JP4478073B2 - 連続鋳造鋳型の設計方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋳片の極力均一な凝固を実現し、かつ、鋳型の下端でブレークアウト限界シェル厚以上を確保する、連続鋳造用鋳型の設計方法に関する。
連続鋳造用の鋳型の鋳造方向の形状(テーパ(傾き)形状)は、鋳片の凝固収縮形状に合うように、曲面勾配あるいは多段勾配状に設定する技術が一般的である。例えば、特許文献1には、鋳片の短辺コーナー部の凝固収縮量プロフィールにほぼ沿った曲面勾配もしくは多段勾配状に短辺鋳型面を形成する鋳型が開示されている。
また、特許文献2には、鋳型の横断面形状が4本の直線辺を4個の4分の1円弧で接続した四角形であり、内周長が上端側で大きく下端側で小さくなっており、内周長減少率が上端から下端に向かって小さくなっていることを特徴とする鋳型が開示されている。さらに、溶鋼湯面を上下に変位させることにより、初期凝固の収縮外形と近似的に等しい内周長の鋳型部分を常に使用し、鋳型と凝固シェルの接触状態を最適に保つようにすること、鋳型銅板と凝固シェルの接触状態を示す物理量として、鋳型内引き抜き抵抗値、銅板温度、鋳型冷却水の給水側と排水側の温度差の1または2以上の組み合わせを用い、この物理量に基づき溶鋼湯面を上下に変化させることが開示されている。
特開昭57−79047号公報 特開平6−297101号公報
しかし、連続鋳造における鋳型内コーナー部近傍の凝固収縮のプロフィールは、鋳型の形状に大きく依存するため、鋳型形状を特許文献1に示すように凝固プロフィールから設計することは難しいという課題がある。また、コーナー部近傍で生じる鋳片と鋳型間のギャップに起因する凝固遅れ量の定量化が困難なため、ブレークアウトが生じる限界鋳造速度を決めることも難しかった。
また、特許文献2では、鋳型銅板と凝固シェルの接触状態を示す物理量として、鋳型内引き抜き抵抗値、銅板温度、鋳型冷却水の給水側と排水側の温度差の1または2以上の組み合わせを用いているが、凝固シェル厚みを直接の指標としていないために、シェル厚不均一に伴う鋳片の割れやブレークアウト等のトラブルを回避して、鋳型形状を設計するのが難しい。
そこで、本発明は、凝固したシェル厚の均一性を確保するとともに、最小シェル厚をブレークアウト限界のシェル厚み以上に出来る様な、連続鋳造鋳型を設計する方法を提供することを目的とするものである。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)溶融金属の連続鋳造鋳型を設計するに際し、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)を最大シェル厚(A)で除した値が所定値(X)以上(B/A≧X)、かつ、最小シェル厚(B)の値が所定値(Y)以上(B≧Y)を満足するように、鋳型の鋳造方向の傾きまたは曲率を設定することを特徴とする連続鋳造鋳型の設計方法。
(2)溶融金属の連続鋳造鋳型を設計するに際し、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)を最大シェル厚(A)で除した値が所定値(X)以上(B/A≧X)、かつ、最小シェル厚(B)の値が所定値(Y)以上(B≧Y)を満足するように、鋳型の鋳造方向の形状を、異なる傾きの直線の組み合わせ、異なる曲率の曲線の組み合わせ、直線と曲線の組み合わせ、または異なる傾きの直線と異なる曲率の曲線の組み合わせとして設定することを特徴とする連続鋳造鋳型の設計方法。
(3)溶融金属の連続鋳造鋳型を設計するに際し、鋳型の鋳造方向の傾きまたは曲率の設定値を、(1)または(2)に記載の方法により設定された設定値に対して、大きな値に設定することを特徴とする連続鋳造鋳型の設計方法。
(4)鋳型とシェルの間の拘束力が所定値(Z)以下となるように、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方を設定することを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
(5)鋳型とシェルの間のギャップ量の最大値が所定値(G)以下になるように、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方を設定することを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
(6)鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方の値に対して、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)、最大シェル厚(A)、鋳型とシェルの間の拘束力、および鋳型とシェルの間のギャップ量を、以下の(a)〜(d)の手順により計算で求めることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
(a) 鋳造する鋼種に応じて、溶鋼のスーパーヒート(ΔT)、鋳造速度(Vc)を入力条件として、[式1]により鋳造方向の抜熱量(q)を計算し、周方向の抜熱量を均一として[式2]によりシェル厚(t)を計算。
q=α×(z/Vc)−β [式1]
t=γ×∫(q−δ×ΔT)dt [式2]
z:メニスカスからの距離、
α,β,γ,δ:定数、
但し、[式2]のqは、くりかえし計算ではq′を用いる。
(b) シェルの変形量(u)を[式3]により計算し、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方の値における、鋳型とシェルの間のギャップ量(gap)を[式4]により計算。
[K]{u}={L}+{L}+{L}+{Lvp} [式3]
gap=u(鋳型面に垂直方法の変位量) [式4]
u:変位(変形量)
:外力
:温度変化による荷重
:相変態による荷重
vp:粘塑性荷重
K:FEMで計算する場合の全体合成マトリックス({}列ベクトル)
鋳型とシェルの間の拘束力は、ギャップ量(gap)が0(鋳型とシェルの間に隙間なし)の部位で、その部位の面積にその部位に作用する溶鋼静圧を乗じて、鋳型全体で積分して求める。
(c) 鋳型とシェルの間にギャップが生じた部位の抜熱量(q′)を[式5]により計算。
q′=f(gap)×q [式5]
gap:ギャップ量
f:ギャップ量に反比例する任意の関数
(d) 上記の[式2]〜[式5]を、シェルの変形量(u)が収束するまで、繰り返し計算。
(7) 鋳型下端での最小シェル厚(B)、最大シェル厚(A)を、鋳片の鋳造断面凝固組織観察により求めることを特徴とする(1)〜(5)いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
本発明の連続鋳造用鋳型の設計方法により、鋳片の凝固不均一を解消し、さらにシェル厚をブレークアウト限界厚み以上に確保するように、鋳型の鋳造方向の傾きあるいは形状を設計できるため、この方法で設計した連続鋳造鋳型を用いることで、鋳片の表面割れ、内部割れの無い品質の良い鋳片を安定的に鋳造することが出来る。
本発明者は、品質のよい鋳片を安定的に鋳造可能な鋳型を設計するために、凝固シェル厚みを直接の指標とすることが重要であることに着目し、本発明を成し得るに至った。以下に詳細に説明する。
図1は、鋳型下端での鋳片の凝固均一度を表す指標を表す模式図である。鋳型のコーナー部近傍は、鋳片鋳型面部の凝固収縮と鋳型の傾きや曲率との不一致に伴い、鋳型と鋳片の間に空隙が生じやすく、鋳片の凝固が遅れる。
この様な鋳型のコーナー部近傍での鋳片の凝固遅れにより、シェル厚の不均一な鋳片が鋳造されることや、あるいはシェル厚が薄い部分で鋳造中にブレークアウトが生じることが懸念される。従って、凝固シェル厚が極力均一な鋳片を鋳造でき、さらにシェル厚が薄い部分がブレークアウトを生じることのない厚みで鋳造できる様な、連続鋳造鋳型を設計することは、極めて重要である。
そこで、凝固シェル厚みを直接の指標として、凝固シェル厚の均一度(鋳型下端の最小シェル厚(B))/(最大シェル厚(A))及び、最小シェル厚み(B)の双方の値がそれぞれ所定値以上を満足することを指標として、鋳型の鋳造方向の傾き(直線の場合)や曲率(曲線の場合)を、適正に設定する様な、鋳型の設計方法を新たに見出した。
ここで、鋳型下端の任意の面での凝固遅れ部の最小シェル厚をB(通常はコーナー部近傍の50mm範囲程度位置のシェル厚)、鋳型下端の同じ面での最大シェル厚をA(通常は面中央部のシェル厚)として、B/Aを凝固均一度と定義する。B/A=1の時に凝固は鋳型下端の周方向で均一であることを示す。
また、鋳型には面が4面あるので、B/Aは各面ごとに4つ定義されるが、本発明の指標には、4つのB/Aの中の最小値を用いることが最も厳しい評価をする点で好ましい。さらに、同様にBも各面ごとに4つ定義されるが、最小のシェル厚Bの値を用いることがブレークアウト限界を表現する点で好ましい。
以上の通り、B/Aは、要求される鋳片の凝固均一度等を考慮して設定される所定値(X)以上を満足し、また同時に、Bはブレークアウト限界のシェル厚を考慮して設定される所定値(Y)以上を満足する様に設定することで、鋳片の凝固不均一を解消してシェル厚をブレークアウト限界厚み以上に確保できるものであるが、所定値(X)および所定値(Y)は特に規定するものではなく、要求される鋳片の品質や鋼種等により、事前検討等により適宜設定するものである。
ここで、B/AおよびBの値は、予め実験で求めることができ、またくりかえし計算で求めることもできる。
実験で求める手法としては、鋳造中にS等の特殊元素を添加して、凝固過程での偏析度から、凝固シェル厚を測定する方法、鋳片のエッチングによりホワイトバンド(吐出流等の影響で凝固組織に変化が現れることにより生成(通常は鋳型下端近傍))からシェル厚を推定する方法等が一般的である。
また、計算で求める方法としては、コーナー部の凝固遅れを計算出来る手法である、凝固計算と鋳片の変形解析を連成して解析する方法が有効である。
そこで、前記B/AおよびBに影響を及ぼす因子として、鋳型の傾きを変化させた場合の、B/AおよびBへの影響を実測および計算により確認した。具体的には、幅2000mm×厚み250mmのスラブ用連続鋳造鋳型を用いて、鋳型短辺部(厚みを構成している側の鋳型)の傾きと、B/AおよびBとの関係を求めた。
尚、計算方法の一例として、後述の、凝固と鋳片変形を連成させて解く方法を用いて、B及びAを求めた。(ここで、[式1]、[式2]のα,β,γ,δを実測に合うようにフィッティングした。具体的には、α=7.0×10(W/m)、β=0.5、δ=5000W/mK、γを実測シェル厚にあうようにフィッティングした。[式1]において、(z/Vc)の単位は分である。)
その結果、B及びAは、実測と計算とで差がほとんどなかったので、計算結果のみを図2に示す。図2の横軸の短辺傾き(以降、テーパと記載することがある。)は、鋳造方向1mの間に、長辺幅が何%小さくなるかという指標で、単位は%/mである。
この様に、鋳型の短辺傾きを大きくすることでB/Aが大きくなり、凝固シェルの均一度が上昇することが判る。さらに、最小シェル厚(B)についても、鋳型の短辺傾きを大きくすることで、最小シェル厚(B)をより大きくできることが判る。
例えば、図2において、B(図の□)についてブレークアウト限界のシェル厚を考慮して設定される所定値(Y)を10mmと設定し、さらに、B/A(図の◇)について要求される鋳片の凝固均一度等を考慮して設定される所定値(X)を0.5に設定すると、これらを同時に満足する鋳型短辺傾きは1.0%/m以上の任意の値に設定して、鋳型を設計すれば良い。
ここでは、操業条件一定(鋳造速度2.0m/min、同鋼種(低炭素鋼)、溶鋼スーパーヒート30℃で実施した。)でテーパだけ変化させた試験を行ったので、鋳型下端でのシェル厚最大値Aは各試験で一定であった。そのため、B/AとBのテーパに対する傾向は同じであった。尚、Xの値は、鋼種や欠陥の種類(内部割れ、表面割れ等)により、適宜設定すると、さらに好ましい。
以上、鋳型短辺が直線の場合について説明したが、曲線の場合も同様に、曲率を大きくするほど、B/AおよびBも大きくできるため、適切な曲率に設定して、鋳型を設計すれば良い。
ここで計算の有効性が示されたので、以後の試験結果はすべて計算値のみを示す。その際、[式1]、[式2]の係数α,β,γ,δは前述のフィッティングした値をすべてのケースで用いた。
また、前記B/AおよびBに影響を及ぼす因子の別の形態として、鋳型の鋳造方向の形状を、異なる傾きの直線の組み合わせ、異なる曲率の曲線の組み合わせ、直線と曲線の組み合わせ、または異なる傾きの直線と異なる曲率の曲線の組み合わせとして設定しても良い。
その一例として、鋳型の鋳造方向の半分の高さ位置より上部の傾きを大きく、下部の傾きを小さくした鋳型短辺(2段テーパ鋳型)を用いて鋳造試験を実施した場合、および鋳型の鋳造方向の傾きが同じ鋳型短辺(1段テーパ鋳型)を用いて鋳造試験を実施した場合について説明する。ここで、1段テーパの傾きをC(%/m)とし、鋳型の長さをLとした時に、C×L=D×L/2+E×L/2となるように(鋳型全長での傾き量を同じとした)、2段テーパの上部傾きDと下部傾きEを設定した。ただし、D>C>Eとなるように傾きを調整した。
図3にB/Aと1段テーパ、2段テーパとの関係を示す通り、2段テーパ鋳型短辺を用いた場合、凝固初期の凝固収縮が大きい部分である、鋳型の鋳造方向の半分の高さ位置より上部を大きな傾きで構成することで、コーナー近傍で生じる凝固シェルと鋳型の間のギャップが小さくなり、コーナー部の凝固遅れが緩和出来るとともに、鋳型の鋳造方向の半分の高さ位置より下部の傾きが小さく設定されていることで、鋳片と鋳型の拘束を緩和出来るため、1段テーパ鋳型短辺を用いた場合と比較して、B/Aをより高くできているため、好ましい。
また、鋳造速度2.0m/min一定(同鋼種(低炭素鋼)、スーパーヒート30℃)の条件で計算を行ったため、Aがほぼ同じ値であった。従って、B/Aが大きくなった分に対応して、最小シェル厚Bも大きくなった。
この様に、B/AおよびBをより大きくできる鋳型の鋳造方向の形状を、適切に設定することで、凝固均一度を大きくすることができ、また凝固遅れによる割れも防止でき、さらにはブレークアウトも防止できる。
鋳型の鋳造方向の形状については、上記の様な異なる傾きの直線の組み合わせだけでなく、異なる曲率の曲線の組み合わせ、直線と曲線の組み合わせ、または異なる傾きの直線と異なる曲率の曲線の組み合わせとして設定でき、また、それぞれを複数段としても良い。
次に、長時間鋳造を実施した場合、通常は、鋳型の形状が摩耗や腐食により減肉し、傾きが小さくなり、鋳型とシェルの間にギャップが生じやすくなって凝固遅れが生じて、B/A及びBが経時的に小さくなる。
そこで、200mm×200mmのビレット鋳型を用いて、長時間鋳造の試験を行い、鋳型形状として、鋳造方向の傾きが大きい鋳型(1.5%/m)と鋳造方向の傾きが小さい鋳型(1.0%/m)について、B/A及びBがどのように変化するかを調査した。ここで傾きの単位である%/mは、鋳造方向に1m進む間に、鋳型の幅(ここでは200mm)の何%が縮まるかの設定値である。
ここで、鋳造速度は1.5m/min一定の試験を行ったので、鋳型内での抜熱量はほぼ同等で、最大シェル厚(A)はほぼ一定であった。そのため、B/Aの変化とBの変化の挙動は同じであったため、調査結果として、図4に使用時間とBの時系列変化との関係のみを示している。図4から、鋳型使用時間の経過と共にBが低下するが、初期の傾きを大きく設定した方が、鋳型の寿命末期においても、Bをより大きくできることがわかる。
従って、前記B/Aは所定値(X)以上を満足し、また同時に、Bは所定値(Y)以上を満足する様に設計する際に、長時間鋳造を実施した場合の鋳型の減肉によるB/AおよびBの低下幅を考慮して、初期に設定する鋳型の鋳造方向の傾きや曲率を、計算や実験で求めたこれらの設定値に対して、予め大きな値に設定することで、鋳型の寿命末期においても、均一な鋳片の凝固が確実に実現でき、ブレークアウトの限界値以上を、より確実に確保できる。
ここで、鋳型の鋳造方向の傾きや曲率を、計算や実験で求めたこれらの設定値に対して、どの程度大きな値に設定するかは、特に規定するものではなく、想定している操業条件等を考慮して、鋳片と鋳型の摩擦拘束力が極度に大きくならない範囲で、適宜設定すれば良い。
一方、鋳型の鋳造方向の傾きや曲率をより大きく設計することで、B/AおよびBをより大きくできるものの、前記傾きや曲率を大きくし過ぎると、鋳型の下端部で鋳片と鋳型の摩擦拘束力が大きくなり、凝固シェルが破れて中の溶鋼が出る現象(ブリード)が生じ易くなるため、鋳型傾きや形状に限界値を設けることが好ましい。
従って、鋳型と凝固したシェルの間の拘束力が所定値(Z)以下となるように、鋳型の鋳造方向の傾きや曲率を設定することが好ましい。ここで、前記拘束力の所定値(Z)は、特に規定するものではなく、鋼種や鋳造条件等により、適宜設定すれば良い。
尚、鋳型と凝固シェルの間の拘束力については、鋳型にロードセルを設置して鋳型に生じる引抜力を測定する方法等があり、また後述の計算で凝固と鋳片変形を連成させて解く方法により計算で求めることもできる。
鋳型の鋳造方向の傾きや曲率を設計する際の、その他の因子として、鋳型と凝固したシェルの間のギャップ量が挙げられる。特に、コーナー部に生じる前記のギャップ量が大きくなるほど、抜熱量不足に起因した表面割れが発生し易くなるため、通常鋳型内での最大ギャップ量になるこのコーナー部のギャップ量を所定値(G)以下とすることが好ましい。
ここで、前記ギャップ量の所定値(G)は、特に規定するものではなく、鋼種や鋳造条件等により、適宜設定すれば良い。
尚、鋳型と凝固シェルの間のギャップ量については、鋳型銅板に熱電対等の温度測定素子を設置して、測定した温度データから推定して求めることができ、また後述の凝固と鋳片変形を連成させて解く方法により計算で求めることもできる。
ここで、200mm×200mmのビレット鋳型において、1段テーパ鋳型短辺を用いて行った条件(鋳造速度1.5m/min一定)により、鋳型と凝固シェル間のギャップ量の最大値および拘束力(いずれも計算推定値)に及ぼす鋳型テーパ形状の影響について検討したものを図5に示す。図5の縦軸は、比較的弱いテーパ時(1%/m)の拘束力、ギャップ量の最大値で正規化している。
この様に、鋳型のテーパを大きくすることで、拘束力が増加し、ギャップ量の最大値が減少することが計算(後述の凝固と鋳片変形を連成させた解析手法を用いた)で示された。
従って、鋳型のテーパを大きくするほど、ギャップ量が減少するため、この点は好ましいが、同時に拘束力も増加するため、それぞれの所定値を満足する様に鋳型テーパを設計することが重要であることがわかる。
以上の通り、鋳型の鋳造方向の傾きあるいは曲率を設計するための各因子(B/A、B、拘束力、ギャップ量)について述べてきたが、本発明者らは、これらの因子を計算で推定可能とした。すなわち、鋳型の鋳造方向の傾きあるいは曲率を任意の値に設定した際に、B/A、B、拘束力、ギャップ量を計算で精度良く推定する方法を見出した。
これらの因子を計算で推定するための好ましい手順(a)〜(d)を、以下に示す。
(a) 鋳造する鋼種に応じて、溶鋼のスーパーヒート(ΔT)、鋳造速度(Vc)を入力条件として、[式1]により鋳造方向の抜熱量(q)を計算し、周方向の抜熱量を均一として[式2]によりシェル厚(t)を計算。
q=α×(z/Vc)−β [式1]
t=γ×∫(q−δ×ΔT)dt [式2]
z:メニスカスからの距離、
α,β,γ,δ:定数、
但し、[式2]のqは、くりかえし計算ではq′を用いる。
尚、[式1]、[式2]の定数α,β,γ,δについては、鋳造する鋼種に応じて、鋳造試験によるシェル厚測定とともに、鋳型に熱電対を設置して温度測定等を行い、鋼種、鋳造速度等の操業条件を各種変化させて、決定するのが好ましい。
但し、上記[式1]は、一般的に、凝固のシェル厚が凝固時間(z/Vc)の平方根((z/Vc)0.5)に比例する(鉄鋼便覧等)ことから類推すると、β=0.5を用いることができる。
さらに、上記[式2]は、(鋳型からの抜熱量q)−(溶鋼側からの入熱量δ×ΔT)=凝固潜熱×(シェル厚増分)なので、シェル厚(t)は、q−δ×ΔTを時間で積分して求めることが出来ることから、求めることができる。
但し、tの計算については、[式2]の簡易方法でも良いし、エンタルピー法、等価比熱法等でも計算可能である。
(b) シェルの変形量(u)を[式3]により計算し、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方の値における、鋳型とシェルの間のギャップ量(gap)を[式4]により計算。
[K]{u}={L}+{L}+{L}+{Lvp} [式3]
gap=u(鋳型面に垂直方法の変位量) [式4]
u:変位(変形量)
:外力
vp:粘塑性荷重
:温度変化による荷重
:相変態による荷重
K:FEMで計算する場合の全体合成マトリックス({}列ベクトル)
ここで、外力(L)は、溶鋼静圧、鋳型との接触による反力等から求めることが出来る。粘塑性荷重(Lvp)については、材料のクリープ試験等から応力歪関係を決定して求めることが可能である。温度変化による荷重(L)は、材料の線膨張係数×温度差(温度低下量)で計算できる。相変態による荷重(L)は、鋼の炭素量に応じて凝固過程で線膨張係数の違う各相間を変態するときの荷重であり、温度と炭素量から鉄−炭素2元系状態図から決定できる。
ここで、[式3]は、例えば文献(王ら,日本機械学会論文集A編,Vol.53,No.492)を参照して、プログラムを作成するか汎用の有限要素法構造解析ソフトにサブルーチンで取り込むかの方法で計算出来る。汎用の有限要素法構造解析ソフトを用いる場合は、[式3]の各項の材料非線形性を考慮した取り扱いが出来るソフトであることが好ましい。
さらに、シェルの変形量が[式3]により求まるため、鋳型とシェルの間のギャップ量が[式4]により求まる。
また、鋳型とシェルの間の拘束力については、ギャップ量(gap)が0(鋳型とシェルの間に隙間なし)の部位で、その部位の面積にその部位に作用する溶鋼静圧を乗じて、鋳型全体で積分することで、求めることができる。
(c) 鋳型とシェルの間にギャップが生じた部位の抜熱量(q′)を[式5]により計算する。
q′=f(gap)×q [式5]
gap:ギャップ量
f:ギャップ量に反比例する任意の関数
[式5]については、鋳型とシェルの間にギャップが生じた時に、距離が離れるほど熱伝導が悪くなると一般的に仮定(熱流束は、距離に反比例する)できるため、fをgapに反比例する関数として求めることができる。反比例の係数については、シェル厚の実測等から適宜フィッティングで求めるのが良い。
(d) 上記の[式2]〜[式5]を、シェルの変形量(u)が収束するまで、繰り返し計算する。
ここで、シェルの変形量(u)の収束条件は、特に規定するものではなく、計算結果の精度や計算時間を考慮して、適宜設定すれば良い。
シェルの変形量(u)が収束した際の、[式2]により求まるシェル厚(t)により、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)、最大シェル厚(A)が求まる。
同様に、シェルの変形量(u)が収束した際に、[式3]により鋳型とシェルの間のギャップ量(gap)が求まり、また、ギャップ量(gap)が0(鋳型とシェルの間に隙間なし)の部位で、その部位の面積にその部位に作用する溶鋼静圧を乗じて、鋳型全体で積分することで、鋳型とシェルの間の拘束力を求めることができる。
以上の(a)〜(d)の手順により、計算の前提に用いた、鋳型の鋳造方向の傾きあるいは曲率の値に設定した際の、各因子(B/A、B、拘束力、ギャップ量)の値が求まる(Bはtの鋳型下端での最小値、Aはtの鋳型下端での最大値)ため、これらの因子の値が所望の値か否かを確認し、所望の値ではない場合は、新たに鋳造方向の傾きあるいは曲率の値を設定し直し、再度(a)〜(d)の手順により、各因子(B/A、B、拘束力、ギャップ量)の値を求める。
この様に、試行錯誤を行いながら、鋳型の鋳造方向の傾きあるいは曲率を設定するための検討を、計算により行うことができ、適切な鋳型を設計することができる。
また、凝固シェル厚は計算ではなく、鋳造後の鋳片の断面観察からも計測可能である。
従って、例えば種々の鋳型を用いて鋳造することにより得られた鋳片のサンプルを試作し、それらのサンプルの断面観察を行うことにより、最小シェル厚(B)および最大シェル厚(A)をデーターベース化しておくことで、目的に応じた鋳型を設計することも可能である。
ここで、凝固シェル厚の断面観察からの計測方法としては、鋳造中に特殊元素(例えばS等)を添加して、その偏析量からシェル厚を測定する方法で求めることが出来、また、吐出流等の影響で生じる凝固組織変化(ホワイトバンド)位置(通常は鋳型の下端近傍)から推定することも出来る。
コーナー部近傍で生じる凝固遅れ部の最小シェル厚Bと最大シェル厚Aの定義を示す模式図である。 鋳型短辺傾きと、B/A及びBの関係を示す図である。 鋳型短辺2段テーパおよび1段テーパ限界と、B/Aの関係を示す図である。 鋳型の使用時間と、Bの関係を示す図である。 鋳型と凝固シェル間のギャップ量の最大値および拘束力と、鋳型短辺テーパの関係を示す図である。

Claims (7)

  1. 溶融金属の連続鋳造鋳型を設計するに際し、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)を最大シェル厚(A)で除した値が所定値(X)以上(B/A≧X)、かつ、最小シェル厚(B)の値が所定値(Y)以上(B≧Y)を満足するように、鋳型の鋳造方向の傾きまたは曲率を設定することを特徴とする連続鋳造鋳型の設計方法。
  2. 溶融金属の連続鋳造鋳型を設計するに際し、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)を最大シェル厚(A)で除した値が所定値(X)以上(B/A≧X)、かつ、最小シェル厚(B)の値が所定値(Y)以上(B≧Y)を満足するように、鋳型の鋳造方向の形状を、異なる傾きの直線の組み合わせ、異なる曲率の曲線の組み合わせ、直線と曲線の組み合わせ、または異なる傾きの直線と異なる曲率の曲線の組み合わせとして設定することを特徴とする連続鋳造鋳型の設計方法。
  3. 溶融金属の連続鋳造鋳型を設計するに際し、鋳型の鋳造方向の傾きまたは曲率の設定値を、請求項1または2に記載の方法により設定された設定値に対して、大きな値に設定することを特徴とする連続鋳造鋳型の設計方法。
  4. 鋳型とシェルの間の拘束力が所定値(Z)以下となるように、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方を設定することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
  5. 鋳型とシェルの間のギャップ量の最大値が所定値(G)以下になるように、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方を設定することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
  6. 鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方の値に対して、鋳型下端の任意の鋳型面部における最小シェル厚(B)、最大シェル厚(A)、鋳型とシェルの間の拘束力、および鋳型とシェルの間のギャップ量を、以下の(a)〜(d)の手順により計算で求めることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
    (a) 鋳造する鋼種に応じて、溶鋼のスーパーヒート(ΔT)、鋳造速度(Vc)を入力条件として、[式1]により鋳造方向の抜熱量(q)を計算し、周方向の抜熱量を均一として[式2]によりシェル厚(t)を計算。
    q=α×(z/Vc)−β [式1]
    t=γ×∫(q−δ×ΔT)dt [式2]
    z:メニスカスからの距離、
    α,β,γ,δ:定数、
    但し、[式2]のqは、くりかえし計算ではq′を用いる。
    (b) シェルの変形量(u)を[式3]により計算し、鋳型の鋳造方向の傾き、曲率のいずれか一方または双方の値における、鋳型とシェルの間のギャップ量(gap)を[式4]により計算。
    [K]{u}={L}+{L}+{L}+{Lvp} [式3]
    gap=u(鋳型面に垂直方法の変位量) [式4]
    u:変位(変形量)
    :外力
    :温度変化による荷重
    :相変態による荷重
    vp:粘塑性荷重
    K:FEMで計算する場合の全体合成マトリックス({}列ベクトル)
    鋳型とシェルの間の拘束力は、ギャップ量(gap)が0(鋳型とシェルの間に隙間なし)の部位で、その部位の面積にその部位に作用する溶鋼静圧を乗じて、鋳型全体で積分して求める。
    (c) 鋳型とシェルの間にギャップが生じた部位の抜熱量(q′)を[式5]により計算。
    q′=f(gap)×q [式5]
    gap:ギャップ量
    f:ギャップ量に反比例する任意の関数
    (d) 上記の[式2]〜[式5]を、シェルの変形量(u)が収束するまで、繰り返し計算。
  7. 鋳型下端での最小シェル厚(B)、最大シェル厚(A)を、鋳片の鋳造断面凝固組織観察により求めることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の連続鋳造鋳型の設計方法。
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