JP4506104B2 - 薄膜形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規の防汚膜の薄膜形成方法に関し、詳しくは、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物を含有する薄膜形成ガスを間接的に励起して基材を晒すことにより、高機能の防汚膜を形成する薄膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、人の手指が直接触れるタッチパネル、CRTや液晶ディスプレイなどの画像表示装置表面、めがね表面、レンズ表面、あるいは外気に晒されて塵埃等が付着しやすい太陽電池や窓ガラスなどの透明材料の表面には、その表面を保護し、視認性を損なう汚れや塵等の付着を防止したり、あるいは付着した汚れや塵等を簡単に取り去ることのできる防汚膜を、その表面に設けることが知られている。
【0003】
従来、防汚膜の形成方法としては、防汚膜形成用の液体材料を、物品の表面に塗布する方法が広く知られており、また実用化されている(特許文献1参照。)。一例としては、液晶ディスプレイなどで用いる反射防止膜表面を、末端シラノール有機ポリシロキサンを、塗布方式により被覆して、表面上の防汚性を向上させる方法がある(特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、塗布方式による防汚膜の形成方法は、塗布液を構成する溶剤に対する化学的な耐性を必要とするため、用いることのできる基材の材質が制限を受けること、塗布後に乾燥工程を必要とするため製造工程にコスト上の負荷がかかること、対象とする基材表面が凹凸を有している場合には、塗布後の乾燥工程でレベリングを起こしたり、材質により塗布液の濡れ性が不適切となり、塗布ムラやはじき故障を引き起こし、均一の膜厚を有する防汚膜を形成することが難しいとの課題を抱えている。
【0005】
上記の課題を踏まえて、大気圧プラズマCVDを用いて簡易に防汚膜を形成する方法が提案されている(特許文献3参照。)。この方法によれば、乾燥工程を必要とせず、凹凸の表面形状を有する基材であっても、均一な厚さからなる防汚膜を安定して形成することが可能となる。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−144097号公報 (特許請求の範囲)
【0007】
【特許文献2】
特開平2−36921号公報 (特許請求の範囲)
【0008】
【特許文献3】
特開2003−98303号公報 (特許請求の範囲)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法は、対象基材を対向電極間に載置して、直接放電空間に防汚膜形成用ガスを導入する大気圧プラズマCVD法であり、防汚性能(例えば、撥水性、撥油性、皮脂やインクのふき取り性等)に関しては、必ずしも満足のいくレベルではないことが判明した。
【0010】
従って、本発明の目的は、基材への影響が無く、優れた撥水性、撥油性、皮脂やインクの拭き取り性及びその繰り返し耐久性を有し、かつ耐擦過性が良好な薄膜形成方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0012】
1.大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、少なくとも窒素ガスと水素ガスを含有する放電ガスを放電空間に導入して励起し、該励起した放電ガスと、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物として下記一般式(3)で表される化合物を含有する薄膜形成ガスとを、放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、該間接励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に防汚膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
一般式(3)
Rf−X−(CH 2 ) k −M(OR 12 ) 3
〔式中、MはSi、Ti、Ge、ZrまたはSnを表し、Rfは水素原子の少なくとも1つがフッ素原子により置換されたアルキル基またはアルケニル基を表し、Xは単なる結合手または2価の基を表す。R 12 は、アルキル基、アルケニル基、アリール基を表し、kは0〜50の整数を表す。〕
【0020】
2.前記放電空間が、高周波電界により形成されたものであることを特徴とする前記1項に記載の薄膜形成方法。
【0024】
3.前記基材を放電空間、または前記励起した放電ガスに晒して前処理を行った後、前記間接励起ガスに基材を晒すことを特徴とする前記1または2項に記載の薄膜形成方法。
【0025】
4.前記薄膜を形成する基材表面が、無機化合物を含むことを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0026】
5.前記薄膜を形成する基材表面の主成分が、酸化金属であることを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0028】
6.基材上に形成された薄膜表面の表面比抵抗値が、23℃、55%RH条件下で1×1012Ω/□以下であることを特徴とする前記1〜5項のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
また、以下に示す態様も、本発明と同様の効果を奏する。
8.大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起し、該励起した放電ガスと、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物を含有する薄膜形成ガスとを、放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、該間接励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に薄膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
9.前記フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする前記8項に記載の薄膜形成方法。
【化A】
〔式中、MはSi、Ti、Ge、ZrまたはSnを表し、R1〜R6は各々水素原子または一価の基を表し、R1〜R6で表される基の少なくとも1つは、フッ素原子を有する基である。jは0〜150の整数を表す。〕
10.前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である
ことを特徴とする前記9項に記載の薄膜形成方法。
一般式(2)
[Rf−X−(CH2)k]q−M(R10)r(OR11)t
〔式中、MはSi、Ti、Ge、ZrまたはSnを表し、Rfは水素原子の少なくとも1つがフッ素原子により置換されたアルキル基またはアルケニル基を表し、Xは単なる結合手または2価の基を表す。R10はアルキル基、アルケニル基を、またR11はアルキル基、アルケニル基、アリール基を表す。また、kは0〜50の整数を表し、q+r+t=4であり、q≧1、またt≧1である。また、r≧2の時2つのR10は連結して環を形成してもよい。〕
11.前記フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物が、下記一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする前記8項に記載の薄膜形成方法。
【化B】
〔式中、MはSi、Ti、Ge、ZrまたはSnを表し、R1〜R6は各々水素原子または一価の基を表し、R1〜R6で表される基の少なくとも1つは、フッ素原子を有する基である。R7は、水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。jは0〜150の整数を表す。〕
12.前記フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物が、下記一般式(5)で表される化合物であることを特徴とする前記8項に記載の薄膜形成方法。
一般式(5)
[Rf−X−(CH2)k−Y]m−M(R8)n(OR9)p
〔式中、MはIn、Al、Sb、YまたはLaを表し、Rfは水素原子の少なくとも1つがフッ素原子により置換されたアルキル基またはアルケニル基を表す。Xは単なる結合手または2価の基を表し、Yは単なる結合手または酸素原子を表す。R8は置換もしくは非置換のアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R9は置換もしくは非置換のアルキル基またはアルケニル基を表す。kは0〜50の整数を表し、m+n+p=3であり、mは少なくとも1であり、n、pはそれぞれ0〜2の整数を表す。〕
13.前記フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物が、下記一般式(6)で表される化合物であることを特徴とする前記8項に記載の薄膜形成方法。
一般式(6)
Rf1(OC3F6)m1−O−(CF2)n1−(CH2)p1−Z−(CH2)q1−Si−(R2)3
〔式中、Rf1は炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基、R2は加水分解基、Zは−OCONH−又は−O−を表し、m1は1〜50の整数、n1は0〜3の整数、p1は0〜3の整数、q1は1〜6の整数を表し、6≧n1+p1>0である。〕
14.前記フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物が、下記一般式(7)で表される化合物であることを特徴とする前記8項に記載の薄膜形成方法。
【化C】
〔式中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Xはヨウ素原子または水素原子、Yは水素原子または低級アルキル基、Zはフッ素原子またはトリフルオロメチル基、R21は加水分解可能な基、R22は水素原子または不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0〜200の整数、eは0または1、mおよびnは0〜2の整数、pは1〜10の整数を表す。〕
【0029】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の薄膜形成方法においては、大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、少なくとも窒素ガスと水素ガスを含有する放電ガスを放電空間に導入して励起し、該励起した放電ガスと、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物として前記一般式(3)で表される化合物を含有する薄膜形成ガスとを、放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、該間接励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に防汚膜を形成することを特徴とする。
【0030】
はじめに、薄膜形成ガスに含有される本発明に係るフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物である前記一般式(3)で表される化合物と、その他のフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物について、その詳細を説明する。
【0031】
本発明に係るフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物において、フッ素原子を有する有機基としては、フッ素原子を有するアルキル基、アルケニル基、アリール基等を含有する有機基が挙げられるが、本発明において用いられるフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物は、これらのフッ素原子を有する有機基が、金属原子、例えば、珪素、チタン、ゲルマニウム、ジルコニウム、スズ、アルミニウム、インジウム、アンチモン、イットリウム、ランタニウム、鉄、ネオジウム、銅、ガリウム、ハーフニューム等の金属に直接結合した有機金属化合物である。これらの金属のうちでは、珪素、チタン、ゲルマニウム、ジルコニウム、スズ等が好ましく、更に好ましいのは珪素、チタンである。これらのフッ素を有する有機基は、金属化合物にいかなる形で結合していてもよく、例えば、シロキサン等複数の金属原子を有する化合物が、これらの有機基を有する場合、少なくとも1つの金属原子がフッ素を有する有機基を有していれば良く、またその位置も問わない。
【0032】
本発明の薄膜形成方法によると、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物が、シリカやガラス等の基板と結合を形成し易く、本発明の優れた効果を奏することができると推定している。
【0033】
フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物の一例としては、前記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
前記一般式(1)において、MはSi、Ti、Ge、ZrまたはSnを表す。
また、R1〜R6は各々水素原子または一価の基を表し、R1〜R6で表される基の少なくとも1つは、フッ素原子を有する有機基であり、例えば、フッ素原子を有するアルキル基、アルケニル基またはアリール基を含有する有機基が好ましく、フッ素原子を有するアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、4,4,3,3,2,2,1,1−オクタフルオロブチル基等の基が、フッ素原子を有するアルケニル基としては、例えば、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペニル基等の基が、また、フッ素原子を有するアリール基としては、例えば、ペンタフルオロフェニル基等の基が挙げられる。また、これらフッ素原子を有するアルキル基、アルケニル基、またアリール基から形成されるアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基等なども用いることができる。
【0035】
また、フッ素原子は、前記アルキル基、アルケニル基、アリール基等においては、骨格中の炭素原子のどの位置に任意の数結合していてもよいが、少なくとも1個以上結合していることが好ましい。また、アルキル基、アルケニル基骨格中の炭素原子は、例えば、酸素、窒素、硫黄等他の原子、また、酸素、窒素、硫黄等を含む2価の基、例えば、カルボニル基、チオカルボニル基等の基で置換されていてもよい。
【0036】
R1〜R6で表される基のうち、前記フッ素原子を有する有機基以外は、水素原子または1価の基を表し、1価の基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基等の基が挙げられるが、これに限定されない。jは0〜150の整数を表し、好ましくは0〜50、更に好ましいのはjが0〜20の範囲である。
【0037】
前記1価の基のうち、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。また、前記1価の基である前記アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基のうち、好ましいのは、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基である。
【0038】
また、Mで表される金属原子のうち、好ましいのは、Si、Tiである。
前記1価の基は、更にその他の基で置換されていてもよく、特に限定されないが、好ましい置換基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、フェニル基等のアリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルカンアミド基、アリールアミド基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、シリル基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基等の基が挙げられる。
【0039】
また、前記フッ素原子を有する有機基、またはそれ以外のこれらR1〜R6で表される基は、R1R2R3M−(Mは、前記金属原子を表し、R1、R2、R3はそれぞれ1価の基を表し、1価の基としては前記フッ素原子を有する有機基またはR1〜R6として挙げられた前記フッ素原子を有する有機基以外の基を表す。)で表される基によって更に置換された複数の金属原子を有する構造であっても良い。これらの金属原子としては、Si、Tiなどが挙げられ、例えば、シリル基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0040】
前記R1〜R6において挙げられたフッ素原子を有する基であるアルキル基、アルケニル基、またこれらから形成されるアルコキシ基、アルケニルオキシ基におけるアルキル基、アルケニル基としては、下記一般式(F)で表される基が挙げられる。
【0041】
一般式(F)
Rf−X−(CH2)k−
ここにおいてRfは、水素の少なくとも1つがフッ素原子により置換されたアルキル基、アルケニル基を表し、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロオクチル基、ヘプタフルオロプロピル基のようなパーフルオロアルキル基等の基、また、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,3,3,2,2,1,1−オクタフルオロブチル基等の基、また、1,1,1−トリフルオロ−2−クロルプロペニル基等のようなフッ素原子により置換されたアルケニル基が好ましく、中でも、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロオクチル基、ヘプタフルオロプロピル基等の基、また、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,3,3,2,2,1,1−オクタフルオロブチル基等の少なくとも2つ以上のフッ素原子有するアルキル基が好ましい。
【0042】
また、Xは単なる結合手または2価の基である、2価の基としては−O−、−S−、−NR−(Rは水素原子またはアルキル基を表す)等の基、−CO−、−CO−O−、−CONH−、−SO2NH−、−SO2−O−、−OCONH−、
【0043】
【化4】
【0044】
等の基を表す。
kは0〜50、好ましくは0〜30の整数を表す。
【0045】
Rf中にはフッ素原子のほか、他の置換基が置換されていてもよく、置換可能な基としては、前記R1〜R6において置換基として挙げられた基と同様の基が挙げられる。また、Rf中の骨格炭素原子が他の原子、例えば、−O−、−S−、−NR0−(R0は水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表し、また前記一般式(F)で表される基であってもよい)、カルボニル基、−NHCO−、−CO−O−、−SO2NH−等の基によって一部置換されていてもよい。
【0046】
前記一般式(1)で表される化合物としては、更に下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0047】
一般式(2)
[Rf−X−(CH2)k]q−M(R10)r(OR11)t
一般式(2)において、Mは前記一般式(1)と同様の金属原子を表し、Rf、Xは前記一般式(F)におけるRf、Xと同様の基を表し、kについても同じ整数を表す。R10はアルキル基、アルケニル基を、またR11はアルキル基、アルケニル基、アリール基を表し、それぞれ、前記一般式(1)のR1〜R6の置換基として挙げた基と同様の基により置換されていてもよいが、好ましくは、非置換のアルキル基、アルケニル基を表す。また、q+r+t=4であり、q≧1、またt≧1である。また、r≧2の時2つのR10は連結して環を形成してもよい。
【0048】
本発明の薄膜形成方法においては、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物として前記一般式(3)で表される化合物を用いることを特徴とする。
【0049】
一般式(3)
Rf−X−(CH2)k−M(OR12)3
ここにおいて、Rf、Xまたkは、前記一般式(2)におけるものと同義である。また、R12も、前記一般式(2)におけるR11と同義である。また、Mも前記一般式(2)におけるMと同様であるが、特に、Si、Tiが好ましく、最も好ましいのはSiである。
【0050】
その他のフッ素原子を有する有機金属化合物の例としては、前記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0051】
前記一般式(4)において、R1〜R6は、前記一般式(1)におけるR1〜R6と同義である。ここにおいても、R1〜R6の少なくとも1つは、前記フッ素原子を有する有機基であり、前記一般式(F)で表される基が好ましい。R7は水素原子、または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。また、jは0〜100の整数を表し、好ましくは0〜50、最も好ましいのはjが0〜20の範囲である。
【0052】
その他のフッ素原子を有する化合物として、前記一般式(5)で表されるフッ素原子を有する有機金属化合物が挙げられる。
【0053】
一般式(5)
[Rf−X−(CH2)k−Y]m−M(R8)n(OR9)p
一般式(5)において、MはIn、Al、Sb、YまたはLaを表す。Rf、Xは前記一般式(F)におけるRf、Xと同様の基を表し、Yは単なる結合手または酸素を表す。kについても同じく0〜50の整数を表し、好ましくは30以下の整数である。R9はアルキル基またはアルケニル基を、またR8はアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、それぞれ、前記一般式(1)のR1〜R6の置換基として挙げた基と同様の基により置換されていてもよい。また、一般式(5)において、m+n+p=3であり、mは少なくとも1であり、nは0〜2を、またpも0〜2の整数を表す。m+p=3、即ちn=0であることが好ましい。
【0054】
その他のフッ素原子を有する化合物として、下記一般式(6)で表されるフッ素原子を有する有機金属化合物がある。
【0055】
一般式(6)
Rf1(OC3F6)m1−O−(CF2)n1−(CH2)p1−Z−(CH2)q1−Si−(R2)3
一般式(6)において、Rf1は炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基、R2は加水分解基、Zは−OCONH−又は−O−を表し、m1は1〜50の整数、n1は0〜3の整数、p1は0〜3の整数、q1は1〜6の整数を表し、6≧n1+p1>0である。
【0056】
Rf1に導入しうる直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜16がより好ましく、1〜3が最も好ましい。従って、Rf1としては、−CF3、−C2F5、−C3F7等が好ましい。
【0057】
R2に導入しうる加水分解基としては、−Cl、−Br、−I、−OR11、−OCOR11、−CO(R11)C=C(R12)2、−ON=C(R11)2、−ON=CR13、−N(R12)2、−R12NOCR11などが好ましい。R11はアルキル基などの炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基を、またはフェニル基などの炭素数6〜20の芳香族炭化水素基を表し、R12は水素原子またはアルキル基などの炭素数1〜5の脂肪族炭化水素を表し、R13はアルキリデン基などの炭素数3〜6の二価の脂肪族炭化水素基を表す。これらの加水分解基の中でも、−OCH3、−OC2H5、−OC3H7、−OCOCH3及び−NH2が好ましい。
【0058】
上記一般式(6)におけるm1は1〜30あることがより好ましく、5〜20であることが更に好ましい。n1は1または2であることがより好ましく、p1は1または2であることがより好ましい。また、q1は1〜3であることがより好ましい。
【0059】
その他のフッ素原子を有する化合物として、下記一般式(7)で表されるフッ素原子を有する有機金属化合物がある。
【0060】
前記一般式(7)において、Rfは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、Xはヨウ素原子または水素原子、Yは水素原子または低級アルキル基、Zはフッ素原子またはトリフルオロメチル基、R21は加水分解可能な基、R22は水素原子または不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0〜200の整数、eは0または1、mおよびnは0〜2の整数、pは1〜10の整数を表す。
【0061】
前記一般式(7)において、Rfは、通常、炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、好ましくは、CF3基、C2F5基、C3F7基である。Yにおける低級アルキル基としては、通常、炭素数1〜5のものが挙げられる。
【0062】
R21の加水分解可能な基としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、R23O基、R23COO基、(R24)2C=C(R23)CO基、(R23)2C=NO基、R25C=NO基、(R24)2N基、及びR23CONR24基が好ましい。ここで、R23はアルキル基等の通常は炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基またはフェニル基等の通常は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、R24は水素原子またはアルキル基等の通常は炭素数1〜5の低級脂肪族炭化水素基、R25はアルキリデン基等の通常は炭素数3〜6の二価の脂肪族炭化水素基である。さらに好ましくは、塩素原子、CH3O基、C2H5O基、C3H7O基である。
【0063】
R22は水素原子または不活性な一価の有機基であり、好ましくは、アルキル基等の通常は炭素数1〜4の一価の炭化水素基である。a、b、c、dは0〜200の整数であり、好ましくは1〜50である。mおよびnは、0〜2の整数であり、好ましくは0である。pは1または2以上の整数であり、好ましくは1〜10の整数であり、さらに好ましくは1〜5の整数である。また、数平均分子量は5×102〜1×105であり、好ましくは1×103〜1×104である。
【0064】
また、前記一般式(7)で表されるシラン化合物の好ましい構造のものとして、RfがC3F7基であり、aが1〜50の整数であり、b、c及びdが0であり、eが1であり、Zがフッ素原子であり、nが0である化合物である。
【0065】
本発明において、本発明に係る前記一般式(3)で表されるフッ素を有する有機基を有する有機金属化合物、及び前記一般式(1)、(2)、(4)〜(7)で表される参照のフッ素を有する化合物の代表的化合物を以下に挙げるが、本発明ではこれらの化合物に限定されるものではない。
【0066】
1:(CF3CH2CH2)4Si
2:(CF3CH2CH2)2(CH3)2Si
3:(C8F17CH2CH2)Si(OC2H5)3
4:CH2=CH2Si(CF3)3
5:(CH2=CH2COO)Si(CF3)3
6:(CF3CH2CH2)2SiCl(CH3)
7:C8F17CH2CH2Si(Cl)3
8:(C8F17CH2CH2)2Si(OC2H5)2
9:CF3CH2CH2Si(OCH3)3
10:CF3CH2CH2SiCl3
11:CF3(CF2)3CH2CH2SiCl3
12:CF3(CF2)5CH2CH2SiCl3
13:CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH3)3
14:CF3(CF2)7CH2CH2SiCl3
15:CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3
16:CF3(CF2)8CH2Si(OC2H5)3
17:CF3(CH2)2Si(OC2H5)3
18:CF3(CH2)2Si(OC3H7)3
19:CF3(CH2)2Si(OC4H9)3
20:CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC2H5)3
21:CF3(CF2)5(CH2)2Si(OC3H7)3
22:CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC2H5)3
23:CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC3H7)3
24:CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)(OC3H7)2
25:CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)2OC3H7
26:CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OCH3)2
27:CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OC2H5)2
28:CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OC3H7)2
29:(CF3)2CF(CF2)8(CH2)2Si(OCH3)3
30:C7F15CONH(CH2)3Si(OC2H5)3
31:C8F17SO2NH(CH2)3Si(OC2H5)3
32:C8F17(CH2)2OCONH(CH2)3Si(OCH3)3
33:CF3(CF2)7(CH2)2Si(CH3)(OCH3)2
34:CF3(CF2)7(CH2)2Si(CH3)(OC2H5)2
35:CF3(CF2)7(CH2)2Si(CH3)(OC3H7)2
36:CF3(CF2)7(CH2)2Si(C2H5)(OCH3)2
37:CF3(CF2)7(CH2)2Si(C2H5)(OC3H7)2
38:CF3(CH2)2Si(CH3)(OCH3)2
39:CF3(CH2)2Si(CH3)(OC2H5)2
40:CF3(CH2)2Si(CH3)(OC3H7)2
41:CF3(CF2)5(CH2)2Si(CH3)(OCH3)2
42:CF3(CF2)5(CH2)2Si(CH3)(OC3H7)2
43:CF3(CF2)2O(CF2)3(CH2)2Si(OC3H7)3
44:C7F15CH2O(CH2)3Si(OC2H5)3
45:C8F17SO2O(CH2)3Si(OC2H5)3
46:C8F17(CH2)2OCHO(CH2)3Si(OCH3)3
47:CF3(CF2)5CH(C4H9)CH2Si(OCH3)3
48:CF3(CF2)3CH(C4H9)CH2Si(OCH3)3
49:(CF3)2(p−CH3−C6H5)COCH2CH2CH2Si(OCH3)3
50:CF3CO−O−CH2CH2CH2Si(OCH3)3
51:CF3(CF2)3CH2CH2Si(CH3)Cl
52:CF3CH2CH2(CH3)Si(OCH3)2
53:CF3CO−O−Si(CH3)3
54:CF3CH2CH2Si(CH3)Cl2
55:(CF3)2(p−CH3−C6H5)COCH2CH2Si(OCH3)3
56:(CF3)2(p−CH3−C6H5)COCH2CH2Si(OC6H5)3
57:(CF3C2H4)(CH3)2Si−O−Si(CH3)3
58:(CF3C2H4)(CH3)2Si−O−Si(CF3C2H4)(CH3)259:CF3(OC3F6)24−O−(CF2)2−CH2−O−CH2Si(OCH3)3
60:CF3O(CF(CF3)CF2O)mCF2CONHC3H6Si(OC2H5)3 (m=11〜30)、
61:(C2H5O)3SiC3H6NHCOCF2O(CF2O)n(CF2CF2O)pCF2CONHC3H6Si(OC2H5)3 (n/p=約0.5、数平均分子量=約3000)
62:C3F7−(OCF2CF2CF2)q−O−(CF2)2−[CH2CH{Si−(OCH3)3}]9−H (q=約10)
63:F(CF(CF3)CF2O)15CF(CF3)CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3
64:F(CF2)4[CH2CH(Si(OCH3)3)]2.02OCH3
65:(C2H5O)3SiC3H6NHCO−[CF2(OC2F4)10(OCF2)6OCF2]−CONHC3H6Si(OC2H5)3
66:C3F7(OC3F6)24O(CF2)2CH2OCH2Si(OCH3)3
67:CF3(CF2)3(C6H4)C2H4Si(OCH3)3
68:(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2SiCH3(OCH3)2
69:CF3(CF2)3(C6H4)C2H4SiCH3(OCH3)2
70:CF3(CF2)5(C6H4)C2H4Si(OC2H5)3
71:CF3(CF2)3C2H4Si(NCO)3
72:CF3(CF2)5C2H4Si(NCO)3
73:C9F19CONH(CH2)3Si(OC2H5)3
74:C9F19CONH(CH2)3SiCl3
75:C9F19CONH(CH2)3Si(OC2H5)3
76:C3F7O(CF(CF3)CF2O)2−CF(CF3)−CONH(CH2)Si(OC2H5)3
77:CF3O(CF(CF3)CF2O)6CF2CONH(CH2)3SiOSi(OC2H5)2(CH2)3NHCOCF2(OCF2CF(CF3))6OCF3
78:C3F7COOCH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2OCOC3F779:CF3(CF2)7CH2CH2O(CH2)3Si(CH3)2OSi(CH3)2(CH2)3OCH2CH2(CF2)7CF3
80:CF3(CF2)5CH2CH2O(CH2)2Si(CH3)2OSi(CH3)2(OC2H5)
81:CF3(CF2)5CH2CH2O(CH2)2Si(CH3)2OSi(CH3)(OC2H5)2
82:CF3(CF2)5CH2CH2O(CH2)2Si(CH3)2OSi(CH3)2OSi(CH3)2(OC2H5)
上記例示した化合物の他には、フッ素置換アルコキシシランとして、
83:(パーフルオロプロピルオキシ)ジメチルシラン
84:トリス(パーフルオロプロピルオキシ)メチルシラン
85:ジメチルビス(ノナフルオロブトキシ)シラン
86:メチルトリス(ノナフルオロブトキシ)シラン
87:ビス(パーフルオロプロピルオキシ)ジフェニルシラン
88:ビス(パーフルオロプロピルオキシ)メチルビニルシラン
89:ビス(1,1,1,3,3,4,4,4−オクタフルオロブトキシ)ジメチルシラン
90:ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)ジメチルシラン
91:トリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)メチルシラン
92:テトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)シラン
93:ジメチルビス(ノナフルオロ−t−ブトキシ)シラン
94:ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)ジフェニルシラン
95:テトラキス(1,1,3,3−テトラフルオロイソプロポキシ)シラン
96:ビス〔1,1−ビス(トリフルオロメチル)エトキシ〕ジメチルシラン97:ビス(1,1,1,3,3,4,4,4−オクタフルオロ−2−ブトキシ)ジメチルシラン
98:メチルトリス〔2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1,1−ビス(トリフルオロメチル)プロポキシ〕シラン
99:ジフェニルビス〔2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)−1−トリルエトキシ〕シラン
等の化合物や、以下の化合物、
100:(CF3CH2)3Si(CH2−NH2)
101:(CF3CH2)3Si−N(CH3)2
【0067】
【化5】
【0068】
更に、
【0069】
【化6】
【0070】
等のシラザン類や、
106:CF3CH2−CH2TiCl3
107:CF3(CF2)3CH2CH2TiCl3
108:CF3(CF2)5CH2CH2Ti(OCH3)3
109:CF3(CF2)7CH2CH2TiCl3
110:Ti(OC3F7)4
111:(CF3CH2−CH2O)3TiCl3
112:(CF3C2H4)(CH3)2Ti−O−Ti(CH3)3
等のフッ素を有する有機チタン化合物、また、以下のようなフッ素含有有機金属化合物を例として挙げることができる。
【0071】
113:CF3(CF2)3CH2CH2O(CH2)3GeCl
114:CF3(CF2)3CH2CH2OCH2Ge(OCH3)3
115:(C3F7O)2Ge(OCH3)2
116:[(CF3)2CHO]4Ge
117:[(CF3)2CHO]4Zr
118:(C3F7CH2CH2)2Sn(OC2H5)2
119:(C3F7CH2CH2)Sn(OC2H5)3
120:Sn(OC3F7)4
121:CF3CH2CH2In(OCH3)2
122:In(OCH2CH2OC3F7)3
123:Al(OCH2CH2OC3F7)3
124:Al(OC3F7)3
125:Sb(OC3F7)3
126:Fe(OC3F7)3
127:Cu(OCH2CH2OC3F7)2
128:C3F7(OC3F6)24O(CF2)2CH2OCH2Si(OCH3)3
【0072】
【化7】
【0073】
これら具体例で挙げられた各化合物は、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)、信越化学(株)、ダイキン化学(株)(例えば、オプツールDSX)また、Gelest Inc.等により上市されており、容易に入手することができる他、例えば、J.Fluorine Chem.,79(1).87(1996)、材料技術,16(5),209(1998)、Collect.Czech.Chem.Commun.,44巻,750〜755頁、J.Amer.Chem.Soc.1990年,112巻,2341〜2348頁、Inorg.Chem.,10巻,889〜892頁,1971年、米国特許第3,668,233号明細書等、また、特開昭58−122979号、特開平7−242675号、特開平9−61605号、同11−29585号、特開2000ー64348号、同2000−144097号公報等に記載の合成方法、あるいはこれに準じた合成方法により製造することができる。
【0074】
本発明の薄膜形成方法は、前述のように、大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、少なくとも窒素ガスと水素ガスを含有する放電ガスを放電空間に導入して励起し、該励起した放電ガスと、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物として前記一般式(3)で表される化合物を含有する薄膜形成ガスとを放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、該間接励起ガスに基材を晒して防汚膜を形成するものである。
【0075】
放電空間に直接晒した放電ガスと、薄膜形成ガスとを、放電空間外で接触させると、前記薄膜形成ガスが、前記放電空間で励起した放電ガスからエネルギーを受け取り、間接的に励起すると推定している。本発明では、薄膜形成ガスをこのようにして処理したものを間接励起ガスと呼ぶ。
【0076】
原理は定かでないが、薄膜形成ガスを直接放電空間に晒して用いる場合に比して、非常に高性能に、かつ高速に防汚膜を形成できることを本発明者らは見出したものである。
【0077】
本発明において、放電空間とは、所定の距離を有して対向配置された電極対により挟まれ、かつ前記電極対間へ放電ガスを導入して電圧印加することにより放電を起こす空間である。放電空間外とは、前記放電空間ではない空間のことをいう。
【0078】
放電空間の形態は、特に制限はなく、例えば、対向する平板電極対により形成されるスリット状であっても、あるいは2つの円筒電極間に円周状に形成された空間であっても良い。
【0079】
本発明でいう大気圧又は大気圧近傍の圧力下とは、20kPa〜200kPaの圧力下である。本発明において、電圧を印加する電極間のさらに好ましい圧力は、70kPa〜140kPaである。
【0080】
次いで、本発明の薄膜形成方法に用いる大気圧プラズマ放電処理装置、大気圧プラズマ放電処理方法及び大気圧プラズマ放電処理装置用の電極システムについて、以下にその実施の形態を図を用いて説明するが、本発明はこれに限定されない。また、以下の説明には、用語等に対し断定的な表現が含まれている場合があるが、本発明の好ましい例を示すものであって、本発明の用語の意義や技術的な範囲を限定するものではない。
【0081】
図1は、本発明に有用な大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す断面図である。
【0082】
以下、本発明でいう大気圧プラズマ放電処理装置とは、大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを放電空間に導入して励起し、励起した放電ガスと、薄膜形成ガスとを、放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、間接励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に薄膜を形成する装置をいう。
【0083】
図1において、大気圧プラズマ放電処理装置1は、主には、第1電極2と第2電極3、第1電極2′と第2電極3′とがそれぞれ対向する様に配置されている対向電極、電圧印加手段4である対向電極間に高周波電界を印加する高周波電源5の他に、図示していないが、放電ガスを放電空間に、薄膜形成ガスを放電空間外に導入するガス供給手段、前記電極温度を制御する電極温度調整手段等から構成されている。
【0084】
第1電極2と第2電極3、あるいは第1電極2′と第2電極3′とで挟まれ、かつ第1電極上の斜線で示した誘電体を有する領域Aが放電空間である。この放電空間に、放電ガスGを導入して励起させる。また、第2電極3と3′とで挟まれた領域では放電は起こらず、ここにフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物を含有する薄膜形成ガスMを導入する。次いで、対向電極が存在しない放電空間外のBの領域で、励起した放電ガスG′と、薄膜形成ガスMとを接触させて間接励起ガスとして、この間接励起ガスに、基材8表面に晒して薄膜を形成する。なお、基材8は、支持体のようなシート状の基材のみでなく、様々な大きさ、形状のものを処理することが可能となる。例えば、レンズ形状、球状などの厚みを有するような形状の基材へも薄膜形成することができる。
【0085】
本発明の薄膜形成方法においては、薄膜形成原料として、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物を用い、かつ励起した放電ガスと、薄膜形成ガスとを放電空間外の領域で接触させて間接励起ガスとすることにより、優れた撥水性、撥油性、皮脂やインクふき取り性及びその繰り返し耐久性を有し、かつ耐擦性が良好な薄膜を得ることができるものである。
【0086】
一対の対向電極(第1電極2と第2電極3、あるいは第1電極2′と第2電極3′)は、金属母材と誘電体で構成され、該金属母材をライニングすることにより無機質的性質の誘電体を被覆する組み合わせにより、また、金属母材に対しセラミックス溶射した後、無機質的性質の物質により封孔処理した誘電体を被覆する組み合わせにより構成されていてもよい。金属母材としては、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄、チタン、銅、金等の金属を使うことができる。また、誘電体のライニング材としては、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、ゲルマン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、アルミン酸塩ガラス、バナジン酸塩ガラス等を用いることができ、この中でもホウ酸塩系ガラスが加工し易く好ましい。また、誘電体の溶射に用いるセラミックスとしては、アルミナが良く、酸化珪素等で封孔処理することが好ましい。封孔処理としては、アルコキシラン系封孔材をゾルゲル反応させて無機化させることができる。
【0087】
また、図1では、対向電極は、第1電極2と第2電極3、第1電極2′と第2電極3′のように平板電極を用いてあるが、一方もしくは双方の電極を中空の円柱型電極あるいは角柱型電極としてもよい。この対向電極のうち一方の電極(第2電極3、3′)に高周波電源5が接続され、他方の電極(第1電極2、2′)は、アース9により接地され、対向電極間に電圧を印加出来るように構成されている。また、図1に示した構成に対し、電圧印加を第1電極2、2′とし、他方の第2電極3、3′をアースした構成でも良い。
【0088】
電圧印加手段4は高周波電源5より、それぞれの電極対に電圧を印加する。本発明に用いる高周波電源としては、特に限定はない。高周波電源としては、神鋼電機製高周波電源(3kHz)、神鋼電機製高周波電源(5kHz)、神鋼電機製高周波電源(15kHz)、神鋼電機製高周波電源(50kHz)、ハイデン研究所製高周波電源(連続モード使用、100kHz)、パール工業製高周波電源(200kHz)、パール工業製高周波電源(800kHz)、パール工業製高周波電源(2MHz)、日本電子製高周波電源(13.56MHz)、パール工業製高周波電源(27MHz)、パール工業製高周波電源(150MHz)等を使用できる。また、433MHz、800MHz、1.3GHz、1.5GHz、1.9GHz、2.45GHz、5.2GHz、10GHzを発振する電源を用いてもよい。
【0089】
本発明に係る防汚膜を形成するする場合の対向電極間に印加する高周波電界の周波数としては、特に限定はないが、高周波電源として0.5kHz以上、2.45GHz以下が好ましい。また、対向電極間に供給する電力は、好ましくは0.1W/cm2以上、50W/cm2以下である。尚、対向電極における電圧の印加面積(cm2)は、放電が起こる範囲の面積のことを指す。対向電極間に印加する高周波電圧は、断続的なパルス波であっても、連続したサイン波であっても構わない。
【0090】
本発明において、対向電極間の距離は、電極の金属母材上の誘電体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定される。上記電極の一方に誘電体を設置した場合の誘電体と電極の最短距離、上記電極の双方に誘電体を設置した場合の誘電体同士の距離を電極間の距離として、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1mm〜20mmが好ましく、0.2〜10mmがより好ましい。
【0091】
本発明に係る薄膜形成前、基材を別途設けた放電空間に晒して薄膜形成を施しても良い。また、薄膜形成前に、予め基材表面の除電処理を行い、更にゴミ除去を行っても良い。除電手段及び除電処理後のゴミ除去手段としては、通常のブロアー式や接触式以外に、複数の正負のイオン生成用除電電極と基材を挟むようにイオン吸引電極を対向させた除電装置とその後に正負の直流式除電装置を設けた高密度除電システム(特開平7−263173号)を用いてもよい。また、除電処理後のゴミ除去手段としては、非接触式のジェット風式減圧型ゴミ除去装置(特開平7−60211号)等を挙げることが出来好ましく用いることも出来るが、これらに限定されない。
【0092】
次に、放電空間に供給する放電ガスについて説明する。
放電ガスとは、放電を起こすことの出来るガスである。放電ガスとしては、一般には、窒素、希ガス、空気、水素、酸素などがあるが、本発明の薄膜形成方法においては、少なくとも窒素ガスと水素ガスを用いることを特徴の1つとする。放電ガスの量は、放電空間に供給する全ガス量に対し、70〜100体積%含有することが好ましい。
【0093】
また、本発明に係る薄膜形成ガスとは、本発明に係る前述のフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物として前記一般式(3)で表される化合物を含有し、基材上に化学的に堆積して薄膜を形成するガスのことである。本発明においては、薄膜形成ガスに対する本発明に係る前述のフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物である前記一般式(3)で表される化合物の含有量としては、0.001〜30.0体積%の範囲であることが好ましい。
【0094】
本発明の薄膜形成ガスは、上述の放電ガスとして説明した窒素や希ガス等を含有することができる。なお、本発明の薄膜形成ガスは、水素ガス、酸素ガス、窒素ガス、空気等の補助ガスを0.001体積%〜30体積%混合させて使用してもよい。
【0095】
本発明に係る薄膜形成方法で処理される基材の材質は、特に限定はなく、酸化金属、プラスチック、金属、陶器、紙、木材、不織布、ガラス板、セラミック、建築材料等を挙げることができ、特に、基材表面が、無機化合物を含む表面、あるいは有機化合物を含む表面で構成されていることが、本発明の目的効果を発揮する観点から好ましいが、その中でも、更に好ましくはシリカ、チタニア等の酸化金属を主成分とする表面の基材である。また、基材の形態は、シート状でも成型品でもよく、ガラスとしては板ガラスやレンズ等、プラスチックとしては、プラスチックレンズ、プラスチックフィルム、プラスチックシート、あるいはプラスチック成型品等が挙げられる。基材が、このようなプラスチックを支持体とする場合には、その表面に酸化金属膜を形成したものが好ましい。
【0096】
次いで、本発明に有用な大気圧プラズマ放電処理装置の例を以下に説明する。
図2は、図1で示した本発明に有用な大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す斜視図である。
【0097】
11、12、11′、12′は長方形で同じ大きさである平板電極であり、平板電極11と平板電極12、平板電極11′と平板電極12′はそれぞれ対向電極を構成している。この2組の対向電極は平行に配置されている。また、各平板電極は四隅をそろえて配置されている。平板電極11と12、平板電極11′と12′のそれぞれの対向面には、図1で説明したのと同様の誘電体が被覆されている。なお、本発明においては、平板電極11、12の少なくとも一方の電極の対向する面と、平板電極11′、12′のうち少なくとも一方の電極の対向する面が誘電体で被覆されていればよい。
【0098】
対向する平板電極11、12間、及び平板電極11′、12′間で形成される放電空間の幅手方向の端面(図中、手前面及び奥側面)は、蓋体17、17′によって塞がれている。蓋体は、放電空間と放電空間外との間で気体等が移動できないようにする。
【0099】
13または13′は、電極11、12間、電極11′、12′間に放電ガスを導入するための放電ガス導入口であり、電極11、12、または電極11、12の隙間のうち、蓋体17、17′で塞がれていない方向の一方の端部(図中上部)を、放電ガス導入口13、13′として用いている。
【0100】
図2の大気圧プラズマ処理装置においては、放電ガス導入口13または13′は、電極11、12、または電極11′、12′の隙間の一部をそのまま放電ガス導入口13または13′として用いているが、該隙間にさらに部材を設けることで、放電ガス導入口13、13′を平板電極11、12間、平板電極11′、12′間に放電ガスを効率よくかつ容易に導入することができる形状にしてもよい。
【0101】
14、14′は、電極11、12間、電極11′、12′間で励起した放電ガスを電極11、12間、電極11′、12′間の外に放出するための励起放電ガス放出口であり、電極11、12、電極11′、12′の隙間のうち、放電ガス導入口13、13′と向かい合う端部(図中下部)をそれぞれ励起放電ガス放出口14、14′として用いる。よって、励起放電ガス放出口14と励起放電ガス放出口14′は同じ端部を用いることになる。
【0102】
図2の大気圧プラズマ処理装置においては、励起放電ガス放出口14、14′は、電極11、12、電極11′、12′の隙間の一部をそのまま励起放電ガス放出口14、14′として用いているが、該隙間にさらにノズルのような部材を設けることで、平板電極11、12間、平板電極11′、12′間で発生した励起放電ガスを外部に放出する際に放出角度や放出強度を調整できるようにしてもよい。
【0103】
15は電極12、12′間に薄膜形成ガスを導入するための薄膜形成ガス導入口であり、電極12、12′間の隙間のうち、蓋体17、17′で塞がれていない方向の一方の端部(図中上端部)を、薄膜形成ガス導入口15として用いている。尚、薄膜形成ガス導入口15は放電ガス導入口13、13′と同じ方向の端部を用いる。
【0104】
図2の大気圧プラズマ処理装置においては、薄膜形成ガス導入口15は、電極12、12′で形成される隙間の一部をそのまま薄膜形成ガス導入口15としているが、該隙間にさらに部材を設けることで、薄膜形成ガス導入口15を平板電極12、12′間に薄膜形成ガスを効率よくかつ容易に導入することができる形状にしてもよい。
【0105】
16は、電極12、12′間に導入した薄膜形成ガスを電極12、12′で形成された空間外に放出するための薄膜形成ガス放出口であり、薄膜形成ガス導入口15と向かい合う端部(図中下端部)を薄膜形成ガス放出口16として用いている。よって、薄膜形成ガス放出口16は励起放電ガス放出口14、14′と同じ端部を用いることになる。
【0106】
図2の大気圧プラズマ処理装置においては、薄膜形成ガス放出口16は、電極12、12′間の隙間の一部をそのまま薄膜形成ガス放出口16として用いているが、該隙間にさらにノズルのような部材を設けることで、平板電極12、12′間に存在する薄膜形成ガスを外部に放出する際に放出角度や放出強度を調整できるようにしてもよい。
【0107】
本実施形態では、平板電極12、12′間をそのまま薄膜形成ガスの通路として用いているが、薄膜形成ガス導入口15と薄膜形成ガス放出口16をチューブ等でつなぎ、電極12、12′間を通過する構造としてもよい。
【0108】
上記構成において、薄膜形成ガス放出口16、励起放電ガス放出口14、14′は同じ端部を用いており、また、薄膜形成ガス放出口16は、励起放電ガス放出口14と励起放電ガス放出口14′に挟まれた構造となる。従って、薄膜形成ガス放出口16から放出される薄膜形成ガスと、励起放電ガス放出口14から放出される励起放電ガスとが、薄膜形成ガス放出口16、励起放電ガス放出口14、14′と、基材8との間に形成された放電空間外Bで接触し、間接励起ガスとなり、この間接励起ガスを基材に晒すことにより、基材上に目的とする防汚膜を形成することができる。
【0109】
また、前記励起放電ガスの流路と、前記薄膜形成ガスの流路の位置を入れ替えた構成を採ってもよい。
【0110】
本実施形態では、1つの薄膜形成ガス放出口を2つの励起放電ガス放出口で挟み込む構造として説明したが、新たに励起放電ガスを放出する平板電極対を設け、その間に新たに薄膜形成ガス放出口を設け、構造としては、端から順に励起放電ガス放出口、薄膜形成ガス放出口、励起放電ガス放出口、薄膜形成ガス放出口、励起放電ガス放出口という構成を複数個並べた構造にしても良い。
【0111】
5は電極11、12間、電極11′、12′間に高周波電圧を印加するための高周波電源である。9はアースであり、電極11、11′はアース9で接地されている。
【0112】
平板電極間11、12間、平板電極間11′、12′間に存在させる放電ガスは、大気圧又は大気圧近傍の圧力下で存在させ、高周波電源5によって、平板電極間11、12間、平板電極間11′、12′間に電圧を印加することで放電ガスを励起させ、励起放電ガスを発生させる。
【0113】
図2の大気圧プラズマ放電処理装置に用いられる電極システムは、電極11、12、11′、12′で構成され、電極11、12間と電極11′、12′間に電圧が印加され放電するようになっているのであるが、この電極システムを複数設け、さらに各電極システムに放電ガス導入口、薄膜形成ガス導入口、励起放電ガス放出口、薄膜形成ガス放出口を設けることで、基材への薄膜形成を複数回行うこともできる。これにより、基材8上に、同一成分、あるいは異なる成分の複数製膜を施したりすることができる。
【0114】
次に、図2に示した大気圧プラズマ放電処理装置を用いた薄膜形成方法を説明する。
【0115】
放電ガス導入口13、13′から電極11、12間、電極11′、12′間に放電ガスを導入し、電極11、12間、電極11′、12′間に大気圧又は大気圧近傍の圧力下で、放電ガスを存在させる。電極11、12間、電極11′、12′間に高周波電源5によって高周波電圧が印加され、電極11、12間、電極11′、12′間に存在する放電ガスを励起させ励起放電ガスを発生させる。電極11、12間、電極11′、12′間で発生した励起放電ガスは、新たに放電ガス導入口13、13′から導入されてくる放電ガスに押され、また、蓋体17、17′によって電極の側面方向の隙間は塞がれていることから、放電ガス放出口14、14′より電極11、12間、電極11′、12′間の外へと放出される。
【0116】
一方、電極12、12′間は、放電は起こっておらず、薄膜形成ガス導入口15から薄膜形成ガスが導入される。電極12、12′間に導入された薄膜形成ガスは、新たに薄膜形成ガス導入口15から導入されてくる薄膜形成ガスに押され、また、蓋体17、17′によって電極の側面方向の隙間は塞がれていることから、薄膜形成ガス放出口16から電極12、12′間の外へと放出される。
【0117】
薄膜形成ガス放出口16から放出される薄膜形成ガスは、励起放電ガス放出口14と励起放電ガス放出口14′とから放出される励起放電ガスと、基材8と、各ガス放出口間に形成された放電空間外Bで挟み込まれる様に接触して間接励起ガスとなり、この間接励起ガスに基材8を晒すことにより、基材8上に薄膜が形成される。
【0118】
図3は、本発明で用いることのできる他の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す斜視図である。
【0119】
21は内側電極であり、22は外側電極であり、一対の対向電極を構成している。内側電極21、外側電極22は、それぞれ中空の円筒状電極であり、外側電極22の筒管内に内側電極21を同心配置している。
【0120】
本発明では、内側電極21、外側電極22の対向する面を共に誘電体で被覆したが、内側電極21、外側電極22のうちどちらかの電極の対向する面に誘電体が被覆されていればよい。そして、この対向面間で放電が発生する。
【0121】
内側電極21、外側電極22には、先ほど図2で説明した電極11、12、11′、12′に用いることができる電極、誘電体を用いることができる。
【0122】
23は内側電極21と外側電極22の間に放電ガスを導入するための放電ガス導入口である。内側電極21と外側電極22の間とは、外側電極22の筒管内の領域において、内側電極21及び内側電極21の筒管内の領域を除いた領域である。また、放電ガス導入口23は内側電極21と外側電極22の間の端部の一方を用いる。
【0123】
図3の大気圧プラズマ処理装置においては、放電ガス導入口23は、内側電極21と外側電極22の隙間の上端部をそのまま放電ガス導入口23として用いているが、該隙間にさらに部材を設けることで、放電ガス導入口23を内側電極21と外側電極22の間に放電ガスを効率よく容易に導入することができる形状にしてもよい。
【0124】
24は、内側電極21と外側電極22の間で発生した励起放電ガスを内側電極21と外側電極22の間の外に放出するための励起放電ガス放出口であり、内側電極21と外側電極22の隙間において、放電ガス導入口23として用いていないほうの下端部を用いる。
【0125】
図3の大気圧プラズマ処理装置においては、励起放電ガス放出口24は、内側電極21と外側電極22の隙間下端部をそのまま励起放電ガス放出口24としているが、該隙間にさらにノズルのような部材を設けることで、内側電極21と外側電極22の間で発生した励起放電ガスを外部に放出する際に放出角度や放出強度を調整できるようにしてもよい。
【0126】
25は内側電極21の筒管内に薄膜形成ガスを導入するための薄膜形成ガス導入口であり、内側電極21の筒管の一方の口(上端部)を、薄膜形成ガス導入口25として用いている。尚、薄膜形成ガス導入口25は放電ガス導入口23と同じ端部となる口を用いる。
【0127】
図3の大気圧プラズマ処理装置においては、薄膜形成ガス導入口25は、内側電極21の筒管の口の一端をそのまま薄膜形成ガス導入口25として用いているが、該筒管の口にさらに部材を設けることで、薄膜形成ガス導入口25を内側電極21の筒管内に薄膜形成ガスを効率よく容易に導入することができる形状にすることもできる。
【0128】
26は、内側電極21の筒管内に導入した薄膜形成ガスを筒管内の外に放出するための薄膜形成ガス放出口であり、内側電極21の筒管の口のうち、薄膜形成ガス導入口25として用いていないほうの口を用いる。よって、薄膜形成ガス放出口26は励起放電ガス放出口14と同じ方向となることになる。
【0129】
図3の大気圧プラズマ処理装置においては、内側電極21の筒管の口の一端をそのまま薄膜形成ガス放出口26としているが、該筒管の口にさらにノズルのような部材を設けることで、該薄膜形成ガスを外部に放出する際に放出角度や放出強度を調整できるようにしてもよい。
【0130】
本実施形態では、内側電極21の筒管自体をそのまま薄膜形成ガスの通路として用いているが、薄膜形成ガス導入口25と薄膜形成ガス放出口26をチューブ等でつなぎ、内側電極21の筒管内を通過する構造としてもよい。
【0131】
前述したように、薄膜形成ガス放出口26と励起放電ガス放出口24は同じ方向に設けられ、また、薄膜形成ガス放出口26は、励起放電ガス放出口24に周囲を囲まれた構造となる。従って、薄膜形成ガス放出口26から放出される薄膜形成ガスは、励起放電ガス放出口24から放出される励起放電ガスと、基材8と、各ガス放出口間に形成された放電空間外Bで挟み込まれる様に接触して間接励起ガスとなり、この間接励起ガスに基材8を晒すことにより、基材8上に薄膜が形成される。
【0132】
本実施形態では、1つの薄膜形成ガス放出口の周囲を励起放電ガス放出口で囲んだ構造として説明したが、1つの励起放電ガス放出口の周囲を薄膜形成ガス放出口で囲んだ構造としてもよい。また、更に、内側電極の内側に新たに筒管状である内側電極、外側電極を設け、同様に薄膜形成ガス放出口、放電ガス放出口を設け、構造としては、内側から順に、薄膜形成ガス放出口、励起放電ガス放出口、薄膜形成ガス放出口、励起放電ガス放出口という複数の構造からなる構造の薄膜形成装置としても良い。
【0133】
図3の大気圧プラズマ処理装置に用いられる電極システムは、内側電極21と外側電極22で構成され、内側電極21と外側電極22の間に高周波電源5で電圧を印加されるようになっているのであるが、この電極システムを複数設け、さらに各電極システムに放電ガス導入口、励起放電ガス放出口、薄膜形成ガス導入口、薄膜形成ガス放出口を設けることで、基材へ薄膜形成を複数回行うこともできる。これにより、基材8に、同一成分、あるいは異なる成分の複数製膜を施すことができる。
【0134】
次に、図3に示した大気圧プラズマ処理装置を用いた薄膜形成方法を説明する。
【0135】
放電ガス導入口23から内側電極21と外側電極22の間に放電ガスを導入し、内側電極21と外側電極22の間に大気圧又は大気圧近傍の圧力下で放電ガスを存在させる。内側電極21と外側電極22の間に高周波電源5によって高周波電圧が印加され、内側電極21と外側電極22の間に存在する放電ガスを励起して励起放電ガスを発生させる。内側電極21と外側電極22の間で発生した励起放電ガスは、新たに放電ガス導入口23から導入されてくる放電ガスに押し出されるようにして、励起放電ガス放出口24より内側電極21と外側電極22の間から外部へと放出される。
【0136】
一方、薄膜形成ガス導入口25から内側電極21の筒管内に薄膜形成ガスを導入し、薄膜形成ガス放出口26から薄膜形成ガスを放出する。薄膜形成ガス放出口26から放出された薄膜形成ガスは、励起放電ガス放出口24から放出された励起放電ガスに、放電空間外Bで包まれた状態で接触して間接励起ガスとなり、この間接励起ガスに基材8を晒すことにより、基材8上に薄膜を形成する。
【0137】
本発明の薄膜形成方法においては、基材を放電空間、または励起放電ガスに晒して前処理を行った後、前記間接励起ガスに基材を晒すこともできる。
【0138】
以下に、本発明に係る薄膜形成前、基材を放電空間に晒して薄膜形成する前処理に用いる大気圧プラズマ放電装置について説明する。
【0139】
図4は、本発明に係る前処理に用いる大気圧プラズマ放電装置の一例を示す概略図である。図4はプラズマ放電処理装置130、ガス供給手段150、電圧印加手段140、及び電極温度調節手段160から構成されている。ロール回転電極135と角筒型固定電極群136として、基材Fをプラズマ放電処理するものである。ロール回転電極135はアース電極で、角筒型固定電極群136は高周波電源141に接続されている印加電極である。基材Fは、ガイドロール164を経てニップロール165で基材に同伴して来る空気等を遮断し、ロール回転電極135に接触したまま巻き回されながら角筒型固定電極群136との間を移送され、ニップロール166、ガイドロール167を経て、次工程である本発明に係る薄膜形成工程に移送する。前処理用ガスはガス供給手段150で、ガス発生装置151で発生させた前処理用のガスGを、流量制御して給気口152より対向電極間(ここが放電空間になる)132のプラズマ放電処理容器131内に入れ、該プラズマ放電処理容器131内を前処理用のガスGで充填し、放電処理が行われた処理排ガスG′を排気口153より排出するようにする。次に電圧印加手段140で、高周波電源141により角筒型固定電極群136に電圧を印加し、アース電極のロール回転電極135との電極間で放電プラズマを発生させる。ロール回転電極135及び角筒型固定電極群136を電極温度調節手段160を用いて媒体を加熱または冷却し電極に送液する。電極温度調節手段160で温度を調節した媒体を送液ポンプPで配管161を経てロール回転電極135及び角筒型固定電極群136内側から温度を調節する。プラズマ放電処理の際、基材の温度によって得られる薄膜の物性や組成は変化することがあり、これに対して適宜制御することが好ましい。媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材の温度ムラを出来るだけ生じさせないようにロール回転電極135の内部の温度を制御することが望ましい。なお、168及び169はプラズマ放電処理容器131と外界を仕切る仕切板である。
【0140】
また、本発明の薄膜形成方法においては、薄膜を形成する基材表面が、無機化合物を含むこと、あるいは基材表面の主成分が、酸化金属であることが好ましい。
【0141】
本発明において、基材表面に上記構成物を含む層を設ける方法の1つとして、大気圧プラズマ放電装置を用いることができる。
【0142】
大気圧プラズマ放電装置としては、例えば、放電ガスがヘリウムまたはアルゴンを主成分とする場合は、前述の図4で説明した大気圧プラズマ放電装置と同様の装置を用いることができるが、放電ガスが窒素を主成分とする場合は、図5に示す大気圧プラズマ放電装置を用いることがより好ましい。
【0143】
図5は、本発明に係る基材の表面処理に用いる大気圧プラズマ放電装置の一例を示す概略図である。
【0144】
装置の概略は、図4に示した構成とほぼ同様であるが、ロール回転電極(第1電極)135と角筒型固定電極群(第2電極)136との間の放電空間(対向電極間)132に、ロール回転電極(第1電極)135には第1電源141から周波数ω1であって高周波電圧V1を、また角筒型固定電極群(第2電極)136には第2電源142から周波数ω2であって高周波電圧V2をかけるようになっている。
【0145】
ロール回転電極(第1電極)135と第1電源141との間には、第1電源141からの電流がロール回転電極(第1電極)135に向かって流れるように第1フィルター143が設置されている。該第1フィルターは第1電源141からの電流をアース側へと通過しにくくし、第2電源142からの電流をアース側へと通過し易くするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)136と第2電源142との間には、第2電源からの電流が第2電極に向かって流れるように第2フィルター144が設置されている。第2フィルター144は、第2電源142からの電流をアース側へと通過しにくくし、第1電源141からの電流をアース側へと通過し易くするように設計されている。
【0146】
なお、ロール回転電極135を第2電極、また角筒型固定電極群136を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より大きな高周波電圧(V1>V2)を印加出来る能力を有しており、また、周波数はω1<ω2となる能力を有している。
【0147】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0148】
《薄膜(防汚膜)形成体の作製》
〔基材の作製〕
(帯電防止層の形成)
厚さ80μmのセルローストリアセテートフィルム(コニカ社製、商品名:コニカタックKC80UVSF)の一方の面に、下記組成の帯電防止層1の塗布組成物を乾燥膜厚で0.2μmとなるようにダイコートし、80℃、5分間乾燥して、帯電防止層を設けた。
【0149】
〈帯電防止層の塗布組成物〉
ダイヤナール(BR−88 三菱レーヨン社製) 0.5質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 60質量部
メチルエチルケトン 15質量部
乳酸エチル 6質量部
メタノール 8質量部
導電性ポリマー樹脂
IP−16(特開平9−203810号公報記載) 0.5質量部
(ハードコート層の形成)
上記帯電防止層を形成したフィルムに、下記ハードコート層組成物を、乾燥膜厚が3.5μmとなるように塗布し、80℃にて5分間乾燥した。次に80W/cm高圧水銀灯を12cmの距離から4秒間照射して硬化させ、ハードコート層を有するハードコートフィルムを作製した。ハードコート層の屈折率は1.50であった。
【0150】
〈ハードコート層組成物〉
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3量体以上の成分
20質量部
ジエトキシベンゾフェノン(UV光開始剤) 2質量部
メチルエチルケトン 50質量部
酢酸エチル 50質量部
イソプロピルアルコール 50質量部
上記組成物を撹拌しながら溶解した。
【0151】
(バックコート層の塗設)
前記ハードコート層を塗設した面の反対面に、下記のバックコート層塗布組成物を、ウェット膜厚14μmとなるようにグラビアコーターで塗布し、乾燥温度85℃にて乾燥させてバックコート層を塗設した。
【0152】
〈バックコート層塗布組成物〉
アセトン 30質量部
酢酸エチル 45質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
セルロースジアセテート 0.5質量部
アエロジル200V 0.1質量部
(反射防止層の形成)
図5に示した大気圧プラズマ放電処理装置を4基接続し、それぞれの装置の2個の電極の電極間隙を1mmとし、各装置の放電空間に下記ガスをそれぞれ供給し、上記作製したハードコート層上に、順次薄膜を形成した。各装置の第1電極に第1の高周波電源として、神鋼電機社製(50kHz)の高周波電源を使用し、高周波電圧10kV/mm及び出力密度1W/cm2で、また、第2電極に第2の高周波電源として、パール工業社製(13.56MHz)の高周波電源を使用し、高周波電圧0.8kV/mm及び出力密度5.0W/cm2で印加し、プラズマ放電を行って酸化チタンを主成分とする薄膜及び酸化珪素を主成分とする反射防止層を形成した。このときの各装置の放電空間における窒素ガスの放電開始電圧は3.7kV/mmであった。なお、下記薄膜形成ガスは窒素ガス中で気化器によって蒸気とし、加温しながら放電空間に供給した。また、ロール電極はドライブを用いてセルロースエステルフィルムの搬送を同期して回転させた。両電極を80℃になるように調節保温して行った。
【0153】
〈酸化チタン層形成用ガス組成〉
放電ガス:窒素 97.9体積%
薄膜形成ガス:テトライソプロポキシチタン 0.1体積%
添加ガス:水素 2.0体積%
〈酸化珪素層形成用ガス組成〉
放電ガス:窒素 98.9体積%
薄膜形成ガス:テトラエトキシシラン 0.1体積%
添加ガス:酸素 1.0体積%
前記ハードコート層の上に、順に酸化チタン層、酸化珪素層、酸化チタン層、酸化珪素層を設け、帯電防止層、ハードコート層及び反射防止層を有する基材(表1には、これをTACと記す)を作製した。なお、反射防止層を構成するそれぞれの層は、順に屈折率2.1(膜厚15nm)、屈折率1.46(膜厚33nm)、屈折率2.1(膜厚120nm)、屈折率1.46(膜厚76nm)であった。
【0154】
〔試料1の作製〕
(大気圧プラズマ放電処理装置)
上記作製したフィルム上にハードコート層及び反射防止層を有する基材上に、図2に示す大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、防汚膜の形成を行った。放電ガス導入口13、13′より導入される放電ガスとして下記ガス種A、薄膜形成ガス導入口15より導入される薄膜形成ガスとしてガス種Bを用いた。
【0155】
〈ガス種A:放電ガス〉
アルゴンガス 98.5体積%
水素ガス 1.5体積%
〈ガス種B:薄膜形成ガス〉
アルゴンガス 99.8体積%
有機金属化合物(例示化合物15) 0.2体積%
(エステック社製気化器により、アルゴンガス中に例示化合物15を気化)
〈電極〉
電極11、12、11′、12′は、電極にステンレスSUS316を用い、更に、電極の放電空間を構成する表面にアルミナセラミックを1mmになるまで溶射被覆させた後、アルコキシシランモノマーを有機溶媒に溶解させた塗布液をアルミナセラミック被膜に塗布し、乾燥させた後に、150℃で加熱し封孔処理を行って誘電体を形成した。電極の誘電体を被覆していない部分に、高周波電源5の接続やアース9による接地を行った。なお、ガス放出口と基材との間隙は10mmとした。
【0156】
高周波電源5には、パール工業製高周波電源(周波数:13.56MHz)で、5W/cm2の放電電力を印加した。
【0157】
〈薄膜形成〉
供給された薄膜形成ガス(ガス種B)と放電ガス(ガス種A)は、各ガス放出口を出た後、すなわち放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、フィルム基材を間接励起ガスに晒し、基材表面へ薄膜を形成して試料1を得た。この時、基材は薄膜形成ガス放出角度に対して垂直方向に移動させた。この移動は、図中左右方向にスキャンして行った。また、ガス種Bとガス種Aとの使用量は、体積として1:1の比で用いた。
【0158】
〔試料2〜9の作製〕
上記試料1の作製において、ガス種Bの原料として用いた例示化合物15に代えて、表1に記載の各有機金属化合物を用いた以外は同様にして、試料2〜9を作製した。
【0159】
〔試料10の作製〕
前記試料1の作製において、基材を間接励起ガスに晒す前に、基材に下記前処理Aを施した以外は同様にして、試料10を作製した。
【0160】
前処理A:基材を間接励起ガスに晒す前に、図1に記載の第1電極2と第2電極3とが対向する様に配置されている構成からなる放電空間に、放電ガスとしてアルゴンガス/酸素ガス=99:1(体積比)を流入し、基材をその励起放電ガスに1秒間晒した。なお、高周波電源として、パール工業製高周波電源(周波数:13.56MHZ)、放電出力は10w/cm2に設定して行った。
【0161】
〔試料11の作製〕
前記試料1の作製において、基材を間接励起ガスに晒す前に、基材に下記前処理Bを施した以外は同様にして、試料11を作製した。
【0162】
前処理B:基材を間接励起ガスに晒す前に、図4に示す1対のロール電極からなる放電装置を用いて、ロール電極対のギャップ間隙を1mm、放電ガスとして、アルゴンガス/酸素ガス=99/1(体積比)で、供給した放電空間に5秒間晒した。なお、高周波電源として、パール工業社製(13.56MHz)の高周波電源を使用し、第2電極に出力密度5.0W/cm2で印加した。
【0163】
〔試料12の作製〕
前記試料1の作製において、基材をセルロースエステルフィルムに代えて、ガラス板(製品名:日本板硝子社製 0.5tソーダガラス 片面研磨品)を用いた以外は同様にして、試料12を作製した。
【0164】
〔試料13の作製〕
前記試料1の作製において、薄膜形成ガス(ガス種B)及び放電ガス(ガス種A)で用いたアルゴンガスを、それぞれ窒素ガスに代え、更に、使用する高周波電源を、ハイデン研究所製高周波電源(周波数:40kHz)で、6W/cm2の放電電力で放電した以外は同様にして、試料13を作製した。
【0165】
〔試料14、15の作製〕
上記試料1の作製において、ガス種Bの原料として用いた例示化合物15に代えて、表1に記載の各有機金属化合物を用いた以外は同様にして、試料14、15を作製した。
【0166】
〔試料16の作製:比較例〕
前記作製した帯電防止層、ハードコート層及び反射防止層を有する基材上に、平均乾燥膜厚が10nmとなるように、例示化合物15をイソプロピルアルコールで希釈した塗布液を、湿潤膜厚が15μmとなる様にバーコート塗布し、乾燥後、90℃で5時間加熱処理を行って、比較の試料16を作製した。
【0167】
〔試料17の作製:比較例〕
上記試料1の作製において、ガス種Bの原料として用いた例示化合物15に代えて、6−フッ化プロピレンを用いた以外は同様にして、比較の試料17を作製した。
【0168】
〔試料18の作製:比較例〕
上記試料1の作製において、ガス種Bの原料として用いた例示化合物15に代えて、メチルトリエトキシシランを用いた以外は同様にして、比較の試料18を作製した。
【0169】
〔試料19の作製:比較例〕
上記試料1の作製において、図4の大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、高周波電源として、神鋼電機社製(50kHz)の高周波電源を使用し、第2電極に出力密度0.5W/cm2で印加し、かつ、放電空間に晒す前に、ガス種Aとガス種Bを混合してからガス供給した以外は同様にして、試料19を作製した。
【0170】
各試料の薄膜形成方法の主な特徴を、表1に示す。
【0171】
【表1】
【0172】
《各試料の特性値の測定及び評価》
〔接触角の測定〕
各未処理試料及び前処理試料について、協和界面科学社製接触角計CA−Wを用いて、23℃、55%の環境下で、防汚膜表面の水に対する接触角とヘキサデカンに対する接触角を測定した。なお、測定はランダムに10カ所について行い、その平均値を求めた。
【0173】
〔油性インク筆記性の評価:撥油性の評価〕
油性インク(ゼブラ社製 マッキー極細黒 MO−120−MC−BK)を用いて、試料表面を3mmφ塗りつぶした後、油性インクによる表面上の筆記具合を目視観察し、下記の基準に則り油性インク筆記性の評価を行った。
【0174】
◎:油性インクを極めて良くはじき、ほとんど塗りつぶすことができず、撥油性が極めて良好である
○:一部で油性インクのはじきが発生し、全面を均一に塗りつぶすことができず、撥油性を有している
×:油性インクに対するなじみがよく、はじくことなく筆記できるため、撥油性を有していない
〔油性インク拭き取り性の評価〕
油性インク(ゼブラ社製 マッキー極細黒 MO−120−MC−BK)を用いて、試料表面を3mmφ塗りつぶした後、柔らかい布(旭化成社製 BEMCOT M−3 250mm×250mm)で油性インク画像を拭き取り、この操作を同一位置で20回繰り返して行い、1回拭き取り後と20回拭き取り後における油性インクの残り状況を目視観察し、下記の基準に則り油性インクの拭き取り性の評価を行った。
【0175】
◎:油性インクが、完全に拭き取れた
○:油性インクが、ほぼ拭き取れた
×:油性インクが、一部で拭き取られず残っている
〔耐擦過性の評価〕
各試料表面を、500gの重りを載せたボンスター#0000のスチールウールを用いて10回擦って、発生する傷を目視で数え、下記の基準に則り耐擦過性の評価を行った。
【0176】
A:傷が全く発生していない
B:発生している傷の本数が1〜5本未満
C:発生している傷の本数が5〜15本未満
D:発生している傷の本数が15本以上
〔表面比抵抗の測定〕
本発明の薄膜形成体について、下記の方法に従って表面比抵抗値を測定した結果、全て1×1012Ω/□以下であった。
【0177】
(表面比抵抗の測定方法)
試料を、23℃、55%RHの環境下で24時間調湿した後、川口電機社製のテラオームメーターモデルVE−30を用いて測定した。測定に用いた電極は、2本の電極(試料と接触する部分が1cm×5cm)を1cmの間隔で配置し、電極に試料を接触させて測定し、測定値を5倍にした値を表面比抵抗値(Ω/□)とした。
【0178】
以上により得られた表面比抵抗を除く結果を、表2に示す。
【0179】
【表2】
【0180】
表2より明らかなように、薄膜形成ガス原料としてフッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物を含有し、本発明の薄膜形成方法に従って防汚膜を形成した本発明の試料は、比較例に対し、撥水性、撥油性、油性インクの拭き取り性に優れ、かつ形成された防汚膜の耐擦過性が良好であることが分かる。また、試料13と試料1を比較して明らかなように、放電ガス及び薄膜形成ガスを用いるアルゴンガスを窒素ガスに代えることで、油性インク拭き取りの繰り返し性が向上することも分かる。
【0181】
【発明の効果】
本発明により、基材への影響が無く、優れた撥水性、撥油性、油性インクの拭き取り性を有し、かつ耐擦過性が良好な薄膜形成方法と薄膜形成体を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いることのできる大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に用いることのできる大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に用いることのできるの他の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る前処理に用いる大気圧プラズマ放電装置の一例を示す概略図である。
【図5】本発明に係る基材の表面処理に用いる大気圧プラズマ放電装置の他の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1 大気圧プラズマ放電処理装置
2、2′ 第1電極
3、3′ 第2電極
4 電圧印加手段
5 高周波電源
6 絶縁体
8、F 基材
9 アース
11、12、11′、12′ 平板電極
13、13′、23 放電ガス導入口
14、14′、24 放電ガス放出口
15、25 薄膜形成ガス導入口
16、26 薄膜形成ガス放出口
17、17′ 蓋体
21 内側電極
22 外側電極
G 放電ガス
G′ 励起放電ガス
M 薄膜形成ガス
A 放電空間
B 放電空間外
131 プラズマ放電処理容器
132 放電空間
135 ロール電極(第1電極)
136 角筒型電極群(第2電極)
140 電圧印加手段
141 第1電源
142 第2電源
143 第1フィルター
144 第2フィルター
150 ガス供給手段
160 電極温度調節手段
G ガス
Claims (6)
- 大気圧もしくは大気圧近傍の圧力下で、少なくとも窒素ガスと水素ガスを含有する放電ガスを放電空間に導入して励起し、該励起した放電ガスと、フッ素原子を有する有機基を有する有機金属化合物として下記一般式(3)で表される化合物を含有する薄膜形成ガスとを、放電空間外で接触させて間接励起ガスとし、該間接励起ガスに基材を晒すことにより、該基材上に防汚膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
一般式(3)
Rf−X−(CH2)k−M(OR12)3
〔式中、MはSi、Ti、Ge、ZrまたはSnを表し、Rfは水素原子の少なくとも1つがフッ素原子により置換されたアルキル基またはアルケニル基を表し、Xは単なる結合手または2価の基を表す。R12は、アルキル基、アルケニル基、アリール基を表し、kは0〜50の整数を表す。〕 - 前記放電空間が、高周波電界により形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成方法。
- 前記基材を放電空間、または前記励起した放電ガスに晒して前処理を行った後、前記間接励起ガスに基材を晒すことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成方法。
- 前記薄膜を形成する基材表面が、無機化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
- 前記薄膜を形成する基材表面の主成分が、酸化金属であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
- 基材上に形成された薄膜表面の表面比抵抗値が、23℃、55%RH条件下で1×10 12 Ω/□以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
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