JP4454082B2 - スチレン系重合体組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゲルレベル(フィッシュアイ)が低く、耐熱性、透明性を維持するとともに、優れた物性バランスを有するシート及びフィルム用樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビニル芳香族炭化水素含有量が比較的高い、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体は、優れた透明性、耐衝撃性等の特性を利用して射出成形用途、シート、フィルム等の押し出し成形用途等に使用されている。とりわけ該ブロック共重合体とビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とからなるシート、フィルム用組成物は、透明性、機械特性及び収縮性に優れることから、いくつかの提案がなされている。例えば特開昭59−221348号公報には機械特性、光学特性、延伸特性及び耐クラック特性等に優れる組成物を得るため、脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体含有量が5〜80重量%で、ビカット軟化点が90℃を超えないビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体との組成物が、特開昭61−25819号公報には低温収縮性、光学特性、耐クラック特性、寸法安定性等に優れる収縮フィルムを得るため、ビニル芳香族炭化水素含有量が95〜20重量%で、ビカット軟化点が90℃を超えないビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体との組成物を延伸した低温収縮性フィルムが、特開平5−104630号公報にはフィルムの経時安定性と耐衝撃性に優れた透明性熱収縮性フィルムを得るため、ビカット軟化点が105℃を超えないビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体との組成物からなり、特定の熱収縮力を有することを特徴とする熱収縮性硬質フィルムが、特開平6−220278号公報には透明性、剛性及び低温面衝撃性をバランスさせた組成物を得るため、特定構造と分子量分布を有するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体とビニル芳香族炭化水素−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂との組成物が、特開平7−216187号公報には透明性と耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得るため、特定構造のビニル芳香族炭化水素ブロックとビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの共重合体ブロックを有するブロック共重合体とビニル芳香族炭化水素と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を含有する透明高強度樹脂組成物が夫々記載されている。しかしながら、これらのビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体とビニル芳香族炭化水素−脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体からなる組成物は、比較的薄いシート及びフィルム成形品とした時の成形品中のゲルレベル(フィッシュアイ)と耐熱性を維持した物性バランスが十分ではなく、これらの文献にはそれらを改良する方法に関して開示されておらず、依然として市場でその問題点が指摘されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シート、フィルムにおいて、ゲルレベル(フィッシュアイ)が良好で、耐熱性、透明性を維持し、優れた物性バランスを発揮するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのポリモダル分岐ブロック共重合体とスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の組成物の提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、スチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるポリモダル分岐ブロック共重合体の組成物、更にはそれに特定の安定剤を組み合わせることによって、良好な耐熱性、透明性、物性バランスを維持しながら、ゲル、フィッシュアイ(以後FEと記す)を大幅に低減することが可能となることを見出し完成されたものである。
【0005】
即ち、
(1)(I)スチレン含有量が80〜89重量%、アクリル酸n−ブチル含有量が11〜
20重量%とからなるスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体と、(II)ビニル芳香族炭化水素含有量が65〜85重量%、共役ジエン含有量が35〜15重量%からなるポリモダル分岐ブロック共重合体であり、該ポリモダル分岐ブロック共重合体を構成するブロック共重合体鎖が、ビニル芳香族炭化水素ブロックと、ビニル芳香族炭化水素、共役ジエンからなるブロックとを含有し、又はさらに共役ジエンブロックを含有する鎖からなり、該ポリモダル分岐ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのピーク分子量が5000〜30000の範囲と50000〜150000の範囲に各々少なくとも1つを有し、該ポリモダル分岐ブロック共重合体中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率が90重量%を超え、100重量%以下であるポリモダル分岐ブロック共重合体からなり、(I)と(II)の重量比が10/90〜90/10であるスチレン系重合体組成物、
(2)(I)のスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体のスチレン含有量が83〜89重量%、アクリル酸n−ブチル含有量が11〜17重量%である請求項1記載のスチレン系重合体組成物、
(3)(I)のスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の30℃における貯蔵弾性率が1.5×109 〜2.5×109 Paの範囲で、30℃における貯蔵弾性率の50%となる温度が75〜100℃の範囲である請求項1又は請求項2記載のスチレン系重合体組成物、
【0006】
(4)安定剤として2−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−t−アミルフェニルアクリレートを、(I)と(II)の合計100重量部に対して0.05〜3重量部添加してなる(1)〜(3)のいずれかに記載のスチレン系重合体組成物に関する。以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明に使用するスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の製造方法は、スチレン系樹脂製造の公知の方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を用いることができる。
本発明に使用するスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体中のスチレン含有量は80〜89重量%、好ましくは83〜89重量%である。スチレン含有量が80重量%未満、或いは89重量%を超える場合には、ビニル芳香族炭化水素−共役ジエンブロック共重合体との組成物の透明性が悪化するため好ましくない。
【0008】
スチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の30℃における貯蔵弾性率は1.5×109 〜2.5×109 Pa、好ましくは1.7×109 〜2.3×109 Paの範囲である。1.5×109 Pa未満では成型品の剛性が低下するため好ましくなく、逆に2.5×109 Paを超えると成型品の伸びが低下するため好ましくない。また、貯蔵弾性率が30℃における貯蔵弾性率の50%となる温度は、75〜100℃、好ましくは77〜95℃の範囲である。75℃未満では耐熱性が低下して低温で融着し易くなるため好ましくなく、100℃を超えると、熱収縮性フィルムに成形した際に低温収縮性の目安である80℃収縮率が劣るため好ましくない。
【0009】
本発明に使用するスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の貯蔵弾性率は、DMA983(DUPONT社製)で、共鳴周波数、昇温速度2℃/minで測定した値である。
本発明に使用するスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の180〜240℃における好ましい粘度は、式(1)の値以下、式(2)の値以上の範囲内である。粘度が式(1)の値を超える場合には、比較的小さなFEが多くなり、好ましくない。また、粘度が式(2)の値未満の場合には、比較的大きなFEが発生するため、好ましくない。
【0010】
なお、スチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)で測定した、シェアレート(SR)が61sec-1の値である。キャピログラフの測定条件は、キャピラリー長さ(L)が10.0mm、キャピラリー径(D)が1.00mm、バレル径(B)が9.50mmで、180〜240℃の温度範囲で測定するものである。
本発明に使用するスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の30℃の貯蔵弾性率、その50%となる温度及び180〜240℃の粘度は、スチレンとアクリル酸n−ブチルの含有量、スチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の分子量調整剤量、重合器中での滞留時間及び重合温度等を調整することでコントロールすることができる。
【0011】
また、成形加工の点からスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体(I)のメルトフローレート(以後MFRと記す)[JISK−6870に準拠し、G条件(温度200℃、荷重5Kg)で測定]は0.1〜20g/10min、好ましくは1〜10g/10minである。
本発明に使用するポリモダル分岐ブロック共重合体(II)のビニル芳香族炭化水素含有量は65〜85重量%、好ましくは70〜80重量%、共役ジエン含有量は35〜15重量%、好ましくは30〜20重量%である。ビニル芳香族炭化水素含有量が65重量%未満、共役ジエン含有量が35重量%を超えると成形品中のFEが多くなり、逆にビニル芳香族炭化水素含有量が85重量%を超え、共役ジエン含有量が15重量%未満では、成形品の伸びが低下するため好ましくない。
【0012】
ポリモダル分岐ブロック共重合体(II)は、有機溶媒中、有機リチウム化合物を開始剤として、ポリモダル分岐ブロック共重合体を構成するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる下記1)〜3)の任意の1以上の重合体鎖を重合した後、多官能カップリング剤を添加することにより得ることができる。該ポリモダル分岐ブロック共重合体を構成するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる重合体鎖は、1)少なくとも1つのビニル芳香族炭化水素重合体ブロックと少なくとも1つの共役ジエン重合体ブロックからなる重合体鎖、2)少なくとも1つのビニル芳香族炭化水素重合体ブロックと少なくとも1つの共役ジエン重合体ブロックと共役ジエンとビニル芳香族炭化水素共重合体ブロックからなる重合体鎖、3)少なくとも1つのビニル芳香族炭化水素重合体ブロックと少なくとも1つの共役ジエンとビニル芳香族炭化水素共重合体ブロックからなる重合体鎖で、例えば下記の一般式で表すことができる。
【0013】
1)(S−B)n、(S−B)n−S、B−(S−B)n
2)(S−B−B/S)n、S−(B−B/S)n、(S−B)n−B/S、(S−B/S)n−B、S−(B/S−B)n
3)(S−B/S)n、(S−B/S)n−S、B/S−(S−B/S)n
(Sはビニル芳香族炭化水素重合体ブロック、Bは共役ジエン重合体ブロック、B/Sはビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの共重合体ブロックであり、nは1〜5の整数を表す。)
該ポリモダル分岐ブロック共重合体は、上記1)〜3)の重合体鎖の中の任意の1種以上により構成され、(上記1)〜3)の重合体鎖の中の任意の1種)nX(但し、Xは下記の多官能カップリング剤の残基で、且つX≧3)の一般式で表されるものであり、その好ましい例としては、例えば下記の一般式のものが挙げられる。
【0014】
(S1−S2−B)n1 −X−(B−S2)n2 、
(S1−S2−B/S−B)n1 −X−(B−B/S−S2)n2 、
[S1−S2−(S3−B/S)n−B]n1 −X−[B−(B/S−S3)n−S2]n2
(Sはビニル芳香族炭化水素重合体ブロック、Bは共役ジエン重合体ブロック、B/Sはビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの共重合体ブロックであり、nは1〜5の整数、Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、エポキシ化大豆油、ポリハロゲン化炭化水素、カルボン酸エステル、ポリビニル化合物等の多官能カップリング剤の残基を示す。n1 、n2 はn1 +n2 が3〜8の整数。)
尚、上記したブロック構造を表す式における”S”の添番号は、ビニル芳香族炭化水素ブロック(S)のブロックの同定番号を表す。
【0015】
本発明に使用するポリモダル分岐ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックは、全体で、GPCによって得られるクロマトグラムにおいて5000〜30000の範囲と50000〜150000の範囲に各々少なくとも1つのピーク分子量を有し、好ましくは10000〜25000の範囲と60000〜130000の範囲に各々少なくとも1つのピーク分子量を有するものである。ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのピーク分子量が5000未満、30000を超える範囲の場合或いは50000未満、150000を超える範囲の場合は、耐衝撃性が低下したり、透明性が悪化するため好ましくない。ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのピーク分子量は、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックを製造する際の触媒量、ビニル芳香族炭化水素の添加量を変えることにより調整することができる。ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのピーク分子量の測定は、四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりポリモダル分岐ブロック共重合体を酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を
GPCにかけてGPC曲線を得た後、単分散ポリスチレンをGPCにかけてそのピークカウント数と分子量から作成した検量線を用い、定法[例えば、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー」、(1976年、丸善株式会社発行)を参照]に従って算出することによって、ピーク分子量を求めることができる。
【0016】
ポリモダル分岐ブロック共重合体に用いられる炭化水素溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、或いはベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。ビニル芳香族炭化水素としてはスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレンなどがあるが、特に一般的なものとしてはスチレンが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。共役ジエンとしては、1対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどであるが、特に一般的なものとしては1,3−ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0017】
本発明に使用するポリモダル分岐ブロック共重合体中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率は、90重量%を超え、100重量%以下、好ましくは92〜100重量%である。ブロック率が90重量%以下では成形品の耐熱性が低下するため好ましくない。ビニル芳香族炭化水素のブロック率は、ブロック共重合体の製造時に少なくとも一部のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンが共重合する工程のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの重量、重量比、重合反応性比等を変えることによりコントロールすることができる。具体的な方法としては、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの混合物を連続的に重合系に供給して重合する、及び/又は極性化合物或はランダム化剤を使用してビニル芳香族炭化水素と共役ジエンを共重合する等の方法が採用できる。極性化合物やランダム化剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。尚、本発明においてポリモダル分岐ブロック共重合体中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率は、上記したビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのピーク分子量の測定に用いた成分(ポリモダル分岐ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロック)を定量し、次の式から求めた値を云う。
【0018】
ブロック率(重量%)=(ポリモダル分岐ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの重量/ポリモダル分岐ブロック共重合体中の全ビニル芳香族炭化水素の重量)×100
本発明に使用するポリモダル分岐ブロック共重合体は、50000〜500000の重量平均分子量を有する。ポリモダル分岐ブロック共重合体の重量平均分子量は、標準ポリスチレンを基準にしてGPCによって求めることができる。
また、成形加工の点から本発明に使用するポリモダル分岐ブロック共重合体のMFRは0.1〜50g/10minが好ましく、より好ましくは1〜20g/10minである。
【0019】
本発明に使用するポリモダル分岐ブロック共重合体のポリモダルとは特公昭48−4106号公報に記載されているような、GPCで得られた分子量分布曲線において複数のモード又はピークを示すものである。
本発明の組成物において、スチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体(I)とポリモダル分岐ブロック共重合体(II)の配合比は、重量比率で10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20である。スチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体(I)が90重量%を超えると、組成物の耐衝撃性が低下し、10重量%未満では、成型品の剛性が低下するため好ましくない。
【0020】
本発明の組成物には安定剤として2−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−t−アミルフェニルアクリレートを(I)と(II)の合計100重量部に対して0.05〜3重量部、更に好ましくは0.1〜2重量部添加することによって、より一層のFE抑制効果を得ることができる。安定剤が0.05重量部未満ではFEを抑制する効果がなく、3重量部を超えて添加しても本発明以上のFE抑制効果に寄与しない。
【0021】
本発明のスチレン系樹脂組成物にはn−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス〔(オクチルチオ)メチル〕−o−クレゾール、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のフェノール系安定剤の少なくとも1種を(I)と(II)の合計100重量部に対して0.05〜3重量部、トリス−(ノニルフェニル)フォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2−〔〔2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル〕オキシ〕−N,N−ビス〔2−〔〔2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエチル)ジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル〕オキシ〕−エチル〕−エタンアミン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等の有機ホスフェート系、有機ホスファイト系安定剤の少なくとも1種を(I)と(II)の合計100重量部に対して0.05〜3重量部添加することができる。
【0022】
本発明の組成物は、従来公知のあらゆる配合方法によって製造することができる。例えば、オープンロール、インテンシブミキサー、インターナルミキサー、コニーダー、二軸ローター付の連続混練機、押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶剤に溶解又は分散混合後溶剤を加熱除去する方法等が用いられる。
【0023】
本発明の組成物にはFEを悪化させず、耐熱性及び透明性、剛性、耐衝撃性等の物性バランスを損なわない範囲で必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。これらの添加剤には、ビニル芳香族炭化水素含有量が50重量%以下のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体エラストマーやゴム変性スチレン系重合体、非ゴム変性スチレン系重合体、ポリエチレンテレフタレート等の他に、プラスチックの配合に一般的に用いられる添加剤、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ、炭カル、タルク等の無機補強剤、有機繊維、クマロンインデン樹脂等の有機補強剤、有機パーオキサイド、無機パーオキサイド等の架橋剤、チタン白、カーボンブラック、酸化鉄等の顔料、染料、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、その他の増量剤あるいはこれらの混合物があげられる。
【0024】
本発明の組成物はそのままであるいは着色して通常の熱可塑性樹脂と同様の加工手段によって成形し、あらゆる用途に使用できる。例えば、射出成形、吹込成形方法等によるOA機器部品、日用品、食品、雑貨、弱電部品等の容器に使用することができる。特にFEが少ない特徴を生かし、ラミネート用フィルム等の薄いフィルムに好適である。
【0025】
【実施例】
以下に本発明の実施例を説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。表1に実施例、比較例に使用したスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体を示した。A−1〜A−4の共重合体は、撹拌器付き10Lオートクレーブに、スチレンとアクリル酸n−ブチルを表1に示す比率で5kg添加し、同時にエチルベンゼン0.3kgと、MFRを調整するため1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンを所定量仕込み、110〜150℃で2〜10時間重合後、ベント押出機で未反応スチレン、アクリル酸n−ブチル、エチルベンゼンを回収して得た。1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン量、重合温度、重合滞留時間及び攪拌数は表1の30℃の貯蔵弾性率、その50%となる温度及び180〜240℃の粘度となるように調整した。得られた共重合体のMFRは、JISK−6870に基づき、G条件(温度200℃、荷重5Kg)で測定した。
【0026】
表1に示した共重合体の貯蔵弾性率は、DMA983(DUPONT社製)を用い、周波数は共鳴周波数、昇温速度は2℃/minで、厚さ約3mm、幅約12mmの圧縮成型品をスパン約15mmのアームに取り付け、振幅0.2mmで測定した。また粘度(Poise)の測定条件は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)を用い、シェアー(SR)が61sec-1の値である。キャピログラフの測定条件は、キャピラリー長さ(L)が10.0mm、キャピラリー径(D)が1.00mm、バレル径(B)が9.50mmで、180〜240℃の範囲で10℃毎に測定した。
【0027】
表2に実施例、比較例に使用したポリモダル分岐ブロック共重合体を示した。ポリモダル分岐ブロック共重合体はシクロヘキサン溶媒中でn−ブチルリチウムを開始剤に用い、表2のポリマー構造欄に記載されている構造の重合体鎖を重合した。重合終了後、所定量のカップリング剤を添加し、開始剤の1.5〜3倍モルの水を添加して重合を停止させた。その後、表3に示した安定剤量を添加し、溶剤を留去してブロック共重合体を回収した。得られたブロック共重合体のMFRは全て5〜10の範囲であった。尚、カップリング剤はエポキシ化大豆油(Vikoflex 7170(Atochem Chemical社製)と四塩化ケイ素を使用した。得られたポリモダル分岐ブロック共重合体のMFRは5〜13の範囲であった。
【0028】
(実施例1〜5及び比較例1〜6)
表3の配合組成に従って、40mmシート押出機を用いて押出温度200℃で厚さ0.25mmのシートを成形し、引張弾性率(剛性の目安)、破断伸び、Haze、ビカット軟化温度(耐熱性の目安、以下VSPと記す)及び80℃収縮率を下記の方法で測定した。また同条件で厚さ0.6mmのシートを成形し、面衝撃強度を下記の方法で測定した。更にFEを下記の条件で測定した。得られたシートの性能を表3に示した。
(1)引張弾性率及び破断伸び:引張速度5mm/minでシート押出方向およびその直角方向について測定した。試験片は幅を12.7mm、標線間を50mmとした。
【0029】
(2)面衝撃強度:重錘形状を半径1/2インチとした以外はASTMD−1709に準拠して23℃で測定し、50%破壊値を求めた。
(3)Haze:シート表面に流動パラフィンを塗布し、ASTM D1003に準拠して測定した。
(4)VSP:0.6mmのシートを厚さ3mmに圧縮成形したものを試験片とし、ASTM D−1525に準じて測定(荷重1Kg、昇温速度した。2℃/min)した。
(5)80℃収縮率:厚さ0.25mmのシートをテンター延伸機で押出方向の直角方向に5倍に一軸延伸して得た厚さ約60μmの延伸フィルムを、80℃の温水中に5分間浸漬し、次式により算出した。熱収縮率(%)=(L−L1)/L×100、L:収縮前の長さ、L1:収縮後の長さ。
【0030】
(6)FE:40mmシート押出機を用いて押出温度235℃の条件で厚さ0.3mmのシートを6時間連続成形し、運転開始5分後と6時間後のシート面積300cm2 あたりの0.5mm以上のFE個数の差をカウントして評価した(○:差が50個未満、△:差が50〜100個、×:差が100個を超える)。
(比較例7)
30℃における貯蔵弾性率が2.3×109 Pa、30℃における50%となる温度が104℃のスチレン含有量が96重量%のスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体を50重量%と表2のB−1を50重量%の配合組成である以外は実施例1と同様の方法で成形し、配合特性を調べた。その結果、80℃収縮率が13%と極めて低い値であった。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【発明の効果】
本発明のスチレン系樹脂組成物を用いたシート、フィルムは、FEが少なく、耐熱性、透明性、引張弾性率及び破断伸びに優れ、熱収縮性フィルムとしてもFEが少ない上に、80℃収縮率が良好である。このようにFEが少ない特長を生かして、薄いシート、フィルム等の押出成型品をラッピングフィルムに、又は発泡容器等へのラミネートフィルム用途及び熱収縮性フィルム用途等に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用するスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の180〜240℃の範囲における粘度の式(1)と式(2)の値を図示した。
Claims (4)
- (I)スチレン含有量が80〜89重量%、アクリル酸n−ブチル含有量が11〜20重量%とからなるスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体と、(II)ビニル芳香族炭化水素含有量が65〜85重量%、共役ジエン含有量が35〜15重量%からなるポリモダル分岐ブロック共重合体であり、該ポリモダル分岐ブロック共重合体を構成するブロック共重合体鎖が、ビニル芳香族炭化水素ブロックと、ビニル芳香族炭化水素、共役ジエンからなるブロックとを含有し、又はさらに共役ジエンブロックを含有する鎖からなり、該ポリモダル分岐ブロック共重合体のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックのピーク分子量が5000〜30000の範囲と50000〜150000の範囲に各々少なくとも1つを有し、該ポリモダル分岐ブロック共重合体中に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率が90重量%を超え、100重量%以下であるポリモダル分岐ブロック共重合体からなり、(I)と(II)の重量比が10/90〜90/10であるスチレン系重合体組成物。
- (I)のスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体のスチレン含有量が83〜89重量%、アクリル酸n−ブチル含有量が11〜17重量%である請求項1記載のスチレン系重合体組成物。
- (I)のスチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体の30℃における貯蔵弾性率が1.5×109 〜2.5×109 Paの範囲で、30℃における貯蔵弾性率の50%となる温度が75〜100℃の範囲である請求項1又は請求項2記載のスチレン系重合体組成物。
- 安定剤として2−t−アミル−6−〔1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−t−アミルフェニルアクリレートを、(I)と(II)の合計100重量部に対して0.05〜3重量部添加してなる請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系重合体組成物。
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