JP4488893B2 - 疎水性maldiプレート - Google Patents

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Description

(発明の背景)
本発明は、マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法の分析において有用なプレート、ならびにこのプレートを作製および使用するためのプロセスに関する。より詳細には、本発明は、疎水性表面を有するMALDIプレート、ならびにこのプレートを作製および使用するためのプロセスに関する。
大きな分子(例えば、DNA、ペプチド、タンパク質および他の生体分子)の分析については、MALDIイオン化を用いた質量分析法が標準的な方法である。大部分の部分では、時間飛行型質量分析計(TOF−MS)がこの目的のために用いられるが、イオンサイクロトロン共鳴分光器またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)質量分析計ならびに高周波数四重極イオントラップ分光計、およびハイブリッド四重極飛行時間型質量分析計(Q−TOF)が、これらの適用に全て適用可能である。通常、生体分子は、水溶液中に存在するが、これらの重要な構築ブロックが、種々のレベルの有機溶媒(例えば、アセトニトリル)を含む溶液中に溶解することは珍しくない(特に、逆相クロマトグラフィーが、これらの分子の複雑な混合物の単離および分画のために用いられる場合)。分子が分析されるべきである、大きいかまたは高分子量の物質(生体物質、および上記の生体分子が挙げられる)は、しばしば、「分析物」といわれる。
用語生体分子または生体物質は、本明細書では、オリゴヌクレオチド、ペプチドおよびタンパク質(すなわち、生物界の必須の構築ブロック)(それらの特定のアナログおよび結合体(例えば、糖タンパク質またはリポタンパク質)が挙げられる)を示す。質量分析のための調製では、分析物は、当業者に公知の種々の方法によって、生物学的供給源(生物学的流体(例えば、尿、胆汁または粘液など)、組織、器官、細胞株などが挙げられる)から単離される。通常、細胞溶解が、実施され、可溶性画分および不溶性画分が遠心分離によって単離される。しばしば、可溶性タンパク質画分は、さらなる操作を行わずに用いられ得る。しかし、このような複雑な混合物を、分離技術によるタンパク質ファミリーもしくは複合体の特異的単離(例えば、免疫沈降)、またはイムノアフィニティークロマトグラフィー、一次元もしくは二次元のゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーもしくはこれらの技術のうちの2以上の組み合わせを含め、種々の方法によって分画することが有用であり得る。タンパク質が単離される場合、これらは、直接的に、または化学的試薬もしくは酵素試薬(例えば、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、リジンエンドペプチダーゼ、グルタミン酸エンドペプチダーゼ、ペプシンまたは任意の他の適切なタンパク質切断試薬)での消化後に、分析され得る。ペプチドフラグメントが生成される場合、これらは、当業者によって単離および分画され得る。手短には、種々の形態のクロマトグラフィー(例えば、逆相クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィーおよび/またはカチオン交換クロマトグラフィー、親水性クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、置換クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動)または2以上の形態の組み合わせが、複雑なペプチド混合物を単離および分画するために用いられ得る。分析物(ペプチドおよび/またはタンパク質の混合物)およびマトリクス溶液は、MALDIを用いた質量分析のための調製において、導電性材料(例えば、ステンレス鋼)から通常作製されたサンプルプレート上に沈積される。
MALDI質量分析法(MALDI MS)の分析のためのマトリクス物質の選択は、分析される生体分子の種類に依存し、当該分野において過去数年間で100種より多くの異なるマトリクス物質が公知になっている。マトリクス物質の仕事は、サンプル分子を互いから分離すること、これらをサンプル支持体プレートへと結合すること、生体分子を破壊することなく蒸気雲を形成することによってレーザーボンバードメントの間にこれらを気相へと変換すること、およびプロトン化または脱プロトン化によってサンプル分子を最終的にイオン化することである。分析物分子を、結晶化の間に通常結晶性のマトリクス物質中にまたは小さな結晶の間の少なくとも境界表面に、何らかの形態で取り込むことが有利であると見出されている。
サンプルおよびマトリクスをサンプルプレートへと適用するための種々の方法が公知である。これらのうちの最も単純な方法は、サンプルおよびマトリクスを含む溶液の小滴を、清浄な金属(例えば、ステンレス鋼)サンプル支持体プレート上にピペッティングする工程を包含する。この小滴は、金属表面上の領域を湿らせ、そのサイズは、小滴の直径にほぼ対応し、そして金属表面の疎水性特性および小滴の特性に依存する。溶液が乾燥した後、このサンプルスポットは、その前は湿っていた領域上に広がった小さなマトリクス結晶からなり、それにより、一般的に、以前に湿っていた領域の均質なコーティングは存在しない。水溶液中では、マトリクスの小さな結晶の大部分は、一般に、金属プレート上の湿った領域の周縁部において成長し始め、湿った領域の内側に向かって成長する。
高速のサンプルプロセシングにおいてサンプルを移動および沈積させるためにロボット工学を利用するハイスループットMALDI MS分析では、プロセシングにおいて用いられるサンプルプレートが、測定されたデータの改善された信頼性を提供するように、プレートに基づくことによりプレート上に均質な表面を有することが重要である。ハイスループットプロセシングおよび自動化データ収集については、固定された容積についての沈積されるサンプルのフットプリント面積が、均質で、小さく、かつ予想可能であることもまた重要である。サンプルプレート上に疎水性表面を提供することにより、非疎水性表面を有する金属サンプルプレートと比較して、より小さな面積およびより大きな容積を有するサンプルを沈積させることが可能である。さらに、この疎水性表面は、表面に及ぶ液体の広がりをかなり最少にし、従って、分析物サンプルの相互汚染を回避する。しかし、このプレート表面は、沈積される液体サンプルの接触角が非常に高くなって、そのことにより、沈積されるサンプルのフットプリント面積を減少させるほどには疎水性でないべきである。このような面積の減少は、望ましくない。なぜなら、サンプルを蒸発させるためにその後で使用されるレーザーが、自動化操作の間にサンプルではなく、サンプルプレートに当たる可能性が高くなるからである。特にタンデム質量分析法(MS/MS)プロセスにおいて、これは望ましくない。タンデム質量分析法(MS/MS)プロセスは、比較的大きなサンプルを必要とし、次いで、10,000〜100,000またはより多くのサンプルの、レーザーへの曝露(ショット)を必要とする。
米国特許6,287,872において、サンプルプレート(通常、ステンレス鋼製)をフッ化ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標))の疎水性コーティングでコーティングすることが提唱されている。このコーティングは、サンプルおよびマトリクスの沈積に関して高度に再現性のある表面を提供するが、このようなポリマーコーティングは、特定の欠点を示す。このフッ化ポリマーコーティングが、このサンプルのレーザーへの曝露の開始の本質的に最初から蒸発し、それにより、中性雲(これは、迅速な様式で、MALDI分析において用いられる質量分析計のイオン光学素子上に沈積される)が作製されることが見出されている。質量分析計のこの汚染により、質量分析計が不安定になることを生じ、そして性能を維持するためには、機器オプティクスの絶え間ない再同調が必要とされる。最終的に、質量分析計のイオン光学素子のこのような迅速なコーティングは、この機器のクリーニングによってのみ性能を回復させ得るレベルまで、質量分析計の有効性を低下させる。さらに、これらのコーティングは比較的厚く、それゆえ、均質ではない。さらに、このフッ化ポリマーコーティングは、MALDIプロセスにおける反復使用にわたってさらにより不均質な結果を生じるような良好な条件下では、サンプルプレートから除去可能でない。
Hungらは、金属プローブ上に適用されて、サンプルプローブチップに疎水性表面を提供する、パラフィンろうフィルム(Parafilmと呼ばれる)の使用を提唱した(Anal.Chem.,1998,第70巻,N:14,3088−3093頁)。このParafilmは、その厚さを薄くするようにまずストレッチされ、非一体型の層をこのプローブチップの表面に形成するように、接着剤を使用することなく、金属プローブチップに結合された。Hungらによって開示されるように、サンプル毎のピーク位置のバリエーションが観察された。このバリエーションは、平坦でないコーティング表面レベルによって引き起こされ得る。不均一性は、主に、伸ばしたParafilmを用いて得られるコーティングが、Parafilmの非一体型結合によって化合される表面の均一性の制御を許容するには厚すぎることに起因する。均質なサンプル表面を提供することは、サンプルプレートの信頼性のある再使用を可能にする重要なパラメータである。
従って、MALDI MSプロセスにおいて使用するためのサンプルプレートを提供することが望ましく、このプレートは、プレート毎に再現性のある、均質で、容易に除去可能な疎水性表面を有する。このようなサンプルプレートは、このプレートが何回も再使用され得る反復様式において、プレート上でのサンプルの正確な配置を許容する。さらに、このコーティングは、安定であり、イオン化プロセスによって揮発せず、それにより、器具の汚染に対するその寄与を制限する。
(発明の要旨)
本発明の1つの局面では、物質(例えば、合成ろう(例えば、パラフィンろう)、自然のろう(例えば、蜜蝋)、脂質、エステル、有機酸、ケイ素オイル、またはシリカポリマー)の一体型の、容易に除去可能な疎水性コーティングを有する、MALDIサンプルプレートが提供される。この前記の物質は、純粋な化合物として、または互いに混合されてもしくは市販の化学的組成物(例えば、金属艶出しペーストまたは植物油)の一部としてのいずれかで、サンプルプレートに適用される。1つの実施形態では、金属艶出し剤の適用は、サンプルプレートの表面疎水性を作製および回復するために有効である。
疎水性コーティングは、約5nmと約50nmとの間の厚さを有する薄いフィルム(または単層)であり、このフィルムは、溶液(液相)またはペースト(固相)の一部として適用され得る。1つの実施形態では、このコーティングは、このプレートを、疎水性コーティングを含む溶液または物質でコーティングし、その後、このコーティングが溶解した溶液の溶媒を蒸発させ、それにより、このプレート上に疎水性コーティングを再現性高く形成させることにより、このプレート上に完全に形成される。このサンプルプレートを調製するための選択方法は、意図されるサンプル分析適用に依存する。多くのサンプルについて、そして低体積スポッティング適用について、金属艶出し剤をサンプルプレートに適用することから得られるような中程度に疎水性表面が最適である。サンプルプレート上に1μlより多くのサンプルが沈積されることが必要な適用については、金属基板の表面を物質(例えば、ろう(例えば、パラフィンろう)、脂質、エステル、有機酸、ケイ素オイルまたはシリカポリマー)でコーティングすることにより、最も信頼性のあるサンプル沈積が提供される。
次いで、疎水性にコーティングされたプレートは、例えば、このサンプルが複数ショット(例えば、10,000ショット〜100,000ショットまたはそれより多く)に曝露されるMALDIプロセスにおいて、質量分析法によって分析されるべきサンプルを支持するために利用される。次いで、このサンプルプレートは、MALDI装置から取り出され、コーティングが可溶化される溶媒と接触させてコーティングを除去して、このプレートから分析されるサンプルおよびマトリクスをクリーニングし、乾燥され、そして上記の様式で、新たなコーティングで再度コーティングされる。この再度コーティングされたサンプルプレートは、以前のコーティングと実質的に同じ特性を有する均質なコーティングを有し、従って、このプレートは、MALDI装置において再使用されて、測定値を提供し得る。この測定値は、以前の測定値またはその後の測定値と比較して、歪んでいない。
(特定の実施形態の説明)
本発明の1つの実施形態によれば、取り外し可能なミクロン以下の厚さのパラフィン層で完全にコーティングされた導電性基板を有する、MALDI MSプロセス用のサンプルプレートが提供される。「完全にコーティングされた」(または「完全に結合した」または「一体型の」)により、本発明者らは、種々の力の相互作用(例えば、疎水性相互作用、イオン相互作用、ファンデルワールス力など)によって作製された、基板上の薄い(1ミクロン以下の厚さ)の物理的コーティングであって、基板からインタクトに分離も引き剥がしもできず、むしろ、このコーティングは、化学的処理(例えば、溶媒の使用による)または機械的(剥離)処理によって取り外し可能である、物理的コーティングを意味する。パラフィン溶液は、基板(例えば、ステンレス鋼製サンプルプレート)の表面に、噴霧、浸漬などにより適用される。次いで、この溶液の溶媒は、適切な条件下で蒸発されて、この表面に完全に結合した、パラフィンの薄い均質なコーティングが残される。
本発明の1つの実施形態では、例えば、石油エーテル、灯油(石油)、ココヤシ(coco)脂肪酸ジエタノールアミン、酸化アルミニウム、アンモニア溶液および水を含む、組成物を有する、取り外し可能なミクロン以下の厚さの金属艶出し剤層で完全にコーティングされた導電性基板を有する、MALDI MSプロセス用サンプルプレートが提供される。このサンプルプレートは、適切な界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)で洗浄され、水でリンスされ、そして金属艶出し剤のスミアー(smear)を用いて艶出しされる。このプレートは、光って、新しいくずのないティッシュ上に残存物が沈積していないようになるまで艶出しされる。続いて、このプレートは、イソプロパノールでリンスされ、乾燥され、そしてサンプル沈積およびMALDI MS分析の使用準備ができている。
本発明の1つの実施形態では、取り外し可能なミクロン以下の厚さの脂質層(この脂肪酸は、例えば、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリド、または特定の官能基(例えば、リン酸基またはアミン基もしくはアミド基)を有する、有機酸もしくは有機酸誘導体である)で完全にコーティングされた導電性基板を有する、MALDI MSプロセス用サンプルプレートが提供される。このサンプルプレートは、適切な界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)で洗浄され、水でリンスされ、そして適切な溶媒(例えば、アルカン、アルコールなど)中の脂質溶液で拭われるかまたは脂質溶液中に浸漬される。このプレートは、このプレート上に何の曇りも残存物も観察されなくなるまで光るように艶出しされ、そしてサンプル沈積およびMALDI MS分析の使用準備ができている。
本発明の1つの実施形態では、取り外し可能なミクロン以下の厚さの有機酸層(この有機酸は、C2〜C30の鎖長を有し、そして種々の官能基(例えば、アミン、アルコール、ハロゲン基など)を保有し得る)で完全にコーティングされた導電性基板を有する、MALDI MSプロセス用サンプルプレートが提供される。このサンプルプレートは、適切な界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)で洗浄され、水でリンスされ、そして適切な溶媒(例えば、アルカン、アルコールなど)中の有機酸溶液で拭われるかまたは有機酸溶液中に浸漬される。このプレートは、このプレート上に何の曇りも残存物も観察されなくなるまで光るように艶出しされ、そしてサンプル沈積およびMALDI MS分析の使用準備ができている。
本発明の1つの実施形態では、取り外し可能なミクロン以下の厚さのエステル層で完全にコーティングされた導電性基板を有する、MALDI MSプロセス用サンプルプレートが提供される。C2〜C30の鎖長の有機酸と、C2〜C30のアルコールなどとの間の縮合生成物は、本発明のMALDIプレートについての疎水性表面を提供するエステルである。このサンプルプレートは、適切な界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)で洗浄され、水で洗浄され、そして適切な溶媒(例えば、アルカン、アルコールなど)中の脂質溶液で拭われるかまたは脂質溶液中に浸漬される。このプレートは、このプレート上に何の曇りも残存物も観察されなくなるまで光るように艶出しされ、そしてサンプル沈積およびMALDI MS分析の使用準備ができている。
本発明の1つの実施形態では、取り外し可能なミクロン以下の厚さのケイ素含有化合物層(例えば、ケイ素オイル、真空グリースなど)で完全にコーティングされた導電性基板を有する、MALDI MSプロセス用サンプルプレートが提供される。このサンプルプレートは、適切な界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)で洗浄され、水でリンスされ、そして適切な溶媒(例えば、ヘキサン、イソプロパノールなど)中にあるケイ素含有化合物溶液で拭われるかまたはこの溶液中に浸漬される。適切な溶媒中のケイ素含有化合物の1〜10%溶液は、本発明のサンプルプレートの疎水性表面を提供する。このプレートは、このプレート上に何の曇りも残存物も観察されなくなるまで光るように艶出しされる。続いて、このプレートは、イソプロパノールでリンスされ、乾燥され、そしてサンプル沈積およびMALDI MS分析の使用準備ができている。
薄いフィルム疎水性コーティングの導電率は、表面における表面電荷の散逸および蓄積した静電荷の回避を許容するに充分に高い。その結果、コーティングされたサンプルプレートは、MSおよびMS/MS分析プロセスの両方について、標準的な未処理の金属MALDIプレートについて観察されるのと同じ、レーザーショット数に対するシグナル安定性および同じ解像度を示す。基板表面と比較したときにより高い、このコーティングの疎水性に起因して、より疎水性の低い基板表面を有する通常のサンプルプレートに適用され得るスポット数と比較して、より多くの液体スポットがこのコーティングされたサンプルプレートに適用され得るという点で、液体の操作が改善される。
最良の結果に関して、適用されるコーティングは、本質的に単層である、薄いフィルムであるべきである。パラフィンがこのコーティングとして用いられる場合、約5nmと50nmとの間の範囲の厚さが好ましい;脂質が用いられる場合、約5nmと50nmとの間の厚さが同様に好ましい。
疎水性コーティングが本発明のサンプルプレート用に適用される代表的な適切な導電性基板としては、ステンレス鋼または他の適切な金属基板が挙げられる。さらに、導電特性を維持するために金属層がコーティングされた、プラスチックまたは他の非導電性材料もまた使用され得る。
パラフィンは、高分子量オレフィンの混合物を含み、そして通常、石油の蒸留画分として得られる。任意のパラフィン供給源が本発明において有用である。このパラフィン溶液は、パラフィンを溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、アセトンまたはそれらの混合物)中に、パラフィンが溶解するが過剰な溶媒蒸発を回避する温度(例えば、約20℃と約30℃との間)において溶解することにより形成される。所望の疎水性表面を作製するための溶液中のパラフィンの適切な濃度は、約0.3mg/mlと約3mg/mlとの間、好ましくは約0.4mg/mlと約1.2mg/mlとの間である。このパラフィン溶液の適用後、このプレート上の溶媒は、この溶媒が完全に蒸発して、約5nmと約50nmとの間(より好ましくは約5nmと約20nm)との間の厚さを有する薄いパラフィンフィルムが残されるまで、室温または高温(例えば、約20℃〜約100℃)のいずれかで蒸発される。コーティングされるべき基板が平滑な鏡面仕上げを有する場合、この基板表面は、パラフィンで全体的にかつ完全にコーティングされる。この得られる表面は疎水性であり、そして静電荷を散逸し得る。
疎水性の程度は一般に、適用される材料の濃度によって制御され、そして表面と液体組成物(好ましくは水)との間の接触角の測定によってチェックされ得る。図1は、金属艶出し剤2の層でコーティングされており、その上にサンプル小滴3が沈積されている、金属基板1を示す。約90°である接触角が好ましい。類似の所望の90°の接触角が、本発明の他の疎水性コーティング(例えば、パラフィン、脂質、有機酸、エステル、ケイ素オイルまたはシリカポリマー)を用いて容易に達成可能である。しかし、疎水性(それゆえ、接触角)の程度は、広範囲に変動し得る。小さい接触角(例えば、45°)は、沈積されるサンプルの、より大きなフットプリント面積を作製し、それにより、プレート上に沈積され得るスポット数を減らし、それゆえ、これは、スループットに影響を与える。一方、大きすぎる接触角(例えば、135°)は、アーティファクト(例えば、不規則なスポットパターン(例えば、三日月の形状))を作製し得、このことは、レーザーショットの配置に影響を与え得、そしてまた、相互汚染の機会を増やし得る。当業者は、過度の実験を伴うことなく、表面疎水性特性を制御して、所定の適用について、所望の表面品質を生成し得る。
パラフィンコーティングサンプルプレートを、MALDIプロセスにおける複数のレーザーショットに曝露した後、これは、再使用され得るように処理される。マトリクス/分析物結晶の主な部分は、水で容易に洗浄され得、そしてこのプレート上の残りのサンプルが、例えば、パラフィンについての溶媒(例えば、アセトン、ヘキサンなどの有機溶媒)を用いた噴霧または浸漬によって、水溶液中でコーティング自体と同時に除去され得る。残りのサンプルは、溶解したパラフィンとともに、このプレートから運ばれる。
次いで、このサンプルプレートは、上記の様式で、パラフィンを用いて再度コーティングされ得る。このプロセスは、質量分析測定値の品質に影響を与えることなく、50〜100回以上繰り返され得る。
疎水性コーティングを有するサンプルプレートはまた、市販の金属艶出し剤(例えば、構成要素(例えば、石油エーテル、灯油(石油)、ココナッツ脂肪酸ジエタノールアミン、酸化アルミニウム、アンモニア溶液および水)を含み、ブランド名POLで販売される)を用いて、便利に調製され得る。このサンプルプレートは、界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)を用いた洗浄により、および歯ブラシを用いたスクラビングにより、以前のサンプルおよびマトリクスがクリーニング除去される。このプレートは、水でリンスされ、そしてくずのないティッシュを用いて乾燥される。最少量(例えば、2.25”×2.25”のサンプルプレートについては、ほぼピンヘッドのサイズの量)の金属艶出し剤を用いて、このプレートの表面全体を完全にコーティングする。艶出し剤を乾燥させないが、このプレート全体に磨かれる新しいくずのないティッシュ上に黒い残存物が観察されなくなるまで、くずのないティッシュを用いてこのプレートを磨くことが重要である。続いて、このプレートは、イソプロパノールを用いてリンスされ、そしてこのプレート全体に空気を吹き付けることにより乾燥される。曇りが見られる場合、このプレートは、鏡面化された表面が回復するまで、新しいくずのないティッシュを用いて艶出しされる。このアプローチによってクリーニングされたプレートの表面は、質量分析の測定値の品質に影響を与えることなく、50回と100回との間またはより多くの回数、再生され得る。
当該分野で普遍的に定義されているわけではないが、脂質は、脂肪酸およびそれらの誘導体、ならびにこれらの化合物に生合成的または機能的に関連した物質を包含する。例えば、化合物(例えば、胆汁酸、トコフェロール、リン脂質、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、およびトリアシルグリセロール)は、全て、脂質として分類される。植物油および動物脂肪もまた、本発明における使用にまた適切である、脂質が豊富な混合物と考えられ得る。脂質または脂質混合物がコーティング物質として用いられる場合、このサンプルプレートは、界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)を用いた洗浄により、および歯ブラシを用いたスクラビングにより、以前のサンプルおよびマトリクスがクリーニング除去される。このプレートは、水でリンスされ、そしてくずのないティッシュを用いて乾燥される。このプレートは、次いで、適切な溶媒(例えば、アルコール、アルカンなど)中に溶解した脂質を含む溶液を用いてコーティングされる。5mg/ml〜50mg/mlの脂質濃度は、MALDI MSプロセスのために用いられる疎水性表面をプレート上に作製するために便利である。このプロセスでは、脂質の濃度は、表面の疎水性特性を決定し、より高い脂質濃度を用いると、疎水性特性の増大したプレート表面が得られる。分析物およびマトリクス溶液の1μl以下のスポッティングを必要とする適用については、10mg/ml〜20mg/mlの脂質濃度が最適である。このプレートを脂質または脂質混合物でコーティングすることは、プレート全体でのこの溶液の浸漬、噴霧、または拭き取りを包含する種々の方法によって行われ得る。後者のアプローチでは、溶媒は乾燥することが許容されず、その代わり、このプレートは、このプレートを乾燥させるために、溶媒も曇りも観察されなくなるまで、くずのないティッシュを用いて拭われる。続いて、このプレートは、イソプロパノールでリンスされ、そしてこのプレート全体に空気を吹き付けることにより乾燥される。曇りが見られる場合、このプレートは、鏡面化された表面が回復するまで、新しいくずのないティッシュを用いて艶出しされる。このアプローチによってクリーニングされるプレートの表面は、質量分析の測定値の品質に影響を与えることなく、50回と100回との間またはより多くの回数、再生され得る。
有機酸(例えば、2炭素(C2)以上であるが好ましくは30の炭素(C30)未満の鎖長を有するカルボン酸)の使用が、本発明における使用について意図される。この有機酸はまた、種々の官能基(例えば、アミン、アルコール、ハロゲンなど)を保有し得る。このサンプルプレートは、界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)を用いた洗浄により、および歯ブラシを用いたスクラビングにより、以前のサンプルおよびマトリクスがクリーニング除去される。このプレートは、水でリンスされ、そしてくずのないティッシュを用いて乾燥される。このプレートは、次に、適切な溶媒(例えば、アルコール、アルカンなど)中に溶解した有機酸を含む溶液を用いてコーティングされる。5mg/ml〜50mg/mlの有機酸濃度は、MALDI MSプロセスのために用いられる疎水性表面をプレート上に作製するために便利である。このプロセスでは、この有機酸の濃度および鎖長が、表面の疎水性特性を決定し、より高い有機酸濃度およびより長い鎖長を用いると、疎水性特性が増大したプレート表面が得られる。分析物およびマトリクス溶液の1μl以下のスポッティングを必要とする適用については、10mg/ml〜20mg/mlの有機酸濃度が最適である。このプレートをこの有機酸でコーティングすることは、プレート全体でのこの溶液の浸漬、噴霧、または拭き取りを包含する種々の方法によって行われ得る。後者のアプローチでは、溶媒は乾燥することが許容されず、その代わり、このプレートは、このプレートを乾燥させるために、溶媒も曇りも観察されなくなるまで、くずのないティッシュを用いて拭われる。続いて、このプレートは、イソプロパノールでリンスされ、そしてこのプレート全体に空気を吹き付けることにより乾燥される。曇りが見られる場合、このプレートは、鏡面化された表面が回復するまで、新しいくずのないティッシュを用いて艶出しされる。このアプローチによってクリーニングされるプレートの表面は、質量分析の測定値の品質に影響を与えることなく、50回と100回との間またはより多くの回数、再生され得る。
ケイ素含有化合物(ケイ素オイル、真空グリース、シリカポリマーなどが挙げられる)はまた、本発明のサンプルプレートのための有用な疎水性表面を提供する。このサンプルプレートは、界面活性剤(例えば、PierceからのRBS−35)を用いた洗浄により、および歯ブラシを用いたスクラビングにより、以前のサンプルおよびマトリクスがクリーニング除去される。このサンプルプレートはまた、ケイ素含有化合物が完全に溶解する溶媒を用いて洗浄される。次いで、このプレートは、くずのないティッシュを用いて乾燥され、続いて、このケイ素含有化合物を含む溶液でコーティングされる。適切な溶媒中のケイ素含有化合物の1〜10%溶液は、本発明のサンプルプレートのための有用な疎水性表面を提供する。このプレートをこの有機酸でコーティングすることは、プレート全体でのこの溶液の浸漬、噴霧、または拭き取りを包含する種々の方法によって行われ得る。後者のアプローチでは、溶媒は乾燥することが許容されず、その代わり、このプレートは、このプレートを乾燥させるために、溶媒も曇りも観察されなくなるまで、くずのないティッシュを用いて拭われる。続いて、このプレートは、イソプロパノールでリンスされ、そしてこのプレート全体に空気を吹き付けることにより乾燥される。曇りが見られる場合、このサンプルプレートは、鏡面化された表面が回復するまで、新しいくずのないティッシュを用いて艶出しされる。このアプローチによってクリーニングされるプレートの表面は、質量分析の測定値の品質に影響を与えることなく、50回と100回との間またはより多くの回数、再生され得る。
上記の説明ならびに以下に提供する実施例は、純粋な化合物の状態で本発明において使用される疎水性コーティングを形成する物質(例えば、合成ろう例えば、パラフィンろう、自然のろう(例えば、蜜蝋)、脂質、エステル、有機酸、ケイ素オイルまたはシリカポリマー)を記載する。本発明の状況において適切なコーティングを提供することが同等に意図されるのは、互いの混合物または市販の化学的組成物(例えば、艶出しペーストおよび植物油)の成分としての混合物を含めた、上記物質の各々の混合物である。必要とされるのは、疎水性表面を作製する物質の濃度が、所望の表面品質を生成するために充分であることだけである。
以下の実施例は、本発明を例示し、そして本発明を限定することを意図しない。
(実施例1)
鏡面仕上げを有するMALDI用のステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートに、50マイクロリットルのヘキサン/ヘプタン(50:50v/v)中の60マイクログラムのパラフィンを噴霧した。得られた表面は、20nmの厚さのパラフィンで均質にコーティングされていた。
0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中に100fmolのデス−Arg−ブラジキニン、アンギオテンシンI、Glu−フィブリノペプチド、および種々のACTHクリップ(1−17、18−39および7−38)を含む1μl混合物のサンプルを、このコーティングされた表面に沈積して、約90°の接触角を有する小滴を生成した。
次いで、このサンプルプレートを、Applied Biosystems,Framingham,MAから入手可能なVoyager MALDI装置中に挿入し、そしてこのサンプルを、MALDI−TOFプロセスによって分析した。この分析を、上記と同じ寸法でかつ鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製サンプルプレート上に沈積された同じ水性サンプルの分析に対して比較した。
このコーティングされていないプレートについて得られた分析を、図2Aに示す。コーティングされたプレートについて得られた分析を、図2Bに示す。図2Aおよび図2Bに示すように、全体的感度は、疎水性コーティングを用いるとずっと良好である。
(実施例2)
鏡面仕上げを有するMALDI用のステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートに、50マイクロリットルのヘキサン/ヘプタン(50:50v/v)中の60マイクログラムのパラフィンを数分で噴霧した。得られた表面は、10nmの厚さのパラフィンで均質にコーティングされていた。
0.1% TFAを含む50%アセトニトリル/水(v/v)中にβ−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物100fmolを含む1μl混合物のサンプルを、このコーティングされた表面に沈積して、約90°の接触角を有する小滴を生成した。
次いで、このサンプルプレートを、Applied Biosystems,Framingham,MAから入手可能なApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer中に挿入し、そしてこのサンプルを、MALDI−MS/MSプロセスによって、選択された消化フラグメント(1394Da)の親イオンについて分析した。この分析を、上記と同じ寸法でかつ鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製サンプルプレート上に沈積された同じ水性サンプルの分析に対して比較した。
このコーティングされていないプレートについて得られた分析を、図3Aに示す。コーティングされたプレートについて得られた分析を、図3Bに示す。図3Aおよび図3Bに示すように、疎水性コーティングは、Teflon(登録商標)でコーティングされたプレートについて通常観察されるMS/MSスペクトルの分解能にも感度にも何の有害な影響も有さなかった。
(実施例3)
鏡面仕上げを有するMALDI用のステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートを、水中のRBS−35の10%溶液を用いたこのプレートのスクラビング、水でのリンスおよびくずのないティッシュを用いた乾燥によって準備した。このプレートを、最少量(ピンヘッドのサイズのビーズ)の金属艶出し剤を用いて艶出しした。この艶出し剤は、石油エーテル、灯油(石油)、ココナッツ脂肪酸ジエタノールアミン、酸化アルミニウム、アンモニア溶液および水から構成されていた。曇りが完全に除去され、新しいくずのないティッシュ上に黒い残存物が検出されなくなったら、このプレートを、イソプロパノールで洗浄し、そしてこのプレート全体に空気を吹き付けて乾燥した。
0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中の10fmolのデス−Arg−ブラジキニン、アンギオテンシンI、Glu−フィブリノペプチド、および種々のACTHクリップ(1−17、18−39および7−38)のサンプルを、この艶出し処理された表面に沈積して、約90°の接触角を有する小滴を生成した。
次いで、このサンプルプレートを、Applied Biosystems,Framingham,MAから入手可能なApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer中に挿入した。このサンプルを、MALDI−MS/MSプロセスによって分析した。この分析によって収集したデータを、上記と同じ寸法でかつ鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製サンプルプレート上に沈積された同じ水性サンプルの分析に対して比較した。
このコーティングされていないプレートについて得られた分析を、図4Aに示す。コーティングされたプレートについて得られた分析を、図4Bに示す。図4Aおよび図4Bに示すように、艶出し処理されたサンプルプレートは、測定値の分解能にも質量の精度にも何の有害な影響も有さず、そして等価かまたはより良好な性能を示した。艶出し処理されたプレートからの化学的バックグラウンドノイズの検出可能な増加もまた存在しなかった。
(実施例4)
鏡面仕上げを有するMALDI用のステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートを、水中のRBS−35の10%溶液を用いたこのプレートのスクラビング、水でのリンスおよびくずのないティッシュを用いた乾燥によって準備した。このプレートを、最少量(ピンヘッドのサイズのビーズ)の金属艶出し剤を用いて艶出しした。この艶出し剤は、石油エーテル、灯油(石油)、ココナッツ脂肪酸ジエタノールアミン、酸化アルミニウム、アンモニア溶液および水から構成されていた。曇りが完全に除去され、新しいくずのないティッシュ上に黒い残存物が検出されなくなったら、このプレートを、イソプロパノールで洗浄し、そしてこのプレート全体に空気を吹き付けて乾燥した。
0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中にβ−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物100fmolを含む0.7μl混合物のサンプルを、この艶出し処理された表面に沈積して、約90°の接触角を有する小滴を生成した。
次いで、このサンプルプレートを、Applied Biosystems,Framingham,MAから入手可能なApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer中に挿入した。このサンプルを、MALDI−MS/MSプロセスによって、前駆体の選択された消化フラグメント(1394Da)について分析した。この分析を、上記と同じ寸法でかつ鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製サンプルプレート上に沈積された同じ水性サンプルの分析に対して比較した。
このコーティングされていないプレートについて得られた分析を、図5Aに示す。コーティングされたプレートについて得られた分析を、図5Bに示す。図5Aおよび図5Bに示すように、この艶出し処理されたサンプルプレートは、測定値の分解能にも質量の精度にも何の有害な影響も有さなかった。艶出し処理されたプレートからの化学的バックグラウンドノイズの検出可能な増加もまた存在せず、コーティングされていないプレートおよび艶出し処理されたプレートの両方から収集されたMS/MSスペクトルは、本質的に等価であり、艶出し処理されたプレートから収集されたデータにおいて検出可能な、分解能の低下も、シグナル強度の低下も、質量の精度の低下も存在せず、いくつかの場合には、より良好な性能を示した。
(実施例5)
鏡面仕上げを有するMALDI用のステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートを、水中のRBS−35の10%溶液を用いたこのプレートのスクラビング、水でのリンスおよびくずのないティッシュを用いた乾燥によって準備した。このプレートを、イソプロパノール中のトリパルミチンの10mg/ml溶液で拭った。このイソプロパノールを蒸発させ、そしてこのプレートに最終艶出し剤を与えて、サンプル沈積前にあらゆる可視の曇りを除去した。
0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中の10fmolのデス−Arg−ブラジキニン、アンギオテンシンI、Glu−フィブリノペプチド、および種々のACTHクリップ(1−17、18−39および7−38)のサンプルを、この艶出し処理された表面に沈積して、約90°の接触角を有する小滴を生成した。
次いで、このサンプルプレートを、Applied Biosystems,Framingham,MAから入手可能なApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer中に挿入し、そしてこのサンプルを、MALDI−MSプロセスによって分析した。この分析によって収集したデータを、上記と同じ寸法でかつ鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製サンプルプレート上に沈積された同じ水性サンプルの分析に対して比較した。
このコーティングされていないプレートについて得られた分析を、図6Aに示す。脂質でコーティングされたプレートについて得られた分析を、図6Bに示す。図6Aおよび図6Bに示すように、艶出し処理されたサンプルプレートは、測定値の分解能にも質量の精度にも何の有害な影響も有さず、そして等価かまたはより良好な性能を示した。脂質でコーティングされたプレートからの化学的バックグラウンドノイズの検出可能な増加もまた存在しなかった。
(実施例6)
鏡面仕上げを有するMALDI用のステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートを、水中のRBS−35の10%溶液を用いたこのプレートのスクラビング、水でのリンスおよびくずのないティッシュを用いた乾燥によって準備した。このプレートを、イソプロパノール中のトリパルミチンの10mg/ml溶液で拭った。このイソプロパノールを蒸発させ、そしてこのプレートに最終艶出し剤を与えて、サンプル沈積前にあらゆる可視の曇りを除去した。
0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中にβ−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物100fmolを含む1μl混合物のサンプルを、この艶出し処理された表面に沈積して、約90°の接触角を有する小滴を生成した。
次いで、このサンプルプレートを、Applied Biosystems,Framingham,MAから入手可能なApplied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer中に挿入した。このサンプルを、MALDI−MS/MSプロセスによって、前駆体の選択されたトリプシン消化フラグメント(1394Da)について分析した。この分析を、上記と同じ寸法でかつ鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製サンプルプレート上に沈積された同じ水性サンプルの分析に対して比較した。
このコーティングされていないプレートについて得られた分析を、図7Aに示す。コーティングされたプレートについて得られた分析を、図7Bに示す。図7Aおよび図7Bに示すように、この艶出し処理されたサンプルプレートは、測定値の分解能にも質量の精度にも何の有害な影響も有さなかった。脂質でコーティングされたプレートからの化学的バックグラウンドノイズの検出可能な増加もまた存在せず、コーティングされていないプレートおよび脂質でコーティングされたプレートの両方から収集されたMS/MSスペクトルは、本質的に等価であり、艶出し処理されたプレートから収集されたデータにおいて検出可能な、分解能の低下も、シグナル強度の低下も、質量の精度の低下も存在せず、いくつかの場合には、より良好な性能を示した。
図1は、本発明の1つの実施形態に従う、疎水性コーティングされた表面上にサンプル小滴が沈積されたサンプルプレートの部分横断面図である。 図2Aおよび図2Bは、0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中のデス−Arg−ブラジキニン、アンギオテンシンI、Glu−フィブリノペプチド、および種々のACTHクリップ(1−17、18−39および7−38)を含む1μlの混合物の分析によって収集されたMALDI質量スペクトルを示す。図2Aでは、ペプチド濃度は、10fmolであり、そしてこのサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。図2Bでは、ペプチド濃度は、100fmolであり、そしてこのサンプルプレートは、鏡面仕上げを有し、50マイクロリットルのヘキサン/ヘプタン(50:50 v/v)中の60マイクログラムのパラフィンで噴霧コーティングされた、ステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。得られた表面は、20nmの厚さのパラフィンで均質にコーティングされていた。 図3Aおよび図3Bは、5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸とともに0.1% TFAを含む50%アセトニトリル/水(v/v)中のβ−ガラクトシダーゼの100fmolのトリプシン消化物の、1394Daのフラグメント化前駆体イオンについて収集された、MALDIタンデムMS(MS/MS)スペクトルである。ラベルは、C末端フラグメントイオンを同定する。図3Aでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであり、図3Bでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、50マイクロリットルのヘキサン/ヘプタン(50:50v/v)中の60マイクログラムのパラフィンで噴霧コーティングされた、ステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。得られた表面は、20nmの厚さのパラフィンで均質にコーティングされていた。 図4Aおよび図4Bは、0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を有する50%アセトニトリル/水(v/v)中の、10fmolのデス−Arg−ブラジキニン、アンギオテンシンI、Glu−フィブリノペプチド、および種々のACTHクリップ(1−17、18−39および7−38)を含む、0.7ulの混合物の分析によって収集された、MALDI質量スペクトルを示す。図4Aでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであり、図4Bでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、金属艶出し剤でコーティングされた、ステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。 図5Aおよび図5Bは、5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸とともに0.1% TFAを含む50%アセトニトリル/水(v/v)中にβ−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物100fmolの、1394Daのフラグメント化前駆体イオンについて収集された、MALDI MS/MSスペクトルである。ラベルは、C末端フラグメントイオンを同定する。図5Aでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであり、図5Bでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有し、金属艶出し剤でコーティングされた、ステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。 図6Aおよび図6Bは、0.1% TFAおよび5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸を含む50%アセトニトリル/水(v/v)中の10fmolのデス−Arg−ブラジキニン、アンギオテンシンI、Glu−フィブリノペプチド、および種々のACTHクリップ(1−17、18−39および7−38)を含む0.7μlの混合物の分析によって収集されたMALDI質量スペクトルを示す。図6Aでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであり、図6Bでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有し、トリパルミチンの薄いフィルムでコーティングされた、ステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。 図7Aおよび図7Bは、5mg/ml αシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸とともに0.1% TFAを含む50%アセトニトリル/水(v/v)中のβ−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物100fmolの、1394Daのフラグメント化前駆体イオンについて収集された、MALDIMS/MSスペクトルである。ラベルは、C末端フラグメントイオンを同定する。図7Aでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有する、コーティングされていないステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであり、図7Bでは、このサンプルプレートは、鏡面仕上げを有し、トリパルミチンの薄いフィルムでコーティングされた、ステンレス鋼製の2.25”×2.25”の矩形プレートであった。

Claims (6)

  1. MALDIサンプルプレートであって、該MALDIサンプルプレートは、導電性基板を備え、該基板は、疎水性コーティングの薄いフィルムで完全にコーティングされており、該疎水性コーティングは、合成ろう、天然のろう、脂質、疎水性有機酸、疎水性エステル、ケイ素オイル、もしくはシリカポリマーまたは前記の物質の互いの混合物のうちの少なくとも1つを含むか、あるいは化学的組成物の成分として前記の物質の混合物を含み;
    該薄いフィルムは、疎水性相互作用、イオン相互作用、またはファンデルワールス力のうちの一つ以上を含む力により該表面に完全に結合した疎水性コーティングの単層を含み;そして
    該薄いフィルムは、化学的処理または剥離処理によってのみ該物質から取り外し可能である、
    サンプルプレート。
  2. 前記合成ろう疎水性コーティングが、パラフィンを含む、請求項1に記載のMALDIサンプルプレート。
  3. 前記脂質疎水性コーティングが、トリパルミチンを含む、請求項1に記載のMALDIサンプルプレート。
  4. 前記疎水性コーティングが、金属表面をクリーニングおよび保護するように設計された組成物の混合物を含む艶出し剤を含む、請求項1に記載のMALDIサンプルプレート。
  5. 前記疎水性コーティングが、約5nmと約50nmとの間の厚さを有する、請求項2、3または4に記載のMALDIサンプルプレート。
  6. 前記疎水性コーティングが、約5nmと20nmとの間の厚さを有する、請求項2、3または4に記載のMALDIサンプルプレート。
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