本発明による制御装置が適用される内燃機関では、燃焼割合算出手段によって算出される所定のタイミング(例えば上死点後8°)における燃焼割合が目標燃焼割合(例えば50%)と一致するように燃焼室における燃焼開始時期(火花点火時期または圧縮着火時期)が燃焼開始時期設定手段によって設定(フィードバック制御)される。これにより、本発明による制御装置が適用された内燃機関では、基本的に、燃焼室における燃焼開始時期が概ね最適に設定されるので、ノッキングが発生しないようにしつつ内燃機関から大きなトルクを得ることができる。
ここで、最適な燃焼開始時期(MBT)は、ノッキングを発生させてしまう点火または着火時期の近傍にあり、ノッキングが発生しないようにしながら燃焼開始時期をできる限り進角させることにより得られるものである。従って、燃焼開始時期をMBTに近づけることを優先しすぎると、内燃機関の運転条件や内燃機関に対する要求によっては、排気エミッションの悪化、振動やノッキングの発生といった不具合を招くおそれもある。
このため、この制御装置には目標燃焼割合変更手段が備えられており、目標燃焼割合変更手段は、所定条件下で、内燃機関が発生するトルクの変化(トルクの低下あるいはトルクの変動)が許容範囲内に収まるように目標燃焼割合を変更する。このように、燃焼割合に基づいて燃焼開始時期が設定される際に、内燃機関が発生するトルクの変化を考慮しながら目標燃焼割合を変更していけば、排気エミッションの悪化や、トルク変動が過剰になることに起因する振動、あるいはノッキング等が抑制されるように内燃機関の燃焼開始時期(火花点火時期または圧縮着火時期)を容易に調整することが可能となる。この結果、この内燃機関の制御装置によれば、燃焼室における燃焼割合に基づいて燃焼開始時期を最適に制御するのに伴って生じるおそれがある不具合を容易かつ確実に抑制することができる。
また、本発明による内燃機関の制御装置は、燃焼割合と目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあるか否か判定する判定手段を更に備えるとよく、目標燃焼割合変更手段は、判定手段によって燃焼割合と目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあると判断された場合に、内燃機関が発生するトルクの低下が許容範囲内に収まるように目標燃焼割合の値を減少させると好ましい。
一般に、燃焼割合と目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあり、燃焼室における燃焼開始時期が概ね最適に設定されている場合、内燃機関からは充分に大きなトルクが得られている。また、燃焼室における燃焼開始時期が概ね最適に設定された際に、その状態から燃焼開始時期を多少(例えば3°程度)遅角させても、内燃機関の発生トルク(軸トルク)の低下量は、最適な燃焼開始時期のもとでのトルクの1%程度となり、実用上許容される範囲内に収まることが判明している。更に、このように燃焼開始時期を遅角させれば、NOx等の排気エミッションを低減することが可能となる。
一方、燃焼割合に基づいて燃焼開始時期が設定される際に、目標燃焼割合の値を最適な燃焼開始時期を得るための値(50%)よりも減少させれば、燃焼室における混合気の燃焼が遅れるように燃焼開始時期が遅角されることになる。従って、燃焼割合と目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあると判断された場合、内燃機関が発生するトルクの低下が許容範囲内に収まるように、目標燃焼割合の値を一度に所定量だけ減少させるか、あるいは徐々に減少させることにより、内燃機関が発生するトルクを必要充分に確保しつつ、NOx等の排気エミッションを低減させることが可能となる。
更に、本発明による内燃機関の制御装置は、燃焼室における混合気の燃焼の開始から完了までの燃焼時間を算出する燃焼時間算出手段と、燃焼時間算出手段によって算出される燃焼時間が所定の閾値を下回っているか否か判定する判定手段とを備えるとよく、目標燃焼割合変更手段は、判定手段によって燃焼時間が当該閾値を下回っていると判断された場合に、内燃機関が発生するトルクの変動が許容範囲内に収まるように目標燃焼割合の値を減少させると好ましい。
一般に、燃焼開始時期が最適に設定されると、燃焼室内で混合気の燃焼が効率よく行われることから、燃焼開始から完了までの燃焼時間が短くなる。その一方で、アイドル時のように内燃機関の回転数が低い場合に、燃焼開始時期が最適に設定されて燃焼時間が短くなると、仕事行程の間隔が長くなり、内燃機関が発生するトルクの変動率が高まり、振動が顕著になってしまうおそれがある。
これに対して、目標燃焼割合の値を最適な燃焼開始時期を得るための値(50%)よりも減少させれば、燃焼室における混合気の燃焼が遅れるように燃焼開始時期が遅角されることから、上記燃焼時間が長くなる。従って、燃焼時間が所定の閾値を下回っていると判断された場合に、目標燃焼割合の値を一度に所定量だけ減少させるか、あるいは徐々に減少させることにより、仕事行程の間隔を短くして内燃機関のトルクの変動率を低下させることが可能となり、低回転時等に内燃機関の振動が顕著になってしまうことを確実に抑制することができる。
また、本発明による内燃機関の制御装置は、燃焼室内で発生するノッキングを検出するノック検出手段を更に備えるとよく、目標燃焼割合変更手段は、ノック検出手段によってノッキングが検出された際に、内燃機関が発生するトルクの低下が許容範囲内に収まるように目標燃焼割合の値を減少させると好ましい。
このような構成のもとでは、ノック検出手段によってノッキングが検出された際に、内燃機関が発生するトルクの低下が許容範囲内に収まるように、燃焼開始時期が遅角されることになる。従って、かかる構成によれば、内燃機関が発生するトルクを必要充分に確保しつつ、ノッキングの発生を抑制することが可能となる。
更に、燃焼割合算出手段は、筒内圧検出手段によって検出される筒内圧力と当該筒内圧力の検出時における筒内容積を所定の指数で累乗した値との積値に基づいて燃焼割合を算出すると好ましい。
本発明者は、ある燃焼室について所定のタイミングにおける燃焼割合を算出する際の演算負荷を低減すべく鋭意研究を行った。その結果、本発明者は、クランク角がθである際に筒内圧検出手段によって検出される筒内圧力をP(θ)とし、クランク角がθである際(当該筒内圧力P(θ)の検出時)の筒内容積をV(θ)とし、比熱比をκとした場合に、筒内圧力P(θ)と、筒内容積V(θ)を比熱比(所定の指数)κで累乗した値Vκ(θ)との積値P(θ)・Vκ(θ)(以下、適宜「PVκ」と記す)に着目した。
そして、本発明者は、クランク角に対する内燃機関の燃焼室内における熱発生量Qの変化パターンと、クランク角に対する積値PVκの変化パターンとが図1に示されるような相関を有することを見出した。図1において、実線は、所定のモデル気筒において所定の微小クランク角おきに検出された筒内圧力と、当該筒内圧力の検出時における筒内容積を所定の比熱比κで累乗した値との積値PVκをプロットしたものである。また、図1において、破線は、上記モデル気筒における熱発生量Qを次の(1)式に基づき、Q=∫dQ/dθ・Δθとして算出・プロットしたものである。なお、何れの場合も、簡単のために、κ=1.32とした。また、図1において、−360°,0°および360°は、上死点に、−180°および180°は、下死点に対応する。
図1に示される結果からわかるように、クランク角に対する熱発生量Qの変化パターンと、クランク角に対する積値PVκの変化パターンとは、概ね一致(相似)しており、特に、筒内の混合気の燃焼開始(ガソリンエンジンでは火花点火時、ディーゼルエンジンでは圧縮着火時)の前後(例えば、図1における約−180°から約135°までの範囲)では、熱発生量Qの変化パターンと、積値PVκの変化パターンとは極めて良好に一致することがわかる。
本発明の好ましい実施形態においては、燃焼室における熱発生量Qと積値PVκとの相関を利用して、筒内圧検出手段によって検出される筒内圧力と、当該筒内圧力の検出時における筒内容積との積値PVκに基づいて、ある2点間におけるトータルの熱発生量に対する当該2点間の所定のタイミングまでの熱発生量の比である燃焼割合MFBが求められる。ここで、積値PVκに基づいて燃焼室における燃焼割合を算出すれば、高負荷な演算処理を要することなく燃焼室における燃焼割合を精度よく得ることができる。すなわち、図2に示されるように、積値PVκに基づいて求められる燃焼割合(同図における実線参照)は、熱発生率に基づいて求められる燃焼割合(同図における破線参照)とほぼ一致する。
図2において、実線は、上述のモデル気筒においてクランク角=θとなるタイミングにおける燃焼割合を、次の(2)式に従うと共に、検出した筒内圧力P(θ)に基づいて算出し、プロットしたものである。ただし、簡単のために、κ=1.32とした。また、図2において、破線は、上述のモデル気筒においてクランク角=θとなるタイミングにおける燃焼割合を、上記(1)式および次の(3)式に従うと共に、検出した筒内圧力P(θ)に基づいて算出し、プロットしたものである。この場合も、簡単のために、κ=1.32とした。
更に、上記所定のタイミングは、吸気弁閉弁後かつ燃焼開始前に設定された第1のタイミングと、燃焼開始の後かつ排気弁開弁前に設定された第2のタイミングとの間に設定されるとよく、燃焼割合算出手段は、第1のタイミングと第2のタイミングとの間における積値の差分と、第1のタイミングと所定のタイミングとの間における積値の差分とに基づいて燃焼割合を算出すると好ましい。
この場合、当該所定のタイミングにおけるクランク角をθ0とすると、クランク角=θ0となる当該所定のタイミングにおける燃焼割合MFBは、第1のタイミングと上記所定のタイミングとの間における積値PVκの差分{P(θ0)・Vκ(θ0)−P(θ1)・Vκ(θ1)}を、第1のタイミングと第2のタイミングとの間における積値PVκの差分{P(θ2)・Vκ(θ2)−P(θ1)・Vκ(θ1)}で除して100を乗じることにより得ることができる。これにより、3点において検出した筒内圧力に基づいて精度よく燃焼割合を求めることが可能となり、演算負荷を大幅に低減させることができる。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。
図3は、本発明による制御装置が適用された内燃機関を示す概略構成図である。同図に示される内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生するものである。内燃機関1は多気筒エンジンとして構成されると好ましく、本実施形態の内燃機関1は、例えば4気筒エンジンとして構成される。
各燃焼室3の吸気ポートは、吸気管(吸気マニホールド)5にそれぞれ接続され、各燃焼室3の排気ポートは、排気管(排気マニホールド)6にそれぞれ接続されている。また、内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気弁Viおよび排気弁Veが燃焼室3ごとに配設されている。各吸気弁Viは、対応する吸気ポートを開閉し、各排気弁Veは、対応する排気ポートを開閉する。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは、例えば、可変バルブタイミング機能を有する動弁機構(図示省略)によって動作させられる。更に、内燃機関1は、気筒数に応じた数の点火プラグ7を有し、点火プラグ7は、対応する燃焼室3内に臨むようにシリンダヘッドに配設されている。
吸気管5は、図3に示されるように、サージタンク8に接続されている。サージタンク8には、給気ラインが接続されており、給気ラインは、エアクリーナ9を介して図示されない空気取入口に接続されている。そして、給気ラインの中途(サージタンク8とエアクリーナ9との間)には、スロットルバルブ(本実施形態では、電子制御式スロットルバルブ)10が組み込まれている。一方、排気管6には、図3に示されるように、三元触媒を含む前段触媒装置11aおよびNOx吸蔵還元触媒を含む後段触媒装置11bが接続されている。
更に、内燃機関1は、複数のインジェクタ12を有し、各インジェクタ12は、図3に示されるように、対応する吸気管5の内部(吸気ポート内)に臨むように配置されている。各インジェクタ12は、各吸気管5の内部にガソリン等の燃料を噴射する。なお、本実施形態の内燃機関1は、いわゆるポート噴射式のガソリンエンジンとして説明されるが、これに限られるものではなく、本発明がいわゆる直噴式内燃機関に適用され得ることはいうまでもない。また、本発明が、ガソリンエンジンだけではなく、ディーゼルエンジンにも適用され得ることはいうまでもない。
上述の各点火プラグ7、スロットルバルブ10、各インジェクタ12および動弁機構等は、内燃機関1の制御装置として機能するECU20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および、記憶装置等を含むものである。ECU20には、図3に示されるように、クランク角センサ14を始めとした各種センサが電気的に接続されている。ECU20は、記憶装置に記憶されている各種マップ等を用いると共に各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12、動弁機構等を制御する。
また、内燃機関1は、半導体素子、圧電素子あるいは光ファイバ検出素子等を含む筒内圧センサ(筒内圧検出手段)15を気筒数に応じた数だけ有している。各筒内圧センサ15は、対応する燃焼室3内に受圧面が臨むようにシリンダヘッドに配設されており、ECU20に電気的に接続されている。各筒内圧センサ15は、対応する燃焼室3における筒内圧力(相対圧力)を検出し、検出値を示す信号をECU20に与える。各筒内圧センサ15の検出値は、所定時間(所定クランク角)おきにECU20に順次与えられ、絶対圧力に補正された上でECU20の所定の記憶領域(バッファ)に所定量ずつ格納保持される。
次に、図4から図8を参照しながら、上述の内燃機関1における燃焼開始時期すなわち点火時期の制御手順について説明する。
図4に示されるように、ECU20は、内燃機関1の点火時期を設定するための比例積分回路を有している。この比例積分回路は、後述の手順に従ってサイクルごとに算出される所定のタイミング(本実施形態では、上死点後8°)における燃焼割合MFBと目標燃焼割合(目標MFB)との偏差に基づいて(偏差をゼロにするように)燃焼室3ごとに点火時期を算出(設定)する。これにより、内燃機関1では、基本的に、燃焼割合MFBが目標燃焼割合と一致するように点火時期がフィードバック制御され、各燃焼室3における点火時期が概ね最適に設定されるので、ノッキングが発生しないようにしつつ内燃機関1から大きなトルクを得ることができる。
そして、内燃機関1では、その始動後にアイドル状態からアイドルオフ状態に移行すると、ECU20によって図5に示される点火時期設定ルーチンが燃焼室3ごとに繰り返し実行される。この場合、ECU20は、まず、燃焼割合MFBが目標燃焼割合と一致するように点火時期をフィードバック制御すべきか否か判定する(S10)。ECU20は、S10にて否定判断を行った場合、予め用意されている点火時期設定マップを用いて、対象となる燃焼室3の点火時期を設定する(S11)。そして、このようにして設定される点火時期が到来すると、詳細については後述されるように、対象となる燃焼室3において点火プラグ7による点火が実行され(S18参照)、更に、点火が実行された燃焼室3について所定のタイミングにおける燃焼割合MFBが算出される(S20参照)。
また、S10にて、燃焼割合MFBに基づいて点火時期をフィードバック制御すべきであると判断した場合、ECU20は、所定のフラグが「0」であるか否か判定する(S12)。当該フラグは、通常「0」に設定されており、ECU20は、当該フラグが「0」であると判断した場合、上述の比例積分回路に与えられる目標燃焼割合を「50%」に設定する(S14)。更に、ECU20(比例積分回路)は、後述のS20にて前サイクル中に算出される燃焼割合MFBと目標燃焼割合との偏差に基づいて対象となる燃焼室3の点火時期を算出・設定する(S16)。そして、このようにして設定された点火時期が到来すると、対象となる燃焼室3において点火プラグ7による点火が実行される(S18)。
S18にて点火が実行されると、ECU20は、点火が実行された燃焼室3について所定のタイミングにおける燃焼割合MFBを算出する(S20)。S20における燃焼割合MFBの算出に際して、ECU20は、まず、対象となる燃焼室3について所定の記憶領域から、吸気弁Viの閉弁後かつ点火前の第1のタイミング(クランク角がθ1となるタイミング)における筒内圧力P(θ1)と、点火の後かつ排気弁開弁前の第2タイミング(クランク角がθ2となるタイミング)における筒内圧力P(θ2)と、第1のタイミングと第2のタイミングとの間に予め定められており、クランク角=θ0(ただし、θ1<θ0<θ2)となる所定のタイミングにおける筒内圧力P(θ0)とを読み出す。
クランク角θ1は、燃焼室3内において燃焼が開始される時点(点火時)よりも十分に前のタイミングに設定されると好ましく、例えば−60°とされる。また、クランク角θ2は、燃焼室3内における混合気の燃焼が概ね完了したタイミングに設定されると好ましく、例えば90°とされる。更に、第1のタイミングと第2のタイミングとの間の所定のタイミングは、燃焼割合MFBがほぼ50%になることが実験的、経験的に知られているクランク角がθ0=8°(上死点後8°)となるタイミングに設定されている。なお、燃焼割合MFBがおよそ50%となるクランク角は、内燃機関の冷却損失によって変化するものであり、機種によって上死点後8°から多少前後する。また、成層燃焼運転が実行される場合や、ディーゼルエンジンの場合、それぞれに応じた最適燃焼開始時期(MBT)を求めればよく、そのMBTでの燃焼割合は容易に算出することができる。
ECU20は、筒内圧力P(θ1)、筒内圧力P(θ0)および筒内圧力P(θ2)を読み出すと、クランク角がθ1,θ0およびθ2となる時の積値P(θ1)・Vκ(θ1),P(θ0)・Vκ(θ0)およびP(θ2)・Vκ(θ2)を算出する。すなわち、ECU20は、筒内圧力P(θ1)と、筒内圧力P(θ1)の検出時、すなわち、クランク角がθ1となる時の筒内容積V(θ1)を比熱比κ(本実施形態では、κ=1.32)で累乗した値との積である積値P(θ1)・Vκ(θ1)を算出する。同様に、ECU20は、筒内圧力P(θ0)と、クランク角がθ0となる時の筒内容積V(θ0)を比熱比κで累乗した値との積である積値P(θ0)・Vκ(θ0)、および、筒内圧力P(θ2)と、クランク角がθ2となる時の筒内容積V(θ2)を比熱比κで累乗した値との積である積値P(θ2)・Vκ(θ2)を算出する。なお、Vκ(θ1),Vκ(θ0)およびVκ(θ2),の値は、予め算出された上で記憶装置に記憶されている。
そして、ECU20は、クランク角がθ1,θ0およびθ2となる時の積値P(θ1)・Vκ(θ1),P(θ0)・Vκ(θ0)およびP(θ2)・Vκ(θ2)を用いて、次の(4)式からクランク角がθ0となるタイミングにおける燃焼割合MFBを算出する(S20)。これにより、3点において検出された筒内圧力P(θ1),P(θ0),P(θ2)に基づいて精度よく燃焼割合を求めることが可能となり、演算負荷を大幅に低減させることができる。
S20にて燃焼割合MFBを算出すると、ECU20は、求めた燃焼割合MFBから目標燃焼割合を減じた値の絶対値が所定の閾値(正の所定値)γ以下となっているか否か判定する(S22)。すなわち、S22では、S20にて算出されたクランク角がθ0=8°となる時の燃焼割合MFBと、目標燃焼割合との偏差が求められ、当該偏差が閾値γ以下となっているか否か、および、当該偏差が−γ以上となっているか否かが判定される。 ECU20は、S22にて当該偏差の絶対値が上記閾値γ以下になっていると判断すると、所定のタイミングで、内燃機関1の運転状態を示す各種パラメータに基づいて内燃機関1の運転条件が概ね一定であるか否か、すなわち、内燃機関1の運転条件の変更が所定範囲内にあるか否か判定する(S24)。S24にて運転条件の変更が所定範囲内にあると判断した場合、ECU20は、上記フラグを「1」に設定した上で(S26)、上記S10以降の処理を再度実行する。
ここで、S14にて目標燃焼割合が「50%」に設定されており、かつ、S20にて燃焼割合MFBと目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあると判断された場合、点火時期が概ね最適になっており、内燃機関1からは充分に大きなトルクが得られていることになる。また、燃焼室3における点火時期が概ね最適に設定された際に、その状態から点火時期を多少(例えば3°程度)遅角させても、内燃機関の発生トルク(軸トルク)の低下量は、最適な点火時期(MBT)のもとでのトルクの1%程度となり、実用上許容される範囲内に収まる。更に、このように点火時期を遅角させれば、NOx等の排気エミッションを低減することが可能となる。
一方、上述のように燃焼割合MFBに基づいて点火時期が設定される際に、目標燃焼割合の値を最適な点火時期を得るための値(50%)よりも減少させれば、燃焼室3における混合気の燃焼が遅れるように燃焼開始時期が遅角されることになる。そして、本発明者の研究によれば、目標燃焼割合の値を最適な点火時期を得るための値(50%)のおよそ2割(10%)程度減少させると(目標燃焼割合をおよそ40%に設定すると)、点火時期が3°程度遅角されて、かつ、それによる内燃機関1の軸トルクの低下が許容範囲内(例えばマイナス1%以下)に収まることが判明している。これらの点を考慮して、本実施形態では、S14にて目標燃焼割合が「50%」に設定され、S22にて燃焼割合と目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあると判断された後、内燃機関1の運転条件が概ね一定であると判断された場合、目標燃焼割合の値を最適な点火時期を得るための値(50%)よりも減少させるために、上記フラグが「1」に設定される(S26)。
すなわち、S26の処理が実行された状態でS10にて肯定判断がなされた場合、次のS12にてフラグが「1」であると判断されることから、S14ではなく、S30の処理が実行される。これにより、目標燃焼割合の値が通常時の「50%」から「40%」へと減少させられ、点火時期を算出する比例積分回路には、目標燃焼割合として「40%」という値が与えられることになる(S30)。そして、次のS16では、対象となる燃焼室3について、比例積分回路によって燃焼割合が「40%」になるように点火時期が算出され、これにより、当該燃焼室3における点火時期は、内燃機関1のトルクの低下が許容範囲内に収まるように僅かに(例えば3°程度)遅角されることになる。
このように、内燃機関1では、S14にて目標燃焼割合が「50%」に設定された後、S22にて、燃焼割合MFBと目標燃焼割合との偏差が所定範囲内にあり、点火時期が概ね最適であると判断され、かつ、S24にて運転条件の変更が所定範囲内にあると判断された場合、内燃機関1のトルクの低下が許容範囲内に収まるように目標燃焼割合が変更され、それにより点火時期が僅かに遅角される。この結果、内燃機関1では、必要充分なトルクの確保と、NOx等の排気エミッションの低減とを実用上良好に両立させることが可能となる。
また、図5のルーチンにおいて目標燃焼割合が減少させられるのは、S22にて点火時期が概ね最適に設定されていると判断される場合、すなわち、内燃機関1が大きなトルクが発生していると判断される場合のみである。従って、内燃機関1では、トルクの低下が許容範囲から外れてしまうことを確実に抑制することが可能となる。なお、S16にて比例積分回路によって燃焼割合が「40%」になるように点火時期が算出された場合も、S18の点火実行後に、S20にて燃焼割合MFBが算出される。そして、この場合、次のS22では、S20にて算出された燃焼割合MFBと目標燃焼割合である「40%」との偏差が所定範囲内にあるか否か判定される。
一方、S22にて燃焼割合MFBと目標燃焼割合(50%または40%)との偏差が所定範囲内にはないと判断した場合、ECU20は、S28にてフラグを「0」に維持した上で、上記S10以降の処理を再度実行する。これにより、次のS12にてフラグが「0」であると判断されることから、S14にて目標燃焼割合が「50%」に設定される。従って、次のS16では、比例積分回路によって燃焼割合が「50%」になるように点火時期が算出され、これにより、当該燃焼室3における点火時期を概ね最適な時期(MBT)に近づけていくことができる。また、ECU20は、S22にて燃焼割合MFBと目標燃焼割合(50%または40%)との偏差が所定範囲内にあると判断した場合であっても、S24にて運転条件の変更が上記所定範囲を超えている(運転条件が変更されている)と判断した場合、S28にてフラグを「0」に維持した上で、上記S10以降の処理を再度実行する。これにより、次のS14にて比例積分回路に与えられる目標燃焼割合が「50%」に維持され、内燃機関1の運転条件が変更された際に点火時期が遅角されて要求される出力が得られないといった事態を回避することが可能となる。
なお、図5のルーチンのもとでは、目標燃焼割合が一度に50%から40%へと変更されるが、これに限られるものではない。すなわち、S30での目標燃焼割合の変化量(減少量)を小さくして(例えば1%程度)、S30の処理が実行されるごとに目標燃焼割合を徐々に変化させても(減少させても)よい。また、上述の第1のタイミングθ1、第2のタイミングθ2および閾値γは、機関回転数および負荷に応じて設定されてもよく、この場合、第1のタイミングθ1、第2のタイミングθ2および閾値γを内燃機関1の回転数および負荷に応じて規定するマップを用意しておくとよい。
図6は、内燃機関1のアイドル時にECU20によって実行される点火時期設定ルーチンを説明するためのフローチャートである。図6に示されるように、内燃機関1が始動(IGON)されると、ECU20は、まず、吸気、圧縮、膨張、排気の4行程からなる1サイクルが所定回数完了したか否か判定する(S50)。ECU20は、S50にて肯定判断を行うまで、予め用意されている点火時期設定マップを用いて、対象となる燃焼室3の点火時期を設定する(S51)。そして、このようにして設定される点火時期が到来すると、詳細については後述されるように、対象となる燃焼室3において点火プラグ7による点火が実行され(S54参照)、更に、点火が実行された燃焼室3について所定のタイミングにおける燃焼割合MFBが算出される(S64参照)。
S50にて肯定判断がなされると、ECU20(比例積分回路)は、前サイクル中に算出される燃焼割合MFBと目標燃焼割合(目標MFB=50%)との偏差に基づいて対象となる燃焼室3の点火時期を算出・設定する(S52)。そして、このようにして設定された点火時期が到来すると、対象となる燃焼室3において点火プラグ7による点火が実行される(S54)。
S54にて点火が実行されると、ECU20は、点火が実行された燃焼室3について燃焼時間Tを算出する(S56)。燃焼時間Tは、当該燃焼室3における混合気の燃焼開始から完了までの時間であり、当該燃焼室3における混合気の燃焼開始のタイミングは、S52にて設定される点火時期と概ね一致する。また、燃焼完了のタイミングは、当該燃焼室3において膨張行程中に熱発生率dQ/dθがゼロになるタイミングと概ね一致する。 このため、S56において、ECU20は、対象となる燃焼室3において膨張行程中に熱発生率dQ/dθがゼロになるタイミングのクランク角を求め、求めたクランク角とS52にて設定された点火時期とから燃焼時間Tを算出する。
図6のS56では、燃焼時間Tを定める燃焼完了のタイミングを求めるために、上述の燃焼室3における熱発生量Qと積値PVκとの相関が利用される。すなわち、上述の積値PVκを用いれば、任意のタイミング(クランク角=θとなるタイミング)における熱発生率は、次の(5)式から、所定の2点間(微小クランク角δ間)における積値PVκの差分d(PVκ)として求めることができる。
図7は、積値PVκに基づいて求められる熱発生率と、理論式に従って求められる熱発生率との相関を示すグラフである。同図において、実線は、上述のモデル気筒においてクランク角=θとなるタイミングにおけるd(PVκ)を筒内圧力P(θ)に基づいて算出し、プロットしたものである。ただし、簡単のために、κ=1.32とし、δ=1°(1CA)とした。また、図7において、破線は、上述のモデル気筒においてクランク角=θとなるタイミングにおける熱発生率を、上記(1)式に従うと共に筒内圧力P(θ)に基づいて算出し、プロットしたものである。この場合も、簡単のために、κ=1.32とした。図7からわかるように、クランク角に対するd(PVκ)の変化パターン(同図における実線参照)は、(1)式に基づいて求められる熱発生率のクランク角に対する変化パターン(同図における破線参照)とほぼ一致(相似)している。従って、積値PVκを用いれば、燃焼室3における熱発生率を高負荷な演算処理を要することなく精度よく把握することができる。
S56において、ECU20は、予め定められたタイミング(例えば概ね膨張行程に入るタイミングあるいは膨張行程の直前のタイミング)になると、筒内圧センサ15によって検出される筒内圧力を用いて微小クランク角δごとに上記(5)式から熱発生率d(PVκ)を繰り返し算出する。そして、ECU20は、算出した熱発生率d(PVκ)が概ねゼロになったタイミングにおけるクランク角を燃焼完了のタイミングにおけるクランク角とし、このクランク角とS52にて設定された点火時期とから燃焼時間Tを得る。
S56にて燃焼時間Tを算出すると、ECU20は、燃焼時間Tが予め定められた基準燃焼時間TRを下回っているか否か判定する(S58)。ここで、点火時期が最適(MBT)に設定されると、燃焼室3内で混合気の燃焼が効率よく行われることから、燃焼開始から完了までの燃焼時間Tが短くなる。その一方でアイドル時のように内燃機関1の回転数が低い場合に、点火時期が最適に設定されて燃焼時間Tが基準燃焼時間TRよりも短くなると、仕事行程の間隔が長くなり、内燃機関1が発生するトルクの変動率が高まり、振動が顕著になってしまうおそれがある。
このような点を考慮して、ECU20は、S58にて、燃焼時間Tが予め定められた基準燃焼時間TRを下回っていると判断した場合、上述の比例積分回路に与えられる目標燃焼割合の値を僅かに(例えば1%、すなわち、50%から49%に)減少させる(S60)。これに対して、S58にて燃焼時間Tが上記基準燃焼時間TR以上であると判断した場合、ECU20は、S62にて目標燃焼割合を「50%」に維持する。S60またはS62の処理を実行すると、ECU20は、図5のS20と同様の手順に従って点火が実行された燃焼室3について所定のタイミング(上死点後8°)における燃焼割合MFBを算出し(S64)、上述のS50以降の処理を再度実行する。
これにより、S58にて燃焼時間Tが基準燃焼時間TRを下回っていると判断され、S60にて目標燃焼割合の値が僅かに減少させられた場合、次のS52では、対象となる燃焼室3について、比例積分回路によって燃焼割合が「50%」よりも小さな値になるように点火時期が算出される。このように、S60の処理が実行された場合、目標燃焼割合の値が最適な燃焼開始時期を得るための値(50%)よりも減少させられることから、燃焼室3における混合気の燃焼が遅れるように燃焼開始時期が遅角され、燃焼時間Tが長くなる。この結果、仕事行程の間隔を短くして内燃機関1のトルクの変動率を低下させることができるので、アイドル時に内燃機関1の振動が顕著になってしまうことを確実に抑制することが可能となる。
また、S58にて燃焼時間Tが基準燃焼時間TR以上であると判断され、S62にて目標燃焼割合が「50%」に維持された場合、次のS52では、対象となる燃焼室3について、比例積分回路によって燃焼割合が「50%」になるように点火時期が算出され、当該燃焼室3における点火時期を概ね最適な時期(MBT)に近づけていくことが可能となる。なお、図6のルーチンでは、S60の処理が実行されるごとに目標燃焼割合が徐々に変化させられることになるが、これに限られるものではない。すなわち、S60では、目標燃焼割合が一度に所定量(例えば50%から40%へと)変更されてもよい。また、図6のルーチンは、アイドル時以外の内燃機関1の回転数が低い場合に実行され得ることはいうまでもない。
図8は、燃焼室3におけるノッキングの発生を抑制するために内燃機関1において実行され得る更に他の点火時期設定ルーチンを説明するためのフローチャートである。図8の点火時期設定ルーチンを実行するに際して、ECU20は、まず、燃焼割合MFBが目標燃焼割合と一致するように点火時期をフィードバック制御すべきか否か判定する(S70)。ECU20は、S70にて否定判断を行った場合、予め用意されている点火時期設定マップを用いて、対象となる燃焼室3の点火時期を設定する(S71)。そして、このようにして設定される点火時期が到来すると、詳細については後述されるように、対象となる燃焼室3において点火プラグ7による点火が実行され(S74参照)、更に、点火が実行された燃焼室3について所定のタイミングにおける燃焼割合MFBが算出される(S88参照)。
また、S70にて、燃焼割合MFBに基づいて点火時期をフィードバック制御すべきであると判断した場合、ECU20(比例積分回路)は、前サイクル中に算出される燃焼割合MFBと目標燃焼割合との偏差に基づいて対象となる燃焼室3の点火時期を算出・設定する(S72)。そして、このようにして設定された点火時期が到来すると、対象となる燃焼室3において点火プラグ7による点火が実行される(S74)。
S74にて点火が実行されると、ECU20は、点火が実行された燃焼室3についてノッキングの発生を判定するためのパラメータΔdQを算出する(S76)。ECU20は、S76において、対象となる燃焼室3について所定の記憶領域から、クランク角がθaとなる第1のタイミングにおける筒内圧力P(θa)と、当該第1のタイミングから微小クランク角δ(δ=1°〔1CA〕)だけ進んだタイミングにおける筒内圧力P(θa+δ)を読み出す。更に、ECU20は、対象となる燃焼室3について所定の記憶領域から、クランク角がθbとなる第2のタイミングにおける筒内圧力P(θb)と、当該第2のタイミングから微小クランク角δ(δ=1°〔1CA〕)だけ進んだタイミングにおける筒内圧力P(θb+δ)を読み出す。
上記第1のタイミングに対応するクランク角θaは、実験的、経験的にノッキングが発生しやすい領域前の値(例えば15°)として定められる。また、上記第2のタイミングに対応するクランク角θbは、実験的、経験的にノッキングが発生しやすい上記領域後の値(例えば20°)として定められる。そして、ECU20は、これら4点の筒内圧力P(θa),P(θa+δ),P(θb)およびP(θb+δ)から、クランク角がθaとなる第1のタイミングにおける熱発生率を示すd(PVκ)aと、クランク角がθbとなる第2のタイミングにおける熱発生率を示すd(PVκ)bとを対象となる燃焼室3について算出する。
クランク角がθaまたはθbとなるタイミングにおける熱発生率は、上述の積値PVκを用いれば、所定の2点間(微小クランク角δ間)における積値PVκの差分として、次の(6)および(7)式のように、高負荷な演算処理を要することなく精度よく求められる(ただし、本実施形態では、κ=1.32とされる)。なお、Vκ(θa),Vκ(θa+δ),Vκ(θb)およびVκ(θb+δ)の値は、予め算出された上で記憶装置にマップとして記憶されている。
更に、ECU20は、クランク角がθbとなる第2のタイミングにおける熱発生率d(PVκ)bとクランク角がθaとなる第1のタイミングにおける熱発生率d(PVκ)aとの偏差であるパラメータΔdQを、
ΔdQ=d(PVκ)b−d(PVκ)a
として対象となる燃焼室3について算出する(S76)。
そして、ECU20は、S76にて求めたパラメータΔdQと予め定められた閾値εとを比較する(S78)。ここで、燃焼室3においてノッキングが発生すると、燃焼室3における熱発生率が一時的かつ急峻に上昇した後、急激に低下する(燃焼が早期終了する)ことが知られている。このような現象を考慮して、ECU20は、第1のタイミング(クランク角=θa)と第2のタイミング(クランク角=θb)との間における熱発生率の変化量すなわちパラメータΔdQが上記閾値εを上回った場合、燃焼室3においてノッキングが発生したと判断し、パラメータΔdQが上記閾値ε以下である場合、燃焼室3においてノッキングが発生していないと判断する。
S78において、パラメータΔdQが閾値εを上回っており、対象となる燃焼室3においてノッキングが発生していると判断した場合、ECU20は、当該燃焼室3のために用意されている図示されないカウンタを1だけインクリメントする(S80)。その後、ECU20は、当該カウンタのカウント値が予め定められている閾値を超えているか否か判定する(S82)。ECU20は、S82にてカウンタのカウント値が予め定められている閾値を超えたと判断した場合、すなわち、ノッキングの発生回数が当該閾値を超えたと判断した場合、上述の比例積分回路に与えられる目標燃焼割合の値を僅かに(例えば1%、すなわち、50%から49%に)減少させると共にカウンタをリセットする(S84)。
一方、S78において、パラメータΔdQが閾値ε以下であり、燃焼室3においてノッキングが発生していないと判断した場合、ECU20は、S86にて目標燃焼割合を「50%」に維持する。また、ECU20は、S82にてカウンタのカウント値が予め定められている閾値を超えていないと判断した場合、すなわち、ノッキングの発生回数が当該閾値を超えていないと判断した場合も、S86にて目標燃焼割合を「50%」に維持する。ECU20は、S84またはS86の処理を実行すると、図5のS20と同様の手順に従って点火が実行された燃焼室3について所定のタイミング(上死点後8°)における燃焼割合MFBを算出し(S88)、上述のS70以降の処理を再度実行する。
このように、図8のルーチンのもとでは、S78およびS82にて、対象となる燃焼室3においてノッキングが発生しており、かつ、ノッキングの発生回数が閾値を超えたと判断された場合には、S84にて目標燃焼割合の値が僅かに減少させられることから、次のS72では、対象となる燃焼室3について、比例積分回路によって燃焼割合が「50%」よりも小さな値になるように点火時期が算出される。これにより、S84の処理が実行された場合、目標燃焼割合の値が最適な燃焼開始時期を得るための値(50%)よりも減少させられるので、内燃機関1の軸トルクの低下が許容範囲内に収まり、かつ、燃焼室3における混合気の燃焼が遅れるように燃焼開始時期が遅角されることになる。従って、図8のルーチンを実行することにより、内燃機関1が発生するトルクを必要充分に確保しつつ、ノッキングの発生を抑制することが可能となる。
また、S78にて、対象となる燃焼室3においてノッキングが発生していないと判断された場合には、S86にて目標燃焼割合が「50%」に維持される。これにより、次のS72では、比例積分回路によって燃焼割合が「50%」になるように点火時期が算出され、当該燃焼室3における点火時期を概ね最適な時期(MBT)に近づけていくことが可能となる。更に、S78にてノッキングが発生していると判断されても、S82にてノッキングの発生回数が閾値を超えていないと判断された場合には、S86にて目標燃焼割合が「50%」に維持される。これにより、ノッキングの発生が許容範囲内にある場合、当該燃焼室3における点火時期を概ね最適な時期(MBT)に近づけて、内燃機関1から大きなトルクを得ることができる。
なお、図8のルーチンでは、S84の処理が実行されるごとに目標燃焼割合が徐々に変化させられることになるが、これに限られるものではない。すなわち、S84では、目標燃焼割合が一度に所定量(例えば50%から40%へと)変更されてもよい。また、ノッキングの発生の有無は、所定のタイミング(1点)における熱発生率を示すd(PVκ)と所定の閾値とを比較することによっても判断することが可能であり、ある1点における熱発生率を示すd(PVκ)が所定の閾値を上回った場合に、ノッキングが発生したと判断してもよい。更に、上述の第1のタイミングθa、第2のタイミングθbおよび閾値εは、機関回転数および負荷に応じて設定されてもよく、この場合、第1のタイミングθa、第2のタイミングθbおよび閾値εを内燃機関1の回転数および負荷に応じて規定するマップを用意しておくとよい。