近年、ホップに含まれる生理活性物質が注目されている。上記のように、ホップの毬花にはポリフェノールの1種であるタンニンが含まれていることは既に知られている。最近では、ホップの苞部分に含まれるホップポリフェノールが、腸管出血性大腸菌O157が発生するベロ毒素を中和、無毒化する機能を有することも発表されている。
本発明者らは、ホップ苞部分の有効利用を指向して、ホップ苞部分の抽出液に含まれる成分を分析した結果、ホップ苞部分にはルチンなどのケルセチン配糖体、アストラガリンなどのケンフェロール配糖体、カテキン類(カテキン、エピカテキンを含む)およびプロシアニジン類(カテキンおよび/またはエピカテキンの縮合物を含む)などの種々の抽出可能なポリフェノールが有効成分として含まれていることを見出した。特に、ホップ苞部分には、カテキン類を上回る抗酸化作用を有するとされるプロシアニジン類が、緑茶や紅茶などに比べて豊富に含まれていることが判明した。このような本発明者らの知見に基づき、ホップ苞部分からこれら有効成分(または生理活性物質)を抽出できれば、これにより得られる物質は付加価値が高く、機能性食品/食品添加物産業および医薬品産業などの種々の分野において高い需要が見込まれ得る。
しかしながら、植物中の有効成分、特にホップに含まれる有効成分としてのポリフェノールに着目し、これを効率的に抽出分離するプロセスは未だ確立されていない。また、一般的な溶媒抽出装置である常套のミキサーセトラーを用いてホップ中の有効成分を抽出しようとしても抽出効率が低く、ホップが装置内に滞留してプロセスを連続的に実施できないため、工業規模での効率的な抽出分離に適さないという問題がある。
本発明の課題は植物、特にホップ、例えばホップ苞部分を原料として、そのような植物中の有効成分を効率的に抽出分離することができる方法を提供することにある。また、本発明のもう1つの課題は、そのような本発明の方法を連続的に実施し得る、工業規模での効率的な分離に適した装置を提供することにある。
ホップ苞部分から有効成分を抽出することを指向して、固液抽出のための溶媒として、例えばアルコール、含水アルコールなどを用いると、ホップ苞部分はこれら溶媒に対して浮き易く、また、場合によっては浮いたり沈んだりするという現象が観察された。本発明者らはこのようなホップ苞部分の溶媒中での流動特性に着目して、本発明の方法および装置を完成するに至った。
本発明の1つの要旨によれば、植物中の有効成分を分離するための方法であって、溶媒と植物とを混合しつつ混合物の下降流を形成し、混合物の下降流を上昇流に変え、混合した植物を上昇流に乗せてその少なくとも一部を浮遊させ、浮遊した植物を混合物の液面近傍の流れに乗せて溶媒と共にオーバーフローさせる方法が提供される。
植物、特にホップ中の有効成分を工業規模で抽出するためには、一般的な溶媒抽出装置である常套のミキサーセトラーを用いることも考えられ得る。しかし、植物と溶媒とを単に撹拌するだけでは、植物が溶媒表面に浮いてしまうために、植物と溶媒との十分な接触が確保できず、抽出効率が低いという難点がある。また、植物が装置内に滞留してプロセスを連続的に実施できないという問題もある。
これに対して、上述の本発明の方法によれば、植物と溶媒との混合物の下降流を形成し、次いで、これを上昇流に変えているので、原料の植物を一旦沈めて植物と溶媒との接触を十分に確保することができる。これにより、接触の間に植物中の有効成分を溶媒中に抽出(固液抽出)させることができ、植物に含まれていた有効成分を溶媒中に工業規模で効率的に抽出分離することが可能となる。尚、抽出は、下降流を形成し、下降流を上昇流に変える工程(以下、本明細書において「抽出操作」と言う)の間に主に起こるが、植物の少なくとも一部を浮遊させ、オーバーフローする間にも起こり得ることに留意されたい。
加えて、本発明の方法によれば、植物と溶媒との混合物の下降流を形成し、次いで、これを上昇流に変えているので、植物と溶媒との接触を十分確保してから植物を上昇流に乗せることができ、上昇後、浮き易い植物は、そのまま混合物の液面近傍の流れに乗せてオーバーフローにより回収することができる。また、有効成分を抽出した溶媒(単に液相部とも言うものとする)もオーバーフローにより得ることができる。このような本発明の方法は連続的に実施することができ、植物の有効成分を工業規模で分離するのに適する。しかしながら、本発明はこれに限定されずバッチ式で実施することもできる。
上記の抽出操作(下降流を形成し、下降流を上昇流に変える工程)は1段階で実施し得るが、2段階以上繰り返し実施してもよい。後者のような多段操作によれば、植物と溶媒との接触時間を簡単に長期化することができる。
本発明の1つの態様において植物は溶媒に対して浮き易い部分と、沈み易い部分とを含んでいてよく、沈み易い部分は、例えば液面近傍を流れるうちに次第に沈降する。沈降した植物は溶媒と共にドレン抜きされ得る。
尚、本明細書において植物が「浮き易い」および「沈み易い」とは、溶媒中での植物の流動挙動を言うものである点に留意されたい。このような挙動は種々の因子、例えば植物の溶媒に対する比重、植物の空気含有量(または空気取り込み量)、植物中への溶媒の含浸などの影響を受け得、また、溶媒との接触時間が長くなるにつれてこれら影響の程度が変わって経時的にも変化し得る。
本発明の方法によってオーバーフローさせた植物および溶媒の混合物は、任意の適切な固液分離法、例えばろ過などにより植物を分離除去して、有効成分を抽出した溶媒を得ることができる。本発明の1つの態様においてドレン抜きした植物および溶媒の混合物もまた同様に処理され得る。
本発明の方法において、原料となる植物は好ましくはホップであり、いわゆるホップ苞部分を特に用いることができる。これにより、ビールの製造工程で排出されるホップ苞部分を有効に再利用して、付加価値の高い有効成分を抽出することができる。尚、本明細書において「ホップ苞部分」とは、ビールを製造する過程で、ホップ毬花よりルプリン部分を除いたものを言う。しかし、本発明に利用可能なホップはホップ苞部分に限定されず、採取された直後または乾燥した状態の天然のホップの毬花、葉および茎などを用いることもできる。
他方、溶媒としては、特に限定されるものではないが、アルコール(例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールなど、好ましくはメタノールおよびエタノール)または含水アルコール(例えば約60〜95重量%の含水量のアルコール)を用い得る。また、溶媒として、アルカン(n−ヘキサンおよびシクロヘキサンなど)を用いることもできる。アルカンは上記アルコールと混合して用いてもよい。抽出した有効成分を生体に適用することが想定される場合、有効成分と共に残留し得る溶媒による生体への影響を考慮すればエタノールが好ましい。
植物をこのような溶媒と混合して接触させることにより、植物中の有効成分、より詳細には、ホップ中のルチンなどのケルセチン配糖体、アストラガリンなどのケンフェロール配糖体およびカテキン類(カテキン、エピカテキンを含む)などのモノマーポリフェノールならびにプロシアニジン類(カテキンおよび/またはエピカテキンの縮合物を含む)などのポリマーポリフェノールからなる群から選択される少なくとも1種のポリフェノールを溶媒中に固液抽出することができる。溶媒にアルコールまたは含水アルコールを用いた場合には、比較的親水性の低いポリフェノール(例えばルチン、カテキン類など)および比較的親水性の高いポリフェノール(例えばプロシアニジン類)の双方を効率的に抽出できる。また、溶媒にアルカンを用いた場合には、比較的親水性の低いポリフェノールを優先的に抽出できる。
上記のようなポリフェノールを抽出するのに好ましい抽出条件、例えば固液比、接触時間および抽出温度などは、後述する本発明者らによる予備実験の結果を参照することによって当業者に適宜設定され得るであろう。
本発明の方法により得られた有効成分を含む溶媒は、そのままの形態で、または適当な後処理に付された後、感染防御系食材、化粧品素材、消臭用途素材、毒素洗浄剤、薬物担体原料および樹脂素材原料等産業などの種々の用途に利用され得る。後処理としては、蒸留処理および/または凍結乾燥処理などがある。
本発明の別の要旨によれば、固体中の有効成分を溶媒中に抽出するために用いられる、混合槽(またはミキサー部)および静置槽(またはセトラー部)を含む装置が提供される。本発明の装置において、混合槽には、固体および溶媒を混合するとともに固体および溶媒の混合物の下降流を形成する混合手段を有する混合部と、混合部の下方位置に設けられた開口部を通じて混合部に連通し、混合物の下降流を上昇流に変えて混合物を混合部から静置槽へ流入させる流路とが備えられる。また、静置槽には、混合槽から流入して来る混合物をオーバーフローにより排出する排出部が備えられる。
このような本発明の装置によれば、溶媒中で浮き易い特性を有する固体を、混合部内の混合手段によって溶媒と混合し、混合物の下降流を混合部にて強制的に形成することができる。換言すれば、混合物の液相(実質的には溶媒)に固体を同伴させて、該固体を混合部の下方へ沈めることができる。更に、本発明の装置によれば、このようにして形成された混合物の下降流を、混合部の開口部から流路に通して上昇流に変えて、静置槽へと流入させることができる。そして、溶媒中で浮き易い特性を有する固体を静置槽内の液相の上層に導き、そのまま混合物の液面近傍の流れに乗せて、排出部からオーバーフローにより抜き出すことができる。
このような本発明の装置は固液抽出に好適に利用され得、固体が溶媒に対して浮き易い場合に特に有用である。本発明の装置によれば、混合槽および静置槽の容量、混合槽の混合部における混合条件(例えば混合手段として撹拌羽根を用いる場合には撹拌羽根のサイズ、形状および回転数など)、混合部に設けられる開口部の大きさ、形状および位置、流路の形状および大きさなどを変更することにより、混合槽および静置槽を通過する間に亘る溶媒と固体との接触時間を適当に設定することができる。尚、本発明の装置において接触時間は、混合槽の混合部に固体を溶媒と共に供給してから、固体が静置槽の排出部から排出されるまでの時間を言うものとする。また、本発明の装置によれば、溶媒中で浮き易い特性を有する固体であっても、固体と溶媒とを十分に接触させつつ連続的に処理することが可能となる。
本発明の1つの態様においては、混合槽は仕切りを更に備え、混合部および流路は仕切りを介して並んで配置される。しかし、本発明はこれに限定されず、流路は、混合部の下方位置に設けられた開口部から入って来る混合物流れを上昇流として静置槽へ流入させ得る限り、任意の適当な形態であり得る。例えば、流路はチューブの内部に規定される空間であってもよい。
本発明の1つの態様においては、混合槽および静置槽は壁を介して一体的に形成され、流路は仕切りと壁との間に規定され、流路を通って来た混合物の上昇流は壁を越えて静置槽に流入する。この場合、流路は上記の仕切りと壁との間の空間として規定され得る。混合手段によって形成される混合物の下降流は、混合部の下方位置にある開口部を通じて流路へと流れるが、この開口部から流れ出る混合物が、開口部に対向および離間して配置された壁に衝突して、該壁と仕切りとの間に形成される流路を通ることにより、混合物の上昇流となり、静置槽内の液相の上層へと導いて静置槽内に流し込むことができる。
このような壁は、特に限定されるものではないが、例えば平板、湾曲板、またはブロックなどであってよい。この壁は、混合槽の仕切りに対し水平方向に、流路の幅に対応する距離を隔てて鉛直に延在する。尚、本発明において「幅」とは混合物の流れを含む面内における長さまたは距離を言うものとする。
本発明の装置において、混合部の幅に対する流路の幅の比は約0.05〜0.3であり得る。また、液面の高さに対する壁の高さの比は約0.5〜0.95であり得る。また、液面の高さに対する開口部の開口高さの比は約0.1〜0.4であり得る。また、流路の幅に対する開口部の開口高さの比は約0.8〜1.2である。しかしながら、本発明はこれに限定されず、本発明の概念を逸脱しない範囲で、静置槽内における混合物の流動挙動を適当に制御し得るようなサイズおよび形状にされ得る。
本発明の1つの態様において、静置槽には、静置槽の底部に設けられ、混合物を排出する第2の排出部が更に備えられる。この第2の排出部により、静置槽内の液相中で沈む固体をドレインとして抜き出すことができる。沈む固体を効率的に排出するには、第2の排出部は静置槽において鉛直方向に最も低い位置にあることが好ましい。
本発明の1つの態様において、混合槽は1つであってよいが、少なくとも2つ以上、直列に多段配置されていてもよい。後者の場合、混合槽内の混合物がより上流の混合槽に逆流しないように、各混合槽は上流の混合槽に対して、混合槽内の液面が順次ずれて配置されていることが好ましい。
このような本発明の装置において、固体として植物、例えばホップ、特にホップ苞部分を用いれば、本発明の上記方法を連続的に実施するために好適に利用することができ、本発明の方法と同様の効果を奏し得る。しかし、本発明の装置の用途はこれに限定されず、他の適当な固液抽出に適用可能であることは当業者に理解されるであろう。
本発明の方法によれば、植物と溶媒とを接触させている間に植物中の有効成分を所定の溶媒中に効率的に抽出(固液抽出)することができ、有効成分を含む液相部を好ましくは連続的に得ることができる。特に植物としてホップ苞部分を用いれば、ビールの製造工程で排出されるホップ苞部分を有効に再利用して、付加価値の高い有効成分を抽出することが可能となる。また、本発明の装置によれば、溶媒に対して浮き易い特性を有する固体であっても、適当な固液接触時間を設定でき、効率的かつ連続的に処理することが可能となる。
1.実施形態
本実施形態は、図1に示すような装置を用いて、ホップ苞部分に含まれる有効成分を溶媒中に抽出して分離するものに関する。
図1に示すように、本実施形態の固液抽出装置30には、混合槽(ミキサー部)1と静置槽(セトラー部)3とが壁13を介して一体的に形成されている。この壁13の上端は、混合槽1および静置槽3の液面より下方に位置する。本実施形態において、混合槽1および静置槽3は矩形断面を有する同一奥行きの直方体形状を有し、互いに並置されているものとする。混合槽1と静置槽3との容積比(即ち、本実施形態においては混合槽1の幅(=D+d)と静置槽3の幅(壁13から排出口15までの幅)との比)は、例えば約1:3とされ得る。
混合槽1には仕切り5が設けられている。混合槽1において、仕切り5よりも上流側が混合部であり、下流側が流路である。これら混合部および流路は仕切り5の下方に残された開口部7を通じて互いに連通している。混合部には、固体および溶媒の混合物の下降流を形成する撹拌羽根(混合手段)11が配置される。溶媒およびホップ苞部分(図示せず)は供給口9を通じて混合槽1の上流側の部分に別々に、または一緒に供給されるようになっている。撹拌羽根11の大きさおよび形状等は特に限定されるものではないが、例えば、プロペラ、タービンなどのタイプのものを用いることができる。また、邪魔板を併せて用いることがより好ましく、邪魔板の数は例えば4枚、8枚または16枚などであってよく、一般的には8枚である。
流路は仕切り5と壁13との間の空間として形成されている。この流路において、開口部7から入って来る混合物流れを上昇流とするように、壁13は開口部7に対向および離間して配置される。この壁13は仕切り5に対し水平方向に、流路の幅に対応する距離を隔てて鉛直に延在する。混合部の幅Dに対する流路の幅dの比(=d/D)は、例えば約0.05〜0.3、好ましくは約0.2であり得る。また、液面の高さHに対する壁13の高さh(いずれも壁13の開口部7との対向面における高さとする)との比(=h/H)は、例えば約0.5〜0.95、好ましくは約0.9であり得る。加えて、液面の高さH’に対する開口部7の開口高さh’(いずれも開口部7を含む面における高さとし、図示する態様ではHとH’とは実質的に等しい)の比(=h’/H’)は、例えば約0.1〜0.4、好ましくは約0.25であり得る。更に、流路の幅dに対する開口部7の開口高さh’の比(=h’/d)は、例えば約0.8〜1.2、好ましくは約1.0であり得る。
静置槽3には、第1および第2の排出口15および17が備えられる。第1の排出口15は、静置槽3内の混合物の上層をオーバーフローにより排出するための排出部である。第2の排出口17は、静置槽3における混合物の下層をドレイン排出するための排出部であり、バルブ21により開閉可能に構成される。これら排出口15および17は、静置槽3における混合物の流動挙動(より詳細にはホップ苞部分の流動挙動)を考慮して、流路から壁13を越えて入って来る混合物の流れの下流側に位置するように適当に配置される。静置槽3の底部は、特に限定されるものではないが、ドレイン排出を効率的に行い得るように、第2の排出口17に向かって下向きに傾斜していることが好ましい。排出口15および17は、各々配管を通じてタンク19に通じており、排出口15および17を通じて排出された混合物は、タンク19内でメッシュ23によりろ過され、固液分離される。
次に、このような固液抽出装置30を用いる本実施形態の抽出方法について説明する。
まず、乾燥状態または濡れた状態のホップ苞部分を原料とし、エタノールを溶媒として(共に図示せず)、混合槽1に供給口9から連続的に供給する。混合槽1に供給されたホップ苞部分およびエタノールを撹拌羽根11により混合して、混合物の下降流を形成する。乾燥状態のホップ苞部分はエタノールに対して浮き易い特性を有するが、撹拌羽根による強制的な下向きの流動状態下において、エタノールと十分に接触しながら、流体の流れに乗って開口部7を通って混合部から出て行く。
混合部から開口部7を通って仕切り5と壁13との間の流路に入って来た混合物は、壁13に衝突して流れの向きを上昇方向に変え、流路を通って静置槽3内の液相の上層へと導かれる(図中、流れを矢印にて模式的に示す)。混合物中のホップ苞部分は、静置槽3の液相の上層に浮かび、そのまま上層を流れて第1の排出口15からオーバーフローによりタンク19へと抜き出される。尚、ホップ苞部分は一般的には溶媒(本実施形態においてはエタノール)に対して浮き易い特性を有するが、場合によっては(例えば長時間溶媒と接触してホップ苞部分中に溶媒が浸透するなどして)溶媒中で沈むこともある。このような沈むホップ苞部分は、バルブ21を開けることにより、第2の排出口17を通してタンク19へとドレイン抜きすることができる。バルブ21は締め切りにされていてもよいが、適当な開度で開いていてもよい。
この混合槽1および静置槽3において、ホップ苞部分とエタノールとが接触している間、ホップ苞部分中の有効成分、より詳細には、ルチンなどのケルセチン配糖体、アストラガリンなどのケンフェロール配糖体およびカテキン類(カテキン、エピカテキンを含む)などのモノマーポリフェノールならびにプロシアニジン類(カテキンおよび/またはエピカテキンの縮合物)などのポリマーポリフェノールをエタノール中に抽出することができる。本実施形態のように水と相溶性のアルコールを溶媒として用いることにより、比較的親水性の低いポリフェノール(例えばルチン、カテキン類など)および比較的親水性の高いポリフェノール(例えばプロシアニジン類)の双方を抽出することができる。
エタノールとホップ苞部分との接触時間(抽出時間)は約20分以上、例えば約20〜30分とすることが好ましく、約30分以上確保できれば十分である。本実施形態の装置30において、接触時間は、例えば着色したホップ苞部分をトレーサーとして用い、このトレーサーが装置30に供給口9から供給されてから排出口15または17を通って排出されるまでの平均所要時間として決定され得る。尚、排出口15または17からタンク19にてホップ苞部分が分離されるまでの間の時間は無視して差し支えない。
また、固液比はホップ苞部分単位グラム当たり(乾燥基準)エタノール約20〜40cm3であることが好ましい。ここで、「固液比」は、定常状態においては、供給する際のホップ苞部分の流量(グラム)とエタノールの流量(cm3)(必要に応じてホップ苞部分によるホールドアップを考慮する)との比である。
これら接触時間および固液比は、ホップ苞部分およびエタノールの各供給流量、撹拌羽根11の形状(またはタイプ)、サイズ、位置、および回転数、壁13の高さh、ならびに仕切り5から壁13までの水平距離dなどの種々のパラメータに依存し、これらを変更することにより適切に調節することができる。
また、抽出温度(即ち、接触時における混合物の温度)は約40〜50℃とすることが好ましい。抽出温度は、混合部溶媒とホップ苞部分との混合物に温度計を直接差して測定できる。抽出温度は、供給するエタノールの温度および装置30における混合物を、適当な手段により装置30の内部または外部から加熱または冷却することにより適切に調節することができる。
このようにしてタンク19に移送された混合物は、例えばメッシュ23を用いるろ過により、タンク19にてホップ苞部分と液相部とに固液分離される。得られる液相部は、主に溶媒から成り、ホップ苞部分中に含まれていた有効成分を含む。
以上、本実施形態によれば、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に効率的に抽出して、有効成分を含む液相部を連続的に得ることができる。
工業規模でホップ苞部分から有効成分を抽出するには抽出操作を連続的に実施することが好ましいが、例えば常套のミキサーセトラーなどを用いても、ホップ苞部分が溶媒に浮き易いために、ミキサーセトラー内に滞留して抽出操作を効率的に行えず、また、連続的に実施できない。これに対して本実施形態では、ホップ苞部分を混合槽1にて一旦溶媒中に沈め、混合槽1の下方にある開口部7を通した後、壁13との衝突によって流体の流れの向きを上昇方向に変え、ホップ苞部分を静置槽3内の液相上層へと導いて第1の排出口15からオーバーフローにより抜き出しているため、ホップ苞部分が装置内に滞留せず、連続的に取り出され得る。よって、本実施形態の方法および装置によれば、工業規模でもホップ苞部分から有効成分を連続的に抽出することができる。
従って、本実施形態の方法および装置は、工業規模でホップ苞部分から有効成分を効率的かつ連続的に抽出するのに特に適する。
本実施形態は、本発明の概念を逸脱しない範囲で当業者により種々の改変がなされ得るであろう。例えば、本実施形態においてはホップ苞部分を用いたが、採取された直後または乾燥した状態の天然の(即ち、未使用の)ホップの毬花、葉および茎などを用いてもよい。あるいは、ホップに限定されず、抽出可能な有効成分を含むその他の植物を用いてもよい。
また、例えばエタノールに代えて、メタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールなどの炭素数1〜3の他のアルコールや、これらのアルコールに加えて水を含む含水アルコールを用いることができる。また、アルコール以外にも、n−ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの炭素数5〜7のアルカンを用いることもできる。水に難溶なアルカンを溶媒として用いる場合には、比較的親水性の低い有効成分(例えばルチン、イソクエルシトリンなど)を効率的に抽出することができる。
また、例えば図2の装置40に示すように、少なくとも2つ以上、例えば3つの混合槽1a、1bおよび1cが直列に階段状に多段配置されていてもよい。これにより、直列配置する混合槽の段数に依存して、植物および溶媒(本実施形態ではホップ苞部分とエタノール)の接触時間を1段の場合よりも延ばすことができる。この場合、図2に示すように、混合槽1bおよび1c内の液面がより上段の混合槽1aおよび1bよりも下方に位置するように順次ずれていることが好ましい。このような構成により、混合槽内の混合物がより上段の混合槽に逆流しないことが確保される。更に、例えば図3の装置50に示すように、少なくとも2つ以上、例えば3つの混合槽1a、1bおよび1cが直列に並んで多段配置されていてもよい。
また、本実施形態においては、装置はいずれも直方体形状を有する混合槽および静置槽が並置されて構成されるものとしたが、本発明はこれに限定されず、例えば、混合槽が内側に位置し、静置槽が外側に位置する2重円筒状に構成されてもよい。
2.後処理
本発明により得られる有効成分を含む溶媒は、本発明の実施に必須ではないが、種々の後処理に付され得る。例えば、上述の実施形態により得られた有効成分を含む液相部は以下の方法1〜3のいずれかの蒸留操作に付される。
・方法1
上記実施形態により得られる液相部を減圧蒸留に付してエタノールの実質的に全部を含むフラクションを留去する。蒸留後、その残余に水を加えることによって、有効成分および水を含む水性混合物を得る。この水性混合物は、比較的親水性の高いポリフェノールおよび比較的親水性の低いポリフェノールの双方を有効成分として含み、比較的親水性の低いポリフェノールは混合物中で沈殿して存在し得る。尚、得られた水性混合物は、必要に応じてろ過により沈殿または析出物などを除去してもよい。
・方法2
上記実施形態により得られる液相部を減圧蒸留に付してエタノールの実質的に全部を含むフラクションを留去する。蒸留後、その残余に水を加えて、例えばろ過などによってその水相部を取り除く。尚、取り除いた水相部は上記の方法1により得られる水性混合物と同等のものであり、有効成分および水を含み得る。その後、水相部を取り除いて得られる残渣にエタノールおよび水を加えることによって、有効成分、エタノールおよび水を含む相溶性の混合物を得る。このとき、水よりもエタノールを先に加えることが好ましい。また、このとき、続く第2の蒸留により、水を残しつつ、エタノールの実質的に全部を留去し得るように、相溶性の混合物におけるエタノールに対する水の割合は、エタノールと水との共沸組成におけるよりも過剰とする。得られた相溶性の混合物を再び減圧蒸留に付してエタノールを含むフラクションを留去することによって、有効成分および水を含む水性混合物を得る。この水性混合物は、比較的親水性の高いポリフェノールおよび比較的親水性の低いポリフェノールの双方を有効成分として含み、比較的親水性の低いポリフェノールは混合物中で沈殿して存在し得る。尚、この水性混合物中に含まれる比較的親水性の高いポリフェノールは、予備的に取り除いた水相部に移ることなく残渣中に残っていたものである。
・方法3
本実施形態により得られる液相部に水を加えることによって、有効成分、エタノールおよび水を含む相溶性の混合物を得る。このとき、方法2と同様の理由により、相溶性の混合物におけるエタノールに対する水の割合は、エタノールと水との共沸組成におけるよりも過剰とする。得られた相溶性の混合物を減圧蒸留に付してエタノールを含むフラクションを留去することによって、有効成分および水を含む水性混合物を得る。この水性混合物は、比較的親水性の高いポリフェノールおよび比較的親水性の低いポリフェノールの双方を有効成分として含み、比較的親水性の低いポリフェノールは混合物中で沈殿して存在し得る。
更に、上記の方法1〜3により得られた水性混合物は凍結乾燥処理に付され得る。例えば、予め凍結を行い、真空凍結乾燥機(−50℃、20Pa以下)を用いる凍結乾燥処理を水性混合物に施すことにより、有効成分を含有する乾燥組成物を得ることもできる。得られた乾燥組成物は比較的親水性の高いポリフェノールおよび比較的親水性の低いポリフェノールの双方を含み得る。特に、方法3を経て得られた乾燥組成物は、他の方法のものよりも、比較的親水性の低いポリフェノールを多く含み得る。乾燥組成物は実質的に溶媒(組成物の用途には不要であり、望ましくない場合がある)を含まないという利点がある。また、乾燥組成物は、例えば粉末状の形態であり、液体の形態を有する場合よりも取り扱いが容易であるという利点がある。
1.実施例および比較例
(1)実施例
上述の本発明の実施形態に従って、図1に示す抽出装置30を用いて本発明の方法を実施した。用いた抽出装置30において、混合部の幅Dは約10cm、流路の幅dは約1cm、仕切り5の下方の開口部7の開口高さh’は約20cm、壁13の高さhは約7cmとした。また、混合槽1と静置槽3との容積比を約1:3とし、液面高さHは約8cmとした。混合部に備える撹拌羽根にはプロペラ型のものを下降流を形成するように設置して用いた。
まず、撹拌羽根11を回転させながら、乾燥状態のホップ苞部分を原料とし、エタノールを溶媒として供給口9から混合槽1へそれぞれ供給し、これらの混合物を連続的に混合槽1から静置槽3へと移して排出口15から抜き出した。ホップ苞部分は約10gずつを1分間隔で一度に供給し、溶媒流量は約200ml/分とした。固液比は約1:20(ホップ苞部分1g当たり溶媒約20cm3)であった。撹拌羽根11の撹拌速度は100回転/分とした。エタノールとホップ苞部分との平均接触時間は約10分間であった。抽出温度は約25℃であった。
定常状態において排出口15から抜き出される混合物を10分間分採取し、混合物からホップ苞部分を濾過除去して、液相部を得た(総量約2000mlであり、1分毎に採取したため約200ml×10サンプルを得た)。この液相部全体には、原料のホップ苞部分100g(=10g/分×10分)から抽出された有効成分が含まれることが理解されよう。
得られた液相部を上述の方法3の蒸留操作および凍結乾燥処理による後処理に付して乾燥組成物を得た。この乾燥組成物を分析して乾燥組成物中のポリフェノール類全体の重量を求めたところ、約65〜77mgのポリフェノール類が含まれていた。即ち、ポリフェノール類の抽出率はホップ苞部分10gあたり約6.5〜7.7mgであった。尚、ポリフェノール類の重量はFolin−Ciocalteu法によりクロロゲン酸に換算して求めた(本明細書において同様とする)。
本実施例では、ホップ苞部分を混合槽にて一旦溶媒中に沈め、混合槽の下方にある開口部を通しているため、ホップ苞部分が溶媒に浮き易くても、ホップ苞部分と溶媒との十分な接触が確保できるため、高い抽出率を得ることができると考えられる。
(2)比較例1
研究室規模の抽出実験では、ビーカー等にホップ苞部分と溶媒とを入れて密封し、これを振盪するのが一般的である。このような振盪操作ではホップ苞部分は溶媒中で激しく流動し、ホップ苞部分と溶媒とを十分に接触させ得るであろう。このような振盪操作による混合状態での抽出率は1つの指標となると考えられる。本比較例では、振盪操作による混合状態での抽出率を調べた。
ホップ苞部分10gおよびエタノール200ml(固液比1:20)を、容量300mlの共栓付きエルレンマイヤーフラスコに入れてシールした。これを25℃に設定したウォーターバス中で130ストローク/分にて10分間、横型振盪に付した。その後、得られた混合物からホップ苞部分を濾過除去して液相部を得た。この液相部を上記の実施例と同様に蒸留操作および凍結乾燥処理に付して乾燥組成物を得、これを分析した。この乾燥組成物には約6mgのポリフェノール類が含まれていた。即ち、ポリフェノール類の抽出率はホップ苞部分10gあたり約6mgであった。他方、濾過除去したホップ苞部分を新たな溶媒を用いて同様の操作を計5回繰り返したところ、1回目の抽出で得られた約6mgのポリフェノール類は計5回の抽出で得られた総ポリフェノール類の約60%であった。
本比較例の1回抽出の場合のポリフェノール類の抽出率を100%とすれば、上記の実施例のポリフェノール類の抽出率は約110〜130%であった。この結果から、本発明の方法および装置を用いて抽出した方が混合度が向上し、振盪操作によって1回抽出するよりも高い抽出率が得られることが判明した。
(3)比較例2
上記のような比較例1の振盪操作は工業規模での抽出には適さない。工業規模でホップ苞部分から有効成分を抽出するためには、例えば常套のミキサーセトラーなどを用いることが考えられる。このような常套のミキサーセトラーにおけるような溶媒中でのホップ苞部分の挙動は、研究室レベルでは、ビーカー等にホップ苞部分と溶媒とを入れて撹拌子でこれを撹拌することによって再現できるであろう。本比較例では、常套のミキサーセトラーを用いた場合を想定し、単なる撹拌操作による混合状態での抽出率を調べた。
ホップ苞部分10gおよびエタノール200ml(固液比1:20)を撹拌子と共に、容量300mlの共栓付きエルレンマイヤーフラスコに入れてシールした。これを約25℃の温度環境下にて撹拌子を130回転/分にて10分間撹拌した。その後、得られた混合物からホップ苞部分を濾過除去して液相部を得た。この液相部を上記の実施例と同様に蒸留操作および凍結乾燥処理に付して乾燥組成物を得た。得られた乾燥組成物を分析したところ、約2.5mgのポリフェノール類が含まれていた。即ち、ポリフェノール類の抽出率は、ホップ苞部分10gあたり約2.5mgであった。
比較例1における1回抽出の場合のポリフェノール類の抽出率を100%とすれば、上記の実施例のポリフェノール類の抽出率が約110〜130%であったのに対し、本比較例のポリフェノール類の抽出率は約40%であった。この結果から、本発明の方法および装置を用いて抽出した方が、単なる撹拌操作によって抽出するよりも顕著に高い抽出率が得られることが判明した。
これは、単なる撹拌操作ではホップ苞部分が溶媒中で浮いてしまい、ホップ苞部分と有効成分とを十分に接触させることができないため、抽出率が低くなったことによると考えられる。このことは、抽出時にミキサーを回転させているに過ぎない常套のミキサーセトラーを用いる場合にも当て嵌まる。従って、本発明によれば、工業規模でホップ苞部分などの浮き易い原料から有効成分を抽出する場合、常套のミキサーセトラーを用いるよりも十分に高い抽出率を得ることができると考えられる。
2.予備実験
本発明者らは、本発明の方法の実施に際して予め種々の条件で抽出実験を行って、ホップ、特にホップ苞部分からポリフェノールを抽出するのに好ましい抽出条件を調べた。具体的には、予備実験1〜4に示すように、溶媒種、固液比、接触時間および抽出温度について好ましい抽出条件を調べた。加えて、予備実験5に示すように、後処理である蒸留方法についても比較検討を行い、また、予備実験6および7に示すように、上記の方法3の蒸留方法と組合される場合の接触時間および抽出温度について好ましい抽出条件を調べた。尚、予備実験においては抽出を振盪操作により実施するものとしたが、本発明の方法および装置を用いる場合もこれと同様の抽出傾向を示すものと考えられ、以下の予備実験により理解される好ましい抽出条件は本発明にも同様に当て嵌まるものと考えられる。
(予備実験1) 溶媒種
溶媒としてメタノールおよびエタノールをそれぞれ用い、乾燥状態のホップ苞部分5gを溶媒と共に、固液比1:40(ホップ苞部分1g当たり溶媒40cm3)として、容量300mlの共栓付きエルレンマイヤーフラスコに入れてシールした。これを25℃に設定したウォーターバス中で130ストローク/分にて60分間、横型振盪に付すことにより、ホップ苞部分と溶媒とを混合して接触させ、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。尚、振盪時間はホップ苞部分と溶媒との接触時間とみなし、ウォーターバスの温度はホップ苞部分と溶媒との混合物の温度(即ち抽出温度)とみなすものとする。抽出条件:ホップ苞部分 5g;溶媒種 メタノールまたはエタノール;固液比 1:40;振盪時間 60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 25℃。
その後、得られた混合物の液相部を分析して液相中のルチンの重量を求めた。結果を図4に示す。尚、本予備実験において、ルチンの重量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により求めた(本明細書において同様とする)。
図4からわかるように、メタノールおよびエタノールのいずれの場合にも0.4mg程度のルチン(ホップ苞部分5g当たり)が得られた。この結果から、メタノールおよびエタノールのいずれを溶媒として用いてもルチンを抽出できることが確認された。
本発明者らの知見によれば、例えば炭素数1〜3のアルコールの1種またはそれ以上の混合物を用いることができる。このアルコールは鎖状(直鎖および分枝状)および環状であってよく、1つまたはそれ以上の水酸基を有する。例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールなどを溶媒として用いることができる。抽出した有効成分を生体に適用することが想定される場合、有効成分と共に残留し得る溶媒による生体への影響を考慮すればエタノールがより好ましいと考えられる。このようなアルコールに加えて、溶解し得る範囲で水を含む含水アルコールを溶媒に用いてもよい。含水アルコールを用いる場合には、溶媒中の水の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば約60〜95重量%である。
また、本発明者らの知見にれば、溶媒として、例えば炭素数5〜7のアルカンの1種またはそれ以上の混合物も用いることができる。このアルカンは鎖状(直鎖および分枝状)および環状であってよく、少なくともホップ苞部分との接触時において温度および圧力条件を適当に選択して液体状態とできればよい。例えばn−ヘキサンおよびシクロヘキサンなどを溶媒として用いることもできる。このアルカンは上記アルコールと混合して用いてもよい。
(予備実験2) 固液比
溶媒としてエタノールを用い、固液比(S/F)を種々変化させたこと以外は予備実験1と同様にして、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。抽出条件:ホップ苞部分 5g;溶媒種 エタノール;固液比 1:15〜1:200;振盪時間 60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 25℃。
本明細書において「固液比 1:X」と表現する場合、ホップ単位グラム(乾燥基準)当たりの溶媒量(25℃基準)がXcm3であることを意味するものとする。尚、本明細書において「乾燥基準」とは、採取した直後のホップを常圧(約1,000ヘクトパスカル)下、約20℃の温度にておよそ数日(約72時間)の乾燥処理に付したものを基準とすることを意味する。
その後、得られた混合物の液相部を分析して液相中のルチンの重量を求めた。結果を図5に示す。
図5からわかるように、固液比1:15〜1:60の範囲において、0.4mg前後のルチン(ホップ苞部分5g当たり、本予備実験において以下も同様)が得られた。固液比1:20でルチンは0.4mgに達し、固液比1:100でルチンは0.4mgよりも若干多く、固液比1:200では約0.6mgのルチンが得られた。ルチンの抽出量は、溶媒量の増加につれて緩やかな勾配で増加するものと考えられる。この結果から、使用する溶媒量を最小限とする観点からは1:20の固液比が最適である。しかし、嵩高いホップ苞部分が装置に詰まる可能性を回避し、ホップ苞部分をスムーズに移送するためにはそれよりも液体の比率が高いほうが適当であるので、そのような観点から固液比は、例えば約1:30〜50、好ましくは約1:40である。
(予備実験3) 接触時間
溶媒としてエタノールを用い、ホップ苞部分5gおよび10gとし、接触時間(振盪時間)を種々変化させたこと以外は予備実験1と同様にして、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。抽出条件:ホップ苞部分 5gまたは10g;溶媒種 エタノール;固液比 1:40;振盪時間 5〜60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 25℃。
尚、本明細書において「接触時間」とは溶媒と植物(ここではホップ)とを混合してから、これらの混合物から植物を除去するまでの間の時間を意味する。このような「接触時間」は、一般的には抽出時間とも呼ばれるものである。本明細書における予備実験では接触時間は振盪時間と等しいとみなすものとする。
その後、ホップ苞部分5gとして得られた混合物の液相部を分析して液相中のルチンの重量を求め、ホップ苞部分10gとして得られた混合物の液相部を分析して液相中のプロシアニジン類の重量を求めた。結果を図6および7に示す。尚、プロシアニジン類の重量は加水分解により得られるシアニジンの比色法により、プロシアニジン二量体の1種であるプロシアニジンB2に換算して求めた(本明細書において同様とする)。
図6からわかるように、振盪時間40分で0.4mg程度のルチン(ホップ苞部分5g当たり)が得られた。得られたデータのフィッティングから、ルチンの抽出量は、振盪時間40分以後、振盪時間が長くなるにつれて緩やかな勾配で増加するものと考えられる。ルチンの抽出には、振盪時間は約40〜50分が好ましいと考えられる。
また、図7からわかるように、振盪時間30分でプロシアニジンB2換算で6mg程度のプロシアニジン類(ホップ苞部分10g当たり)が得られた。得られたデータのフィッティングから、プロシアニジン類の抽出量は振盪時間約30分でほぼ一定の値に達しているものと考えられる。プロシアニジン類の抽出には、振盪時間は約30〜40分が好ましいと考えられる。
以上の結果から総合すると、ルチンおよびプロシアニジン類を含むポリフェノールをホップ苞部分から抽出するには、振盪時間は、一般的には約20〜30分であり、約30以上でほぼ十分であると考えられる。しかし、特定の種類のポリフェノールを抽出ターゲットとする場合、抽出ターゲットに応じて振盪時間を適宜変更することが望ましいであろう。
(予備実験4) 抽出温度
溶媒としてエタノールを用い、ホップ苞部分5gおよび10gとし、抽出温度(混合物の温度)を種々変化させたこと以外は予備実験1と同様にして、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。抽出条件:ホップ苞部分 5gまたは10g;溶媒種 エタノール;固液比 1:40;振盪時間 60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 25〜60℃。
本明細書において「混合物の温度」とは溶媒と植物(ここではホップ)との混合物の平均温度を意味し、実質的には混合物の液相部の平均温度である。このような「混合物の温度」は、一般的には抽出温度とも呼ばれるものである。
その後、ホップ苞部分5gとして得られた混合物の液相部を分析して液相中のルチンの重量を求め、ホップ苞部分10gとして得られた混合物の液相部を分析して液相中のプロシアニジン類の重量を求めた。結果を図8および9に示す。
図8からわかるように、抽出温度25℃および40℃で0.4mg程度のルチン(ホップ苞部分5g当たり)が得られ、抽出温度50℃でルチンは0.4mgよりも増加し、抽出温度60℃では抽出温度25℃のときの約2倍の約0.9mgのルチン(ホップ苞部分5g当たり)が得られた。ルチンの抽出は温度依存性が高く、ルチンの抽出量は、抽出温度50℃以上では抽出温度の増加につれて増加するものと考えられる。
また、図9からわかるように、抽出温度25℃でプロシアニジンB2換算で6mg程度のプロシアニジン類(ホップ苞部分10g当たり)が得られ、抽出温度60℃でその約3倍の18mg程度のプロシアニジン類(ホップ苞部分10g当たり)が得られた。プロシアニジン類の抽出量は、ルチンの抽出量よりも更に温度依存性が高く、抽出温度の増加につれてより顕著に増加するものと考えられる。
以上の結果から、抽出効率の観点からは60℃の温度が望ましい。しかし、熱源コストを考えると、それよりも低い温度、例えば約40〜50℃とすることが好ましい。
(予備実験5) 方法1〜3の比較
溶媒としてエタノールを用い、ホップ苞部分をいずれも10gとしたこと以外は予備実験1と同様にして、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。抽出条件:ホップ苞部分 5g;溶媒種 エタノール;固液比 1:40;振盪時間 60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 25℃。
抽出後、混合物からホップ苞部分を除去して得られた液相部を、以下の方法1〜3の蒸留操作に付して水性混合物を得た。
・方法1
上記液相部約200cm3をロータリーエバポレータを用いて減圧蒸留に付して、エタノールを含むフラクションとして約1000Paの圧力下で約40〜50℃の沸点成分を留去した。減圧蒸留後、蒸留フラスコの壁面には深緑の粘着性物質が付着していた。蒸留フラスコに蒸留水40cm3を加え、混合して得られた混合物をろ過し、ろ液として黄色の水性混合物を得た。
・方法2
上記液相部約200cm3をロータリーエバポレータを用いて減圧蒸留に付して、エタノールを含むフラクションとして約1000Paの圧力下で約40〜50℃の沸点成分を留去した。減圧蒸留後、蒸留フラスコの壁面には深緑の粘着性物質が付着していた。蒸留フラスコに蒸留水40cm3を加え、混合して得られた混合物から水相部をろ過によって取り除いた。その後、残渣が壁面に付着している蒸留フラスコにエタノール200cm3および蒸留水200cm3を順次加え、減圧蒸留に付して、エタノールを含むフラクションを上記と同様にして留去した。このフラクションには水が含まれ得ることに留意されたい。減圧蒸留後、深緑の沈殿物と黄褐色の液体を含んで成る水性混合物を得た。
・方法3
上記液相部200cm3および蒸留水200cm3の混合物をロータリーエバポレータを用いて減圧蒸留に付して、エタノールを含むフラクションとして約1000Paの圧力下で約40〜50℃の沸点成分を留去した。このフラクションには水が含まれ得ることに留意されたい。減圧蒸留後、深緑の沈殿物と深緑の液体を含んで成る水性混合物を得た。
上記の方法1〜3の蒸留操作により各々得られた3種の水性混合物を、予備凍結(−10℃)を予め行った上で、凍結乾燥機を用いて−50℃、20Pa以下の条件で凍結乾燥処理して、粉末状の乾燥組成物を得た。この乾燥組成物を分析して、乾燥組成物中のプロシアニジン類の重量をそれぞれ求めた。結果を図10に示す。
図10からわかるように、乾燥組成物中のプロシアニジン類(プロシアニジンB2換算)の含有量は方法1〜3の場合において約7〜16mg(ホップ苞部分10g当たり)であった。プロシアニジン類について、方法3によって得られた乾燥組成物中の含有量が最も高かった。
以上の結果から、方法3によるほうが、方法1および2によるよりも好ましいと考えられる。
(予備実験6) 方法3と組合される場合の接触時間
溶媒としてエタノールを用い、ホップ苞部分10gとし、固液比1:20(ホップ苞部分1g当たり溶媒20cm3)とし、ウォーターバスの設定温度を40℃とし、接触時間(振盪時間)を種々変化させたこと以外は予備実験1と同様にして、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。抽出条件:ホップ苞部分 10g;溶媒種 エタノール;固液比 1:20;振盪時間 1〜60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 40℃。
抽出操作により得られた混合物からホップ苞部分を除去して液相部を得、この液相部を上述の方法3の蒸留操作に付した。即ち、この液相部に水を加えることによって、有効成分、エタノールおよび水を含む混合液を得(尚、水の割合はエタノールと水との共沸組成におけるよりも過剰とした)、これを減圧蒸留して水を残しつつ、エタノールの実質的に全部を含むフラクションを留去して、有効成分および水を含む水性混合物を得た。その後、得られた水性混合物を凍結乾燥処理に付して、有効成分を含有する乾燥組成物を得た。
以上のようにして、抽出操作における接触時間(振盪時間)を種々変化させて得られた乾燥組成物の重量を測定した。結果を図11に示す。また、乾燥組成物を分析して乾燥組成物中のポリフェノール類全体の重量を求めた。結果を図12に示す。更に、乾燥組成物の重量およびポリフェノール類の重量から、乾燥組成物中のポリフェノール類の重量割合(乾燥組成物基準)を計算した。結果を図13に示す。
図11からわかるように、振盪時間を30分とした場合、乾燥組成物の重量は約0.25mg(ホップ苞部分10g当たり)となり、原料として用いたホップ苞部分の重量を基準とすれば約2.5重量%となった。振盪時間を45分および60分とした場合の乾燥組成物の重量は30分とした場合と同程度であった。得られたデータのフィッティングから、乾燥組成物の重量は振盪時間約30分までは振盪時間が長くなるにつれて増加し、その後、ほぼ一定となると考えられる。
また、図12からわかるように、振盪時間10分とした場合に約15mgのポリフェノール類(ホップ苞部分10g当たり)が得られた。得られたデータのフィッティングから、乾燥組成物中のポリフェノール類の重量は振盪時間約10分までは急激に増加し、その後、振盪時間が長くなるにつれて緩やかな勾配で増加するものと考えられる。
また、図13からわかるように、振盪時間20分とした場合、ポリフェノール類の重量割合(乾燥組成物基準)は約10重量%となった。得られたデータのフィッティングから、ポリフェノール類の重量割合(乾燥組成物基準)は振盪時間約20分までは振盪時間が長くなるにつれて急激に増加し、その後、ほぼ一定となると考えられる。
以上の結果から総合すると、抽出操作と方法3の蒸留操作とを組合せた場合には、ポリフェノール類全体で考えれば、抽出可能なポリフェノール類の大部分を約10〜20分の振盪時間で抽出できると考えられる。しかし、ポリフェノール類の種類によって抽出特性が異なるため、より十分にポリフェノール類を抽出するには、予備実験3の結果を考慮すれば、振盪時間は約20分以上、例えば約20〜30分とすることが好ましく、約30分以上でほぼ十分であると考えられる。
尚、本予備実験では方法3を採用することとしたが、本発明はこれに限定されず、方法1〜3のいずれの方法を用いてもよく、以下の予備実験についても同様である。
(予備実験7) 方法3と組合される場合の抽出温度
溶媒としてエタノールを用い、ホップ苞部分10gとし、固液比1:20(ホップ苞部分1g当たり溶媒20cm3)とし、接触時間(振盪時間)を60分とし、抽出温度を種々変化させたこと以外は予備実験1と同様にして、ホップ苞部分中の有効成分を溶媒中に抽出した。抽出条件:ホップ苞部分 10g;溶媒種 エタノール;固液比 1:20;振盪時間 60分;振盪速度 130ストローク/分;抽出温度 25〜60℃。
その後、予備実験6と同様にして、抽出操作により得られた混合物からホップ苞部分を除去して液相部を得て上述の方法3の蒸留操作に付し、これにより得られた水性混合物を凍結乾燥処理に付して、有効成分を含有する乾燥組成物を得た。
以上のようにして、抽出操作における抽出温度を種々変化させて得られた乾燥組成物の重量を測定した。結果を図14に示す。また、乾燥組成物を分析して乾燥組成物中のポリフェノール類全体の重量を求めた。結果を図15に示す。更に、乾燥組成物の重量およびポリフェノール類の重量から、乾燥組成物中のポリフェノール類の重量割合(乾燥組成物基準)を計算した。結果を図16に示す。
図14からわかるように、抽出温度を40℃とした場合、乾燥組成物の重量は約0.25mg(ホップ苞部分10g当たり)となった。抽出温度を40℃より高くすると乾燥組成物の重量も増加し、60℃とした場合に乾燥組成物の重量は約0.35mg(ホップ苞部分10g当たり)となり、原料として用いたホップ苞部分の重量を基準とすれば約3.5重量%となった。得られたデータのフィッティングから、乾燥組成物の重量は抽出温度約40℃以上の温度で乾燥組成物の重量が増加すると考えられる。
また、図15からわかるように、抽出温度25℃とした場合に約10mgのポリフェノール類(ホップ苞部分10g当たり)が得られ、抽出温度60℃とした場合に約40mgのポリフェノール類(ホップ苞部分10g当たり)が得られた。得られたデータのフィッティングから、乾燥組成物中のポリフェノール類の重量は温度依存性が高く、抽出温度の増加に伴って顕著に増加するものと考えられる。
また、図16からわかるように、ポリフェノール類の重量割合(乾燥組成物基準)は抽出温度25℃とした場合には約4重量%となり、40℃とした場合には約11重量%となり、60℃とした場合には約12重量%となった。得られたデータのフィッティングから、ポリフェノール類の重量割合(乾燥組成物基準)も温度依存性が高く、抽出温度20℃〜40℃では抽出温度が高くなるにつれて急激に増加し、40℃以上では緩やかに増加するものと考えられる。
以上の結果から総合すると、抽出操作と方法3の蒸留操作とを組合せた場合、ポリフェノール類全体で考えれば、ポリフェノール類の抽出には、抽出温度は約50〜60℃が好ましいと考えられる。しかし、熱源コストを考えると、それよりも低い温度、例えば40〜50℃であってもよい。