JP4506438B2 - 高剛性高強度薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高剛性高強度薄鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、主として自動車の車体用として好適な高剛性高強度薄鋼板およびその製造方法に関する。なお、本発明の高剛性高強度薄鋼板は、自動車のセンターピラー、ロッカー、サイドフレーム、クロスメンバーなど、剛性の板厚感受性指数が1に近いコラム状の構造用部材で、剛性が必要とされる用途に広く適するものである。
近年、地球環境問題への関心の高まりを受けて、自動車でも排ガス規制が行なわれるなど、自動車における車体の軽量化は極めて重要な課題である。そのため、鋼板の高強度化により板厚を減少させることで、車体の軽量化を図ることは有効な方法である。
一方、最近では、鋼板の高強度化が顕著に進んだ結果、板厚2.0mmを下回るような薄鋼板の使用が増加してきており、さらなる高強度化による軽量化のためには、薄肉化による部品剛性の低下を同時に抑制することが不可欠になってきている。このような鋼板の薄肉化による部品剛性低下の問題は、引張強度が590MPa以上の鋼板で顕在してきており、とくに700MPa以上の鋼板におけるこの問題は重大である。
一般に、部品の剛性の高めるには、部品形状を変更したり、スポット溶接がなされている部品に対しては、溶接点を増加するか、あるいは、レーザ溶接に切り替えるなどの溶接条件を変更することが有効であるが、自動車用部品として用いられる場合、自動車内の限られた空間で部品形状を変更するのは容易ではないし、また、溶接条件の変更もコストの増加を伴うなどの問題がある。
そこで、部品形状や溶接条件を変更することなく、部品の剛性を高めるには、部品に使用される部材のヤング率を高めることが有効となる。
一般に、部品形状や溶接条件が同じ部品の剛性は、部材のヤング率と部品の断面二次モーメントの積で表され、さらに、断面二次モーメントは、材料の板厚をtとしたとき近似的にtλに比例するとして表現できる。ここで、λは板厚感受性指数で、部品の形状により1〜3の値をとる。例えば、自動車のパネル部品のような一枚板の形状をとる場合は、λは3に近い値をとり、構造部品のようなコラム状の場合には、λは1に近い値をとる。
そして、例えば、部品のλが3のとき、部品の剛性を等価に保ちながら、板厚を10%小さくするには、部材のヤング率を37%向上させる必要があるが、部品のλが1のときは、板厚を10%小さくするのに、ヤング率は11%だけ向上させればよいことになる。
すなわち、コラム部品のように、λが1に近い部品の場合、軽量化のために鋼板自体のヤング率を高めることは非常に有効であり、とくに、高強度で板厚の小さい鋼板において、鋼板の高ヤング率化が強く望まれている。
ここで、一般にヤング率は、集合組織に大きく支配され、原子の最密方向に高くなることが知られている。したがって、ロールによる圧延と熱処理からなる鉄鋼プロセスにおいて、体心立方格子である鋼のヤング率に有利な方位を発達させるには、{112}<110>を発達させることが有効であり、これにより圧延方向と直角方向のヤング率を高めることができる。
そこで、従来より、集合組織を制御することでヤング率を高めた鋼板の検討が種々なされてきている。
例えば、特許文献1では、極低炭素鋼にNbあるいはTiを添加した鋼を用い、熱間圧延工程において、Ar3〜(Ar3+150℃)での圧下率を85%以上とし、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進することで、熱延板段階でのフェライトの集合組織を{311}<011>および{332}<113>とし、これを初期方位として冷間圧延、再結晶焼鈍を施すことで{211}<011>を主方位とすることができることで、圧延方向と直角方向のヤング率を高める技術が開示されている。
また、特許文献2では、C量が0.02〜0.15%の低炭素鋼にNb、Mo、Bを添加し、Ar3〜950℃での圧下率を50%以上とすることで、{211}<011>を発達させ、ヤング率を高めた熱延鋼板の製造方法が開示されている。
さらに、特許文献3では、C量が0.05%以下の低炭素鋼にNbを添加し、仕上圧延開始温度を950℃以下、仕上圧延終了温度を(Ar3−50℃)〜(Ar3+100℃)とし、ヤング率を低下させる{100}の発達を抑制することで、剛性の高い熱延鋼板の製造方法が開示されている。
さらにまた、特許文献4では、C量が0.05%以下の低炭素鋼にSiとAlを添加してAr3変態点を高めることで、熱間圧延において、Ar3変態点以下での圧下率を60%以上とし、それにより{111}<112>を発達させることで、圧延方向と直角方向のヤング率を高めた熱延鋼板の製造方法が開示されている。
特開平5−255804号公報 特開平8−311541号公報 特開平5−247530号公報 特開平9−53118号公報
しかし、前述の技術ではつぎのような問題があった。
すなわち、特許文献1に開示されている技術では、C量が0.01%以下の極低炭素鋼を用いることで、集合組織を制御し、鋼板のヤング率を高めているが、引張強度がせいぜい450MPa程度と低く、この技術の適用により高強度化を図るには問題があった。
また、特許文献2に開示されている技術では、C量が0.02〜0.15%と高く、高強度化は可能であるが、対象とする鋼板が熱延鋼板であるために、冷間加工による集合組織制御を利用することができず、一層の高ヤング率化は困難であるほか、板厚が2.0mmを下回るような高強度鋼板を低温仕上圧延により安定的に製造することも難しいという問題があった。
さらに、特許文献3に開示されている技術も、熱延鋼板の製造技術であり、同様の問題があった。
さらにまた、特許文献4に開示されている技術では、フェライト域での圧延を行なうことで、結晶粒が粗大化してしまい、加工性が著しく低下するという問題もあった。
このように、従来技術における鋼板の高ヤング率化は、板厚の厚い熱延鋼板や、軟質鋼板を対象にしたものであり、従来技術を用いて、板厚が2.0mm以下と板厚の薄い高強度鋼板を高ヤング率化することは困難であった。
ここで、一般に、鋼板の引張強度を590MPa以上に高めるための強化機構としては、主に析出強化機構と変態組織強化機構がある。
強化機構として析出強化機構を利用した場合には、鋼板のヤング率の低下は極力抑制しつつ高強度化することが可能であるが、つぎのような困難が伴う。すなわち、例えばTiやNb等の炭窒化物を微細析出させるような析出強化機構を利用すれば、熱延鋼板では、熱間圧延後の巻取り時に微細析出させることにより高強度化は図れるものの、冷延鋼板では、冷間圧延後の再結晶焼鈍過程における析出物の粗大化は避けられず、析出強化による高強度化は困難である。
また、強化機構として変態組織強化機構を利用する場合にも、ベイナイト相やマルテンサイト相など、低温変態相中に含まれる歪みに起因して、鋼板のヤング率が低下してしまうという問題がある。
本発明の目的は、前記課題を解決した、引張強度が590MPa以上で、より好ましくは700MPa以上と高強度で、ヤング率が240GPa以上と高剛性を兼ね備えた板厚が2.0mm以下の薄鋼板とその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(I)質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:1.5%以下、Mn:1.5〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.5%以下、N:0.01%以下およびNb:0.05〜0.40%を含有し、かつ、C、NおよびNbの含有量が、下記(1)式および(2)式に示す関係式を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなる組成を有するとともに、組織が、フェライト相の面積率を50%以上とし、マルテンサイト相およびベイナイト相を合計で面積率で1%以上有し、さらに、引張強度が590MPa以上でかつヤング率が240GPa以上であることを特徴とする高剛性高強度薄鋼板。

0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb≦0.05 ・・・・(1)
N≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(2)
(II)上記(I)に記載の高剛性高強度薄鋼板において、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Ti:0.01〜0.20%およびV:0.01〜0.20%の1種または2種を含有し、かつ、上記(1)式に代えて下記(3)式、上記(2)式に代えて下記(4)式に示す関係式を満たすことを特徴とする高剛性高強度薄鋼板。

0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb−(12/47.9)×Ti−(12/50.9)×V≦0.05 ・・・(3)
≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(4)
ただし、式(3)および(4)中において、Nは、N−(14/47.9)×Ti>0のとき、N=N−(14/47.9)×Ti、N−(14/47.9)×Ti≦0のとき、N=0とし、また、式(3)中において、Tiは、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S>0のとき、Ti=Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S≦0のとき、Ti=0とする。
(III)上記(I)または(II)に記載の高剛性高強度薄鋼板において、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%の中から選択される1種以上を含有することを特徴とする高剛性高強度薄鋼板。
(IV)質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:1.5%以下、Mn:1.5〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.5%以下、N:0.01%以下およびNb:0.05〜0.40%を含有し、かつ、C、NおよびNbの含有量が、下記(1)式および(2)式に示す関係式を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を、熱間圧延工程において、900℃以下での総圧下量を30%以上とし、さらに、仕上圧延をAr3〜850℃で終了したのち、650℃以下で巻取り、酸洗後に、50%以上の圧下率で冷間圧延を行い、その後、500℃からの昇温速度を1〜30℃/sとして、780〜900℃の温度に昇温して均熱した後、500℃までの冷却速度を5℃/s以上の速度として冷却する焼鈍を施すことを特徴とする高剛性高強度薄鋼板の製造方法。

0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb≦0.05 ・・・・(1)
N≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(2)
(V)上記(IV)に記載の鋼素材が、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Ti:0.01〜0.20%およびV:0.01〜0.20%の1種または2種を含有し、かつ、上記(1)式に代えて下記(3)式、上記(2)式に代えて下記(4)式に示す関係式を満たすことを特徴とする高剛性高強度薄鋼板の製造方法。

0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb−(12/47.9)×Ti−(12/50.9)×V≦0.05 ・・・(3)
≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(4)
ただし、式(3)および(4)中において、Nは、N−(14/47.9)×Ti>0のとき、N=N−(14/47.9)×Ti、N−(14/47.9)×Ti≦0のとき、N=0とし、また、式(3)中において、Tiは、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S>0のとき、Ti=Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S≦0のとき、Ti=0とする。
(VI)上記(IV)または(V)に記載の鋼素材が、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%の中から選択される1種以上を含有することを特徴とする高剛性高強度薄鋼板の製造方法。
本発明によって、引張強度が590MPa以上と高強度で、ヤング率が240GPa以上と高剛性を兼ね備えた薄鋼板の提供が可能になる。
すなわち、MnおよびNbを添加した低炭素鋼素材を、熱間圧延において、900℃以下(厳密にはAr3点直上)で圧下を行い、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態の促進と、その後の冷間圧延を組み合わせることで、ヤング率の向上に有利な結晶方位を発達させ、その後の焼鈍工程における加熱速度の制御と二相域での均熱により、冷却過程においては、ヤング率の低下を抑制する低温変態相を生成させるとともに、ヤング率の向上に有利なフェライト相を多く残留させることで、高強度化と高ヤング率化の双方を満足させた薄鋼板を製造することができ、これは、工業上有効な効果を奏する。
さらに詳細に説明すると、MnおよびNbを添加した低炭素鋼素材を、熱間圧延において、Ar3変態点直上での圧下を行なうことで、{112}<111>の結晶方位からなる未再結晶のオーステナイト組織を増加させるとともに、その後の冷却過程において、{112}<111>の未再結晶オーステナイトからフェライト変態を促進させることで、{113}<110>のフェライト方位を発達させることができる。
また、巻取り、酸洗後の冷間圧延において、50%以上の圧下率で圧延を行なうことで、{113}<110>の結晶方位をヤング率の向上に有利な{112}<110>に回転させ、その後の焼鈍工程における昇温過程において、1〜30℃/sの加熱速度で500℃から均熱温度まで昇温することで、{112}<110>方位を持つフェライトの再結晶を促進するとともに、一部{112}<110>の未再結晶粒が残った状態で二相域に到達させ、{112}<110>の未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進させることができる。
さらに、均熱後の冷却時に、オーステナイト相がフェライト相に変態するに際しては、{112}<110>の方位をもつフェライト粒が粒成長することでヤング率が高まるとともに、Mn添加により焼き入れ性が高められた鋼を5℃/s以上の速度で冷却することで、低温変態相が生成し、高強度化を図ることもできる。
さらにまた、この低温変態相は、{112}<110>の方位を含むフェライトから変態したオーステナイト相が、冷却時に再変態することで生成することから、低温変態相の結晶方位に関しても、{112}<110>を発達させることができる。
このように、フェライト相の{112}<110>を発達させることでヤング率を高めるとともに、とくにヤング率の低下に大きな影響をもつ低温変態相の方位に{112}<110>を増加させることで、低温変態相の生成により高強度化しつつ、低温変態相の生成に伴うヤング率の低下は大きく抑制することができる。
本発明の高剛性高強度薄鋼板は、引張強度が590MPa以上で、より好ましくは700MPa以上で、かつヤング率が240GPa以上であり、板厚が2.0mm以下の鋼板である。なお、本発明が対象とする鋼板の中には、冷延鋼板の他に、合金化を含む溶融亜鉛めっき材や電気亜鉛めっき材などの表面処理を施した鋼板も含む。
次に、本発明の鋼板の成分組成を限定した理由について説明する。なお、鋼板の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
・C:0.02〜0.10%、
Cは、オーステナイトを安定化させる元素であり、冷間圧延後の焼鈍時における冷却過程において、焼入れ性を高め、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することができる。さらに、熱間圧延時においては、Ar3変態点を低下させることで、Ar3直上での圧延を行なうに際して、より低温域での圧延を可能にし、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進させることで、{113}<110>を発達させることができ、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。さらにCは、焼鈍工程における昇温段階において、冷間圧延後に{112}<110>の方位をもつフェライト粒の、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進することで、高ヤング率化に寄与することもできる。
このような効果を得るため、C含有量は0.02%以上とする必要があり、より好ましくは、0.05%以上であり、さらに好ましくは0.06%以上である。一方、C含有量が0.10%よりも多くなると、硬質な低温変態相の分率が大きくなり、鋼が極端に高強度化するとともに、加工性が劣化してしまう。また、多量Cの含有は、冷間圧延後の焼鈍工程において、高ヤング率化に有利な方位の再結晶を抑制してしまう。さらに、多量Cの含有は、溶接性の劣化も招く。
このため、C含有量は0.02〜0.10%とし、より好ましくは0.05〜0.10%、さらに好ましくは0.06〜0.10%とする。
・Si:1.5%以下
Siは、熱間圧延において、Ar3変態点を上昇させることから、Ar3直上での圧延を行なうに際し、加工オーステナイトの再結晶を促進するため、1.5%を超える多量のSiを含有させた場合には、高ヤング率化に必要な結晶方位を得ることができなくなる。また、多量のSi添加は、鋼板の溶接性を劣化させるとともに、熱間圧延工程での加熱時においては、スラブ表面においてファイヤライトの生成を促進することで、いわゆる赤スケールと呼ばれる表面模様の発生を助長する。さらに、冷延鋼板として使用される場合には、表面に生成するSi酸化物が化成処理性を劣化させ、溶融亜鉛めっき鋼板として使用される場合には、表面に生成するSi酸化物が不めっきを誘発する。このため、Si含有量は1.5%以下とする必要がある。なお、表面性状を必要とする鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、Si含有量を0.5%以下とすることが好ましい。
また、Siはフェライトを安定化させる元素であり、冷間圧延後の焼鈍工程における二相域均熱後の冷却過程において、フェライト変態を促進し、オーステナイト中にCを濃化させることで、オーステナイトを安定化させ、低温変態相の生成を促進することができる。そのため、必要に応じて鋼の強度を高めることができ、このような効果を得るためには、Si含有量は0.2%以上とすることが望ましい。
・Mn:1.5〜3.5%
Mnは、本発明の重要な元素の1つである。Mnは熱間圧延時において、加工オーステナイトの再結晶を抑制するとともに、オーステナイトを安定化させる元素であり、Ar3変態点を低下させることから、Ar3直上での圧延を行なうに際しては、より低温域での圧延を可能とすることで、さらに、加工オーステナイトの再結晶を抑制する作用を有する。そして、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進させることで、{113}<110>を発達させることができ、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。
さらに、オーステナイト安定化元素であるMnは、冷間圧延後の焼鈍工程における昇温過程において、Ac1変態点を低下させ、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進し、均熱後の冷却過程において生成する低温変態相の方位に関し、ヤング率の向上に有利な方位を発達させ、低温変態相の生成に伴うヤング率の低下を抑制することができる。
また、Mnは、焼鈍工程における均熱焼鈍後の冷却過程においては、焼入れ性を高め、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することもできる。そして、固溶強化強化元素として作用することで、鋼の高強度化に寄与することもできる。このような効果を得るためには、Mn含有量を1.5%以上とする必要がある。
一方、3.5%を超える多量Mnの含有は、冷間圧延後の焼鈍工程における昇温過程において、Ac3変態点を過度に低下させることから、二相域におけるフェライト相の再結晶を困難とし、Ac3変態点以上のオーステナイト単相域までの昇温を必要とする。したがって、加工フェライトの再結晶により得られる高ヤング率化に有利な{112}<110>方位のフェライトを発達させることができず、ヤング率の低下を招いてしまう。さらに、多量Mnの含有は鋼板の溶接性も劣化させてしまう。したがって、Mn含有量は3.5%以下とする。また、Mn含有量が多いと、低温変態相の中でとくにマルテンサイト相が優先的に生成しやすくなるため、ベイナイト相の生成を促進する場合には、Mn含有量は2.5%以下とするのが好ましい。
・P:0.05%以下
Pは、粒界に偏析するため、P含有量が0.05%を超えると、鋼板の延性および靭性が低下するとともに、溶接性も劣化する。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板として使用される場合には、Pにより合金化速度が遅滞してしまう。したがって、P含有量は0.05%以下とする必要がある。一方、Pは、固溶強化元素として高強度化に有効な元素であり、また、フェライト安定化元素として、オーステナイト中へのC濃化を促進する作用も有する。さらにSiを添加した鋼においては、赤スケールの発生を抑制する作用も有する。このような作用を得るためには、P含有量は0.01%以上とすることが好ましい。
・S:0.01%以下
Sは、熱間での延性を著しく低下させることで、熱間割れを誘発し、表面性状を著しく劣化させる。さらに、Sは、強度にほとんど寄与しないばかりか、不純物元素として粗大なMnSを形成することにより、延性および穴広げ性を低下させる。これらの問題はS含有量が0.01%を超えると顕著になるため、極力低減することが望ましい。したがって、S含有量は0.01%以下とする。さらに、穴広げ性をとくに向上させる観点からは、0.005%以下とすることが好ましい。
・Al:1.5%以下
鋼の脱酸のために添加し、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素である。しかしながら、Alは、フェライト安定化元素であり、鋼のAr3変態点を大きく上昇させることから、Ar3直上での圧延を行なうに際し、加工オーステナイトの再結晶を促進し、高ヤング率化に必要な結晶方位の発達を抑制してしまう。さらに、1.5%を超える多量のAl含有により、オーステナイト単相域が消失してしまい、熱間圧延工程において、オーステナイト域で圧延を終了することを困難にする。したがって、Al含有量は1.5%以下とする必要があり、この観点では、Alは低い方が好ましく、0.1%以下に制限することがさらに好ましい。一方、フェライト生成元素であるAlは、冷間圧延後の焼鈍工程における二相域均熱後の冷却過程において、フェライト生成を促進し、オーステナイト中にCを濃化させることで、オーステナイトを安定化させ、低温変態相の生成を促進することができる。そのため、必要に応じて鋼の強度を高めることができ、このような効果を得るためには、Al含有量を0.2%以上とすることが望ましい。
・N:0.01%以下
Nは、熱間圧延中にスラブ割れを伴い、表面疵を発生させる有害な元素でありN含有量が0.01%を超えると、スラブ割れや表面疵の発生が顕著になる。したがって、N含有量は0.01%以下とする必要がある。
・Nb:0.05〜0.40%
Nbは、本発明において最も重要な元素である。すなわち、Nbは熱間圧延における仕上圧延工程において、加工されたオーステナイトの再結晶を抑制することで、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進し、{113}<110>を発達させることにより、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。また、冷間圧延後の焼鈍工程における昇温過程において、加工フェライトの再結晶を抑制することで、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進し、均熱後の冷却過程において生成する低温変態相の方位に関し、ヤング率の向上に有利な方位を発達させ、低温変態相の生成に伴うヤング率の低下を抑制することができる。さらに、Nbの微細な炭窒化物は、強度上昇に寄与することもできる。このような作用を有するために、Nb含有量を0.05%以上とする必要がある。
一方、0.40%を超える多量のNbを含有しても、通常の熱間圧延工程における再加熱時においては、炭窒化物は全固溶することができず、粗大な炭窒化物が残るため、熱間圧延工程における加工オーステナイトの再結晶抑制効果や、冷間圧延後の焼鈍工程における加工フェライトの再結晶抑制効果を得ることはできない。また、連続鋳造からスラブを一旦冷却したのち再加熱を行なう工程を経ることなく、連続鋳造後、そのまま熱間圧延を開始する場合においても、Nbを0.40%を超えて含有させても、再結晶抑制効果の向上は認められず、そのうえ、合金コストの増加も招いてしまう。
したがって、Nb含有量は0.05〜0.40%とする。
また、本発明では、C、NおよびNbの含有量が、下記(1)式および(2)式に示す関係式を満たす必要がある。

0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb≦0.05 ・・・・(1)
N≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(2)
炭窒化物として固定されないCが0.05%を超えて多量に存在すると、冷間圧延時の歪みの導入が不均一となり、さらに、冷間圧延後の焼鈍において、高ヤング率化に有利な方位の再結晶も抑制されることから、(C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb)で算出される、炭窒化物として固定されないC量は0.05%以下とする必要がある。なお、ここでNbにより、NはCよりも優先的に固定されて析出するため、(C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb)により、炭窒化物として固定されないC量を算出できる。一方、炭窒化物として固定されないCが0.01%未満と少ないと、冷間圧延後の二相域における焼鈍において、オーステナイト中のC量が減少し、冷却後のマルテンサイト相およびベイナイト相の生成が抑制されることで、鋼の高強度化が困難になる。したがって、炭窒化物として固定されないC量である(C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb)の量は0.01〜0.05%とする。また、Nは高温でNbの窒化物を粗大に析出させるため、Nbの再結晶抑制効果が低減してしまう。この作用を抑制するため、N含有量をNb含有量との関係でN≦(14/92.9)×(Nb−0.02)に制限する必要がある。
なお、本発明の鋼板の組成において、残部は鉄および不可避的不純物である。また、さらに強度を向上させる場合には上記化学成分の規定に加え、必要に応じて、TiおよびVの1種または2種や、Cr、Ni、Mo、CuおよびBの中から選択される1種以上の成分を添加してもよい。
・Ti:0.01〜0.20%
Tiは、微細な炭窒化物を形成することで、強度上昇に寄与する元素である。また、熱間圧延における仕上圧延工程においては、加工されたオーステナイトの再結晶を抑制することで、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進し、高ヤング率化に寄与する元素でもある。このような作用を有するために、Tiの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、0.20%を超える多量のTiを含有させても、通常の熱間圧延工程における再加熱時においては、炭窒化物は全固溶することができず、粗大な炭窒化物が残るため、強度上昇効果や再結晶抑制効果を得ることができない。また、連続鋳造からスラブを一旦冷却したのち再加熱を行なう工程を経ることなく、連続鋳造後、そのまま熱間圧延を開始する場合においても、Tiの含有量が0.20%を超えた分の強度上昇効果、および、再結晶抑制効果の寄与分は小さく、そのうえ、合金コストの増加も招いてしまう。
したがって、Ti含有量は0.01〜0.20%とすることが好ましい。
V:0.01〜0.20%
Vは、微細な炭窒化物を形成することで、強度上昇に寄与する元素である。このような作用を有するために、Vの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、0.20%を超える多量のVを含有させても、0.20%を超えた分の強度上昇効果は小さく、そのうえ、合金コストの増加も招いてしまう。
したがって、Vの添加量は0.01〜0.20%とすることが好ましい。
また、本発明では、Nbに加えて、Tiおよび/またはVを含有する場合には、C、N、S、Nb、TiおよびVの含有量が、上記(1)式に代えて下記(3)式、上記(2)式に代えて下記(4)式に示す関係式を満たすことが必要である。

0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb−(12/47.9)×Ti−(12/50.9)×V≦0.05 ・・・(3)
≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(4)
ただし、式(3)および(4)中において、Nは、N−(14/47.9)×Ti>0のとき、N=N−(14/47.9)×Ti、N−(14/47.9)×Ti≦0のとき、N=0とし、また、Tiは、式(3)中において、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S>0のとき、Ti=Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S≦0のとき、Ti=0とする。
さらに、Nは前述のように高温でNbの窒化物を粗大に析出させるため、Nbの再結晶抑制効果が低減してしまう。ここでTi含有鋼の場合、NはTiの窒化物として優先的に固定されることから、Tiの窒化物として固定されないN量であるNをN≦(14/92.9)×(Nb−0.02)に制限する必要がある。
TiおよびVは、炭窒化物を形成することで、炭窒化物として固定されないC量を減少させる。さらに、Tiは、硫化物の形成により固定されるので、炭窒化物として固定されないC量を0.01〜0.05%とするため、Tiおよび/またはVを添加した場合には、C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb−(12/47.9)×Ti−(12/50.9)×Vの値が0.01〜0.05%になるようにする必要がある。
・Cr:0.1〜1.0%
Crは、セメンタイトの生成を抑制することで、焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することができる。さらに、熱間圧延工程において、加工オーステナイトの再結晶を抑制することで、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進し、{113}<110>を発達させ、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。このような効果を得るには、Crを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、1.0%を超えて多量にCrを含有させても、上記効果が飽和するだけでなく、合金コストが増加することから、Crは1.0%以下で含有させることが好ましい。なお、本発明の薄鋼板を溶融亜鉛めっき鋼板として使用する場合には、表面に生成するCrの酸化物が不めっきを誘発してしまうので、Crを0.5%以下で含有させることが好ましい。
・Ni:0.1〜1.0%
Niは、オーステナイトを安定化することで焼入れ性を高める元素であり、焼鈍工程における均熱後の冷却過程において、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することができる。さらに、オーステナイト安定化元素であるNiは、冷間圧延後の焼鈍工程における昇温過程において、Ac1変態点を低下させ、未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進し、均熱後の冷却過程において生成する低温変態相の方位に関し、ヤング率の向上に有利な方位を発達させ、低温変態相の生成に伴うヤング率の低下を抑制することができる。またNiは、熱間圧延時において、加工オーステナイトの再結晶を抑制するとともに、オーステナイトを安定化させる元素であることからAr3変態点を低下させ、Ar3直上での圧延を行なうに際しては、より低温域での圧延を可能とすることで、さらに、加工オーステナイトの再結晶を抑制し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進することで、{113}<110>を発達させ、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。さらに、Cuを添加した場合には、熱間圧延時において、熱間延性の低下に伴う割れにより表面欠陥が誘発されるが、Niを複合添加することで、表面欠陥の発生を抑制することができる。このような作用を得るためには、Niを0.1%以上含有させることが好ましい。
一方、1.0%を超える多量のNiの含有は、冷間圧延後の焼鈍工程における昇温過程において、Ac3変態点を過度に低下させることで、二相域におけるフェライト相の再結晶を困難とし、Ac3変態点以上のオーステナイト単相域までの昇温を必要としてしまう。したがって、加工フェライトの再結晶により得られる高ヤング率化に有利な方位のフェライトを発達させることができず、ヤング率の低下を招いてしまう。さらに、合金コストも増加することから、Niは1.0%以下で含有させるのが好ましい。さらに、Ni含有量が多いと、低温変態相の中で、とくにマルテンサイト相が優先的に生成しやすくなるため、ベイナイト相の生成を促進する場合には、Ni含有量は0.5%以下とするのが好ましい。
・Mo:0.1〜1.0%
Moは、界面の移動度を小さくすることで、焼入れ性を高める元素であり、冷間圧延後の焼鈍工程における冷却過程においては、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することができる。さらに、加工オーステナイトの再結晶を抑制することができ、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進することで、{113}<110>を発達させ、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。このような作用を得るためには、Moを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、1.0%を超えて多量にMoを含有しても、上記効果が飽和するだけでなく、合金コストが増加することから、Moは1.0%以下で含有させることが好ましい。
・B:0.0005〜0.0030%
Bは、オーステナイト相からフェライト相への変態を抑制することで、焼入れ性を高める元素で、冷間圧延後の焼鈍工程における冷却過程においては、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することができる。さらに、加工オーステナイトの再結晶を抑制することができ、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進することで、{113}<110>を発達させ、その後の冷間圧延、焼鈍工程でヤング率を向上させることができる。この効果を得るためには、Bを0.0005%以上含有させることが好ましい。一方、0.0030%を超える過剰なBを含有させても上記効果が飽和することから、Bを0.0030%以下で含有させることが好ましい。
・Cu:0.1〜2.0%
Cuは、焼入れ性を高める元素であり、冷間圧延後の焼鈍工程における冷却過程においては、低温変態相の生成を大きく促進することで、高強度化に大きく寄与することができる。この効果を得るためには、Cuを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、2.0%を超える過剰なCuの含有は、熱間での延性を低下させ、熱間圧延時の割れに伴う表面欠陥を誘発するとともに、Cuによる焼入れ効果も飽和することから、Cuは2.0%以下で含有させることが好ましい。
次に本発明の組織の限定理由を説明する。
本発明の薄鋼板では、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相およびベイナイト相を、合計で面積率で1%以上有する組織とする必要がある。
ここで、フェライト相を主相とするとは、フェライト相の面積率を50%以上とすることを意味する。
フェライト相は歪が少なく高ヤング率化に有利であり、また延性にも優れ、加工性が良好であることから、組織はフェライト相を主相とすることが必要である。
また、鋼板の引張強度を590MPa以上とするには、硬質な相である低温変態相を、主相であるフェライト相以外の部分である、いわゆる第2相中に形成して複合組織化する必要がある。ここで低温変態相の中でも特に硬質なマルテンサイト相およびベイナイト相を組織中に有することが、目標とする引張強度レベルを得るための第2相の分率を小さくし、フェライト相の分率を大きくして高ヤング率化を達成し、さらに加工性も向上できるため有利であり、このためマルテンサイト相およびベイナイト相の合計は、組織全体に対する面積率で1%以上とする必要がある。さらに、700MPa以上の強度を得るには、マルテンサイト相およびベイナイト相の合計の面積率を16%以上とすることが好ましい。
さらに、ベイナイト相は、マルテンサイト相に比べて歪が少なく、高ヤング率化には有利であることから、マルテンサイト相の面積率(M%)に対するベイナイト相の面積率(B%)の比(B%/M%)が1/4より大きいことが好ましい。
一方、マルテンサイト相は、ベイナイト相に比べて硬質で、マルテンサイト相の分率を大きくすることで、目標とする引張強度を得るための低温変態相の分率を小さくし、フェライト相の分率を大きくしてヤング率を高めることができることから、マルテンサイト相の面積率に対するベイナイト相の面積率の比が3より小さいことが好ましく、より好ましくは1より小さいことである。
本発明の鋼板の組織は、上記フェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相からなる組織とすることが好ましいが、残留オーステナイト相、パーライト相、セメンタイト相などの上記フェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相以外の相を、面積率で10%以下、より好ましくは5%以下有しても問題ない。すなわち、フェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相の面積率の合計を90%以上とすることが好ましく、より好ましくは95%以上とする。
次に、本発明の高剛性高強度薄鋼板を得るために限定した製造条件の理由、および好ましい製造条件について説明する。
本発明の製造方法に用いられる鋼素材の組成は、上述した鋼板の組成と同様であるので、鋼素材組成の限定理由の記載は省略する。
本発明の薄鋼板は、上述した鋼板の組成と同様の組成を有する鋼素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗後冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に再結晶と複合組織化を達成する焼鈍工程とを順次経ることにより製造できる。
(熱間圧延工程)
・仕上圧延:900℃以下での総圧下量を30%以上とし、かつAr3〜850℃で圧延を終了すること
熱間圧延工程における仕上圧延において、Ar3変態点直上での圧下を行なうことで、{112}<111>の結晶方位からなる未再結晶のオーステナイト組織を発達させ、その後の冷却過程においては、{112}<111>未再結晶オーステナイトからフェライト変態させることで、{113}<110>のフェライト方位を発達させることができる。この方位は、その後の冷間圧延、焼鈍工程における集合組織形成において、ヤング率の向上に有利に作用する。このような作用を得るためには、900℃以下での総圧下量は30%以上とし、さらに、Ar3〜850℃で仕上圧延を終了する必要がある。
・巻取り温度:650℃以下
仕上圧延後の巻取り温度が650℃を上回ると、Nbの炭窒化物が粗大化してしまい、冷間圧延後の焼鈍工程における昇温過程において、フェライトの再結晶抑制効果が小さくなり、未再結晶フェライトからオーステナイトに変態させることが困難となる。その結果、均熱後の冷却過程で変態する低温変態相の方位を制御することができず、この歪みを持った低温変態相によりヤング率が大きく低下してしまう。したがって、仕上圧延後の巻取り温度は650℃以下とする必要がある。
なお、巻取り温度はあまり低くなると、硬質な低温変態相が多く生成して、その後の冷間圧延が困難となるため、400℃以上とすることが好ましい。
(冷間圧延工程)
・酸洗後、圧下率:50%以上の冷間圧延を行なうこと
熱間圧延工程後、鋼板表面に生成しているスケールを除去するために酸洗を行う。酸洗は常法に従い行えばよい。その後、冷間圧延を行う。ここで50%以上の圧下率で冷間圧延を行なうことで、熱延鋼板で発達した{113}<110>方位をヤング率の向上に有効な{112}<110>方位に回転させることができる。このように、冷間圧延により{112}<110>方位を発達させることで、その後の焼鈍工程後の組織も、フェライト中の{112}<110>方位を高め、さらに、低温変態相中にも{112}<110>方位を発達させることで、ヤング率を高くすることができる。このような効果を得るには、冷間圧延時の圧下率を50%以上とする必要がある。
(焼鈍工程)
・500℃から均熱温度までの昇温速度:1〜30℃/s、均熱温度:780〜900℃
焼鈍工程における昇温速度は、本発明における重要なプロセス条件である。焼鈍工程において、二相域となる均熱温度、すなわち、780〜900℃の均熱温度まで昇温する過程において、{112}<110>方位を持つフェライトの再結晶を促進するとともに、{112}<110>の方位を持つフェライト粒の一部は、未再結晶の状態で二相域に到達させることで、{112}<110>の方位を持つ未再結晶フェライトからのオーステナイト変態を促進させることができる。したがって、均熱後の冷却時にオーステナイトがフェライトに変態するに際しては、{112}<110>の方位を持つフェライトの粒成長を促進することでヤング率を高めることができる。さらに、低温変態相を生成させ、高強度化するに際しては、{112}<110>の方位を含むフェライトから変態したオーステナイト相が、冷却時に再変態することから、低温変態相の結晶方位に関しても、{112}<110>を発達させることができる。このように、フェライト相の{112}<110>を発達させることでヤング率を高めるとともに、とくにヤング率の低下に大きな影響をもつ低温変態相の方位に{112}<110>を増加させることで、低温変態相を生成させつつ、低温変態相の生成に伴うヤング率の低下は抑制することができる。このように、昇温過程において、フェライトの再結晶を促進しつつ、未再結晶フェライトからオーステナイト変態させるには、再結晶挙動に大きく影響をおよぼす500℃から均熱温度である780〜900℃までの平均の昇温速度を1〜30℃/sとする必要がある。また、ここで、均熱温度を780〜900℃とするのは、780℃を下回ると再結晶が完了しないためであり、900℃を上回るとオーステナイト分率が大きくなり、{112}<110>方位のフェライトが減少あるいは消失するためである。なお、均熱時間は特に限定する必要はないが、オーステナイトを生成させる上で、30秒以上とすることが好ましく、一方、長くなりすぎると、生産効率が悪くなるため、300秒以下程度とすることが好ましい。
・均熱後、500℃までの冷却速度:5℃/s以上
均熱後の冷却過程において、高強度化のためにマルテンサイト相およびベイナイト相を含む低温変態相を生成させる必要がある。そのため、均熱後、500℃までの平均冷却速度を5℃/s以上とする必要がある。さらに、ベイナイト相の生成をより促進させるためには、均熱後500℃までの平均冷却速度を10℃/sより大きくして、冷却中のフェライト相生成に伴うオーステナイト相中へのC濃化を抑制し、500〜400℃域の滞留時間を10秒以上とすることもできる。
発明の実施に当たっては、目的とする強度レベルに応じた化学成分の鋼を溶製する。溶製方法は、通常の転炉法、電炉法等、適宜適用することができる。溶製された鋼は、スラブに鋳造後、そのまま、あるいは、冷却して加熱し、熱間圧延を施す。熱間圧延では前述の仕上条件で仕上げた後、前述の巻取り温度で巻取り、その後、通常の酸洗、冷間圧延を施す。焼鈍については、前述の条件で昇温を行い、均熱後の冷却は、目的の低温変態相を得る範囲で冷却速度を高めることができる。その後、冷延鋼板の場合は過時効処理を行なってもよいし、溶融亜鉛めっき鋼板として製造させる場合には、溶融亜鉛中を通板させることでめっきすることもできるし、さらに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板として製造される場合には、合金化処理のため、500℃以上の温度まで再加熱を行なうこともできる。
本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
まず、表1に示す成分の鋼Aを実験室真空溶解炉にて溶製し、一旦室温まで冷却し、鋼塊(鋼素材)を作製した。
Figure 0004506438
その後、実験室にて熱間圧延、酸洗、冷間圧延および焼鈍を順次行なった。基本とした製造条件は以下の通りである。鋼塊は1250℃で1時間の加熱を行なった後、熱間圧延を開始し、900℃以下の総圧下率を40%とし、最終の圧延温度(仕上圧延の終了温度に相当)を830℃として板厚4.0mmの熱延板とした。その後、600℃になったのち、600℃の炉に入れて1時間の保持を行い、その後炉冷することで巻取り条件(巻取り温度600℃相当)をシミュレートした。このようにして得た熱延板は酸洗し、60%の圧下率で冷間圧延を行い、板厚1.6mmとしたのち、平均10℃/sで500℃まで昇温したのち、さらに500℃からの平均5℃/sで820℃の均熱温度まで昇温した。つぎに、820℃で180秒間の均熱を行なったのち、500℃まで15℃/sの平均冷却速度で冷却を行い、500℃で80秒間の保持を行なったのち、室温まで空冷した。なお、本鋼種および本製造条件におけるAr3変態点は740℃である。
以上の製造条件を基本条件として、本実験では、さらに、以下の条件を個別に変化させた。すなわち、900℃以下での総圧下率を20〜60%、熱間仕上圧延の最終温度を710〜870℃、巻取り温度を500〜670℃、冷間圧延の圧下率を40〜75%(板厚2.4〜1.0mm)、焼鈍時の500℃から均熱温度(820℃)までの平均昇温速度を0.5〜35℃/sとし、変化させた個々の条件以外は基本条件で実験を行なった。
焼鈍後のサンプルは、圧延方向に対し直角な方向を長手方向として10mm×120mmの試験片を切り出し、さらに、機械研削と歪みを除去するための化学研磨により板厚0.8mmに仕上げたのち、横振動型の内部摩擦測定装置を用いてサンプルの共振周波数を測定し、そこからヤング率を計算した。また、0.5%の調質圧延を施した板に関し、圧延方向に対し直角な方向にJIS5号引張り試験片を切り出し、引張試験に供した。さらに、断面組織はナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行い、組織の種類を観察するとともに30μm×30μmの視野領域での写真を3枚撮ったのち、画像処理によりフェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相の面積率を測定して各々の相についての平均値を求め、各々の相の面積率(分率ともいう)とした。
その結果、本発明の製造方法にしたがう本実験における基本条件での機械的特性値は、ヤング率E:243GPa、TS:780MPa、El:22%、およびフェライト相分率:65%、マルテンサイト相分率25%、ベイナイト相分率:8%であり、優れた強度−延性バランスをもち、かつ、高ヤング率の薄鋼板であった。なお、上記組織においてフェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相以外は、残留オーステナイト相、パーライト相およびセメンタイト相のいずれかであった。
以下、試験調査結果に基づき、製造条件とヤング率の関係を、図を用いて説明する。ここで、いずれの実験条件においても、引張強度に関しては730〜840MPa、フェライト相分率は75〜55%、マルテンサイト相分率は15〜30%、ベイナイト相分率は5〜15%であり、残部は、残留オーステナイト相、パーライト相およびセメンタイト相のいずれかで残部の分率は5%以下であった。
図1にヤング率に及ぼす900℃以下での総圧下率の影響を示す。総圧下率が本発明の請求範囲である30%以上の場合、ヤング率は240GPa以上と優れた値を示した。
図2にヤング率に及ぼす熱間仕上圧延の最終温度の影響を示す。前記最終温度が本発明の請求範囲であるAr3〜850℃の場合、ヤング率は240GPa以上と優れた値を示した。
図3にヤング率に及ぼす巻取り温度の影響を示す。巻取り温度が本発明の請求範囲である650℃以下の場合、ヤング率は240GPa以上と優れた値を示した。
図4にヤング率に及ぼす冷間圧延における圧下率の影響を示す。前記圧下率が本発明の請求範囲である50%以上の場合、ヤング率は240GPa以上と優れた値を示した。
図5にヤング率に及ぼす焼鈍時の500℃から均熱温度である820℃までの平均昇温速度の影響を示す。昇温速度が本発明の請求範囲である1〜30℃/sの場合、ヤング率は240GPa以上と優れた値を示した。
さらに、表2および表3に示す成分の鋼B〜ZおよびAA〜AMを実験室真空溶解炉にて溶製し、上記基本条件にて熱間圧延、酸洗、冷間圧延および焼鈍を順次行なった。表4および表5に試験調査により得られた特性をまとめて示す。なお、上記鋼B〜ZおよびAA〜AMの上記製造条件におけるAr3変態点は、660〜780℃であった。また、表中のフェライト相、マルテンサイト相およびベイナイト相以外の残部組織は、残留オーステナイト相、パーライト相およびセメンタイト相のいずれかであった。
Figure 0004506438
Figure 0004506438
Figure 0004506438
Figure 0004506438
鋼種Cは、炭化物として固定されないC量(X値)が0.00%と小さく、第二相分率が0%となり、TSが本発明の請求範囲より小さくなった。鋼種EはX値が、0.06%と高く、フェライト相分率が45%と小さく、ヤング率が本発明の請求範囲より小さくなった。鋼種GはMn量が1.4%と小さく、ヤング率が本発明の請求範囲より小さくなった。鋼種IはMn量が3.6%と大きく、ヤング率が本発明の請求範囲より小さくなった。鋼種JはC量が0.11%と大きく、X値も0.10%と大きくなり、フェライト相分率が30%と小さくなって、ヤング率が本発明の請求範囲より小さくなった。鋼種RはNb量が0.04%と小さく、ヤング率が本発明の請求範囲より小さくなった。鋼種Sは(14/92.9)×(Nb−0.02)で示されるY値が0.005%とN量より小さく、ヤング率が本発明の請求範囲より小さくなった。その他の鋼種に関しては、いずれも、本発明の適正範囲内にあり、TSおよびヤング率とも本発明の請求範囲を満たした。
本発明によって、引張強度が590MPa以上と高強度で、ヤング率が240GPa以上と高剛性を兼ね備えた薄鋼板の提供が可能になる。
ヤング率に及ぼす900℃以下での総圧下率の影響を示す図である。 ヤング率に及ぼす熱間仕上圧延の最終温度の影響を示す図である。 ヤング率に及ぼす巻取り温度の影響を示す図である。 ヤング率に及ぼす冷間圧延における圧下率の影響を示す図である。 ヤング率に及ぼす焼鈍時の500℃から均熱温度までの平均昇温速度の影響を示す図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:1.5%以下、Mn:1.5〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.5%以下、N:0.01%以下およびNb:0.05〜0.40%を含有し、かつ、C、NおよびNbの含有量が、下記(1)式および(2)式に示す関係式を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなる組成を有するとともに、組織が、フェライト相の面積率を50%以上とし、マルテンサイト相およびベイナイト相を合計で面積率で1%以上有し、さらに、引張強度が590MPa以上でかつヤング率が240GPa以上であることを特徴とする高剛性高強度薄鋼板。

    0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb≦0.05 ・・・・(1)
    N≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(2)
  2. 請求項1に記載の高剛性高強度薄鋼板において、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Ti:0.01〜0.20%およびV:0.01〜0.20%の1種または2種を含有し、かつ、上記(1)式に代えて下記(3)式、上記(2)式に代えて下記(4)式に示す関係式を満たすことを特徴とする高剛性高強度薄鋼板。

    0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb−(12/47.9)×Ti−(12/50.9)×V≦0.05 ・・・(3)
    ≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(4)
    ただし、式(3)および(4)中において、Nは、N−(14/47.9)×Ti>0のとき、N=N−(14/47.9)×Ti、N−(14/47.9)×Ti≦0のとき、N=0とし、また、式(3)中において、Tiは、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S>0のとき、Ti=Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S≦0のとき、Ti=0とする。
  3. 請求項1または2に記載の高剛性高強度薄鋼板において、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%の中から選択される1種以上を含有することを特徴とする高剛性高強度薄鋼板。
  4. 質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:1.5%以下、Mn:1.5〜3.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:1.5%以下、N:0.01%以下およびNb:0.05〜0.40%を含有し、かつ、C、NおよびNbの含有量が、下記(1)式および(2)式に示す関係式を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を、熱間圧延工程において、900℃以下での総圧下量を30%以上とし、さらに、仕上圧延をAr3〜850℃で終了したのち、650℃以下で巻取り、酸洗後に、50%以上の圧下率で冷間圧延を行い、その後、500℃からの昇温速度を1〜30℃/sとして、780〜900℃の温度に昇温して均熱した後、500℃までの冷却速度を5℃/s以上の速度として冷却する焼鈍を施すことを特徴とする高剛性高強度薄鋼板の製造方法。

    0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb≦0.05 ・・・・(1)
    N≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(2)
  5. 請求項4に記載の鋼素材が、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Ti:0.01〜0.20%およびV:0.01〜0.20%の1種または2種を含有し、かつ、上記(1)式に代えて下記(3)式、上記(2)式に代えて下記(4)式に示す関係式を満たすことを特徴とする高剛性高強度薄鋼板の製造方法。

    0.01≦C+(12/14)×N−(12/92.9)×Nb−(12/47.9)×Ti−(12/50.9)×V≦0.05 ・・・(3)
    ≦(14/92.9)×(Nb−0.02) ・・・・(4)
    ただし、式(3)および(4)中において、Nは、N−(14/47.9)×Ti>0のとき、N=N−(14/47.9)×Ti、N−(14/47.9)×Ti≦0のとき、N=0とし、また、式(3)中において、Tiは、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S>0のとき、Ti=Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S、Ti−(47.9/14)×N−(47.9/32.1)×S≦0のとき、Ti=0とする。
  6. 請求項4または5に記載の鋼素材が、上記組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Cu:0.1〜2.0%およびB:0.0005〜0.0030%の中から選択される1種以上を含有することを特徴とする高剛性高強度薄鋼板の製造方法。

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