JP4438298B2 - 胞子嚢の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造方法、および該製造方法に用いられる胞子嚢の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
コガネムシ科昆虫の幼虫は、芝や農園芸作物や樹木等の広範囲な植物の根を食餌し、それらに多大の被害を与える。これらの幼虫は地中に棲息するため、地上から散布する化学農薬が効きにくく、且つその棲息場所が特定しにくいことから、十分な殺虫効果を得る為には、広範囲に多量の殺虫性農薬を散布して地中に浸透させる必要があった。さらに、その結果、環境汚染を引き起こすおそれもあり、事実上その防除、駆除は殆ど困難であった。
【0003】
一方、バチルス・ポピリエに属する菌は、これらコガネムシ科昆虫の幼虫を寄生宿主とし、通常胞子嚢の形態で経口的に感染、血リンパ中で大量に増殖し、やがて乳化病を引き起こして最終的に死に至らしめることが知られている。そこで、化学農薬が効きにくいコガネムシ科昆虫の駆除に、バチルス・ポピリエに属する菌を利用しようとする試みが古くから行われてきた。この方法は、化学農薬に替わる生物学的防除方法として有望であると考えられる。
【0004】
バチルス・ポピリエに属する菌の培養方法としては、寄生宿主であるコガネムシ科の生きた幼虫を用いて菌を増殖させ胞子嚢を製造する方法が従来から知られていた。
すなわち、バチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢をコガネムシ科昆虫の幼虫の存在する飼育培土に散布して、バチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢を経口的にコガネムシ科昆虫の幼虫に摂取させるか、又は体液中に注射により注入した後、幼虫を3週間〜4週間飼育し、該幼虫体内でバチルス・ポピリエを増殖させ、その後、幼虫に孔を開けるか切開して体液を採取し、得られた体液を遠心分離又は濾過することにより、幼虫体内で増やした胞子嚢を得る方法である。
しかしながら、この方法では、コガネムシ科昆虫の幼虫を大量に飼育する必要があり、結果的に胞子嚢を多量に、短時間に、且つ経済的に得ることは困難であった。この為、コガネムシ科昆虫の幼虫を用いない人工培地を用いての培養方法に関する多くの研究が行われてきた。
【0005】
ところで、バチルス・ポピリエの人工培地を用いた培養方法に関する従来の文献では、胞子嚢と胞子とが、明確な区別なく用いられている場合が多く、文献中の胞子という言葉が胞子のみを意味するのか、胞子は内包するがパラスポラルボディは含まない胞子嚢を意味するのか、あるいは胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢であるのかが不明である場合が多い。
これらに対して、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢が、優れた防除効果を有するという報告がなされている(特許文献1参照。)。従って、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢のより効率的な製造方法が望まれている。
【0006】
コガネムシ科昆虫の幼虫を用いない人工培地での培養方法としては、固体培養及び液体培養がある。しかし、固体培養による胞子嚢の生産は効率的であるとは言えず、液体培養による胞子嚢の生産が必要である。
液体培養で胞子嚢を得る場合には、生育阻害物質、過酸化物等を除去するための吸着剤として、活性炭を培地中に添加して液体培養で胞子嚢を得た培養例がある(例えば非特許文献1及び特許文献1乃至3参照。)。これらのうち、胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢を製造した例は、特許文献1乃至3に記載されている場合のみである。
【0007】
これらの方法はいずれも、培地中に活性炭を添加しているが、以下の点で大きな問題がある。
まず、粉末状の活性炭を使用した場合には、培養液中に胞子嚢と粉末状活性炭が混在してしまい、さらに、胞子嚢と粉末活性炭は粒径及び重量が似通っているため、遠心分離、ろ過等の通常の手段によって胞子嚢と粉末活性炭とを分離することが困難である。このような場合には、胞子嚢のみを得ることが難しく、活性炭を含んだ形で胞子嚢を回収せざるを得ない。また、例えば、特許文献3に記載の方法で製造された活性炭を含んだ胞子嚢は、胞子嚢の重量に対して2.3〜23倍の活性炭を含んでおり、活性炭等の吸着材を含む胞子嚢は、乾燥あるいは製品化の際の濃度調整、充填等の工程において、また、製剤化した際においても容量が大幅に増すこと、特に活性炭などを用いた場合には飛散しやすく作業者が吸引したり粉塵爆発を誘発する等の危険性が高く、取り扱いが面倒になるといった問題があった。また、最終製品に着色があり外観に劣るという問題もあった。
【0008】
一方、粒状の活性炭を培養槽内に単に添加した場合は、胞子嚢と該活性炭の分離工程を要するだけでなく、培養の際に活性炭が下部に沈降してしまうために吸着効率が低下して阻害物を十分に除去することができなくなる。通常の培養方法においては培養装置内を攪拌するので、攪拌翼の回転数を上げるといった方法で粒状活性炭を分散させる方法等も考えられるが、バチルス・ポピリエの培養においては攪拌回転数が高いと十分な量の胞子嚢が得られない。
【0009】
【非特許文献1】
ハイネス(W.C.Haynes)他,ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology),(米国),1966年6月,91巻,6号,p.2270−2274.
【特許文献1】
特開2002−291467号公報
【特許文献2】
特開2002−291468号公報
【特許文献3】
特開2002−355030号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢を効率的に培養し、吸着剤を含まない胞子嚢を容易に回収することができる胞子嚢の製造方法、および該製造方法に用いられる製造装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる容器内に吸着剤を包含して、吸着剤を培養液と接触させることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、吸着剤と培養液とを含む液体培地でバチルス・ポピリエを培養し、胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢を製造する方法に用いられる胞子嚢の製造装置であって、培養液を包含する培養槽と、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる容器とを備え、前記容器は、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる部分の構造の少なくとも一部が培養液の液面より下に位置するように、前記培養槽の内部に固定されており、該吸着剤が、前記容器内に包含され、かつ培養液と接触している胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造装置である。
また、本発明は、前記製造装置用いる胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造方法は、吸着剤と培養液とを含む液体培地でバチルス・ポピリエを培養し、胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢を製造する方法であって、該吸着剤が、該吸着剤は通過させないが培養液は通過させる容器内に包含され、かつ培養液と接触していることを特徴とするものである。
【0013】
本発明において胞子嚢とは、胞子とパラスポラルボディ(又は副胞子小体)と呼ばれる小体とを胞子嚢壁が内包しているものであり、バチルス・ポピリエに属する菌が産生する。
【0014】
本発明で用いられるバチルス・ポピリエに属する菌(以下、単に「バチルス・ポピリエの菌」ということがある。)とは、バチルス属ポピリエ種(Bacillus popilliae)に属する菌である。バチルス族ポピリエ種の細菌学的性質は、バージェイズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bergeys’Manual of Determinative Bacteriology)によれば、形態的性質は長さが1.3〜5.2μm、幅が0.5〜0.8μmのグラム陰性桿菌、生育温度は20〜35℃で、胞子嚢の中にパラスポラルボディを持っている。
バチルス属ポピリエ種に属する菌としては、バチルス・ポピリエ・セマダラ株(Bacillus popilliae var. popilliae Semadara)(FERM P−16818)、バチルス・ポピリエ・マメ株(Bacillus popilliae var. popilliae Mame)(FERM P−17661)、バチルス・ポピリエ・ヒメ株(Bacillus popilliae var. popilliae Hime)(FERM P−17660)、バチルス・ポピリエ・サクラ株(Bacillus popilliae var. popilliae Sakura)(FERM P−17662)、バチルス・ポピリエ・デュトキ株(Bacillus popilliae var. popilliae DIC-2001)(FERM P−18250)、バチルス・ポピリエ・デュトキ株(Bacillus popilliae Dutky, American Type Culture Collection No. 14706)等が挙げられる。
【0015】
近年、これまでの菌株も含め「バチルス属ポピリエ種」は、「パエニバチルス属ポピリエ種(Paenibacillus popilliae)」に再分類されるべきとの学説上の見解(Bertil Pettersson et al., 1999年, Int. J. Syst. Bacteriol., 49巻, 531-540頁)も示されており、現段階では両者の取り扱いが明確化していない。よって、本発明においては、「バチルス属ポピリエ種に属する菌」とは「パエニバチルス属ポピリエ種に属する菌」をも包含するものとする。
【0016】
本発明に用いられる吸着剤は、バチルス・ポピリエに属する菌の生育を阻害する物質の除去を目的として用いられるものである。該吸着剤としては、例えば、活性炭および合成吸着剤を挙げることができる。いずれも、微細物質を吸着する多孔質体であり、粒子内部にまで発達した細孔構造により水溶液中の阻害物質を効率良く吸着しうる物質であることが重要である。
【0017】
本発明に用いられる活性炭の形状は、粉末状、粒状、シート状等が挙げられ、特に制限はないが、粒子が飛散せず扱いやすいことから、特に粒状の活性炭が好ましい。
また、本発明に用いられる合成吸着剤とは、微細物質を吸着する多孔質重合体を意味し、例えば、粒子状に成型された架橋性多孔質重合体である。具体的には、三菱化学株式会社製のSEPABEADS SP825、SEPABEADS SP850、DIAION HP20、DIAION HP21などが挙げられる。
【0018】
これらの吸着剤は、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる容器(以下、「吸着剤内包容器」という。)に保持される必要があることから、平均粒径が、0.3mm〜10mmであることが好ましく、さらに2.0mm〜6.0mmであることが好ましい。
平均粒径が0.3mmより小さい場合は、吸着剤内包容器につまり等が発生し、容器の通液性が著しく損なわれ、阻害物質の吸着効率が著しく低下してしまうため好ましくない。一方、平均粒径が10mmを超えると、通液性は良好であるが、阻害物質の吸着に必要な表面積が低下するために吸着剤の使用量が増え、結果として吸着剤内包容器が大きくなり効率的とは言えない。
【0019】
吸着剤の使用量はその吸着力によって異なるため特に限定されないが、培養液中の阻害物を充分に除去できることが必要である。また、吸着剤は充分に殺菌され他の微生物に汚染されていないことが必要であり、予め充分に殺菌された吸着剤を使用してもよいし、吸着剤内包容器に包含されて培地と接触した状態で培地と共に殺菌してから使用してもよい。
【0020】
本発明の胞子嚢の製造方法において、バチルス・ポピリエの菌の培養条件は、胞子嚢を得るための従来公知の培養条件に従って行えばよく、特に限定されないが、バチルス・ポピリエの菌の増殖に適した温度及びpHに適宜調整することが必要である。例えば、バチルス・ポピリエ・セマダラ株では培養温度25〜30℃が好ましく、pHは7〜8であることが好ましい。pHの調整は通常用いられる塩酸、硫酸などの酸あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリが使用できる。
【0021】
本発明に用いる培養液は、バチルス・ポピリエの胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢を製造する際に用いられる公知慣用の液体培地を用いることができ、例えば、窒素源や炭素源を蒸留水等の水に添加したものが用いられる。窒素源としては、通常、微生物の培養に用いられるペプトン、肉エキス、魚肉エキス、ラクトアルブミン水解物又は酵母エキス等の有機性窒素源が挙げられ、これらの添加により培地中にタンパク質、アミノ酸、ビタミン類等を補給する。それ以外の窒素源として、アンモニア、硝酸及びそれらの塩等の無機窒素源が挙げられる。本発明に用いる窒素源の添加濃度は胞子嚢を製造することができる範囲であれば特に限定されるものではないが、培養液に対して5質量%以下であることが好ましく、より優れた菌の増殖促進効果を呈することから0.2〜4質量%の範囲とすることが好ましい。
上記窒素源中には各種アミノ酸が含まれているが、より効果的に胞子嚢を製造するために特定のアミノ酸を添加することもできる。添加するアミノ酸としてはグルタミン酸が好ましく、さらにプロリンが特に好ましく、いずれか単独またはその両方を添加することができる。本発明の培地は、グルタミン酸を添加することによりグルタミン酸を培地に対して0.2〜4質量%含むものであることが好ましく、さらにプロリンを添加することによりプロリンを培地に対して0.1〜0.7質量%含むものであることがより好ましい。また、本発明の培地は、培地中の全アミノ酸に対するグルタミン酸の割合が35〜90質量%となるように調製することが好ましく、プロリンが10〜65質量%となるように添加することがより好ましい。ただし、ここでいう「全アミノ酸」とは、通常、窒素源に含まれていることが知られている、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、ヒスチジン、チロシン、又はバリンからなる16種類の遊離型アミノ酸をいう。全アミノ酸、すなわち、上述の16種類の遊離型アミノ酸の合計量は、ペプトンや酵母エキス等に含まれる全ての遊離型アミノ酸量を概ね示すものとして用いられるものである。
【0022】
さらに、炭素源としては、通常の微生物の培養に用いられる炭素源が挙げられ、例えば、トレハロース、シュークロース等の糖類、廃糖蜜、デンプン分解物、チーズホエー等の農産廃棄物が挙げられる。これらの炭素源の添加濃度は、本発明の効果を達成する範囲であれば特に限定されないが、より優れた菌の増殖促進効果を呈することから培養液に対して0.001〜5質量%が好ましい。ただし、胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢を形成させるためには、グルコースの存在は好ましくなく、培地に含まれるグルコース濃度は培養液に対して0.01質量%以下にすることが好ましい。
【0023】
本発明に用いる培養液には、必要に応じてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸塩又はそのナトリウム塩等の無機塩が添加されていても良い。該無機塩の添加濃度は、本発明の効果を達成する範囲であれば特に制限されないが、培養液に対して1質量%以下が好ましい。
【0024】
本発明に用いる培養液には、更に上記成分に加えてピルビン酸及びその生理学的に許容される塩を添加することによりさらに優れた菌の増殖及び胞子嚢化率を示す。ピルビン酸の生理学的に許容される塩としては、ピルビン酸ナトリウム、ピルビン酸カリウム等があげられる。ピルビン酸又はその生理学的に許容される塩の添加濃度は培養液に対して0.05〜0.5質量%であり、より優れた菌の増殖及び胞子嚢化率を呈するため好ましくは培養液に対して0.1〜0.3質量%である。添加されるピルビン酸及びその塩は、培地成分と共に殺菌しても、又は培地成分と分けて殺菌して培養開始時に添加しても良い。
【0025】
上記培養条件に好適に用いられる培養の方法としては、回分培養、連続培養、半回分培養、流加培養等を挙げることができる。培養時間は、培養方法、培養温度、培養pH、接種菌体量等によって異なるが、回分培養の場合で7〜10日である。
【0026】
本発明の胞子嚢の製造方法では、吸着剤を吸着剤内包容器に収納し、培養液を、吸着剤内包容器内を通過させて吸着剤に接触させるため、従来の方法のように吸着剤を培養槽中に分散させるために回転速度を上げて撹拌を行う必要がなく、培養液中に高濃度で胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエの菌の胞子嚢を得ることができる。
また、上述の方法で得た胞子嚢を培養液から分離して回収する場合には、一般的に行われる遠心分離、ろ過等の容易な方法で行えばよい。
【0027】
本発明の製造方法により得られた胞子嚢は、胞子とパラスポラルボディとを含み、各種コガネムシ科昆虫に殺虫性を有し防除効果を示す。このため該胞子嚢はコガネムシ科昆虫を防除する目的で防除剤として用いられ、芝、農園芸用作物又は樹木等に施用することができる。
【0028】
コガネムシ科昆虫としては、ドウガネブイブイ(Anomala cuprea)、セマダラコガネ(Blitopertha orientalis)、マメコガネ(Popillia japonica)、ウスチャコガネ(Phyllopertha diversa)、チャイロコガネ(Adoretus tenuimaculatus)、ヒメコガネ(Anomala rufocuprea)等が挙げられる。本発明の防除剤はこれらに対して、いずれも優れた殺虫性、防除効果を示し、中でも比較的大型なコガネムシであるドウガネブイブイやセマダラコガネの幼虫に対して優れた殺虫性を有し、優れた防除効果を示す。
【0029】
次に、本発明の胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造装置は、前記製造方法に用いられる胞子嚢の製造装置であって、培養液を包含する培養槽と、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる容器(吸着剤内包容器)とを備えることを特徴とする。
上述の吸着剤は、吸着剤内包容器内に収納され、培養液と接触する。吸着剤内包容器に備えられる吸着剤は通過させないが培養液は通過させる部分の構造としては、吸着剤の平均粒径より小さい直径の細孔を有する構造、及び網目構造等が挙げられる。このような網目構造の網目間隔または細孔の孔径等を吸着剤の平均粒径より小さくすることにより、吸着剤は吸着剤内包容器内に留まり、培養液中に流出することなく培養を行うことができる。
【0030】
上記のような培養槽と吸着剤内包容器とを備えた培養装置の好ましい例としては、例えば、吸着剤内包容器を、培養槽内部に設置した装置及び培養槽外部に設置した装置が挙げられる。この場合、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる部分の構造によって、吸着剤内包容器の一部または全部が構成されている。
吸着剤内包容器を培養槽内部に設置する場合、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる部分の構造の少なくとも一部が培養液の液面より下に位置するよう該吸着剤内包容器を培養槽内部に固定して、所定の培養を行うことが好ましい。すなわち培養槽内部において通気、攪拌等を行うことにより、培養液が吸着剤内包容器内を循環し、吸着剤と接触して生育阻害物質が除去され、効率的に胞子嚢を得ることができる。上述したように該吸着剤内包容器を固定しないと、培養中に発生した気泡により該容器が取り込まれ、気泡とともに液面から浮き出て培養液と接触せず十分な生育阻害物質除去能を発揮しない場合がある。
【0031】
吸着剤内包容器を培養槽外部に設置する場合、培養槽外に吸着剤内包容器を設置して、培養液を通液させることができる配管等を用いて培養槽と接続することが好ましい。そして、吸着剤内包容器の、配管等を接続して培養液を導入及び導出を行う部分の構造を、上述のような吸着剤は通過させないが培養液は通過させる構造にする。さらに、循環ポンプを接続することにより、培養液は培養槽から配管等を経て吸着剤内包容器内を循環し、吸着剤と接触して生育阻害物質が除去され、効率的に胞子嚢を得ることができる。
【0032】
上記の製造方法により取得した胞子嚢は、コガネムシ科昆虫の防除剤として、胞子嚢を懸濁させた液のまま用いてもよく、あるいは乾燥して粉末にして用いても良い。また乾燥した後、水あるいは緩衝液の懸濁液として使用しても良い。更にこれらの胞子嚢は農薬に用いられる公知慣用の賦形剤、担体、栄養剤等の各種任意成分と共に通常の微生物農薬の製造方法に従って、粉剤、粒剤、水和剤、乳剤、液剤、フロアブル、塗布剤等に製剤化しても良い。また本発明の胞子嚢と他の微生物製剤を混合して使用することも可能である。
【0033】
上記任意成分としては、固体担体として、カリオンクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、珪藻土、酸性白土、タルク類、パーライト、バーミキュライト等の鉱物質微粉末、硫酸アンモニウム、尿素、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機塩、フスマ、キチン、多糖類、米糠、小麦粉等の有機物微粉末等を、また、補助剤として、カゼイン、ゼラチン、アラビアガム、アルギン酸、糖類、合成高分子(ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸類等)、ベントナイト等の固着剤や分散剤、その他の成分として、プロピレングリコール、エチレングリコール等の凍結防止剤、キサンタンガム等の天然多糖類、ポリアクリル酸類等の増粘剤を挙げることができる。
【0034】
上記防除剤に含まれる胞子嚢の含有重量は、コガネムシ科昆虫に対して防除効果を呈する範囲であれば特に限定されないが、0.0001〜100%が好ましい。
施用の方法としては、剤型等の使用形態、作物等によって適宜選択され、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌潅注施用等の方法を挙げることができる。
【0035】
また、他の薬剤、すなわち殺虫剤、殺線虫剤、殺ダニ剤、除草剤、殺菌剤、植物生長調節剤、肥料、又は土壌改良資材(泥炭、腐植酸資材、ポリビニルアルコール系資材等)等と混合して施用、あるいは混合せずに交互施用、または同時施用することも可能である。
【0036】
上記防除剤の施用量は、コガネムシ科昆虫の種類、適用植物の種類、剤型等によって異なるため一概には規定できないが、例えば、地上散布する場合、胞子嚢の施用量が、1010〜1015個/a、好ましくは1011〜1014個/a程度となるようにすればよい。
【0037】
【実施例】
以下本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1は、本発明の胞子嚢の製造方法に好適に用いられる製造装置の一実施例の断面模式図を示したものである。
図1に示すように、この培養装置10は、培養槽1の内部に、2本の吸着剤内包容器3と撹拌翼2とが設置されて概略構成されている。
【0038】
培養槽1としては、従来公知のものを用いることができ、特に限定されない。培養槽1の容量も特に限定されず、培養するバチルス・ポピリエの菌の量によって決定すればよい。
撹拌翼2としては、好ましくはステンレス製の撹拌翼が用いられるが、その素材は限定されない。
【0039】
吸着剤内包容器3は、ステンレス製の円筒形容器で、培養液と接する容器下部はメッシュの網目構造4とされている。
吸着剤内包容器3の素材は任意であるが、培養中及び殺菌の際に加熱することから耐熱性を有する素材が好ましく、例えばステンレス、アルミニウム、銅、チタンなどの金属製のものや、ガラス、セラミックス等の無機材料などが好ましい。吸着剤内包容器3の外形も特に限定されず、円筒形、直方体形等のいずれであってもよいが、例えば、本実施例のように円筒形であることが好ましい。なお、この吸着剤内包容器3は、1本設置されていてもよいし、複数本設置されていてもよい。
【0040】
本実施例では、吸着剤内包容器3の吸着剤は通過させないが培養液は通過させる構造としては、網目構造4が採用されている。この他にも、細孔等の構造を採用でき、特に限定されない。この網目間隔または細孔の直径は、内包する吸着剤の平均粒径より小さければよく、限定されない。このような細孔または網目構造等は、容器全体に設けられていてもよいし、一部に設けられていてもよい。ただし、より広い容器表面に設けられている方が、培養液が容器内を循環する効率が上昇し、菌の生育阻害物質をより効率的に除去することができるため好ましい。
本実施例の製造装置を用いると、培養槽内部において通気、攪拌等を行うことにより、培養液は吸着剤内包容器内を循環し、吸着剤と接触して生育阻害物質が除去され、効率的に胞子嚢を得ることができる。
【0041】
次に、第二実施例として、図2に本発明の胞子嚢の製造方法に好適に用いられる製造装置の一例の断面模式図を示す。
本実施例にかかる胞子嚢の製造装置20においては、吸着剤内包容器3が培養槽1の外部に設置され、かつ培養液を通液させることができる配管等を用いて培養槽と接続されており、配管の途中に循環ポンプ5が設置されている。また、吸着剤内包容器3の、配管等を接続して培養液を導入及び導出を行う部分の構造は、網目状フィルター4とされている。上記以外は、上述の製造装置10と同様に構成されている。
【0042】
本実施例においても、上記第一実施例の場合と同様に、吸着剤内包容器3の素材、外形は限定されない。例えば、本実施例においては、ガラス製の円筒形容器が採用されている。なお、この吸着剤内包容器3は、1個設置されていてもよいし、複数個設置されていてもよい。複数個設置される場合は、直列に接続してもよいし、並列に接続してもよい。循環ポンプ5は、通常用いられるものを使用できる。
本実施例の製造装置20を用いると、循環ポンプ5を用いることにより、培養液は培養槽1から配管等を経て吸着剤内包容器3内を循環し、吸着剤と接触して生育阻害物質が除去され、効率的に胞子嚢を得ることができる。
【0043】
以下、本発明のさらに具体的な実施例を説明する。
(実施例1)
図1に示す培養装置10を用いて胞子嚢の製造を行った。
本実施例では、この培養装置10において、丸菱バイオエンジ株式会社社製の全容量5Lの培養槽(1)「MDL-5L」を使用して、吸着剤内包容器(3)を培養槽(1)内部に2本取り付けた。吸着剤内包容器(3)は内径2.0cmのステンレス製の円筒形で、培養液と接する容器下部は0.5mmの網目間隔であるメッシュの網目構造(4)とした。また、培養槽(1)には、撹拌翼(2)を取り付けた。
各吸着剤内包容器(3)内に、粒径3.35mm〜4.75mmの関東化学社製の粒状活性炭を30gずつ、合計60gを添加した。
【0044】
培地成分として、蒸留水3Lに、日本製薬社製ペプトン「ポリペプトンS」0.75質量%、和光純薬社製ラクトアルブミン水分物0.8質量%、オクソイド社製イースト0.75質量%、和光純薬社製トレハロース0.5質量%、和光純薬社製グルタミン酸ナトリウム0.64質量%、和光純薬社製プロリン0.5質量%、和光純薬社製ピルビン酸ナトリウム0.05質量%、および日本油脂社製消泡剤「ディスホームCA−123」0.33g/lを添加して溶解させた後、培養槽(1)に入れた。
次いで、上記の吸着剤内包容器(3)が設置された培養槽(1)を121℃、20分のオートクレーブ殺菌を行なった後、バチルス・ポピリエ・セマダラ株の胞子嚢を無菌的に接種し培養を開始した。培養中は培養温度を30℃、pHを7.6、攪拌回転数を100回転/分、通気量を0.8vvmに制御した。
7日間の培養を行ったところ、培養液中に7.0×10個(胞子嚢)/mlの濃度で、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢が得られた。培養終了後に得られた培養液には活性炭が含まれておらず、8000回転/分、10分の遠心分離により、容易に胞子嚢が回収された。
【0045】
(実施例2)
本実施例では、吸着剤として、三菱化学株式会社製イオン交換樹脂「SEPABEADS SP825」を使用して培養を行った。実施例1と同様の培養装置10を用いたが、吸着剤内包容器(3)下部の網目構造(4)の網目間隔は250μmとし、吸着剤の添加量は各吸着剤内包容器(3)に15gずつ、計30gを添加した。培地量、培地成分、培養条件は実施例1と同様である。
7日間の培養を行ったところ、培養液中に7.3×10個(胞子嚢)/mlの濃度で、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢が得られた。培養終了後に得られた培養液にはイオン交換樹脂が含まれておらず、8000回転/分、10分の遠心分離により、容易に胞子嚢が回収された。
【0046】
(実施例3)
図2に示した培養装置20を用いて、胞子嚢の製造を行った。
本実施例では、この培養装置20において、丸善バイオエンジ株式会社製全容量5Lの培養槽(1)「MDL-5L」を使用して、吸着剤内包容器(3)を培養槽外部に1本取り付けた。吸着剤内包容器(3)は内径4cmのガラス製の円筒形で、容器の出入り口は網目間隔が0.5mmの網目状フィルター(4)を付け、培養槽(1)と配管により接続した。さらに、配管の途中に循環ポンプ(5)を設置した。また、培養槽(1)には、撹拌翼(2)を取り付けた。
吸着剤内包容器(3)内に、実施例1と同様にして粒状活性炭を60g添加した。培地量、培地成分は実施例1と同様である。
【0047】
培養槽(1)及び活性炭を含有させた吸着剤内包容器(3)を121℃、20分のオートクレーブ殺菌を行なった後、バチルス・ポピリエ・セマダラ株の胞子嚢を無菌的に接種し培養を開始した。培養中はポンプ(5)を運転して培養液を循環させ、吸着剤内包容器(3)内の活性炭と接触させた。培養温度を30℃、pHを7.6、攪拌回転数を100回転/分、通気量を0.8vvmに制御した。
7日間の培養を行ったところ、培養液中に6.9×10個(胞子嚢)/mlの濃度で胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢が得られた。回収した培養液には活性炭が含まれておらず、8000回転/分、10分の遠心分離により、容易に胞子嚢が回収された。
【0048】
(比較例1)
本比較例においては、吸着剤として粉末活性炭を使用し、吸着剤内包容器を用いずに培養を行った。
液体培地中に、平均粒径20μmの関東化学社製粉末活性炭9gを添加して、実施例1と同様の培地量、培地成分、培養条件でバチルス・ポピリエの培養を行った。
7日間の培養を行ったところ、培養液中に7.1×10個(胞子嚢)/mlの濃度で胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢が得られた。回収した培養液には活性炭が含まれており、遠心分離では、胞子嚢と活性炭は分離することができなかった。
【0049】
(比較例2)
本比較例においては、吸着剤として粒状活性炭を使用し、吸着剤内包容器を用いずに培養を行った。
液体培地中に、粒径3.35mm〜4.75mmの関東化学社製粒状活性炭60gを添加して、実施例1と同様の培地量、培地成分、培養条件でバチルス・ポピリエの培養を行った。ただし、撹拌翼の回転数は、粒状活性炭が充分混合できるように500回転/分とした。
7日間の培養を行ったところ、培養液中に1.3×10個(胞子嚢)/mlの濃度で胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢が得られた。回収した培養液は、ろ過分離により活性炭と胞子嚢が分離できたが、得られた総胞子数は少なかった。
【0050】
【発明の効果】
本発明により、胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢を効率的に培養し、吸着剤を含まない培養液から容易に胞子嚢を回収することができる胞子嚢の製造方法、及び該製造方法に用いられる製造装置を提供することができる。また、該胞子嚢を有効成分とするコガネムシ科昆虫の防除剤、及び該胞子嚢を用いたコガネムシ科昆虫の防除方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 吸着剤を包含した容器を培養槽内に設置した例である。
【図2】 吸着剤を包含した容器を培養槽外に設置した例である。
【符号の説明】
10,20 培養装置
1 培養槽
2 攪拌翼
3 吸着剤の包含容器
4 網目構造部
5 循環ポンプ

Claims (3)

  1. 吸着剤と培養液とを含む液体培地でバチルス・ポピリエを培養し、胞子とパラスポラルボディとを内包する胞子嚢を製造する方法に用いられる胞子嚢の製造装置であって、培養液を包含する培養槽と、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる容器とを備え、前記容器は、吸着剤は通過させないが培養液は通過させる部分の構造の少なくとも一部が培養液の液面より下に位置するように、前記培養槽の内部に固定されており、該吸着剤が、前記容器内に包含され、かつ培養液と接触していることを特徴とする胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造装置
  2. 前記吸着剤が、平均粒径0.3mm〜10mmであり、かつ活性炭及び合成吸着剤からなる群から選ばれる一種以上である請求項1に記載の胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造装置
  3. 請求項1または2に記載の製造装置用いることを特徴とする胞子とパラスポラルボディとを内包するバチルス・ポピリエに属する菌の胞子嚢の製造方法
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