JP4449178B2 - 油圧サーボピストン - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、湿式多板の摩擦係合要素を係脱操作する油圧サーボピストンに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動変速機に用いられる摩擦係合要素の油圧サーボピストンは、油圧の受圧部を構成する頭部と、それにつながり、摩擦係合要素の押圧部を構成する筒状部とからなる構成とされる。油圧サーボピストンには、その軽量化、その内部に溜まる潤滑油の排出、回転センサやパーキング機構など他の部材を挿通又は出入させるために窓孔を設ける場合がある。従来、こうした窓孔を部材形状に合わせて長孔とする場合、孔の長手方向両端部は両長辺をつなぐ半円形とし、窓孔全体の形状を長円状とするのが通例である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような窓孔を有するピストンでは、その受圧頭部の剛性が不足し勝ちとなり、油圧による押圧力を加えた際に、受圧頭部の歪み変形が筒状部にも及び、それによりピストン全体が歪み変形し、摩擦係合要素をその周方向に均一に押圧することができない。また、特に窓孔をピストンの受圧面である受圧頭部に近接した位置に設けた場合、油圧印加時に受圧頭部の歪み変形による応力が窓孔の前記半円形部の中央に集中してかかるため、この際の応力負荷と油圧解放時の応力解放の繰り返しでピストンの耐久性を低下させる。
【0004】
このような事情に鑑み、本発明は、窓孔の形成による歪み変形を受圧頭部の剛性を上げることで防いだ油圧サーボピストンを提供することを主たる目的とする。また本発明は、窓孔部にかかる応力を分散させることで油圧サーボピストンの耐久性を向上させることを更なる目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は、受圧頭部と、該頭部の外周から延びる筒状部とからなる油圧サーボピストンにおいて、前記筒状部に少なくとも一つの窓孔を有し、受圧頭部に最も近接する窓孔に対応する周方向部分に、他の周方向部分より厚肉の肉厚部を有し、肉厚部の周方向長さは、窓孔の周方向長さより長くされたことを特徴とする。
【0007】
また、上記の構成において、肉厚部は、受圧頭部の外周部に設けるのが有効である。
【0008】
更に、上記の構成において、受圧頭部に最も近接する窓孔は、周方向両端部で軸方向に延びる直辺部を有する構成とするのが有効である。
【0009】
そして、窓孔をパーキングポールの出入を許容する周方向に長い略長方形の孔形状とする場合、筒状部の外周面側に当たる周方向両端部の角部を面取りされた構成とするのが有効である。
【0010】
また、他の窓孔が前記窓孔の周方向中央部近傍に配置される場合、前記窓孔の周方向中央部の幅は、周方向両端部の幅より狭くするのが有効である。
【0011】
また、上記の構成において、前記他の周方向部分は、受圧頭部の受圧面の形状に沿って肉抜きをするのも有効である。
【0012】
【作用及び発明の効果】
本発明の請求項1記載の構成では、ピストン受圧面のうち、受圧頭部に最も近接した窓孔に対応した周方向部分の肉厚を他の周方向部分より厚くすることで、受圧頭部の剛性が増し、その歪み変形が防止される。また、それにより窓孔に加わる応力が減少するため、ピストンの耐久性が向上する。その結果、窓孔を設ける位置や大きさに対する制約が緩和されるので、潤滑油の排出、回転センサやパーキングポールなどの部材との干渉防止などの所望の性能を得ながら、ピストンの耐久性を向上させることができる。また、肉厚部の周方向長さを、窓孔の周方向長さより長くすることで、受圧頭部の歪み変形を有効に防止でき、ピストンの耐久性をより向上させることができる。
【0014】
また、請求項2記載の構成では、肉厚部を受圧頭部の外周部に設けることで、重量の増加を最小限に抑えながら、受圧頭部の変形を有効に防止でき、ピストンの耐久性をより向上させることができる。
【0015】
また、請求項3記載の構成では、窓孔の周方向両端部に軸方向に直線状となる部分を有するので、周方向両端部をそれぞれ単一の円弧でつなぐ場合より窓孔にかかる応力を分散させることができるため、窓孔部への応力集中によるピストンの耐久性の低下を防ぐことができる。
【0016】
次に、請求項4記載の構成では、パーキングポールとの干渉を防止する上で最も問題となる筒状部外周面側について、窓孔の周方向両端角部を面取りしているので、単に窓孔全体の形状を干渉を防ぐような大きさとした揚合に比べて、窓孔の内周側の肉厚分だけ窓孔形状を小さくして、ピストンの強度を向上させることができる。
【0017】
また、請求項5記載の構成では、受圧頭部に最も近接する窓孔と他の窓孔との間の筒状部長さを最大限確保しながら、受圧頭部に最も近接する窓孔にかかる応力も分散させることができるので、該窓孔部の強度を確保し、ピストンの強度を増加させることができる。
【0018】
また、請求項6記載の構成では、ピストンの強度保持上影響のない部分の肉厚を減らすことができるため、ピストンの耐久性を向上させつつ、軽量化が可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る油圧サーボピストンの部分斜視図である。図1に示すように、この油圧サーボピストン(以下、実施形態の説明においてピストンという)は、従来のものと同様に、油圧の受圧部を構成する受圧頭部1と、その外周から延び、図示しない摩擦係合要素の押圧部を構成する筒状部2とからなる構成とされている。そして、ピストンは、筒状部2にパーキングポールの出入り、回転センサの挿通、油抜き等のための複数の窓孔3〜6を有する。
【0020】
本発明の特徴とするところに従い、ピストンは、受圧頭部1に最も近接した窓孔3に対応する周方向部分1aに、他の周方向部分1bより厚肉の肉厚部11を有する。肉厚部11は、受圧頭部1の外周部に設けられている。肉厚部11の周方向長さは、窓孔3の周方向長さより長くされている。他の周方向部分1bは、受圧頭部1の受圧面の形状に沿って肉抜き12をされている。
【0021】
図2に展開して平面形状を示すように、受圧頭部1に最も近接する窓孔3は、周方向両端部で軸方向に延びる直辺部31を有する。図3に断面を示すように、この窓孔3は、ピストンに対して切線方向に延びるパーキングポール7をパーキングギヤ8との係脱のために出入させる窓であるところから、図2に示すように周方向(図において上下方向)に長い略長方形の孔形状とされ、筒状部2の外周面側に当たる周方向両端部の角部32を面取りされている。また、図1に示すように、回転センサを挿通させる他の窓孔4が窓孔3の周方向中央部近傍に配置されていることから、窓孔3の周方向中央部の幅W1は、周方向両端部の幅W2より狭くされている。
【0022】
更に詳述すると、図1を参照して、ピストンの受圧頭部1は、その内周側に、ピストン内面側がリターンスプリングの受座を構成し、ピストン外面側が受圧部を構成する環状の内周フランジ部13を有し、外周側に、ピストン外面側が受圧部を構成する傾斜した環状の外周フランジ部14を有する構成とされ、内周フランジ部13と外周フランジ部14が環状の軸方向フランジ部15で相互に一体に連結された構成とされている。内周フランジ部13は、全周にわたって一様な断面形状とされ、内外周面にOリング溝を形成され、ピストン内面側に周方向等間隔配置の多数のスプリング挿入穴が形成されている。外周フランジ部14は、窓孔3が設けられた周方向位置と他の周方向位置とで異なる断面形状とされ、この場合、外周面にのみOリング溝を形成され、前記のように、窓孔3に対応する周方向部分1aを除く他の周方向部分1bは、周方向に適宜の間隔で配置された補強リブ16を残して肉抜き12をされている。したがって、窓孔3に対応する周方向部分1aの肉厚部11は、この肉抜きがないことで厚肉化されている。
【0023】
筒状部2は、受圧頭部1につながる部分が径方向内側に若干厚肉化されているが、全体に実質上一様な肉厚の円筒形とされ、先端部が径方向外側に厚肉化されて、図示しない変速機ケースとの係合による回り止めのためのスプライン歯が形成されている。図示の例では、筒状部2は、前記パーキングポール用の窓孔3のほかに、回転センサ用の窓孔4や油抜き孔5,6等を有する。
【0024】
次に、窓孔3は、図2及び図3を参照して、展開平面でみて概ね長方形状の周方向に長い開口とされ、その周方向に延びる長辺と軸方向に延びる短辺とをつなぐ角部R1〜R4は、円弧状の接続曲線(以下、コーナRという)で結ばれている。そして、この形態では、図1に見るように、窓孔3に対して軸方向に隣接する円形の窓孔4が形成されているところから、相互の窓孔3,4間に可能な限りの軸方向長さを確保すべく、窓孔4に近い側の2つの角部R3,R4は、短辺側に合わせたコーナRが長辺側で長辺位置より窓孔4方向に食い込む形状とし、このコーナRと長辺とを別のコーナRで結ぶ形状とされている。更に、窓孔3には、その短辺からコーナRにかけてピストンの外周面側に当たる孔の角部を斜めに切除した面取り32が施されている。
【0025】
図4は上記実施形態に係る窓孔形状と応力の関係を他の窓孔形状との比較で模式化して示す。なお、各窓孔形状に対応する表面応力のグラフの縦軸は、その大きさを同一スケールで示す。図(A)は冒頭に挙げた従来の長円形状の場合を示すもので、この場合、実質上窓孔の端部における円弧の中央部に集中した大きな応力S1がかかる。これに対して、図(B)に示す本形態のものでは、短辺の中央部と、短辺とコーナRの連結部付近の3箇所に分散して低減された応力S2〜S4がかかり、コーナRによる食い込みのない側の応力が相対的に若干高くなる特性がみられる。また、検証のために挙げる図(C)のコーナRの食い込みがない形状(窓孔の端部がパーキングポールと干渉しない孔幅とし、窓孔全体の幅をそれに合わせたもの)では、本形態のものと概ね同様の応力S5〜S7分布となるが、相対的に高い応力は、本実施形態の場合とは逆側にかかる特性がみられる。これらの比較から、本形態の窓孔形状が全体の開口幅をパーキングポールの幅と干渉しない最小限のものとしながら、窓孔の端部にかかる応力を分散させるのに極めて有効なものであることが解る。
【0026】
かくしてこのピストンでは、受圧頭部1に最も近接した窓孔3に対応した部分の肉厚を他の部分より厚くすることで、受圧頭部1の剛性が増し、その歪み変形防止され、窓孔3に加わる応力が減少するため、ピストンの耐久性が向上している。また、このことで窓孔3を設ける位置や大きさに対する制約が緩和されるので、潤滑油の排出、回転センサやパーキングポール7などの部材との干渉防止などの所望の性能を得ながら、ピストンの耐久性を向上させることができる。
【0027】
また、肉厚部11の周方向長さを、窓孔3の周方向長さより長くすることで、受圧頭部1の歪み変形を有効に防止でき、ピストンの耐久性をより向上させることができる。また、肉厚部11を受圧頭部1の外周部に設けることで、重量の増加を最小限に抑えながら、受圧頭部1の変形を有効に防止でき、ピストンの耐久性をより向上させることができる。また、窓孔3の周方向両端部に軸方向に直線状となる部分を有するので、周方向両端部をそれぞれ単一の円弧でつなぐ場合より窓孔3にかかる応力を分散させることができるため、窓孔部への応力集中によるピストンの耐久性の低下を防ぐことができる。
【0028】
次に、パーキングポール7との干渉を防止する上で最も問題となる筒状部2外周面側について、窓孔3の周方向両端角部を面取りしているので、単に窓孔3全体の形状を干渉を防ぐような大きさとした揚合に比べて、窓孔3の内周側の肉厚分だけ窓孔形状が小さくなり、ピストンの強度が向上している。また、窓孔3の中央部の幅を周方向両端部の幅より小さくし、他の窓孔4が窓孔3の中央部近傍に配置されていることで、受圧頭部1に最も近接する窓孔3と他の窓孔4との間の筒状部長さが最大限確保され、窓孔3にかかる応力も分散させることができるので、該窓孔部の強度が確保され、ピストンの強度も一層増加している。また、他の周方向部分1bを受圧頭部1の受圧面の形状に沿って肉抜きし、ピストンの強度保持上影響のない部分の肉厚を減らしているので、ピストンの耐久性を向上させつつ、軽量化がなされている。
【0029】
以上、本発明を一実施形態に基づき詳説したが、本発明は例示の実施形態に限るものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲で、種々の形態で実施可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧サーボピストンを一部断面で示す斜視図である。
【図2】油圧サーボピストンの窓孔部を示す部分横断面図である。
【図3】窓孔の形状を示す展開平面図である。
【図4】実施形態の窓孔形状と他の窓孔形状との応力負荷を比較して示す説明図である。
【符号の説明】
1 受圧頭部
1a 周方向部分
1b 他の周方向部分
11 肉厚部
12 肉抜き
2 筒状部
3 窓孔
31 直辺部
32 面取り
4 他の窓孔
7 パーキングポール
Claims (6)
- 受圧頭部と、該頭部の外周から延びる筒状部とからなる油圧サーボピストンにおいて、
前記筒状部に少なくとも一つの窓孔を有し、
受圧頭部に最も近接する窓孔に対応する周方向部分に、他の周方向部分より厚肉の肉厚部を有し、
前記肉厚部の周方向長さは、前記窓孔の周方向長さより長くされた、ことを特徴とする油圧サーボピストン。 - 前記肉厚部は、受圧頭部の外周部に設けられた、請求項1記載の油圧サーボピストン。
- 前記受圧頭部に最も近接する窓孔は、周方向両端部で軸方向に延びる直辺部を有する、請求項1記載の油圧サーボピストン。
- 前記窓孔は、パーキングポールの出入を許容する周方向に長い略長方形の孔形状とされ、
筒状部の外周面側に当たる周方向両端部の角部を面取りされた、請求項3記載の油圧サーボピストン。 - 他の窓孔が前記窓孔の周方向中央部近傍に配置され、前記窓孔の周方向中央部の幅は、周方向両端部の幅より狭くされた、請求項4記載の油圧サーボピストン。
- 前記他の周方向部分は、受圧頭部の受圧面の形状に沿って肉抜きをされた、請求項1記載の油圧サーボピストン。
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