッシュ(’)が付されている。
図6に示されているように、変形例の潜熱蓄熱装置40’は、潜熱蓄熱材カバー50’と、発核装置60’とから構成されている。
潜熱蓄熱材カバー50’の外側カバーを構成する、カバー本体51’は、潜熱蓄熱材LMを収容し得るように凹状に形成されている。このカバー本体51’の外側表面には、上述の実施形態におけるスペーサー突起52(図2参照)と同様の第1スペーサー突起52’が形成されている。また、潜熱蓄熱材カバー50’における、潜熱蓄熱材LMを収容する空間の開口端部には、フランジ状の接続部53’が形成されている。この接続部53’は、平板状のカバー支持板55の端部と、液密的に接合されている。このカバー支持板55は、カバー本体51’(接続部53’)と接合されることで、当該カバー本体51’を支持する部材である。そして、潜熱蓄熱材カバー50’(カバー本体51’)と、カバー支持板55の一方の表面である支持板内側表面55aとで囲まれた空間内に、潜熱蓄熱材LMが収容されている。
カバー支持板55の、上述の支持板内側表面55aと反対側(裏側)の表面である、支持板外側表面55bから外側に立設するように、第2スペーサー突起56が形成されている。この第2スペーサー突起56は、上述の第1スペーサー突起52’と同一の作用・機能を有する部材であって、カバー支持板55と一体に形成されている。
カバー支持板55の内部には、排気通路57が形成されている。この排気通路57は、カバー支持板55の厚さ方向(図6における左右方向)と垂直な方向に沿って形成されている。排気通路57の、高さ方向における下端部は、カバー支持板55の高さ方向における端部よりも上側となるように形成されている。また、排気通路57の、高さ方向における上端部には、接続管70が接続されている。
支持板内側表面55a側から、排気通路57に連通するように、連通孔58が形成されている。この連通孔58を塞ぐように、可撓性を有するバネ鋼の薄板材からなる発核装置60’が、支持板内側表面55a上に接合されている。
発核装置60’には、複数の発核部材61’が形成されていて、これら複数の発核部材61’同士は、平板部65によって接続されている。すなわち、平板状の部材に対してプレス絞り加工を施すことで、凹部61a’を有する発核部材61’が複数形成されている。この発核部材61’には、上述の実施形態における発核部61b(図2参照)と同様の発核部61b’が複数形成されている。そして、発核部材61’と、カバー支持板55における支持板内側表面55aとで囲まれた空間によって、空気室60aが形成されている。
かかる構成においては、エンジン始動時に、空気室60a内の空気が、連通孔58、排気通路57、及び接続管70を介して、外部に排出される。これにより、発核部材61’(発核部61b’)が変形する。この発核部材61’(発核部61b’)の変形により、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMにて発核が生じる。
かかる構成によれば、エンジン始動の際に、過冷却状態の潜熱蓄熱材LMにて確実に発核が生じる装置構成が、より簡易に実現され得る。
(vi)発核部材61の数、及び接続管70の数も、特に限定はない。
(vii)図1、図2、及び図4を参照すると、CPU91による、潜熱蓄熱装置40を作動させるか(させ得るか)否かの判定の基準となる温度は、上述の温度に限定されない。例えば、潜熱蓄熱装置40を作動させるか否かの判定の基準となる温度は、上述の20℃以外にも任意に設定し得る。また、潜熱蓄熱装置40を作動させ得るか否かの判定の基準となる温度は、潜熱蓄熱材LMの融点より高い温度であれば、上述のような、暖機運転の終了温度に相当する所定の高温(例えば82℃程度)より低くてもよい。
(viii)図4を参照すると、チェックバルブ87は省略可能である。また、分岐管88、開閉弁89a、及び開閉弁89bは省略可能である。
(ix)負圧発生部は、ブレーキや各種のバルブ制御のためにエンジンに備えられるバキュームポンプであってもよい。
(x)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の範囲内に含まれることは当然である。例えば、上述の各実施形態の説明において、一体に形成されていた構成要素は、継ぎ目なく一体成形されていてもよいし、複数の別体のパーツを接着・溶着・ネジ止め等により接合することによって形成されていてもよいことは当然である。
(xi)また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。