JP4485634B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は鉛蓄電池及び鉛蓄電池用添加剤に係り、特に、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した鉛蓄電池であって、負極板、又は、負極板及びセパレータにリグニンを添加した鉛蓄電池、及び該鉛蓄電池用添加剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉛蓄電池は、二次電池電源としてコスト面及び信頼性の面で優れていることから、無停電電源装置、自動車、電気自動車、据置用等の幅広い分野で使用されている。最近、これらに用いられる鉛蓄電池の高率放電特性の向上及び長寿命化が強く望まれている。
【0003】
鉛蓄電池の高率放電特性を向上させ、長寿命化するには、負極活物質を微細化したり多孔質化することによって、負極板の電極反応面積を大きくすればよい。このため、負極板の活物質層に添加剤であるリグニンを含有させたり、負極板と接触するセパレータにリグニンを含浸させる手法が有効であることが知られている。
【0004】
一方、鉛蓄電池の上述した特性を向上させるリグニンは、製紙工業において、木材(リグノセルロースとも呼ばれている。)からパルプ(以下、セルロースという。)を得る工程での副産物として得ることができる。製紙工業では、木材を破砕したチップを、アルカリ蒸解法(クラフト蒸解法)やサルファイト蒸解法により、高温・高圧の条件下で蒸解・処理して、セルロースとリグニンとに分離している。なお、一般的には、アルカリ蒸解法で得られたリグニンをクラフトリグニンと呼び、サルファイト蒸解法で得られたリグニンをリグニンスルホン酸と呼んでいる。
【0005】
天然状態でのリグニンは、ベンゼン核に1個又は2個のメトキシ基を有するフェニルプロパン(グアイヤシルプロパンやシリンギルプロパン等)が3次元的にランダムに重合した高分子体であり、木材の細胞壁の周りに強く絡まっている。このため、木材を形成している細胞と細胞の間に、3次元の網目状に存在して細胞同士を繋ぐバインダの働きをしている。また、従来のクラフト蒸解法やサルファイト蒸解法で単離されたリグニン(以下、工業リグニンという。)は、毬藻状にリグニン分子が絡み合った構造となっていることが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した製紙工業における蒸解プロセスは、高温(130°C〜180°C)・高圧(約700kPa)の条件下で行われるので、リグニンの3次元構造の一部が破壊される。このため、工業リグニンは蒸解プロセスでランダムに分解を受けると共に、分子レベルにおいても高度に変性を受けるので、官能基の不活性化が起こったり、安定性が損なわれる。従って、60°Cを超える高温環境下で使用される鉛蓄電池に、工業リグニンを使用すると、短期間で高率放電特性や長寿命特性の効果が失われる、という問題点がある。
【0007】
このような不安定な工業リグニンに代わる添加剤として、スルホン酸系界面活性剤、高分子系界面活性剤等の種々の有機化合物が検討されてきたが、現在に至るまで満足する結果が得られていないのが実状である。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、高率放電特性に優れ、長寿命な鉛蓄電池及び安定な鉛蓄電池用添加剤を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様は、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した鉛蓄電池であって、前記負極板、又は、前記負極板及びセパレータにリグニンを添加した鉛蓄電池において、前記リグニンは、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し、攪拌して作製したものであることを特徴とする。
【0010】
フェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し攪拌して作製したリグニンは、蒸解プロセスによる高温・高圧下での単離工程を伴わないので、リグニンの官能基の不活性化や安定性を損なうことがなく、また分子構造においても、毬藻状に分子が絡み合う蒸解プロセスで単離された工業リグニンに対し、直線状に近い高分子体の構造をとるので、フェノール基やメトキシ基等が有効に機能する。本発明では、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し攪拌して作製したリグニンを、負極板、又は、負極板及びセパレータに添加するので、リグニンの官能基の不活性化や安定性を損なうことがなく、鉛蓄電池の高率放電特性の向上及び長寿命化を実現することができる。
【0011】
この場合において、フェノール誘導体に、クレゾール、ジメトキシフェノール及びメトキシフェノールの少なくとも何れか一方、又は、ポリフェノール類を用いることが好ましい。また、添加する酸には、65質量%以上の濃度を有する硫酸を用いることが好ましい。
【0012】
そして、本発明の第2態様は、負極板、又は、負極板及びセパレータに添加される鉛蓄電池用添加剤をフェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し、攪拌して作製したリグニンとしたものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、本発明を密閉型鉛蓄電池に適用した第1の実施の形態について説明する。まず、本実施形態の密閉型鉛蓄電池の作製手順について、リグニンの作製、負極板の作製、電池の製造の順に説明する。なお、本実施形態以下の実施形態では、正極板に従来の(公知の)正極板を使用したので、説明を簡潔にするために、正極作製手順についてはその説明を省略する。
【0014】
<リグニン>
リグノセルロースとして広葉樹の木粉を使用し、木粉に、詳細を後述するように、フェノール誘導体としてのクレゾール、ジメトキシフェノール及びメトキシフェノールの少なくとも何れか一方、又は、ポリフェノール類としてのカテコール、を浸透させた後に、濃度が65質量%以上の硫酸を加えて、25°Cの雰囲気温度下で後述する所定時間、激しく攪拌して十分に反応させた後、所定溶液によりリグニンを沈殿させるか又は過剰な水を投入して不溶解なリグニンを回収し、得られたリグニンを乾燥させた。
【0015】
<負極板>
酸化鉛(PbO)を主成分とする鉛粉に、上述したリグニンを0.2質量%及び硫酸バリウムを1質量%添加して混合した後、鉛粉100質量部に対して比重1.26の希硫酸10質量部と、水7質量部と、を加えて練合し、負極用のペースト状活物質を作製した。このペースト状活物質を、69mm×44mm×2.4mmサイズの鉛−カルシウム−錫合金からなる集電体格子に充填して、温度45°C、湿度98RH%の雰囲気下で24時間熟成させ、60°Cの雰囲気温度で16時間乾燥させて未化板とした。この未化板を、比重1.050の希硫酸中で24時間化成して負極板とした(以下、リグニン含有負極板という。)。
【0016】
<電池の製造>
リグニン含有負極板4枚と従来の手順で作製した正極板3枚とを、セパレータ(リグニンを含有しない。)を介して積層して極板群を組み立て、該極板群をABS製の電槽に組込んで、比重1.31(20°C)の電解液(希硫酸)を56ml電槽内に注入した後、密閉して7Ah−2Vの密閉形鉛蓄電池Aを完成させた。
【0017】
(第2実施形態)
次に、本発明を密閉型鉛蓄電池に適用した第2の実施の形態について説明する。本実施形態はリグニンを負極板及びセパレータに含有させたものである。なお、本実施形態において上述した第1実施形態と同一の部材は同一の部材名称を使用してその説明を省略し、異なる箇所のみ説明する。
【0018】
<リグニン含有セパレータ>
アセトンに第1実施形態で説明したリグニンを所定質量%溶解し、この溶液をガラス繊維製のマットに浸した後、該マットを所定温度雰囲気で乾燥させてアセトンを除去し、リグニンを含有するセパレータ(以下、リグニン含有セパレータという。)を作製した。
【0019】
<電池の製造>
第1実施形態に示したリグニン含有負極板4枚と正極板3枚とを、リグニン含有セパレータを介して積層して極板群を組み立て、該極板群をABS製の電槽に組込んで、比重1.31(20°C)の電解液(希硫酸)を56ml電槽内に注入した後、密閉して7Ah−2Vの密閉形鉛蓄電池Bを完成させた。
【0020】
(実施例)
次に、上述したリグニンについて詳述すると共に、上記実施形態に従って種々異なるフェノール誘導体を用いて作製したリグニンを添加した実施例の電池について説明する。なお、実施例の電池と比較のために作製した比較例の電池についても併記する。
【0021】
<実施例1>
下表1に示すように、実施例1では、フェノール誘導体として液体のクレゾールを用いてリグニンを作製した(以下、このリグニンをリグニン1と仮称する。)。すなわち、木粉1g当たりクレゾールを10ml加え、木粉の内部に十分にクレゾールを浸透させた後、木粉1gに対して濃度が70質量%の硫酸を20ml加えて、20分間、約25°Cの雰囲気で激しく攪拌して十分に反応させる。反応終了後、攪拌を停止すると硫酸溶液層とリグニン1を含むクレゾール溶液層とに速やかに分離される。このクレゾール溶液層に過剰のエチルエーテルを加えて、リグニン1を沈殿させた後に、乾燥させてリグニン1を得た。上述したように、このリグニン1を負極板に添加して、密閉形鉛蓄電池Aを完成させた(以下、実施例1の電池という。)。
【0022】
【表1】
【0023】
<実施例2>
表1に示すように、実施例2では、フェノール誘導体として固体の2−メトキシフェノールを用いてリグニンを作製した(以下、このリグニンをリグニン2と仮称する。)。すなわち、2−メトキシフェノール1gを、アセトン10mlに溶解させる。木粉1g当たり2−メトキシフェノールの溶液を10ml加え、木粉の内部に十分に2−メトキシフェノールを浸透させた後、木粉−2−メトキシフェノール複合体に濃度が70質量%の硫酸を20ml加えて、60分間、約25°Cの雰囲気で激しく攪拌して十分に反応させる。反応終了後、全反応溶液に過剰な水に投入して不溶解なリグニン2を回収した後、乾燥させてリグニン2を得た。上述したように、このリグニン2を負極板に添加して、密閉形鉛蓄電池Aを完成させた(以下、実施例2の電池という。)。
【0024】
<実施例3>
表1に示すように、実施例3では、フェノール誘導体として固体の2、6−ジメトキシフェノールを用いてリグニンを作製した(以下、このリグニンをリグニン3と仮称する。)。すなわち、2,6−ジメトキシフェノール1gを、アセトン10mlに溶解させる。木粉1g当たり2,6−ジメトキシフェノールの溶液を10ml加え、木粉の内部に十分に2,6−ジメトキシフェノールを浸透させた後、木粉−2,6−ジメトキシフェノール複合体に濃度が70質量%の硫酸を20ml加えて、60分間、約25°Cの雰囲気で激しく攪拌して十分に反応させる。反応終了後、全反応溶液に過剰な水に投入して不溶解なリグニン3を回収した後、乾燥させてリグニン3を得た。上述したように、このリグニン3を負極板に添加して、密閉形鉛蓄電池Aを完成させた(以下、実施例3の電池という。)。
【0025】
<実施例4>
表1に示すように、実施例4では、フェノール誘導体として固体の2、6−ジメトキシフェノールと2、6−ジメチルフェノールとのモル比で1:1の混合物を用いてリグニンを作製した(以下、このリグニンをリグニン4と仮称する。)。すなわち、2、6−ジメトキシフェノールと2、6−ジメチルフェノールの混合物1gを、アセトン10mlに溶解させる。木粉1g当たりこの混合物の溶液を10ml加え、木粉の内部に十分に2、6−ジメトキシフェノールと2、6−ジメチルフェノールの混合物を浸透させた後、含浸物の全量に対して濃度が70質量%の硫酸を20ml加えて、60分間、約25°Cの雰囲気で激しく攪拌して十分に反応させる。反応終了後、全反応溶液に過剰な水に投入して不溶解なリグニン4を回収した後、乾燥させてリグニン4を得た。上述したように、このリグニン4を負極板に添加して、密閉形鉛蓄電池Aを完成させた(以下、実施例4の電池という。)。
【0026】
<実施例5>
表1に示すように、実施例5では、フェノール誘導体としてポリフェノール類の一種であるカテコール(固体)を用いてリグニンを作製した(以下、このリグニンをリグニン5と仮称する。)。すなわち、カテコール1gを、アセトン10mlに溶解させた混合物を作製する。木粉1g当たり作製した混合物の溶液を10ml加え、木粉の内部に十分にカテコールを浸透させた後、含浸物の全量に対して濃度が70質量%の硫酸を20ml加えて、20分間、約25°Cの雰囲気で激しく攪拌して十分に反応させる。反応終了後、全反応溶液に過剰な水に投入して不溶解なリグニン5を回収した後、乾燥させてリグニン5を得た。上述したように、このリグニン5を負極板に添加して、密閉形鉛蓄電池Aを完成させた(以下、実施例5の電池という。)。
【0027】
<実施例6>
表1に示すように、アセトンに上述したリグニン3を1質量%溶解し、この溶液を厚さ1.8mmのガラス繊維製のマットに浸した後、該マットを60°Cで乾燥させアセトンを除去して、リグニン3を含有するリグニン含有セパレータを得た。また、負極板にはリグニン3を添加して、上述した密閉型鉛蓄電池Bを完成させた(以下、実施例6の電池という。)。
【0028】
<比較例1>
表1に示すように、比較例1では、上記実施例で負極板に添加したリグニン1〜5に代えて、従来から使用されている米国Westvaco社製の商品名INDULIN(アルカリ蒸解法により単離されたクラフトリグニン)を負極板に添加して、上述した密閉型鉛蓄電池Aを完成させた(以下、比較例1の電池という。)。
【0029】
(試験)
作製した実施例及び比較例の各電池について、以下の条件で初期放電時間及び加速試験後の放電時間を測定した:
(1)初期放電時間測定:21A放電(3CA相当、25°C、放電終止電圧:1.3V)して、初期の放電時間を測定した。
(2)加速試験後の放電時間測定:初期放電時間測定後、60°Cの恒温槽中で2.275Vの一定電圧でトリクル充電を行い、7ヶ月後に21A放電(25°C、放電終止電圧:1.3V)して放電時間を測定した。なお、60°Cでの加速試験による7ヶ月は、25°Cの温度環境下では約7年間の使用に相当する。
【0030】
(試験結果・評価)
下表2に、初期放電時間及び加速試験後の放電時間の測定結果を示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すように、実施例1〜6の電池は、比較例1の電池より初期放電時間が長く高容量である。また、加速試験後の放電時間は、比較例1の電池より概ね2倍以上である。従って、リグニン1〜5を用いた実施例1〜6の電池は、高率放電特性に優れ、高寿命であることがが分かる。
【0033】
また、表1及び表2に示すように、実施例1〜6の電池のうちでも、フェノール誘導体にメトキシ基を有するもの(実施例2)や、2個以上のメトキシ基やフェノール基を有するもの(実施例3〜5)が高率放電特性及び寿命特性の点でより好ましいことが分かる。
【0034】
このように、従来のクラフトリグニンを用いた比較例1の電池がリグニン1〜5を用いた実施例1〜6の電池がより高率放電特性及び寿命特性の点で劣るのは、クラフト蒸解法やサルファイト蒸解法で単離された工業リグニンが、蒸解プロセスにおいて高温・高圧下で分子レベルでの変性を受けていることと、毬藻状にリグニン分子が絡み合った構造となっているため、工業リグニンを用いた場合には、鉛蓄電池の添加剤として作用するフェノール基又はメトキシ基が有効に機能できないためと考えられる。この点、リグニン1〜5は、直線状に近い構造をした高分子体である。従って、試験結果でも示したように、鉛蓄電池の添加剤として作用するフェノール基又はメトキシ基は、有効に機能している。
【0035】
なお、以上の実施例では、硫酸濃度に70質量%を例示したが、硫酸濃度が65質量%以下ではリグニン1〜5の回収率が低くなるので、硫酸濃度を65質量%以上とすることが好ましい。
【0036】
更に、以上の実施形態では、各種フェノール誘導体の溶媒としてジエチルエーテルを用いた例を示したが、アセトンなど他の有機溶媒を用いても同様の結果が得られた。更にまた、ポリフェノールとしては、実施例5に示したカテコールの他に、レゾルシン、ピロガロールでも同様の効果が認められた。また更に、リグノセルロースとしては、木材以外に草本類でも同様の結果が得られた。
【0037】
そして、以上の実施形態では、密閉型鉛蓄電池について例示したが、本発明は鉛蓄電池の用途、形状等に限定されることなく上述した特許請求の範囲において種々の態様を採ることができる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し攪拌して作製したリグニンを、負極板、又は、負極板及びセパレータに添加するので、リグニンの官能基の不活性化や安定性を損なうことがなく、鉛蓄電池の高率放電特性の向上及び長寿命化を実現することができる、という効果を得ることができる。
Claims (6)
- 正極板と負極板とをセパレータを介して積層した鉛蓄電池であって、前記負極板、又は、前記負極板及びセパレータにリグニンを添加した鉛蓄電池において、前記リグニンは、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し、攪拌して作製したものであることを特徴とする鉛蓄電池。
- 前記フェノール誘導体として、クレゾールを用いることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
- 前記フェノール誘導体として、ジメトキシフェノール及びメトキシフェノールの少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
- 前記フェノール誘導体として、ポリフェノール類を用いることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
- 前記酸として、65質量%以上の濃度を有する硫酸を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
- 負極板、又は、前記負極板及びセパレータに添加される鉛蓄電池用添加剤において、前記添加剤は、フェノール誘導体が添加されたリグノセルロースに酸を添加し、攪拌して作製したリグニンであることを特徴とする鉛蓄電池用添加剤。
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