JP4498675B2 - 発熱剤及びそれを用いる発熱体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な機能性組成物、特に発熱剤及びそれを用いる発熱体に関する。
【0002】
【従来の技術】
使い捨てカイロのような保温具、温熱を利用する医療用具及び美容用品等において、発熱体が用いられている。このような発熱体に使用する発熱剤として、従来は、鉄粉等の金属粉(無機金属粉)、活性炭、無機塩類等を含み、空気と接触することによって発熱する発熱剤が広範に使用されてきた(例えば特許文献1〜16参照)。
【0003】
有機金属化合物は、一般に反応性が高く、各種化学反応において触媒又は試薬等として使用されている。例えば有機アルミニウムは、常温で固体又は液体であり、一般に激しい反応性を有し、引火しやすく、特に水(及び他のある種の化合物)とは爆発的な反応をする。トリエチルアルミニウムのようなアルキルアルミニウムは、従来、ポリエチレンの製造においてチーグラー・ナッタ触媒の成分として工業的に利用されている。また、重合触媒として以外のアルキルアルミニウムの用途としては、高級α‐オレフィン及び高級アルコールの製造原料、アルミナの原料としての用途等が知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平01−250252号公報
【特許文献2】
特開平05−170644号公報
【特許文献3】
特開平07−265347号公報
【特許文献4】
特開平08−231386号公報
【特許文献5】
特開平09−140741号公報
【特許文献6】
特開平10−117758号公報
【特許文献7】
特開平09−192157号公報
【特許文献8】
特開平10−245042号公報
【特許文献9】
特開平11−89868号公報
【特許文献10】
特開平11−235356号公報
【特許文献11】
特開平11−299818号公報
【特許文献12】
特開2000−38557号公報
【特許文献13】
特開2000−60886号公報
【特許文献14】
特開2000−139993号公報
【特許文献15】
特再平11−800078号公報
【特許文献16】
特再2000−813626号公報
【非特許文献1】
塚田剛蔵著、「アルキルアルミニウムの現状」、化学と工業、第30巻、第12号、861〜864頁
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような鉄粉等を主成分とする従来の発熱剤は、一般に活性炭、バーミキュライト等をも含有し、材料の重量・体積が大きいため、それを利用した発熱体は重く、ある程度の厚さが必要であり、かさばるものであった。また、発熱体の製造時にも、発熱剤の重量のために機械的に発熱剤を充填する際に包材が破れたり穴が開いたりするという不都合があった。また、発熱剤や発熱体の運搬、保存等においても、費用がかかるものであった。
【0006】
さらに、発熱剤の化学反応の進行によって発熱体の使用中又は使用後に発熱体が硬化するため、使い捨てカイロ等においては、使用中に身体との密着性が低下して、使用感が悪くなったり、温熱効果が低下したりする。
【0007】
また、従来の発熱剤は一般に黒色又はそれに近い灰色であり、一般に白色系の淡色が好まれる医療用又は化粧品用等の発熱体に使用する場合には、衛生的な印象が得られにくい。そのため、発熱剤が見えないように隠蔽性を有する包材を使用することが必要であり、包材の材質、厚さ、重さの選択にも一定の制限が生じていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述したような従来の発熱剤の欠点を克服し、薄くて軽い発熱体を製造することができ、発熱中から発熱後まで硬くならず、白色又は淡色の包材での使用に適する、有機金属化合物を含む全く新規な発熱剤を提供する。本発明は、この新規な発熱剤を含む発熱体をも提供する。
【0009】
本発明に関して、「発熱剤」とは、ある化学反応を開始させることにより熱を発する組成物をいう。本発明に関して、「発熱体」とは、発熱剤を、通気又は透湿もしくは透水制御部材を少なくとも一部に有する容器(例えば袋、箱、缶等)に収容したものをいうが、その他の構成要素を有するもの(例えば発熱剤を収容する容器に例えば貼付部材、装着部材等の1以上の付加的な構成要素を付加したもの)をも含む。
【0010】
本発明の発熱剤は、発熱成分として有機金属化合物を含有することを特徴とする。「有機金属化合物」とは、分子中に少なくとも1つの金属‐炭素結合を有する化合物をいう。有機金属化合物は、一般に激しい反応性を有するため、従来、重合触媒等としては利用されていたが、発熱剤として利用し得ること、特に中程度の温熱を必要とする日常的に使用される各種の発熱体において使用される発熱剤としても利用し得ることは、全く知られていなかった。
【0011】
本発明の発熱体は、本発明の発熱剤、発熱剤を担持する担体、及び通気又は透湿もしくは透水制御部材を含む。ここで、「通気」とは、酸素、空気のような気体の透過を意味し、「透湿」とは、水蒸気の透過を意味し、「透水」とは、液体の水の透過を意味する。すなわち、「通気又は透湿もしくは透水制御部材」は、酸素又は水(蒸気又は液体の形態)の少なくとも1つの透過量及び/又は速度を所定の範囲に制御する部材である。しかし、以下の説明において、本発明の発熱剤の発熱を開始させるものとして「水」に言及する場合、それは化学物質としてH2Oであればよく、それが液体であるか水蒸気であるかを厳密には区別しないものとする。
【0012】
【発明の実施の形態】
1.有機金属化合物
本発明において、有機金属化合物の金属元素は、好ましくは元素の周期律表(短周期型)においてII族又はIII族に属する金属である。具体的には、Be、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd、B、Al、Sc、Ga、In等が挙げられるが、入手の容易性、安全性及び経済性等の点からはMg、Zn、B、Al、Ga及びInが好ましい。最も好ましくは、金属元素はアルミニウムである。
【0013】
有機金属化合物の炭化水素基は、金属の種類等によって1個、2個又は3個であることができ、有機金属化合物1分子に2個以上存在する場合は同じであっても異なっていてもよい。ここで、「炭化水素基」という場合、その基が炭素及び水素のみから構成されていることを意味せず、炭化水素基は、他の元素の原子又は他の元素を含む置換基によって置換されていてもよい。また、炭化水素基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、鎖式(直鎖又は分岐状のいずれであってもよい)であっても環式であってもよい。
【0014】
炭化水素基についてと同様、一般に、本明細書において一群の基(例えば「アルキル基」)に言及する場合は、置換又は非置換のものを含む。フェニル基もまた、置換又は非置換のいずれであってもよい。
【0015】
好ましい炭化水素基としては、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基等が挙げられる。有機金属化合物にアルコキシ基が含まれる場合は、その量は、好ましくは有機金属化合物1モル当り0.1〜2.9モルである。
【0016】
各炭化水素基の炭素数は、特に制限されないが、実用上、炭素数1〜15が好適であり、炭素数1〜10が特に好ましい。具体的には、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基及び/又はフェニル基が好ましい。
【0017】
有機金属化合物は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含んでいてもよい。ハロゲンは、炭化水素基上の置換基として存在してもよく、有機金属ハライドを構成するハロゲンの形で存在してもよい。
【0018】
本発明において、特に好ましい有機金属化合物は、有機アルミニウムまたはそのアルコキシドであり、最も好ましくはアルキルアルミニウム又はそのアルコキシドである。
【0019】
アルキルアルミニウムは、少なくとも1個のアルキル基がアルミニウムと共有結合している有機化合物の総称であり、トリアルキルアルミニウム〔(CnH2n+1)3Al;R3Al〕、アルキルアルミニウムヒドリド〔(CnH2n+1)3−mAlHm;R3−mAlHm〕、アルキルアルミニウムハライド〔(CnH2n+1)3−mAlXm;R3−mAlXm〕、及びアルキルアルミニウムセスキハライド〔(CnH2n+1)3Al2X3;R3Al2X3〕、ジアルキルアルミニウム等を含む(式中、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子、mは1又は2、nは整数、をそれぞれ表す)。
【0020】
本発明に使用し得るアルキルアルミニウムとしては、上記のような化合物のいずれでもよく、トリアルキル、ジアルキル又はモノアルキルのいずれであってもよいが、反応性が比較的穏やかであり作業上の安全性が高いこと等の点からは、常温で液体の、ジアルキル化合物が好ましい。具体的には、例えばジメチルアルミニウム、ジエチルアルミニウム、ジプロピルアルミニウム、ジブチルアルミニウム、ジペンチルアルミニウム、ジヘキシルアルミニウム、ジオクチルアルミニウム等のジアルキルアルミニウム、及びそれらのアルコキシドが挙げられる。アルコキシドとしては、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、フェノキシド等の炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基のアルコキシドが好ましく、最も好ましくは、エトキシドである。
【0021】
本発明において最も好ましいアルキルアルミニウムは、ジエチルアルミニウム及び/又はそのエトキシドである。
【0022】
本発明の発熱剤において使用される有機金属化合物は、上述のような化合物のいずれか1種でもよいが、必要に応じて2種以上の化合物の混合物を用いてもよい。
【0023】
2.希釈剤
本発明の発熱剤において、有機金属化合物は、適度な反応性を得るために適切な希釈剤で希釈して使用することができる。希釈剤としては、有機金属化合物と実質的に反応性がなく、有機金属化合物を希釈することができるものであれば、いずれでもよい。一般的には、炭化水素化合物が好ましく、ここで、炭化水素は脂肪族炭化水素でも芳香族炭化水素でもよく、また、飽和炭化水素又は不飽和炭化水素でもよい。希釈剤として炭化水素を使用する場合には、流動パラフィンやシクロヘキサン等が特に好ましく使用される。
【0024】
これらの希釈剤の有機金属化合物に対する希釈比率は、発熱特性等との関連で適宜決めることができる。一般には、希釈比率は、有機金属化合物100重量部に対し希釈剤1,000重量部以下、好ましくは500重量部以下である。有機金属化合物100重量部に対し1,000重量部以上の希釈剤を使用すると、充分な発熱特性が得られない場合がある。
【0025】
3.担体
本発明の発熱剤は、担体に担持させることができる。担体は、有機金属化合物との反応性について実質的に不活性な、シート状又は粒子状もしくは粉末状等の固体であればよい。例えば、不織布、スポンジ状のポリマー、ネット状のポリマーの積層体、木材又は紙パルプシート、織布のような、シート状担体(いずれかの単層であってもよく、あるいは単一又は複数の種類の積層体であってもよい);パーライト、バーミキュライト、珪藻土、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、活性炭のような粒子状又は粉末状担体が挙げられる。これらの担体は、担体中の水分が有機金属化合物と実質的に反応しないように乾燥状態で使用される。
【0026】
本発明の発熱剤は、不織布に含浸させると均一な厚さの薄くて軽いシート状発熱体を形成するのに好都合であるので、担体として不織布は特に好ましい。不織布としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(ナイロン;NY)、レーヨン等の単体及びこれらの2種以上の複合品が一般的に使用される。有機金属化合物との反応性が少ないものが好ましい。不織布の目付けは、一般的には10〜500g/m2のものが使用されるが、好ましくは15〜300g/m2のものが使用される。目付けが10g/m2以下の不織布では、有機金属化合物及び/又は希釈剤を担持する能力が不足するため、不織布以外の材料を汚染したり、発熱が完全に終了しない等の問題が生じる場合がある。500g/m2以上の不織布では、発熱体が厚くなりすぎる傾向があり、使用時に違和感が生じたり、発熱熱量が身体の皮膚表面等に満足に伝達されなくなる等の問題が生じやすくなる。
【0027】
一方、本発明の発熱剤は、上述のような不活性粒子又は粉末担体と混合すると、発熱性粒子又は粉末を生じる。このような粒子又は粉末は、鉄粉等を原料とする従来の発熱剤と同様に使用することができるので、本発明の発熱剤のこの形態も好ましい。
【0028】
また、本発明の発熱剤は、使用する希釈剤の粘度や希釈率を適当に選択したり、粒子状又は粉末状担体の混合比率を適宜選択することにより、ペースト状の形態にして使用することもできる。
【0029】
4.発熱剤の製造
本発明の発熱剤は、水及び/又は酸素との接触によって発熱する。したがって、使用前は水及び酸素との接触を避けることが必要である。例えば、本発明の発熱剤を製造する際、上述の希釈工程、及び担体その他の任意の付加的成分との混合工程等は、例えば不活性ガス(好ましくは窒素)置換したグローブボックス内のような、実質的に水や酸素との接触が起こらないように、雰囲気・時間等について配慮のされた環境下で行う。
【0030】
その他の、有機金属化合物の取扱い、希釈及び/又は混合等は、当業者に公知の通常の手順・方法によって行うことができる。
【0031】
5.通気又は透湿もしくは透水制御部材
本発明の発熱剤を含む発熱体は、本発明の発熱剤、発熱剤を担持する担体、及び通気又は透湿もしくは透水制御部材を含む。通気又は透湿もしくは透水制御部材は、酸素又は水の少なくとも一方の透過量及び/又は速度を所定の範囲に制御する部材であり、本発明の発熱剤と発熱剤を担持する担体とを収容する袋、箱、缶等の容器の少なくとも一部を形成する。
【0032】
通気又は透湿もしくは透水制御部材は、例えば、単層又は積層のフィルム、不織布、シート等の単体又は積層体であって、所定の通気性及び/又は透湿性もしくは透水性を有するものであればよい。そのような通気又は透湿もしくは透水制御部材は当業者に公知であり、例えば、所定の通気性及び透湿もしくは透水性を有するポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルム又はシート等が挙げられる。
【0033】
これらの通気性及び透湿性もしくは透水性を有する多孔質フィルム又はシートは、一般的にPE又はPP等のポリオレフィン系樹脂に炭酸カルシウム又は硫酸バリウム等のフィラーを添加、混合し、押出し機等でフィルム又はシート状に成形してから延伸処理を行い、樹脂とフィラーとの間に空隙を生じさせることにより得られる。本発明において使用される通気フィルムの通気度としては、JISP−8117試験法で測定した場合、一般に100〜100,000秒/100ccのものが好適に使用され、好ましくは200〜50,000秒/100ccのものである。これらの通気フィルム又はシートは、感触や強度を改良するために、前記のようなNY、PET、レーヨン、PP等の不織布との積層体として使用してもよい。
【0034】
通気又は透湿もしくは透水制御部材が、本発明の発熱剤と発熱剤を担持する担体とを収容する袋又は箱等の容器の一部を形成する場合、その袋又は箱等の容器の残りの部分は、実質的に非通気性及び/又は非透湿性もしくは非透水性の材料であることができる。従来型の使い捨てカイロ、温熱医療用具等としての応用においては、この非通気性及び/又は非透湿性もしくは非透水性材料部分の上に粘着剤等を塗布して身体や衣類等の対象物に貼付することができる。また、このような袋又は箱等の容器の残りの部分は、通気性及び/又は透湿性もしくは透水性材料であることもできる。通気性及び/又は透湿性もしくは透水性材料を使用する場合、粘着剤等をドット状又はストライプ状等のパターンで塗布して通気性及び/又は透湿性もしくは透水性を維持させておき、本発明の発熱体を身体等に貼付した場合に、身体から発生する水蒸気又は汗により本発明の発熱剤を発熱させるようにすることも有効である。
【0035】
6.付加的構成要素
本発明の発熱体には、更に付加的な構成要素を付加することができる。
【0036】
付加的な構成要素としては、例えば、貼付部材、装着部材、医療又は美容効果を与えるための部材、及び加温対象物(食品、飲料、芳香成分等)を収容する部材等が挙げられる。
【0037】
さらに具体的には、例えば、本発明の発熱剤を通気性の袋に収容して構成したシート状の発熱体の一面に粘着剤、粘着性シート等の貼付部材を設けて、発熱体を貼付可能にすることができる。また、そのような発熱体にバンド状の部材等の装着部材を設けて、手足等に巻きつけて装着可能とすることができる。あるいは、上記のようなシート状の発熱体の一面に薬剤又は治療もしくは美容用途の各種成分等を含有させたゲル層又は湿布層等の、医療又は美容効果を与えるための部材を設けて温湿布構造物とすることができる。また、以下に説明するように芳香性の成分を含有する部材や、食品、飲料等を収容する部材と一緒にしてもよい。これらの付加的な構成要素は、必要に応じて本発明の発熱体と一体化されていてもよいが、組み合わせて使用するように別個に提供されていてもよい。
【0038】
本発明の発熱剤は、鉄粉等を用いる従来の発熱剤が使用されていた温熱用具において従来の発熱剤の代わりに従来の発熱剤と同様に使用することができるので、そのような温熱用具に関するこのようなあらゆる改変や応用は、本発明の発熱体についても同様に可能であり、当業者はそれを容易に行うことができる。
【0039】
本発明の発熱剤及び発熱体は、有機金属化合物、希釈剤の種類や希釈率、担体の材質・形状等、通気又は透湿もしくは透水制御部材の特性・範囲・形状等を、適宜選択することにより、非常に広範囲の発熱温度及び発熱持続時間を実現することができる。また、発熱の開始を、酸素(空気)及び水のいずれか一方又は両方によって行うことを、目的等に応じて自由に選択することができる。さらに、発熱剤の色が従来の黒色系に限定されることがなく、白又はそれに近い淡色系にすることができるので、応用の範囲は非常に広い。
【0040】
したがって、例えば、35〜60℃程度の中程度の温度範囲での発熱を利用するような、使い捨てカイロのような保温具、温熱を利用する医療用具及び美容用品等において使用することができる。また、60〜80℃程度の比較的高温の温度範囲での発熱を利用するような、食品又は飲料の加熱、調理、保温等のための器具、例えば携帯用又は野外用調理器具等においても使用することができる。
【0041】
また、香りを単に楽しんだり、医療用のアロマテラピーに用いたりするためのお香、お茶の葉、ルームセント、エッセンシャルオイルの類を加熱して芳香成分を拡散させるための熱源として、電気器具やロウソク等の代わりに使用することができる。このような応用において、本発明の発熱剤及び発熱体は、高温になりすぎることもなく、所定の発熱時間を経過すると自然に発熱が終了し、火を使わないため、非常に安全性が高い。
【0042】
本発明の発熱剤は、鉄粉等の金属粉を使用する発熱剤に比べて酸素や水蒸気との反応性がよく、発熱性が良好であるので、保存するための包材としては、酸素及び/又は水蒸気バリヤー性が良好なものが望ましい。本発明の発熱剤及び発熱体は、使用時まで酸素ならびに水及び水蒸気を実質的に透過しない包材からなる容器中に収容される。好ましくは、包材は、水、水蒸気、酸素の透過がゼロ又は実質的にゼロのものである。このような包材もまた当業者には公知であり、例えば、シート状の包材としては、プラスチックフィルムに塩化ビニリデンをコーティングしたもの又はアルミナやシリカを蒸着したもの、アルミ箔にプラスチックフィルムを積層したもの等が挙げられる。本発明の発熱剤及び発熱体は、このような包材で作製した袋等に封入して保存することができる。また、アルミ缶のような缶、ガラス製又はプラスチック製のボトル等も、本発明に関してここでいう酸素ならびに水及び水蒸気を実質的に透過しない包材からなる容器である。
【0043】
7.発熱体の製造
本発明の発熱剤は、水及び/又は酸素との接触によって発熱する。したがって、本発明の発熱剤を含む発熱体を製造する際には、上述の発熱剤の製造におけるのと同様に、発熱剤を担体に担持させる工程、担体を通気又は透湿もしくは透水制御部材を有する袋等の容器に封入する工程等を、実質的に水や酸素との接触が起こらないように雰囲気・時間等について配慮のされた環境下で行う。
【0044】
袋等の容器への封入等の工程自体は、当業者に公知の通常の手順・方法によって行うことができる。
【0045】
また、各種の付加的構成要素の選択、作製及び付加も、当業者には公知である。
【0046】
【実施例】
実施例1. ジエチルアルミニウムエトキサイド(DEAOE)を含む発熱剤及び発熱体の作製
1−1 発熱剤の調製
グローブボックス内に操作に必要な器具を入れ、流量約8リッター/分を目安に1時間、窒素置換した。酸素濃度計が1%以下になった時点で窒素置換を終了し、窒素フロー状態を保った。以下の作業は、特に記載しない限り、この窒素フロー状態のグローブボックス内において行った。
【0047】
3gの100%ジエチルアルミニウムエトキサイド(日本アルキルアルミ(株)(株)製、以下「DEAOE」)を、150mlステンレス製容器から注射器を使って窒素置換済みの100ml角型規格瓶(角型規格瓶K−100型、マルエム製)に計り取った。この100ml角型規格瓶に、7gの流動パラフィン(モレスコホワイトP−200、松村石油研究所製)を計り取って加え、瓶内でDEAOEと混合して、DEAOEの30%(w/w)希釈液(本発明の発熱剤)を調製した。この溶液は実質的に無色透明であった。
【0048】
上記のDEAOE発熱剤100重量部に対して65重量部に相当する4.7gのパーライトろ過助剤(ロカヘルプ4109、三井金属鉱業製)を乳鉢に計り取った。100ml角型規格瓶より注射器を使って、100重量部、すなわち7.2gの30%(w/w)DEAOE溶液をパーライトろ過助剤入りの乳鉢に計り取り、乳棒で2分間混合して、DEAOE溶液を担体であるパーライトろ過助剤に吸着させた。
【0049】
1−2 発熱体の作製
ポリエチレン製多孔質フィルムの片面に不織布を積層した通気膜(商品名「ブレスロン」、日東電工製、透気度9,500秒/100cc)を90mmの正方形の大きさに切り取り、発熱体の表通気膜とした。ポリエチレン製フィルムの片面に不織布を積層した非通気性フィルムを90mmの正方形の大きさに切り取り、発熱体の裏フィルムとした。上記の表通気膜と裏フィルムとを、ポリエチレン面が内側に接するようにして重ね、周縁端部の三方を5mm幅のヒートシーラーでシールした。
【0050】
この三方シール済みの内袋に、乳鉢混合した5.5gの本発明のDEAOE発熱剤と粉末担体との混合物を入れて同様にシールした。この内袋を、アルミ箔/ポリエチレン積層のガスバリヤー性外袋に入れて封止してからグローブボックスより取り出した。これを発熱評価用のサンプル発熱体1とした。この発熱体の厚さは約3mm、重さは約7gであった。
【0051】
実施例2. ジオクチルアルミニウムエトキサイド(DOAE)を含む発熱剤及び発熱体の作製
2−1 発熱剤の調製
流量が約6リッター/分であったことを除き、実施例1と同様にグローブボックス内を窒素置換した。以下の作業は、特に記載しない限り、このグローブボックスにおいて行った。
【0052】
3gのジオクチルアルミニウムモノエトキシド(日本アルキルアルミ(株)製、以下「DOAE」)を、150mlステンレス製容器から注射器を使って100ml角型規格瓶(窒素置換済み)に計り取った。この角型規格瓶に、シクロヘキサン7gを計り取って加え、瓶内でDOAEと混合して、DOAEの30%(w/w)希釈液(本発明の発熱剤)を調製した。この溶液は実質的に無色透明であった。
【0053】
2−2 発熱体の作製
ポリエステル100%・目付け200g/m2の不織布(E−1W、賛羊(株)製)を60mm角の正方形の大きさに切り取り、DOAE発熱剤の吸着用不織布とした。この吸着用不織布に、上記の30%(w/w)DOAE溶液1.2gを、刷毛で塗布し、吸着させた。
【0054】
ポリエステル100%・目付け150g/m2の不織布(TE150、シンワ(株)製)を60mm角の正方形の大きさに切り取り、発熱テスト時の通気膜閉塞防止用(すなわち、必須ではないが、通気フィルムにアルキルアルミニウム発熱剤が付着して通気膜を閉塞するのを防ぐための)不織布とした。ポリエチレン製多孔質フィルム((株)トクヤマ製、ポーラムPN−30、通気度1,000秒/100cc)を90mm角の正方形の大きさに切り取り、発熱体に使用する表通気膜とした。ポリエチレン製フィルムの片面に不織布を積層した非通気性フィルムを90mm角の正方形の大きさに切り取り、発熱体に使用する裏フィルムとした。上記の表通気膜と裏フィルムとを、ポリエチレン面が内側になるように重ね、周縁部の一方を5mm幅のヒートシーラーでシールした。
【0055】
上記の通気膜閉塞防止用の不織布と、DOAE発熱剤を吸着させた不織布とを重ね、一方シール済みの内袋に、通気膜閉塞防止用の不織布が内袋の表通気膜のフィルム面と接するように入れて、残りの三方の端部を5mm幅のヒートシーラーでシールし封止した。内袋を、基材のPETフィルムにアルミナを蒸着し、更にポリエチレンを積層したガスバリヤーフィルムで作製した外袋に入れて封止してからグローブボックスより取り出した。これを発熱評価用のサンプル発熱体2とした。この発熱体の厚さは約2mm、重さは約4gであった。
【0056】
試験例3.発熱テストの方法
3−1 発熱評価装置
硬質アクリル板(厚さ5mm)の裏面にアクリル表面温度を一定化するための温水循環通路を取り付けたボックス型発熱評価装置(幅70cm×奥行き50cm×高さ35cm)において、アクリル板表面にサーモカップル型の温度検出器を一定間隔(幅方向は4cm、奥行き方向は10cmの間隔;全部で8個)に置き、アクリル板の表面温度、温度検出器の上に置いた発熱体の温度を記録できる装置を使用した。温水の循環温度は38℃にセットして循環させ、アクリル板の表面温度は約34℃であった。
【0057】
3−2 測定
サンプル発熱体1及び2のそれぞれについて、ガスバリヤーフィルムの外袋から内袋を取りだし、内袋裏側の中央付近がサーモカップル線のセンサー部分に接触するように置き、温度測定を行った。
【0058】
3−3 結果
図1に、本発明のDEAOE発熱剤と粉末担体とを含有する本発明のサンプル発熱体1についての温度測定結果を示す。発熱ピーク温度は約50℃、発熱持続時間は40〜50分であった。
【0059】
図2に、本発明のDOAE発熱剤と不織布担体とを含有する本発明のサンプル発熱体2についての温度測定結果を示す。発熱ピーク温度は約50℃、発熱持続時間は30分〜40分であった。
【0060】
試験例4.従来の発熱体との比較
従来の使い捨てカイロの発熱体と、本発明の発熱体との比較を行った。ここで使用した本発明の発熱体は、実施例1及び2と同じ発熱剤及びその他の材料を用いて、それぞれ実施例1及び2と同様に作製した。ただし、発熱面積を市販されている従来の発熱剤を用いた発熱体の発熱面積と同等にするために、発熱剤を収容する袋の大きさ及び発熱剤の封入量を表1に記載したとおりに変更した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1から、本発明の発熱剤を用いた発熱体は、従来の発熱剤を用いた発熱体と比較して、発熱剤自体が軽いため全体として軽量の発熱体であり、白色系の色が好まれる場合に有利であり、発熱終了後も柔軟性を維持していることがわかる。
【0063】
【効果】
本発明によれば、有機金属化合物を含有する発熱剤及びそれを用いる発熱体が提供される。本発明の発熱剤は、液体、粉末、ペースト状等の任意の形態にすることができるため、薄くて軽い平面状の発熱体を形成することができる。したがって、本発明の発熱体は、無機鉄粉、活性炭等を用いた従来の発熱体と比較して発熱剤の重量・体積が小さいので、薄くて軽く、かさばらない。また、発熱体の製造時にも、発熱剤の重量のために機械的に発熱剤を充填する際に包材が破れたり穴が開いたりするという不都合がなく、発熱剤や発熱体の運搬、保存等の費用面でも従来の発熱剤・発熱体より有利である。
【0064】
本発明の発熱剤及び発熱体は、有機金属化合物の種類、希釈剤の含有量、通気又は透湿もしくは透水制御部材の通気量等を適宜選択することにより、容易に所望の最高温度、温熱持続時間、発熱パターンを実現することができる。
【0065】
また、本発明の発熱体は、発熱剤の化学反応の進行によって発熱体の使用中又は使用後に発熱体が硬化することがなく、使用中に身体等の被加温物との密着性が低下して、使用感が悪くなったり、温熱効果が低下したりすることがない。
【0066】
さらに、本発明の発熱剤は実質的に無色であり、一般に白色系の淡色が好まれる医療用又は化粧品用等の発熱体を利用する各種製品に使用する場合にも特に好適であり、隠蔽性等の特性を考慮することなく、自由に包材を選択することができる。
【0067】
本発明の発熱剤は、空気(酸素)又は水分と接触することにより発熱を開始するので、本発明の発熱体は、鉄粉等を用いた従来の発熱体と同様に、使用が簡便である。さらに、発熱を酸素及び/又は水分(水蒸気)のいずれか一方又は両方によって開始させることを任意に選択することができるので、目的・用途等に応じて、多様な実施態様を容易に考案することができる。
【0068】
本発明の発熱剤は、このように非常に応用範囲が広く、いわゆる使い捨てカイロのような保温具、温熱を利用する医療用具及び美容用品等の、鉄粉等を用いた従来の発熱剤が使われていたあらゆる分野の発熱体において、従来の発熱剤の代わりに使用することができるだけでなく、上記のような特性を利用して、アロマテラピー用の熱源、食品・飲料の加温や調理のための熱源等として、温熱を必要とする種々の場面において多彩な用途が可能である。本発明の発熱剤又は発熱体は、特に、香り成分を拡散させるための熱源として電気やロウソク等の代わりに使用することができることは特記すべきである。このタイプの応用は、活性炭を鉄粉等とともに必ず含有する従来の発熱剤では、活性炭が香り成分を吸着してしまうため、実現不可能であった。
【0069】
このような多様な応用形態において、本発明の発熱剤及び発熱体は、高温になりすぎることもなく、所定の発熱時間を経過すると自然に発熱が終了し、火を使わないため、非常に安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のDEAOE発熱剤と粉末担体とを含有する本発明のサンプル発熱体1についての温度測定結果を示す図である。
【図2】本発明のDOAE発熱剤と不織布担体とを含有する本発明のサンプル発熱体2についての温度測定結果を示す図である。
Claims (9)
- ジアルキルアルミニウム化合物及び/又はそれらのアルコキシドを含有する発熱剤。
- アルキル基が、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基である、請求項1記載の発熱剤。
- ジアルキルアルミニウム化合物及び/又はそれらのアルコキシドが、ハロゲンを含む、請求項1又は2記載の発熱剤。
- アルコキシドが、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基のアルコキシドである、請求項1〜3のいずれか1項記載の発熱剤。
- 希釈剤を含有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の発熱剤。
- 希釈剤が、炭化水素化合物である、請求項5記載の発熱剤。
- 発熱剤を担持する担体を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の発熱剤。
- 請求項1〜7のいずれか1項記載の発熱剤、及び通気又は透湿もしくは透水制御部材を含む発熱体。
- 酸素ならびに水及び水蒸気を実質的に透過しない包材からなる容器に収容されている、請求項8記載の発熱体。
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