JP4432186B2 - 1,2−ジクロルエタンの精製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、1,2−ジクロルエタンの精製方法に関するものである。更に詳しくは、1,2−ジクロルエタン中のベンゼン及びトリクロルエチレンを水との共沸により蒸留塔の塔頂より留出させて除去する1,2−ジクロルエタンの精製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高純度の1,2−ジクロルエタン(以下、EDCという)を熱分解して、塩化ビニルモノマーを製造する方法は工業的に大規模に実施されている。このEDCの熱分解反応に於いて、EDCの分解率を高くするとクロロプレンやベンゼン等の副生が増加して、塩化ビニルモノマーの選択率が低下しコーキング速度が増加する。従って、EDCの分解率は通常、50〜65%である。熱分解反応での未分解のEDCは、生成した塩化水素と塩化ビニルモノマーを分離した後、EDCより低沸点の成分を低沸物分離塔で蒸留分離し、更に高沸物分離塔でEDCより高沸点の成分を蒸留分離した後、熱分解炉に供給して再使用される。
【0003】
該未分解EDCの低沸物分離塔の塔頂留出液中には、通常、EDCが40〜60重量%含有される。EDC以外の成分としては、熱分解工程で副生した1,1−ジクロルエタン、クロロプレン、ジクロルエチレン、ベンゼン等が含有される。また、エチレンのオキシクロリネーション工程で副生し、熱分解炉へのフィードEDC中に含有されて、熱分解工程でそのまま残留したクロロホルム、四塩化炭素、トリクロルエチレン等が含有される。
【0004】
該塔頂留出液中にはEDCがこのように高濃度で含有されるため、該塔頂留出液からEDCを回収する方法が求められている。回収したEDCを熱分解原料としてリサイクル使用するためには、EDCの熱分解反応に於けるインヒビターであるベンゼン及びトリクロルエチレンを分離除去することが必要である。しかしながら、経済的に有利に、これらをEDCより分離除去するEDCの精製方法が得られていないのが現状である。
【0005】
EDC中に含有されるベンゼン及びトリクロルエチレンを除去する方法として、一般的には蒸留による方法が考えられるが、ベンゼン及びトリクロルエチレンは沸点がEDCと極めて近接しており、通常の蒸留では高段数の蒸留塔と高還流比とを必要とする。
【0006】
従来、このような問題を解決する方法として、塩化第二鉄等の触媒を使用してEDC中のベンゼンやトリクロルエチレンを塩素化して高沸化した後蒸留分離する方法が提案されている。(特公昭42−19444号、特開平4−225929号)しかしながらこの方法は、大量の塩素を必要とし、触媒除去のための洗浄工程が必要なこと等により設備費が嵩み、経済性の面で問題がある。
【0007】
特公昭46−22003号には塩化アルミニウム触媒を使用して、共存するクロロプレン類とベンゼンとを反応させて分離除去する方法が提案されている。しかしながらこの方法は、反応に於けるベンゼンの転化率が低い欠点があり、耐食性の反応器にする必要があること等により設備費が嵩む問題がある。
【0008】
米国特許No.4,333,799にはテトラクロルエチレン等の高沸点の塩素化炭化水素溶媒を使用して、抽出蒸留する方法が提案されている。この方法は、EDC中のベンゼン及びトリクロルエチレンを蒸留操作のみで分離除去することが可能な特徴を有しているが、溶媒の使用量が多く、使用した溶媒の蒸留回収に要するエネルギーの消費が大きく、経済性の面で問題がある。
【0009】
従来技術では上述のように、EDC中のベンゼン及びトリクロルエチレンを効率的に、かつ経済的に有利に分離除去することは困難であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、EDC中のベンゼン及びトリクロルエチレンを効率良く分離除去して、経済的に有利に高純度のEDCを回収する方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、EDC中のベンゼン及びトリクロルエチレンを蒸留により分離除去する方法について、鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、ベンゼン及びトリクロルエチレンを含有するEDCに、水を共沸剤として添加して、共沸蒸留によりベンゼン及びトリクロルエチレンを除去することを特徴とするものである。
【0013】
本発明者らは、EDCよりベンゼン及びトリクロルエチレンを効率良く分離するために、共沸蒸留を利用して、塔頂よりベンゼン及びトリクロルエチレンを共沸剤と共に留出させ、塔底よりEDCを回収する方法について、鋭意検討を実施した。共沸剤としては、ベンゼン及びトリクロルエチレンとの共沸温度、共沸組成、価格、塔頂留出液の相分離の容易さなどから、水が最も好ましいとの結論に達し、水を共沸剤とする蒸留について鋭意検討を実施した。
【0014】
その結果、水を共沸剤として添加して蒸留することにより、EDC中のベンゼン及びトリクロルエチレンを同時に、極めて効率良く分離除去することが可能であることを見出した。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明に於いて、原料として蒸留に供する混合物はベンゼン及びトリクロルエチレンを含有するEDCである。該混合物としては、具体的にはEDCを熱分解し、生成した塩化水素と塩化ビニルモノマーを分離した後の、未分解EDCの低沸物分離塔での塔頂留出液から得られる粗EDCが挙げられる。該粗EDC中のEDCの濃度は通常、80重量%以上で、ベンゼンの濃度はおよそ1〜10重量%、トリクロルエチレンの濃度はおよそ1〜10重量%である。
【0017】
本発明の蒸留の原料に供するベンゼン及びトリクロルエチレンを含有するEDC中のEDCの濃度は、通常、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上のものが用いられる。また、EDC中のベンゼンの濃度は通常、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、特に好ましくは8重量%以下であり、少なくとも通常1重量%以上のものが用いられる。また、トリクロルエチレンの濃度は通常、20重量%以下、好ましくは10重量%以下であり、少なくとも通常1重量%以上のものが用いられる。
【0018】
本発明は、ベンゼン及びトリクロルエチレンを含有するEDCに水を共沸剤として添加して共沸蒸留する。共沸剤として添加する水の量は、基本的には、ベンゼンと水、トリクロルエチレンと水、EDCと水の共沸組成に対応したものとする。ベンゼンと水の共沸組成はベンゼン91.2重量%、水8.8重量%(共沸温度69.3℃)、トリクロルエチレンと水の共沸組成はトリクロルエチレン93.0重量%、水7.0重量%(共沸温度73.0℃)、EDCと水の共沸組成はEDC91.9重量%、水8.1重量%(共沸温度71.9℃)である。また、この他に、EDCとトリクロルエチレンの共沸(共沸組成はEDC55.7重量%、トリクロルエチレン44.3重量%、共沸温度82.1℃)がある。これより、本発明の水添加共沸蒸留における塔頂留出留分中の水の濃度はおよそ5〜10重量%となる。従って、水の添加量は、ベンゼンとトリクロルエチレンの合計量に対して重量比率で0.2〜0.6の範囲とするのが好ましい。
【0019】
本発明により、塔頂よりベンゼン及びトリクロルエチレンを水とともに留出させ、塔底より高純度のEDCを抜き出して回収することができる。この蒸留に於いて、蒸留塔の理論段数が通常、20〜80段、好ましくは30〜60段の蒸留塔を使用する。また、還流比は、重量基準で通常、2〜30の範囲であり、好ましくは5〜25、特に好ましくは10〜20の範囲である。蒸留塔の段数や還流比を大きくすればベンゼン及びトリクロルエチレンの除去率は向上するが、設備費並びに蒸留におけるスチーム原単位がアップするので、上記範囲とするのが好ましい。蒸留塔への原料混合物の供給位置(フィード段)は、蒸留塔の上段あるいは下段からフィードしてもよいが、中央付近の段からフィードするのが分離性の面で好ましい。また、共沸剤として添加する水は、該混合物とともに同一段からフィードするのが好ましい。塔頂からの留出留分の凝縮液を相分離して得られる水相は、蒸留に供する原料混合物に添加する水としてリサイクル使用することができる。このようにして蒸留塔の塔底から得られる回収EDCは、脱水塔にフィードして水分を除去した後、熱分解用の原料として使用することができる。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を示して本発明を具体的に、かつ更に詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1
内径32mm、実段数80段のオールダーショウ蒸留塔により蒸留を実施した。蒸留塔の中央の40段から、ベンゼン5.0重量%、トリクロルエチレン5.0重量%を含有するEDCを200g/Hrの速度でフィードすると共に、同一段の40段から水を5.0g/Hrの速度でフィードして連続蒸留を行った。水の添加量はベンゼン及びトリクロルエチレンの合計量に対して、重量比率で0.25である。還流比10の条件で、塔頂温度70.8℃、留出液量60.4g/Hrであり、留出液組成はEDC61.4重量%、ベンゼン13.2重量%、トリクロルエチレン15.6重量%、水8.6重量%であった。釜液温度は88℃、缶出液量は144.8g/Hrであり、缶出液組成はEDC98.2重量%、ベンゼン1.3重量%、トリクロルエチレン0.3重量%、水0.02重量%であった。ベンゼンの除去率(%)((フィード液中のベンゼン量−缶出液中のベンゼン量)/フィード液中のベンゼン量×100)は80.9%、トリクロルエチレンの除去率(%)((フィード液中のトリクロルエチレン量−缶出液中のトリクロルエチレン量)/フィード液中のトリクロルエチレン量×100)は95.2%であり、EDCの回収率(%)(缶出液中のEDC量/フィード液中のEDC量×100)は79.0%であった。
【0022】
実施例2
実施例1と同じ実段数80段の蒸留塔で、還流比を20にして蒸留を実施した。蒸留塔の中央の40段から、ベンゼン5.0重量%、トリクロルエチレン5.0重量%を含有するEDCを120g/Hrの速度でフィードすると共に、同一段の40段から水を3.4g/Hrの速度でフィードして連続蒸留を行った。水の添加量はベンゼン及びトリクロルエチレンの合計量に対して、重量比率で0.28である。塔頂温度は70.7℃、留出液量は35.6g/Hrであり、留出液組成はEDC59.2重量%、ベンゼン15.4重量%、トリクロルエチレン16.4重量%、水8.9重量%であった。釜液温度は88℃、缶出液量は87.2g/Hrであり、缶出液組成はEDC99.3重量%、ベンゼン0.5重量%、トリクロルエチレン0.04重量%、水0.02重量%であった。ベンゼンの除去率(%)は93.2%、トリクロルエチレンの除去率(%)は99.4%であり、EDCの回収率(%)は80.2%であった。
【0023】
比較例1
実施例1と同じ実段数80段の蒸留塔を使用し、水を添加しない他は実施例1と同一の還流比10の条件で蒸留を実施した。蒸留塔の中央の40段からベンゼン5.0重量%、トリクロルエチレン5.0重量%を含有するEDCを210g/Hrの速度でフィードして連続蒸留を実施した。塔頂温度は82.3℃、留出液量は62g/Hrであり、留出液組成はEDC75.6重量%、ベンゼン10.4重量%、トリクロルエチレン12.1重量%であった。釜液温度は88.2℃、缶出液量は147.6g/Hrであり、缶出液組成はEDC95.3重量%、ベンゼン2.7重量%、トリクロルエチレン1.9重量%であった。ベンゼンの除去率(%)は62.3%、トリクロルエチレンの除去率(%)は73.6%であり、EDCの回収率(%)は74.4%であった。
【0024】
比較例2
実施例2と同じ実段数80段の蒸留塔を使用し、水を添加しない他は実施例2と同一の還流比20の条件で蒸留を実施した。蒸留塔の中央の40段からベンゼン5.0重量%、トリクロルエチレン5.0重量%を含有するEDCを120g/Hrの速度でフィードして連続蒸留を実施した。塔頂温度は82.2℃、留出液量は35.9g/Hrであり、留出液組成はEDC72.0重量%、ベンゼン12.1重量%、トリクロルエチレン13.9重量%であった。釜液温度は88.2℃、缶出液量は83.7g/Hrであり、缶出液組成はEDC96.7重量%、ベンゼン1.9重量%、トリクロルエチレン1.1重量%であった。ベンゼンの除去率(%)は73.2%、トリクロルエチレンの除去率(%)は84.7%であり、EDCの回収率(%)は74.9%であった。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、ベンゼン及びトリクロルエチレンを含有するEDCから、効率良くベンゼン及びトリクロルエチレンを分離除去して、高純度のEDCを得ることができる。本発明は水を共沸剤として添加して、共沸蒸留するものであるが、水の添加量は少量であり、ベンゼン及びトリクロルエチレンを同時に、一段の操作で、分離除去することが可能であり、工程数が少なく、工業的に極めて有利なEDCの精製方法である。
Claims (2)
- ベンゼン及びトリクロルエチレンを含有する1,2−ジクロルエタンに水を共沸剤として添加して、共沸蒸留により、ベンゼン及びトリクロルエチレンを留出させて除去することを特徴とする1,2−ジクロルエタンの精製方法。
- 共沸剤として添加する水の量が、ベンゼンとトリクロルエチレンの合計量に対して重量比率で0.2〜0.6であることを特徴とする請求項1に記載の1,2−ジクロルエタンの精製方法。
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