JP4494985B2 - 心拍および呼吸情報の収集装置 - Google Patents

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Description

この発明は心拍および呼吸情報の収集装置に関し、特にたとえば、自動車運転や看護業務などの実場面でドライバや看護士の状態を推定するための心拍および呼吸情報を収集する、心拍および呼吸情報収集装置に関する。
瞬時心拍の変化は、心臓交感神経系と副交感神経系の活動のバランスを反映し、覚醒、緊張、驚きなどによって上昇する。また、心拍変動には呼吸性成分、および約10秒周期の血圧変動に由来する成分があり、身体的・精神的負担や注意集中の指標として用いられる(非特許文献1)。呼吸は、緊張や注意集中によって、浅く速い呼吸となったり、一過性の大きな呼吸や一時的な息こらえが生じる、単調・倦怠で遅い一過性の大きな呼吸が増えるなどの特徴がある。また、呼吸性心拍変動成分の変化の解釈にも呼吸情報は欠かせない。
心拍・呼吸情報は、自動車運転中のヒヤリ・ハットや緊張の生じる苦手場面の検出(非特許文献2)、自動車運転以外にもプラントのオペレータや機械作業者の作業負担の評価、医療業務を行っている看護士の作業分析やヒヤリ・ハット検出にも利用される(非特許文献3)。
データ収集を目的とする場合には、心拍は使い捨て電極などを用いた心電図計測により、また呼吸は胸部腹部の周囲長変化を検出するセンサや鼻部につけた温度センサにより、比較的容易に計測できるが、長時間計測や日常場面での計測となると、計測に伴う被測定者の負担のさらなる軽減が望まれる。自動車運転では、ハンドルや座席、シートベルトなどセンサを組み込んだ計測方法が開発されている(特許文献1および2)。
ただし、これらの従来技術や特許文献1および特許文献2の従来技術では、いずれも、心拍と呼吸の情報を同時に取得することはできない。したがって、もし、心拍情報と呼吸情報とを同時に取得しようとすると、それぞれ別々のセンサ等を使用する必要があり、嵩張り大型になり、被験者に装着に大きな負担を与える。
これに対して、特許文献3には、手首に巻いた脈拍センサからの脈拍数と最高血圧値とによって、呼吸数を計算で推定する方法が開示されている。この特許文献3のものでは、脈拍を検出し、脈拍数と呼吸数とを1つの脈拍センサで推定することができる。
大須賀美恵子「特集インタフェースと生理計測−心的状態の指標としての心拍・心拍変動」ヒューマンインタフェース学会誌、Vol.6 No.1 pp.9−14 2004 栗谷川幸代、大須賀美恵子、景山一郎「運転支援システム構築のための基礎的研究−心拍を用いた危険・苦手場面検出について−」日本人間工学会第45回大会講演集、Vol.40 pp.364−365 2004 桑原教彰、萩田紀博、小暮潔、野間春生、鉄谷信二、伊関洋「ウェアラブルセンサによる看護業務の自動行動計測手法」情報処理学会論文誌、Vol.44 No.11 pp.2638−2648 2003 特開2002−102188号[A61B5/0245 0408 0478 0492 18] 特開平8−140950号[A61B 5/0245 B60R 22/12 48] 特開平6−142082号[A61B 5/08]
特許文献3の従来技術では、脈拍センサを手首に装着するだけでよいので、被験者の装着の負担を軽減することはできる。しかしながら、この従来技術では、呼吸数の計算のために最高血圧値の情報を用いるが、それはあくまで推定値であること、そして1拍ごとの血圧を測定する必要があって負担が大きいという問題がある。
それゆえに、この発明の主たる目的は、被験者の負担を最小にしてしかも正確な心拍情報と呼吸情報とを同時に収集できる、心拍および呼吸情報収集装置を提供することである。
請求項1の発明は、被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、装着される機械‐電気変換マイクロフォン、機械‐電気変換マイクロフォンの出力信号を増幅するマイクアンプ、マイクアンプの出力信号から心拍情報を抽出する第1抽出手段、およびマイクアンプの出力信号から呼吸情報を抽出する第2抽出手段を備え、機械‐電気変換マイクロフォンの出力レベルが所定以上のとき第1抽出手段および第2抽出手段を不能動化する、心拍および呼吸情報の収集装置である。
請求項1の発明では、たとえばNAMマイクロフォン(10:実施例で対応する部分またはコンポーネントを示す参照符号。以下、同様。)を用い、機械‐電気変換マイクロフォン(14)がたとえばソフトシリコーンのような軟弾性材料を介して、被験者の体表面上に装着される。コンデンサマイクロフォンには被験者の筋肉や結合組織などの軟部組織を通して、調音呼気音の振動が伝達される。軟弾性材料の音響インピーダンスは、被験者の軟部組織の音響インピーダンスとほぼ等しいため、被験者の軟部組織から体表面を介して伝導する調音呼気音の反射がなく、調音呼気音がほぼそのまま機械‐電気変換マイクロフォンに到達する。したがって、機械‐電気変換マイクロフォンで効率よく、調音呼気音を電気信号に変換することができる。この調音呼気音の波形には、被験者の呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化も重畳されている事実を、発明者等が実験の過程で発見した。したがって、機械‐電気変換マイクロフォンの出力信号から第1抽出手段および第2抽出手段によって、心拍情報および呼吸情報を抽出することができる。
請求項1の発明では、さらに、たとえばNAM採取用のマイクアンプ(32)の出力信号がレベル検知器(34)によって検知される。そして、マイクアンプ(32)すなわちコンデンサマイクロフォン(14)の出力信号レベルが所定以上であるときは、本来のNAM採取のために調音呼気音を利用しようとしているときなので、このときには、たとえばレベル検知器(34)は、たとえば、NAMマイクロフォン(10)と重畳波形取出し用のマイクアンプ(22)との間に介挿されているスイッチ(36)をオフする。そうすると、重畳波形信号が第1抽出手段や第2抽出手段に送られなくなるので、第1抽出手段や第2抽出手段による心拍情報抽出および呼吸情報抽出が不能動化される。そのため、誤った心拍情報や呼吸情報が抽出されてしまうのを防止できる。
請求項1の発明では、被験者には機械‐電気変換マイクロフォンを軟弾性材料を介して装着するだけでよく、装着の負担は極めて小さくなる。一方、第1抽出手段および第2抽出手段から取り出される心拍情報および呼吸情報は、いずれも、被験者のそのときの実際の心臓拍動や呼吸に基づくものであるため、非常に正確である。しかも、誤った心拍情報や呼吸情報が抽出されてしまうのを防止できる。
請求項2の発明は、第1抽出手段は第1所定周波数以下の信号成分を通過する第1フィルタを含む、請求項1記載の心拍および呼吸情報の収集装置である。
請求項2の発明では、調音呼気音に重畳する心拍に関連した信号の主成分がたとえば100Hz以下であることに鑑み、第1抽出手段をたとえば100Hzのような第1所定周波数以下の信号成分を通過させる第1フィルタで構成することとした。
請求項3の発明は、第2抽出手段は第2所定周波数以上の信号成分を通過する第2フィルタを含む、請求項1または2記載の心拍および呼吸情報の収集装置である。
請求項3の発明では、調音呼気音に重畳する呼吸に対応した成分は、吸気ではたとえば150Hz以上200Hz近辺で優勢で、呼気ではこの成分に加えたとえば500Hz以上の高い成分まで広く分布するので、第2抽出手段を、たとえば150Hzのような第2所定周波数以上の信号を通過できる第2フィルタで構成することとした。
請求項の発明は、機械‐電気変換マイクロフォンはコンデンサマイクロフォンである、請求項1ないしのいずれかに記載の心拍および呼吸情報収集装置である。
機械‐電気変換マイクロフォンとしてコンデンサマイクロフォンを用いれば、小型で高感度の心拍および呼吸情報収集装置が得られる。
請求項の発明は、軟弾性材料は、被験者の体表面における音響インピーダンスと等しいかほぼ等しい音響インピーダンスを有する材料である、請求項1ないしのいずれかに記載の心拍および呼吸情報収集装置である。
請求項の発明では、被験者の体表面と軟弾性樹脂との間で音響インピーダンスがマッチングするため、調音呼気音が体表面と軟弾性樹脂との界面で反射しないので、調音呼気音が効率よく、機械‐電気変換マイクロフォンに伝導される。
この発明によれば、被験者の所定部位にコンデンサマイクロフォンを装着するだけでよく、したがって、被験者の負担を最小にして、心拍および呼吸情報が同時に収集できる。しかも、すべて実測値であるので、正確な心拍および呼吸情報が得られる。したがって、これらの心拍情報および呼吸情報を用いれば、自動車運転や看護業務などの実場面でドライバや看護士の状態を比較的正確に推定することができる。
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
図1はこの発明の実施例で用いるNAMマイクロフォン10を被験者に装着した状態を示す図解図である。ただし、この図1の実施例では、この実施例の効果を検証するためだけに必要なセンサも同時に図示している。
つまり、被験者1の左胸部心臓付近に吸着補助具(図示せず)を用いてマイクロフォン2を接着し、このマイクロフォン2で被験者の心音を計測する。また、心電図は、3つの使い捨て電極3を用いて胸部(CM5)誘導で計測する。頸動脈上に光電式反射型脈波センサ4を装着し、そのセンサ4で脈波を計測する。本来的には、圧脈波を計測すべきところであるが、末梢血管(耳朶や指尖)用のセンサで代用した。伸縮により電気抵抗が変化するセンサ(伸縮性可変抵抗素子)5を胸部に装着し、呼吸に伴って変化する周囲長を計測することによって、呼吸を検出する。
これらのセンサまたはコンポーネント2,3,4および5は、この発明には本来不要であるが、この実施例によって、NAMマイクロフォン10を用いて心拍および呼吸情報が収集できることを実証するために利用される。
つづいて、図1実施例で用いられるNAMマイクロフォン10について説明する。NAMマイクロフォンとは、本件発明者等が、非可聴つぶやき(NAM:Non-Audible Murmur)を利用した音声入力インタフェースの実現をめざして開発したものである。ここで、「非可聴つぶやき(NAM)」の語は、周囲の人が内容を聴取することが困難な、口の中で自己処理的に行う発話行動を指す、発明者等が提唱した造語である。これを音響学的にいえば、声帯振動を伴わない無声呼気音が発話器官の運動による音響的フィルタ特性変化により調音されて、人体頭部の主に軟部組織を伝導したもの、と定義できる。したがって、NAMマイクロフォンとは、一般的に表現すれば、声帯の振動を伴わない調音呼気音(NAM)の体内伝導を収集するために、体表面に接着または装着するマイクロフォンのことである。しかしながら、ここでは、便宜上、この種のマイクロフォンを「NAMマイクロフォン」と呼ぶことにする。ただし、この「NAMマイクロフォン」の語は、特定の形状や構成のマイクロフォンを意味するものではなく、調音呼気音の体内伝導を採取できるマイクロフォンをすべて包含するものと解釈されたい。
NAMマイクロフォンを用いれば、調音呼気音の体内伝導を収集できるので、周囲雑音の存在下でも音声認識が可能となるばかりか、調音呼気音は第三者に聞こえないので、衆目環境での有性発話の心理的障壁や情報漏洩に対処することができる。ただし、この実施例ではこのようなNAMマイクロフォンを用いてはいるが、その目的は、NAMを収集するためではない。
発明者等のNAM採取の実験の過程で、NAMマイクロフォンを特定部位に接着ないし装着することによって、被験者の呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化が調音呼気音に重畳されることを確認した。NAM採取の観点からは、呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化は除去する必要があるが、一方では、心拍や呼吸情報は人の身体的および/または精神的状態を推定するのに有用な情報である。そこで、この発明は、NAMマイクロフォンから得られる調音呼気音に呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化が重畳されるという、確認した事実に基づいて、新規な構成で、心拍や呼吸の情報を収集せんとするものである。荷物の積み下ろしなどの動きの多いドライバ(運転手)や看護や患者の監視などのため激しい動作をする看護士などの作業場面では、装着の負担が可及的小さいことが要求されるので、このような小型のNAMマイクロフォン10を装着するだけでよいこの発明は特に有用である。
つづいて、この発明の理解に必要な範囲でNAMマイクロフォンについて、図2および図3を参照して説明する。
図2に示すNAMマイクロフォン10は、軟弾性材料、たとえばソフトシリコーンのような樹脂からなる截頭円錐形(頂部を切り取った形の円錐形)の装着部12を有し、この装着部12の截頭部上端面にコンデンサマイクロフォン(Electret Condenser Microphone)14を接着する。このコンデンサマイクロフォン14は、よく知られているように、適宜の間隔を隔てた2枚の電極16を有し、電極間容量の変化で音声振動を検知するものである。つまり、ソフトシリコーンからなる装着部12が被験者の特定部位の体表面1Aに接着または装着され、この装着部12を介して伝播する調音呼気音(それに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化も含む)による振動に応じて、2つの電極16の間の容量が変化するので、その容量変化を電気信号として取り出すことによって、調音呼気音およびそれに重畳している波形の電気信号が得られる。この波形信号(電気信号)が端子18から取り出される。なお、外部雑音を遮断するために、装着部12の上方に、コンデンサマイクロフォン14を囲繞するように、ケース20が設けられる。このケース20は金属もしくは樹脂で形成され得る。
図3に示すNAMマイクロフォン10も、図2のものと同様に、たとえばソフトシリコーンのような軟弾性材料からなる截頭円錐形の装着部12を有するが、この例では、コンデンサマイクロフォン14は、図2の例とは異なり、装着部12の材料中に埋め込まれる。そして、装着部12が被験者の特定部位の体表面1Aに接着または装着され、図2の場合と同様に、調音呼気音の波形およびそれに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形の電気信号を端子18から取り出す。なお、この図3の例でも、外部雑音を遮断するために、装着部12の上方に、装着部12を全体的に囲繞するように、金属または樹脂のケース20が設けられる。図2ではコンデンサマイクロフォン14が装着部12から露出しているのに対し、図3のNAMマイクロフォン10では、コンデンサマイクロフォン14は装着部14の軟弾性材料内に完全に埋め込まれている。この構造によれば、コンデンサマイクロフォン14の裏面や側背部から外部ノイズが浸透する領域と、体表面から伝わる振動音が伝達される領域とを隔離し易く、人体の肉内にコンデンサマイクロフォンを直接埋め込んだと同様の効果が期待できる。
なお、装着部12の素材としては、松風株式会社製の歯科複模型用シリコーン印象剤「デュプリコーン(DUPLICONE: vinyl polysiloxane)」を用いた。
NAMマイクロフォンについては、発明者等による別の論文に詳しいので、ここでは参考のためにその論文を引用する。
(1) 中島淑貴,柏岡秀紀,キャンベルニック「非可聴つぶやき認識」電子情報通信学会論文誌D−II,Vol.J87−D−II,NO.9,pp.1757−1764,2004
(2) 鹿野清宏,中島淑貴,竹苗浩司,柏岡秀紀,鹿野清宏,キャンベルニック「NAM Interface Communication」情処研報,Vol.2004,No.74,pp.33−40,2004
図1の実施例では、図2または図3に示すNAMマイクロフォン10を被験者1の所定部位、耳介後下方部に装着する。詳しく説明すると、頭蓋底の耳孔のすぐ後ろに乳様突起と呼ばれる骨の突起がある。これは首の筋肉(胸鎖乳突筋)と頭蓋骨とをつなぐ起始部となる部位である。この乳様突起に振動版の上部が一部かかる位置にNAMマイクロフォン10を装着する。このように装着することで、固定板が乳様突起という骨の先端に一部かかるので、NAMマイクロフォン10がしっかりと当該部位に固定される。ただし、振動板の中心は筋肉の上にある。解剖学的にみると、この筋肉の部分は、調音器官である声道を、上は頭蓋底、左右は下顎骨と頸椎とに挟まれた骨の窓を通して、斜め後ろ側から水平に眺めた形になる。骨などの音響的障害物なしに、筋肉や結合組織などのほぼ同じ音響インピーダンスの軟部組織だけを通して直線的に見渡せる構造となっており、調音器官の共鳴による音響フィルタ特性を捕らえるのに適している。この実施例では、本来のNAM採取も兼ねているので、調音器官の共鳴による調音呼気音を効率的にピックアップできる位置にNAMマイクロフォン10を装着した。しかしながら、もし、NAM採取が必要なく、ただ心拍情報や呼吸情報だけを取得するためには、上で説明した位置とは異なる位置にNAMマイクロフォン10を装着するようにしてもよい。
このような部位の体表面1A上に、図2または図3のNAMマイクロフォン10を取り付けると、装着部12が軟弾性材料であり、その軟弾性材料の音響インピーダンスは、被験者の上記軟部組織の音響インピーダンスと等しいかほぼ等しいため、その軟部組織から体表面を経て伝導する調音呼気音(それに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化も含む)の体表面1Aと装着部12との界面での反射が少なく、その調音呼気音による振動がほぼそのままNAMマイクロフォン10内のコンデンサマイクロフォン14に到達する。したがって、コンデンサマイクロフォン14で効率よく、調音呼気音やそれに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化を電気信号に変換することができる。
なお、実験では、NAMマイクロフォン10を被験者の耳介後下方部に装着するために、カチューシャ(C字状に丸く曲げて弾力を持たせたプラスチックなどからなるヘアバンド)状の装着具を用いたが、このNAMマイクロフォン10の装着または接着方法は、外れたりずれたりしなければ、テープで止めるなど任意でよい。
ここで、実際の被験者を対象にした実験の結果について説明する。被験者はインフォームドコンセントを得た20歳代前半の健常な大学生10名である。NAMマイクロフォン10や他のセンサまたはコンポーネント2−5は、図1に示すように、各被験者に装着した。そして、計測条件は、呼吸を止めているときと、普通に呼吸しているときの2条件とした。
実験では、図1のNAMマイクロフォン10からの信号や各センサ2−5からの信号は、それぞれ5kHzでA/D変換(サンプリング)して、コンピュータ(図示せず)に取り込んで評価することにした。ただし、呼吸センサ5からの信号は50Hzで、心電図センサ3からの信号および脈波センサ4からの信号はともに1kHzでリサンプリングした。なお、NAM採取が目的の場合には、NAMマイクロフォン10の出力信号(マイクアンプ22の出力信号)は16kHzでサンプリングするが、この実施例では、マイクアンプ22の出力信号は5kHzサンプリングとした。予備的な検討で、心拍および呼吸に対応した情報は1kHz以下に多く含まれていることを確認し、データ量削減と、本来のNAMや有声音との分離のため、低周波領域に着目することにしたためである。
心電図データにR波強調フィルタ(参照:大須賀美恵子「健常者の心理的状態評価への応用を目的とした心電図QRSの検出について」医用電子と生体工学,Vol.30,No.2,27−35,1992)をかけてR波のピークを検出し、これをトリガとして前0.2sec、後1sec分の心電図、h−NAM(心音センサ2で計測した信号)、c−NAM(実施例のNAMマイクロフォン10で取り出した信号)、および脈波データを切り出してコンピュータ画面に重畳表示し、同時に加算平均波形を求め、心拍情報について検討した。さらに、低周波成分をハイパスフィルタで除去した後に、1フレーム1024点(0.2048sec)でHanning Window使用、1/2フレームオーバラップしたスペクトルアレイや、これを用いた種々のバンドパスフィルタ出力を求め、心拍、呼吸に関連した信号が優勢に見られる周波数帯域を定めて、その帯域の平均パワーの時系列変化を求め、心拍や呼吸曲線と比較検討した。
[実験結果]
図4に普通に呼吸をしているときの計測結果の例を示す。図4では、上段から順に、呼吸、心電図、h−NAM、c−NAM、脈波の波形を示し、それぞれ20sec分を表示している。この図4からわかるように、NAMマイクロフォン10の出力に基づくデータc−NAM(図4の4段目)にも1拍ごとに、心音図(h−NAM:図4の3段目)の第I音、第II音と同じような特徴的な2つの信号が観察される。
しかし、c-NAMの中のこれらの2つの信号の波形や生起タイミング(各信号のピーク潜時)は心音図のものと同等でなく、個人差が大きい。そこで、個人の条件別に、R波ピークをトリガとした重畳表示(図5)と加算平均波形(図6)をもとに詳細に検討を加えた。図5および図6のいずれも、上段から順に、心電図、h−NAM、c−NAM、脈波の波形を示している。
図5および図6から、RR間隔、PTT(R波から脈波基点までの時間)の変動が小さく、h−NAM、c−NAMの波形も安定していることがわかる。このデータは呼吸を止めているときのものであるが、普通に呼吸をしているときでも、波形や潜時の変動がやや大きくなるものの、同様の成分が安定して見られることを確認した。
h−NAMでは心音図の第I音、第II音が見られる。心音図の第I音は4成分あり、その終了時と脈波の基点、第II音と脈波のノッチ(dichotic notch)(計測方法の問題からノッチが不鮮明の場合も多い)がほぼ一致しており(参照:金井泉「臨床検査法提要」金井正光(編)pp.858−881 金原出版1983)、妥当なデータが得られているといえる。
c−NAMでは、第II音については、h−NAMの第II音と類似の波形が見られることが多く、潜時は約0.04secである。これに対し、c-NAMの第I音の波形はh−NAMの第I音から大きくくずれており、前半部分が小さく後半が大きい波形になっていることが多い。10名中8名でこのような現象が見られ、2名では第I音も比較的h−NAMに近い波形が見られた。図7および図8に一例を示す。図7は特定の1人について、R波ピークをトリガにした重畳波形を示し、図8はそれの加算平均波形を示す。ただし、いずれにおいても、上段より心電図、h−NAM、c−NAM、脈波を示す。
NAMマイクロフォン10の接着(装着)部位を変えると、波形や大きさが変化するものの、この2通りのパターンは、個人内では比較的安定である。このパターンの違いが意味することについては定かではないが、NAMマイクロフォン10の出力信号から抽出した心拍情報c−NAMで見られる心臓の拍動に関連した信号は、潜時から考えて、少なくとも、単純に心音が人体軟組織を伝導した音を採集しているのではなく、主に、拍動によって生じた波動が動脈を伝わって発生した脈音を肉伝導で捉えているのではないかと考えられる。
図9に普通に呼吸をしているときの計測データの周波数解析の結果の一例を示す。図9では、上から順に、呼吸曲線、c−NAM、c−NAMの150Hz以上の成分、これに対するスペクトラム、c−NAMの50−100Hz帯域成分、c−NAMの150−250Hz帯域成分、c−NAMの400−500Hz帯域成分を示す。ただし、下2段のデータは、5点(1.024sec)の移動平均をかけたものである。それぞれ10sec分を表示している。この図9から、上で説明したように、c−NAMの心拍に関連した信号は100Hz以下の成分が主であること、呼吸に対応した成分は吸気では150Hz以上200Hz近辺で優勢で、呼気ではこの成分に加え500Hz以上の高い成分まで広く分布することがわかった。図9の下3段に、3種のバンドパスフィルタ(図10のBPF1、BPF2、BPF3)出力を示す。第1BPF24の50−100Hzの帯域成分の平均パワーの変化から心拍数の大まかな変化を捉えられる可能性が伺える。第2BPF26aの150−250Hzの帯域で、吸気/呼気に対応したパワーの増減、第3BPF26bの400−500Hz帯域で呼気に対応した増減が見られることがわかり、これらの組み合わせで呼吸に関する情報が得られる可能性が見出された。
図9の中央に「Frequency」のラベルを付した幅広の黒領域が描かれている。これは、それより上の3つの信号波形の周波数スペクトラムを示すものではあるが、単に、周波数成分は0‐2000Hzの間に存在することを示すだけである。
次に、このような発明者等の実験の結果に基づいて構成したこの発明の実施例を説明する。
図10は図1実施例のNAMマイクロフォン10からの出力信号を処理して、心拍情報および呼吸情報を抽出するための具体的構成を示すブロック図である。NAMマイクロフォン10すなわちコンデンサマイクロフォン14からの出力信号は、端子18(図2、図3)からマイクアンプ22に入力される。ただし、このマイクアンプ22からコンデンサマイクロフォン14(図2、図3)に、必要な電源が供給される。マイクアンプ22は、NAMマイクロフォン10の出力信号、すなわち、調音呼気音やそれに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化の電気信号(波形信号)を増幅し、出力する。
マイクアンプ22の出力は、第1抽出手段を構成する第1帯域通過フィルタ(BPF1)24に与えられるとともに、第2抽出手段を構成する第2帯域通過フィルタ(BPF2)26aおよび第3帯域通過フィルタ(BPF3)26bに入力される。第1BPF24はたとえば100Hz以下、たとえば50−100Hzの信号を通過させる。これは、先に説明したように、実験の結果、心拍に関連した信号の主成分が100Hz以下であることが判明したからである。したがって、この第1BPF24は、たとえば100Hz以下の通過帯域を有する低域通過フィルタ(LPF)に代えられてもよい。つまり、第1抽出手段を構成する第1フィルタは、100Hz以下の信号成分を通過させるフィルタであればよい。2つの帯域通過フィルタ26aおよび26bは、それぞれが同じ入力信号を受ける。第2帯域通過フィルタ(BPF2)26aの通過帯域は150−250Hzとし、第3帯域通過フィルタ(BPF3)26bの通過帯域は400−500Hzとした。これも、実験の結果、呼吸に対応した成分は、吸気では150Hz以上200Hz近辺で優勢で、呼気ではこの成分に加え500Hz以上の高い成分まで広く分布することがわかったからである。この2つのBPF26aおよび26bが第2フィルタであり、第2フィルタは150Hz以上の信号を通過できるフィルタであればよい。
BPF24およびBPF26aならびにBPF26bの出力は、すべて信号処理回路28に入力される。この信号処理回路28は、たとえば積分回路を含み、それぞれのフィルタの出力を積分してそれぞれの通過帯域成分のパワーを求める。BPF(またはLPF)24の出力である50−100Hzの帯域成分の平均パワーの変化から心拍情報(たとえば心拍数の大まかな変化)が得られる。ここで抽出される心拍情報は、たとえば図6および図8の第3段目や図9の下から3段目に示すような信号であり、それによれば図4の心電図や心音マイク信号と同様に、I音とII音とを明瞭に識別できる心拍情報である。
第2BPF26aの出力である150−250Hzの帯域で、吸気/呼気に対応したパワーの増減が見られ、第3BPF26bの出力である400−500Hzの帯域で呼気に対応した増減が見られる。したがって、これら2つのBPF26aおよび26bの出力のパワーの組み合わせで呼吸情報が得られる。ここで得られる呼吸情報は、たとえば図1や図9の第1段目に示すように呼気および吸気を明瞭に識別できるものとなる。
図11はこの発明の他の実施例を示すブロック図である。この実施例は、図10の実施例では心拍情報および呼吸情報を取得するのに、帯域通過フィルタ24および26a,26bと信号処理回路(積分回路)28とを用いて、50−100Hzの帯域のパワー変化、150−250Hzの帯域のパワー変化および400−500Hzの帯域のパワー変化を得た。これに対して、この図11の実施例では、高速フーリエ変換(FFT)のスペクトルアナライザ30を用いる。このスペクトルアナライザ30を用いることによって、任意の周波数帯でのパワー変化を自在に取り出すことができる。したがって、このスペクトルアナライザ30から、心拍情報および呼吸情報の両方を収集することができる。したがって、スペクトルアナライザ30が第1および第2抽出手段として動作する。
発明者等の実験によれば、NAMマイクロフォン10の出力信号に含まれる調音呼気音のレベルと、それに重畳した呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化のレベルとでは、前者の方が後者より非常に大きい。したがって、もし、被験者がNAM採取の目的で無音発声を行っていれば、呼吸音や心臓の拍動に関連した波形変化はこの本来のNAMレベルに埋没してしまう。したがって、その状態では心拍情報および呼吸情報を収集することはできない。そこで、図12の実施例では、NAMマイクロフォン10の出力信号レベルが一定以上のときには、心拍情報および呼吸情報を収集を中止し、心拍情報抽出や呼吸情報抽出の誤動作を防止できるようにしている。
図12を参照して、NAMマイクロフォン10の出力は、上述のマイクアンプ22に入力されるとともに、別のマイクアンプ32にも入力される。本来のNAMの信号レベルは非常に大きいので、このマイクアンプ32の増幅度は、重畳信号増幅用のマイクアンプ22の増幅度に比べて非常に小さく設定される。逆に言えば、重畳波形信号を増幅するマイクアンプ22の増幅度は、NAM採取用のマイクアンプ32の増幅度に比べてかなり大きく設定される。そして、マイクアンプ32の出力信号は、たとえば音声認識のためのNAMとして出力される。
そして、マイクアンプ32の出力信号がまた、レベル検知器34によって検知され、マイクアンプ32の出力信号レベルが所定以上かどうか、判別する。この信号レベルが所定以上であるときは、本来のNAM採取のために調音呼気音を利用しようとしているときなので、このときには、レベル検知器34は、スイッチ36をオフする。このスイッチ36は、たとえば、NAMマイクロフォン10とマイクアンプ22との間に介挿されているので、もし、スイッチ36がオフされると、マイクアンプ22にNAMマイクロフォン10からの出力信号が与えられなくなり、図10の実施例で説明した第1BPF24や第2、第3BPF26a,26bへ信号が伝達されなくなる。したがって、これら第1BPF24および第2、第3BPF26a,26b(または図11実施例のスペクトルアナライザ30)、すなわち第1抽出手段による心拍情報抽出および第2抽出手段による呼吸情報抽出が不能動化される。そのため、誤った心拍情報や呼吸情報が抽出されてしまうのを防止できる。
さらに、図10の実施例や図11の実施例では、第1および第2抽出手段として個別のフィルタや回路(ハードウエア)を利用した。しかしながら、先に実験の結果を評価したように、すべての信号処理をコンピュータによって実行することも可能である。
図13はこの発明のさらに他の実施例を示すブロック図である。この実施例では、マイクアンプ22の出力信号は、A/D変換器38でサンプリングして、コンピュータ40に取り込む。このときのサンプリングレートは本来のNAM採取の場合(16kHz)とは異なり、5kHzとした。したがって、コンピュータ40にはNAMマイクロフォン10の調音呼気音に重畳した波形信号のデータが入力されるので、コンピュータ40は、この波形信号データをディジタルフィルタで処理したり、もしくはFFT処理をしたりして、図10の実施例と同様に心拍情報や呼吸情報を収集する。ただし、図10や図11の実施例に基づいて、それらと同様の結果を得るための処理をコンピュータ40に行わせることは専門家なら簡単にできるので、ここではこれ以上の詳細は説明しない。
なお、上述の実施例では、NAMマイクロフォン10の出力をフィルタやコンピュータに入力するために有線方式を採用したが、無線方式を採用してもよい。電波を使用する場合でも、赤外線を使用する場合でも、マイクアンプ22の出力信号を電波や赤外線に重畳(変調)して送信するようにすればよい。当然、電波を使用する場合にはRFトランシーバが必要で、赤外線を使用する場合には、IR送受光器が必要である。このような無線化ができれば、看護士など運動の激しい作業場面での計測に特に有利になる。
また、上述の実施例では、コンデンサマイクロフォンを内蔵したNAMマイクロフォン10を用いた。しかしながら、たとえば、ボイスコイル式のマイクロフォン、圧電(ピエゾ)式のマイクロフォンなど他の種類の機械‐電気変換マイクロフォンが用いられてもよい。ただし、コンデンサマイクロフォンを用いる場合には、コンデンサマイクロフォンは小型化できかつ高感度であるので、被験者の装着の負担を最小にできるし、心拍および呼吸情報抽出装置を全体として小型で高感度のものにできるという利点がある。
さらに、実施例では、第1抽出手段は100Hz以下(第1所定周波数以下)の周波数成分を通過するフィルタを含み、第2抽出手段は150Hz以上(第2所定周波数以上)の周波数成分を通過するフィルタを含むものとした。第1所定周波数と第2所定周波数は基本的には異なるが同じかあるいは近時していてもよく、さらには、これらのフィルタのフィルタ特性(周波数帯域を含む)は、この装置を適用する各個人について、各個人の状態やデータに合わせて適応的に変更することができる。
図1はこの発明の一実施例においてNAMマイクロフォンを装着した状態を、参照のための他のセンサの装着状態とともに示す図解図である。 図2は図1の実施例に使用するNAMマイクロフォンの一例を示す断面図解図である。 図3は図1の実施例に使用するNAMマイクロフォンの他の例を示す断面図解図である。 図4は図1のNAMマイクロフォンや各種センサからのデータを示し、上段から順に、呼吸、心電図、h−NAM、c−NAM、脈波の波形である。 図5は図4の各データをR波ピークをトリガとした重畳表示した波形であり、上段から順に、心電図、h−NAM、c−NAM、脈波の波形を示す。 図6は図5の波形の加算平均波形であり、上段から順に、心電図、h−NAM、c−NAM、脈波の波形を示す。 図7は被験者の特定の1人についてR波ピークをトリガにした重畳波形であり、上段より心電図、h−NAM、c−NAM、脈波を示す。 図8は図7の波形の加算平均波形であり、上段より心電図、h−NAM、c−NAM、脈波を示す。 図9は周波数解析の結果の一例を示す波形であり、上から順に、呼吸曲線、c−NAM、c−NAMの150Hz以上の成分、これに対するスペクトラム、c−NAMの50−100Hz帯域成分、c−NAMの150−250Hz帯域成分、c−NAMの400−500Hz帯域成分を示す。 図10はこの実施例の構成を示すブロック図である。 図11はこの発明の他の実施例を示すブロック図である。 図12はこの発明のさらに他の実施例を示すブロック図である。 図13はこの発明のその他の実施例を示すブロック図である。
符号の説明
10 …NAMマイクロフォン
12 …装着部
14 …コンデンサマイクロフォン
16 …電極
22 …マイクアンプ
24 …第1帯域通過フィルタ(BPF1)
26a …第2帯域通過フィルタ(BPF2)
26b …第3帯域通過フィルタ(BPF3)
28 …信号処理回路
30 …スペクトルアナライザ
34 …レベル検知器
36 …スイッチ
38 …A/D変換器
40 …コンピュータ

Claims (5)

  1. 被験者の所定部位の体表面上に、軟弾性材料を介して、装着される機械‐電気変換マイクロフォン、
    前記機械‐電気変換マイクロフォンの出力信号を増幅するマイクアンプ、
    前記マイクアンプの出力信号から心拍情報を抽出する第1抽出手段、および
    前記マイクアンプの出力信号から呼吸情報を抽出する第2抽出手段を備え
    前記機械‐電気変換マイクロフォンの出力レベルが所定以上のとき前記第1抽出手段および前記第2抽出手段を不能動化する、心拍および呼吸情報の収集装置。
  2. 前記第1抽出手段は第1所定周波数以下の信号成分を通過する第1フィルタを含む、請求項1記載の心拍および呼吸情報の収集装置。
  3. 前記第2抽出手段は第2所定周波数以上の信号成分を通過する第2フィルタを含む、請求項1または2記載の心拍および呼吸情報の収集装置。
  4. 前記機械‐電気変換マイクロフォンはコンデンサマイクロフォンである、請求項1ないしのいずれかに記載の心拍および呼吸情報収集装置。
  5. 前記軟弾性材料は、被験者の体表面における音響インピーダンスと等しいかほぼ等しい音響インピーダンスを有する材料である、請求項1ないしのいずれかに記載の心拍および呼吸情報収集装置。
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