本発明は、駆動系にトルクコンバータを備えた車輌の摩擦制動装置に係り、更に詳細には車輪と共に回転する回転部材に対し摩擦係数が異なる複数個の摩擦材を押圧し、それらの押圧力を制御することにより制動力を制御する摩擦制動装置に係る。
自動車等の車輌の摩擦制動装置の一つとして、例えば本願出願人の出願にかかる下記の特許文献1に記載されている如く、高摩擦係数の摩擦材と低摩擦係数の摩擦材とを有し、マスタシリンダよりホイールシリンダへ供給される液圧が低いときには回転部材に対し低摩擦係数の摩擦材のみが押圧され、マスタシリンダよりホイールシリンダへ供給される液圧が高いときには回転部材に対し低摩擦係数の摩擦材及び高摩擦係数の摩擦材が押圧されるよう構成された摩擦制動装置が既に知られている。
実開昭60−71738号公報
一般に、低摩擦係数の摩擦材は高摩擦係数の摩擦材に比してブレーキ鳴きを発生し難いが、回転部材に対する摩擦材の押圧力が同一の場合について見て、低摩擦係数の摩擦材が発生する摩擦力は高摩擦係数の摩擦材が発生する摩擦力よりも低い。
従って上述の如き従来の摩擦制動装置によれば、運転者の制動操作量が小さく、制動圧が低いときには、低摩擦係数の摩擦材のみが回転部材に対し押圧されるので、ブレーキ鳴きを低減することはできるが、発生する摩擦力も小さくなるため、要求される制動力に比して発生する制動力が低くなってしまうという不具合がある。
また車輌が駆動系にトルクコンバータを備えた車輌(単にAT車という)である場合には、トルクコンバータのクリープ領域に於いて運転者により制動操作量が低減される場合や、車輪に制動力が付与された状態にてエンジンが冷寒始動される場合に、エンジン回転数が一時的に上昇し、ブレーキ鳴きが発生し易い。
本発明は、制動圧が低いときには低摩擦係数の摩擦材のみが回転部材に対し押圧されるよう構成された従来の摩擦制動装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、AT車に於いて、各摩擦材を回転部材に対し押圧する目標押圧量を演算するに当たり、各摩擦材が回転部材に対し押圧されることにより発生する制動力の和が運転者の制動要求量に対応する制動力になり且つブレーキ鳴きが減少するよう各目標押圧量を演算することにより、発生する制動力が要求される制動力に比して低くなることを防止しつつAT車に特有のブレーキ鳴きを効果的に低減することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、駆動系にトルクコンバータを備えた車輌に適用され、制動要求量を判定する手段と、車輪と共に回転する回転部材と、少なくとも高摩擦係数の摩擦材及び低摩擦係数の摩擦材と、各摩擦材を前記回転部材に対し押圧する複数個の押圧手段と、前記制動要求量に基づき前記押圧手段の目標押圧量を演算し、前記目標押圧量に基づき前記押圧手段の押圧量を制御する制御手段とを有する車輌の摩擦制動装置に於いて、エンジン回転数を検出する手段と、車速を検出する手段とを有し、前記制御手段は各摩擦材が前記回転部材に対し押圧されることにより発生する制動力の和が前記制動要求量に対応する制動力になるよう前記制動要求量に基づき前記押圧手段の目標押圧量を演算し、車速が基準値以下である状況に於いては、エンジン回転数が高いときにはエンジン回転数が低いときに比して、「前記高摩擦係数の摩擦材を前記回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「前記低摩擦係数の摩擦材を前記回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう前記押圧手段の目標押圧量を可変設定することを特徴とする車輌の摩擦制動装置(請求項1の構成)、又は駆動系にトルクコンバータを備えた車輌に適用され、制動要求量を判定する手段と、車輪と共に回転する回転部材と、少なくとも高摩擦係数の摩擦材及び低摩擦係数の摩擦材と、各摩擦材を前記回転部材に対し押圧する複数個の押圧手段と、前記制動要求量に基づき前記押圧手段の目標押圧量を演算し、前記目標押圧量に基づき前記押圧手段の押圧量を制御する制御手段とを有する車輌の摩擦制動装置に於いて、エンジンの温度を判定する手段を有し、前記制御手段は各摩擦材が前記回転部材に対し押圧されることにより発生する制動力の和が前記制動要求量に対応する制動力になるよう前記制動要求量に基づき前記押圧手段の目標押圧量を演算し、エンジンの始動時に於いては、エンジンの温度が低いときにはエンジンの温度が高いときに比して、「前記高摩擦係数の摩擦材を前記回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「前記低摩擦係数の摩擦材を前記回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう前記押圧手段の目標押圧量を可変設定することを特徴とする車輌の摩擦制動装置(請求項3の構成)によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は車速が基準値以下でありエンジン回転数が基準値以上であるときには、前記高摩擦係数の摩擦材を前記回転部材に対し押圧することにより発生する制動力を0に制御するよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記制御手段はエンジンの始動時に於けるエンジンの温度が基準値以下であるときには、前記高摩擦係数の摩擦材を前記回転部材に対し押圧することにより発生する制動力を0に制御するよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項1の構成によれば、各摩擦材が回転部材に対し押圧されることにより発生する制動力の和が制動要求量に対応する制動力になるよう制動要求量に基づき押圧手段の目標押圧量が演算され、車速が基準値以下である状況に於いては、エンジン回転数が高いときにはエンジン回転数が低いときに比して、「高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「低摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう押圧手段の目標押圧量が可変設定されるので、トルクコンバータのクリープ領域に於いて運転者により制動操作量が低減され車輪が回転する場合にも、ブレーキ鳴きが発生することを効果的に防止することができ、また車輌全体の制動力を確実に制動要求量に対応する制動力にし、これにより各摩擦材に対する押圧力が変化されることに起因して制動力が低下することを確実に防止することができる。
また上記請求項2の構成によれば、車速が基準値以下でありエンジン回転数が基準値以上であるときには、高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力が0に制御されるので、低摩擦係数の摩擦材のみにより制動力を発生させ、これによりブレーキ鳴きの発生を確実に防止することができる。
また上記請求項3の構成によれば、各摩擦材が回転部材に対し押圧されることにより発生する制動力の和が制動要求量に対応する制動力になるよう制動要求量に基づき押圧手段の目標押圧量が演算され、エンジンの始動時に於いては、エンジンの温度が低いときにはエンジンの温度が高いときに比して、「高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「低摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう押圧手段の目標押圧量が可変設定されるので、車輪に制動力が付与された状態にてエンジンが冷寒始動され、エンジンの回転数が高い状況にて車輌が走行を開始するような場合にも、ブレーキ鳴きが発生することを効果的に防止することができ、また車輌全体の制動力を確実に制動要求量に対応する制動力にし、これにより各摩擦材に対する押圧力が変更されることに起因して車輌全体の制動力が不必要に低下することを確実に防止することができる。
また上記請求項4の構成によれば、エンジンの始動時に於けるエンジンの温度が基準値以下であるときには、高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力が0に制御されるので、低摩擦係数の摩擦材のみにより制動力を発生させ、これによりブレーキ鳴きの発生を確実に防止することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の構成に於いて、制動要求量を判定する手段は運転者の制動操作量に基づいて制動要求量を判定するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1の構成に於いて、押圧量は押圧力であり、目標押圧量は目標押圧力であるよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は3又は上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、「高摩擦係数の摩擦材に対する押圧量」に対する「低摩擦係数の摩擦材に対する押圧量」の比が高くなるよう押圧手段の目標押圧量を可変設定するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2又は4又は上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、回転部材に対する高摩擦係数の摩擦材の押圧力を0に制御するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2又は上記好ましい態様1乃至4の構成に於いて、エンジン回転数が所定値以上であるときには、エンジン回転数が高いほど「高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「低摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう押圧手段の目標押圧量を可変設定するよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4又は上記好ましい態様1乃至4の構成に於いて、エンジンの温度は外気温若しくはエンジンの冷却水温に基づいて判定されるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4又は上記好ましい態様1乃至4又は6の構成に於いて、エンジンの温度が所定値以下であるときには、エンジンの温度が低いほど「高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「低摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう押圧手段の目標押圧量を可変設定するよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4又は上記好ましい態様1乃至4又は6又は7の構成に於いて、車速が所定値を越えるか又はエンジンの温度が所定値を越えるまで「高摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」に対する「低摩擦係数の摩擦材を回転部材に対し押圧することにより発生する制動力」の比が高くなるよう押圧手段の目標押圧量を可変設定するよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至8の構成に於いて、押圧手段は電磁式の押圧力発生装置であるよう構成される(好ましい態様9)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は本発明による車輌の摩擦制動装置の実施例1を示す概略構成図、図2は図1の上方より見た摩擦制動装置の要部の平面図、図3はロータディスク側より見た高摩擦係数の摩擦材及び低摩擦係数の摩擦材を示す正面図である。
これらの図に於いて、10は図には示されていない車輪と共に回転する回転部材としてのロータディスクを示している。ロータディスク10の外縁部に近接した位置にはキャリパ12が配置され、キャリパ12は図には示されていないばね上部材に取り付けられている。キャリパ12はロータディスク10に対し垂直な方向に往復動可能にピストン14〜18を支持している。
図示の実施例に於いては、ピストン14〜18はロータディスク10の径方向に互いに隔置された状態で互いに平行に延在している。ピストン14〜18のロータディスク10の側の端部は三又状をなし、ピストン14〜18の各枝部はキャリパ12の当接板20を貫通してロータディスク10の側へ延在している。ピストン14の各枝部の外端は支持板22に当接し、支持板22には高摩擦係数μhの摩擦材24が固定されている。ピストン16及び18の各枝部の外端は支持板26に当接し、支持板26には低摩擦係数μlの摩擦材28が固定されている。支持板22及び26は当接板20によりロータディスク10に対し垂直な方向に往復動可能に支持されている。
ピストン14〜18はそれぞれ電磁アクチュエータ30〜34により往復動され、これにより高摩擦係数の摩擦材24及び低摩擦係数の摩擦材28はそれぞれ電磁アクチュエータ30及び32、34によりピストン14及び16、18を介してロータディスク10に対し相互に独立の押圧力にて押圧されるようになっている。電磁アクチュエータ30〜34にはピストン14〜18の軸力(押圧力)Fh、Fl1、Fl2を検出する軸力センサ36〜40が設けられている。
尚図には示されていないが、電磁アクチュエータ30〜34に駆動電流が通電されていないときには、ロータディスク10より離れる方向へピストン14〜18を付勢する圧縮コイルばねの如き付勢手段が設けられており、これにより電磁アクチュエータ30〜34に駆動電流が通電されていないときには、摩擦材24及び28がロータディスク10に押圧されないようになっている。
電磁アクチュエータ30〜34は電子制御装置42により制御され、電子制御装置42には、軸力センサ36〜40よりの押圧力Fh、Fl1、Fl2を示す信号に加えて、ブレーキペダル44に設けられた踏力センサ46よりペダル踏力Fpを示す信号、車速センサ48より車速Vを示す信号、エンジン回転数センサ50より図には示されていないエンジンの回転数Neを示す信号、シフトポジション(SP)センサ52より図には示されていない自動変速機のシフトポジションを示す信号が入力される。
尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置42はCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよい。
電子制御装置42は、ペダル踏力Fpに基づき運転者の制動要求量として車輌全体の目標制動力Fballを演算し、目標制動力Fballに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の目標制動力Fbti(i=fl、fr、rl、rr)を演算する。また電子制御装置42は、高摩擦係数の摩擦材24及び低摩擦係数の摩擦材28の制動力発生中心とロータディスク10の回転軸線54との間の距離をそれぞれRh、Rlとし、制動力Fbliに対する目標制動力Fbtiの配分比をK(0≦K≦1)として、各車輪について下記の式1〜3を満たすFhi、Fl1i、Fl2iの値を電磁アクチュエータ30〜34の目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiとして演算する。
Fbti=(1−K)FhiμhRh+K(Fl1i+Fl2i)μlRl ……(1)
KFhi=(1−K)(Fl1i+Fl2i) ……(2)
Fl1i=Fl2i ……(3)
電子制御装置42は、通常制動時には配分比Kを例えば0.5の如き定数に設定し、車速Vが基準値Vo(正の定数)以下の状況に於いてエンジン回転数Neが基準値Ne1(正の定数)以上であるときには、エンジン回転数Neが高いほど配分比Kが大きくなり、エンジン回転数Neが基準値Ne2(Ne1よりも大きい正の定数)以上であるときには、配分比Kが1になるよう、エンジン回転数Neに応じて配分比Kを可変設定する。
次に図4に示されたフローチャートを参照して実施例1に於ける制動力制御ルーチンについて説明する。尚図4に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては踏力センサ46により検出されたペダル踏力Fpを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはペダル踏力Fpに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車輌全体の目標制動力Fballが演算され、ステップ30に於いては当技術分野に於いて公知の配分則に従って各車輪の目標制動力Fbtiが演算される。
ステップ40に於いてはシフトポジションがPレンジであるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進み、否定判別が行われたときにはステップ50へ進む。
ステップ50に於いては車速Vが基準値Vo以下であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ80へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進む。
ステップ60に於いてはエンジン回転数Neが基準値Ne1以上であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ80へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ70に於いてエンジン回転数Neに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより配分比Kが演算され、しかる後ステップ200へ進む。
ステップ80に於いては配分比Kが0.5に設定され、ステップ200に於いては上記式1〜3を満たすFhi、Fl1i、Fl2iの値として電磁アクチュエータ30〜34の目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiが演算され、ステップ210に於いては電磁アクチュエータ30〜34の押圧力Fhi、Fl1i、Fl2iがそれぞれ目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiになるよう電磁アクチュエータ30〜34の押圧力が制御される。
かくして図示の実施例1によれば、ステップ20に於いて運転者の制動操作量に基づき車輌全体の目標制動力Fballが演算され、ステップ30に於いて目標制動力Fballに基づき各車輪の目標制動力Fbtiが演算され、シフトポジションがPレンジ以外のレンジであり、車速Vが基準値Vo以下であり、エンジン回転数Neが基準値Ne1以上であるときには、ステップ40、50、60に於いてそれぞれ否定判別、肯定判別、肯定判別が行われる。
そしてステップ70に於いてエンジン回転数Neが高いほど配分比Kが大きくなるよう配分比Kが演算され、ステップ200に於いて配分比Kが大きいほど目標押圧力Fhtiが小さく且つ目標押圧力Fl1ti及びFl2tiが大きくなるよう、目標制動力Fbti及び配分比Kに基づき電磁アクチュエータ30〜34の目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiが演算され、ステップ210に於いて電磁アクチュエータ30〜34の押圧力Fhi、Fl1i、Fl2iがそれぞれ目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiになるよう制御される。
従って図示の実施例1によれば、トルクコンバータのクリープ領域に於いて運転者により制動操作量が低減され車輪が回転する場合にも、ブレーキ鳴きが発生することを効果的に防止することができ、また車輌全体の制動力を確実に運転者の制動操作量に対応する要求制動力に制御し、これにより各摩擦材に対する押圧力が変化されることに起因して各車輪の制動力が低下し、車輌全体の制動力が運転者の制動操作量に対応する制動力よりも低くなることを確実に防止することができる。
例えば図8はアクセルオフの状態にてシフトレンジがDレンジに切り替えられたような場合に於けるエンジン回転数Ne及び車速Vの変化の一例を示している。図示の如く車速Vが基準値Vo以下の状況にてエンジン回転数Neが基準値Ne1以上になることがある。図示の実施例1によれば、図8の時点t1よりt2までの間目標押圧力Fhtiが小さく且つ目標押圧力Fl1ti及びFl2tiが大きくなるよう制御されるので、かかる状況に於いて運転者により制動操作量が低減され車輪が回転しても、ブレーキ鳴きが発生することを効果的に防止することができる。
特に図示の実施例1によれば、シフトポジションがPレンジにあるときにはステップ40に於いて肯定判別が行われ、ステップ70が実行されるので、運転者によりブレーキペダル44が踏み込まれた状態にてシフトポジションがPレンジよりDレンジへシフトされた場合に於ける押圧力Fhi、Fl1i、Fl2iの変化を低減することができる。
また図示の実施例1によれば、ステップ70に於いて配分比Kはエンジン回転数Neが高いほど配分比Kが大きくなるよう演算されるので、例えばエンジン回転数Neが基準値Ne2未満に於いては配分比Kが0.5に設定され、エンジン回転数Neが基準値Ne2以上になると配分比Kが1に設定されるような場合に比して、配分比Kの急激な変化に起因する押圧力Fhi、Fl1i、Fl2iの急激な変化を確実に防止することができる。
また図示の実施例1によれば、エンジン回転数Neが基準値Ne2以上であるときには配分比Kが1に設定され、制動力は低摩擦係数の摩擦材28のみにより発生されるので、エンジン回転数Neが高いときにも高摩擦係数の摩擦材24がロータディスク10に対し押圧される場合に比して、確実にブレーキ鳴きの発生を防止することができる。
図6は本発明による車輌の摩擦制動装置の実施例2に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。尚図6に於いて図4に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
この実施例2に於いては、図1に於いて仮想線にて示されている如く、電子制御装置42には、温度センサ56より外気温Taを示す信号が入力される。尚車輌はAT車であるので、シフトポジションがPレンジにあり且つブレーキペダル44が踏み込まれている状況でなければ、エンジンを始動することができない。またエンジン始動時のエンジン回転数はエンジンの温度が低いほど高くなるよう制御される。
電子制御装置42は、車速Vが基準値V1(正の定数)以下であり且つエンジンの始動時に外気温Taが基準値Ta1(定数)以下であるときには、換言すればエンジンの冷寒始動時には、外気温Taが低いほど配分比Kが大きくなり、外気温Taが第二の基準値Ta2(Ta1よりも小さい定数)以下であるときには、配分比Kが1になるよう、外気温Taに応じて配分比Kを可変設定する。
次に図6に示されたフローチャートを参照して実施例2に於ける制動力制御ルーチンについて説明する。尚図6に示されたフローチャートによる制御も図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。またフラグFsはエンジンの冷寒始動時の押圧力の制御が必要な状況であるか否かに関するものであり、図6に示されたフローチャートによる制御の開始時には0に初期化され、1はエンジンの冷寒始動時の押圧力の制御が不要であることを示している。
図6に示されている如く、ステップ10〜30は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ30が完了するとステップ90へ進み、ステップ90に於いてはフラグFsが0であるか否かの判別、即ちエンジンの冷寒始動時の押圧力の制御が必要であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ140へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進む。
ステップ100に於いては車速Vが基準値V1以下である否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ130へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ110へ進む。
ステップ110に於いては外気温Taが基準値Ta1以下である否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ130へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ120に於いて外気温Taに基づき図7に示されたグラフに対応するマップより配分比Kが演算され、しかる後ステップ200へ進む。
ステップ130に於いてはフラグFsが1にセットされ、ステップ140に於いては配分比Kが0.5に設定され、しかる後上述の実施例1の場合と同様の要領にてステップ200及び210が実行される。
かくして図示の実施例2によれば、ステップ100及び110に於いてエンジンの冷寒始動時であるか否かの判別が行われ、エンジンの冷寒始動時であるときには、ステップ120に於いて外気温Taが低いほど配分比Kが大きくなり1に近づくよう外気温Taに基づき配分比Kが演算されるので、外気温Taが低く始動時のエンジン回転数Neが高いほど高摩擦係数の摩擦材24に対する目標押圧力Fhtiが小さく且つ低摩擦係数の摩擦材28に対する目標押圧力Fl1ti及びFl2tiが大きくされる。
従ってエンジンが冷寒始動され、シフトレンジがPレンジよりDレンジに切り替えられ、車輌が走行を開始する際にブレーキ鳴きが発生することを効果的に防止することができ、また車輌全体の制動力を確実に運転者の制動操作量に対応する要求制動力に制御し、これにより各摩擦材に対する押圧力が変化されることに起因して各車輪の制動力が低下し、車輌全体の制動力が運転者の制動操作量に対応する制動力よりも低くなることを確実に防止することができる。
特に図示の実施例2によれば、配分比Kは外気温Taが低いほど1に近づくよう可変設定されるので、例えば外気温Taが基準値Ta1よりも高いときには配分比Kが0.5に設定され、外気温Taが基準値Ta1以下になると配分比Kが1に設定されるような場合に比して、配分比Kの急激な変化に起因する押圧力Fhi、Fl1i、Fl2iの急激な変化を確実に防止することができる。
また図示の実施例2によれば、外気温Taが基準値Ta1以下であるときには配分比Kが1に設定され、制動力は低摩擦係数の摩擦材28のみにより発生されるので、外気温Taが基準値Ta1以下であるときにも高摩擦係数の摩擦材24がロータディスク10に対し押圧される場合に比して、確実にブレーキ鳴きの発生を防止することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例1に於いては、ステップ40に於いてシフトポジションがPレンジであるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進み、否定判別が行われたときにはステップ50へ進むようになっているが、このステップ40は省略されてもよい。
また上述の実施例2に於いては、外気温Taに基づいてエンジンの温度が判定され、外気温Taに応じて配分比Kを可変設定されるようになっているが、エンジンの温度及び配分比Kの可変設定はエンジン冷却水温又は外気温及びエンジン冷却水温に基づいて判定され、制御されてもよい。
また上述の実施例2に於いては、ステップ110に於いて肯定判別が行われるとステップ120へ進むようになっているが、ステップ110に於いて肯定判別が行われると、エンジン回転数Neが基準値Ne2以上であるか否かが判別され、エンジン回転数Neが基準値以上であると判別されたときにステップ120へ進むよう修正されてもよい。
また例えば上述の実施例2のステップ90に於いて否定判別が行われたときには、実施例1のステップ40へ進むよう修正されることにより、上述の実施例1及び2が統合されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、ピストン14〜18はそれぞれ三つの枝部を有し、それぞれ電磁アクチュエータ30〜34により往復動されるようになっているが、各枝部に相当する相互に独立の複数のピストン毎にそれらを往復動させるアクチュエータが設けられてもよい。
また上述の各実施例に於いては、運転者の制動操作量に基づき車輌全体の目標制動力Fballが演算され、目標制動力Fballに基づき各車輪の目標制動力Fbtiが演算され、目標制動力Fbtiに基づき電磁アクチュエータ30〜34の目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiが演算され、押圧力Fhi、Fl1i、Fl2iがそれぞれ目標押圧力Fhti、Fl1ti、Fl2tiになるよう電磁アクチュエータ30〜34が制御されるようになっているが、各車輪の目標制動力Fbtiに基づき各ピストンの目標変位量が演算され、各ピストンの変位量がそれぞれ対応する目標変位量になるよう各アクチュエータが制御されてもよい。
尚この修正例の場合には、電磁アクチュエータ30〜34の押圧力Fh、Fl1、Fl2を検出する軸力センサ36〜40は各ピストンの変位量を検出するエンコーダーの如き変位量センサに置き換えられる。
また上述の各実施例に於いては、高摩擦係数μhの摩擦材24及び低摩擦係数μlの摩擦材28はロータディスク10の径方向に整合して配列されているが、例えば図9に示されている如く高摩擦係数μhの摩擦材24及び低摩擦係数μlの摩擦材28はロータディスク10の径方向に垂直な方向に整合して配列されてもよい。
更に上述の各実施例に於いては、摩擦材は高摩擦係数μhの摩擦材24及び低摩擦係数μlの摩擦材28の二種類であるが、摩擦材は摩擦係数が互いに異なる三種類以上の摩擦材であってもよい。
本発明による車輌の摩擦制動装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1の上方より見た摩擦制動装置の要部の平面図である。
ロータディスク側より見た高摩擦係数の摩擦材及び低摩擦係数の摩擦材を示す正面図である。
実施例1に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。
エンジン回転数Neと配分比Kとの間の関係を示すグラフである。
本発明による車輌の摩擦制動装置の実施例2に於ける制動力制御ルーチンを示すフローチャートである。
エンジン冷却水温Teと配分比Kとの間の関係を示すグラフである。
アクセルオフの状態にてシフトレンジがDレンジに切り替えられたような場合に於けるエンジン回転数Ne及び車速Vの変化の一例を示すグラフである。
高摩擦係数の摩擦材及び低摩擦係数の摩擦材がロータディスクの径方向に垂直な方向に整合して配列された例を示す正面図である。
符号の説明
10 ロータディスク
12 キャリパ
14〜18 ピストン
24 高摩擦係数の摩擦材
28 低摩擦係数の摩擦材
30〜34 電磁アクチュエータ
36〜40 軸力センサ
42 電子制御装置
44 ブレーキペダル
46 踏力センサ
48 車速センサ
50 エンジン回転数センサ
52 シフトポジションセンサ
56 温度センサ