JP4443132B2 - 角型密閉二次電池およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、角型密閉二次電池およびその製造方法に関し、特に、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際における外装缶膨れを抑制するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯機器の電力源として密閉二次電池の普及が目覚しいが、中でも角型密閉二次電池は、機器への装着時におけるスペース効率の優位性から注目されている。
角型密閉二次電池においても、高容量化が求められており、規定された寸法内でできるだけ大きな電極体を備えることが必要である。このため、角型密閉二次電池では、一般に0.2〜0.4(mm)という薄い肉厚の外装缶が用いられている。また、外装缶と実装機器とのクリアランスは、機器のスペース効率を高めるために殆ど無いに等しい。
【0003】
ところで、密閉二次電池では、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などにおいて、極板などからのガス発生や電極体の膨潤などにより、内部圧力が上昇する。内部圧力が上昇した際、角型密閉二次電池では、外装缶における主面(最も広い面積を有する面)での膨れを生じやすい。このような電池の膨れは、実装機器との間においてクリアランスが殆ど無いの等しいという点を考慮するとき、僅かな量であっても非常に大きな問題となり得るので、確実に抑制することが求められる。
【0004】
このような角型密閉二次電池の膨れを抑制する方法としては、例えば、外装缶の表面をレーザー加工により硬化させる技術(特許文献1)、電極体を収容する前の外装缶の主面に対しプレス加工によりX状の溝を形成する技術(特許文献2)などが開発されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−110108号公報
【0006】
【特許文献2】
特開2001−57179号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、Al−Mn系合金(JIS規格:3000系)からなる外装缶を用いる場合に、殆ど効果を得ることができない。これは、3000系のAl合金が焼入れ等の熱処理(レーザ加工も含む)により硬化することが殆どないためである。焼入れ効果が得やすいAl合金としては、2000系(Al−Cu−Mg系)、6000系(Al−Mg−Si系)、7000系(Al−Zn−Mg系)などがあるが、これらのAl合金にはMgが含有されており、溶接性が劣る。そのため、これらのAl合金を密閉二次電池の外装缶に用いようとしても、封口蓋の溶接ができない。よって、上記特許文献1の技術では、外装缶の膨れがない角型密閉二次電池を製造することは実際上不可能に近い。
【0008】
また、上記特許文献2の技術は、電極体に対してダメージを与えないために、電極体を収容する前の段階でプレス加工を施す必要がある。そのために、電池製造時においては、溝の深さ分を考慮して電極体の体積を小さくする必要がある。よって、この技術では、膨れに対する外装缶の強度向上を図ろうとすると、電池容量が小さくならざるを得ないという問題を有する。
【0009】
本発明は、このような問題を解決しようとなされたものであって、高い電池容量を確保しながら、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などにも外装缶の膨れが小さい角型密閉二次電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明は、内部に電極体が収容されてなる有底角筒状の外装缶が、開口部に封口蓋が接合されることにより封止された角型密閉二次電池であって、外装缶における主面において、線状に形成された熱歪痕を主因とする凹部が熱歪痕に沿って設けられていることを特徴とする。
【0011】
上記角型密閉二次電池においては、主面に熱歪痕を主因とする凹部が形成されており、凹部が主面における補強梁の機能を果す。よって、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などに、ガスの発生あるいは電極体の膨潤などにより内部圧力が上昇した際にも、本発明に係る角型密閉二次電池では、外装缶の膨れが少ない。
【0012】
また、上記角型密閉二次電池では、線状の熱歪痕を主因として凹部が形成されているので、外装缶の内部に電極体が収容された後に凹部の形成を実施することが可能である。よって、本発明の角型密閉二次電池では、外装缶内面と電極体外面との間の隙間を、凹部形成のために大きく設定しておく必要が無く、限られた電池外寸において高い電池容量を確保することができる。
【0013】
従って、本発明の角型密閉二次電池では、高い電池容量が確保されるとともに、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際にも外装缶の膨れが小さい。
上記角型密閉二次電池において、主面に上記凹部が形成されていない外装缶(従来の角型密閉二次電池の外装缶)に対しその内部圧力を上昇させた際に、主面の変形に伴って現れる2条の稜線で囲まれる領域を、凹部が形成された外装缶の主面に想定する場合に、当該想定領域内における凹部の表面積比率が、その領域外における凹部の表面積比率よりも高く設定されるように形成しておくことが、電極体が膨れようとするときの外装缶の膨れを効果的に抑制できるという面から望ましい。
【0014】
なお、上記2条の稜線とは、電池の使用時において、外装缶が想定される電極体の実質的な膨れ量まで変形するまで内部圧力を上昇させた際に主面に現れる線をいう。具体的には、後述する。
また、上記凹部の表面積比率とは、単位表面積あたりの凹部の表面積のことをいう。
【0015】
上記角型密閉二次電池において、外装缶の主面において、封口蓋が接合された部分から缶底に向けての方向を第1方向、これに直交する方向を第2方向とする場合に、第1方向において、封口蓋が接合された側端から当該方向全長比で10%以上40%以下の範囲と、第2方向において、缶中心から当該方向全長比で前後20%内の範囲との重複領域内における凹部の表面積比率が、その領域外における凹部の表面積比率よりも高く設定されるように形成されていることが望ましい。このような設定を実施した場合においても、外装缶の膨れを効果的に抑制される。
【0016】
なお、上記第1方向および第2方向とは、外装缶の主面が矩形である場合に、その辺が構成する2方向のことをいう。
具体的な熱歪痕の形態としては、主面を平面視した状態において、十字状あるいは渦巻状のパターンを有していることが望ましい。
なお、凹部の形状については、熱歪痕が十字状のパターンを有する場合にはこれに沿って十字状となり、熱歪痕が渦巻状のパターンを有する場合にはこれを中心とする擂鉢状となる。
【0017】
また、本発明に係る角型密閉二次電池の製造方法は、有底角筒状の外装缶に対し、その内部に電極体を収容するステップと、電極体が収容されてなる外装缶の開口部に封口蓋を接合し、外装缶を封止するステップと、封止するステップの後に、外装缶の主面に対して、エネルギビームの照射によって線状の熱歪痕を形成し、これを主因とする凹部を設けるステップとを有することを特徴とする。
【0018】
この製造方法では、エネルギビーム(レーザビーム、電子ビーム、プラズマビームなど)の照射によって外装缶に対して線状の熱歪痕を形成し、これを主因とする凹部を形成することができる。よって、電極体が収容された外装缶に対して凹部の形成加工を施した場合であっても、内部の電極体に与えるダメージが小さい。
【0019】
また、この製造方法では、外装缶を封止した後に、外装缶の主面に対して、エネルギビームによる熱歪を用いて凹部を形成するので、電極体を収容する前の外装缶に対して、プレス加工で凹部を形成する場合と異なり、電極体を収容する際の電極体と外装缶とのクリアランスを、凹部形成のために大きく設定しておく必要がない。よって、この製造方法では、スペース効率に優れ、高い電池容量の角型密閉二次電池を作成することができる。
【0020】
従って、本発明の角型密閉二次電池の製造方法では、エネルギ効率を高く維持し、且つ、電極体へのダメージを小さく維持した状態で、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などにおける外装缶の膨れが小さい角型密閉二次電池を製造することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態に係る角型密閉式のリチウムイオン電池1について、図1および図2を用いて説明する。図1は、リチウムイオン電池1の外観斜視図であり、図2は、そのA−A断面図である。
(リチウムイオン電池1の全体構成)
図1に示すように、本実施の形態に係るリチウムイオン電池1は、Al−Mn系合金(3000系Al合金)からなる角型の外装缶10を有している。そして、外装缶10の開口部には、封口蓋20が接合されている。封口蓋20は、外装缶20に対して溶接(レーザ溶接など)により接合されており、主面の略中央部に外部接続端子21が設けられている。外部接続端子21の側面には、ガス排出口21Hが設けられている。
【0022】
図1では図示していないが、外装缶10と封口蓋20とで密閉された内部空間には、電極体30(図2に図示。)が収容されている。電極体30は、正極と負極とが間にセパレータを介して対向配置され、その状態で巻回され形成されている。そして、外装缶10内部における電極体30には、非水電解液が含浸されている。
【0023】
図1に戻って、外装缶10における主面10aは、z方向に長い長方形状を有しており、z方向に線状に形成されたレーザ痕101aと、y方向に線状に形成されたレーザ痕102aとを有している。そして、各レーザ痕101a、102aは、主面10aにおけるy方向略中央部、z方向中央部から封口蓋20側に若干オフセットした領域11で交差している。このレーザ痕101a、102aの各々が形成された領域およびその周辺領域は、これらレーザ痕101a、102a、即ち、熱歪痕を主因として外装缶10の主面10aが電池内方に向けて凹んだ凹部111a、112aが形成されている。よって、外装缶10をレーザ痕101aあるいはレーザ痕102aに対して垂直に切断すると、凹部111a、112aにおける外装缶10は、上記図2に示すように、電池の内方に向けて凹入した状態となっている。そして、凹部111a、112aは、各レーザ痕101a、102aを略中心として、その周辺領域にわたって幅広の帯状に形成されている。
【0024】
外装缶10の主面10a内における凹部111a、112aの分布形態に関しては、領域11内における凹部111a、112aの表面積比率(領域11内における外装缶の表面積に対する凹部の表面積が占める割合)がその領域11の外よりも高くなっている。領域11は、本発明の実施の形態に係るリチウムイオン電池1と同等の寸法、構造を有し、主面に凹部111a、112aなどを設けないリチウムイオン電池を考えた場合に、電極体が膨張した際に最も外方に突出する領域である。この設定方法については、後述する。
【0025】
図2に示すように、リチウムイオン電池1は、上記主面10aに凹部111a、112aが形成されているとともに、反対側の主面10bにも凹部111b、112b(図2では凹部111bのみ図示。)が同様に形成されている。
外装缶10は、凹部111a、111bが形成されていない領域で厚みT0であり、電極体30との間に隙間D0を有するのに対し、凹部111a、111bが形成された領域では厚みT1となり、その内面が電極体30に密着している。
(リチウムイオン電池1の優位性)
本発明の実施の形態に係るリチウムイオン電池1では、主面10a、10bにそれぞれ2条のレーザ痕101a、102a、101b、102bによる熱歪を主因とする凹部111a、112a、111b、112bが形成されている。この凹部111a、112a、111b、112bは、電池の厚み方向に深さ((T0−T1)/2)を有し、外装缶10の主面10a、10bにおいて、上述のように電池内方に向けて線状に凹入された状態で形成されているので、これを折り曲げようとする膨れに対して補強梁として機能する。つまり、凹部111a、112a、111b、112bなどを有しない外装缶では、主面がyz面の2次元に設定されるのに対し、上記リチウムイオン電池1では、外装缶10の主面10a、10bが凹部111a、112a、111b、112bの形成により3次元的に設定されていることになり、外装缶10の膨れに対して強度の向上が図られている。
【0026】
このような外装缶10では、電池に対して充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などに電極体30が外方に向けて膨張しようとしたときに、凹部111a、112a、111b、112bが補強梁として機能するので、外装缶10の膨れが抑制される。
(領域11の設定)
次に、上記領域11の設定方法について、図3を用いて説明する。図3は、外装缶60の主面60aに上述のような凹部形成を実施していない従来型のリチウムイオン電池5を示す斜視図である。
【0027】
図3(a)に示すように、リチウムイオン電池5は、高さH0、幅W0、厚みT0を有する。そして、外装缶60には、封口蓋70が接合されている。これら基本的な構造および寸法については、上記リチウムイオン電池1と同一に設定されている。このリチウムイオン電池5に対して内部に圧力Pを加える。圧力Pの付加により、リチウムイオン電池5は、図3(b)、(c)に示すように、外装缶60に膨れを生じる。ここで、膨れの発生前後を区別するために、膨れ発生後の外装缶に符号61を付し、主面に符号61aを付すこととする。
【0028】
図3(b)に示すように、膨れが発生した外装缶61の主面61aには、2条の稜線610が発生する。
ここで、角型の外装缶60は、内部圧力により球体へと変形しようとするが、隅部分の折り曲げ部分の拘束を受けるために、主面60aの中央部近傍だけが略球面を有することになる。稜線610は、主面61aにおける境界部分である。即ち、主面61は、稜線610の内側領域で構造的に変形を受け易いということができる。
【0029】
図3(b)に示すように、2条の稜線610は、外装缶61の高さ方向中央よりも若干封口蓋70寄りの部分で、最も近づき、間隔W1を有する。間隔W1は、外装缶60の材質あるいはその寸法(板厚みを含む。)により若干変化するものの、図3(a)に示す外装缶60の幅W0に対して略40(%)の関係を有する。
【0030】
また、2条の稜線610は、外装缶60の主面60aにおける幅中心線を対称線として略線対称となる位置関係を有する。
図3(c)に示すように、膨れを生じた外装缶61を、図3(b)における矢印Bの方向から矢視すると、外装缶61の膨れは、外装缶61の上端から高さ方向中央に向け距離H1離れた位置でピーク箇所となり、厚みTmax.となっている。距離H1は、外装缶60の全高H0に対して25(%)程度である。
【0031】
なお、距離H1については、外装缶60の材質あるいはその寸法(板厚みを含む。)あるいは電極体の構造などで変化するが、発明者が確認したところによると、外装缶61における膨れのピーク箇所は、一般的に外装缶61の上端から距離H2(0.1H0)以上距離H3(0.4H0)以下の範囲内となる。
このような検討結果より、領域11は、外装缶の幅方向にその幅中心から、全幅W0に対して前後20(%)であって(W1=0.4W0)、且つ、外装缶の高さ方向にその上端から全高H0に対して10(%)以上40(%)以下の範囲内に設定されることが望ましい。また、見方を変えれば、領域11は、2条の稜線610にはさまれる範囲に設定することもできる。
(凹部の形成方法)
以下では、凹部の形成方法について、図4を用いて説明する。図4は、凹部の形成方法の一例として、主面10aに対する凹部111aの形成を、順を追って示した工程図である。
【0032】
図4(a)に示すように、凹部111aの形成対象とするのは、外装缶10内に電極体30が収容され、封口蓋20により封口された後の外装缶10の主面10aである。この状態において、上記図2に示したように、外装缶10の内面と電極体30の外面との間には、隙間D0(例えば、0.05mm程度)が存在している。
【0033】
図4(b)に示すように、主面10aに対して、上方に配置されたYAGレーザ溶接機500からレーザを出射し、主面10aに略垂直に照射する。レーザ照射条件は、レーザ痕101aにおける溶け込み量が、外装缶10の肉厚に対して1/3〜1/2となるように設定されている。
このようなレーザ照射条件にて外装缶10の長手方向(高さ方向)に線状にレーザ痕101aを設けていくことで、図4(c)に示すような凹部111aが形成される。この凹部111aは、レーザ痕101aを中心としてその周辺領域に形成される。このレーザ照射による凹部111aの形成は、一般にレーザ・フォーミング法と呼ばれているものであり、レーザ照射により熱歪みを受けた外装缶10の主面10aが凹状に反り返る現象を利用するものである。
【0034】
一度熱歪みを受けて形成された凹部111aは、外装缶10の温度が低下してもある程度維持される。
なお、上記レーザ照射に係る装置および条件などは、一例であって、外装缶10の主面10aに熱歪が与えられるものであれば、これに限定を受けるものではない。例えば、主面10aに照射するのは、レーザ以外にも電子ビーム、プラズマビームなどのエネルギビームを採用することができる。また、照射条件は、照射対照である外装缶10の外寸、肉厚などで適時設定することができる。
(製法面からの優位性)
上記特許文献2の技術のように、プレス加工により外装缶の主面に凹部を形成しようとする場合には、電極体を収容する前の段階で加工を実施する必要が生じる。これは、仮に電極体を収容した後の外装缶にプレス加工を実施した場合、電極体にダメージを与えることになりやすく、電池の性能面から好ましくないためである。これより、特許文献2の技術を用いて製造された電池は、外装缶に対して電極体を小さく設定しなければならず、電池容量が低い。
【0035】
これに対して、上記図4の製法では、レーザ照射による熱歪により凹部111aを形成しているので、電極体30が収容され封止された後の外装缶10に対して凹部111aを形成しても、中の電極体30にダメージを与え難い。
また、本発明の実施の形態に係る製法では、電極体30を収容した後に凹部111aの形成を実施するので、凹部111a形成のために電極体30を小さく設定する必要がない。よって、この製法を用いてリチウムイオン電池1を製造する場合には、電池体積に対する電池容量が高く、エネルギ効率に優れる密閉電池を得ることができる。
(確認実験)
上記発明の実施の形態に係るリチウムイオン電池1の優位性を確認するために、以下に示す確認実験を実施した。確認実験について、図5および図6を用いて説明する。
【0036】
先ず、確認実験では、UF553450のリチウムイオン電池(電池容量:900mAh)を対象とした。電池寸法および電極体寸法は、以下の通りである。
電池寸法;
外寸法;厚み4.9(mm)×幅33.7(mm)×高さ49.5(mm)
(外装缶高さ:48.0mm)
外装缶肉厚:主面部0.3(mm)、側面部0.35(mm)
外装缶材質:3000系Al合金
外装缶内寸法:厚み4.3(mm)×幅33.0(mm)
電極体寸法:厚み4.2(mm)×幅32.2(mm)
また、実施例1、2および比較例2におけるレーザ照射条件は、以下の通りである。
【0037】
レーザ照射条件
使用装置:YAGレーザ溶接機
レーザ出力:3.0〜3.5(J/p)
スポット径:0.6〜0.7(mm)
送り速度:12(mm/s)
パルス数:35(pulse/s)
溶け込み量:0.11〜0.16(mm)
(実施例1)
図5(a)に示すように、実施例1では、外装缶に電極体を収容し、封止した後のリチウムイオン電池に対して、その両主面に上記図1と同様に十字上に凹部を形成した。ただし、実施例1では、用いたYAGレーザ溶接機の性能の関係から、各凹部を形成するために、それぞれ3条のレーザ痕103a、104aを形成した。
【0038】
外装缶の高さ方向に形成されたレーザ痕103aは、外装缶の上端から3(mm)の高さから43(mm)の高さに至るまで、40(mm)の長さに設定されている。同様に、幅方向のレーザ紺104aは、幅24(mm)に設定されている。
なお、外装缶の主面には、線状のレーザ痕103a、104aに沿ったかたちで幅広の帯状に凹部が形成され、凹部の全体としての形状は十字状となった。
(実施例2)
図5(b)に示すように、実施例2では、外装缶の主面に渦巻状のレーザ痕105aを形成した。このレーザ痕105aの渦巻の中心は、外装缶の上端から14(mm)のところにある。また、渦径は、20(mm)である。
【0039】
なお、レーザ痕105aは、1条で設定されており、これによる凹部は、略擂鉢状に形成された。
(比較例1)
図5(c)に示すように、比較例1の電池の外装缶における主面には、凹部を形成していない。
(比較例2)
図5(d)に示すように、比較例2に係る電池の外装缶には、コーナー部とコーナー部とを結ぶ方向にそれぞれ3条のレーザ痕106a、107aを形成した。
【0040】
なお、各レーザ痕106a、107aは、各々1条形成されているが、面全体で考えるとき、トータル長さは上記実施例1のレーザ痕103a、104aのトータルと略同一である。
なお、本比較例のようにレーザ痕106a、107aが形成された外装缶の主面は、殆ど凹部が形成されなかった。これは、隣り合うレーザ痕どうしがその熱歪を相殺してしまった結果と考えられる。
(評価1)
評価1として、上記実施例1の電池と比較例1の電池に対して、電極体が収容された内部空間を加圧してゆき、加圧圧力毎に外装缶の膨れを測定した。測定結果を図6に示す。実験については、n=2で実施し、図6のグラフについては、n=2の平均値をプロットした。
【0041】
図6に示すように、加圧圧力を受けない状態の外装缶の厚みT0は、実施例1の電池で4.900(mm)、比較例1の電池で4.895(mm)となっており、略同等である。このような電池に対して内部加圧してゆくと、外装缶の最大厚みが大きくなってゆくが、図からも分かるとおり、実施例1の電池では、比較例1の電池に比べて外装缶の膨れが低く抑えられている。
【0042】
実施例1と比較例1との外装缶最大厚みの差異は、加圧圧力0.10(MPa)で0.735(mm)となり、その後は、0.5(mm)前後で略一定となった。そして、実施例1と比較例1との外装缶最大厚みの差異は、一端0.30(MPa)の加圧を行った後に、抜圧した際に1.0(mm)と最大になった。
この結果より、実施例1の外装缶は、加圧圧力の大小に関わらず、比較例1の電池の外装缶よりも強度が向上されていることが分かる。
(評価2)
上記実施例1および比較例1のリチウムイオン電池に対して、以下の条件にて充電を行い、充電前後でそれぞれの外装缶の最大厚みを測定した(n=5)。結果を表1に示す。
【0043】
充電条件
初期充電:充電電流900(mA)で電圧4.2(V)になるまで充電
定電圧充電:電池電圧4.2(V)を保った状態で、電流値が15(mA)になるまで充電
【0044】
【表1】
表1に示すように、実施例1のリチウムイオン電池では、充電前後における外装缶最大厚みの差異(膨れ量)は、0.18〜0.22(mm)の範囲にある。これは、比較例1のリチウムイオン電池の膨れ量が0.23〜0.27(mm)であるのと比べて有意差をもって低くなっている。実施例1と比較例1の膨れ量の差異は、平均値で0.058(mm)ある。
【0045】
以上の結果より、実施例1の電池における外装缶は、充電時に電極体が膨張しようとしても、凹部が主面の補強梁として機能し、膨れが抑制されたものと考えられる。
(評価3)
上記実施例1、2および比較例1、2の各電池に対し、上記評価3と同様の条件を用いて満充電状態とした後、85(℃)の雰囲気下で3時間放置した。そして、放置の前後における各電池の外装缶最大厚みを測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
表2に示すように、実施例1、2の電池における放置前、即ち充電後の外装缶最大厚みは、それぞれ5.22(mm)、5.20(mm)であり、比較例1、2のものに比べて0.03〜0.05(mm)小さくなっている。
【0047】
また、電池を上記雰囲気下に放置した後の各電池では、放置前に比べて0.18〜0.28(mm)外装缶が膨れた。放置による外装缶の膨れは、実施例1の電池が0.18(mm)で評価電池中最も小さくなっており、ついで実施例2の電池、比較例1、2の順となった。比較例1と比較例2とは、膨れ量がそれぞれ0.27(mm)と0.28(mm)であり、上記図5(d)のようにレーザ痕106a、107aを形成しても殆ど効果が得られないことがわかる。
(評価4)
実施例1、2および比較例1、2の各電池に対して、充放電サイクル試験(300サイクル)を行った。充電条件については、上記評価2の充電条件と同一であり、放電条件は以下に示すとおりである。
【0048】
放電条件:電流値900(mAh)で終止電圧2.75(V)まで放電
上記充放電サイクル試験の前後で各外装缶最大厚みを測定した。その結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
表3に示すように、実施例1および実施例2の各電池では、充放電サイクルを300サイクル重ねることで、外装缶がそれぞれ0.40(mm)、0.44(mm)膨れた。これは、比較例1、2の電池での膨れ0.53(mm)に対して、0.09〜0.13(mm)小さい値となっている。
【0050】
なお、表3に示すように、充放電サイクル試験の前後における外装缶最大厚みの測定結果からも分かるように、上記図5(d)のようなレーザ痕106a、107aの形成は、外装缶の膨れに対して効果が全くない。
(実験の考察)
上記評価1〜4の結果から分かるように、実施例1および実施例2の電池は、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などの全ての局面で、比較例1、2の電池に比べて外装缶の膨れが小さい。
【0051】
これは、実施例1、2の電池では上記領域11における凹部の表面積比率が領域外に比べて高いために、外装缶の膨れを効果的に抑制できたのに対して、比較例1の電池では凹部が形成されておらず、また比較例2の電池では外装缶の主面に対してレーザ痕を形成しているものの、その表面積比率が領域11で高くなるようには設定されていないので、膨れ抑制効果を得ることができなかったためと考えられる。
(変形例および参考例)
上記発明の実施の形態の変形例と、参考例について、図7を用いて説明する。図7は、(a)が変形例に係るレーザ痕のパターン図であり、(b)および(c)が参考例にかかるレーザ痕のパターン図である。
【0052】
先ず、図7(a)に示すように、変形例に係るリチウムイオン電池4では、外装缶14の主面に4条のレーザ痕101a、102a、141a、142aが形成されている。この内、レーザ痕101a、102aは、上記発明の実施の形態に係る電池のレーザ痕と同一であり、同一の符号を付している。一方、レーザ痕141a、142aは、レーザ痕102aと略同一の長さを有し、レーザ痕101aとレーザ痕102aとの交差部分でこれらに交差するように形成されている。ここで、本変形例に係る電池のレーザ痕101a、102a、141a、142aについても、領域11内での表面積比率が領域外に比べて高くなるように設定されている。領域11は、上述のように、外装缶14の高さ方向に対し、0.1H0〜0.4H0の範囲と、幅方向に対し、0.3W0〜0.7W0の範囲との重複部分である。
【0053】
このようなパターンでレーザ痕が形成され、それによって外装缶14の主面に凹部が設けられたリチウムイオン電池4では、内部圧力の上昇を受けた場合にも、上記リチウムイオン電池1と同様に外装缶の膨れが小さい。
次に、図7(b)に示すリチウムイオン電池6では、外装缶16の主面に4条の弓形のレーザ痕161a、162a、163a、164aが形成されており、各々のレーザ痕は、端部で繋がっている。そして、主面におけるレーザ痕161a、162a、163a、164aは、全体としてピンクッション形状を示している。4条のレーザ痕の内、領域11内を通過するのは、レーザ痕163aだけである。即ち、領域11内におけるレーザ痕は、その外の領域に対して高く設定されてはおらず、凹部の表面積比率も同様の関係を有する。
【0054】
また、図7(c)に示すリチウムイオン電池7では、外装缶17の主面に、その高さ方向に延びる3条のレーザ痕101a、171a、172aが形成されている。この場合には、領域11を通過するレーザ痕は、レーザ痕101aのみであり、上記図7(b)のリチウムイオン電池6と同様に、領域11内におけるレーザ痕の表面積比率がその領域外に対して、高くは設定されていない。
【0055】
上記図7(b)、(c)に示すパターンにてレーザ痕を形成したリチウムイオン電池6、7では、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などにおける外装缶16、17の膨れ抑制効果がない。これについては、実験結果を示してはいないが、本発明者が確認している。(その他の事項)
上記発明の実施の形態および変形例では、外装缶の主面に対してレーザを照射することによりレーザ痕を形成し、これにより補強梁である凹部を形成したが、凹部の形成のために用いる手段としては、電子ビームあるいはプラズマビームなどのエネルギビームを用いることができる。即ち、外装缶の主面に熱歪痕を形成し、これによって主面に凹部が形成できるものであれば、その手段は問わない。
【0056】
また、上記発明の実施の形態では、加工対象である外装缶として、3000系のAl合金を材料とするものを採用したが、外装缶の材料はこれらに限定を受けるものではない。ただし、封口蓋の接合という面から組成中のMg量が少ないものを選択するのが望ましい。
さらに、上記発明の実施の形態では、リチウムイオン電池を一例として用いたが、角型密閉二次電池であれば、本発明が対象とする電池種類は、これに限定を受けるものではない。また、電池の外寸をはじめとする各サイズについても、上記発明の実施の形態は、一例を示すものであり、本発明は、これに限定を受けるものではない。
【0057】
【発明の効果】
以上説明のように、本発明の角型密閉二次電池では、主面に熱歪痕を主因とする凹部が形成されており、凹部が主面における補強梁の機能を果す。よって、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などに、ガスの発生あるいは電極体の膨潤などにより内部圧力が上昇した際にも、本発明に係る角型密閉二次電池では、外装缶の膨れが少ない。
【0058】
また、本発明の角型密閉二次電池では、線状の熱歪痕を主因として凹部が形成されているので、外装缶の内部に電極体が収容されて後に凹部の形成を実施することが可能である。よって、本発明の角型密閉二次電池では、外装缶内面と電極体外面との間の隙間を、凹部形成のために大きく設定しておく必要が無く、限られた電池外寸において高い電池容量を確保することができる。
【0059】
従って、本発明の角型密閉二次電池では、高い電池容量が確保されるとともに、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際にも外装缶の膨れが小さい。
また、本発明に係る角型密閉二次電池の製造方法では、エネルギビーム(レーザビーム、電子ビーム、プラズマビームなど)の照射によって外装缶に対して線状の熱歪痕を形成し、これを主因とする凹部を設けることができる。よって、電極体が収容された外装缶に対して凹部の形成加工を施した場合であっても、内部の電極体に与えるダメージが小さい。
【0060】
また、この製造方法では、封口蓋の接合による外装缶の封止の後に、外装缶の主面に対して凹部を形成するので、プレス加工で凹部を形成する場合と異なり、電極体を収容する際の電極体と外装缶とのクリアランスを、凹部形成のために大きく設定しておく必要がない。よって、この製造方法では、スペース効率に優れ、高い電池容量の角型密閉二次電池を作成することができる。
【0061】
従って、本発明の角型密閉二次電池の製造方法では、エネルギ効率を高く維持し、且つ、電極体へのダメージを小さく維持した状態で、充電を実施した際および充放電サイクルを重ねた際、あるいは高温雰囲気下に放置した際などにおける電池(外装缶)の膨れが小さい角型密閉二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るリチウムイオン電池1の外観斜視図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】略平面な主面を有するリチウムイオン電池5の外装缶60の膨れを示す概念図である。
【図4】リチウムイオン電池1における主面への凹部111aの形成工程を示す工程図である。
【図5】(a)および(b)は、それぞれ実施例1、2に係るリチウムイオン電池を示す正面図であり、(c)および(d)は、それぞれ比較例1,2に係るリチウムイオン電池を示す正面図である。
【図6】実施例1および比較例1に係るリチウムイオン電池の内部への加圧圧力と、各電池の外装缶最大厚みとの関係を示す特性図である。
【図7】(a)は、変形例に係るレーザ痕を示すパターン図であり、(b)および(c)は、参考例に係るレーザ痕を示すパターン図である。
【符号の説明】
1、4. リチウムイオン電池
10、14. 外装缶
20. 封口蓋
30. 電極体
101a、102a. レーザ痕
111a、112a. 凹部
Claims (6)
- 内部に電極体が収容されてなる有底角筒状の外装缶が、開口部に封口蓋が接合されることにより封止された角型密閉二次電池であって、
前記外装缶における主面には、線状に形成された熱歪痕を主因とする凹部が前記熱歪痕に沿って設けられている
ことを特徴とする角型密閉二次電池。 - 主面に前記凹部が形成されていない外装缶に対しその内部圧力を上昇させた際に、前記主面の変形に伴って現れる2条の稜線で囲まれる領域を、前記凹部が形成されてなる前記外装缶の主面に想定し、
当該想定領域内における前記凹部の表面積比率が、その領域外における前記凹部の表面積比率よりも高く設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の角型密閉二次電池。 - 前記外装缶の主面において、前記封口蓋が接合された部分から缶底に向けての方向を第1方向、これに直交する方向を第2方向とする場合に、
前記第1方向において、封口蓋が接合された側端から当該方向の全長比で10%以上40%以下の範囲と、前記第2方向において、缶中心から当該方向の全長比で前後20%内の範囲との重複する領域内における前記凹部の表面積比率が、その領域外における前記凹部の表面積比率よりも高く設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の角型密閉二次電池。 - 前記主面を平面視した状態において、
前記熱歪痕は、十字状あるいは渦巻状に形成されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の角型密閉二次電池。 - 前記外装缶は、JIS規格における3000系アルミニウム−マンガン合金を用い形成されている
ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の角型密閉二次電池。 - 有底角筒状の外装缶に対し、その内部に電極体を収容するステップと、
前記電極体が収容されてなる外装缶の開口部に封口蓋を載置して接合し、外装缶を封止するステップと、
前記封止するステップの後に、外装缶の主面に対して、エネルギビームの照射によって線状に熱歪痕を形成し、これを主因とする凹部を設けるステップとを有する
ことを特徴とする角型密閉二次電池の製造方法。
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