陸上植物の大部分は、根において土壌微生物である菌根菌と共生することで土壌中のリン酸や水分などの吸収能力を高めている。また、ダイズに代表されるマメ科植物は、菌根菌の他に根粒菌とも共生することができる。マメ科植物は根粒菌の感染によって根の組織の一部が分裂を起こして根粒を形成し、この根粒中で根粒菌はバクテロイドに変化して植物から供給されるエネルギー源をもとに空中窒素の固定を行うため、窒素含量の低い土壌においても良好に生育することができる。このようなマメ科植物の根粒での共生による空中窒素の固定作用は、化学合成による窒素肥料によるエネルギ−消費や窒素過多の問題を回避し、これからの環境負荷の少ない再生可能型農業を構築する上で、またこれまで肥料不足のため耕作・緑化が不能だった土地の緑化や農地化等に、大きな役割を演ずることが期待される。
従って、マメ科植物の根粒形成に関与する遺伝子群は、一般の植物に根粒形成能を付与するための鍵となるものである。また、このようなマメ科植物での根粒形成の機構を分子レベルで解析するに当たって、現在では分子遺伝学による変異の分析が最も強力な手法といえる。本発明者らは、これらの根粒形成に関与する遺伝子群を効率的・系統的に単離し、その機能を体系的に解明するために、東アジアに産する野生植物でマメ科のモデル植物であるミヤコグサを用いたゲノム分析システムの構築を進めてきた。ミヤコグサではこれまでに突然変異の誘発により、根粒菌共生系に異常をきたした多数の変異体が確立されており、現在では、100以上の根粒形成不能 (Nod-)変異体、窒素固定不能(Fix-)変異体が得られている(非特許文献1)。また、これまでに取得された主なミヤコグサの根粒形成不能 (Nod-)の変異体群について、それらの原因遺伝子群が根粒菌・菌根菌感染のそれぞれのシグナルをどのように伝達していくかも解明されつつある(非特許文献2、図1参照)。これらの遺伝子群のうち、特に最初の根粒菌の分泌するオリゴキトサン誘導体であるシグナル物質Nod ファクターの受容体として、Nfr1, Nfr5 (非特許文献3)、SymRK(非特許文献4)等の遺伝子が単離されている。また、本発明者らはこれらのシグナルを伝達・増幅する役割を担うイオンチャネルとしてCASTOR/POLLUXのペア遺伝子(LjSym71/22/4, LjSym86/23:図1参照)を単離した(非特許文献5)。しかしながら、こうした初期のシグナルを受け取って、最終的に実際に根粒形成を行うために、根の皮層細胞の分裂を誘導するスイッチを入れる役割を持つ遺伝子についてはこれまで取得されていない。
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1.本発明の遺伝子、および該遺伝子によりコードされるタンパク質
本発明の遺伝子は、根粒の形成開始に関与する機能を有することが確認された新規なタンパク質をコードするものであり、その予想される機能に基づき、TINod (Transcription Initiator of Nodulation)と命名した。本発明の遺伝子によりコードされるタンパク質(以下、本明細書において、「TINodタンパク質」ともいう)には、ホモ又はヘテロダイマーを形成するためのleucine heptad repeat (leucine zipper)、リン酸化チロシンに特異的に結合するSH(Src-homology)domain、VHIIDのアミノ酸配列からなるDNA結合領域、N末近傍のpolyE, polyTから成るhomopolymeric stretchが存在する(図6参照)。このような構造的特徴から、本発明のタンパク質はGAI(Gibberellin Insensitive), RGA(Repressor of ga1-3), SCR (scarecrow)の頭文字を取ってGRAS familyと呼ばれる一連のジベレリンを中心にした植物ホルモンのシグナル伝達因子等を含むの一群の遺伝子の形成するファミリーに属するといえる。同様な構造のタンパク質は動物ではSTAT(signal transducer and activator of transcription)familyとして知られている。STATは、ヒトやマウスではサイトカインや各種増殖因子の刺激によりC末付近のTyr残基がリン酸化されると、同一分子内のLeu Zipperによりホモ2量体、またはJAKとヘテロ2量体を形成して細胞質から核に移行し、DNA結合領域によりDNAと直接あるいは間接に結合し、転写を開始することが確認されている。TINodもまた一般の遺伝子を転写する活性とホモダイマー形成の傾向が見られること(図11)、また、その遺伝子の発現は根にしか見られないが、根粒形成時に発現が誘導されるいわゆるNod遺伝子群とは逆に、根粒感染後、根粒原基の形成に伴い発現が抑制されてしまうという特異なパターンをとることから(図9d)、根粒の形成開始に関与していることが強く示唆される。
ここで、「根粒」とは、根粒菌と呼ばれる微生物が、マメ科植物の根に侵入することによって形成される直径3〜5mm程度のこぶ状の組織をいう。根粒菌は、リゾビウム(Rhizobium)、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)、アゾリゾビウム(Azorhizobium)、メソリゾビウム(Mesorhizobium)、シノリゾビウム(Sinorhizobium)属などに属する細菌で、それぞれ特定のマメ科植物の根に感染して根粒を作り、バクテロイドの形になって、植物から供給されるエネルギー源を利用して空気中の窒素を植物が利用できるアンモニウムイオンの形に還元して供給する。例えば、B. japonicumはダイズに、S.melilotiはアルファルファとだけ根粒を形成して共生する。この際、菌が植物の根に近づくとそれぞれ植物の根が分泌するフラボノイド系の物質に反応し、それぞれの菌に特有の構造を持ったNod Factorと呼ばれるオリゴキトサッカライドの誘導体を菌が分泌し、植物側がこれを感知することによって菌の受け入れから根粒の形成に至る一連の反応が開始される。
本発明の遺伝子は、後記実施例に示すように、マメ科のモデル植物として研究環境が整備されているミヤコグサの根粒形成不能(Nod-)変異体の一つであるLjsym70の原因遺伝子のポジショナルクローニングにより取得することができる。
本発明の遺伝子はまた、上記方法で取得した遺伝子断片をもとにして合成したDNAプローブを用いて、cDNAライブラリー又はゲノムライブラリーのスクリーニング等を行うことにより取得することができる。
植物(例えばマメ科植物)からのmRNAの抽出及びcDNAライブラリーの作製は常法に従って行うことができる。TINodのmRKAを多く含むmRNAの供給源としては、例えばミヤコグサの根が挙げられるが、これに限定されるものではない。mRNAの調製は、通常行われる手法により行うことができる。例えば、上記供給源から、グアニジウムチオシアネート-トリフルオロ酢酸セシウム法などによりトータルRNAを抽出した後、オリゴdT-セルロースやポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法により、あるいはバッチ法によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得ることができる。
次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成した後、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRNaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成する。合成した二本鎖cDNAをT4 DNA合成酵素によって平滑末端にした後、アダプター(例えば、EcoRIアダプター)の連結、リン酸化等を経て、pBlue Script等のプラスミドベクターに組み込んで大腸菌にエレクトロポレーションすること等によってcDNAライブラリーを作製することができる。また、プラスミド以外にもλファージ等を用いてcDNAライブラリーを作製することもできる。また、必ずしもライブラリーとして大腸菌に導入しなくても一本鎖ないしは二本鎖DNAのプールから、下記のようにPCRにより直接目的のcDNAを増幅することも可能である。
ゲノムDNAライブラリーを作製するには、調製したゲノムDNAを適当な制限酵素(Hind IIIなど)により消化し、pBlueScript等にライゲートした後、大腸菌にエレクトポレーション等で導入する方法を利用することができるが、この方法に限定されない。ゲノムDNAの調製は公知の方法、例えばフェノール・クロロホルム法等により行うことができる。この場合も調製されたゲノムDNAから直接PCRにより目的の遺伝子を増幅することも可能である。
上記のようにして得られるcDNA又はゲノムライブラリーから目的のDNAを有するクローンを選択するには、目的の遺伝子を増幅するためのプライマー(例えば、配列番号1に示される塩基配列に基づいて設計されたプライマー)を用いてPCRを行って作製したプローブを用い、ハイブリダイゼーション等で目的のクローンを拾うことにより行う。
上記で得られたcDNA又はゲノムDNAのPCR産物又はクローンについて、cDNA又はDNAの塩基配列を決定する。塩基配列の決定は主には蛍光プライマーを用いたPCRを利用したジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができ、自動塩基配列決定装置(例えばApplied Biosystems社製ABI 310 DNAシークエンサー等)を用いて配列決定が行われる。得られた塩基配列を、GENETYX(ソフトウエア開発社)等のDNA解析ソフトによって解析し、得られたDNA鎖中にコードされているタンパク質コード部分を見出すことができる。
また、本発明の遺伝子を取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を用いることができる。例えば、本発明の遺伝子にコードされたcDNA配列のうち、5'側及び3'側の配列(又はその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(又はcDNA)等を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明の遺伝子を含むDNA断片を大量に取得できる。
本発明の遺伝子としては、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものが挙げられる。しかしながら、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、もとのタンパク質と同様の機能を維持することが知られている。よって、本発明の遺伝子には、配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ根粒の形成開始に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。このような遺伝子として、例えば、配列番号1に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として有する遺伝子が挙げられる。なお本明細書において、オープンリーディングフレーム領域とは、開始コドンから終止コドンまでの領域とする。また、上記の置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてもよいアミノ酸の数としては、1個から複数個、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個をいう。
上記アミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加は、上記タンパク質をコードする遺伝子を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
また、「根粒の形成開始に関与する」とは、マメ科植物の根粒形成の初期段階に関与する遺伝子群の転写活性を促進する機能を有することをいう。あるタンパク質が「根粒の形成開始に関与する」か否かは、その遺伝子の構造と相同性のある遺伝子群の機能により推測することができるほか、ツーハイブリッド法などにより遺伝子の転写活性を確認することにより、またその遺伝子の発現が根粒菌の感染により低下する場合などにより推測することができる。
また、本発明の遺伝子には、配列番号2に示すアミノ酸配列と80%以上の相同性を有し、かつ根粒の形成開始に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。上記80%以上の相同性は、好ましくは90%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性をいう。なおここで「相同性」とは、アミノ酸配列中に占める同じ配列の割合であり、この値が高いほど両者は近縁であるといえる。なお、タンパク質の活性に重要な部分を含み、それ以外の部分のアミノ酸を改変した結果、全体的な相同性は80%未満となるが、依然として根粒の形成開始に関与するタンパク質をコードするものは、本発明の遺伝子に含まれるものとする。
また、本発明の遺伝子には、(c)配列番号1に示す塩基配列からなるDNA、又は(d)配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ根粒形成開始に関与するタンパク質をコードするDNAも含まれる。なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号1に示す塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましく65℃での条件をいう。
本発明の遺伝子としては、天然由来のもの、例えば植物由来のもの、例えば、マメ科植物由来の遺伝子が挙げられるが、植物以外の由来であってもよい。また、本発明の遺伝子は、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。アンチセンス鎖は、プローブとして又はアンチセンスオリゴヌクレオチドとして利用できる。DNAには、例えばクローニングや化学合成技術、又はそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。さらに、本発明の遺伝子は、上記(a)又は(b)のタンパク質をコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
いったん本発明の遺伝子の塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又は本遺伝子のゲノムDNAあるいはcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいはその塩基配列を有するDNA断片をプローブとして用いてゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーを展開したメンブレンにハイブリダイズさせることによって目的の遺伝子断片を含んだクローンを取得することができる。
2.本発明のタンパク質及びその生産
本発明のタンパク質(TINodタンパク質)は、(a) 配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、(b) 配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ根粒形成開始に関与するタンパク質である。
本発明のタンパク質には、上記TINodタンパク質と機能的に同等であり、かつ該タンパク質のアミノ酸配列の部分配列を有するタンパク質(部分ペプチド)も含まれる。そのような部分ペプチドとしては、配列番号2で表わされるアミノ酸配列の341位〜415位までのアミノ酸配列を少なくとも含むペプチドが挙げられる。
本発明のTINodタンパク質には、該タンパク質と他のペプチド又はタンパク質とが融合した融合タンパク質も含まれる。融合タンパク質を作製する方法は、TINodタンパク質をコードするDNAと他のペプチド又はタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよく、すでに公知の手法を用いることができる。融合に付される他のペプチド又はタンパク質としては、特に限定されない。例えば、ペプチドとしては、FLAG、6×His、10×His、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc−mycの断片、VSV-GPの断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag等、すでに公知であるペプチドが挙げられる。またタンパク質としては、例えばGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)、GFP(緑色蛍光蛋白)等が挙げられる。
本発明のタンパク質は、必要に応じて塩の形態、好ましくは生理学的に許容される酸付加塩の形態としてもよい。そのような塩としては、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)の塩、有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)の塩等が挙げられる。また、本発明のタンパク質には、適当な糖ないしは糖鎖や脂肪酸、あるいはフラボノイド等の付加誘導体も含まれる。さらには、各種の蛍光物質等の付加産物も含まれる。
本発明のタンパク質は、該タンパク質を発現している植物の培養細胞又は組織からの抽出・分離によって製造することができる。植物の培養細胞又は組織から製造する場合、植物の培養細胞又は組織をホモジナイズ後、酸等で抽出を行い、得られた抽出液を疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーを組み合わせることにより単離精製することができる。
また、前記部分ペプチドは、公知のペプチド合成法又は前記TINodタンパク質を適当なペプチダーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ)で切断することによって製造することができる。ペプチド合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。
また、本発明のタンパク質を取得する方法として、遺伝子組み換え技術等を用いる方法も挙げられる。この場合、本発明の遺伝子をベクターなどに組み込んだ後、公知の方法により、発現可能に宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されて得られる上記タンパク質を精製するという方法などを採用することができる。あるいは、該遺伝子cDNA等からDNA依存RNA合成酵素を用いて転写させて合成したmRNAを元に、コムギ胚芽やウサギ網状赤血球等の抽出物を用いた細胞外翻訳系を用いてタンパク質に翻訳させて大量に合成させることもできる。
遺伝子組み換え技術を用いて本発明のタンパク質を生産する場合、上記1.の本発明の遺伝子をプラスミド DNA、ファージ DNA等の宿主中で複製可能な組換えベクターに連結(挿入)し、該ベクターを大腸菌等の宿主に導入して形質転換体を得、該形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。ここで、「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味する。
上記のプラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pUC118等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
上記ベクターには複製開始点、プロモーター、選択マーカーを含み、必要に応じてエンハンサー、ターミネーター、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。
複製開始点としては、大腸菌用ベクターには、例えばColE1、R因子、F因子由来のものが、酵母用ベクターには、例えば2μm DNA、ARS1由来のものが、動物細胞用ベクターには、SV40、アデノウイルス由来のものが、植物細胞用ベクターとしてはTMVウイルス、ポテトXウイルス等のものが用いられるが、これらに限られるものではない。
プロモーターとしては、大腸菌用ベクターには、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等が、酵母用ベクターには、gal1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が、動物細胞用ベクターには、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が、植物用ベクターには35Sプロモーター、アクチンプロモーター等が用いられるが、これらに限られるものではない。
選択マーカーとしては、大腸菌用ベクターには、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等が、酵母用ベクターには、Leu2、Trp1、Ura3遺伝子等が、動物細胞用ベクターには、ネオマイシン耐性遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等が、植物用ベクターにはハイグロマイシン耐性遺伝子、bar耐性遺伝子等が用いられるが、これらに限られるものではない。
ベクターは商業的に入手可能なものを使用することができるが、そのようなベクターには、宿主細胞が大腸菌である場合は、例えばpETベクター(Novagen社製) 、pTrxFUSベクター(Invitrogen社製) 、pCYBベクター(NEW ENGLAMD Bio Labs社製) 等が、宿主細胞が酵母である場合は、例えばpESP-1発現ベクター(STRATAGENE社製) 、pAUR123ベクター(宝酒造社製)、pPICベクター(Invitrogen社製) 等が、また宿主細胞が動物細胞である場合は、例えばpMAM-neo発現ベクター (CLONTECH社製) 、pCDNA3.1ベクター(Invitrogen社製) 、pBK-CMVベクター (STRATAGENE社製) 等が、宿主細胞が昆虫細胞である場合は、例えばpBacPAKベクター (CLONTECH社製) 、pAcUW31ベクター(CLONTECH社製) 、pAcP(+)IE1ベクター(Novagen社製) 等が、植物細胞での大量生産の場合にはpBI系ベクターがそれぞれ挙げられるが、これらに限られるものではない。
宿主としては、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌;サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母;サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ヒトGH3、ヒトFL細胞等の動物細胞;あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞、ないしはカイコの幼虫等が挙げられる。植物でも本来の宿主以外に各種培養細胞、果実、種子、塊茎、塊根等でのタンパク質の大量生産が可能である。
宿主細胞への発現ベクターの導入は、宿主の種類に応じて公知の方法で行うことができ、たとえば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法、アグロバクテリウム法、ウイルス感染法等が挙げられる。また、上記の各宿主細胞への遺伝子導入は、組換えベクターによらない方法、例えばパーティクルガン法なども用いることができる。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには IPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはIAA等を培地に添加することができる。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
培養後、本発明のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、超音波処理、凍結融解の繰り返し、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより目的のタンパク質採取する。また、本発明のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。
3.植物形質転換用組換えベクター及び形質転換植物の作製
(1) 植物形質転換用組換えベクターの作製
本発明の植物形質転換用組換えベクターは、上記1.の本発明の遺伝子を単独で、あるいは、根粒の形成過程に関与する他の遺伝子群とともに、さらには将来全ての根粒形成に必要な遺伝子群が揃ったときには、これらの遺伝子群のセットとして、適当なベクターに導入することにより構築することができる。ここで、ベクターとしては、アグロバクテリウムを介して植物に本発明の遺伝子を導入することができる、pBI系、pPZP系、pSMA系のベクターなどが好適に用いられる。特にpBI系のバイナリーベクター又は中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。バイナリーベクターとは大腸菌(Escherichia coli)及びアグロバクテリウムにおいて複製可能なシャトルベクターで、バイナリーベクターを保持するアグロバクテリムを植物に感染させると、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを植物核DNAに組み込むことが可能である(EMBO Journal, 10(3), 697-704 (1991))。一方、pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB,RB)間に、本発明の遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンスC58、LBA4404、EHA101、EHA105あるいはアグロバクテリウム・リゾゲネスLBA1334等に、エレクトロポレーション法等により導入し、該アグロバクテリウムを植物の形質導入に用いる。
ベクターに本発明の遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
また、本発明の遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、ベクターには、該遺伝子の上流、内部、あるいは下流に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリA付加シグナル、5'-UTR配列、選抜マーカー遺伝子などを連結することができる。
「プロモーター」としては、植物細胞において機能し、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。さらには、果実・種子・根茎・塊茎等の貯蔵器官中に、それらの貯蔵タンパク質のプロモーターを利用して大量に発現させることも可能である。また本遺伝子の特性として、根で特異的に発現させるプロモーターを利用することも可能である。
エンハンサーとしては、例えば、本発明の遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。
ターミネーターとしては、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S RNA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。
選抜マーカー遺伝子としては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子などが挙げられる。
また、選抜マーカー遺伝子は、上記のように本発明の遺伝子とともに同一のプラスミドに連結させて組換えベクターを調製してもよいが、あるいは、選抜マーカー遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターと、本発明の遺伝子をプラスミドに連結して得られる組換えベクターとを別々に調製してもよい。別々に調製した場合は、各ベクターを宿主にコトランスフェクト(共導入)する。
(2) 形質転換植物の作製
本発明の形質転換植物は、上記(1)の組換えベクターを用いて、対象植物を形質転換することによって調製することができる。
形質転換植物を調製する際には、既に報告され、確立されている種々の方法を適宜利用することができ、その好ましい例として、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、及び植物体そのものを用いる場合(in planta法)がある。プロトプラストを用いる場合は、TiプラスミドないしはRiプラスミドをもつアグロバクテリウム(それぞれAgrobacterium tumefacienceないしは Ag. rhizogenes)と共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)、ないしは茎や根の断片に感染させる方法やカルスに感染させる等により行うことができる。また種子あるいは植物体を用いるin planta法を適用する場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない系では、吸水種子、幼植物(幼苗)、鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等にて実施可能である。
遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロッティング法等により行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
あるいは、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、Green fluorescent protein(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子を本発明の遺伝子の下流域に連結したベクターを作製し、該ベクター導入したアグロバクテリムを用いて上記と同様にして植物を形質転換させ、該レポーター遺伝子の発現を測定することにより一応の遺伝子導入が行われたか否かの確認は可能である。
本発明において形質転換に用いられる植物としては、被子植物であれば特に限定はされず、単子葉植物又は双子葉植物のいずれであってもよい。単子葉植物としては、例えばイネ科(イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、サトウキビ、シバ、ソルガム、アワ、ヒエ等)、ユリ科(アスパラガス、ユリ、タマネギ、ニラ、カタクリ等)、ショウガ科(ショウガ、ミョウガ、ウコン等)に属する植物が挙げられ、双子葉植物としては、例えばアブラナ科(シロイヌナズナ、キャベツ、ナタネ、カリフラワー、ブロッコリー、ダイコン等)、ナス科(トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ等)、ウリ科(キュウリ、メロン、カボチャ等)、セリ科(ニンジン、セロリ、ミツバ等)、キク科(レタス等)、アオイ科(ワタ、オクラ等)、アカザ科(シュガービート、ホウレンソウ等)、フトモモ科(ユーカリ、クローブ等)、ヤナギ科(ポプラ等)に属する植物が挙げられるが、これらに限定はされない。また、本来根粒形成能を有するマメ科(ダイズ、エンドウ、インゲン、アルファルファ等)に属する植物であっても良いし、特に変異により根粒形成能が欠失又は減少しているものは遺伝子機能分析の対象となる。
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、遺伝子の性質上特に根が対象とはなるが、そのほかの器官、例えば、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂(植物の芽の先端の生長点)、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、それを酵素処置して細胞壁を除いたプロプラスト等の植物培養細胞も対象となりうる。またin planta法適用の場合、吸水種子や植物体全体を利用できる。
また、本発明において形質転換植物とは、植物体全体、植物器官(例えば根、茎、葉、花弁、種子、種子、実等)植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞のいずれをも意味するものである。
植物培養細胞を対象とする場合において、得られた形質転換細胞から形質転換体を再生させるためには既知の組織培養法により器官又は個体を再生させればよい。このような操作は、植物細胞から植物体への再生方法として一般的に知られている方法により、当業者であれば容易に行うことができる。植物細胞から植物体への再生については、例えば、以下のように行うことができる。
まず、形質転換の対象とする植物材料して植物組織又はプロトプラストを用いた場合、これらを無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移しかえて更に増殖(継代培養)させる。
カルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、上記の継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシンやサイトカイニン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光、温度等を適切に設定することにより行うことができる。かかる再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽、不定茎葉等が形成され、更に完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えばカプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵等を行ってもよい。
本発明の形質転換植物は、形質転換処理を施した再分化当代である「T1世代」のほか、その植物の種子から得られた後代である「T2世代」、薬剤選抜あるいはサザン法等による解析によりトランスジェニックであることが判明した「T2世代」植物の花を自家受粉して得られる次世代(T3世代)などの後代植物をも含む。
当該遺伝子の変異体について上記のようにして得られる形質転換植物は、根粒形成能、窒素固定化能を有する(図5)。その他の非マメ科植物については、根粒形成に関わる遺伝子が全て明らかになって、それら全てをセットとして導入された形質転換植物も、根粒形成能、窒素固定化能を有するようになると期待され、化学肥料を必要としない作物として利用できるものと考えられる。
4.本発明の抗体
本発明の抗体は、上記の(a)又は(b)に示すタンパク質又はその部分タンパク質を抗原として、公知の方法によりポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体として得られる抗体であればよい。公知の方法としては、例えば、文献(Harlowらの「Antibodies : A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory, New York(1988))、岩崎らの「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」に記載の方法が挙げられる。このようにして得られる抗体は、本発明のタンパク質の検出・測定、他の生物の根粒の形成開始に関与する遺伝子のクローニングなどに利用できる。
5.本発明のプライマー又はプローブ
本発明のプライマー又はプローブは、本発明の遺伝子の少なくとも連続した10塩基からなる塩基配列又はその相補配列を含むものである。プライマー又はプローブは種々の条件下において、本発明の遺伝子の発現パターンの検出・測定などに利用することができる。
また、本発明においてプライマー又はプローブは、DNA又はRNAのいずれであってもよいし、DNA及びRNAのハイブリッド核酸であってもよい。
本発明のプライマー又はプローブは、プライマー又はプローブとして実質的な機能を有するように設計される。ここで、「プライマー又はプローブとして実質的な機能を有する」とは、特異的なアニーリング又はハイブリダイズが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリング又はハイブリダイズが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有する、という意味である。すなわち、本発明のプライマー又はプローブは、本発明の遺伝子(例えば、配列番号1に示される塩基配列からなるDNA)と特異的にアニーリング又はハイブリダイズする配列を含む必要があり、その配列の長さが短いために又はその塩基組成が適切ではないために非特異的なアニーリング又はハイブリダイゼーションを頻繁に起こし、特異的な検出に使用できない核酸断片を排除することを意図する。
例えば、プライマー又はプローブとして使用する場合、プライマー又はプローブとして実質的な機能を有する長さとしては、15塩基以上が好ましく、さらに好ましくは16〜50塩基であり、さらに好ましくは20〜30塩基であるが、10塩基程度からなるオリゴヌクレオチドもプライマー又はプローブとして使用することができる。
また設計の際には、プライマー又はプローブの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型DNA又はRNAとプライマー又はプローブとが二本鎖を形成してアニーリング又はハイブリダイズするためには、アニーリング又はハイブリダイゼーションの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。従って、設計しようとする核酸断片のTmは、増幅反応又はハイブリダイゼーションを行う上で重要な因子である。Tmの確認には、公知のプライマー又はプローブ設計用ソフトウエアを利用することができる。
6.根粒形成過程に関与する因子群のスクリーニング方法
本発明の遺伝子は、根粒形成のためのシグナル伝達経路の構成要因タンパク質をコードしているか、あるいはそのシグナル伝達経路に関与する他の因子群との相互作用の結果、根粒形成に必要な遺伝子群の転写を開始して機能を発揮しているものと考えられる。しかしながら、本発明の遺伝子またはタンパク質が直接相互作用しているをシグナル伝達の上流・下流の因子群、あるいは本発明の遺伝子またはタンパク質が実際に転写開始をしている遺伝子群は明らかになっていない。
本発明の遺伝子またはタンパク質は、それらと相互作用する因子群をスクリーニングするのに利用することができる。
スクリーニングは、酵母やバクテリア等を利用したtwo-hybridシステム、またはゲルシフトアッセイを用いて行うことができる。あるいは、本発明の遺伝子の発現をホルモンやヒートショックなどによりup-regulateないしは down-regulateできる形質転換植物を作製し、本発明の遺伝子の発現量を適当なプログラムで変動(上昇・減少)させた場合にその形質転換植物で新たに発現量に変動を示す遺伝子群やタンパク質群等を検出することによりスクリーニングすることも可能である。こうした処理をした後の各種遺伝子の発現量の測定は、例えば、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、RT-PCR法、Real-Time PCR法、DNAマクロアレイ法、DNAマイクロアレイ法などにより行うことができ、タンパク質の発現量の測定は、例えば、2次元電気泳動法、2重収束質量分析法、MALDI-TOFMASS法あるいはこれらの組み合わせなどにより行うことができる。
こうして、試験管内あるいは植物体内等での環境で本発明の遺伝子またはタンパク質と相互作用する因子群をスクリーニングし、同定することが可能である。これらの因子群は根粒形成過程の全貌を明らかにする上で重要な価値を持つものであり、同定された因子群もまた本発明に含まれる。
スクリーニングの対象となる被験物質は主にはDNA,RNA,タンパク質と考えられるが特にこれらに限定されない。他には例えばアミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、脂質、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなどを挙げることができる。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1) 根粒形成不能(Nod-)変異体の原因遺伝子の単離・同定
これまで確立されているミヤコグサの根粒形成関連変異体(下記表1・図1参照)の中で、Ljsym70, Ljsym71, Ljsym72は完全な根粒形成マイナス(Nod-)変異を示す。表1・図1に示されるように、Ljsym71, Ljsym72では根粒形成がマイナス(Nod-)だけではなく、菌根形成もマイナス(Ami-)になっているのに対して、Ljsym70では根粒形成過程のみが欠失していることが大きな特徴である。前二者は根粒形成と菌根形成のためのシグナル伝達において共通共生経路(common sym pathway)と呼ばれている部分に属している。他の内生菌根を形成する植物群にもこれらと共通した機能を持った遺伝子(Authologue)が存在するものと考えられるが、Ljsym70の原因遺伝子(TINod)はマメ科植物で特異な進化を遂げた根粒形成に特異的な過程を制御する遺伝子として特に注目される。
従って、本実施例においては、このLjsym70の原因遺伝子をポジショナルクローニングにより単離同定することとした。
(1)方法
Ljsym70変異体は、川口正代司博士(東京大学大学院理学系研究科植物学専門課程助教授)より提供を受けた。Ljsym70の原因遺伝子のマッピングにあたり、変異体(Gifu:B-129)と野生型(Miyakojima:MG-20)を交配して得られたF2集団についてHEGS/AFLP(高能率ゲノム走査法)によるバルク分析を以下のようにして行った。まず、交配後代(F2)集団から野生型個体を約30、変異型(劣勢ホモ)個体を約10選抜し、前者についてはF3世代の分離に基づいて野生型(優勢)ホモ系統を10系統選抜し、それぞれの緑葉から抽出したゲノムDNAを混合して野生型・変異型バルクとした。この野生型・変異型のF2DNAバルク、及び両親のDNAからなる4種類のDNAについて、EcoRI/MseIによる切断を行った後、適当な配列の10塩基以上のアダプターをライゲート(接合)させ、アダプターと制限酵素サイトの配列を持つプライマーによる予備増幅を行う。次にアダプター配列(10塩基以上)と各制限酵素切断部位配列(6または4塩基)と増幅するバンド数を制限するために延長した任意の3塩基とをこの順序で繋いだ配列を持つプライマーのセット(EcoRI側で64種類、MseI側で64種類)からなる合計4,096ないしその半分の2,048組み合わせのプライマーペアを用いてPCR増幅し、増幅産物の電気泳動をHEGSシステムで行い(8,000〜16,000レーン:8枚セットゲルで10〜20セット、1日に1セットの泳動が可能)、両親の多型マーカーとリンクした近傍マーカー候補を集積した。この中で、特に明確な共優性型のマーカーを用いてF2集団中の劣性ホモの変異型個体200程度をスクリーニングし、近傍の組換え個体を選抜した。この第1次の近傍組換え個体集団を用いて先の近傍マーカー候補から最も目的遺伝子に近いものを選抜した。これらの選抜マーカーを用いてさらにF2集団のサイズを大きくして1,000〜2,000のF2集団から近傍の組換え個体を選抜し、これにより目的遺伝子に最も近傍のマーカーを同定した(図2)。得られたマーカーについては本発明者らがミヤコグサの高密度マップ作製に使ったRI(組換え近交系)集団により、高密度地図上の位置を決定した。
得られた最近傍マーカーを、HEGSゲルから蛍光染色を見ながら、315nm又は305nmのUVイルミネーター上で切り出して、ゲルを破砕後、バンドDNAをTE bufferで抽出し、TOPO cloning法でインサートをクローン化した。プライマーを用いた再増幅は最小限に止めたが、必要により行った。1バンドから得られた複数のクローンのインサートサイズを電気泳動で確認して、できるだけサイズが揃ったクローンを複数選び、それぞれの塩基配列を決定して、それらのクローンに共通する配列を同一バンドに由来するものとして確定した。
目的とするLjsym70遺伝子の存在するこの領域は、セントロメア近傍であるためか、組換え率が極めて低くなっており、HEGS/AFLPではその近傍にはきわめて多数のマーカーが得られたが、その中で特に明確なものを用いてSCAR(Sequence Characterized Amplified Region)マーカーを設計し、これを用いてBACライブラリーをhybridizationまたは3D-PCRによりスクリーニングして、対応するクローンを単離した。単離に用いたSCARマーカーと得られたクローンの末端配列等から得られる多型同士を比較して、得られたクローンが正しいものかを確認するとともに、クローンの末端等のマーカーを用いて次のステップのcontigクローンを選択して遺伝子近傍の物理地図を作製した(図3)。
実際は、選択されたクローンには多数の反復配列があり、単一の末端配列だけでは次のクローンの同定は困難であることが多かった。そこで、末端配列などから選抜された次のステップの候補BACクローンのそれぞれをテンプレート(鋳型)として、先のAFLP分析で用いた2種類の制限酵素に対応するプライマーから3塩基の任意選択延長配列部分を除いた、アダプターと制限酵素配列部分だけとからなるプライマーによるHEGS/AFLPを行った。ここで得られたいくつかのクローンに共通するバンドに基づいてクローンの並べ替えを行い、こうしたマッピングによりクローン間相互の位置を確認しながら、得られた複数のクローンから真の次のステップを構成するcontigクローンを選択し、遺伝子の存在領域を絞り込むことを試みた。しかしながら、標準の掛け合わせであるGifu ×Miyakojima の組み合わせだけでは、この領域での染色体組換えの頻度の低さに阻まれ、約500kbから先は容易に絞り込むことができなかった(図2,3)。
このため、別の交配によるマーカーの作製を試みた。最初は、より近縁の組み合わせの方がより似た配列のために組換えが起こりやすいものと期待してGifu×Kameokaの掛け合わせを試みたが、それほど組換え率が上がらない割には多型率が大幅に低下して近傍マーカーを得るのが困難となった。それで、川口博士より分与されたイラン産のL.burttiiとの掛け合わせを試みたところ、878のF2集団から、これまで目的遺伝子との組換え率0であったマーカーとの間に組み換え個体が得られた(図2)。また、クローンの配列から多数の多型マーカーが得られこともあり遺伝子領域の絞り込みが大幅に進み、再マッピングの初期の220kbから、最終的には130kbにまで領域が狭められた(図3)。
この130kbの領域をショットガン法により完全にシークエンス決定したところ、7つのレトロエレメントと5つの遺伝子のORFが見出された(図4)。この5つの遺伝子の配列を変異体と野生型で比較したところ、scarecrow-like(SCL)とされた遺伝子にだけ変異が見出された。この領域をカバーするBACクローンの30-50kbのサブフラグメントを導入したRiプラスミドによってAgrobacterium rhizogenesを形質転換し、発生した毛状根に根粒菌を接種して、根粒の形成能の相補試験を行った。
(2)結果
上記の相補試験において、候補遺伝子を含む長いフラグメント(〜30kb)では相補が認められなかったが、10kbのフラグメントでは相補が認められた(図5)。従って、このフラグメントの含むORFを最終的にLjsym70の原因遺伝子として決定した。また、同時に導入した35Sプロモーターと接続したGFPにより根粒が緑色蛍光を発していることによって、形質転換体であることも確認できた(図5)。
得られたLjsym70の原因遺伝子は、全長1500bpのイントロンのないORFで、休止コドンを除く499アミノ酸からなるタンパク質をコードしている(図6)。本遺伝子によりコードされるタンパク質は、ホモ又はヘテロダイマーを形成するためのleucine heptad repeat (leucine zipper)、リン酸化チロシンに特異的に結合するSH(Src-homology)2 domain、VHIIDのアミノ酸配列から成るDNA結合領域、N末近傍のpolyE, polyTから成るhomopolymeric stretchが存在した(図6)。このような構造的特徴から、上記タンパク質はGAI(Gibberellin Insensitive), RGA(Repressor of ga1-3), SCR (scarecrow)の頭文字を取ってGRAS familyと呼ばれる一連のジベレリンを中心にした植物ホルモンのシグナル伝達因子群のファミリーに属すると考えられた(図7)。SH domainの語源となる、Srcキナーゼfamilyの遺伝子群はSH1(チロシン(Y)キナーゼ領域)、SH2、SH3の領域でお互いに相同性が高く、これらは多くのがん遺伝子やシグナル伝達系タンパク質に見出されている。SH2はリン酸化チロシン(pY)含む特異的なアミノ酸配列を認識する重要な役割を担っていることから、Ljsym70においてもチロシンキナーゼ情報伝達系が、根粒形成のために皮層細胞の分裂開始等の転写開始に関与していることが予想された。Ljsym70変異体の原因遺伝子をコードするタンパク質においてはこのSH2領域(75アミノ酸)の疎水性の共通アミノ酸バリン(V)がグルタミン酸(E)になっており(図7)、この1アミノ酸置換によってタンパク質の機能不全を起こしているものと考えられた。
以上から、上記のLjsym70変異体の原因遺伝子をTINod(Transcription Initiator for Nodulation)と命名した。TINodの塩基配列を配列番号1に、また対応するアミノ酸配列を配列番号2に示す。
植物、特にArabidopsisを中心にしてTINodに構造的に近いGRAS family遺伝子群の構成遺伝子は約30を数え、その樹状図(図8)を見ると、SCR(scarecrow)が最も近縁と考えられる遺伝子であり、ごく近縁と考えられる遺伝子はエンドウ、トウモロコシにも見られる。family内の より近いORFとしてはArabidopsisのAtSCL26, 3, 28等が見られるが、機能は不明である。
(実施例2) サザンブロッティングによるTINod遺伝子の検出、ノーザンブロッティングによるTINod遺伝子の発現分析
ミヤコグサ(L. japonicus Gifu及び L. burttii)、ダイズ(Glycinemax)、タルウマゴヤシ(M. truncatula)、エンドウ(P.sativum)を用い、それぞれの緑葉から抽出したDNA各DNA2.5−4(ダイズ、エンドウ)μgをEcoRIで消化し電気泳動してナイロンメンブレンにブロッテイングした。TINod遺伝子の全長をプローブとして用いて32Pでラベルしてサザン分析を行った。TINod遺伝子は、ミヤコグサではGifu, burttii同様に、ほぼ単一遺伝子と確認された。ダイズ(Glycine max)やエンドウ(P.sativum)でも相同な遺伝子と思われるものが見られるが、タルウマゴヤシ(M. truncatula)ではやや遺伝子の相同性は低いものと考えられた(図9a、b)。
ノーザンブロッティングによる遺伝子の発現解析では、各種の組織からRNeasy Mini kit (Qiagen)で抽出した全RNAをDNase Iで分解後、各4.6μgを電気泳動し、TINod(SYM70)全長をプローブとして32Pでラベルして検出した。対照にはubiquitinDNAをプローブとして用いた。TINodは一般の組織では、根(Root)でのみ発現が確認され、花(Flower)や苗条(Shoot)では発現は確認されなかった(図9c)。また、根での発現も根粒菌接種後、根の本体では発現は続くが、10日程度を経過して形成されてきた根粒原基では発現は認められない(図9d)。このことはTINodが根粒形成の開始に重要な役割を果たしていることを強く示唆する。
(実施例3) TINod/GFPタンパク質の細胞内局在
TINodタンパク質の細胞内における局在性を検討するために、TINod遺伝子及びLjsym 70変異体から取り出した変異遺伝子と、GFP遺伝子との融合遺伝子をそれぞれ作製し、35S promoterと結合してpUC18プラスミドに挿入した。この融合遺伝子をBioRAD Biolitic PDS-1000により金粒子とともにタマネギ表皮に打ち込み、24-40時間後にそれぞれの発現の模様をレーザー共焦点蛍光顕微鏡で観察した。
GFPだけでは細胞質と核とで均等な分布が見られるのに対して(図10e、f)、TINod-GFP融合タンパク質(SYM70-GFP)では核への強い局在が示され、核小体からは排除されている(図10a、b)。これもTINodタンパク質が転写開始因子として機能するという前記予測と合致する。さらに、SH2ドメインに変異の入った Ljsym70変異タンパク質sym70とGFPの融合タンパク質(sym70-GFP)では核への局在性が低くなっているものと考えられ(図10c、d)、一部は細胞質に分布していることが示された。これらの結果から、TINodタンパク質がSTATと同様にSH2領域の機能により核への局在化が進んで、さらにリン酸化などを受けることにより転写開始のスイッチを入れるものと予想された。
(実施例4)TINodによる転写活性化
酵母ツーハイブリッドシステムを用い、TINodタンパク質相互間でホモダイマーが形成されるか否かを検討した。GAL4結合ドメイン(BDG4)にTINod(SYM70)又は変異型Ljsym70(sym70)をつないだ遺伝子、あるいはGAL4活性化ドメイン(ADG4)にTINod(SYM70)又は変異型Ljsym70(sym70)をつないだ遺伝子をそれぞれ融合タンパク質として発現させ、β-ガラクトシダーゼ活性を測定した。
図11に示すように、TINod(SYM70)単独でもDNA結合領域(BD)(Bait)との融合タンパク質を酵母に導入するとβ−ガラクトシダーゼ活性は3倍程度になること、及び酵母の転写活性化領域(Prey)との融合タンパク質をさらに導入すると転写活性は4.5倍にまで上昇することから、TINodタンパク質は単独で酵母のGAL4遺伝子の転写を活性化する機能と、TINodタンパク質どうしでホモダイマーを形成する機能があることが示唆された。SH2ドメインに変異が入った変異型Ljsym70(sym70)ではBaitへの単独導入では、全く転写の活性化が見られず、Preyに野生型TINod(SYM70)を導入しても転写活性の上昇はほとんど見られないことから、野生型タンパク質とのホモダイマー形成の機能も失われていることが示された。逆に言うと、Baitの変異型(図11、6段目)から野生型(図11、3段目)への変化による活性化が、TINodのホモダイマー化による転写活性の上昇を示しているともいえる。この結果は、TINodタンパク質のホモダイマー形成能力がSH2領域を介していることを強く裏付けるものである。