しかしながら、上記従来の事前演算型は、適用系統が限定されないという長所がある一方、想定した擾乱以外には対応できない短所を有している。また、電源制限量の算出にも試行錯誤を繰り返すため、ある程度の計算時間を要するという短所を有している。
また、上記従来の事後演算型は、想定外の擾乱にもある程度対応できる長所がある一方、用いる電力動揺方程式が等価1機無限大系統における理論に基づくものであり、等価的に1機無限大系統とみなせる系統にしか適用できない短所を有し、大規模系統の系統間脱調に適用する場合には電源制限量の算出精度の低下が懸念される。
ここで、今後の電力自由化等により、連系線の潮流が増大する可能性が考えられる。その場合、より遠方の系統現象の影響が強く現れることとなり、稀頻度重大事故に広域連系系統において系統間脱調に至る可能性も否定できない。このときの脱調の様相は振動発散的なN波脱調となることが予想され、複数の電力会社をまたがる広範囲の測定データを活用してN波系統間脱調の事故波及を防止する必要が生じる。ここで、N波系統間脱調とは、系統をまたがる動揺モードが複数回(N回)の振動を繰り返した後に系統間で脱調する現象を言う。
N波系統間脱調の防止に必要な電源制限量(以下、「電源制限」を「電制」と略称する。)の算出については、1波脱調の電制量の算出で用いられるエネルギー法などでは精度良く求めることができない。それは、エネルギー法などが等価1機無限大系統における理論に基づくものであり、「系統擾乱によって周波数・電圧が変動することのない大規模系統(等価無限大系統、等価無限大発電機と呼ばれることも多い)」の存在しない広域連系系統へは直接適用できないためである。
また、N波系統間脱調の場合、電制するタイミングによって、系統を安定化させるための電制量が異なることも、この問題を一層難しいものとしている。つまり、N波系統間脱調の電制が1波脱調と大きく異なる特徴として、電制を早く実施すれば電制量が少なくて済むとは限らない点が挙げられる。1波脱調の場合、電制が早ければ早いほど系統を安定化させるための電制量は少なくて済み、遮断器の動作遅れなどで電制の実施タイミングが遅くなった場合の電制量の補正・主保護不動作時の電制量の増加補正に力点が置かれていた。しかし、N波系統間脱調に対しては電制するタイミングによって、系統を安定化させるための電制量が異なり、電制をすることによって電制しない場合よりも脱調が早まることがある。電制するがゆえに脱調が早まってしまうのでは本末転倒であり、適正な電制の実施タイミングを把握することが重要となる。
そもそも広域連系系統におけるN波系統間脱調については、これまで研究はほとんどなされていない。これは、各電力会社内で発生した系統動揺(脱調現象)は各々の会社内で抑制し他社へ影響を波及させないようにするという思想のもとで電力各社が設備形成、系統運用面、保護リレーシステム面の対策を講じてきており、現時点ではN波系統間脱調を想定する必要がないためである。
そこで本発明は、想定外の擾乱にも対応でき、かつ適用系統が限定されず、N波系統間脱調にも対応できる電力系統の脱調防止制御方法および装置並びにプログラムを提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、複数の発電機を含む電力系統から得られる実測値を入力データとして、前記電力系統における脱調の発生を予測し、当該脱調を防ぐために前記電力系統の中の一部の発電機を遮断する電源制限の実施に必要な情報を決定する電力系統の脱調防止制御方法において、連系線のブランチ相差角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成し、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出し、前記発電機の内部位相角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成し、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出し、前記連系線について検出された不安定な動揺モードと同一周期または同一周期と見なせる不安定な動揺モードを有する発電機を、電源制限の対象となり得る不安定発電機として選定するようにしている。
また、請求項9記載の発明は、複数の発電機を含む電力系統から得られる実測値を入力データとして、前記電力系統における脱調の発生を予測し、当該脱調を防ぐために前記電力系統の中の一部の発電機を遮断する電源制限の実施に必要な情報を決定する電力系統の脱調防止制御装置において、連系線のブランチ相差角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成する手段と、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出する手段と、前記発電機の内部位相角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成する手段と、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出する手段と、前記連系線について検出された不安定な動揺モードと同一周期または同一周期と見なせる不安定な動揺モードを有する発電機を、電源制限の対象となり得る不安定発電機として選定する手段とを有するようにしている。
また、請求項12記載の発明は、複数の発電機を含む電力系統から得られる実測値を入力データとして、前記電力系統における脱調の発生を予測し、当該脱調を防ぐために前記電力系統の中の一部の発電機を遮断する電源制限の実施に必要な情報を決定する電力系統の脱調防止制御装置としてコンピュータを機能させるプログラムであり、連系線のブランチ相差角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成する手段と、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出する手段と、前記発電機の内部位相角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成する手段と、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出する手段と、前記連系線について検出された不安定な動揺モードと同一周期または同一周期と見なせる不安定な動揺モードを有する発電機を、電源制限の対象となり得る不安定発電機として選定する手段として、コンピュータを機能させるようにしている。
脱調モードを含まない発電機に対していくら電制を実施しても系統安定化の効果はほとんど得られないため、電制をしない場合よりもかえって脱調が早まってしまうが、上記のように不安定発電機を選定することにより、脱調を引き起こす動揺モードを含む発電機に対して電制を実施することが可能となる。
また、請求項1記載の発明は、さらに、同一の発電所または部分系統に属する前記不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求め、当該加速回転エネルギーのピークの大きさの増分を求め、当該増分を削減する電源制限量を算定し、合計容量が上記算定された電源制限量を満足する1台または複数台の発電機を、前記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定するようにしている。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の電力系統の脱調防止制御方法において、同一の発電所または部分系統に属する前記不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求め、当該加速回転エネルギーのピークの大きさが減少する場合に、容量が最小となる発電機を前記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定するようにしている。
また、請求項9記載の発明は、さらに、同一の発電所または部分系統に属する前記不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求める手段と、当該加速回転エネルギーのピークの大きさの増分を求める手段と、当該増分を削減する電源制限量を算定する手段と、合計容量が上記算定された電源制限量を満足する1台または複数台の発電機を、前記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定する手段とを有するようにしている。
また、請求項10記載の発明は、請求項9記載の電力系統の脱調防止制御装置において、同一の発電所または部分系統に属する前記不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求める手段と、当該加速回転エネルギーのピークの大きさが減少する場合に、容量が最小となる発電機を前記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定する手段とを有するようにしている。
また、請求項12記載の発明は、さらに、同一の発電所または部分系統に属する前記不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求める手段と、当該加速回転エネルギーのピークの大きさの増分を求める手段と、当該増分を削減する電源制限量を算定する手段と、合計容量が上記算定された電源制限量を満足する1台または複数台の発電機を、前記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定する手段として、コンピュータを機能させるようにしている。
また、請求項13記載の発明は、請求項12記載の電力系統の脱調防止制御プログラムにおいて、同一の発電所または部分系統に属する前記不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求める手段と、当該加速回転エネルギーのピークの大きさが減少する場合に、容量が最小となる発電機を前記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定する手段として、コンピュータを機能させるようにしている。
N波脱調の場合は、加速回転エネルギーが振動的に変化し続けた後、脱調に至る。したがって、加速回転エネルギーのピーク値の推移を電制量の決定に活用することで、直ちに脱調に至るような事態を確実に防止できる電制量を算定することができる。
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の電力系統の脱調防止制御方法において、前記電制対象発電機に対し、当該電制対象発電機の加速回転エネルギーが負となる減速期間中のタイミングで、電源制限を実施するようにしている。
また、請求項11記載の発明は、請求項9または10記載の電力系統の脱調防止制御装置において、前記電制対象発電機に対し、当該電制対象発電機の加速回転エネルギーが負となる減速期間中のタイミングで、電源制限を実施するようにしている。
また、請求項14記載の発明は、請求項12または13記載の電力系統の脱調防止制御プログラムにおいて、前記電制対象発電機に対し、当該電制対象発電機の加速回転エネルギーが負となる減速期間中のタイミングで、電源制限を実施する手段として、コンピュータを機能させるようにしている。
不安定と判定された発電機群(発電所または部分系統)が電力系統(発電機群全体)のエネルギーを吸収している間(即ち加速期間中)に電源制限を実施すると、残りの発電機群がその分加速されてしまい系統全体が不安定になってしまう。一方、本発明のように、不安定と判定された発電機群(発電所または部分系統)がエネルギーを放出している間(即ち減速期間中)に電源制限を実施することで、系統全体を安定化する方向に向かわせることができる。
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載の電力系統の脱調防止制御方法において、複数の前記電制候補発電機群が存在する場合に、前記検出された動揺モードの減衰率に基づいて、複数の前記電制候補発電機群について不安定度を格付けし、最も不安定度の高い前記電制候補発電機群から優先的に前記電制対象発電機を選定するとの条件と、優先された前記電制候補発電機群が上記電源制限実施の適正タイミングにないときには、次に不安定度の高い前記電制候補発電機群から前記電制対象発電機を選定するとの条件との下で、選定された前記電制対象発電機に対して電源制限を実施するようにしている。この場合、脱調を引き起こしている動揺モードを有する発電機群のうち、発散傾向の強い発電機群から順に電制するように制御できる。
また、請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の電力系統の脱調防止制御方法において、前記不安定発電機を選定する処理を一定時間間隔ごとに繰り返し行うようにしている。この場合、1回の電源制限で電力系統を安定化できない場合であっても、電源制限を順次実施することで、換言すれば逐次発電機を追加遮断することで、電力系統を確実に安定化させることができる。
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載の電力系統の脱調防止制御方法において、前記不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返された場合に、前記電制対象発電機を選定する処理を実行するようにしている。この場合、脱調予測の信頼性を向上でき、電源制限の不要動作を防止できる。
また、請求項7記載の発明は、請求項6記載の電力系統の脱調防止制御方法において、電源制限が実施された後、少なくとも前記不安定発電機が存在しない旨の判断が出されるまで、前記不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返されたか否かの判断をスキップするようにしている。この場合、迅速に追加電制を行える。
また、請求項8記載の発明は、請求項5から7のいずれか1つに記載の電力系統の脱調防止制御方法において、電源制限が実施された後、少なくとも前記不安定発電機が存在しない旨の判断が出されるまで、前記電制候補発電機群が上記電源制限実施の適正タイミングにあるか否かの判断をスキップするようにしている。この場合も、迅速に追加電制を行える。
以上のように本発明によれば、等価1機無限大系統を前提とするものではないため、適用系統が限定されず、N波系統間脱調にも対応できる。また、入力データとして電力系統から得られる実測値を用いるので、想定外の擾乱にも対応できる。
そして、請求項1記載の脱調防止制御方法および請求項9記載の脱調防止制御装置および請求項12記載の脱調防止制御プログラムによれば、時系列データを用いて作成した自己回帰モデルを利用して不安定な動揺モードを有する発電機を検出するので、脱調を引き起こす動揺モードを含む発電機に対して、確実に電制を実施することが可能となる。これにより、脱調モードを含まない発電機に対して電制を実施してしまい、電制をしない場合よりもかえって脱調が早まってしまう事態を回避できる。
さらに請求項1,2記載の脱調防止制御方法および請求項9,10記載の脱調防止制御装置および請求項12,13記載の脱調防止制御プログラムによれば、加速回転エネルギーのピーク値の推移を電制量の決定に活用することで、直ちに脱調に至るような事態を確実に防止できる電制量を算定することができる。
さらに請求項3記載の脱調防止制御方法および請求項11記載の脱調防止制御装置および請求項14記載の脱調防止制御プログラムによれば、不安定と判定された発電機群(発電所または部分系統)がエネルギーを放出している間(即ち減速期間中)に電源制限を実施することで、系統全体を安定化する方向に向かわせることができる。
さらに請求項4記載の脱調防止制御方法によれば、脱調を引き起こしている動揺モードを有する発電機群のうち、発散傾向の強い発電機群から順に電制するように制御できる。
さらに請求項5記載の脱調防止制御方法によれば、1回の電源制限で電力系統を安定化できない場合であっても、電源制限を順次実施することで、換言すれば逐次発電機を追加遮断することで、電力系統を確実に安定化させることができる。
さらに請求項6記載の脱調防止制御方法によれば、不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返された場合に、電制対象発電機を選定する処理を実行するので、脱調予測の信頼性を向上でき、電源制限の不要動作を防止できる。
さらに請求項7記載の脱調防止制御方法によれば、電源制限が実施された後、少なくとも不安定発電機が存在しない旨の判断が出されるまで、不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返されたか否かの判断をスキップするので、迅速に追加電制を行える。
さらに請求項8記載の脱調防止制御方法によれば、電源制限が実施された後、少なくとも不安定発電機が存在しない旨の判断が出されるまで、電制候補発電機群が電源制限実施の適正タイミングにあるか否かの判断をスキップするので、迅速に追加電制を行える。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1から図38に本発明の電力系統の脱調防止制御方法および装置並びにプログラムの実施の一形態を示す。この電力系統の脱調防止制御方法は、複数の発電機を含む電力系統から得られる実測値を入力データとして、電力系統における脱調の発生を予測し、当該脱調を防ぐために電力系統の中の一部の発電機を遮断する電源制限の実施に必要な情報(どの発電機を遮断するか、いつ遮断するか、どれだけ遮断するか)を決定するものである。
図1は本発明の処理の一例を示すフローチャートである。本実施形態における電力系統の脱調防止制御方法は、電源制限を実施すべき不安定発電機を選定する不安定発電機選定処理(S2)と、選定された不安定発電機に対する電源制限の実施タイミングが適正であるか否かを判定する電制実施タイミング判定処理(S8)と、電源制限量を決定し遮断する具体的な発電機を決定する電制量算定処理(S9)とを有している。
不安定発電機選定処理(S2)では、連系線のブランチ相差角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成し、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出し、発電機の内部位相角の時系列データを用いて自己回帰モデルを作成し、当該自己回帰モデルに基づいて不安定な動揺モードを検出し、連系線について検出された不安定な動揺モードと同一周期または同一周期と見なせる不安定な動揺モードを有する発電機を、電源制限の対象となり得る不安定発電機として選定する。不安定発電機選定処理により、電力系統における脱調の発生が予測される。即ち、不安定発電機選定処理において、不安定発電機が検出されれば(S3;Yes)、電力系統において脱調が発生すると予測され、不安定発電機が検出されなければ(S3;No)、電力系統は安定と判定される。以下、不安定発電機選定処理(S2)を脱調予測論理とも呼ぶ。
電制量算定処理(S9)では、脱調の発生が予測される場合に(S3;Yes)、同一の発電所または部分系統に属する不安定発電機の群を電制候補発電機群として、当該電制候補発電機群の加速回転エネルギーの時間変化を求め、当該加速回転エネルギーのピークの大きさの増分を求め、当該増分を削減する電源制限量を算定し、合計容量が上記算定された電源制限量を満足する1台または複数台の発電機を、上記電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定する。また、上記加速回転エネルギーのピークの大きさが減少する場合には、容量が最小となる発電機を電制候補発電機群の中から電制対象発電機として選定する。
電制実施タイミング判定処理(S8)では、電制対象発電機に対し、当該電制対象発電機の加速回転エネルギーが負となる減速期間中のタイミングで、電源制限を実施するようにしている。電制量算定処理(S9)と電制実施タイミング判定処理(S8)の結果、不安定発電機選定処理(S2)で予測された脱調の発生を防止する電源制限が実施される(S10)。
ここで、本実施形態では、不安定発電機を選定する処理を一定時間間隔ごとに繰り返し行うようにしている(図1のS1,S13参照)。具体的には、例えば0.1秒間隔で不安定発電機選定処理(S2)を周期的に実行するようにしている。電制量算定処理(S9)では、系統間脱調に至る時間を確実に延伸させるために必要な電制量を算出するため、その性質上、一端は動揺が収まっても、最終的には安定化できない場合が存在する。一方、不安定発電機選定処理(S2)を一定時間間隔ごとに繰り返し行うことで、電制量算定処理(S9)で決定される電制量が必要電制量よりも少なく1回の電源制限で電力系統を安定化できない場合であっても、0.1秒後の次のステップで、脱調予測判定(S3;Yes)が継続して出続けることになる。そこで、当該脱調予測判定が出なくなるまで(「S3;No」となるまで)、電源制限(S10)を順次実施することで、換言すれば逐次発電機を追加遮断することで、電力系統を確実に安定化させることができる。
N波系統間脱調の場合には、脱調に至るまでの時間的余裕が少なからず存在するため、必ずしも1回の電制で安定化する必要はないという側面がある。このため、脱調を引き起こしている動揺モードを有する発電機群のうち、発散傾向の強い発電機群から順に電制し、系統が安定化するまで制御する方策を取ることができる。
例えば本実施形態の電力系統の脱調防止制御方法では、複数の電制候補発電機群が存在する場合に、検出された動揺モードの減衰率に基づいて、複数の電制候補発電機群について不安定度を格付けし、最も不安定度の高い電制候補発電機群から優先的に電制対象発電機を選定するとの条件(図1のS6参照)と、優先された電制候補発電機群が上記電源制限実施の適正タイミングにないときには(S8;No)、次に不安定度の高い電制候補発電機群から電制対象発電機を選定するとの条件(S12参照)との下で、選定された電制対象発電機に対して電源制限を実施するようにしている(S10)。但し、上記処理は好適な一例であり、電源制限実施の適正タイミングが直ぐ先の時刻に現れると予測される場合などには、当該適正タイミングとなるまで待って電源制限を実施するようにしても良い。
また、不安定発電機選定処理(S2)において、脱調モードの特定に、時々刻々変化する時系列データを用いる特徴上、時系列データの最初と最後の値の乖離が大きいと、自己回帰モデルの同定精度が低下し、安定である波形に対して脱調判定(S3;Yes)が出力される場合がある。そこで、本実施形態の電力系統の脱調防止制御方法では、脱調予測の信頼性の向上および電源制限の不要動作防止を目的に、不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返された場合に(S5;Yes)、電制対象発電機を選定する処理を実行するようにしている。具体的には、例えば脱調予測判定が3回連続して出力されたときに、電制論理のフローに進むものとしている。
ただし、追加電制が必要となる場合には、可及的速やかな制御が必要となることから、連続判定を待たずに電制論理のフローに進むことが望ましい。そこで、本実施形態の電力系統の脱調防止制御方法では、電源制限(S10)が実施された後、少なくとも不安定発電機が存在しない旨の判断(即ち、安定判定(S3;No))が出されるまで、不安定発電機が存在する旨の判断(脱調判定(S3;Yes))が一定回数繰り返されたか否かの判断(S5)をスキップするようにしている(図1のS4参照)。なお、電源制限(S10)が実施された後、安定判定(S3;No)が一定時間または一定回数以上継続して出されるまで、脱調判定(S3;Yes)が一定回数連続したか否かの判断(S5)をスキップするようにしても良い。
また、電制実施タイミング判定処理(S8)に関しては、電制候補発電機群すべてが適正なタイミングとならない場合(S11;No)は電制しないこととする。一方、電制実施後電制量が不足し、追加電制が早急に必要となる場合は、タイミングは問わないこととする。例えば本実施形態では、電源制限(S10)が実施された後、少なくとも不安定発電機が存在しない旨の判断(S3;No)が出されるまで、電制候補発電機群が上記電源制限実施の適正タイミングにあるか否かの判断(S8)をスキップするようにしている(図1のS7参照)。なお、電源制限(S10)が実施された後、安定判定(S3;No)が一定時間または一定回数以上継続して出されるまで、電制実施タイミング判定処理(S8)をスキップするようにしても良い。
以上に説明した電力系統の脱調防止制御方法は、図1のフローチャートに示す処理を実行する脱調防止制御装置1として装置化することができる。この脱調防止制御装置1は、脱調予測手段2と、電制実施手段3とを備えている。脱調予測手段2は、上述した不安定発電機選定処理(S2)を実行する各手段を備えている。電制実施手段3は、上述した電制量算定処理(S9)を実行する電制量算定手段4と、電制実施タイミング判定処理(S8)を実行する電制タイミング判定手段5とを備えている。また、脱調予測手段2は、不安定発電機を選定する処理(S2)を一定時間間隔ごとに繰り返し行う(図1のS13参照)。また、電制実施手段3は、複数の電制候補発電機群が存在する場合に、検出された動揺モードの減衰率に基づいて、複数の電制候補発電機群について不安定度を格付けし、最も不安定度の高い電制候補発電機群から優先的に電制対象発電機を選定するとの条件(図1のS6参照)と、優先された電制候補発電機群が上記電源制限実施の適正タイミングにないときには(S8;No)、次に不安定度の高い電制候補発電機群から電制対象発電機を選定するとの条件(S12参照)との下で、選定された電制対象発電機に対して電源制限を実施する(S10)。また、電制実施手段3は、不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返された場合に(S5;Yes)、電制対象発電機を選定する処理を実行する。また、電制実施手段3は、電源制限(S10)が実施された後、少なくとも不安定発電機が存在しない旨の判断(S3;No)が出されるまで、不安定発電機が存在する旨の判断が一定回数繰り返されたか否かの判断(S5)をスキップする(S4参照)。また、電制実施手段3は、電源制限(S10)が実施された後、少なくとも不安定発電機が存在しない旨の判断(S3;No)が出されるまで、電制候補発電機群が上記電源制限実施の適正タイミングにあるか否かの判断(S8)をスキップする(S7参照)。
脱調予測手段2は、入力データ(図2の符号6で示す)に基づき、不安定発電機の存否(換言すれば、電力系統が安定であるか、脱調が予測されるかのいずれかの判定)および選定された不安定発電機の情報を出力する。電制実施手段3は、脱調予測手段2で選定された不安定発電機の情報と、入力データに基づき、具体的な電制対象発電機を選定し、適正な実施タイミングで当該電制対象発電機に対する電源制限指令(図2の符号7で示す)を出力する。電源制限指令に基づき該当する発電機が遮断される。
上記入力データは、具体的には、基幹系統における多地点の変電所間(連系線)の電圧位相差および各発電所の発電機内部位相角(発電機端子基準)などである。本実施形態では、現実の電力系統から得られる実測値を入力データとしている。具体的な実測値(計測データ)を得る方法として、変電所間の電圧位相差については、基幹系統の送電線保護に付加された電圧位相比較方式の脱調分離リレーの位相情報を流用する方法、或いは各変電所の電圧の瞬時値波形から計算する方法などが挙げられる。また、発電機内部位相角については、発電機の回転子軸上にパイロット発電機を設置し、その発電機の電圧の瞬時値波形と発電機端子電圧の瞬時値波形から計算する方法、或いは発電機の回転部に磁極に応じた凹凸を刻み、光センサーなどで発電機内部の電圧のピーク値を検出することで正弦波を再現し、発電機端子電圧の瞬時値波形との位相差を計算する方法などが挙げられる。
以上に説明した電力系統の脱調防止制御装置1は、例えば1台または複数台のコンピュータに、本発明に係る脱調防止制御プログラムが実装されることにより実現される。即ち、脱調防止制御プログラムは、上記コンピュータを上述した脱調予測手段2および電制実施手段3として機能させる。コンピュータは、CPU、記憶装置、入力装置、出力装置などの各種ハードウエア資源とOSなどのソフトウェア資源を有する既存または新規の装置である。図3に、コンピュータを利用して電力系統の脱調防止制御装置1を構成した場合のシステム構成例を示す。図3の例では、電力系統には、発電所8A〜8Dと、変電所9A〜9Hが含まれる。コンピュータ1Aは、発電所8Aの内部位相差情報と、変電所9A−9E間の位相差情報を取得する。コンピュータ1Bは、発電所8Bの内部位相差情報と、変電所9B−9F間の位相差情報を取得する。コンピュータ1Cは、発電所8Cの内部位相差情報と、変電所9C−9G間の位相差情報を取得する。コンピュータ1Dは、発電所8Dの内部位相差情報と、変電所9D−9H間の位相差情報を取得する。コンピュータ1Eは、変電所9A−9B間の位相差情報を取得し、位相差情報をもとに動揺モードを検出する。コンピュータ1Fは、変電所9C−9D間の位相差情報を取得し、位相差情報をもとに動揺モードを検出する。中央コンピュータ1Gは、各地点の動揺モードをもとに脱調を予測する。脱調が予測される場合、中央コンピュータ1Gは、具体的な電制対象発電機を選定し、適正な実施タイミングで当該電制対象発電機に対する電源制限指令を出力する。電源制限指令に基づき該当する発電機が遮断される。
以下、上述した不安定発電機選定処理(S2)、電制実施タイミング判定処理(S8)、電制量算定処理(S9)について更に詳細に説明する。
先ず不安定発電機選定処理(S2)について説明する。この処理では、電力系統の動揺波形から時系列解析モデルを用いて、不安定な動揺モード(不安定モードまたは脱調モードとも呼ぶ。)を選別し、発電機が脱調に至るか否かを判別する。「発電機動揺波形から時系列解析モデルを作る」ことが要点の一つとなる。従来の、例えばY法、S法を用いた系統の動特性解析においては、まず系統の動特性を表すモデルが既知であることが前提であり、そのモデルが動的にどのような挙動を示すかが解析の対象であるのに対し、本発明に係る不安定発電機選定処理(S2)では系統の挙動がまず先にあり、そこから同定したモデルを用いて系統の動特性を論ずる点に大きな違いがある。
本実施形態では時系列モデルとして、自己回帰モデル(Autoregressive Model、以下ARモデルとも呼ぶ)を採用している。このARモデルは線形であり、ARモデルの動特性は特性根で与えられる正弦波波形の重ねあわせによって表現される。ARモデルの特性根は、ARモデルの基となる動揺波形に含まれる系統の動揺モードに対応する。したがって、時系列モデルから得られる動揺モードが発散傾向を示せば、系統の安定性が損なわれると予想できる。
動揺する振動波形を表現したm次の自己回帰モデルを数式1に示す。また、当該自己回帰モデルで得られた差分方程式をZ変換して得られる特性方程式を数式2に示す。
ここで、
y:出力信号(系統動揺)の時系列データ
w:白色雑音の時系列データ
a
i:ARモデルのパラメータ
m:ARモデルの次数
ここで、
p
i:特性根(実根または共役複素根)
数式2の特性根piを求めることで、動揺の周期および減衰率を検出する。本実施形態における動揺モードは、動揺の周期および減衰率を指すものとする。特性根piと過渡応答との関係を表1に示す。
表1に示すように、単調に減少あるいは増大するのか、交番的あるいは振動的に変化するのか、という定性的な性質は、特性根piの配置によって決まる。例えば、共役複素根の特性根が存在する場合、その特性根で表現されるモードは振動的に変化する性質がある。さらにその共役複素根の絶対値が1より大きい場合(表1のr>1)、減衰率が正の不安定なモードが1つ存在し、絶対値が1より小さい場合は(表1のr<−1)、減衰率が負の安定なモードが1つ存在する。絶対値がちょうど1の場合は(表1のr=1)、減衰率が0であり、持続振動となるモードが1つ存在する。一方、実根の特性根が存在する場合、その特性根で表現されるモードは一方向に単調に変化する性質がある。したがって、高次のARモデルは表1に示した応答を重ね合わせた応答を表現することができ、適切な高次のモデルを同定することで、数式2の特性根から複数の動揺モードを検出できる。そして、特性根が共役複素根のときに、その実部から動揺モードの減衰率が求まり、虚部から動揺モードの周期が求まることとなる。
ここで、時系列モデルを用いて系統の挙動を正確に解析するには、モデルの次数の決定が重要である。次数が高過ぎれば不必要な情報までモデル化してしまうことになるし、次数が低すぎれば必要な情報がモデル化されない、ということになる。そこで、本実施形態では、系統状態や事故点などで大きく変化する動揺モードを精度よく検出するために、自己回帰モデルの最適な次数とパラメータを自動設定するようにしている。この具体的な手順について図4に示すフローチャートを用いて以下に説明する。
まず、時系列の入力データを取り込む(図4のS101)。次に、モデルの次数を探索範囲内で順次更新しながら、各次数のモデルにおけるパラメータおよび数式3に示す赤池のFPEを算出する(S102〜S104)。
ここで、
n:時系列データの数
m:自己回帰モデルの次数
σ
2:自己回帰モデル誤差の分散
時系列データ数は、例えば、電力系統の動揺が長くても4秒周期程度であることから、4秒周期の動揺を充分に再現でき、それに対する検出精度が期待できる8秒間80点(0.1秒サンプリング)とする。また、自己回帰モデルの次数を更新する探索範囲は、nを時系列データ数として、例えば1〜3√nとする。同定精度の評価は数式3に示す赤池のFPEにより行う。赤池のFPEが最小となる次数の自己回帰モデルを用いて、動揺モードの解析を実施する(S105)。また、例えば本実施形態では、検出された動揺モードを診断し、その変動量が時系列解析で得られる実根よりも大きく、且つその周期が、時系列の入力データのサンプリング時間の5倍から解析対象時間までの範囲にある動揺モードを有効な動揺モードと特定する。例えば、検出された動揺モードの中には、モデル誤差の特性を表現した動揺モードが含まれるため、検出モードの採用範囲を表2のように定める。
電力系統が系統擾乱(例えば落雷などの事故)の後に脱調するか否かを正しく判別するには、時系列モデルに脱調を引き起こす不安定な動揺モードが含まれていなければならない。換言すれば、時系列モデルを作成するためのデータとして、当該不安定な動揺モードが含まれている時系列データを用いる必要がある。そこで本実施形態では、送電線両端あるいは変圧器両端あるいは発電機内部と発電機端子の間の電圧位相差が180度で電圧が零の点(電気的中心)を検出することで、脱調現象を把握できることを利用する。一般に放射状系統では電気的中心は一点であり、電気的中心を一般に含む連系線のブランチ相差角のみが180度を上回る。したがって、連系線のブランチ相差角の時系列データから、その動揺モードを時系列解析により検出し、その結果を用いて180度位相差となるブランチを推定することで、電気的中心を判別することができる。この時、脱調モードは当該ブランチの不安定な動揺モード全てと特定される。
上記の処理で特定された不安定な脱調モードが発電機の内部位相角の動揺に不安定なモードとして現れれば、系統全体が脱調を引き起こすと判断できる。そこで、本実施形態では、発電機の内部位相角の時系列データについても、時系列モデルを用いて動揺モードを特定する。ここで得られた不安定なモードと、上記のブランチ相差角の時系列データから得られた不安定モードとが同一周期(同一周期と見なせる場合も含む)と判断されれば、脱調と判定される。例えば本実施形態では、発電機の内部位相角の時系列データから得られた不安定モードと、ブランチ相差角の時系列データから得られた不安定モードとで、同一周期のものが存在すれば、脱調と判定するようにしている。また、例えば0.1秒以内の誤差であれば、同一周期と判断するようにしている。
以上に説明した不安定発電機選定処理の全容は、例えば図5に示すフローチャートのようになる。即ち、各連系線について以下の処理を行う。先ず、代表連系線を特定する(S201)。例えば、変動量最大の連系線を代表連系線として選択する。そして、代表連系線の位相差情報を用いて動揺モードを検出する(S202)。そして、検出された動揺モードの中に不安定な動揺モードがあれば、不安定モード(脱調モード)として特定する(S203)。一方、各発電機について以下の処理を行う。即ち、発電機の内部位相角情報(発電機端子基準)を用いて動揺モードを検出する(S204)。そして、代表連系線を特定し(S205)、連系線について特定された不安定モードと同じ不安定モードを、該当発電機が有するか判断する(S206)。当該不安定モードを有している発電機は不安定と判定され(S207)、当該不安定モードが存在しない発電機は安定と判定される(S208)。上記の処理(S204〜S206)は、全ての発電機に対して実行される。
ここで、上記に説明した不安定発電機選定処理(S2)について、下記のような改良を加えても良い。例えば、動揺モードの抽出精度の低下原因のひとつに、時系列モデルの次数として高い次数が選択され、同一周期の動揺モード(以下、重複モードとも呼ぶ。)が存在することが挙げられる。そこで、赤池のFPEで抽出された動揺モードの中に周期の重複した動揺モードが存在する場合に限り、重複モードがなくなるまで次数を低減する処理を追加するようにしても良い。これにより、より適切な動揺モードが得られる。
具体的には、図6に示すフローチャートのように、周期の重複した動揺モード(重複モード)の数Nを算出し(S301)、2Nだけ次数を低減して再度動揺モード検出を実施する(S302,S303)。ここで、次数を2N低減することは、周期的な振動を有する動揺モードがN個だけ少ないこととして、時系列モデルを同定することと等価になる。その後、重複モードの有無を確認し(S304,S305)、重複モードが無ければ(S305;No)その動揺モードを採用し、重複モードがあれば(S305;Yes)再度重複モードの数を算出して、先の手順に戻り、重複モードがなくなるまで繰り返す(S306,S303〜S305)。
また、時系列解析では、発散を収束と不動作側に捉える傾向がある。これは、主に次数の選定方法に原因があると考えられる。そもそも時系列解析の前提として「時系列データが安定(収束方向)であること」が求められていることから、時系列解析の次数の選定方法も、収束方向のデータに適したものになっていると考えられる。そこで、発散傾向のデータの判別精度を向上させるため、上記の動揺モード検出の際に、図7のフローチャートおよび表3に示すように、時系列データの正方向で特定された動揺モードに加えて、時系列データの逆方向で特定される動揺モードと照合する処理を加えるようにしても良い。例えば、動揺モードの精度が要求される連系線に限り、時系列データを逆向きにした解析を併せて実施し、正方向の解析結果と照合して判定するようにしても良い。
例えば図7のフローチャートおよび表3に示すように、連系線の位相差の時系列データから極めて減衰の悪い動揺モード(以下、動揺モードAと記す)が検出された場合(S402;Yes)、逆方向の時系列データを用いて動揺モードを検出する。前記動揺モードAと同一周期の逆方向の動揺モード(以下、動揺モードBと記す)が存在する場合は(S403;Yes)、この逆方向のデータから得られる動揺モードBの減衰率と元の動揺モードAの減衰率を比較し、同一の時間軸方向で見て、前者の減衰の方が悪ければ(S404;YesまたはS405;Yes)、前者の減衰率を用いて判別を行う。
表3の事例1は図7の「ステップ401;Yes」の場合に該当する。また、表3の事例2は図7の「ステップ404;Yes」の場合に該当する。また、表3の事例3は図7の「ステップ405;No」の場合に該当する。また、表3の事例4は図7の「ステップ405;Yes」の場合に該当する。また、表3の事例5は図7の「ステップ402;No」の場合に該当する。また、ステップ402については、例えば減衰率が−0.01以上である場合に、極めて減衰の悪い動揺モードAが存在すると判断する。上記「−0.01」の数値は、S法の「限界」判定フラグに準じたものである。また、表3の事例2における時間軸逆方向の減衰率Bが負の場合は、時間軸正方向にとっては正となり発散となる。また、表3の事例3,4における時間軸逆方向の減衰率Bが正の場合は、時間軸正方向にとっては負となり減衰となる。なお、逆方向の時系列データを同定するときの時系列モデルの次数は、正方向で特定された次数のみを用いることで、計算時間の増加の抑制を図ることができる。
脱調モードを含まない発電機群に対していくら電制を実施しても系統安定化の効果はほとんど得られないため、電制をしない場合よりもかえって脱調が早まってしまうが、本発明によれば上記に説明した不安定発電機選定処理(S2)により、脱調を引き起こす動揺モードを含む発電機群に対して電制を実施することが可能となる。
ここで、同一の発電所または部分系統に属する複数の発電機のうち、一部の発電機だけが不安定と判定され、他の発電機について安定と判定されることは、これらの発電機が電気的に接続されている以上、発電機容量、慣性定数、電気的出力が桁違いに異ならない限りまず有り得ない。そこで本実施形態では、発電所単位または部分系統単位で電源制限の対象を認定する。即ち、電制候補発電機群は、基本的に発電所単位または部分系統単位で認定され、発電機容量、慣性定数、電気的出力が大きく異なる場合には、発電所の中でも、個別に扱われる。そして、不安定と判断された発電所または部分系統のうち、どの発電所またはどの部分系統のどの発電機を遮断するかが、電制量算定処理(S9)および電制実施タイミング判定処理(S8)で決定される。
次に電制実施タイミング判定処理(S8)について説明する。N波系統間脱調に至る過程で、系統動揺が持続する場合、個々の部分系統は加速・減速を交互に繰り返す。このときの様相は、片方の部分系統が加速状態にあるときにもう片方の部分系統は減速状態にある。上記様相は、N波系統間脱調に至るときの発電機内部位相角の動揺波形からも確認できる。ここで、部分系統の加速状態とは、エネルギーを自系統内に吸収している状態を言い、部分系統の減速状態とは、エネルギーを自系統外へ放出している状態を言う。しばらく経つと、振り子のように、加速状態にあった部分系統は減速状態に転じ、減速状態にあった部分系統は加速状態に転じる。
図8に例を示す。部分系統8Aが加速(減速)状態にあるときに、部分系統8Bは減速(加速)状態となる。系統間脱調に至る過程では、加速・減速状態の双方が徐々に強まっていくと考えられる。部分系統8Aは発電機10A,10Bを有し、部分系統8Bは発電機10D,10Eを有する。
一方、電制は大きな負荷が系統に投入されることと等価であり、系統全体を減速方向へ向かわせるような作用があると考えられる。すなわち、「電制が系統全体を減速方向へ向かわせる系統擾乱としての作用(以下、作用Aと呼ぶ。)」と、「電制によりエネルギーの流れが途絶する作用(以下、作用Bと呼ぶ。)」とを、別々に考える必要がある。作用Aは電制直後の作用であり、作用Bは電制実施後のエネルギーバランスの作用である。以上を踏まえ、電制を実施するタイミングについて、電制候補発電機群を加速状態・減速状態に区別し、各々の場合の系統への影響を考える。
先ず、図8の発電機10Dが加速状態にあるときに、当該発電機10Dに対して電制を実施したとする。図9は電制直前の状態、図10は電制直後の状態、図11は電制実施後の状態を示す。電制直前までは、図9に示すように、部分系統8Aは減速状態、部分系統8Bは加速状態にある。尚、図9に示す実線の矢印はエネルギーの流れを示す。電制直後は、電制により加速状態にある発電機10Dへのエネルギーの流れが途絶するため、部分系統8Bの加速状態そのものは緩和される。これに電制(大きな負荷の投入と等価)による減速方向への作用が加わり、部分系統8Bでは図10に示すように加速状態がさらに緩和される。尚、図10に示す符号Pで示す矢印は電制により途絶したエネルギーの流れを示し、破線の矢印は電制の減速作用に起因するエネルギーの流れを示す。一方、部分系統8Aでは、放出するエネルギーの流れが増えるため、減速状態が強まることになる。電制実施後は、部分系統8Aから系統へ流れ込むエネルギーを発電機10Eが一手に背負うこととなり、部分系統8B(発電機10E)は図11に示すように加速状態が強められる。そのため、部分系統8Bはより不安定になると考えられる。また、部分系統8Aでも、減速状態が強まっているため、不安定になると考えられる。
以上より、加速状態にある部分系統の発電機に対して電制を行うことは、部分系統8A,8Bともに不安定となる方向に向かうことから、系統全体を不安定にさせると考えられる。
一方、図8の発電機10Dが減速状態にあるときに当該発電機10Dに対して電制を実施したとする。図12は電制直前の状態、図13は電制直後の状態、図14は電制実施後の状態を示す。電制直前までは、図12に示すように、部分系統8Aは加速状態、部分系統8Bは減速状態にある。尚、図12に示す実線の矢印はエネルギーの流れを示す。電制直後は、電制により発電機10Dが放出するエネルギーの流れが途絶するため、部分系統8Bの減速状態そのものは弱まる。しかし、これに電制(大きな負荷の投入と等価)による減速方向への作用(上述した作用A)が加わるため、図13に示すように先の緩和の程度が減少する。尚、図13に示す符号Pで示す矢印は電制により途絶したエネルギーの流れを示し、破線の矢印は電制の減速作用に起因するエネルギーの流れを示す。上記作用Aが、途絶するエネルギーと比較して小さければ、部分系統8Bの減速状態は少なくとも緩和される方向となる。一方、部分系統8Aでは、電制(大きな負荷の投入と等価)による減速方向への作用(作用A)により、加速状態が緩和される。電制実施後は、部分系統8B(発電機E)から系統へ流れ込むエネルギーは、発電機10Aおよび発電機10Bに分流するため、部分系統8Aは加速状態が弱まる。そのため、部分系統8Aは図14に示すように安定側に作用すると考えられる。部分系統8Bでは、減速状態が一端は強まるが、部分系統8Aの加速が弱まっているため、部分系統8Bが加速状態に転じたときには、安定側に向かうと考えられる。
以上より、減速状態にある部分系統の発電機に対して電制を行うことは、部分系統8A,8Bともに安定となる方向に向かうことから、系統全体を安定にさせると考えられる。そこで本実施形態では、電源制限の実施タイミングを、電制対象発電機の減速期間中とするようにしている。
例えば本実施形態では、1発電機の加速回転エネルギーを数式4のように定義する。これは、時々刻々変化する発電機の回転速度に応じ、測定時刻で求められる回転偏差エネルギー、換言すれば定格回転数からの偏差分に対して生じるエネルギーである。
ここで、
E:加速回転エネルギー
M:単位慣性定数
S
g:すべり
ω
0:定格角周波数
この加速回転エネルギーEは、回転数が無限大発電機よりも小さい場合には、減速エネルギーとなるため、加速の場合は正、減速の場合は負となるよう、符号を考慮した式で定義される。この加速回転エネルギーを用いると、発電機が加速状態にある場合は、加速回転エネルギーは正の符号に対応し、減速状態にある場合は負の符号に対応する。そこで、加速回転エネルギーの符号を電源制限実施タイミングの指標とし、これが負のときに電源制限を実施することとする。
以上のように本実施形態の電制実施タイミング判定処理(S8)では、不安定と判定された発電機群(発電所または部分系統)が電力系統(発電機群全体)のエネルギーを吸収している間(即ち加速期間中)に電源制限を実施すると、残りの発電機群がその分加速されてしまい系統全体が不安定になってしまうため、不安定と判定された発電機群(発電所または部分系統)がエネルギーを放出している間(即ち減速期間中)に電源制限を実施して、系統全体を安定させるようにしている。このために加速回転エネルギーを指標とし、これが負のときに電源制限を実施するようにしている。
ここで、不安定発電機選定処理で不安定と判断された発電所または部分系統が複数ある場合、これらの発電所または部分系統を不安定の度合いの強い順に格付けし、最も不安定度の強い発電所または部分系統の発電機が適切な電制実施タイミングでないと判断される場合には(S8;No)、2番目以降に不安定度の強い発電所または部分系統の発電機が適切な電制実施タイミングにあるか判断し(S12,S8)、該当する発電機が存在したところで、電制量算定処理に移行する(S8;Yes,S9)。
次に電制量算定処理(S9)について説明する。脱調モードを含む発電機群に対して電制を実施したとしても、電制量が不足し過ぎると、系統擾乱としての影響が強くなり、電制をしない場合よりもかえって脱調が早まってしまう。そこで、電制量算定処理(S9)により、直ちに脱調に至るような事態を確実に防止できる電制量を算定する。
N波脱調の場合は、加速回転エネルギーが振動的に変化し続けた後、脱調に至る。そのため、加速回転エネルギーのピーク値の推移を電制量の決定に活用することができる。即ち、加速回転エネルギーの最新のピーク値が1回前に更新されたピーク値になるよう、加速回転エネルギーを削減する電制量を算定することが、少なくとも直ちに脱調に至るような事態を防止できる最も確実な方法と考えられる。ここで、ピーク値とは加速回転エネルギーの時間変化が描く山の高さ又は谷の深さ即ちピークの大きさを指す。
ここで、加速回転エネルギーを算出する際に必要となる発電機の単位慣性定数は、自己容量基準で表すことが一般的であるが、本実施形態では、系統容量基準で表すこととする。その場合、発電機容量と加速回転エネルギーがほぼ比例することになる。そこで、発電機の単位慣性定数は系統容量基準の値を用い、加速回転エネルギーを系統容量で正規化する。
すなわち、系統容量基準で見た加速回転エネルギーが1回前に更新されたピーク値になるよう、加速回転エネルギーを削減することが、少なくとも直ちに脱調に至るような事態を防止できる最も確実な方法と考えられる。ピーク値としては、加速回転エネルギーの正負双方のピークがあるが、本実施形態では加速回転エネルギーが負(減速期間中)のときに電制するため、負のピーク値(ボトム値)の推移を把握することとする。
電制量の算出方法としては、例えば図15に示すように、まず、現時点より1回前の加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値と現時点の値を比較し、その増加分を加速回転エネルギーの必要削減量とする。これを電制量に換算し、不足電制とならない容量を必要電制量とする。なお、図15中の符号Eで示す曲線が加速回転エネルギーの時間変化を示す。また、図15中のEP(K)が最新の更新ピークを示し、EP(K−1)が1波前の更新ピークを示す。また、図15中のΔEが加速回転エネルギーの削減量を示す。
加速回転エネルギーの削減量から電制量への換算は、電制することにより系統容量自体も変化するため、当該系統容量の変化を考慮しつつ、以下のように行う。必要電制量をxとし、加速回転エネルギーの削減率(加速回転エネルギーの削減量を100分率で表したもの)をRとし、電制候補発電機群(発電所または部分系統)の合計容量をGMVAとし、系統容量(電力系統全体の容量)をSMVAとすると、数式5の関係式が得られる。
数式5をxについて解くと、数式6が導かれる。
したがって、必要電制量は次式により求められる。
ここで一例を挙げる。系統容量120GVAで、定格容量10GVAと20GVAの発電機からなる発電機群があり、各発電機の定格力率および出力は等しいとする。このとき、加速回転エネルギーを系統容量基準で1/3(=33.3%)削減する必要があるとすると、必要電制量は、次式に示すように、12.0GVA(30GVAの40.0%)と算定される。
上記例からも明らかなように、系統容量が電制により変化すると、系統容量の基準も変化するため、系統容量基準の電制量の比率(40.0%)は、加速回転エネルギーの削減率(33.3%)よりも大きくなることに留意する必要がある。なお、12.0GVAを上回る発電機としては、定格容量20GVAの発電機が該当するため、これが最終的な電制量となる。
上記の電制量決定手法では、脱調に至る時間が延伸するのみで、系統動揺の発散傾向を根本的に抑制することにはならない事態も想定されるが、最終的な電制量は発電機出力単位の離散値の合計値が必要電制量を上回る値に決定されるため、過剰気味に電制量が決定される場合が多いと考えられるため、これによる系統動揺の発散傾向の抑制効果も期待される。
ここで、数式4の単位慣性定数Mと定格各周波数ω
0は定数であるため、ある測定時刻における加速回転エネルギーEは、当該測定時刻におけるすべりS
gを用いれば求められる。このS
gは一般に次式で求められる。
ここで、
N
1:測定時刻の回転数
N
0:事故などの系統擾乱が発生する前の回転数(定格回転数)
すなわち、すべりSgは定格すべり(定格回転数)を基準とし、そこからの偏差としている。一部の揚水系統などに見られるように、1機無限大系統と仮定できる場合には、系統周波数を一定とみなせるためこれで問題ないが、広域連系系統のように系統周波数も変動する場合には、定格回転数基準の代わりに、対象系統全体の回転数基準とし、そこからの偏差を用いる必要がある。
この対象系統全体の回転数基準のすべりS
gは、数式9の全発電機のすべりを単位慣性定数に応じて重み付けすることで求められる。ただし、この方法では全発電機のS
gの情報を収集する必要があり、実現は困難である。一方、数秒周期以上の振動成分を対象とすれば、系統周波数の変動の地点別の差異は見られないため、次式に示すように、連系線の一変電所の母線周波数で、系統全体の回転数の基準を代用することができる。
ここで、
f
0:定格周波数
f:系統周波数
S
g':系統全体基準から見たすべり
本実施形態では、電制すべきタイミングは、数式10で得られる加速回転エネルギー(以下、補正加速回転エネルギーと呼ぶ。)が負(減速期間中)のときとする。また、電制量を決定する際に必要となる加速回転エネルギーも数式10で得られる補正加速回転エネルギーの値を用いることとする。これにより、本発明の対象となる電力系統が広域連系系統であっても適切な電制を実施することができる。なお、本発明の対象となる電力系統が無限大系統と仮定できる場合には、f=f0となるため、Sg’=Sgであり、数式10は数式4になる。
上記では加速回転エネルギーの減速期間中のピークの大きさ(ボトム値の絶対値)が時間経過に従って増加する場合(換言すれば加速回転エネルギーが発散傾向を示す場合)について説明したが、加速回転エネルギーのピークの大きさは長周期成分の影響を強く受けるため、長周期の動揺モードが減衰傾向にあっても短周期の動揺モードが発散している系統状態では、加速回転エネルギーの減速期間中のピークの大きさ(ボトム値の絶対値)が減少する場合(換言すれば加速回転エネルギーが収束傾向を示す場合)が起こりうる。補正加速回転エネルギーのピークの大きさ(ボトム値の絶対値)が減少し続ける発電機群が電制候補発電機群として選定された場合には、推定電制量は負となり、電制量が算出されない。一方で、脱調が予測されている以上、電源制限を実施しない限り電力系統の不安定な状態は解消されない。そこで例えば本実施形態では、補正加速回転エネルギーの減速期間中のピークの大きさが減少する場合には、電制候補発電機群の中から、最小容量の発電機を電源制限量として算出する。
以上に説明した電制量算定処理(S9)の全容は、例えば図16に示すフローチャートのようになる。即ち、先ず電制候補発電機群の補正加速回転エネルギーの減速期間中のピークの大きさの時間的推移が、増加傾向にあるか、減少傾向にあるか、判断する(S501)。例えば本実施形態では、過去一定時間の枠(以下、時系列窓枠と呼ぶ。)の中で、ピークの大きさ(ボトム値の絶対値)が最大となるピーク値が更新された場合には、ピーク値の時間的推移が増加傾向にあると判断し、ピーク値が更新されない場合には、ピーク値の時間的推移が減少傾向にあると判断する。時系列窓枠には、1波前と現在の波形、すなわち2波分が、現状の系統で十分に再現できる時間が設定され、例えば本実施形態では時系列窓枠を8秒間に設定している。
図17の例で説明する。図中左に示す時系列窓枠W1では、EP(k−2)よりも大きなピーク値が出現しないため、ピーク値の時間的推移は減少傾向にあると判断される。一方、図中右に示す時系列窓枠W2では、4.5秒付近のピーク値から更新されたピーク値EP(k−1)よりも大きなピーク値EP(k)が出現するため、ピーク値の時間的推移は増加傾向にあると判断される。尚、上記のように時系列窓枠を利用した処理に限らず、単純に現時点のピーク値と1波前のピーク値とを比較して、ピーク値が増加傾向にあるか或いは減少傾向にあるかを判断するようにしても良い。
ピーク値の時間的推移が増加傾向にあると判断された場合は、加速回転エネルギーの削減量が算出される(S502)。図17の例では、EP(k)−EP(k−1)が、加速回転エネルギーの増分(換言すれば削減すべき量)として算出される。尚、上記のように時系列窓枠を利用した処理に限らず、単純に現時点のピーク値と1波前のピーク値との差分(増分)を、加速回転エネルギーの削減量として算出しても良い。
上記算出された加速回転エネルギーの削減量は、数式7に基づいて電源制限量に換算される(S503)。そして、算定された電源制限量を満足する具体的な発電機が電制対象として選定される(S504)。一方、ピーク値の時間的推移が減少傾向にあると判断された場合には、上述したように、電制候補発電機群の中から最小容量の発電機が電制対象として選定される(S505)。なお、電制実施タイミング判定処理(S8)の後、直ちに上記電制量を算定し、適正タイミングで電制を実施することができるように、加速回転エネルギーのピーク値の時間的推移の監視を、不安定発電機選定処理(S2)と平行して行うようにしても良い。また、不安定発電機選定処理(S2)と平行して、各々の発電機で必要となる電制量を算定するようにしても良い。
本発明の有効性を確認するため、上記電源制限実施タイミングの有効性、上記電制量算定方法の有効性、総合的な電源制限処理の有効性を検証するシミュレーションを実際に行った。以下、当該シミュレーションの内容および結果を実施例として説明する。
<電源制限実施タイミングの決定手法の検証>
電制実施タイミングの検証に用いたモデル系統を図18に示す。同図は、電気学会標準モデル系統West10を5発電機群に束ね、電制検証向けに定格容量を最大10GVAになるよう発電機数を調整した14機系統モデルである。このモデル系統は、発電機群8A〜8Eを有し、発電機群8Aは発電機G20(10GVA)と発電機G21(5GVA)を有し、発電機群8Bは発電機G22(10GVA)と発電機G23(10GVA)と発電機G24(10GVA)を有し、発電機群8Cは発電機G25(10GVA)と発電機G26(10GVA)を有し、発電機群8Dは発電機G27(10GVA)と発電機G28(5GVA)と発電機G29(10GVA)を有し、発電機群8Eは発電機G30(10GVA)と発電機G31(10GVA)と発電機G32(5GVA)と発電機G33(5GVA)を有し、系統容量は120GVAである。需給バランスはWest10のピーク断面とし、有効負荷の負荷特性定数を適宜調節することで、N波系統間脱調を模擬した。なお、本検証モデル系統では全発電機の定格力率および運転出力が等しい。
電制実施タイミングについて、図18のモデル系統のK点における系統事故(3LG−O−C、事故継続時間:0.07秒、再閉路時間:0.83秒)により系統間脱調に至る現象を模擬し、発電機群8A〜8Eの発電機をそれぞれ電制した場合について検証した。上記電制した場合の補正加速回転エネルギーと脱調に到る時間との関係を図19〜図25に示す。なお、図19〜図25において、符号Eで示す実線の波形は数式10に基づく補正加速回転エネルギーの時間変化を示し、符号E’で示す破線の波形は数式4に基づく加速回転エネルギーの時間変化を示す。また、図19〜図25において、○で示すプロットは対象発電機を電制した場合の脱調に到る時間(発電機内部位相角の最大最小値の差が360度を上回った時間)を示す。横軸が電制実施時刻であり、縦軸は各時刻で電制を実施したときに脱調に至る時間と、補正加速回転エネルギーの大きさを示している。○のプロットで示す脱調に至る時間については、電制をしない場合に脱調に至る時間(23.6秒)を基準として、縦軸上方に向かうほど電制をしない場合よりも遅くなり、逆に縦軸下方に向かうほど電制をしない場合よりも早くなる。また、波形曲線で示す加速回転エネルギーについては、縦軸上方側において正(加速)の状態となり、縦軸下方側において負(減速)の状態となる。なお、脱調に至る時間については、N波系統間脱調が対象となることから、事故発生後2秒後からの解析結果を示す。
先ず、発電機群8Aの発電機を電制した場合について説明する。図19は、発電機G20(10GVA)を各時刻で電制した場合に、脱調に至る時間と、発電機群8Aの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示したものである。電制しない場合には、23.6秒で脱調に至るが、電制するタイミングによって、23.6秒よりも長くなるタイミングと短くなるタイミングに2分されおり、補正加速回転エネルギーが負のときに脱調に至る時間が長くなる傾向にある(例えば、同図4〜5秒、7〜8秒近傍)。したがって、同図から先に述べた電制実施タイミングの有効性を確認できる。
また、図19には、数式4で算出した加速回転エネルギーを破線で示している。この場合、正のときに脱調に至る時間が長くなったり、負のときに脱調に至る時間が短くなったりすることがあり、電制実施タイミングを誤判定する場合がある。このため、数式4で算出した加速回転エネルギーは、適正な電制タイミングを決定するための指標には不適切であることがわかる。
図20は、発電機G21(5GVA)を電制した場合に、脱調に至る時間を時系列的に示したものである。事故発生後10秒程度までは、系統が安定化される。発電機G20(10GVA)よりも発電機G21(5GVA)の方が少ない電制量であることから、発電機G20(10GVA)の過剰な電制量では、発電機G21(5GVA)の電制よりも脱調を早めることを間接的に示した例と言える。なお、10秒以降は、電制による系統安定化効果がほとんど見られないが、12秒付近で系統が安定化される。そのときの補正加速エネルギーは負であり、先に述べた電制実施タイミングの指標と整合が取れている。
次に、発電機群8Bの発電機を電制した場合について説明する。図21は、発電機G22を電制した場合に脱調に至る時間と、発電機群8Bの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示したものである。この場合も、脱調に至る時間が遅くなる場合には、補正加速回転エネルギーが負となっており、先に述べた電制実施タイミングの指標と整合が取れている。
次に、発電機群8Cの発電機を電制した場合について説明する。図22は、発電機G25を電制した場合に脱調に至る時間と、発電機群8Cの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示したものである。どの時点で電制しても電制しない場合より脱調が早まる。発電機群Cは、事故発生から脱調に至るまでの間、脱調モードを有しない。このように、脱調モードを有しない発電機に対して電制を実施すると、かえって脱調が早まることが分かる。
次に、発電機群8Dの発電機を電制した場合について説明する。図23は、発電機G28を電制した場合に脱調に至る時間と、発電機群8Dの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示したものである。一部を除き、発電機G25と同様に、どの時点で電制しても、電制しない場合と比較して脱調が早まる。4.5秒、7.5秒近傍で、脱調に至る時間が長くなる場合があるが、補正加速回転エネルギーがゼロ近傍で連続してほぼ一定値となっている時間領域であり、系統が安定化される一つの特異点と言える。なお、図23より、数式4で算出した加速回転エネルギーは大きな振幅で変動しているのに対し、補正加速回転エネルギーでは変動が小さくなっており(図19〜図25の補正加速回転エネルギーの縦軸は同一)、系統動揺の中心から見た発電機群8Dの変動はそれほど大きくなく、N波系統間脱調との関わりが薄いことが伺える。
次に、発電機群8Eの発電機を電制した場合について説明する。図24は、発電機G31(10GVA)を電制した場合に脱調に至る時間と、発電機群8Eの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示したものである。この場合、電制量が大幅に不足しているため、電制しない場合よりも脱調が早まる。なお、発電機G32を電制した場合も、発電機G31よりも容量が小さい(5GVA)ため、図24とほぼ同様の傾向となった。図25は、発電機G31〜G33の3台(合計20GVA)を電制した場合に、脱調に至る時間を時系列的に示したものである。このケースでは、電制量の不足が緩和され、補正加速回転エネルギーが負のときに脱調に至る時間が長くなる場合がある。したがって、補正加速回転エネルギーが、適切な電制タイミングの指標になることを示した例と言える。
以上より、先に述べた電制実施タイミングの決定手法の有効性が検証された。また、必要電制量算出の重要性および脱調モードを含む発電機選定の重要性についても同時に明らかとなった。
<電源制限量の決定手法の検証>
補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値の推移からN波系統間脱調に至る前に必要電制量を算出する手法について上記と同様のモデル系統(図18参照)で検証する。先ず、補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値が増加し、順次更新されていく発電機群に対して検証し、次に、補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値が減少する発電機群に対して検証する。
<補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値が増加する場合>
電制対象機として選定される発電機群は、系統動揺の変化に応じて時々刻々変化するため、電制候補発電機群もこれに合わせて変化する。ここでは、N波系統間脱調の過程で、電制候補発電機群として選定される割合の高い発電機群8Aと発電機群8Eで算定された電源制限量を検証する。
補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値が増加し、順次ピークが更新される発電機群8E(30GVA)に対し、先に述べた電制量決定手法に基づいて電制量を算出する。図26に発電機群8E(30GVA)の補正加速回転エネルギーを示す。図26中の符号Eが補正加速回転エネルギーの時間変化波形を示す。減速期間中のピーク値のうち、約3秒、6秒、9秒、12秒でピーク値が更新されている。現在のピーク値と前回更新されたピーク値との比率を現在のピーク値基準で表すと、同図に示すように、60%前後となり、補正加速回転エネルギーを約40%程度削減すればよいとの推定結果になる。
8.9秒の時点における必要電制量を推定すると、必要となる補正加速回転エネルギーの削減量は44.9%(=100−55.1)であるから、数式11に示すように15.6GVAとなる。
上記算定された必要電制量を上回るように、電制対象発電機を選定すると、20GVAの電制量が必要となる。ここで、ピーク値を記憶するための窓枠は、脱調予測で使用する時系列データの長さと同じ過去8秒間とする。これは、実系統の動揺周期の長周期成分が長くても4秒程度であり、2周期分の長さがあればピークの増加・減少の傾向を十分把握できると考えられるためである。
発電機群8E(30GVA)の中から20GVAを選択する組み合わせは複数ある。そこで、発電機G31〜G33(20GVA)を電制対象発電機として選定した場合で検証する。図27に、選定された電制候補発電機群8E(30GVA)に対して、発電機G31〜G33(20GVA)を電制した場合と、電制しない場合の、発電機群8Eの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示す。図27中の符号E0で示す波形が発電機G31〜G33を電制した場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示し、符号E1で示す波形が電制しない場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示す。なお、電制するタイミングは補正加速回転エネルギーの減速期間中のピークの一つである8.9秒とした。
図27から明らかなように、補正加速回転エネルギーが前回更新されたピーク値にほぼ移行しており、脱調に至る時間が電制しない場合よりも延伸する。この場合、再び発散に転じて34.7秒で脱調に至ることになるが(図25参照)、逐次電制により電制量を追加することにより系統の安定化を図ることが可能である。
また、図27には発電機G31とG32(合計15GVA)を選定して電制した場合の、発電機群8Eの補正加速回転エネルギーの時間的変化も重ねて示している。図27中の符号E2で示す波形が発電機G31,G32を電制した場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示す。このように決定された必要電制量より5GVA少ない15GVAを選定して電制した場合は、10秒程度で脱調に至り、系統を安定化できない上、電制しない場合よりも脱調を遅くすることもできない。
以上より、本発明に係る電制量決定手法で算出された電制量により、脱調に至る時間を確実に延伸させることができることが確認された。
<補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値が減少する場合>
図17に発電機群8A(15GVA)の補正加速回転エネルギーを示す。減速期間中のピーク値のうち、過去8秒間の窓枠でピーク値が更新されるのは、約11秒の時点となる。当該11秒の時点における必要電制量を決定すると、補正加速回転エネルギーの必要削減量が13.6(=100−86.4)%であることから、数式12に示すように2.29GVAとなる。
上記算定された必要電制量を上回るように、電制対象発電機を選定すると、発電機G21(5GVA)が必要電制量となる。一方、11秒より前では補正加速回転エネルギーの必要削減量が負となることから、最小容量の発電機G21(5GVA)が必要電制量となる。したがって、電制対象発電機は先と同じ発電機G21(5GVA)となる。
図28に、選定された電制候補発電機群8A(15GVA)に対して、発電機G21(5GVA)を電制した場合と、電制しない場合の、発電機群8Aの補正加速回転エネルギーの時間的変化を重ねて示す。図28中の符号E0で示す波形が発電機G21を電制した場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示し、符号E1で示す波形が電制しない場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示す。なお、電制するタイミングは、補正加速エネルギーが減速期間中のピークの一つである7.6秒とする。同図より、電制した場合には、補正加速回転エネルギーの発散が電制後数秒経過すると抑制され、系統が安定化される。したがって、補正加速回転エネルギーのピーク値が減少した場合の電制量決定手法の有効性が検証された。
以上より、本発明に係る電制量決定手法を用いれば、補正加速回転エネルギーの減速期間中のピークが増加・減少する場合の双方で、必要となる電源制限量に近い値を算出できることが検証された。
<電源制限論理の検証>
上記電制実施タイミングと電制量算定手法に脱調予測論理を組み合わせた全体の電源制限処理(電源制限論理とも呼ぶ)について、多機系統モデルで総合的な有効性を検証する。
<ケース1:1回の電源制限による系統安定化>
図18のモデル系統の同図J点における系統事故(3LG−O−C、事故継続時間:0.07秒、再閉路時間:0.83秒)により系統間脱調に至る現象を模擬し、電源制限論理の有効性を検証する。図29に、電制しない場合の発電機内部位相角(位相角重心基準)を示す。このケースは、事故発生後、約18秒で6波脱調する。図29中の符号Aが発電機群8Aの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Bが発電機群8Bの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Cが発電機群8Cの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Dが発電機群8Dの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Eが発電機群8Eの発電機内部位相角の時間経過波形を示す。
脱調予測論理により、12.5秒から12.7秒まで3回連続脱調予測判定となり、電制対象発電機として発電機G21が選定される。表4に12.7秒時点でブランチで検出された主な動揺モードを示す。
表4中の◎で示す動揺モードが脱調モードを指し、△で示す動揺モードは脱調モードではないが減衰が悪い動揺モードを指し、×で示す動揺モードは安定な動揺モードを指す。また、表5に各発電機群8A〜8Eで抽出された動揺モードを示す。
表5中の◎で示す動揺モードが脱調モードを指し、△で示す動揺モードは表4の動揺モード1と同一周期の安定な動揺モードを指し、×で示す動揺モードは表4の脱調モード(動揺モード1)と異周期の安定な動揺モードを指す。
表4より脱調モードは1.6秒周期の動揺モードのみであり、同一周期の動揺モードを有する発電機群は、表5より発電機群8A,8C,8D,8Eであることがわかる。このうち、不安定な(即ち減衰率が正の)動揺モードを有する発電機群は発電機群8Aのみであり、発電機群8Aが電制候補発電機群として特定される。なお、連系線と発電機の動揺モードの周期を照合するときに0.1秒の差は許容し、合致しているとみなす。
図30の符号Eで示す波形は、発電機群8A(15GVA)の補正加速回転エネルギーの時間的変化を示す。脱調予測が3回連続判定される12.5秒から12.7秒では、補正加速回転エネルギーが負の値(減速期間中)となっており、適正な電制タイミングとなっている。したがって、系統安定化に必要な電制量を決定し、電制を実施することができる。
また、発電機群8Aの補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値は、窓枠8秒で見ると、前回のピーク更新値EP(k−1)よりも現在のピーク更新値EP(k)の方が小さいため、最小容量の発電機である発電機G21(5GVA)が電制対象機として選定される。
12.7秒の時点で発電機G21(5GVA)を遮断すると、図31に示すように、速やかに系統が安定化されることがわかる。尚、図31中の符号Aは発電機群Aの出力合計の時間変化を示し、符号Bは発電機群Bの出力合計の時間変化を示し、符号Cは発電機群Cの出力合計の時間変化を示し、符号Dは発電機群Dの出力合計の時間変化を示し、符号Eは発電機群8Eの出力合計の時間変化を示す。図32に電制実施前後の発電機群Aの補正加速回転エネルギーを示す。図32中の符号E0で示す波形が発電機G21を電制した場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示し、符号E1で示す波形が電制しない場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示す。電制による減速方向の作用が働くために、電制直後の半周期は、補正加速回転エネルギーが減速方向に膨らむが、その後は速やかに減衰することがわかる。
先の電制直後の補正加速回転エネルギーの振幅増大に見られるように、電制実施直後の系統動揺の変化による脱調予測論理の誤判定(電制の不要動作)が懸念される。そこで、電制実施直後の脱調予測判定の不要動作の有無を検証した。
図33に電制後数秒間の脱調予測判定と代表的な連系線の両端の位相差を示す。連系線で脱調モードが22.2〜22.6秒に特定されるが、発電機側に同一周期の動揺モードが存在しないため、脱調予測判定には至らない。
以上より、脱調モードの特定・電制量の決定・電制実施が精度良く行われ、本発明に係る電源制限論理により系統間脱調を防止できることが検証された。また、電制実施後、系統が安定化される場合にも、脱調予測論理は誤判定せず、電制の不要動作はないことも検証された。
<ケース2:逐次電源制限による系統安定化>
次に、図18のモデル系統の同図H点における系統事故(3LG−O−C、事故継続時間:0.07秒、再閉路時間:0.83秒)により系統間脱調に至る現象を模擬し、電源制限論理の有効性を検証する。図34に電制しない場合の発電機内部位相角(位相角重心基準)を示す。このケースは、事故発生後、約26秒で10波脱調する。図34中の符号Aが発電機群8Aの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Bが発電機群8Bの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Cが発電機群8Cの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Dが発電機群8Dの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Eが発電機群8Eの発電機内部位相角の時間経過波形を示す。
脱調予測論理により、9.8秒から10.2秒まで3回連続脱調予測判定となり、電制対象発電機として発電機群8E(30GVA)の発電機が選定される。表6にブランチで検出された主な動揺モードを示す。
表6中の◎で示す動揺モードが脱調モードを指し、×で示す動揺モードは安定な動揺モードを指す。また、表7に各発電機群8A〜8Eで抽出された動揺モードを示す。
表7中の◎で示す動揺モードが脱調モードを指し、△で示す動揺モードは表6の動揺モード1と同一周期の安定な動揺モードを指し、×で示す動揺モードは表6の脱調モード(動揺モード1)と異周期の安定な動揺モードを指す。
表6より脱調モードは1.5秒周期の動揺モードのみであり、同一周期の動揺モードを有する発電機群は、表7よりすべての発電機群8A〜8Eであることがわかる。このうち、不安定な(即ち減衰率が正の)動揺モードを有する発電機群は発電機群8Eのみであり、発電機群8Eが電制候補発電機群として特定される。なお、安定と判定される残りの発電機群を減衰の悪い順に並べると、発電機群8A⇒8C⇒8D⇒8Bとなり、発電機群8Aが発電機群8Eに次いで不安定であることがわかる。
図35の符号Eで示す波形は、発電機群8E(30GVA)の補正加速回転エネルギーの時間的変化を示す。脱調予測が3回連続判定される9.8秒から10.2秒では、すべて補正加速回転エネルギーが負の値(減速期間中)となっており、適正な電制タイミングとなっている。一方、補正加速回転エネルギーの減速期間中のピーク値は、窓枠8秒で見ると、前回のピーク更新値EP(k−1)よりも現在のピーク更新値EP(k)の方が大きいため、補正加速回転エネルギーを29%以上削減する必要がある。この補正加速回転エネルギーの削減量を電制量に換算すると、発電機群Eの場合、数式13に示すように、合計容量10.6GVA以上の電制が必要となる。
したがって、15GVAの電制を実施する必要がある。15GVAとなる組み合わせは2通りあるが、ここでは、発電機G31(10GVA)と発電機G32(5GVA)を電制対象発電機として選定する。図36に、発電機G31,G32を電制した場合の発電機内部位相角を示す。図36中の符号Aが発電機群8Aの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Bが発電機群8Bの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Cが発電機群8Cの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Dが発電機群8Dの発電機内部位相角の時間経過波形を示し、符号Eが発電機群8Eの発電機内部位相角の時間経過波形を示す。この場合は電制量が不足し、減速状態の発電機群8Eの動揺が収まらず、すぐに発散して12秒前に減速方向へ脱調する。
図37に、発電機群8Eの補正加速回転エネルギーの時間的変化を示す。図37中の符号E0で示す波形が発電機G31,G32を電制した場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示し、符号E1で示す波形が電制しない場合の補正加速回転エネルギーの時間変化を示す。電制により補正加速回転エネルギーは減速方向に向かうが、減速方向の作用が強くなり過ぎ、11秒以降は急速に減速して行く。この例からも明らかなように、電制量が不足すると電制しない場合よりも脱調に至る時間が短くなる。
電制実施後も系統動揺が発散傾向にある場合、脱調予測論理は直ちに脱調を予測する。検証例では電制直後でも脱調予測判定が出続け、10.1秒でも発電機群8Eが電制対象発電機として選定される。発電機群8Eの残りの発電機は、すでに電制をしているため、減速状態が強まり、このままでは減速方向へ脱調する。そこで、10.2秒において残る発電機G30と発電機G33(合計15GVA)を追加電制すると、図38に示すように系統は安定化される。尚、図38中の符号Aは発電機群Aの出力合計の時間変化を示し、符号Bは発電機群Bの出力合計の時間変化を示し、符号Cは発電機群Cの出力合計の時間変化を示し、符号Dは発電機群Dの出力合計の時間変化を示し、符号Eは発電機群8Eの出力合計の時間変化を示す。なお、10.5秒の発電機G33の補正加速回転エネルギーは正の値であり、10.5秒における発電機G33の電制は適正な実施タイミングではないが、すでに電制しているにもかかわらず電制量が不足する場合には、タイミングを図る状況にないことから、即座に電制を実施する。発電機G30と発電機G33(合計15GVA)の電制を実施した後、系統が安定化される場合には、脱調予測論理は誤判定せず、電制の不要動作はない。
以上より、1回の電制で系統が安定化されない場合にも、本発明に係る電源制限論理により、0.1秒刻みで逐次脱調を予測し、追加電制することで、系統を安定化できることが検証された。
以上説明したように本発明によれば、これまで開発されていないN波系統間脱調に対するリアルタイム事故波及防止システムを実現することができる。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態では発電機の運転出力をすべて一定としたが、運転出力が発電機ごとに異なる場合には、系統容量の代わりに山元総需要、発電機群の合計容量の代わりに発電機群の合計出力を用いることで、精度良く電制量を決定できる。