JP4452380B2 - エンジンの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの制御装置に係り、特に、アイドル運転時における蒸発燃料(エバポ)のパージ処理に関する。
【従来の技術】
従来より、燃料タンク等で発生したエバポが大気中に放出されることを防止するために、発生したエバポをキャニスタにおいて一旦吸着し、吸着されたエバポをパージ制御バルブを介して吸気系にパージするシステムが知られている。例えば、特開平6-159126号公報には、アイドル運転時におけるエバポパージ制御について開示されている。具体的には、まず、アイドル運転時に吸入空気量を調整する補助空気制御バルブの基本開度を算出するとともにエバポのパージ量を算出する。そして、この基本開度からエバポのパージ量に応じた補正値を減算することにより、補助空気制御バルブの最終的な開度を算出する。それとともに、エバポのパージ量を考慮した上で燃料噴射量を決定する。このようにして算出された制御値に基づいて、実エンジン回転数が目標アイドル回転数に収束するようフィードバック制御を補助空気制御バルブおよびインジェクタに対して行う。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来技術において、アイドル運転時におけるエンジン回転数の目標値である目標アイドル回転数は、エバポのパージ量に依存することなくエンジン水温等から一義的に特定される。このように、パージ量に拘わらず目標アイドル回転数を一定とした場合、そのアイドル運転状態において燃焼安定性を維持しながら、パージ量の増大を図ることには限界がある。また、従来技術では、複雑な制御が必要となるほか、制御の時間遅れの問題もあり良好な制御性を得るのは容易ではない。
【0003】
そこで、本発明の目的は、アイドル運転時におけるエバポパージを大量に行うことができ、かつそれを比較的簡単な制御で可能にすることである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために、本発明は、吸気通路と燃料タンクとを連通するパージ通路に設けられたパージ制御バルブの開度を制御するパージバルブ制御手段と、エバポの発生量を検出するエバポ検出手段と、アイドル時の回転数を目標回転数となるように制御するアイドル回転制御手段とを有し、運転状態に応じて成層燃焼または均一燃焼を行う筒内に直接燃料を噴射するエンジンの制御装置を提供する。この制御装置は、第1の制御手段と、第2の制御手段と、第3の制御手段とを有する。第1の制御手段は、エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値よりも低くかつ第2の判定しきい値以上の場合には、成層燃焼を禁止した上で、第1のアイドル回転数に設定する。第2の制御手段は、エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値以上の場合には、成層燃焼を禁止した上で、第1のアイドル回転数よりも高い第2のアイドル回転数に設定する。第3の制御手段は、エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第2の判定しきい値よりも低い場合には、成層燃焼を許可した上で、第1のアイドル回転数よりも低い第3のアイドル回転数に設定する。
【0005】
ここで、本発明において、第1の制御手段は、エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値よりも低くかつ第2の判定しきい値以上の場合には、パージ制御バルブを第1の開度に設定する。第2の制御手段は、エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値以上の場合には、パージ制御バルブを第1の開度よりも大きい第2の開度に設定する。第3の制御手段は、エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第2の判定しきい値よりも低い場合には、パージ制御バルブを第1の開度よりも小さい第3の開度に設定する。
【0012】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
図1は、本発明が適用可能なエンジンの一例を示す全体構成図である。本形態のエンジン1は、通常の吸気系燃料噴射エンジンであり、エンジン1の各吸気ポートに吸気バルブ2が介装されているとともに、各吸気ポートはインテークマニホールド3と連通している。このインテークマニホールド3には、その内部に形成された吸気通路に向けて燃料を噴射するインジェクタ7(筒外インジェクタ)が配設されている。インジェクタ7は気筒毎に個別に設けられており、燃料タンク18と連通した燃料配管を介して、所定圧に調圧された燃料(ガソリン)が供給されている。また、エンジン1の燃焼室中央には点火プラグ6の放電電極が臨んでいる。さらに、エンジン1の各排気ポートには排気バルブ4が介装されているとともに、各排気ポートはエギゾーストマニホールド5と連通している。
【0013】
エアクリーナ8により大気中の塵埃等が除去された空気は、電動スロットルバルブ10の開度に応じて、その流量が制御される。このスロットルバルブ10は、エアクリーナ8とエアチャンバ9との間の吸気通路に介装されており、電動モータによってその開度が調整される。エンジン制御装置12(以下「ECU」という)は、エンジン回転数、エンジン要求負荷に相当するアクセルペダル30の踏込量等に基づいてスロットル開度を算出し、電動モータを介してスロットルバルブ10を制御する。スロットルバルブ10によって流量が調整された吸入空気は、エアチャンバ9を流れて、インテークマニホールド3においてインジェクタ7から噴射された燃料と混合される。このようにして形成された混合気は、吸気バルブ2の開弁によってエンジン1の燃焼室に流入する。そして、点火プラグ6によって、混合気を着火して燃焼させることで、エンジン1の駆動力が発生する。
【0014】
混合気の燃焼によって発生した排気ガスは、排気バルブ4の開弁によって燃焼室からエギゾーストマニホールド5へ排出される。そして、この排気ガスは、エギゾーストマニホールド5の下流に設けられた触媒コンバータ13によって、排気ガス中の有害成分CO,HC,NOxが適切に浄化され、マフラ15を介して大気中に排出される。
【0015】
アイドル運転時におけるエンジン回転数(アイドル回転数)は、ISCバルブ16(アイドルスピード制御バルブ)によって制御される。ISCバルブ16は、スロットルバルブ10の上流側と下流側とを連通するバイパス通路17に介装されており、ECU12によって制御される。スロットルバルブ10が全閉されるアイドル運転時には、ISCバルブ16の開度を適切に設定することにより、アイドル運転を行うのに必要な吸入空気量が確保される。
【0016】
燃料タンク18の内部等において発生したエバポは、以下のような構成を有するエバポパージ系を介して、吸気系のエアチャンバ9に適宜放出される。すなわち、燃料タンク18の上部は、燃料タンク18内で発生したエバポを放出するためのパージ通路19を介して、エアチャンバ9と連通している。このパージ通路19には、キャニスタ20とパージ制御バルブ21とが設けられている。キャニスタ20は、エバポを吸着する活性炭等で構成された吸着部を有するとともに、その下部には大気を導入する新気導入口が設けられている。なお、本実施形態では、パージ制御バルブ21として、ECU12によりデューティ制御されるデューティソレノイドバルブを採用しているが、リニアソレノイドバルブやステップモータ式等適宜のものを採用し得る。
【0017】
ECU12は、マイクロコンピュータ、ROM、RAM、入出力インターフェース等で構成されており、センサ22〜29を含む各種センサからのセンサ信号が入力されている。燃料タンク内圧センサ22は、燃料タンク18内の上部に設けられており、このセンサ信号に基づいて燃料タンク18の内力Pfが検出される。なお、燃料タンク18内とほぼ同じ圧力状態にある、燃料タンク18とキャニスタ20とを連通するパージ通路19に、このセンサ22を設けてもよい。燃料温度センサ23は、燃料タンク18内に設けられており、このセンサ信号に基づいて燃料の温度Tfが検出される。なお、燃料タンク18内とほぼ同じ温度状態にある、インジェクタ7に燃料を供給する燃料配管(図示せず)に、燃料温度センサ23を設けてもよい。HCセンサ24は、エバポの発生量を検出するセンサであり、パージ通路19に設けられている。ECU12は、このセンサ24からのセンサ信号に基づいてパージ通路19内の炭化水素HCの濃度、すなわちエバポ濃度Deを検出する。なお、エバポの発生量に応じてキャニスタ20内の炭化水素HCの濃度も変動するため、HCセンサ24をパージ通路19ではなくキャニスタ20内に設けてもよい。スロットルセンサ25は、スロットル開度θtを検出するためのスロットル開度センサとスロットルバルブ10が全閉で「オン」するアイドルスイッチとが内蔵されている。アクセル開度センサ29は、アクセルペダル30の踏込量に相当するアクセル開度θaを検出するためのセンサである。エンジン回転数センサ26は、エンジン回転数Neを算出するためのセンサであり、例えば、クランクシャフトが所定角度回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサを用いることができる。エンジン水温センサ27は、エンジン冷却水の水温Teを検出するためのセンサであり、エンジン1の冷却水通路に設けられている。また、空燃比センサ28は、排気通路を流れる排気ガスから実空燃比A/F(排気空燃比)を検出するためのセンサであり、例えばリニアO2センサを用いることができる。本来、空燃比センサ28の出力信号から算出される排気空燃比A/Fは、燃料噴射量の外乱が存在しない場合(例えばエバポパージが行われていない場合等)、目標空燃比相当となる。ところが、吸気系へのエバポの流入または経年変化等の外乱の影響を受けると、実空燃比は目標空燃比と一致しなくなる。そこで、空燃比フィードバック制御を行うことで、実空燃比と目標空燃比とのずれ分を補正している。
【0018】
なお、ECU12は、図示しない自動変速機を制御するため、マイクロコンピュータを中心に構成された変速制御装置31(以下「TCU」という)と、双方向通信を行っている。これにより、ECU12は、図示しないセレクトレバーにより選択されたレンジ(P,R,N,Dレンジ等)を示す操作位置SR等のデータをTCU31から受信する。
【0019】
ECU12は、ROMに格納された制御プログラムにしたがって、燃焼を適切に行う上で必要な燃料噴射量、燃料噴射タイミングおよび点火タイミング等を演算し、インジェクタ7および点火プラグ6に対して制御信号を出力する。また、ECU12は、必要な吸入空気量を確保するためにスロットルバルブ10を制御するほか、アイドル運転時におけるエンジン回転数Neが目標アイドル回転数Ntrgに収束するようISCバルブ16を制御する。さらに、ECU12は、デューティ比DUTYのデューティ信号をパージ制御バルブ21に対して出力することにより、パージ制御バルブ21をデューティ制御する。
【0020】
図2は、本実施形態に係るエンジン制御ルーチンを示すフローチャートであり、本ルーチンは所定の間隔(例えば10ms毎)の定時割り込みで起動される。本ルーチンが開始されると、ECU12は、まずステップ1において、操作位置SR、アイドルスイッチ信号、水温Tw、エンジン回転数Ne、スロットル開度θt、エバポ濃度De等の各種信号を読み込む。
【0021】
つぎに、ステップ2において、操作位置SRに基づき、現在のセレクトレンジが「Nレンジ」であるか否かが判断される。「Nレンジ」以外のレンジに設定されている場合は、今回のサイクルにおける本ルーチンの処理を終了し、次回のサイクルにおける実行を待つ。一方、「Nレンジ」の場合は、ステップ2からステップ3に進む。
【0022】
ステップ3において、スロットルセンサ25に内蔵されたアイドルスイッチが「オン」であるか否かが判断される。このステップ3で否定判定された場合、すなわちスロットルバルブ10が開弁の非アイドル時は、本ルーチンの処理を一旦終了し、肯定判定された場合はステップ4のアイドル運転制御ルーチンが呼び出される。つまり、以下に詳述するアイドル運転制御は、Nレンジのアイドル運転状態において実行される。なお、このアイドル運転制御は、Nレンジのアイドル運転時に行うことが好ましいが、Dレンジのアイドル運転時において行ってもよい。
【0023】
図3は、アイドル運転制御ルーチンを示したフローチャートである。上述したエンジン制御ルーチンによって本ルーチンが呼び出されると、ECU12は、まずステップ11において、水温Teに基づきマップを参照して、設定すべき目標アイドル回転数の算出ベースとなる基本アイドル回転数Nbaseを算出する。図4は、基本アイドル回転数Nbaseの算出マップの説明図である。この算出マップは、予めシミュレーション或いは実験等に基づいてエンジン水温Tw毎に適切な基本アイドル回転数Nbaseを設定したものであり、ECU12を構成するROMの一連のアドレスにメモリされている。基本アイドル回転数Nbaseは、上限回転数Ne1(例えば1200rpm)および下限回転数Ne2(例えば600rpm)の範囲内においてエンジン水温Twに基づいて一義的に特定され、エンジン水温Twが上昇するにつれて減少する。エンジンの暖機が完了した状態において、基本アイドル回転数Nbaseはほぼ下限回転数Ne2となる。
【0024】
ステップ12において、基本アイドル回転数Nbaseに基づきパージ制御バルブ21に対する基本デューティ比DUTYbaseが算出される。この基本デューティ比DUTYbaseは、アイドル運転時においてパージ制御バルブ21に対するデューティ信号のデューティ比を設定する際の基本値であり、例えば、図5に示す基本デューティ比算出マップを参照して算出される。この算出マップは、予めシミュレーション或いは実験等に基づいて、基本アイドル回転数Nbaseを得るに適切な基本デューティ比DUTYbaseを設定したものであり、ECU12を構成するROMの一連のアドレスにメモリされている。基本デューティ比DUTYbaseは、基本アイドル回転数Nbaseの上昇にともない線形的に増加する。なお、基本アイドル回転数NbaseはISCバルブ16の開度と大きな相関を有するので、ISC開度を基本パラメータとして基本デューティ比DUTYbaseを算出してもよい。
【0025】
ステップ13において、エバポ濃度Deが所定の判定しきい値Deth1以上であるか否かが判断される。この判定しきい値Deth1は、エバポの発生量を判定する際の基準値として適切に設定された値である。このステップ13において否定判定された場合、すなわちエバポの発生量が少ないと判断された場合は、ステップ14以降の手順に進む。その結果、アイドル回転数の通常制御が行われるとともに、通常パージ制御が行われる。
【0026】
すなわち、ステップ14において、ステップ11で算出された基本アイドル回転数Nbaseがそのまま目標アイドル回転数Ntrgとしてセットされる。目標アイドル回転数Ntrgのセットを受けて、それに応じたISC開度および燃料噴射量が別ルーチンにおいて算出され、ISCバルブ16とインジェクタ7とが制御される。その結果、アイドル回転数が基本アイドル回転数Nbase相当になるように制御される。
【0027】
そして、ステップ15において、ステップ12で算出された基本デューティ比DUTYbaseが、パージ制御バルブ21の最終的なデューティ比DUTYとなる。これにより、通常パージ制御時におけるパージ制御バルブ21の開度は、基本デューティ比DUTYbase相当に設定され、通常流量のエバポパージが実行される。そして、ステップ15の処理が終了すると、本ルーチンの処理が一旦終了する。
【0028】
一方、ステップ13において肯定判定された場合、すなわちエバポの発生量が多いと判断された場合は、ステップ16以降の手順に進む。その結果、アイドル回転数は通常時よりも高回転化させるとともに、通常時よりもパージ量が大きい増大パージ制御が行われる。
【0029】
すなわち、ステップ16において、ステップ11で算出された基本アイドル回転数Nbaseに補正値α(例えば100〜150rpm)を加算したものが目標アイドル回転数Ntrgとしてセットされる。ただし、補正値αを加算することにより目標アイドル回転数Ntrgが上限回転数Ne1を越える場合は、上限回転数Ne1を目標アイドル回転数Ntrgとしてセットする。なお、この補正値αは、一定値であってもよいし、エンジン水温Twの上昇とともに大きくなるように設定してもよい。このステップ16における目標アイドル回転数Ntrgのセットを受けて、それに応じたISC開度および燃料噴射量が別ルーチンにおいて算出され、ISCバルブ16とインジェクタ7とが制御される。その結果、エバポの発生量が多いアイドル運転時では、エンジン回転数が(Nbase+α)になるので、ステップ14の通常制御の場合と比較して補正値α分だけ高回転化される。
【0030】
そして、ステップ16に続くステップ17において、ステップ12で算出された基本デューティ比DUTYbaseに補正値βを加算したものがパージ制御バルブ21に対するデューティ信号DUTYとして出力される。これにより、パージ制御バルブ21の開度は(DUTYbase+β)となるので、ステップ15の通常パージ制御の場合と比較して補正値β分だけパージ量が増大する。そして、ステップ17の処理が終了すると、本ルーチンの処理が一旦終了する。
【0031】
このように、本実施形態に係るエバポパージ制御では、アイドル運転時にエバポ濃度Deが所定値よりも高い場合、すなわちエバポの発生量が多い場合には通常制御時よりも目標アイドル回転数Ntrgを高く設定している(ステップ16)。目標アイドル回転数Ntrgを高回転化することにより、ISCバルブ16の開度が通常制御時よりも大きくなるため吸入空気量が増大する。したがって、パージ率が一定の場合、吸入空気量の増大に伴いパージ量を増大することが可能となり、かつ、燃焼面での余裕度が増す。そして、余裕度が増した分だけパージ制御バルブ21の開度を通常制御時よりも大きくしてパージ量をさらに増加させる(ステップ17)。その結果、アイドル運転時においても燃焼安定性を損なうことなく大量のパージを行うことが可能となり、エバポが大気へ放出されることを有効に防止することができる。また、アイドル回転数を高回転化させるという比較的簡単な制御で、良好な効果を得ることが可能となる。
【0033】
なお、上述した実施形態では、HCセンサ24でエバポ濃度Deを直接検出することにより、エバポの発生量を判定している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、下記の手法を用いてその判定を行ってもよい(後述する第2の実施形態についても同様)。
【0034】
1.燃料タンク内圧Pfに基づく判定
エバポの発生量の増大に伴い、燃料タンク18内の圧力Pfも上昇する。そこで、燃料タンク18内の圧力Pfからエバポの発生量を判定することが可能である。具体的には、燃料タンク内圧センサ22により検出された圧力Pfが所定値よりも高い場合に、エバポの発生量が多いと判定する。
【0035】
2.燃料温度Tfに基づく判定
エバポの発生量は、燃料温度が上昇するほど増大する傾向にあるため、燃料温度Tfからエバポの発生量を判定することが可能である。具体的には、燃料温度センサ23により検出された燃料温度Tfが所定値よりも高い場合に、エバポの発生量が多いと判定する。
【0036】
3.排気空燃比A/Fに基づく判定
エバポの発生量が多く、そのパージ量が多いほど、排気空燃比と目標空燃比との偏差が大きくなる傾向がある。したがって、これらの空燃比の偏差に基づいてエバポ濃度を推定することも可能である。この点を具体的に説明すると、まず、空燃比フィードバック制御において、インジェクタ7の燃料噴射量を定める燃料噴射パルス幅Tiは、下式により特定される。
Tp=K×Q/Ne
Ti=Tp×Φ×LAMBDA+Ts
【0037】
すなわち、基本燃料噴射パルス幅Tpは、エンジン回転数Neと吸入空気量Qとに基づき算出される。なお、Kはインジェクタ特性補正定数である。また、燃料噴射パルス幅Tiは、空燃比の制御変数である当量比Φ、基本燃料噴射パルス幅Tp等に基づき算出される。ここで、LAMBDAは空燃比フィードバック補正係数であり、実空燃比と目標空燃比との比較結果に基づき比例積分制御(PI制御)等により、この補正係数を適切に設定することによって、排気空燃比が目標空燃比に収束するように制御される。また、Tsはバッテリー電圧によって定まる無効噴射パルス幅である。なお、同数式の詳細については、特開平11-36968号公報に記載されているので、必要ならば参照されたい。
【0038】
ある空燃比を維持しようとした場合、エバポのパージ量が多いほど、インジェクタ7の燃料噴射量を減量補正する必要があるため、空燃比フィードバック補正係数LAMBDAは本来の設定値よりも小さくなっていく。したがって、EGR等の外乱要因に大きな変化がなく、かつ、パージ制御バルブ21が開いていることを前提とすれば、フィードバック補正係数LAMBDAの値はエバポの発生量と高い相関を有する。このような相関関係に鑑み、排気空燃比と目標空燃比との比較結果に応じて設定される空燃比フィードバック補正係数LAMBDAからパージ濃度を推定することが可能である。
【0039】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態に係るエンジンの全体構成図であり、筒内噴射エンジンへの適用例を示すものである。筒内噴射エンジン1は、気筒内に燃料を直接噴射し、火花点火により混合気の燃焼が行われる。したがって、気筒毎に設けられたインジェクタ7(筒内インジェクタ)は、その燃料噴射口が燃焼室に臨んでおり、燃料噴霧を微細化する必要から高圧化された燃料が供給されている。また、触媒コンバータ13の下流にはNOx吸蔵触媒コンバータ14が設けられており、触媒コンバータ13,14を介して浄化された排気ガスがマフラー15から排出される。それ以外の構成部材については第1の実施形態と同様であるので、図1に示した部材と同一の符号を付してここでの説明を省略する。
【0040】
ここで、筒内噴射エンジン1は、運転領域に応じて成層燃焼または均一燃焼が選択的に行われる。一般に、低負荷低回転領域においては成層燃焼が実行され、それ以外の運転領域では均一燃焼が実行される。ここで、成層燃焼は、圧縮行程においてインジェクタ7による燃料噴射を開始するとともに点火直前に終了し、燃料噴霧の後端部を点火プラグ6で着火して混合気を燃焼させる燃焼方式である。成層燃焼は、燃料周辺の空気しか利用せず、充填空気量に対して極めて少ない燃料量で安定した燃焼を得ることができるため、エンジン低負荷低回転運転時に適している。なお、基本的に、成層燃焼運転時にはエバポパージを行わない。これは、成層燃焼時にエバポパージを行うと、点火プラブ6近傍の可燃混合気の濃度がエバポの影響で大きく変動し、着火が不安定になりやすいからである。一方、均一燃焼(均一混合燃焼ともいう)は、燃料を成層燃焼よりも早い時期(例えば排気行程終期または吸気行程)に燃料を噴射し、気筒内に噴射燃料が十分に拡散し、噴射燃料と空気とが均一に混合した後に着火する燃焼方式である。均一燃焼は、空気利用率が高くエンジンの出力向上を図ることができるため、高負荷高回転運転時に適している。なお、均一燃焼運転時には運転状態に応じたエバポパージが行われる。均一燃焼は成層燃焼と比べて空燃比が低く、パージされたエバポが燃焼性に与える影響は比較的小さいからである。
【0041】
図7は、本実施形態に係るエンジン制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは所定の間隔(例えば10ms毎)の定時割り込みで起動される。ECU12は、まずステップ21において、各種信号を読み込んだ後、ステップ22において、操作位置SRが「Nレンジ」であるか否かを判定する。操作位置SRが「Nレンジ」以外の場合は、本ルーチンの処理を一旦終了し、「Nレンジ」の場合はステップ23に進む。ステップ23では、アイドルスイッチが「オン」であるか否かが判断され、このステップ23で否定判定された非アイドルの場合は本ルーチンの処理を一旦終了する。一方、ステップ23で肯定判定された場合はステップ24に進む。通常、ステップ24に進むケースは低負荷低回転領域なので、成層燃焼を行うべき運転領域である。
【0042】
ステップ24では、エバポ濃度Deが第2の判定しきい値Deth2以上(Deth1>Deth2)であるか否かが判断される。なお、第2の判定しきい値Deth2は上述した第1の判定しきい値Deth1よりも低い値に設定されている。エバポ濃度Deが第2の判定しきい値Deth2よりも低い場合、すなわちエバポパージを早急に行う必要はないと判断される場合、ステップ25に進み成層燃焼を許可する。そして、成層燃焼用のアイドル回転数制御を行うとともに、エバポパージの禁止または極低流量のエバポパージが実施される。
【0043】
具体的には、ステップ26において、図8において実線aで成層燃焼用目標アイドル回転数算出マップを参照して、エンジン水温Twをパラメータとして目標アイドル回転数Ntrgが設定される。基本的に、成層燃焼時に設定される目標アイドル回転数Ntrgは、均一燃焼時に設定される目標アイドル回転数Ntrg(同図において破線bとして図示)よりも小さな値に設定される。そして、目標アイドル回転数Ntrgのセットを受けて、それに応じたISC開度および燃料噴射量が別ルーチンにおいて算出され、ISCバルブ16とインジェクタ7とが制御される。その結果、アイドル回転数は成層燃焼用の目標アイドル回転数Ntrgに収束するよう制御される。
【0044】
続くステップ27において、パージ制御バルブ21のデューティ比DUTYはほぼ0に設定される。これにより、パージ制御バルブ21はほぼ全閉し、エバポパージは禁止される。ステップ27での処理が終了すると、今回のサイクルにおける本ルーチンの処理が終了する。
【0045】
一方、ステップ24において肯定判定された場合、すなわちエバポ濃度Deが第2の判定しきい値Deth2以上である場合には、ステップ28に進み、成層燃焼が禁止され均一燃焼が行われる。そして、ステップ29において、均一燃焼用アイドル運転制御ルーチンが呼び出される。
【0046】
均一燃焼用アイドル運転制御ルーチンは、図3に示したフローチャートと同様であり、ここでは図3に基づき概略的に説明する。エバポ濃度Deが第1の判定しきい値Deth1よりも低い場合には(Deth2≦De<Deth1)、ステップ13からステップ14に進み、図4の算出マップを参照することにより特定された基本アイドル回転数Nbaseが、目標アイドル回転数Ntrgとして設定される(均一燃焼時通常制御)。そして、続くステップ15において、図5の算出マップを参照することにより特定された基本デューティDUTYbaseが、パージ制御バルブ21のデューティ比DUTYとして出力される。これにより設定されるパージ制御バルブ21の開度は、成層燃焼アイドル運転時よりも大きくなる(均一燃焼時通常パージ制御)。
【0047】
一方、エバポ濃度Deが第1の判定しきい値Deth1以上の場合には、ステップ13からステップ16に進み、基本アイドル回転数Nbaseに補正値αを加算した値が、目標アイドル回転数Ntrgとして設定される。そして、続くステップ17において、基本デューティDUTYbaseに補正値βを加算した値が、パージ制御バルブ21のデューティ比DUTYとして出力される。これにより設定されるパージ制御バルブ21の開度は、均一燃焼時通常パージ制御時の場合によりも大きくなる(均一燃焼時増大パージ制御)。
【0048】
このように、第2の実施形態では、アイドル運転時において、エバポの発生量が多い場合には、成層燃焼を禁止して均一燃焼を行う。基本的に、アイドル回転数は、成層燃焼時よりも均一燃焼時の方が高く設定されるため、均一燃焼を強制的に実行することにより吸入空気量が増大する。それとともに、成層燃焼時に禁止されるエバポパージが、均一燃焼の実施とともに開始される。したがって、アイドル運転時においても燃焼安定性を損なうことなく大量のパージを行うことが可能となり、エバポが大気へ放出されることを有効に防止することができる。また、第1の実施形態の場合と同様に、アイドル回転数を高回転化させるという比較的簡単な制御で、エバポの大量パージを効果的に行うことが可能となる。
【0049】
【発明の効果】
このように、本発明においては、エバポの発生量が多いと判断される場合には、通常アイドル運転時よりもアイドル回転数を高回転化させとともに、パージ制御バルブの開度を大きくする。それにより、燃焼変動を抑制しながら、通常のアイドル運転時よりも大量のエバポパージを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係るエンジンの全体構成図
【図2】エンジン制御ルーチンを示すフローチャート
【図3】アイドル運転制御ルーチンを示したフローチャート
【図4】基本アイドル回転数算出マップの説明図
【図5】基本デューティ比算出マップの説明図
【図6】第2の実施形態に係るエンジンの全体構成図
【図7】エンジン制御ルーチンを示すフローチャート
【図8】成層燃焼用目標アイドル回転数算出マップの説明図
【符号の説明】
1 エンジン、
3 インテークマニホールド、
9 エアチャンバ、
10 電動スロットルバルブ、
11 電動モータ、
12 エンジン制御装置(ECU)、
16 ISCバルブ、
17 バイパス通路、
18 燃料タンク、
19 パージ通路、
20 キャニスタ、
21 パージ制御バルブ、
22 燃料タンク内圧センサ、
23 燃料温度センサ、
24 HCセンサ、
25 スロットルセンサ、
26 エンジン回転数センサ、
27 エンジン水温センサ、
28 空燃比センサ、
30 アクセルペダル
31 変速制御装置(TCU)
Claims (2)
- 吸気通路と燃料タンクとを連通するパージ通路に設けられたパージ制御バルブの開度を制御するパージバルブ制御手段と、エバポの発生量を検出するエバポ検出手段と、アイドル時の回転数を目標回転数となるように制御するアイドル回転制御手段とを有し、運転状態に応じて成層燃焼または均一燃焼を行う筒内に直接燃料を噴射するエンジンの制御装置において、
前記エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値よりも低くかつ第2の判定しきい値以上の場合には、成層燃焼を禁止した上で、第1のアイドル回転数に設定する第1の制御手段と、
前記エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値以上の場合には、成層燃焼を禁止した上で、第1のアイドル回転数よりも高い第2のアイドル回転数に設定する第2の制御手段と、
前記エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第2の判定しきい値よりも低い場合には、成層燃焼を許可した上で、第1のアイドル回転数よりも低い第3のアイドル回転数に設定する第3の制御手段と
を有することを特徴とするエンジンの制御装置。 - 前記第1の制御手段は、前記エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値よりも低くかつ第2の判定しきい値以上の場合には、前記パージ制御バルブを第1の開度に設定し、
前記第2の制御手段は、前記エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第1の判定しきい値以上の場合には、前記パージ制御バルブを第1の開度よりも大きい第2の開度に設定し、
前記第3の制御手段は、前記エバポ検出手段により検出されたエバポの発生量が第2の判定しきい値よりも低い場合には、前記パージ制御バルブを前記第1の開度よりも小さい第3の開度に設定することを特徴とする請求項1に記載されたエンジンの制御装置。
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