JP4492915B2 - 食品の状態のモニター法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品中の酵素活性を指標として、食品の状態、特に「食品の加熱処理の程度」「食品の殺菌処理の程度」または「食品の鮮度」をモニターする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食品加工業、飲食品サービス業の現場では、調理や殺菌を目的とする食品の加熱処理が的確に行われることが重要である。食品を扱う分野においては、食品の品質および衛生を管理する上で、食品の状態、特に「食品の加熱処理の程度」「食品の殺菌処理の程度」または「食品の鮮度」を適切にモニターする方法の確立が強く求められている。
【0003】
従来、熱センサー等の機械を用いて食品の加熱処理の程度や殺菌処理の程度をモニターする方法は公知である。熱センサーを用いる場合、食品の加熱処理後には、モニター結果を再確認できないという問題がある。
【0004】
また、食品の状態を、食品に含まれる酵素活性を指標としてモニターする方法も公知である。これは、食品の処理(例えば、加熱処理、殺菌処理、鮮度の変化)に応じて食品中の酵素活性が変化する原理を利用している。しかしながら、酵素活性を指標とする高感度なモニター法およびそのための試薬はほとんど知られていないため、実用的にはこれまで特定の分野に限られていた。例えば、牛乳の低温殺菌(62℃30分)を、フォスファターゼ活性を指標としてモニターする方法が公知である。また、牛乳の低温殺菌の程度を、γ-グルタミルトランスフェラーゼ活性を指標としてモニターする方法(dos Anjos F, et al., J. Food Prot. 61, 1057-1059 (1998))や、複数の固形食品材料を加熱殺菌する条件を決定する際のモデル中に、加熱指標としてα−アミラーゼ活性を含有させ、その活性をモニターする方法も公知である(特開2002-125641)。
さらに、アップルサイダー中の大腸菌O157:H7の破壊の程度を、α−アミラーゼ活性を指標としてモニターする試み(United States Department of Agriculture、アメリカ農務省、略してUSDAのホームページhttp://foodsafety.agad.purdue.edu/research/gradprojects/ChoiReport2000.shtml)も公知である。USDAは、アップルサイダー中のβ−ガラクトシダーゼ活性を発色基質であるp-nitrophenyl-galactopyranosideを用いて測定したが、β−ガラクトシダーゼ活性は検出されなかったため、β−ガラクトシダーゼ活性を指標としてアップルサイダーの殺菌の程度をモニターすることは困難であると結論づけている。
【0005】
加熱等の処理条件あるいは食品の種類によっては、上述のフォスファターゼやγ-グルタミルトランスフェラーゼやα−アミラーゼでは、食品の状態を適切にモニターできない場合も考えられる。すなわち、上記酵素の酵素活性が低すぎる場合、あるいは食品の処理後に酵素活性が失活しない場合である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、安定で高感度な食品の状態のモニター法およびそのための試薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題について種々検討した結果、ルシフェリンガラクトシドとルシフェラーゼを含む試薬を用いて食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を高感度に測定することにより食品の処理の状態をモニターすることに成功し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、下記の方法および試薬を提供するものである。
1.以下の2工程を含む食品の状態のモニター法。
(1)食品またはその抽出物と、β−ガラクトシダーゼの基質とを接触させる第1工程
(2)第1工程により生じた反応生成物の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する第2工程
2.β−ガラクトシダーゼの基質が、ルシフェリン誘導体である、上記1.記載のモニター法。
3.以下の2工程を含む食品の状態のモニター法。
(3)食品またはその抽出物、ルシフェリンガラクトシド、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを接触させる第1工程
(4)第1工程により生じた発光の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する第2工程
4.食品の状態が、「食品の加熱処理の程度」または「食品の殺菌処理の程度」または「食品の鮮度」である上記1.〜3.のいずれかに記載のモニター法。
5.以下の2工程を含む食品の状態のモニター法。
(5)食品またはその抽出物、ルシフェリン誘導体、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを接触させる第1工程。該ルシフェリン誘導体は、食品中の酵素の作用によりルシフェリンとなり得る構造を有する。
(6)第1工程により生じた発光の検出により、該食品中の酵素活性を測定する第2工程
6.ルシフェリン誘導体、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを含むことを特徴とする、食品の状態のモニター用試薬。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.本発明のモニター法
本発明は、以下の2工程を含む食品の状態のモニター法に関する。
(1)食品またはその抽出物と、β−ガラクトシダーゼの基質とを接触させる第1工程。
(2)第1工程により生じた反応生成物の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する第2工程。
第1工程では、食品に含まれるβ−ガラクトシダーゼと、該酵素の基質とが接触することにより反応生成物が生じるので、第2工程にて該反応生成物を検出する。これにより食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性が測定できる。酵素活性の測定結果を、あらかじめ作成した標準値等と比較することにより、加熱処理や殺菌処理の程度、鮮度等、食品の状態をモニターすることができる。例えば食品の加熱処理の程度をモニターする場合、加熱処理前および処理後の食品(またはその抽出物)の酵素活性を測定し、該酵素活性の変化を比較すれば、加熱処理が十分行われたか否かを判断できる。また、保存前および保存後の食品(またはその抽出物)の酵素活性を測定することにより、食品の鮮度が判断できる。
【0010】
この場合、食品とは、含有するβ−ガラクトシダーゼ活性の測定によりその状態がモニター可能なものであれば、特に限定されず、加工食品、生鮮食品のいずれであってもよい。加工食品としては、惣菜類、食用粉類、食用油脂、調味料、菓子、パン、アルコール飲料、非アルコール飲料等が挙げられる。また、生鮮食品としては野菜、果実、魚介類、生肉類、卵、牛乳等が挙げられる。
【0011】
酵素活性の測定を高感度化するため、本発明では、検体として食品の抽出物を使用してもよい。その場合、食品に1〜10倍程度の緩衝液を加えて食品中のβ−ガラクトシダーゼの抽出を行い、得られた抽出液を検体とすればよい。必要により抽出液を濾過し、上清を検体としてもよい。酵素の抽出を行う場合は、ストマッカーを使用してもよい。
β−ガラクトシダーゼの基質とは、食品中のβ−ガラクトシダーゼとの接触により、検出可能な反応生成物を生じる化合物である。本発明の基質としては、β−ガラクトシダーゼの作用により、蛍光物質を生じる基質(蛍光基質)または発色物質を生じる基質(発色基質)および発光物質(または発光反応を触媒する酵素の基質)を生じる基質(発光基質(または発光基質の誘導体))が使用できる。なお、検出感度が高い点で、蛍光基質および発光基質は優れている。
β−ガラクトシダーゼの基質の1つとしては、ルシフェリン誘導体が挙げられる。ルシフェリン(Luciferin)とは、ホタル由来の発光酵素であるルシフェラーゼが触媒する発光反応に関与する化合物である。ホタル由来のルシフェリンの化学構造を式1に示す。
式1:
【0012】
【化1】
Figure 0004492915
【0013】
ルシフェラーゼが触媒する発光反応の機構は以下の通りである。
ルシフェリン+ATP+O2+H2O → オキシルシフェリン+AMP+PPi+CO2+光
この反応には、2価金属イオン、例えばMg2+、Mn2+が必要である。また、ATPはアデノシン三リン酸、AMPはアデノシン一リン酸、PPiはピロリン酸である。なお、発光反応に関与できる限りは、式1のルシフェリンは修飾を受けていてもよい。修飾を受けたルシフェリンとは例えば、ルシフェリンの塩、エステル等である。本発明のルシフェリン誘導体は、食品に含まれるβ−ガラクトシダーゼの作用を受けて、発光反応に関与できるルシフェリンを遊離する化合物を意味する。β−ガラクトシダーゼの基質であるルシフェリン誘導体としては、式2の化学構造を有するルシフェリンガラクトシド(D-Luciferin-O-β-galactopyranoside 特開平11-332593)が挙げられる。
式2:
【0014】
【化2】
Figure 0004492915
【0015】
β−ガラクトシダーゼの基質としては、ルシフェリン誘導体以外の基質も使用できる。蛍光基質としては、4−メチルウンベリフェリルガラクトシド〔4-Methylumbelliferyl-β-D-galactopyranoside(C16H18O8) 和光純薬社製〕が使用できる。また発光基質としては、商品名Galacton〔(3-{4-Methoxyspirol[1,2-dioxetane-3,2'-tricyclodecan]-yl}phenyl-β-D-galactopyranoside、Tropix社製、van Poucke S O and Nelis H J, Appl. Environ. Microbiol. 61, 4505-4509 (1995) )が使用できる。
【0016】
4−メチルウンベリフェリルガラクトシドは、β−ガラクトシダーゼと接触すると、反応生成物として、蛍光物質である4-メチルウンベリフェロンを遊離する。4−メチルウンベリフェロンは蛍光を生じるので、蛍光検出計により蛍光強度を測定すれば、酵素活性が測定できる。
Galactonはβ−ガラクトシダーゼと接触すると、ガラクトースを遊離する。この遊離によりGalacton中のジオキセタンが不安定となり、分解される。この分解に伴って光が生じるので、発光強度を測定すれば、β−ガラクトシダーゼ活性が測定できる。
β−ガラクトシダーゼの基質であるルシフェリン誘導体がルシフェリンガラクトシドである場合、本発明のモニター法は、以下の2工程を含む。
(3)食品またはその抽出物、ルシフェリンガラクトシド、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを接触させる第1工程。
(4)第1工程により生じた発光の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する第2工程。
【0017】
第1工程において、β−ガラクトシダーゼの作用によりルシフェリンガラクトシドからルシフェリン(反応性生物)が遊離し、これがルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンと反応することにより発光が生じる。
本発明のルシフェラーゼとしては、例えばゲンジボタル、ヘイケボタル、北米ボタル等を由来とするホタルルシフェラーゼが使用できる。ルシフェラーゼとしては、上記の昆虫の発光器から精製されたものや、クローニングされたルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換え体微生物により生産されたものが使用できる。また、ルシフェラーゼは、天然型ルシフェラーゼに限定されず、アミノ酸配列に変異を有する変異型ルシフェラーゼや修飾ルシフェラーゼであってもよい。修飾ルシフェラーゼとは、例えば生理活性物質、具体的には、ビオチン、ホルモン、レセプター、抗体、ハプテン、酵素、核酸、補酵素等と結合したルシフェラーゼである。2価金属イオンは、好ましくは、Mg2+、Mn2+等であるが、特にこれらに限定されない。
【0018】
なお、キッコーマン社製の大腸菌群検査用キット「ルシフェールCT150」には必要な成分が含まれているので、第1工程を実施する試薬として好適である。第2工程では、市販の発光測定装置(ルミノメーター)、例えばキッコーマン株式会社の「ルミテスターC-100」を用いることにより発光の検出が可能である。
本発明はまた、以下の2工程を含む食品の状態のモニター法に関する。
(5)食品またはその抽出物、ルシフェリン誘導体、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを接触させる第1工程。該ルシフェリン誘導体は、食品中の酵素の作用によりルシフェリンとなり得る構造を有する。
(6)第1工程により生じた発光の検出により、該食品中の酵素活性を測定する第2工程
ここで、ルシフェリン誘導体とは、食品に含まれる任意の酵素の作用によりルシフェリンとなり得る構造を有する。つまり、ルシフェリン誘導体は任意の酵素の基質であればよい。ルシフェリンとは、式1に示す化合物である。なお、発光反応に関与できる限りは、式1のルシフェリンは修飾を受けていてもよい。修飾を受けたルシフェリンとは例えば、ルシフェリンの塩、エステル等である。
【0019】
第1工程において、酵素の作用によりルシフェリン誘導体からルシフェリンが遊離し、これがルシフェラーゼ、ATPおよびマグネシウムイオンと反応することにより発光が生じる。第2工程で発光を検出することにより該食品中の酵素活性が測定できるのでこれを指標として、食品の状態を判断すればよい。
【0020】
ルシフェリン誘導体がルシフェリンメチルエステル(特表昭63−501571)である場合、エステラーゼが作用することによりルシフェリンが生じるので、該酵素の活性を指標として食品の状態のモニターが可能となる。
【0021】
また、ルシフェリン誘導体がルシフェリンフェニルアラニン(特表昭63−501571)である場合、カルボキシペプチダーゼAが作用してルシフェリンが生じるので、該酵素の活性を指標として食品の状態のモニターが可能となる。
2.本発明の試薬
本発明はまた、ルシフェリン誘導体、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを含むことを特徴とする、食品の状態のモニター用試薬に関する。上記の4成分は全て混合されていてもよい。また、適当な組み合わせにより、1〜3成分が混合されていてもよい。本発明の試薬には、さらに保存剤、緩衝剤、酵素の抽出剤等が含まれていてもよい。
【0022】
ルシフェリン誘導体は、検体となる食品に含まれる任意の酵素の作用によりルシフェリンとなり得る構造を有する化合物である。酵素がβ−ガラクトシダーゼである場合は、例えば、ルシフェリンガラクトシドである。また、酵素がエステラーゼの場合は、例えばルシフェリンメチルエステルである。さらに、酵素がカルボキシペプチダーゼAである場合は、例えばルシフェリンフェニルアラニンである。
ルシフェラーゼは、昆虫ホタルの発光器から精製されたものや、クローニングされたルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換え体微生物により生産されたものが使用できる。ルシフェラーゼ遺伝子としては、ホタル由来の野生型および酵素の耐熱性等を改良するために変異が導入された変異型遺伝子が使用できる。金属イオンは好ましくは、Mg2+、Mn2+である。
【0023】
なお、本発明の方法または試薬においては、ルシフェリンとルシフェラーゼが関与する発光反応を増強あるいは長時間化させる技術を組み合わせてもよい。そのような技術を以下に例示する。
発光反応系に、CoAやDTT等のチオール試薬を添加する方法(特表平6-500921、US5283179、US5650189、US5641641)、ピロリン酸を添加する方法(US4246340、Arch. Biochem. Biophys.46、399〜416、1953)、チオール試薬とBSAを共存させる方法(特表平6-500921)、ピルベートオルトホスフェートジキナーゼを添加する方法(特開平9-234099、特開平11-69994)、ルシフェリンを再生する能力を持つタンパク質を添加する方法(特開2001-103972)。これらの技術との組み合わせにより、食品中の酵素活性が低い場合でも、高感度な測定が可能となる。
【0024】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例によりなんら限定されるものではない。
〔実施例1〕
全卵の加熱処理前後のβ−ガラクトシダーゼ活性とフォスファターゼ活性の測定:
本発明のモニター用試薬として、大腸菌群検査用キット「ルシフェールCT150」(キッコーマン社製)を使用した。該キットには、ルシフェリンガラクトシド、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンが含まれている。該キットの成分がβ−ガラクトシダーゼと接触するとルシフェリンが遊離し、発光が生じる。該キットを用いることにより、β−ガラクトシダーゼ活性を指標とする、食品の状態のモニターが可能となる。
【0025】
一方、対照の試薬として、フォスファターゼ活性測定用試薬「CDP-Star, ready-to-use」(Roche社製)を用いた。対照の試薬であるCDP-Starがフォスファターゼと接触するとリン酸が遊離する。この反応によりCDP-Star中のジオキセタンが不安定となり分解する。ジオキセタンの分解に伴って発光反応が生じる。
活性測定の約30分前に、「ルシフェールCT150」に含まれている検出試薬CT150を検出試薬CT150溶解液にて溶解し、200 μLずつを測定用チューブのルミチューブS(キッコーマン社製)に分注し、室温にて放置した。
同様に、活性測定の約30分前に、「CDP-Star, ready-to-use」を、200μLずつルミチューブSに分注して室温にて放置した。
【0026】
食品、添加物等の規格基準(厚生労働省)によると、鶏の液卵をバッチ式で加熱殺菌する場合は、全卵では58℃にて10分間以上殺菌することと規定されている。そこで、市販の鶏の卵1個分をビーカーに入れ、スターラーで混合して全卵を調製した。500 μLずつをマイクロチューブ4本に移し、そのうち1本は氷中で保存(加熱処理前の検体)し、残りの3本は58℃のウオーターバス中にて保温した。ウオーターバスに保温したマイクロチューブは、5分、10分、15分後に取り出し、氷中に移して冷却した。検体の流動性を高めて、活性測定時のサンプリング量の誤差を少なくするために、各検体に等量のリン酸緩衝生理食塩水を加えて混合した。
【0027】
加熱処理前後の検体からそれぞれ5μLを、上記のβ−ガラクトシダーゼ活性測定用試薬を分注したルミチューブSと、フォスファターゼ活性測定用試薬を分注したルミチューブSに添加し、混合後、室温にて10分間放置した。放置後、それぞれのルミチューブSを発光検出器ルミテスターC-100(キッコーマン社製)に装着し、発光量(単位はRLU)を測定した。
【0028】
結果は表1に記した。酵素の相対活性は以下の式で計算した。
(加熱処理後の検体の測定値−試薬のみの値)/(加熱処理前の検体の測定値−試薬のみの値)
全卵をバッチ式にて58℃で10分間処理した場合(食品、添加物等の規格基準に沿った方法)は、残存のβ−ガラクトシダーゼ活性は16%に減少したが、フォスファターゼ活性は87%も残存していた。すなわち、全卵の加熱処理が行われたかどうかをβ−ガラクトシダーゼ活性の減少で明確にモニターすることが可能であった。一方、フォスファターゼ活性の減少は13%と僅かであり、この減少を測定誤差と明確に区別するのは困難である。よってフォスファターゼ活性により全卵の加熱処理を明確にモニターすることは困難であると考えられた。
以上より、全卵の加熱処理の程度をモニターする場合、本発明の方法(ルシフェリンガラクトシドとルシフェラーゼの反応系を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する方法)は、既存の方法(CDP-Starによりフォスファターゼ活性をモニターする方法)に比べて優れていると考えられた。
【0029】
【表1】
Figure 0004492915
【0030】
〔実施例2〕
白菜の加熱処理前後のβ−ガラクトシダーゼ活性とフォスファターゼ活性の測定:
本発明のモニター用試薬(β−ガラクトシダーゼ活性測定用)、および対照の試薬(フォスファターゼ活性測定用)を、実施例1と同様に調製した。
【0031】
ストマッカー袋に白菜25 gを計り取り、リン酸緩衝生理食塩水225 mLを添加し、2分間のストマッカー処理を行った。上清500μLずつを4本のマイクロチューブに移し、そのうち1本は氷中で保温(加熱処理前の検体)し、残りの3本は55℃のウオーターバス中にて保温した。ウオーターバスに保温したマイクロチューブは、5分、10分、20分後に取り出し、氷中に移して冷却した。
【0032】
加熱処理前後の検体からそれぞれ5μLを、上記の本発明のモニター用試薬または対照の試薬を分注したルミチューブSとフォスファターゼ試薬を分注したルミチューブSに添加し、混合後、室温にて10分間放置した。放置後、それぞれのルミチューブSを発光検出器ルミテスターC-100(キッコーマン社製)に装着し、発光量(単位はRLU)を測定した。
【0033】
結果は表2に記した。酵素の相対活性は以下の式で計算した。
(加熱処理後の検体の測定値−試薬のみの値)/(加熱処理前の検体の測定値−試薬のみの値)
白菜を55℃で5-20分間処理した場合は、残存のβ−ガラクトシダーゼ活性の減少は明らかであった。一方、フォスファターゼ活性は、加熱処理前の活性が低く、加熱処理後の活性の変化は認められなかった。
以上より、白菜の加熱処理の程度をモニターする場合、本発明の方法(ルシフェリンガラクトシドとルシフェラーゼの反応系を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する方法)は、既存の方法(CDP-Starによりフォスファターゼ活性をモニターする方法)に比べて優れていると考えられた。
【0034】
【表2】
Figure 0004492915
【0035】
【発明の効果】
実施例1,2では、β−ガラクトシダーゼ活性を指標として、食品の加熱処理の程度をモニターする方法の優位性が示された。また、実施例では、ルシフェリン誘導体と発光反応の系を用いて食品中の酵素を測定することにより、食品の加熱処理の程度が確実にモニターできることが示された。
特に、酵素活性を、ルシフェリン誘導体とルシフェラーゼが関与する発光反応により測定する方法は高感度化が可能である。このため、発色法や蛍光法では測定できなかった食品中の微量の酵素活性を測定することができる。
【0036】
本発明は、特に「食品の加熱処理の程度」「食品の殺菌処理の程度」または「食品の鮮度」をモニターする方法として有用である。

Claims (4)

  1. 以下の2工程を含む、「食品の加熱処理の程度」のモニター法。
    (1)食品またはその抽出物と、β−ガラクトシダーゼの基質となるルシフェリン誘導体とを接触させる第1工程
    (2)第1工程により生じた反応生成物の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する第2工程
  2. 以下の2工程を含む、「食品の加熱処理の程度」のモニター法。
    (3)食品またはその抽出物、ルシフェリンガラクトシド、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを接触させる第1工程
    (4)第1工程により生じた発光の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定する第2工程
  3. 以下の2工程を含む、「食品の加熱処理の程度」のモニター法。
    (5)食品またはその抽出物、β−ガラクトシダーゼの基質となるルシフェリン誘導体、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを接触させる第1工程であり、該ルシフェリン誘導体が、食品中の酵素の作用によりルシフェリンとなり得る構造を有する
    (6)第1工程により生じた発光の検出により、該食品中のβ−ガラクトシダーゼ酵素活性を測定する第2工程
  4. 請求項1〜3のいずれか1項記載のモニター法に使用され、β−ガラクトシダーゼの基質となるルシフェリン誘導体、ルシフェラーゼ、ATPおよび金属イオンを含むことを特徴とする、「食品の加熱処理の程度」のモニター用試薬。
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