RFIDシステムは、ICチップを備えたRFIDタグとRFIDリーダライタとの間で無線通信を行なうものである。RFIDタグは、バッテリーを搭載してその電力で駆動するいわゆるアクティブ型タグと、リーダライタからの電力を受けてこれを電源として駆動するいわゆるパッシブ型タグとがある。アクティブ型タグは、パッシブ型に比べてバッテリーを搭載しているため、通信距離や通信の安定度等の点でメリットがある一方、構造が複雑で、サイズの大型化や高コスト化等のデメリットもある。そして、近年の半導体技術の向上により、パッシブ型タグ用としてICチップの小型化、高性能化が進み、通信距離の拡張や通信の安定度の向上などにより、パッシブ型タグの幅広い分野における使用が期待されている状況である。
パッシブ型タグにおいて、周波数帯が長波帯、短波帯のRFIDタグで適用されている電磁誘導方式では、リーダライタの送信アンテナコイルとRFIDタグのアンテナコイルとの間の電磁誘導作用でRFIDタグに電圧が誘起され、この電圧によりICチップを起動して通信を可能としている。したがって、RFIDリーダライタによる誘導電磁界内でしかRFIDタグが動作せず、通信距離は数十cm程度となってしまう。また、UHF帯及びマイクロ波帯などの高い周波数帯のRFIDタグでは、電波通信方式が適用されており、電波によりRFIDタグのICチップに電力を供給しているため、通信距離は1〜8m程度と大幅に向上している。したがって、UHF帯及びマイクロ波帯などの高い周波数帯のRFIDタグは、通信距離の短い長波帯、短波帯のRFIDシステムでは実現が困難であった複数枚のRFIDタグの一括読み取りや移動しているRFIDタグの読み取りなども可能となり、その利用範囲は、今後大幅に広がるものと考えられる。そこで、UHF帯又はマイクロ波帯などの高い周波数のパッシブ型タグとしては、例えば、特許文献1〜6に記載されたものがあった。
従来のRFIDタグに関し、特許文献1の第3図には、1/2波長マイクロストリップ線路共振器13、誘電体基板14、接地導体板15を備え、1/2波長マイクロストリップ線路共振器13と接地導体板15との間にICチップを接続することにより、接地導体板15側に金属物体(導体)があっても、アンテナの放射特性には殆んど影響せずに金属物体(導体)に設置・貼り付けが可能なRFIDタグが開示されている。なお、ICチップの詳細に関し、特許文献1の第17図には、ワイヤーボンディングなどの技術により、IC106がアンテナ導体100の中心部分につながる接地線路104の裏面で接地導体側の誘電体材料の中に埋没させるように配置されたものが開示され、同様に特許文献1の第18図〜第21図には、IC121が接地導体側の誘電体材料の中に埋没させるように配置されたものが開示されており、特許文献1の段落番号0028には、IC121の接続パッドが形成される面と反対側に接地面が形成できるIC構成であれば、ボンデングワイヤ122、12、2のうち、片方のボンデングワイヤ122が不要である旨の記載がある。
特許文献2の第1図には、基材1の表面に形成された端子部3、基材1の一部に形成されたICチップ配置領域9に配置され、端子部3に接続されたICチップ5を備えたRFIDタグが開示されている。そして、それには、ICチップ5をワイヤーボンディングによる接続やICチップ5を基材1の内部に埋め込む必要はなく、アンテナ上面に実装できるため、基材1の表面に対する加工だけで簡便な構造のRFIDタグを製造でき、歩留りの低減・製造コストダウンが可能になるというものが開示されている。
特許文献3の第19図には、誘電体部材10、ICチップ用凹部10b、フィルム基材20、アンテナパターン30、ICチップ40を備えたRFIDタグ5であって、誘電体部材10にICチップ40を埋設可能なICチップ用凹部10bを設け、このICチップ用凹部10bにICチップ40を埋設させ、フィルム基材20の内面側に形成したアンテナパターン30とICチップ40とが電気的に接続するようにフィルム基材20を誘電体部材10に巻き付けてアンテナパターン30により構成したループアンテナにより、電波吸収体の近傍でも通信距離の低下を抑制したものが開示されている。
特許文献4の第1図及び第2図には、ICチップ21が基材11(基板)の凹部15に嵌合され、導電性インキを用いたスクリーン印刷で形成されたアンテナパターン13の両端がICチップ21に電気的に接続されたRFIDタグが開示されている。また、特許文献4の第4図には、2枚の一対のアンテナパターン13A、13Bを有したものが開示されている。
特許文献5の第4図には、アンテナ面30に誘電体20の一部を露出させる開口31が形成され、開口は、互いに対向するように平行に延びる一対の第1スリット31aと、該一対のスリット31aと、該一対のスリット31aを連通する第2スリット31bとを有し、前記第2スリット31bを前記一対の第1スリット31aの中間部に位置させたRFIDタグが開示されている。なお、送受信素子(ICチップ)は、第1及び第2給電点は41、42に接続されている。
特許文献6の第1図及び第2図には、長方形の導体板11の中央長手方向にスロット12が設けられて構成されたスロットアンテナ10にICチップ13が搭載されたRFIDタグが開示されている。
特開2000−332523号公報(第3図、第17図〜第21図)
特開2003−223626(第1図、第2図、第4図)
特開2002−358494号公報(第1図、第2図)
特許文献1に記載のRFIDタグは、金属物体(導体)に設置することは可能である。しかし、1/2波長マイクロストリップ線路共振器と接地導体板との間にICチップを接続する構成であるために、ICチップのワイヤーボンディングによる接続や誘電体基板の内部にICチップを埋め込む必要があるために、衝撃等によりICチップが破損する可能性は少ないが、RFIDタグ構成が複雑で製造(量産)が困難となるという課題がある。
特許文献2に記載のRFIDタグは、ICチップの小型化が進んでいたとしても、ICチップの厚みはアンテナパターンや端子部の導体厚と比較すると厚く、しかもICチップが基材の表面に実装されるためにRFIDタグの表面に突起ができてしまう。したがって、特許文献2の段落番号002、2に記載されるように、ICチップの実装部全体あるいは一部を被覆保護してRFIDタグの表面を平坦にする必要がある。すなわち、基材にアンテナパターン及びICチップを実装する場合には、衝撃等によりICチップが破損するおそれがあり、RFIDタグの表面(上面)にラベルプリンタを使用して直接印刷することが難しくなるという課題がある。また、基材にアンテナパターンとICチップとを実装したフィルムを接着する場合には、ICチップによるフィルムの膨らみ(突起)が生じるため、やはり前記のような課題がある。
特許文献3に記載のRFIDタグは、ICチップによるフィルム(フィルム基材)の膨らみ(突起)は殆んど生じないものの、金属物体などの導電性物体(導体)に貼り付けたりその近傍に設置した場合には、導電性物体の影響によりループアンテナが動作しなくなったり、通信距離が極端に低下してしまうという課題がある。
特許文献4に記載のRFIDタグは、ICチップによる膨らみ(突起)は殆んど生じないものの、特許文献3と同様に金属物体などの導電性物体(導体)に貼り付けたりその近傍に設置した場合には、導電性物体の影響によりループアンテナやダイポールアンテナが動作しなくなったり、通信距離が極端に低下してしまうという課題がある。
特許文献5に記載のRFIDタグは、特許文献1に記載のRFIDタグと同様に金属物体(導体)に設置することは可能である。しかし、特許文献1とは異なり、ICチップが誘電体20外に設けられているので、ICチップの小型化が進んでいたとしても、ICチップの厚みはアンテナパターンや端子部の導体厚と比較すると厚く、しかもICチップが基材の表面に実装されるためにRFIDタグの表面に突起ができてしまう。このために衝撃等によりICチップが破損するおそれがある。このことに加えて、開口が互いに対向するように平行に延びる一対の第1スリット31aと、該一対のスリット31aと、該一対のスリット31aを連通する第2スリット31bとを有し、該開口31は、アンテナ面30のうち該開口31を介して露出する誘電体20によって画される領域36、37が送受信素子に対する整合回路を形成するように構成されているので、給電方向が横方向に対し一対のスリット31aが横長形状となり第2スリット31bにおける横方向の正偏波の電界と併せて一対のスリット31aに縦方向の交差偏波成分の電界も発生するので、正偏波成分の利得が低下するという課題がある。
また、発生した交差偏波が、本来正偏波で意図した方向とは異なる方向に放射されるため、リーダライタと通信する時に通信したくない場所にタグがいるのに通信してしまう場合があり、タグの設置方法や運用方法が困難になるという課題もある。さらに、特許文献5に記載のRFIDタグのパッチアンテナは、給電点41、42はアンテナ面30の中央付近にあるが、スリットをアンテナ面30の中央からずらした位置に配置することを基本としているので、正偏波のパターンも非対称になり、アンテナの放射パターンの対称性に影響を与えるという課題もある。なお、これらの課題から特許文献5のパッチアンテナは、領域36、37と送受信素子(ICチップ)との整合をとることを中心に考えてことが分かる。
特許文献6の第1図及び第2図に記載されたRFIDタグは、導体パターン内部にスロットを設けたスロットアンテナを適用しており、特許文献3と同様に金属物体などの導電性物体(導体)に貼り付けたりその近傍に設置した場合には、導電性物体の影響によりループアンテナやダイポールアンテナが動作しなくなったり、通信距離が極端に低下してしまうという課題がある。さらに、特許文献6の第1図に示すスロットの長方向に磁界が発生し、この長さで共振させ放射しているため、高効率で放射するためにはスロット長さはλ/2程度必要となりRFIDタグの小型化にも課題がある。
この発明は、前述のような課題を解消するためになされたもので、通信距離を短縮することなく導電性物体や非導電性物体に関わらずに設置可能であるRFIDタグと、この機能に加えてRFIDタグの表面にICチップによる突起が生じることもないために衝撃などによるICチップの破損のおそれが低く、製造後の後加工(調整)がしやすい新規なRFIDタグを提供することを目的とする。
請求項1の発明に係るRFIDタグは、一主面に穴部を有する誘電体基板と、この誘電体基板の他主面に設けられた接地導体パターンと、前記誘電体基板の一主面上に設けられ、前記誘電体基板の端部から所定距離だけ隔ててその内側に設けられた放射部である矩形の導体パターンと、この矩形の導体パターンの内部に前記導体パターンの辺に対して角度を持たせ、傾斜して形成された長手方向に長細形状のスロットを構成し、この長細形状のスロットを構成する短手方向おいて対向する前記導体パターンの両側から前記スロットの内側にそれぞれ延びた電気接続部と、これらの電気接続部に電気的に接続され、前記誘電体基板の前記穴部に挿入され、前記導体パターンと前記接地導体パターンとの間に電界が形成され、前記長手方向に長細形状のスロットを構成する短手方向の対向部分の電位差によって給電されるICチップとを備え、前記導体パターンの辺に対して角度を持たせ、傾斜して形成された長手方向に長細形状のスロットが、前記導体パターンの縮退分離素子として動作して、円偏波が送受信可能なものである。
請求項2の発明に係るRFIDタグは、一主面に穴部を有する誘電体基板と、この誘電体基板の他主面に設けられた接地導体パターンと、前記誘電体基板の一主面上に設けられ、前記誘電体基板の端部から所定距離だけ隔ててその内側に設けられた放射部である矩形の導体パターンと、この矩形の導体パターンの内部に前記導体パターンの辺に対して角度を持たせ、傾斜して形成された長手方向に長細形状のスロットを構成し、この長手方向に長細形状のスロットを構成する短手方向おいて対向する前記導体パターンの両側にそれぞれ電気的に接続され、前記誘電体基板の前記穴部に挿入され、前記導体パターンと前記接地導体パターンとの間に電界が形成され、前記長手方向に長細形状のスロットを構成する短手方向の対向部分の電位差によって給電されるICチップとを備え、前記導体パターンの辺に対して角度を持たせ、傾斜して形成された長手方向に長細形状のスロットが、前記導体パターンの縮退分離素子として動作して、円偏波が送受信可能なものである。
以上のように、この発明に係るRFIDタグによれば、スロットに発生する電界方向とパッチアンテナの電界方向が一致しているため、交差偏波成分はかなり低く抑えられ、スロットを構成した導体パターンがパッチアンテナの放射部として作用するため、非導電性のみならず導電性の設置物に設置した場合であっても、アンテナ放射特性に殆んど影響を受けることがなく、スロットを介してICチップを導電パターンに電気的に接続する構成であるから、給電損失を低減することができ、そのために通信可能な距離が短縮することもないという効果を奏するほか、ICチップを誘電体基板の穴部に挿入する構成により、ICチップによる膨らみが生じないため、衝撃等によるICチップの破損が少なくなる。フィルム基材がないのでRFIDタグ全体の厚みの薄型化を図れる。長手方向に長細形状のスロットが放射部である矩形の導体パターンの辺に対して角度を持たせ、傾斜して設けられているので、スロットが導体パターンの縮退分離素子(摂動素子)として動作し、円偏波が送受信可能であるRFIDタグが得られるなどの効果も有する。
実施の形態1.
この発明の実施の形態1について、以下に説明する。図1は、この実施の形態1に係るRFIDタグの構成図である。図1(a)は、RFIDタグの平面図、図1(b)は、図1(a)でA−A’線により切断したときの断面図、図1(c)は、図1(a)に示したRFIDタグのスロット付近を拡大した平面図である。これらの図1において、1は、誘電体基板である。2は、誘電体基板1の一主面(表面)上に設けられた導体パターンである。導体パターン2は、図1(a)に示すように、誘電体基板1の縦及び横の端部から距離dだけ隔ててその内側に形成している。導体パターン2の中央部には、図1(a)に示すように、長細形状のスロット3を形成している。このスロット3は、導体パターン2をエッチング処理・ミリング処理・蒸着・印刷等により形成することができる。そして、このスロット3の長さ及び幅は使用周波数によって決定することができる。4は、誘電体基板1の一主面に形成した穴部(凹部)である。5は、ICチップで、後述するようなメモリ等から構成している。このICチップ5は、スロット3を介して導体パターン2に電気的に接続している。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。
ここで、ICチップ5と導体パターン2との接続構成について説明する。6、6は、図1(a)及び(b)に示すように、スロット3を構成する幅方向における対向する導体パターン2、2の両側からスロット3の内側にそれぞれ延びる突起状の電気接続部で、それぞれスロット3の両側における導体パターン2、2に連続的に繋がって電気的に接続している。これらの電気接続部6及び6は、導体パターン2の形成と同時に形成すればよい。ICチップ5の二つの端子(図示せず)は、それらの電気接続部6、6に接続することとなる。ICチップ5のサイズがスロット3の幅と同程度又はこれより小さい場合には、スロット3の幅内に入ることになるが、このときに、ICチップ5の二つの端子(図示せず)は電気接続部6、6と接続する。ところが、ICチップ5のサイズがスロット3の幅よりも大きい場合には、ICチップの端子(図示せず)はスロットを介する導体パターン2のスロット3に近い部分に電気的に接続すればよい。したがって、この場合には、前記したような電気接続部6、6を設ける必要はないことになる。
また、図1(a)においては、ICチップ5は、スロット3の長さ方向において中央部に配置しているが、その中央部ではなく図1(a)のスロット3に付させた矢印に沿って移動したスロット3の長さ方向の端部に配置してもよい。誘電体基板1の穴部4は、ICチップ5を挿入するために形成したので、その深さやその幅はICチップの大きさに対応したものとなる。ただし、ICチップを固定するためにモールド材や接着剤を使用する場合は、それらの容積を加味する必要がある。そして、その穴部4を形成する位置については、スロット3のどの位置にICチップ5を配置するかに応じて決定されるのは当然である。いずれにしても、スロット3の形状と寸法は、実装するICチップ5の電気接続部6の数と特性インピーダンスに合わせる必要がある。例えば、インピーダンス整合をとるために、スロット3の形状の微調整に加えて、ICチップ5の接続端子の足が2つの場合には、インピーダンス整合がとれる幅の2本の電気接続部6を形成すればよい。次に、7は、誘電体基板1の他主面(裏面)に設けた接地導体パターンである。
図2は、RFIDシステムの基本構成図、図2(a)は、RFIDタグとRFIDリーダライタとの間で送受信を行なう様子を模式的に示した概念図である。図2(b)は、RFIDタグの構成図であり、特に、ICチップ5の内部構成を機能的に示したブロック構成図である。図2(a)(b)において、8は、図1に示した構成のRFIDタグである。9は、RFIDタグ8に設けられたアンテナ部で、図1においてスロット3を形成した導体パターン2に相当するものである。RFIDタグ8のアンテナ部9は、前述した図1に示すように、誘電体基板1の一主面(表面)にスロット3を有する導体パターン2を設け、誘電体基板1の他主面(裏面)に接地導体パターン7を設けているので、RFIDタグ8はパッチアンテナとして機能するものである。すなわち、スロット3を有する導体パターン2がアンテナパターン(放射部)として機能する。そして、導体パターン2とスロット3とは、励振するようにRFIDシステムの使用周波数とICチップ5とのインピーダンス整合をとるように調整している。この調整は、誘電体基板1の厚みや比誘電率にも大きく関係するので、これらの条件もあわせて調整、設計することにより、所望の放射パターンや利得を得ることができる。また、スロット3は、導体パターン2の放射パターンが良好となるように導体パターン2の中央部に形成しているのは前記のとおりである。このような条件をあわせて調整して設計することにより、RFIDタグ8における所望の放射パターンや利得が得られ、RFIDタグ8、すなわち、誘電体基板1を大型化することなく、例えば、1〜8m程度の通信距離を得ることが可能となる。
また、10は、RFIDリーダライタ、11は、RFIDリーダライタ10に設けられたアンテナ部で、RFIDタグ8のアンテナ部9と無線通信を行なうものである。5は、図1において説明したICチップであり、その具体的構成については、図2(b)に示すような構成としている。12は、RFIDリーダライタ10からの送信波をRFIDタグ8のアンテナ部9により受信し、後段のディジタル部19に出力するアナログ部である。13は、送信波をA/D変換するA/D変換部、14は、アンテナ部9が受信した送信波を整流回路で平滑化して電力を生成し、RFIDタグ8の各回路に給電及び電源制御を行なう電源制御部である。15は、RFIDタグ8に搭載され、固体識別情報等のタグ情報が格納されたメモリ部である。16は、送信波を復調する復調部、17は、復調部16で復調された送信波によりメモリ部15を含むICチップ5内の回路を制御する制御部である。18は、制御部17によりメモリ部15から引き出された情報を変調する変調部である。19は、復調部15、制御部16及び変調部17により構成されるディジタル部、20は、変調部18から送信されてきた信号をD/A変換し、アナログ部12に出力するD/A変換部である。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。
ここで、このようなRFIDシステムについて、その基本的な動作について説明する。このようなRFIDシステムを利用する用途(生体・物品の入退室管理や物流管理)に合わせて、それらのタグ情報がRFIDタグ8のメモリ部15に格納されており、RFIDリーダライタ10は、自身の送受信エリア内にRFIDタグ8が(入退室管理や物流管理の対象である生体・物品に貼り付けられて)存在又は移動しているときにタグ情報の更新・書き込み、又は読み出しを行なうことができる。RFIDリーダライタ10は、更新・書き込み、又は読み出し等をRFIDタグ8に命令するコマンド信号を送信波としてRFIDリーダライタ10のアンテナ部11からRFIDタグ8のアンテナ部9へ送信する。RFIDタグ8のアンテナ部9が送信波を受信し、送信波は電源制御部14により検波・蓄電(平滑化)され、RFIDタグ8の動作電源を生成し、RFIDタグ8の各回路に動作電源を供給する。また、送信波は復調部16によりコマンド信号が復調される。復調されたコマンド信号の命令内容から制御部17がデータ処理し、メモリ部15へタグ情報の更新・書き込みと読み出しとのいずれか一方、又は両方の指示を行ない、この制御部17の指示によりメモリ部15が出力した読み出し信号が変調部18により変調された返信波がアナログ部12を経由してアンテナ部9からRFIDリーダライタ10のアンテナ部11に送信され、RFIDリーダライタ10が読み出し信号を受信して、所望の情報を得る。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。
さらに、実施の形態1に係るRFIDタグを使用したRFIDシステムの動作について、詳細に説明すると、RFIDリーダライタ10は、更新・書き込み、又は読み出し等をRFIDタグ8に命令するコマンド信号を送信波としてRFIDリーダライタ10のアンテナ部11からRFIDタグ8のアンテナ部9へ送信する。RFIDタグ8を構成する誘電体基板1の電波の放射部である導体パターン2が送信波を受信して、スロット3の対向部分間に電位差が生じ、送信波がICチップ5に供給され、上述のように、ICチップ5に供給された送信波は、電源制御部14により検波・蓄電(平滑化)され、RFIDタグ8の動作電源を生成し、RFIDタグ8の各回路(ICチップ5)に動作電源を供給し、送信波からコマンド信号が復調され、復調されたコマンド信号の命令内容からメモリ部15へタグ情報の更新・書き込みと読み出しとのいずれか一方、又は両方を行ない、メモリ部15が出力した読み出し信号が返信波としてICチップ5に送信波が供給された経路と同じ経路を遡り、放射部である導体パターン2からRFIDリーダライタ10に返信波が送信され、RFIDリーダライタ10のアンテナ部11が返信波を受信して、所望の情報を得るということになる。なお、RFIDシステムが行なう無線通信のデータの中身は、従来からものでもよいし、新規なものでもよく、誘電体基板1の裏面に接地導体パターン7を形成しているので、誘電体基板1の裏面側を設置対象の面に向けることで、設置対象が導体や非導体に関わらず設置が可能な簡易構造のRFIDタグを安価で製造できるため、大量のRFIDタグを必要とする物流管理、倉庫管理、機材管理、自動車の入退場管理など幅広い分野で利用でき、設置対象や設置対象の面が導電性物体などの導体であっても設置することが可能である。
実施の形態1に係るRFIDタグの製造方法は、前述の特許文献1〜5(特許文献6は、導体板にスロットを開けたものであるので除く)などに記載された一般的なRFIDタグの製造方法でよい。図3及び図4を用いて製造方法の例を簡単に説明する。図3は、誘電体基板1の一主面にICチップ5を挿入するための穴部4を形成した誘電体基板1の平面図である(穴部が形成された誘電体基板1の構成図)。なお、この穴部4は、切削等により基板に形成することや射出成型法による基板であれば成型時に形成することなどが考えられる。図4は、実施の形態1に係るRFIDタグの製造方法を(a−1)〜(c−1)、(a−2)〜(d−2)、(a−3)〜(d−3)の三つに分類したの製造プロセス図である。この三つの製造方法において、図4(a−1)図4(b−1)図4(a−3)はそれぞれの製造方法の初期段階を示し、それぞれの構造は共通であり、誘電体基板1の一主面(表面)に穴部4、他主面(裏面)に接地導体パターン7を設けた状態である。接地導体パターン7の形成方法は、一般的な基板の製造方法を使用すればよい。なお、図4は、完成したRFIDタグが図1(b)と同様に、図1(a)でA−A’線により切断したときの断面図に対応するように図示している。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。
図4(a−1)〜図4(c−1)に示す製造方法を説明する。前述の図4(a−1)、つまり初期状態の誘電体基板1の穴部4にICチップ5を載置して図4(b−1)の状態にする。次に、誘電体基板1の表面に導体パターン2(スロット3及び電気接続部6を含む)を印刷や蒸着により形成する。導体パターン2形成の際に、ICチップ5の二つの端子(図示せず)は、それらの電気接続部6、6に接続することとなる。このようにすることにより、図4(c−1)に示すRFIDタグが完成する。次に、図4(a−2)〜図4(d−2)に示す製造方法を説明する。この方法は、誘電体基板1の穴部4にICチップ5を載置して図4(b−2)の状態にした後に、誘電体基板1の表面に導体層21を形成してから(図4(c−2))、導体層21をエッチングやミリングにより導体パターン2(スロット3及び電気接続部6を含む)を誘電体基板1に形成する。このようにすることにより、図4(d−2)に示すRFIDタグが完成する。なお、導体層21形成の際に、ICチップ5の端子(図示せず)は、最終的に電気接続部6、6が形成される箇所に対応する導体層21に接続されている。
続いて、図4(a−3)〜図4(d−3)に示す製造方法を説明する。この方法は、前述の図4(a−2)〜図4(d−2)の方法と比較して(d−2)と(d−3)のプロセスは、ほぼ同様であるので異なるプロセスの(b−3)及び(c−3)を説明する。最初に誘電体基板1の表面に導体箔22を対向させる(図4(b−3))。この際、導体箔22には、ICチップ5が実装されており、ICチップ5の二つの端子(図示せず)は、最終的に電気接続部6、6が形成される箇所に対応する導体箔22に接続されている。そして、誘電体基板1の表面上に導体箔22を穴部4とICチップ5とを位置合わせを行ない載置する(図4(c−3))。なお、このような一般的な基板加工方法やRFIDタグ製造方法の以外の方法でも、実施の形態1に係るRFIDタグの構成を実現できるのであれば、特に製造方法の制約はない。
以上のように、実施の形態1に係るRFIDタグは、ICチップ5が誘電体基板1の一主面に形成した穴部4に挿入され、チップボンディングにより導体パターン2と電気的にICチップ5が接続された構成にしたので、RFIDタグに衝撃等が加わった場合でも、ICチップ5の破損やICチップ5と電気接続部6との電気的な接触不良や接続の破断等の発生率を大幅に低減させることができる。また、誘電体基板1の穴部の寸法をどのようにするかは、ICチップ5の容積に対してICチップ5を穴部4に挿入する際の歩留を考慮して設定すればよい。
図5は、実施の形態1に係るRFIDタグの電界(矢印で記入)を示した電界図である。図5には、ICチップ5周辺の部分拡大図も併せて示すとともに、その部分拡大図において矢印で電界の様子を示している。図5に示した矢印は、接地導体パターン7と導体パターン2との間の電界を示しており、このような電界が導体間で形成されるため、スロット3の対向部分の間に電界が走り、電位差が生じる。誘電体基板1の厚さ方向における電界の強さが零の位置をICチップの給電点としている。図5に示すように、誘電体基板1の内部において、左右の電界が相互に打ち消しあうため、スロット3の長手方向(図5では、奥行き方向)の軸に沿った位置では、電界の強さは零となる。したがって、この位置にICチップ5の電気接続部6を配置すれば、給電損失を大幅に低減することができる。したがって、このように構成すると、スロット3に発生する電界方向とパッチアンテナの電界方向が一致しているため、交差偏波成分はかなり低く抑えられることに加えて、スロット3をパッチアンテナ(導体パターン2)の中央に設置することを基本としているために正偏波のパターンも左右対称となるので、アンテナ(RFIDタグ)の放射パターンの対称性を良好にすることができるので、導体パターン2の放射パターンの対称性に悪影響を与えることも少なく、通信可能な距離も大きく延ばすこともでき、また、構成が簡単であっても、性能が大幅に向上したRFIDタグが得られるという効果を奏する。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。
図6は、実施の形態1に係るRFIDタグにおける特性インピーダンスの変化の様子を示した特性図である。前述したところでは、誘電体基板2の端部から所定距離dだけ隔てて導体パターン2を形成する旨を記載したが、このことは、誘電体基板1の他主面の全面に接地導体パターン7を形成しているため、所定距離dは、図5に示すように、導体パターン2と接地導体パターン7との四隅における寸法差であるということができる。このようにすれば、所定距離dは、接地導体パターン7が誘電体基板1の他主面の全面に形成していない場合であっても、同じく導体パターン2と接地導体パターン7との四隅における寸法差として考えることができる。そこで、図6において、横軸は所定距離又は前記した寸法差dをRIFDタグの使用周波数の波長比を表したもので、縦軸R[Ω]及びX[Ω]はそれぞれ特性インピーダンスの実部及び虚部を表したものである。ただし、横軸のλは使用周波数の波長である。図6の特性図によれば、所定距離dが0.13λ以上の場合には、RFIDタグ8の特性インピーダンスがほぼ一定となっている。したがって、所定距離dを0.13λ以上とすることにより、RFIDタグの設置対象が導体又は非導体の物体に関わらず、また、空中に浮かしたような状態であっても、RFIDタグの特性インピーダンスがほぼ一定であるから、RFIDの性能が劣化することがなく、RFIDリーダライタ10との無線通信を可能とすることができる。なお、誘電体基板1の穴部4の位置における電界の強さが零の位置であるから、穴部4がない場合におけるRFIDタグ、つまり、ICチップ5が誘電体基板1に内挿されていない状態で、パッチアンテナの放射部である導体パターンの形状が導体パターン2同様であるRFIDタグの特性インピーダンス変化とほぼ同様であるといえる。
実施の形態2.
この発明の実施の形態2について、図7を用いて説明する。図7は、実施の形態2に係るRFIDタグの構成を示した平面図であり、図7(a)は、RFIDタグの平面図、図7(b)は、図7(a)に示したRFIDタグのスロット付近を拡大した平面図である。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。ここでは、実施の形態1の場合には、ICチップ5の端子(図示せず)が2つ、すなわち、足が2つのICチップを用いた場合について説明したが、ICチップ5の端子が4つのものを実装する場合には、実施の形態1において説明した電気接続部6、6のほかに、2つのダミーパッド23、23をスロット3に内側であって、電気接続部6、6の近傍に設けている。これらのダミーパッド23、23の形成方法は、電気接続部6、6を形成すると同時に、形成する。また、ダミーパッド23、23は、導体パターン2及び電気接続部6、6とは電気的に接続されていない単なるダミーとしてのパッドである。このように、RFIDに実装するICチップ5の仕様の変更に柔軟に対応できるので、簡易構造のRFIDタグを安価で製造することができる。なお、ダミーパッド23の数は、2つに限定されたものではない。なお、後段の実施の形態3においては、ダミーパッド23を有するRFIDタグを用いて説明を行っていく。
実施の形態3.
この発明の実施の形態3について図8〜図10を用いて説明する。図8は、実施の形態3によるRFIDタグの構成図、図8(a)は、RFIDタグの平面図、図8(b)は、実施の形態2によるRFIDタグのスロット拡大図、図9は、実施の形態3によるRFIDタグの構成図、図10は、実施形態2によるRFIDタグの構成図であり、図8〜図10において、24は、ICチップ5が配置された位置から相反方向に幅広になるように形成したテーパ状のスロット、25は、導体パターン2の端部に切り欠き状に設けられた電気長調整部、26は、導体パターン2の辺に対して角度を持たせて形成され、導体パターン2に縮退分離方式を用いて円偏波を放射させるスロットである。図中、同一符号は、同一又は相当部分を示しそれらについての詳細な説明は省略する。以下、図8〜図10を用いて実施の形態3に係るRFIDタグの構造及び動作を説明する。なお、実施の形態3では、RFIDタグの広帯域化・電気長調整方法・縮退分離による円偏波送受信に関するもので、基本的な構成や発明の効果は、実施の形態2及び2と同様である。
図8(a)(b)は、RFIDタグの広帯域化に関するもので、スロット24はICチップ5が配置された位置から相反方向に幅が拡がっていくテーパ状になっている。図1のスロット3と比較すると、スロット3の対向部分が電気接続部6を除き、相反方向ともに一定の幅が形成されている。このようにスロット24がテーパ状を成していることにより、RFIDタグの使用周波数の広帯域化が実現でき、帯域はテーパの拡がる寸法を調整することにより選択が可能である。したがって、RFIDシステムの通信可能帯域を広帯域化できるため、インピーダンス整合が容易で製造誤差による歩留りの悪化を低減できるだけでなく、RFIDタグ8が設置した周囲の環境により水滴や汚れが付着してインピーダンス変化に強い耐環境性を有したRFIDタグを得ることができる。なお、ダミーパッド23は、ICチップ5に設けられた端子の足の数により、必要がない場合もある。
図9は、RFIDタグの電気長調整方法に関するもので、図1のRFIDタグとの大きな違いは、図示されるように、導体パターン2の側部に切り欠きのような形状の電気長調整部25が形成された導体パターン2である。電気長調整部25は、スロット3とは垂直となる位置に設けられているので、導体パターン2の実効的な電気長が見かけの長さよりも長くなり、RFIDシステムの使用周波数が固定でも、導体パターン2の大きさを小さくできるので、RFIDタグ8全体の寸法が小さくできる。導体パターン2の長さ未満であれば、電気長調整部25の長さは変更できるので、長さや切り込みの程度を調整して設計することにより、RFIDタグ8全体の寸法を名刺大にすることや設置対象にあわせた寸法にすることも、ある程度の範囲内では可能である。したがって、タグの寸法・形状の自由度が増す(言い換えると、制約が改善される)ため、設置個所の自由度をこれまで以上に拡大することができる。なお、電気長調整部25の調整以外にも、実施の形態1と同様に、誘電体基板1の厚みや比誘電率,導体パターン2,スロット3の寸法などが大きく関係するので、これらの条件もあわせて調整して設計することにより、RFIDタグ8の寸法及び所望の放射パターンや利得を得ることができる。また、導体パターン2の片側だけに設けてもよい。
図10は、RFIDタグの縮退分離による円偏波送受信に関するもので、図1のRFIDタグとの大きな違いは、図10に示されるように、スロット26の位置が導体パターン2に対して、傾斜して設けられている。図1のスロット3と比較すると、スロット26は、ICチップ5を中心にしておよそ45°傾斜して形成される(傾斜させる方向は、送受信する電波が、右旋性か左旋性かにより決定する)。このような位置に設けられているので、スロット26は導体パターン2の縮退分離素子(摂動素子)として動作する。つまり、近似的に、図1のRFIDタグの放射パターンに同じ放射パターンの位相をπ/2ずらして重ねた放射パターンに近い放射パターンを持つ円偏波が送受信可能であるRFIDタグが得られるので、RFIDシステムの無線通信に円偏波の電波が使用されても対応が可能となる。なお、一般的に、縮退分離素子は導体パターン2に対して、およそ45°程度傾斜して形成させるが、給電点の影響で良好な放射パターンを得るためには、傾斜角度をおよそ45°ではなく、微調整を行なう必要がある。しかし、本発明は、給電点(ICチップ5)を電界が0となる位置に設けているので、比較的、微調整の幅が狭くなり、調整が容易となる。さらに、実施の形態3におけるRFIDタグの電気長調整方法・広帯域化・縮退分離による円偏波送受信は、それぞれを組み合わせて実施することが可能である。