JP4485981B2 - メタボリックシンドロームの予知検査方法およびそれに用いるキット - Google Patents
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Description
インスリン抵抗性とは、骨格筋細胞、肝細胞、脂肪細胞などにおいて、インスリン感受性が低下することにより、インスリン分泌は保たれているものの、その作用低下のため高インスリン血症および高血糖をきたす病態である。近年、このインスリン抵抗性は2型糖尿病との関連で注目されている。具体的には、日本人の2型糖尿病の発症にインスリン分泌能の低下が不可欠であることがコンセンサスとなり、その機序については遺伝素因よりも、この30年間に2型糖尿病患者数が30倍以上、もしくは45年間で70倍も増加した事実から、その原因が環境要因(生活習慣)にあるとの考えが強まってきた。つまり、生活習慣がインスリン抵抗性の成立に密接に関連し、それにもとづくインスリン抵抗性の存在が、膵臓β細胞の疲弊をきたしてインスリン分泌能が低下するという考え方が主流となってきた(春日 雅人.,ホルモンと臨床, 49:11, 2001)。
一方、インスリン抵抗性や肥満を中心病態とする患者においては、高率に虚血性心疾患を合併することや、インスリン抵抗性の結果として高インスリン血症が生じることが分かっている。Reavenは末梢のインスリン抵抗性が存在すると、まず高インスリン血症となり、次いで耐糖能異常を起こし、さらに高血圧や脂質代謝異常を生じるとするインスリン抵抗性という概念を提唱した(Reaven GM., Diabetes: 1595, 1988)。さらにReavenは、(1)高インスリン血症、(2)耐糖能異常、(3)低HDL血症、(4)超低比重リポタンパク(VLDL)の上昇、(5)高血圧症をシンドロームXとし、冠動脈疾患の発症に関わる危険な病態群として警告するとともに、危険因子重複症候群の概念を提唱した。それ以来、インスリン抵抗性症候群は動脈硬化の発症機序に深く関わっているとされ、虚血性心疾患の1原因として注目されてきた。また、肥満は、シンドロームXの概念には含まれていなかったが、Kaplanは高血圧、耐糖能異常、高中性脂肪血症に加えて、上半身肥満が冠動脈疾患発症の原因になるとして、その危険性を死の4重奏と呼称した(Kaplan NM., Arch. Intern.Med.,149:1514,1989)。
インスリン抵抗性の原因として、(1)インスリン異常(抗インスリン抗体の存在、異常インスリン血症)、(2)インスリン受容体との結合障害(抗インスリン受容体抗体の存在)、(3)インスリン受容体の異常(インスリン受容体異常症)、(4)受容体後のシグナル伝達路の障害(インスリン受容体チロシンキナーゼ活性の障害、インスリン受容体基質(IRS−1)の異常、P13キナーゼの異常)、(5)ブドウ糖取込みの障害(糖輸送担体の異常)、(6)その他(糖毒性、遊離脂肪酸、腫瘍壊死因子α(TNFα))などが重要とされるが、インスリン抵抗性の原因の多くは二次性によるものと考えられており、特に過栄養状態や運動不足によりもたらされる内臓脂肪の蓄積・増加が重要視されている(浦風 雅春.,他.,ホルモンと臨床,49:265,2001)。また、インスリン作用障害の初発部位については、骨格筋、膵β細胞、肝臓のインスリン受容体を臓器特異的にノックアウトしたマウスでの解析から、骨格筋以外の脂肪細胞、肝臓、膵β細胞、血管系などである可能性が大きいと考えられている(Kulkarni RN.,Cell.96:329,1999)。
インスリン抵抗性の治療面では、インスリン抵抗性改善に直接作用する薬剤はなかった。肥満に伴うインスリン抵抗性は一般に食事療法、運動療法を厳格に行うことによって肥満が解消されれば改善される。しかしながら、このような基本治療を完全に実施することには困難を伴うことから、インスリン抵抗性改善薬の必要性があった。この点については最近、チアゾリジン系の薬剤およびその類薬が開発された。チアゾリンの作用メカニズムについては、チアゾリジン誘導体が核内受容体型転写因子であるPPARγ(peroxisome proliferator activated receptor γ)の合成リガンドであることが分かり、このPPARγは他の臓器に比べ、脂肪細胞に30倍以上多く発現していることから、脂肪細胞がチアゾリジン薬の分子標的であると考えられている。よって、チアゾリジンは肥満に伴うインスリン抵抗性を良く改善するが、他の機序に基づいて生じるインスリン抵抗性の全てを改善できるものではないことも分かっている(門脇 孝.,日本臨床,58:9-16,2000)。
生活習慣病もしくはメタボリックシンドロームの基盤をなすインスリン抵抗性の発現機序については上述したごとく、多くの要因が分かってきている。しかしながら、インスリン抵抗性惹起物質に関しては、いくつかの候補物質があげられているものの、本命物質が明らかにされていない現状にある。したがって、現状におけるインスリン抵抗性発現の診断は、インスリン抵抗性に至った高インスリン状態を確認すべく、空腹時インスリン値を測定することによって行っている。
近年、インスリン抵抗性が炎症と強い関係性を有していることが分かってきた。その原因として、糖質コルチコイドの分泌増加と炎症性サイトカインの関与が重要と考えられている。特にTNFαは、インスリン受容体のチロシンキナーぜの活性を低下させ、また糖輸送をも低下させることによってインスリン抵抗性が惹起されることが知られている(Uysal KT.,et al.,Nature,389:610,1997)。さらに、炎症蛋白であるCRPがインスリン抵抗性と相関すること(Tiejian WV.,et al.,Am.J.Epidemiol.,155:65,2002)や、2型糖尿病においてCRPやTNFαをはじめとする種々のサイトカインが上昇していることが報告されており、Pickupらは炎症などの刺激によってサイトカインが分泌され、これがインスリン抵抗性を惹起して耐糖能障害を起こし、一方においては動脈硬化にも関係しているとして「2型糖尿病は免疫機能に起因したサイトカインを介した急性反応ではないか」との仮説を提唱している(Pickup JC.,et al.,Diabetologia,41:1241,1998)。また、Kitanoらは「インスリン抵抗性とは、慢性炎症状態に対応する免疫システムを維持するために作り出された健全な状態である」とする仮説を提唱している(Kitano H.,et al.,Diabetes,53,S6,2004)。このように、インスリン抵抗性は炎症と強く関わることが分かってきた。
原納らは冠動脈疾患患者で肥満、糖尿病、高血圧のない例において、インスリン抵抗性の存在を認めており、その機序として血管内皮細胞傷害をあげている(原納 優.,動脈硬化,27:313,2000)。その理由に関して、Wascherらは、インスリン作用の発現にはNOを介する血管拡張・血流増加が関与するとし、インスリンが骨格筋細胞や脂肪細胞などの標的細胞に到着するには、血管内皮細胞による取込みと転送が関与し、そのためには血管内皮細胞の正常なはたらきが必要であり、インスリン抵抗性と血管内皮機能の関連性が大きいと報告している(Wascher TC.,J.Clin.Invest.,27:831,1997)。
上述のようなインスリン抵抗性の発現があり、かつ肥満、糖尿病、高血圧のない冠動脈疾患症例の存在は、糖尿病発症以前の耐糖能異常の時点で、すでに冠動脈疾患の発症率が高くなっている事実を示すことになる。このインスリン抵抗性による高インスリン血症が動脈硬化の直接の原因か否かの検討は、いくつかの疫学的検討として行われている。Quebec Cardiovascular studyにおいては、男性2100人の空腹時インスリン値と冠動脈疾患発症率との関係性を年齢、肥満度、血圧、血清脂質値をマッチさせて検討した結果、空腹時インスリン値が16 mU/l以上群では、11 mU/l以下群と比較して冠動脈疾患発症のオッズ比が8倍以上に上昇したことを認めている(Despres JP.,et al.,Eur.Heart.J.,17:1453,1996)。また、San Antonio heart studyの前向き研究では、1288人のメキシコ系アメリカ人と929人の非ヒスパニック系アメリカ人を8年間追跡した結果、ブドウ糖75g経口負荷試験の空腹時インスリン値が高いと、その後の高血圧、2型糖尿病、低HDLコレステロール血症、高VLDL−TG血症の発症が明らかに高くなったとし、高インスリン血症が疾患の結果ではなく、原因であることを証明しいている(HaffnerSM.,et al.,Diabetes,41:715,1992)。
脂肪組織は糖尿病発症につながるインスリン抵抗性の発現部位として重要とされており、脂肪組織へのインスリンの転送は血流を介して行われる。この脂肪組織でのインスリン抵抗性発現の機序としては、脂肪細胞から分泌されるTNFαがインスリン情報伝達におけるチロシンキナーゼ活性を抑制することによって、インスリン抵抗性を示すことが知られてきた。しかしながら、これまで肥満と炎症との間に機能的関連の存在は知られていなかったが、肥満者や肥満マウスの脂肪組織にはマクロファージの浸潤がみられることが明かとなり(Weinberg SP.,J.Clin.Invest.,112:1796,2003 ;Xu H.,et al., J. Clin.Invest., 112:1821,2003)、炎症性の変化を呈していることが報告された(Kathryn E.,et al.,J. Clin.Invest.,112:1785,2000)。
脂肪細胞とマクロファージは異なる起源と生理的機能を有するが、メタボリックシンドロームのような病的状態では、いずれの細胞も細胞内に脂質を蓄積し、炎症性サイトカインを分泌する。現時点では脂肪組織中のマクロファージは骨髄に由来すると考えられているが、in vitroの研究では、肥満者の脂肪組織に存在するマクロファージの一部はマクロファージとの接触によって、刺激を受けた未分化脂肪細胞に由来する可能性が大きいと考えられている(Lehrke M.,et al.,Nat.Med.,10:126,2004)。
インスリン抵抗性発現と動脈硬化の発症・進展に共通なものとして、酸化ストレスの関与がある。インスリン抵抗性発現への酸化ストレスの関与として、過酸化水素を用いた実験で、酸化ストレスは脂肪細胞や筋細胞においてインスリンによる糖の取込みを障害することが知られている。その機序としては、ホスホイノシチド(PI)3キナーぜ以降のステップである糖輸送担体(GLUT)4のトランスロケーションの障害に基づくものと考えられている(Rudich A.,et al.,Diabetes,47:1562,1998)。また、抗酸化薬がインスリンによる糖の取込みを酸化ストレスの障害作用から防ぐことや、抗酸化薬は糖尿病患者や肥満ラットモデルにおいてインスリン抵抗性を改善するという報告(安東 克之.,日本臨床,61:1130,2003)からも、この仮説は裏付けられている。
〔1〕 ヒトから採取した血液を被検試料とし、該試料中の高比重リポ蛋白(HDL)の構成アポ蛋白と低比重リポ蛋白(LDL)との複合体を測定対象とすることを特徴とする、メタボリックシンドロームの予知検査方法、
〔2〕 ヒトから採取した血液を被検試料とし、該試料中のHDLの構成アポ蛋白とLDLとの複合体を検出し得る抗体を備えたことを特徴とする、メタボリックシンドロームの予知検査用キット。
本発明者らは、これまでに血中に物性を異にする3種類の酸化変性リポ蛋白を見出している。これらの酸化変性リポ蛋白は、それぞれ(A)α1-antitrypsin/LDL複合体:AT/LDL(WADA Y.,et al.,Arterioscler.Vasc.Biol,21:1801,2001)、(特許第3142786号),(B)SAA/LDL複合体:SAA/LDL(Ogasawara K.,et al.,Atherosclerosis,174:349,2004)、(特許第3142786号)、(特開2004-69621)、(特開2004-69621)及び(C)poly-Lysine結合性リポ蛋白:poly-Lys/IDL,LDL(小嶌 志穂、他.,臨床化学,32:239,2003)、(特開2002-181820)である。以下では、上記酸化変性リポ蛋白の調製方法および該リポ蛋白の構成アポ蛋白であるアポB−100の分析結果について説明する。
KBrを血清に添加して比重を調製し、超遠心器を用いて比重1.006〜1.019からIDLを分離し、比重1.019〜1.063からLDLを分離した。次に得られたIDL画分とLDL画分をそれぞれ0.01% EDTA-2Kを含むPBS(10 mmol/l phosphate buffer,150 mmol/l NaCl,pH 7.4)で透析した。
抗ヒトAT抗体(抗ヒトα1-アンチトリプシン・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、抗ヒトSAAポリクローナル抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)またはポリリジン(ポリ-L-リジン臭化水素酸塩、和光純薬工業社製)をCNBr-activated Sepharose 4B(Pharmacia社製)に結合させて3種類のアフィニティーカラムを作製した。
1.3.1 AT/LDLの精製
AT/LDLの精製は次のように行った。まず、前記1.1で調製したLDL画分を前記1.2で作製した抗ヒトAT抗体結合アフィニティーカラムに添加した。次に、非吸着LDLを1mol/l NaCl,0.01% EDTA-2Kを含むPBS 30mlで洗浄した。続いて、3mol/l potassium thiocyanate (KSCN)と0.01% EDTA-2Kを含むPBS 15mlでAT/LDLを溶出し、Centriprep-10(Amicon社製)で濃縮後、PD-10(Pharmacia社製)で0.01% EDTA-2Kを含むPBSに置換した。そして、PBSに置換したAT/LDLをMicrocon(Amicon社製)を用いて50μlに濃縮した。
前記1.1で調製したLDL画分を前記1.2で作製した抗ヒトSAAポリクローナル抗体結合アフィニティーカラムに添加し、上述したAT/LDLの精製と同様の操作でSAA/LDLを精製した。
前記1.1で調製したIDL画分を前記1.2で作製したポリリジン結合アフィニティーカラムに添加し、上述したAT/LDLの精製と同様の操作でpoly-Lys/IDLを精製した。
アポB−100の分析は、上記で得られた複合体をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)し、次いでウェスタンブロット法により解析することにより行った。SDS-PAGE は Laemmli’s の方法を参考にした(Laemmli UK. Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Nature 1970; 227: 680-685.)。まず、上記複合体の各溶液100μlにクロロホルム−メタノール混合溶液(2:1,V/V)を200μl添加して1分間撹拌した後、12,000rpmで1分間遠心し、下層のクロロホルムを静かに除去し、更に3,000rpmで5分間遠心し、上清を除去した後、bottomの蛋白をSDS-PAGE サンプルバッファー(4% SDS,10% glycerol,0.0625M Tris-HCl buffer,pH 6.8)50μlで溶解したものを泳動試料とした。次に、2〜15%のpolyacrylamide gradation gel(Daiichi社製)および Tris-tricine buffer(0.1mol/l Tris,0.1mol/l tricine,0.1% SDS)からなる泳動バッファーを用いて、ゲル1枚当り40mAの条件で、前記泳動試料を1時間泳動した。なお、分子量マーカーは Kaleidoscope prestained Standards (Bio Rad社製)を使用した。
アポB−100の低分子化の度合いは酸化変性度を反映していることから、各複合体中アポB−100の泳動パターンから、低分子の度合いを観察して酸化変性度を分析した。図1から、各酸化変性リポ蛋白のアポB−100はいずれも断片化しており、その断片化パターンは酸化によるアポB−100の断片化の特徴を示した。酸化変性度は高い方からAT/LDL、SAA/LDL、poly-Lys/IDL,LDLの順であった。また、これらの変性リポ蛋白の構成アポ蛋白については、AT/LDLはアポB−100のみを含んでおり、SAA/LDLはアポB−100以外にHDLの構成アポ蛋白全てを含んでおり、その実体は、LDLとHDLが共存下で炎症細胞由来の活性酸素により酸化を受けることによって、両成分が結合して形成された酸化(LDL/HDL)複合体(oxLDL/oxHDL)である。一方、poly-Lys/IDL,VLDL(IDLを主とするがVLDLにも存在する)は、アポB−100とアポEを含んでおり、これは酸化変性レムナントに相当すると考えられた。
生体を構成する細胞が産生する活性酸素によるリポ蛋白の酸化変性は、組織を構成する細胞(例えば血管内皮細胞)、炎症細胞(好中球およびマクロファージ)、マクロファージの細胞内(泡沫細胞の細胞内)の順に強いことが知られている。まず、上述の3種類の酸化変性リポ蛋白は、血管内皮細胞との共培養ではいずれも産生されなかった。また、炎症細胞由来の活性酸素では、SAA/LDLは形成されるがAT/LDLおよびpoly-Lys/IDL,VLDLは形成されなかった。さらに、泡沫細胞内ではAT/LDLおよびpoly-Lys/IDL,VLDLが形成されると考えられる。以下では、血管腔内において、炎症細胞由来の活性酸素により形成されるSAA/LDL複合体について詳細に説明する。
健常者3名からヘパリン加採血した血液1mlに、好中球の活性化剤(phorbol-12-myristate-13-acetate(PMA),810 ng/ml)500ngを直ちに添加し、室温で5時間撹拌した。その後、3,000rpmで10分間遠心して血漿を分離し、上述したLDL様画分を得た。そして、該LDL様画分を試料として、抗ヒトSAA抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)を一次抗体、抗アポB−100モノクローナル抗体にビオチンを標識したものを二次抗体として、前記LDL様画分中に存在するSAA/LDL複合体をELISAで測定した(測定の詳細は後記3.3.2を参照)。その結果、SAA/LDL複合体はPMA刺激により有意に高値を示した(control 0.78±0.09μg/ml v.s. PMA刺激 2.35±0.67μg/ml,p=0.015)(図2を参照)。また、好中球活性化の確認として血漿中の好中球顆粒内蛋白であるラクトフェリンとミエロペルオキシダーゼをそれぞれ抗ヒトラクトフェリン抗体(抗ヒトラクトフェリン・ウサギポリクローナル抗体, Dako Cytomation社製), 抗ヒトミエロペルオキシダーゼ抗体(抗ヒトミエロペルオキシダーゼ・ウサギポリクローナル抗体, Dako Cytomation社製)を用いたELISAで測定した。
〔抗原の調製〕
ヒト血清から超遠心分離により得たLDL(比重1.019〜1.063)を免疫原とした。
〔動物への免疫〕
この抗原をリン酸緩衝生理食塩水で蛋白濃度として1mg/ml溶液となるように調製し、この抗原溶液とフロインドアジュバンドを等量混合して得られるエマルジョンを、6週令のマウス(Balb/C系マウス)の腹腔内に500μl投与した。この作業を2週間おきに計3回行った。
〔細胞融合〕
最終免疫後4日目に前記マウスの脾臓から採取した脾リンパ球細胞をマウス骨髄腫細胞(P3-X63-Ag8-U1)と融合させた。融合方法は、常法に従い、50%ポリエチレングリコール4000溶液を融合促進剤として用い、融合促進剤の添加、混合および希釈の各操作からなる融合時間を10分間、37℃で行った。次に、HAT培地(ヒポキサンチン・チミジン・10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地)に融合した細胞を浮遊させ、培養用96穴マイクロプレートの各ウェルに分注し、約一週間後、抗体産生ハイブリドーマの選択を行った。抗体産生ハイブリドーマの選択は次のように行った。すなわち、LDLを吸着させた96穴マイクロプレートに、各ウェルのハイブリドーマ形成コロニーの培養上清を100μl分注して反応させ、ついで洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体を100μl添加して抗原抗体反応させ、洗浄、呈色とELISAの常法に従って操作し、目的とする抗体(すなわち、変性アポB−100に反応特異性を有する抗体)産生ハイブリドーマを複数個選択した。次に、目的とする抗体産生を示したコロニーを回収し、限界希釈法によってハイブリドーマの単一コロニーを得るようにクローニングを行った。具体的には、回収したコロニーをHT培地で希釈し、96穴マイクロプレートの各ウェルにハイブリドーマがウェル当たり1個以下となるようにフィーダー細胞と共に散布した。以上の操作を2回行い、モノクローン化された抗ヒトアポB抗体産生ハイブリドーマを複数個得た。
〔抗ヒトアポBモノクローナル抗体の腹水化〕
8週令のマウス(Ba1b/C系マウス)の腹腔内にプリスタン(免疫抑制剤)を投与した。3〜7日後に抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に投与し、約7日後にマウス腹腔から腹水化された抗体を回収した。
〔抗体の精製〕
腹水化して得られたそれぞれの抗体を50%硫酸アンモニウムで2回塩析分離を行い、リン酸緩衝生理食塩液にて透析して精製した。次いでSAA/LDL複合体のELISAの二次抗体として優れた(すなわち、変性アポB−100との反応性が強い)抗ヒトアポBモノクローナル抗体を選定した。
活性化好中球の産生オキシダントであるクロラミンTを用いて、リポ蛋白除去血清、SAA非結合VLDL、SAA非結合LDL、SAA-richHDLからなる混合液を調製し、クロラミンT酸化後、リポ蛋白の変化をゲルろ過分析にて検討した。
〔リポ蛋白除去血清の調製法〕
既報(J.L. Goldstein, M.S. Brown, J. Biol. Chem., 249, 5153.1974)を参考に、ヒト血清にKBrを添加して比重を調整して超遠心を行い、比重1.215より重い画分を分取した。次に、得られた前記画分を0.01% EDTA-2Kを含むPBS(10 mmol/l phosphate buffer,150 mmol/l NaCl,pH 7.4)で透析してリポ蛋白除去血清を調製した。
〔SAA非結合VLDLの調製法〕
ヒト血清から超遠心分離により得たVLDL(比重<1.006)を前記1.2で作製した抗ヒトSAAポリクローナル抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)結合アフィニティーカラムに添加し、カラムに吸着しなかった成分を分取し、これをSAA非結合VLDLとした。
〔SAA非結合LDLの調製法〕
ヒト血清から超遠心分離により得たLDL(比重1.019〜1.063)を前記抗ヒトSAA抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)結合アフィニティーカラムに添加し、カラムに吸着しなかった成分を分取し、これをSAA非結合LDLとした。
〔SAA-richHDLの調製法〕
SAAが高値を示すヒト血清から超遠心分離によりHDL(比重1.063〜1.21)を分取し、これをSAA-richHDLとした。
〔混合液の調製〕
SAA非結合VLDL(コレステロール:40mg/dl)、SAA非結合LDL(コレステロール:100mg/dl)およびSAA-richHDL(コレステロール:70mg/dl)を含むPBS 1ml(0.01% EDTA-2Kを含む)を混合液とした。
前記2.2.1で調製した混合液1mlにクロラミンTを1.4 mmol/lになるように添加し、37℃で1時間反応させた。次に、得られた反応液をSuperose6ゲルろ過カラム(Pharmacia社製)にアプライし、0.01% EDTA-2Kを含むPBSで流速20 ml/hにて溶出し、1ml/tubeの各フラクションを得た。コントロールにはクロラミンTを添加しない上記混合液を用いた。続いて、一次抗体として抗ヒトSAA抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、抗ヒトアポA−I抗体(抗ヒトアポA-I・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、抗ヒトアポA−II抗体(抗ヒトアポA-II・ヤギポリクローナル抗体, Academy Bio-Medical社製)、抗ヒトアポC−III抗体(抗ヒトアポC-III・ウサギモノクローナル抗体,Dako Cytomation社製)および抗ヒトアポE抗体(抗ヒトアポリポプロテインE・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)を使用し、二次抗体として前記2.1で作製した抗アポB−100モノクローナル抗体にビオチンを標識したものを使用して、前記各フラクションと反応させることにより、該フラクション中に存在する複合体の濃度を測定した(測定の詳細は後記3.3.2を参照)。
nativeLDL(コレステロール濃度:100mg/dl,蛋白濃度:0.64mg/ml)とnativeHDL(コレステロール濃度:50mg/dl,蛋白濃度:0.96mg/ml)を含むPBS 1ml(0.01% EDTA-2Kを含む)を混合液として、該混合液にクロラミンTを2.8mmol/lになるように添加し、37℃で1時間反応させた。次に、得られた反応液をSuperose6ゲルろ過カラム(Pharmacia社製)にアプライし、0.01% EDTA-2Kを含むPBSで流速20 ml/hにて溶出し、1ml/tubeの各フラクションを得た。コントロールにはクロラミンTを添加しない上記混合液を用いた。続いて、各フラクションのコレステロールとリン脂質をいずれも酵素法で測定した。
HDL中のSAAを初めとする全てのアポ蛋白がVLDL,LDLの低比重域リポ蛋白に移行するのを認めた(図3)。さらに、この場合、脂質成分(コレステロール、リン脂質)も同様に移行した(図4)。以上の結果から、SAA/LDL複合体は、HDLとLDLの共存下で炎症細胞由来の活性酸素にさらされることにより、HDLの構成アポ蛋白が脂質を伴なってLDLに移行することにより形成されるものと推定された。
冠動脈疾患患者の一症例を選び、その血清を用いて超遠心でLDLを調製した後、前記1.2で作製した抗ヒトSAAポリクローナル抗体結合アフィニティーカラムを用いてSAA/LDL複合体を単離精製し、該複合体中に含まれるアポ蛋白を前記1.4と同様の方法でウェスタンブロット法により解析した。また、対照試料として健常者のLDLおよび冠動脈疾患患者のSAA非結合LDLを使用した。なお、冠動脈疾患患者のSAA非結合LDLは、前記2.2.1と同様の方法で調製した。結果を図5に示す。図5において、レーン1は健常者のLDL、レーン2は冠動脈疾患患者のSAA非結合LDL、レーン3は冠動脈疾患患者のSAA/LDL複合体をそれぞれ示す。図5より、SAA/LDL複合体の構成アポ蛋白はSAAとアポB−100以外にHDLの構成アポ蛋白であるアポA−I、アポA−II、アポC−IIIおよびアポEが検出され、アポB−100は断片化していた。ここで、アポA−IIとアポC−IIIのバンドは本来の分子量に相当する位置に比べて移動度が小さい。このため、この症例においては、アポA−IIとアポC−IIIがミスフォールディングによる会合体を形成していることが分かる。なお、本発明者らは、これまでにSAA/LDL複合体中に含まれるHDL由来のアポ蛋白群のうち、血清アミロイドA(SAA)、アミロイドA(AA)、アポA−II、アポC−II、アポC−IIIおよびアポEがミスフォールディングによる会合体を形成することを発見し、これらを測定対象とすれば冠動脈疾患(特に急性症候群)の予知が可能であること(特開2004-69621)、およびSAA/LDL複合体を測定対象とする動脈硬化の診断キットを既に完成させている(特許第3561218号)。
ヒト冠動脈疾患患者の冠動脈硬化巣におけるSAA/LDL複合体中の主要成分であるSAA(もしくはAA)およびアポB−100の局在を免疫組織染色で調べた。
剖検で得た冠動脈硬化巣をPLP固定液(過ヨウ素酸、リジン、パラホルムアルデヒドの混合溶液)で4時間固定後、リン酸緩衝生理食塩液で洗浄した。次いで液体窒素で凍結した後、凍結切片を作製した。その後内因性ペルオキシダーゼを除去し、一次抗体として抗ヒトSAA抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、抗ヒトアポB抗体(抗ヒトアポB・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、抗ヒトCD34抗体(抗ヒトCD34 Class I、マウスモノクローナル抗体,Dako Cytomation社製)および抗ヒトSR−A(抗ヒトマクロファージレセプター・マウスモノクローナル抗体, フナコシ社製)抗体を用い、前記凍結切片と2時間反応させた。反応終了後二次抗体(ヒストファインシンプルステインMAX PO(R))と発色基質(ヒストファインシンプルステインMAX PO(M))からなる市販染色キット(ニチレイ社製)を用いて、使用説明書に記載の反応条件にしたがって抗原抗体反応および発色反応を行わせた。結果を図6に示す。
その結果、肥厚した内臓内のCD34陽性部位(新生血管周囲)にSAA(もしくはAA)の陽性所見が認められ、また前記と同部位にマクロファージの存在を示すSR−A(スカベンジャーレセプターA)の陽性所見が認められた。一方、アポB−100は新生血管周囲のみならず、内膜内の広範囲に沈着が認められた。これらの所見を勘案すると、冠動脈におけるSAA/LDL複合体の形成は、血管新生の場(血管内炎症を伴う悪玉血管新生の場)がその一つであり、形成された複合体は血管腔壁に(血管腔側から血管内皮細胞に:複合体中に含まれるミスフォールディング状態の構造に変化した会合体が血管内皮細胞間の膠原線維に直接接着するケース)沈着すると推定される。他の可能性としては、複合体中の酸化LDLが血管内皮細胞の酸化LDLレセプターを介して血管内皮細胞に接着するケース、もしくはmulti-ligand receptorと称されるadvanced glycation end-products receptor:RAGEに対して複合体中のSAAもしくはAAがリガンドとなり接着することが考えられる。このように、血管腔側から血管内皮細胞に酸化変性リポ蛋白のなかでもとりわけ異物性の強いSAA/LDL複合体が沈着することにより、免疫反応が惹起され、その結果として炎症反応に基づく血管内皮細胞傷害が引き起こされると推定される。
3.1 冠動脈造影所見と各酸化変性リポ蛋白との関係性
冠動脈造影検査を実施した連続428例のうち、50%以上の狭窄病変または、高度の石灰化がみられた冠動脈疾患群(急性冠症候群36例、安定狭心症252例)およびコントロール群として検診受診者(256例)を対象に、上述した3種類の酸化変性リポ蛋白(AT/LDL、SAA/LDL、poly-Lys/IDL)の血中濃度と冠動脈疾患の進行度との関係性を検討した。AT/LDLの濃度測定にあたっては、一次抗体として抗ヒトAT抗体(抗ヒトα1-アンチトリプシン・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、二次抗体として前記2.1で作製した抗アポB−100モノクロ?ナル抗体にビオチンを標識したものを使用した。SAA/LDLの濃度測定(測定の詳細は後記3.3.2を参照)にあたっては、一次抗体として抗ヒトSAA抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、二次抗体として前記2.1で作製した抗アポB−100モノクローナル抗体にビオチンを標識したものを使用した。また、poly-Lys/IDLの濃度測定にあたっては、一次抗体の代わりにポリリジン(ポリ-L-リジン臭化水素酸塩、和光純薬工業社製)、二次抗体として前記2.1で作製した抗アポB−100モノクロ?ナル抗体にビオチンを標識したものを使用した。その結果、SAA/LDL複合体のみが冠動脈疾患の進行度を反映した有意な増加を示した(図7)。
冠動脈造影検査を実施した連続161例のうち、50%以上の狭窄病変または高度の石灰化がみられた、安定狭心症患者 74例、急性冠症候群 40例およびコントロール群として年齢、性別、血清脂質値をマッチさせた健常者 58例を対象にして、アポAI/LDLと高感度CRPの血中濃度を比較した。アポAI/LDLの濃度測定(測定の詳細は後記3.3.2を参照)にあたっては、一次抗体として抗ヒトアポA−I抗体(抗ヒトアポA-I・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)、二次抗体として前記2.1で作製した抗アポB−100モノクローナル抗体にビオチンを標識したものを使用した。また、高感度CRPの濃度測定にあたっては、抗CRP抗体を用いる測定キット(TAC−Lテスト,デイドベーリング社製)を使用して、使用説明書に記載の反応条件にしたがってラテックス凝集反応を行わせた。各群のアポAI/LDL値は、冠動脈疾患の進行度にともない有意な増加を示した(図8(a))。一方、高感度CRPはコントロール群と急性冠症候群間でのみ有意差が認められた(図8(b))。また、アポAI/LDL値と高感度CRP値との相関係数は、r=-0.134であり、有意な関係性は認められなかった(図8(c))。
3.3.1 追跡調査
冠動脈造影検査を実施した連続207例のうち安定狭心症患者140例を対象に18ヶ月間追跡調査を行った。その結果、急性心筋梗塞死(2例)、血行再建を要した狭心症(17例)、脳硬塞(2例)の21例にイベント発症を認めた。次いで、イベント発症群(21例)と非イベント発症群(119例)についてSAA/LDL複合体の血中濃度(測定の詳細は後記3.3.2を参照)の初期値を比較したところ、イベント発症群(30.6±12.7μg/ml)、非イベント発症群(21.8±7.4μg/ml)となり、イベント発症群が有意に高値を示した。
[血清からの複合体測定用試料の調製]
ポリアニオン溶液 (0.05M CaCl2、0.0125% 硫酸デキストラン)1.5mlに血清を50μl添加し撹拌後、30分間室温で反応させた。その後2,000×gで15分間遠心して上清を捨て、沈殿を2.5% NaCl溶液250μlで溶解した。この溶液を更に2.5% NaCl溶液で20倍希釈して測定用試料とした。
抗ヒトSAA抗体(抗ヒトSAA・ウサギポリクローナル抗体,Dako Cytomation社製)を5μg/mlとなるように 50 mmol/l Tris-HCl buffer (pH 8.4)で希釈し、ELISA用マイクロプレート(Coster社製)に100μl/wellで分注し、4℃で一晩放置して前記抗体を固定化した。次いで、精製水で3回洗浄した後、トリス-塩酸緩衝液 (100 mmol/l Tris-HCl buffer, 150 mmol/l NaCl,pH 8.0) で溶解した1%牛アルブミン溶液を各wellに100μl分注し、更に前記測定用試料を各wellに50μl添加して、室温で1時間反応させた。次に、0.005% Tween 20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5回洗浄後、前記2.1で作製した抗アポB−100モノクローナル抗体にビオチンを標識した二次抗体を、トリス-塩酸緩衝液で調製した1%カゼイン溶液で1μg/mlとなるように調製して100μl/well分注した。その後1時間室温で反応させ、0.005% Tween 20を含むPBSで5回洗浄し、1%カゼイン溶液で20,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識アビジン(Vector Laboratories社製)を100μl/well分注した。更に室温で30分間反応させ、0.005% Tween 20を含むPBSで5回洗浄した後、基質液(200 mg/l テトラメチルベンジジン(TMBZ),0.1mol/l Tris,35mmol/l クエン酸,5.5mmol/l 過酸化水素を含む溶液)を100μl/well分注し20分間室温で発色させ、1 mol/l リン酸水溶液で発色を止めた後、450nmと620nmの二波長で測光した。
スタンダードはリコンビナントSAA(栄研化学)とLDLを2種の架橋剤を用いて作製し、スタンダードの値付けは血中から精製したSAA/LDL複合体を用いて行った。次にスタンダードの吸光度と濃度を濃度換算ソフト(Delta SOFT3)に入力し、4-parameterの検量線を作成して、この検量線に測定用試料の吸光度を当てはめ、血中のSAA/LDL複合体濃度を算出した。スタンダードの具体的な調製方法は以下に示すとおりである。
(1) 健常者プール血清(TG>100、T-cho>200、HDL-ch<50)より超遠心法にてLDL(比重1.019〜1.063)を分画し、PD-10(Pharmacia社製)を用いて0.15M NaCl、0.01% EDTAを含む0.01Mリン酸緩衝液、pH 7.4に置換し、健常者LDL(500μg/ml)を4 ml調製する。
(2) DMSO 1mlで架橋剤SPDP(和光純薬社製)500μgを溶解する。
(3) (1)に(2)を800μl添加し、37℃で3時間反応させ、PD-10(Pharmacia社製)を用いて0.01 % EDTAを含む0.01M リン酸緩衝液、pH 7.4に置換し、LDL-SPDPを調製する。
(4) 精製水でジチオスレイトール(DTT)(和光純薬社製)を100 mmol/lになるように溶解する。
(5) (3)に(4)を10倍希釈(DTT終濃度として10 mmol/l)となるように添加し、37℃で90分間反応させ、PD-10(Pharmacia社製)を用いて0.01% EDTAを含む0.01Mリン酸緩衝液、pH 7.4に置換し、還元型LDL-SPDPを調製し、蛋白濃度を測定する。
(6) リコンビナントSAAをPD-10(Pharmacia社製)を用いて、0.01% EDTAを含む0.01Mリン酸緩衝液(pH 7.4)に置換して、150μg/ml、4mlを調製する。
(7) DMF 100μlで架橋剤EMCS(同人化学社製)3.1 mgを溶解する。
(8) (6)に(7)を80μl添加し、37℃で30分間反応させ、PD-10(Pharmacia社製)を用いて0.01% EDTAを含む0.01M リン酸緩衝液(pH7.4)に置換し、リコンビナントSAA-EMCSを調製し、蛋白濃度を測定する。
(9) (5)の還元型LDL-SPDPの蛋白量2に対して、(8)のリコンビナントSAA-EMCSを蛋白量1添加し、4℃で20時間反応させ、蛋白濃度を測定する。
(10) (9)の蛋白濃度と同濃度のL-Cysを0.01% EDTAを含む0.01M リン酸緩衝液(pH7.4)で溶解し、(9)1mlに対して100μl添加し、室温で4時間反応させる。
(11) クロロホルム2に対してメタノール1を添加し、クロロホルム-メタノール液(2:1、v/v)を調製する。
(12) (10)1に対して(11)2(1:2、v/v)を添加し、ボルテックスを用いて1分間撹拌した後、3,000rpmで15分間遠心して、脱脂し、蛋白を分離する。
(13) (12)を0.15M NaCl、0.01% EDTA、0.1% NaN3、5% SDSを含む0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH7.4)で溶解する。
(14) (13)を、Superose6を用いて、0.15M NaCl、0.01% EDTA、0.1%NaN3、0.1% SDSを含む0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH7.4)でゲルろ過する。
(15) (14)のフラクションのリコンビナントSAAとSAA-apoBの濃度を測定し、SAA-apoBを濃縮、蛋白濃度を測定する。
(16) 10%スクロース、0.2% BSAとなるように0.15M NaCl、0.01% EDTA、0.1% NaN3、0.1% SDSを含む0.01Mトリス-塩酸緩衝液(pH7.4)でこれらを溶解する。
(17) (15)と(16)を1対1で混ぜ、標準物質とする。
さらに、表1に示すように、コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、アポA−I、アポA−II、アポB、アポC−II、アポC−III、アポE、SAA、高感度CRP、SAA/LDL複合体、年齢、性別、身長、体重、体脂肪率、高血圧症の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無の各項目を独立変数、心血管イベントの発生を従属変数としてロジスティック回帰分析プログラムに入力し、オッズ比(Odds Ratio)と95%信頼限界(95% CI)を算出した(表2)。その結果、心血管イベントの予知マーカーとしてSAA/LDL複合体の他に年齢、糖尿病、高中性脂肪血症の3項目がクローズアップされた。このうち、糖尿病(インスリン抵抗性、耐糖能異常)、高中性脂肪血症はメタボリックシンドロームの主要な症候である。また、イベント発症群のHDLコレステロール値は、41.9 mg/dlと低値であった(表1)。これらのことから、心血管イベント発症の背景因子としてメタボリックシンドロームが強く関わっていることが明らかになった。一方、AT/LDL、poly-Lys/IDLなどの酸化変性リポ蛋白およびCRP、SAAなどの炎症蛋白はイベント発症、非発症群間で有意差を示さなかった(データ示さず)。
健康診断受診者群(20〜60才の男女、n=260)を正脂血群(血清中性脂肪濃度<100 mg/dl、血清総コレステロール濃度<200 mg/dl:n=130)、および高脂血症群(血清中性脂肪濃度>150 mg/dl、血清総コレステロール濃度>220 mg/dl:n=130)の2群に分け、さらに血清HDLコレステロール濃度でそれぞれを2分割した。すなわち、正脂血A群:コントロール群(HDLコレステロール濃度>50 mg/dl:n=65)、正脂血B群(HDLコレステロール濃度<40 mg/dl:n=65)、および高脂血C群(HDLコレステロール濃度>50 mg/dl:n=65)、高脂血D群(HDLコレステロール濃度<40mg/dl:n=65)。この4群を対象として、SAA/LDL複合体の血中濃度を前記3.3.2に記載の方法に従い測定した。その結果、4群における当該複合体の陽性率は正脂血A群(0%)、正脂血B群(1.5%)、高脂血C群(6.2%)、高脂血D群(35.4%)であり、高脂血症と低HDLコレステロール血症共に呈する群に当該複合体の陽性者が多く認められた(図9)。これらの成績から、当該複合体を測定することにより、インスリン抵抗性を基盤とするメタボリックシンドロームの高リスク群を効率的にスクリーニングできると考えられた。
健常者(男性:128例、女性:128例、20〜70才)を対象として、前記3.2に記載した方法にしたがってSAA/LDL複合体および高感度CRPの血中濃度を測定し、得られた測定値の年齢による推移を性別に分けて比較した。その結果、SAA/LDL複合体は、男性は40才代、女性は50才代から、ともに高値傾向に推移することを認めた(図10)。これは、Framingham研究での20年間の追跡調査に基づく男女別の心血管疾患発症頻度の傾向と良く一致し(Kannel WB.,et al.,Ann.Intern.Med,85:447,1976)(図11)、さらに年齢、男女別の血管内皮依存性拡張反応の低下のパターンとも一致している(図12)(Celermajer DS., et al., J.Am. coll. Cardiol., 24:471,1994)。一方、CRPではSAA/LDL複合体のような傾向は認められなかった(図10)。
SAA/LDL複合体(oxLDL/oxHDL)は炎症の悪循環を引き起こすかたちで内皮細胞傷害を拡散的に惹起させ、生活習慣病発症の基盤をなすインスリン抵抗性および動脈硬化の発症・進展を誘導する原因物質となる。
Claims (2)
- ヒトから採取した血液を被検試料とし、該試料中の高比重リポ蛋白(HDL)の構成アポ蛋白と低比重リポ蛋白(LDL)との複合体を測定対象とすることを特徴とする、メタボリックシンドロームの予知検査方法。
- ヒトから採取した血液を被検試料とし、該試料中のHDLの構成アポ蛋白とLDLとの複合体を検出し得る抗体を備えたことを特徴とする、メタボリックシンドロームの予知検査用キット。
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