JP4442970B2 - プラズママーキング方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被加工材の表面に線や点からなるマーキングを形成するための方法に係り、特に、被加工材の表面にマーキングを形成するに際し、パイロットアーク及び、又はメインアークを噴射するようにしたプラズママーキング方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
造船や橋梁に代表される構造物は、鋼板を切断した部材に他の構造部品を取り付けたり、或いは切断した部材を他の部材に取り付けて構成されるのが一般的である。使途が決定されている部材を鋼板から切断する場合、該部材に対し、他の部材を取り付ける位置や取り付けるべき部材の番号を記入し、或いは切断した部材の部品番号を記入することがある。この作業はマーキングと呼ばれており、直線や曲線からなる線或いは点の連続等によって構成される。前記マーキングは、ガス切断トーチやプラズマ切断トーチ或いはレーザ切断トーチ等の切断トーチに加えてマーキング装置を搭載し、このマーキング装置を駆動することで行なわれる。
【0003】
マーキング装置としては、容器に収容した塗料を空気搬送してノズルから被加工材に向けて噴射することでマーキングを形成するペイントマーキング装置や、容器に収容した金属粉末或いは合成樹脂粉末を空気搬送して火炎を形成したノズルから被加工材に向けて噴射し、この過程で噴射された粉末を溶融してマーキングを形成する溶射マーキング装置等のものが提供されている。前記各マーキング装置はマーキングを形成するための単能機であり、マーキング作業以外の作業を行なうことはない。
【0004】
一方、鋼板を切断する際に、該鋼板にプラズマアークを吹き付けて母材の一部を溶融させると共に、発生した溶融物を排除して溝を形成するプラズマ切断法が採用されている。このプラズマ切断法では、電極とノズルとの間に形成したプラズマアークを鋼板に向けて噴射して切断する非移行式プラズマと、電極ノズルとの間でパイロットアークを形成して鋼板に向けて噴射した後電極と鋼板との間にメインアークを形成すると同時にパイロットアークを停止して切断する移行式プラズマとがあり、比較的厚い鋼板を切断する場合、移行式プラズマを採用するのが一般的である。
【0005】
移行式プラズマ切断法を採用した場合、電極と鋼板の間に通電する電流値を制御することで、メインアークによる鋼板に対する加工能力を制御することが出来る。即ち、前記電流値を制御することによって、切断速度や鋼板に形成し得る溝の深さを制御することが出来、電流値を極端に小さい値とすることによって鋼板の表面に溝を形成することなく単に変色させてマーキングを形成することが出来る。このため、切断トーチとマーキング装置を共用し得ることとなり、コスト的に有利である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
移行式プラズマ切断トーチを用いてマーキングを形成する場合、パイロットアークを利用する方法とメインアークを利用する方法とが考えられるが、夫々固有の問題を有している。
【0007】
即ち、パイロットアークを利用してマーキングを形成する場合、このパイロットアークが電極とノズルとの間の放電によって形成されるため、安定した状態でアークを維持することが出来るものの、ノズルの温度が上昇してアークを細く絞ることが困難であり細いマーキングを形成することが困難であるという問題や、ノズルの温度が上昇することによる該ノズル自体の負担が大きくなり、消耗し易くなるという問題がある。
【0008】
またメインアークを利用してマーキングを形成する場合、メインアークの電流を被加工材の表面を溶融させることのない極めて小さい値に設定することが必須である。このため、電極と被加工材との間で限界状態で放電することとなり、メインアークを安定した状態で維持することが困難となるという問題がある。そしてマーキング中にメインアークが途切れた場合、再度パイロットアークの形成から行なう必要があり、瞬間的な立ち上げが出来ないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、プラズマ切断トーチを用いて安定した状態でマーキングを形成し得るプラズママーキング方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明に係るプラズママーキング方法は、電極とノズルの間に形成するパイロットアークと電極と被加工材の間に形成するメインアークを被加工材に向けて噴射孔から噴射しつつプラズマトーチと被加工材を相対的に移動させて該被加工材の表面に線又は点からなるマーキングを形成することを特徴とするものである。
【0011】
上記プラズママーキング方法では、プラズマトーチの噴射孔からパイロットアークとメインアークを噴射しつつプラズマトーチと被加工材とを相対的に移動させるので、メインアークを形成する電流値を極めて小さい値に設定することで該メインアークが極めて不安定になった場合であっても、パイロットアークが維持されることから、該パイロットアークを介してメインアークを保持することが出来る。このため、パイロットアークとメインアークが共同して被加工材の表面に線又は点からなるマーキングを形成することが出来る。
【0012】
上記プラズママーキング方法に於いて、形成すべきマーキングの線の太さ又は形状に対応させて、パイロットアークを形成するパイロット電流とメインアークを形成するメイン電流の何れか一方又は両方を増減させるか、或いはパイロットアークを形成するパイロット電流とメインアークを形成するメイン電流の何れか一方を断続させることが好ましい。
【0013】
上記プラズママーキング方法に於いて、パイロットアークを形成するパイロット電流,メインアークを形成するメイン電流を増減させた場合には、パイロットアークを維持して該パイロットアーク又はメインアーク或いは両方のアークの加工能力を増減することが可能であり、この増減に伴ってマーキング線の太さを変化させ、或いはマーキングを点状に形成することが出来る。
【0014】
またパイロット電流又はメイン電流の何れか一方を断続させた場合には、継続させたパイロット電流によってパイロットアークを維持し又は継続させたメイン電流によってメインアークを維持することが出来、何れかの電流に対応したアークを断続させるにも関わらず安定させることが出来、且つこの断続に伴って断続したマーキングを形成することが出来る。従って、被加工材の表面に安定した状態で線又は点からなるマーキングを形成することが出来る。特に、メイン電流を一定の値に維持して安定したメインアークを形成すると共に一定の速度でマーキング線を形成しているような場合、パイロットアークを遮断してもメインアークを安定させることが出来る。またメインアークを断続させる場合、パイロットアークを継続して発生させておくことで、瞬時にメインアークを発生させることが出来る。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、上記プラズママーキング方法の好ましい実施形態について説明する。尚、図1はプラズママーキング方法を実施するマーキング装置の構成例を示す模式図である。図2は噴射孔から噴射されるパイロットアークとメインアークとの関係を説明する図である。図3は被加工材の表面に形成されたマーキングの例を説明する図である。
【0016】
先ず、図3により被加工材Aの表面に形成するマーキングの例について説明する。マーキングとしては、被加工材Aが被切断材であるような場合、該被加工材Aから切断すべき形状に対応させた切断線のマーキング1や、切断された製品に対して他の部材を溶接するような場合、この溶接位置に対応させた溶接線のマーキング2や、切断された部材番号或いは溶接すべき部材の番号等の文字のマーキング3等がある。
【0017】
上記各マーキング1〜3は、夫々目的に応じて、連続した或いは断続した太い線,連続した或いは断続した細い線,一定の間隔を持った点等によって構成することが好ましい。このように、各マーキング1〜3を性格の異なる線或いは点によって構成することで、作業員が製品を視認したとき、該製品に形成された各マーキング1〜3によって製品の部材番号等を容易に判別することが可能である。
【0018】
上記マーキング1〜3は、被加工材Aの表面を変色させることで他の表面と区別し得るものであれば良く、被加工材Aの表面を溶融してはならない。従って、本発明に係るプラズママーキング方法は、上記の如き性格の異なる複数種のマーキングを被加工材Aの表面を溶融することなく形成し得るように構成されている。
【0019】
次に、本発明に係るプラズママーキング方法を実施するためのマーキング装置の構成例について図1により説明する。尚、前記プラズママーキング方法は、この構成例のみによって実施し得るものではないことは当然である。
【0020】
図に於いて、電極11とノズル12はトーチ13に着脱可能に取り付けられており、更に、トーチ13は台車14に搭載され、該台車14を駆動することでトーチ13を目的の方向に移動させることが可能なように構成されている。
【0021】
トーチ13に取り付けた電極11は電線16を介して電源制御装置15の負極に接続されており、同様にノズル12は電線17を介して、更に、被加工材Aは電線18を介して夫々電源制御装置15の正極に接続されている。また電極11とノズル12の間に形成された空間はホース19を介してプラズマガス供給装置20に接続されている。このような構成は通常のプラズマ切断装置と略同様である。
【0022】
即ち、電極11はプラズマ切断に利用されるような、例えば先端面にハフニウムからなる電極材11aを埋設して構成されたものであることが好ましい。またプラズマガスは酸化性を有することのない窒素ガス等の不活性ガスであることが好ましく、更に、プラズマガスの供給源として酸素ガスを供給し得る供給装置(図示せず)を設けておき、トーチ13を駆動して被加工材Aにマーキング1〜3を形成する場合と被加工材Aを切断する場合とに応じて、選択的にプラズマガスを供給し得るように構成することが望ましい。プラズマガスの供給装置のこのように構成することによって、トーチ13をマーキング装置として利用すると共に切断装置として利用することが可能となる。
【0023】
上記の如く構成されたマーキング装置に於いて、プラズマガス供給装置20を作動させて電極11とノズル12の間に形成された空間に不活性ガスからなるプラズマガスを供給し、同時に電源制御装置15を作動させて電極11とノズル12の間で放電させると、両者の間にパイロットアーク21が形成されると共に該パイロットアーク21がノズル12の噴射孔12aから被加工材Aに向けて吹き出される。そして噴射孔12aから吹き出されたパイロットアーク21が被加工材Aに到達したとき、電源制御装置15を作動させて電極11と被加工材Aとの間で放電させることでメインアーク22が形成される。
【0024】
メインアーク22は、被加工材Aを切断し或いは表面を溶融して溝を形成し得ない程度の電流(切断時に印加する電流値の1/10程度の電流値)によって形成され、且つプラズマガスるため、通常の切断時に通電される電流値に比較して極めて小さく不安定なアークとなる。このため、メインアーク22が単独で形成されている場合、例えば被加工材Aに生じている歪みによって電極11と被加工材Aとの距離が大きくなったとき、或いは被加工材Aの表面に酸化スケールや塗料等の異物が存在しているとき、これらの影響を受けてメインアーク22が途切れることがある。
【0025】
このため、本発明では被加工材Aに対してマーキング1〜3の何れかを形成している間、該マーキング1〜3の性格に応じてパイロットアーク21とメインアーク22が噴射孔12aから噴射され、或いは何れか一方が継続し且つ他方が断続されて噴射される。
【0026】
尚、通常の移行式プラズマでは、電極と被加工材との間に放電が開始されてメインアークが形成された場合、電極とノズルとの間で印加されていたパイロット電流は遮断され、これに伴ってパイロットアークは遮断される。
【0027】
上記の如く、噴射孔12aからパイロットアーク21とメインアーク22が噴射されている場合、パイロットアーク21が電極11とノズル12との間の放電によって形成されるため両者の間隔は略一定(電極11の消耗により間隔は僅かに変動する)となり、極めて安定したアークを維持することが可能であり、且つパイロットアーク21の被加工材Aへの到達状態を維持することが可能である。
【0028】
このため、不安定な状態で形成されているメインアーク22が何らかの影響を受けて途切れたような場合であっても、ただちにパイロットアーク21を介してメインアーク22を継続させることが可能となる。即ち、不安定な状態で形成されているメインアーク22は極めて安定した状態で形成されているパイロットアーク21によって保護されており、このメインアーク22によって、或いはパイロットアーク21によって被加工材Aにマーキング1〜3の何れかを形成することが可能である。
【0029】
噴射孔12aから噴射されたパイロットアーク21,メインアーク22は、先端が被加工材Aの表面に到達し、該表面を局部的に加熱して変色させる。従って、噴射孔12aからパイロットアーク21,メインアーク22を被加工材Aに向けて噴射した状態で、台車14を駆動してトーチ13を目的のマーキング1〜3に沿って移動させることにより、前記変色部位によってマーキング1〜3の何れかを形成するが可能となる。
【0030】
一般の移行式プラズマでは、パイロットアークを形成する電流値と、メインアークを形成する電流値では大幅に異なり(例えば、被加工材を切断する場合、パイロットアークを形成する電流値が Aであるのに対し、メインアークを形成する電流値は150A程度である)、各アークの持つエネルギも大幅に異なる。
【0031】
しかし本発明では、パイロットアーク21を形成するパイロット電流の値と、メインアーク22を形成するメイン電流の値は必ずしも異なる必要はない。即ち、本発明では、被加工材Aに対してマーキング1〜3を形成する場合、形成すべき線の太さに対応させてパイロット電流,メイン電流の何れか、或いは両方の値を変化させている。例えば、太い線からなるマーキング1を形成する場合前記電流の値を増大させ、また細い線からなるマーキング2を形成する場合前記電流の値を減少させている。
【0032】
本件発明者の実験では、太さが1mmのマーキング1を形成する場合、パイロット電流15A,メイン電流の値を5A程度に設定し、太さが2mmのマーキング2を形成する場合、パイロット電流15A,メイン電流の値を8A程度に設定している。
【0033】
また本発明では、パイロット電流とメイン電流を選択的に断続させることで、点からなるマーキング3、或いはマーキング1,2とマーキング3とを組み合わせたマーキングを形成することが可能である。この場合、線の太さは上記実験値と同様にして得ることが可能であり、点の長さはトーチ13の移動速度と断続時間との関係で設定することが可能である。
【0034】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように本発明に係るプラズママーキング方法では、噴射孔からパイロットアークとメインアークを被加工材に向けて噴射することで、電流の値が極めて小さいことにより不安定な領域のメインアークを形成しているにも関わらず、該メインアークをパイロットアークによって保護することで安定化をはかることが出来る。このため、被加工材の表面に安定したマーキングを形成することが出来る。
【0035】
またパイロットアークの電流及びメインアークの電流の両方或いは何れか一方の値を変化させることで対応するアークのエネルギを変化させ、これにより、マーキングの太さを変化させることが出来る。
【0036】
またパイロットアークの電流とメインアークの電流を選択的に断続させることで、点によるマーキング、或いは線と点とを組み合わせたマーキングを形成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】プラズママーキング方法を実施するマーキング装置の構成例を示す模式図である。
【図2】噴射孔から噴射されるパイロットアークとメインアークとの関係を説明する図である。
【図3】被加工材の表面に形成されたマーキングの例を説明する図である。
【符号の説明】
a 被加工材
1〜3 マーキング
11 電極
11a 電極材
12 ノズル
12a 噴射孔
13 トーチ
14 台車
15 電源制御装置
16〜18 電線
19 ホース
20 プラズマガス供給装置
21 パイロットアーク
22 メインアーク

Claims (3)

  1. 電極とノズルの間に形成するパイロットアークと電極と被加工材の間に形成するメインアークを被加工材に向けて噴射孔から噴射しつつプラズマトーチと被加工材を相対的に移動させて該被加工材の表面に線又は点からなるマーキングを形成することを特徴とするプラズママーキング方法。
  2. 形成すべきマーキングの線の太さ又は形状に対応させて、パイロットアークを形成するパイロット電流とメインアークを形成するメイン電流の何れか一方又は両方を増減させることを特徴とする請求項1に記載したプラズママーキング方法
  3. 形成すべきマーキングの線の太さ又は形状に対応させて、パイロットアークを形成するパイロット電流とメインアークを形成するメイン電流の何れか一方を断続させることを特徴とする請求項1に記載したプラズママーキング方法。
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